ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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絶望編5話視聴。

豚神さん…あんた男前過ぎるでしょう。御手洗との取引は互いの利害一致によるものとしても、そのあと足しげく面倒を見たり御手洗を気遣ったりと、オカン属性バリバリですね。
多分アレでしょう。今まで散々他人に成りすました結果「自分自身」すら信じられなくなり、そんな自分を繋ぎとめるために「他人とのつながり」を大切にするようになったんじゃあないか…なんか77期で一番掘り下げがいのあるのって豚神さんだよね。舞園さんと一緒で真っ先に死んじゃうからでもあるし…

んで残姉ちゃんが予想以上に残念で笑った。もう依存とかいうレベルじゃないですね。無印でグングニル殺された時ホントにショックだったのかすら怪しい…。ここの残姉ちゃんは入学前から苗木に気があるのであれほど依存してるわけじゃないからあそこまでの残念っぷりは出せないんだよね。そこんところ残念。そして豊口さん二役お疲れデース。

そして…ああ、なんというすれ違い。のちの「超高校級の希望」と「超高校級の絶望」の入学と同時に日向はカムクラに…。せめて手術前にどちらかに会えてさえいれば良いにせよ悪いにせよ運命は変わったかもしれませんが。そして77期生の中でどんどんと株を上げる七海…七海の隣に立ちたいという一心で「才能」を得ようとする日向…もう見てられん。こちらの作品が「そういう結末」な分明確に想像できて…鬱だ死のう。

…冗談です。完結するまで僕は、死にましぇん!

あと今回5話の江ノ島登場シーン見てノリで描いた江ノ島編の番外編も載せるのでそちらもどうぞ


追憶編:The Dawn

「ふぁ~あ…」

 クラスメイト達の喧騒を聞き流しながら、日向は教室で授業が始まるのを待っていた。

 

「今更だけど、日本の学校はなんか堅っ苦しいよなあ…。あっち(イタリア)の学校はのんびり…悪く言えばルーズだけどよ、だったからなあ…。ま、俺の性格上はこっちのほうが向いてるかもなあ…」

 

ガラッ

「…お前ら、席につけー」

「おっと、先生来たか…あん?」

 教室へと入って来た担任の後ろから、見慣れない女生徒が一緒に入ってくる。

 

ざわざわざわ…

「…誰だあの子?俺の記憶じゃ予備学科にあんな娘は…あれ?でもどっかで見たような…?」

「静かにしろ。…今日からこのクラスに新しく編入することになった生徒だ。では、自己紹介を…」

 担任の言葉も半ばに、その女生徒は一歩前に出ると踏ん反り返って高圧的に自分の名を告げる。

 

「『九頭竜菜摘』よ。…なんでアンタらみたいな屑どもと一緒なのか分かんないけど、ま…ヨロシク」

「…九頭竜?」

 

 

 

 

「ああんッ!?菜摘が予備学科に編入してきただぁ!?」

「…なんだお前、知らなかったのかよ?」

「知るかっつのッ!あいつ…親父に何を吹き込みやがった!?」

 昼休み、事の次第を九頭竜に知らせに行った日向であったが、九頭竜の反応は意外にもかなり動揺していた。

 

「ていうか、アンタら兄妹なんでしょ?なんで知らないのよ?」

「アイツの行動なんざ俺が知るかっつの!大体アイツは昔っから好き勝手やらかして俺の手には負えねえんだよ…」

「…九頭竜君が手を焼くほどってことは、相当なお転婆みたいだね」

「…それで、彼女はどんな様子なのだ?」

「一言で言やぁ『タカビー』だな。周りの奴ら完全に見下してっから周囲から浮きまくりだぜ。俺が声かけた時もよ…」

 

 

 

「…よ!九頭竜さん…だったよな?」

「…何?落ちこぼれがアタシに気安く声かけないでくれる?」

「おいおい、手厳しいな。…俺は日向っていうんだ。君、もしかして本科の九頭竜の妹か?」

「…!アンタ、お兄ちゃんのこと知ってんの?」

「まあな。一応ダチやらせてもらってる。…アイツも人が悪いぜ、君みたいな可愛い妹さんがいるのを黙ってたなんてよ」

「…ふん、要するにお兄ちゃんのコネでアタシをナンパしようっての?悪いけど、アタシは自分より『無能』な人間に興味は無いのよ。さっさと消えなさい」

「…そいつは偏見が過ぎるんじゃあねえか?予備学科だからって君より全員劣ってるとは限らねえだろ。それによ、言っちゃ悪いが君だって予備学科にいるじゃあねえか」

「…ッ!アタシをアンタらなんかと一緒にすんなッ!」

「……」

「いい、よく覚えときなさい。アタシはいつまでもこんな『掃き溜め』に長居をするつもりはないわ。才能がある人間の『隣』に立っていいのは、才能がある人間『だけ』なんだから。アタシはアンタ達とは『違う』…!アンタらなんか差し置いて一番に『本科』に編入してやるんだから、精々邪魔だけはするんじゃないわよッ!」

「…へいへい」

 

 

 

 

「…ってな感じでよ」

「それはまた…『豪胆』というか、『女傑』というか…」

「ふゆぅ…怖いですぅ…」

「けどまあ、お前のこと自体は嫌いじゃねえみたいだぜ。何しろ自分の事を『超高校級の妹』って言ってるぐらいだしな」

「…あんの馬鹿が…ッ!」

「…しかし本科に『編入』ね。日向ですら音沙汰なしだってのに、そう簡単にいくもんかねえ?」

「おいおい、俺を買い被り過ぎだぜ?それに俺にはそう言う話は『当分無え』んだよ」

「え…?なんで?」

(…おっといけねえ、口が滑った…)

「…まあなんでもだよ」

「…なーんか引っかかる言い方だな?オメエなんか隠してねえか?」

「ワタシ日本語ワカリマセーン!イタリア語シカ話セマセーン!」

「お前日本人だろうがッ!つか、今の完璧日本語だろ!」

「Mi dici perché?(どうして教えてくれないんですか?)」

「E doverosamente ritorno in Italia,Sonia(律儀にイタリア語で返さなくてもいいからソニア)…」

「ホントにイタリア語で話さないでよ!?」

「クッ、異界の言語か…!?」

「イタリア語だって…」

 

 

 

 

「どこに行ったのかと思ってたら、アンタ何勝手に本科の教室に入り浸ってんのよ?」

『ッ!?』

 教室の入り口から皆にそう言い放ったのは、件の九頭竜菜摘であった。

 

「な、菜摘ッ!?」

「はぁいお兄ちゃん、元気だった?」

「お、噂をすれば菜摘さんじゃあねえか?よくここまで来れたな?」

「アンタを連れ戻すって言って入れて貰ったのよ。…それより、何勝手に人の事名前で呼んじゃってるワケ?当たり前みたいに本科に居る事といい、アンタどんだけ厚かましいのよ?」

「しかたねえだろ?『九頭竜』じゃ君の兄貴と被るんだから」

「だったらお兄ちゃんのことを『冬彦』って呼べばいいじゃない。ホントに『友達』なら、ね?」

「…それはちょっとこそばゆいな」

「んなことはどうでもいいッ!それより菜摘、お前何しに来たんだよッ!?」

「えー?可愛い妹がお兄ちゃんが心配で来たってのに、そんな反応は無くない?お父さん説得するのに手間取ったんだよ?」

「あの馬鹿親父…ッ!毎度菜摘にだけは甘いんだからよ…!」

「ま、そのついでにサクッとお兄ちゃんの『クラスメイト』になっちゃおっかな~って♪」

「サクッとって…本科になるのはんな簡単なことじゃねえぞ?」

「大丈夫だもん。アタシは『超高校級の極道』の妹、つまり『超高校級の妹』なんだから、そんなのちょちょいのちょいだって」

「それって…なんの才能なのかな…?」

「お前な、いい加減に…!」

「…落ちついてくだ…落ち着け、九頭竜」

「…『九頭竜』?」

 九頭竜を宥めようとした辺古山の様子に、菜摘は首を傾げる。

 

「んなこと言ってもよ…チッ、分かったよ」

「…は~ん、成程ね。そういうこと、…相変わらずお兄ちゃんは『優しい』よねえ。『ペコちゃん』?」

「ッ!」

「ペコちゃん?」

「なんじゃお主ら、知り合いじゃったんか?」

「えー?知らないんですか、ペコちゃんは…」

「…おい…ッ!菜摘…ッ」

「…おっと、喋りすぎたかな?そろそろ授業だし私は戻るね。…アンタもさっさと戻ってきなさい。それじゃ…皆さん、今度会う時は『クラスメイト』として…ヨロシク~♡」

 そう言い残し、菜摘は予備学科へと戻っていった。

 

 

 

「あんのアホが…ッ!!」

「…九頭竜君、君も結構苦労してるんだね」

「うるせぇ…ッ!」

「…なんか、アタシ心配になって来たな」

「どしたの小泉おねえ?」

「えっと…あのさ、アタシ予備学科に『昔の友達』がいるんだ。その子、ああいうタイプとかほっとけないから…」

「…もしかしてその子『サトウ』って子じゃあねえか?」

「え!?な、なんで知ってんの?」

「いや、この間ナンパした時…」

「あ゛あ゛んッ!!?」

「…お、お話した時、お前の事を聞かれたからよ。よろしくしてあげてって言われたんだよ」

「…そうなんだ。…ねえ日向」

 と、言いかけた小泉を日向が手で制する。

 

「みなまで言うな小泉、ちゃんとわかってるさ。…ま、気にはかけておくぜ」

「…ありがと」

「それと、あんまりそういう事を九頭竜の前で言わねえほうが良いぜ。どんだけ心配でも…な?」

「え?あ…ッ!ご、ごめん九頭竜。そういうつもりじゃ…」

「…ハン、気にすんな。そういうのは慣れてるからよ。それに…気持ちは分からないでもねえ。日向、俺からも頼む。アイツが馬鹿やらかさねえよう見張っといてくれ」

「…九頭竜」

「あん?」

「見張るのはいいが…別に口説き落としても構わんのだろう?」

「…ケッ!やれるもんならやってみろ!アイツは手ごわいぜ?」

「上等!『イタリア美人100人抜き』の伝説を持つ俺を嘗めんじゃあねえぜ?」

「そ、それマジか!?」

「おうよ!この俺にかかればどんなじゃじゃ馬だろうが子猫ちゃんのように…」

 

ガン!

「あ痛ッ!?…な、なんばすっとですか七海さん…?」

「…別に」

「…まったく、しょうがない馬鹿ね。ホントに…」

 

 

 

ガラッ

「うぃーっす…」

「菜摘ッ!アンタがなんでこの学園に…ッ!?」

「あーらサトウさん、久しぶり」

「…おいおい、いきなりかよ。心の準備ができてねーっつーの」

 教室へと戻った日向が出くわしたのは、ちょうどその菜摘とサトウが自分の席の前で言い争っている所であった。

 

「アンタ…また妙な事企んでるんじゃないでしょうね!?」

「妙な事って何~?人の事証拠も無しに疑わないでくれる?」

「アンタねェ…ッ!!」

「あー…お二人さん、そこ俺の席なんだけど…どいてくれる?」

「え?…あ、日向君」

「やっと戻って来たんだ。そんなにエリートの『ふり』が楽しかったワケ?」

「…そいつは悪かったな。俺はこう見えてモテモテでよ、小泉の奴が放してくれなくってなぁ~」

「え?真昼が…?」

「というか、二人は知り合いだったのか?」

「あ、うん…。中学の時に、同じ『新聞部』だったってだけだけど…」

「そうなのか。…あれ?ってことは小泉のヤツ…」

「退屈だったけどねー。…こんな陰険な奴と一緒だったから」

「ぐっ…!?」

「そうかねえ?…それより、そろそろ座らせてもらっていいかな?」

「あ、ごめん…。…菜摘、もしまた変な事をするようだったら、真昼からアンタのお兄さんに言いつけて貰うからね…ッ!」

「ハァ?なにそれ、脅しのつもり?ていうか、アンタ何時まであの『そばかす女』にくっついてるワケ…アンタもコイツと同レベルの『金魚のフン』ね」

「なんですって…!?」

「おいおい、そこまでだ。それ以上はやめとけ、な?…お互い気に入らねえところはあるのかもしれねえが、憶測で罵ったり人の交友関係まで口を挟むのはマナー違反だぜ。俺達は予備学科とはいえ、『希望ヶ峰学園の生徒』なんだ。…それなりの『誇り』を持って行動しなきゃな」

「…ふんッ!」

 サトウはそれ以上言うことなく、自分の教室へと戻っていった。

 

「…礼なんて言わないからね。偉そうに説教なんかしちゃってさ…あんまり嘗めた口叩いてると、アンタもぶっ殺すよ…?」

「…やれやれ、まだまだ『甘い』な」

「あぁ?」

「君はまだ何も知らない。『自分のこと』も、『彼女のこと』も。『本当の自分』を知らない人間の言葉ほど、軽い言葉は無いんだぜ?」

「テメェ…ッ!」

 

ガラッ

「…授業を始める。席に就け」

「…チッ、憶えときなさいよ」

「はいはい…」

 

 

 

 

「…とは言ったものの、どうしたもんかねえ…?」

 放課後、日向は噴水広場のベンチに寝転がってため息をついていた。

 

「あの手の人間は『自分の本当の価値』が見えてねえからなあ。まずは自分の考えが全てじゃあねえってことを教えてやらなきゃなんねえんだけど、…あの子は自分に非がねえ限り人の話を聞きそうにねえしな…。例えあっても認めそうにねえけど…」

 そんなことをぼやいていると。

 

「…隣良いかね?日向君」

「ん?…あ、天願さんどうもっす」

 声をかけてきたのは、『元希望ヶ峰学園学園長』にして現在希望ヶ峰学園の『相談役』である天願和夫であった。

 

「珍しいっすね、アナタが学園まで顔を出すなんて」

「なあに、ジョセフさんから君の事を頼まれているからの。SPW財団の職員ではそうそう入れるような場所でもないし、あの若造も自分の事で手一杯の筈じゃしのう。なら、儂が偶には様子ぐらい見に来てもいいじゃろう」

「…お気遣い、痛み入ります」

 天願はSPW財団が希望ヶ峰学園のスポンサーになった頃に学園長を務めており、その際にジョセフ・ジョースターとも縁があり、ジョセフを通して日向の事を知っているのである。

 

「…で、最近どうかね?」

「…とりあえず、目立った『異変』はありませんね。まだ『本科』と『予備学科』の溝はありますけど…。このまま何事も無ければそれに越したことはないんですけど…」

「ああ、そっちではない。『仕事』のこともいいが、『君自身』の方はどうなのかね?」

「…良くしてもらってる、とは思います。『仕事』のことを抜きにしても大切にしたい友人も沢山できましたし。…正直、『本当の事』を黙っているのが嫌になるくらいに、良い奴ばかりですよ…」

「…そうか。なら、別にいいのではないか?」

「…天願さん?」

「確かに君の『この学園での役目』は公にならぬ方が良い。…だが、それで君が普段の学園生活を楽しめぬというのであれば、そこはキミの判断に任せるとしよう」

「…すみません」

「謝ることでは無かろう。そもそもこの契約において君には『守秘義務』などないのだからな。…さて、では儂はそろそろ行くとしよう」

「お疲れ様です…!」

「…日向君、君はこの学園で行われている『研究』のことを知っているかね?」

「『研究』…ですか?ここが教育機関であると同時に『才能の研究』を行う『研究機関』であることは知っていますが…それと何か関係が?」

「うむ。詳しい内容までは言えんのだが…儂はあの『研究』のことをあまり良く思っておらん。無理に調べろとは言わんが…君も気をつけておきたまえ。君のその『波紋』の力は『才能』とはまた『別種』の力じゃ。よからぬことに巻き込まれんようにな」

「…天願さん、その『よからぬこと』になる前になんとかするのが俺の『仕事』でしょ?」

「…フ、そうじゃったな」

 日向に薄く笑むと、天願は本科の方へと歩いて行った。

 

「…んじゃま、俺もそろそろ…」

「…おい、お前」

「はい?」

 背後からかけられた声に振り返ると、そこには『警備服』に身を包んだ『ガラの悪い男性』が立っていた。

 

「今お前、天願相談役と何を話していた?」

「…あー、警備員さんっすか?別に怪しいことじゃないんでお気になさらず…」

(…あれ?この人どっかで見たことあるような…確か『格闘技』の修行してる時に…)

「『予備学科風情』が一丁前にお茶を濁してんじゃあねえ…!お前は聞かれたことだけに答えればいいんだよ。…さっさと教えろ。それが済んだらとっとと消えろ」

「…随分な物言いじゃあないっすか。『雇われ』の身のアンタが学園の生徒を『恐喝』したなんて噂されたら、失職しちまうっスよ…」

 

 

「ッ!」

ブォンッ!

「!?」

 有無を言わさず腹目掛けて放たれた拳を、日向は寸でのところで身を捩って回避する。

 

(コイツ…ッ!俺の不意打ちを躱しやがった…!?)

「…いきなり何するんスか?『暴力』なんてなおさら笑えねえッスよ」

「…テメエ、勘違いしてるようだな。俺達が気を遣ってんのはあくまで『本科』の奴らだけだ。お前らみたいな『才能も無い』予備学科連中にまでヘコヘコする必要はねえんだよ。お前らはおとなしく学費だけ払って、『希望ヶ峰学園の肩書き』だけ持ってかえってりゃそれでいいんだよ!」

「…聞き捨てならねえッスね。俺をなじるのはどうでもいいっすけど、アイツらの事までんなメタクソに言う必要はない筈っすよ。訂正してください」

「…なんでんな必要がある?」

「…成程、そうっすか。『そういうこと』ッスか。…アンタみたいな『OB』がいるから希望ヶ峰学園は何も変わらないってことなんっスね…!」

「何…!?」

「すぐに分かる事っスよ。本科の生徒の事を『奴』なんて言い方、おまけに天願さんの名前を知ってる…となりゃ、学園の『元関係者』だってことぐらい察しがつきますよ。そうでしょ…『元超高校級のボクサー』逆蔵十三さん?」

「ッ!?俺の名を…」

「一時期ボクシング齧ってた時がありましてね、アンタの評判はよく聞いてたッスよ。…最も、今日でその評価もストップ安もイイトコっスけどね」

「…俺もよく分かったよ。お前をこのまま帰す訳にはいかねえってことがな!」

「ハッ、やってみな『天才』!『凡人』嘗めてんじゃあねえぞ!」

 

「…おいおい、こりゃ大変だ…!」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日の授業を…」

 

ドバンッ!

 ホームルームを終えようとしていた雪染のクラスに、黄桜が息を切らせて飛び込んでくる。

 

「ゼェ…ゼェ…」

「き、黄桜先生…!?どうしたんですか?」

「ゆ、雪染先生…。た、大変だ…!向こうの広場で…君の同期の逆蔵君と、日向君が…ガチの『喧嘩』してやがる…ッ!」

「ッ!?逆蔵君が!?」

「日向がって…どういうことだよ!?」

「分かんねえよ…!とにかく二人ともマジなんだ。君しか多分止められねえ…早く行ってくれ…!」

「わ、分かりました!」

「ワシらもお供するぞ!日向を止められるとすればワシらしかおらん!」

「おう!オレも行くぜ!」

「お、俺達も行った方が…いいよな?」

「当ったり前でしょッ!」

「行こう…!」

 

 

「オラァッ!」

「うおっと!」

 空気を切り裂く様な逆蔵のジャブを、日向は紙一重の所で最小限の動きで躱す。

 

「流石『現役最強』と名高いボクサーだ。当たったらひとたまりもねえなこりゃあ…」

「テメエ…おれをおちょくってんのか!?」

「とんでもない。俺は素直に感心してるんスよ。…それに、俺が本気でアンタをおちょくろうとするなら…」

 

 

ビュオンッ!

「ッ!?」

 怒りで隙が生じた逆蔵の眉間に、『カポエイラ』のように逆立ちになった日向のつま先が突きつけられる。

 

「…これぐらいのことはするッスよ?」

「…テメエッ!!」

 いきり立った逆蔵は本気で日向に殴り掛かるが、その全てを日向は踊る様に軽快に躱す。

 

「クソがッ!なんで当たらねえ…テメエホントに予備学科の落ちこぼれかッ!?」

「予備学科にいるからって落ちこぼれとは限らないッスよぉ~。それに…冷静な時のアンタならいざ知らず、俺みたいな奴に挑発されて頭に血が上ってるアンタの攻撃なんざ、『息遣い』一つで軽く見切れるっすよ…!」

「ふざけたことぬかしやがって…!大体なんでテメエ『反撃』してこねえッ!?」

「…俺の拳は『人を守る』為の拳だ。こんなアホみたいな喧嘩に使うものじゃあない」

「…ッ!この…ッ」

「…やめなさーいッ!」

「んあ?雪染せんせ…」

「…オラァッ!」

 

ドゴッ!

「ぐげッ!?」

 向こうからやって来た雪染に気を取られた隙に、逆蔵の拳が日向の腹を殴り飛ばした。

 

 

「ああッ!?…逆蔵君!なんて酷いことするの!」

「…知るか。元々こいつが俺の質問に答えなかったのが悪いんだよ」

「だからって…」

「うぐ…不意打ち躱されたのが悔しかったからって、随分な擦り付けッスね…」

「あんだと…!」

「逆蔵君!」

「日向!大丈夫か!?」

「おう…まあなんとかな」

 雪染や77期生の皆が間に割って入ったことで、二人の喧嘩も中断される。

 

「…アンタ、何の権利があって日向を殴ってんのさ!?」

「ああん?…予備学科の奴なんざをなんでお前らが気にするんだよ?」

「テメエッ!日向を馬鹿にしてんじゃあねえぞッ!」

「そうだぜ!日向が『本気』でやりゃあお前なんか…」

「…やめろ左右田。それ以上言うな」

「けどよ…!」

「『あり得ない』前提の話をしたところで不毛なだけだ。…それより黄桜さんよ、この警備員さんは学園長から『話』聞いてねえのか?」

「学園長だと…?」

「あー…、逆蔵君はついこの間から配属されたばっかでな。多分まだ聞いてないんだと思うわ…スマン」

「…なんのことだ?」

「…ま、知らねえならもういいっスよ。けど、あのオッサンからちゃんと言い聞かせとくよう言っといてくださいね!」

「お、おう…分かってるよ」

「おい待て、テメエなんの話をしてやがる…ッ!?」

「あー…、逆蔵君。悪いんだけどちょっと来てくんないかな?ちょいと話しておかないといけないことがあるんでな…」

「…チッ、分かりましたよ」

「スマンねえ。んじゃついてきてくれ。…日向君ゴメンな、面倒な事に巻き込んじまってよ」

「別にイイっすよ。んじゃ、あと頼んます」

「おう」

 そう言って、黄桜は逆蔵を伴って校舎へと戻っていった。

 

「…あ痛つつ…」

「大丈夫日向君…?」

「な、なあにこれしき…。しかし、波紋でガードしなかったとはいえ結構効いたぜ。流石は『元超高校級のボクサー』の拳なだけはあるな」

「…え!?元超高校級のボクサー!?」

「なんだお前ら、知らなかったのか?逆蔵十三…現役最強とも言われるボクシング界のスターだぞ。確か今年希望ヶ峰学園を卒業してつい最近まで現役世界チャンプで…アレ?ってことは…雪染先生の同期?」

「あ、うん…そうだけど」

「マジか!?クッソー…!今度はオレがバトルしてやる!」

「ていうか、なんでそんな人が警備員なんかやってるのさー?」

「さ、さあ…?私もそこまでは知らないなー…」

「…ま、なんか『理由』があんだろ」

 

(…雪染先生、アンタみたいにな)

「ッ!?」

「り、理由って…なんですかぁ…?」

「そこまでは知らねえや、学園長にでも聞いてくれ。…さて、んじゃ俺は帰るわ」

「帰るって…アンタ殴られたの大丈夫なの?」

「ダイジョブダイジョブ、こんなもん波紋の修行に比べたら『屁』みたいなもんだっつーの。…んじゃなー!」

「あ、はい…さようなら…」

 殴られた腹をさすりながら去っていく日向を、皆は呆然と見送っていた。

 

 

「…日向君、君は一体『何者』なの?」

 

 




以前にも書きましたが今作の日向君は苗木よりも設定が原作より逸脱してますので、学園にいる理由も全く違います。
日向君の秘密に関しては次回明らかに…そしてトワイライトの日は昇るのでしょうか?…頑張って考えます


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