批評がありましたら一旦消して書き直すことも検討してますので、皆さん忌憚ない意見をお願いします
あ、あと当たり前ですが第2部のネタバレを多量に含みますのでご了承のうえどうぞ
ゼロへと続く始まりの日(第2部ネタバレ注意!)
その日は、東京の夜にしては特別静かな夜であった。まして希望ヶ峰学園は本来近づく人も少なく、見回りの警備員が巡回する程度であった。
…故に、その時に校門前で行われた凄惨な事件の目撃者は皆無であった。
『…ふん。つまらんことをさせてくれたな、江ノ島盾子』
何が起こったのかも分からないまま首を刎ねられ、恐怖と絶望の表情のまま倒れ伏す警備員たちを足蹴にしているのは、それを行った張本人である『ホワイトスネイク』。それに苛立たしげな視線を向けられているのは、まったく悪びれた様子の無い江ノ島盾子であった。
「まーまー。細かいことはいいじゃんか。結構感謝してるんだよ?ホントはこういうこと残姉にやってもらうつもりだったんだけど、アレ完全に苗木のものになっちゃったからね。…けど、これで準備は整ったって訳だね」
『奴は既に彼らと共に…?』
「まーね。一応『アレ』も生徒会の面子だからね。あとから合流しちゃうと怪しまれるし」
『…ふん。どうでもいいがな』
「うぷぷ…!さあ苗木…、止めれるもんなら止めてみな…!」
「……」
そのころ、苗木は寄宿舎の自室でベッドに横になったまま…しかしどうしてか眠る気にならずただ呆けたように天井を見ていた。
この時期、希望ヶ峰学園の多くの生徒はこの一年の『成果』をまとめるのに大忙しであった。最上級生である『76期生』は卒業後の進路先との折り合いをつける為に、『77期生』は最上級生となることに備えて最終的な『目標』を定めたり、『78期生』は来たるべき『新入生』のよりよい『お手本』となる為にこれまで学園で培ったことを成果として示す必要があった。
しかし、苗木や狛枝のような『超高校級の幸運』枠の人間は精々この一年で『ラッキーだったこと』を纏める程度であり、また苗木に至っては来年度より正式に『超高校級のギャング』、そして希望ヶ峰学園において最高の名誉である『超高校級の希望』の肩書きを正式に名乗ることが決まっているため、特別なんの気苦労もなく進級を待つのみであった。
…しかし。
「………」
現状としては『余裕』以外の何物でもない筈なのに、苗木は未だに眠れずにいた。今朝がたから感じている不気味な『予感』が、苗木に眠りに就くことを許さずにいたのである。
「…なんだろう、この『違和感』は…。何か、とてつもなく大変な事が起きようとしているような、そんな気がしてならない…」
不安からか独り言を呟きながら苗木は、ふと壁に掛けられた時計に目をやる。
「…午前1時か。もうそろそろ寝ないとな。…明日になったら、村雨会長に相談してみるか…。卒業前にこんなことを持ちかけるのは悪いと思うけど、どうにもイヤな予感がしてならない…」
そう決めながら苗木は眠りに就こうと目を閉ざす。
…同時刻、希望ヶ峰学園の『本科旧校舎』の教室の一つに、『希望ヶ峰学園生徒会』のメンバーが集められていた。
「…ったく、なんだって俺たちこんなところにいるんだよ?」
「しょうがないでしょ、…あんなものを送り付けられたんだからさ」
彼らは就寝直前、扉越しに送られた『謎のDVD』の中身を見て、その内容の真偽を確かめるためにここに集められていた。
「けれど、『編入生』君も含めてこれで生徒会全員集合だね。…なにかの陰謀を感じるな」
「全員…あれ?苗木君がいないよ?」
「…お前ら、すっかり忘れてるだろうけどアイツ正式な生徒会じゃねえからな?」
「まー来年から『生徒会長』みたいなモンになるんだし一緒でしょ?」
「そういう問題じゃないような…」
「……」
「…お前さん、さっきから黙りこくってどうした?」
「不安なのは分かるが、ここは気をしっかり持とう。あんな物偽物に決まってるさ!」
「そ、そうですよね…」
「…『クダラナイ』」
「え?」
ガラッ!
「どーもー!」
『ッ!?』
軽快な挨拶と共に教室に入ってきたのは、なにやら荷物を載せた手押し車を押す江ノ島であった。
「き、君は…江ノ島君!?」
「テメーがあのDVD送り付けた犯人か!何の真似だテメーッ!?」
「はいはい、そんなことどーでもいいから!…さて、お集まりの生徒会の皆さん!今から皆さんには、ここで皆さんで『コロシアイ』をしてもらいまーす!」
「…は?」
「コロシアイって…あの殺し合いッ!?」
「ふざけないでよッ!そんなこと言うためにあたしら集めたっていうの!?アタマおかしいんじゃないの?」
「…ふーん、アタマおかしいね…」
「おい、呑まれるな!我々生徒会が動揺すれば、こいつらの思うつぼだ…」
苛立ちを隠せない女生徒の一人を生徒会長の『村雨早春』がなだめようとした、その時…
「…『キング・クリムゾン』」
ドボッ…!
「…え?」
瞬時に、村雨の視界からその女生徒が消える。ついで、村雨の頬になにかどろっとした『生温かい液体』が付着する。
「な…なにが…?」
「…うわあああああッ!!?」
「ッ!?」
突如生徒の一人が上げた悲鳴に、皆がその生徒の視線の先…教室の後方へと目を向ける。
「な…ッ!?」
「い、いやぁあああああああッ!!?」
…そこには、無残に首をねじ切られ、体共々壁に打ち付けられた女生徒の無残な死体が存在していた。
「い、いつの間に…何故…!?」
「…『いつの間に』?私はちゃんとあなたたちの『目の前』でやって差し上げましたよ?」
「!?」
村雨の疑問に答えたのは正面にいる江ノ島であった。
「て、てめえがやったのか…!?」
「ええ。『見せしめ』でもないとあなたたちのような『ゆとり世代』は素直に殺しあてくれないでしょう?」
「馬鹿な…!?僕は君がそこから『動いたところ』など見ていないのに…」
「当然です。それが私の『能力』ですから」
「能力…ッ!?まさか、君も『スタンド能力者』なのか!?」
「…警告として教えてやろう!私様のスタンドの名は『キング・クリムゾン』!能力は『時間を消し飛ばす』能力。私の能力で消し飛ばした時間は、私以外には決して認識することができない!…つまり、君たちは『死んだこと』にすら気づけないまま死ぬということだ」
「はぁ…?」
「…理解できないようだな。なら遠慮なくかかってくるがいいぞ?…あの哀れな見せしめの二の舞になりたくばな…」
「貴様…ッ!」
「落ち着け!…落ち着くんだ、うかつに手を出すな…」
「会長…?」
バキンッ!
「!?」
次の瞬間、村雨が隠し持っていた『携帯電話』が砕け散った。
「しまった…!」
「いけませんね村雨会長。…苗木君に助けを求めるつもりだったのでしょう?そういう訳にはいかないんですよ。彼に来られると私、すっごく困りますので…」
「…クソッ!」
悔しげに吐き捨てる村雨を尻目に、江ノ島は手押し車に乗せたカバンを放り投げる。
ガラガラガラッ!
カバンの中からはバールや槍のようなものから銃火器の類まで、さまざまな種類の『凶器』が散乱した。
「これは…!?」
「それは私様からのプレゼントだ!精々楽しく使うがいい!…それとー!今からこの教室は厳重に封鎖させてもらうからねー!もし殺し合いを放棄して朝まで待とうとか逃げようなんて考えているのなら…」
ドゴォッ!
「ひいッ!?」
何の前触れもなく、江ノ島の前にあった教壇が粉々に破壊される。
「…こうなることを覚悟してもらいます。…では皆ー!楽しいコロシアイナイトをエンジョイしてねー!…『キング・クリムゾン』!」
そう言い残し、江ノ島は『キング・クリムゾン』を発動させ瞬時に姿を消していた。
「き、消えた…!?扉もいつの間にか閉まってる…!」
「…お、おい見ろ!窓ガラスもなんか『鉄板』みたいなので覆われてるぞ!」
「そんな…出られないの?」
「…ここから出たけりゃ、殺しあえってことかよ…ッ!」
「落ち着け、落ち着くんだ!冷静になれ…。今はとにかく、我々だけでやれるだけのことをするんだ!…きっと助けが来る。だから我々が殺しあうようなことが…」
「…『クダラナイ』」
「え?」
「まったくクダラナイですよ…。安っぽい『良識』にこだわって、あまつさえ来るかどうかも分からない『他人』に『希望』を託すなんて…それでよく自分たちの事を『希望』だなんて呼べますね?」
「テンメェ…ふざけたことぬかしてんじゃあねえぞッ!」
「待つんだ…君、先ほどから妙に落ち着いているが…まさかこの事を知っていたんじゃあないか?」
「か、会長…!?」
「ええ、知っていましたよ」
「ッ!…なら、何故止めようとしなかったんだッ!こんな『暴挙』が許される筈が無いことぐらい、キミにも分かるだろうッ!?」
「…ハァ。本当に『ツマラナイ』方々ですね。『許す』とか『許されない』なんて、誰が決めたことなんですか?」
「なっ…!?」
「それに、そんなに外に出たいのでしたら、方法なんて簡単じゃあないですか?」
「ほっ、本当かッ!?ならば、その方法を教えてくれ…」
「…『Act1』」
シパァッ…
ズリュ…
「…あ?」
『彼』が右腕を振り上げたかと思うと、『彼』に近づいた役員の一人の頭がズレる様に『切断』され…
ドチャ…ドチャ!
それが地面に落ちると同時に、体もその場に崩れ落ちる。
「……ッッ!?イッ、嫌ァァァァァァッ!!
「お、おい…お前ッ…!?」
「い、一体…何、を…?」
「…決まってるじゃないですか。要するに、『殺し合って最後の一人になる。あるいは死んで楽になる』…それが外に出る『方法』なんですから」
シュルシュルシュル…!
目の前の死体をゴミの様に踏み越えると、血で濡れた『彼』の『指の爪』が高速で『回転』し始める。それと同時に、静まり返った生徒会室に『爪の回転音』が鳴り響く。
「…さあ、見せてください。あなた方が信じる、『希望』とやらを…」
「…どうして、なんだ…ッ!『神座出流(カムクライズル)』君ッ!!」
「…ッ!!?」
その『感触』を感じると同時に、苗木誠はベッドから跳ね起きた。
「何だ…!?この気持ちの悪い感覚は……『G・E・R』!」
ズオッ!
『G・E・R』を呼び出すと、すぐさま地面に手をやって周囲の『生命エネルギー』を探ろうとし…それを始めた瞬間すぐに察知する。
「学園のどこかで、『生命』が次々と消えている…ッ!?しかもこの大きさは…紛れもなく『人間』…というか、これは…『生徒会』の皆ッ!?場所は…『旧校舎』ッ!?」」
場所を知るや否や苗木は脱兎の如く部屋を飛び出し、大急ぎで生徒会室へと向かう。
「一体何が…頼む、間に合ってくれッ…!」
やがて旧校舎のその教室に辿りつくが、そこにあったのは見慣れた扉ではなかった。
「な、なんだこれは…!?」
教室の扉の前には、机や椅子や鉄骨のようなものまでを鉄条網でぐるりと固定された頑強な『バリケード』が存在していた。
「なんでこんなものが…だが、この程度ッ!」
即座に判断すると苗木は再び『G・E・R』を呼び出す。
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!』
いかに強固なバリケードであろうと『G・E・R』のパワーには及ばず、あっという間にバリケードは破壊され扉が露わになる。
ガラッ!
「おい、一体何が…ッ!?」
扉を乱暴に開け中に足を踏み入れた瞬間、苗木は絶句する。
整然としていた筈の教室はこれでもかというほどに破壊され
教室のあちこちには鮮血や脳漿で濡れた凶器の類が血の海に沈み
そしてその傍には、それらによって成されたであろう生徒会役員たちの『死体』が倒れ伏し…
「…闖入者ですか。『運』の無い人ですね」
その中心でけだるそうに自分を見る、黒髪の長髪を血で汚した『青年』が立っていた。
「……き…ッ!」
「ん?」
「貴様かァァァァァッ!!!!」
その光景を見た瞬間、苗木の『理性』ははじけ飛び、怒りの雄叫びと共に『青年』に襲い掛かる。
「…怒りにまかせて襲い掛かるとは…、全く持って…『クダラナイ』」
嘆息するようにそう言うと、『青年』は苗木に向けて指先を向ける。
シュルシュルシュル…!
それと同時に指の『爪』が高速で回転し始め…
ドォン!
指先から弾かれるように『発射』される。
「『Act2』…少々もったいないですが、『目撃者』が増えるのは困るらしいので…『確実に』死んでもらいます」
そう言って、『青年』はもはや結果など見るまでもないとばかりに目を背ける。実際、生徒会の連中もそうやって殺した。こんな『どうでもいい奴』の死にざまなど、いちいち見届ける必要もない。そう『青年』は思っていた。
だからこそ…
「無駄ァッ!」
バチンッ!
「…?」
シュゥゥゥゥ…
「…『爪』を跳ばした?それがお前の『能力』なのか?」
苗木が『G・E・R』の指で『爪弾』を挟みとった時、
「…なん、だと?」
『青年』は『生まれて初めて驚愕した』。
「ただの人間相手ならそれで十分だったかもしれないが…、僕はそう甘くは無いぞ。殺しはしないが…死なない程度に再起不能になってもらう…!」
「…君は、何者だ?」
「…78期生、苗木誠。見覚えのない顔からすると…貴様が会長が言っていた『編入生』のようだな。何の目的でこんなことをした…!」
「苗木…誠。そうですか…貴方が『彼等』が言っていた人物でしたか…」
「『彼等』…?何のことだ?」
『青年』は『生まれて』から、しばしばこの『苗木誠』の名を聞いた事が有った。
曰く『希望ヶ峰学園史上最高の生徒』
曰く『計画の障害と成る存在』
曰く『自分が超えるべき存在』
『青年』は知りたかった。自分への『当て馬』と称されるほどの男が、どれほどのものなのかということを。そして今、『青年』はそれを理解すると同時に『確信』する。目の前のこの男を倒してこそ、『自分の存在』が証明されるであろうということを。
「クフフ…成程、『オモシロイ』ですね。苗木誠君…一番に倒すべきは貴方だったようです。見せて貰いましょう…貴方が信じる『希望』が、『絶望』に匹敵したり得るかどうかということをね…」
「…貴様が何を言っているのかさっぱりわからないが、僕がお前に対して思うことは『たった一つ』だ。…僕は、貴様を許さないッ!」
再びスタンドを出して殴り掛かる苗木に、『青年』は3本の指先を苗木に向ける。
「今度は本気ですよ…『Act2』!!」
ドォンドォンドォン!
指先から放たれた『3発』の『爪弾』が苗木へと迫る。
『無駄無駄ァ!』
しかし、苗木は避けるまでもないとばかりに再び『爪弾』を全て摘み取る。
(…妙だ。攻撃が『単調』すぎる。防がれるのはさっきやって分かっている筈なのに、何故また撃ってくる?『爪』が彼の身体から放たれている以上、撃てる数には『限度』がある筈なのに。それに…『Act2』だと?まさか、彼のスタンドは…)
「よそ見していて…いいんですかッ!」
「ッ!?」
いつの間にか懐に潜り込んでいた『青年』の蹴りを、苗木は寸でのところで躱す。
(何だ今の身のこなし…まるで『大神』さんのようだった。大神さんから体術を教わってなかったら、まともに喰らっていた…!なにかの『武術』を心得ているのか?)
「ほう…『超高校級の格闘家』の一撃を躱しますか。スタンド能力におんぶにだっこという訳ではないようですね。では…これはどうでしょうか?」
感心したように言うと『青年』は足元に落ちていた『拳銃』を2丁蹴りあげて掴むと苗木に銃口を向ける。
「ッ!」
「『超高校級のガンマン』と『超高校級のスナイパー』の『才能』…試させて貰いましょう。今度は掴み切れますかね?」
ドドドドドドッ!
『青年』は両手の拳銃とまだ爪が残っている指からすべての弾丸を苗木に放つ。放たれた銃弾の雨に対し、苗木も考えるのを中断し捌くことに集中する。
『無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!』
ババババババッ!
正確無比な上にすべての弾丸が『違う箇所』を狙っているので、さしもの苗木も捌いている間はその場を動けずにいた。その隙に、『青年』は再び苗木の懐に潜り込む。
(しまッ…!?また蹴りか…?)
再びキックが来ると思い後ろに飛びのく苗木。しかし…
「…『チェックメイト』です」
『青年』の『足』から放たれたのは『蹴り』ではなく、『つま先』から飛び出した『爪弾』であった。
「なッ…!?『足の指』もかッ…」
「今度こそ、終わりです…」
ドズドズドズドズッ!
後方へ跳んだため身動きの取れない苗木の心臓に、『爪弾』が全て突き刺さった。
「ガッ…!?」
「…こんなものでしたか。やはり『希望ヶ峰学園最高』といえど、この程度の『希望』でしか…」
「…嘗めるなよ、クソッタレ…!」
「…え?」
落胆した風の『青年』が次に見たものは、無傷の状態で自分に殴り掛かる苗木であった。
「なっ…!?」
「『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!』」
「げぶぅッ!?」
人生『二度目』となる驚愕に思わず思考が一瞬停止したその瞬間に、『G・E・R』のラッシュが『青年』を捉えた。
ドゴォォン!
「が…ハァ…」
「ハァ、ハァ…やっと倒したか。けど、こいつ一体『何者』なんだ?僕の知らない学園のスタンド使い、それにあの『口ぶり』…まるで才能を『使い分けてる』みたいな…」
「…あれ?苗木じゃん」
「ッ!?」
後ろからかけられた声に振り返ると、そこには何時の間にいたのか江ノ島が教室の入口に立っていた。
「江ノ島さん!」
「あんたがどっか行ったと思ってついてきてみたら…これ、一体どうなってんの…?まさかとは思うけど、アンタじゃないよね?」
「違うよ。僕が来た時にはもうこうなっていた。…犯人は恐らく、さっき僕が叩きのめしたコイツ…」
「なる、程…そういう、ことですか…」
「ッ!?貴様、まだ意識があったのか…!」
苗木が指差した先では、先ほど壁に叩きつけた『青年』がよろよろと立ち上がっていた。
「ならば…ここは一旦『退却』しましょう…。ですが、苗木誠…貴方は必ず、僕が『殺します』。僕の『存在の証明』の為にもね…!」
「逃がすものかッ…!?」
取り押さえようとする苗木の眼前で、『青年』は温存していたであろう『小指の爪』を…『自分の頭』に向ける。
「何を…?」
「さようなら…『Act3』…!」
ドォン…ッ!
青年は自分のこめかみを迷うことなく爪で『撃ち抜いた』。
「ッ!?」
自殺かと思い、完全に死ぬ前に治そうと青年に駆けだした苗木の眼前で信じがたいことが起きた。
ギャルギャルギャルギャル…ッ!
撃ち込まれた『爪弾』が突如『回転』を強めたかと思うと、その着弾箇所から『黒い渦』のようなものが発生し、青年の肉体はその『渦』に巻きこまれる形で消失してしまった。
「なぁッ…!?」
「え?何何どゆこと?アイツ今何したの?」
「わ、分からない…!奴のスタンドはただの『回転する爪弾』ではなかったのか?あんな現象、説明がつかない…!奴は一体、何者なんだ…?」
あまりにも突然のことに呆気にとられる苗木と江ノ島。と、そこに…
「…う、うう…」
「「ッ!!」」
「苗木、今の…」
「まだ誰か息が……ッ!村雨会長ッ!!」
ほんの微かに聞こえてきた呻き声の出所を探ると、生徒たちに覆い被される形で倒れていた村雨を発見する。
「会長!しっかりしてくださいッ!今治しますから…」
シュゥゥゥ…!
全身をあらゆる傷で埋め尽くされた村雨の身体を、苗木の『G・E・R』が瞬時に癒す。
「…これでよし。村雨会長、もう大丈夫ですよ…会長?」
「…あ…あ…」
「会長…?どうしたんですか、会長…!」
「あ……あ…」
「…苗木、村雨どうしたの?」
「…駄目だ。体の傷は僕の『G・E・R』完璧に治した。けれど…村雨会長の『心』は、完全に破壊されてしまった…ッ!僕のスタンドは『身体の傷』は治せても、『心の傷』は治せない…。もう僕には、どうすることもできない…ッ!糞ッ…、クッソォォォォォォッ!!!!!!」
ザァァァァァァ…
苗木の慟哭に呼応するように、いつの間にか外では雨が降り始めた…
その後、駆けつけてきた職員たちによりこのこの事件は学園上層部に知られることとなった。唯一の『生存者』である村雨は学園の治療施設に運ばれたが、肉体の傷は完治していても相当ショックだったのか『廃人』のような状態になってしまい、脳科学者である『松田夜助』による治療を受けながら経過観察の身となった。その際、事情を知って飛び込んできた生徒会の『ボディーガード』である斑井兄弟の取り乱しようは尋常ではなく、動揺の余り止めに入った職員を殴り倒してしまい当面謹慎を言い渡されてしまうほどであった。
また、目撃者である苗木と江ノ島には犯人ではないかという疑いが掛けられたが、苗木が事件発生時刻に自室ににいたことは寄宿舎の監視カメラに記録が残っており、村雨を救った功績もあって早々に容疑者としての疑いは晴れた。江ノ島もまた、苗木の証言により苗木よりも後にやって来たということがハッキリしたため一応容疑者からは外れることとなった。しかし、それでも事件の目撃者であることには変わりはないため、後日事情聴取を受けることとなった。
その後、この事件は学園の責任の下調査が進められることとなり、苗木と江ノ島が見たという犯人と思われる『編入生』の青年の行方も捜索されることとなった。
「お願いしますッ!僕も捜査に参加させてくださいッ!」
対策会議が行われている『職員室』で、苗木は学園長にそう直談判していた。
「苗木君…」
「村雨会長を…生徒会の皆を手にかけたヤツを、放っておくことなんて僕にはできない…!信用できないというのであれば、監視をつけて貰っても構いません!奴だけは、僕がこの手で捕まえて見せますッ!」
「君ィ…、自分の立場を『理解』しているのかね?君はあくまで『物的証拠』の上で容疑者ではないとなっているだけだ。キミの疑いが完全に晴れた訳ではないし、キミの『スタンド』とやらを以てすれば『不可能ではない』ということも分かっているのだよ?」
「スタンドを使っていないことは、SPW財団に調査してもらうか狛枝さんか七海さんに観て貰えば分かることです!それこそ監視にスタンド使いの人をつけて貰っても結構です!だから、奴は僕が…」
「苗木君!」
「ッ!学園長…?」
「君の気持ちは分かる…。君が一番悔しいということは、僕も分かっているつもりだ。だが…この事件だけは、我々に任せて貰えないだろうか?我々は『希望ヶ峰学園』を、君たちを守る立場の『大人』として、なんとしてでもこの事件を終わらせなければならない『責任』があるッ!キミが見た犯人も、きっと捕まえて見せる。だから…頼む!今回だけは堪えてくれ…この通りだッ!!」
ガバッ!
「ちょ…学園長!?」
苗木に対して『土下座』までして退くように頼む学園長に、苗木は目を見開いて驚く。周りの職員たちもまた、学園長が『一生徒』でしかない苗木に頭を下げる事態に戸惑いを隠せずにいた。
「わ、分かりました!分かりましたから頭を上げてください!……こんなことを響子さんに知られたら、お義父さんも僕も怪しまれますよ…!」
「む…そ、そうか…」
後半部分を小声で伝えながら、苗木は慌てて学園長を立たせる。
「済まないな、キミにはいつも辛いことばかり強いてしまう…」
「構いませんよ。…では、事件の事はそちらにすべてお任せします」
「ああ…」
「しかしッ!」
「!?」
「もし、学園の調査の結果が僕の納得のいくものでなかった場合…僕は『僕個人』で動くつもりなので…その辺は憶えておいてください」
「わ、分かった…」
「…では、失礼します」
そう言い残すと、苗木は学園長たちに背を向け職員室から出て行った。
ガラッ
「苗木君ッ!」
「うわっ!?…ま、斑井先輩!?」
職員室から出た苗木に掴みかかったのは、謹慎を受けている筈の『斑井一式』であった。
「ど、どうしたんですか?謹慎処分中じゃあ…」
「今だけ抜け出してきたんだッ!それよりどうなったんだッ!?会長たちをやった奴が誰なのか分かったのか!?見たんだろうお前はッ!?」
「…残念ですけど、僕はもうこの事件に関わることはできません」
「なっ…!?な、何故だッ!?」
「学園の決定なんです…。この事件は全て、学園の管轄のもとで捜査されるされることになりました。僕にも事件に首を突っ込むなと言われた所です…ッ!」
「そんな…お前はそれでいいのかッ!?お前も会長とは知らない仲ではないだろ!それを…」
「…良い訳が無いだろうッ!!」
「ッ!!」
「でも、仕方がないんですよ…!僕が無理に関われば、僕だけでなく皆さんや江ノ島さんまで疑われる…。今は、学園長たちに任せるしかないんです…『希望ヶ峰学園』の為に…!」
苗木の悔しさに満ちた答えに、斑井は力なく膝を着く。
「なあ苗木君…、俺達が一体何をした?ここまでされる謂れが俺達にあったのか?」
「……」
「…そうだ、俺達は何も悪いことなどしていない。なのに、なのに…どうしてこうなってしまったんだァァァァァァッ!!!!!」
本来『守る側』の人間の筈が自分だけが無事で生き残ってしまった斑井の叫びは、苗木の耳と心に深く深く響き渡っていった…
それから数日後、学園長より苗木に調査の結果が報告された。
『希望ヶ峰学園生徒会惨殺事件』改め、『希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件』の全てに関する『黙秘』が決定した、と…
その翌日、苗木誠は学園に『休学届』を、学園長には『退学届』を握らせ、姿を消した。
苗木と生徒会メンバーとの関係は別の話で書きます
関係としては、「生徒会の臨時のお手伝い役」と思ってくだされば結構です
なので村雨や斑井からの信頼はかなり厚いと思ってください
アニメでの内容を踏まえ少し書き直しました。