…交錯編は1.5部のネタバレを多量に含むので終わってからね。まあ、どちらにせよあまり長々とやらずさらっとやって2部に移ろうと思います
…そろそろ番外編も進めたいしね。ネタはあるんだけど筆が進まないというのはなんとも…
ちなみに時系列的には番外編の日向編の後ぐらいからです
希望ヶ峰学園、その第77期生が入学してから2か月が過ぎようとしている頃。本科生徒用に建設中の新校舎の建設が進む中、本科校舎と予備学科の旧校舎を繋ぐ渡り廊下の近くに、二人の男女がいた。
「…シニョリーナ、もうそろそろいいんじゃあないかなあ…?」
「い、いいって…何が…かな?」
「またまた…分かってんだろ?俺をじらさないでくれよ…」
予備科の女生徒の一人に甘い声で語りかけるのは、同じく予備科である『日向・Z・創』。照れと混乱で動けない女生徒に優しく詰め寄り、ゆっくりと顔を寄せて耳元で囁く。
「聞かせてくれないか…?君の、『本当の君』を…」
「こらーッ!!なにやってんのッ!?」
「きゃ!?」
「うおッ!」
そんな日向に背後から怒鳴り散らしたのは、たまたま通りがかった小泉真昼であった。
「そ、それじゃ日向君…また今度ね!」
「あっ!おい…」
女生徒は小泉を見るや否や日向を振り切るように逃げ出してしまった。
「あーあ、また失敗したぜ…」
「アンタはまたッ…!ホントにどうしようもないんだから!」
「そう怒るなよ小泉、折角の美人が台無しだぜ」
「そういうお世辞はアタシには効かないの!第一、さっきの娘にだって同じこといってたんでしょ…」
「…俺がお前にそんな下らねえお世辞使う訳ねえだろ…?お前のいいところは、全部知ってる…。女性に薄っぺらな嘘をつくのは、俺が一番嫌いなことなんだぜ…?」
「え…?ちょ、ええ…ッ!?」
小泉の顎を軽く抑え、壁際まで追いやると日向は片手で壁をつっかえる…所轄『壁ドン』の体勢で小泉を抑え込む。
「…そう言えば、まだお前には聞いてなかったよな?」
「な、なな…なに…が…?」
「小泉…お前…」
「あーッ!創ちゃんがまた真昼ちゃんのこと口説いてるっす!」
「うひゃあッ!?」
「どッ!?こ、今度はなんだよ…?」
再び背後からかけられた声に振り返ると、本科の方から澪田と西園寺が走ってやって来ていた。
「いーけないんだ、いけないんだ!せーんせいに、言ってヤロ!」
「小泉おねえ!そのナンパ野郎から離れてよ!妊娠させられちゃうよ!」
「に、妊娠って…」
「やれやれ…今日はツイテねえな。悉く邪魔が入るぜ。…それとも、お前らもご所望かい?」
「え゛ッ!?…そ、そんな…まだ心の準備が…」
「バッカじゃないの!?…だいたい、こんなちんちくりんなんて相手にしないでしょ…」
「んなこたぁねーよ。…西園寺、お前が本当は寂しがり屋だってことは知ってんだぜ?だから子供っぽく振る舞ったり罪木みてーなのに手酷くあたったりして不安を隠そうとしてるんだろ?」
「え…?」
「澪田、お前もな。協調性のない自分が嫌で、それで皆に馴れ馴れしく接して自分を変えようと努力してるんだろ?けど、お前はそれが持ち味なんだから、そのままでいいんじゃあないかとも思うぜ?」
「は、創ちゃん…?」
軽い雰囲気から一変、真面目な顔で二人にそう言うと、日向は再び小泉へと向き直る。
「なあ、小泉…。教えてくれよ、『本当のお前』ってヤツをさ…」
「ひ、日向…?」
「コラーッ!ナンパなんていけませーん!」
「わわッ!?」
「おいおい…またか?…お?」
何度目かのデジャヴにうんざりしながら振り返った日向であったが、本科の校舎から走ってくる見覚えのない女性に目を見開く。
「君が最近噂になってるナンパ魔ね!先生の眼が黒い限り、そんな不埒なことは許しませんよ!」
「…おい小泉、この人どなた?」
「あー…、アタシらの副担任の雪染ちさ先生。『元超高校級の家政婦』でアタシらの先輩なの」
「ほぉー。外国でいう『メイド』みてーなもんか。…にしても随分若いな、ホントに先生か?」
「先生です!霧切学園長からの要請でこのたび77期生第一クラスの先生になったんです!」
「…あのオッサンも大変だな。それとも『趣味』か…?」
「おっさ…!?コラ!予備学科とはいえ君も希望ヶ峰学園の生徒なんだから、学園長の事をそんな風に呼んじゃ…」
「…ま、そんなことはどうでもいいや」
日向はにやりと笑うと皆の間をするりと抜けて雪染の傍にやって来る。
「え…?」
「アンタみたいな美人が居たのを知らなかったとは不覚だったぜ。…どうだい先生、先生らしく俺の事…もっと知ってみたくはねえか?」
「はわわッ!?そ、そんなの駄目なんだから…」
「「「コラーッ!!!」」」
ドギャスッ!
「へぶッ!?」
雪染を口説きにかかった日向に3人のドロップキックが炸裂し、日向は本科校舎の方に思いっきりブッ飛ばされる。
「きゃあッ!?」
「あんたいい加減にしなさいよね!」
「先生大丈夫っすか!?おっぱい触られたりとかしてないっすか!?」
「そ、そんなことされてないって!ていうか、今あの子の背骨が曲がっちゃいけないレベルになってたような…」
「ああ、大丈夫だよ。だって日向おにいなんだし」
「だってって…」
「あ痛つつ…お前ら、ちょっとは加減しろよ!俺じゃなかったらヤバかったぞ!」
「…あれ?ピンピンしてる」
「ね?」
「いくらアンタでも雪染先生だけは駄目ッ!先生にはもう『彼氏』がいるんだから!」
「ちょッ!?小泉さん!?いつの間に…」
「…ごめんなさい、この間電話してるところ聞いちゃいました」
「もう…!」
「あ?なんだ彼氏持ちか…なら俺の出る幕はねーな」
「あれ?意外とあっさり…」
「こいつはそういう奴なんです。変なところで真面目って言うか…」
「そんな言い方はねーだろ。彼氏さんがいるのならそいつに任せればいいってだけで…」
「…キミ、予備学科の生徒がこんなところで何をしている?」
「あん?」
背後からかけられた威圧的な声に振り返ると、そこには神経質そうな男性が日向を見下ろしていた。
「あ…新月先生」
「雪染先生…困りますよ。ここは本科の校舎なのですから、新任とはいえそこの境界はきちんと分別していただけないと…」
「…ちょっと、その言い方はないんじゃあないですか?予備学科だからって別にこっちに来ちゃいけないルールは無かった筈ですよ?基本的に見学自体は自由ですし、本科でなくとも彼も同じ希望ヶ峰学園の生徒であることは間違いない筈ですけど」
「同じ?…ハァ、君はまだ自分の『価値』を理解していないようだね。君たちにはこの世界でも稀有な『才能』がある。それは君たちがどのような人間であろうとも『不変の価値』を齎す物だ。…だが彼らは違う。彼らは所詮希望ヶ峰学園の『看板』につられてきただけの『道楽者』だ。そんな彼らと君たちを一緒くたにされるのは我々教師にとっても不愉快なのだよ」
「なんすかソレ!創ちゃんにだってイイところは一杯あるっすよ!」
「ほう?ならば何故彼はそれを評価されない?『超高校級』である君たちが素晴らしいというものが彼にあるのなら、彼がわざわざ予備学科にいることは無い筈だろう?」
「日向おにいの良いところはそういうんじゃないんだって!…確かに日向おにいは女の子にばっかり話しかけるしイジワルもするけど、日向おにいの良さは、日向おにいの『心の底』を見ないと分からないんだよ!」
「…全く、『落ちこぼれ』に関わると君たちまで毒されてしまうな」
「あなた…ッ!」
「まあまあ落ち着けよ皆。…俺が気に入らねえならそう言えばいいじゃないっスか。こいつらまで貶される謂れは無い筈っスよ」
「なんだと…?」
「おーおー、怖い怖い。そんじゃお邪魔虫は退散しますかね。…それじゃ皆、また今度な」
「あ、うん…」
新月教諭の罵声にも気にした様子もなく、日向は皆に挨拶するとさっさと走り去っていった。
「…全く、『才能』に群がる『害虫』が」
「…新月先生、それ以上は希望ヶ峰学園の教師として見過ごせません。学園長に報告させて貰いますよ」
「フン、この間卒業したばかりの青二才の分際でよく言う。…まあいい、それでは私は失礼するよ。『実験』がまだ途中なのでね」
雪染の抗議を鼻で笑って、新月教諭は立ち去って行った。
「…なんなんすかアレ!創ちゃんのことなんにも知らない癖に好き勝手言ってくれちゃって…!」
「ほんとだよ!あー、もう…ムカつくぅ!」
「…多分あの人は『研究棟』の先生ね。私が在学していた頃にも何度か視察に来ていたわ」
「研究棟…そういえば先生、この学園って校舎以外にも沢山建物がありますけどなにに使ってるんですか?」
「…それが、詳しいことは教えて貰ってないのよ。きょう…宗方君なら何か知ってるかもしれないけど、研究棟に関しては学園長を始めとした希望ヶ峰学園の『上層部』しか知らないのよ」
「そうなんですか…。でも、どれだけ偉いのかは知りませんけど日向の事を『落ちこぼれ』とか先生を『青二才』呼ばわりなんてひどすぎるよ!」
「うふふ、ありがとう。私の為に怒ってくれて。…けど彼大丈夫かしら?元気に振る舞ってたけどあそこまで言われたら傷つくと思うのに…」
「ああ、それは気にしなくても大丈夫ですよ」
「日向おにいは別に『才能』とか『希望ヶ峰学園の看板』なんてものに興味はないもん」
「え?…じゃあなんでわざわざ高い学費が必要な予備学科に入学したの?」
「あー…それが、よく分からないんっすけど、なんでも『宿題の答えを探すため』だって言ってたっす」
「宿題…?」
「…やれやれ、酷い目にあったぜ」
本科と予備科の間にある噴水のある広場まで逃げてきた日向は、噴水に腰掛けため息をつく。
「しっかし、噂通り本科と予備学科の『溝』ってのは相当根深いもんだな。…学園長からはなんとかしてくれって遠回しに頼まれってっけど、こりゃ俺の手には余るぜ…。それにああもしょっちゅう目をつけられてんじゃあ、『本来の目的』も達成できるかどうか…」
腰のガンベルトにかけられた『鉄球』を一つ外し、近くを飛んでいた『蝶』から『スケール』を得て、日向は鉄球に『黄金の回転』をかけて弄ぶ。
ギャルルルル…
「アイツらのおかげでこうして『黄金の回転』のヒントを見つけることは出来た。…けど、曾爺さんが遺した『黄金長方形の回転』の秘密はまだまだこんなもんじゃあない筈だ。その為には、沢山の才能のある生徒達からの意見を聞きたかったんだが…お?」
日向が鉄球を回して遊んでいると、向こうから七海がゲーム機に顔を突っ伏したままこっちに歩いてくる。
「七海…また歩きながらゲームして、しょうがねえな。おーい!なな…」
そこまで言いかけて、日向は七海の足元に罅によって生じた『段差』があることに気が付いた。しかし、当の七海は気づいた様子もない。
「…ったくアイツは…ッ!」
日向は腰掛けた体制のまま噴水の壁に足をつけ、波紋の呼吸を整える。
「コォォォォ…!」
ダンッ!
そして日向が思い切り噴水を蹴って飛び出すと同時に
カクッ…
「…あ」
七海が段差に躓いて前に倒れかかった。そして
ビュゥンッ!
「…あれ?…あ、日向君」
「全くお前は…もうチョイ気をつけてくれよ」
風のように突っ走った日向が倒れかかる七海の膝と後頭部に手を当て、そのまま回転しながら体勢を変え膝立ちのまま『お姫様だっこ』をするように七海を抱きかかえた。
「…ごめん。助けてもらった…んだよね?」
「そうっちゃそうだけど…まあどうでもいいや。それより七海、ゲームに夢中なのは良いんだけどもう少し気をつけてくれよ。見てるこっちがハラハラするぜ。忘れたのか?『Lesson1…俺に妙な期待をするな』って。いつでも誰かが近くにいる訳じゃあねえんだぞ?」
「ん…分かった」
「ホントに分かってんのかねえ…ん?」
と、日向の視線が七海のやっているゲーム画面に向けられる。
「…それ『ギャラオメガ』か?随分なついもんやってんな」
「…え?日向君知ってるの…!?」
「お、おう…。ヴェネツィアで修業してる時にな。何しろあっちじゃ日本の古いタイトルしか手に入らなくてよ、特にそれは一時期ハマって『5週連続クリア』までしたぜ」
「だよね!名作だよね!超~名作だよね!私も『10週クリア』までやったよ!」
「お、おう…流石本職だな」
「…けど意外。日向君もゲームとかするんだね。女の子と話ばっかりしてると思ってた…」
「おっと七海さん?意外に毒舌じゃあないか?…俺だってナンパばっかじゃあないんだぜ。腕が鈍らないように毎日波紋の修行は欠かさねえし、暇なときは本読んだりゲームだってするんだぜ。…そうだ、今度おすすめのゲーム教えてくれよ。『超高校級のゲーマー』のお墨付きとあれば間違いないだろうしな」
「…うん!いいよ、日向君が好きそうなの探しとくね」
「おう、頼むぜ。…そう言えば、気になってたんだけどよ」
「ん?」
「お前、なんで『ゲーム』ばっかりするようになったんだ?パッと見そんなイメージでもなさそうなのによ」
「…さあ?」
「さあ、ってお前…」
「多分…『それしかなかった』から…だと思う」
「ふ~ん…よく分からねえな」
「そうだね…」
「けど、勿体ねえなあ。お前美人でスタイル良いんだし、もう少しお洒落して外歩きゃ誰もほっとかねえと思うぜ?」
「…そうかな?」
「そうだぜ!数多くの女性を見てきた俺が保障してやるよ」
「…日向君も?」
「え?」
「私がもう少し『女の子らしく』してたら…日向君もほっとかない?」
「え?あ…え、えと…お、俺は別によ…そんなことしなくても、そのままのお前が…」
「あれ?何してるの?」
「「ッ!?」」
すぐ真横からかけられた声にハッとして振り向くと、そこには大量の『缶飲料』らしきものが入った袋を持った狛枝がニコニコと笑って立っていた。
「どわぁーッ!!?…こ、狛枝ァッ!お前もうちょいまともに来いや!足音もなく近づいて来るんじゃあねえッ!」
「ごめんごめん、普段の意趣返しにちょっと驚かそうと思って…あれ?どうしたの七海さん?なんか機嫌悪いね?」
「…別に」
「そう?…代わりと言っちゃなんだけどこれあげるよ。また自販機の当たりで沢山出ちゃってね…」
「お、サンキュー!どれ、色々あるじゃ……おい、狛枝…」
「何?」
「テメエ一体どこの自販機行きやがった!?ドクペ、メッコール、ペプシあずき、チェリーコーラ、ルートビア…ゲテモノばっかじゃあねえかッ!」
「あれ?嫌いだった?僕結構好きなんだけど…」
「こんなの炭酸飲料に対する冒涜だッ!つーかどうすんだよこんなに…絶対余るぞ」
「…左右田君にでもあげようか」
「それだ」
「左右田君は犠牲になったのだー…」
「ヘァックションッ!グズ…誰か俺の噂してんのか?…ハッ!まさかソニアさん…?」
「それは無いな」
「無いね」
「夢見過ぎだぜ」
「ありませんね」
「うっせーッ…って、ソニアさん!?そ、そんなザックリ…」
「ふははは!そう肩を落とすな魔導機械の主よ、身分違いの恋など掃いて捨てるほどある…お前のそれもまた伝説の一つとなるのだ!」
「うるせーッ!伝説にしてたまるかーッ!」
こうして紆余曲折ありながらも77期生の幸せな日々は過ぎていく。
『絶望』で終わる、その時が来るまで…
なんとなく気づいてるかもしれませんが、作中に出てきた新月教諭は新月渚の父親です。実験の内容は…推して知るべしです。
今作では学園長は「黄金の精神」という可能性に触れているので、原作よりは本科と予備学科の境界は「規則的には」緩いです。…「感情的」にはあまり変わりませんが