ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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また間に合わなかったぜ!…ほんとごめんね


プレイしている訳じゃないけどFGOの動画見ていたら、新宿編のあの二人とダンロンの探偵二人を絡ませたくなった。霧切さんは分からないけど、最原君とか絶対シャーロキアンだよね。…で、霧切さんも実は隠れシャーロキアンであのアラフィフに敵対心メラメラとか面白そう。
まあでも、あのアラフィフ性能だけなら江ノ島+王馬+霧切+天願みたいなもんだから勝ち目はないだろうけど。

…最近ダンロンネタが切れてきたので前書きで描くことがないよ…


交錯編:悪夢が終わるとき

 十六夜惣之助が安藤流流歌の命令に『逆らった』。それは安藤本人や二人をよく知る忌村のみならず、霧切たちすらも驚愕させるに足る事態であった。

 

「い、十六夜…アンタ…?」

「これは…どうしたことでしょうか?」

「さあな…あの十六夜君が安藤君に逆らうのなんざ初めて見たぜ」

「ど、どうなってるの…?」

「……」

 困惑する一同や十六夜を見て何かを考え込む霧切を余所に、安藤は癇癪を起こしたように十六夜に喚き散らす。

 

「な…何言ってるのさヨイちゃんッ!?ワケ分かんないよ!」

「言葉通りだ。…流流歌、俺は特にこいつらに思い入れがあるわけではない。だからこいつらがどうなろうが俺は一向に構わない。…だが流流歌、君はどうなんだ?」

「どうって…そんなの、私だって別に…」

「忌村がこのまま死んでもか?」

「ッ!」

「流流歌…?」

 安藤が一瞬見せた複雑な表情に、忌村は眉を顰める。

 

「流流歌、君の気持ちは俺も分かっている。…俺も、『あの事件』のせいで信用を失い、鍛冶職人としての仕事を失くした。だから俺も、君以外のヤツを信じようとは思わない。まして、俺達を嵌めたかもしれない忌村を信じられないという気持ちも理解できる」

「……」

「だが、こいつはハッキリとそれを告げたにも関わらず、今もこうして俺達と向き合おうとしている。俺達と同じ扱いを受けたハズなのにもかかわらず、それでもなお関係ない奴の為に力を尽くしている。…俺には、そんなこいつが流流歌を貶める理由が何故なのかが分からないんだ」

「…そんなの、こいつが私の事を『逆恨み』してるに決まってるよ!最初に私がお菓子を勧めた時だって、意地でも食べないみたいな感じで…」

「…俺は、そうは思わなかった」

「え?」

「俺も最初は、ただの意地悪だと思っていた。こんなにおいちい流流歌のお菓子を食べようともしないなんて、可哀想な奴だと。…だが、『今』はそうは思わないのだ」

「…どういう意味よ?」

「あいつは流流歌からお菓子を勧められた時、一度は嬉しそうに笑って手を伸ばし…だがすぐにそれを断った。その時に一瞬だが、なにか『後悔』のようなものを感じたような気がしたのだ。…あの時はそれがなんなのか分からず、気にも留めなかったが、さっき忌村が言った言葉と、なにより『今の俺の心』がそれに気づかせてくれた」

 十六夜は忌村に向き直り、問いかける。

 

「もう一度聞く、忌村…何故流流歌のお菓子を拒む?それがハッキリしない限り、きっと流流歌はお前を殺しても幸せにはなれない。だから、その前に答えろ」

「ちょ…ヨイちゃん!?」

「…私は…」

 

 

 

 

「…忌村さんは『食べない』んじゃあないわ、『食べられない』のよ」

『ッ!?』

 忌村に代わって十六夜の問いに答えたのは霧切であった。

 

「霧切…!?」

「…何故お前が答える?俺はこいつに聞いているんだ」

「ええ、分かっているわ。…けれど、今は一分一秒が惜しいの。忌村さんには悪いけれど、貴女が言い辛いというのならば、私がその『真実』を話させてもらうわ」

「……」

「真実って…なにか分かったのか?」

「ええ。今までの会話、忌村さんと十六夜さんの態度、そしてこの状況…これだけの材料があれば、推理するには十分よ」

「…聞かせろ。何故お前にそんなことが分かる?」

 十六夜に促され、安藤も渋々聞く気になったのを見ると、霧切は推理を語りだす。

 

「…まず、十六夜さん。アナタはこのコロシアイが始まってから安藤さんのお菓子を一度も口にしなかった…そうよね?」

「…そうよ。ヨイちゃんならどんな時も流流歌のお菓子を喜んで食べてくれたのに…」

「ええ、貴女と十六夜さんの関係は承知の上よ。…まして、それほど中毒性ある安藤さんのお菓子を、この状況下とはいえ自分の意志で拒むとは考えにくいわ。むしろ、精神の安定の為に進んで求めてもおかしくはない…」

「……」

「そうせざるを得ない理由があるとするなら…『これ』しか考えられないわ」

 霧切はそう言いながら自分の『バングル』を指し示す。

 

「バングル…もしかして、『NG行動』?」

「え…!?」

「……」

 目を見開いて自分を見る安藤に、十六夜は苦々しく口元を歪める。まるで答えたくないと言っているようであったが、霧切はお構いなしに問いかける。

 

「…十六夜さん、貴方のNG行動は『食べ物を口にする』ね?」

「ッ!」

「嘘…ッ!?そんな、ヨイちゃん…?」

「……」

 皆が驚きの目で十六夜を見る中、十六夜は霧切を『余計な事を言うな』とでも言わんばかりの目で睨み、ちらりと隣の安藤へ視線を移し…やがて観念したように自分のバングルに触れる。

 

ピッ…

「NG行動…『飲食をする』…ッ!本当だ…」

「…成程、ね。そりゃ食えねえわなぁ…、まして安藤ちゃんのお菓子を食べて死んだとありゃ、それこそ君にとっては死んでも死にきれねえ…ってか?」

「…勘違いするな。俺は、流流歌のおいちいお菓子を食べて死ねるのなら本望だ。だが、俺が死んだせいで流流歌がお菓子を作ることを『嫌い』になってしまったら…俺は、そのほうがずっと恐ろしい。それだけだ…」

 ふと自分のバングルに目を落としそう言う黄桜に、十六夜は無愛想にそう返答する。

 

「それより霧切、俺のNG行動などどうでもいいだろう。俺が聞いているのは忌村の理由だ。…それとも、煙に巻いて誤魔化すつもりか?」

「…焦らないで頂戴。私は『順』を追って説明しているだけよ。貴方が忌村さんの『違和感』に気づけた理由からね…」

「何…?」

「十六夜さん、貴方が忌村さんに対して疑念を抱くことができたのは、そのNG行動が関係しているのよ」

「…どういうことだ?」

「……」

 気まずそうに視線を逸らす忌村をちらりと見て、霧切は答えを口にする。

 

「さっきも言ったけれど、忌村さんは安藤さんのお菓子を食べなかったのではなく『食べられなかった』。…それは、忌村さんが常に今の貴方の状況と『同じ状態』にあるからよ」

「俺と同じ…?」

「…まさか、『お菓子を食べたら死ぬ』…なんて馬鹿げたこと言わないよね?」

 安藤が小馬鹿にしたようにそう吐き捨てる、…が

 

 

「ええ、その通りよ」

 霧切は当然のようにその言葉を肯定した。

 

「……は?…アンタ、バカ?そんなのあり得る訳が…」

「…『アナフィラキシーショック』」

「はぁ?」

「特定のアレルギー症状によって引き起こされる致死レベルのショック反応…安藤さんだって名前ぐらいは知っているでしょう?そのアレルギーの原因の一つに、『過剰な糖質の摂取』があるわ。生憎門外漢だから詳しいことは知らないけれど、実際に砂糖や炭水化物の摂取を控えることで症状を緩和した事例もあるわ。…そうよね、忌村さん?」

「……」

「貴女はなんらかの理由でお菓子…糖質を多く含んだものを食べられない、言わば『糖質アレルギー』のような体質なのではないかしら?」

「糖質アレルギー!?」

「…そういや、君をスカウトした時、ご両親に『持病もち』って聞いたが…まさか、それなのか?」

 黄桜の問いに、忌村は俯いたままボソボソと答える。

 

「…それは、少し違う。持病もちなのは本当…。けど、それ自体は原因じゃない…。原因なのは…むしろその『逆』…」

「逆?」

「私の持病は、症状自体は大したことないけれど、まだ『治療法』が見つかっていない…。だから私は、子供のころから症状を抑制するための『薬』を服用してきた。…でも、その薬には『副作用』があって、糖質を摂取するとアナフィラキシーショック…霧切の言ったとおり、強烈な『アレルギー反応』を引き起こしてしまうの。だから私は、お菓子なんて食べたことは一度も無かった…」

「一度も…だと…ッ!?なんという地獄だ…!」

「そりゃ君だったらそうだろうねえ…」

 忌村の境遇に十六夜は思わず素で突っ込んでしまった。今まで我慢していたとはいえ、安藤のお菓子中毒者である十六夜にとっては想像するのも恐ろしいことだったのであろう。

 

「ああ…だから忌村さん、未来機関に入った時に真っ先に僕の所に来たんだね。糖質をとれないってことは、お肉もお芋もお米も食べられないから『菜食主義者(ベジタリアン)』になるしかないもんね」

「…正直、苗木と万代さんには本当に感謝してる。『元超高校級の農家』の万代さんが居なかったら私が食べれるものなんて殆ど無かっただろうし、苗木が野菜や果物を再生して安定供給できるようにしてくれたから…」

 

「……」

 眼前の『真実』に、安藤は何も言えなかった。何かを言おうとしても、それを言葉にすることができなかった。

 

「…これが、忌村さんの『真実』よ。彼女は貴女のお菓子を拒まざるを得なかった。それは自分の命に関わる行為であったから…そしてそれ以上に、十六夜さんと同じで貴女を傷つけたくなかったからだと思うわ」

「え…?」

「貴女をお菓子を食べて、それが原因で忌村さんが死んでしまうことになったら…今の貴女はともかく、当時の貴女はきっと立ち直れなくなっていた。忌村さんも、それを恐れていたのよ。…それは、私よりも彼女を知っているあなたなら理解できるはずよ」

「…ッ!」

 驚き、困惑、怒り、罪悪感…さまざまな感情が入り混じった表情で安藤は忌村を見る。忌村もまた、全てを打ち明けた自分に対し安藤がどう反応するのかを窺っていた。

 

「…なんで…黙ってた…」

 やがて安藤の口からそんな言葉が漏れ出した。

 

「なんで…なんで、そのことを言わなかったんだよッ!?アンタが黙ってなけりゃ、私だってあんな意気地になったりなんかしなかったのに…ッ!アンタが言わなかったから、こんなことになったんじゃあないのッ!!」

「それは…」

「…それとも何?私を『だまして』おちょくってたってワケ?ハッ…だったらさぞ滑稽だったでしょうね。後で私が罪悪感で後悔する顔でも見たかったわけ?それとも…アンタが死んで、私を『絶望』させたかったとか…」

「違う…違うッ!私は、『るるちゃん』にそんなことさせたくなかったッ!!」

「ッ!?」

 かつて呼ばれていた『愛称』で呼ばれ、安藤は思わず息を吞む。

 

「私は…ただ怖かったの。小学校の時、初めてるるちゃんと出会って、お菓子をくれたあの時に…本当は、このことを言おうと思っていた。でも、こんな私に初めて声をかけてくれたるるちゃんに、あんな嬉しそうな顔でお菓子をくれたるるちゃんにそんなことを言ったら、…もう二度と、話しかけてくれないんじゃないかって。初めてできた『友達』を失くしちゃうんじゃないかと思って…言えなかった」

「……」

「だからせめて、るるちゃんのお願いをできる限り聞いてあげようと思った。そうやって誤魔化してでも、騙してでも…私は、るるちゃんに見限られたくなかった、見捨てられたくなかった。…でも、結果的にはそれが『あの事件』に繋がることになったのなら…るるちゃんの言うとおり、私も悪いのかもしれない…」

 

 だから…と、忌村は安藤の正面に向き直り、困惑する安藤に語りかける。

 

「私の事は、信じてくれなくてもいい。もう関わりたくないと言うのなら、私が未来機関を出ていく。だから…もうやめて。これ以上、誰かを傷つけることを…自分を『孤独』にするようなことは、もうやめて…!」

 

「……」

 忌村の懇願を聞いた安藤は、呆然とした表情で忌村、そして十六夜へと視線を移し、二人の真摯な眼差しを見ると、やがて耐え切れないかのように視線を外し震える声で叫ぶ。

 

「…ッ今更…今更、そんなことぉッ!!だったら、私はどうすればいいってのさ!?ここまでしといて、勝手に勘違いした挙句散々他の奴らを利用して…それで、どの面下げて、『どこ』に戻ればいいってのさ!?そんなの…私がただのバカみたいじゃんかッ!どうせ誰も信じられないのなら、もうこのまま…」

 

 

「俺がいるッ!!」

「ッ!?」

 流流歌の癇癪を、十六夜の大声が叫び飛ばした。

 

「ヨイ…ちゃん…?」

「流流歌、君には俺がいる。例え世界中の人間が君に後ろ指を刺そうとも、俺だけは君の傍に居る。他の奴らが君を傷つけようとするなら、俺が一生君の盾になる。君が望むのなら、俺はどんなことでもする。…だから、『独り』だなんて思わないでくれ。例え君が信じられなくとも、俺も…忌村も、君を信じている。どんなことがあっても、俺達は君を裏切ったりはしない、決してだ…!」

「十六夜…」

「…そんなの、そんなの分かんないじゃん!だって、ヨイちゃんが私を好きなのは、私のお菓子が好きだからで、本当の私のことを知ったら、私の事なんか…」

 十六夜の言葉を信じきれずにいる安藤に、十六夜はゆっくりと歩み寄る。

 

「…ヨイちゃん?」

「…分かっている。俺がどれだけ言葉を連ねようが、君はそう簡単に信じることはできないだろう。それは、俺が一番分かっていることだ。君が悪いわけじゃない。…だから、俺は証明しよう。俺の君への『愛』が、偽りなどではないということを…ッ!」

 そう言って十六夜は呆然とする安藤の手に握られたままのマカロンをひったくると

 

 

…パクッ

 なんの躊躇いも無く、そのマカロンを『食べた』。

 

「…!?」

「な…ッ!?」

「ちょ、アンタ…ッ!?」

「ば、馬鹿なぁッ!!」

「うわわわわわああッ!!?」

 皆がその光景を認めた時には、既に遅かった。

 

ピンポンパンポーン!

「……え?」

 目の前で起きたことに安藤が反応すると同時に、十六夜のバングルからサイレンが鳴り

 

「…ぐ…ッ、がァッ…!」

 瞬く間に侵蝕する毒の苦痛に呻き声を上げながら、十六夜はその場に崩れ落ちた。

 

「…よ、い…ちゃ…?…ヨイちゃぁんッ!!?」

「い、十六夜ッ!!」

「十六夜君ッ!なんつー真似を…」

 暴挙ともとれるその行為に、その場の全員が敵対していたことを忘れ十六夜に駆け寄る。

 

「なんで…なんで食べたのッ!?自分で分かってたんじゃんかッ!なのに…」

「…いい、んだ。流流歌…これで、俺の…『意志』を示す、ことが…できた…」

「え…?」

「君が、俺すらも…『信じていない』ことは、分かっていた…。だから、俺は…こうすることでしか、君に俺の気持ちを…伝えることができなかった…」

「…ッ!」

 絶え絶えの声で諭すように語る十六夜に、安藤は自分の本心を見抜かれていたことに驚きつつも目を離せない。

 

「だ、だからといってこんな真似を…そもそも、君はこんなことを望んでいないと言ったではないか!?」

「…そうだ、俺は…『流流歌の為』に、こうなることを避けた…。だから、これは…『俺の意志』だ。俺が、俺の都合でやったに過ぎない…。だから、君は…俺を恨んでいい…憎んでいい…。自分のせいだと、思わなくてもいいんだ…」

「そんな…ヨイちゃんッ!!」

「いいんだ…流流歌、愛して…い……る…」

 その言葉を最後に、とうとう十六夜は力尽きた。

 

「よ…ヨイちゃぁんッ!!」

 安藤は取り乱しながら十六夜に呼びかけたり揺すったりするが、もはや十六夜が応えることは無い。やがて安藤は顔を上げると、一瞬躊躇いつつも忌村たちに懇願する。

 

「…お願いッ!ヨイちゃんを…ヨイちゃんを助けて!アンタ達ならできるでしょ!?」

「それは…」

「…それは、貴女の『本心』なのかしら?」

 躊躇いを見せる忌村に対し、霧切は冷徹なまでに冷え切った声音で問う。

 

「霧切!?何を…」

「少し黙ってて。…安藤さん、一つ確かめさせて。貴女が十六夜さんを助けたいというその気持ちは、『本心』ととっていいのかしら?」

「な、何言って…そんなの…」

「さっき十六夜さんが貴女が十六夜さんすらも信じていないと言った時、貴女は否定しなかった。それは、十六夜さんの言葉が『真実』だと認めたと同意義だと取らせてもらうわ」

「……」

「そんな貴女に、十六夜さんを助けて欲しいと頼まれても、正直私はその言葉を信用することは出来ないわ。…むしろ、私たちを利用して出し抜こうとするための芝居とも考えているわ」

「霧切さん!いくらなんでもそれは…」

「私は『探偵』よ。どんな状況であろうと、あらゆる『可能性』を模索し、実証可能である限りそれを思考から外すことは出来ないわ。…まして、この状況下で『感情』に左右されて安易に他人を信用することは命取りよ。安藤さんが言ったとおり、今は『コロシアイ』の最中なのだから」

「むう…」

 ゴズと万代を言葉で捻じ伏せ、霧切は安藤になおも問う。

 

「貴女が他人を信じまいがどうでもいいわ。…けれど、貴女の願いを聞き入れるために、私たちには貴女を信用する『何か』が必要よ。貴女はそれを示すことができるかしら?貴女の願いに、一切の打算や邪な感情が無いと、そう証明できるのかしら?」

「…ッ」

 自分を見下ろす霧切と不安げに自分を見る忌村、そして目の前で少しずつ冷え切っていく十六夜をそれぞれ一瞥し、安藤は震える声で霧切の問いに答える。

 

「…分かんない…、そんなの分かんないよッ!!でも…ッ、このままヨイちゃんが死んじゃうなんて、そんなの嫌…ッ!誰も信じないで、一人で空回って、それで…ヨイちゃんまで居なくなっちゃったら…私は、『何の意味も無いモノ』になっちゃう…!だからお願いッ!私はもうどうなってもいいから…ヨイちゃんを、助けてくださいッ!!」

 これまでの態度が嘘であるかのように、安藤は頭を垂れて助けを乞う。その姿に、皆は目を丸くして驚く。

 

 

「……忌村さん、さっきの薬はもう残ってないのかしら?」

「…え?」

 そんな中、霧切はその驚きから即座に立ち直ると、隣の忌村に問いかける。

 

「さっきさやかさんに使った『毒の抑制剤』よ。もう残ってないの?」

「え、えっと…あれは、手持ちの薬で有り合わせで作っただけだから…もう残ってなくて…」

「なら、せめて『興奮剤』のようなものはないかしら?…この際だから、多少危険でも構わないわ」

「えっ…と、確か万が一の時の為に……あれ?無い…!?嘘、どこかに落とした…?」

「……なら仕方がないわ。ゴズさん、手を貸してくださるかしら?」

「は…?な、なんでしょうか?」

「十六夜さんの『心肺蘇生』を試みるわ。ほんの少しでも意識が戻るのなら、『方法』はあるわ。毒が回りきる前に、心臓マッサージで蘇生をお願い…!」

「…承知しました!」

 霧切の指示を受け、ゴズは十六夜の傍にしゃがみ心臓マッサージを始める。流れるようなその状況変化に、安藤はポカンとするしかない。

 

「…助けて、くれるの?」

「…もとより見捨てるつもりは無いわ。誠君は、誰だろうとこんなコロシアイの犠牲になることを望んではない。例え貴女に頼まれなくても、十六夜さんをこのまま死なせるつもりは無いわ」

「…なら、どうしてあんな冷たい言い方をしたの?」

「…そりゃきっと、流流歌ちゃんの『意志』を確認したかったんじゃあねえか?」

「流流歌の意志…?」

「もし流流歌ちゃんの性根があのままだったら、例え十六夜君を生き返らせても、きっとまた流流歌ちゃんは同じような事を繰り返す。…それどころか、『最悪の事態』になったっておかしくねえ。だから響子ちゃんは敢えて突き放したわけさ。流流歌ちゃんが、いざよ君の行動の意味を考えているのかを確かめるためにな」

「…ヨイちゃん」

 十六夜の蘇生に集中している霧切に代わって、黄桜がその意図を説明する。

 

「フンッ!フンッ!フンッ!フンッ!」

「…う、…ぐほッ…」

「フン…おおッ!?」

 とその時、ゴズの心臓マッサージにより微かではあるが十六夜が息を吹き返した。

 

「ヨイちゃん!?」

「霧切さんッ!!」

「ッ!」

 それを確認すると同時に、霧切は手袋の裏に隠していた『苗木の髪の毛』を引っ張り出す。

 

「お願い…間に合って…ッ!」

 霧切がそれを握りしめると、髪の毛に染み込んでいた『苗木の血液』が一滴漏れ出し、十六夜の口の中に入っていった。

 

ゴクン…

 

「……」

「……」

「……」

 十六夜の喉が微かに鳴り、皆が固唾を吞んで見守っていると…

 

 

「……がほッ!!」

 十六夜が大きく咳き込むと口から黒い液体…毒を吐き出した。

 

「げほッ…うあ…」

「ヨイちゃんッ!!」

「十六夜ッ!」

 皆の眼前で、十六夜はうめき声を上げながら目を開ける。

 

「流流…歌…」

「ヨイちゃん…ッ!」

「間に合いましたか…!」

「良かったぁ…」

「…ふぅ、やれやれね」

 変色していた皮膚が少しずつ血色を帯びていく様子に、なんとか間に合ったことを皆が安堵する。十六夜がかすれ声で安藤の名を呼びながら手を伸ばすと、安藤がその手を握る。

 

「ヨイちゃん!」

「流流歌…そこに、いるのか…?」

「…え?」

「十六夜君…まさか、『見えない』のか?」

「ええッ!?」

 自分の手を握る安藤の顔を見ようとする十六夜だが、その左目は開かれてこそいるが焦点が定まっていなかった。よく見れば、左手も動かそうとしていたが、マヒしたかのように小刻みに震えるだけであった。

 

「…忌村さん、どういうことか分かる?」

「た、多分…毒の後遺症だと思う。万代さんの時より解毒が遅れたから、脳にダメージが残って麻痺したままになったみたい…」

「……そう、なら私の責任ね」

「…ッ!」

「響子ちゃん、それは…」

「…霧、切。それは、お前が気にすることではない…」

 思わず睨もうとした安藤を制しながら、十六夜が語りかける。

 

「けれど…」

「さっきも言ったが、これは俺の意志…俺自身が望んでやったことだ。元々お前たちの助けなど期待していない…助けてくれたことには感謝するが、俺がどうなったところでお前が責任を負う必要などない…」

「……」

「…ヨイちゃん。なんで、なんであんなことをしたのさ…!?自分のNG行動、分かってたんでしょ?だったら、どうして…」

 改めて聞かれた安藤の問いに、十六夜は吐き出す様に答える。

 

「…流流歌、君が俺を信頼していないことは分かっていた。『あの事件』以降、君は誰にも心を許そうとはしなかった。表面上こそ取り繕っていたが、君が他の奴らを見るときの眼は、深い『警戒』か、どうやって『利用』してやろうか…そんな風に考えている眼だった。…それが、俺にも向けられていると知った時、正直俺はショックだった…」

「う…」

「…だが、俺はそれでも構わないと思った。それで流流歌が幸せになれるのなら、君のおいちいお菓子を食べられるのなら、俺は君の『道具』でいいと思っていた。例え一方通行でも、それが俺の君への『愛』だった。……だが、舞園に言われて俺は考えさせられた。俺が望んだ流流歌の幸せは、本当に『流流歌の為』になるのかと…」

 壁際で眠る舞園をちらりと見てから十六夜は続ける。

 

「俺にとって、未来機関などただの『ねぐら』に過ぎない。未来機関が掲げる『希望』がなんであろうと、『誰の物』であろうと、俺には関係ない。…俺にとって希望と呼べるものは、流流歌だけなのだから。だから俺は、何を犠牲にしようと、流流歌に生きて欲しかった。その為ならば、俺は例え流流歌に殺されても構わないと思っていた…」

「アンタ、そこまで流流歌のことを…」

「…だが、お前たちのせいで俺はそれに『疑問』を抱いてしまった。例えこのコロシアイで流流歌だけが生き残ったとして、その後に誰が流流歌を『守る』?生きていたとしても、誰も信じられず、本当の孤独にしてしまうことが流流歌の為になるのか?…そう考えると、死にたくない、死ねない…死んでなどいられない。そう思うようになってしまった…」

「…だったら、なんであんな無茶を…」

「…それを馬鹿正直に言って、君は俺を信じてくれたか?」

「……」

「君にそのことを伝えるには、『行動』で示すしかないと思った。裏切られることを恐れる君だからこそ、君を『信じている人間』がいることを証明したかった。…だからこれは俺にとって『賭け』だった。俺が君にとって、利己的であったとしても『信じられる存在』でなければ、俺はただの犬死にだったからな…」

「…だから貴方は、危険を承知で安藤さんのお菓子を食べたのね。お菓子を食べた人しか信じない安藤さんの気持ちを汲みつつ、自分の命を賭けることで自分がお菓子ではなく『安藤さん自身』を信じていることを証明するために…」

「…俺を馬鹿だと笑いたければ笑え」

「…そんなことはしないわ。むしろ、感心したわ。貴方がそこまで安藤さんの事を想っていたということにね」

「…フン」

「ホント…不器用だよね、アンタも…アタシも」

 不敵に笑む十六夜に、忌村は自嘲気味にそう苦笑いする。

 

「全部…全部、私の為だったってこと…?ヨイちゃんは、私を裏切っていなかったの…?」

「…ああ。とはいえ、それは全て俺の自分勝手な思い…ただの『自己満足』のようなものだ。君の意志とは関係ない、だから君には俺を恨む権利がある。…俺の勝手に君を巻き込んで、済まなかった…」

「……」

 安藤は十六夜を見つめたまま手を握る力を強め、そのまま十六夜の頭を抱きかかえる。

 

「…流流歌?」

「……ずっと、思ってた。世の中皆馬鹿ばっかだって。希望ヶ峰学園の分からず屋連中も、馬鹿みたいに絶望絶望言ってる奴等も、それにマジになってる未来機関も、化け物の癖に人間ぶってる苗木誠も…皆、馬鹿だって思ってた。でも…結局、一番馬鹿だったのは私だったんだね…」

「……」

「自分が貶されたっていう事実を認められなくて、誰かに責任を求めて勝手に裏切られたって思い込んで…こんなにも近くに、ずっと私を信じてくれた、信じられる人がいたっていうのに、それに気づかずその上疑って…ホント、馬鹿じゃんか…!」

「流流歌、それは…」

「ううん、ヨイちゃんは悪くないよ。悪いのは、『私が見たもの』しか信じようとしないで、その他皆を敵だと思い込んでた私…だから、ヨイちゃんはなにも悪くないよ。…ごめん、ごめんねヨイちゃん…ッ!こんな馬鹿な女を、好きになんかさせてごめんなさい…!」

「…いいんだ、いいんだ流流歌…。俺は、お前だけを愛している…ッ!」

 互いに涙を流し、力の入らない十六夜の分まで安藤が思い切り抱きしめる。それは、『疑念』という厚い壁越しに顔の見えない相手に愛を語らっていた二人が、初めて触れ合うことができた瞬間であった。

 やがてひとしきり泣き止むと、安藤は忌村へと視線を移す。

 

「…忌村、アンタも…ずっと私のことを見てたんだね。私なんか、もう忘れようとしていたのに…」

「…仕方ないよ。誰だって、辛いことは忘れたくなるから…。ああ、でも…さっきは、カッとなって追い回しちゃってゴメン…」

「…ホント、だよ…!あれ、すっごく怖かったんだからね…。それに、アンタの『糖質アレルギー』…だっけ?それを言わなかったってのもムカつく!友達だってんなら、正直に話すのが当然でしょ?…私が言えたことじゃあないけどさ」

「ご、ごめん…」

 

「…だから、『今度から』はもうそういうのは無し!もう相手の顔色窺ったりとかやめにして、本当に…『友達』になろう?そうじゃないと、折角のお菓子もおいしくないしね?」

「流流歌…でも、私はお菓子を…」

「私を誰だと思ってるの?私は元『超高校級の菓子職人』だよ。『糖質なし』のお菓子なんて、私にかかればラクショーだっての!…正直甘くないお菓子なんて嫌いだけど、アンタに食べてもらうためなら頑張ってみるからさ?」

「…う、うん」

「…約束だよ?『静子ちゃん』」

「…ッ!うん…『るるちゃん』…!」

 幼いころの『愛称』で互いを呼びながら、安藤の差し出した小指に忌村は自分の指を絡める。『偽りの友情』が終わりを告げ、ようやく二人は『本当の友』になることができたのであった。

 

「…これにて、一件落着ってか?やれやれ…これでもう安藤ちゃんに会うたびに胃がキリキリしないで済むぜ」

「ちょ…それどういう意味よ!?」

「だってよ…君会うたびに俺のこと睨んでたろ?あれで結構傷ついてんだぜ俺。まるっきり責任感じないわけでもないしよ…」

「だ…だって、アンタ学園では結構偉い人っぽかったし…それに、そもそもアンタにスカウトされたからこうなったって思ってたから…」

「…黄桜さんはあくまで『スカウト担当』であって人事そのものには関わっていないわ。それに言及するのは畑違いよ」

「わ、分かってるってそんなの!」

「…と、とにかく!これで安藤さん達も分かってくれたみたいだし、もう仲間同士でコロシアイは起きなくなっただよね?」

「…いえ、まだ『彼等』が…」

 

 

 

『…あーあ!つまんないのー!』

「ッ!?」

 緩みかけていた空気を突き刺すように、モニターに現れたモノクマが落胆の声を発する。

 

『折角コロシアイになると思ってみてたのに、こんなトレンディードラマでも使い古した3文芝居を見せられて、僕のテンションはダダ下がりですよ…。うっぷ、吐き気が…』

「…随分と『計算違い』が多い展開になっているみたいね。所詮『紛い物』の貴方に、本物のモノクマ…いえ、江ノ島盾子の真似事なんて不可能よ」

『…ふーん。随分余裕みたいだね霧切さん。…それとも、『時間稼ぎ』のつもりかな?朝日奈さんたちが今頃あのジャンクモノクマ軍団をやっつけてると、本気で信じているとか?』

「ッ!」

『うぷぷ!なら、その儚い『希望』を徹底的に打ち砕いてこそのモノクマだよね!…という訳で、中継切り替え、ドン!』

 

パッ

 モノクマの合図と同時に、モニターの画面が切り替わる。そこには

 

「…っ痛…」

「ぐ…ぬぅ…」

「ひぃぃ…!」

 体中に血を滲ませ、満身創痍の朝日奈達がジャンクモノクマに追い詰められている光景が映っていた。

 

「…ッ!!」

「か、会長ッ!朝日奈さん!」

『うぷぷ!いやー予想外に手ごわかったよ。…けれど、使えない『お荷物』を庇ったままじゃあ、ロートルの爺さんと素人に毛が生えた程度には限界だったみたいだねぇ~』

「クッ…!」

 

 

 

「ふ、二人とも…僕のせいで…」

 抵抗できないが故に二人に庇われ負担を強いてしまったことを自覚する御手洗は、弱い自分に自己嫌悪しつつ二人にそう言うしかない。

 

「…き、気にしないで御手洗さん…」

「君も、我々の大切な仲間じゃ…。ワシらは力が無いからなどと言う理由で、仲間を見捨てたりなどせん…!」

「うう…」

『…うう、ぐすッ…!なんという涙ぐましい慈愛の精神…これが未来機関の『理想』なんですね。…なら、その理想を抱えたまま死んでも文句ないよね~?』

「…来るッ…!」

『皆、いっけー!』

『シャガアアアアッ!!』

 モノクマの指示を受け、ジャンクモノクマ達はまさしく飢えた獣のように朝日奈達に一斉に襲い掛かった。

 

「う…うわあああああああッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコォン…!

 

 

 

 

フッ…

『ッ!?』

 その瞬間、突如館内のあらゆる照明が消える。

 

「な、何…?」

 

 

ガコォン…!

 

『ギ…ガゴ、ガ…』

ガショォン…

「ッ!?ジャンクモノクマが…」

 さらに、飛び掛かっていたジャンクモノクマ達も動きを止め、そのまま崩れ落ちる。さしものモノクマもこの事態に驚きを隠せない。

 

『な…!?こ、これはまさか…』

「これって…まさか…!」

 

 会議室でも、この事態に皆が戸惑っていた。

「ど、どうなってんの?」

「響子ちゃん、コイツはまさか…」

「…ええ。間違いないわ、誰かがこの本部内の『電源を落としている』のよ」

「ってことは…『誰か』が動力室に居るってこと?」

「し、しかし誰が…?動力室に向かった3人はまだあそこですし…」

「そんなもんどうだっていいじゃん!…ともかくモノクマ、これでアンタも終わりみたいね?」

『くうぅ…!そうはさせるか!こうなったら最後に…』

 と、モノクマが何かをやろうとした瞬間

 

ガコォン…!

 

ブツッ…

「あ…!」

 遂にモニター画面の電源も落とされ、全てのモニターが暗転する。

 

「…や、やった!モニターが消えたよ!」

「ここの監視カメラはモニターと連動してる筈だ…つまり、これで監視の目は完全に消えたぜ!」

「…でも、バングルはそのままみたいだけど…」

 忌村の言うとおり館内の動力が全て消えてもバングルは未だに装着されたままであった。

 

「…どうやら、バングルはここのシステムの依存せずに単独で起動しているみたいね。けれど、さしたる問題ではないわ。監視の目が無くなった以上、私たちのスタンドで破壊できるし、最悪『手ごと切り落とし』ても誠君が居るわ」

「…そうだ!これで苗木君も自由に…」

 

 

 

 

ピンポンパンポーン!

『ッ!?』

 刹那、『4度目のタイムリミット』を告げるサイレンが、霧切たちの背筋を凍らせる。

 

「ば、馬鹿な…ッ!」

「この、タイミングで…だと…!?」

「まさか、モノクマが…」

「そんな…」

「糞ッ…ここまで来て…」

「誠…く…ん…」

 最後の最後に待っていた悪夢に悔しさを抑えきれないまま、霧切たちは再び望まぬ眠りに就かされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 突如目を覚ました朝日奈の目に入ったのは、先ほどまで居た廊下ではなかった。

 

「私…ッ!そうだ、あのバングルで……でも、ここどこ?会長さんたちも居ないし…」

 鈍い痛みがする頭を振りながら、朝日奈は辺りを見渡す。朝日奈が居たのはどこかの小さな部屋の一室らしく、傍に居た筈の天願と御手洗の姿は無かった。

 

「でもこの部屋…どこかで見たような気が…」

 おぼろげながらもどこか『既視感』を憶えるその部屋に首を傾げつつも、朝日奈は後ろを振り返り…目を見開く。

 

「…あ…ッ!?」

 そこにあったもの、…いや、そこの椅子に座っている『人物』を見た瞬間、朝日奈はその既視感の正体を知った。

 

 

 

「さくら…ちゃん…!?」

 朝日奈の背後にあったソファーに座っていたのは、頭部と胸に傷を負い、口から血を流して沈黙する『大神さくら』…そう、あのコロシアイ学園生活で見た大神の死に様そのものであった。

 

「う、嘘…!?じゃあ、ここって…」

 ショックでハッキリとした思考で辺りを再度見渡すと、徐々に鮮明に思い出してくる。椅子や机で塞がれた入り口、壊れたボトルシップ、本棚の前に飛び散った血痕…そう、朝日奈が居たのは『あの時の娯楽室』の中であった。

 

「な、なんで…なんで私がここに…」

 

 

 

 

 

『ラリホ~!どうやらここがお前の『最も嫌な記憶』みたいだなぁ~?』

「ッ!?」

 聴き慣れない声にハッとしてその方向を見ると、自分の頭上に『奇妙な存在』が浮いていた。

 

『ラリホ~!』

 全身をマントで覆い、ピエロの様な仮面を被ったその口からは耳障りな嘲笑が漏れる。その手に持った大ぶりな『鎌』も相まって、それはまるで『死神』のようであった。

 

「あ、アンタ…!まさか…」

『そう!オレ様こそがお前たちの探していた『襲撃者』の正体!大アルカナのナンバー13!死神の暗示を司るスタンド、『死神13(デスサーティーン)』様だ!』

「死神のスタンド…!?じゃあ、ここはまさか『夢の中』…?」

『流石に察しがいいじゃあねえか!そうさ、オレ様の能力は『相手を夢の世界に引き摺りこむ』能力!そして夢の世界で死んじまった奴は、現実の世界でも死じまうのさ!』

「そ、そんな…」

『…だ・が♪ただ殺すってんじゃあ面白くもなんともねー。…だから、凝り性のオレ様は敢えて『オレの夢』ではなく『相手の夢』を引きずり出してそこに放り込むのさ。しかも、そいつが忘れたくても忘れられないぐらいのとびきりの『悪夢』の中にな!』

「悪夢…ッ!?じゃあ、これは私の夢…?」

『そうさ!そして、お前を殺すのはオレだけじゃねえ、『お前自身の悪夢』だッ!』

「ッ!?それは、どういう…」

 

 怪訝な顔をした朝日奈に、突如影がかぶさったように辺りが暗くなる。

 

「え…?」

 ふと振り返った先には…

 

「……」

「…さ、さくらちゃん!?」

 もう死んでいる筈の大神が無言で朝日奈の背後に立っていた。

 

「さくらちゃん…!生きてたの!?でも、確かにもう…」

「生きていた…だと?」

「さ、さくらちゃ…?」

 

ガシッ!

 突如大神は朝日奈の首を掴みかかるとそのまま持ち上げる。

 

「がッ…!?さ、さくらちゃ…苦し…」

「朝日奈…我によくもそのようなことが言えるな。我が死んだのは、お主が原因だというのに…」

「私…が…?」

「そうだ…!お主の弱さが、我に『死』を選ばせた!我が死に、皆の団結を図らねば、次に誰かを殺していたのはお主の筈だ!故に、我は死ぬしかなかった。お主に人殺しなどして欲しくなかったから…だが、我とて死にたくは無かった!我には、『帰りを待つ人々』が大勢いたのだ!そして、我が『愛する男』も…。その者達から我を奪ったのは、お主なのだ朝日奈ッ!!」

「あ…ッ!?」

 かけがえのない友からの紛糾に、朝日奈は苦しみながらも言葉に詰まる。

 

「そもそも、未来機関の存在を考えれば、生き残るべきなのは我の方だった筈だ。お主の行動は所詮、我の付け焼刃に過ぎん。死ぬべきだったのは、お主の方だったのだ。…だから、今この場で我の代わりに死ね。我の為に、その命を捧げるのだ。…それが、『友達』への手向けであろう?朝日奈…」

「……」

 やがて黙り込むと、大神の手を掴んでいた朝日奈の手がだれ下がる。

 

『…ラリホ~♪』

「…観念したようだな。ならば、おとなしくするがいい、苦しまずに終わらせてやろう…」

 

 

「…ざけるなッ…!」

「む?」

「…ふざけるなッ!さくらちゃんを馬鹿にするのも、いい加減にしろぉッ!!」

 

ドゴォッ!!

 激情と共に、朝日奈の振り回した足が大神の側頭部を捉える。

 

「ぬぐう…ッ!?」

『何ィ!?』

「さくらちゃんは、そんなこと絶対に言わない!自分の代わりに友達を殺すなんて…そんなこと絶対にするもんか!」

「き、貴様…」

「今分かった…!これは私の『弱さ』が見せている悪夢…。あの時、さくらちゃんの代わりに私が、皆が死ぬべきだって思った私の弱さが見せている夢なんだ!このさくらちゃんの言葉は、さくらちゃんの言葉じゃない…あの時の、『弱い私』の言いたかった言葉なんだ!…だったら、私は例えさくらちゃんでも抗って見せる!もう私はあの時の私じゃない…皆の、さくらちゃんの『遺志』を継いで、皆と一緒に誠の目指す『未来』に向かうんだ!だから…邪魔をしないで、『私』ッ!!」

『…こいつは驚いたぜ。まさか戦刃むくろだけじゃなくテメーまで自分の夢に逆らうなんてな。だったらしょうがねえ…俺が直接介錯してやるよ!』

「むん…ッ!」

「ぐッ…!」

 鎌を振り上げ迫る『死神13』から逃れようとするが、首を掴んだままの大神はさらに力を強めて離さない。

 

『ラリホ~!無駄無駄、そいつは確かにお前の夢だが、それはお前自身の抱いた『大神さくらのイメージ』そのもの!つまり、力だけはお前の知っている『超高校級の格闘家』大神さくらのまんまなんだよ!』

「さ、くら…ちゃ…」

「……」

『やれやれ…テメーみたいないい女を殺すのはモッタイネーが、中古には興味ねーしなぁー!一思いに首をぶった切ってやんぜーッ!』

 『死神13』が大きく鎌を振り上げ、朝日奈の首へと狙いを定める。

 

『アディオス、スイマー!また来世―ッ!』

 そして死神の鎌が、その命を刈り取るべく振り下ろされた

 

 

「……誠ォォォォォォッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ガシャァァァァンッ!!

『ッ!?』

「ッ!?」

 その瞬間、娯楽室の窓が砕け散った。

 

『な…!?馬鹿な…』

『無駄ァッ!』

 

バキィッ!!

『ぶげぇッ!?』

 砕けた窓の向こうから飛び込んで来た『何か』が、『死神13』を吹っ飛ばした。

 

『きゅう…』

 壁に叩きつけられた『死神13』は、呻き声と共に消えてなくなる。それと同時に、朝日奈を捉えていた大神も消失する。

 

「きゃ…!?」

 

ポスッ

 解放され落下しかけた朝日奈を、飛び込んで来た『何か』が抱きかかえる。息苦しさによるおぼろげな意識の中で、朝日奈はそれを見上げようとする。

 

「だ、誰…?」

 

 

『…ごめん、遅くなった。でも、間に合ってよかった…』

「…あ…!」

 顔はハッキリ視えなかったが、朝日奈はその言葉で理解した。それと同時に、辺りの景色が歪み始める。

 

『…さあ、目覚めの時だ。君に、もうこんな悪夢は必要ない。君は既に、自分の『弱さ』と向き合い、打ち勝っているのだから…!』

「…うん!」

『行こう、そして終わらせよう…!もう、こんな悲劇は終わらせなきゃいけないんだ!』

「うん…!」

 

 

 

 

 

「…大好き、『誠』…ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…う、うん…?」

 気だるげな声とともに、朝日奈は今度こそ目を覚ました。

 

「アレ…?私、…そっか、タイムリミットで…でも、なにか変な…」

 

 

 

「…目を覚ましたかい?」

「え?」

 ふとかけられた声に振り向くと、そこには先ほどまで居なかった人物が居た。

 

「あ…!」

「どうやら、葵が一番みたいだね。…最も、あんな『夢』を見た後じゃ例え薬で眠っていてもそうそう眠れないだろうしね…」

 既に半ば襤褸切れになりかけているロングコートを着ながらも、朝日奈に微笑むその姿は気高さを欠かさずにあった。自分たちが待ち焦がれていたその姿に、朝日奈の目から涙がこぼれる。

 

「…本当、本当に…?夢じゃないよね?私襲撃者に殺されて、夢を見てるんじゃないよね…?」

「…ああ、夢なんかじゃないさ。そんな悪夢は、もう終わった。…そして、もう誰もそんな目には遭わせない。これで、全てが終わるんだ…!」

「う、うん……って、アレ?それって…」

「…事情は後で説明するよ。ひとまず天願さんを起こして…それから、響子たちと合流しよう。そこで、全てを説明するよ」

「う、うん…」

 イマイチ事情を飲み込めきれない朝日奈に苦笑いしつつも、彼は『腕に抱きかかえた人物』を落とさぬように立ち上がる。

 

 

 

 

「…行こう、皆の所へ…!」

 眠ったままの『御手洗』を抱きかかえたまま、『苗木誠』は力強くそう言った。

 




3人の確執がようやく終わり、遂に苗木君解放。やっと交錯編が終わりに向かいます。…コロシアイだけはね

次に更新するときはダンガンロンパ霧切5が出る前か後か…ああ早く読みたい!

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