ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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ニューダンのキャスト陣を見て思わず吹いてしまいました
大塚明夫さんとか井上喜久子さんみたいなベテラン陣、柿原徹也さんや鈴村夫妻に下野紘さん、緑川光さんのような今をときめく売れっ子陣、田中あいみさん、武内駿輔さん、さらには舞台から石田晴香さんといったニューカマーまで素晴らしいキャスティングと言えますね。…他の皆さんはともかく大塚ボイスの高1とか渋すぎる…BJかな?
誰が誰なのかとても楽しみですね

…やはり(モノクマーズは)山寺だったか…!これは安牌ですね(確信)

ファミ通読者ではないのでこれ以上は知らないんですが、既に予約済みの身としてはますます期待ができそうでよかったです。

…たぶんゴン太君が武内君でハルマキちゃんが林原さんかな?…あれ?ハルマキちゃんが灰原にしか見えなくなってきたぞ?

個人的に中村悠一さんが出ていないのが残念なようなほっとしたような…。なぜならこの作品での松田君のCVは中村さんなので。…それっぽくない?


交錯編:内紛

『ぐす…どうちてこんなことに…?』

「襲撃者はこの部屋まで来てたんだ…!扉もバリケードも無事なのに…。ゴズさん…私たちを助けてくれたのに、何もできなくて…ごめんなさい…ッ!」

「…ッ、ぐ…!」

 吊り下げられていたゴズの遺体を床に降ろし、朝日奈は自身の上着を脱いで被せる。

 

『けどどうして、ゴズさんだけじゃなく苗木君までこんなにひどい目に遭わせたんでちゅかね?モノクマは襲撃者が殺せるのは『一人』って言ってたから、苗木君を殺すつもりは無かったはずでちゅけど…』

「分かんない…でも、これでハッキリしたこともある…ッ!モノクマの目的は、やっぱり『誠』だ…!アイツは、誠を『絶望』させるためにわざと誠の目の前で殺させたんだ…!」

『な、苗木君を絶望させるため…でちゅか?』

「アイツも分かっているんだ。自分じゃどうやっても誠に勝つことはできないって。…だから、何もできない誠の目の前で人を殺して、誠に『自分自身に絶望』させるつもりなんだよ!…『日向さん』みたいに…」

「……」

「雪染さん…そしてゴズさんも、今まで狙われた人たちは、皆誠を良く思ってくれた人たちだった。アイツはそうやって、誠の味方を減らして誠を『孤立』させるつもりなんだよ!」

『じゃあ、次に狙われるのは…!?』

「…多分、昔の誠を知ってる忌村さんか黄桜さん、誠の味方をしてくれてる万代さんか天願会長…。そして…多分、私たちも…ッ!」

『そ、そんな…』

「…とにかく、ここを早く離れよう。宗方さんもそろそろ目が覚めてるだろうし、襲撃者に誠の居場所を知られたままは危険だよ!」

『りょ、了解でちゅ!』

「……ッ」

「誠、立てる?…んしょ…ッ!」

 

ポタ…ポタポタ…

 朝日奈が苗木を担ごうとすると、苗木の塞がりきっていない傷口から血がぼたぼたと流れ出す。

 

「あ…ッ!ま、誠…大丈夫?」

「…ッぅ…」

『しょうがないでちゅよ。普通だったら死んでてもおかしくない傷なんでちゅから。無理に動くといくら苗木君でも傷が開いちゃうでちゅよ!』

「…それに、こんなに出血してたらきっと宗方さんにも血痕で居場所を突き止められちゃう…。せめて、『あと一人』いてくれたら…」

 

 

 

 

 

「…呼んだかい?朝日奈ちゃんよ」

「えッ!?」

『ふぇッ!?だ、誰でちゅか!?』

「そんなに驚くなよ。…俺だぜ」

「あ…き、黄桜さん!」

 部屋の入口で声をかけたのは黄桜であった。

 

「…どうやら、今回やられちまったのはゴズ君みたいだな」

「…はい」

「イイ奴から死ぬってのは良く言うが、納得できねえもんだな…。それはそうとして、なんで苗木さんまでんな酷い有様になってんだ?」

『多分襲撃者にやられたんでちゅ!反撃できないのを良い事に苗木君をこんな目に遭わせるなんて、許せまちぇん!』

「…成程、『裏切り者』ってのはどうやら相当性根の腐った奴みてえだな。…俺みたいな、な?」

『ふぇッ!?』

「……」

「…冗談だよ冗談。それよりほれ、苗木さんを運ぶんだろ?手伝うぜ」

「…うん、お願い」

 黄桜に反対の肩を担いでもらい、朝日奈達はゴズをその場に残し倉庫を後にした。

 

 

 

 

ポタ…ポタ…

「っとっと…しかし、こんなに酷い怪我だってのに連れ歩いて大丈夫なのかよ?いくら苗木さんが吸血鬼だからって、これじゃここに居るって教えてるもんだぜ?」

「大丈夫だよ。…ほら、この辺とかもう治りかかってるでしょ?」

「え?…あら、ホントだね」

 黄桜が苗木に視線を向けると、顔や首筋にかけて無数にあった刺し傷の多くが殆ど塞がっていた。

 

「流石の回復力ってとこか。これならもうちょいで完治しそうだな」

『…でも、まだ左目は開かないみたいでちゅ。やっぱり一番酷い怪我だったでちゅからね』

「…許せないよ。ゴズさんだけじゃなく、誠にまでこんな酷いことをして…絶対に見つけ出して、一発ぶん殴ってやるんだから…ッ!」

「おいおい…落ち着けよ朝日奈ちゃん。アンタが熱くなったら誰が止めれるんだよ?」

『…そういえば、黄桜さんはなんで苗木君の味方をしてくれるんでちゅか?』

「あん?…別に、深い理由なんざねえよ。単に苗木さんと敵対なんて『自殺行為』をしたくねえだけさ」

「自殺行為って…別に誠だって敵を全部殺してる訳じゃ…」

「それぐらい苗木さんのことを敵に回したくないって思ってるだけだよ。…それに」

『うん?』

「苗木さんと君たちが助けようとしている『77期生』の奴らは…俺の『教え子』だからな」

「あ…!そういえば、そうだったっけ…」

「まあ、ちさちゃんが来てからは丸投げしちまってたけど、それでも…俺の大事な『生徒』だったんだ。そいつらを救おうとしてくれてる苗木さんのことを見捨てるなんざ…いくら俺でもちとばかし気が引けるってモンだぜ」

「黄桜さん…」

 

「…ところでよ、俺達はどこへ向かえばいいんだ?」

「あ…えっと、一応皆にもゴズさんが襲われたことを伝えときたいんだけど…」

「そいつは危険だぜ。下手にうろついて他の連中ならともかく宗方君達に見つかったら…」

『…なら、館内の『放送設備』を使ったらどうでちゅか?』

「放送設備?」

「…成程、元々ここは宗方君が希望ヶ峰学園の『海外分校』として建設の指揮をしていた施設だ。…あの『人類史上最大最悪の事件』が起きたおかげでこうして未来機関の本部としての機能を果たしているが、元が学校なら『放送設備』ぐらいあってもおかしくねえ」

『実はついさっき、モノクマに破壊されたデータの一部を復旧したんでちゅ!なんとかこの階層の間取りぐらいは確認できるでちゅよ!』

 月光ヶ原はモニターにこの階の案内図を表示する。

 

「えっと…ここだね、『モニタールーム』!そう遠くはないみたい」

「…だが一つ問題があるぜ。宗方君がここの建設責任者だった以上、当然彼もその場所のことぐらい知っている筈だ。苗木さんがそこにいるってことを悟られたら…」

「……」

「…その時は、私が誠を守るよ。絶対に…!」

『む、無理しちゃ駄目でちゅよ?朝日奈さんの『NG行動』はかなり厳しいんでちゅから…』

「…そんなに面倒なのか?」

「…私、『パンチやキックを受けてはいけない』んです」

「それは…なんとも厄いルールだな。逆蔵君の良い的じゃねえか。よくそんなもん背負っておいてあの時苗木さんを守ろうとしたもんだぜ…」

「あの時はちょっと頭に血が上っちゃって…。でも、気をつければきっと大丈夫だよ!…それに」

『?』

「…『皆』なら、きっと分かる筈だから…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…う…」

「…起きたか、宗方」

「…どうやら、お互い無事なようだな」

 一方宗方と逆蔵も目を覚ましていた。

 

「俺がいるんだ。そう簡単にお前を死なせるかよ」

「…そうだな。だが、正直なところ、『半々』だったよ」

「半々…?」

「もし奴が未来機関を潰すつもりなら、真っ先に俺が狙われる筈だからな。…こうして生き延びたことにホッとしているが、同時に敵の『狙い』が不明瞭にもなった」

「…単に未来機関を潰すことが目的じゃあねえってことか。…にしても、一体誰が死んだんだろうな…?」

「分からん。…が、すぐに分かるさ。こんな閉鎖空間にいる以上、人一人の死をいつまでも隠し通せはしない…」

「だな。…で、あのバケモンを追うのか?」

「…いや。逆蔵、お前は霧切響子を見張れ」

「…あの女をか?奴を二人がかりでかかった方が確実なんじゃねえか?」

「先ほど戦刃むくろと舞園さやかが苗木誠達から離れて別行動を始めた。…奴なら彼女たちを使って霧切響子へなんらかの手助けをさせるかもしれん。奴は何もできんだろうが、それでも奴の『手足』は可能な限り奪っておく必要がある…」

「…必要なら俺は構わねえぜ?」

「その必要はない。…下手にヤツを刺激すれば我々も道連れだ。奴にはあのまま鎖で縛られ続けて貰うとしよう」

「…了解だ」

 

ブツッ!

 と、いきなりモノクマがモニターに姿を現す。

 

『うぷぷ!面白いよねー!口ではどれだけ苗木君のことを罵っていても、いざ行動するとまず苗木君のことを念頭に置いて動き出す。結局、皆苗木君が怖くて仕方がないんだよね!苗木君は、まるで『生きた核弾頭』だね!うぷぷぷぷぷ!』

「野郎…ッ!」

「…捨て置け、時間の無駄だ」

「…チッ!」

 

 

 

 

「…言ってくれるわね。人の旦那を捕まえて核弾頭呼ばわりなんて…」

「まあそう怒るな。奴の口車に乗ってはいかんぞ?」

「…怒ってはいないわ。ただ、江ノ島盾子でもないアイツに、何も知らないで誠君を好き勝手に言われるのが納得できないだけよ」

「それを怒ってるって言うんじゃ…」

「何か言った?」

「…いえ、なんでも…」

 会議室では、思う様に動けない苛立ちもあってか霧切がいつに無く口数多くモノクマを罵倒していた。

 

「でも、今回は誰が殺されちゃったんだろう…?」

「今のモノクマの言葉は、多分宗方さん達への嫌味でしょうね。…なら、少なくともあの二人ではないわ」

「安藤君たちでもないだろう。…あの二人のことだ、どちらかが殺されたりでもすれば片方が黙ってはおれんだろう」

「となると…単独行動をしている黄桜さんか忌村さん、あるいは…」

「…身近で殺されたとしても『騒げない』誠君の周りの人たち…と言いたいのかしら?」

「あ…えっと…」

「…余り見くびらないで頂戴。私たちは、例え命を狙われていたとしても、自分の『務め』を放棄したりなんかしないわ」

「務め…?」

 

 

 と、そこに

 

 

ザザ…

『皆…聞こえてる?朝日奈です…』

「!朝日奈さん…!?」

「…どうやら、御手洗さんの言ったとおりみたいね」

 

『…さっき、グレート・ゴズさんが襲撃者に襲われて殺されました』

「ッ!?ゴズさんが…」

「むぅ…」

 

『私たちが隠れていた部屋には、バリケードがしてあって簡単には開けられないようにしていた。…でも、襲撃者はそれを『壊しもせず』にゴズさんを殺した。…もう皆、いがみ合ってる場合じゃないんだよ!奴の狙いは、きっとこのまま私たちを殺して回って、未来機関を分裂させようとしてるんだよ!力を合わせないと、このままじゃ私たちは襲撃者のいい的のままなんだよ!』

「…ふん、いい子ぶっちゃってさ」

「……」

 

『誠が気に入らないのなら、全部終わらせてから決めればいい…!アイツの手のひらで踊らされて誠を殺しても、一体なんの意味があるって言うのさ!?』

「葵ちゃん…」

「…葵さん」

 

『誠が言っていた、『絶望を受け入れる』っていうこと…。それはただ、絶望の残党や江ノ島盾子を許すってことじゃないんだよ!こんな最悪な状況でも、『絶望』に惑わされることなく正しい『希望』を見出せるようにする…その為に誠は絶望を受け入れようとしたんだよ!自分の中の絶望を、なにもかも否定してたら、大事なものまで見過ごしちゃうんだよ!』

「……」

「…チッ、好き勝手言ってくれやがって」

 

「…本当は、私だって不安でしょうがないよ。偉そうなことばっかり言ったけど、殆ど誠とさくらちゃん…私の一番の友達の受け売りみたいなものだよ。けれど、この気持ちにだけは『嘘』はない!誠も私も、皆に死んでほしくないッ!だから…私たちは闘います!誰が道を阻んだとしても、必ず…モノクマと裏切り者を倒してみせる!」

「…立派に、なったじゃあねえか。あの朝日奈ちゃんがよ…」

『ちょっとだけ…カッコイイじゃあないでちゅか…』

「……」

「…どれだけ、誠の言葉を代弁できたか分からないけど、私が言いたいことは全部です。皆…誠を、私たちを信じて…!」

 そう言って、朝日奈は放送のスイッチを切った。

 

「…ふう。これで…いいのかな、誠…?」

「……」

「…うん、ありがと」

「…さて、早いとこズラかろうぜ。じゃねえと宗方君がここに来ちまうからな」

『そうでちゅね、行きましょう!』

「うん。…さ、誠も行こう…」

「……!」

「…え?」

 

 

 

 

「…下らねえな。喋れねえ奴の代わりに綺麗ごとほざきやがって…」

「…いや、素晴らしい演説だった」

「あ?」

「それに…今ので苗木誠の『腹の内』もある程度理解できた」

「…流石だな、で…奴は『絶望』なのか?」

「…いや、苗木誠は紛れもない『希望』のようだ。流石は『超高校級の希望』と呼ばれるだけの事はあるようだな」

「…フン」

「だが…それでも、俺はヤツを決して認めん。奴の理想がいかに素晴らしい物であろうとも、奴にそれを掲げる『資格』などないのだ。例えそれが希望に仇成す行為であろうとも、奴の存在を…決して許す訳にはいかない。…我々がやることは、何も変わらない」

「…そうか、なら…苗木誠は任せるぜ」

「ああ。…そちらも任せたぞ、逆蔵」

「了解…」

 

 

 

 

「…放送、終わったみたいですね」

「ゴズさんが殺されたなんて…信じられないよ…」

「しかし、事実じゃろうな。でなければ朝日奈君が危険を冒してまで放送で知らせることはせんじゃろう」

「……」

「…あの、どうしたんです?霧切さん…?」

「…なんでもないわ」

 

(…襲撃者が誰かを殺すことは当然の事。けど、何故ゴズさんを?葵さんが殺されたことを知っているということは、きっと彼は誠君達と行動を共にしていた筈。ならば、彼を殺そうとすれば必然的に『唯一眠っていない人物』である誠君に姿を晒すことになる。…いくら行動の全てを封じられているとしても、人知を超えた存在の誠君に正体をバラすなんてそんな危険を冒すメリットなんて無い筈…。誠君に犯行を見せつけるのが目的…?けどそうだとしても抱えるリスクが余りにも大きすぎる…。それに、バリケードがあったというのにどうやってゴズさんを…?)

「…まだ、ワシらが信用できんか?霧切君」

「…ッ!」

「え?」

「そん…いえ、そうね。まだあなた達を完全に信用は出来ないわ」

「そ、そんなぁ…」

「…まあ、当然じゃろうな。君たちはあのコロシアイ学園生活を経験した。いくら記憶を失っていたとはいえ、友人たちと殺し合うことになったんじゃ。そう簡単に他人を信用など出来まい。…今君が確実に信用できるのは、『苗木君だけ』じゃろうな」

「…否定は、しないわ」

「え?ど、どうして苗木君だけ…」

「…御手洗君、君がそれを言うかね?」

「え?」

「…貴方、『自分の代わり』になってくれていた人の事を忘れたの?」

「代わり…『詐欺師さん』のことですか?」

「そうじゃ。…もし今回の襲撃者、あるいは黒幕が彼のように『誰かに成りきる』ことに長けていた場合…そいつは既に我々の誰かに『成り代わっている』可能性が高い」

「「ええッ!?」」

 思いもしなかった可能性に御手洗と万代は驚く。

 

「そうなると、ここに閉じ込められている全員に『裏切り者』である可能性が出てくる。無論、ワシや君も含めてな。…それが唯一無いのが、苗木君ということじゃよ」

「どうして苗木君だけが?」

「…どれほど変装に長けていようと、整形手術、あるいはスタンド能力で顔や体格、声を似せることができたとしても…『自分の種族』までを誤魔化すことなんてできないわ」

「あ…!そうか、苗木君は『吸血鬼』…人間じゃない!だから、どんなにそっくりになっても…『そこ』までは似せられない!」

「うむ。…仮に『石仮面』を用いて同じ吸血鬼になったとしても、彼のあの領域に一朝一夕で辿りつけるとは思えん。故に、彼だけは『本物』だと断言できる」

「でも、その苗木君は…」

「…だからこそ、私たちがやらなければならないのよ」

 

 

 

 

 

「そうでしょう、『さやかさん』?」

「「…え!?」」

「ほう…」

 

…スッ

「流石、よく分かってるじゃあないですか響子ちゃん」

 霧切の問いに答えるように、舞園が部屋の中に入って来た。

 

「ま、舞園さん!?どうしてここに…」

「苗木君と一緒だったんじゃ…」

「誠君は葵さんに任せてきました。ゴズさんは…亡くなってしまいましたけど、月光ヶ原さんがまだ一緒ですし。それで、私とむくろちゃんはそれぞれ手分けして黒幕の手がかりを探すことにしたんです。…でも、所詮私は素人なので、響子ちゃんの助手に徹しようかな、って」

「…ふむ、妥当な判断じゃな」

「…誠君じゃなくてごめんなさいね、響子ちゃん?」

「別にどうでもいいわ。…アナタこそ、誠君の助手だったんじゃあないかしら?私の方に回っていいの?」

「ま、その辺は臨機応変ということで。…それに、離れていても誠君とは繋がっていますから」

「…そうね」

 自分たちが愛した男の無事を、二人は信じて疑わなかった。

 

「…さて、それで、まずは何をしますか?」

「…雪染さんの検死は既に終わっているわ。と言っても、誠君が殆ど治してしまったからそれほど手がかりは無かったけれど」

「い、何時の間に…?」

「次はゴズさんの検死に向かうわ。…今は黒幕もだけど襲撃者の手がかりが必要よ。犯行の手口から殺害方法を割り出せれば、『対処法』も見つかるかもしれない…」

「…分かりました」

「なら、我々も同行させてもらうとしよう」

「ぼ、僕も…」

「…御手洗さんは構わないけど、万代さんはここに残ってください」

「え!?ど、どうして…?」

「私とさやかさんは現状宗方さんたちにとっては『敵』でしかないわ。…もし宗方さんと逆蔵さん、どちらかと遭遇してしまった場合、戦闘を回避することはほぼ不可能よ。…その状況で、貴方の身の安全を保障はできないわ」

「うう…」

 万代は恨めしそうに自分のNG行動が記された腕輪に目を落とす。

 

「そう気を落とすな万代君。直接力になれずとも、生きているだけで苗木君の助けになるのだ。開き直って楽にしておれ」

「…うん。じゃあ、雪染さんの遺体は僕が守るよ!」

「ええ、お願い。…宗方さんの為にも、ね」

「…じゃあ、行きましょうか」

「は、はい!」

 万代を会議室に一人残し、霧切たちはゴズの遺体の場所へと向かおうとし…

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!伏せてッ!」

「え…?」

 

ギュォッ!

ガコォンッ!!

「わあッ!?」

「むう…ッ!」

 会議室を出た途端、横合いから飛んできた『椅子』を倒れ込むように躱す。

 

「…チッ、惜っしい…!」

「…逆蔵さん…ッ!」

 パイプ椅子を片手に不敵に笑う、椅子を投げた犯人である逆蔵に、霧切と舞園は敵意の籠った眼差しを向ける。

 

「ど、どうしたの皆!?」

「来るな万代君!そして見るな、ここは危険じゃ…!」

「さ、逆蔵さん…!?どうしてここに…」

「俺の今の役目は霧切、テメエの足止めなんでな…。テメエと苗木誠が手を組むと厄介だってことはあのコロシアイで知ってんだよ。そこの舞園と一緒に、おとなしくしてて貰うぜ…!」

「…ッ!」

 

ザッ…

 そんな逆蔵と霧切の間に、トンファーを構えた舞園が割って入る。

 

「…なんだ?『アイドル』風情が俺とやるってか?」

「アイドルだって結構鍛えてるんですよ。スタンドが使えなくたって私そこそこ戦えるんですよ?」

「ま、舞園さん!?危ないですよ!」

「大丈夫ですよ。…それに、貴方程度に『殺意』で負けてるようじゃ、誠君の…『ギャング・スター』の妻は務まりませんから…!」

「…上等だッ!」

 舞園の挑発を受け取った逆蔵が振り下ろしたパイプ椅子を、舞園のトンファーが合気道のように下へと受け流す。

 

ガァンッ!

「チッ、テメエ…」

「シッ…!」

「!?」

 お返しとばかりに躊躇いなく顔面に振り下ろされたトンファーを、逆蔵はボクサーとして鍛えられた反射神経で身を捩って躱す。

 

「こいつ…ッ!?」

「ツァッ…!」

 

ガンガンガンガァンッ!

 顔面だけでなく肩や肘といったボクサーにとって『生命線』とも言える場所への執拗な攻撃を逆蔵はパイプ椅子を盾にしてなんとか防ぐ。

 

(こ、こいつ…ッ!一撃一撃はそう重くはねえ…攻撃も単調、狙いも見え見えなのに…なのに、何故押し切れねえッ!?大したことねえ一撃の癖に、なんだってこうもやり辛ぇんだ!?)

「…ラァッ…!」

(この感覚…そうだ、奴と…『日向・Z・創』とやり合った時と似ている…!あの時の奴はやる気が無かったが、奴とやった時のあのやり辛さに似てやがる…!)

 

「す、凄い…!『元超高校級のボクサー』の逆蔵さんを相手にあんな一方的な…」

「…いや、あれは結構な『綱渡り』じゃぞ」

「え?」

「ああは言ったけど、さやかさんはそれほど場慣れしてる訳じゃあないわ。十四支部での活動も基本的には『元超高校級のアイドル』の知名度を生かした広報と定期的なライブ活動による士気高揚が殆どよ。…誠君や葵さん経由で『大神流武術』の護身術の覚えはあるけど、それでも逆蔵さんとの差は相当なモノよ」

「じゃあ、どうして…」

「簡単な事よ。…『覚悟』と『殺意』、それが彼との実力差を埋めているのよ」

「覚悟と殺意…!?」

「誠君の為なら命を賭けるという『覚悟』…。私たちのそれは逆蔵さんの宗方さんに対するそれにだって劣るつもりはないわ。そして、さやかさんがあのコロシアイの中で身に着けた…『身に着けてしまった』、あの『漆黒の殺意』…。誠君やむくろさんが時折見せる、目的の為なら『人間性』すら放棄できるその殺意をさやかさんも持っている。…それは完全に私たちを見下している逆蔵さんにとっては異常なほど不気味な筈よ…!」

 

「このぉッ…!」

「…嘗めんなクソアマッ!」

 

ガスッ!

「ぐう…ッ!」

 

「ああッ!?」

「…とはいえ、そう永く誤魔化せるものではない。『殺意』というものは長続きせんものじゃし、長続きしていいものでもない。腐川冬子が良い例じゃ。『殺人衝動』を『ジェノサイダー翔』という形で切り離せたからこそ、彼女は『文学少女』としていられた。故に、これ以上彼女に任せる訳にもいかんじゃろう」

「じゃあ、どうするんですか…?」

「…やれやれ、もう安心して隠居できると思っとったんじゃがのう…」

「へ?…か、会長!?危ないですよ!」

 ため息を吐くと天願は徐に戦いの方へと歩いて行った。

 

「調子に乗りやがって…この尻軽女がッ!」

「く…ッ!」

 力任せに振り払われた舞園に、逆蔵がパイプ椅子を振り下ろそうとし…

 

 

 

ガキョッ!

「な…ッ!?」

 唐突に手首に受けた衝撃に逆蔵は思わず手を放してしまい、中途ですっぽ抜けたパイプ椅子は舞園の頭上を跳び越え廊下の向こうに飛んで行ってしまった。

 

「…ボクサーともあろうものが女性に、しかも『拳』でなくあんなものを振り回すとはな。ゴズ君でもやらんようなことをして、恥ずかしくないのかね?」

「ジジイ…ッ!」

「か、会長さん…!?」

 いつの間にか逆蔵の懐に入っていた天願は、後ろで座り込む舞園に振り返って優しく微笑む。

 

「よく戦ったな舞園君。流石は苗木君の奥さんじゃ。…じゃが、君たちがあまり『こちら側』に来ることを彼は望まんじゃろう。そろそろ、ワシに任せてもらうぞ」

「…何時まで会長面してるつもりだ?もうアンタの時代は終わったんだよ!」

「うむ、その通りじゃ。ワシのような老人の時代はとうに終わった。…これからは『彼等』の時代じゃ。彼らの目指す『未来』の礎となるのがワシらに残った役目じゃ。故に…君たちの様な『中途半端』な時代に生まれてしまった者達の始末をつけるのもワシらの後始末だからな」

「テメエ…ッ!俺達が『不要』だとでも言いたいのか!?」

「そうは言っとらん。ただ君たちは『時勢』が悪かった。『超高校級の希望』と『超高校級の絶望』が同時に存在するという、希望ヶ峰学園に置いてある意味で『奇跡』の年に、君たちは学園を変えようとした。…それ故に、君たちはその戦いの渦中に中途半端に踏み入ってしまったがために、己の『認識』を見誤ってしまった。その歪んだ価値観は、いずれ新たな『絶望』の火種となる。それを正すか、出来ぬのであれば災いとなる前にカタをつけるのが、時代に取り残されたワシらの最後の仕事じゃろう」

「…ハッ、言うに事欠いて掃除屋気取りか?…宗方の、俺達の『計画』の邪魔を、テメエらなんかにされてたまるかよッ!」

 天願の顔めがけ逆蔵が蹴りを放つ。が…

 

「…なっとらんな、ほれ」

 

クンッ…!

 天願はその蹴りに指先を這わすと埃でも拭うかのように蹴りの軌道を変える。

 

「なッ!?この…」

「だから無駄じゃよ。ほれほれ」

 逆蔵は何度も軌道や蹴り方を変えてキックを撃ちこむが、天願はそれを『あっち向いてホイ』でもしているかのように指先一つで躱す。

 

「キックに関してはまだまだ素人レベルじゃの。これなら日向君の方が強かったぞ。…自慢の拳はどうした?」

「黙れジジイッ!」

「…まあ、大方の見当はつくがの。とはいえ、こんなロートルの老いぼれ相手にこのザマではまだまだ未来機関のトップの座は譲れんのう」

「黙れっつってんだろッ!!」

 挑発に完全に頭にきた逆蔵は本能的に天願の顔面にパンチを放ち…

 

「…ッぐッ!?」

 寸でのところで我に返り、顔面に当たる擦れ擦れでそれを寸止めする。

 

「…じゃろうな。君にとってはその『NG行動』は窮屈でしょうがないじゃろう?君の『存在意義』を半分封じられるようなものじゃからな」

「…テメエッ!」

 寸止めした拳を広げ、そのまま掴みかかろうとするが

 

 

ビュンッ!

「なッ…!?」

「…まだまだじゃな。どれほどの怒りに燃えようとも、『呼吸』を乱してはならんと教えたじゃろう?」

 老人とは思えぬ身のこなしで懐に潜り込んだ天願が逆蔵の背後に回る。

 

「…『これ』を使うのも久しぶりじゃな。…殺しはせん、しばらく寝ておれ」

「じ、じい…ッ!?」

 逆蔵が振り返るよりも早く、天願は『その呼吸』を刻みだした。

 

 

 

 

 

 

「コォォォォォ…ッ!…太陽の波紋、『山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)』ッ!!」

 

バジバジバジバジッ!!

「が…ッ!?」

 逆蔵の項めがけ突き出した天願の手刀から流れた『波紋』は、逆蔵の神経と血管を過剰に刺激しその意識を瞬く間に奪った。

 

「な、何!?電気!?」

「今のって…まさか、日向さんと同じ…!?」

「…会長、あなたは…」

 その光景を呆然と見ていた霧切たちに、天願は気絶した逆蔵を担ぎながらニヤリと笑う。

 

「…若い頃に比べれば『木漏れ日』程度の波紋じゃったか。…まあ、『またまたやらせていただきました』…と言うところかの?」

 




ワシはきれいなジジイ!(お目めキラキラ)

…という訳でここの天願はきれいな天願です。…ホントダヨ?

天眼が波紋を使った経緯に関しては追憶編を待ってね!…どうしてもこっちの方が描きやすいねん。トワイライト編とか原作の尺が短すぎたせいで終わりきれん…それさえ終わればやりたいことが山ほどあるのに…!

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