ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今回は希望成分ほぼ0%でお送りします。
暴力!暴力!暴力!…みたいな感じで

ドラクエがひと段落ついたのでそろそろペースが戻りそうです。11は神ゲー、はっきりわかんだね


交錯編:おしおき

「…ッ!!」

 塔和シティのこまるは、突然感じた異様な感覚に虚空を仰ぐ。

 

「ど、どうしたのよこまる?」

 いきなり様子のおかしくなったこまるに傍に居た腐川が声をかけると、こまるは不安でいっぱいになった顔を向ける。

 

「…分かんない。分かんないけど…なんか、すっごく嫌な感じがするの…」

「…また変な電波受信して…って、感じでもなさそうね。嫌な感じって、またあの塔和モナカが妙な事企んでるんじゃあないわよね?」

「ううん。そういうんじゃなくて…私じゃなくて、お兄ちゃんに何かあったような…そんな気がするの」

「苗木に?…心配し過ぎよ。アイツが強いことは、アンタだってよく分かってるでしょ?それに、今アイツの傍には白夜様や霧切たちがついてるのよ。そう簡単にどうこうなったりなんかしないわよ」

「…うん、そうなんだけど…」

 腐川の励ましを受けても、こまるの不安は拭えなかった。漠然としか感じられなかったが、こまるは今、心で繋がっている筈の兄がどこか遠くに行ってしまいそうな…そんな不安を抱いていた。

 

「…お兄ちゃん、大丈夫だよね。絶対に、私を迎えに来てくれるんだよね?…私を置いて、どこかに行っちゃったりとか、しないよね…?」

 こまるはそう言って再び空を仰ぐ。その先に居るであろう、兄を想って…。

 

 

 

 

 

 

 …そしてその頃、未来機関本部跡地では…

 

 

ドドドドドドド…ッ!

 数メートルの距離を置いて、苗木は雪染を睥睨する。苗木の胸には未だに千切れた雪染の腕が突き刺さったままであったが、そんな痛みなど感じていないようであった。無意識の内に『血液ドーピング』を行ったのか、既に苗木の髪と瞳は苗木の怒りを表すかのように真っ赤に染まり、若干俯き加減なことで影を帯びた顔から覗く鮮血の様に紅い瞳が、まるで『悪魔』を思わせる畏怖を撒き散らしていた。

 

「……」

「…ッ!」

 雪染は、明らかに気圧されていた。苗木は一歩も動いてはいない。言葉も発していない。ただそこに佇み、恐ろしく殺気の籠った眼で雪染を睨みつけているだけだ。その程度ならば、雪染は動揺しない。過去に何度もそういう目を見てきたし、絶望として隠れて行動していた時には、裏切られた元同僚からそういう目を向けられたこともある。

 …だというのに、雪染は動けなかった。何もせずとも、空気が唸る。視線だけで、次の瞬間には殺されていてもおかしくないような、そんな寒気すら覚える。『柱の男』の力を持っている筈の自分が、『劣化品』でしかない吸血鬼の苗木に対して、明確な『恐怖』を抱いている。そんな自分を雪染は受け入れきれなかった。

 

「な、苗木…?」

「ちょ…ヤバいってこれ…!」

 一方苗木の後方に居た皆も、自身に向けられていないとはいえ圧倒的な威圧を発する苗木に動揺していた。特に安藤は以前殺気を向けられた経験があったためか、他の支部長たちより危機感を感じていた。

 …そんな状況で、十神や霧切たちが安藤以上に危機意識を抱くのは当然とも言えた。

 

「…ま、誠…?」

「うわわわわッ…!あ、あの苗木っちが…ガチギレしてるべ…!!」

「あの殺気…髪型馬鹿にされた時の仗助君以上だよ…!」

「グレート…!トラの尾踏んだって奴か?離れてるのに寒気がするぜ…」

「や、やべえぜ…。これから、何が起こるってんだよ?」

「…分からないわ」

「何…?」

 何時になく不明瞭な様子の霧切に、宗方が眉を顰める。

 

「…確かに、アイツは普段からあまりキレるような奴じゃあないが、それでも怒る時には怒る。実際俺達も何度もそういう場に出くわしてきた。特に希望ヶ峰学園でのコロシアイの時の、あのディアボロに会ったときは俺の知る限り一番キレていた。だが…」

「あそこまで…あんなに怒っている誠君は、私たちも初めて見る…」

「だから、今の誠君が何をするのか…私たちも、それは分からないんです」

「ただ一つ言い切れるのは…今あそこに近づけば、俺らもタダじゃあ済まない…ってことだな」

 つい先ほどまで霧切たちが燃やしていた怒りも、苗木のあまりの怒りに飲み込まれるように冷めてしまい、ゾンビ軍団を迎撃しながら様子を窺う。承太郎の言うように近づけば危険だからと言うのもあるが、それ以上に、霧切たちもこまると同じように得体の知れない『不安』を感じていたからだ。

 

(…分かっている。今の誠君は、誰にも負けない。お義父さまとお義母さまの死を侮辱された以上、誠君は雪染さんを決して許しはしない。…なのに、なんなのこの気持ちは…?このままだと、誠君が『手の届かないところ』に行ってしまうような…この焦燥感はなんなの…?)

 そんな彼女たちの眼前で、苗木は動き出した。

 

 

 

「…フンッ!」

 

ズボッ!

 自身の胸に突き刺さったままの雪染の腕を引き抜くと、それを無造作に雪染に投げ返す。

 

「…っと!…何の真似かしら?」

「…さっさと繋げろ。その程度なら治すのに数秒もかからないだろう。…これがアンタにかける最後の『慈悲』だ。アンタは自分の持てる全ての力と覚悟をぶつけてこい。僕は、その全てを否定し、叩き潰してやる…ッ!」

「…成程、随分ご立腹みたいね」

 完全に上から目線の物言いにカチンときつつも、雪染は言われたとおり千切れた腕を繋げ…

 

「…けど、ちょっと油断が過ぎるんじゃあないの!?」

その勢いのまま刃を伸ばした腕を振り、再び剣のエッジを飛ばす『セイバーショット』を放つ。その目標は苗木ではなく、後方に居る霧切たち。だが…

 

 

シュバババババッ!!

「ッ!?」

 突如射線上に割り込んだ『G・E・R』が目にもとまらぬスピードで腕を振るい、放たれたエッジの全てを掴みとってしまう。

 

「この…ッ!」

 それを見るや否や雪染は『G・E・R』が苗木の元に戻る前に斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…スゥゥゥゥゥ…」

 それに対し苗木は迫りくる刹那に大きく息を吸いこみ

 

 

 

 

「…コォォォォォォォッ…!」

 それを『不思議なリズム』で吐き出しながら、雪染の刃に合わせ自身の手刀を叩きつける。

 

「そんな手刀で輝彩滑刀に挑もうなんて…!」

 輝彩滑刀の刃は鋼鉄すら紙の如く切り裂く。いくら苗木が自分の身体を硬質化できるとはいえ苦し紛れと雪染は嘲笑うが…

 

 

 

ガキィィィィンッ!!

 二人の腕が交錯し、甲高い音を響かせた後…

 

 

…ピキッ

 

パキャァァァンッ…!!

 

「な…ッ!?」

 砕け散ったのは、『雪染』の方であった。

 

「ど、どうして…!?スタンドを使った訳じゃあないのに…」

「…『付け焼刃』の割には、うまくいったな。あとは、どれだけ『効いているか』だけど…」

「…何を言って…?」

 苗木の意味深な言葉に雪染が意味を問おうとした、その時

 

 

 

シュォォォ…!ボシュゥゥゥゥッ!!

「…ッ!?ああああああああああッ!!?」

 へし折られた刃の根元から煙が噴き出したかと思うと、今度は雪染の腕がまるで火山の噴火の様に『弾け飛んだ』。

 

「…ッ!雪染…」

「い、今のは…!?」

 その光景を偶々見ていた天願は目を見開いて驚き、次いで苗木に問う。

 

 

 

「苗木君!今のは…まさか、『波紋』を!?」

「波紋だと…!」

「……」

 天願の問いに、苗木は言葉はなくただ黙って頷くことで肯定の意を示す。

 

 

 苗木が『波紋』を使った。このこと自体は、さほど驚くようなことは無い。苗木の父親はDIOであると共に、あの『ウィル・A・ツェペリ』に波紋の天才とまで言わしめた『ジョナサン・ジョースター』でもあるのだ。その子であるジョージや孫のジョセフに波紋の才能が有った以上、苗木にもその才覚が受け継がれていても不思議ではない…むしろ『必然』とすら言えるだろう。

 …そして『吸血鬼』である苗木が波紋を使えたということに置いても特におかしなことではない。現にかつて波紋使いでありながら吸血鬼に身を堕とした男、『ストレイツィオ』は吸血鬼の肉体のまま波紋を使っていた。むしろ人間より遥かに強靭な心肺機能を持つ吸血鬼が波紋を使えば、十分な訓練を受けておらずとも全盛期のジョセフやシーザー並の波紋を操ることができる。故に半端な波紋程度なら受け流す柱の男の細胞を持つ雪染が相手でも、十分なダメージを与えられたのだ。

 

 …天願が驚いたのはそこではなく、苗木が『吸血鬼の肉体で波紋を使った』ということであった。何故なら、そのストレイツィオが吸血鬼の肉体で波紋を使ったのは…『自殺』する為だったからだ。

 

「…ぐふッ…!」

 突如苗木が咳き込むように喀血すると、体から蒸気のように煙が噴き上がる。

 

「ま、誠君!?天願さんこれは…」

「あれは『波紋傷』の煙じゃ…!苗木君が放った波紋は雪染君だけでなく、『苗木君自身』すらも焼き焦がしているのじゃ…。吸血鬼が波紋を使うということは、そういうことなのじゃよ…」

 

 苗木はコロシアイ学園生活を経て、太陽を克服した吸血鬼となった。しかし、それはあくまで『地表に降り注ぐ程度の太陽光』に対して耐性を得たに過ぎない。強い波紋を受ければ、人間とてただではすまない。まして吸血鬼…もとい『石仮面』が生み出すエネルギーと『波紋』が生み出すエネルギーは相反するもの、本来ぶつかり合って消滅し合う二つの力を同時に使うことはできない。かつてカーズは石仮面と『エイジャの赤石』のもたらす超エネルギーを用い一世代による『進化』を成すことでそれを可能にしたが、今の苗木はその領域にまでは至っていない。故に、苗木が波紋を使うということは、自身の肉体すら焼きつくす『諸刃の剣』であるのだ。

 

「…問題、ない…!僕の身体が限界を迎える前に、コイツを殺す…!それで…十分だッ!!」

「くッ…!」

 口元から血を滴らせながら、しかしより一層に殺気を増した苗木が雪染に波紋で輝く腕を突きつける。波紋によるダメージは雪染より少ない筈だが、直接波紋を流さねば決定打を与えられないため、苗木は常時波紋の呼吸を続けねばならない。そうなれば、苗木は継続的に波紋によるダメージを受け続けることになる。…それを承知の上で、苗木は『G・E・R』ではなく敢えて波紋で彼女を殺すと決めていた。皆から受け継いだ『希望』の象徴である『レクイエム』を、自分一人の為の『復讐』に持ち込まない為に。

 

「…流石に、そこまで付き合ってはあげられないよ…!」

 その苗木の『覚悟』に悪寒を覚えた雪染は早めに決着をつけるべく…『最後の切り札』をきった。

 

 

 

ガバッ!

「ッあ…!?」

 突如として、舞園の身体が宙に浮きあがった。 

 

「な、なんだッ!?」

「さやかちゃん!?」

 いきなりの事に皆が戸惑っていると、困惑していた舞園の表情が徐々に歪み始める。

 

ギリギリギリギリ…ッ!

「あ゛ッ…ぎ、ぐぅッ…!?」

 胸と首からミシミシと嫌な音を軋ませ、舞園は苦悶の声を上げる。その反応と、その周辺の状況から、苗木は即座にその正体を看破する。

 

「…『ゴズさんの死体』か」

「何…ッ!?」

「グ…ブモオオオオオオッ!!」

 苗木の推測を裏付けるように、舞園の後方から聞き覚えのある声の雄叫びが吼えられる。舞園を締め上げているのは、先ほど雪染が『隠れ蓑』に使用した後、他の死体と共に透明ゾンビ化させられたグレート・ゴズであった。

 

「うふふ…さあ苗木君、お嫁さんのピンチよ?早く行かなくていいの?」

「……」

「ッ…この、アマッ…!」

 雪染の挑発に、久しぶりに頭にきた承太郎が時を止めてゴズを舞園から引き剥がそうとした、その時

 

「…『超えた』な、雪染…!」

「へ?」

 

 

 

ドスドスドスドスッ!!

「グボッ…!」

「な、あ…ッ!?」

 ゴズの足元から先ほどのような『尖った木の根』が次々と突き出し、ゴズの身体を槍の如く貫いた。苗木の『G・E・R』が『樫』のような堅い樹木の根を生み出し、爆発的に成長させたことで地面に突出した根で攻撃したのである。…無論、舞園の身体には一切触れていない。透明になっているため可視できないが、まるで『昆虫標本』のように串刺しにされ固定されたことで舞園の拘束が解かれる。落下するように解放された舞園に、朝日奈達が駆け寄る。

 

「ゲホッ!ゴホッ…!」

「さやかちゃん!大丈夫…?」

「は、はい…私は大丈夫です。…でも…ッ!」

 むせ返りながらも振り返った舞園の目に入ったのは、透明なので姿こそ見えないものの、貫かれた傷口から赤黒い血を垂れ流すゴズ。

 

「…ッ!」

 その凄惨な光景に、舞園の脳裏に『ある光景』がフラッシュバックする。

 

 

 

 

 あの『人類史上最大最悪の絶望的事件』にて、カムクライズルの一撃を喰らい、眉間を貫かれ崩れ落ちた苗木…。

 

 

 その苗木と苗木に縋りつき泣きじゃくる自分に絶望の暴徒が群がろうとしたその時、突如覚醒した苗木の手刀が暴徒の胸を貫き…突き刺した腕から暴徒の『血液』を根こそぎ吸い尽くす。

 

 

 正気を失い、雄叫びを上げ瞳を真っ赤にした苗木が暴徒の群れに躍り掛かり、その身体を紙粘土の如く引き千切り、切り裂き、血を吸って殺していく…。

 

 

 愛する人が繰り広げる惨劇に、思わず飛び出し手を広げて制止を呼びかける自分に、苗木の手刀が突き出され…

 

 

 

 

「…ッ!?駄目、駄目…ッ!これは、あの時と同じ…!」

「さやかさん…?」

 豹変した舞園の様子に戦刃たちが戸惑う。彼女たちもその場に居たのだが、最も間近にその光景を見ていたが故に舞園は真っ先に思い至った。今の苗木は、状況こそ違えどあの時の『焼き直し』なのだということに。

 

「止めなきゃ…!今度こそ、私が止めなきゃ…ッ!きっと私は、その為に生かされたのだから…!」

「さ、さやかちゃん!無茶しちゃ駄目だよ!」

「止めないでッ!…今、誠君を止めないと…誠君が、誠君じゃなくなっちゃう…ッ!」

「さやかさん…誠君…!」

 悲鳴を上げる体を引き摺りながら苗木の元に向かおうとする舞園の眼前で、苗木は尚も殺気を増して雪染へと詰め寄る。

 

「…雪染。アンタの見識は確かに正しいよ。僕は自分の『身内』には甘い、そういう自覚はあるし、それが『弱点』となることも分かっている。けれど、それでも僕はそれに対してどうこう考えようとは思わなかった。傲慢かもしれないが、そうすることが『僕が僕である事』だと思っていたからだ。…だからこそ、それを利用し、あまつさえ父さんと母さんの死を侮辱した貴様を、許すと思うなよ…ッ!!」

「…だから、なんだっていうの?こっちだって、全部捨ててでも懸けてるものがあるのよッ!!貴方一人に…邪魔はさせないッ!!」

 いきり立った雪染は腕の刃を振り上げ、再び苗木に斬りかかろうとし…

 

 

 

「…『腕の攻撃はフェイント、本命は左膝からの輝彩滑刀』…」

「…!?」

 ぽつりと呟いた苗木の言葉をなぞる様に、大ぶりな攻撃で身を逸らした苗木に雪染の『左膝』から突き出た刃が迫り…

 

バキィッ!

「あがッ…!?」

 身を捩った勢いで放たれた苗木の爪先が雪染の膝裏を捉え、そこから流れた波紋が左膝を破壊する。

 

「ど、どうして…私の攻撃が…!?」

「…もう終わりか?そんな程度で、僕を殺せると思っているのか…ッ!!」

「ぐうッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あー、ありゃマジでキレてるね。アイツもあそこまでキレれるもんなんだねぇ~」

 騒ぎの輪から離れた場所でその様子を見物していた江ノ島は感心するようにそう呟く。

 

「しっかし…見てて気づいたけど、苗木ってキレると逆に『頭が冷えるタイプ』みたいだね。激昂しているようで、普段以上に相手の事を見ている…。アイツはどっちかっていうと『直感』で動くタイプだけど、今のアイツはそこに研ぎ澄まされた『観察眼』を持ち合わせてるってトコね」

 

 

「…まさか、それでアタシと同じ『超分析能力』まで使いだすとは思わなかったけどね。うぷぷ…アイツに対して唯一勝っていたアタシの『アイデンティティ』までパクられるとか、超絶望的なんですけど~♡」

 あの場に居る誰よりも客観的に苗木の事が見えている江ノ島だからこそ、今の苗木が『自分と同じ能力』を使っていることが理解できた。元々苗木は父であるDIO譲りの抜群の『センス』を持っている。超高校級の才能を持つ人物から少し手ほどきを受ければ、カムクライズルの様に完全に、とは言えないもののその人の技術の『7割程度』は吸収し、自分の物にすることができるほどだ。

 そんな苗木でも、江ノ島の『超分析能力』だけは真似することはできなかった。江ノ島が人前であまり使わなかったということもあるが、江ノ島も他の生徒とは一線を画す超天才であったため、苗木とて簡単には憶えられなかったからだ。しかし、吸血鬼化で人間としての『規格』を逸脱し、加えて度が過ぎた怒りにより恐ろしく研ぎ澄まされた思考が、この一時に限り苗木を江ノ島と『同等』のレベルに押し上げているのだ。

 

「…しかし、これで雪染も『詰み』だね。面白そうな事考えてたからずっと静観してたけど、最後の最後にババ引いちゃったってワケね。…じゃあ、いつものやつ言っちゃおっかな?誰も聞いてないけど、言っちゃってもいいっすかね?…それじゃ、張り切っていきましょー!」

 

 

 

 

「雪染ちさの~『おしおきターイム』ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前で仁王立ちする苗木の放つ凄味に、雪染は冷や汗を流す。まるで自分の行動や思考の全てを見透かされているようなその眼に、雪染はどこかで『自分では勝てない』と思い…直ぐに頭を振ってその思考を振り切る。

 

「…そんなことないッ!私は京助の為に、今迄の全部を捨てた…!その『覚悟』を、貴方一人に否定されるわけには…いかないのよッ!!」

 体を縛る恐怖を背水の覚悟で抑え込み、雪染は苗木に斬りかかる。が…

 

 

ドゴッ!バキィッ!ドガガガガッ!!

「うあッ!?」

 まるで雪染の行動を『予知』しているかのように、雪染の一挙一足に苗木は『反応』という言葉すら生ぬるい速度で反撃の波紋を叩きこむ。

 

(こ、行動を先読みされている…!?動けば動いたところを潰される…まともに触れることすらできない…!こんな、こんなことが…ッ!!)

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァッッ!!!」

 

ザシュッ!ボシュッ!!

 苗木の手刀が、雪染の四肢を引き裂く。反撃することもままならぬまま四肢をもがれ、雪染は瞬く間に達磨のようにされ宙を舞う。

 

「あ、ぐぁ…!」

 抵抗する手段を失い、半ば心が折れかけながら落下する雪染に、苗木は止めの一撃を叩きこむ。

 

「ハァッ!!」

 

ドスッ!!

「ッ!」

 両親への仕打ちに対する意趣返しとばかりに、苗木の貫主が雪染の胸を貫き、心臓を鷲掴みにする。そして

 

 

「コォォォォ…オアァァァァァッ!!」

 

キィィィィィィンッ!!

 苗木の放った全力の波紋が、雪染の心臓を、全身を灼きつくす。

 

「うあ゛ああああああああッ!!」

 体の中と外を同時に火あぶりにされるかのような痛みに、雪染は絶叫する。そのあまりの痛ましさに忌村は目を塞ぎ、御手洗に至っては耳まで塞いで蹲る。天願や承太郎ですらも、その光景に言葉すら出なかった。

 

「…ま、まだ…私は、まだ…終われな…」

 それでもなおも抵抗しようとする雪染が苗木の首に肘から先の無い腕を伸ばす。その行為に、何の意味もないことを分かった上で、それでも抵抗しようと必死にもがく。

 

 

「…そうか」

 しかし、その先にあったのはどこまでも底冷えした苗木の眼であった。

 

「なら…死ねッ!!」

 雪染の儚い抵抗を嘲笑うかのように、苗木は波紋を帯びた腕を横薙ぎに振るい…

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 雪染の体を、真っ二つに引き裂いた。

 

 

 

 

 

「あ…」

 

ドサッ…

 呆然とした表情のまま、雪染は地面に叩きつけられた。その瞳に映っていたのは…紛れもない『絶望』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ち…ちさぁぁぁぁぁぁーッ!!!」

 想い人の無残な姿に思わずその名を叫んだ宗方の声が、『鎮魂歌』のように響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 苗木が勝った。『超高校級の希望』が勝利した。…言葉にするなら、こんなにも簡単だろう。しかし、その場に居た誰もが、その勝利に『希望』を感じなかった。ただそこにあったのは、希望も絶望も無い、ただ純粋な『力』が全てを破壊しつくしたあとの、『虚しさ』だけが残っていた。

 




苗木君、息子に忠告したことを自分がやらかす始末。

苗木に波紋と超分析能力を使わせたのはやりすぎかな~と思っていたり。ぶっちゃけカムクラの立場がなくなるので。限定的に使えるってことで…どうでしょ?

舞園の回想の詳しいことはゼロ編で。…だいぶ後の話になるけどね

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