ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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前後編とはなんだったのか。
他キャラの心理描写やら伏線やら詰め込んでたら終わりまで合わせると2万字オーバー…。流石に読むのはしんどいと思ったので苦肉の策で分割いたしました。

なんという失態…おいは恥ずかしか!生きてはおれんごッ!

はやく2部を描きださないとと言っておきながらこの始末…とりあえずどうぞ


交錯編:外伝~黄桜公一の希望と絶望 中編

ザワザワ…

 黄桜達がモニタールームにやって来ると、そこには天願や宗方ら未来機関の幹部を始め、仗助やジョセフなどのSPW財団の関係者が集まっていた。

 

「…む?おお黄桜君、帰って来たのか。無事で何よりじゃ」

「ええ…スンマセン、結局何もできず…無駄に犠牲だけを出しちまいました…」

「…うむ。そのようじゃな。…じゃが、その風体を見れば君がどれほど死力を尽くしたのか一目でわかる。気にするなとは言えんが…誰も君を責めたりなどせんよ」

「…はい」

 ボロボロの装備と泥と埃にまみれた黄桜は周りから見ても人一倍浮いていたが、それに不快感を示すものは誰も居なかった。

 

「まあともかく、よく帰って来た。…それに、ちょうどタイミングも良いみたいじゃしのう」

「ッ!じゃあ…」

「ああ、もうじきあの希望ヶ峰学園で最後の学級裁判が開かれる。…その結果次第で、我々の方針も大きく変わる。もし、この学級裁判で78期生が黒幕に負けることになれば…その時は、『学園そのものの破壊』もやむを得ないと判断する」

「な…ッ!?」

 宗方から告げられた告知に、黄桜は目を見開いて驚く。

 

「これは決定事項だ。…会長も了承している」

「天願さん!?」

「…仕方のないことじゃ。彼等が負ければ、もう絶望が…『江ノ島盾子』がこれ以上時間をかける必要は無くなる。彼女が絶望の暴徒に合流し、大攻勢をかけてくることになれば…そうなれば、現状の戦力での抵抗は困難じゃ。ならば、もうなりふり構っている場合ではない…」

「…クッ!」

 反論もできず目を逸らす黄桜。と、ふと周りを見渡し若干の違和感を覚える。

 

「…天願さん、康一くんがいないみたいですけど、どうしたんですか?」

「ああ、彼と岸部露伴君…それと、音石明には少し『別件』で動いてもらっておってな」

「別件…?」

「…ッ!おい、そろそろ始まるぜ!」

 仗助の声にモニターを見れば、エレベーターから降りた生徒たちが学級裁判場へと入って来ていた。皆今迄と同じように、互いを疑い合うような目でけん制し合う…しかしその中で、苗木だけが毛色が違っていた。

 

「あ…?苗木の野郎、服が変わってねえか?」

「あ…本当だ。しかもあの服…苗木君の『いつもの格好』だよ!」

「服装もじゃが…あの雰囲気、あれはまるでかつての…」

 

『…これは僕の服じゃあないか。元からあったものだよ、…そう、ずっと前からね』

「ッ!?」

 苗木の発した言葉に、苗木を良く知る者達はその意味を察する。

 

「天願さん…!もしかして、苗木君…」

「うむ。おそらく、既に『思い出している』のかもしれん。…どうやら、最後の手段の準備をする必要はなさそうじゃのう」

「何…?どういう意味だ?」

「…まあ見てな。…頼む苗木君、君の手で、今度こそ終わらせてやってくれ…ッ!」

 怪訝そうな顔をする宗方らを宥めながらそう願う黄桜の眼前で、遂に最後の学級裁判が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 …最後の学級裁判は、今迄の学級裁判とは大きく異なる内容となった。完全に記憶を取り戻した苗木誠により、未解決だった『戦刃むくろ殺し』の謎はあっさりと解明され、その勢いのまま江ノ島盾子に扮していた戦刃むくろ、そしてモノクマを操っていた『真の黒幕』である江ノ島盾子も正体を現した。

 そして苗木と江ノ島によって語られる『人類史上最大最悪の絶望的事件』、そしてこの『コロシアイ学園生活』の真相。それは裁判場の生徒達は勿論、モニタールームの一同や同じ中継を見ている世界中の人々にも衝撃を齎した。

 

「『カムクラプロジェクト』…!やはりアレが全ての元凶だったのか…」

「…私が、もっと早く気づいていれば…、私が…七海さんと日向君を守れていたら…ッ!」

「…クソッ!」

「天願さん…アンタ、とんでもねえこと隠してたんスね」

「…面目ない。叶うなら、ワシらでカタをつけるべきだとタカをくくったワシの責任じゃ。…決して君たちを信用していなかった訳ではないんじゃ」

「…分かっておるよ。君の気持ちは理解できる。…が、言わせてもらうなら…まだまだ青いな、『天願君』」

「…はい」

 ジョセフから窘められ、さしもの天願も自らの力不足を改めて実感し、消沈する。

 

「…けどよぉ~、なんだって江ノ島の野郎はこんなにベラベラ喋っちまうんだ?こんなことバラしちまったら自分が全部悪いって言ってるようなもんじゃあねえか?」

 億泰が口にしたそんな疑問に、黄桜が答える。

 

「…多分だが、彼女には今『苗木君しか視えていない』んだと思うぜ」

「どういう意味デショウカ?」

「江ノ島…ちゃんはよ、学園に居た時から苗木君の事をずっとマークしてたんだ。あんときはてっきりからかってるだけかと思ったんだが…今なら分かる。彼女はきっと、あの時からずっと苗木君のことを『敵』だと認識してたんだろう。それも、テメーがマジにならなきゃ絶対に勝てねえ、そういうモンだと思ってな…」

「…つまり、彼女は今苗木君に『真っ向勝負』を挑んでおるということか?全てを明らかにしたうえで、江ノ島盾子の『絶望』と苗木君の『希望』の、どちらが正しいのかということを…」

「ええ…。でなきゃ、記憶思い出した苗木君を生かしておく必要はないでしょう?」

「この期に及んでなにをふざけたことを…ッ!」

「そう猛るな、宗方君。…それにある意味でこれは『好機』じゃしのう」

「好機…ですか?」

 天願の言葉に、傍で控えていたゴズがその意味を問う。

 

「うむ。…正直なところ、江ノ島盾子を含めた『絶望』に真っ向から挑んだところで勝機は殆ど無い。数においても負けておる上に、彼女は恐らく人類において有史以来最高のカリスマを持ち合わせた『天才』じゃ。彼女が居る限り絶望の暴徒共は決して絶えることは無い。彼女自身が、絶望を生み出す『源泉』なのじゃからな。…だが、今江ノ島盾子は『たった一人』じゃ。これは江ノ島盾子を倒す唯一無二の機会なのじゃよ」

「…それを、彼らに…苗木誠に託すというのですか?まだ、18歳の子供に…世界の命運を託すと?」

「それを言ってしまえば、江ノ島盾子とて18歳の子供じゃ。…それしか手が無い以上、仕方あるまい。江ノ島盾子も、それを分かっているからこそ、苗木君を霧切君以上に警戒していたのじゃからな」

「…理解は、できます。ですが…『納得』は、できません。あの子たちに、そんな責任を押し付けている自分たちに…ですが」

 モニターの向こうで江ノ島と向き合う苗木達。自分たちが生き残るだけでも必死な彼らに、そんな重荷を科せているという事実に、見た目の割に良識的なゴズは己のふがいなさに拳を握りしめる。希望ヶ峰学園に居た頃の彼の豪放磊落ぶりを知る天願は、その時とのギャップに思わず苦笑する。

 

 と、その時

 

『バリバリバリバリ…ッ!』

「ッ!?な、なんだ!?」

 突如裁判場のモニターの一つからスパークが迸り、裁判場は勿論見ている人たちも騒然となる。しかしそんな中、天願や仗助たちだけはそれに喜色を見せる。

 

「…間に合ったか!」

「会長…?一体何が…」

「あ、アレッ!」

 そのモニターの中から、恐竜を思わせるような異形の存在が電流を纏って飛び出してきた。

 

「あ、アレは…?」

「『レッド・ホット・チリ・ペッパー』…音石のスタンドッスよ!」

「アレがスタンド!?い、一体どうやってあそこに…」

「音石明のスタンド…『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は『電気と一体となる』ことができるスタンドじゃ。その性質を利用して、学級裁判を中継している衛星から電波に乗ってあの裁判場にスタンドを送り込んだのじゃよ。…実は前々から計画はしておったのじゃが、音石の奴がそれができるようになるまでスタンドを成長させたり衛星の位置を特定するのに時間がかかってな…結局最後の最後にギリギリ間に合ったという訳じゃ」

「…俺らにもスタンドが視えているのは、その性質のおかげってことか。じゃあ、康一君達がいないのはそのサポートをしてるからですかい?」

「まあな。…音石の野郎も前よかはちっとはマシな性格にはなったけど、まだ完ぺきに信用はできねえからなぁ~」

「…おいッ!んな事より、あんなの送り込んで何をするつもりだ!?」

 逆蔵が声を荒げて問いかけると、天願は顔を顰めながら答える。

 

「…苗木君を、苗木君だけでも…あの希望ヶ峰学園から『脱出』させる為じゃ」

「ッ!?」

「なんだと…!?」

「『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は自分だけでなく『触れた物質』をも電気と一体化させることができると聞いた。…あの江ノ島盾子相手に全員を連れ出すのは不可能じゃが、苗木君一人だけならばなんとかなる…そうワシが命令したのじゃよ」

 天願の言葉を肯定するように、モニターの向こうでは『チリ・ペッパー』が苗木を連れ出そうとしていた。

 

「会長ッ!それでは残される彼らがあまりにも…」

「分かっておるッ!!…ゴズ君、君の言うとおりだ。ワシらのような大人が彼等に全てを任せるなど、愚かしいにも程がある。ワシとてその気持ちは同じじゃ。だが、それでも…我々は、『未来機関』は、この世界の『希望』を守る義務がある!その為には、江ノ島盾子に現状唯一対抗できる彼を、死なせるわけにはいかんのだッ!…どんな手段を使ってでも、『確実』に江ノ島盾子を倒さねばならない!その為には…彼らを『犠牲』にすることもやむを得ん…ッ!」

「しかし…ッ!」

「……」

 余りにも非情な選択に、ゴズは天願の決定と言えど賛同できず、宗方は無表情にで天願を見る。他の幹部たちも、賛否両論と言った具合であった。

 

 

「……」

 黄桜もまた、その選択を受け入れきれずにいた。苗木を何としてでも生かすということ自体は、黄桜も賛成であった。亡き親友が『希望』を託した少年、彼を救いだし未来機関が全力で彼をバックアップすれば、今行われている学級裁判や、少なくとも今の未来機関の現状よりは江ノ島盾子を倒す可能性は大きくなるだろう。…しかし、その為にその親友の娘を始めとした自分が見定めた生徒たちを犠牲にしなければならないということを、黄桜はどうしても認めることができなかった。

 

 

 

「……」

 …しかし、それに対し自分と同じ気持ちであろう仗助らはその決定に対してもさほど動揺を見せていなかった。

 

「…仗助君、君はそれでいいのかい?君は天願さんの決定を知ってたんだろ?なら、それになにも思わなかったってのか?」

 それは自分への問いかけでもあり、同時に『黄金の精神』を持つ彼らにその答えを求めようとした、黄桜の懇願であった。それに対し、仗助は自慢の髪型を整えながらモニターに視線をむけたまま答える。

 

「…そりゃあよぉ、俺だって『正しい』とは思ってねえさ。苗木の為とはいえ、アイツらを犠牲にするなんて絶対御免だ。…けど、天願の爺さんの言ってることも分かる。だから、それが『間違っている』とは思わねえ。正しくはねえのかもしれねえけど…間違ってはいねえ。だから、俺にはその決定を止めることはできねえ。万が一あの場で苗木達が負けちまったら、それこそ全部お終いかもしれねえんだからな…」

「……」

「…そう、か…」

 そう返す仗助をジョセフは何も言わず見つめ、黄桜も願っていたような答えが得られなかったのか肩を落とす。

 

 

 

「…けどよぉ、俺らには一個だけ絶対に分かっていることがあるんだよなぁ。だよな、億泰?」

「おうよ」

「え…?」

 モニターを見る仗助と億泰がニヤリと笑ったのと同時に

 

 

 

『…だが、断る』

「な…ッ!?」

「アイツなら、絶対に『断る』ってことがよぉ~!」

 苗木が『チリ・ペッパー』の手を払いのけ、脱出の誘いを拒絶した。

 

「…やはり、こうなったか。君らの言ったとおりになったのう…」

「へへ…だから言ったろ?」

 肩を竦める天願に、仗助は不敵に笑う。

 

「…何故だ?何故奴はああもあっさり救いの手を跳ね除けた…?あの場に残ったところで、勝機など殆ど無いに等しいというのに…」

「…それが、『苗木誠』じゃよ」

 苗木の選択を理解できない宗方に、ジョセフが力強く応える。

 

「彼は、決して『最善の道』を諦めはしない。どれほど困難であろうと、どんなに無謀であろうと、可能性が僅かでもある限り、その道を選ぶ。その先に在る『未来』が、きっと正しいものであると信じて、彼は前に進む。…その『覚悟』こそが、苗木君の『希望』なのじゃよ。彼に確立や打算などというものは意味なんぞないんじゃよ」

「…馬鹿げている。そんな夢物語が叶うはずが…」

「それを叶えようって気持ちが、『希望』なんじゃあねえのかなぁ~?宗方サンよぉ~。…アイツ曰く、『諦めた時が希望の限界』なんだとよ。だから、諦めなけりゃ希望に限界なんかねえんだよ…ッ!」

「…ッ!」

「……」

 仗助に論破され気圧される宗方や茫然としたままモニターに食い入る雪染らの眼前で、苗木の示した『覚悟』に触発された仲間たちが次々と苗木の元に集う。狂ったように撒き散らされる江ノ島の呪詛を、自らの強い意志を以て論破していく。そして…

 

 

 

 

ブツッ…!

「…えッ!?」

 突如、なんの前触れもなく裁判の中継映像が途絶えた。

 

「な…ッ!?な、なんで消えちまったんだよ!?」

「江ノ島の野郎…ヤバくなったからって中継切りやがったな!畜生、続き見せやがれッ!!」

 肝心要の投票タイムの寸前で途切れてしまった映像に仗助たちは悪態を吐く。とそこに…

 

「あ痛てて…なんの騒ぎだよこりゃあよぉ?」

「皆、どうしたの?」

「あ…康一、音石!」

 別室で学園への潜入を試み、苗木に断られ江ノ島に殴られ這う這うの体で逃げ帰った音石を支えながら、康一と露伴がモニタールームにやって来た。

 

「ちょうどいいところに来たな…!音石、映像つなぎ直せ!」

「ハァ!?いきなり何言ってやがんだよ?…つーか、中継映ってねーけどどうなってんだよ!?」

「その中継が江ノ島にぶち切られたんだっつーの!オメーの『チリ・ペッパー』で向こうに行けるんなら、映像なんとか映る様にしろよ!」

「…む、無茶苦茶言うなっつーのッ!!そういうのは『ハッカー』とか『プログラマー』の仕事だろ!オレ様にもできることとできないことがあるっつーの!」

「むうう…こんなところで生殺しとは…ッ!」

 

 

『そういうことなら、あちしに任せてくだちゃい!』

「!?」

 モニタールームの喧騒をぶち壊すような間の抜けた声と共に車いすに乗って入って来たのは、第七支部に所属している『月光ヶ原美彩』であった。

 

「月光ヶ原君!?…任せろとはどういうことじゃ?」

『今まで黙っていたけど、あちしはこう見えて電子機器には強いんでちゅ!衛星から受信している電波の周波数さえ特定できれば、逆探してハッキングかけて映像を繋ぎ直すぐらいならできるかもしれないでちゅ!』

「ほ、本当か!?」

「…ていうか、意外も何もいつもパソコン抱えてるんだから普通にそう思うんだけど…」

『はうッ!?そ、そうでちた!…と、とにかく電波さえ特定できればなんとかなるかもしれないでちゅ!』

「…音石君、なんとかできるかね?」

「…へっ!オーライ、そういうことならやってやるよ!『レッド・ホット・チリ・ペッパー』!」

 

ギュィイーンッ!

 音石がギターをかき鳴らすとともに、再び雷を纏って『チリ・ペッパー』が現れる。

 

「電波はさっき見つけたからすぐに分かる!…後はセニョール、任せたぜ!」

『お任せでちゅ!』

 『チリ・ペッパー』が月光ヶ原の抱えるノートパソコンに入り込むと、月光ヶ原は凄まじい勢いでパソコンを操作し始める。

 

カタカタカタカタ…!

「…まだかよ!?」

『焦らないで欲しいでちゅ!希望ヶ峰学園のセキュリティは厳重だから解除にも時間がかかる…』

 

 

ドゥン…ッ!

「…ッ!?」

 と、その時ふと奇妙な違和感を仗助たちは感じる。

 

「今…なんか変だったような…?」

『…アレ?』

「ど、どうしたの?」

『いや…その、あちし…何時の間にこんなにセキュリティを解除したんでちゅかね?』

「ハァ?…いきなり何言ってやがる?」

『えっと、なんていうか…ハッキングの進行状況が、『飛び飛び』なんでちゅ。まるで『知らないうち』に勝手に終わってるような…』

「知らないうちに…?飛び飛び……飛ばす、…『時間』が、『飛ぶ』…」

「…ッ!?『キング・クリムゾン』…ッ!」

「何!?」

 かつて苗木が倒し、現在希望ヶ峰学園に潜伏しているはずの男…『ディアボロ』が持つスタンドの名が出たことに、天願らは目を剥く。

 

「間違いないよ!たった今、時間が『消し飛んだ』んだ!月光ヶ原さんがハッキングしたことを憶えていないのはそのせいだよ!」

「っつーことは…今苗木君達は戦ってるってことか!?あのディアボロって野郎と…」

「多分な…。こりゃモタモタしてられねえ…急いでくれゲッコーガハラ!」

『りょ、了解でちゅ!うりゃりゃりゃりゃりゃーッ!』

 時折何度も時間が消し飛ぶたびに焦る気持ちを抑えながら、月光ヶ原は大急ぎで回線の復旧作業を進める。

 

「……」

 それを遠巻きに見ながら、宗方は先の苗木の行動を思い返していた。

 

(…奴は、何の躊躇いもなく自分が生き残る権利を放棄した。…いや、そもそも端からそんな気は無かった、俺にはそう見えた…。何故そんなことができる?ただの意地か?仲間を信じていたから?…違う、奴にはもっと『根本的』な何かがあった。それが奴の『希望』であり、霧切学園長や天願が苗木誠の肩を持つ要因なのだ。…もし、俺が『同じ選択』を迫られたら…俺は、その時に…『同じこと』ができるのか…?)

「…京助は、京助だよ」

「雪染…?」

 思案する宗方に、雪染が語りかける。

 

「苗木君があんな風にできたのは、苗木君だからだよ。誰よりも前向きに、誰よりもひたむきに、自分の『希望』を信じている。どんな過酷な現実を突きつけられても、彼は自分の『理想』を妥協したり諦めたりしない。…それは素晴らしいことだけど、同時に酷く『残酷』でもある。理想を求め続けるということは、その理想に…『希望に縛られる』ということでもある。だから彼には、もう『後戻り』することは許されない。一度理想を掲げた人間は、それを貫き通すしかないの。江ノ島盾子が、そうだったように…」

「…雪染?」

 向き直って宗方を見上げる雪染の眼は、普段とはまるで様子の違う、どこか浮世めいたものであった。

 

「…だから京助、貴方は貴方の『希望』を見失わないで。苗木君の『希望』にも、天願さんの『希望』にも縛られる必要はないの。増して、『絶望』に惑わされたりしちゃ駄目。忘れないで、私も逆蔵君も…皆が京助を信じてる。だから…」

「雪染…お前、何を…?」

「…おい、お前ら何話してんだ?」

 雪染の様子に困惑する宗方であったが、気になった逆蔵が声をかけると、雪染の雰囲気は一瞬で切り替わり、いつもの様子に戻っていた。

 

「…もう、イイ感じだったのに邪魔するなんて空気読めてないなぁ。内緒話に嫉妬なんて男らしくないゾ?」

「な…ッ!?ば…バッキャロウッ!!そんなんじゃあねえよ!俺はただ、こんな時に何話してんだって思って…」

「分かってるって、冗談冗談♡…ね、『宗方君』?」

「あ、ああ…」

「…?」

 

 

『よし…これで、いけるでちゅ!』

 

ッターンッ!

…ザザ…ザ…!

 やがて月光ヶ原が最後のキーを押すと、真っ暗だった画面に砂嵐が走る。

 

「映っ…た?って、アレ…画面が砂嵐なんだけど…」

『まだとりあえず回線だけ繋ぎ直しただけでちゅ!今から映像を…つないだでちゅ!』

 

ザ…ザッ…ガガッ…!

 砂嵐が徐々に収まり、うっすらとではあるが映像と共に僅かに音声が聴こえてくる…

 

 

『…無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ…ッ!!』

『グボァァー…ッ』

 

ドギャッ!ガガガ…ガ…プツッ…

 

 

 

「…え?」

 苗木らしき声と誰かの悲鳴を最後に、再びモニターは暗転してしまった。

 

「…お、おいッ!また切れちまったぞ!?どうなってんだ?」

『あ、アレ?まだ回線は生きてるのに…もしかして、『向こうの器材』が壊れたんでちゅかね?』

「壊れたァ?」

『だってこっちの回線や器材には異常はないんでちゅから、何かあったとすれば向こうの方でちゅ。…でもそうなると、もうこっちからどうやっても映像は映らないでちゅ…』

「…そういえば、今何かがぶつかったような音がしましたな。もしや、向こうで何かあったのでしょうか…!?」

「分からん…」

「だ、大丈夫かな苗木君達…。ねえ黄桜さ…黄桜さん?」

「……」

 トラブルにトラブルが重なり心細くなった康一が黄桜に同意を求めるが、黄桜はモニターを見つめたまま呆然としていた。

 

「き、黄桜さん?どうしたんですか?」

「黄桜君…?」

 周りの皆がその様子に心配になって声をかける、と…

 

「…くっ、クックック…」

「…?ど、どうしたんで…」

「…クッ、ハッハッハッハ!ハッハッハッハッ!!」

 突然黄桜は周囲の目も気にせず大笑いをしだす。いきなり笑い出した黄桜に、天願達は勿論宗方たちすらもギョッとなってたじろぐ。

 

「ど…どうしたんスか黄桜さん?急にアホみてーに笑い出して…」

「まさか…心配し過ぎでぶっ壊れちまったんじゃあねえよなぁ~?」

「…クック、んなこたねーよ億泰君。俺は至って『正気』だぜ…!」

 やっとのことで笑いが治まった黄桜であったが、その口元には未だ治まらぬ興奮が笑みとなってこぼれていた。

 

「じゃあ何がそんなに可笑しいんだい?正直笑えるところなんか無かったと思うんだが…」

「…ああ、そうかい。皆には『よく見えなかった』のか。…けど、俺には見えたぜ。この『1年間』待ち望んだものがよ…!」

「見えたって…もしかして、さっき何が映っていたのか視えたんですか!?」

「ああ…!俺はこの時ほど、『スカウトマン』としての自分に自信を持った日はねえぜ…!」

 モニターが消える直前、砂嵐の刹那に黄桜は見た。『紅の絶望』を打ち倒す、『黄金の輝き』を纏った少年の姿を。目の錯覚かとも思ったが、黄桜には不思議な『確信』があった。それを信じたかったというのもあるが、それ以上に、自分の中にある『親友の遺志』が、それを肯定しているように思えたのだから。

 

ザッ…

 黄桜はそのまま踵を返すとモニタールームを去ろうとする。

 

「黄桜さん、どちらへ…!?」

「俺の部屋に戻るんだよ。…隠しといた秘蔵の一本を開けたい気分なんでな。食堂の安酒じゃあ役不足だ…」

「こんな時に酒など…!」

「こんな時だからこそ、だよ。…やっと、やっとこのクソッタレな日常に『終わり』が見えたんだ。こんな日ぐらい、くたばるほど飲ませてくれや…」

 そう言って軽く手を振りながら、黄桜は悠々とモニタールームを辞したのであった。

 

「…チッ、なんなんだあの飲んだくれは…」

「もう、黄桜さんったら…」

「…だが、あの『余裕』は一体なんだ?奴は一体、何を見たというんだ?」

 黄桜の異様な雰囲気に皆が首を傾げるが、天願や仗助たちはやがて何かに思い立ったように顔を見合わせあう。

 

「…なあ、もしかして黄桜さんが見えたのってよ…」

「…かもしれない…!なら、きっとその内…」

「フン、そういうことか。…全く、そうならそうと面倒な言い回しをしなくてもいいものを…」

「まあそう言わんでくれ。…奴にとっては、ワシら以上に一入なんじゃろう」

「…?会長、なにか気づいたのですか?」

 状況を飲み込めないゴズが天願に尋ねると、天願は口の端に僅かに笑みを浮かべながら答える。

 

「ん?まあの…。しかし、今は断言はせんでおこう。その内分かることじゃろうが、何事にも、『万が一』はあり得るからの。ですなジョセフさん?」

「うん?そうじゃのう…。だが、『迎え』の準備ぐらいはしておいてもいいかもしれんな。あまり待たせるのも悪いからのう…」

「ですな、ハッハッハッハ…」

 暗転したままのモニターに目を向けながら、天願たちはどこか爽やかな笑みを浮かべていた。その暗闇の先に在る光景が見えているかのように…

 

 

 

 

 …その翌日、希望ヶ峰学園前に設置された監視カメラの前で、学園の入り口を塞いでいたバリケードが『内側から』破壊され、その奥から『8人の少年少女』…希望ヶ峰学園から脱出した苗木達の姿が捉えられた。

 

 それは、終りの見えない『絶望』との闘いが、ようやく『折り返し』を向かえた瞬間でもあった。

 




この時点での月光ヶ原は「本物」ですのであしからず…

黄桜さんキャラ変じゃね?と思うかもしれませんがご了承を…。僕の中では黄桜さんはスピードワゴンポジなので、どうしてもこんな感じになるんですよね…

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