今回は苗木君のパパとママですが、自分の中では
苗木父…CVうえだゆうじさん
苗木母…CV能登麻美子さん
を脳内ボイスに設定してキャラ付してますのでその辺ご了承ください
「…という訳でついでに皆にも紹介しておくよ。たった今から僕の部下になった『フー・ファイターズ』こと『F・F』だ」
『以後、よろしく頼む』
『……』
夕食の時間になり、食堂へと集まった皆の前に現れた苗木から、突如として新しい仲間という触れ込みで肩に乗っかった『喋る鶏』を紹介された78期生の皆は思わず固まった。別段不思議ではない、むしろ残当である。
「…苗木君のことでもう驚くまいとは思っていたけど、まさか『喋る鶏』を仲間と言って紹介されるとは思わなかったわ」
「そう?僕の組織に訳ありだけどもう『喋る亀』は居るんだけど…」
「…訂正するわ。馬鹿じゃないの貴方…?」
「つーか何がどうなって喋る鶏が仲間になったんだよ?」
「ああそれは…」
事情説明中…
「…ってことがさっきあったんだ」
「…要するに、そいつは元々貴様を殺しに来た刺客で、その鶏はあくまで憑りついているだけで実際の正体はプランクトンという訳か。ふん、馬鹿馬鹿しい…!」
「しかし…、実際に目の前にいる以上認めざるを得ないのでは?」
「こ、殺しに来た奴を仲間にするとかアタマ湧いてんじゃあないの…?」
「否、それも苗木の懐の深さと言えよう…」
「つーかプランクトンのスタンドとか訳分かんねー…」
「まあここまで来るとスタンドというよりは、一種の『新生命体』とも言えるだろうね。プランクトンの新種とかじゃなく、『フー・ファイターズ』っていう名前の全く別物の生き物と考えるべきだろう」
「ってことは…もしかして僕たちモノスゴイことに立ち会ってるんじゃあ…!」
「た、確かに…新種どころかまるっきり別物の生命体に遭遇するなど普通なら絶対にあり得ないからな…」
「いわゆる『UMA』って奴だかんね~!研究所にでも出しゃ懸賞金でもでんじゃね?」
「マジか!?」
『じょ、冗談でもやめてくれッ!』
「…断っておくけど、そんなことしたら本気で怒るからね?」
「じょ、ジョークだべよ…」
「ど、どうでもいいけど…食堂に畜生を持ち込むんじゃあないわよ」
「あ、それもそうだね。…じゃあ悪いけど『F・F』、ちょっと僕の部屋で待っててくれ」
『了解した』
苗木の肩から降りた『F・F』はそのまま寄宿舎の方へと向かっていった。それを見送った後、苗木達はそれぞれ食事を摂り始めた。
「…そういえばよ、今週末って3連休なんだよな?」
「そうでしたね。土日と、月曜日が学園の都合で臨時休校になるって聞きました」
「…んじゃ、久しぶりにチームの奴とひとっ走りしてくっかな」
「大和田君!交通ルールは守りたまえよ!」
「分かってるっつーの!…ったく口ウルセー野郎だぜ」
「なんだと!」
「やかましいですわよ。…ま、たかが3連休程度では特にやることもありませんわね」
「いやいや、某には夏コミの新作プロットを完成させるという崇高な使命が…」
「あなたには聞いてませんわ豚」
「ブヒィッ!」
「なあ舞園ちゃん!連休暇なら俺とデートしようぜ?」
「え、えっと…わ、私収録が有るので…」
「うげ、マジか…」
「…下らんな、たかが休日の使い方で悩むとはな」
「ジジ臭いなー。十神、趣味とかないと老けるよ?」
「老け…!?」
「な、ナイスミドルな白夜様…イケるッ!」
「黙れッ!」
「我は久しぶりに道場に顔を見せるとしよう。…彼とも逢っておきたいからな」
「…やっぱり皆休日も結構個性的だなぁ」
「苗木君はどうするの?」
「僕?…う~ん、イタリアに戻るにはちょいと短すぎるし…僕も久々に家に帰ろうかなぁ」
(ピクッ)
「…そーいえばお前ん家ってどこよ?」
「実家の住所?僕は都内だけど…」
「あら、意外と近くに住んでましたのね」
「思ったよりシティーボーイだったんですなあ…」
「そんな言うほどじゃないんだけど…」
「……」
「…何残念な頭捻って考えてんの残姉ちゃん?」
「!べ、別に…」
「ふ~ん…。ま、どーでもいいけどね。うぷぷ!」
その後、苗木は自室にて家族に帰宅の連絡をしていた。
「…うん、うん。そういう訳で、土曜日に帰るから。…ああ、父さんとこまるにもよろしく。それじゃ」
ピッ
『…家族か。私にはそういう概念が無いから分からんのだが、やはり家族というのは良い物なのか?』
「…そうだね。特に僕にとっては、今の家族がなかったら『僕』という存在が成立しなかったかもしれないからね。多分僕は人一倍家族に対して過敏だと思うよ。…それに、実の家族もだけど組織の仲間だって僕にとってはかけがえのないモノさ、君も含めてね…」
『…ありがとう、よく分からないが、嬉しい気分だ』
「どういたしまして。…さて、それじゃあ聞かせてもらえるかな?」
『…私を生み出した者についてだな』
「ああ。…と言っても、大体見当はついている。…『ホワイトスネイク』だろう?」
『そうだ。私は『ホワイトスネイク』の『DISC』により『知能』を与えられたプランクトンが集まって生まれた存在…。だが、私が思うに奴はそのつもりで私を生み出した訳ではないようだ。奴にしてみれば単なる気まぐれのつもりで生み出したのだろう』
「捨て置くのももったいないから、鉄砲玉代わりに僕に送り込んだという訳か。…それで、君は『本体』の顔を見たのか?」
『…いや、私が見たのはスタンドだけだ。本体である人間の顔は見ていない。…だが、『気になる物』が有ったのを憶えている』
「気になる物?」
『私を生み出してすぐ、私に君を襲うよう命令した時、奴は片手にかなりの数の『DISC』を持て余していた。その中には、うっすらとだがスタンドのようなビジョンが浮かんでいるものもあった。もしかしたら奴は、『スタンド能力をDISC化する』ことができるのかもしれない』
「…成程、となるとあの時ラバーソールから抜き取ったのは奴のスタンド、『イエロー・テンパランス』だったのか。他の生物に埋め込むことで『知識』や『自我』を与え、さらにスタンド能力者からはスタンドを奪うことができる『DISC』を操る能力…。しかもあの遠隔操作性とそれに見合わぬパワー…『ホワイトスネイク』、どれだけ汎用性に優れたスタンドなんだ?」
『…君が言っても皮肉にしか聞こえないのだが?』
「冗談、僕はまだこの『G・E・R』の能力を把握しきっている訳じゃあないんだ。分かっているのは、どんな方法であろうとも僕を『傷つけられない』という事実だけ。身の丈に合わない力を持っていても、使いこなせなきゃ価値も半減ってものだよ」
『…普通それほどの力を手にしたなら慢心の一つでもありそうだが、君に関してはその心配はないようだな』
「そうかな?僕にしてみれば今の僕結構慢心してると思うんだけど…。ボスっていう肩書そのままにしてるしさ」
『日本人が謙虚というのは事実のようだな…』
「…さ、そろそろ寝ようか。休みの事も大事だけど明日はまだ学校だ」
『…ところで、私の今後はどうなるのだ?』
「ああ。…明日SPW財団の人が君を迎えに来る。今後ウチで活動する以上君には人間として活動してもらう必要がある。君が入る体は向こうに着いてから用意するとして、君には人間としての常識を身に着けて欲しいからね。とりあえずしばらくはSPW財団のところに厄介になってもらうよ。GWには一旦イタリアに戻る予定だから、その時に君も一緒に来てもらうよ」
『了解した、ボス』
「それじゃ、おやすみ」
『ああ、おやすみ』
翌日、SPW財団を代表してやってきた仗助と共に『F・F』は一旦SPW財団の目黒支部へと向かっていった。そしてそれからさらに数日後、いよいよ連休に入ったことで苗木を始めとした希望ヶ峰の生徒たちの多くは各々休みを過ごす為に学園を後にしたのだった。
「…まだ一ヵ月しか経ってないのに、すごく懐かしく感じるな」
一ヵ月前、希望ヶ峰学園に向かうために訪れた自宅近くの駅に、苗木は再び帰ってきた。
「…お!苗木さんとこの誠君かい?なんだか大人になったみたいだなあ。流石希望ヶ峰の生徒だよ」
「背は変わってないんですけどね。…それじゃあ、また」
家の近所に住んでいる馴染の駅員に声をかけると、苗木は家路に着くためにバスに乗り込む。
「…ね、あの子可愛くない?」
「あ、ホントー…!金ぴかで綺麗、ハーフかな?」
「…はぁ」
好奇の視線に晒されながらも家の近くのバス停に到着し、そこから徒歩で自宅を目指す。
「…あら、お帰り誠ちゃん!」
「お久しぶりです」
ご近所の人たち…苗木がレクイエムに目覚めて金髪になったときには不良になったのではないかと心配された人たちと挨拶を交わしながら歩いて行き、やがて懐かしい我が家の玄関前に辿りついた。
「…ふぅ。なに緊張してるんだろ僕。自分の家に帰って来たって言うのに…」
どこか堅い様子で玄関の前に立ち、苗木は一つ大きく息を吐いて扉を開く。
ガチャ
「ただいま…」
パァン!パパァンッ!
「うわっ!?」
いきなり響く甲高い音に新手のスタンド攻撃かと身構える苗木。しかし、そんな苗木を待っていたのはそれとはまったく無縁の温かいものであった。
「「「お帰り!誠(お兄ちゃん)!!」」」
苗木を出迎えたのは、今しがた炸裂したばかりのクラッカーを手にした両親と、妹のこまるだった。
「…こまるだな?仕掛け人は」
「え!?なんで分かったの?」
「お前以外にいるか!」
「ほら言ったじゃない、すぐバレるって」
「ちぇー…」
「でも、びっくりしたろ?」
「そりゃあね。…ただいま。父さん、母さん、こまる」
「「「おかえり」」」
希望ヶ峰へ行く前と変わらない、苗木家のいつもの日常へと苗木誠は帰ってきた。
一旦自室に荷物を置いた後、誠は居間へとやってきて家族との談話を楽しんでいた。
「…ふぅ、やっぱり家は落ち着くや。学園の寄宿舎も悪くないけどさ」
「それで、どうなの?希望ヶ峰学園は」
「うん、なかなか楽しい所だよ。行って良かったと思う」
「友達とかはできたのか?」
「…まだ馴染めない人は居るけど、良くしてくれる人は出来たよ」
「へえ?どんな人?」
「…根黒六中にいたころにさ、同じ学校にアイドルの舞園さやかが居たって噂があったでしょ?」
「あー!そういえばあったね、私は会えなかったけど…。それがどうかしたの?」
「…実は舞園さんも希望ヶ峰の生徒だったんだ。『超高校級のアイドル』って触れ込みでね。それで、舞園さん僕のことを知ってたみたいなんだよ」
「え?なんで?」
「実はさ、中学に居た時に何度かスタンド能力を使ったんだけど、その時のことを見られてたみたいなんだ」
「スタンド能力って…イタリアから帰ってきた時に見せたあの超能力のこと?」
イタリアから帰ってきた誠を迎えた苗木家は、レクイエムによってすっかり様変わりした苗木にひどく狼狽した。そこで苗木は一連の事について説明するべく、家族の前で『G・E・R』の能力を披露してスタンド能力の事を伝えていたのである。
「うん。それで、学園で会った時に話をするようになって。…その、色々あって、さ…友達になったんだ」
「…お兄ちゃんなんか隠してない?」
「…別に」
「あらあら…。誠ったらさっそくガールフレンドができたみたいね」
「フフフ、青春してるな誠」
「お兄ちゃん、今度舞園さやかのサイン貰って来てね!」
「はいはい、分かったよ」
「…他にはどんな子がいるの?」
「ああ、他には学園長の娘で『超高校級の探偵』って呼ばれてる…」
希望ヶ峰学園での日々の話を肴に、苗木家の久しぶりの一家勢揃いの一日はあっという間に過ぎて行ったのであった。
「…ん…うん」
翌日、日曜日の朝。いつもなら休日だろうと基本的に8時は全員起きている苗木家の目覚めはやや遅かった。
「あら…、もう9時じゃない」
「昨日は少し飲みすぎたかな…。誠が帰って来たからって破目を外し過ぎたみたいだ」
「そうね…。そろそろ誠とこまるも起こして……あら?」
目を覚ました苗木夫妻の鼻に、台所から良い匂いが届いてくる。
「…お前、先に起きてたのか?」
「いえ…、今起きたところよ。誰かしら…?」
怪訝な表情で台所へと向かう夫妻。そしてその先にあった光景は…
「…あ、おはよう父さん、母さん」
「「ま、誠!?」」
母のエプロンを身に着け朝食の準備をする誠の姿であった。
「あ、母さん勝手に借りちゃってるよ」
「そ、それは良いけど…急にどうしたの?」
「実はさ、学園で暇だったから『超高校級の料理人』の花村先輩からちょっと料理教わったんだ。…それで、帰った時に母さんたちに食べて貰おうと思って」
「そ、そうだったのか…」
「誠が料理、ねえ…」
「ん~、良い匂い…。お母さん朝ごはん何……って、お兄ちゃん!?」
「おう、こまるもおはよう」
「ど、どうなってんの…?」
「さあ…?」
「と、とりあえず…折角だからいただきましょう?」
「どうぞ、召し上がれ」
「ごちそうさま」
「お粗末様」
「…普通においしかったわ、お世辞抜きで」
「ああ。…お前にこんな『才能』があったとはな」
「こんなの『才能』の内に入らないよ。先生が良かっただけさ」
「…卵焼き、おいしかった。おいしかったけど…」
「…?どうした?」
「なんか…なんだろこの敗北感…。お兄ちゃんの方が『女子力』高いのがショック…」
「そう思うなら少しは母さんの手伝いぐらいしなさい」
「だが断る!」
「威張るなバカ!」
「バカって言った!酷いよ!」
「否定できるのか?」
「う…うわーん!お兄ちゃんがいじめるー!」
「うふふふ…」
「ハハハハ…」
お調子者のこまるを兄の誠が窘め、それを両親が優しく見守る。それが苗木家の日常であった。
そんな一家の団欒を、家の敷地の外からこそこそと見やる怪しい存在がいた。
(…ど、どうしよう。勢いで来ちゃったけど、出るタイミングが分からない…)
塀の角からこっそりと中の会話に聞き耳を立てるその人物。彼女の経験により培われた気配遮断能力により通りがかる人もその存在に全く気付くことはなかったが、『彼女』からすれば隠れるよりも出ることの方が大切な筈なのに未だにインターホンを押すタイミングを掴むことができない。折角の『才能』も肝心の目的を達成できなければゴミ同然ということをありありと表現していた。
(ど、どうしよう…?)
そんな残念極まる『彼女』であったが、彼女の心中を知る者はここに居ない妹を除いて存在しなかった。
「…何やってるんだろ?」
しかし、この男の前ではそんな完璧な潜伏も意味をなさない。
「どうしたの誠?」
「えっと…ちょっと外でてくる」
「?別にいいけど…」
洗い物を済ませ、食卓が片付いたところを見計らって、誠はさっきから感じていた外にいる『人物』の元へと足早に向かう。玄関を出て、家の前の塀の角に向かって困った様に話しかける。
「…なにしてるの戦刃さん?」
(ギクッ!)「……」
「隠れても無駄だよ。いくら視覚を誤魔化せても、そこにある『生命エネルギー』を消すことができない以上僕の目を欺くことは出来ない」
「……うう」
こそこそ…
塀の陰からおずおずと顔を覗かせたのは、『超高校級の軍人』である戦刃むくろ。現段階において、78期生の中で最も苗木の『秘密』を知る人物である。
「あ、あの…これは、別にストーカーとかじゃなくって、その…苗木君に会いに来たっていうか……!べべ、別にその…変な意味とかじゃあなくって…!」
「…とりあえず上がっていく?立ち話もなんだしさ」
「え…い、いいの?」
「いいのも何もそんなところにいたら警察呼ばれちゃうよ。いいから上がって」
「う、うん…」
「コーヒーで良かったかしら?」
「あ、お構いなく…」
戦刃を家に招き入れた苗木はリビングのソファーに彼女を座らせると自分はテーブルを挟んで向かいに座る。
「ゆっくりしていってね、戦刃さん」
「あ、どうも…」
「じゃあ誠、父さんたちは部屋に戻ってるからな」
「うん」
「お兄ちゃん、その人もしかしてお兄ちゃんのかの…」(wktk)
「はいはいこまる、貴方も部屋に戻ってなさい」
「えー!やだー!」
兄が初めて女の人を連れてきたという事態に、思春期全開で目を爛々と輝かせるこまるであったが、母に首根っこを猫の子の様に掴まれあえなく部屋に引っ込まされた。
後に残されたのは、淹れて貰ったコーヒーを啜りながら縮こまる戦刃とそれを眺める誠だけである。
「……」(ズズーッ…)
「あの…戦刃さん?」
「!な、なに…?」
「いや何じゃなくて、…なんで僕ん家まで来たの?」
「め、迷惑だった…?」
「そんなんじゃあないけど…急にどうしたのかな、って」
「……お礼を、言いに来たの」
「お礼?」
(はて、何か感謝されるようなことしたかな?)
心当たりがないため首をひねる苗木に、戦刃はコーヒーを置くとぽつぽつと話し始める。
「苗木君は憶えてなくても無理ないかも。…実は私ね、希望ヶ峰学園に来る前に苗木君に会ってるんだ」
「希望ヶ峰の前…?」
と、そこで苗木の記憶の隅にある少女の顔が思い浮かぶ。そしてその記憶の少女の顔と目の前の戦刃の顔を重ね合わせた時、苗木は確信する。
「…もしかして戦刃さん、8月の頭ぐらいにローマに居なかった?」
「ッ!お、憶えててくれたの?」
「ん…まあね。あの時はちょっと色々なことがあったから、記憶が物凄く鮮明なんだ。だからなんとか憶えてるよ、あの時僕が声をかけたのが戦刃さんだったんだね。…ということは、隣で気を失っていたのが江ノ島さんだったのか。でも、なんでローマに居たの?」
「その…えっと…」
「…まあ大体見当はついてるよ。大方学園長にでも頼まれたとかじゃないかな?」
「!?ち、違うよ!」
「そう?…まあどうでもいいけどね」
「い、一応聞くけど、なんでそう思ったの?」
「…僕は希望ヶ峰学園に入学してすぐ学園長と話をしたんだ。それでその時の学園長の様子からわかったんだ。学園長は僕の事を前から知っていた、とね。けど才能を見込まれてスカウトされた他のみんなと違って、僕は何千何万という候補の中から抽選で選ばれたに過ぎない。そんな僕の事を逐一下調べしたとは考えにくいからね。…となると、学園長が僕の事を調べようとした理由はただ一つ、僕が『吸血鬼DIO』の息子であるということを危ぶんで僕のことを調べたと考えるのが自然だ。ならば戦刃さんがローマに居たのもただの偶然ではなく、『超高校級の軍人』としての能力を買われて学園長に僕の調査を依頼されたから、と思ったんだけど…違うんじゃあしょうがないね。疑ったりしてごめんね」
「…い、いいよ。別に…」
(ば、バレてる…!なにもかも全部見透かされてる…ッ!で、でも違うって言ったから大丈夫だよね?私ドジしてないよね…?)
(…戦刃さん、表情に出過ぎだよ。考えてること丸わかり…)
軍人としての責任感から学園長との守秘義務を必死に守ろうと取り繕っているが、その行為自体がなによりの肯定であるということに彼女は気づいていない。誠は内心、江ノ島があれほどに戦刃のことを『残念』と貶していることにちょっぴりだけ納得してしまった。…余談ではあるが、学園長は苗木を害無しと判断した時点でこの守秘義務を放棄しているのだが、戦刃がそれを知るのは数日後の事であった。
「…で、そのことがどうかしたの?」
「…私、あのローマに居た時、ちょうど前に苗木君が話してくれた『カビ』の事件に遭遇したんだ」
「ッ!…そう、だったんだ。それは災難だったね」
『カビ』とは無論、ローマを一夜にして地獄へと変えたチョコラータのスタンド『グリーン・デイ』のことである。
「あの時、私…内心すごく怖かった。フェンリルにいた頃にスタンド使いとの戦闘経験もあったから、スタンド能力の事は理解できた。…でも、それでも『あの光景』を忘れることはできなかった。『アレ』が本当の事なのか、まだ今でも整理できていない…」
戦刃の言うものは、チョコラータが創りだした地獄のような光景か、…それともそれを見ていた『妹の表情』なのか。真実を知るのが彼女な以上、苗木にはそれを察することなどできはしないが、彼女が今悩んでいることは理解できた。
「そんな時に、苗木君は私に声をかけてくれた。…苗木君にとっては、なんとなく声をかけた程度だったかもしれない。でも、あの時の苗木君の声が、苗木君の気遣いが…苗木君の『笑顔』が、私にとっては救いになった。何が真実なのか分からないなかで、自分がここに生きていることがハッキリと感じ取れたの。…苗木君にしてみればなんのことか分からないかもしれないけど、それでも言わせてほしい。…あの時、私に『希望』をくれて、ありがとう」
ぺこりと頭を下げる戦刃。苗木からすれば、自然とやっただけの行為であったが、それによって救われたという彼女の言葉にむず痒くなり頬をかく。
「…そんなこと、別にお礼を言う必要なんてないのにさ。戦刃さんって変に律儀だよね」
「『縁と礼儀は命より大事にしろ』って、上官から教わったから…」
「まあ、お礼を言われる分には悪い気はしないけどね。…どういたしまして。君が生き残ってくれて良かった。それだけで、僕らの闘いが『無駄じゃなかった』ってことを感じることができた。僕の方こそ、ありがとう。戦刃さん」
「…うん」
逆にお礼を言われたことに驚きつつも、顔を伏せてモジモジとする戦刃に、苗木はまるで子犬のような印象を受け、思わず頭に手をやり優しくなでる。
「うひゃっ!?」
「あ、ごめん。嫌だった?」
「う、ううん…。そうじゃなくて、…その…ちょっと、嬉しい…かも」
「そ、そう…?」
顔を伏せ、それでもなお分かるほどに顔を真っ赤にした戦刃を、苗木はどうしたものかと複雑な表情で見つめるのであった。
「…あらあら、なんだかいい雰囲気じゃない?」
「アイツもなかなかやるじゃないか。これは卒業後が楽しみだな」
「…お兄ちゃんのバーカ…」
そんな二人を陰から見つめる、苗木家の視線に気づかないまま。
今回ここまで
…声優ネタって荒れるって聞いたけど大丈夫だろうか