狛枝、この下衆ゥッ!!
なんだよこれ…なにもかもこいつのおせっかいが原因じゃあないですか…。忌村さんと流流歌に関してはほっといてもいずれああなる可能性があっただろうけど、未来編までああもこじれたのは間違いなく狛枝のせいですね。…そして十六夜のとばっちり…。ああ、死亡フラグにしか見えなくて悲しい…
そして狛枝がまた爆弾を持ち出してましたけど、あれどっから用意したんだろ。もしかしてキラーキラーに出てる「元超高校級の花火師」のテッド・チカチーロが残したものなんだろうか?アイツ元からサイコパスっぽかったし、学園にいたころから爆弾ぐらい持っててもおかしくないから…
思ったんですけど、これ2本立てにしたのって絶望編の死亡フラグを未来編で即回収、または先払いするためなんだろうね…。
まあ狛枝に関してはこれ以上は言うまい。ここの日向君にきっちり言ってもらいましょう。
あと余談、舞園さんエロかったっす。ウチの苗木君はあれをとっかえひっかえ…我ながらやりすぎたな、このハーレム設定!
「うーっぷ…おえ…」
早朝…希望ヶ峰学園の敷地の一角にて、希望ヶ峰学園77期第一クラスの担任、『黄桜公一』は盛大に吐いていた。
「うえ…気持ち悪りい…」
さすさす…
「…ん?」
「…また派手にもんじゃ(ゲロ)広げてんな、黄桜のとっつぁん」
「うぷ…お、おう日向君か…」
そこに、朝の修業後にたまたま通りがかった日向が呆れながら黄桜の背中をさする。
「悪い…また頼むわ…」
「しょうがねえな…コォォォォ…」
日向は背中をさすりながら黄桜の体に波紋を流す。波紋は黄桜の全身をくまなく流れ、酔って狂った血流や三半規管の乱れをスムーズにしていく。
「…ふう。サンキュウな、だいぶ楽になったぜ」
「ったく…。天下の希望ヶ峰学園の教師が二日酔いで授業ボイコットなんて知れたら、あのオッサンも流石に怒るんじゃあねえの?」
「今回は俺は悪くねえよ…。俺は仁の奴に付き合わされただけだぜ。最近アイツも色々悩みが多いみてえでなあ…付き合わされる俺の身にもなって欲しいぜ…」
「…あのオッサンにも波紋使っといたほうが良さそうだな。後でそっちに行くって言っといてくださいよ」
「そうしとくわ…。それはそうと日向君よ、そろそろこっち(本科)に来てくんねえかな?アイツらもお前がいないと張り合いがなさそうだし、ついでにこうしてわざわざ予備学科との境界まで来て吐く手間が省けるからよ…」
「後半のが本音だろ。…そういう訳にもいかねえんだよ。俺の『事情』知ってんだろ?それに、俺にはこれといった『才能』なんかねえからよ。いくらSPW財団の推薦で入学したとはいえそこまで特別扱いされんのはちょっとな…」
「惜しいナア…。君のその『波紋』があれば大抵の医療分野や体育会系の『超高校級』の才能なんかメじゃねえのによ…」
「…仕方ねえさ。波紋はまだ科学的に立証できない代物だからな。それに、俺の同年代に波紋の使い手がいないってだけで、俺以上の波紋使いなんてまだまだいるさ」
「もったいねえ…ああ、実にもったいねえな」
「それはどっちの意味だよ?俺を買ってくれてんのか、…それとも二日酔いを気にせず吞めるからか?」
「…おっと、俺はそろそろ教室戻んなきゃな。それじゃ、あばよ~」
「あ、おいッ!…ったく、とっつぁんは毎度毎度…」
これが日向の日常。普段は予備学科で過ごし、休み時間や放課後に抜け出して本科の友人たちと談笑し、時折二日酔いで苦しむ黄桜や学園長の世話を焼く。SPW財団という大きな『後ろ盾』の存在もあるが、これらは全て日向の人柄によって生まれた日常であり、これから苗木達が入学してくるまで延々と続く日々でもあった。
「…けど、本科かあ…」
黄桜の背中が見えなくなった後、日向はその先に在る希望ヶ峰学園の本科校舎へと目を向け、ふと呟く。
「今もこれはこれで楽しいけど…向こうなら、もっと楽しいのかな…。いつか、アイツらと一緒に卒業までいれたら……なんて、高望みし過ぎかね。さて、俺も戻んなきゃな」
らしくないことを言う自分に言い聞かせるように、日向も踵を返して予備学科の校舎へと戻っていった。
その頃、77期生第一クラス…
「さあ皆、今日も張り切って青春を…」
「ねえ雪染先生、黄桜先生は?」
「あー…黄桜先生は、遅刻ですッ!」
「担任が遅刻ってどういうことだよ…」
「つーかどうせまた二日酔いだろ?」
「まったく…少しは担任らしくして欲しいものだ」
ガラッ
「よ、よう…間に合ったよな?」
「あ、黄桜先生!遅いですよ!」
「悪ィ悪ィ…ちょっと野暮用でな」
「…うわッ!黄桜お前酒臭ぇぞ!」
「うーん…、日本酒に焼酎、ワインにウィスキー…。手当り次第って感じの臭いだね」
黄桜の吐息に残る酒の臭いに、鼻の利く終里や料理人として酒の香に憶えのある花村が反応する。
「先生!いい加減にしてください!」
「で、でもその割には顔色はいいですねえ…」
「ああ…。さっき日向君に波紋でな…」
「また日向の世話になってんのかよ!アンタ先生だろ!?」
「…ぼ、僕も日向君にはちょこちょこお世話になってるからあんまり人の事は言えないな…」
「いや、ホント情けない…。けどホントにアイツがこっちに居ればなあ…」
「…え!?日向さんがこっちに来るんですか!?」
「え?いや…」
「フッ…ついに奴もまた選ばれし者の宿命を背負う時が来たという訳か。少々待ちくたびれたが、まあ良しとしよう…フハハハハ!」
「ガッハッハ!そうか、やっと日向も認められたか!これはめでたいわい!」
「イヤッホォォーゥ!創ちゃんも仲間入りっすよー!」
「ていうかおっそーい!先生たちなにやってんのさー?」
跳び上がって喜ぶ生徒たちに、黄桜は気まずそうに頬を掻きながら力なく説明する。
「…あー、お前ら。それはな…」
「…違うの?」
「え、えっとな…まだ決まった訳じゃなくてよ、そうだったらいいなーっつーか…その…」
「あん?…チッ、ぬか喜びかよ」
「…まあ仕方ないかもね。日向君の良いところを目に見える形で見せようと思ったら、日向君が秘密にしていることを話さなくちゃならないからね」
「『波紋』に『黄金の回転』…だったか。日向の立場を考えればあまり言いふらされたくはないだろうからな」
「なぁんだ…結局駄目かよ。予備学科ができてからもう3ヵ月経つってのに、本科入りの奴の噂の欠片もねえからそうかもとは思ってたけどよ…」
「…けど、ホントになんにも聞かないよね。頑張れば本科に編入できるチャンスもあるんですよね?」
「え?え、ええ…そうとは聞いてるけど…」
「ぶーぶー!もし唯吹たちが進級するまでに創ちゃんがこっちに来れなかったら、詐欺だって訴えちゃうっすよー!」
「お、俺に言うなよ…。予備学科に関してはもっと上の連中が決めてるんだからよ」
「上って…学園長ですか?」
「さあな…。それ以上は流石に機密事項だ。俺の口からは言えねえよ」
「ぶぅ~…」
言い淀む黄桜に澪田や西園寺が頬を膨らませ不満の意を示す。
「…日向君、大丈夫かな?」
「?どういう意味ですか七海さん?」
「えっとね…日向君って、よくこっちの校舎の近くまで遊びに来たり、私たちと話したりしてるでしょ?だから、予備学科で浮いてたりしないかなって…」
「あー…。それはあるかもな。あそこの空気ってどうにも好きになれねえしよ」
「ふゆぅ…日向さんが虐められてたりしたら心配ですぅ…」
「僕としては『虐めた側』の方が心配だね…日向君強いし」
「じゃが、日向の人格ならそれほど問題ではないのではないか?アイツは人と打ち解ける天才じゃからのう」
「お?それって才能なんじゃね?」
「『超高校級の人たらし』ってか?案外イイ感じなんじゃねえの?」
「そ、それは流石に無理があるんじゃあないかなあ…」
「…まあアイツなら大丈夫だろ。そう気にしすぎんなよ七海」
「…そうだよね」
…七海の心配は、実際『的中』していた。
ザワザワザワ…
ガラッ
「うーっす!」
シン…
「あ…お、おはよう日向君」
「よ、よう…」
教室へと日向が入った途端、ざわめいていたクラスが一瞬静まり返り、やがてぽつぽつと挨拶を返すが若干ぎこちないものがあった。
「…おう、おはようさん」
そんなクラスメイトたちを気にした様子もなく、日向は自分の席に着席する。先生が来るまでの暇つぶしにと本を読みだした日向を、クラスメイト達は談笑しながらちらちらと様子を窺う。
(…いつものことながら、参ったねこりゃ。とっつあん介抱してたのを誰か見てたのかね?)
別に日向が嫌われている訳ではない。むしろ日向は予備学科ではかなりの『人気者』だった。人付き合いも良く、冗談も言え、女生徒への対応も真摯だ。…しかし、それ故に『本科の生徒との繋がりがある』という事実は彼らにとって無視できないものであった。要するに、『日向が自分たちを置いて本科に行ってしまうのではないか?』…と思っているのである。
(そうじゃねえ…そうじゃねえんだよ皆。『誰が先に』とか、そんなもんどうでもいいだろ…?俺達は皆『本科』になることを目指してここに来たんじゃあねえのか?だったら、むしろ『チャンス』と思えよ。俺を利用してでも、『本科』に選ばれるための『努力』をすることが大事なんじゃあねえのかよ…!)
そう叫びたい自分を制しながら、日向はクラスメイト達を見やる。そう言い切るのは簡単だ、しかし、『今の自分』が『今の彼等』にそう言ったところで、それは『嫌味』にしか聞こえない。日向はその時が来るのを、じっと待つしかなかった。
「…足りねえのかな?『カリスマ』って奴がよ…」
誰にも聞こえないように、日向はそうごちるしかなかった。
「…ハァ」
放課後、日向は予備学科の屋上で柵に足を引っ掛け、柵の向こうに蝙蝠のように宙ぶらりんに乗り出しながら夕陽を見ていた。
「なんとかしてやりてえよなぁ…。アイツらも、ちょいと『自信』が無いだけで『可能性』はある筈なのによ。…俺がこんなこというもの偉そうだけど、それでも…もったいねえよなあ…」
虚空に向かってそうぼやいていると
ドドドドドド…
「ん?」
ドバンッ!
「おわッ!?…って、しま…」
階段を駆け上る音の直後に勢いよく屋上の扉が開かれたのに驚き、日向は思わず足を滑らせてしまう。
「やっほー!創ちゃん、可愛い唯吹が予備学科まで遊びに来てあげちゃったっすよー…」
「どわぁぁぁぁぁ…!」
「…って、アレ?」
扉を開けた張本人、澪田はそこにいる筈の日向に元気よくそう言うが、当の日向は見当たらず、代わりに聞こえてきたのはだんだん遠くなっていく日向の叫び声。
「…ま、ましゃか…!?」
瞬時に思い至った『最悪の事態』に澪田の顔がみるみる青くなる。
「は、創ちゃーんッ!?」
「『蛇首立帯(スネックマフラー)』ッ!」
バシッ!
「…とぉぉぉぉおッ!!」
「ふえッ!?」
突如下から柵に『マフラー』が絡みついたかと思うと、雄叫びを上げて日向がそのマフラーを伝って屋上まで跳び戻って来た。
「は、創ちゃんッ!」
「…あっぶねえぇ~ッ!今のはヒヤッとしたぜ…おい澪田!お前脅かすなよ!落ちたら死…なないとは思うけど結構痛いんだぞ!?」
「ご、ごめんなさいっす!…痛いだけで済むんすね」
「…まあいいや。それより、よく来たな。お前らあんまりこっち(予備学科)好きじゃねえんだろ?」
「いやあ…でも、創ちゃんが本科の方に来るよかは楽かなと思って…」
「…そっか、サンキューな。で、今日はどうしたよ?」
「ああ、そうっす!今日皆で音楽室で『カラオケ大会』しようと思ってるんすけど、創ちゃんもどうっすか?」
「ニョホ!イイねえ、久しぶりに楽しめそうじゃあねえか。『超高校級の軽音部』の歌声期待してるぜ!」
「モチのロンっすよー!それじゃ、レッツゴーっす!」
「おう!」
その後…
「YHEEEEEEEEEEッ!!!!」
#$&)‘*L>*`$##&♪~…!!!
「おい…ッ!左右田…、こりゃ…どういうこった…ッ!!?」
「どーもこーも…ッ!これが澪田の『音楽』…だとよ…ッ!」
「だ、だから嫌だったんだよ…ッ!!」
「ふざ…けんなっつの…ッ!これの、どこが…『軽音楽』だ…!?どっちかっつったら…『重音楽』じゃねえか…ッ!ヘビメタや、デスメタルが…可愛く見えるぜ…ッ!」
「覚悟しときなさい…。多分あと『30分』はマイク離さない…わよ…ッ!」
「イエーッ!いいぞ澪田おねえーッ!」
「ピー!ピー!」
「きゅう…」
「こ、これが…『本科の日常』か…。やっぱ、今の方がいいな…うん…」
翌日…
「いやーッ!昨日は久しぶりにギャラリー多めでハッスルしちゃったっす!」
「そうかい、そりゃよかったなあ…」
「皆酷いんだー。先生も誘ってくれたらよかったのに」
「あれを真面目に楽しめんのはソニアと西園寺とアンタぐらいだろ…」
「…にしても、意外だったのは日向君だよね」
「そうそう!もっとファンキーな歌声かと思ったらめっちゃ透き通った歌声だったっす!」
「狛枝のネットリ具合のインパクトには負けるけどな…」
「…でも僕が驚いたのは七海さんが『歌った』ことだよね。今までカラオケに来ることも無かったのに、日向君に誘われて歌ったんだもん」
「…できればもうヤダ…かも」
「いやいや、なかなか可愛らしい歌声じゃったぞ!」
「そんなこと言わずにまた行こうっすよー千秋ちゃん!創ちゃんも誘って、ね?」
「…それなら、いい…と思う」
「…あ、あれ?七海さんが、妙に素直なような…」
「…ふ、アイツも罪な男だな」
その日の放課後…
「さて、皆!今日は久しぶりに『大掃除』しよっか!」
「えー!?またやるのー?先月したばっかじゃん」
「この間終里さんと弐大君が教室壊しちゃったでしょ?それにこういうのは積み重ねが大事なの!今からやっておくと年末に慌てて取り掛かる必要がなくなるんだから!」
「…とか言ってアンタが好きなだけだろ」
「はーいそこ、男の癖に細かいこと言わない。じゃあ割り当てを…」
ガラッ
「うぃーっす!遊びに…」
「あ、日向君」
「お、ちょうどいい所に来たな日向。お前も少し…」
「…じゃ、そういうことで…4・2・0(失礼)~…」
ガシッ
「おろ?」
踵を返して帰ろうとした日向の両肩を終里と弐大が掴む。…にこやかに笑いながら。
「まあまあ、そう邪険にせんでもよかろう日向よ」
「せっかく来たんだろ?ちょっと付き合えよ♡」
「絶対嫌だ!この空気、絶対面倒事だろ!オレ関係ねーじゃん!」
「関係なくないでしょ?ちょくちょく遊びに来てるんだし」
「フフフ…地獄への片道切符、貴様も便乗させてやろう!」
「じょ、冗談じゃあない!俺は自分の部屋に帰らせてもらう…」
「…ひ・な・た・くん♡…一緒に地獄に堕ちましょ?」
「姉貴…ってやらすな!」
「ノったのオメーじゃねーか…」
「これがジャパニーズ『茶番』ですね!私感激です!」
シャカシャカシャカ…
その後、日向を含め、花村を除いた男子組は教室の窓や扉磨きやエアコンの清掃をさせられていた。
「あー…ド畜生。結局掃除付き合わされてやんの…」
「まあご愁傷さまだな」
「タイミングが悪かったな、同情するぜ」
「心にも思ってもねー事言うんじゃあねーよ…」
「けどお前、嫌々やってる割には手つき良いじゃあねーか?」
「ホントだね。僕も掃除には自信があったんだけど、日向君の方が手つきがいいや」
「あたぼーよ。俺は一応『道場育ち』なんだぜ?しかも一番『年少』…大体分かんだろ?」
「…成程、掃除洗濯はお主の仕事という訳か」
「そういうこと。……よし終わり!」
「よっしゃー!日向のおかげで早いとこ終わったぜ!」
「ふふ…これが結束の力か。悪くは無いな…」
「…ところで、女子組と花村は?」
「ああ、お疲れ会の準備してるよ。…よかったら日向君もどう?掃除手伝ってくれたし」
「お?いいのか?…あーでも、あんまり長居してっとまたネチネチ言われそうだしなー…」
「その心配はご無用です!」
威勢よくそう宣言して教室に入って来たのは、女子組や花村と共に大きな寸胴を持って来た雪染であった。
「あ、お帰り。…心配ないってどういうことっすか?」
「むふふ♡実は昨日のうちに大掃除をするからってこの教室には近寄らないよう先生方に言っておいたの!だから他の先生が来ることはまずないよ!」
「…そりゃ随分準備のいいこって。…まさか俺が来ること見越してたんじゃあないでしょうね?」
「うふふ、どうかな?」
「…敵わねえな」
「さあみんな!掃除も終わったしお腹すいたでしょ?僕特製の『ベルサイユ風クード・プフー~ミート&ポテトシチュー仕立て~』だよ!」
「べるさい…?」
「要は『肉じゃが』だよ!私もちょっと手伝ったんだよ!」
「ほお、うまそうじゃねえか。流石『超高校級の料理人』だな」
「よーし!じゃあ皆に配って…じゃあ、いただきます!」
『いただきます!』
数分後…
「…ハァ…ハァ…!」
「な、なにコレ…体が、熱い…!?」
「お、おいおい…どうした皆!?」
「キャハハハ!皆どうしちゃったの~?」
「…西園寺!お前なんかやったな!?」
「あれれ~?なんで日向おにいは平気なの~?」
「『波紋使い』の『代謝能力』嘗めんな。体内に異物が入ったら速攻処理する技術ぐらい心得てるよ。それよりお前、花村の料理になに仕込んだ!?」
「ちぇ~。別に~?この瓶のスープを肉じゃがに混ぜただけだよ~?」
「そ、それは…ッ!?よりにもよって…『媚薬入りエロエロスープ』を…はうッ!」
「お前もお前でなに持ち歩いてんだよ!?」
「そ、そんな…どうしましょう…?」
「あー、先生はじっとしててください。正直目の毒だ。…しょうがねえ、ここは俺が…」
ギュ…
「…あ、あれ?七海…さん?」
「……」
「ど、どうし…ましたか七海さん?」
「日向君…なんだか、体が熱いよ…」
「そ、そりゃ媚薬なんだからそうだろうぜ。…あ、安心しろ!オレがすぐに治してやっから…」
ドサッ…
「お…おいおいッ!?七海、どうした!?」
「……」
しがみついてきたかと思うといきなり馬乗りになった七海に、流石の日向も狼狽を隠せない。
「日向君、熱い…体が熱いよ…日向君が、欲しいよ…」
「七海…?」
「日向君…私は…」
…スッ
「…え?」
頬を紅潮させ詰め寄る七海に対し、日向はその頭に手をまわして優しく抱える。
「…駄目だろ七海。そういうのは、もっと自分でよく考えて、『自分の意志』でやるもんだ。変なモンの力なんか借りるもんじゃあねえ。Lesson2…『心を悟られるな』。自分のことは、自分が決めろ。他の何かの力を借りたって、すぐに分かるんだからよ」
「…どうして?日向君…私の事嫌なの…?」
「そうじゃあねえ。…『逆』だ。お前の事が大事だからこう言ってんだよ。目先の感情に惑わされるな、お前は…自分が思っているよりたくさんの人に愛されてるんだからよ」
「……」
「そういう訳だから、そろそろ起きなお姫様。…波紋疾走(オーバードライブ)ッ!!」
コォォォォッ!!
日向の手から溢れた波紋が七海の体を疾走し、血流を加速させ体内の媚薬を全て洗い流す。それと共に七海の様子も落ち着いて行く。
「…あれ?」
「お目覚めかい、シニョリーナ?」
「…日向君?…あれ、私…?」
「なんだ憶えてねえのか?」
「…うん、あんまり…」
「そうか。…まあそれはそれでいいか。それより…」
「『自撮り』は…自撮りはダメェッ!手元が狂っちゃう…♡」
「し、静まれ…静まれ俺の右腕…!」
「アハハ…!希望って、『気持ちイイ』ね…♡」
「おらが『大根』、喰わんちゃっちゃがーッ!!」
「た、助けて…助けて七海おねえ、日向おにい…!」
「さっさとあの馬鹿ども止めるか。…いい加減目を覚まさんかいッ!波紋疾走ーッ!!」
「花村クン…それ以上はダメ!『天殺龍神拳』!」
パパパパパパパパパパァンッ!!
ドゴォッ!
日向の波紋により、どうにか全員が正気を取り戻すことができたが、皆頭を抱えながらぐったりとしていた。
「…ごめんなさい」
「全く、人騒がせなんだから…」
「危なかった…。日向が止めてくれなければ、とんでもないことになっていたかもしれん…色々と」
「ふゆう…!もう竹刀を直視できません…!」
「何をしようとしてたんだよ…?」
「お前がそれを言える立場かよッ!!」
「と、とにかくありがとう日向君。おかげで大事にならずに済んだわ…」
「あー、お気になさらず。俺は当然のことをしただけなんで、…西園寺、悪戯はいい加減にしておけよ。誰の琴線に引っかかるか知れたもんじゃあねえんだからな」
「はい…」
「それと…ちゃんと七海にお礼を言っておけよ。お前を助けたのは七海なんだからな」
「日向君、それは…」
「うん、…ありがとう七海おねえ」
「僕からもお礼を言わせてよ。危うく紳士として恥ずべきことをしちゃうところだったからね」
「え?あ…うん、どういたしまして」
「お?日寄子ちゃんが妙に素直っすねえ」
「流石に懲りたんじゃないかな?」
「…皆、西園寺さんも反省してるし許してあげてくれないかな?」
「七海さん…!?」
口数の少ない七海が、珍しく皆に同意を求めようとしたことに雪染は驚いた。
「ふ…人は皆罪人、それが一つ増えたところで大したことではない。…気にするな、西園寺」
「まあちょっと大変だったけど、なんともねえから別にいいんじゃね?」
「…ほら西園寺さん、早くいつもの元気になりなよ。皆も良いって言ってるんだしさ?」
「そうです!私、いつもの元気な西園寺さんが大好きです!」
「…うん!ありがとおにい、おねえ!」
「フッ…。さて、それじゃ俺はこの辺でお暇しますわ。んじゃなー」
「おう、また遊ぼうなー!」
「…日向君!」
「お?どうした?」
「…また、『明日』ね!」
「…おう!」
振り返って笑顔を見せる日向の後ろ姿を、七海はずっと見送っていた。
『…どうだ雪染、希望ヶ峰学園は…?』
「…希望ヶ峰学園は、今大きく変わりつつあるわ。急激に、異常なまでに『巨大に』…」
『資金源は『予備学科』か…。才能とは関係なく、高い入学金によって集められた生徒達…。問題はその金が、『どこ』に使われているか…』
「学園を牛耳る『評議委員会』…。彼らが何を『隠しているのか』…それを探らないといけないわね」
『危険なことを頼んでしまって済まない…』
「…そう思うなら、『ちさ』って呼んでよ」
『フッ…、また今度な』
「京助のイジワル!」
『フフ…』
「…でもね、まだ『希望』があるかもしれないよ。予備学科にも」
『ほう?』
「一人…予備学科に面白い子がいるの。『特別な才能』はないのかもしれないけど…彼には、『超高校級の才能』に匹敵する『何か』を感じるの。それがきっと…学園長が彼をこの学園に入学させた理由なのかもしれない」
『…その生徒の名は?』
「日向・Z・創君。…噂だけど、あの『SPW財団』が後見人を務めているらしいわ」
『SPW財団が…!?成程、彼には何か事情がありそうだな』
「彼、本科の生徒達と仲がいいからよくこっちに遊びに来たりするの。…話していて、すっごく気持ちのいい子だったわ」
『…その生徒から目を離さないでくれ。もしかしたら、学園長の思惑が分かるかもしれんからな』
「うん、そうするね。…京助も頑張ってね」
『ああ、『海外分校』の計画が成功すれば、私の発言力も大きくなる。…それまで、学園を頼んだぞ』
「うん!…二人で変えましょう、希望ヶ峰学園を…!」
『ああ…』
七海がちょろいように見えますが、たぶん絶望編の日向ももっと押せ押せだったらコロッと落ちてると思うんですよね。「才能」っていう壁が邪魔してるだけで
そして追憶編も次回からトワイライト編です。…バッドエンドかって?フフフ…