皆さん、新年あけましておめでとうございます。遅くなりましたが、今年も応援よろしくです!
『うぷぷぷー!またまた来ちゃいました、タイムリミーット!さてさて、今回は誰が死んじゃうんでしょうね…?苗木君、ワクワクだよね~?うぷぷぷー!』
3度目のタイムリミットが訪れた時、苗木は自らの傷を癒しながら本部内に全神経を張り巡らせていた。
(また、この時が来てしまった…!襲撃者のスタンドの正体は間違いなく『あのスタンド』だ。アレに対抗する方法は、現状『僕しか知らない』…。今の僕に、その方法を伝える手段は無い…。モナカちゃんの言うとおり、せめてモノクマの監視をなんとかしないと…ッ!)
…キュララララ…
「!」
そんなことを考えていると、苗木はひとつの『動いている生命エネルギー』の反応をキャッチする。しかし、それは襲撃者の物ではない。先ほど月光ヶ原ロボにつけておいた自分の『テントウムシのブローチ』に与えておいた生命エネルギーのものであった。
(モナカちゃん…こっちに戻って来るのか。なら……ッ!?)
と、その時苗木はそれとは別の、一人だけ動き出した『生命エネルギー』の存在を確認した。
(動いた…!襲撃者か…けど、この場所は……まさか、襲撃者の正体は…ッ!?)
襲撃者らしき存在が動き始めた『場所』から、苗木が襲撃者の『正体』に感づいた、その時
ガコォォォン…ッ!
「ッ!?」
そう遠くない場所から、なにか『金属が落ちたような音』が響いてくる。それと同時に、月光ヶ原ロボから感じていた生命エネルギーの動きが止まる。
(止まった…!?それに今の音…まさか、ロボットが『破壊された』のか!?しかし…)
ロボットとはいえ参加者である『月光ヶ原美彩』が破壊されたと思われるにも関わらず、襲撃者らしき存在は今も移動を続けていた。
(襲撃者が止まらない…!?ロボを破壊したのは『襲撃者ではない』のか?では誰が…まさか、『黒幕』?いや、それにしたっておかしい…ッ!もし今のが黒幕の仕業なら、どうして…)
不可解な事態に思考を巡らせていた苗木であったが、襲撃者の『進行方向』の先の部屋…トレーニングルームに居る『生命エネルギー』の存在を知った瞬間、その思考は停止する。
(な…ッ!?ま、待て…そこにいるのは…ッ!)
正確に誰かは分からなくても、苗木には『本能』で理解できた。その場所にいるのが、自分の『愛する女性』であるということを。
(や、やめろ…ッ!待て、待つんだ…ッ!!)
苗木の懇願も虚しく、襲撃者はトレーニングルームの前で停止する。そして…
(やめろォォォォォォーッ!!!!)
ガシャァァァン…
ガラスの割れる鈍い音と共に、ひとつの生命エネルギーが、消えゆこうとする蝋燭のように弱弱しくなり、そして…
「むくろちゃぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!」
眼前で凄惨な姿に成り果ててしまった、自分たちの『仲間』であり同じ男を愛する『家族』である戦刃むくろ。『絶望』の色を浮かべてその名を呼ぶ舞園の絶叫は、隣の忌村のみならずその場に居た全員を目覚めさせた。
「んむ…な、何…?どうし……ッ!?い、戦刃…!?」
「なんだと…!?」
「い、戦刃君ッ!?馬鹿な…何故…このような…ッ!」
「ッ!?…ハッ、ザマあみろ…」
目が覚めるなり目撃した惨状にそれぞれが唖然としていると、忌村がハッとなって舞園を見る。
「…ッ!ていうか舞園、アンタいま『大声』…」
「…あッ!」
ピンポンパンポーン!
舞園が自分の失態に気づいた瞬間、正解だとでも言わんばかりに舞園のバングルから『NG行動違反』のサイレンが鳴り響いた。
「しまッ…あ゛ッ…!?」
バングルから流れ込んできた猛毒が齎す激痛と痺れに、舞園は苦悶の表情を浮かべもがく。
「舞園ッ!…ああもうッ、仕方がない…」
忌村は十六夜の方を一瞥するとすぐさま起き上がり、舞園の元に駆け寄る。
「舞園!これ…なんとか飲み込んでッ!」
舞園を抱き起すと忌村は懐から『薬瓶』をひとつ取り出し、その中身を舞園の口に流し込む。
「んぐ…ッ!?ぐ…ああ…ッ」
苦しみながらもなんとかそれを飲み込むと、舞園はもう殆ど動かない体に鞭打って天願のほうへと顔を向け、最後の力を振り絞って叫ぶ。
「天願…さん…ッ!に、げ…て…ッ!まこ、と…君に、しら…せ…」
「…ッ!舞園君…」
そこまで口にして、舞園は力尽きたように意識を失った。
「舞園ッ!?…クッ、しょうがない…!」
忌村は舞園を抱きかかえると、既に起き上がって警戒体制の十六夜に背を向け逃げ去っていった。
「…逃がさん…」
「おっと、追わせはせんぞ!」
「ッ!」
後を追おうとする十六夜を、取り押さえている安藤を見せつけ天願が阻む。
「天願、貴様…!」
「『卑怯』とも『外道』とも、好きに罵ればいい。だが、今この瞬間だけは例え外道に堕ちようとも、君たちを追わせるわけにはいかん…!」
「グッ…ジジイ…ッ!」
手元の安藤と眼下の十六夜をけん制しながら、天願は戦刃へとちらりと視線を向ける。
「……」
観覧席のガラス窓に叩きつけられ磔となった戦刃。出血こそあるものの胸と喉につけられた傷自体はさほど深い物ではなく、一見致命傷には見えない。…しかし、戦刃だけは『例外』であった。NG行動である『血を流す』ことを破ってしまった以上、どれほど軽傷であろうとバングルから流れ込む猛毒から逃れることは出来ない。ましてそれが『眠っている時』であれば、『元超高校級の軍人』である戦刃であろうと、その『運命』から逃れることはできなかった。
「戦刃君…」
「…フン。ほら見たことか…、『絶望』なんかを受け入れようだなんてバカみたいなこと考えてるから、こうやって『裏切られる』ことになるのさ。…ま、こいつは元々江ノ島盾子の手先だったし、自業自得だよね…!」
「…それ以上戦刃君の事を貶すなよ小娘。一度絶望に堕ちたとはいえ、己の意志でそれに抗い、希望の為に戦うことを選択した彼女は立派な『希望』じゃ。無論彼女を許せぬ者達が居るのは仕方のないことじゃし、それまで咎めるつもりは無い。だが、彼女の行動を、彼女の信じた『希望』を否定することは、ワシが許さんぞ…ッ!」
「痛ッ…!こんの…ッ」
「流流歌ッ!」
戦刃へ侮蔑の言葉を吐く安藤への拘束を強めながら、天願は忌村が逃げて行った方向を見て、十分に時間を稼いだと判断する。
「…そろそろ頃合いか…!」
「は?何言って…うわッ!?
そう言うと天願は安藤の体を宙に放り投げると、戦刃をガラス窓から床に降ろし、ひびの入ったガラス窓を思い切り蹴りつけた。
「むんッ!」
ガシャァァン…ッ!
元々割れかけていたガラス窓はその一撃によって簡単に割り破られる。それを確認した天願は落ちてきた安藤を受け止めるとそのままの勢いで窓の外へと放り出した。
「十六夜君、受け取るがいい!」
「き、きゃああああッ!?」
「流流歌ぁッ!!」
咄嗟に放り出された安藤に十六夜は血相を変えて駆け寄りなんとか受けとめる。
「…悪いが、手段を選んではられんのでの。…戦刃君、スマン。必ず迎えに来るぞ、苗木君と共にな…!」
その場に残すことに謝罪をして、天願は踵を返してそこから去っていった。
「大丈夫か、流流歌?」
「…ッあんの糞ジジイ…ッ!ヨイちゃん、早く追いかけて!忌村も天願も、皆流流歌の敵だ!あいつ等皆ぶっ殺しちゃって!」
「…ああ、分かった…」
安藤の剣幕に十六夜は一瞬面喰ったような表情になるが、すぐに平静を取り戻し安藤を降ろすと共にトレーニングルームを去っていった。
シィ…ン…
誰も居なくなり、静寂を取り戻したトレーニングルーム。唯一残された戦場の体も、もはや動くことは無い。誰もがそう判断し、彼女をその場に置き去りにした。
「………」
トクン…
それは『奇跡』か、あるいは消えかけの蝋燭が最期に見せるありったけだったのか。戦刃の心臓がかすかに、ほんの一度だけではあるが、『脈動』する。…しかし、それを聞き届ける者はもう誰も居ない。最後の脈動を終えた彼女の体は、今度こそ完全なる『死』を迎えようとしていた…
ガチャ…!
「…ったく、何勝手に死んでんのよ。『残姉ちゃん』」
「……ん…」
一方、霧切たちも薬の効果が切れそれぞれ目を覚ましていた。
「…あ、目が覚めたんですね」
「おお…御手洗君が一番か。意外だな…」
「…あれ?月光ヶ原…ていうか、モナカちゃんがいないよ?」
「…彼女の性格からして、私たちが眠っている間待っているとは思えないわ。多分、そう遠くないどこかに…もしかしたら、誠君のところに…」
「…うわぁぁぁぁぁぁッ!!?」
『ッ!?』
と、そこに廊下から誰かの悲鳴が響き渡る。
「今の声って…万代さん!?」
「なんかやばそうな感じ…みたいだねえ」
「もしかして、襲撃者に誰かが…!」
「…行きましょう!」
叫び声を聞きつけるなり、霧切たちは部屋を飛び出し、万代のいる会議室へと向かう。
「…あ、いたよ!」
「あ、あわわわ…」
しかし、会議室へと辿りつく前に道中の廊下で腰を抜かしている万代を発見した。
「どうしたよ万代君?すげえ悲鳴だったが…」
「あ…ああ、皆!こ、これ…」
「え…なッ!?」
万代が指差した先には、体を『縦半分』に切り裂かれ、頭部に至っては原型も留めていないほどに砕かれた『月光ヶ原ロボの残骸』が打ち棄てられていた。
「こ、これって…!?」
「ぼ、僕が来た時にはもうこうなってて…うう、そんな…月光ヶ原さんまで…」
「…落ち着きなよ万代君。よく見てみろ」
「え?…あれ、これ…『機械』?」
「あの月光ヶ原ちゃんは偽物だったんだと。どうやらしばらく前からロボットとすり替わってたらしいぜ」
「そ、そうだったんだ…」
「…けど、月光ヶ原ちゃんロボが壊されたってことは…今回のタイムリミットでは『誰も死んでない』ってことだよね?」
「……」
「…そう甘くはねえ、…かい?」
「…襲撃者の手口がスタンド能力で『夢に干渉して死に追いやらせる』ものだと分かった以上、塔和モナカ…月光ヶ原ロボが同じ手口で殺されることは『あり得ない』わ。…仮に、襲撃者が塔和モナカの存在に気づいていたとしても、あれほどの性能のロボットをこんな様にすることは容易ではない筈よ。それどころか、逆に殺されてしまう可能性だってある。そんな危険を冒してでも月光ヶ原ロボをターゲットに選ぶとは考えにくいわ。…おそらく、これは『別の誰か』の仕業よ。襲撃者はきっと他の誰かを既に…」
「別の誰かって…ロボットをここまで壊せるような奴なんて、一体…」
「…まさか、苗木君…じゃない、よね?」
「そりゃねえ…と思いたいが…。確かに、苗木君ぐらいしか無理だろうよ、こんなことができるのはよ」
「そ、そんな…誠はそんなことしないよ!」
「…ええ、その通りよ。けれど…」
月光ヶ原ロボの惨状に皆が茫然としていると、ふと万代が声を上げる。
「…ああッ!そうだ、忘れてた!」
「え?ど、どうしたんですか万代さん?」
「これですっかり忘れてたけど、大変なんだ!皆、こっちに来て!」
「え?」
万代に連れられてやって来たのは会議室であった。…しかし、その中は先程出て行った時とは明らかに『違う』ことが一つあった。
「あ、あれ…!」
「あれ、って…え?」
「お、おい…冗談はよしこさんだぜ、万代君…!」
「冗談だったら僕も良かったよ…」
「嘘…!?雪染さんまで…」
会議室の一角に安置されていた筈の『雪染の遺体』が、ゴズと同じように血糊だけを残して忽然と無くなっていたのである。
「僕が目が覚めたら、雪染さんの遺体がいつの間にか無くなっていたんだ。それで、部屋中を探し回った後、外を探してみようとしたら、月光ヶ原さんを見つけて…ああもう!なにがなんだか分からないよぉッ!」
「一体どうなってやがんだ…?ゴズ君に続いてちさちゃんまで…。唯でさえ最悪の状況だってのに、こんなの悪夢だぜ…」
「き、響子ちゃん…」
「…分からないわ。ゴズさんと違って、雪染さんは私がきちんと検死をしたわ。彼女は間違いなく死んでいた。ゴズさんのように、かろうじて生きていた…なんて可能性は万に一つもあり得ないわ。誰かが持ち去ったとしか考えられないけど…あの状況で、襲撃者以外に動ける人物がいるとすれば…」
またも遭遇した『死体消失現象』に、流石の霧切も理解が追いつかず頭を抱える。御手洗に至っては、もはや限界なのか膝を突いて床に突っ伏していた。
「…もう無理だ。結局僕らは、『絶望』に弄ばれているだけなんだ。僕等がどれだけ抵抗したって、皆…こんなあっけなく殺されて…僕なんかには、何もできないんだ…!」
「そ、そんなことないって!…ほら、御手洗さんはあの時逆蔵から誠の事庇ってくれたじゃんか!あれがなかったら、きっと私アイツに突っかかって殴られてたかもしれないし…そう言う意味なら、御手洗さんは私の事助けてくれたんだよ!だから、なにもできないなんて言わないでよ!」
「…そうだぜ青少年。若いうちから無理だとかそんな後ろ向きな事言ってんじゃあないぜ?やれるだけやって、前のめりになって倒れてからでも遅くはないんじゃないの?」
「…でも、僕は…」
『ピンポンパンポーン!』
「えッ!?」
突如、モニターにモノクマの姿が映る。
『いやー、皆さん。3度目のタイムリミットお疲れ様!…それでさ、今回誰が死んだか気にならない?気になるよね~?』
「な、何…?なんでモノクマが…」
『うぷぷ…!今回は特別に、僕が誰が死んだのかを教えてあげちゃいまーす!』
「…どういう風の吹き回しだこりゃ?今回に限ってこんな…」
「…ッ!まさか…」
一瞬早く感づいた霧切を肯定するように、モノクマはにんまりと嗤うとその名を告げる。
『今回襲撃者に殺されたのは…『戦刃むくろ』さんでしたーッ!』
「……え?」
その名を聞いた瞬間、朝日奈と霧切から表情が消える。
『うぷぷぷぷ…!僕たち絶望を裏切った彼女に、遂に天罰が下ったのです!イェーイ!気分爽快だね!…あ、ついでに何人か邪魔な奴も死んじゃったみたいだけど、どうでもいいか。月光ヶ原美彩さんのフリをしていたポンコツロボとか、自滅して死んだ舞園さやかさんとか…』
「…え?…な、何…嘘…?むくろちゃんが…襲撃者にって…、さやかちゃんまで……え?」
「…ッ」
「嘘だろ…おい…」
「そ、そんな…」
余りにも突然の訃報に、皆は碌に言葉が出ずただ呆然としていた。霧切はなんとかポーカーフェイスを保とうとするが、血が滲むほどに噛んだ唇が言い表しようのない激情を表しており、朝日奈も信じられないといった表情のまま呆けていたが、やがてその場にへたり込むと俯き嗚咽を抑えきれずに悔しさを口にする。
「…なんで、…なんで…ッ!むくろちゃんも、さやかちゃんも…どうして…ッ!もう、『誰も欠けない』って、約束したのに…皆で生き残って、この世界を変えて、死んじゃった皆を安心させてあげるって、決めたのに…!それなのに…なんでッ!!」
「…葵さん」
「響子ちゃぁんッ!うあああああああッ!!!」
「……」
こらえきれずに霧切にしがみつき、朝日奈は感情のまま泣きじゃくる。霧切も自分の悔しさを朝日奈に代弁してもらっているかのように、朝日奈を優しく抱きとめる。
「……」
黄桜達も、その光景をただ見ているだけであった。戦刃たちが死んでしまったことが信じられないのもあったが、それ以前に彼女たちにどう声をかけたらよいのかが分からなかったのである。
(チックショウ…こんな時こそ、苗木君に居て欲しいってのによぉ…。頼むぜ朝日奈ちゃん、折れないでくれよ…)
黄桜がここにいない苗木にそう心の中で愚痴っていると
「…葵さん」
「……うん。分かってる…分かってるよ、響子ちゃん。悲しいけど、悔しいけど…それでも、私たちは立ち止まっちゃ駄目なんだよね。前に進まなくちゃ、ダメなんだよね…!」
霧切の呼びかけに応えるように、朝日奈は涙を拭うと勢いよく立ち上がる。
「…終わらせよう、こんなコロシアイ…ッ!もう誰も、死なせちゃ駄目なんだから。私は、もう絶望なんかに負けたくない…!」
「…ええ、その通りよ。誰が犠牲になったとしても、私たちは足を止める訳にはいかない。先が見えなくても、『希望』を信じて進むしかない。…その先に、私たちが望んだ『未来』があることを信じて、ね」
「うん…!」
「…やれやれ、大したお嬢ちゃんたちだこと。もうおじさんなんかとっくに追い越されちまってるなぁ…」
「…羨ましいや。彼女たちは、昔僕らが持っていたものを『今でも』持ち続けている。こんな世界で、僕たちが摩耗しきってしまった『明日の希望』を、皆はまだ諦めていないんだね。…隣の畑のカブはでかい、僕もまた信じてみようかな…。苗木君達が信じる『未来』を…!」
「おう、いいんじゃあねえの?…こんなオジサンだってまだやれるんだ。万代君なら余裕余裕。…そうだろ、御手洗君?」
「……」
「…御手洗君?」
新たに決心を決めた二人を、御手洗は『羨望』とも『嫉妬』とも取れる、まるで『あり得ないモノ』を見るかのように見つめていた。
…と、そこに
タッタッタッタ…!
「…あ、ここに…いた…!」
「え?…あ、忌村さ…ッ!?さ、さやかちゃんッ!!」
会議室の前を通りがかり、一同を見つけて足を止めたのは舞園を抱えた忌村であった。
「忌村ちゃん…どうしたよそのカッコ?それに、その舞園ちゃんは…」
「…ちょっと、色々あってね。舞園は、置いて行くわけにもいかなかったから…」
「さやかちゃ…ッ!?」
朝日奈が即座に舞園の傍に駆け寄るが、舞園の毒々しく変色した『左半身』を見て思わず息を吞む。
「そ、そんな…」
「これって…まさか、僕の時と同じ…!?」
「…NG行動違反による、ペナルティの毒…!」
「…ちょうど、戦刃が死んだところに出くわしちゃってさ。舞園のNG行動…『大声を出す』なんだけど、ショックでつい…ね」
「…なんてこった…」
「…あ、でも…まだ『死んでは無い』から安心して」
「…え?」
忌村の思いがけない言葉に、再び陰鬱になりかけていた一同の目が点になる。
「忌村さん、それってどういう…?」
「…こいつの体に完全に毒が回る前に、私が作った『遅効薬』を飲ませたの。…万代が最初に毒を喰らった時、症状から大体の『毒の成分』が分かったからね。手持ちの薬かき集めて、一つだけだけど毒の効能を抑制する薬を調合しといたの。…『苗木の血』のほうがよく効くからお役御免だと思ってたけど、役にたってよかった…」
「忌村さん…ありがとうッ!」
「…で、でも…解毒じゃなくてあくまで毒の効能を抑えるだけだから、目を覚ますためにはちゃんと解毒して蘇生させないと…」
「解毒…そうだ!響子ちゃん、『誠の髪の毛』!あれなら…」
「…それは難しいわ。意識が無い以上、今のさやかさんはこの髪の毛に含まれている血液を飲み込むことができないわ。なんとか『直接』体内に送り込めればいいのだけれど…」
「そんな…じゃあ、やっぱり誠になんとかしてもらうしかないのかな…?」
「…やれやれ、眠り姫を起こすのは『王子様のキス』ってか?ロマンスだねえ…」
「茶化している場合じゃあないわよ…!」
「おっと、済まねえ響子ちゃん」
「…ともかく、まずは誠君を解放しなくてはならないわ。襲撃者を止める為にも、さやかさんを救うためにも、このコロシアイを止める為にも…!」
「うん、そうだね!」
「…私も協力するよ。舞園には、ちょっと借りができたからね」
「ありがとう、忌村さん。…万代さん」
「うん、分かってるよ!舞園さんは今度こそ僕が守ってるから!もう誰にも邪魔なんかさせないよ!」
「…お願いします」
「よし、それじゃ行動再開だ!俺らも頑張ろうぜ、御手洗君」
「……え?あ…は、はい…」
どこかうわの空の御手洗であったがとくに気に留めることも無く、霧切たちは戦刃の死と背負い、舞園の目覚めの為に行動を始めるのであった。
…その頃、宗方たちは…
「…今回の犠牲者は、戦刃むくろだったか…」
「呆気ねえもんだな。あんだけしぶとかった奴も、所詮はこんなもんかよ…」
「……」
「…どうした、宗方?まだ体が痛むのか…?」
「いや、なんでもない…」
宗方たちは戦刃たちを見失った後、天願との戦闘で疲労困憊の宗方を気遣いタイムリミット前に『応接室』の一つに隠れ、目が覚めてからモノクマのアナウンスを聞いた後、次の行動方針を考えていた。
(…戦刃むくろが死んだ。これで、苗木誠が今回の『黒幕』だという線はほぼなくなったと見ていい。あの甘い男に、自分の妻を『捨て駒』にする『覚悟』などない。…ならば、これは一体誰が『仕組んだ』というのだ?このコロシアイの黒幕は、この本部の構造を『知り尽くしている』。でなければ、いかに奇襲だったとはいえ俺に感づかれずにここまで周到な真似をできる筈が無い…絶望の残党共に、そんなことができる力はもう無い筈だ。ならば、一体誰が、なんの『目的』で…?)
満足に動けない為か、逆に頭が冷えた宗方は黒幕の正体について思考する。そんな宗方を尻目に、逆蔵は先程戦刃を仕留められなかったことを悔いていた。
(…クソッ!『また』だ…また俺は、宗方の期待に『応えられなかった』…ッ!あの時と同じだ…江ノ島盾子だけじゃなく、戦刃むくろまで取り逃がした…!俺は、結局なにもできなかった…ッ!)
「…クソがッ!」
苛立ちを抑えきれず、逆蔵が思わず近くの本棚を蹴飛ばす。と…
ガコォン…
「な…ッ!?」
「…?なんだ」
思った以上に軽い音と共に本棚が倒れ、その後ろから『モノクマカラーの扉』が現れた。
「な、なんだこりゃ…?こんなもんが隠してあったのか…」
「…妙だな。確かこの奥にはもう一つ応接室が在った筈だ。…だが、俺はそこを塞がせたことも、こんな色に扉を塗らせた覚えもないぞ」
「…なにかの『罠』か?どうする、宗方?」
「…虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ。例え罠だとしても、こうして隠されていた以上何かがある筈だ。確かめる必要がある…」
「…だよな!なら、先に行くぜ…」
逆蔵が先になって、二人は扉の奥へ進む。
「…特に罠はなさそうだな」
「油断するな、逆蔵。絶望に気を抜く訳にはいかんぞ…!」
「分かってるよ…!」
扉の奥の応接室は隣に比べ若干狭いが、ガラス張りで外が見えるようになっており、特に変わった様な様子は見受けられなかった。
「…一応、ここから外は見えるな。…ここから脱出できねえか?」
「…流石に少し高すぎるな。もう少し下なら手もあっただろうが…」
「チッ…ん?」
と、見えてはいるが出られない事実に舌打ちした逆蔵が、テーブルの上に置かれた『小さな箱』に気が付いた。
「…おい、こりゃなんだ?」
「ム…?なにか『張り紙』がしてあるな」
宗方の言うとおり、箱の上にはメモが貼られていた。
「…『特別ヒント。このなかに『事件の手がかり』が入っています♡』…怪しすぎるだろ」
「……」
「…お、おい宗方?」
余りに怪しいメモに疑う逆蔵を余所に、宗方は箱を手に取ると迷うことなく開いた。
パカッ…
「む、宗方ッ!?」
「…これは、『写真』?」
「何?」
箱の中に入っていたのは、数枚の『写真』であった。
「だ、誰の写真だ?…まさか、『黒幕』か?」
「分からん。誰が映っているのか……」
怪訝そうに宗方がその写真を見ると…
「…ッ!?」
そこに映っている光景を見た瞬間、宗方は愕然となった。
「…お、おい…宗方?どうした…?」
「………」
「お、おい…!」
「…そうか、そういうことだったのか」
「え?」
「…ああ、『分かった』よ。『黒幕の正体』が、このコロシアイの『真相』がな…ッ!」
「なッ…!?ま、マジか宗方!それで、一体誰が…」
グシャッ!
宗方は突如手にしていた写真を力の限り握りしめる。そして、その写真を乱雑に懐にしまい込んだ。
「む、宗方…?」
「…行くぞ、逆蔵。終わらせるぞ…!」
「終わらせる…って、どこへだよ?」
「…決まっている。奴らを…『絶望』を、全て殲滅する!誰一人として、ここから生かしては返さん…ッ!覚悟しろ絶望…。貴様らは、俺の『逆鱗』に触れたのだ…ッ!」
『…うぷぷぷぷ♡』
…同時刻、本部の外の葉隠は…
「…おっせえなあ。まだ来ねえのかな十神っちたち…」
『オメーココマデ来ルノニ相当カカッタロウガ。モウチョットグライ待てヨナ』
「つってもよぉ~寂しいし不安だし…あん?」
と、右往左往していた葉隠は水平線の向こうになにかを見つけた。
「…なんだべアレ?もしかして十神っちけ?」
『…イヤ、アリャ『船』ダゼ』
「船?…だったら十神っちじゃあねえよな。早すぎるしよ…だったらどこの船だべアレ?」
怪訝そうに見る葉隠にはハッキリ視えなかったが、確かに未来機関の本部へ向けて一隻の船がやって来ていた。
「こっちに来てる…よな?一体どこの…あ、そうだ!確か、荷物の中に双眼鏡が…」
葉隠は持ち込んだ手荷物から双眼鏡を取り出すと船の方を見る。
「どれどれ…あん?」
双眼鏡を覗き込んだ葉隠が見たのは、その船の意外な所属先であった。
「…『未来機関十三支部輸送船』…?なんで十三支部の船が…?」
フラグは立てた、信じるかどうかは皆さん次第だ…