ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今回は本編とオーブ外伝のW更新です

ジョジョ5部でついにキング・クリムゾン登場ッ…!漫画の時では分かりづらかったという意見も多いキンクリの能力を、アニメではかなり分かりやすく表現してましたね。しかしなんというか…荒木先生ってラスボスを初登場や見せ場の場面で焦らせるのが好きですよね。ジョルノやブチャラティに一杯食わされたディアボロもですが、カーズや吉良やプッチも初戦闘の時に結構してやられてますし。主人公にもボスキャラにも良いカッコばかりはさせないのがジョジョらしさの一つでもありますよね。
ところで…ジョジョリオン、憲助さん死んじゃったけどこれからどうなるんだ?ラスボスは結局常敏なのか花都なのか岩人間なのか…全く展開が分からない。そろそろロカカカを取り入れたいから話しを進めて欲しいなぁ…

ではどうぞ



バオ―外伝:ザ・ワールド・オーバーチェイン

 学園にミハイルが潜入した頃、苗木と学園長は予定を早めに切り上げて学園への帰路を急いでいた。首都高を運転する苗木はいつになくゲンナリとしており、助手席の学園長はそんな苗木に苦笑しながらねぎらいの言葉をかけていた。

 

「ハァァ…結構疲れましたね。まさかこんなにイチャモンを付けてくる人がいるとは思いませんでした」

「ハハハ、まあしょうがないさ。…責任の大部分はあのご老人達に押しつけれたとはいえ、カムクラプロジェクトの事実を知っておきながら秘匿していた我々にも負うべき責はある。それに、『知らなかった』彼らにとっては希望ヶ峰学園への信頼を『裏切られた』と思われても仕方が無い。こういうときは下手に言い訳せずに言わせておいた方が向こうも納得できるだろう。…尤も、完全なとばっちりを喰った君には悪いとは思っているがね」

「…そこは気にしないで良いですよ。僕も騒ぎをここまで大きくしてしまった責任がありますからね。おあいこってことで、お互い水に流しましょう」

「そうか…済まないな」

 先日起きたプッチとの決戦による学園の半壊、そして同時に明るみに出てしまった『カムクラプロジェクト』に関するお詫びと事情説明の為に二人は希望ヶ峰学園の後援者である学園OBや各界の有力者達を行脚していた。行く先々で浴びせられる罵詈雑言は、事件を解決した苗木達にとっては見当違いも良いところではあったのだが、当の首謀者である『評議委員会』を始めとしたプロジェクトの責任者たちは揃って塀の中の為、彼らの心情を思い黙って矛先を向け続けられているのだ。

 

「しかし、急にどうしたんだい?君のことだから今日いっぱいかけて回ると思っていたのに、こんなに早い内から切り上げようだなんて…」

「済みません、ご迷惑でしたか?」

「いや、そんなことはないんだが…ちょっと気になってね」

「…何というか、説明しても分からないとは思うんですが…。どうにもここ最近、『疼く』んです。僕の首の痣が、ジョースター家の証である『星の痣』が…」

 苗木はそう言いながら、首筋にある『星形の痣』を摩る。

 

「痣が疼く…それは初めてのことなのかい?」

「はい。…ただ、気になることがあって。以前承太郎さんたちが親父とエジプトで戦った時、ジョセフさんは首の痣の『感覚』で親父の存在を感知できたそうです。つまり、この痣は『ジョースター家の血を引く者』に反応する様なんです」

「ジョースター家の…ということは、最近君の周囲にジョースター家の血筋の者が現れたということなのかい?」

「おそらくは…そして、痣が疼き始めたのが『79期生の皆が入学した頃から』なんです」

「…まさか、彼らの中にジョースター家の人間が?」

「確証はありませんが、そんな気がするんです。ちょうど今日は79期生の子達が全員揃うと聞いているので、この際なので確かめに……ッ!?」

 と、そこまで言いかけた苗木の表情が強ばる。

 

「ど、どうしたんだ?」

「…今、痣の疼きが強まった。これは、きっとその子に危機が迫っている…学園で今何かが起きているんだ!」

「何だって!?」

「…くっ、学園長少し飛ばしますよ!しっかり捕まっていて下さいッ!」

 痣を通して伝わってくる『危機感』に、苗木はアクセルを踏み込むと猛スピードで学園へと飛ばすのだった。

 

 

 

 

 一方、希望ヶ峰学園の方では正体を現わしたミハイルと日向達の戦いが始まっていた。

 

「先手必勝…行くよ『ハイエロファント』!」

『くらえ、『エメラルド・スプラッシュ』!!』

 スタンドを展開したミハイルに挨拶代わりと言わんばかりに七海が『エメラルド・スプラッシュ』を叩きこむが

 

「ふん…『ウォーク・ディス・ウェイ』弾き返せ!」

 

ガガガガガッ!!

 ミハイルのスタンド『ウォーク・ディス・ウェイ』の触手が見た目とは裏腹に俊敏に動き回り、放たれた『エメラルド・スプラッシュ』を全て弾き落としてみせる。

 

「…ッ、速い…!」

「どうした、そんなものか?」

「…まだまだッ、これでどう…!」

 余裕綽々のミハイルに七海は今度は射程を絞って収束した『エメラルド・スプラッシュ』を放つ。

 

「無駄だと言うのが分からんのか?そんなガキの浅知恵が俺に通じるとでも…思っているのかァーッ!!」

 そんな七海を嘲笑しながら密度を増した『エメラルド・スプラッシュ』を弾き落とすミハイル。

 

 だが

 

カキンッ!

「…?何だ、この手応えは…」

 緑の奔流の中で突如『エメラルド・スプラッシュ』のものとは違う手応えを感じ、怪訝そうに眉を顰めた…その瞬間。

 

ボゥゥンッ!

「ぐおおッ!?」

 手応えを感じた触手が『爆発』し、ミハイルの右手の小指が消し飛んだ。

 

「…ちぇ、そんな程度のダメージか。どうやら触手を1,2本潰したぐらいじゃ余り効果は無いみたいだね」

「…ッ!貴様…貴様の仕業か…!?」

 小指を押さえながら忌々しげに睨むミハイルの視線の先には、『キラークイーン』の能力で『爆弾に変えたコイン』を『エメラルド・スプラッシュ』の奔流に紛れ込ませた狛枝がいる。七海の『エメラルド・スプラッシュ』は、『キラークイーン』の爆弾を送り込むための囮だったのだ。

 

「む…作戦失敗?」

「いやあ作戦自体はうまくいったと思うよ?ただ今回は相手のスタンドが悪かったね、次はもう少し工夫してみようか」

 ミハイルへのダメージが思ったより少ないことに反省しつつも、2人はミハイルへの注意を怠らない。希望ヶ峰学園に来るまでは戦いとは無縁な日々を過ごし、時には価値観の違いから仲違いもした狛枝と七海であったが、日向によって繋がった『絆』とこの一年間の経験が彼らをここまで成長させた証拠であった。

 

「とはいえチャンスには変わりないね…日向君、決めろ!」

「任せとけッ!」

 狛枝の背後からマフラーを波紋で剣状に固定させた日向が斬りかかる。

 

「くらえ『輝彩滑刀の波紋疾走』ッ!!」

 

「…この俺を、舐めるなガキ共ッ!!『ウォーク・ディス・ウェイ』!」

 それに対しミハイルは逆上したように『ウォーク・ディス・ウェイ』の宿主を縦横無尽に振り回して日向を弾き返した。

 

ガツンッ!

「うおッ!?…この野郎、見た目以上にパワーが…」

 と、弾き落とされた日向が着地して正面を向き直り…思わず目が点になる。何故なら…

 

「…は?」

 日向の視線の先、ついさっきまでミハイルが立っていた所にいたのは、どういう訳か今自分が飛び越えてきた『狛枝』だったからだ。

 

「な、なんで狛枝があそこにいやがる…?と言うか、奴はどこに…」

『…ッ!日向、後ろだッ!』

「何ッ!?」

 『ハイエロファント』の焦ったような声に振り向くと、なんと今度は逆に七海の隣…狛枝が立っていたはずの場所に『ミハイル』が棒立ちしていたのだ。

 

「…そこから離れろテメェーッ!!」

 考えるよりも先に、七海の傍に敵がいるという事態に日向は反射的にミハイルへと殴りかかった。

 

「…えっ、な…ちょ、ちょっと待て…」

「知るかコラァァァァッ!!」

 

バキィッ!

「ぐふっ!?」

 まるで『予想できなかった』ように突然慌てた様子で制止しようとしたミハイルの顔面を思い切り殴り飛ばす。

 

「大丈夫か七海?」

「う、うん…でも、いつの間に私の隣に…」

「さあな…『超スピード』で移動したのか、それとも狛枝と自分の『位置を入れ替えた』のか…どんな能力かは知らねえが、早いとこケリをつけさせて貰うぜ…!」

 敵の術中にはまる前に終わらせようと日向が身構え…

 

 

「こ、小僧…!テメエ、なんでこんなことを…?」

「…はぁ?」

 目の前のミカエルの絞り出すような言葉に思わず固まる。

 

「何言ってんだテメエ?そっちから仕掛けてきて何を巫山戯たことを…」

「…日向君?」

「お、おい日向どうした?」

 呆れながらそう言いかけ…日向はふとミカエルをジッと見つめる。殴られた箇所を抑えたまま非難するような目線を向けるミカエル、その背後には『ウォーク・ディス・ウェイ』がゆらゆらと蠢いている。

 …だが、『それだけ』だった。先ほどまで俊敏に動き回っていた触手は揺蕩うだけで攻撃してこようともせず、こちらを見るミカエルからは欠片の『殺気』も感じない。まるで本当に、『殴られた理由が分からない』ように。

 

『…ッ!創ッ、それは『敵じゃあない』ッ!後ろだッ!!』

「ハッ!?」

 一瞬早く気づいたカムクラの警告が脳裏を過ぎり、反射的に背後に腕を回した瞬間

 

ボギィッ!

「ぐあッ!?」

「日向ァッ!」

 後ろから殴りかかってきた『人型に纏まった触手』に殴り飛ばされる。咄嗟に波紋でガードしたため骨折にまでは至らなかったが、感覚が無くなるほどの腕に残った痺れが相当なパワーを持っていることを示していた。

 

「や、野郎ッ…!そんな真似が…いや、んなことはどうでもいい!テメエ、その能力…俺の『目』を、いや『頭』をいじくりやがったなッ!!」

「あ、頭をいじくる…?それが奴のスタンドの能力なのかよ?」

『ほう…たった一度の不意打ちで俺の能力を見抜いたか。どうやら貴様、想像以上に場数を踏んでいるらしいな。少々見くびっていたぞ…』

 『人型』になった『ウォーク・ディス・ウェイ』が触手で器用に口を作り、そこからミカエルの声が聞こえてくる。

 

『俺が何処にいるのかがバレると不味いのでな、ここからはスタンドで会話させて貰うぞ。…お前のその勘の良さに敬意を表し、俺のスタンドの能力を教えてやろう。我がスタンド『ウォーク・ディス・ウェイ』の能力、それは俺を含めた触手が触れた対象同士の『認知を入れ替える』ことだ。先の攻防で、俺は貴様を迎撃するフリをしてあの白髪の小僧にも触手を伸ばしていた。それにより俺と白髪の小僧の認知を入れ替えたのだ。認知を入れ替えるということは、『頭で理解していてもそうだと認識してしまう』ということ!今の貴様らにはどんなに不自然な挙動をしていようがあの白髪の小僧が俺に見えているはずだ…!』

「な…なんだその能力は…ッ!?」

「へぇ~、面白い能力じゃん。ちょっと欲しいかもね~」

「お、おい七海…アイツら何話してるんだよ?俺らにも教えてくれよ」

「…うん、えっとね…」

「……な、なんだとッ!?そんな馬鹿げたスタンドが存在するのか!」

「テメエで『処刑部隊』なんざ名乗るだけのことはあるってか…クソッタレ!」

 これまで出会ったどのスタンド使いとも毛色の異なる能力に皆は驚きを隠せない。日向も想像以上に厄介な能力に思わず舌打ちをする。…と、そこで白銀がハッとしたように叫ぶ。

 

「…あれ?ってことは、今私たちに『狛枝先輩に見えているのが敵』てことじゃない?」

「!そ、そうだぜ!先輩、敵はあそこだ!ぶっ飛ばしちまえッ!」

 狛枝を指さしながら百田が日向を促すが、日向は苦い表情のまま動かない。

 

「…ど、どうしたんすか先輩!?早く奴を倒して…」

「…百田っつったか。お前、そんな簡単な話な訳ねえだろう?まさか奴がマジに『うっかり』自分の居場所をバラしちまってるとでも思ってんのか?」

「え…違うんすか?」

「んなワケないでしょ百田ちゃん。…アイツは狛枝先輩と自分の認知を入れ替えたとは言ったけど、『狛枝先輩に見えているのが自分』だなんて一言も言ってないよ。多分、狛枝先輩と入れ替わった上で『他の誰か』とまた認知を入れ替えてるんじゃあないの?」

「ええッ!?ということは…敵は今どこにいるの?」

「さあな…七海先輩か、江ノ島先輩か…。そのスタンドとやらがどれだけ届くのかは知らねえが、もしかしたら俺達の誰ががとっくに奴とすり替わってる可能性もゼロじゃあねえな…」

「ええッ!?そ、そんな…どうしたら…?」

「…皆、そこから動かないでッ!誰が『本物』かも分からない状況で動き回るのは奴にとって好都合でしかないわ…」

「んなこと言われたって…つーか、そもそもアンタが敵じゃねえって証拠はあんのかよ!?それっぽいこと言って、ソレこそあの触手フェチの思い通りなんじゃあねーのか?」

「そんなこと…ッ!入間ちゃん、響子ちゃんは探偵の『経験』からそう言ってるのに…」

「…ッ、そういうこと。『変装』で化けているワケじゃないから、本物だと言うことを『確かめる方法がない』…!こうして互いに疑心暗鬼に陥らせることが奴の目的なのよ…!」

「お、おい江ノ島っち!オメーはやくなんとかしてくれッ!オメーの無敵の『キング・クリムゾン』ならあんな奴楽勝だろッ!?」

「え~、…やだ!こいつ中々面白い能力だし~、もうちょっとだけこの茶番見物させて貰うね~!」

「…チッ!使えん絶望女がッ…!」

 一目見て能力の全てを看破した江ノ島と数々の『変装の名手』を見てきた霧切だけがこの『ウォーク・ディス・ウェイ』の真の恐ろしさを理解し、その危惧通り皆が互いをが本物かを確信できず慌てふためいていた。

 

「クソがッ…!テメエ、出てこいこの野郎ーッ!!」

 

 

(くっくっく…騒げ騒げ、お前らが俺を探そうとすればするほど、俺にとっては好都合なんだからよ…!)

 そんな喧噪の真っ只中でミハイルは密かにほくそ笑んでいた。その視線の先では人型の『ウォーク・ディス・ウェイ』がスタンドの見えていない皆を盾にしながら日向や七海を翻弄しているが、ミハイル自体はそれを操作しているわけではない。

 『ウォーク・ディス・ウェイ』は『半遠隔自動操縦型』とでも言うべきスタンドであり、自らの意思で動いたりはしないが『簡単な命令』さえ出しておけば勝手に動いてくれるスタンドなのだ。ミハイルは日向らの足止めとしてスタンドの大部分を切り離して人型にし、自身は残った2本の触手で代わる代わる認知を入れ替えてこっそりと移動していたのだ。

 

(さて…今は時間稼ぎ出来ちゃあいるが、正直なところあの小僧が本気になったらおそらく奴のスタンドの方が強い。現にこの俺が未だに殺しきれていねえからな。残りのガキ共も年の割に油断ならねえ…それに、向こうで観戦してるさっき邪魔しやがったあの女、どうにも不気味だ。ここはあの女が飽きる前にとっととターゲットを始末してトンズラするのが最善だな)

 加えて、このミハイルという男は言動とは裏腹にかなり慎重な男であり、ここまでの戦闘で真っ正面から日向達とやり合うのは困難と判断し、『暗殺』を以て目的を果たそうとしていた。…そのターゲットは当然、江ノ島に吹っ飛ばされたことで後方に下がらされた『最原』である。ミハイルは悟られないようじっくりと時間をかけて認知互換の相手を入れ替えながら確実に最原へと近づいていく。

 

 

(…どうして、どうしてこんなことになってるんだ?なんで僕が狙われて、日向先輩たちが僕を殺そうとした奴と戦ってるんだよ…?)

 その最原は近くに居た赤松に介抱されながら、今の状況が理解できず混乱していた。何故自分が狙われているのか、何故日向たちは当然のように自分を守ろうと戦ってくれているのか、…何故自分には日向たち以外には見えていないはずの『スタンドが視えている』のか。その全てが分からなかった。

 

(分からない…どうして僕が殺されなきゃ……ッ!ま、まさか…前に僕が『捕まえた』人が僕に『恨み』を持って…!?だったら、これは全部『僕が悪い』のか…!?)

「…最原君?どうしたの最原君!?」

 目深に被っていた帽子を更に押さえつけて頭を抱える最原に赤松が声をかける。ここまで最原が怯えるのには『理由』があった。今まで最原は探偵である叔父と共に数々の事件に関わり、何人もの犯人を捕らえた功績を認められて希望ヶ峰学園に入学した。…だが、そうして捕まった犯人の多くは自分の犯行を暴いた最原に怒りと憎しみを抱き、連行される際に最原を射殺さんばかりに睨みつけた。最原はその視線に恐怖し、いつしか目を合わせないよう帽子を被るようになった。自分を睨むその目が、『いつか復讐してやる』と言っているようだったから。…その目を見た自分の中に、そいつを『消したい』というどうしようもない『破壊衝動』が疼くようになったから。

 最原は自分を襲ったあのミハイルという男が、その『誰か』に頼まれて自分を殺しに来たのではないかと思い、そうだとしたら皆を巻き込んだのは『自分が悪い』のだという自己嫌悪に陥っていた。

 

「なんで…なんでこんなことになってるんだよ…?教えてくれ、僕が一体何をしたって言うんだよ…ッ!」

「最原君…」

 

 

(…こいつは、『チャンス』だ…!)

 その呟きを偶然聞いたミハイルはニヤリと笑う。今の段階であれだけ動揺している最原に、自分が狙われている『本当の理由』を暴露すれば、きっと最原はショックで発狂するだろう。そうすれば、周りにいる連中は最原を心配して反射的に『近づこうとする』。それに紛れ込めば、一気に射程圏内まで近づくことが出来る。

 そう確信したミハイルは、『スタンドが見えていないだろう』最原にも聞こえるようにリスクを承知で自ら声を上げる。

 

「ハハハハハハッ!随分下らんことで悩んでいるようだな『失敗作』ッ!」

「ッ!?今の声…十神君?」

「十神が奴かッ!そこを動くなよッ!!」

「ま…待って!私は奴じゃあ無いよ!もうアイツは私と認知を入れ替えているよッ!」

「…へ?なんで『朝日奈っち』がそんなことを…」

「お、俺は違う!俺は『朝日奈』だッ!もうアイツは十神じゃあない!」

「こ、今度は十神君が…!?」

「しまった…!既に『十神と朝日奈の認知』を入れ替えやがったのか!クソッ、今奴は『誰』なんだ!?」

 無論、特定されることがないように周りの皆と認知を入れ替えながらミハイルは最原に向けて『真実』を暴露する。

 

「貴方は自分が殺される理由が『自分にある』と思っているようだけれど…ええ、その通りよ。これは『貴方のせい』で起きた事なのよ」

「ッ!や、やっぱり僕を殺すよう頼まれて…」

「おっと、勘違いするなよ。別にお前さんに『恨み』があるからとかじゃあねえ。…お前さんの罪は、『お前が生きていること』そのものなんだよ」

「…?どういう…こと?」

「…そもそもさぁ、最原ちゃんは自分が『まっとうな人間』だとでも思ってるの?そんな甘い夢を今まで持ってたのなら、とんだお笑いぐさだね!」

「え…?」

「面倒だからハッキリ言ってやるよ!…お前は人間じゃねえ、俺達の『組織』が創り出した『生物兵器』だ!要するに、お前は『化け物』なんだよぉッ!!」

 

 

「…は?」

「なん、だとッ…!?」

 その言葉を聞いた瞬間、皆は理解が追いつかずに思わず固まった。当然、最原も…。

 

「は…な、なんだよソレ…?僕が『生物兵器』だって?そんなこと、信じるわけが…」

「おやおや、気づきもしないとは平凡な生活を送ってきたようっすね。だったら最後に教えてあげるっすよ。…君の両親は、元々俺達の組織の『研究員』だったんっすよ。その二人の受精卵に組織が保有する『様々な動植物の遺伝子』を掛け合わせて作られたのがお前なんすよ」

「な…」

「本来なら組織の忠実な戦闘員として教育されるはずだったんですが、貴方のご両親が貴方をどこかに逃がしてしまったせいで今までずっと探していたんですよ!…そうそう、貴方のご両親は貴方を逃がした罪で『処刑済み』ですので心配する必要はありませんよ!」

「…ッ!」

「さて…これで自分が殺される理由も察しがついたじゃろう?余計な知恵をつけた『兵器』など『不要』ということじゃよ」

「まだ気づいてなかったって事はテメーの『能力』にだって目覚めちゃいねーんだろ?余計なことになる前に…テメーのパパとママの所に送ってやるよ!アタシってば優しー!」

 

「……」

 全てを知った最原は、呆然とする。無論それが真実だと信じたくはない。本当に自分が『怪物』なのだとしたら、そのせいで自分の『本当の両親』が死んだと言うのなら。…そんなことを、信じられる筈が無かった。

 

「違う、違うッ…!僕は人間だ、お前達が作った兵器なんかじゃ…」

「最原君、しっかりして!あんな奴に騙されないでッ!」

「ふ~ん、まだ信じられないんだ。だったら…これでも信じられない?」

 

パラッ…

 人混みの間から、一枚の『写真』が最原の元へと舞い落ちる。最原が目を落とすと、端がうっすらと『血』で滲んだ写真には白衣を着た『男女』が大きな『試験管』のようなものを囲んでおり、その試験管にはこう記されていた。

 

 

 

 

『被検体588号 個体名:シュウイチ サイハラ』

 

 

 

 

 

 

 

 それを見た瞬間、最原の中の『決定的な何か』が…切れた。

 

「あ…ああああああアアアアアッ!!!」

「最原君ッ!?」

「お、おい最原!気をしっかり持て!」

 我を忘れたかのような絶叫に、戦いの輪から離れていた皆は思わず最原の元へと駆け寄る。

 

(今だッ!)

 それに乗じて、ミハイルは一気に最原との距離を詰めに掛かる。そしてその首を再び射程に捉えた瞬間、隠していた触手を伸ばして今度こそへし折ろうし…

 

「…ハァ、やれやれ世話が焼ける。『キング・クリ…』」

 

 

 …ガシッ!

「…お?」

「あ…?」

 江ノ島が不承不承助けに入ろうとした瞬間、『最原の腕』が触手を2本纏めて掴み取った。

 

「な…何!?」

「さ、最原君…?」

「アアアッ…ガ、ギィィィッ…!」

 それを目撃したミハイルと赤松の眼前で、最原から獣のようなうなり声が漏れ出す。

 

 

 僕は、バケモノなのか…。僕がバケモノだから、こいつは僕を殺そうとするのか。皆を危ない目に遭わせるのか。

 

 だったら…『消さないと』。僕を殺そうとするコイツを、皆を傷つけようとするコイツを、生かしておけない!こいつの『におい』を、ここから消してやるッ!!

 

 

「ウォォォォームッ!!」

 最原の決意が、その身体の中に眠る『怪物の種子』を目覚めさせるッ!『種子』から放出された特殊な『分泌液』が全身に作用し、皮膚を強固なプロテクターへと変質させる!爪は猛禽の様に鋭く尖り、毛髪は強靱さを保ちながらもハリネズミのような鋭さと強度を得る!立ち上がった勢いで脱げた帽子の下にあった苗木や日向に似た『くせ毛』は、あらゆる生物を超越した感覚をもたらす『触覚』となり、顔面の皮膚が砕け落ちてその下から血走ったかのような『赤い目』が輝くッ!

 

 もはやそこに居たのは、『最原終一』ではない。ミハイルの組織…『ドレス』によって生み出された怪生物『寄生虫バオ―』が造り出す最強の『生物兵器』ッ!

 

「ば、馬鹿なッ!こんな土壇場で、目覚めたというのかッ!?」

「最…原、君?」

 

 これが、これがッ、これがッ!!

 

「ウォォォームッ!バルバルバルバルッ!!」

 

 『バオー』だッ!!そいつに触れることは、『死』を意味するッ!!

 

「…チッ!ここで『バオー』になるとはな。だが、もう遅いッ!既に貴様は俺の射程内だッ、『ウォーク・ディス・ウェイ』ッ!!」

 事前に知っていた為誰よりも早く我に返ったミハイルが己のスタンドを呼ぶと、日向と交戦していた『ウォーク・ディス・ウェイ』が瞬時にミハイルの元へと戻ってきた。

 

「ハッ!?て、テメエ!」

「さっきはどうやったのかは知らんが、『スタンド使いではない』貴様にこの攻撃は防げまい!今度こそ死ねッ!」

 人型状態の『ウォーク・ディス・ウェイ』の拳が最原…バオーへと迫る。いかにバオーといえど、近接タイプのスタンドの攻撃をまともに食らえば致命傷は確実。それはミハイルも『事前に検証済み』であった。

 

 

 だがこの時、ミハイルも少なからず『動揺』していた。その動揺が、彼にスタンド使いの『基本的なルール』を失念させていた。

 

 『スタンドはスタンドでしか触れれない』。…即ち、一度とはいえ『スタンドの攻撃を防いだ』バオーが『スタンドを持っていない』筈が無いと言うことを。

 

「ウォームッ!!」

 迫る拳に籠められた殺意を『感じ取った』バオーが、戦闘に不要なため退化した声帯から絞り出すような声でその『名』を叫ぶ。

 

 

 

「『ザ・ワールド』ッ!!」

 

グォォォォッ!!

 最原の背後から呼び声に応え現れたのは、全身を『鎖』で雁字搦めにされ、プロテクターを纏った『黄金のスタンド』。その姿は、かつて空条承太郎によって倒された『DIO』のスタンド『ザ・ワールド』そのものであった。

 

「な…」

「…にぃッ!?」

 その姿、そして名前にその意味を知る面々が愕然とする間に、最原は『能力』を発動させた。

 

「トキヨ…トマレェェェェッ!!」

 

ガチィィィンッ!

 『ザ・ワールド』が時計のような装飾がある拳を打ち付け合った、その瞬間

 

ドギュゥゥゥン…ッ!

 

「……」

 世界の時間が、『止まった』。日向も、江ノ島も、ミハイルも…バオーを除いた『この場の全員』の動きが静止する。…しかし、それもほんの『一瞬』、瞬きほどの時間でしかない。スタンド能力に目覚めたばかりの『ザ・ワールド』が止められる時間などその程度でしかない。

 

「バルァァァァアッ!!」

バキィィィッ!!

 しかし、バオーが皆の中から自分への殺意を持った『におい』を放つものが誰なのかを特定し、そいつを殴り飛ばすには十分な時間であった。

 

 そして時は動き出す。

 

…ゥゥゥゥゥンッ!

「…!!?な、ゴアァァーッ!!?」

 如何に認知を入れ替えようと、そいつが抱く『感情』までは変えられない。そして感情を『におい』として感知できるバオーに、『ウォーク・ディス・ウェイ』の能力は意味を成さない。ミハイルは悲鳴をあげながら殴り飛ばされる。

 

「…ッ!え、あ…も、戻った!」

「野郎が吹っ飛ばされて、能力が解除されたのか!しかし、これは…」

 ミハイルがダメージを受けたことで能力が解け、皆はそれぞれ正しい認知を取り戻す。…しかし、もはやそれどころではなかった。『怪物』へと変貌した学友に、そいつが操っているのがあろうことか『倒された筈のDIOのスタンド』だったのだ。あの江ノ島ですら、それを正常な状態で受け入れられ切れずにいた。

 

「バルルルル…ッ!」

「最原…君…」

 

 

 

 

 

「…おいおい、帰って早々とんでもないことになっているね」

「ッ!?」

 ちょうど、そんなタイミングの時であった。

 

「あ…ま、誠ッ!」

「苗木!!」

 

 苗木誠、帰還。

 

 




最原のスタンドについて解説します

ザ・ワールド・オーバーチェイン
破壊力:C スピード:C 持続力:C 射程距離:D 精密動作性:D 成長性:A

本体:最原終一

かつてDIOが操っていたザ・ワールドを最原が遺伝子と共に継承したもの。厳密にはザ・ワールドそのものと言って良いのだが、その外見とDIOとの差別化の為に「オーバーチェイン」とつけられた。全身を覆う鎖は最原の己の力を拒んでいる心の有り様を表しており、その影響でスタンドのスペックも大きく制限されている。
能力は当然「時を止める」のだが、これも目覚めたてに加えて能力の制限によりほんの一瞬しか止められない。だがそれでも一発殴るぐらいには十分な時間である
本来のザ・ワールドの成長性はBだが、この徹底的なまでの拒絶による制限が幸いして成長性だけはオリジナルより高い。これが果たしてどこに行き着くのか…それはまだ誰にも分からない

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