ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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今回は子供たちと大人を苗木が徹底的に論破します。なので会話文が相当多いのでご了承ください



絶望編最終話視聴…

…やっぱり神様なんていなかったね。まったくもって救いのない終わり方…、期待通りとも、予想通りとも言える最終話でしたね。
唯一救いがあるとすれば、カムクラに徐々に迷いというか絶望に代わって希望を試すようになり始めたことですね。やはり七海と言う存在が江ノ島が示した「絶望の可能性」を凌駕したということですね。そう考えると、最後のスーダンの導入編の部分が少し見かたが変わってくるというか、感慨深いものがありますね…
しかし、あの七海のアルターエゴを作ったのはやっぱりカムクラなんでしょうか?新世界プログラムに入る前に、ウサミとプログラムそのものを書き換えて七海がいることが普通であると認識させたとか…まだ謎は残りますね

宗方さんが回を経るごとに可哀そうになってくる…。逆蔵には肝心な情報を隠蔽され、自分にとって心の支えであった雪染は裏で絶望側としてほくそ笑んでいた…。そろそろ未来編の8話辺りからの暴走が許されるような気がしてきたのは僕だけでしょうか…?

そしてちょろっと出てきた78期組に少し感動。特に舞園さんが苗木に対して「タメ口」なのは素晴らしかった!もうあの二人付き合ってるよね?的な空気がいいですね。…そうか、そういうのもあるのか。ククク…これは舞園編の〆にちょうどいいネタを見つけたぞ…

そして…ダンガンロンパ3の最終話に「希望編」!正直絶望編が1話少ないと聞いたときに予想していましたけど、やはりこのワードを聞くとワクワクしますね。ダンガンロンパらしい、大どんでん返しのあるハッピーエンドを期待しましょう!


希望の矛盾、撃ち抜く言霊

「お兄さん…お兄さんなの…?」

「え…?お兄さんって…もしかして…!?」

「あ、あの時のお兄さんッ!?この人が!?」

 新月の様子に、自分達も思い当たるものがあったのか驚愕の目で自分を見る大門と蛇太郎に、苗木は優しく微笑む。

 

「…ああ、そうだよ。久しぶりだね皆」

「ほ、本当に…?」

「…おいジョジョ、アンタこいつらのこと知ってんのか?」

「うん。…学園に居た頃にね、江ノ島さんと一緒にちょっと知り合った子たちでね。憶えてくれているか不安だったけど…まだ憶えていてくれたみたいだね」

 突然変容した子供たちの様子に戸惑うアナスイ達に苗木は簡単に事情を説明する。

 

「で、でもどうして…どうしてお兄さんが?ジュンコお姉ちゃんは、お兄さんは『あの事件』の時に『死んじゃった』って…」

「死んだぁ?」

 新月の言葉に新入り組は眉を顰めるが、苗木と戦刃は納得したように頷く。

 

「…ああ、そういうことになっているのか。…まあちょっとね。死にかけたのは本当だけど、僕はちゃんと生きてるよ」

「じゃあ…ホントに、ホントにお兄さんなのか?」

「うん。…約束したろ?『また会える』ってさ」

「…ッ!や、やっぱり本物だぁ!」

「お…お兄さんッ!」

 ようやく苗木が自分の知る『お兄さん』だと確信した3人は、思わず苗木に飛びついた。

 

「…ごめんね、皆。あのままずっと音沙汰も無しで…ごめんな」

「俺も…俺っちもごめんなさいッ!お兄さんだって気づかずに、酷いことしちゃって…!」

「大丈夫だよ。あまり気にしないで…」

 

「お兄さん…!お姉ちゃんが…ジュンコお姉ちゃんが…ッ、死んじゃったよぉ…!」

「…!」

 その名を聞いた時、苗木と戦刃の表情が強張る。

 

「…ああ、知ってるよ。彼女の事は、僕が一番知ってるからね」

「…え?それ、どういう意味…?」

「…僕は、そのことの『当事者』だからね。知らない筈が無いさ」

「……」

「え…?ど、どういうことなんですか…?」

 苗木の言葉の意味を理解できない3人に、苗木は意を決して『真実』を口にする。

 

 

 

「…彼女を、江ノ島さんを倒したのは…他でもない、『僕』だ」

「……え?」

「う、嘘…!?」

「冗談…ですよね?お兄さんが、ジュンコお姉ちゃんを殺したなんて…」

「……」

「…それは本当だよ。盾子ちゃんは、私たちが終わらせてあげたの」

 苗木の言葉を、戦刃が肯定する。

 

「…アンタ誰?」

「私は戦刃むくろ。…盾子ちゃんの、『姉』だよ」

「ジュンコお姉ちゃんのお姉ちゃん!?」

「そういえば…そんな人がいるってジュンコお姉ちゃんが前に言ってたような…」

「こうして会うのは、初めてだよね…」

「…それで、本当なのか?お兄さんが、ジュンコお姉ちゃんを『殺した』っていうのは…」

「…うん。本当は少し違うけど、そう思っていいよ。…ね、誠君」

「ああ、それでいい…」

 

「…なんで、なんでジュンコお姉ちゃんを殺したんだよッ!?お兄さんとジュンコお姉ちゃんは、仲間だったんじゃあないのかよッ!?」

「そ、そうだよ!お兄さんとジュンコお姉ちゃんは、いつも仲が良さそうだったじゃんか!」

「……」

 半泣きで苗木に詰め寄る大門と蛇太郎に、苗木は何も言わずにただじっと見つめるのみであった。

 

「…なあ、お兄さん。一つ聞いてもいいかい?」

「…なんだい?」

 と、新月が複雑そうな表情で問う。

 

「…この間、『魔王の妹』と一緒に居たメガネの女が言ってたんだ。ジュンコお姉ちゃんを倒したのは『自分達』だ…って」

「え!?」

 

「…誠君、それって…」

「…多分こまると腐川さんのことだろうね」

 

「で、でも今お兄さんが自分で…」

「慌てるな蛇太郎。…僕は、お兄さんが言っていることも、あの女が言ったことも『本当』だと思っている。けど、もしそうだとしたら…あの女も、未来機関の人質も、お兄さんの仲間なのだとしたら…!」

「だ、だったら何なんだよ!?」

「…『魔王』は、お兄さんなのか?」

「へ…?」

「魔王の妹の『兄』…、つまり…魔物達のボスである『魔王』は…お兄さんだっていうことになるんだよ…!」

 信じたくない、しかしそうとしか考えられないという自分の結論に表情を歪めながら、新月はそう断言した。

 

「お、お兄さんが…魔王だって!?」

「そ、そんな…」

「…魔王だぁ?何言ってんだコイツら?」

「…霧切の姐さんがジョジョの妹から聞いた話によれば、この街のガキ共は大人の事を『魔物』と呼んでいるらしい。ならば、その魔物のトップに立つ者だから『魔王』…そういうことだろう」

「なんか面倒クセェ呼び方だなぁ…」

 彼らの事情を知らないアナスイ、エルメェス、ウェザーは子供達の様子に首を傾げるが、苗木と戦刃は真剣な表情で彼らと向き合う。

 

「…魔王、か。君たちの大人への感情を考えれば、僕がそう呼ばれてもおかしくないかもね」

「!じゃあ…」

「…その前に一つ確認したい。君たちが言う『魔王の妹』っていうのはこまる…僕の妹のことだろうけど、僕の事を『魔王』と言い出したのは…モナカちゃんだね?」

「え…う、うん。そうだけど…」

「…そうか。なら間違いないね、僕がその『魔王』だ」

『ッ!?』

 苗木の宣言に、子供達の表情に再び衝撃が走る。

 

「…嘘だ、嘘だッ!そんなの、俺っちは信じないぞ!どうせ、汚い魔物たちに無理やり魔王にさせられてるに決まってるんだ!」

「…大門君、それは違うよ。僕は自分の意志で魔王になった。それだけは、絶対に否定させたりはしない」

「そ、そんなぁ…お兄さんが魔王だなんて…」

「…どうして、どうして魔物の…『オトナ』なんかの味方をするんだ!?お兄さんは知ってるだろう!アイツらが…どれだけ醜悪で、残虐で、おぞましい奴らなのかを…」

 かつてのトラウマを思い出したのか、恐怖で再び震えだす3人に、苗木は毅然として言う。

 

「…確かに、君たちにとって大人は『絶望』そのものでしかないだろう。君たちはそう信じてしまうだけのことをされた。そこを今更どうこう言うつもりは無いよ。…けれどね、そこで立ち止まっちゃ駄目だ。『憎しみ』で絶望を消し去ったところで、その先に『希望』は無いんだよ。…あるのは、ただの『虚無』…何もないただの残骸だけだ」

「…ッ!お兄さんまで、僕たちの『楽園』を否定するのか…ッ!?」

 怒りを露わにする新月に、苗木は諭すように語りかける。

 

「…『子供だけの楽園』、だったね。君たちが目指しているものは。…けれど、その楽園は一体『何時まで』残り続けるんだ?」

「…え?」

「君たちもいつか大人になる。けれど、世界にただ一つ残された『子供の楽園』に、大人の居場所は無い。そして君たちは、大人を決して許さない。…時間が経てばたつほど、『楽園』から人は消えていく。そして最後の一人が大人になった時…そこはもう『楽園』じゃない。ただの『墓標』だ。子供たちの『夢』が打ち棄てられた、ただの残照に成り果てる…。君たちは、そんな一瞬の『夢』の為に、多くの仲間と大人全てを犠牲にするつもりなのか?いつか消えてなくなると分かっている『希望』の為に、君たちは『友達』を戦いへと駆り立てるのかい?」

「…そ、れは…」

「ぼ、僕チン達は…そんな…」

「……」

 大門も蛇太郎も、そして薄々感づいていた新月も、ようやく理解した。自分達の理想が、どれだけ甘かったかという事を。彼らの理想には、『未来』が無かった。彼らはただ今を、そして明日の平穏さえあれば、それでよかった。自分たちだけが楽しく、安心できればそれでよかった。…そこまでしか考えられなかった。何故なら、自分たちは『コドモ』だから。大人という『未来』を拒否しようとした彼らに、『未来』を考える選択肢などなかったのだから。

 

「…僕たちは、間違っていたのか…?」

「…人は誰でも『安心』を求めるために生きようとする。かつて僕の親父がそう言ったらしいけど、今の君たちがまさに『それ』だ。それが間違っているとは言わない。…けれど、その為に無関係な人たちの『安心』を犠牲にしようとするのは、決して正しいことではない」

「…じゃあ、俺っち達は…」

「僕チン達は、何の為に頑張って来たの…?」

 膝から崩れ落ちる3人。彼らにとって、『楽園』こそが希望であり、…同時に現実からの『逃げ道』でもあった。それを否定された今、彼らにはもう何も残ってはいないのだから。

 

「…フン。後先考えずに馬鹿をやるからこうなるんだ」

「オメー、それが『年長者』の言う事かよ?」

「…だが、彼らの気持ちは理解できなくもない。俺も、『自分』がなんなのかを知ることができるなら、以前なら…」

「…誠君」

 部下たちの視線を受ける中、苗木は子供達の肩を優しく叩く。

 

「…こら、まだ諦めるには早すぎるぞ」

「え…?」

「前にも言っただろう?『決して諦めるな』って。…失敗を悔いるのはいいけど、今立ち止まっていたら、本当に手遅れになってしまうかもしれないぞ」

「でも、俺っち達は…」

「…確かに君たちはやり過ぎた。でも、それが諦める理由にはなりはしないよ。やり過ぎたのなら、『取り戻せば』いい。失ったものは戻らなくても、これからの君たちがその分『創り出せば』いい。君たちは、まだいくらでもやり直せるんだ。…だって、君たちは『子供』なんだから。君たちの『未来』は、まだ始まったばかりなんだから」

「でも、僕たちに何が…」

 迷う新月に、苗木は街の方を指差し言う。

 

「…それが分からないなら、ついて来るかい?」

「え!?」

「おいジョジョ!?」

「…僕たちはこれから、この街で起きていることの『核心』を突き止めに行く。そこで君たちは見届けるんだ。自分たちがやったことが、どんな『結末』を招いたのか。…そして何故そうなってしまったのかを。そこから先は、君たちが考えるんだ。自分たちにできることを、自分たちが『本当に正しいと思えること』を見つけるために…」

「……」

 苗木の提案に新月はしばし考えた後、大門と蛇太郎の方を向く。

 

「…大門、蛇太郎。お前たちはどうするんだ?」

「どうって…新月こそどうするんだよ?」

「…僕は、お兄さんについて行くよ」

「え!?な、なんで…?」

「お兄さんの言うとおりだ。僕たちは余りにも考えなしに行動し過ぎた。そんなことを考えるのは『オトナっぽい』からって理由でな。…でも、それじゃ駄目だった。他の事を何も考えずに好き勝手になるだけなら、僕たちは『アイツら』と同じだ。自分勝手な、オトナと何も変わらない。…だから、僕は最後まで見届けるよ。僕等のやったことが、何だったのかを知る為に…」

「……」

「…それにな。僕はお兄さんが、なんの理由も無しにジュンコお姉ちゃんを殺したりするとは思えないんだ。お兄さんについて行けば、その理由も分かるかもしれない…そんな気がするんだ」

「…なら、俺っちも行く!冒険の最後に『勇者』の俺っちが居ないなんておかしいもんな!…それに、モナカちゃんを放ってはおけないしよ!」

「そ、そうだね!モナカちゃんも言子ちゃんも…多分僕チンの事なんか忘れてるだろうけど、でも、それでも『友達』だもんね!」

「…ああ、そうだな。放っては…おけないもんな」

 

「…決まったようだね」

「うん。…僕たちも、一緒に連れて行って…!」

「ああ、一緒に行こう」

「あん?ジョジョ、そいつらも連れて行くのか?」

「うん。それがこの子たちの為だ。…別にイイだろう?」

「ま、大将はアンタだからアンタの好きにすればいいけどよ…」

「…言っとくが、俺達の足を引っ張るんじゃあねーぞ」

「…そんなこと言って良いのか?僕たちはお前たちよりずっとこの街の事については詳しいんだ。ちょっと年上だからって偉そうにしてると、道に迷っても助けてやらないぞ」

「何ィ…?」

 典型的な不良のアナスイと生真面目な新月はどうやらそりが合わないようである。

 

「まあまあ、落ち着きなよ。…それより急ごう。あんまりゆっくりしている暇はないからね」

「うん、行こう…」

 

 

 

 

「…これが僕らがここに居る経緯だ。僕たちは全てを見届けるためにここに来た。…モナカちゃん、君も含めてね」

「…ふ~ん」

「やっぱりあの時のお兄さんだったんですね…!でも、お兄さんがジュンコお姉ちゃんを…殺したなんて…ッ!」

「…言子ちゃん」

 

 

 

 

「…んなことはどうだっていいッ!ガキ共の都合なんざ知るかッ!」

「ひぃ…ッ!?」

 希望の戦士たちの心境など知ったことかとばかりに、灰慈が苗木を睨みながら叫ぶ。その剣幕にこまるは思わず震え上がるが、苗木はそんな妹を庇うように後ろに下げる。

 

「おいテメエッ!何をしたのかは知らねえが、さっさとそのコントローラーを返せ!それが嫌なら、テメーがそいつをぶっ壊せッ!そいつは…存在してちゃあならねえモノなんだよッ!」

「だ、駄目よ苗木ッ!それを壊したら…」

 

ガスッ!

「ぐべッ!?」

 腐川が苗木に警告しようとした時、狛枝が油断していた葉隠を蹴飛ばし拘束から逃れた。

 

「…おっと、余計なことは喋らない方が良いよ」

「ぐッ…!」

「お、お兄ちゃん…!」

 

『……』

 そんな中、コントローラーをめぐる喧噪をパッショーネ組はただ黙って見ているのみであった。

 

「お、おい戦刃っち!オメーからも止めて欲しいべ!アレが壊れるととんでもねえことに…ッ!」

「君も黙ってなよ葉隠君。…面白いことになりそうなんだからさ」

「ぐぐ…!」

「ふむふむ…確かにそうだね。少し見物してようかな…」

 皆の様子を見て、苗木は手にしたコントローラーへと視線を移す。

 

「…その様子から察するにどうやらこいつはあまりロクな代物じゃあなさそうだね」

「そうだッ!だから…」

「そうだよお兄ちゃん!だから…」

 

 

 

 

 

 

 

「…いいよ」

「え?」

「そんなに壊して欲しいなら、『壊してあげる』よ」

 落ちたペンを拾うことを了承するかのような調子で、苗木は灰慈の要求を受諾した。

 

「…そ、そうか!なら、とっととぶっ壊してくれ!」

「だ、駄目ですお兄さん!そんなことをしたら皆が…」

「…そうそう、そんなもの壊しちゃったほうがいいよ。そんなものがあるから、貴方の妹が苦しむことに…」

 

 

 

「…でもその前に…『アルターエゴ』!」

「…は?」

 苗木を助長しようとした灰慈とモナカの言葉も半ばに、苗木は懐から『端末』を取り出し話しかける。

 

 

ブォン…!

『…やあ、呼んだかい苗木君?』

 それに応じるように、端末の画面に不二咲千尋の顔…『アルターエゴ』が映る。

 

「あ、アルターエゴ…!?ちょっと苗木、アンタ何する気よ…」

「まあ見ててよ。…悪いけど、コレよろしく頼むよ」

『うん、任せて!』

 端末からコードを引き出すと、苗木はそれをコントローラーに接続する。それと同時に端末から電子音が鳴り始める。

 

キュラキュラキュラキュラ…ピーッ…ピコン!

『…終わったよ苗木君!』

「うん…」

「お、終わったって…何が…?」

 

カチャァン…!

 やがてアルターエゴから何かの終了の合図を受けると、苗木は手に持ったコントローラーをその場に落とし

 

「…ご苦労、さまッ!」

 

 

ガシャァンッ!

 傍に居たこまるが止める間もなく、何のためらいもなくそれを『踏み砕いた』。

 

 

 

「…ッ!?な、苗木アンタなんてことをッ!」

「お、お兄ちゃんッ!?」

「…~ッハーッ!やりやがったぜ!」

「うぷぷ…知らないってのは本当に罪だよね…!これで苗木こまるさんの努力も全部水の泡ー!そーれ、どっかぁーんッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …しかし、いくら経っても真下の街からは爆音どころが悲鳴の一つすらも聴こえてこなかった。

 

 

「…あれ?」

「ど、どうなってんだ…?アレを壊したら、ガキ共が全部吹っ飛ぶんじゃあなかったのかよ!?」

「…成程、そういうことだったのか。道理で壊させようとする筈だ」

「な、苗木…アンタ何をしたのよ?」

 混乱する一同に、苗木は手にしたアルターエゴを内蔵した端末を見せ種明しをする。

 

「…僕がやったことは簡単さ。アルターエゴにお願いして、このコントローラーに内蔵されている機能を『ハッキング』した」

「ハッキング…!?」

『このコントローラーはモノクマと子供たちの被っているマスクの両方の制御装置だったみたいだからね。しかも、その両方の機能が同調していたから、その機能にハッキングをかけて、同調している部分を切り離してそれぞれの機能を『独立』させたんだ!』

「な…ッ!?」

「どうやらモノクマの機能が停止すると同時に子供たちのマスクが爆発するみたいだったからね。それなら、それぞれの機能を『分けて』しまえば、例え壊れても双方が影響し合うことはない…。つまり、これでモノクマも制御を失い、子供達も晴れて自由の身って訳さ」

「そんな…馬鹿な…ッ!」

 自分の最後の切り札を呆気なく無力されたことにモナカは驚愕を隠し切れない。モナカだけでなく、こまるや灰慈達も予想外の事態に空いた口が閉まらずにいた。

 

「…ね?大丈夫だったでしょ」

「う、うん…。でもまさか、本当にどうにかできるなんて…」

 それに対し、パッショーネ組とそれについてきていた3人の様子は至って冷静であった。

 

「あ、アンタら…まさか、大丈夫だって分かってたの!?」

「当たり前だろ。じゃなけりゃ、こっちは全部聞いてたんだからいくらジョジョでも止めるっつーの」

「ま、それでもぶっ壊した時はちょっとだけヒヤッとしたけどな」

「この手のやり口は『経験済み』だ。…向こうでも、自分の心拍だか脳波だかを爆弾と同調させて人質諸共自爆しようとした奴もいたしな。『電子機器』が相手ならば、アルターエゴならどうにかできる…」

「まあ言っちまうと。…ガキが思いつくようなことを大人が思いつかねー訳ねーだろ?…っつーことだな」

「…ッ!」

 エルメェスの挑発のような言葉に、モナカは顔を更に苦々しく歪める。

 

「ありがとうアルターエゴ…君には、そして不二咲君には、本当に何度も助けられたね」

『ううん!僕も…きっとご主人タマも、君の力になれてうれしいよ!』

「…そっか。さて…」

 アルターエゴとその製作者である今は亡き『友人』に謝辞を送った後、苗木は唖然とする灰慈へと向き直る。

 

「塔和灰慈さん、でしたね。…ご要望の通り、コントローラーは壊しましたよ。これでもうモノクマは無力です、あなた方を脅かす存在は無くなりましたよ」

「…ッ!…ざけんなよ…」

「はい?」

「…ふざけんじゃあねーぞテメエッ!モノクマが止まりゃそれでいいんじゃあねーんだよッ!俺達は…ここに『仇を討つ』為に来てんだッ!だから、ガキ共は全員死ななきゃならねーんだよッ!それを…俺達の希望を、テメーはぶっ壊したんだッ!」

 

『そうだーッ!余計な事しやがってーッ!』

『責任とれーッ!』

 灰慈が、そして下に居る大人たちが、自分たちの目的を邪魔した苗木を非難する。

 

 

「そ、そんな言い方…!」

「アンタらいい加減にしなさいよ…ッ!」

 余りにも勝手な言い分にこまるや腐川も憤りを覚える。

 

 

…しかし

 

「……」

 その罵声を一身に受けながらも、苗木は灰慈を『憐れみ』のような目で見つめていた。

 

「…なんだ、その目は…!?なんでそんな目で俺を見やがるッ!」

「…灰慈さん。アナタはそれで本当にいいんですか?」

「なんだと…?」

「貴方は、この街の大人たちの為にレジスタンスを組織し、彼らを守る為に活動してきた。…少なくとも、最初の頃の貴方はそうだったはずです。けれど、今の貴方はどうだ?目の前の『憎悪』を消し去ることに躍起になるあまり、将来起こり得るそれ以上の『悲劇』を分かっていながら回避しようとしない。…今のあなたは、一体何がしたいんですか?」

「お、俺は…ッ」

「殺された大人たちの為に、子供を皆殺しにする。確かに、それで一時の溜飲は下がるでしょう。…しかし、『その後』をどうするつもりなのですか?この街の大人全員に『虐殺教唆』の汚名を被せ、未来機関と戦争になった時…貴方は、それにどう向き合うつもりだったのですか?」

「そ、それは…事情を話せば、きっと分かってくれる…」

「腐川さんから説得が無意味だということは聞いているでしょう。…それ以前に、子供を喜び勇んで皆殺しにするような連中の言葉を、素直に聴きいれてくれるとでも思っているのですか?…貴方が、同じような事をしたこの子たちの言葉をまともに聴こうともしなかったように」

「う…ぐ…ッ!」

 

シー…ン…

 ヒートアップし過ぎるあまり考えもしなかった自分たちに行動の迂闊さを指摘され、大人たちも鎮まり返っていた。

 

「『復讐』とは、自らの運命に決着をつけ、前に進む為の『きっかけ』でもある。…その行為自体を僕は咎めようとは思いません。…しかし、その為にこの街と、そこに生きる人々の全てを犠牲にしかねない行動を、僕はどんな理由が在れど認めることは出来ません。……それに」

「な、なんだよ…」

 苗木はそこで一息を入れ、…次の瞬間怒号と共にその言葉を吐き出した。

 

 

 

「…なにより僕が気に入らないのは、他人(ひと)の家族をアンタ達の『復讐』に巻き込んだことだッ!!」

「ッ!?」

「確かにアンタ達はこまるの言葉に、行動に突き動かされたのかもしれない。こまるの行動が、この状況を創った原因なのかもしれない。…だが、こまるが望んだものはこんなものじゃあ無かった筈だッ!アンタ達は、自分たちの復讐心を、こまるの優しさに付け込んですり替えただけだッ!今のアンタ達は、こまるを理由にして自分たちの行動を『正当化』しようとしているだけだ!!」

「そ、そんなこと…!」

「ならば聞くけど、もしあのままこまるがコントローラーを壊して、モナカの思い通り『2代目江ノ島盾子』に仕立て上げられた時、アンタ達はどうやってこまるを『守る』つもりだったんだ?」

「な、なんで俺らがこいつを…」

「理由が無いとは言わせないぞ。…少なくとも、こまる自身には壊す意思は無かった。アンタ達のように、一時の怒りに任せて衝動的に壊そうとはしたが、それを煽ったのはアンタだ。ならばアンタ達には、自分たちの咎を背負わせたこまるを守る『責任』がある筈だ」

「う…」

「…まさかとは思うけど、全ての責任をこまるに押し付けて未来機関に差し出すつもりだった…なんて言わないよね?」

「そ、そんなことッ!…ある筈が、ねえ…だろ…」

 歯切れ悪くそう言ったものの、灰慈の瞳に力は無かった。

 

 

「…まあ、仮定の話だ。これ以上どうこう問い詰めることはしない。だが、今ので分かった。結局あなた方は何も考えていない。怒りと憎悪に任せて何もかもを壊して、それが何を引き起こすのかを理解していない。あなた方がやろうとしているのは、遠回りな『心中』に過ぎない。大人も、子供も、この街も…何もかもを巻き込んだ心中だ。仇を討ったつもりで、最後には自分たちがこの世界に生きる人々の『仇』に…『絶望』になる。…あなた方が求めているのは、そういう『結末』なんですよ」

「…ッ!!」

「それを踏まえたうえで、もう一度聞きます。…貴方は、何がしたいんですか?」

 

 

「……」

 皆が、灰慈の返答を待っていた。…と言うより、口が挟めなかった。こまるも、腐川も、子供達も…狛枝やモナカですら、苗木の徹底的な論破をただ黙って見ているだけであった。この場に居る全員が、ただの『観客』となっていた。

 

 

「…テメエに…ッ!」

 やがて、絞り出すような声が漏れ

 

「テメエに…ッ、俺達の何が分かるってんだよッ!!?」

 灰慈の答えは、『逆ギレ』という形で突き返された。

 

「だったら俺達はどうすりゃよかったんだッ!?あのまま地下でモグラみてーに泣き寝入りしてろってか!それとも、今更ガキ共と手を取り合って仲良しこよししろって言うのかッ!…そんなの、俺達はどっちも御免だッ!もう、止まらねえ…止まれねえんだよ…!もう俺達には、全てを捨ててでも仇を討つことしかできねーんだよッ!そんな俺らの気持ちが、テメーなんかに分かってたまるかッ!!」

 

『…そうだ、俺達にはもうこれしかねーんだよッ!』

『ガキ共を許すなーッ!』

 灰慈の言葉に大人たちも同調するが、その言葉には先ほどまでの覇気がない。

 

「…なんか、皆ヤケクソになってねえか?」

「アイツらも気づいちゃいるんだろ。…自分たちがやってることが、『間違ってる』ってことぐらいさ」

「だが、もう後には引けない。ならば、自分たちの行動を『正当化』することでしか、『罪悪感』から逃れることができない…ということか」

「…哀れ、としか言えんのう」

 そんな彼らの様子を要救助民たちが冷ややかな目で見ていると

 

 

 

 

 

『…甘ったれるなッ!!』

「ッ!?」

 モニターの向こうから飛ばされた苗木の怒号が大人たちの喧騒を掻き消した。

 

 

 

「な、なんだと…!?」

「…貴方は、自分の今の発言に何も思わないんですか?…そんなの、まるっきり『子供の言い分』じゃあないですか」

「こ…子供の言い分だと…」

「やりだしてしまったからもう止められない。立ち止まって自分がやってしまったことを振り返るのが怖い。だからもう他の事を考えたくない。…ハッキリ言います。それはただの『逃避』だ!」

「俺達が、逃げただと…!」

「…確かに、僕にはあなた方の気持ちは、あなた方が味わった『絶望』は分からない。でも、あなた達の行動がいかに『空虚』なものなのかは分かる!…あなた達は、自分の意志で立ち上がり、この絶望に立ち向かう『覚悟』を決めた。それ自体は紛れもない本物だろう。しかし、あなた方の行動には『中身』が伴っていない!あなた方はただ、彼らにやられたことを『やり返している』だけだッ!」

「…と、当然じゃねえかッ!俺達がどんな気持ちになったのか、アイツらに思い知らせてやらねえと気が済まねえ…」

「その結果、子供達が今のあなた方のような気持ちになって、いつか再びあなた方に『復讐』することになっても…ですか?」

「ッ!?それ、は…」

 苗木の言葉に、灰慈は詰まるばかりで答えが出ない。

 

「…同じことを繰り返したところで、待っているのは互いをすり減らし合った末の『痛み分け』だ。そこに至るまでに、一体どれだけの『犠牲』が出ると思っているんですか?…本当の『覚悟』とは、犠牲の心なんかじゃないんです。あなた達は、『復讐心』で『現実』を覆い隠しているだけです。その奥にある現実と向き合う事こそが『覚悟』なんです!今のあなた達は彼らと同じ、『今』さえよければそれでいいと決めつけているだけの…『子供』に過ぎません…!」

「お、俺達は…」

 

 

 

「…お兄さん、僕からも一言言わせてくれ」

 そこに、新月が口を挟んだ。

 

「お前は…ッ!」

「新月君…いいのかい?」

「大丈夫…なあ、お前がオトナ達のリーダーなんだよな?」

「…そうだよ。それがどうした?今更謝ろうってか?そんな都合のいい…」

「…ああ、その通りだ」

「!?」

 困惑する灰慈に、新月はその場に膝を突くと深々と頭を下げる。

 

「…酷いことをして、迷惑をかけて…本当にごめんなさい」

「んな…ッ!?」

「し、新月君!?どうしてそんな奴に…」

「いいや言子ちゃん。これは『ケジメ』なんだ。こんなもので許されるだなんて思っていないさ。…けど、どうせ死ぬにしても、今の中途半端な気持ちを持ったままで死にたくはない。だから、僕は『自分に正直』になっただけだ」

「…そ、そんなことをして、『同情』でもして貰えるとでも思ってんのか!?」

「勘違いするな。僕はこうして謝ってはいるが、オトナに『復讐』したことにも、『コドモの楽園』を目指したことにも後悔している訳じゃあない。…でもその為に、モナカちゃんにまんまと利用されて、この街の人たちを、お兄さんの妹を巻き込んでしまったことは…悪かったと思っている」

「新月君…」

「…こいつ、急にどうしたのよ?」

「多分、思うところができたんだと思う。『信じていたもの』に裏切られて、そこから助けてくれる人に出会ったことで、ね…」

 新月の様子の変化にこまるや腐川は驚くが、戦刃はまるで自分の事のように新月の心境を理解していた。

 

「もしどうしても僕たちを殺さないと納得ができないっていうなら…僕の命で我慢してくれ。楽園計画を考えたのは元々僕だ。僕がお前たちを殺したようなものだ。他のコドモたちは、皆操られていただけなんだ。だから…お願いだ。皆を殺さないでくれッ!」

「お…俺っちからもお願いだよッ!『希望の戦士』のリーダーは俺っちだ!仲間のしたことは全部俺っちのせいなんだ!やるなら、俺っちだけにしてくれ!」

「ぼ、僕チンも…!どうせ僕チンなんか生きててもしょうがないし、嫌われ者の僕チンが死んで皆が助かるなら、僕チンはその方がいいよぉ!」

「…私からもお願いします!もう絶対に大人の人たちを殺したりなんかしませんから…なんでも言う事を聞きますから…!だから、許さなくてもいいから、もうやめてくださいッ!」

「…ッ!」

「……」

 新月に続き、大門が、蛇太郎が、言子が恥じることなく灰慈に土下座し頼み込む。その様子を、思いもよらない事態に動揺する灰慈も含めてモナカは冷ややかな目で見ていたが、やがて…

 

 

 

 

「……」

ドサッ…

 反論の声すら上げることなく、灰慈はその場に崩れ落ちた。それは、自分たちの全てを苗木に論破され、子供達の謝罪にどう対応すればいいのかも分からないという、実質的な『敗北宣言』でもあった。

 

「…だったら、だったら…。俺達はどうすりゃよかったんだ…?俺達は何を間違えちまったっていうんだよ…?」

「……」

「なあ…教えてくれよ…。俺達がやらなきゃなんねえことって、なんだったんだよ…?」

 

「…そんなもの、僕が知るか」

「は…?」

 灰慈の嘆願の様な問いに、苗木の返答はあまりにもそっけなかった。

 

「さっきも言ったでしょう、『甘ったれるな』って。…自分で言うのもなんだが、僕はあくまで自分の『理想』を追い求めているだけの『エゴイスト』だ。『希望』と呼ばれてはいるけど、それも所詮僕の『自己満足』に過ぎない。だから、もし僕があなた方と同じ立場にあった時に、僕がしようとすることが決して正しいとは限らない。…僕に『答え』を求めたところで、それがあなた達にとっての『正解』ではないんですよ」

「そ、そんな…」

「…だから、その答えは『あなた方自身』が見つけるしかないんです」

「俺達…自身…?」

「そうです。…過程はどうあれ、モノクマの脅威がなくなった今、あなた達と子供たちの立場は『対等』です。互いに傷つけあったことで、あなた達も子供達もお互いの『痛み』を知っています。ならば、もう一度考えてください。自分たちの行動を、子供達の行動を、…そして自分と彼らの『現実』と向き合い、理解してあげてください。その上で、あなた方がまだ『復讐』を望むというのであれば…その時はもう止めません。無論、また無関係の人たちを巻き込むのなら話は別ですけどね」

「……」

「『殺す』ことだけが、『復讐』じゃあないんです。目の前の『現実』を終わらせることこそが、あなた達にとっての『仇討ち』なんです。…あなた達が、『大人』としての『覚悟』を持った、誇りある選択を選んでくれることを願います…」

 膝立ちのまま茫然と立ち尽くす灰慈にそう言って背を向け、苗木はモナカと狛枝の方へと向き直った。

 




苗木の話術は、まず「正論」で相手の逃げ口を徹底的に奪ったのち、「感情論」で相手の心理を刺激し、あえて激高させて「本音」を引きずり出してそこを論破します。

…うまいこと表現できてるかな?これおかしくね?的な部分があったら指摘してね

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