ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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…やっと、や~っと書けました
いや、ものすごい難産でした…なので内容にまったく自信がありません
かなり自己解釈とキャラ擁護をしまくったので粗が目立ちますが…どうぞお楽しみください

…ところでPV第2弾来ましたね!モノクマーズの演じ分けはもはや文句なしですね!モノクマ劇場がにぎやかになりそうだ…
そして新しい学級裁判システム。議会スクラム…陣営対抗の反論ショーダウンみたいな感じみたいですね。タイマンじゃない分、かなり複雑になりそうですが面白そうです。…一回目で慣れれるかな、僕…?
な~んかところどころ最原が怪しい感じ…?あちこち目線が暗いカットがありますし…今作のむくろポジだったりして…やだなぁ~…
そんでファミ通で残りのキャラ設定もでましたね。百田は完全に葉隠枠として、星君の過去が想像以上にヤバかった件。元傭兵かなんかかと思ってたらマフィアグループをテニスで潰したバンピーとか…テニヌ次元出身かな?
秘密子ちゃんはモナカ的なスメルを感じるし、アンジーちゃんは完全にアレでしたし…キャラの幅がいつになく広いな今回。無印は基本みんな常識人だったし、スーダンもツッコミ数名のおかげで一部の天然にストッパーがかかってましたけど、今作収集つけられる人物が斬美さんと楓ちゃんしか居ねえ…。しかしだからこそ面白そう…!年明けが楽しみですね!


追憶編:明けない夜は無い

「あ痛ででで…ふぃ~、こりゃ波紋でガードしてなかったら骨折れてたな」

「あ、ああ…!?」

「日向…アンタ、なんで…!?」

 サトウによる菜摘の悲劇を止めたのは、身を挺して菜摘を庇った日向であった。

 

「…お前らの様子があんまりにも危うかったんでな。今日だけ学園に掛け合って当直室に泊まらせて貰ったんだよ。…で、巡回の手伝いで学園をうろついてたら、お前らが校舎に入ってくのが見えたからここまでつけさせてもらったってワケよ」

「…知ってたの?アタシが、菜摘を呼び出したこと…」

「いや、それは知らねえ。…けど、お前の顔みてりゃ大体わかるさ。お前が全然『割り切れてない』ってことによ」

「…ッ!」

 見透かされたことに歯ぎしりをしながらも、サトウは手にした凶器を握る手に再び力を籠める。

 

「…やめときな。そんなことをしたって、バカを見るのはお前だけだぜ」

「ッ!?な、何を…」

「お前今、オレもまとめて始末しようとしてたろ?」

「ぐ…ッ!」

「…その凶器、よく考えたもんだぜ。その『茶巾』みてーな中身は砂利かなんかか?確かにそれなら人の頭を叩き割るぐらいできるだろうし、終わったら中身をバラして布だけ処分すれば『形として』の凶器は残らねえもんな。…だがよ、俺は例え手負いでもお前を鼻歌交じりで制圧できる自信があるぜ?その間に菜摘さんに当直の先生か警備員さんを呼んで来て貰えば…お前は終わりだ、サトウ」

「…う、く…ッ!」

「さ、サトウ…」

 未だ諦めようとしないサトウであったが、突き刺すような日向の睨みと、茫然としたまま自分を見る菜摘の視線を受け…やがて力なく手にした凶器をその場に落とし、崩れ落ちた。

 

「…なんで、なんで止めるのよッ!?そいつが居る限り、真昼はずっと苦しみ続けることになるのに…!私が、真昼を守らなきゃならないのに…なのに、なんで真昼の『友達』のアンタが、私の邪魔をするのよッ!!」

「…アンタ、何言ってんのよ…?狂ってんじゃあないの…?」

「黙れッ!アンタが…アンタが余計な事を企んだりしなけりゃ、希望ヶ峰学園にこなければ…こんなことに…ッ!」

 

 

「…それは違うぞ、サトウ」

「…え?」

 ぶつけようのない怒りを撒き散らしていたサトウに、日向は静かに言い切る。

 

「俺がお前を止めるのは、菜摘さんの為だけじゃあねえ。…『お前』と『小泉』、そして『九頭竜』と『辺古山』の為でもあるんだよ」

「アタシと…真昼の?」

「お兄ちゃんとペコちゃんのって…どういう意味よ?」

「…もしあのままお前が菜摘さんを殺めてしまった場合、例え君がどれだけ完璧に隠蔽しようと、このことは学園に露呈するだろう。この学園は広いようで狭いからな…。当然本科にもそのことは伝わる。…その時、小泉と九頭竜は十中八九サトウ、お前を『疑う』だろう」

「な…!?真昼が…そんな…」

「勘違いすんな、小泉だって疑いたくて疑うんじゃあねえ。…むしろ、お前を『信じたい』からこそお前を問いただすだろう。そしてお前がそれを否定しようが肯定しようが、小泉はきっとお前を糾弾したりはしない。アイツはそういうところが弱いからな…。だが、九頭竜と辺古山はそうはいかない。菜摘さんをお前が殺したかもしれないという『疑惑』さえあれば…辺古山は恐らくお前を『殺す』だろう。九頭竜の為にな…」

「こ、殺すッ!?」

「な、なんでアンタがそんなこと…ッ!?」

「…気づいてないわけが無いだろ?辺古山と九頭竜の『関係』ぐらいよ」

「関係…?」

 サトウは首を傾げるが、菜摘は日向の言動に大いに動揺していた。

 

「ど、どうしてそれを…?」

「まあなんとなくな。…安心しろ。むやみに言いふらすつもりはねえよ。だが、だからこそ放っておけねえ。俺はお前らにも、小泉にも、九頭竜にも辺古山にも…『憎しみ』で誰かを殺すなんて真似はして欲しくねえんだよ」

「…私は、ただ真昼の為に…」

「分かってるさ。…だが、小泉が『誰かの犠牲』の上に成り立った平穏を望むと思っているのか?」

「…それは…」

 へたり込み、顔を伏せるサトウ。それを見た日向はついで菜摘へと顔を向ける。

 

「な、なによ…?」

「菜摘さん。君にも聞きたいことがある。…どうしてそこまで小泉を貶すような真似をする?アイツが君の恨みを買うようなことをするとは思えない。君は小泉を『どう思っている』んだ?」

「アタシは…別に…」

 日向の問いに、菜摘は目を逸らして口ごもる。落ち込んでいたサトウもその答えは知りたかったようで、顔を上げて菜摘の返答を待つ。

 …やがて、苦々しく口を開いた菜摘は自分の心の内を吐露し始めた。

 

「アタシは…単に、気に入らないだけよ…!アイツの…小泉の『存在そのもの』がね…!」

「な…ッ!?ちょっと…、何よその言い方ッ!真昼がアンタになんをしたっていうの!?」

「…『なにも』」

「え?」

「なにも…『なにもしていない』わ。アタシが気に入らないのは、そこなのよ…!」

「は…?アンタ、何言って…」

「…ああ、『そういうこと』か。確かに、菜摘さんにとっちゃあ思うところがねえ訳ねえかもな…」

「ど、どういうこと日向君?」

「…サトウ、お前はどうして菜摘さんがああも躍起になって『本科入り』しようとしてるか知ってるか?」

「え?…そんなの、私たちを見下していい気になりたいからじゃないの?」

「いいや、それは違う。…いいよな、菜摘さん?」

「…勝手にすれば」

「な、何よ…何が違うって言うのよ?」

 意図を飲み込めないサトウに、日向は菜摘の了承を得て菜摘の胸中を語りだす。

 

「菜摘さんはな、ただ自分の為だけに本科になろうとしてるんじゃあねえ。九頭竜の…自分の兄貴に、余計な心配や迷惑をかけさせないために必死になってるのさ」

「お兄さんのって…どういうこと?」

「菜摘さんがこのまま予備学科として在学していても、九頭竜はそんなこと気にしたりしないだろう。…だが、『周りの連中』はそうじゃないかもしれない。『超高校級の極道』の妹が、なんの才能も無い『凡人』だったなら、菜摘さんを利用してよからぬことを企む奴もいないとは限らない。…何しろ、九頭竜は『九頭竜組』の跡取りだ。しがらみは俺らの考えている以上に多いうえに複雑だろう。だから菜摘さんは、なんとしてでも本科に入って自分に『箔』をつけたかったんだ。『超高校級の兄』と比べられても、決して見劣りしない自分になるためにな…そうだろ、菜摘さん?」

「……」

「菜摘…アンタ、そんなことを…」

「…そんな菜摘さんにとって、小泉の行動は『許しがたい』ものだったのさ」

「な…な、なんでよッ!?」

「菜摘さんにとって、才能を持った人間と対等であっていいのは『才能を持った人間だけ』なんだ。そうでなければ、自分たちは良くても周りの人間はそれを認めてはくれない。その妬みの感情が、いつ自分達の災厄となるか分からないから。…九頭竜にそれをさせまいと必死になっている自分にとって、本科に選ばれるほどの才能を持っていながらただ友達に会うために軽々とこっちに関わってくる小泉は、酷く軽率な奴に見えたんだろう。自分がやっていることを馬鹿にされているみたいでな…」

「…ッ!」

 俯いたまま、菜摘は憎々しげに口元を歪める。

 

「真昼は、そんな…」

「皆まで言うな。…んなこたぁ分かってんだよ。小泉がそんな気なんか毛頭ねぇことぐらい、俺も…菜摘さんも、分かってるんだよ。けれどな、お前も分かってるとは思うが予備学科では『本科』の生徒に対する執着や嫉妬は想像以上に辛辣だ。今でこそ『立場』っつーもんのおかげで問題は起きてないが、ああもしょっちゅう本科の生徒がこっちに来ると、『万が一』のことが起きねえとも限らねえ。そもそも、今回のこれもその弊害みてーなもんだしな。…そうなっちまったら、予備学科と本科との『繋がり』は完璧に絶たれちまう。正直今でも怪しい『本科入り』が、それこそ『名ばかり』になってしまうかもしれない。菜摘さんは、それを一番危惧しているのさ。『本科生徒』の軽率な行動で、自分の『目的』が邪魔されてしまうことをな」

「……」

「…け、けど…!それならそうと言ってくれればいいじゃない…」

「確かにな。…が、小泉『個人』ならともかく、下手にそれが学園に伝われば悪者にされるのは菜摘さんだ。この学園において、『本科生徒』の立場は絶対だ。予備学科の生徒が本科の生徒に抗議したところで、学園はどうあったって本科側の味方をするだろう。だから無駄だと判断した。…そして、やがて菜摘さんはこう思ったんだろう。『そんなに予備学科が好きなら、その場所を私に譲れよ』…ってな」

「そんな…」

「…これが菜摘さんが今まで黙っていた腹の内だ。…これで、合ってるよな?」

「……」

 日向の問いかけに、菜摘は何も答えない。…それは肯定の意であると同時に、全てを日向に見透かされていたという事実に茫然としてしまったからでもあった。

 

「じゃあ、菜摘は…真昼が自分の目的の『邪魔』をしていると思って…」

「結果的にはな。まあ、小泉以上に本科と予備学科を行ったり来たりしてる俺なんかに言われたくはねえだろうがよ」

「…アンタは、いいのよ。予備学科が本科に行ったって、所詮身の程を知らされるだけよ。アンタだってその内分かるわ。…自分があの連中と比べて、どんだけ『不釣り合い』な存在かって」

「……」

「けど、アイツは…小泉は、駄目…ッ!あんな風にいつまでも『一般人』気分でこっちに来られると、アイツの周りは絶対に黙っていない…!あんな僻みや妬みばっかりの奴らが、本科の生徒が我が物顔でこっちに居ることに良い気になっているはずが無い。その内下らないことを考えて、もしそれが『最悪の結果』にでもなったら…私は一生、お兄ちゃんやペコちゃんと『対等』になれない…ッ!だから邪魔なんだよッ!いい子ぶっている小泉も、そいつの言いなりになってるアンタもッ!私の邪魔をするんだったら、余所でやれッ!!」

「…ッ!なによ、その言いぐさ…!?アンタの目的なんか知ったことじゃあないわよ!真昼は、私の為にわざわざ来てくれてるのよ!その『優しさ』を、アンタなんかの勝手な都合で否定されてたまるかッ!」

 

 

 

「それは違うぞッ!!」

『ッ!?』

 サトウの言葉に、日向が待ったをかける。

 

「な…何が違うのよ?」

「…菜摘さんは確かに小泉にキツく当たった。そこに自分の目的に対する『保身』の意味があったのも確かだろう。…けれど、それだけじゃあない。菜摘さんは何も自分の為だけにそういう態度をとっている訳じゃあないんだ!」

「ちょ、日向…」

「悪い、だが…流石に分かってもらわなきゃあオレも納得がいかないんでな…!」

「どう言う意味よ…?」

「簡単なことだ。もし菜摘さんの言うように、小泉が予備学科を何度も訪れることで予備学科の生徒の反感を買うことになった時、真っ先にその『矛先』が向けられるのは誰だと思う?」

「そ、それ…は…ッ!」

「…そうだ。もしそうなった場合、まず狙われるのは張本人の小泉とその友達であるサトウ…お前らだろう」

「ッ…!」

「確かに小泉がわざわざお前のことを気にかけて予備学科まで来るのは間違いなく『優しさ』からだろう。…だが、事情を知らない人間にとってはその行為は『目障り』に思われることもある。菜摘さんはそうならないように、小泉を遠ざけようとしたんだよ。…お前たちから憎まれることになることを承知の上でな」

「…菜摘、本当に…?」

「…別に、そんなつもりなんかないわよ。さっきも言ったでしょ、私はあくまで『私の為』にしか動くつもりなんてないわよ。お兄ちゃんやペコちゃんの迷惑になりたくないのも、私がそうだからなだけ。アンタや小泉がどうなろうが知ったこっちゃないわ。…ただ、アンタ達が馬鹿なことに巻き込まれると、私まで迷惑するってだけ。…それだけのことよ」

「…ッ!」

 予想だにもしていなかった菜摘の『本心』に、サトウは目を見張って驚く。その胸中では、先ほどまで抱いていた憎しみや怒りと『今の菜摘』に対する感情が混ざり合い、サトウの頭を酷くかき乱していた。

 

(…なに、なによ…コレ…!?こんなの…こんなの、私知らなかった…ッ!こいつは、ただ真昼に嫉妬してひどい仕打ちをしていたんじゃなかったの…!?それなのに、これじゃ…こいつの方がずっと真昼のことを…)

 今まで小泉と一緒に居ることだけを考え、周りの事など気にも留めなかった自分が、どれだけ思慮に欠けていたのかということを、よりにもよって菜摘によって示されてしまった。そのことがサトウに菜摘を、…そして自分を増々許せなくなってしまっていた。

 

(私は…どうすればよかったのよ…?このままこいつを殺していたら、真昼はもうこいつに悩まされずに済むはずだった…。でも、そうなったら、今度は私が殺されていたのかもしれなくて…もしそうなったら、真昼は…ッ!わ、私…私は、一体何を…)

 

 

 

 

 

「…そう小難しく考えんなよ、サトウ」

「ッ!?」

 思考の渦に巻き込まれかけたサトウを、日向が優しく呼び戻す。

 

「日向…くん…?」

「そんな顔して悩んだって、『正しい道』なんて見えてこねーよ。大事なのは『過去』を後悔することじゃあねえ。『未来』にどう踏み出すのかってことだ」

「未来…?」

「サトウ、今お前は確かに過ちを犯そうとした。俺が言うのもなんだが、ほんの少し歯車がくるっていたら、取り返しのつかないことになっていただろう。…けれど、それは防がれた。無論許されたわけではないだろうが、それでも…誰も死なずに済んだ。だったら、お前がすることはもう分かっているはずだろう?」

「……」

 日向から向けられる真っ直ぐな視線を受け、サトウはしばし沈黙し…やがて菜摘の前に歩み寄る。

 

「……」

「…菜摘」

「…なによ?」

 

「…ごめんなさい」

「!」

 サトウは迷いなく菜摘に頭を下げ、謝罪の言葉を向ける。

 

「謝っても許されないことをしたってことは分かってる。…そもそも、こんな気持ちで謝ってる私を許してもらおうだなんて思ってない。でも、だからってこのまま訳の分からない気持ちで終わりたくなんかないから。…だから、これは私の『自己満足』って思ってくれていい。…アンタを殺そうとしたこと、本当に後悔してる。私が許せないのなら、アンタの気が済むようにしていい。だから…真昼だけは、真昼にだけは何もしないで。お願い…します…ッ!」

「……」

 どこか縋るような、サトウの懇願。先ほどまでとのあまりの違いに、菜摘は混乱しつつもサトウと日向を交互に見る。

 

「…サトウ」

「…菜摘さん」

「日向…」

「…俺からも頼む。もちろん、水に流していいようなことじゃあねえ。彼女は然るべき責任を取らせる必要がある。…だが、彼女を追い詰めてしまった責任の一端は、君にもある。理由や意図はどうあれ、君の行き過ぎた言動や行為が彼女を駆り立ててしまったんだ。だから…」

「…もういいよ」

 日向の言葉を打ち切らせ、菜摘は大きくため息を吐く。

 

「ハァ…。まったく、なんなのよコレ…?これじゃ私がマジで『極道』みたいじゃんか。私はこんなことの為に希望ヶ峰学園に来たわけじゃないのにさ…」

「……」

「…顔上げなよ、サトウ。別に、私は小泉をどうこうする気なんかもう無いって…」

「…ッ!菜摘…」

「…癪だけど、日向の言うとおり、アンタを追い詰めてこんな馬鹿な事させたのは私が原因だからさ。小泉だって、別に憎くてやってる訳じゃないし…それに、もしこんなことがお兄ちゃんやペコちゃんにばれたら、それこそ本当に『隣』に立つ資格なんかなくなっちゃうからね」

「菜摘さん…」

「…大切なのは、そう在りたい自分を『信じること』。そうでしょ、日向?だったら、私はもう迷わないわ。『本科に行く』って気持ちは変わらない。けれど、もうこんな回りくどいマネなんかに頼ったりしないわ。私は…『私の力』で、私の力を『信じて』本科を目指す。…そのためにも、私はアンタを『許す』わ。アンタを許さないと、私はいつまでも『過去の私』から抜け出せない。アンタのそれがアンタの自己満足なら、これは私の自己満足よ」

「菜摘…!?」

「だから、その…もうこんなこと考えるんじゃあないわよ。イチイチ迷惑なんだからね、ったく…」

「……」

「……」

 呆然と菜摘を見るサトウに、菜摘はそっぽを向いてそう言い放つ。

 

「…菜摘」

「……」

「…ありがとう」

「…ふん。…私も、悪かったわね。アンタ達につっかかったりして…」

「…まったくよ!アンタは昔っからそうなんだから。真昼の写真で新聞部が有名になった時に、面白そうだからって入部してきて、まともに活動もしないで遊び歩いて…そのくせスクープが入った時だけ無理やり割り込んで来てさ、勝手なのよアンタは…!」

「…な、なによその言いぐさ!?私が編集とか掲示板の場所確保してあげたから効率が良くなったのは事実じゃないの!アンタが編集すると文が疎かになるから、私がやってあげたんじゃあないのッ!」

「あ、当たり前じゃない!真昼の写真がメインなんだから、写真を中心にするのは当然でしょ!」

「文才ある癖になんでそこまで写真に拘るのよ!写真を生かす文を載せてこそ新聞でしょ!そんなんだから小泉もアンタのこと気が気でないんじゃあないの!?」

「なんですって!?」

「なによ!」

 

ギャーギャー…!

 深夜の校舎に二人の女子の怒号が響く。しかし、その声にはもう『殺意』はなく、二人の『本音』だけが互いの間を飛び交っていた。そんな二人の声を背に、日向は静かに教室を辞した。

 

「…グラッツェ、二人とも。『最悪の結末』を、避けてくれてよ…。…『約束』は守ったぜ、小泉、九頭竜、辺古山…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …数日後

 

「フゥゥゥゥ…」

 早朝、日向はタンクトップにジャージズボンという姿で学園の敷地内にある『池の水面』に立って、日課の朝修練を行っていた。

 

「…ツァッ!」

バシャッ!バシャシャ…!

 水面に波紋で浮かんだまま、日向は呼吸を乱すことなく鋭い演武を繰り広げる。波紋を学んだ当初は水面に浮かぶだけでも精一杯だったが、10年間休むことなく積み重ねた動きを、日向は一切の乱れなく行っていた。

 

「ハァッ!」

ビュオンッ…!

 最後に繰り出した鋭い突きが空を切る音を最後に、その場には再び静寂が戻った。

 

「ふぅ………で、どうした小泉?」

「ひょえッ!?」

 突如日向がそう言うと、木陰から小泉が飛び上がる様に姿を現した。

 

「…クハッ!なんだよその声?」

「き、急に話しかけないでよッ!びっくりしたでしょ!」

「そもそもそんなところに隠れている方が悪いと思うんですけどねェ?」

「そ、それは…あ、アタシだってちゃんとあいさつしようと思ってたわよ!でも、アンタが真面目になってるところ久しぶりに見たから…その…」

 顔を赤らめながらもじもじと呟く小泉であったが、その視線はちらちらと日向の汗がにじんだ二の腕や胸板に向けられていた。

 

「と、とにかく服着なさい!話はその後!」

「へいへい…分かりましたよ」

 喚く小泉に急かされ、日向はかけてあったジャージの上を羽織る。

 

「おう、もういいぜ。…で、どうしたよ?こんな朝っぱらに」

「…ちょ、ちょっと二人で話したいことが有って。でもなかなかそういう機会が無かったから…。そしたら、黄桜先生がアンタが毎朝ここで修業してるって教えてくれて…」

「そうか、そりゃ悪かったな。…で、話って?」

「…この間、愛…あ、サトウのことね。愛に呼び出されてさ、『あんまり予備学科の校舎に来ない方がいい』って言われたんだよね。…最初は嫌われたのかと思ったけど、そうじゃなかったんだ」

 

『真昼が気にかけてくれてるのは、私も嬉しいよ。…でも、本科の真昼があんまりこっちに来ると、他の生徒の皆のプレッシャーになるかもしれない。真昼が悪いわけじゃないけど、それが原因で真昼が変なことに巻き込まれたらって思うと…私は、そっちのほうがずっと嫌。だから、しばらく落ち着いた方が良いと思う。…でも心配しないで!休みにはいつでも会えるんだし、…気に入らないけど、『本音』で話せる『友達』もできたし。それに…私は信じてるから。離れていても、真昼とはずっと友達だって』

 

「…愛は、アタシの事を心配してくれてたんだ。アタシがトラブルに巻き込まれたりしないようにって、だから敢えて会わない方が良いって言ってくれたんだ。…アタシも馬鹿だよね。『アンタと違って』ただの生徒のアタシがほいほい予備学科の校舎に行ったら、波風が立つことぐらい分かりきってるのにさ…」

「…!お前、俺のこと、なんで知ってんだ?」

「え?…あ、うん。黄桜先生が教えてくれたんだ。アンタが、SPW財団の人間で、学園を守ってるっていうの…」

「…そうか。…悪かったな、黙っててよ。人に話すようなことじゃねえし…俺も、仕事でお前らと付き合ってると思われるのが、怖くてな…」

「…そんなこと、ないわよ。七海ちゃんは、アンタの事を信じてたよ。『立場』なんか関係なく、アンタが優しくてイイ奴だって…アタシだって、そうだもん…」

 小泉の自分を見る眼に、日向は偽りが無いことを確信する。

 

「…そか。ありがとな」

「別に、お礼なんて…」

「それでもだ。…ありがとうな」

「…お礼を言うのは、むしろアタシだよ。日向なんでしょ?愛に私の事を教えてくれたのはさ」

「…さあな?なんのことやら…」

「誤魔化さなくても分かるって。…うまく言えないけど、愛の言葉から、アンタのことをちょっとだけど感じたの。アンタが、愛と菜摘のことをなんとかしてくれたんだって…」

「…俺はそんな大層なことはしてないさ。俺がやったのは、変な方向に突っ走りかけた二人の足を『ひっかけた』だけだよ。誉められるようなことじゃあねえさ」

「…そう。アンタがそれでいいなら、そういうことにしとく!」

「…あ、そうだ小泉!お前菜摘さんと知り合いだったんなら早く言えよな!道理で菜摘さんがお前らのことに詳しすぎると思ったぜ…」

「あ、あれ…言ってなかったけ?ごめん…。その、私菜摘の事苦手だったから…。仕事は出来てたんだけど、なにかと愛と喧嘩ばっかりしてたから怖い感じがあって…」

「…や~れやれだぜ。お前のそう言うところ、良くねえぞ?生真面目だからか知らねえけど、あんまし人を見た目通りに思わねえほうがいいぜ。…菜摘さんだって、あれで色々考えたり悩んだりしてんだ。自分だけじゃなく、『相手の立場になって考える』ことをしなきゃ、そいつの『本当の良さ』は見えてこないんだぜ?」

「…うん、そうだよね…」

「…ま、それがお前の良さでもあるんだけどな。そういう堅物なところも、俺は可愛くていいと思うぜ?」

「…ふにゃッ!?か、可愛…ッ!?」

 日向が自然と言った口説き文句に、小泉は瞬時に茹で上がったかのように赤くなる。

 

「…?どうした小泉?」

「な、な、な…なんでもないッ!なんでもないからッ!…あ、アタシもう教室行くね!アンタも遅刻するんじゃあないわよ!…じゃあねッ!」

 顔色を青くしたり赤くしたりしながら、小泉はそそくさと逃げるように走り去っていった。

 

「遅刻って…お前まだ始業まで1時間以上あるぞー…って、もう行っちまった。ちとからかい過ぎたかね…?」

 

 

「……」

「…で、今度はおまえらかい?お二人さん」

「…む、やはりバレていたか」

 そして小泉と入れ替わるように、今度は九頭竜と『風呂敷包み』を持った辺古山が姿を見せた。

 

「流石だな。九頭竜は仕方ないとしても、私は完全に気配を消していたつもりだったのだが…」

「そりゃ分かるさ。…九頭竜がいるのに、お前が『いない筈が無い』からな」

「…ッ!日向、やっぱりお前…『気づいていた』のか?」

「まーな…」

「…一応聞くが、何時気づいたんだ?」

「…お前ら『素直すぎる』んだよ。どんだけ他人気取ってても、お互いに意思疎通し合ってんのが丸わかりだし、互いが互いの事気にし過ぎなんだよ。熟年のおしどり夫婦でも見てるみてーな感じだったぜ?」

「お、おしどり夫婦…!?ば、バカを言うなッ!私は坊ちゃんとそう言う関係では…」

「おいペコッ!」

「え?…あ…!」

「…まあ、なんだ。おおまかな事情は菜摘さんから聞いてっからよ。細かいことは聞かねえよ。…けど、おせっかい承知で言わせてもらうなら、別に無理して隠さなくてもいいんじゃあねーか?」

「…フン」

「…それで、お前らはなんでここに?」

「…分かってんだろ。菜摘の事だよ」

「先日、お嬢から事の一部始終を聞いた。…お嬢を助けてくれたこと、僭越だが九頭竜組を代表して礼を言わせてもらう。…お前でなければ、きっと最悪の事態になっていただろうからな」

「…気にすんな。俺がおせっかいでやったことだ。それに俺としても、お前らと小泉に変な摩擦を作りたくは無かったからな」

「…それに関しては、私個人としても礼を言わせてもらう。…私も、叶うのならばこの学園で無用な『剣』を振るうことはしたくなかったからな」

「…九頭竜の為に、か?」

「…ああ」

「ペコ…」

 辺古山ペコは、九頭竜冬彦の『幼馴染』であると同時に、九頭竜組きっての『ヒットマン』であった。辺古山が普段担いでいる竹刀には、万が一の時に備えて『真剣』が仕込まれている。この希望ヶ峰学園に九頭竜と共に入学したのも、無論『超高校級の剣道家』としての腕前を見込まれてというのもあるが、将来の当主である九頭竜を『護衛』する為でもあった。

 …しかし、そんな辺古山を気遣った九頭竜は、在学中は互いの関係を隠し、他人として接するように辺古山に命じた。九頭竜組の主従関係としてではなく、一人の『学生』としての生活を辺古山に楽しませてやろうという九頭竜の優しさであった。辺古山もそんな九頭竜の心遣いを理解しており、この学園に居る間は『九頭竜組のヒットマン』としての活動をしないよう心掛けているのである。…それが、菜摘から聞かされた二人の『秘密』であった。

 

「お前のおかげで、坊ちゃんのお心遣いを無駄にすることが無くて済んだ。…日向、お前には感謝している」

「…それこそ気にすんな。お前らが良いなら、俺はそれで十分だ。気障な言いぐさだけど、お前らの『笑顔』が何よりの報酬…って奴だ」

「…へっ、カッコつけやがって。…ありがとうな」

「お人よしめ…」

「ニョホホ…これが性分なもんでな」

「とはいえ、だ…。九頭竜組を率いる立場として、お前に『借り』を作りっぱなしってのは気が引けるんでな…ペコ!」

「はい、坊ちゃん」

 九頭竜が辺古山に命じると、辺古山は手にした風呂敷包みを広げ、中から『二つの盃』と『酒の入った瓶』を取り出した。

 

「こいつは…?」

「…日向。小泉から聞いてただろうが、俺らもお前の『立場』のことは知ってる。…正直、そのことを聞いた時、俺はお前の事をほんのちょっぴりだが『疑っちまった』。お前が俺らとダチでいんのが、お前のマジな『本心』なのか、って…ほんの少しな」

「……」

「だが!お前は菜摘を救ってくれた。それだけじゃあねえ、菜摘とサトウとかいう奴を通じて、俺達と小泉の間に亀裂が生まれることも止めてくれた。…俺は、そんなお前を疑っちまった自分が許せねえんだ。だからそのためにも、今度こそお前を本当に『受け入れたい』と思っている。…日向。俺と、『義兄弟の契り』ってヤツを交わしちゃくんねえか?」

「ぎ、義兄弟ィ?」

「おう。…まあマジの兄弟というよりは、『親友』に近い感じだな。…俺はお前と、腹割って話せる関係になりてえんだ。もうお前の事を疑いたくなんかねえ。…ちと言うのは恥ずかしいが、俺は、お前のその『黄金のような精神』を尊敬しているんだ。お前のそれは、俺が目指している『仁義』そのものなんだよ。お前のように強くなるためにも、…俺は、お前と本当の『友』になりたいんだ」

「…日向。坊ちゃんの気持ちをどうか汲んでもらいたい。九頭竜組はお前に迷惑をかけるようなことはしないと約束する。だから…」

「…やめろ辺古山。皆まで言うな」

「日向…?」

 九頭竜に追従する辺古山を制すると、日向は辺古山の持った盃を一つ手に取るとその場にどっかりと座りこむ。

 

「ったく…これから『義兄弟』になるって奴に、そんな気を遣ってんじゃあねえよ。…俺だって望むところだぜ。お前と本気の『親友』になれるっていうんならよ」

「日向…!」

 ニヤリと笑う日向に笑い返すと、九頭竜も日向を向き合って座り込む。辺古山は九頭竜にも盃を渡すと、二人の盃に酒を注ぐ。

 

「未成年の飲酒なんざご法度だが…偶にはいいだろ。俺とお前の契りだ、水じゃあ締りがつかねえからな」

「…あ、やっぱこれ『酒』なんだ…」

「…?どうした日向」

「あ、いや…まあ、大丈夫…だよな?…うん、そうだな」

「変な奴だな…まあいいや。そんじゃ…俺達の『契り』に、乾杯…!」

「…乾杯」

 互いの盃を交わし合い、二人は中身を呷った。

 

「……」

「…ふう。これで俺達は『義兄弟』だ。九頭竜組と俺達はいつでもお前の味方であることを約束するぜ。…改めて、これからもよろしくな。日向」

「私も微力ながら力になろう。私にできることが有ればなんでも言って欲しい。どれほど役に立てるかは分からんが、坊ちゃまの名に恥じぬ働きができるよう、力の限り勤めさせてもらう。…こんな私でも、お前の負担を少しでも減らせるのであれば幸いだ」

「そういうことだ。俺に構わず、なんかあったらペコを使って構わ…」

 

「……」

「…おい、日向?どうした?」

「日向?」

 九頭竜と辺古山が呼びかけるが、当の日向は半眼のままどこを見ているのか虚ろな瞳でぼんやりとしたままであった。

 

「…ふぁ?お、ぉう…任せとけ九頭竜~…。ツェペリ家の男としてお前の誇りを穢さねえようやってやんぜぇ~…」

「お、おう…」

「…辺古山ぁ~、俺のこともいいけどよぉ~。オメーも『自分の幸せ』掴めるように頑張れよぉ~。…『好き』なんだろ?九頭竜のことよぉ~」

「ぶっ!?」

「ッ?!んなッ…!?ばばば、馬鹿者ッ!急に何を言い出すのだお前はッ!」

「ああ~ん?そんな初心な反応してんじゃあねぇ~ぞぉ~辺古山よぉ~!…ったく、どうせ『両想い』なんだからとっとと告っちまえってのによぉ~」

「て、テメー日向ッ!なに勝手にぬかしてやがるッ!?」

「おおぅ怖い怖い~!俺ちゃん馬に蹴られて死にたくねーからオサラバするぜぇ~。そんじゃ、アディオ~ス!」

 真っ赤になった九頭竜と辺古山をほっぽりだし、日向は千鳥足でスキップしながら去っていった。

 

「…なあ、まさかアイツ…『酔って』んのか?あの程度の酒でよ…?おいペコ、それまさか『原酒』じゃあねえだろうな?」

「い、いえ!…私は坊ちゃんの命令通り、普通の酒をさらに薄めたものを用意したのですが…『5倍』に希釈したので、ほとんど水といっても良い代物なのですが…」

「あれであのザマって…どんだけ酒に弱いんだよ?しかも『酒乱』かよ…性質悪ぃ…」

「…坊ちゃん。今後何があっても日向に酒を勧めないほうが賢明かと…坊ちゃんの為にも、日向の為にも…」

「…その忠告、他の連中にも伝えといたほうがいいだろうな。この前みてーなことになっても御免だからよ…」

「ええ…」

 

 

 

 …30分後、学園の一角で泥酔して眠りこけていた日向を黄桜が介抱するという、いつもと『真逆』の光景が一部の関係者に目撃され、知らせを聞きつけた天願に日向がこっぴどく説教を受け罰として予備学科校舎全面の奉仕清掃をさせられることになったのは当然の結末であった…

 




ちょいと長かったかな…?2回に分けた方がよかったかも。でもさっさとこっちも進めたいので纏めさせてもらいました
なんとか菜摘の行動に理由をつけたかったのでいろいろ考えた結果こうなりました。根は良い子なんだと思うんですよね、ただ身内には甘いけど他人に対する接し方が下手糞なだけ…という感じに見えてくれれば幸いです。

日向の酒乱はここの独自設定です。今後ネタとして再利用するかもしれないです

次回に狛枝動乱編やって、それから原作空白期の話をやろうと思います

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