ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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未来編最終話視聴

…うん、やっぱこうなるよね。御手洗のことだから持ってると思いましたよ、「希望ビデオ」。そして絶望ビデオの代わりにカウンター放送して全人類補完…じゃねえ、希望化計画。尺的にこういうエンディングになりましたね。もうちっと捻りが欲しかったものではあるけど…しょうがないね。

ジジイ…マジで下衆じゃあねえか…ッ!以前この殺し合いを「蠱毒」と言いましたが、これは御手洗への「いけにえ」だったんですね。御手洗の罪悪感と使命感を煽って希望ビデオを使わせるために、未来機関の幹部…自分の教え子たちを殺し合わせた…。仮にスタンドを与えるとするなら「サバイバー」以外に与えるスタンドがありませんね。…この作品での扱い、どうしよっかな…

宗方の決死の特攻、朝日奈の負傷…嫌なフラグなのか、はたまた希望の未来へレディーゴー!…的なフラグなのか。もうここまで来たら変に減らさずに全員生還でいいじゃあないか…?霧切さんも含めてさ…

十神…の部下有能。特殊部隊を速攻で制圧できるとは、14支部って本当に広報の部隊なんだろうか?…ところで、そろそろ13支部のことに触れてあげてもいいんじゃあないですかね?…まあボク的にはどっちでもいいんですけど。彼らの出番は決まってるので…

最後の江ノ島と雪染の裏トーク…やっぱアレあの世ビジョンだったんですね。そして江ノ島ここぞとばかりに正論をズバズバ言いますね。ぶっちゃけスーダンやってる時に僕も同じこと思ってたんですけど…お前が言うな!…ですよね。…つーかあの世界のあの世軽いね…

そして最後に出てきたあの男…!果たして彼は「どっち」なのか?そして「一人」なのか?いろいろ気にはなりますが、一旦不安や不満を全部うっちゃって、皆さんで希望編を楽しみに待ちましょう!


復活

 灰慈を説き伏せた苗木は、先ほどまで観客に回っていた狛枝とモナカに向き合う。

 

「…さて、待たせたようだね」

「…相変わらず口『だけ』は達者だね苗木誠…!よくもそんなくっさい台詞を堂々と言えるね…ジュンコお姉ちゃんもそうやって言いくるめたってワケ?」

「僕はただ自分の思ったことを言葉にしているだけだ。…あの時の江ノ島さんもね。その結果僕が『勝った』。『絶望』を『希望』が凌駕した。…ただそれだけのことだよ」

「お前…ッ!」

「…ッハッハッハッハ!流石だね苗木君、あの頃と変わらない…いや、あの頃『以上』の希望を感じるよ…!」

 怒りを隠せないモナカと対照的に、狛枝はどこか狂ったように笑い出す。

 

「…狛枝さん。久しぶりですね」

「ああ…そうだね。と言っても、僕としては君とは『会いたくなかった』んだけどね…」

「…僕も、そんな貴方の姿は見たくなかった。今の貴方は、ただ『自棄』になっているだけだ。以前の貴方も『希望』の為ならば自分すら犠牲にするような人でしたが、…それでも、本当に『大切なモノ』は理解していた。壊しちゃいけないものは、分かっていた筈だったのに…」

「…苗木君。僕はもう、どうだっていいのさ。僕にとって唯一『守りたかった』ものは、もうとっくの昔に壊れてしまった…。止められたかもしれない、…止めたかったのに、僕はどちらも間に合わなかった。…僕がなにか間違っていたのか?僕はあの時どうしていればよかったんだ?どうしていれば、あの『悲劇』を防ぐことができたんだ?…僕は、ずっとそのことばかりを考えて生きてきたんだ…」

「狛枝さん…」

「けどね、結局僕は僕の間違いに気づくことができなかったんだ。そして『最後の希望』に裏切られ、絶望した時…やっと気づいたんだよ。間違っていたのは…『この世界』の方なんだって。この世界は、『絶望』への生贄として『彼等』を犠牲にした。その絶望を踏み台として、未来機関…そして君と言う『希望』が生まれた。なぁんだ、当たり前のことじゃあないか、ハハハハハ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふざけるなッ!!」

「ッ!」

 道化のように嘲笑っていた狛枝の眼に、再び激情の色が灯る。

 

「希望の踏み台は、あくまで『絶望』なんだッ!この世から消え去るのは、絶望だけでいいはずなんだ!なのに…どうして彼らがその犠牲にならなきゃならない!?彼らの『愛』と言う名の『希望』は、決して触れてはならないものだったのに…!絶望は、この世界は、それを当たり前のように踏みにじった!それが正しいと…この世界の『正義』だというのなら、僕もそれに乗ってやる…!あらゆる『希望』すらも踏み台にしたうえで生まれる『絶対的絶望』の先に、その犠牲を帳消しにするような『絶対的希望』があるというのなら…僕は、誰であろうと犠牲にしよう!例え…君であってもね!」

 瞬時にその場を飛び退くと、狛枝の『キラークイーン』が再び右手のスイッチに指をかける。

 

「さあ…!まずは君の大切な『友達』からだ!『キラークイーン』第一の爆弾で、十神君を木っ端みじんに吹き飛ばすッ!」

「ッ!十神君が…!?」

「ま、マズイ…!この距離は、『メタリカ』の射程圏外…苗木、止めなさいッ!!」

「ハハハ!止めれるものなら止めてみなよ!でも、君がスタンドを出すよりも、僕がスイッチを押す方が早いッ!」

 狛枝は密かに計算していた。彼らの『射程距離』を。腐川の『メタリカ』の射程から僅かに外れ、例え苗木が時を止めたとしてもほんの一瞬間に合わないような、そんな距離まで離れていたのである。

 

 

「だ、駄目ぇッ!」

「『キラークイーン』!第一の爆弾…ッ」

 

 しかし、狛枝は忘れていた。

 

 

 

 

 

 その理屈が通じるのは、『人間』の苗木が相手の時だけだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『空裂眼刺驚(スペースリバー・スティンギーアイズ)ッ!!』」

 

ドドゥッ!

『ッ!?』

 叫びと共に苗木の『眼球』から放たれた2条の『光線』ようなものが、突然の事態に思わず動きを止めてしまった狛枝へと迫り、

 

 

ズパァッ!

「…ッ!?がァアアアアアッ!!」

 交錯しながらその『右手の親指』を切り飛ばした。

 

「…め…!?」

『目からビーム出たーッ!!?』

 その光景を見ていた全ての人間がそのショックから立ち直る前に、苗木は狛枝に向かって走り出していた。

 

「…ぐ…ッ!」

 狛枝も即座に立ち直って、親指の代わりに顎でスイッチを押そうとしたが、

 

 

「『スタープラチナ・ザ・ワールド』ッ!(時は止まる)」

 その隙は、間に合わなかった一瞬を埋めるのは十分すぎる時間であった。

 

 

 

 

ドギュゥゥゥン…!

 再び時が止まり、現状苗木だけの時間が始まる。外の大人達も、広間の全員も、…この世界の全ての存在が停止していた。…無論、スイッチを押しかけている狛枝ですらも例外ではない。

 

 

「…狛枝さん。アナタの無念はよく分かります。僕だって、あの二人が犠牲になったことを受け入れている訳じゃない…受け入れられるわけが無い。でも、だからこそ…貴方までその犠牲にする訳には、いかないんです…!」

 その時間を駆け抜け狛枝の傍へとやって来た苗木は、微動だにしない狛枝にそう語りかける。

 

「貴方に十神君は殺させない。そうなったら、僕はきっと貴方を許せなくなる。…僕は、もうこれ以上『友達』を失いたくないんだ…!」

 狛枝の顔へ向けられていた苗木の視線が、次いでスイッチのある『右手』へと向けられる。

 

「少々手荒ですが…その手癖の悪さ、封じさせて貰います!」

 深く息を吐きながら、苗木は狛枝の右手を両手で包み込んだ。

 

「スゥゥ…ッ!『気化冷凍法』ォッ!」

 

ピキィィィィィ…ッ!

 

 

 

 

「…『そして時は動きだす』」

 

 

…ギュゥゥゥゥウッ!

 

 

 

「す、スイッチを…ッ!?」

 スイッチを押そうとした狛枝であったが、即座に自分の右手の『異変』に気が付いた。

 

「え…!?な、なにアレ…!?」

「ちょ、どうなってんのよ!?」

 元々注目が向いていたこともあって、周りの皆もその異変に気が付く。その視線の先には…

 

 

「ぼ、僕の右手が…『凍りついている』ッ!?」

 切り離された親指ごと、『1㎝ほどの氷』で覆われた狛枝の右手があった。当然、スタンドである『キラークイーン』の右手も凍てつき、使い物にならなくなっていた。

 

「…は?なにコレ?どうなってんの?」

「わ、私にはもう何が何だか…」

 余りにも唐突な急展開に、さしものモナカも理解が追いつかず混乱していた。

 

「ちょ、ちょっと!苗木、アンタ何をしたのよ!?」

「時を止めたのは分かっけど…その前と後がさっぱりだべ!」

 やった張本人であろう苗木にそう問う腐川と葉隠に、苗木は静かに答える。

 

「…最初にやったのは『スペースリバー・スティンギーアイズ』、眼から体液を高圧噴射してウォーターカッターのように対象を攻撃する技だ。『鉄筋コンクリート』ぐらいなら軽く切断できる。時止めの間にやったのは『気化冷凍法』。触れた相手の体液を『気化』させて気化熱を奪い、瞬時に相手を凍らせる技だよ。本気でやれば『全身』を氷漬けにすることもできたけど…そこまでする必要は無かったから右手だけ凍らせたのさ」

「え…え、え…?」

 兄の口から出てくる意味不明な説明に、こまるだけでなく狛枝や希望の戦士、灰慈も全く理解ができずにいた。

 

「…相変わらずとんでもねえな、ウチのジョジョはよ」

「絶対にタイマンじゃあ戦いたくねえよな…」

「…そもそも戦いになるのか不明だがな」

 その一方で、戦刃を含めたパッショーネ組は当然のようにそれを受け入れ、説明を聞いた腐川や葉隠もどこか納得したような表情になっていた。

 

「元々は『親父』が使っていた技らしいけど…使える物は使わないとね」

 どこか自嘲気味にそう言う苗木に、腐川は呆れたようにしみじみとこう呟く。

 

 

 

「…アンタ、ホントに『吸血鬼』になっちゃったのね…」

「…ッ!?きゅ、『吸血鬼』ッ!!?」

 腐川の口にしたそのワードに、こまる達も映像を見ていた人たちも驚いた。

 

「…あ。そういやアンタにはまだ言ってなかったけ」

「聞いてないよ!腐川さん、お兄ちゃんが『吸血鬼』って…どういうこと!?」

「…さっき言ったでしょ?苗木は『あの事件』で一度死んで、生き返ったって。でも、『普通の人間』が死んで生き返るなんてことあり得るわけが無いじゃない。…理由は分からないけど、苗木は生き返った時に、『人間を辞めた』のよ。今のこいつは、この世で最強の怪物…。吸血鬼、バンパイア、ドラキュラ…人間を越えた正真正銘の『化け物』なのよ」

「お兄ちゃんが…吸血鬼に…!?」

「…アンタら、こいつのこと散々『魔王』呼ばわりしてたけどね。実際『大正解』よ。…この世でこいつほど『魔王』なんて呼び名がしっくりくる奴は居ないわ」

「お、お兄さん…」

「ま、マジで『魔王』だったのかよ…!?」

「で、でもさっきも目からビーム出してたし、本当に…?」

「…ていうか、ビームなんですかアレ?」

 嘘から出た誠とでもいうか、苗木の事実に動揺が収まりきらぬ中、苗木は策を失い座り込んだ狛枝に語りかける。

 

「…しばらく、そこで大人しくしていてください。全部終わったら…貴方も連れて行きます。もう一度、貴方に『希望』を取り戻させるためにね…」

「く…ッ」

 抵抗の意志が無いことを見取ると、苗木はモナカの方へと向き直る。

 

「…残るは君だけだ。もう十神君に人質としての意味は無い。…もう君を守るものは、何もないぞ」

「…化け物め…ッ!」

「そうだ、僕は『化け物』だ。…けど、僕の『心』はあの頃から何も変わりはしない。君も、こまるも、『2代目江ノ島盾子』になんかさせはしない。『江ノ島盾子』という絶望は…彼女以外に存在してはいけないんだ」

「…ふぅん。そんなことを言うんだ。けどね、よく考えてみてよ。…そもそもお前がジュンコお姉ちゃんを殺しさえしなければ、私がこんなことをする必要は無かったんだよ?」

「も、モナカちゃん…」

「新月君に、…え~と、名前忘れちゃったけど勇者に僧侶君もさ、当たり前みたいについてきてるけど、本当に分かってんの?そいつは、ジュンコお姉ちゃんを殺した仇…私たちの『敵』なんだよ?」

「そ、それは…」

「や、やっぱり忘れられてた…大門君まで…」

 モナカの問いに気まずそうに視線を逸らす大門と蛇太郎であったが、新月は毅然としてモナカの方を向く。

 

「…モナカちゃん、それは違うと思うよ」

「し、新月君?」

「…違うって、何が?」

「…僕も、最初はそう思っていた。ジュンコお姉ちゃんを殺した奴だけは、絶対に生かしておくものかって。…けど、この街で魔王の妹…苗木こまるやそのメガネの女と話をして、そんな自分にほんの少しだけ『疑い』を持ったんだ。…そして君に裏切られて、絶望して…お兄さんに助けられて、お兄さんから励まされて…やっと分かったんだ。僕等が信じていたジュンコお姉ちゃんは…『間違っていた』んだって」

「…はぁ?今更何言ってんの?」

「ジュンコお姉ちゃんが、僕等を利用する為に助けたってことは知ってる。…本当に必要だったのはモナカちゃんで、僕等がタダのオマケだってことも知ってる。…それでも構わないって気持ちは変わらないよ。でも、ジュンコお姉ちゃんを信じて行った先に…『希望』なんて無いってことを、僕は知ったんだ」

「……」

「お兄さんの言ったとおりだ…。僕等がこのままオトナを皆殺しにしたところで、僕等の『楽園』は永遠にはならない。コドモが居なくなれば、その時点で楽園は終わる。…それどころか、楽園が完成する前に僕らがオトナになってしまうかもしれない。…僕らがジュンコお姉ちゃんから貰った希望は、そんなものでしかなかったんだよ…」

「新月君…」

 信じていたものが、ただの『ハリボテ』でしかなかった。そんなものに縋っていたという現実を、新月は苦々しく告白する。

 

「…だから!僕はもう目を背けない!僕が縋っていたジュンコお姉ちゃんの『希望』が存在しないのなら、僕は『僕自身の希望』を見つける!何をすればいいのか分からないし、そもそもそんなものがあるのかも分からない…でも、必ず見つけて見せる!もうコドモが親に、オトナに苦しむことが無い、本当の『楽園』を創る為に…それが、僕の新しい『希望』だッ!」

「…お、俺っちだって負けないやい!俺っちは希望の戦士のリーダー、コドモの『ヒーロー』なんだ!だから、もうこれ以上待たせる訳にはいかねーんだよ!ヒーローは遅れてやって来るけど、間に合わなかったら意味ないんだよ!」

「ぼ、僕チンなんかになにができるのか分からないけど…でも、皆の笑顔がほんの少しでも長く続くのなら…僕チンはそのほうがいいなぁ…。嫌われ者の僕チンでも、皆が笑っているのを見るのは大好きだからさ…!」

「…まったく、これだから男の子っていうのは嫌なんです。すぐに自分の考えをコロッと変えちゃって、それまでと全然違う事に熱中しちゃうんですから…。でも…今回だけは、『それがいい』のかもしれませんね」

 新月が、大門が、蛇太郎が、そして言子もまた、江ノ島から与えられた『仮初の希望』から抜け出し、新たな『希望』を目指す決意を見せる。

 

「…何それ、気色悪…」

 しかしそんな彼らを、モナカは蔑むような目で見下すのみであった。

 

「ま、アナタ達がジュンコお姉ちゃんを裏切ろうがどうだっていいんだけどね。どうせみんなはモナカの『おまけ』なんだし。…けどね、それを唆したのがお前だって言うのが気に入らないんだよ、苗木誠…!」

「……」

「その髪留め…ジュンコお姉ちゃんのと『お揃い』なんでしょ?そんなもの自慢そうに見せびらかしてさ、ジュンコお姉ちゃんを殺したヒーロー気取り?流石、希望ヶ峰学園の『超高校級の希望』様は立派だよね…!」

「…それは、違う…!誠君のソレは、そんなことの為のものじゃない…!」

「何が違うってのさ?…私たちからジュンコお姉ちゃんを奪っておいて、死んでもジュンコお姉ちゃんを利用してるんじゃんか。大した欲張りさんだよね…だから、私も『同じこと』させてもらったよ。お前の『大事なモノ』を奪って、徹底的に利用させて貰ったよ…!」

「ッ!」

「…どういう意味だ?」

 中継を途中からしか見ていない為意味を理解できない苗木であったが、ふと傍に居るこまるの様子が豹変したことに気が付く。

 

「…こまる、どうした?」

「……」

「な、苗木…その…、えっと…」

「腐川さん…?」

「うぷぷ…苗木こまるさん、教えてあげたら?大好きなお兄ちゃんに、最悪の『事実』をさ…」

 あからさまに動揺している腐川や葉隠に怪訝そうに首を傾げていると、こまるが重々しくその真実を口にする。

 

「…お兄ちゃん。お父さんと、お母さんが……お父さんとお母さんが、『死んじゃった』よぉ…ッ!」

「な…ッ!?」

「お、お義父さまと…お義母さまがッ!?」

「私、間に合わなかった…!同じ街に居たのに、助けられたかもしれないのに…間に合わなかった…!殺されちゃったんだ…私のせいで…ッ!う゛あ…うわぁぁぁぁんッ!!」

「父さん…母さん…」

 苗木の来訪により一時的に気を取り戻したこまるであったが、改めて突き付けられた事実に、堪えることができず再び兄に取り縋って泣き喚く。苗木もまた、そんなこまるを優しく抱きしめながら、俯き視線を落として悲しみを堪えているようであった。

 

 

「うぷぷぷ…!そう、それだよ…、それが見たかったんだよ…!神父様が教えてくれたお前の『弱点』…。お前は『仲間』を、『家族』を決して見捨てない、見捨てられない…!特に『家族』は、お前にとって身内である以前に『恩人』でもあるって…!そんな大事なものを失って、後悔し、絶望するお前のその姿が見たかったんだよ…!」

「お前…ッ!よくも、よくも…ッ!」

「うわあぁぁぁああああんッ!!」

「……」

「…苗木…こまる…」

 モナカの言葉に憤慨する戦刃と、大声で泣き喚くこまる。そんな感情をむき出しにする二人とは対照的に、苗木は未だこまるを抱きしめたまま口を閉ざしたままであった。

 

「…こまる。ごめんな、お前一人に辛い思いを…悲しい思いを背負わせて、ごめんな…」

「…お、兄…ちゃん…?」

 やがてこまるにそう呟くと、ゆっくりとこまるを手放し顔を上げ、モナカへと顔を向ける…

 

 

 

 

 

 その顔は、眼から一筋の涙を流しつつも、その瞳には『怒り』や『憎しみ』ではなく、ありったけの『悲しみ』と『憐れみ』が宿っていた。

 

「……え?」

 てっきり憎悪に塗れた表情を期待していたモナカは、しかし自分を見る苗木の表情に思わずそんな声が出てしまう。

 

「…何、その顔…?なんで、そんな顔ができるのさ…?私は、お前の両親を殺したんだぞッ!!憎くないのかよ…殺したいと思わないのかよッ!?」

「思わない」

「ッ!?」

 ノータイムで返って来たその答えに、モナカだけでなくその場の全員が唖然としていた。

 

「ちょ、アンタ…!?それどういう…」

「勘違いしないでよ。…父さんと母さんが死んで、何も思わない訳ないだろ…!死ぬほど悲しいし、悔しいし、…何より怒りが収まらない…!何故父さんと母さんが死ななければならない…!?なんで二人を殺したんだッ!?…そんな気持ちが、後から後から湧いてくる…ッ!」

「お兄ちゃん…」

 

「…でも、僕はもう決めたんだ。『絶望』を受け入れるって…この先何があっても、絶対に目を背けたりしないってッ!…それが、あの時江ノ島さんに立てた誓い…!江ノ島さんに、『絶望』に本当の意味で勝つために決めた、僕の『覚悟』だから…!」

「…誠君」

「だから僕は、絶望を決して『憎まない』。どんな理不尽であろうと、その全てを受け入れて前に進む…!父さんと母さんの死も、希望ヶ峰学園で死んでいった皆も、ブチャラティ達も…全部引き摺って、歩き続ける…。憎しみで足を止めてしまえば、…きっと僕は、もう歩き出せなくなってしまうから…!」

「…何、言ってんの…?何を…言ってるの…?」

 目の前の存在を理解できないモナカは、ただ茫然とそう呟くしかなかった。

 

「…塔和モナカ。君が僕らの両親を奪ったことを、僕は決して許しはしない。力の限り罵ってやりたいし、恨みだってある…。けど、『憎み』はしない。君を憎んでしまえば、父さんと母さんを失った悲しみを君を殺すことでしか晴らせなくなってしまう。そんなことを、父さんも母さんも望んではない。…父さんと母さんは君に殺されたんじゃない。君が縋った『江ノ島盾子という絶望』に殺されたんだ。だから僕は、その絶望を…この歪み切った世界を『壊す』。それが、僕なりの父さんと母さんの『復讐』だ…!」

「…意味わかんないよ。お前の両親を殺したのは私だよ!なのに、なんで…」

「…君を殺したところで、何かが変わるのか?」

「ッ!」

 奇しくも、自分がこまるに言った言葉を問いかけられモナカはハッとする。

 

「君を殺しても、何も変わらない…。さっきの灰慈さん達と同じだ。直接の『仇』をとったという思いはあっても、その後にあるのは子供を一人殺したという虚無感と、何も変わらない世界があるだけだ…。だから僕は、君を殺さない。君は一生、僕等の父さんと母さんを殺したという『真実』を背負って生きていくんだ。目を背けることも、忘れることも許さない。…キミは『絶望』によって死ぬんじゃない。『希望』に生かされるんだ。それが僕からの、君への『罰』だ」

「…お、まえ…ッ!」

 苗木の言葉に言い返すこともできず、モナカはただ唸るしかない。分かってしまったのだ。例えどれほど挑発したところで、こいつは決して揺らぎはしないと。

 

「…ハン。全く、甘っちょろいんだから。けど、ある意味じゃ『効果的』かもね」

「絶望にとって『死』は罰にならない…。あの子を殺しても、それを起点に新たな絶望が生まれるだけ。…けど、あの子が『希望』に生かされれば、絶望は向けるべき矛先を失ってしまう…。絶望にとって、『受け入れられる』ことほど屈辱的なことはないから…」

「死ぬことより生きることの方がキツイ時もある…ってか。江ノ島っちも面倒な生き方をしてんなぁ~…。そう言う意味じゃ、江ノ島っちことを理解してる苗木っちにしかできない『罰』ってことだな」

 苗木の意図を知る78期生組は、そんな苗木をどこか誇らしげに見つめる。

 

「…お兄ちゃん…」

 そんな中、どう言葉をかけるべきか分からないこまるに、苗木は優しく語りかける。

 

「…こまる。お前にまで僕のその生き方を押し付けるつもりはない。お前が彼女への復讐を望むのなら、僕はそれを止めはしない。例えどんな結果になろうとも、僕はお前を守る。…選ぶのは、お前だ。こまる」

「…私は…」

 自分を見守る兄と、苛烈な目で睨んでくるモナカをそれぞれ見た後、こまるは自らの答えを言う。

 

「…私も、私も…この子を殺さない」

「ッ!?」

「…いいんだな?」

「うん…。なんていうか…この子を殺しても、お父さんとお母さんは絶対に喜んでくれない…。お父さんとお母さんなら、仇を討つよりも、もう自分たちの様な人を増やさないことを願うんじゃないかって…そう思うんだ。だから…私は、あなたを殺さないよ」

「こまる…」

「…なんて、私が勝手に思ってるだけなんだけどね」

「…いや。きっとそれでいい。父さんと母さんも…お前の選択を信じていた筈だ」

「…うん」

 

 

 

(…なんで、なんで…こいつらは…ッ!なんで思い通りに動かないだよッ!?)

 心の中で悪態を吐くモナカの脳裏には、昨日…苗木の『あの闘い』の映像とこまるを『2代目江ノ島盾子』に仕立て上げる自分の計画を語った時の、苗木夫妻の最期の言葉が蘇っていた。

 

 

 

『…それでも俺は、あの子たちを信じる。誠も、こまるも、絶対に負けたりなんかしない。俺達を殺して、あの子たちが君を許せなくなったとしても…あの子たちは決して世界を滅ぼすようなことはしない。父親として、俺はそれを信じている…!』

 

 

『例え誠が本当に死んだとしても、こまるが貴女の言う『2代目江ノ島盾子』になったとしても…それでも私はあの子たちを許します。もちろん、そんなことになるわけが無いと信じています。…けど、これだけは忘れないで。誠も、こまるも…貴女が思っている以上に強い子たちです。…きっと貴女のことも、あの子たちは理解してくれる。だから、…貴女がこんなことをするのも、きっとこれっきりになる筈よ…』

 

 

 

 

 

「なんで…なんで、私が…お前らなんかに…ッ!」

「言った筈だ。僕は絶望の全てを受け入れるって。…君が僕らに与えた絶望も、君が抱える絶望も、その全てを僕は受け入れる。…その代わり、君はこれから自分の犯した『罪』と向き合って生きていくんだ。それが…僕から君に与える『絶望』だ」

「あなたは、絶対に死んじゃダメだよ。あなたが死んだら、お父さんとお母さんが殺されたことが、いつか消えてなくなっちゃうかもしれないから。だから…あなたは、私が死なせない。お父さんとお母さんが託してくれた、私たちの『希望』の為に、あなたは死なせない…!」

「…ッ!」

 『生きること』という『希望』。それは、苗木を憎むモナカにとってなにより屈辱的な『絶望』に他ならなかった。しかし、モナカはそれから逃れることは出来ない。それを逃れるということは、『死』を選ぶという事。しかしそれは、自分が苗木誠…苗木兄妹に『敗北』したということを認めることになるのだから。…本当の意味で絶望に『染まりきっていない』モナカに、それを選ぶことは出来なかった。

 

「…こ、この…ッ!化け物ッ!悪魔ッ!!『希望』の皮を被った『絶望』…!…ドラキュラァァァァッ!!!」

「……」

 思いつく限りの罵声を手当り次第に叫ぶモナカ。…それは、もう彼らを論破できる言葉がないことを認める『敗北宣言』に等しかった。

 

「なんで…なんでお前らはそんなことができるんだよ!?大切な人を奪われて、なんでお前らは前に進めて、私はずっと『ここ』に居るんだよ!?なんで私が…お前らなんかに負けなくちゃいけないんだよぉぉぉッ!!」

「も、モナカちゃん…」

「最中…」

 その余りの剣幕に、新月たちや灰慈ですらもただ唖然として見ることしかできない。これほど感情を露わにするモナカを、誰も見たことがなかったからだ。

 

「…ッ!返せ!返せよッ!ジュンコお姉ちゃんを私に返してよッ!お前らが奪ったものを、私が失くした『希望』を…返してよぉぉぉぉーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ガチャ

「…あーあ。全く見てらんないね」

『ッ!!?』

 突如、先ほどモナカが籠っていた部屋の扉が開いたかと思うと、その奥から『女性の声』が聴こえてくる。…そしてその声は、こまると灰慈、パッショーネ新入り組を除けばその場の全員が聞き覚えのある声であった。

 

「い、今の声って…まさかッ!?」

「う、嘘だろ…!?」

「でも、間違いない…!」

「あ、姐さんたち…どうしたんだ?」

 

「え…え、え…!?」

「い、い、今の声…!」

「そんな…まさか…ッ!」

「嘘だ…そんなの、あり得ないのに…!?」

「お、お前ら…急になんだよ…?」

 

「…やれやれ、間に合ったか。来てくれないかと思ったよ…」

「え…?お兄ちゃん、この声って…」

「…う、そ…!?」

 全員の視線が集まる先で、扉の奥からその人物が現れる。

 

 

「…まったく、ちょっと見ないうちに少しは面白くなったかと思ったら、結局根っこはガキのままじゃんかよ…。身の程知らずって言うのよ、そういうの!」

 

 最後に見た時とまったく変わらない派手な服装とピンクがかったブロンドヘアーのツインテールは未だに健在で、まるであの時から彼女の時間だけが『止まっている』ようであった。

 

 唯一変化がみられるのは、彼女の『眼』。あの時の様な目に映る全てを否定するような瞳は鳴りを潜め、今は『未知』を求める子供の様などこか晴れやかな眼になっている。

 

 高いところから現れた彼女は、全てを察している愛しい『宿敵』に熱の籠った視線を向け、次いで駄々をこねる子供を見るような目でモナカに視線を移し、中指を立てて落胆したような声音で叫んだ。

 

 

「…アンタもこまるちゃんも、『アタシの2代目』なんか100万年早いっつーのッ!」

 

 

「え…『江ノ島盾子』ォーッ!!?」

 

 江ノ島盾子、再臨。

 




復活!江ノ島盾子復活ッ!!復活ッッ!!!

…まあ実際は違うんですけどね。何故彼女が現れたのか?それは次回までお待ちを…

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