ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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タイトルでネタバレしてますがぶっちゃけ殆ど回想回です。
月光ヶ原の経緯について語られます。なのでほとんど独自設定です

今作でのキラーキラー本編に当たる内容に関しては、交錯編終了後におまけ程度ですが書く予定なのでお待ちください。ネタバレしてしまうと最終的には原作と同じ流れになりますが、その過程に78期組がもっと絡んでいるので原作以上にあの二人とは面識があります。…聖原に関してはそれ以前にも面識があるのですが、それはまた後程…

どうでもいいことですけど、もしアニメ化されてたら

月光ヶ原…CV:悠木碧
聖原…CV:島崎信長
麻野…CV:阿澄佳奈

だったらいいなと思う今日この頃


交錯編:Heavy Wether

「聖原拓実!月光ヶ原美彩ッ!!」

「ん?…あ…アンタは…」

「宗方副会長…」

 眼前で恋人をバラバラ死体にした二人に宗方が呼びかけたが、二人の反応はそっけないものであった。

 

「何故お前たちがここにいる…?お前たちは2人とも消息不明だった筈だ…!」

「…何故って言われても、なあ…」

「どこからどう説明したら…」

 宗方の問いに対し、二人は先程の思い切りはどこへやらとばかりに口籠るばかりであった。

 

「…済みません宗方さん。この二人揃って口下手なので…代わりに、『そちらの人』から事情は聴いてください」

「何…?」

 申し訳なさそうに苗木が目で示した先を見ると、そこからおそるおそるといった体で一人の女性が姿を見せる。

 

「…ど、どうも~…」

「貴様は…『麻野美咲』ッ!お前まで…いや、聖原が居るのならお前もいて当然か…」

「アハハ…そ、そういうことです…ハイ」

 顔を真っ青にして愛想笑いを浮かべるのは『麻野美咲』。聖原と同じ元未来機関第6支部の『特殊事件捜査課』に所属していて、塔和シティのクーデターの直前に起きた『不死川周二』が引き起こした『メテオブレイク事件』の騒動の最中で聖原と共に未来機関を出奔。現在は行方知れずになっている筈の人物であった。

 

「悪いけれど麻野さん…でしたね。宗方さんに説明してあげて貰えませんか?この二人ではちょっと伝わるか心配なので…」

「もも、もちろんですッ!!苗木誠さんの頼みとあれば、…た、例えすっごく気まずい元上司の人でも…頑張ります!」

「…本当に済みません。…月光ヶ原さん、今の間に僕の身体を…」

 

ズズ…

「…ッ!」

 その時、苗木の鋭敏な感覚がその『動き』に感づいた。

 

「…?どうしたのジョジョ…」

「二人ともッ!早く逃げろッ!!」

「…何を焦って…」

「チィッ…!」

 

ズギュゥゥンッ!!

 苗木の様子に怪訝そうにする二人に痺れを切らしたように、苗木の眼から放たれた『スペースリバー・スティンギーアイズ』が聖原の首筋すれすれを通り過ぎる。

 

「ッ!?アンタ何を…」

 

ギャインッ!

「…え?」

 真後ろから聞こえた奇妙な『音』に聖原が振りかえると…なんと切断したはずの『雪染の腕』がたった今聖原を切り裂こうとした直前で苗木の攻撃により弾かれてた。

 

「ひ、聖原さんッ!?」

「…なんだ、これは…!?」

「う、腕だけが…独りでに…」

「今のうちに早くッ!…雪染さんは、『まだ死んでない』ッ!!」

「何…ッ!?」

「…クッ」

 驚きつつも苗木に急かされ聖原と月光ヶ原は雪染の肉片から離れる。

 

「聖原さん、大丈夫ですか!?」

「…落ち着け、麻野。俺はなんともない…だが、流石にあれは予想してなかった…」

「…ッ!」

 宗方たちの眼前で、雪染の肉片はさらに変動を続ける。

 

ズズズズ…

ズチャ…クチャァッ…

 バラバラだった身体が独りでに蠢きだし、まるで肉片の一つ一つが意志を持っているかのように一か所に固まり、やがて元が隣り合っていた部位同士で『結合』を始める。両腕が繋がると、今度は針と糸を手に取り体と一緒に切り裂かれた服を繕い始める。そうしていると3分もしないうちに…

 

「…ふー、まったく…酷いことするね君も。流石は『キラーキラー』…殺人鬼を殺す殺人鬼といったところかしらね?」

 服のあちこちがツギハギだらけになった以外は先と全く変わらぬ雪染がそこに立っていた。

 

「…ッ!!」

 その余りにもショッキングな光景に宗方が言葉も出ない中、雪染はなんでもないかのように聖原たちに話しかける。

 

「それにしても2段構えの不意打ちとはいえやられちゃったなー。体はどうでもいいけど、服までバラバラにされるとつなげるの大変なんだよ?…それとも、そんな可愛い彼女が居るのに私をすっぽんぽんにしたかったのカナ?」

「ひいいいッ…!」

「…生憎、『プラナリア』に欲情するほど俺はイカれてはいない」

「まっ、酷い言い草ね。…それにしても、『本物』の貴女がここに居るとは予想外だったわ月光ヶ原さん。しかも、いつの間にか『スタンド使い』になってたなんてね…」

「……」

 

 

 

 

 月光ヶ原美彩の運命が変わったのは、苗木達が希望ヶ峰学園を脱出してしばらくした頃…苗木がアナスイ達をスカウトした日であった。

 

「…ふう。中々面白そうな3人…いや、4人だったな。ちょっとアクは強そうだけど頼りにできそうだ。さて…あともう一人か」

 アナスイ達との面談を終えた苗木は、もう一人いるという希望者との面談を始めようとした。

 

コンコン

「…!はい、どうぞ」

 ノックに応え入室を促すと、扉を押し開けながら車椅子に乗りノートパソコンを抱えた一人の少女が入室してきた。

 

「……」

「…えっと、貴女もあのチラシを見た希望者でよろしいんですよね?初めまして、苗木誠です」

「……」

「…あの、お名前は…」

『初めまして!未来機関第七支部所属、月光ヶ原美彩でちゅ!』

「おおッ!?」

 挨拶をしても押し黙ったままの少女に怪訝そうにしていると、少女…月光ヶ原の手にしたパソコンに映る奇妙なウサギのキャラクターから陽気な声が聴こえてくる。

 

「び、びっくりした…これは、音声ソフト?」

『はいでちゅ。…その、とっても失礼なんでちゅけど、あちし人と会話するのが苦手で…。こうやって音声ソフトを使わないとまともに話しもできないんでちゅ…』

「…そうなんですか」

『…あの、もしかして怒ってますか?初対面でこんな失礼な態度で…』

「いいや、そんなことないですよ。…ところで、その音声ソフトはもしかして『自作』ですか?」

『は、はいでちゅ!ただでさえ失礼だから、せめて威圧しないように可愛い声で話せるようにしたいと思って…』

「そのキャラクターも?…なんだかちょっとモノクマっぽい感じがしますけど…」

『…その、あのモノクマを中継で見てて、やってることはともかく見た目は割と好きだったから、それっぽく見えないように自分で考えてみたんでちゅけど…。やっぱり分かる人には分かるみたいで嫌な顔されることも多くて…苗木さんも不快だったりしまちゅか?』

「…僕は、そうは思いません。確かにモノクマ…江ノ島さんには散々な目に遭わされましたけど、彼女を受け入れると決めた以上、そこまで神経質になる気はないですから。気にしないで結構ですよ」

『あ、ありがとうでちゅ!』

 奇妙な喋り方や仕草はともかく反応自体はかなり下手に出ている月光ヶ原に、苗木はプレッシャーをかけぬよう真摯に対応する。

 

「さて…月光ヶ原さん。事前に貴女のことをお聞きしましたが…希望ヶ峰学園のOBだったとか?」

『はい!あちしは希望ヶ峰学園『元77期生』、『超高校級のセラピスト』って呼ばれてました!』

「へぇ、77期……え、77期生…?」

『…あー、あちしはその…キミの知ってる『第一クラス』とは違うクラスだったんでちゅ。それに殆ど学校にも行ってなかったし、君が知らなくても当然でちゅよ』

「そうだったんですか…。しかし、あの事件の時に在学していたのなら、よく無事でしたね…」

『…あの『パレード』が起きる少し前に、あちしはたまたま学園から離れてたんでちゅ。戻ろうとしたら、学園が大変なことになってるって知って…怖くなって、ずっと引き篭もってたんでちゅ。だから巻き込まれずに済んだんでちゅ…』

「…そうでしたか。なにはともあれ、生きていてくれてよかったです」

 思いがけない当時の在学生の生存者だった月光ヶ原に、苗木は彼女を労わりつつ面談を開始する。

 

「えっと、それでは…現在貴女は未来機関に所属されているようですが、それなのに何故今回の募集に応じてくれたのですか?正直、それだけの自作ソフトを作る技術力とセラピストとしての能力があれば未来機関に残る方が安泰だと思うのですが…」

『そ、それは…』

 月光ヶ原は少し言い淀むと、やがて静かにノートパソコンを閉じる。

 

「…それは」

「…!それは…?」

 月光ヶ原の口からか細くも可愛らしい声が聴こえ、少し驚きつつもしっかり聴き取ろうと耳を澄ませた苗木に彼女は答えた。

 

 

 

 

 

 

「…貴方に、『惚れた』」

「………はい?」

 顔を赤らめながら呟かれた彼女の言葉に、苗木は思わずそんな声が出てしまう。

 

「…え、えー…っと…。一応お聞きしますけど、それは『人間として』でしょうか?それとも…『男女』としてでしょうか…?」

「…両方。私は人としても、一人の女としても貴方が好き。…ここに来たのもぶっちゃけ、部下…というよりは、『奥さん』…もしくは『愛人』になりにきた」

「ちょ、ちょっと待ってください!?もう少し整理させて貰ってもいいですか?というか話が飛躍しすぎてついて行けないよ…」

「ふふふ…」

 寡黙でミステリアスな雰囲気とは裏腹の過激な発言の数々に、さしもの苗木も処理が追いつかない。そんな苗木を見て月光ヶ原はマフラーの下で楽しそうに微笑んでいた。

 

「ええと…とりあえず、理由を聞かせて貰ってもいいでしょうか?僕の覚えている限りだと、貴女とは今日が初対面の筈ですが…」

「うん…。貴方とこうやって会うのは、今日が初めて…。でも…私はずっと貴方を見ていた。…『コロシアイ学園生活』…ううん、あの『カムクライズルとの戦い』の時からずっと…」

「…ッ!」

 月光ヶ原は小さな声で静々とこの場に来るまでの経緯を語りだした。

 

 

 

「私は…小さい頃は虐められっ子で、人と話すのが苦手で声が小さいからって馬鹿にされて…喋らなくなった。『超高校級のセラピスト』なんて呼ばれるようになったのだって、同じように虐められている人を、なんとか元気にしてあげたいって思って…色々努力してるうちに、希望ヶ峰学園にスカウトされたからで…、だから…私は今までずっと自分に『自信』が無かったの。こんな私なんかに、本当にそんな才能があるのかって…誰かの役に立てるのかって、そう思って生きてきた…」

「……」

「…そんな中で、あの『人類史上最大最悪の絶望的事件』が起きて…。私の目の前で、患者だった人も、私を馬鹿にしていた人も、私に良くしてくれた人も…皆、皆死んじゃって…。運よく生き残っても、もう生きてたってしょうがないって思うようになって…絶望しかけていて…そんな時に、テレビの向こうで学園で戦う貴方を見た」

 口調はたどたどしかったが、彼女の拙い言葉の端々に苗木はそれが紛れもない本心であることを感じていた。

 

「貴方の事は、話にだけは聞いていた…。学園長が認めた、希望ヶ峰学園の『超高校級の希望』…それがどういうものなのかは、その時は分からなかったけど…あの中継を見ていて、ようやく分かった気がする…。文字通り、『絶望的』な数の暴徒たちを相手に、誰一人殺すことなくたった一人で戦い抜いて、ボロボロになりながらも、皆を守る為に立ち向かった…。私には逆立ちしたってできないし、やりたくもないことを…貴方は当然のようにやり切った。それが信じられなくて、私は貴方に釘付けになってた…」

「…それは少し過剰評価だよ。僕だって、あの時は怖かった。何の理由も無く、何も恐れず、ただ破壊と殺戮を…『絶望』を撒き散らそうとする彼らと、足止めするだけとはいえ真っ向から相対するなんて、叶うのならば避けたかった。…でも、そうしなければ皆が危険だった。誰かが戦わなければ、学園を…ジョセフさんたちが託してくれた『希望』を守りきれなかった。それだけは…死んでも御免だった。だから戦った…それだけだよ」

「…それでも、貴方はそれを行動に移した。私にとって、それだけでも信じ難いことだった。…そして、貴方は重傷を負い、学園は完全に封鎖されて中継も終わってしまった。私が未来機関に入ったのはその時。…別に、絶望と戦おうだなんて思った訳じゃない。生きるために働かなきゃいけなかったし…何より、少しでも貴方の近くに居たかった。ただ引き篭もっているぐらいなら、未来機関に居た方が…貴方の事を、もっと知ることができるんじゃあないかと思って、未来機関に入ったの…」

「…そうでしたか」

「そうしてる間に…貴方たちは記憶を奪われ、あの希望ヶ峰学園の中でコロシアイを強要された。その中でも貴方は、絶対に諦めず、仲間の死を背負って進み…江ノ島盾子を倒した。そんな貴方を見ているうちに…私も、『そこ』に居たいと願うようになった。何の力になれるかは分からないけれど、貴方のその『太陽』のような強さと優しさの近くに居たいと…貴方の力になりたいと、そう思うようになった…仲間としても、そして…一人の『女』としても…」

 

 

「…ふぅ」

 喋りつかれたのか、ひとしきり話し終えた月光ヶ原は大きく息を吐き、再びノートパソコンを開くとまたパソコンを介して話し始める。

 

『これがあちしが志願した理由でちゅ!未来機関に入ったのだって、元をただせば苗木君の力になれたらと思ったからだから、あちしにとってこれは本懐に戻っただけなんでちゅ。…だから、お願いでちゅ。あちしにも貴方の希望のお手伝いをさせてくだちゃい!』

「…話してくれて、ありがとうございます。…喉が渇いたでしょうから、ひとまずこれでもどうぞ」

 苗木は返答をひとまず置き、月光ヶ原によく冷えたお茶を差し出す。

 

『あ、どうもでちゅ…ゴクゴク…』

 相当喉が渇いていたようでクピクピと喉を鳴らしてお茶を飲む彼女に、苗木は頃合いを見計らって返答する。

 

「…結論から言います。僕は…僕たち『パッショーネ』は貴女の決断を歓迎します。未来機関の立場を捨ててでも僕の元に来てくれたことを、僕は嬉しく思います」

「…!」

『あ…ありがとうでちゅ…!』

「…ただ」

 苗木はそこで一拍置き、言葉を続ける。

 

「ただ…貴女を妻として迎えることは、できません…」

「…ッ!?」

「勘違いしないでほしいのは、僕は貴女が嫌いな訳でも、女性として魅力を感じないわけでもありません。…ただ、『4人』も囲っておいて今更何を言ってると思うかもしれないけど、僕は彼女たち以外の女性に手を出すつもりは無いんだ。皆は、僕の事を本気で愛してくれている。決断しきれず彼女たちの好意に甘えるようになっても、こんな身体(バケモノ)になってしまっても…それでも彼女たちは、僕の傍から離れようとしなかった。周りからどんな目で見られることになっても、今の関係であることを望んでくれている。…僕は、そんな彼女たちの想いに応えたいんだ。だからせめて、彼女たちに『操』を立てることで僕の気持ちを示そうと、そう決めているんだ」

「……」

「彼女たちが『永遠』を望まない以上、間違いなく僕より先に死ぬだろう。でも、その先僕の命がどれだけ続くのかは分からないけど、僕はこの先彼女たち以外の女性を愛するつもりは無い。僕の妻となる女性は、彼女たち以外あり得ないんだ。…君の想いを侮っている訳ではないよ。でも、それでも僕は…彼女たちしか愛せない、愛さない。だから…キミの想いには、応えられない…」

 

「……」

「……」

 沈黙が部屋を包む。月光ヶ原は、何も言わない。ただじっと苗木を無表情に見つめていた。

 苗木は決して『謝罪』の言葉を言わなかった。それは自分の『覚悟』を、何より彼女の『想い』を侮辱する行為だと思っていたからだ。故に苗木は、例えどれだけ恨まれようとも謝らないと決めていた。その結果、折角仲間になりかけた彼女に見限られようとも…。

 

 

 

 

 

「…ふふふ」

 その沈黙を最初に破ったのは、意外にも月光ヶ原…しかも彼女の『笑い声』であった。

 

「…月光ヶ原さん?」

「…うん。『思ったとおり』の答えだった…」

「え?」

「私は最初から、貴方が嬉々として私を妻にする筈がないと分かってた。…勿論、私の気持ちに嘘は無い。…でも、貴方なら…私が『はじめて好きになった人』なら、絶対にそう言うだろうって…そう思ってたの」

「…断られると、分かった上で告白したのですか?」

「うん。…だから、貴方を恨んだりなんかしない。私が好きになったのは、誰よりも前向きで、正直で、ひたむきで…誰よりも『愛』を信じる貴方だから。だから、霧切さん達の気持ちも考えずに私の告白を受け入れる様な貴方を、私は望んでいない…」

「……もしかして、僕の方が『試されて』ました?」

「…これも一種の、『年の功』…。お姉さんからの、ちょっとした試練…」

「…あ、はははは…。これだから、女性というのは…敵わない…。やれやれ、だね…」

 試しているはずが実は試されていた事実に、苗木はゆるゆると息を吐いて椅子にもたれかかる。そして同時に、この場における絶対的強者にしてギャングのボスである自分を顔色一つ変えずに秤にかけた月光ヶ原の度胸に感嘆する他なかった。

 

「…ハァ、とはいえ…このまま時間を無駄にもできないか。とりあえず、パッショーネとして活動することは問題ないんですね?」

『はい!そこはモーマンタイでちゅ!告白して気持ちには区切りがついたでちゅし、貴方の力になりたいという気持ちは本物でちゅから!』

「そうですか…。では、その上で貴女に最初の『任務』を伝えます」

『はわわッ!?い、いきなりでちゅか?』

「そう難しいことではありませんよ。…貴女には、このまま未来機関の一員として活動を続けて欲しいんです」

『…ええ?ど、どうしてでちゅか?』

「貴女も知っての通り、現在未来機関もパッショーネも戦力が不足している。…今ここで未来機関の人材を僕が引き抜きにかかれば、ようやく安定し出した未来機関のパワーバランスが崩れ、後の禍根になってしまうかもしれない。…天願さんには遠慮するなとは言われているけど、後の事を考えると下手に未来機関の間に確執は残したくない。だから僕が一緒に連れて行くのは、むくろのような未来機関とは相いれない『はぐれ者』ぐらいがちょうどいいんだ」

『な、成程…』

「それに…貴女の能力を以てすればそうかからずに未来機関の『要職』に就くこともできるだろう。貴女にはそこから内密に僕等のサポートをして貰いたいんだ。…宗方さんたちに悟られないよう、貴女のことは響子たちにも伏せておく。貴女には万が一の事態に陥った時の『セーフティ』としての役割をお願いしたいんだ。…頼めるかい?」

『もっちろんでちゅ!苗木君達がスムーズに動けるように、すぐに偉くなって邪魔なんかさせまちぇんからね!!』

「アハハ…そう焦らずにね」

『はいでちゅ!』

 

「…でも」

 月光ヶ原が苗木の耳元に口を寄せ、囁く。

 

「まだ『諦めた』わけじゃないから、ね…♡」

「…あ、アハハハ……あ、そ、それともう一つ。君に仕事の合間にアルターエゴと一緒に『作って欲しいもの』があるんだけれど…」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、月光ヶ原自身の希望により彼女も『矢の試練』を受け、見事スタンド能力の獲得に成功した。それこそが彼女のスタンド『ビタミンC』。トリッシュの『スパイス・ガール』のような『弾性』のあるものではなく、直接触れた、あるいはスタンドの持つ『指紋』に触れた相手を『流体』のように究極的に『柔らかくする』能力の近接タイプのスタンドであった。

 そしてそれから一ヵ月ほどで月光ヶ原は第七支部の支部長に任命され、未来機関内の『セキュリティー』や『情報システム』を統括するその権限を使い、苗木から『依頼されたもの』をこなす合間、アルターエゴを介して霧切たちの活動を秘密裏に支援していた。

 …しかし、その数ヵ月後に塔和モナカが月光ヶ原の支部長室を襲撃。寸でのところでそれに気が付いた月光ヶ原は自身の能力により自らの身体をスライムのように柔らかくし、部屋の『水道』から流水と共に下水道を流れて逃走。その後唯一苗木から事情を知らされていた杜王支部の康一の元に身を寄せ、苗木の指示により匿われていたのだ。…ちなみに、その際の情報から苗木は塔和シティの『クーデター』のことをいち早く察することができ、あの場に間に合うことができたのだ。

 

 そして現在、未来機関本部の騒動を受け、切り札としてヘリの貨物室に潜んで承太郎たちと共に島に潜入。直ぐにでも苗木を助けに入りたい気持ちを苗木自身に制されつつ今の今まで息を潜め、雪染が完全に油断した隙をついてたまたま合流した聖原と共に奇襲を仕掛けたのである。

 

 

 場面は戻る…

 

「…それはお互い様。貴女だって絶望の残党であることを隠していた…おまけにそんな体にまでなって…人の事は言えない」

「まあね~♪…それにしても、月光ヶ原さんって結構可愛い声してたのね。違うクラスだったからなかなか関わることも無かったし、こうやって聞けたのはある意味ラッキーかな?」

「余計なお世話…」

「まあ、すぐに殺しちゃうから関係ないんだけどね…!」

「…ッ!」

 

「…と、言おうと思ったんだけど…そんな悠長にもしてられなくなっちゃったみたいね…」

「…ああ、その通りだ」

「苗木…!」

 宗方達の後ろから切り離された体を無事に繋げた苗木が前に出る。振り返ると、仗助を含め先ほどの雪染の攻撃によって負傷していた皆も苗木によって既に回復していた。

 

「…グレート、とんでもねー不意打ちかましてくれやがったな、雪染さんよぉ~…!」

「…え、月光ヶ原ちゃん!?どうして…まさかまた塔和モナカのロボット?」

「…違う。私は『本物』…そしてジョジョの部下…兼、愛人予定。そこのところよろしく」

「!!?」

「はい!?…ど、どういうことですか誠君ッ!?」

「痴話騒ぎは後にしろッ!このバカの『拾い癖』なぞ今更だろうに…」

「ええ…聞きたいことは山ほど…ええ、本ッ…当に沢山あるけれど、今はそれどころではないわ…!」

 いきなり現れた聖原たちに驚くのも束の間、状況を思い出した皆はすぐさま雪染に向き直る。

 

「あ痛つつ…何がどうなって…って、お前らは…聖原に麻野!?何でテメエらがここに居るんだ!!」

「ひぃッ!?さ、逆蔵支部長…ええと、これには深いというか浅いというか、とにかく事情がありまして…」

「…高跳びしようと乗り込んだ船が偶々ここに来る船だっただけだろ」

「ちょ!聖原さん、そういうことはもうちょっとオブラートに包んで…」

「…チッ、まあいい…状況が状況だ。この間の後始末代わりに働いてもらうぞ、キラーキラー…!」

「…そのつもりだ。退職金もまだだったしな…とはいえ、あんなモノが相手だと期待に沿えるかどうかは保証できないがな…」

 ジェノサイダーと肩を並べる殺人術の達人である聖原であるが、その返答は色好くは無い。これまで様々な殺人鬼を『相手と同じ手口で、しかし相手のそれを上回ったやり方』で殺してきた彼であったが、流石に『バラバラにされても生きている存在』を相手にするのは初めてであった。

 

「うふふ…さて、ここからが本番ってワケね。私も『出し惜しみ』はしていられないわ…!」

 先ほどより状況は圧倒的に悪くなったというのに余裕を崩さない雪染は、輝彩滑刀を輝かせた腕を振り上げ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツン…

「…ん?」

 その時、雪染の頭に何かが当たった。

 

「何…?」

 石でも投げられたかと思い足元に落ちたそれに視線を落とし…それを見て訝しげに眉を顰める。

 

「これは…『カタツムリ』?」

「あ痛ッ!何よ…って、カタツムリ?なんでこんなとこに…てか、なんで『空』からカタツムリが…?」

「うおッ!?お、俺にもかよ…!」

「え?ちょ…ひ、聖原さぁん!私カタツムリ…ていうかニュルニュルしたもの駄目なんですぅ~ッ!!」

 ふと騒がしくなったことに顔を上げると、自分の周りだけでなく苗木達にもカタツムリが降り注いでいた。それもどうやら一匹二匹ではなくかなりの数が降ってきているようである。その異常事態に、苗木達も雪染も思わず首を傾げる。

 

「一体なんなの…?空から大量のカタツムリが降って来るなんて、どう考えても異常だわ…」

「じょ、承太郎さん!まさかとは思うッスけど、カタツムリって空とか飛んだりしないッスよね?」

「んな訳あるか。…だが、あり得ない訳じゃあない。アメリカではよく大規模な『竜巻』が発生することがあるが、その時稀に竜巻が池や湖の水を巻きあげ、一緒に飲み込まれた魚やカエルが降ってくるという事例はある…が、ここは太平洋のど真ん中。しかも魚ならまだしもカタツムリが降るなんてことは…」

「…竜巻…ッ!まさかッ…!?」

 ハッとした苗木が空を見上げると、そこには危惧した通り大きな、しかしどこか禍々しい『虹』が架かっていた。

 

「?誠君どうし…わ…!大きな虹…」

「え?…あ、ホントだ」

「あら…空からカタツムリの次は虹なんて、そろそろ世界の環境も壊れ始めた証拠かしらね?」

「虹だのカタツムリなんざどうだっていいだろうが…!それより、戦いに集中し…」

「…よく、ないんです…ッ!今だけは、『この虹だけは』…ッ」

「…な、苗木…?」

 皆の中でただ一人、苗木だけは紅い空に架かる巨大な虹を、なにか恐ろしいものを見るかのような目で見上げていた。

 

「…どういうことだ?苗木、お前はあの虹がなんなのか知っているのか?」

「…あの虹は、『悪魔の虹』…。『ヘビーウェザー』が引き起こす、『天災』の前触れ…ウェザーの『本気』の証だ…!」

「ウェザーだと…?」

「…ッ!皆、今すぐ『目を塞げ』ッ!!」

「…へ?」

 突然の苗木からの奇妙な指示に皆は思わず面喰ってしまう。

 

「…あ、アンタ何言ってんの?目を塞げって、急にワケわかんな…」

「説明している暇はないッ!とにかく急いで!思い切り塞ぐんだ…微かな光ですらも、今は見てはいけないッ!!」

「どういうことだ…?説明しろ苗木!」

「もう時間が無いんだッ!皆はもう『虹を見た』、『カタツムリに触れた』…『条件』を満たしてしまっている…ッ!僕たちは、既に『スタンド攻撃』を受けているんだッ!!」

『ッ!?』

 

 

 

 

 その時、『それ』は始まった。

 

ぐにゃ…

「…え?」

 突然視界が『下がった』ことに雪染はポカンとし、すぐに正気に戻るとまた月光ヶ原の『ビタミンC』かと思い再び視線を落とすと…

 

 

 

 

 

 視線の先には、『膝から下がカタツムリになった』自分の足があった。

 

「な、あ…ッ!?」

「う、うわあああああッ!!?」

「な、何よコレッ…!?私の身体が、『カタツムリに』ッ…!?」

「うぎゃああああッ!?わ、私の身体がニュルニュルにぃーッ!」

「…げ、月光ヶ原ッ!貴様の能力ではないだろうなッ…?」

「ち、違う…!私は何もしてない…こんなの、私は知らない…ッ!」

 雪染だけでなく、霧切たちも皆個人差はあれど揃って体がカタツムリに変容していた

 

「誠君ッ…、これは…一体、何が起きているの…?」

 下半身がカタツムリになりかけている霧切の問いに、唯一無事なままの苗木は空を見上げたまま答える。

 

「…始まってしまったんだ。『ウェザー・リポート』の『禁断の能力』…ウェザーの『最後の戦い』が…ッ!」

 




最近ウルトラマンジードが面白い
やっぱりラスボスの子供が活躍するって話は燃えますね。ジョルノ然り、ドラクエⅡの竜王のひ孫然り、悪の中にあってこそ輝くヒーロー性は大好きです


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