ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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未来編11話視聴…したんですけど…

…やっぱり個人的にはこの真相は若干納得しかねますねぇ。洗脳ビデオがここで来たかと思う半面、ここまで引っ張るかとも思ってしまう。トリックも心理操作も関係ない一方的な「自殺強要」なので、推理アニメとしては若干物足りない人も多いみたいですね

苗木もあっさり洗脳されてしまいますし…けど、苗木の「みんなの想いを引きずっていく」という強さが逆に仇になったと思えば、まあしょうがないかとも思えますけどね。そしてつい今しがた死んだ霧切さんと並んで舞園さんが自殺を仄めかしているあたり、やっぱり苗木にとって舞園さんの死は重かったみたいですね。…でも僕はナエギリ派!まだ霧切さん生存を信じてます(真顔)

…ボクサー!生きとったんかワレ!
窮地に駆けつけたのは霧切さん…ではなくまさかの逆蔵。今まで散々な扱いだったけどここにきて今までの汚名を纏めて返上した感じですね。
苗木に対する扱いが柔らかくなった辺り、やっぱりこの人は良くも悪くも体で覚えるタイプの人間だったんですね。宗方を裏切っていたという後ろめたさを抱えたまま、その宗方に見限られたと思ったことで、裏切り者と疑われながらも他人を信じようとした苗木にほんの少しの「敬意」のようなものを感じたからこそ止めてくれたんじゃあないかとも思います。ボクサー…安らかに…

そしてジジイ…まさかの黒幕説浮上。確かになにかと事情に詳しすぎるような感じはありましたが、本当に黒幕なのか…?もしそうなら、今回のこれは希望の「蠱毒」ともいえるものでしょうね。希望同士が殺しあうことで、最後に生まれる「最高の希望」を演出する…あれ?どっかの白髪頭が似たようなこと考えてたような…
御手洗も本当にシロなのか怪しい感じがありますし…共犯の線もありますね。たぶん自分からではないだろうけど…本当に不憫な子。

…ところで、今回の真相、この作品じゃ無理ですね。苗木が起きている以上即バレますし、最悪苗木の傍なら止める手段もありますし…何より妹様が面白くないでしょうし。

…という訳で、この作品ではその辺まるっと改変します!洗脳ビデオは関わってきますが、真相は異なりますので、皆さんの期待に応えられるよう頑張ってみます!


交錯編:襲撃

タッタッタッタ…!

 廊下の一部にまで漏れ出した煙幕の中を、苗木の両肩を背負った戦刃と朝日奈、そして舞園が疾走する。

 

「ねえ…ッ!今更だけど、誠連れてきて大丈夫だったのかな?動いたら駄目なんでしょ?」

「多分…大丈夫だと…思います…」

「え?」

「確かに誠君は『動いたら駄目』とは言われてる。…でも『動かすのは駄目』とは言われてない。そもそもこれが駄目なら、さっき逆蔵が誠君に掴みかかった時や響子さんが誠君の髪の毛をとったのだって駄目な筈…!」

「あ…そっか」

「あの時と同じ…です…。一見厳しそうなルールでも、よく考えれば『抜け道』がある…。あのモノクマが、江ノ島さんのやり方を『踏襲』しているのなら、それを止めたりはしない筈です…」

「……」

「誠君、そんな顔しないで…。私たちは大丈夫だから…」

「…ところでさやかちゃん、さっきからなんでそんな『小声』で話すの?会議室に居た時も途中から変に我慢してたっぽいし…」

「…ごめんなさい。実は私、『大声を出しちゃいけない』んです。『NG行動』…」

「あ…そうなんだ、ごめん。…じゃあむくろちゃんは?」

「私は、『血を流したら駄目』…。相手でも自分でも、私が血を流させたら駄目…葵さんは?」

「私は…」

 

 

 

ドガァンッ!!

「「「ッ!!?」」」

 曲がり角を曲がった辺りで、後ろから何かが壁にぶつかる音が聞こえた。

 

「ぐううッ…!」

「ご、ゴズさん!?」

「…追いついたぞ」

「…宗方…ッ!」

 壁にぶつかったのは、追いかけてきた宗方によって壁まで突き飛ばされたグレート・ゴズであった。

 

「…おいゴラァッ!いくらなんでもやり過ぎだろうがぁッ!『味方』を殺して何が『希望』じゃあッ!?」

「『味方』だと…?苗木誠が我々の味方である保障などどこにもない。自らの意志で未来機関を離れ、パッショーネなどと言う無法者の集まりを創り上げたような奴が、いつまでも我々に愛想を振りまいていると思っているのか…?」

「彼が我々に対し『危害』を加えたことが一度だってあったかぁッ!?彼は我々を『信じている』、ならばこそ我々が彼を信じなくてどうするというのだッ!私は、例え死んでも…お゛おッ!味方を殺したりなんぞせんわッ!それがこのグレート・ゴズの『覚悟』じゃあ!分かったかタコゴラァッ!」

「…そんな甘い考えでは、『絶望』は滅ぼせん。このまま我々が全滅してしまえば、先に逝った者達に、なんと詫びればいいのだ…?我々は『希望』の為に、その障害と成りえる者を全て『排除』せねばならんのだ…!」

「…さっきから、黙って聞いていれば好き勝手に…ッ!」

「今その『障害』となってんのは『アンタの方』だろうがぁッ!」

「何…?」

 ゴズの怒号に宗方は眉を顰める。

 

「会長はおっしゃられた…彼は『未来』を見ていると!『未来機関』である我々よりも、はるかに先の未来をなッ!我々は、『明日』の希望を守る為に目の前の絶望をひたすらに打ち倒してきた。だがッ!彼は違う。彼は『明日』だけでなく、遥か『遠い未来』、我々の子孫たちが生きる時代に、同じ『災い』が起き得ぬよう、『人の心』から変えようとしているッ!だからこそ彼は『絶望』を受け入れる『覚悟』をしたのだとッ!私は、彼のその『覚悟』に敬意を表するッ!故に、その彼が殺されるところを黙って見過ごすなど、このグレート・ゴズには出来ぬぅぅぅッ!!」

「…そんな『夢物語』に付き合っている暇など、我々には無いのだッ!!」

 

ガインッ!

 宗方の振り下ろした刀を、ゴズは先の爆撃の衝撃で崩れ落ちた『鉄骨』で受け止める。

 

「ぐぬう…ッ!」

「奴の信じるものは、奴の『化け物の力』によって作り出された都合のいい『妄想』でしかないッ!我々の…『人間の未来』は、『人間』が創らねばならんのだッ!」

「…ッ!」

「誠君の『夢』を、否定なんかさせません…ッ」

「ッ!?」

 

ギャアンッ!

 鍔迫り合いに割って入った舞園のトンファーが、宗方の刀を空中に跳ね上げる。

 

「貴様…ッ!」

「ゴズさん、『下』ッ!」

「!…おおうッ!!」

 

ドゴォンッ!!

 朝日奈の指示に従い、ゴズが全体重をかけて床目掛けエルボーを叩きこむと、爆撃の衝撃で脆くなっていたこともあり、その一撃は床を砕き下の階層へと続く大穴を作った。

 

「降りるよ!」

「うん…」

 

スルッ!

「え…!?」

「彼は私に任せろ!君たちは先に降りるのだ!」

「は、はい…」

 朝日奈と戦刃から苗木を担ぎ上げたゴズと共に、舞園達はその穴から下の階へと飛び降りた。

 

「…っと。さあ、宗方さんが来る前に早く…」

「待って。…ここは一旦別れた方が良い。ゴズさんが助けてくれるのなら、下手に集まって動くよりも分散して黒幕を探った方が効率がいい…。問題は、誰が誠君を守るかだけど…」

「…なら、私が誠についてるよ!」

「葵ちゃん…大丈夫ですか?かなり危険ですけど…」

「うん…。話してる暇はないんだけど、私のNG行動だと誠と一緒に隠れてた方が安全だから…」

「そうなんですか…」

「…そういう事なら仕方ありませんな。ご安心を、お二人の身はこのグレート・ゴズが守りましょう」

「…お願いします」

「待てッ…!」

「来た…!散開ッ!」

 追いかけてきた宗方を捉えるのと同時に、皆はそれぞれ別の方向に逃げ出した。

 

「チィッ…!待て、苗木誠!」

「やはりこっちに来ましたか…!」

「…ゴズさん!あの『扉』の奥に!」

「承知した!」

 先行する朝日奈が前方にある扉を開け、苗木を担いだゴズが大急ぎで通り抜ける。

 

「…ッ!させるか…ッ」

 間に合わないと判断したのか、宗方はゴズ目掛け手にした刀を投げようとする。

 

 

「…!」

ギンッ!

「…うッ!?」

 しかし、振りかぶった宗方を苗木が『赤い目』で一睨みすると、一瞬宗方の動きがつんのめったかのように停止する。

 

「む…?」

「ゴズさん、早く早く!」

「お…おう!」

 

バタン…

 その隙にゴズと朝日奈は扉を閉じ、奥へと逃げ去っていった。

 

「…今のは…?クソッ、苗木誠め…どこまでも厄介な男だ…」

 閉ざされた扉の前で何故か立ち尽くしたまま、宗方は苗木にそう毒づくのであった。

 

 

 

 一方朝日奈達は扉の向こうに言った後、距離をとるためしばし走り続けていた。

 

「…ふう。追ってきませんな」

「そうだね。…もしかして宗方さん、『扉を開けられない』のかな?」

「む?というと…」

「『NG行動』だよ。会議室から出た時は私たちが開けっ放しにしていたからだし、もしそうなら追ってこれない理由も分かるから…」

「成程…。それならまだ撒く方法はありますな。…しかし、副会長は何故先ほど急に動きを止めたりなどしたのでしょうか?妙なタイミングで思い留まった様な…」

「え、えーと…。ほら、誠が睨んだからビビったんじゃあないかな?あはは…」

「ふむ、成程…。流石は『元超高校級のギャング』、副会長すら視線だけで威圧しますか」

「そ、そうだよね。流石は私の旦那様…」

「……」

 素知らぬ顔の苗木に、朝日奈が顔を寄せ小声で話しかける。

 

(…誠、ホントは『催眠術』で金縛りしたんでしょ?)

「……」

(できるだけ気をつけてね。アイツ…モノクマがどこまで誠の事を知っているのか分からないから。…でも、ありがと。守ってくれて嬉しかったよ♡)

「……フッ」

 ひそひそ声で問いかける朝日奈に、苗木は最小限の表情の動きで返答する。

 

「…ともかく、できるだけ離れましょう。副会長が扉を開けれずとも、彼には腹心の逆蔵君がいる。二人が合流する前に距離をとらねば…」

「うん、行こう!」

『…待ってー!あちしも連れてってー!』

「え?」

 横の通路からやって来たのは、電動椅子に乗る月光ヶ原であった。

 

『一人は寂しいでちゅー!皆と一緒に居たいでちゅー!』

「もう…しょうがないなあ。今までどこに行ってたの…」

 そう言いながら朝日奈は思わず月光ヶ原の頭を撫でようとするが…

 

「……」

フイ…

 月光ヶ原はくるりと向きを変えてそれを躱してしまう。

 

「あ、ご…ごめん。気に障った?」

「……」

「…お二人とも、今は急ぎましょう」

「あ、そうだね…!行こう、皆!」

『はいでちゅ!』

 月光ヶ原を加え、4人は通路の奥へと向かっていった。

 

 

 

その頃、会議室では…

 

ガチャ

「ただいま!食料と水を持って来たよ!」

「おお、スマンな万代君」

「いえ…。僕にはこんなことしかできませんから…」

「で、でもやっぱり危険じゃないですか?もし逆蔵さんにでもバッタリ会っちゃったら、今度こそ…」

「大丈夫だよ!『海豚も豚も違う家』さ!僕と逆蔵君が喧嘩する理由なんてないんだから!」

「ま、まあ…。確かに、殺されそうになった以上、万代さんが『裏切り者』ってことはない…ですよね?」

「そういうこと!…はい、霧切さん!」

「…ありがとう」

 あの後、残っていた面々もそれぞれ部屋を出て行ってしまい、残っているのは霧切、万代、天願、御手洗だけになっていた。

 

「ところで…どうかね霧切君?何か分かったことはあるかね?」

「…まだなんとも言えないわ。いくらか『疑問』に思うことはあるけど、まだ確証が持てない…」

(『ムーディ・ブルース』さえ使えれば造作もないでしょうけど…。…駄目ね、便利な力を手に入れるとつい頼りたくなってしまう。『霧切』の名が泣いてるわね…)

「そうか…。とにかく、一刻も早くこの事態を止めねばならん。次にこの『腕輪』が動き出せば、その時また誰かが『犠牲』になってしまう。それだけは、避けねばならん…」

「こ、こういう時は…逆に苗木君の近くが一番安全かもしれないですね。ほら、腕輪が無いから彼だけは眠りませんし…。動けなくとも裏切り者を脅かして追い払ってくれるかも…」

「…でも、そんなことをしたら他の誰かが代わりに死んじゃうかも…」

「あ…!」

「…分かっている筈よ。こんな状況にある以上、どこであろうと『安全』とは限らない。誠君の近くに居れば確かに他よりは安全かもしれないけど、その分モノクマからのマークもきつくなるし、下手をすれば宗方さんや逆蔵さんを敵に回す恐れもある…。それでもいいのなら、好きにすればいいわ」

「…や、やっぱりおとなしくしときます…」

「…やれやれじゃな」

 必要以上に怯える御手洗に、天願達もどこか呆れたようにため息を吐く。

 

「け、けど…苗木君も、なんか『変わり』ましたよね…」

「うん?」

「だ、だって…『彼』から聞いた話だと、苗木君は自分の力を『誇示』するような人じゃないって聞いてたんですけど。…ここ最近の彼の噂は、あの『ノヴォセリック王国』を『一夜』で掌握したとか、派手な噂ばかりで…やっぱり、組織のトップになるって言うのは、そういうことなんでしょうか…?」

「…それは違うわ」

「え?」

「誠君が力を振るうのは、本当に最後の手段に過ぎないわ。…彼は何時だって、『言葉の力』を信じてきた。絶望に堕ちた人たちでも、きっと分かりあえると信じて諦めなかったわ。…むくろさんから聞いたの。誠君は絶望の残党たちと戦う前に、必ず彼らを『説得』しようとした。どれほど打ちのめされようとも…時には『身体の半分』をすり減らされても、それでも戦わずに済む道を模索したって」

「身体の半分って…!?まさか、そんな…」

 その有様を想像し思わず否定する御手洗であったが、霧切はそれが事実だとばかりに首を振る。

 

「…本当に、無茶ばかりするわ。いくら肉体が不死身でも、『痛み』まで無くなっているわけじゃないのに…。『待つ側の人間』の気持ちにもなって欲しいわ」

「…だが、その無鉄砲なまでの『覚悟』こそが彼の『優しさ』なのじゃろうな。彼は何処までも、『人間の可能性』を信じておるんじゃろう。彼は体は人間ではないのかもしれんが、『心』は誰よりも人間なのじゃな…」

「ええ。…だからこそ、彼の周りの人たちはそれを放っておけないのよ。…どんなに無茶でも、自分の『理想』を決して諦めず、他者の全てを『否定』するのではなく、『理解』して『受け入れる』ことで仲間を増やす。…そんな彼の生き方を、見てるだけじゃ我慢できないのよ」

「…でも、宗方さんの味方をする訳じゃないけど、絶望の残党の人たちを仲間にして、またその人たちが『裏切る』ようなことがあったら、どうするのかな?」

 万代の素朴な疑問に、霧切は若干顔を曇らせて答える。

 

「…その時は、誠君は『全ての敵』になると言っていたわ。未来機関にとっても、絶望の残党にとっても…『希望』にも、『絶望』にとっても『敵』となる存在にね」

「何…!?」

「そんなことをして、一体何の意味があるんですか!?」

「…誠君は言っていたわ…」

 

『…例え将来的にこの世界が『絶望』から解放されたとしても、生き残った人たち全てが手を取り合って平和でいることは…正直無理だろう。『呉越同舟』…戦争と一緒さ。『同じ敵』がいる間は肩を並べて戦えても、それが終われば違う方向に進み…いつかは以前味方だった者同士で戦うことになるかもしれない。絶望の残党だった人たちだって、今は仲間として受け入れられても、いつか彼らを疎む人たちが現れる。…彼らは罪を償うつもりでいるけど、それすら許されるかどうか分からない。…なら、いっそ僕が『全ての敵』になればいいと思ってる。『人類』という種そのものの仇敵が存在する間は…少なくとも、人間同士で争うことはそうそうないだろうからね…』

 

「…とね」

「味方同士でって…、まるでこの状況を『予言』してるみたいですね」

「でも、それじゃ苗木君が可哀想だよ…」

「…なんとも、悲しい目的じゃな。最後に石持て追われようとも、それを受け入れるために戦うとはな…」

「本当なら、誠君ももっとまともな手段で全ての人を救いたいはずよ。彼は優しいから…。けど、誠君は神様じゃない。自分の力でなにもかもできるほど思い上がってはいない。…だから、せめて彼は『自分の手がとどく人たち』を全力で救おうとする。例え恐れ疎まれようとも、『明日の希望』を持てない人たちに、せめて『明日』を迎えることができるよう、彼は闘い続けている。生きてさえいれば…『希望』は繋がる。先の見えない荒野でも、歩き出せば『道』はできるということを伝えるために…」

 語り終えた霧切は、どこかに居るであろう愛する夫の無事を想い、息を吐く。

 

「…やはり、彼は『超高校級の希望』なのじゃな。彼の創る…いや、彼の求める『未来』をぜひ見てみたいものじゃが…まずは今を生き延びねばの」

「ええ…」

「…他の皆も、分かってくれるといいんだけどな…」

 

 

 

 

 

「あーあ…なんでアタシがこんな目に遭わなくちゃいけないのさ…」

「安心しろ流流子、俺が必ず守ってやる…」

「…ありがと、ヨイちゃん」

 安藤と十六夜は二人で連れ立って未来機関内の廊下を歩いていた。

 

「…ホント、村雨の奴も面倒な奴を育てたもんだよ。あんな奴のなにが面白かったんだか…」

「…確かに、アイツは何故かヤツを気に入っていたな。俺にもさっぱり分からない…」

「けど、アイツの事は今はいいか。どうせ『何もできない』だろうし。…それより、今は忌村の方を警戒しないと。絶対アイツが『裏切り者』だよ…」

「いいことを言う。…一度裏切った奴は、必ずまた裏切る」

「アイツも希望ヶ峰学園や未来機関と同じ、ドチャグソに腐ってるんだよ…!」

 この場にいない忌村の事をやたらと貶しながら、二人は安全な場所を求めて歩いて行った。

 

 

 

ギギ…ガコンッ!

 

「ふぅ…ッ!ひとまず、これで急場しのぎにはなるでしょう」

「ありがとうゴズさん、バリケードまで作ってもらって…」

「なんのなんの!…この体が役に立つところなど、こんな時しかありませんからな!」

 宗方から逃げていた朝日奈達であったが、『腕輪の時間』が迫っていることもあり、一旦移動をやめ手近な倉庫の一つに身を潜めていた。

 

『すぅ…すぅ…』

「月光ヶ原ちゃんもお疲れみたいだね…」

「……」

「…ねえ、誠…。私たち、どうなるのかな…?スタンド能力も封じられて、あの時よりも私たちには『力』がない。しかも、あの時よりも皆の仲はずっと険悪で…そんなんで私たち、またアイツに勝てるのかな…?いくら江ノ島ちゃんじゃなくっても、あのモノクマを…倒せるのかな…?」

「……!」

「…え?手を…こう?」

 自身の手に視線を向け何かを言いたげな苗木の様子に、朝日奈は怪訝そうに苗木の手を握る。

 

「……」

コォォォォ…

「…暖かい…」

 すると、苗木の手から不思議な『ぬくもり』が朝日奈の手に流れ、不安と緊張で張りつめた朝日奈の心を解きほぐす。

 

「…そう、そうだよ…!今はあの時とは違う、さくらちゃんがいなくても、誠が…皆がついてるんだもんね!どんなに怖くても、皆で立ち向かえるんだもんね!…ありがとう誠、私弱気になってた…。もう負けないから!」

「……」

「…あれ?誠、なんか顔色悪くない?どうしたの?」

「……」

「…なんでもないの?ならいいんだけど…」

 

「フフフ…見せつけてくれますな」

「え…あッ!?え、えっと…これはその…」

「ハッハッハ!いやいや、出歯亀して申し訳ない。お二人の様子が微笑ましかったもので、つい見入ってしまいました」

「は、ハズい…!」

「なにも恥ずかしがることは無いでしょう。少々普通とは違うとはいえ、お二人は『夫婦』なのですから」

「そうですけどぉ…」

『もー!あちしの前で見せつけてくれちゃってー!あちしも燃えるような恋がしたーい!』

「げ、月光ヶ原ちゃんまで…」

「……」

 朝日奈をからかうようなその場の空気に、苗木もほんの少しだけ微笑むように口元を緩める。

 

「…しかし、不思議ですな彼は。こうしてただ黙ってじっとしているだけだというのに、彼がいるだけで奇妙な『安心感』があります。このような薄暗い小部屋にいるにも関わらず、不安をあまり感じないというか…」

「えへへ…!誠は、希望ヶ峰学園に居た時からこういう奴なの。なんていうか、『お日様』みたいな感じで…誠が見守ってくれるだけで、勇気が湧いてくるんだよ!」

「お日様…ですか。懐かしいですな…。あの『人類史上最大最悪の絶望的事件』のせいで空が『汚染』によりあのようになって以来、我々は未だあの輝くような太陽を見ていない。…彼は、そんな世界に残された『太陽の欠片』とでも言うべきなのかもしれませんな」

「…でも吸血鬼だから、ホントはお日様ダメな筈なんですけどね」

「ハハハ!そういえばそうですな!」

「……フ」

『うふふ…。苗木君が一緒なら、きっとあのモノクマもすぐに捕まえられる筈でちゅ!』

「うん…!だから…その為にも、皆で協力しないと…!」

「ですな…!」

 追い詰められているとは思えないほど、朝日奈達は前向きに会話しながら、その時が来るのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ザッ…

「待たせたみてえだな」

「ああ、待ちくたびれたぞ」

 一方その頃、宗方の元に逆蔵がようやく合流していた。

 

「あまり時間はねえな。…どうする、終わってから行くか?」

「そうだな…。そもそも、今回の催眠後に生き残っているとは限らんからな」

「おいおい…縁起でもねえこと言わねえでくれよ」

「…スマンな。少し弱気になったのかもしれん」

「…珍しいな、お前がそんなことを言うなんて」

「…苗木誠を仕留め損ねた。いや…奴にしてやられた。どうやったのかは知らんが、視線一つで私が動きを止められた。指一本動かせない身で、俺を躱してみせたのだ…」

「…あのバケモンか」

「思えば雪染は、奴の恐ろしさを知っていたから奴に正面切って敵対しようとしなかったのかもしれんな。…とんだ『皮肉』だな。あの時から…『力』のみを信じてきた俺が、理想を突き通そうとするような奴の『力』に屈しかけた。こんな有様では…雪染に顔向けなどできはしない」

 俯く宗方に横顔は、逆蔵が今まで見たことがないような複雑な表情であった。

 

「…なら、どうする?」

 逆蔵の問いに、宗方は表情を改め、顔を上げて力強く宣言する。

 

「…決まっている。『いつも通り』だ。忘れていたよ、我々は元々『負け』から始まっていたということをな。自分達より強い奴と戦うことなど、『当たり前』だった筈だ。ならば、『初心』に還るまでだ。全力を以て…『絶望』を排除する。それだけだ」

「なら…俺もいつも通り、お前を『守る』だけだ。スタンド使いだかなんだか知らねえが、奴を守る女どもは俺が止めてやる。露払いは俺だ、お前はただあの化け物を倒すことだけを考えろ。お前こそが、俺達の『希望』だ。あんな奴が『希望』だなんて認めねえ。お前こそが…『希望』なんだよ。その為にも、疑わしい奴は全てぶっ潰す。…雪染の『仇討ち』もしてやんねえとな」

「…ああ」

 

 

 

 

 

そして…

 

『…そろそろ時間でちゅね』

「こればかりは、祈るほかありませんね。…苗木君、君だけは眠らずに済む。勝手な物言いですが、どうか我々を見守ってください」

「……」

 

そっ…

「…!」

 ゴズの言葉に無言の肯定をした苗木に、朝日奈が擦り寄ってくる。

 

「…ごめんね。ズルいよねこんなの…。でも、やっぱり不安なんだ…。お願い誠…傍にいて…貴方を感じさせて…」

「……」

 

チュ…

 縋る様な朝日奈の口づけを、苗木はただ黙って受け入れる。

 

「…ふ、若いとは…いいものですな」

「えへへ…」

『ぶぅ~…』

「……!」

「…え?」

「どうしました?」

「あの…ゴズさん、誠がこれをって…」

「これは…?」

 

 

 

 

 

 

 

ピンポンパンポーン!

『ッ!』

 腕輪からメロディが鳴ると同時に、微かな痛みと共に睡眠薬が投与される。

 

『こ、これは…zzzz…』

「想像以上に…強力…か…」

「ま、こと…目が覚めたら…一緒に、アイツを…や…っ…つけ…」

「……」

 そして間もなく、苗木と『裏切り者』を除く全員が眠りに就いた。

 

 

 

(…いよいよか。ここからが本番だ。例え話せなくとも、僕が『裏切り者』の正体を知ることができれば、なんらかの手段でそれを伝えられるかもしれない…。止められないのは悔しいけど、とにかく今は襲撃者の正体を探るんだ…!)

 朝日奈達が寝静まったと同時に、苗木は全神経を集中させ本部内の全ての『生命エネルギー』の位置を探査する。五感もフル稼働させ、人間を越えた能力であらゆる事象を見逃そうとしない。

 

 

ザザッ…!

『うぷぷ!皆おやすみだね?こんなコロシアイの最中にぐっすり眠れるとか、横綱級の図太さだよね!…あ、苗木君は寝れないんだっけ、うぷぷぷ!』

(モノクマ…ッ!)

 やがて、モニターに再びモノクマが現れる。

 

『さて…『襲撃者』さんは起きてるよね?お待ちかねの殺戮タイムだよ!目についた奴を、できる限り惨たらしくやっちゃってください!うぷぷ…さあ苗木君、『最初』の絶望の時間だよ…!』

(アイツ…ッ!糞、落ち着け…集中を乱すな。誰だ、誰が動く…?)

 モノクマの挑発を受け流し、苗木が様子を探っていると、今迄動かなかった生命エネルギーの一つが動き始めた。

 

(動いた…ッ!これは…一体誰だ?クソ、『G・E・R』を使っていないから、具体的に誰かまでは分からない…!一体どこへ…ッ!?)

 動き出した生命エネルギー…『襲撃者』の動きを探っていると、その『方向』に思わず息を吞む。

 

(こっちに…来る…!?)

 当初苗木は、正体を知られない為に自分の眼の届かない所の誰かを殺すと予想していた。しかし、予想に反し襲撃者はなんと苗木のいる部屋の方へと向かってきたのである。

 

(どういうことだ…?偶々か?…違う、これは僕への『挑発』だ。『お前に何ができる?やれるものならやってみろ』…そう言っているんだ、コイツは…ッ!…いいだろう、だが…僕がそう簡単にやらせると思うなよ…!)

 懐の朝日奈を抱く手に力を籠め、苗木は入り口を注視する。入ってきた瞬間、視線だけで射殺さんばかりに睨みを利かせていると、ついに襲撃者は入り口の前へとやって来た。

 

(さあ…どうする?入り口にはゴズさんが置いたロッカーのバリケードがある。そう簡単には…)

 苗木がそう思った、その時

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

ブシャァァァッ!!

 

 悲劇は、起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…うん…」

 睡眠薬の投与からおよそ数十分後、朝日奈は寝苦しさを感じて他の皆よりやや早めに覚醒した。

 

「あれ…?そうだ、私…痛ッ!?」

 手に走った鈍い痛みの発生源は、自分の手を握る苗木が力を籠めていたからであった。

 

「ま、誠…!手、痛…ッ!?」

 しかし、抗議をしようとした朝日奈の声は、自身の驚愕によって途中で掻き消える。何故なら…

 

「……」

「ま、誠ッ!?どうしたのその『怪我』はッ!?」

『ふああ…。どうしたでちゅか朝日奈さん……ぎゃあああッ!!苗木君が血塗れでちゅ~ッ!』

 朝日奈の手を握る苗木の体には、夥しい数の『刺し傷』が存在し、特に『左目』はまるで何かで『抉られた』かのように潰れ、着ている服は自身の血で赤黒く染まっていた。

 

「……」

 しかし、当の苗木は自分の怪我などどうでもいいかのように、正面を睨んだまま悔しげに口元を歪めていた。

 

「ま、誠…大丈夫なの?」

「……」

「…一応、大丈夫みたいだね。誠ならすぐ治ると思うけど…」

『そ、そうなんでちゅか?良かったでちゅ~…』

「……」

「…?誠、一体何を見て……え、な…ッ!?」

『?今度はなんでちゅ…わあああああッ!!?』

 苗木の視線を追った朝日奈と月光ヶ原の眼に映ったのは…

 

 

 

 

 

 

ポタ…ポタ…

 

 天井に吊り下げられ、胸を心臓に至るまで深々と切り裂かれたグレート・ゴズの無残な姿であった。その足元には、『血で濡れたモノクマ柄のナイフ』が転がっていた。

 

 

 

「…ッ!」

 その一部始終を見ていた苗木は、怒りに震えながらも『確信』する。

 

(やってくれた…ッ!襲撃者は…敵は、『スタンド使い』だッ!しかも、あのスタンド…多分僕の予想が当たっていれば、この状況に置いては『最強』と言っても過言ではない…ッ!響子、さやか、むくろ…葵、気づいてくれ…ッ!このままでは、僕たちはアイツには『勝てない』…ッ!!)

 襲撃者のスタンドの正体に戦慄を覚えつつも、苗木は隣…そして本部内にいる愛する者達に声なき警告を発するのであった。

 




という訳で、今作では襲撃者はちゃんといます!そしてスタンド使いです!
…なに?特別ルールでスタンドは使えないはずだって?…確かにそうですね、「施設内」で使ったらダメですよね。

…苗木の台詞と合わせて考えれば、もうスタンドの正体が分かった人もいるかな?

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