ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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0時に間に合わなくてスンマセン

ダンガンロンパ十神終わりましたけど…面白かったけどぶっちゃけストーリーがイマイチ理解できなかったッス…。
要するに、世界征服宣言自体は実際に起こった事件だけど、十神家の因縁が絡んだ云々に関しては、絶望小説を読んだ十神忍の執筆した「白夜行」によるとんでもないサブリミナル的な何か…って事なんですかね?
僕にはかなり難易度が高い内容だったので理解しきれませんでした…。読破した人、教えてクレメンス!


交錯編:外伝~黄桜公一の希望と絶望 後編

 最後の学級裁判の中継の翌日、未来機関からの救助部隊を待つまでもなく苗木達は自力で杜王町へとやって来た。希望ヶ峰学園から帰還した苗木達は、まるで『英雄』のような扱いを受けた。学級裁判の結末こそ放送されなかったものの、未来機関より正式に発表された『超高校級の絶望』江ノ島盾子の死、そしてあの中継に映っていた希望ヶ峰学園の生き残った生徒たちが杜王町にいる。その2つの事実を理解できないほど、生き残った人々は絶望しきってはいなかった。

 

 しかし、当の苗木達はそんな人々の扱いとは裏腹に浮かれてなどいられなかった。杜王町に戻って最初に知らされた情報が、気を抜きかけていた彼らを自然と押しとどめたのである。

 

 

 空条承太郎の『昏睡』…それが康一たちから知らされた事実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『人類史上最大最悪の絶望的事件』…全世界を巻き込んだ『絶望』による無差別破壊活動。その余波は、当然杜王町にも降り注いだ。当初こそ仗助ら杜王町出身のスタンド使いの面々だけで防げていたものの、杜王町が他の地域より安全だと知るや多くの避難民たちが押し寄せてきて、それを追いかけるように『絶望の暴徒』もまた集まり、徐々に彼らも劣勢となり、間田や鋼田一のような犠牲者もでることとなった。

 そんな折、アメリカのSPW財団本部に居た承太郎たちが、本社の陥落と同時にアメリカを脱出し杜王町へと避難してきた。いかに承太郎と言えど、絶望の暴徒の数の暴力の前では引き下がる他なかったのであった。…しかし、承太郎たちはこの状況を既に見越していた。先んじて杜王町に避難していた天願と合流すると、財団の残った資産や職員らを一つに纏め、絶望に『対抗』するための機関『未来機関』を創設した。それに伴い、仗助ら財団に関わりのあるスタンド使いや、生き残った希望ヶ峰学園のOB、それに財団の手を借りて避難してきた要人らも未来機関に所属することとなった。

 

 …その矢先の事であった。避難民たちの居住区域で突如起きた絶望の暴徒たちによる暴動。まだ幼い徐倫が巻き込まれていることを恐れた承太郎は真っ先に駆け付け、瞬く間に暴徒たちを鎮圧した。そして無事徐倫を保護し、安堵からほんの一瞬気を抜いてしまった…その時を、『奴』は見逃さなかった。

 

『返してもらうぞ、空条承太郎…!お前が『DIO』からかすめ取った『遺産』をな…』

 

 逃げ惑う人々に紛れ、承太郎の背後をとったのは『ホワイトスネイク』…エンリコ・プッチの操るスタンドであった。承太郎がその存在に気づき時を止めようとするよりも早く、『ホワイト・スネイク』は承太郎の頭蓋にその手を『挿し込んだ』。その瞬間、今にも『スタープラチナ』で殴り掛かろうとしていた承太郎がまるでスイッチを切られたロボットのようにだらんと脱力する。突然の事に呆然とする徐倫の目の前で、『ホワイトスネイク』が承太郎の頭から手を引き抜くと、その手には『2枚のDISC』が握られていた。承太郎の頭部には傷一つなかったが、承太郎はそれに反応することなくヨロヨロと徐倫に近寄り、力なく抱きしめると耳元で呟く。

 

「とう…さん…?」

「に…げ、ろ…じょ、りん…。お前は、俺の…き…ぼ……う…」

 その言葉を最後に、承太郎はその場に倒れ伏した。

 

『…死んだか。だが、抜け殻にもう用は無い。欲しかったものは既にこの手の中にある。もはやこの街に用は…』

『ん?』

 承太郎の体を抱きとめる徐倫から、そんな底冷えした声が聴こえてくる。

 

「もう用が無い?…違うわ、用なら『今』できたわ…!アンタじゃなくて、アタシがね…ッ!」

『…空条徐倫、お前に何ができる?お前のようなちっぽけな小娘に、一体何ができるというのだ?お前にできることは、承太郎の言ったとおり、この場から逃げることだけだ』

「逃げる?…冗談は程々にしなよ…!アタシが目指すものは、『目の前』にしかないッ!返してもらうぞ…お前が父さんから『奪った物』を…全部なッ!!」

 承太郎を静かに寝かせ、徐倫は決意の籠った眼で『ホワイトスネイク』を睨み、その『名』を叫ぶ。

 

 

「『ストーン・フリー』ッ!!!」

 

ズオッ!

 徐倫の全身が『解れた』。『ホワイトスネイク』を物陰から操っていたプッチは一瞬そう認識してしまった。徐倫の体が『繊維状』のなにかに解けていく。しかしそれは徐倫の背後でまとまり、何かの形を成していく。

 中性的ながらもたくましいその肉体は、女性でありながら強い意志を持つ徐倫の精神を具現化したようだった。顔にかかった『サングラス』のようなものが、強面なその顔をどこかスタイリッシュに見えさせる。

 それが、空条徐倫のスタンド『ストーン・フリー』であった。

 

『こいつは…ッ!?空条徐倫、貴様…何時の間にスタンドをッ!』

「…偶然とはいえ、苗木さんに感謝ね。あの時は正直なにがなんだかさっぱり分からなかったから今までほっといたけど…今なら、何故アタシがこの力を得たのかがハッキリ分かる…!こいつは、『ストーン・フリー』は、今この場で!アンタを叩きのめす為にあるッ!!」

 一瞬たじろいだ『ホワイトスネイク』に徐倫は『ストーン・フリー』で殴り掛かった。

 

『オラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

 

ドガガガッ!!

『ぐッ!?この…パワーは…ッ!』

 承太郎譲りの雄叫びと共に叩き込まれるラッシュを、『ホワイトスネイク』はかろうじて防ぐが徐々に押されていく。

 

「くッ…!空条徐倫、まさかあの小娘が既にスタンド能力に目覚めていたとは…。しかし、奴のあのパワーはなんだ?『スタープラチナ』に匹敵するほどのパワー…一体どこから…!?」

 物陰に隠れていたプッチは徐倫のスタンドのパワーに驚きつつも、やがてそのパワーの『秘密』を確信する。

 

(…い、『糸』だッ!奴のスタンド…『ストーン・フリー』は、厳密には『人型』のスタンドではなく『糸のような繊維』が人の形を成しているのだ!そして、糸は纏まることで硬さを増し、強固なものとなる…奴のパワーの秘密はそれだ!しかもただ強いだけではなく、それを制御する『しなやかさ』…『剛』と『柔』の両方を併せ持っているッ!)

『オラオラオラァ!』

『…とはいえ、まだまだスタンド使いとして動きは未熟。見切れないスピードでは…』

 能力の分析と共に冷静さを取り戻したプッチは、徐倫の攻撃をいなし始め

 

…ガシッ!

「ぐ…ッ!」

 やがて『ストーン・フリー』の両手を掴んで動きを封じた。

 

『掴んだぞ!貴様のスタンドを!…そして、これがどういう意味か理解できるか?空条徐倫ッ!』

「…ッ!?」

 

ズズ…!

 『ホワイトスネイク』が『ストーン・フリー』を掴むと同時に、徐倫の頭から承太郎の時のように『DISC』が飛び出し始める。

 

『お前のスタンドは、既に『DISC化』しつつある…。このまま私がちょいとそれを摘み取るだけで、お前は完全に無力になる…。理解できたか、空条徐倫。お前は選択を誤ったのだ。承太郎の言うとおり、素直に逃げるべきだった。でなければ…少なくとも、今この場で死ぬことは無かったのだ』

「……」

『手土産に貰っていくぞ…お前の『ストーン・フリー』を…!』

 

 

 

 

「…やれやれだわ。どうやら、理解してないのはアンタのほうみたいね」

『…何?』

 徐倫から出た『DISC』を掴もうとした『ホワイトスネイク』であったが、徐倫の意味深な言葉に思わず手を止める。

 

「アンタ…いや、アンタのそのスタンド、『遠隔操作型』の割にはやたらパワーが有った。それはつまり、『本体』がそう遠くない場所にいるという証拠。つまり、『アンタ自身』はこの近くに隠れている…例えば、そこの物陰からアタシを観察しているとかね」

「……」

『…だからどうした?お前が次になにかをする前に、私はお前を再起不能にできる。お前がいくら浅知恵を働かせようと、所詮は無駄な…』

「だから、アンタは分かってないって言ってんのよ。…アタシじゃなく、『父さん』をね。…父さんがいくらアタシが巻き込まれたからって、頭に血が上って『何も言わず』に一人で来ると思ってんの?」

「なんだと…?」

 

 

 

「…おい、アンタ。こんなところで何してんだ?」

「ッ!?」

 背後からかけられた声にプッチが振り返ると、そこには承太郎に『応援』を頼まれていた男…『東方仗助』が立っていた。

 

「東方…仗助…ッ!?」

「…おい、なんでアンタ俺の名前を知って…」

「仗助おじさんッ!!」

「!?…じょ、徐倫!?それに…承太郎さんッ!!」

 自分の名を呟くプッチに怪訝な顔になった仗助であったが、そのすぐ奥から承太郎を抱きかかえたまま謎のスタンドに襲われている徐倫を見てハッとなる。

 

「そいつは…ッ、スタンドか!?それに、承太郎さんがなんで…」

「仗助おじさん!そいつだッ!そいつがこのスタンドの『本体』だッ!!このスタンドに父さんの『何か』を奪われたんだッ!」

「ッ!?」

 徐倫から告げられた情報に目を見開き、次いですぐ傍で冷や汗をかいているプッチに視線を移すと、仗助は即座に臨戦態勢をとる。

 

「…そういや、思い出したッスよ。苗木が希望ヶ峰学園に入ったばっかの時に襲われたっつースタンド…『ホワイトスネイク』って言ったッスかねェ~?そいつの能力は確か『スタンド能力を奪う』ことができるらしいんスけど…」

「……」

「…グレート、どうやらビンゴみたいだなぁ…!ならよぉ…今すぐテメーをブチのめして、承太郎さんを元に戻せば、後は苗木が戻ってくりゃ全部丸く収まるっつー訳だよなぁーッ!」

「ぐ…ッ!ホワイトスネ…」

『ドラァッ!!』

 

バキィッ!!

「ぐおッ!?」

 すぐさま『ホワイトスネイク』を呼び戻そうとしたプッチであったが、それよりも早く放たれた『クレイジー・ダイヤモンド』の一撃を喰らい右腕をへし折られ、その弾みで『ホワイトスネイク』も持っていた承太郎の『DISC』の片方を落としてしまった。

 

パシッ!

「…返してもらったぞ。父さんからお前が奪った物を、とりあえず一つな…!」

「残りも今すぐ耳をそろえて返済願うッスよ…!こちとらカネにはちとうるさいダチのせいでその辺きっちりしてるからよぉ…!」

 にじり寄る徐倫と仗助に挟まれ、プッチは今までにないほどに焦っていた。

 

(落ち着け…、落ち着くんだ!追い詰められていることを悟られるな…素数を数えて落ち着くのだ!2、3、5、7、11……この状況をどうする?空条徐倫だけならまだいい…だが、東方仗助はマズイ…ッ!奴の『クレイジー・ダイヤモンド』は確実に私の『ホワイトスネイク』より強い…仮に1対1でも勝機は薄い…。幸い、『一番必要なモノ』は手に入っている。ここが潮時か…!)

 やがて平静を取り戻したプッチは、二人を睥睨すると重々しく口を開く。

 

「…確かに、これ以上望むのは無意味なようだ。過ぎた欲を出して身を滅ぼすことを神は望んではいない。ここは退かせてもらうとしよう…」

「…逃がすと思ってんのかコラァ?」

「全部置いて行ってもらうぞ…!お前が奪った物も、お前の命も…!」

「残念だがそうはいかない。私にはまだ『使命』がある、そしてそれは成し遂げられるべき『運命』なのだ。…その為に、私は『覚悟』を示そう。お前たち二人を相手に逃げ切るための『覚悟』をな…!」

「なんだと?」

 

 

 

「…やれ、『プラネット・ウェイブス』…ッ!!」

 

 

 

 

…ォォォォォォオ…ッ!

 3人の耳にどこからともなく、空気を切り裂くような轟音が聴こえてくる。

 

「…?なんだ、この音…?」

「…ッ!?じょ、徐倫―ッ!!『上』だァーッ!!」

「上…ッ!?」

 仗助の警告に空を見上げた徐倫は、その音の『正体』に気づく。

 

ゴォォォォォオ…ッ!!

 切り裂いた空気ごと燃やし尽くすかのような圧倒的な熱量とパワーで上空から『落下』してくるそれは、誰もが知っている、しかし実際にそれを見たことが有るものなど殆どいない筈の物であった。

 

「『隕石(メテオ)』…だと…ッ!!?」

 唖然とする徐倫達めがけ降り注いだのは、灼熱の炎を纏った直径30センチ前後の『隕石群』であった。

 

「か…躱せェーッ!!」

 

ドゴゴゴゴゴォッ!!

「うおああああッ!!?」

 徐倫たちから半径10メートル程を起点に次々と降り注ぐ隕石が、徐倫と仗助…そしてプッチすらも巻き込んで無差別に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 …結果だけを言えば、その後プッチには逃げられてしまった。隕石群を防ぐこと自体は『クレイジー・ダイヤモンド』にとっては造作もないことであったが、意識不明の承太郎と未熟な徐倫を庇ったままプッチを捕えることは流石にできず、隕石が降りやむ頃には姿を消してしまった。

 その後、駆けつけた黄桜や康一たちにより仗助や徐倫は手当てを受け、『スタンド能力』と『記憶』を奪われ植物人間状態になってしまった承太郎は、露伴の『ヘブンズ・ドアー』やトニオの『パール・ジャム』により肉体の消耗を無理やり停止させた状態でどうにか一命を取り留めることとなった。

 

 仗助が取り戻した『スタープラチナ』の『DISC』は、徐倫が預かることになった。最初は承太郎に戻そうとしたが、スタンドだけでは承太郎を目覚めさせることは出来ず、それならむしろ『スタープラチナ』だけでも戦力として使った方が早期解決に繋がると判断した結果であった。…最も、仗助たちを含めた未来機関の精鋭たちで試しては見たが『スタープラチナ』のパワーを制御できるものは誰もいなかったのだが。

 

 これが、『人類史上最大最悪の絶望的事件』の中で杜王町にて起きた事件の顛末であった。そして…

 

 

 

「…なんだか、思っていた以上に久しぶりな気がします。こうしてお二人と顔を合わせるのも…」

「まあ、実際『1年ぶり』だからなぁ。最後に飲んだのは…シェルター化を始める前日でしたよね、天願さん?」

「そうじゃな…。…『一人足りない』のは残念じゃが、今はこうしてまた再会できたことを喜ぼうではないか」

「…はい」

 苗木達が未来機関に保護された日の深夜、未来機関仮本部の一室にて、苗木、黄桜、天願の3人…かつて霧切仁と共に学園の在り方を語りあった面々が再び集まっていた。

 

「…ま、辛気臭いのは程々にしましょうや。それより、さっそく一杯やるとしようじゃねえか」

「ふん…。飲むのは結構じゃが、この間のように飲み過ぎて支部長業務を疎かにするのは許さんぞ?」

「わ、分かってますよ…」

「アハハ…あ、黄桜さん。よかったらコレ飲みませんか?」

 自分に気を遣わないようにと意気揚々とグラスを持ち出す黄桜に、苗木は酒のボトルを一本差し出す。

 

「これは?」

「…義父さんの部屋にあったものです。響子に見つからないように隠してたみたいですけど…あのまま眠らせておくよりは、黄桜さんや天願さんと飲んだ方が、義父さんも喜ぶと思いまして…」

「…だ、そうだが黄桜君?」

「……そう、だな。んじゃ、仁には悪いが遠慮なく頂くとしますか」

「ええ…あ、グラスは『4つ』出してもらっていいですか?」

「4つ?ああ、いいが…」

 言われるがまま黄桜はグラスを4つ用意すると、苗木はそれらすべてに酒を注ぎ、黄桜、天願、自分に配り…最後の一つを『誰も居ない席』の前に置く。

 

「それは…」

「…ついこの間まで『死んだ仲間』に助けられていたからか、なんだか義父さんもまだ見守ってくれてるような気がして…。ここにいるかは分からないけど、せめて…一緒に楽しめたらって思いまして…」

「…ありがとよ、苗木君」

(…見守って、か。こういうところなんじゃろうな、苗木君が皆に受け入れられておるのは。超然的な在り方の中に、こうした年相応の幼さを残しておる。例え『人ならざる存在』になろうと、それがある限り苗木君は誰よりも『人間臭い』んじゃろうな…)

 

 

 

 

「…なら、これは代わりに私が頂くわ」

「!?」

 後ろからスッとグラスを手に取ったのは、いつの間にか部屋に入って来た霧切であった。

 

「きょ、響子ちゃん!?」

「ご無沙汰ね、黄桜さん。…それと、改めてお久しぶりです、天願会長」

「うむ。先日はあのような場であったから込み入った話はできんかったからのう…」

「ええ。…ところで、これは頂いてもいいでしょう?お父さんも、私が吞むのなら文句は言わないわ」

「…そりゃいいだろうけど、しょっぱなからそれはキツイと思うんだけど…?」

「…ああ、そういや響子ちゃんまだお酒飲んだことないだっけか?確かに最初の酒にしてはそいつはキツイぜ…」

「…もう数ヶ月もすれば私も20歳よ。多少はいいでしょう?それに…『4年』もフライングしていたどこかの誰かさんと、それを黙認していた悪い大人の人たちにどうこう言われたくはないわね?」

「…さ、さあー…!せっかくの響子ちゃんのお酒デビューなんだし張り切って飲もうじゃあねえかー」

「そ、そうですね…」

「う、うむ…」

 霧切の当然すぎる正論に『どこかの誰か』も『悪い大人』も返す言葉も無い。

 

「じゃあ、僭越ながら……未来機関で戦う人たちと、今迄絶望との闘いで亡くなった人たち、そして…希望ヶ峰学園で死んでしまった皆と、義父さん…霧切学園長に、乾杯…!」

「…乾杯!」

「乾杯…」

「乾杯」

 

 

 

 

 

 

 数時間後…

 

「すぅ…すぅ…」

「…まあ、こうなるとは思っていたけどね」

 最初こそ酔いが回ったのを悟られぬようポーカーフェイスを保っていた霧切であったが、あのコロシアイ学園生活から解放された気の緩みと、またこうして信頼できる人たちが周りにいる安心感もあってか、現在は苗木の膝を枕に静かに寝息をたてていた。

 

「済みませんお二人とも、ここまで『付き合ってもらって』…」

「なあに、この程度まだまだ序の口じゃよ。…しかし、わざわざ霧切君を酔いつぶさんでも良かったのではないのか?」

「…そうかもしれませんけど、今はただ、響子を休ませてあげたくて…。あのコロシアイの最中で、響子はずっと気を張り続けていましたから。またすぐに忙しくなると思うので、今ぐらいは休んでもいいと思って…」

「…ああ、そうだな。…それにしても、美人になったもんだな、響子ちゃん…」

 今では自分だけが知るあのあどけなかった頃の面影を微かに残したその寝顔を見ながら、黄桜はしみじみとそう呟く。

 

「ふっ…すっかり『父親』の顔になっとるな、黄桜君」

「…そう、っすかね?」

「はい。…黄桜さん、できればもう無茶なことは控えてくださいね。つい先日まで僕らの救助の為に学園に突入しようとしていたと聞きましたけど、もし貴方まで死んでしまったら…もう響子には、これ以上大切な人を失って欲しくありませんから」

「…ああ、分かってるよ」

「…さて、ではそろそろ『本題』に入ろうかの」

「はい…!」

 天願の言葉に、苗木と黄桜は顔つきを改める。

 

「苗木君、君たちの方針は決まったのかの?」

「…はい。僕はむくろを連れて近日中にイタリアに…パッショーネに戻ります。手配はジョセフさんにお願いしました。他の皆に関しては、このまま未来機関に所属してもらいます」

「…本当にむくろちゃんだけでいいのか?こっちは別になんとかならなくもないんだぜ。江ノ島盾子が消えて絶望の残党連中の勢いも弱まるだろうしよ…」

「…いえ、今だからこそ未来機関の力を強める必要があります。江ノ島さんの直接的な影響が無くなっても、彼女が遺した『絶望の残滓』は未だに色濃く残っている。…それに、まだ所在の分からない『超高校級の絶望』…77期生の皆を確保するために、皆の力はきっと役に立つと思いますから」

「77期生…か」

「…天願さん、彼らを確保したとして、その身柄の安全を保証しておくことはできますか?」

「…難しいじゃろうな。彼らの存在は余りにも危険すぎる。『超高校級の才能』を持つ者が絶望に染まったとなれば、それはただの残党共とは訳が違う。捕えるとなれば、未来機関の『支部長』…同じ『超高校級』である彼らの力を借りねばならんじゃろう。だが、その中心的存在である宗方君がそれを許すとは到底思えん…」

「…雪染さんがいても、ですか?」

 苗木の質問に、黄桜が気まずそうに答える。

 

「ちさちゃんは…どうにもあの子たちと関わるのを『避けてる』ような気がするんだよな。多分、自分一人だけが無事だったことを負い目に感じちゃってるんじゃあないかな?…ちさちゃんは、本当にあの子たちの事を想っていたからな」

「だから、宗方さんに対して強く言えない…ということですか」

「まあな。…そもそも、学園で教師してたのも元々は宗方君の為だったらしいからな。宗方君の邪魔をすることだけはしたくねえんだろ。…例え自分がどれだけ傷ついてもな」

「…宗方さんは、どうしてあそこまで絶望を憎んでいるんでしょうか?学園に居た頃はあまり交友がなかったので僕にはよく分からないんですけど…」

「…おそらくは、宗方君の『元超高校級の生徒会長』としての在り方のせいじゃろうな」

「超高校級の生徒会長の…?」

「宗方君の『超高校級の生徒会長』としての才能は、君の知ってる『村雨君』とは少し違うんだ。村雨君はなんつーか…どっちかっつーと『穏健的』な、話し合いと思いやりで和を保とうとする才能なんだが、宗方君のは…問題を徹底的に片付けて無駄をなくす『攻撃的』なものでな。学園に居た頃も、ちさちゃんが対応しきれないような生徒の問題を逆蔵君とかを使って抑え込んでいたからな。君らがいた時に比べると彼の在任期間中は学園も静かなもんだったんだぜ」

「…だから、絶望を許せない。なんの理由も、大義も、意味もなく破壊と絶望を振りまく彼らを、誰かを傷つけることしかできない絶望を許せない。…それが、宗方さんの『超高校級の生徒会長』としての『矜持』だから…」

「そういうことじゃろうな。だからこそ、評議委員の学園を利用するやり方が気に入らなかったんじゃろう…」

 宗方京助という男は、そういうものであった。自分が多くの人たちからの『希望』を背負っているという自負があるからこそ、例え犠牲を出してでも絶望を『憎むべきもの』として滅ぼそうとする。自分を信じてくれている人々が、これ以上理不尽を享受することがないようにと。その責任感が、宗方を過激なまでに絶望の排除に駆り立てていた。

 

「…でも、きっとそれだけじゃない気がするんです」

「む?」

「それだけじゃないって…他になにかあるのか?」

「…僕の推測でしかないんですけど、きっと宗方さんがあそこまで躍起になっているのは…雪染さんが『悲しんだ』からだと思うんです」

「……」

「雪染さんは、宗方さんにとって最大の『絶望の被害者』です。自分が守る筈だった77期生の皆を『超高校級の絶望』なんてものにされ、七海さんに至っては…『愛する人に殺される』なんて残酷な目に遭わせてしまった。だからこそ、宗方さんは雪染さんが生きる世界から、絶望を失くそうとしているんだと思うんです。…もう二度と、雪染さんを悲しませない為に…」

 それは、『愛する人がいる』苗木だからこその推測であった。普段こそそっけないが、宗方の雪染を想う気持ちが本物であると信じているからこそ、宗方は自分の矜持だけでなく、雪染の為に絶望と戦っているのだと、そう信じたかったのである。

 

「…どちらにせよ、宗方君を言いくるめるにも限度がある。そう長い間生かしておくのは難しいじゃろう。彼らを救いたいのならば、君がやるしかない…」

「…分かっています。その為にも、僕はパッショーネに戻らなくてはならない。宗方さんに認めて貰えるだけの実績と意志が無ければ、僕の言葉を届けることはできませんから」

「…絶望の残党に77期の皆、そしてエンリコ・プッチ…だったか?まったく、あの地獄から脱出したってのに、どうして君はこんなに抱え込むのかねえ…?」

「仕方ないですよ、…僕が望んだことですから。僕は、もう何も捨てたくない。諦めたくない、犠牲になんてしたくない。例え無理だとか無駄だと言われたって、僕は全てを守りたい。『希望』を信じた先に、必ず『未来』がある筈だから…!」

「…その中に、彼女も…江ノ島盾子もいるのかね?」

「…ッ!はい…。彼女は、僕の『罪』そのものです。江ノ島さんは僕を『唯一の理解者』と言ってくれたけど、僕は…そうは思っていない。彼女の『希望』を信じたから、彼女の『絶望』を受け止められなかったから、彼女の絶望は世界中に溢れてしまった。…僕は江ノ島さんに、絶望を振りまくための『時間』を与えてしまった。だから…僕は、その償いをしなければならない。彼女の絶望を、今度こそ受け入れてあげたいから…」

「…やれやれ、我らの『希望』は、本当にお人よしだこと」

 苦笑しながら黄桜はグラスの残りを一気に煽った。

 

「…さて!じゃ、そろそろ解散しましょうかね。明日からまた忙しくなるしよ」

「うむ、そうじゃな」

「じゃあ、響子は僕が連れて帰ります」

 霧切を起こさぬよう抱き上げ、苗木は立ち上がる。

 

「それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ」

「また明日な」

 塞がった両手の代わりにスタンドに扉を開けさせ、苗木は二人を残し部屋を辞した。

 

「…天願さん」

「分かっておる。彼らの力は重要じゃが、だからと言って全てを任せる訳にはいかん。ワシらも『大人』として、せめて彼らの障害を取り払うぐらいの事はせねばならん。その為の『未来機関』なのじゃからな」

「ええ、そうですね…」

「…その為にも、多少無茶振りでも早いところ彼らに立場と実権を持ってもらわねばな。さしあたっては、今度新設する『十四支部』の支部長にでもなってもらおうかのう?」

「…なら、十神君辺りが妥当だと思いますよ。補佐に響子ちゃんをつければ万が一の時も…」

 当人たちを差し置いて、天願と黄桜は今後について話し合う。自分たちが信じた希望が、今は亡き盟友が託した希望が正しいものであると、彼らも信じているから。

 

 

 

「……」

「……」

「…起きてるんだろ?響子」

「……ええ」

「寝たふりなんかしなくても良かったのに…」

「折角気を遣ってくれているのだから、形だけでも甘えさせてもらおうとしただけよ」

「そっか。…聞いてた?」

「…本当に、貴方は無茶ばかりする人ね。そんなんだから、私たちが皆で貴方を早死にさせないようにしようとしたのを忘れたの?」

「忘れてなんかないよ。…でも、もう無茶しないなんてことはできない。無謀でも、不可能でない限り僕は諦めない。希望も、絶望も、きっと『分かりあえる』と信じたいから。…それが、僕の求める未来だから」

「…本当に、無茶で無謀だわ。…でも、私たちはあなたのその『覚悟』に希望を見出したのね。だから、付き合うわ。最後まで、貴方が納得する未来が来るその日まで…」

「…ありがとう、響子」

「礼なんて要らないわ。…貴方の希望が、私の求める未来なのだから」

「…うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、苗木達はそれぞれの居場所につき、目まぐるしい活躍を成した。十四支部の新支部長となった十神はそのカリスマ性と経営能力でたちどころに十四支部の規模を広げ、たちまち自分の派閥を作りSPW財団の後ろ盾もあってか他の支部長に引けをとらない立場を得た。

 

 また、十四支部は『未来機関の広報活動』を目的としているため、その広告塔に舞園が当てられた。コロシアイ学園生活で一度は醜態を晒したこともあって不安もあったが、舞園の『アイドル』としての求心力は未だ健在で、彼女のファンを中心に未来機関の存在は爆発的に広まることとなった。

 

 朝日奈は自慢の体力と人懐っこさを生かし各支部への応援に駆り出されることが多く、優秀なスタンドに加え高い身体能力もあって暴徒の鎮圧だけでなく資材運搬や救助活動などで活躍した。

 

 葉隠は正直戦力外と思われていたが、結果はどうあれ確実に『3割当たる』占いは人々の心の癒しだけでなく未来機関の活動にも生かされ、なんだかんだと正規隊員として活動していた。

 

 かたや腐川は文学少女としてちまちまと執筆活動こそしていたが、『ジェノサイダー翔』としての側面がネックとなり、なかなか正規の機関員には成れずにいた。しかし、十神の子飼いとして裏で人知れず動いており、十四支部内ではそれなりの立場にあった。

 

 霧切は副支部長となり、十神の手の届かない所や他の支部、パッショーネとの連絡を一手に担い、未来機関内でも一目置かれる存在となった。

 

 そして、苗木と戦刃はイタリアに到着するとネアポリスで奮戦していたミスタ達パッショーネのメンバーと合流し、その勢いで瞬く間にネアポリスを絶望の残党から奪還し、生き残った欧州各国の軍隊や戦いの最中で更正に成功した絶望の残党たちを取り込み、凄まじい勢いで勢力を強め、僅か半年でヨーロッパの『四割』を絶望から解放したのであった。

 

 

 

 

 …そして現在、黄桜は完成した『未来機関本部』の会議室にて他の支部長らと共に苗木の到着を待っていた。

 

(…本当に早いもんだ。一年半前には考えすらしなかった77期生の子たちの処遇を話し合うなんてよ…)

 黄桜と天願は、苗木から今回の議題をあらかじめ聞いていた。あからさまに苗木の味方だと悟られぬよ余所余所しく務めることを心がけてはいるが、黄桜としては彼らを救ってほしい気持ちがあった。

 

(しかし…ちさちゃんにぐらいは話しとくべきだったかな?ちさちゃんにとってもいい機会だとは思ったんだが…)

 皆が席に着く中、一人ホワイトボードを磨いたり各所の掃除をしている雪染を横目に黄桜はそう思う。…思うだけで行動に移さなかったのは、黄桜自身も分からない『何かの予感』が、それを想い留めていたからであった。

 

(…まあ、どうせすぐに分かることになるからいいか。きっとちさちゃんも分かってくれるだろうしな)

 

 そうこうしている間に宗方がやってきて、皆に苗木の危険性を説く。それに複雑な気持ちになりながらも相槌を打っていると

 

ガチャ…

「…!」

 霧切たちを伴って、ついに苗木が会議室にやって来た。

 

(さあて…!ここが終われば、もう後少しなんだ。未来機関とパッショーネが纏まりさえすれば、もう絶望の残党なんざ問題じゃなくなる。これはあの子たちを助けるだけじゃなく、これからの俺達の『方針』を決める会議でもある。だから…頼むぜ、苗木君…!)

 不敵に笑う苗木を心強く思いながら、黄桜は会議へと向き合った。

 

 

 

 

 

 

 しかし、黄桜の期待を嘲笑うかのように、その会議が実を結ぶことはなかった。

 

 

 

 

 モノクマによってもたらされ、『雪染の死』を始まりとしたコロシアイによって。

 

 

 

 

 

 だが、

 

「…まだだ。まだ諦めるには早いよな、そうだろ苗木君…仁ッ!」

 

『公一…もし、俺が死んだら…俺に代わって、響子の幸せを見届けてやってくれないか?…無論俺も死ぬ気は無いが、万が一の時には…何十年後か、お前が来た時に響子の『花嫁姿』を教えてくれ。悔しいが、その時にはヴァージンロードは譲るさ。…頼むぞ、親友』

 

「ああそうさ…!俺も託されてんだ、ダチから…その娘の幸せをよ…ッ!だから、その為に…響子ちゃんは、俺が守るッ!」

 黄桜は諦めない。親友から託された『希望』を、決して絶やさぬために。友の想いを守ることが、黄桜公一の『希望』なのだから。

 




「プラネット・ウェイブス」の本体に関しては別のお話で出てくると思いますが…ヒントを言うなら、ダンガンロンパスピンオフキャラの誰かです。
徐倫のスタンド覚醒のいきさつは誰かの番外編で語られます

あと宗方のあれこれに関しては完全に私見ですのであしからず

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