ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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だが断る。

…ついに映像化しましたね、露伴屈指の名台詞。あのシーンだけ物凄い作画班の本気を見た気がします。荒木タッチをあそこまでテレビで表現できるとはすごいですね

ジョジョ4部も折り返しを過ぎ、そろそろ終わりが見えてくるころ…。個人的に一番楽しみな「エンドレスモーニング」ことバイツァ・ダストももうすぐでワクワクしますね

…けれどジョジョ4部も終わっちまったら僕は一体何をガソリンに描けばいいのやら…。でもそのころにはニューダンも出てるでしょうしそれで…あ、ダメだ。プレイしてたらまた筆が遅くなる…。書き溜めなきゃ(義務感)


…ところでドリフターズ面白いですね。やっぱヒラコー先生最高や!…原作のストックは十分なんですかね?


絶対希望少女

「ハァ…ハァ…!」

「ぜぇ…ぜぇ…ッ!」

 苗木に言われるがまま逃げ出した二人は、エクスカリバー号を降りた屋上で息を整えていた。

 

「…ふ、かわ…さん…。聞いても、いい…?」

「な、なによ…?」

「どうして…むくろお義姉ちゃんと一緒に、十神さんのところに行かなかったの?一番行きたがってたのは、腐川さんなのに…」

「べ、別に…深い理由は無いわよ。戦刃なら信頼できるし、肝心なところでトチっちゃったから合わせる顔も無いし…それに、アンタを放っておけなかったしね」

「私を…?」

「…ついさっき親を亡くしたばかりの、アンタみたいな甘ちゃんを…放って、アタシの都合を優先するわけにはいかないでしょ…『友達』、なんだから」

「腐川さん…」

 

 

 

ピシャァァァンッ!!

ドゴォッ…!

 すぐ近くから響いてくる轟音に視線を向けると、片腕を失いながらも目から様々な『破壊光線』を発射して暴れるビックバンモノクマと、その周囲を紅い閃光となって跳びまわりながら戦う苗木の姿があった。時折ウェザーの雷によるアシストやアナスイが瓦礫を破壊して下に居る大人達を庇っており、まるで特撮映画の様な光景となっていた。

 

「…お兄ちゃんが、戦ってるんだよね」

「そうね…」

「『私の代わり』に…戦ってくれてるんだよね。お兄ちゃんには、もっと大切なことが残ってるのにさ」

「…そうね。けど、別にいいんじゃあないの?アンタはもう十分にやったわよ。これ以上出しゃばる必要なんてないわ。…あとは『ヒーロー』に任せて、もう休めばいいんじゃあないかしら?」

「…そうかもね」

「……」

「…でも、腐川さん。こんなことになっちゃったのは、そもそも私が首を突っ込んだからなんだよね」

「…そんなこと、ないんじゃないかしら?」

「ううん、きっとそうなんだよ。…勿論、こんなことになって欲しくてやった訳じゃないよ。…けど、結果的にさ、私がやったことが『きっかけ』になっちゃったって言うの…それは、間違いじゃあないと思うんだ」

「…アンタがそう思うんなら、そうなのかもね」

「だからさ…その後始末を、全部お兄ちゃんに任せるのって…なんか、違うよね?」

「…いいの?下手したら死ぬわよ」

「そんなの、いつものことじゃん。…腐川さん、私行くよ。最後まで、付いてきてくれないかな?」

「…アンタは、それでいいの?せっかく親御さんが生かしてくれた命を…そんな危険なことに使っちゃって…」

 腐川の問いに、こまるは滲んだ涙を拭い、改まった顔つきで答える。

 

「…私は死なないよ。お父さんとお母さんは、私とお兄ちゃんを最期まで信じてくれた。『希望』を捨てずに…『絶望』に立ち向かうことを信じてくれた。だから…私は戦う。大人も、子供も、この街も…この世界だって、私は『諦めたくない』!無駄とか無謀って言われたって、全部が助かる方法を探したい!その為にも…私は、私が起こしてしまった『絶望』から…目を背けたくないのッ!」

「…ったく、ホント…『苗木家』の人間はどいつもこいつも馬鹿みたいに『前向き』なのばっかりなんだから…」

「えへへ…家の『家訓』って奴なのかな?…私はお兄ちゃんには成れないけど、…『私なりの希望』を目指すことぐらいは、できるからさ…!」

「…なら、行くわよ。アタシも、これ以上苗木に借りを作るのは嫌だからね…!」

「腐川さん…ありがとう!」

「当然じゃない…友達が友達を助けるのは、『当たり前』でしょ?アンタ一人でどうにもできないことは、私が手伝う。私一人じゃできないことだって、アンタが一緒ならきっと大丈夫。…自分で言ったでしょ?アタシ達は『最強コンビ』…ううん、『超高校級の漸進シスターズ』なんだから…!」

「ぜんしん…?」

「漸進…『ちょっとずつ進む』って意味よ。アタシも、アンタも…何度も何度も立ち止まって、足踏みして…それでも、前に進み続けているんだから。苗木みたく駆け足じゃなくても、それでも…前に進んでいるんだから」

「…そうだね、その通りだね…!」

 

 

 

 

 

グオオオオオッ!!

 己の体を足場に跳ね回る苗木を食い千切ろうと、ビックバンモノクマが牙をむき出しにして噛みつこうとする。

 

「無駄ァッ!!」

 

バキィンッ!

 しかし苗木はそれを身を捩って躱すと、尚且つその勢いのまま手刀を振るい鋼鉄の牙を叩き折ってのける。腐川の『メタリカ』を参考に、血液中の『鉄分』を一点集中させた苗木の手刀は、かのカーズの『輝彩滑刀』には劣るものの並の『名刀』程度なら凌ぐ切れ味を誇る。

 だが、それでもビックバンモノクマは怯まない。

 

 

ドガァァァンッ!

「チッ…!こいつ、しぶとい上にやたらと攻撃方法が多彩だ…!イギリスやノヴォセリックでやりあった奴とは桁違いだ…!」

 ビックバンモノクマの右手に握られた『杖』から放たれた爆弾を回避しながら、苗木は予想以上の苦戦にそうぼやく。『レクイエム』の能力により苗木に一切のダメージはないものの、サイズ差に加えてボディ自体もかなり頑強なこともあって、ドーピングした苗木の膂力や『G・E・R』のパワーを以てしても、目に見えるほどの破損はできても活動不能には至らなかった。

 

「どうやら巷にいる同タイプのデカブツは、コイツを『花形』にした『量産型』みたいだな。こんなものを量産できるのは、『左右田さん』ぐらいしかいない…!…しかしここまで殴ってもなかなか堪えない以上、直接的なダメージで倒すのは難しいか…。けどどうやって…」

 

「…ゃーん…!お兄ちゃーん…ッ!」

「…こまる?」

 微かに聞こえた呼び声に振り向くと、塔和ヒルズの屋上で大きく手を振って自分を呼ぶこまると腐川の姿を捉えた。

 

「…ウェザーッ!済まない、ちょっとだけ時間を稼いでくれ!」

『…了解した』

 

ビシャァァァッ!!

ビュオオオオオオッ!!

 苗木の指示を受けたウェザーは、即座に『ウェザー・リポート』を操りビックバンモノクマの周囲にだけ特大の低気圧…『台風』とも言えるような嵐を発生させ、雷と巻き上げた瓦礫でその動きを封じにかかる。その隙に、苗木はこまるたちの元へと跳んでいった。

 

スタッ…

「どうした、こまる?腐川さんも…」

「…お兄ちゃん。お兄ちゃんは…どうしてアイツと戦ってくれるの?」

「え?…そんなの、放っておけないからに決まってるだろう。それに、これ以上お前を危険な目に遭わせるわけにはいかないからな」

「…うん、そうだよね。でも、お兄ちゃん。私だって、この街で沢山の事を学んだんだよ。もう昔みたいな、なにも知らない子供じゃないんだよ?」

「こ、こまる…?急にどうしたんだ?」

「…お兄ちゃん、アイツは…私と腐川さんに任せてくれないかな?」

「ッ!?な、なんだよ急に…もうお前が戦う必要は…」

「ったく、意地張ってんじゃあないわよ。アンタがあれだけ殴ってもアイツはまだピンピンしてんのよ?…まともに殴ってたら日が暮れることぐらいアンタだってとっくに分かってんでしょ?」

「それは…そうだけど…」

「遠くから見ていて気づいたんだ。アイツ…攻撃方法が私の『ハッキング銃』とそっくりなんだよ。だから多分、私のハッキング銃が一番アイツに効果あると思うんだ。…きっとこれは、その為に作られたんだと思うんだ」

 手にしたハッキング銃に視線を落としながらこまるは言う。

 

「いや、しかし流石に奴は…」

「お兄ちゃん、お兄ちゃんはプッチを追いかけなくちゃいけないんでしょ?…だったら、早く行ってよ。私によく分からないけど…お兄ちゃんにとって、それはとっても大切なことなんでしょ?」

「……」

「アイツは…私が倒さなくちゃ駄目なの。アイツを起こしてしまったのは私だから…私がきっかけになった『希望』が、皆の『絶望』になってしまうかもしれないのなら…私がアイツを止める…止めたい、止めなくちゃいけないの…!」

「アレを倒すのはアタシ達の仕事よ。それが…アタシ達の『宿命』なのよ。…だからアンタも、アンタの『宿命』にケリをつけてきなさい。それが、アンタの『正しい道』の筈よ…!」

「……」

 どこまでも真剣に、強さを秘めた目で自分を見つめる二人に、苗木はその瞳をしばし見つめ…やがてゆっくりと微笑んだ。

 

「…本当に、僕は『幸運』だよ。こんなにも頼れる『妹』と『友達』が、背中を押してくれるんだからね。…強くなったね、こまる…腐川さん」

「…ッ!うん…!」

「あ、当たり前じゃない…」

「…分かった。アイツは二人に任せるよ。…ウェザー!そういうことだ、今からはこまると腐川さんをフォローしてくれッ!僕はプッチを追うッ!」

『…分かった』

「…じゃあ、僕は行くよ。それと、どう使うかは任せるけど、さっきアナスイにあの飛行船に『細工』をさせておいた。もしものことがあったら使ってくれ」

「…うん、分かった。ありがとうお兄ちゃん」

「…こまる、気をつけてな。腐川さん、こまるを頼むよ」

「…任せときなさい」

『…ッ!ジョジョ、そっちに奴が行ったぞ!』

 

『ガオーッ!』

 『ウェザー・リポート』からの警告と同時に、ビックバンモノクマが嵐を突っ切って苗木達の方へと向かってきた。

 

「お兄ちゃん、早く行って!」

「…二人とも、ありがとう!」

 こまるに背を押され、苗木はその場に背を向け飛び去って行った。

 

『逃が…さない…!』

 カタコトながらもビックバンモノクマはそう言いながら、飛び去る苗木の背中向けて左目を『黄色く光らせ』、電流のようなものを放とうとする。

 

そこに

 

「『ビリビリ』『シビレロ』ッ!!」

『ッ!?アガガガガ…!』

 ビックバンモノクマの左目めがけ放たれた『コトダマ』がその一撃を防ぎ、なおかつビックバンモノクマの回路を痺れさせる。

 

「…ふん、的がデカい分狙いやすいわね…!」

「お前の相手は…私たちだよ!」

 横槍を入れられた方向を見ると、そこにはハッキング銃を向け自分を睨みつけるこまると腐川。その目に宿る光を見た瞬間、ビックバンモノクマの『中』の存在は即座に標的をこまるたちへと切り替える。

 

『苗木…こまる…、腐川…冬子…!希望、希望…キボウ…コロスーッ!』

「…どうやらアタシ達を完全に『敵』とみなしたみたいね。…もう後には引けないわよ」

「うん…!もう諦めない…捨てたりしない、絶望なんかしないッ!私たちは…絶対に負けないッ!!」

「…ハッ!言ったなデコマルッ!なら…行くぜェェェェッ!」

「やああああッ!!」

 

 

 

 

 

 

『苗木こまる…だな?』

『え…?はい…』

『憶えてるかどうか分からんから改めて名乗ってやる。…未来機関第14支部支部長、十神白夜だ』

 

(…最初は、巻き込まれただけだと思っていた。私だけが、こんな不幸な目に遭ってるんだって…けど、そうじゃなかった。私だけじゃない、皆…この絶望的な状況の中で苦しんでいたんだ)

 

「デコマルッ!爆弾が来んぞ!マスクのガキの時みてーに吹き返せッ!」

「うん!…『フキトベ』ッ!」

 

 

『す、すみません!…ところで、あなたは…?』

『ああ、そうね…私は腐川冬子。未来機関ってとこの機関員よ…一応』

 

(でも、そんな中で私は腐川さんと出会った。腐川さんだけじゃない、ホル・ホースさん、悠太君達、灰慈さんたち…そして、あの子たちとも。沢山の人たちの希望と絶望を見て、私は自分がどれだけなにも知らないのかということを思い知った)

 

「…!突っ込んで来るよ!」

「落ち着け!…左目が『赤い』な。頭に血が上って激おこってか?ギャハハハ!…だったらもっと熱くしてやんなッ!」

「了解!『メラメラ』『モエロ』ッ!」

 

 

『こんなの…勝てるワケないじゃん…!私は、ただの凡人なんだよ…!いくら頑張ったって、一人じゃどうしようもないよ…!』

『命ある限り、抗いなさい。そうしない奴を、アタシは認めたりなんかしないわよ…!』

 

(何度も傷ついて、潰れそうになって…それでも、皆が…腐川さんが居てくれたから立ち直れた。何度膝を突いても、立ち上がって前に進むことができた…!)

 

「ッ!避けろデコマル!」

「え…うわ…ッ!?」

 

ビシャァァァンッ!

『うぎゃあ!?』

「あ…か、雷…?」

『…攻撃はオレが防ぐ。君たちはとにかく攻め立てろ…!』

「ウェザーさん…!ありがとう!」

「シャァァァッ!行くぜ『メタリカ』ァァァッ!」

 

 

『…そうね。考えとくわ、全部終わって…ハッピーエンドの後にね』

『うん、ハッピーエンドにしよう…絶対に!』

 

(だからこれは…私だけの戦いじゃない!この街の皆の『希望』を、世界の『絶望』になんてさせる訳にはいかないんだ!その為に、例えその希望を壊すことになったとしても…それでも私は、戦う!その先に在る、『希望』を信じて!)

 

 度重なるこまるたちの攻撃に、ビックバンモノクマは一時体勢を整えるべくエクスカリバー号を盾にしようとする。

 

 

 それこそが、こまる達の『狙い』だと気づかずに。

 

「今だデコマルッ!」

「『ドカン』と『コワレロ』ッ!」

 こまるの放ったスタンド弾がエクスカリバー号へと命中した、その時

 

…ピーッ!

 

ドガドガドガァァァァンッ!!

『ッ!?』

 命中した箇所が突如『爆発』したかと思うと、それに連鎖するようにエクスカリバー号のあちこちで爆発が生じ、最後には爆炎を上げてエクスカリバー号が吹き飛び、ビックバンモノクマを飲み込んだ。

 

「シャアッ!」

「作戦成功…だね!」

 ジェノサイダーとこまるは思わずハイタッチを交わす。

 

 先ほど苗木はビックバンモノクマと戦いながら、アナスイに命じて『ダイバー・ダウン』でエクスカリバー号の各部に『爆弾』をセットさせていた。事前にそれを聞いていたこまるは、ビックバンモノクマがエクスカリバー号に接近した時を狙い、エクスカリバー号ごと爆弾を爆発させ、必殺の機会を狙っていたのだ。

 

ドズゥゥゥンッ!!

 さしものビックバンモノクマもこれには堪えたのか、前のめりに倒れ込むようにヒルズの屋上に顔面を打ち伏せた。弱点である『左目』が、完全に無防備となる。

 

「…止めだッ…行くわよこまるッ!」

「うんッ!」

 ジェノサイダーがこまるを抱えて高く跳び上がる。

 

 

「もうアタシも逃げるもんですか…!アタシの大切な人たちを…アタシの大切な『友達』を、希望を!アンタなんかにくれてやるもんかッ!」

「そうだよ!私たちは…絶対に諦めないッ!!」

 腐川とこまる、二人の手が重なり、共にハッキング銃のトリガーに手を掛ける。狙いは、真正面のビックバンモノクマ。

 

「『イン・ア・サイレント・ウェイ』…!私に力を貸して…。私の心を、私の『希望の音』を形にッ!!」

 

キュオオオオオ…ッ!!

 ハッキング銃の先端に、これまでにないほどのエネルギーが収束される。それはモナカに放とうとした『死のコトダマ』並に強く…しかしそれでいて穢れの無い、太陽の様な光であった。

 

「これが私たちの…全力!」

「喰らいなさいデカブツ…これが、私たちの『答え』よッ!!」

 

 

「「『希望』は、前に進むんだ(のよ)ッ!!」」

 

ドギュゥゥゥンッ!!

 放たれた最強のコトダマ…『希望』のコトダマは狙い違わずビックバンモノクマの『左目』を貫いた。

 

 

ゴゴゴゴゴ…

 やがてビックバンモノクマの首が俄かに震えだしたかと思うと

 

ドヒュゥゥゥ…ン…ッ!!

 快音を上げてその首が天高く舞い上がり…

 

…ウゥゥゥゥン…ガショォォォンッ!

 飛んでいった向きとは逆…つまり『頭頂部』から首元へと再び突き刺さった。

 

 

パリィィィン…ッ!

 その衝撃で、ビックバンモノクマの『左目』が砕け散り

 

 

ボヨォォォンッ!

 

「…え?」

 そこから『シロクマの頭』が飛び出した。

 

「し、ろ…クマ…!?」

『…テヘ♡』

「な、なんで…ま、さか…ッ!アンタは…ッ」

 呆然とするこまる達の前で…

 

 

ドズゥゥゥンッ!!

 制御を失ったビックバンモノクマが崩れ落ちるのと同時に

 

 

ヒュゥゥゥン…ッ!

 シロクマの頭もまた、吹き飛んだ勢いのままヒルズの下へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああああああああ…ッ!!』

 その光景を直に、あるいはモニター越しで見ていた大人達は落胆の叫びを挙げる。

 

「ビックバンモノクマが…俺達の『希望』が…!」

「もう、お終いだ…!俺達には、もう何もなくなっちまったんだ…」

 

 

 

 

 

「…いや、あれで『良かった』んだ」

『ッ!?』

 消沈する大人達に、ヒルズから出てきた灰慈がそう声をかける。その後ろには、葉隠や花音たちに守られる形で希望の戦士たちも追随している。

 

「灰慈さん…?何言ってるんですか、アレは灰慈さんの切り札でしょう!?それを…それに、そのガキ共は…ッ!」

「ああ、そうだ。ビックバンモノクマは俺の…『塔和グループ』の最後の切り札、塔和の『象徴』と言ってもいい物だ。…だが、そもそもこんなことになっちまったのは、塔和グループが作った『モノクマ』を、ガキ共…モナカに利用されちまったことが原因だ。全ての責任は…コイツに余計な力を与えてほったらかしにしちまった『塔和』にある。…そんな塔和の象徴を、俺達の『絶望』と言ってもいいモノクマを、俺達の希望の『旗印』にしちまったってのが、そもそもの間違いだったんだ…」

「灰慈さん…」

「…オッサン」

「オッサン言うんじゃあねえ、俺はまだ20代だぞ…ったく。…お前らを焚き付けといて今更なのは分かっている。虫がいいのは重々承知だ。…だが、悔しいが苗木こまるの兄貴の言うとおりだ…!俺達は復讐に囚われ過ぎた。そのせいで俺は、危うく皆を『戦争』に巻き込んじまうところだった。今でもガキ共が憎い気持ちに変わりはねえ…だが、だからってお前らを犠牲にするような選択肢をとるほど…俺は、バカにはなりたくねえ…ッ!」

「灰慈君、君は…」

「お前は…」

「こんな俺をもうリーダーなんて思う必要はねえ。もう俺の命令に従うことはねえ…だが、頼む…!早まった真似だけは、しないでくれ…!ガキ共を許せとは言わねえ、鬱憤が晴らせねえと言うならこの街を好きにしてくれて構わねえ。だから…この街で『戦争』が起きるようなことだけは、俺にお前らを見殺しにしなきゃならねえことになることだけは…やらないでくれ、頼む…!」

 目を伏せ懇願する灰慈に続く形で、今度は新月たちが前に出る。

 

「…僕等からもお願いだ。お前たちが許せないというのなら、僕等がお前たちの怒りを全部受け止める。殺されたって恨みはしないさ…。だけど、他の皆は勘弁してやってくれ。皆はただ操られていただけなんだ。皆を傷つけたって、アイツ等は自分がやったことを『自覚していない』…そんな奴を殺したって、誰も『納得』しないだろ…?だから、やるのなら僕等だけにしてくれ…お願いだ…!」

 新月に習う様に大門、蛇太郎、言子も頭を下げる。葉隠に背負われたままのモナカだけはそれを茫然と見ているだけであったが、その様子には無邪気な『子供らしさ』はなく、隣の灰慈のような『大人びた責任感』を感じられた。

 

『……』

 その光景を、大人達はただ黙って見ていた。

 

「…ふ、ふざけんな!今更謝ったって許す訳が…」

やがて大人の一人が逆上したようにそう叫ぶが…

 

 

カラン、カラン…

「…!?」

 一人、また一人と手にしていた鉄パイプや凶器の類を手放していく。叫んだ大人はそんな彼らを信じられないような顔で見る。その表情は到底納得しているとは言い難かったが、それでも…目の前の彼らの『覚悟』を否定するような素振りは感じられなかった。

 

「み、皆正気か!?今ならこいつらを簡単に殺せるんだぞ!それを…許すっていうのかよ、…お前らはそれでいいのかよ!?」

「…許すつもりなんてないわ」

「だったら…」

「けど、この子たちを殺して、仇を討った『つもり』になって…それでその後、私たちはどうすればいいの?」

「ッ!そ、それは…」

「もうこの街に『子を持つ大人』はいない…。ワシらだけではいつか『限界』が来る…その時に、あの子供たちが居なければ…いずれこの街は滅ぶ。例え憎くとも、今はそれを自覚しなければならん。一時の衝動に身を任せ、我々の『未来』を断ち切るわけにはいかん…」

「だ、だが…ッ!こいつらは、俺の妻を…」

「分かっている。…僕だって同じさ。でも、この街を離れるにしろ復興させるにしろ、この子たちの力は必要だ。悔しいけど、彼らの方が僕等より遥かに『個人の力』は上だからね。…だから今は、彼らの力を借りるしかない。その中で、…本当に『分かりあえる』のかは分からないけど…もしそれができるなら、僕はその方が良い。だって…もうこれ以上誰も『不幸』になってほしくないからね」

「…く、そォ…ッ!」

 周りの大人達に諭され、その大人も悔しげにその場に膝を突いた。

 

 

 

「…一件落着、…という感じではまだないな」

「じゃが、少なくとも先程よりはまだ『マシ』じゃ。なら、今はこれでいいじゃろう…」

 隆秋と不比等がそんな大人たちを見て胸をなでおろす。

 

「…アンタ、この短時間で随分イイ男になってじゃないか。急にどうしたんだい?」

「別に…なんでもねえよ。ただ…自分より年下のガキに説教されて、それで年甲斐もなく癇癪起こすような自分が…情けなくなっただけだ」

「やっぱイケメンは心までイケメンなのね~!はぁ~、こまるちゃんがホント羨ましいわー。…一二三の奴も学校に居る時に紹介してくれたらよかったのに」

 一皮むけた灰慈をからかう浩子と、灰慈を変えた苗木に熱を上げる富士子。

 

「やっぱ兄貴は最高だぜ!さっすが『俺の兄貴』だよな!」

「ち、違うやい!お兄さんは『俺っちたちのお兄さん』だいッ!」

「…フン、頭領程じゃねえが…お前らの兄貴も、結構カッコいいじゃあねーか」

「そりゃそうよ!なにしろ、『超高校級のアイドル』舞園さやかの『王子様』なんだから!」

「…本当に、凄いよね苗木君…。きっと響子ちゃんも、ああいう真っ直ぐで強い心に惚れちゃったんだろうな…あー、アタシも恋したいなぁ~」

 大人達、そして子供たちの心を変えた苗木をべた誉めする悠太、雪丸、羽山、五月雨。

 

「…ですが、やはり一番頑張ったのはこまる様でしょう。彼女が居たからこそ、この結末を迎えることができた。…冬子様も、本当によく頑張ってくださった。きっと白夜様もお誉めになってくださるでしょう…」

「本当にね…。苗木さんは普通の女の子だったのに…何度も傷つきながら、それでも立ち上がって僕たちの『希望』になってくれた。大人として、男としても…僕は彼女の事を尊敬するよ」

「苗木こまる殿の強さは、きっと苗木誠殿から『受け継いだ』ものなのだろうな。それを彼女は、この街で受けた様々な苦難の中で成長させ、遂にはこの街の『絶望』を打ち払ってくれた。…もう彼女は、決して『半端者』ではない。一人の立派な…『人間』だ」

「まったく…ちょっとキャワイイだけのお姉さんかと思ったら、あんなにカッコイイレディーになっちゃうなんて、私の眼も節穴でしたね」

「こ、言子ちゃんが節穴だったら、僕チンの眼はきっとドロダンゴなんだろうね…」

 アロシャニス、太一、ケンイチロウは、全てのきっかけとなり最後まで戦い抜いたこまると腐川を称える。

 

「…な?こういうのも悪くねえだろ、モナカっち?」

「…知るか。もうどうでもいいし…煮るなり焼くなり好きにすればー?」

「またこいつは減らず口を…」

「にゃあご…」

「…悪いがお前さんを殺しゃあしねーよ。俺らの大将と嬢ちゃんが『殺さない』って言ったんだ。お前には嫌でも生きて貰うぜ。…テメーのその捻くれ根性がちっとはマトモになるまではな…」

「…あっそ、それこそ好きにすれば…」

 そんな光景を面白くないかのようにブーたれるモナカを、葉隠、花音、セレスの猫(後に分かったのだが名をグランボアシェリ・ルーデンベルグと言うらしい)、ホル・ホースが窘める。

 

 

 

 『和解』とも、『決別』とも言えない『中途半端』な光景。互いが互いを許したわけではない、ただこれからのことに、この先の未来の為に互いの存在が『必要』だと理解したうえでどうにか成り立った、薄っぺらな平和。

 

 それでも、この場の皆が『それでいい』のだと思っていた。本当の意味で分かりあうことなどできはしない。なら、せめて『利己的』であってもお互いの存在を認め合う。例え上辺だけのものであっても、それさえ無くてはなにも始まらないのだから。

 

 それが『普通の女の子』が『普通の事』を『全力』でやりきった末の、…ありきたりで普通で、それでもほんの少しの『希望』を残した結末なのだから。

 

 この街の『未来』は、ここから始まるのだから。

 




原作の戦いはここで終了です。原作よりほんのちょっぴり「成長」したような終わり方にしたつもりですが、いかがでしょうか?

…なに、灰慈がきれいすぎる?たまにはいいんじゃあないですか…ねえ?

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