ダンガンロンパ~黄金の言霊~   作:マイン

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そろそろ1・5部もクライマックスへ向かいだします


『悪意』と『正義』

「ったく…どこまで行ったのかと思ったら、モノクマの首抱えて来るもんだからびっくりしたじゃないの…!まあ、出口を見つけてきたからまだいいわ…」

「そんな言い方…私だって頑張ったのに…」

 腐川と合流したこまるは先程渡されたモノクマの頭をライト代わりに、教えられた出口へと歩いていた。

 

「けどアンタ、よく見つけられたもんね。アンタみたいな怖がりのことだから行き当たりばったりでいじけてると思ったのに…」

「それは腐川さんじゃん…。そりゃ、私一人だったら多分無理かもしれなかったけど…」

「…ん?ちょっと、それどういう意味よ?」

「…出口のことを教えてくれた人がいたんだよ。スイッチを探している時にたまたま会って…」

「ハア?…あんなところに人がいたっての?」

「うん。…腐川さんは気が付かなかったの?『髪が長い男の人』で、このモノクマもその人がやっつけたんだよ」

「ハァ!?アンタ何言って…」

 

 と、そこまで言いかけて腐川は止まる。

 

「…腐川さん?」

「…ねえ、こまる。そいつ、どうやってこいつを倒したの?あと、そいつの『口調』とかも覚えてたら教えなさい」

「え?…えーと、暗くてよく見えなかったんだけど、なんかその人が『回ったら』モノクマが真っ二つにされてて、『Act1』って言ってたから、もしかしたらその人も『スタンド使い』だったのかも。口調は…意味は分からなかったんだけど、『どうでもいい』とか、『心配される価値が無い』とか、『才能を失った』とか言ってたような…腐川さん?」

 こまるがその男に関する情報を話すたびに、腐川は今までにないほどに動揺し、わずかに震えてすらいるように見えた。

 

「ま、間違いないわ…!『アイツ』よ…、狛枝凪斗だけじゃなく、『アイツ』までこの街にいただなんて…」

「腐川さん…?その人のこと知ってるの?」

「…ちょっとね。こまる、その話絶対にアタシやホル・ホース以外の奴に話すんじゃあないわよ。特にガキ共の前で話したりするんじゃあないわよ…ッ!」

「え?な、なんで?」

「なんでもいいから言う事を聞きなさいッ!…そいつの事があのモナカとかいうガキにばれると、面倒なことになるかもしれないのよ…!」

「…分かったよ」

 突き放すようにそう返すと、こまるは黙って歩き続ける。やがて、青年が言っていた出入り口らしき扉へと辿りついた。

 

「ここだね…」

「さっさと行きましょう…。もう暗いのはこりごりよ…」

 腐川に促されこまるは扉を開ける。

 

 

 

 

「…さ、『作業用』って言ってたけど…こういうことぉ!?」

「ちょ…押すんじゃあないわよこまるッ!落ちたらどうすんのよッ!」

 扉から出た先は、完全に張り出された状態のタワーの『縁』の部分であった。

 

「ここから、どうやって降りろって言うのよ…」

「えっと、確か梯子があるって…あ、有ったよ!」

 こまるが指差した先には、縁の部分から下へと続いている梯子が有った。

 

「ちょ、ちょっと怖いわね…。でも、行くしかないのよね。…こまる、アンタ後から来なさい。アタシが先に下りるわ」

「え…?」

「アタシが先に行った方が、万が一の時にアンタを『メタリカ』でなんとかできるわ。…癪だけど、霧切の奴に言われた以上アンタを無事で守んなきゃならないからね…」

「う、うん…」

 腐川に言われるがまま、こまるは腐川の後に続いて梯子を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 梯子は3階まで繋がっており、そこから再び中へと戻ったこまるは非常電源盤をハッキング銃で起動させて電気を復旧し、どうにかタワーの入り口まで戻ってくることができた。

 

「つ、疲れたわ…」

「やっと戻ってこれたね…。でもどうしよう…未来機関が助けに来れないなんて知ったら、シロクマもホル・ホースさんもがっかりするよね…」

「…アンタ、あいつらのことなんかより自分の事を考えたらどうなの?」

「…ねえ、腐川さん」

「な、何よ…?」

「さっき言ってた…『私を殺す』って、本気なの?」

「……」

「もし、私と十神さんのどちらかを選ぶことになったら、腐川さんは…」

「…その時は、アタシは迷わず白夜様の命を優先するわ」

「!そ、そんな…」

「当たり前でしょ…。アタシのとって白夜様は『全て』なのよ。アロシャニスさんとの約束の為にも、アタシは何が何でも白夜様を無事で救出しなくちゃいけないのよ。その為なら…アタシは手段を選ばないわ」

「……」

「けどね…忘れんじゃあないわよ」

「…え?」

「アタシも白夜様も、『そうならない為に』行動しているのよ。白夜様だって、捕まったからってじっとしている筈が無いわ…!それに、アタシはアンタの兄ちゃんから教わったのよ。『どんな時でも、最善の未来を諦めてはいけない』ってね…。だから、これだけは約束するわ。…白夜様を取り返すまでは、アンタはアタシが守ってあげる。それだけは、信じなさい…」

「……」

「フン…」

 

 

「…おーい!お前ら~!」

「…あ、ホル・ホースさん!」

「今頃来ても遅いのよ…」

 不二咲を避難所まで送りに出ていたホル・ホースが戻って来た。

 

「悪い悪い、ちょうど石丸や悠太たちが戻って来ていてよ。『山田一二三の姉』らしい娘っ子を連れ帰ってきてて……どうした?妙に雰囲気悪いじゃあねえか?」

「…なんでもないわよ」

「もしかして…姐さんたちと連絡取れなかったのか?」

「そうじゃなくて…その…」

「あん?」

「…詳しいことは後で話すわ。それより、これからどうすんのよ?」

「…戻るよ。あそこに」

「あそこって…あの避難所に?あんなところに戻ったって、何も変わらないわよ…」

「うるさいよッ!」

「!?」

 突如大声で腐川を怒鳴るこまるに、腐川もホル・ホースもギョッとする。

 

「じょ、嬢ちゃん…?」

「あ…ごめん、なさい…」

「……」

「…一応、シロクマに駄目だったって言わなきゃならないし。それに、悠太君達が無事かも確認しときたいから…」

「…好きにすればいいじゃない」

「うん、そうする…」

「お、おい…お前ら?」

「行こう、ホル・ホースさん…」

「お、おう…」

「……」

 互いに突っぱねるような会話の後、ホル・ホースを引っ張って歩くこまると、その後をとぼとぼと追う腐川は再び避難所へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、上空の飛行船では…

 

「…蛇太郎くん、戻ってきませんわね。魔王の妹とその仲間にやられちゃったんでしょうか…?ま、嫌いだったからどうでもいいですけど…」

「可哀想な蛇ちゃん…きっと無残に殺されちゃったんだろうね。脳ミソズル出されて、背骨バキ折られて、便器をベロで嘗めさせられながら殺されちゃったんだね…嫌いだったけど」

 再び戻ってこなくなった希望の戦士に、言子とモナカが毒を吐きながら悲しんでいた。

 

「…ところでモナカちゃん?今回は、『お葬式』はしないんですか?」

「お葬式…?ああ、もう『飽きちゃった』からいいや。蛇太郎くんがいないとお仏壇も作れないしねー」

「そ、そうですか…飽きちゃったのなら、仕方ありませんわね…」

 あの葬式の後ものの数分もしないうちに興味を失くされ、ガラクタのように放り出された大門の仏壇をちらりと見ながら、言子はモナカに同調する。

 

「でも…本当なんでしょうか?蛇太郎くんが殺されたっていうのは…」

「…うん?」

「い、いや!別に大したことじゃないんですけど…ただ、死んだのなら蛇太郎くんの遺体は何処に行ったのかな~…って」

「…言子ちゃん、モナカの事疑ってるの?」

「え?」

「だーかーらー!言子ちゃんは、モナカが間違ってるって言いたいんでしょー!言子ちゃんは、早めの第2反抗期にはいっちゃったんでしょーッ!」

「めめめ、滅相もありません!モナカちゃんが間違ってるなんて、お日様が西から昇るぐらいあり得ないことですわ!」

「むー…」

「ごご、ごめんなさいッ!疑ってなんかいませんわ!ただ、信号の赤が何で止まれなのか~…みたいなぐらいに気になっただけで、…ほ、ホントに信じてますから!だから…嫌いにならないで、ずっと好きでいて下さぁ~い!」

 半ば狂乱気味に縋りつく言子にモナカはしばらく頬を膨らませた後…やがて背筋が凍るような笑みを浮かべて耳元で囁く。

 

「…うん!大丈夫、言子ちゃんのことはモナカはちゃんとわかってるからね。言子ちゃんは、他の皆よりほんの少しだけ…『優しい』だけだもんね」

「………え?」

 『優しい』。その言葉を聞いた瞬間、言子の顔から表情が消える。

 

「や、さ…し、い…?」

「うん。言子ちゃんは、とっても『優しい』んだよねー?きっと周りの人たちも、とっても『優しく』してくれたんだろうねー?」

「優しく…やさ、し…く…」

 

 

『言子ちゃーん。今日もばっちり良かったよー!』

『監督もプロデューサーもスポンサーも満足してたよー』

『…で、ところでなんだけど…また『営業』が入ってるんだけど、行ってくれるよね?もちろん、お母さんも一緒にね』

『大丈夫さ。言子ちゃんはいい子だから、きっと皆『優しく』してくれるよ』

『優しく、優しく、優しく…ね』

 

「い、いや…。優しいのは…嫌…ッ!」

 その場に崩れ落ち、肩を抱いて震えだす言子の眼には、明らかな『恐怖』の色が見て取れた。

 

「私に…優じぐ…じないでくだざぁいッ…!何でも…じまずから…!」

「……」

「お歌も…お稽古も…いっじょうげんめいじまずがら…だがらッ…!優じいのだげは…嫌なんでずぅぅぅッ!!」

「…あー!いけない、言子ちゃんに『優しい』は禁句だったにゃー」

 泣き叫ぶ言子に無機質な視線を向けたまま、モナカが車いすを操作しその傍まで近づくと

 

 

 

バキッ…!

「…!」

 言子の顔をグーで『殴った』。

 

「オトナは本当に最悪だよねー。自分がしていることが『正しい』と信じきってるから、それが『間違い』だってことに気が付かないんだから」

 

ガスッ

「こういうのって、『パラドックス』っていうんだよねー?そんな子供でも分かることに気が付かないなんて、オトナは本当に醜くて臭くて最悪で、生きてる価値なんてまるでないことになんで気が付かないんだろうねー?」

 

ドゴッ…

「…あ、でも気づかないから言子ちゃんをこんな風にしちゃったんだっけ?…だったら、もう教えてやる必要もないよねー?」

 

 独り言のように呟きながらも、言子を殴る手をモナカは止めない。しかしやがて

 

「…大丈夫。モナカは優しくなんかしないよ。言子ちゃんの事は大好きだから…目いっぱい『厳しく』してあげる…」

 言子を優しく抱き、モナカは耳元で甘く囁く。すると、放心状態だった言子が何かを呟きだす。

 

「オトナなんて…汚くて臭くて最悪で、生きてる価値なんてないゴミ屑なんです…。オトナなんてッ!自分のうんちをのどに詰まらせて、窒息してしまえばいいんですッ!!」

「もー!駄目だよ言子ちゃん!女の子がそんな下品な事言っちゃ!」

 

「…お、お前ら!何してんだよ!」

 そんな時にタイミング悪く新月が部屋に入って来た。

 

「あ!新月君だー!」

「こっちは大変だって言うのに、そんな…女の子どうしで、その…」

「…おやおや?新月君は『百合』はお嫌いなのですか?変ですねえ~?今どきの男の子は女の子同士が仲良くしていると『キマシタワー!』…って喜ぶって聞いたんですけど」

「どこの情報だッ!僕はそんな…変態、じゃ…」

「…どうしましたの新月君?」

「いや、お前…それ…」

「なにか?」

「…い、いや!なんでもないんだ…」

「おかしな新月君ですわねー?」

「それより、ここに来たってことは何かあったの?」

「あ、ああ…。偵察に出してた『モノクマキッズ』から情報が入ったんだ。…『魔王の妹』とその仲間が『塔和タワー』からどこかに通信していたらしい」

「…!」

「通信…まさか、『魔王』に助けを求めたのですか?」

「さあ、それは分からない。オトナの秘密結社の『未来機関』の方かもしれないしな。…ま、すぐに妨害電波を強めておいたからロクな話は出来ていないと思うけど。それに、こっちには『人質』がいるんだ。未来機関も魔王も、下手には手を出せない筈だ…」

「…そうなんだ。それなら良かったー♡」

「それに…『面白いこと』を思いついた。どうやら『魔王の妹』は『生き残り』のオトナたちと通じているらしい。それを利用して、連中を壊滅させる…!」

「生き残りって…『レジスタンス』の奴らの事ですか?」

「アイツらがいる限り僕らの『楽園』は完成しない。ちょうど『デモンズハンティング』のターゲットも混ざっているようだし、この機に乗じてアイツ等を全滅させるんだ…!」

「すごいすごーい!ナイスな作戦ですぞー!お手柄だよ、新月君♡」

 嬉しそうに笑うと、モナカは新月の傍まで移動しそのまま新月にハグする。

 

「ちょ…モナカちゃん!?」

「えへへ♡優秀なリーダーさんへのご褒美ですぞー♪」

「キャーッ!モナカちゃんったら大胆―!…あ、でも新月君的には…クキィィィィッ!よくも私のモナカちゃんをぉぉぉッ!…って、言った方が嬉しいですか?」

「バッ…ふざけるなよ!も、モナカちゃん!嬉しいけどそろそろ離れて…」

「しょうがないにゃあ。…えへへ、でもそれが成功すれば『希望の戦士』は『救世主』にランクアップですな!…ねえ聞いた―?もうすぐコドモの『楽園』が完成するんだって!」

 

「………」

「…ねえ?聞いてるのー?『クロクマ』―?」

「………」

「あ、忘れてた。…喋ってもいいよー」

 

 

 

「…っぷはぁーッ!やっと喋れたぜーッ!!」

 広間にでんと鎮座された『玉座』に座っていた『そいつ』。『真っ黒の身体』に『派手なアクセサリーと帽子』、そして『眼帯』というシロクマとはまるで正反対のそいつ…『クロクマ』はモナカの赦しが出るや否や待ってましたとばかりに喋りまくる。

 

「いやー!お預け喰らってからもう3日も黙りっぱなしだっからよ、思わず『テディベア』になっちまうところだったぜ!ナッハッハッハ!それにしても…」

 

…5分経過

 

「まったく最近は不景気な話ばっかりで嫌になっちまうぜー!こう見えてオレ様は『情報通』なんだけど、情報を知る度にテンション下がっちまうからやってらんねーってのッ!」

 

…10分経過

 

「ところでよ、オレ様の地元だと『冷やし中華』には『マヨネーズ』がつきものなんだけど、オマエラはどんだけマヨいっちゃう?オレ様はどこぞのマヨネ侍かってぐらいかけるのが…え?聞いたこと無い?Oh…カルチャーショック…」

 

…30分経過

 

「ところでよ、『ピンクダークの少年』って今どこまで進んでんだ?オレ様が最後に読んだのは『5部』に入ったばかりのトコまでなんだが…あの『コロネ』みてーな頭の野郎がッ無性に腹立つぜーッ!中にチョコじゃなくて『スライム』詰めてやりてー気分だぜ!…つーかまだ喋ってんのかって?そうだよ!まだ喋るさ!こんなもんじゃあ満足できねえぜッ!」

「…おい、いつまで喋ってるつもりだ?」

「ちなみにピンクダークの少年はもう『8部』に入ってますわよ」

「うるせーぞ新月ボーイッ!スターのオレ様の邪魔をするんじゃあねーッ!…っていうかマジかよ空木ガール!岸部露伴マジパねえな!…で、何の話だっけ?オトナどもを『天然ソーセージ』にする話だっけか?いいぜいいぜー!やりたいようにやっちまいな!アイツらを『粗挽きミンチ』にして、くっさい臭い消しに香草混ぜ込んでアイツらの腸に詰め直して茹でちまいなーッ!くぎゅうううッ!聞くだけで腹が減って来るぜー!おーい、ビールだビール!冷えてっかー?バッチィ冷えてますよ!…ってか?ギャーッハッハッハ!」

「…やっぱ黙っててー」

「………」

 もはや公害レベルに喋っていたクロクマであったが。モナカがそう命令すると途端におとなしくなりまるで携帯の『マナーモード』のように震えながら『待機状態』になる。

 

「…まったく、これさえなければまだマシなんだがな。いくら『相談役』とはいえ、口を開くたびにこうも貴重な時間を割かれてたらたまったものじゃないよ」

「オトナを痛めつけるアイデアはもう十分もらいましたしねえ。モナカちゃんの『魔法』で言う事を聞くようになってなかったら、今頃オトナどもに『鉄砲玉』として送り込んでましたわ」

「もー!二人ともそんなこと言っちゃ駄目だよ?たたでさえ仲間が減っちゃったんだし、こうやってマナーモードにしておけば平気だよー?」

「………」

「うふふ、モナカちゃんは心が海みたいに広いですね。それなら私も異議なしでーす」

「モナカちゃんが良いなら…僕は良いけど」

「それより新月君、レジスタンスを『全滅』させるって言ってたけど、どうやるのか教えてよー?」

「…簡単な話さ。あいつらの『秘密基地』を叩くんだよ」

「えっ?秘密基地の場所がわかったんですか?」

「ああ、ここ最近生き残りのオトナどもをよく見かける場所があるって報告が入ったんだ。魔王の妹の後をつければ、きっとその場所もハッキリするはず。『安全』だと思っている巣穴を攻撃されれば、アイツらは慌てて地上に出てくるはずだ。そして…巣を失った『アリ』のように、次の『巣穴』を見つけるまで地上を彷徨うしかなくなる。そうなれば…もうあいつらはただの『案山子』だ」

「キャー!新月君ったらまさに外道ッ!…ですわねー!きっとアイツらも恐怖で思わずお漏らししちゃいますわよー?」

「知ったことか。…僕らにはアイツらを『殺す権利』がある。誰にも文句なんか言わせるものか…ッ!」

「うんうん、『権利』とはいいこと言いますなー。でも、『権利』だけじゃなく『義務』もでしょ?私たちは絶対に魔物どもを『全滅』させる、それが『ジュンコお姉ちゃん』との約束なんだから」

「ひゅーひゅー!モナカちゃんも負けないぐらいエゲツナないですわー!…これは私も負けてられませんね。魔王の妹を殺すのは私です…!」

「うふふっ!仲間は少なくなっちゃったけど、その分皆のやる気もモリモリですなあ。…ね?皆もそう思うでしょ?」

 

 

「…まったくだぜコンチクショー!オレ様抜きでそんなナイスな作戦を思いつくなんて大したもんだぜ!…けど、ちょこっとまだまだ甘いなぁ~?『殺す』なんて言葉はお子様の言葉なんだぜ?マジで『ぶっ殺す!』って思ったときは、その時既にぶっ殺しちまってるんだからなぁー!…あ、でもオマエラ『コドモ』なんだから別にいいか!ギャハハハハハ!」

「…おい、なんで喋ってる?モナカちゃんの赦しは出てないぞ?」

「オイオイオイオイオイオイオイオイ、冗談きついぜ新月ボーイ。モナカちゃんが『皆』って言ったら、そこにはオレ様が含まれて当然じゃあねーか?なにしろオレ様は『みんなの心の中』にいるんだから、よ♡…な?」

「…え、別に?」

「ガーンッ!ま、待ってくれいモナカちゃん!確かにでしゃばり過ぎたのは悪かった!けど、オレ様は喋ってないと死んじゃうクマなんだよ!泳ぎ続けないと死ぬマグロとか、寂しいと死ぬウサギぐらいに黙ることが嫌いなんだよ!死ぬー、死ぬー!黙り死ぬーッ!!」

「…しょうがないにゃあ。ちょっとだけだよ?」

「ふっ、『ありがとう』は言わないぜ?オレ様は『分かる嘘』はつかない主義なんだよ。俺がつく嘘は…『女の涙をぬぐう時』だけ、だぜ?…ってな!ギャーッハッハッハ!」

「…ハァ、まったく…」

 

 

 

 

 

「…随分と、勝手なことを言ってくれるな。クソガキ共…ッ!」

「!?」

「お、お前は…!」

「あー、また出てきたんだ。しぶといなあ…」

 扉をこじ開け広間に入って来たのは、全身傷だらけでありながら未だ戦意を失っていない『十神白夜』であった。

 

「こいつ…また『脱走』したのか!手錠まで填めて牢屋に閉じ込めておいたのに…」

「本当にしぶとい人ですわね…。いい加減しないと『人質』とはいえ容赦しませんよ?」

「黙れッ!…この俺の手をここまで煩わせてくれたんだ。貴様らこそ子供とは言え無事で済むと思うなよ…!」

「ウヒョー!初めて聞いたぜそんな『三下台詞』!いかにもチート系主人公に序盤でやられるちょっと強い敵キャラって感じだなー!」

「…貴様も随分羽振りがよさそうだな。『残りカス』の分際で…」

「あ?残りカスぅ?」

「とぼけるなよ。…貴様の『正体』は既に知ってるんだぞ…!」

「クロクマの…『正体』?」

「おいおいおい、何言っちゃってんの?オレ様は正真正銘『クロクマ』様だぜ?これ以上の正体が他にあるかってんだ…」

 

「…『アルターエゴ』」

「!」

「知らないとは言わせんぞ。それを否定すれば、『貴様自身』を否定することになるのだからな…!」

「アルターエゴ…?」

「確か…『人工知能プログラム』の名前だったかな?それが一体なんだというんだ?」

「そいつのAIには、『ある人物』の『アルターエゴ』が搭載されている。ただの人工知能ではない…、その人物の『思考』をトレースした言わばそいつの『コピー』とも言うべきアルターエゴだ…!」

「……」

「そして、そいつの名は…ッ!」

 

「…お喋りさんは、『嫌い』だよ…」

 

 

 

 

「…そいつの、名…は…」

 そこまで言いかけて、十神の勢いが突如失速する。

 

「名は…?名前…?な、なんだ…?」

「ちょっとちょっとー!気になるところで切らないでくださいよー!別にどうでもいいですけど、そんな言い方をされると無性に気になるじゃないですかー!」

「名前…?…『思い出せない』…!?」

「は?」

「と、とにかく!そいつの正体を俺は知っている!そいつには『アルターエゴ』が搭載されている!そしてそいつは、『ある人物』の思考をトレースしている!そしてそいつの名は…」

「…だから、誰なんだよ?」

「…な、何故だ…!?何故俺は、そいつの名前を『思い出せない』ッ!?」

「…一体なんなんだこいつは?何がしたいんだ?」

「おやおや?その若さで早くも痴呆かよ?若禿には気をつけなよぉ~?」

「黙れッ!…まさか、これは『スタンド攻撃』!?だとすれば、貴様らの中に『スタンド使い』が…」

 

「…はいそこまで」

 

ガスッ…!」

「ガッ…!?き、さま…は…」

 いきなり真後ろから『当身』を喰らい、十神はなす術もなくその場に崩れ落ちた。

 

「手荒な真似してごめんね?…でも君が悪いんだよ。僕らがキミを殺せないのをいいことに逃げ出したりなんかするんだから。…まあでも、『脱出』するんじゃなく『反撃』する為に逃げ出す辺りは流石だけどね」

「あーッ!こら召使いさーん!なにイイ感じの時にやってきたりしてるんですかーッ!生意気ですよー?」

「ごめんごめん。ちょっと邪魔だったからつい…ね」

「…まあいい。それより、またそいつを牢屋に閉じ込めておけよ。今度はもっと頑丈に縛り付けてな…!」

「了解だよ。…ま、あんまり意味ないと思うけどね」

「ん?何か言ったか?」

「いや別に。…あ、そうだ。戦士さんに頼まれてたものを探してきたんだ」

 気絶した十神を壁際に寄せ、『召使い』…狛枝は手にしたものを言子に差し出す。

 

「よしよし、ご苦労様でしたね。…ところで、ちゃんと『剥いてある栗』なんでしょうね?」

「え?あ…ごめん、『剥いてなかった』やつだコレ」

「びーっくりくり~!…って、ホントにビックリですわよ!ちゃんとお耳は空いてるんですか~?私ちゃんと『剥いてある栗』って言いましたよね~?」

「アハハ…注文が多いなあ。流石は元『名女優』さんだ…」

 

 

 

 

「…ねえ、いつまでもそんな『古い話』のことを持ち出してると、召使いだろうが殺しますよ…?」

 『女優』という言葉を聞いた瞬間、漫然としていた言子の雰囲気が一変し、突き刺すような殺気が狛枝に当てられる。

 

「アハハ…ごめんごめん。次からは気をつけるからさ、勘弁してくれないかな?」

 しかし、当の狛枝は飄々とした態度を崩さず言子に許しを求める。言子は、その態度が気にくわなかった。

 

「…そもそも、アナタは『何者』なんですか?」

「…何の事かな?」

「恍けないでもらいます?…思えばあなたは最初から怪しかったですわ。私たちがモノクマちゃんを地上にけしかけた時に、真っ先に私たちに『降伏』して命乞いをしに来たくせに、目の前でモノクマちゃんが魔物を殺しているのを見ても眉一つ動かさないで、おまけに妙にあの『魔王の妹』のことを気にかけている…。もしかしてアナタ、『魔王』の手先なんじゃないんですか?」

「…確かに、お前の事は僕も気になっていた。いい加減素性を明かしたらどうだ…!」

「やれやれ参ったなあ…。僕が『彼』の手先だなんて、誤解だよ…」

「…今、『彼』と言いましたね?このタイミングで『彼』なんて言うからには、そいつは『魔王』のことでいいんですよね?ということは、アナタは少なくとも『魔王の正体』を知っているということには違いありませんわね…!」

「……」

 

 

 

「…召使いさんは『魔王』とは関係ないよー」

 狛枝を擁護したのは、事の成り行きを見守っていたモナカであった。

 

「モナカちゃん…?」

「え?…ど、どうしてモナカちゃんがそんなことを知ってるんですの?」

「その人の事は、『クロクマ』から聞いた事が有るんだー。召使いさんが『魔王』のことを知っているのは、召使いさんと魔王が『同じ学校』の生徒だったからだよー」

「へっへっへ、オレ様はなんでも知ってるからな。そいつがいくら黙っていようが無駄ってわけよ!」

「同じ学校…?」

 

 

「そうだよねー?…『希望ヶ峰学園77期生』、そして『キラークイーン』のスタンド使い、狛枝凪斗さん♡」

「希望ヶ峰…学園ッ!?」

「じ、じゃあ…召使いさんも魔王も、『盾子お姉ちゃん』と同じ学校の生徒だったんですかッ!?」

 衝撃の事実に驚く新月と言子を尻目に、狛枝はモナカに意外そうな目を向ける。

 

「…驚いたな。僕なんかのことを知ってたなんてね」

「この『ゲーム』を考えた時に、クロクマから、あらかじめ『邪魔になりそうな奴』のことを聞いていたからね。…まさかその一人があっさり命乞いしてくるとは思わなかったけど。なんで闘わないの?あなたがその気になれば、私たちを暗殺することぐらい簡単だよね?」

「何…!?」

「待った待った、そんなつもりはないよ。第一、今の僕は『再起不能』なんだよ。だから『闘う力』なんて残ってないんだ」

「…再起不能?なんで?」

「僕にもいろいろあってね…。今は君たちに逆らうつもりはないよ。…そういう訳で、栗は僕が剥くから戦士さんも勘弁してくれないかな?」

 

「…しかたありませんねえ。それじゃあ許し………ませーんッ!!」

 

 言子が指を鳴らすと、両手にパイやケーキといったクリーム菓子を山盛りにしたモノクマキッズがやってくる。モノクマキッズが言子に菓子を恭しく差し出すと、言子はそれを徐に掴みとり…

 

「とりゃーッ!」

ベチョ!

「うわぶッ!?」

 自分の口ではなく、狛枝の顔面めがけ叩きつけた。

 

「そりゃー!そりゃー!ご主人様に隠し事をするなんて生意気なんですよー!盾子お姉ちゃんと同じ学校だかなんだか知りませんけど、身の程を知りなさーいッ!」

「ギャッハッハ!イイぞイイゾー!そのまま出来立ての蝋人形みたいにしちまいなーッ!」

「アハハ…参ったナア…。甘いものはブフォ!…苦手なんだけど…」

 次々と菓子を投げ込まれみるみるクリームに覆われていく狛枝に、クロクマとモナカは大笑いで言子を囃し立てる。

 

「アハハハハ!やっちゃえ言子ちゃーん!」

「…なあ、モナカちゃん。お楽しみの所悪いんだけど、一つ聞いてもいいかな?」

「ん?なあに新月君?」

「モナカちゃんがさっき言ってた、あいつが『キラークイーン』のスタンド使いって…どういう意味なんだ?アイツはまだ僕たちに隠している事が有るのか?」

「…ああ、それはもういいんだよ。新月君が知っても意味のないことだし、召使いさんが『再起不能』ならそれこそどうでもいいことだからね」

「…そ、そう…か…」

「…あ、そういえばモナカちゃん」

「ん?」

 と、出し抜けにもはや半ば『スノーモンスター』のようになってしまった狛枝がモナカに話しかける。

 

「君が連れてきた『お客さん』…もう帰っちゃったけど良かったの?」

「お客さん?」

「…ふうん、そうなんだ。…まあ別にいいや。どうせその内戻って来るだろうし…教えてくれてありがとね、召使いさん♡」

「はは…どういたしまして」

「コラーッ!モナカちゃんに褒められたからって調子に乗ってんじゃあないですよーッ!」

「…なあ、モナカちゃん。お客さんって、誰の事なんだ?僕たちは何も聞いてないけど…」

「うふふ…それは秘密♡きっとその内分かるから、それまで我慢してくれる?」

「そ、それは…勿論良いけど…」

「ありがと♡聞き分けのいい子はモナカは大好きだよ♡」

「うええッ!?こ、こちらこそ…ありがとう…」

「…さあ神父様。アナタの『真意』を、確かめさせてもらうよ…」

 

 

 

 

 

 

 一方その頃…

 

「…ようやくこの時が来たか。『彼』の死から『15年』…長いようで、過ぎてみればあっという間のような気もするな…」

 モナカの部屋に匿われていた『お客様』…エンリコ・プッチは飛行船から地上へと降り立ち、町が一望できる『塔和ヒルズ』の最上階から街を見渡していた。

 

「先ほどのモノクマキッズからの報告で、ついに『極罪を犯した者』の数は『36人』を越えた…。この街のどこかに、既に『彼の遺志を継ぐモノ』は生まれ出でている筈だ。…しかし、未だ私の前に現れないということは、『彼』にはまだ『時間』が必要ということだろう。ならば私は、もう『空』で待つのをやめよう。『彼』のいるこの街の中で、『彼の意志』が私を選ぶその時を待ち続けよう。それが私に課せられた、『運命』なのだから…!」

 己に言い聞かせるようにそう決意し、プッチは踵を返して街へと向かう。

 

「我が友よ…、今私が、迎えに行こう…ッ!」

 この街のどこかにいる『誰か』にそう宣言し、『絶望の街』に『悪意無き悪』が降り立った。

 




この話でモナカの『能力』に気づいた人はいるかな?
…まあジョジョ読んでれば分かりますよね

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