ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今季の夏アニメ、秋アニメの情報がちらちらと上がってきているが、それを踏まえて一言…


5部アニメ化マダー?

ダンロンの方はさ、今年V3出したし年内に何かあるとは期待していないけれど、ジョジョはさあ…そろそろやってもいいんじゃあないかな?…正直5部もだけど早く7部のアニメ化が視たいんですよ!5部は一息に読んで面白いけど、7部は何度も読み返して面白さが分かってきたので。はよ…アニメ化はよ!


交錯編:衝突と切開

 本部中央を突き抜ける吹き抜け。偶階ごとに張られた連絡通路の8階部にて、苗木と宗方は対峙していた。通路の両端には、朝日奈や天願等と逆蔵と霧切がその様子を固唾をのんで窺う。

 と、そこに

 

タッタッタッタ…!

「…おい、貴様ら!」

「え?…あ、十神!」

「承太郎さん!仗助さんも…」

 朝日奈らが居る方の通路の奥から、十神、承太郎、仗助の3人が小走りでやってきた。

 

「おい、これはどうなっている!?何故霧切が向こうに居る?まだコロシアイとやらは続いているのか!?」

「えっ?何でアンタがそのこと知ってるのさ?」

「ま…こっちにも色々あったんスよ」

「…済まないが、誰か状況を説明してくれないか?我々も内部で起きたことはまだ把握していないんだ」

「…うむ、それがじゃな…」

 

 天願が承太郎たちに事情を説明している間に、宗方と苗木の間に動きが生じる。

 

「…空条承太郎か。中継を見てここに駆け付けたか」

「中継?…んなもんされてねえッスよ」

「は!?」

「…何?」

「で、でも…あのモノクマはここで起きたことは中継されてるって…」

「つったって、実際そんなもんテレビにもラジオにもネットにも映って無かったっスよ。俺らがここに来たのは葉隠からのSOSがあったからだし、コロシアイの事だって塔和モナカから初めて聞いたんスから…」

「ってことは…あれ、ただの『ハッタリ』?」

「そのようだな…。実際、もはや絶望の残党共にそれだけのことをする余力は残っていないだろうからな」

「…な、なんだよ…脅かしやがって…」

 皆にとって心のどこかで気がかりだった『中継されている』という事実がまるっきり出まかせだったことに、怒りと虚しさで思わずため息が出てしまう。

 

「やれやれ…とはいえ、好都合ではあるか」

 苗木も予想していたとはいえ都合のいい事態に苦笑し、すぐに表情を改めて宗方に話を切り出す。

 

「宗方さん、剣を納めて頂けませんか?そして、響子を解放してください」

「……」

「コロシアイはもう『終わった』んです!これ以上、僕等が争う理由はない…中継されていない以上、今なら機関内の騒ぎも最小限で済みます!…雪染さんのことを忘れろとは言いません。ですが、今僕らが戦うことに、なんの『意味』があるというんですか!?」

「…終わった、終わっただと…?」

「……宗方さんッ!僕が、…僕が『襲撃者』だったんですッ!」

「ッ!貴様が、襲撃者…」

 居ても経ってもいられなくなったとばかりに、御手洗が宗方に自白する。

 

「御手洗さん…!」

「ごめん、苗木…。けど、これは僕自身が言わないと…」

「…御手洗亮太。お前が…雪染を、殺したのか…?」

「…ッ!はい…僕は、江ノ島に洗脳された影響で、襲撃者にされて…正直、襲撃者として動いている時のことは、あまり憶えていないんです。でも、分かるんです。僕が襲撃者だったんだって、僕が雪染さんを、皆を…ッ!」

「……」

「御手洗、あの野郎がッ…!」

「御手洗さん…」

「…宗方さんッ!雪染さんのことが許せないのなら、その罪は僕が償います!仇を討つ

というのなら、殺されても構いません。…けれど、その代りもうやめて下さい!これ以上、仲間同士で殺し合うなんて、そんなことはやめてくださいッ!」

「……」

 御手洗の必死の懇願を、宗方はただ黙って聴くのみであった。

 

「…宗方君。もういいじゃろう。御手洗君はもう襲撃者ではない、己の弱さと向き合い、罪を受け入れる覚悟をした。それは『希望』と呼ぶにふさわしいものじゃ。彼を殺す必要はない。…罪があるとするなら、こうなる前に彼をそこまで導けなかったワシの不手際じゃろう」

「か、会長!?」

「気にするな。…言った筈じゃぞ、若い者の尻拭いは年寄りの特権じゃとな。…ワシは未来機関の会長の座を降りる。こんな事態を許した以上、誰かが責を取らねばならんじゃろう。全ての泥はワシが被ろう。…後は君が好きにすればいい。それが、雪染君が望んだことだろうからな」

「…!宗方が、会長…!」

 

「…雪染…」

「…宗方さん?」

 後ろで喜色を隠しきれていない逆蔵に対し、宗方の反応が余りにも乏しいことに苗木は疑念を憶える。

 

「…なあ、宗方君なんか様子が変じゃあねえか?」

「変…ですか?」

「なんつーか…反応が鈍いっていうか、感情が無いって言うか…話聞いてんのか聞いてないのか分からないっつーか…」

「…俺も同感だ。どうやら、副会長さんの頭の中は『別の事』で一杯って感じだな」

「…訳が、分からん…」

 後方でも黄桜や承太郎ら勘の鋭い面々が違和感を感じていると、ふと宗方が口を開く。

 

「…襲撃者の事は、既に霧切から聞いている。事実確認の為に聞いていたが、どうやら事実のようだな…」

「…そうでしたか。では、その上で貴方の答えを聞かせて貰っても?」

「…御手洗のしでかしたことは許されることではない。例え今が希望であっても、奴が我々に疑心暗鬼と絶望を齎した事実は変わらん。であれば、その禍根は絶たねばならん」

「うう…」

「貴様らもだ、安藤、十六夜。己の保身の為に他者を切り捨て、コロシアイに興じたお前たちもまた、未来機関支部長としての本分を放棄したに等しい」

「……」

「む…」

「…ならば、どうしますか?」

 徐に片手を広げ御手洗や安藤達を庇うことを示しながら苗木が問う。

 

「…当然、『処分』する。絶望の火種は全て滅ぼさねばならん。欠片一つでも残っていれば、それはいつか周りの全てを腐らせる。…そいつらがその罪を背負う前に、今この場で断罪する。絶望にとって、殲滅するのは『慈悲』だ…ッ!!」

「なッ…!?馬鹿な、そのようなことが許されるわけが…」

「許されるつもりなどない。…それは俺の『罪』だ。それを背負い、全てを成したのちに俺自身の手で雪ぐ。それが…俺の『希望』なのだ!俺の命一つで絶望を根絶やしにできるのなら、安いものだ…」

「宗方…ッ!」

「…宗方さん、それは…」

「『それは違う』…と言うのであれば…!」

 苗木の言葉を遮り、宗方は手にした刀の切っ先を向け叫ぶ。

 

「俺の『希望』が間違っていると、そう言うのなら…俺と戦え、苗木誠ッ!お前の希望を、お前の意志を、お前自身の手で示して見せろッ!!」

「……!」

 自分を睨む宗方の瞳、そしてその声音に苗木は宗方の『本気』と『真意』を垣間見た。

 

「…分かりました」

「ッ!?」

「ま、誠!?」

「誠君ッ!?」

 さして悩むことなく快諾した苗木に困惑する皆の視線を背に、苗木はボロボロの上着を脱ぎ捨てる。

 

バサッ…!

「そうしなければ…貴方と、『分かりあえない』と言うのなら…!」

「……」

「な、苗木君ッ!」

「おい苗木!そんなものに付き合う必要は…」

「悪いけれど決めたんだ。…手出しは一切無用だよ。僕一人で…そう、宗方さんとは、『僕の力だけ』で戦うッ!!」

 無言で刀を構える宗方に対し、苗木は後方の皆に手出しを禁じると全身に力を漲らせる。

 

「…誠君ッ!!」

 そこに、反対側で拘束されている霧切が苗木の名を呼ぶ。

 

「響子…」

「……お願い。…死なないでッ…!」

「…ああ、当然だよ…!」

 悲痛な声でかけられた願いに、苗木は力強く応える。

 

「…皆、誠の言うとおりにしてあげて。何があっても、手を出さないで」

「朝日奈君!?しかし、よいのですか!?舞園君も…」

「はい…。今の誠君を止める事はできません。響子ちゃんも、きっとそれが分かってるから『戦わないで』じゃなく、『死なないで』って言ったんです」

「…あの馬鹿が」

「やれやれ…今は苗木君を信じるしかないようだな」

 皆が見守る中、苗木と宗方の間の緊張感は増々高まっていく。

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!

「おおおおおおおッ!!!」

「WRYYYYYッ!!」

 

ギャゴォォンッ!!

 雄叫びと共に突撃し合い、宗方の振り下ろされた二刀と、血液操作により硬質化した苗木の腕が衝突し、銅鑼の様な金属音を響かせる。

 

「~ッ!?これが…『素手』と『刀』が当たった音かよ…!?」

「アッタマ…痛った~…!」

 全身に鳥肌が立つようなその音に皆が顔を歪めたり耳を塞いだりするが、当の二人はまったく気にも留めず互いを睨みあいながら鍔迫り合いを繰り広げる。

 

ギチギチギチギチッ…!!

「これが…貴方の『答え』なんですかッ、宗方さんッ!!」

「そうだ…!絶望は全て消し去る。…絶望は俺達から全てを奪った。お前のように、いつか分かりあえるなどと悠長な夢見事を語っている間に、絶望は多くの悲しみを、憎しみを生み出していく。誰かがその根を断たねばならんのだ…例え『痛み』を伴ったとしてもな…!」

「…そうですか。貴方の言い分は分かりました、…ですがッ!」

「ッ!?」

 

ガキョオンッ!!

 拮抗状態を保っていた鍔迫り合いであったが、苗木が本気で力を籠めるとその均衡はあっさり崩れ、宗方は腕ずくで押し返される。

 

「ぐっ…!貴様…」

「宗方さん、それはあくまで『理由』であって『本心』ではない筈だ!貴方がここまで強引な手段を選んだのには、まだ『別の原因』がある筈だ…!」

「…ッ!」

「別の原因だと…?」

「…そりゃどういう意味だよ?」

「…もし宗方さんが本気でその思想を成そうとしているのなら、そもそもこの戦いには何の意味も無い。こんなことをしているぐらいなら、いち早く本土の未来機関の各支部と連絡を取って、御手洗さんや安藤さんを今回の一連の事件の容疑者とし、雪染さんの仇討を建前に絶望の残党の殲滅を徹底させる方がよっぽど現実的だ。無論僕らの証言もあるだろうけど、自身の副会長と言う立場を利用すれば取りつくしまを与えないこともできる。…それをせず、こうして僕をおびき出して戦う選択をしたということは、宗方さんにはそうする…いや、そうしてでも『確かめたいこと』があるんじゃあないですか?」

「確かめたいこと…?」

「…黙れ…」

「それが原因で、貴方は今の自分のやり方に『疑念』を抱いている。自分のやろうとしていることが、間違いなのではないかと迷っている。だから貴方は、僕と戦いそれを確かめようと…」

「黙れぇぇぇぇッ!!」

 突如激昂した宗方は手にした二刀の内、今迄使っていた方の刀を足元に突き刺すと、もう片方の見慣れぬどこか機械的な刀を振り上げ襲い掛かる。

 

「…先ほどので分かっているはずです、純粋な力では僕には勝てない…」

 振り下ろされた刀に対し、苗木は再び受け止めようと腕を硬質化させて構えるが…

 

「…!」

 

 

カチッ…

 刀を振り下ろす直前、宗方は刀の鍔付近にあった『スイッチ』を押す。

 

ブゥンッ…

 その瞬間、黒色の刀身が突如赤橙色に輝きだした。

 

「…ッ!?クッ…」

 

ブォンッ!

ズザザザッ…

 寸でのところでその変化に気づいた苗木は腕をかざした勢いのまま空中で身を翻し、直接打ち合うことを回避する。しかし…

 

シュゥゥゥゥ…

「…ッ」

 完全に回避しきれなかったのか、斬撃を受け損ねた苗木の手首は半ばまで切り裂かれ、傷口から立ち昇る『肉の焦げた臭い』が、苗木の判断が正しかったことを物語っていた。

 

 

「な、なにアレッ!?」

「アレは…『対吸血鬼用』に俺が作った『ヒートブレード』だ…!刀身に高熱を帯びさせることで切断力を増し、切断面を焼き切ることで吸血鬼の再生能力を封じることができる…!」

「吸血鬼用だと…!?何故そんなものがここにあるッ!?」

「…お前たちを警戒してのことだ。万が一、お前たちが未来機関の敵になった時、苗木誠に対する『対抗策』の一環として秘密裏に制作し、この本部に保管されていた。…こんな形で使われることになるとは思いもしなかったがな…」

「…成程。考え無しで戦いを挑んだ訳じゃあなかったってことか」

 

 

「…あの刀。逆蔵さんの左手を切り落としたのはアレね?」

「…ふん。勘違いするんじゃあねえぞ、俺は命令されたからやったわけじゃあねえ。俺はあんなガラクタに振り回されて宗方の力になれないぐらいなら、宗形に言われずともテメエで切り落としていた。それが俺の…ッ!?」

 逆蔵が苦しそうに顔をしかめると、切断された自分の左手首にちらりと目を落とす。

 

「…チッ、もう切れてきやがったか…」

「…『痛み止め』が切れてきた様ね。無理しない方が身の為よ」

「ッ!…言っとくが、今なら逃げられるだなんて思うんじゃあねえぞ。ちょっとでもスタンドを出そうとすれば俺はテメエをこっから突き落すからな…!」

「そんな真似はしないわ。…誠君は勝つわ。勝って、必ずここまで来てくれる。私はそれを信じているから。…貴方だって、同じ気持ちの筈よ。貴方も…宗方さんを『愛している』のならね」

「ッ!!?」

 霧切の言葉に逆蔵は心臓が凍りつくかのような戦慄を覚える。それは、逆蔵にとって『誰にも知られてはいけない秘密』だったのだから。

 

「テメッ…!?何を、言って…」

「ここでの貴方の宗方さんの態度を見て、ようやく得心が入ったわ。貴方の宗方さんに対する忠誠は、『上司と部下』の関係で説明できる度量を越えていた。…私も、誠君を好きになっていなかったら、それが『恋心』だと気付かなかったかもしれないわね。最も、誠君はなんとなく気づいていたのかもしれないけど…」

「…脅しのつもりか?俺が今更そんなもんにビビると…」

「…冗談じゃあないわ。形はどうあれ、他人の恋を嘲笑うなんて趣味の悪いことはしないわ。…貴方も本気で宗方さんを愛しているのなら、見届けるべきよ。宗方さんの『真意』をね…」

「…お前、どっちの味方なんだよ?」

「勿論、『誠君の味方』よ。…だから、私は彼を信じる。彼が成そうとしていることを、彼の求めている未来を信じる。ただ、それだけのことよ」

 納得しきれないと言った表情の逆蔵にそう言って、霧切は再び苗木と宗方の方へと視線を移した。

 

 

「…躱したか。勘のいい奴め…」

「それはどうも…。見慣れないものを持っていると思ったら、そんなものを用意していたとは…」

「…俺に失望したか?苗木誠」

「…いいえ。むしろ僕の考えが甘かったと反省していますよ。僕と貴方で思想が違う以上、僕と言う『不確定要素』の対策を講じておくのは当然ですからね」

「…その余裕が、気に入らんのだッ!!」

 

ドンッ!

 気合と共に宗方は一気に距離を詰めて苗木に斬りかかる。

 

「クッ…!」

 剣筋は見えていても受け止めることは困難なため、苗木は斬撃を躱す他ない。

 

…ガシャッ!

「!」

 そうしているうちに、苗木もまた天願と同じように通路の手すりに追い詰められた。

 

「これで…終わりだッ!」

 後方への逃げ道を塞がれた苗木に、宗方は左右の逃げ道も塞ぐように横薙ぎに斬りかかった。

 

 

 

「…」(ニッ)

 しかしその瞬間、苗木はニヤリと笑みを浮かべると同時に

 

 

グラッ…

「…なッ!?」

 後方へ倒れ込むように、自ら通路から身を投げ出した。

 

「逃げる気か…!そうはさせんッ!」

 刀が空を切った反動からすぐさま立ち直ると、宗方は落ちて行ったであろう苗木を確認すべく下を覗き込む。

 

 

「…何?」

 だが、覗き込んだ先には落ちていく、あるいはどこかに着地した苗木の姿はどこにもなかった。

 

「馬鹿な、あの一瞬でどこへ…」

 

 

 

「…違う宗方ァッ!!『後ろ』だぁッ!!」

「ハッ!?」

 逆蔵の叫び声に即座に振り返るが、既に遅かった。

 

「ハァッ!」

「ぬッ…!?」

 

ガスッ!

 

 

 

 

 

 

 

…ガキィンッ!

 振り返った先で振り上げられた苗木の手刀が宗方の手を打ち据え、衝撃で弾き飛ばされた刀はクルクルと空中で回転して苗木の背後に突き刺さった。

 

「…そこまでです、宗方さん」

「…ッ」

 苗木の一撃に腕が痺れつつも反撃しようとする宗方に、苗木は手刀を突きつけそれを制する。

 

 

「や、やったッ!」

「…か、勝った…のかな?」

「…そうみたいだな。ふう…これで一件落着ってか」

「…だといいんだがな」

 

 

「…貴様、何をした…?」

「対策していたのは、僕を『殺す方法』だけですか?それなら少し勉強不足ですね。…吸血鬼は『壁を歩ける』のを知りませんでしたか?」

「…ッ!そうか、貴様…『通路の裏』をッ…」

 苗木の言葉に、宗方は苗木がやったことを理解した。

 

 

 苗木は通路から身を投げ出し、完全に宗方の視界から消えると同時に通路の『足場の裏』に吸い付くように立ち、そのまま足場の裏を伝って反対側まで移動、宗形の注意が下に向けられた瞬間に再び上に飛び戻り、攻撃を仕掛けたのである。

 

「…甘く見ていたのは、俺だったということか」

「……」

「……どうした、苗木誠。俺を殺さないのか?」

「……」

 

スッ…

 ぶっきらぼうに言う宗方に対し、苗木は突き付けていた手刀を無言で引く。

 

「…何の真似だ?情けをかけたつもりか…!」

「勘違いしないでください。最初に言った筈です、僕は貴方を『殺すため』に貴方の挑発に乗った訳じゃあない。…僕は貴方と『分かりあうため』、貴方の抱える『絶望』を理解するためにそうしたんです」

「俺の…『絶望』、だと…ッ!」

 

「宗方の、『絶望』…?何言ってやがんだ、あの野郎…」

「…やはり、そうなのね…」

 苗木の言葉に何かを確信めいた霧切を余所に、苗木は宗方に語りかける。

 

「…先ほど、僕は貴方に言いました。貴方の『理想』を成すことにおいて、この戦いは無意味なものだと。僕ですら分かっているんだ、貴方ならとっくにそんなこと分かっているはずなんだ。…だが、現に貴方はこうして僕に戦いを挑んだ。響子を人質にするなんて、貴方らしくもない手段を使ってまで」

「……」

「それは何故か?…僕はこう考えました。貴方は今自分がこれまで掲げていた『希望』を『疑っている』のではないかと。そうではないですか?」

「……」

 苗木の問いにも、宗方は何も答えない。だが、苗木には自分を睨むその目が、『それ以上俺の心に入って来るな』と言っているようにも見えた。

 しかし、苗木は取り合わない。

 

「…沈黙は肯定と取らせてもらいます。では、何故貴方はそんなことを思うようになったのか。…おそらくそれは、貴方が『最も信頼していた人』に裏切られたと、そう思っているからじゃあないでしょうか?」

「…ッ!」

 宗方の眼光が増々強くなる。なおも苗木の言葉を拒絶するように。

 

「裏切られた…?」

「苗木君、それは一体、どういう…?」

 

「貴方にとってその人は、信頼できる友人である以上に『愛するパートナー』でもあった。彼女が居たから、彼女が自分を肯定してくれたからこそ、貴方は自分の希望を貫き通すことができた。…その人は貴方にとって、この絶望が蔓延した世界において唯一信じられる存在だったからだ」

「…え?お、おい…ちょっと待て…!」

「…やめろ…」

 宗方の拒絶の意志が、声となって口から洩れる。

 

「そんな人物に裏切られたと思ってしまえば、その人が肯定してくれた自分の希望を信じられなくなるというのも分かります。…では、その『裏切られた』とはどういうことなのか?」

「…まさか」

「う、うそ…!?」

「やめろ…ッ!」

 ハッキリとした言葉になろうと、苗木は止まらない。残酷であろうとも、その『真実』を明らかにする為に。

 

「…今の貴方を見るに、その答えは一つしかありません。貴方の彼女に対する信頼の全てを裏切る『真実』。それは…」

「……」

 

「やめろ…それ以上言うな、苗木誠ォォォッ!!!」

 

 

 

 

 

「…雪染さんは、雪染ちさは『絶望の残党』だった。それが、貴方の抱える絶望の真実だ」

 

 

 

パキャァァァン…ッ!!

 その瞬間、宗方をかろうじて繋ぎ止めていた何かが、ガラスのように壊れた。

 




苗木が舐めプしているように見えるかもしれませんが、これには一応理由があります。…まあこじつけというか意地みたいなものですけど

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