ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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ダンロン3公開記念にテンションあがっちゃったのでちょっと気が早く更新しちゃいます。安心してください、こんな時の為に書き溜めはばっちりです!
…たぶんね。ああ、露伴先生みたいに「書き溜めなんて安くみられるからやらない」って言ってみてえ~…


少女達の叫び、愚者の嘆き

「や、やった…!」

 コトダマの集中砲火を受け悲鳴を上げてぶっ倒れたジェノサイダーにこまるは勝利を確信した。

 

「あ…ギギギ…」

 さしものジェノサイダーもこれだけのスタンド攻撃には耐えきれなかったのか呻き声を上げながらピクリとも動かない。そして

 

「…く、クソが…ッ!もう時間が………あ痛だだだだだッ!?あ、アイツ…なにボコボコにされてんのよ…ッ!?」

「あ…も、戻った…」

 『限界時間』を迎えたのかジェノサイダーから腐川へと意識が入れ替わったのを確認し、こまるはなんとか立ち上がって腐川の元へと歩み寄る。

 

「腐川…さん…」

「な、なによ…おめでとうとでも言って欲しい訳?言っとく…けど、アタシは諦めてたりなんかしないからね…ッ!アンタがこの街に居る限り…、どこに隠れようと見つけ出してしょっ引いてやるんだから…!それが嫌なら、アタシをこの場で殺すか…アタシが動けないうちにさっさと逃げてしまうかよ…!」

「……」

「…ほら、何してんのよ…?煮るなり焼くなり…逃げるなり、すればいいじゃない…!じゃないと、またアンタを殺そうとするかもしれないわよ…?」

「…違うよ」

「はぁ…?」

「それは違うよッ!」

「な、何が違うってのよ…?」

「だって腐川さん…『本気』で戦ってなかったじゃんッ!」

「ッ!?な…何言ってんのよ…?アタシは、本気でアンタを…」

「だったらどうして、『メタリカ』で『私の血』を使って攻撃しなかったの!?」

「う…!」

「『メタリカ』は『鉄分』を操れるんでしょ…。人間の血の中には『鉄分』がいっぱい含まれてる…『中学の理科』で習うことだもん、私だって知ってるよ!実際モノクマの『金属部分』を使って攻撃とかもしてたし、できる筈だよ!なのに…」

「そ…それを言うならアンタだってじゃない!この痛み…アンタの『イン・ア・サイレント・ウェイ』の攻撃を喰らったんでしょうけど、マジでやったらアタシぐらい殺せるはずよ…!なのに、こうして喋れてるってことは、どう考えたって『手加減』されたとしか思えないわよ…ッ!」

「そ、それは…」

 

 

「…あーあ、興ざめだな。こんな形で決着しちゃうなんてさ」

「「ッ!!?」」

 ハッとして二人が声の方向を向くと、あちこち殴られ顔を腫らした狛枝が飄々とやって来る。その後ろには、さらにボコボコにされたホル・ホースがノビていた。

 

「ほ、ホル・ホースさん…ッ!」

「安心しなよ、死んでは無いから。…まあ年も年だし再起不能ではあるけどね。しかし…まったく、君たちにはがっかりさせられるよ。互いが互いを『想う』余り、手加減し合ってどっちも生き残っちゃうとはね…」

「「……」」

「なまじ殺傷力の強いスタンドを持ってるから尚の事かぁ。…けど、それを抜きにしても苗木こまるさんが腐川さん…もとい、ジェノサイダー翔にここまで肉薄できるとは思ってなかったんだけどなあ…」

「…腐川さん」

「……」

「…なんで、なんで手加減なんかしたの?私を捕まえないと、十神さんが危ないのに…どうして?」

「…こうでもしないと、アンタはこの街に後ろ髪引かれっぱなしになっちゃうでしょ…。散々好き勝手言ったけど、アタシとしてはアンタはとっとと苗木の所でおとなしくしといて欲しかったのよ…」

「…!じゃあ…やっぱり、私を逃がす為にわざと…?」

「前にも言ったけど、『道』を決めるのはアンタなのよ…。そのアンタが道を決めた後にもたもた後ろを振り返ってばっかになるんだったら、アタシが道を『1つ』に絞ってやるしかないでしょうが…」

「腐川さん…」

「それに…ねぇ…ッ!希望ヶ峰学園に居た頃から、こいつのこのいかにも『観察してます』的な眼が気に入らなかったのよ…!こいつの思い通りになるぐらいなら、計画全部水の泡にしてやったほうがまだマシよ…!」

「…やれやれ、どうやら僕が嫌われちゃったのも原因の一端みたいだね。とはいえ、腐川さんもこのままってワケにはいかないでしょ?」

 狛枝は仰向けに倒れている腐川の頭の上までやってくる。

 

「な、なによ…?なにするつもりよ…?」

「ちょっとだけ『手助け』してあげるよ。そんな身体じゃ動けないだろうしね…」

 狛枝はポケットから何やら『蠢く物体』が詰まった瓶を取り出した。

 

「それ…!?」

「ホル・ホースさんからくすねてきたんだ。確か…これを傷口にかけると傷が治るんだよね?君たちが塔和タワーでやってたみたいにさ。…全部使うと勿体ないから、『半分』で足りるよね?」

 そう言うと狛枝は笑顔で瓶の中身…『フー・ファイターズ』を腐川の口に流し込む。

 

「んごッ!?あ、あんばッ…」

「ついでにこれもサービスだよ」

 抗議しようとする腐川を気にも留めず、狛枝は続けてもう一つ、今度は『茶色の粉末』が入った瓶を取り出し腐川の顔に振りかける。

 

「…ぶぁッ!?こ、今度は何……ん?これ、まさか『コショウ』…ッ!?」

 粉末の正体に気づいた時には既に遅し、コショウが腐川の鼻腔を刺激する。

 

「だ、駄目ッ!おまる逃げ…は、は…ハクションッ!!」

 間もなく盛大にくしゃみをしたかと思うと

 

「Re…Boooonッ!!」

 跳び起きると同時に再びジェノサイダー翔へと入れ替わった。

 

「ふ、腐川さん!?」

「降臨ッ!満を持して…コロシの天使、ジェノサイダー翔ふっかーつッ!」

「うまくいったね。希望ヶ峰学園に居た頃はこうやって入れ替わってたって聞いたからね、コントロールできるようになっても変わってなくて良かったよ」

「こ、狛枝さん…アナタ…ッ!?」

「さて、それじゃ『お仕事』よろしくね」

「オーライオーライ…んじゃ、とっととやっちまいましょうかねえッ!」

「そんな…もう、もうやめてぇーッ!!」

「『メタリカ』ァッ!!」

 

 

ザスザスザスザスッ!!

 

「……え?」

「あ…れ…?」

 腐川の発動させた『メタリカ』が血液中の鉄分を操作し、鋏に変えて内側から肉を引き裂いた。…こまるではなく、狛枝の『右手』と『両足』を。

 

「…こんだけブ千切ってやりゃあ、もう『キラークイーン』の起爆スイッチを押すこともできねーだろ。これでテメーのスタンドはただの近接パワー型スタンドになったってワケだ。ギャハハハハ!」

「ふ、腐川さん…なんで…?」

「…アハハ、おかしいな…。君の仕事はそうじゃ…ああ、そうか。確か君は入れ替わっても『知識』は共有しても『記憶』は共有してなかったんだよね。だから相手を間違えて…」

「ブァーカ、これで『ミッションコンプリート』だっつの。…『希望ヶ峰学園77期生を全員保護しろ』っつー『まー君からのお仕事』のな」

「…!?」

「アンタは知らねーだろうけど、アタシらが共有してんのは『知識』だけじゃねー。…『感情』もなんだよ。じぇねえと揃って白夜様を好きになるわきゃねーだろ。テメーが気に入らねーのはあっちもこっちも同じなんだよ。それに…アタシとアイツはアタマん中で『会話』できんだよ。だからテメーと根暗の話を聞いてなくても、アイツの言葉端から状況ぐらい理解できんだよ。『20年以上』付き合ってんだぞ?それぐらい当然だっつーの」

 足を切り裂かれ尻餅をつく狛枝にジェノサイダーは鋏を向ける。

 

「状況が状況だししょうがねえからテメーの口車に乗ってやったが…いい加減我慢の限界だ。アタシは誰かに『命令される』のが大っ嫌いなんだよ。まー君と違って義理もねえテメーの言う事なんざにこれ以上従うつもりはねーよ…!」

「…そう、なんだ。苗木こまるさんを利用するのは止めるんだね。それってさ…『友情』なのかな?」

「あ?」

「大切な友達の為に、自分は危険な道を選ぶ…『黄金の精神』とはまた違うけど、それはそれで素晴らしいことだね。けどさ…キミは『殺人鬼』だろう?苗木君のように『信念』を以て誰かを殺すんじゃあなく、ただ『快楽』の為に他人を害する異常者…。そんな『呪われた魂』を持つ君が、『友情』なんて言葉に縋るなんて、余りにも図々しいとは思わないかい?君の『殺人鬼としての誇り』は、それで納得するのかい?」

 試すような、それでいて蔑むような狛枝の言葉を黙って聞いた後…

 

 

「……ぷっ」

「?」

「くくくくく…ギャヘヘヘヘヘッ!」

 ジェノサイダーは腹を抱えて笑い出した。

 

「ふ、腐川さん…?」

「ゆ、ゆーじょー?ともだち…?…アヒャヒャヒャヒャ!…テメーなに眠てえことぬかしてんだ?」

「え?」

「アタシがテメーをボコんのは、単に『テメーが気に入らねえ』だけだ。んな下らねーもんの為にアタシが動くとでも思ってんのか…?まー君みてーな『黄金の精神』なんざアタシは要らねー。…アタシはただ『殺したい奴をぶっ殺す』…そんだけだ」

「…そっか。それは残念だね、…所詮君は『殺人鬼』でしかなかったってことか」

「…おい、さっき『ミッションコンプリート』っつったが、ありゃ間違いだった。こりゃ『ミッション失敗』だわ」

「?」

「…テメーはここで死ぬんだからよぉーッ!!」

 手にした鋏を振り上げ、狛枝の喉笛へとそれを振り下ろし…

 

 

 

 

 

 

 

ガバッ!

「ッ!?」

「駄目だよ腐川さんッ!」

 それが振り下ろされる直前に、こまるが腕にしがみつきそれを食い止める。

 

「…あーん?なにしてんだ、放せよデコマル」

「ううん、絶対に嫌…!こんなの…こんなんの『腐川さんらしくない』よ!」

「はぁ?…何言ってんだテメー。テメーにアタシの何が分かるってんだ?」

「…分からない、分からないよ。けど…『解る』もん!だって…『友達』だから!」

「…ッ!」

「腐川さんが何が楽しくて殺人をするのかなんて分からない…。けど、私の知ってる腐川さんは、今の腐川さんみたいな『あやふやな気持ち』で誰かを傷つけたりなんかしないよ!…こんなこと言うのは変かもしれないけど、腐川さんはいつだって自分の気持ちに『正直』だった筈だよ!殺人をするにしても、きっと自分の気持ちに正直になってそうしたはずでしょ?そんな人だから、お兄ちゃんもきっと腐川さんのことを信じようとしたんだよ!だから…今みたいな、よく分からないままただ狛枝さんを黙らせるために殺そうとするなんて、そんなの腐川さんらしくないよッ!」

「……」

「私は、一度だって腐川さんも…ジェノサイダーさんも、異常だなんて思ってないよ。そりゃ、少し変わったところもあるけど…それだって、『腐川さんらしさ』なんでしょ?だから…腐川さんがどう思っていても、どっちの腐川さんも、大事な友達だよ!」

「…きっと、止めても無駄じゃあないかな?」

「へ?」

「このまま僕を生かしておけば、僕は腐川さんの『裏切り』に対する『報復』として十神君を殺す。…彼を助けるためには、どうあっても僕を始末するしかない。君が僕を背負って未来機関かパッショーネまで逃げるって手もあるけど、悪いけど僕はおとなしく連行されるつもりはない。能力が使えなくても、『キラークイーン』で全力で抵抗させてもらうよ…」

「……」

「………なら、私が『残る』ッ!!」

「!」

「んなッ!?」

「私が逃げなかったら、腐川さんに罰を与える理由はなくなるんでしょ?…なら、私はここに残る!ここに残って…あの子たちと『戦う』!それでいいでしょ?」

「…へぇ」

「…な、何言ってやがんだテメーッ!なんの為にアタシがコイツを殺そうと…」

「分かってるよ。腐川さんは私を逃がす為にそうしようとしたんでしょ?…でも、私はそんなのは嫌…!私だけ助かって、腐川さんがずっと危ない目に遭うなんて、そんなの絶対に認めない…!」

「…今更生意気なこと言ってんじゃあねーぞデコマルッ!あんだけ逃げたい、逃げたいって言ってた奴が、この期に及んで戦うだなんてぬかしやがって…んな甘くねーんだよッ!」

「分かってるよ!今だって、本当は逃げたいよ!…けど、『友達』を置いて逃げたりなんかしても、お兄ちゃんやお義姉ちゃんたちに胸を張って会えるわけが無いし…第一、私が『納得』しないもん!『納得』はなによりも優先される…そうでしょ、腐川さんッ!」

「……ったく、テメーはなんにもわかってねえ。その足の傷はなんだ?その腕と肩に刺さってるもんはなんだ?さっきまでテメーを甚振ってたのは誰だと思ってんだ!?」

「……」

「…分かってんだろ。アタシはそういう奴なんだよ。テメーの為なら無関係の奴だろうと平気で傷つけられる…平気で裏切れる…。んな奴を『友達』なんて思ってんじゃあねーよ…」

「…じゃあなんで、この鋏が『心臓』や『頭』に刺さってないの?どうして一度だって、私の急所を狙おうとしなかったの?」

「…ッ!」

「本当に平気で傷つけられるなら…『殺人鬼』の腐川さんが本当になんとも思ってないなら、殺すつもりはなくっても私が動けないぐらいにはできた筈だよ。それができなかったから、私に負けたんじゃん…!本当は迷ってたんでしょ?私と戦うことに…。だったら、腐川さんはお兄ちゃんと同じで、『悪人』だけど、本当の意味で『悪い人』じゃあないよ。…だから私も信じられる。だから…助けて欲しいなら、ハッキリ言ってよ。私は普通の女の子だけど…普通の私にできることなら、なんでもするからさ」

 

「…ハーァッ!なんだってオメーは変なとこでまー君に似てんだか。身の丈に合ってねーことで背伸びしやがって…そういうのが一番生意気なんだっつーの!」

「……」

「ったく…ホントテメーは後先考えちゃいねえ。…アタシと一緒だと、間違いなく地獄を見るぞ」

「見るも何も…ここは地獄みたいなものでしょ?なら、もう少しひどくなっても変わらないよ」

「…ハン、だったら好きにしな。……ありがとよ、デコマル」

「…!腐川さ…」

「ふ、ふぁ…ブァクショイッ!」

「あ」

「…あ…えっと…」

「ええと…じょ、状況説明しよっか…?」

「べ、別にいいわよ…!入れ替わるすれ違いざまに、大体のことは察したから…。そ、その…ホントに、『友達』で…いいのよね?」

「…うん!」

「そ、そう…う、うひひひ…」

 

 

「…やれやれ、なんとか一件落着かな。今回だけは、苗木こまるさんの『無鉄砲さ』に感謝しとかないとね」

「「…!」」

 頃合いを見計らってかけられた狛枝の声に、二人の顔に緊張の色が戻る。

 

「…そんなに怖い顔しないでよ。君がこの街に残るって言うなら、僕が言う事は何もないんだから。十神君をどうこうしたりなんかしないよ」

「…狛枝さん、貴方に聞きたいことがあります」

「…何かな?」

「狛枝さんは…本当に私をこの街の『ヒーロー』にすることが目的だったんですか?」

「…そうだよ、何を今更…」

「それは本当に『最初から』そうだったんですか?」

「…どういう意味かな?」

「変だと思ったんだよ。もし狛枝さんが本当にお兄ちゃんに復讐をさせて、私にそれを止めさせようとするんだったら…どうして『未来機関を呼ぶ』必要があったのかって。お兄ちゃんをこの街に連れて来るだけなら、私がこの街にいればそれでいい筈なのに…貴方はパッショーネじゃなくわざわざ未来機関に情報を流した…。そんな敵を増やすようなことをする必要が本当にあったのかって、それが気になって…」

「…」

「…アタシも気になってたことがあるわ。狛枝…アンタ本当に『絶望してる』の?」

「え?」

「こいつの行動は『計画的かつ支離滅裂』なのよ。未来機関に情報を流したのだって、『本部』じゃなくわざわざ『14支部』に情報を送ることで白夜様をこの街に誘導して拉致した…。最初から『白夜様を拉致すること』が目的なら確かに正しい一手よ。…けどその後に、アタシに自分の存在を教えて、挙句白夜様を捕まえていることを教えるだなんて…下手すりゃ『自殺行為』よ。アタシは今まで『絶望』して脳ミソあっぱらぱーになってる奴を沢山見てきたけど、こんな自分の計画を自分でぶっ壊すようなことをする奴なんて見たこと無いわ。…まあ、アンタならやりかねないと言っちゃえばそんだけだけど、それにしたって…ちょっとおかしいわよ」

 二人の視線に狛枝はしばし無表情を貫き、やがて観念したようにため息をつく。

 

「…ふぅ。女性ってのはホントに怖いね。七海さんや霧切さん程とは言わないけど、ちょっとでも心を見せるとすぐに察してしまう…みんながみんな澪田さんや終里さんみたいなニブチンさんだと僕ももう少し気が楽だったんだけどな」

「アンタの場合は『人間性』的に自然と深読みさせられんのよ…。あと、あの馬鹿チンどもと一緒にだけはすんじゃあないわよ」

「…残念だけど、僕はしっかりと『絶望している』よ。…もっとも、そうなったのは『つい最近』なんだけどね」

「最近ですって…?」

「確かに僕はこの間まで『絶望』していなかった…いや、むしろ『希望』を持って生きていたんだ。このザマになったのは…君が捕まった少し後からだったかな」

「え?ってことは…未来機関に情報を送った時は、貴方はまだ『正気』だったってこと?」

「あんた…一体何がしたかったのよ?」

 

「ホル・ホースさんが僕のことを『手段の為なら目的を選ばない』と言っていたけど、あの時の僕には確固たる『目的』があったんだよ」

「な、何よソレ…?」

「腐川さん…僕の『スタンドの名前』はなんだか分かるかい?」

「…?『キラークイーン』でしょ?」

「その通り、じゃあその『キラークイーン』の『本来の持ち主』は誰だか知ってるかい?」

「…確か、『吉良吉影』だったかしら?それがなんだって言うのよ?」

「なら…『吉良吉影に有って』、『僕に無い物』はなんだか…分かるかい?」

「ハァ?さっきから何言って……」

「…腐川さん?」

「…まさか、アンタ…!?」

「そうさ…。僕の目的は、『キラークイーンの第3の能力』…『バイツァ・ダスト』を会得することだった」

「…ハァッ!?じゃあ…アンタの目的は、白夜様の持ってる『矢』だったの!?」

「『キラークイーン』の能力…?腐川さん知ってるの?」

「…話にだけだけどね。『キラークイーン第3の爆弾』…『バイツァ・ダスト【負けて死ね】』…その能力は、『時間をブッ飛ばして1時間ほど時を戻す能力』…らしいわよ」

「へぇー……ええッ!?じ、時間を…戻すッ!?そんなこと…できるの!?」

「できたみたいよ…。実際、『キラークイーン』が吉良吉影のスタンドだった時に、その能力で空条承太郎や東方の奴も死にかけたらしいし…」

「…?『キラークイーン』が…吉良吉影の…??」

「…そこの説明は面倒だから後よ。それよりアンタッ!そんなヤバい能力なんか手に入れてどうするつもりだったの!?」

「そんなカッカしないでよ…。別に僕は『バイツァ・ダスト』を使って悪事を働こうだなんて思ってなかったんだ」

「…じゃあ、何するつもりだったのよ?」

 

「…苗木こまるさん、腐川さん、君たちは『人生をやり直したい』って思ったことはあるかい?」

「え?」

「きゅ、急に何よ…。そりゃ、アタシは後悔ばっかの人生だったから、そんなの数えきれないぐらいあるけど…」

「私も…まあ、人並みには…」

「ま、普通はそうだろうね。…けど、自慢じゃないけど僕は産まれてからそんなことを思ったことなんて一度も無かった。確かに辛いことも沢山あったけど、それでも…あの『黄金のような日々』に巡りあえたのだから、僕はこの人生に後悔なんてない…そう『思っていた』、『あの日』までは…」

「あの日…?」

「もしかして…」

「あの日以来、僕はどうしようもない『後悔』と『無力感』に苛まれてきた。あの時、僕に『あれ』を止めることはできなかったのかと…あの時、『彼』になにかできることはなかったのかと…。けれど、どれほど悩んでも僕は行動することができなかった。…今の『彼』に、僕の言葉はどれほど届くものかと…そう思うと、怖くて…何もできなかった…」

「……」

「そんな時だ、僕は思い出したんだ。僕の『キラークイーン』がかつて持っていたという…『時間逆行』の能力の事を。僕はあの瞬間歓喜に打ち震えたよ。僕にこの『キラークイーン』が宿ったことが、『運命』が僕を選んだのかと錯覚したぐらいさ…」

「…じゃあ、アンタのやりたかったことは…」

「…そうさ。僕は『バイツァ・ダスト』で『あの日、あの瞬間』へと戻る!そして、あの『悲劇』が起き得ぬよう、僕の命に代えても止めることだったッ!」

「あの日って…その『バイツァ・ダスト』で戻せるのは『1時間ぐらい』なんじゃないの?」

「確かにそうだ。…けどそれは使い手が『吉良吉影』だったからさ。『キラークイーン』を手に入れた時、吉良吉影の『記憶』…『残留思念』のようなものを感じたけど、奴は『平凡で静かな生活』を送ることだけを考えていた。だから『バイツァ・ダスト』もその程度の力しかなかったんだ。なら…『もっと強い願い』を持っていれば?奴の『バイツァ・ダスト』以上の強いスタンドパワーを持ってそれを使えば…もっと長い時間を戻すことができるんじゃあないか。…いや、戻してみせる!そう誓ったんだ…」

「狛枝…」

「それからの僕は、あらゆる手段で『キラークイーン』の成長を試したよ。スタンド能力の成長に必要なのは『本人の精神的な成長』…かつて空条承太郎や広瀬康一がそうだったようにね。絶望の残党の拠点を一人で制圧したり、時には未来機関に協力したり、その逆に絶望の残党に加担したり、ある時にはその両方を潰したこともある…!『希望』、『絶望』…なんでもかまわなかった。強い刀を創る為に敢えて槌で打ちつけるように、僕はあらゆる感情を僕自身に叩きこんだ。壊れてもいい、たった一度だけでも…『バイツァ・ダスト』を使えるのなら、それでよかった…」

「……」

「…でも、どうやら僕には『努力』の才能はなかったみたいなんだ。どれほど激しい感情に晒されても、『バイツァ・ダスト』は発現しなかった。…だから僕は『最後の手段』にでた。かつて吉良吉影がそうしたように、僕も『聖なる矢』の力で『キラークイーン』を進化させよう、と…」

「…それで、SPW財団の『矢』を狙ったってワケね」

「ああ。…とはいえ、いくら僕でも単独で財団から『矢』を盗み出せる自信はなかった。だから、『矢』の方から出向いてもらおうと思ったんだ。未来機関の中でも、SPW財団にある程度顔の利く人物…つまり、君たちなら『矢』を持ち出すことができるんじゃあないか、そう考えてね…」

「そ、そんなの…うまくいくとは限らないんじゃ…」

「おまる、アンタ忘れたの?こいつの『才能』を…」

「才能……ッ!?『超高校級の幸運』…!」

「そうさ!僕は、自分の『幸運』を何よりも信じている!だからきっとうまくいくと『確信』していた!どれほど不確定な計画であっても、きっと大丈夫と思っていた!…そして、実際に僕の目論見通り、十神君は『矢』を持ってこの街に来てくれた。君に『自分を守る力』を与えるために、僕に『矢』を運んでくるために…」

「じゃあ、あの後十神さんはアナタに…」

「…ふん!けど、その様子じゃあアンタは最後の最後で自慢の『幸運』に見放されたみたいね。現に、『バイツァ・ダスト』は始まっていない。アンタは『矢』に拒否されたのよ、ザマあみろだわ…!」

 嘲笑する腐川に対し、狛枝はそれを否定するかのように一笑する。

 

「…腐川さん、それはちょっと違うな。僕が見放されたのは『幸運』じゃない、…『運命』だったんだ」

「はぁ…?」

「十神君から『矢』を奪った僕は、すぐにそれを『キラークイーン』に突き刺した。これで全てが救われる、もうあんな『悲劇』が起こらずに済む…そう信じて僕は『矢』を突き刺した。……けれど、『運命』に選ばれなかったのは僕だった。吉良吉影にもたらした『気まぐれ』も、苗木君にもたらした『奇跡』も、僕には許されなかった…ッ!」

 感情のままに、狛枝は左腕を覆い隠す布を引き剥がす。

 

「その『代償』が…これさッ!!」

「「ッ?!!」」

 露わになった狛枝の左腕は、まるでマグマが冷え固まったかのように醜く腫れ爛れ、かろうじて指の形が分かる程度であとは人間の腕としての機能を果たしてはいなかった。

 

「こ、これって…ッ!?」

「…前に、苗木から聞いたことがあったわ。苗木が『矢』によってスタンドを手に入れた時、他にも『矢』に貫かれた奴がいたんだけど、そいつらは全員死んだって。…ちょうど、こんな感じに全身がグズグズになってね…!」

「…そうさ。これが資格なき者が『矢』を手にした末路さ。運命は僕を嘲笑うために踊らせていたに過ぎなかったんだ。偽りの『希望』をちらつかせ、それがもっとも高まった瞬間にそれを蝋燭の火でも消すかのように掻き消してしまう。生まれながらに運命に愛されていなければ、『友』を救うことすらもできない…ッ!そんな、そんなものを思い知らされたら…『絶望する』しか、ないじゃあないか…ッ!」

「…ッ!」

 涙をこぼす狛枝の瞳は、かつて腐川が見た江ノ島のそれと同じ、目に映る物全てを否定するかのような絶望と…そして嘆きが混ざったものであった。

 

「よく見ておくんだね、苗木こまるさん。これが『身の丈をわきまえなかった者の末路』だ。君も一歩間違えばこのザマに成り果てる…。この街に残るというのなら大歓迎だけど、…精々覚悟を決めておくんだね」

「……」

 

ズキッ…!

「痛ッ…!」

「お、おまる!?どうしたの!?」

「あ、アハハ…そういえば、鋏が刺さったままだったの忘れてた…」

「あ…ご、ゴメン。そ、そうだわ…!」

 腐川は狛枝から『フー・ファイターズ』が入った瓶をひったくる。

 

「ほら…!これで治しなさい。ちょっと気持ち悪いけどすぐに治るわ。今鋏を抜いてあげるから、少しだけ我慢しなさい」

「う、うん…。…あ…痛い痛い痛い痛いッ!!?」

「あッ…!ご、ゴメン…」

「だ、大丈夫…。思いっきりやっちゃっていいから…痛いのが長いのは嫌だし…」

「そ、そう…。なら、我慢しなさい…ッ!」

「痛い痛い痛いッ!!」

 四苦八苦しながらもこまるに刺さった鋏を抜き、すぐさま傷口に『フー・ファイターズ』を流し込む。

 

「あ…なんか、糊でも塗ってるみたいな感じ…。不思議と痛くないし…」

「妙に実感籠った言い方ね…。まさかやったことがあるんじゃあないでしょうね?」

「え?あ、アハハハハハ…。…あ、腐川さん。それ、全部使わないで少し残しといて」

「え?い、いいけど…こんな少し残してても正直当てにならないわよ」

「いいの、『すぐに使う』から…」

「え?」

 痛みが収まり、傷がある程度塞がったのを確認すると、こまるは残った『フー・ファイターズ』を腐川から受け取り…

 

「…はい、これ」

「え…?」

 それを狛枝に差し出した。

 

「お、おまるッ!?アンタなにやってんの!?そんな奴ほっとけばいいじゃないの!」

「…うん。多分それが一番正しいんだと思う。けど…話はよく分からなかったけど、この人は元々『友達』の為になにかをしようとしていたんでしょ。それを…『絶望』なんてもので諦めて欲しくないから」

「…いいのかい?僕がこれで傷を治したら、また君を利用しようとするかもよ?」

「そうかも…しれない。けど、『そうじゃないかもしれない』。もしその可能性があるなら…私はそれを信じたい」

「…何故そこまで言えるんだい?」

「だって…貴方はまだ『友達の為に涙を流せる』から」

「…ッ!」

「だから私は、貴方の『それ』を信じる。『絶望』しきった貴方じゃなく、『友達を助けようとした』貴方を私は信じる…信じたい」

「……」

 こまるの瞳をしばし見つめた後、狛枝は差し出された瓶を受け取った。

 

「…たく、ホンットに兄妹揃ってお人よしなんだから。後で後悔しても知らないわよ?」

「その時は…また腐川さんに甘えちゃうかも…」

「ケッ!調子のいいこと…」

「…参ったな。こんなことまでされたんじゃ、このまま行かせても正直『不公平』だな。…だから、少しだけ『手助け』してあげるよ」

「手助け?」

 狛枝は動かせない右腕の代わりに不自由な左腕をなんとか動かし、ポケットから『2本のUSBメモリ』を取り出す。

 

「これって…!」

「後で渡させようと思っていた残りの『コトダマ』だよ。君からの『施し』のお礼に今渡すよ。使い方は自分で確かめてくれ。…それと、子供たちの『本拠地』に行くのなら場所も教えておくよ。…彼らの本拠地は、『塔和ヒルズ』…塔和グループの『本社ビル』だったところだ」

「…そこに白夜様もいるのね?」

「ああ。ただ、そこの周辺にはその辺とは比べものにならないくらいのモノクマが常在している。いくら君達でも、二人での潜入は難しいね…」

「チッ…。アイツらには『メタリカ』の『光学迷彩』も効かないのよね…。けど、真正面からやり合うにはかなり厳しいわよ…」

「…だったら、あの人たちに協力してもらえないかな?シロクマや、灰慈さんたちにさ!」

「アイツらに…?期待するだけ無駄だと思うわよ。それに、向こうからしてみればアタシらは『ガキ共の仲間』の疑いがかかったままの上にあの穴倉から『脱走』したことになってんのよ。まともに話を聞くかどうか…」

「でも、やってみる価値はあると思うんだ!あの人たちもあのままで良いだなんて思っていないだろうし、きっとあの人たちにも『きっかけ』が必要なんだと思うんだ!それに…今の私と腐川さんなら、きっとうまくいくはずだよ!」

「…ハァ。まったく、急に極端なまでに『前向き』になっちゃってさ…。アンタと居ると退屈しないわ…」

「えへへ…。昔のお兄ちゃんの口癖が、『前向きなのが唯一の取柄だ』って言ってたから、少し見習ってみようと思って…」

「…アイツにも謙虚な頃があったのね。今じゃ取柄じゃないことの方が少なそうだけど…」

 

「…話はまとまったみたいだね。レジスタンスの秘密基地は…確か『下水道』の奥だったね。だったら『オフィス街』を突っ切っていくと良いよ。奥にある『青いビル』の地下が下水道に繋がってる筈だから…」

「…アンタ、ずっと言おうと思ってたけどそういう見え透いた助言は止めた方が良いわよ。かえって疑われるわよ…アタシみたいにね」

「アハハハ、そりゃどうも。…じゃあ、そんな腐川さんに一つ『耳寄りな情報』を教えてあげるよ」

「情報…?」

 

 

 

 

「『エンリコ・プッチ』はこの街に居るよ」

「ッ?!!」

 その名を聞いた瞬間、腐川の全身が総毛立つ。

 

「腐川さん…?」

「…嘘、じゃあないでしょうね…?」

「ホントさ、ついこの間まで魔法使いさんのお客さんだったんだ。…ま、最近出て行っちゃったから今どこに居るかは知らないけどね」

「…そう、そうなの…。アイツが、あのクソッタレ野郎が…この街に…ッ!」

「ふ、腐川さん、どうしたの?そのエンリコ…プッチって人がどうかしたの?」

「…アイツは、全ての『元凶』よ…ッ!」

「え…!?」

「アイツさえ居なかったら…江ノ島が苗木を出し抜くことも、世界がこんなことになることも…あの『DIO』の因縁がここまでこじれることも無かった筈なのよッ!」

「え…?ど、どういう…」

 

「…アー?」

「え?…あッ!?き、君何時の間に…!?」

 足元の声に目線を落とすと、どこへ行っていたのか戦闘の間全く姿を見せなかった『緑色の赤ん坊』がこまるの足にしがみついていた。

 

「もう…!腐川さんと戦ってる間妙に肩が軽いと思っていたら…けど、まあ無事で良かったのかな?」

「アー!」

「…その子、何?」

「え?ああ、この子は…」

「おまる…!そいつにあんまり情報を教えてやるんじゃあないわよッ!後で面倒な事企まれるでしょ…!」

「あ、う…うん」

「ま…とはいえ、この情報『だけ』は素直に感謝するわ。おかげでやっと『ゴール』が見えてきたからね…」

「そりゃどうも…」

「…お礼に、アタシからもアンタに一つ教えてあげるわ」

「…何かな?」

 

 

「…『アイツ』、アイツも今この街に居るわよ」

「…ッ!!?」

 一瞬怪訝そうな表情をし、次の瞬間腐川の言う人物に思い至った狛枝は見る間に顔色が悪くなる。

 

「…ま、まさか…そんな…筈…が」

「言っとくけどマジよ。おまるが会ったみたいだし…」

「え?私?」

「…塔和タワーで会ったって言うあの『髪の長い男』のことよ」

「…ああ、あの『どうでもいい』って言ってた人の事……あの、狛枝さん?」

「…ッ!そ、そうか…本当に、この街に居るんだね…。なら、僕は絶対に『会わない』ようにしないとね…今の僕のこんな無様な姿を、『彼』にだけは…死んでも見られたくはないからね…」

「あっそ…なら、全部片付くまでどっかの物陰でそうやってガタガタ震えて待ってなさい。アタシが迎えに来るまでね…行くわよ、おまる」

「う、うん…」

 顔面蒼白で震える狛枝を神社に残し、こまると腐川は再び塔和シティへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お、おーい…。俺を忘れないでくれぇ~…」

「…あ!」

 …階段を降りかかった辺りで思い出したホル・ホースを引き連れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こまる達が去ってしばらく経った後、狛枝はようやく落ち着きを取り戻していた。

 

「…フゥー、フゥ…。少し、動揺しすぎたかな…。けど、今のこんな僕を『彼』に見られたら、僕も『みんな』みたいなことになりかねないからね…。それは流石に勘弁だ…。とにかく、そろそろここから離れないとね。…けど、これぽっちの中身じゃ傷を全部治すのは無理かな…。『右手』か、『両足』か…どっちを治そうか…」

 

 

 

 

ゴゥゥゥゥン…ガショォン…ッ!

 

「…アレ?」

 突風と共に背後から聞こえた機械音に狛枝が振り返ると、そこには襤褸のマントを映画に出てくる『カウボーイ』の如く身に纏い、巨大な『スナイパーライフル』を携えたロボット…『賢者ロボ ハンニバルX』と、その肩に乗って操縦する新月が現れていた。

 

「…参ったな、あんな程度でマジ切れするなんて…ホント、お子様だね、君たちは…」

「…ッ!!」

 

 

 

 

 

 

ドゴォォン…ッ!

 数分後、爆音を上げて塔和シティ唯一の神社が倒壊した。後に残っていたのは、見るも無残な境内と誰の物か分からない大量の『血痕』だけであった。

 




今回ここまで
次の更新は…たぶん絶望編が放送したらまたテンションあがるかもしれないからその時かもね

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