ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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仗助をうまく絡ませたいけれど、ジョジョが2人いるとどうしても主役が多すぎる…
荒木先生よく4部を纏めたな、さすがだわ…


暮威慈畏大亜紋土は砕けない part1

 突然であるが、苗木誠が『超高校級のギャング』であるという事実は一般的には知られていない。本来希望ヶ峰学園は、基本的に『1つ』の才能に特化した学生をその道のスペシャリストにすることを目的とした教育機関であり、『現役高校生』という括りはあるがどちらかと言えば生徒の自主性に任せた『専門学校』のような学校なのである。

 それ故に、他の生徒との差別化を防ぐため『2つ以上』の才能を持った『超高校級』の生徒は『存在しない』、というのが常識であった。なので、苗木が『超高校級の幸運』の持ち主であると同時に『超高校級のギャング』であるという事実は学園の生徒及び関係者以外は知らず、表向きは『超高校級の幸運』の持ち主というだけが公開されていた。

 

 …なので、苗木にはしばしばこのようなトラブルが訪れる。

 

「…で、何の用ですか?」

「おいおい、ここまで来といてとぼけたって意味ねえぜ?」

「お前、希望ヶ峰学園の生徒だろ?しかも『幸運』の。…だったらよ、その『幸運』とやらを俺達にも恵んでくれたっていいんじゃねえと思う訳よ」

「…要するに『カツアゲ』ですか。しょうもないですね」

「んだとコラァッ!『超高校級』だかなんだか知らねえが嘗めてんじゃあねえぞッ!!」

 ガラの悪い不良に因縁つけられたと思いきや、路地裏に連れ込まれてお手本のようなカツアゲを受けている事態にため息をつきながらも、時間を無駄にしたくないため『ギャング』としての『顔』を見せて黙らせようとする。

 

 とそこに

 

「…何やってんだテメエら?」

『!?』

 路地裏の入り口からかけられた声に振り返れば、そこには苗木にとってある意味見慣れた『リーゼントヘッド』に、彼の誇りともいえるチームの名が刻まれた学ランを羽織った大柄な青年が立っていた。

 

「あ?なんだテメエは。邪魔すんじゃあ…」

「…お、おいちょっと待て。確かこいつどっかで…」

「あ、大和田君」

「あん?…って苗木じゃあねえか。何やってんだ?」

「っ!?お、大和田って…まさかッ!!」

「そ、そうだ!こいつも一緒に出てた…あの『暮威慈畏大亜紋土』のヘッド、『大和田紋土』だッ!!」

「おう。…で、テメエら何やって…」

「ち、チクショウ!流石に相手が悪い、逃げっぞ!」

「お、おう!」

 相手が大和田だと知るや否や不良たちはあっという間にその場を逃げ去っていった。

 

「…なんなんだあいつ等?」

「いや大和田君助かったよ」

「お前アイツらに何されてたんだよ?」

「あ~…、ちょっと『カツアゲ』喰らっちゃってね。どうにも学園のホームページで僕に目をつけたみたい」

「カツアゲだぁ?んなもんブチのめしゃあ良かったじゃあねえか」

「そうもいかないよ。僕は一応対外的にはただの『超高校級の幸運』ってことになってるからね。学園長の為にもその体裁を崩す訳にはいかないさ」

「…しかし、『幸運』の割にはカツアゲなんざされるとは、お前もなんかツイテねえな。…いや、ツイテねえのはアイツ等か。知らねえとはいえよりにもよって『超高校級のギャング』をカツアゲするなんてよ」

「そうかもね。…でも、やっぱり僕は一応『幸運』みたいだよ」

「あ?なんでだよ?」

「君が助けてくれたからさ。おかげで面倒事にならずに済んだ。ありがとう、大和田君」

「…ヘッ、んなもん礼を言われるようなことじゃあねえよ」

「まあまあそう言わず。…お礼にラーメンでも奢るけどどう?」

「おっ!そういうことならゴチになるぜ。どこ行くよ?」

「最近駅前においしい店ができたって妹から聞いてね…」

 和気あいあいといった雰囲気で2人は歩いて行く。端から見ればかなり異色な組み合わせではあるが、大和田は見た目こそ『ワル』のお手本のようなものではあるが、内面は情に厚く『ダチ』を大事にするごく普通の男子高校生なので、そこを知っている苗木はこうして普通に接しているのであった。

 

 

 

 

 

 

 …しかし、どれほど親しみやすくとも大和田が『暴走族』であり札付きの『ワル』であることには変わりない。苗木の様に普段から品行方正な態度を心がけている訳ではないので、校内でも学ランにリーゼントがデフォルトであった。となれば、風紀に煩い『彼』が黙っている筈もない。

 

「大和田君ッ!!いい加減髪型を直して来たらどうなんだ!?それに、制服も『持ってくる』のではなく『着て』来ようとは思わないのかね!?」

「だーッ!ったく煩せえなあ毎日ヨォッ!!」

 今日も今日とて、もう何度目になるか分からない石丸と大和田の言い争いが始まっていた。

 

「まーたやってるぜあの二人…」

「毎日飽きないねー。言っても変わらないのに」

「それでも退けぬものがあるのだろう…。石丸の様に生真面目な男ならばなおのことだ」

「まったく、こうも毎日『雑音』を流されては落ち着けませんわ」

「ど、どうしましょう苗木君…?」

「…もうこれは仕方ないよ。適当なところで仲裁に入るさ」

「…それで収まるならいいけれどね」

 半ば諦めがちにそれを遠巻きに見る皆の前で口論はさらにヒートアップする。

 

「だいたい君はいつまでそんな恰好を続けるつもりなのだ!?『暴走族』などという『職業』は存在しないのだぞ!それとも『レーサー』にでもなるつもりなのかね!?」

「あぁんッ!?俺があんなせまっ苦しいコースで満足すると思ってんのかコラァッ!」

「ではどうするつもりなのだ!?まさかいつまでも定職につかぬまま、ああやって『遊んで』日々を過ごすつもりなのかッ!?」

「『遊び』だァッ!!?テメエ、俺達の走りを『遊び』だっつーのかッ!」

「そうではないかッ!『目的』もなくただ公道を『珍走』するだけの行為など、迷惑行為以外の何物でもないではないかッ!!」

「言ったなテメエ!表出ろッ!!」

「…ハァ、そろそろ頃合いかな」

 議論がどんどん明後日の方向にずれ始めたのを機に、苗木は二人の間に割って入る。

 

「はい、二人ともそこまで。そろそろ授業始まるし、話の内容もズレてきてるよ」

「…チッ」

「邪魔をしないでくれ苗木君!今日という今日こそは大和田君を『説得』してみせるッ!!」

「熱くなり過ぎだよ石丸君。それに、『説得』ってどうするつもりなのさ?」

「無論、大和田君を『更正』させるのだ!」

「…それって、大和田君に『暴走族を辞めさせる』ってこと?」

「…ッ!!」

「当然だとも!…確かに、彼の才能である『超高校級の暴走族』…言い換えれば『多くの人を纏められる求心力』に関しては認めざるを得ないだろう。だが、だからといっていつまでもあのような『珍走行為』を続けさせるわけにはいかんッ!ならば彼には、『しかるべき立場』にあってその才能を発揮してもらわなければならないのだッ!!」

「…フン。それを言うなら、苗木とて貴様の言う『更正』の対象になるのではないか?ギャング集団の『ボス』ともあれば、そこの『珍走集団の頭目』なんぞよりはよっぽど厄介な存在ではないのか?」

「んだとコラァッ!!」

「ちょ…十神君!またそんな火に油を注ぐようなことを…」

「…無論、苗木君にも真っ当な道を進んでもらうつもりだ。しかし、今は大和田君に更正してもらうことが最優先事項なのだ!」

「…おいテメエ、黙って聞いてりゃ好き勝手ほざきやがって…ッ!」

「だいたい何故あのような行為に走るのかが理解できない。あんなもの、『危険』以外の何物でもないではないか!しかもそれを『集団』で行うなど…、あのような『チームを作った人物』の意図が知れない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

「ッ!?が…!?」

「お、大和田っち!?」

 石丸が言い終わらぬうちに、大和田は苗木の制止を振り切ると石丸を壁に叩きつけ締め上げていた。

 

「…テメエ、もう一回言ってみろッ…!俺のチームを…俺の『兄貴』を侮辱するってんなら、サツのお偉いの息子だろうが容赦しねえぞッ!」

「や、やめ…たまえ…ッ!!」

 理性が吹き飛ぶ一歩手前までキレた大和田は、石丸の襟を引き千切らんばかりに握り占め、その煮え滾る怒りが籠った拳を今にも石丸に振り下ろそうとする。

 

「こ、これ…マジでヤバくねえか!?」

「あわわわわ…い、一大事ですぞ、ここだけ時代が『ろくでなしブ○―ス』ですぞ!」

「や、やめて大和田君!」

「煩せえ…黙ってろ不二咲ッ!」

「ひ…!」

「ど、どうしようさくらちゃん!」

「…致し方ない、強引にでも止める……む?」

「な、苗木君…!」

 

 

 

 

 

 

「…ストップ。そこまでだよ」

 しかし、その拳が振り下ろされる前に、苗木は大和田と石丸の間に割って入る。

 

「邪魔すんじゃねえ苗木ッ!こいつは、俺の…ッ!!」

「石丸君の何が君の琴線に触れたのかは僕にも分からない。だけど、君は怒らせた理由も分かっていない人を傷つけるほど愚かではない筈だ…!」

「ぐ…ッ!」

 苗木の試すかのような視線に、大和田はしばし躊躇ったように動きを止め、やがて突き飛ばす様に石丸を解放する。

 

「ゲホッ!…ハァ…ハァ…」

「…次はねえからな」

 石丸にそう言い残し、大和田は教室の入り口に向かう。

 

「…どこへ行くつもり?」

「あ?関係ねえだろ、テメエらにはよ」

「お、大和田君…待ちたまえ…!」

 石丸の制止も虚しく、大和田は教室から出て行った。

 

 

 その後大和田抜きで授業は進行したが、それ以降大和田が校内に姿を見せることは無かった。

 

 

 

 

 

その翌日…

「おはよう…」

「おお苗木君、待っていたよ!」

「い、石丸君?」

 教室に入った苗木を出迎えたのはいつにも増してでかい声の石丸であった。

 

「ど、どうしたの?」

「いや、…大和田君がどこに行ったのかを知っているかね?」

「大和田君?…そういえば居ないね」

「なんか、あのあと『校外』に出て行っちゃったらしいよ」

「外に?」

「うむ。…昨日一晩頭を冷やして考えたのだ。大和田君を思ってとはいえ、昨日の僕は少し熱くなりすぎてしまった。それに、僕の言動が彼を傷つけてしまったと言うなら、僕は彼に謝らなければならない。そう思って今朝大和田君の部屋を訪ねたのだが…いくら呼びかけても返事が無かったのだ。てっきり居留守を使われたのかと思ったのだが、ちょうどそこに守衛の方が通られて、大和田君があの騒ぎの後に『外出届』を出してどこかへ行ってしまったと聞いたのだ。それで、どこに行ったのか知ってる人がいないかと思ったのだが…」

「…ゴメン。僕も分からないかな」

「そ、そうか…」

「…あ゛―、マジウザいってアンタ。朝から辛気臭い空気ばら撒くなっつの」

「じゅ、盾子ちゃん…」

「つうか、あのリーゼント『外出届』出してったんだろ?だったら何時頃帰ってくんのかも知らせてあんだから、くだんねーこと心配しなくたっていいじゃんか」

「…ま、それもそうだべな。その内帰ってくんだろ」

「左様…あ奴も少し頭を冷やせば話をする余裕も生まれるであろう。放っておくのもあ奴の為だぞ石丸…」

「…そう、だな。皆、心配をかけさせて済まなかった」

「…別に心配なんかしてないわよ…」

「…でも大和田君、どこに行っちゃったんだろぉ…」

「…さあね」

 結局その日大和田が学園に戻ることは無かった。その日の彼の所在を知る者は、大和田本人、…そして『東方仗助』だけであった。

 

 

 

ブロロロロロ…

 M県内にあるとある山道を、大和田が乗った大型バイクがひた走っていた。といっても、『暮威慈畏大亜紋土』の舎弟を引き連れている訳でもなく、ましてやいつもの様に爆走している訳でもない。ただ一人で、静かに山道をひた走っていた。

 やがて山頂付近にある駐車場にバイクを止めると、荷物入れから『花束』と『一升瓶』を取り出し歩き出す。

 

「…もう何度目だろうな、『俺一人』でここに来るのはよ…」

 大和田はここに『一人』で来る時、いつも『特別』な気持ちでやって来ていた。家族とも一緒に来ることはあるが、大和田にとってその日は『特別』にはなれないのである。

 

「本当は、こんな気持ちで来たくはなかったんだがな…」

 若干足取り重く、大和田は目的の場所へと向かう。やがて目的の場所に到着し…

 

「…ッ!!?」

…そこで思わず足が止まる。

 

「…おう、来たかよ」

「な、なんで…!?なんで、アンタが…」

 大和田の目的地…『大和田家先祖代々の墓』の前には既に『先客』がいた。腕まくりをして墓石を磨いていたのは、大和田と同じ『リーゼント』ヘアーの青年。彼は大和田を見つけると何事も無い様に挨拶するが、それに硬直した大和田に思わずムッとしたような表情となる。

 

「んだよ、いちゃワリィのかよコラァ~?」

「…い、いや。いいんです…『仗助』さん。よく、来てくれました…」

「まあな…『ダチ』の命日だ。来ねえ訳にはいかねえだろ…コラ」

 普段の大和田を知る者なら驚くであろう『敬語』を使われた青年…『東方仗助』はそう言いながら、親友…大和田の兄である『大和田大亜』の眠る墓に目を落とすのであった。

 

 

「……」

「……」

 墓を綺麗に磨いた後、大和田の持参した花と一升瓶を供え、仗助が線香をあげると同時に二人は手を合わせて黙祷する。

 

「…お前、毎年一人で命日に来てんのか?」

「…はい。本当の事は…言えねえんで…」

 大和田大亜の『本当の命日』を知っているのは、大和田と仗助の二人だけである。家族やチームのメンバーが知る彼の命日は、大和田がでっち上げた『偽りの命日』である。と言っても、ほんの一日の誤差ではあるが、それが大和田にとっては重要なことであった。この事実を知るのは、『大亜の本当の死の原因』を知る大和田と、『大和田兄弟にとっての無二の親友』であり『大和田が唯一真実を打ち明けた人物』である仗助だけであった。

 

「…まあ、お前ん家の問題だから他人の俺がどうこう言うつもりはねえけどよォ~。…それでも、俺はアイツの『ダチ』だからよ。分かってんだろ?何時までも黙ってる訳にはいかねえってよぉ?」

「…けど、俺はもう…『後戻り』なんて…」

「誰が『後戻り』しろだなんて言ったよ?」

「…?」

「…別によ、『後戻り』なんてする必要はねえんじゃねえかよ。お前がアイツの死に『責任』を感じて、それでもアイツの『想い』を背負って生きるって決めたんなら、例え『真実』がばれたとしても、それは『後戻り』じゃなくって…『前進』っていうんじゃあねえかなぁ~…」

「前進…俺が?」

「本当の『後戻り』っていうのはよ、アイツが死んだあとの、『抜け殻』みてえなお前に戻ることなんじゃねえかなぁ?それより少しでもマシになるんなら、それは『前進』ってことになるんじゃねえか?…それがアイツが望んだ、『男の約束』ってことだと、俺は思うぜ」

「…ッ!!」

 『男の約束』、その言葉が大和田の胸に深く突き刺さる。それは、大亜が死の直前に大和田に託した『願い』であり、同時に大和田を縛り付ける『戒め』でもあった。

 

「…けど、それでも出来ねえッ…!そんなことをしちまえば、間違いなくチームは『崩壊』する…。そうなったら、俺は兄貴との『約束』をやぶっちまう…ッ!それだけは、絶対に出来ねえ…!」

「…面子の為に『嘘』をつき続けて、それで大亜が納得すると思ってんのか?」

「仗助さんの言うことでも、これだけは曲げられねえ…!あれはもう、『俺だけ』のチームじゃねえんだ…。兄貴と、俺と…『俺達』が創り上げたチームを、潰す訳にはいかねえんだ…ッ!…仗助さんには感謝してるし、尊敬だってしてる。けど、チームを守るためだったら、俺はアンタとだって闘ってやるッ!!」

 そう言い残し、大和田は墓に一礼すると立ち去って行った。後に残された仗助は、その背を見送ると深くため息をつき、墓前に向き直る。

 

「…悪いな大亜、俺じゃあアイツを止められそうにねえ。『クレイジー・ダイヤモンド』…お前が気に入ってくれた『何でも治す』スタンドが有っても、アイツが自分で殺しちまった『自分』までは治せそうにないぜ…」

 仗助は、大亜が大和田に『本当に託そうとしたもの』の答えを知っていた。だが、それは自分が教えても意味が無いことであった。何故ならそれは大和田兄弟と自分にとって『至極当たり前』のことであり、仗助が口にしたところで大和田には『本当の意味』が伝わらないからである。

 

「仲が良くなりすぎるってのも考えもんだなぁ…。けどまあ、安心しろや。アイツのいる学校には、俺が信頼できる奴が居るからよ。…頼むぜ苗木、俺じゃあアイツの心には届きそうにねえ。アイツが『目を背けちまった』もんを、お前が教えてやってくれ…」

 

 

ブロロロロ…

 遠くから聞こえてくる大和田のバイクの音が響く中、仗助は遠く離れた『年下の伯父』に向かってそう呟くのであった。

 




今回ここまで
キャラの関係を無暗に崩さないようにするのは大変ですね…

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