ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今回は時間稼ぎ…ゲフンゲフン、ちょっと視点を変えて黄桜さんで小話をば…
未来編で一番好きなキャラと言うのもありますが、霧切親子や天願、カムクラプロジェクトなど希望ヶ峰学園シリーズの重要な要素に関わっているのに、どうにも掘り下げがさびしかったので個人的にいろいろ書いてみたくなりました

それとついに…ついに、ダンガンロンパ十神の下巻とダンガンロンパ霧切の5巻が近日発売ですね!やっと十神編と霧切編を描ける…十神はともかく、霧切が5巻で終わりならだけれど。表紙からしてどうにも不穏な感じですが、ついに結姉さまの結末と霧切の火傷の真相が明らかになるのでしょうか…?
キラーキラーももうすぐ終わりますし、希望ヶ峰学園シリーズも本当に終わりなのだと思うと少しさびしいですが…たぶんまだまだダンガンロンパは続くでしょうし、僕もそれを期待しながら完結目指して頑張ります!

前置きが長くなりましたが、本文どうぞ…


交錯編:外伝~黄桜公一の希望と絶望 前篇

 黄桜公一、元希望ヶ峰学園スカウト担当。親友である霧切仁が希望ヶ峰学園の教師として赴任するのと同時にスカウトとしての活動を始めた彼は、普段こそ酒好きでちゃらんぽらんな性格ではあるが『才能を見抜く眼力』はずば抜けており、霧切仁が学園長になった72期生からの生徒は全て黄桜がスカウトした生徒達である。

 …その立場上、必然的に希望ヶ峰学園の『真の目的』にも少なからず関わることとなり、霧切仁や前学園長である天願と共にその実態を探ろうとしたものの、評議委員の権力の前に思うようにいかず、その最中に起きた『希望ヶ峰学園史上最悪の事件』、そして『人類史上最大最悪の事件』の影響を受け、天願と共に希望ヶ峰学園を離れることになってしまった。

 

 

 

 …そしてその後、杜王町の『未来機関仮本部』…現在完成間近の『未来機関本部』が完成するまでの間、杜王グランドホテルを改造して作られたその施設に、黄桜の姿があった。

 

「…あれから、もう『1年』か。…学園は、どうなっちまったんだろうな…?」

 黄桜は現在、天願が設立した『未来機関』の『第三支部支部長』として活動をしていた。第三支部の主な活動内容は新たな未来機関員のスカウトや各支部の人事総括であり、黄桜は元スカウトとしての実績と天願の信頼を受け、その支部長に任命されたのである。

 …しかしながら、黄桜は最低限の仕事こそこなしてはいるものの、勤務中にも関わらず隠れて酒を飲み、そうでなくともどこかうわの空なことが多くなっていた。その原因を知るのは天願だけであり、その他の職員からは半ば置物扱いされている有様であった。

 

「仁…響子ちゃん…ちゃんと学園で仲良くやれてんのかな…?あの二人和解したとはいえ色々ソリが合わねえ時があっからなあ…。…無事でいてくれよ、苗木君。君が居なかったら、あの二人が喧嘩した時に誰も仲裁に入れねえんだからよ…ハハ…」

 僅かに生き残った生徒を守る為にシェルター化した希望ヶ峰学園にいるであろう親友とその娘、そして生きているのかどうかすらも分からない自分たちの『最後の希望』である少年を想い、黄桜はぽつりとそう呟く。

 

「しかし…肝心の『江ノ島盾子』はどこへ行きやがったんだ?苗木君の言ったとおり、彼女がこの一件の『元凶』なのは間違いねえ…。だが、いくら残党共を尋問しても誰も彼女の居場所を知らねえ。どこかに潜伏しているんだろうが…」

 こんな時、親友やその娘ならどう考えるであろうか。そう黄桜が思案した時、ふと一つの『可能性』に行きつく。

 

「…まさか、『希望ヶ峰学園』の中に…!?…まさか、な。いくら江ノ島ちゃんでもあの戦刃ちゃんと大神さんが揃っているってのにそんな…」

 

 

タタタタタタ…ッ!

 

「…ああ居たッ!き、黄桜さんッ!!」

「ん?」

 声をかけられ振り向くと、そこには息を切らせた様子の広瀬康一がいた。

 

「よう康一くん、そんなに慌ててどうしたよ?」

「黄桜さんこそ…こんなところで何をやってるんですか!?」

「俺?俺は…ちょっと休憩中ってか…」

「…ああもう、それどころじゃないんですよ!とにかく、大変なんです!」

「?」

 

 

『うぷぷぷー!世界中の皆さんこんにちわー!』

「こいつは…ッ!?」

 未来機関の幹部たちが集まった本部のモニタールームの画面には、憎たらしい濁声で笑う白黒シンメトリーカラーのクマ…『モノクマ』が映し出されていた。

 

「天願さん、こいつは…」

「…おお、黄桜君か。先ほど全世界の放送電波が急に回復したのじゃが、テレビを点けてみればこいつが映っておった。しかも、どのチャンネルを回しても全部同じ映像なんじゃ」

「こいつ…確かあの『化け物同士のコロシアイ』の時に出てきた奴だよね?」

「今度は一体なんだ…?」

 困惑する一同の眼前で、モノクマは陽気に話し出す。

 

『さて、とりあえず改めて自己紹介させてもらおうかな。僕の名はモノクマ、希望ヶ峰学園の、新しい『学園長』なのです!』

「希望ヶ峰学園の…新しい学園長!?」

「っつーことは…霧切学園長…なワケ、ねえよなぁ~?」

「ふざけやがって…なんなんだテメエはッ!?」

『うぷぷ、聴こえる、聴こえるよ。皆訳が分からないって言いたいよね?けどその前に、これを見てくださーい!』

 

パッ

 モノクマの声とともに、モニターの画面が切り替わる。

 

「な、なんだ?」

 新たに映された画面には、どこかの教室のような場所で椅子に縛り付けられた『男』が映し出されていた。

 

「教室…?てか、誰かいるよ?」

「座っている…いや、拘束されているようだが…」

「…ッ!?」

 皆が怪訝な顔をする中、その人物を見た黄桜と天願の様子が豹変する。

 

「ば、バカなッ!?アレは…」

「…?会長、アレが誰かご存じで…」

「じ…仁ッ!!」

「何ッ!?」

 椅子に拘束され、目隠しをされながらももがいていたのは、希望ヶ峰学園の学園長である霧切仁であった。

 

「ど、どうして霧切学園長が!?他の皆は!?」

「分からん…一体、なにがどうなって…」

「…ッ!お、おい!様子が変だぜ!」

 億泰がそう言うと同時に、霧切仁の周囲からなにかがせり上がり、彼を包むように覆い隠してしまった。

 

「な、なんだありゃあ?」

「…『ロケット』?」

 

『たらららったったった~ん!『宇宙旅行』~!』

 緊迫した空気をぶち壊すように、モノクマが陽気にそうアナウンスする。

 

「宇宙…旅行?」

「まさか…ッ!」

 

「…―ッ!!」

ドゴゴゴゴゴッ!!

 

 ロケットの中で何かを懸命に叫ぶ霧切仁の声を掻き消すかのように、ロケットのエンジンが火を噴き、轟音を上げて上空へと飛翔した。

 

「じ…仁―ッ!!」

 モニターに映るロケットは上昇しながら雲を越え、成層圏を突破し…やがて月の手前にまで到達すると、そこで力尽きたかのようにエンジンが急停止し、その反動で向きを変えたロケットが180度方向転換した瞬間、再び爆炎を上げ今度は『地球目掛けて』突き進み始める。

 

ゴォォォォォォッ…!!

 行きを越える勢いで地球へと向かうロケットは、成層圏を越えると共に重力の影響を受けさらにスピードを上げ元いた場所へと落下し、そして…

 

 

ドガァァァンッ!!

 凄まじい衝撃と共に、ロケットは元いた教室へと墜落した。

 

 

「……」

 ものの数十秒間の間に起きた凄まじい光景に唖然とする皆の前で、墜落したロケットがゆっくりと開く。その中からは…

 

カラン、カラン…

 かつて『霧切仁だった』ものであろう、焼け焦げた人骨が軽い音を立てて零れ落ちた。

 

「あ……」

『いやっほぉう!エクストリームッ!!…という訳で、『前希望ヶ峰学園長』であった霧切仁さんは、お亡くなりになりました!なので、僭越ですがこの僕モノクマが、彼に代わって希望ヶ峰学園の学園長を引き継がせて貰います!くぅぅ~…!僕は約束します!亡き前学園長の意志を足蹴にして、生き残った生徒達…そして、この映像を見ている外の世界の皆に、素晴らしい『絶望』をお届けしますと!…うぷぷ、うぷぷ…うぷぷぷぷぷ~!』

 霧切仁の亡骸にそう語りかけ、盛大な高笑いを上げるモノクマを最後に、映像は終わる。

 

「……」

映像が終わったモニタールームは静寂に包まれていた。あまりにも現実離れし過ぎていた。誰もが訳も分からぬうちに、希望ヶ峰学園の学園長だった男が、人間一人があっけなく殺されてしまったのだから。…そんな中、最初に動き出したのは黄桜であった。

 

「……」

「…!黄桜さん、どちらへ…!?」

「どこでも…いいだろ…。しばらく、一人にしてくれ…」

 酔ってもいないというのにフラフラとおぼつかない足取りで、黄桜はモニタールームを出て行った。

 

「あ、あの…!黄桜さ…」

 声をかけようとした康一であったが、その肩を天願に掴まれ阻まれる。

 

「天願さん…!」

「…いうとおりに、させてやってくれ。…今のは、アレには少し酷過ぎた」

「でも…」

「そう心配するな。…奴は必ず立ち直る。だが、その前に…少しだけ、奴に『時間』をくれてやってくれんか。あの『絶望』を受け止めるだけの時間をな…」

「……」

 

 

 

「……」

 あの映像のせいか誰も居ない廊下を歩いていた黄桜は、手近な喫煙スペースを見つけるとフラフラとその中に入っていく。

 

ドサッ…

「……」

 壁に力なくもたれ掛ると、被っていた帽子を目深に被り直し、タバコを加え火をつける。

 

シュボッ…

「…スゥー…フゥ…」

 しばらくの間、無言でタバコを吸っていた黄桜であったが、やがて…

 

 

 

…つぅ…

「…ッ!」

 目深に被った帽子の下から、一筋の涙がこぼれるとともに、黄桜の感情は爆発した。

 

「仁…仁…ッ!クソッ!済まねえ…俺は、俺は…ッ!!ぐぅッ…うおああああああああああああッ!!!!」

 目の前であっけなく散っていった友へ届けとばかりに、黄桜の悲痛な無念の雄叫びは本部に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 …それから数週間後、黄桜の姿は『希望ヶ峰学園前』にあった。

 

「…ッハァ、ハァ…!」

 学園の前に無造作に積まれたバリケードの奥で、武装した黄桜は肩で息をしながら様子を窺う。

 

ドガガガガッ!

「ぎゃあッ!!」

「ぐああッ!」

「…ッ!糞ッ…」

 学園の門に設置されたマシンガンの掃射によって、足元に転がる死体がまた数名増える。完璧に計算され時間差なく放たれる銃火器の嵐は、何度も果敢に挑みかかってくる未来機関の精鋭たちの命を嘲笑うかのように奪っていく。

 

「チクショウ…ッ!いつまでも、こんなところで足止め喰ってられねえってのによぉ…!」

 あの放送の後、未来機関は希望ヶ峰学園を絶望に乗っ取られたと判断し、中に居る生徒たちを救出すべく『解放部隊』を組織し、学園に送り込んだ。その中には、支部長の一人である筈の黄桜もいた。反対の声もあったが、当人の強い意志と、天願の決定により許可され、彼らは希望ヶ峰学園へと向かった。

 …それから数週間、彼らは学園の前に設置された銃火器のバリケードに阻まれ、未だに学園に踏み入ることができずにいた。

 

「早く、早くしねえと…あの子たちに、あんな下らねえ『コロシアイ』をこれ以上させてたまるかよッ…!」

 学園長の処刑から数日後、再び画面に映ったモノクマは『あること』を発表した。

 

…即ち、『コロシアイ学園生活』の開始発表。

 

 記憶を奪われた学園内の78期生達による、仲間同士の疑心暗鬼が産むコロシアイの連鎖。それは、絶望の暴徒たちの活動をヒートアップさせ、同時に未来機関や生き残った人々の希望を奪う、絶望にとっては『一石二鳥』の見世物であった。それに拍車をかけたのが、彼らが持っていた『スタンド能力』である。このコロシアイ学園生活を通じてようやく世界中の人々に認知されたその力は、この世界の危機を打開するための『希望』となるものであった。故に人々は誰もが思った、コロシアイなんてせず、全員で生きて脱出して欲しい。そして、この世界を救ってほしいと。

 

 …しかし、現実は非情であった。優れた才能と凄まじい力を、脱出の為ではなくコロシアイの為に使う生徒達。その光景に微かな希望を抱いていた人たちは思い知らされた。力があろうがなかろうが、結局『絶望』の前には『無意味』だったのだと。

 

 そんな中で、やっとのことで友の死から立ち直った黄桜は同じように絶望…するかと思いきや、逆に『奮起』していた。

 

「あの子たちが、まだ頑張ってるんだ…!あの絶望的な状況の中でも、それでも生きようと、生き残ろうと抗ってんだよ!だったら…『大人』の俺が諦める訳にはいかねえだろ…!」

 自分のルーツすら見失いながらも、それでも探偵としての本能に従い『真実』を探ろうとする親友の娘。そして記憶だけでなく力すら奪われながらも、自らの『覚悟』と『希望』を信じ、仲間の死を悼みながらも尚黒幕と戦おうとするあの少年の姿に、黄桜の燃え尽きかけていた『覚悟』に火がついた。それがこの慣れぬ戦場にて、黄桜の意志を繋ぎ止める唯一の『矜持』であった。

 

「響子ちゃん…、苗木君…!俺は、必ず…ッ」

 

「…黄桜さん、…黄桜さんッ!」

「おおッ!?」

 覚悟を決めていた黄桜に、隊員の一人が声をかける。

 

「ど、どうした?」

「その…今本部から連絡が入って、一時撤退するようにと…」

「な…ッ!?馬鹿言ってんじゃあねえ!こんなところで逃げ帰るなんざ…」

「しかし、こちらも負傷者や犠牲者が多すぎます…。これ以上の損耗は、部隊の維持にも…」

「けどよぉ…!」

「…それと、天願会長から黄桜さんに言伝があります」

「天願さんから…?」

「『少し頭を冷やせ。君まで死んだら、それこそ彼らの頑張りが無駄になる』…とのことです」

「…ッ!」

 天願の言葉を噛みしめ、背後にそびえ立つ希望ヶ峰学園を一瞥し…黄桜は大きく息を吐いた。

 

「…了解。撤退する、他の連中にも伝えてくれ…」

「分かりました!」

 隊員が走り去っていくのを見送ると、黄桜はもう一度希望ヶ峰学園に悔しげな視線を送る。

 

「…済まねえ、皆。必ず助ける…だから、もう少し頑張ってくれ…!」

 中に居る生徒達へ向けそう言い残し、黄桜達は学園前から撤退した。

 

 

 

 …物陰に隠れ、彼らと入れ替わる様に学園へと向かう『神父服の男』に気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、消沈したムードの解放部隊は杜王町の仮本部へと帰還した。誰もが下を向いていたせいか、普段よりも本部が静かであることに誰も疑問を感じないほどであった。

 

「……」

 報告へと向かう黄桜もまた、普段とはことなるピリピリした空気を纏い天願の待つ会長室へとやってきた。

 

コンコン

「…失礼します」

 ノックをし、扉を開けた黄桜であったが…

 

「…あん?」

 普段ならそこに居る筈の天願は何故か不在であった。

 

「天願さん…居ねえのかよ、クソ…ッ!」

「…オオ?もしや黄桜サンデスか?」

「ん?」

 ふとかけられた声に振り返ると、そこに居たのは未来機関の『民間協力者』であるトニオ・トラサルディーであった。

 

「ああ、トニオか…。珍しいな、君が本部に来てるなんてよ」

「エエ、何しろ事態が事態デスので、ワタシも居ても経ってもいられずつい駆けつけてしまいマシタ」

「…何かあったのか?」

「オヤ、ご存じないのデスか?…これから、あの希望ヶ峰学園で苗木サンたちが『最後の学級裁判』を始めるのデスよ」

「何ッ!?」

「皆サン、モニタールームに集まってる聞きマシタ。…一緒に行きますか?」

「…ああ、もちろんだ…!」

 

 

 




一話で終わろうとしたけれど無理だったよ…。あまり待たせないうちに後編を書き上げますのでお待ちを…

…おのれノロウイルス!貴様のせいで俺の休みも破壊されてしまった!(職場の同僚がノロでダウンしたため休日出勤確定)

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