ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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息抜きに平和な時間軸のお話をやります
今回は腐川です。…ぶっちゃけ十神編のおまけみたいなものなので軽い気持ちでどうぞ

ニューダンの公式設定集のキャラデザ見てると、ところどころ最原や天海がエドモンぽかったり、ハルマキちゃんがクレオパトラぽかったりしてますね…
FGOのキャラデザ期間とダブってたりしてたのかな…?

ところで、最近見つけた苗木君みたいなこと言ってるキャラがド下衆野郎だった件について。やっぱフェイスレス然りプッチ然り、主人公みたいなこと言う敵キャラってろくでもないのばっかりだね。特にジョジョはそんなんばっかりだからバトルしてないのに強キャラ臭がすることが多い感じ。…嫌いじゃないわ!


鮮血が綴る物語 part1

『…次のニュースを……ッ!ただいま、速報が入りました!青年実業家として知られる神宮明宏氏が、つい先ほど都内の自宅にて死体で発見されました!』

「…ハッ…ハッ…」

 希望ヶ峰学園の自室にて、テレビのニュースを聞きながら腐川冬子は荒い呼吸をなんとか整えようとする。

 

『遺体は鋭利な刃物で切り裂かれており、現場の状況から警察は近年多発している『連続殺人鬼』の仕業と見て調査を…』

「…んなこと、知ってんのよ…ッ!アタシが、知らない訳ないでしょ…ッ!!」

 一方通行のニュースに対して悪態をつく腐川の両手は、まるで『つい先ほど人を殺してきたように』血で濡れていた。

 

「『アイツ』…また死体を弄繰り回して遊んでたわね…!ここまで戻ってこれたからまだいいけど、なんでアタシがアイツの後始末をしなくちゃいけないのよッ…!」

 洗面所で手に付いた血を必死に落としながら、腐川は誰かに向けて愚痴を吐き続ける。

 

「もう、アイツの好きになんかさせるものですか…!アタシはアタシよ、『腐川冬子』よ…!アタシはアイツなんかじゃない、『殺人鬼』なんかじゃないんだから…ッ!!」

 

 

 

 翌日、休み時間に78期生の教室では皆が談笑していた。

 

「おい苗木聞いたぜ。今度はお前小泉ちゃんから写真教えて貰ってるんだってな?」

「うん、まあね。案外面白いものだよ、写真って」

「うむ!写真は大切ですぞ!『思い出を綺麗なまま』に残しておける唯一の方法ですからなあ」

「へぇ~、苗木君、今度私を撮ってくださいよ!」

「うん、いいよ。…もう少し練習してからね」

「…ふん、下らんな」

「……」

 

「…ところで諸君、昨晩のニュースは見たかね?」

「!!」

「昨晩のニュース?…ワリ、俺寝てたから知らねーや」

「…もしかして、速報で流れた『連続殺人鬼』のこと?」

「れ、連続殺人鬼!?」

「うむ…。父から聞いた話なのだが、どうやら今回の一件もその殺人鬼の仕業で間違いないようだ」

「詳しいことはニュースにならないから分からないけど、月イチぐらいでやるよねそういうニュース?」

「うむ…。道場でも少し噂になっていたな」

「石丸、お前の親父『警視』なんだろ?だったらなんか詳しいこと聞いてねえのか?」

「…いや、父は仕事の事は家庭には持ち込まない人だからな。それに、警察官には『守秘義務』がある。例え聞いても教えてはくれないだろうな…」

「で、でも怖いなぁ…。そんな恐ろしい人がいるだなんて…」

 

「…その殺人鬼の名は『ジェノサイダー翔』だ」

「え!?」

「ッ!?」

 口を挟んで来たのは、高みの見物を決め込んでいた十神であった。

 

「あ!?…なんでお前がんなこと知ってんだよ?」

「我が『十神財閥』の書庫には、日本中のあらゆる『機密事項』が記されたデータベースがある。当然警察の『未解決事件』に関する資料も存在する。俺はそれを見たに過ぎん…」

「なんでんなもんがあるんだよ…?」

「流石十神財閥と言うべきですわね」

「ジェノサイダー翔…その名は私も聞いた事が有るわ。ここ最近活動が目立ち始めた『快楽殺人鬼』ね。その名前自体はネットでの『あだ名』らしいけど、警察ではそれをそのまま名前として使ってるみたいね」

「か、快楽殺人鬼ィ!?」

「殺人に『快楽』を憶えるというのか…!ぬうう、なんと下劣な奴よ!」

「きっと頭のイカれたビョーキ野郎だぜそいつ!麻薬とかやってんじゃあねーの?」

「…いえ、その可能性は低いわ」

「え?」

「ジェノサイダー翔の犯行には、ある『共通点』が存在する」

「共通点…?」

「ジェノサイダー翔の犯行は基本的に『平日の夕方から深夜』、あるいは『休日の昼間』に行われることが多い。そのことからして、ジェノサイダー翔の正体は『学生』である可能性がある」

「が、学生ッ!?僕らと同年代の犯行だというのか!?」

「それともう一つ、ジェノサイダー翔の被害者はその全てが『若い男性』…しかも容姿がいいほどより残虐に殺されている。つまり、こいつは『意図的』に殺しのターゲットを選んでいるということだ。そして最後に…ジェノサイダー翔の犯行現場には必ず、被害者の血で書かれた『チミドロフィーバ―』という文字が残されている」

「ち、チミドロフィーバー?」

「そいつにとっての『ルーティーン』のようなものだろう。深い意味は無い。…よってこのことから、ジェノサイダー翔は明確な『理性』を持って犯行を重ねていると断定できる」

「正気のままで連続殺人を続けているということですか…恐ろしいですわね」

「なんという怪物だ…!決してそんな存在を野放しにしてはならないッ!!」

「つったって、んなもん警察の仕事だろ?お前が張り切ってもどうしようもねーだろ?」

「ぬぐう…!」

 ジェノサイダー翔の恐ろしさに皆思い思いの感想を述べる中、ふと苗木が腐川の様子がおかしいことに気が付く。

 

「…腐川さん?どうしたの、顔色悪いけど…」

「…ふぁッ!?きゅ、急に何よ!?べ…別に、そんなこと無いわよ…」

 否定こそしているが、腐川の様子は端から見ても異常であり、顔色は蒼白で小刻みに震える体を必死に押さえつけようとしているようであった。

 

「で、でも…本当に顔色悪いよぉ…?」

「風邪でもひいたの?保健室一緒に行こうか?」

「ガキ扱いするんじゃあないわよッ!!…ホントに、なんでもないのよ…。ほっといてよ…!」

「しかし…」

「まあ、本人が良いって言ってんなら別にいいんじゃねえか?…それとも腐川っち、そのジェノサイダーとかいう奴の話聞いてビビっちまったんけ?」

「だ、誰が…ッ、……そ、そうね。正直おっかないわよ…」

「なんだ、人騒がせだな…」

「しかし、確かに快楽殺人鬼など恐ろしいですからなぁ。もし僕が襲われでもしたら…うひょおおお!想像するのも恐ろしいですぞッ!」

「安心しなさいな山田君。そのジェノサイダー翔が狙うのは『イケメンの男性』だけなのでしょう?でしたら『豚』は端から論外ですわ」

「ブヒィッ!?」

「…まあどの道山田は無いよね。このクラスであり得そうなのは…十神とか?」

「…フン。だからなんだ?殺人鬼だろうが知ったことか。そんな人間の屑以下のゴミにこの俺が殺されるものか」

「どこからその自信が来るんでしょうか…?」

「あー、でもさー…苗木とかもアリっぽくない?イケメンと言うよりはどっちかっていうと『カワイイ系』だけどさ」

「…あんまり嬉しくない」

「けど、もし苗木っちを狙ったらジェノサイダーも運の尽きだべな」

「うん…逆に返り討ちにしそうだもんね」

「…あまり仮定の事で盛り上がってもしょうがないわよ。第一、いくらジェノサイダー翔とは言えこの希望ヶ峰学園の関係者を狙うのは困難よ。それほどここのセキュリティーはザルじゃあないわ」

「確かにね。…もし、『内部』にいるのなら話は別だけど、ね」

「…ッ!」

「あ?どういう意味だ?」

「…いや、なんでもないさ」

 微かに震えた腐川をちらりと見ながら、苗木はクラスメイトとの談笑へと戻っていった。

 

 

 

 その夜

 

「…ハァ。今日も白夜様は凛々しかったわ…。アタシがこんなにも一人の男に夢中になれるなんて……できれば構って下さればもっといいんだけど」

 腐川は本のぎっしり詰まった本棚と原稿用紙の山がきれいに整頓された自室にて、一日陰ながらおっかけ…悪く言えばストーカーし続けた十神の顔を思い浮かべながら悦に至っていた。

 

「…けど、ジェノサイダー翔の話題を出された時にはビビったわ。おかげで変に焦っちゃったじゃないの。……苗木の奴、気づいてないわよね?なんか意味深な事言ってたし…」

 しかし、昼間に出た『ジェノサイダー翔』の話題を思い出し、その顔が苦々しく歪む。

 

「…考えたってしょうがないわ。そうよ…アタシは絶対に気づかれてはいけないのよ。隠し通さなきゃ…例え、何人死んだって、絶対にね…!」

 自分自身に言い聞かせるようにそう言って、腐川は机に座り執筆作業の為に筆をとる。

 

 

 

 …と、その時。

 

ぷぅ~ん…

「…ん?」

 どこからか入って来た一匹の『蠅』が、腐川の顔の周りを羽音をたてながら飛びまわる。

 

「…チッ、うっとおしいわね。どっか行きなさいよ、しっしっ」

 

ぷぅ~ん…!

 腐川は手を振ってあしらおうとするが、蠅は遠くに行くどころか逆に腐川の方へと近づいてき

 

 

ぴとっ

 なんと腐川の鼻先に止まった。

 

「んが…ッ!?ば、ばっちいわよ!あっち行きなさいよッ!」

 腐川が憤慨して叫ぶと蠅も驚いたのか飛び離れ…それが腐川の鼻をくすぐった。

 

「…はぇッ…へ、へ…」

 マズイ、と腐川が思った時には時すでに遅し。

 

「ぶあっくしょいッ!!」

 腐川は盛大に『くしゃみ』をした。

 

 

 

 

「……」

 

 

「………きひ、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、食堂…

 

「…ふう。今日はこの辺にしておこうか」

「はい。遅くまでありがとうございました」

「いいよいいよ、結局明日の仕込みも手伝ってもらったしお相子ってことで!…じゃあ、また明日ね!」

「はい、おやすみなさい花村先輩」

 苗木は厨房で花村から料理の手ほどきを受け、お礼代わりに翌日の準備を手伝って食堂を後にした。

 

「さて、そろそろお風呂に入って…あ、でもその前に向こう(イタリア)の様子を聞いておこうかな…」

 

「…チッ、もう食堂閉まってんのかよ」

「ん?」

 と、後ろから聞こえた声に振り返ると、一人の青年が『CLOSE』の札が降りた食堂を前に悪態を吐いていた。

 

「…あの、まだ夕食を食べてなかったんですか?」

「ああ?…誰だお前」

「あ、78期生の苗木誠です。貴方は…」

「…77期、松田夜助だ。…苗木、お前が苗木か」

「?僕の事をご存じなんですか?」

「…お前のクラスに、江ノ島盾子ってのがいるだろ。アイツ、俺の『幼馴染』なんだよ」

「あ、そうだったんですか」

「…で、俺に何か用かよ?腹減ってんだ、どうでもいいことならどっか行け」

「ああ。…もしよかったら、簡単なものなら作りましょうか?食堂の鍵は僕も持ってるので、後始末は僕がやっておきますから」

「…お前、ちゃんと食えるもん作れんのか?」

「ええ。一応花村先輩から手ほどきを受けていますので、そこそこの物はできますけど」

「…ならラーメンとチャーハン。早いとこ頼むぜ」

「はい。分かりました……ッ!?」

 

 突如、背筋に感じた『殺気』に苗木はハッとして周囲を見渡す。

 

「…どうした?」

「いえ…何か、誰かに見られているような気が…」

 

 

 

「……」

「…あれ?」

 と、そこで苗木は廊下の向こうにシーツの様な大きな布を被った人物が立っているのを見た。

 

「…誰だ、あの人?あんな恰好で…」

「…み~つけた♡」

「…あん?」

 シーツの下から聞こえてくる喜色の籠った声は、怪訝そうに眉を顰める松田に向けられていた。

 

「松田夜助、『超高校級の神経学者』…頭脳明晰、やれやれ系のクールな不良男子…」

「…何言ってやがるあの野郎?気色悪いな…」

「…松田さん、気を付けてください。彼…いや、『彼女』は貴方を…」

 

 

「…~ッ、超~ドストライクゥ~ッ!!」

 奇声を上げると同時にそいつは猛スピードで松田めがけて走り出し、あっという間に松田まで詰め寄った。

 

「なッ…!?」

「いっただきま~すッ!!」

 松田が反応する間もなく、そいつはシーツの下から鋭利な『鋏』を取り出すと、それを松田の喉笛めがけて突き立てようとし…

 

 

ガシッ!

「…あん?」

 その寸前に、『視えない何か』に掴まれたように動きを止められる。

 

「…ッ!?な、なんだ!?」

「え?ちょ、なにコレ?動かないんですけど?…あ、もしかしてアレ?『ドS』のアタシとまっつんが弾かれあって、みたいな?」

「…そんな磁石みたいなことがあるわけないだろ。単に僕が止めているだけだ」

「あん?」

 ふと横を見れば、呆れたような表情でシーツの人物を見る苗木。そしてシーツの人物と松田には見えていないが、苗木の『G・E・R』が突きだされた鋏を指でつまみ動かないようにしていた。

 

「…テメー、えーっと…こいつ誰だったっけ?ちょい待ち、あ~っと…」

 シーツの人物は鋏を押し出す手に力を籠めたままシーツの下でもぞもぞとしだす。

 

「…あー、苗木誠…だっけ?もしかしてこれ、アンタの仕業?」

「そうだよ。…君が何者で何の目的でこんなことをしたのかは…まあ大体想像はつくけど、目の前で『人殺し』を見過ごすほど僕も薄情じゃあないからね」

「人殺し…ッ!?」

 目の前の一見呑気な会話から出た単語に、松田は自分の置かれている状況に我に返り、即座にその場から離れる。

 

「あッ!ちょっと、逃げんなっつの!お願い、サクッと逝かせて?先っちょ、先っちょだけでいいから!」

「ふざけんなッ!…おい、このイカレ野郎はなんなんだよ!?」

「…おそらく、巷で話題の『連続殺人鬼』でしょう。今回のターゲットは、どうやら貴方だったみたいですね」

「なッ…!?こいつが、連続殺人鬼…!」

「…松田さん、早く逃げてください。こいつは僕が足止めします。今ならまだ宿直室に警備員の方が居る筈です」

「足止めって…お前にんなこと…」

「いいから行ってください。…ハッキリ言って『邪魔』です。この場で犬死にしたくはないでしょう?」

「ッ!……チッ、糞がッ!」

 突き放すような苗木の言葉にカチンときつつも、自分ではどうにもならないことを頭で理解した松田は渋々ながらも逃げ出した。

 

「あーッ!逃げんな…っつのッ!!」

 シーツの人物は掴まれていた鋏から手を放し、即座に別の鋏を取り出すと松田の足めがけて投擲する。が

 

『…フンッ!』

 

ビュンッ!

ガキィンッ!

「あら?」

 『G・E・R』が持っていた鋏を同じように投擲し、松田の足に当たる直前で弾き返した。

 

「あッ、ちょッ……~ッあーチッキショー!テメーのせいでアタシの萌え男子が逃げちまったじゃあねーかッ!」

「知るか。僕だって正直鬱屈してるんだよ。お前の為にわざわざ柄でもないこと言って『人払い』してやったんだからな」

「…あーん?そりゃどういう意味だ?」

「…とっくに気づいているってことだよ。『ジェノサイダー翔』……いや」

 

 

 

 

「…『腐川さん』」

「ッ!!?」

 苗木の口にした名に、シーツの人物…ジェノサイダー翔はシーツ越しでも分かるほどに動揺する。

 

「…テメー、何言ってんだ?アタシがあんな『根暗女』なわきゃねーだろが」

「誤魔化したって無駄だよ。…僕は以前にも『君のようなケース』に遭遇したことがあってね。確かに今『表に出ている』生命エネルギーは『別物』だけど、君の身体の中には確かに『腐川さんの生命エネルギー』を感じる。それに…そもそも何故君が腐川さんの性格を知っているんだ?腐川さんが男ならともかく、女性は君のターゲット範疇外だろう。そこまで下調べしているとは思えないんだけどね…」

「……」

 ジェノサイダーはしばし沈黙した後、やがて観念したように被っていたシーツをひっぺがす。

 

バサッ!

「…ったく、アタシとしたことがとんだマヌケやらかしたわ。訳ワカメなことばっかでアタマのぼせちまったってか?」

 その下から露わになったのは、凶暴な目つきで、だらしなく舌を出し…しかしその姿は紛れもなく苗木の知る腐川冬子が現れた。

 

「…腐川さん。やはり君は『多重人格者』だったんだね。最初にあった時からなんとなくそんな気がしていたけれど、…まさか相方の人格があのジェノサイダー翔とはね…」

「…そういうテメーは、まさか『スタンド使い』か?」

「ッ!スタンド能力の事を、知っているのか?」

「まあね!アタシの知り合いにもスタンド使いの『暗殺者』とかいたし!元気してっかな~『おじやちゃん』?」

「…おじやちゃん?それに、スタンド使いの暗殺者…」

「あん?どした?」

「…そのおじやちゃんとかいう奴、本名を『リゾット』って言うんじゃあないか?」

「ああん?…アンタ、おじやちゃんの知り合い?」

「…成程、『リゾット=おじや』ね…。捻ったと考えるべきか幼稚というか…」

「…おい、質問に答えろっつーの。アンタおじやちゃんの何なのさ?」

「別に…知り合いな訳じゃあないよ。単に一方的に知ってるってだけ」

「ほーん…で、おじやちゃん元気?2,3年前に会ったときはなんかドン引きされて逃げられちゃったんだけど」

「…死んだよ」

「…は?」

「彼は…リゾット・ネエロは『死んだ』。自分の組織の抗争の中で、ね…」

「……あっそ。ま、そんなこともあるよね~!そもそもアタシらとか死んで当然のクズばっかだし!ギャハハハハハ!!」

「……」

 

「…んじゃ、テメーもおじやちゃんとこ逝って来いやぁッ!!」

 馬鹿笑いも束の間、突如としてジェノサイダーは苗木に襲い掛かる。

 

「……」

「オラァ…!」

 

 

 しかし

 

ピコスッ!

「へぶッ!?」

 鋏を突き立てようとした瞬間、ジェノサイダーの額に衝撃が走り、ジェノサイダーは頭をのけ反ってもんどりうつ。

 

「ッ痛~!テメー…!」

「…確かにお前は『殺人鬼』としては恐ろしい。だが、相手は良く考えて選んだ方がいいぞ。…でないと、こういうしっぺ返しを食らうからな」

 ジェノサイダーを退けたのは、『G・E・R』が放った『デコピン』であった。視えはしないものの受けたダメージから何をされたのかは理解したジェノサイダーは苛立ちを露わにする。

 

「ふざけやがって…デコピンとか嘗めてんのかッ!?」

「ああ、嘗めてるよ。…お前如きに本気でやるわけないだろう、身の程を知れよ『殺人鬼』」

「…上等だコラァーッ!!」

 苗木の不敵な物言いに激昂したジェノサイダーは尚も苛烈に攻め立てるが…

 

『無駄ァ!』

「あだッ!」

『無駄ァ!』

「ほげッ!」

『無駄無駄無駄無駄ァッ!!』

「きゃいん!?」

 ジェノサイダーは同じ腐川の身体とは思えないほどの凄まじい身体能力を有していたものの、自分より遥かに強いうえに視えもしない相手に敵うはずもなく近づいた端からデコピンで返り討ちに遭っていた。

 

「グギギ…ッ!こ、このジェノサイダー翔をコケにしやがって…」

「人格はお前とはいえそれは一応腐川さんの身体だからね。嫁入り前の女性を傷つける訳にはいかないよ」

「ケッ!紳士ぶってんじゃねーぞ!…とっくに気づいてんだぞ、テメーがアタシの『同類』だってことはよ!」

「…全部を否定はしない。僕もお前も、所詮は目的の為なら人を殺せるロクデナシだ。…だがお前の『同類』になった覚えはない。僕はお前とは違う」

「違わねーよッ!どんな綺麗なお題目が有ろうが、テメーもアタシも『人殺し』でしかねーんだよボケッ!!」

「……」

「…何だよ?なんか文句でもあんのか?」

「いや…思っていたより随分『真面目』なんだなって思ってね」

「ハァ~?…アタマ湧いてんのかテメー…!」

「生憎まだ素面さ。…それより、そろそろ逃げた方がいいんじゃあないのか?」

「あ?」

 

タタタタタタッ…!

『…こっちだ、急げ…ッ!』

 苗木の忠告を裏付けるように、遠くから警備員らしき人の声が足音と共に聴こえてくる。

 

「…チッ、アタシとしたことがドジったか…!」

 逃げ場が無いことを悟ったジェノサイダーは舌打ちをするが、正面の苗木はそんなジェノサイダーを足止めするどころか逆に構えを解いて隙を見せる。

 

「…なんのつもりだテメー?」

「見ての通りさ。…逃げたきゃ逃げなよ、邪魔はしないさ。最も、この学園に留まるならに限るけどね」

「…んなことして何になるってんだよ?ここでテメーが見逃そうが、テメーが根暗を告発すりゃ一緒だろうが」

「ああ、安心しなよ。今は腐川さんをしょっ引くつもりは無いから」

「ハァ?…何考えてんだテメー?」

「別に邪な事は無いよ。…ただ、本人の『自覚』も儘ならないまま罪を問うなんて真似が、気に入らないだけだよ」

「…ハッ!だったら遠慮なくトンズラこかせてもらうぜ!けど憶えとけよ、この礼はキッチリ果たすからな!テメーもいつか磔にしてやっから覚悟しとけよ!ギャハハハハハ!!」

 苗木の意図を掴み切れず不審に思うも、状況が状況であるためジェノサイダーは苗木の言葉に甘えて風のように逃げ去ってしまった。

 視界から消えたジェノサイダーを苗木は生命エネルギーを辿って追跡し、やがて寄宿舎の腐川の部屋に戻ったことでひとまず安堵する。

 

「やれやれ…奴の律義さに賭けてみたけど、留まってくれてよかった。外に逃げられたんじゃ、ロクに話もできそうになかったからね。…さて、まずは学園長に事情を話して…それから、腐川さんと話をしよう。罪を『償う』にせよ『断罪』するにせよ、彼女がどれだけ『もう一人の自分』のことを自覚しているのか、それを知らないことには意味のないことだからね。さしあたっては…なんて言い訳しようかなぁ…?」

 これから来るであろう警備部の人たちをどう誤魔化すか、学園長にしばらく目を瞑ってもらう為の手土産をどうしようかと考えつつも、苗木はジェノサイダーの消えた寄宿舎へと目を向けるのであった。

 




尚、学園長は4年物のフランチャコルタ(現地価格5000円、東京だと1万円前後)で懐柔した黄桜の根回しにより黙らせた模様。
…大人って汚いネ!


…ん?今日は何の日だって?今日は7月7日…平日だね(非リア充感)

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