…筆が進まないのに加えてゼルダやってたら全然書けないでござる
「未来機関…?いや、その前に…十神、白夜?」
こまるはその名に微かな既視感を憶え、一年半のニート生活の間にすっかり錆びついた脳ミソをフル回転させて記憶を辿る。そして思い出した。いつだったか、なんらかの催しで希望ヶ峰学園に遊びに行った時、兄となんだか難しい話をしていた偉そうな眼鏡の人のことを。
「もしかして…、お兄ちゃんの友達の!?」
「どうやら憶えていたようだな。監禁生活で脳が腐ったかと思ったがそうでもないようで何よりだ」
「…あ、そうですか…」
アンタみたいな偉そうな人はそうはいないからね!…と心の中で毒づいて、こまるはそそくさと立ち上がる。
「あの…、でもなんで十神さんがここに居るんですか?」
「…さっきも言ったが、俺は未来機関の第14支部で支部長を務めている」
「…未来機関?」
「簡単に言えば、お前をここに閉じ込めた連中の『敵対組織』だ。…その未来機関に最近情報が入ったのだ、この建物に『要救助民』が閉じ込められているとな」
「要救助民…?それって、私のことですか?」
「他に誰が居る。…で、半信半疑で最低限の人数を割いてこちらに来てみれば外では『暴動』、おまけに…」
十神はこまるの後ろで首だけになって転がっているモノクマの残骸に歩み寄り怪訝そうな視線を向ける。
「…このモノクマはなんだ?なんでこんなものがここに居る?」
「そのクマ…モノクマって言うんですか?」
「…その口ぶり、何か知っているのか?」
「あ、いえ…ただ、お兄ちゃんが髪伸ばしてから使ってたヘアゴムのキャラクターがそんなだったな、って…」
「…成程、そういえばアイツの髪留めはあの頃『奴』から貰ったものだったな。ということは、殆どなにも知らんということか。使えんな…」
「うう…」
「…だがだとすれば増々解せん。『奴』はもうこちらに干渉など出来ん筈なのに、何故こいつが存在している?いやそもそも、俺達が情報を得てからこの状況になるまでのタイミングが良過ぎる…。それにアイツとの連絡の阻害…、どうやら嵌められたとみるべきか。糞ッ…!」
「…あ、あのッ!!」
「ん?」
一人考え込む十神に恐る恐るこまるが声をかける。
「暴動って…何が起きてるんですか?このモノクマっていうクマといい、何が起きてるんですか?」
「…それを説明する前に、一つやっておくことがある」
「へ?」
「腕を出せ」
「う、腕?」
「右でも左でもいい。さっさと腕を出せ!」
十神に促されるまま、こまるは予防接種の注射をうけるかのように右腕を差し出す。
「あの…こうですか?」
「フンッ!」
グサッ…!
「…え?」
腕に感じたヒヤッとした感触、それを確かめるべく右腕に視線を向けると
そこには自分の右腕に突き刺さった、一本の石の『矢』が存在していた。
「ひ…!わああああああああッ!!!?」
突然の事態にこまるは悲鳴を上げる。十神はそんなこまるに構うことなく矢を抜きとると傷口を抑えて蹲るこまるに呟く。
「SPW財団で保管している『矢』を一本拝借してきた。ジョセフのジジイや東方には渋い顔をされたが、緊急事態だ…しかたあるまい」
「あ、ああ!あああああああッ!!」
十神の言葉などまるで聞こえていないかのように、こまるは右腕を抑えて泣きじゃくる。
「ひ、酷いよ…!私が、何をしたっていうの!?こ、こんな…棒を突き刺すなんてひどいこと…!」
「…棒じゃない、『矢』だ。それぐらい分かれ。…いつまでそうやっているつもりだ?」
「だ、だって…あんなのが刺さったら、血が…いっぱい…」
「そんなものがどこにある?」
「…え?」
十神の言葉に思わず正気に戻ると、言われてみれば傷口がある筈の箇所から全く痛みを感じない。おそるおそる抑えていた手を避けると…そこには『矢』が突き刺さった跡などまるで残っておらず健全な状態の腕が存在していた。
「曲がりなりにもアイツの妹だ。『素養』はあると思っていたが…どうやら『当たり』だったようだな。アイツの嫁どもに小言を言われずに済んだか」
「え…え?一体…何が?」
「単刀直入に言うぞ。貴様はたった今『スタンド使い』になった」
「スタンド…使い?それって、お兄ちゃんと同じ?」
「そうだ。だが勘違いするなよ、俺は善意だとか興味本位で貴様をスタンド使いにした訳ではない。…貴様一人で自分の身ぐらい守れるようにするためにくれてやったんだ。だからこれからは俺は貴様を助けはしない。一人でどうにかしろ」
「ええっ!?そんな…急に言われても…」
「言いたいことは分かる。俺とて鬼ではない、スタンドの出し方ぐらいは教えてやっても良かったのだが…どうにもそんな余裕はないようだ」
「え?」
「うわあああああああッ!!」
突然廊下の向こうから男の悲鳴が木霊する。
「な、何!?」
「と、十神さんッ!!」
向こうから走って来たのは、先ほどその先に向かった筈の未来機関の黒服たち。そして、その彼らのさらに後方からやって来たのは…
『イエ~イ!』
『アラホラサッサ!』
『バァ~ン!』
『ブヒョヒョ!』
様々な奇声を発して雪崩打ってくる、モノクマの軍勢であった。
「うえええッ!?な、なんでこんないっぱい…!?」
「当然だろう。あんな雑魚一匹で終わるものか」
「と、十神君早く…ぎゃあッ!」
『オラオラオラオラ!』
逃げ惑う黒服たちに、モノクマの群れは背後から襲い掛かるとその爪を振りかざして執拗に痛めつける。
「チッ…、まあちょうどいい。…おい苗木こまる、よく見ておけ」
「は、はい?」
「スタンドというのは…こう呼ぶのだ!『グレイトフル・デッド』!」
彼らを助けるべく、十神は自身のスタンド『グレイトフル・デッド』を発現させる。スタンド使いとなったことで初めてスタンドというものを目にするこまるはその異形の姿に思わず跳びあがる。
「わひゃあ!?そ、それが十神さんのスタンドですか?」
「そうだ。スタンドにはそれぞれ固有能力がある。俺の『グレイトフル・デッド』の能力は『老化』、生きている存在出ればなんであろうと老化させ衰弱させることができる。…最も、こいつらにはそんな能力は効かんがなッ…!」
十神が指差すと同時に、『グレイトフル・デッド』はモノクマの群れへと跳びかかり、黒服たちを痛めつけるモノクマを引きはがし、逆に痛めつけ始める。
ドガッ!バキッ!グシャアッ!!
拳で殴る、押し潰す、モノクマ同士でぶつけ合うなどやりたい放題に暴れまわってモノクマを次々とスクラップへと変えていく。しかし、倒した端からモノクマは通路の向こうから次々と現れる。
「た、助かった…」
「す、凄い…!でも…」
「…見たとおりだ、スタンドはスタンド使いにしか見えずスタンドでしか傷つけられん。例え能力が通じなかったとしても、人型であればこの程度の奴なら倒すのはそう難しくはない。…だが俺の『グレイトフル・デッド』は力はそこそこ強いがスピードが無い分格闘にはあまり向かん。だから…小道具を使わせてもらうとしよう」
そう言って十神は先程も使ったメガホンのような物を再びモノクマに向ける。
「それは…?」
「未来機関で開発されたハッキング装置だ、拳銃型でプログラムコードを発射することができる。『ハッキング銃』とでも呼んでおけ。元々は別の目的で作らせたものだが、どういう訳かあのモノクマにも有効なようだぞ。こんな風にな…」
ドギュン!
ドガァァンッ!!
十神が引き金を引くと、再び『壊』の文字が浮かんだ青い光が生じ、それが発射されモノクマに命中するとモノクマはまた爆発する。
『やだなぁ~…』
「…ほれ」
「え?…わッ!」
振り返った十神から何かを投げ渡され慌てて受け取ると、それは十神が持っているものと同じハッキング銃であった。
「こ、これ…!」
「くれてやる。それが有ればスタンドが使えるまでどうにかなるだろう。ただでさえ数が間に合わない所をむりやりせしめてきたんだ、壊すなよ?」
「な、なんで…?」
「…それを持ってさっさと逃げろと言ってるんだ!俺たちはお前の面倒を見ている暇など無いんだ。それとスタンドが有れば逃げるぐらいはできるだろう。…下のレストランに未来機関の人間を待たせている。そいつについて行けば脱出用のヘリのところまで行けるだろう」
「で、でも…」
「早く行くんだお嬢ちゃん!」
「俺たちはまだ囚われている人を助けなきゃならない。ここは俺たちに任せて、先に逃げるんだ!」
十神が半壊させたモノクマに止めを刺しながら叫ぶ黒服たちにも後押しされ、こまるはしばし悩んだ後に
「…ごめんなさい…!」
と呟いてエレベーターへと乗り込んだ。そして1Fへのボタンを押し、閉じていく扉の先で今も闘う十神達を見送りながらもう一度呟いた。
「ごめんなさい…!」
後ろ髪を引かれるこまるの想いを振り切るように、エレベーターは一直線に1Fへと降りて行った。
…それから数十分後、どうにかモノクマの群れを全滅させた十神達は負傷した黒服たち応急処置を『あるモノ』で済ませ先へと進んでいた。
「…しかし、助かりましたよ『アレ』。最初見た時はホントに効くのかって半信半疑でしたけど…」
「…でもなんか未だに蠢いてる感触が…?」
「やかましい、黙って進め。…あのおせっかいの置き土産にまんまと世話になってしまったものだ。全く…」
どういうことかかなりの重傷であったものですらもある程度動けるほどに回復した『ソレ』の事を話し合いながら、十神達は鎮火したマンションの各部屋をそれぞれ探索する。…が、生活していた名残はあるものの行けども行けどもこまる以外の生存者は一向に見つからずにいた。
「十神さん、これは一体…?」
「分からん。…だがあの情報が作為的な可能性がある以上、何があるか予想できん。注意しろ…」
十神がそう言った、その時であった。
「…へえ、君の事だからもっと強行軍で来るかと思ったけど、『成長』したみたいだね。苗木君のおかげかな?」
「ッ!!?」
廊下の角の先から、突如声が聞こえてくる。
「誰だッ!?出てこいッ!」
「そんな怒らなくても今行くよ…」
困った様な声音の声。十神はその声に聞き覚えが有った。そう、聞き覚えどころでは無いほどに。
(どういうことだ!?何故『アイツ』の声が聞こえる!?アイツがここに居る筈が……いや、待てよ…。この声、よく聞けばどこか違和感が…)
そこで十神は思い出す。『彼』と似たような声の持ち主で、しかし『彼』とは全く正反対の存在である人物のことを。そして十神がその人物の名に思い至ると同時に、廊下の角からその人物が現れる。
「でも残念だったね…。既に『…』はその扉を『…』に変えている…!」
「お、お前は…ッ!」
「君には、僕の『目的』の為の『材料』になってもらうよ。…十神白夜君♪」
そう言ってその人物は右手で軽く握り拳を作ると、まるで『スイッチ』を入れるかのように…親指で、『押した』。
ドガァァァン…ッ!!
「ぐああああああああッ!!?」
一方、こまるはエレベーターで一階へと降りると脇目も振らず外へと飛び出した。
「ハァッ…ハァ…!こ、ここまでくれば…」
危険地帯から抜け出したことに胸をなでおろすと、こまるは十神から言われたレストランを探す。
「レストラン…レストラン…。…あっ!」
そしてマンションの前の通りの向かいに『pig boy』というブタがイメージキャラクターのファミレスを発見し、そこへ向かおうとした…
「あ、あそこだ…!」
その時であった。
ドギャアアアンッ!!
「な、何ッ!?」
突如通りの向こうから聞こえてきた何かが激突するような音。驚いたこまるがその方向を見ると
「うわあああっ!?」
「た、助け…ぎゃあッ!!」
「殺さないでぇ~ッ!!」
『うぷぷぷぷ…』
ビルの壁や車同士でぶつかり合った大事故の中で、逃げ惑う人々を無表情に殺戮するモノクマたちがひしめき合っていた。
「ひいッ…!?」
やっと逃げ出したと思った筈が更に悪い状況に出てしまったことに怯えるこまる。そこに
キキーッ!!
「え?…きゃあッ!」
ドガシャァン!
こまるのすぐそばを乗用車が通りすぎ、そのままマンションの入り口の柱に激突する。
「あ、あの…ッ!?」
ドライバーの安否を確かめようとしたこまるであったが、その手がピタリと止まる。
ズチュ!ズチュ!ズチャアッ…!
「あ…あ…」
なぜなら、その車のバンパーには既にモノクマが乗っかっており、車が停止するや否やモノクマは鋭い爪で車のボディごとドライバーを滅多刺しにしていた。一突きごとに聞こえてくる弱弱しい悲鳴と血と脳漿で濡れたモノクマの爪。それがいずれ自分に向けられることを察したこまるはモノクマが気づく前にレストランへと駆け出した。
「ッ…!!」
周りの状況全てに目を背け、こまるは一心不乱にレストランに向かう。
「助けて…誰か、助けてよ…ッ!!」
こまるがレストランに駆け込むと、意外なことに中の状況は全くの普通であった。どうやらまだ外のパニックに気づいていないようである。
「いらっしゃいま…」
「あ、あの!助けてくださいッ!!」
「え?ちょ、ちょっとどうしたんですか?」
「外が、大変で…人が沢山死んでて…!と、とにかく大変なんです!早く知らせないと…!」
ザワ…ザワ…
「わ、分かりました!分かりましたから落ち着いて!少々お待ちください!」
こまるの剣幕に困惑していた女性店員が渋々電話を手に取る。周りの客もこまるの異様な様子に怪訝そうな表情を浮かべる。
トゥルルルルル…トゥルルルルル…
「…もしもし、あの…怪しい人がですね…」
そして店員がこまるのことを警察に通報しようとした、その時
ドガシャァァンッ!!
「……え?」
『ヤッホー!』
窓を蹴破って店内に飛び込んで来たモノクマが、唖然とする店員目掛けて
ザシュッ…!
その鋭い爪を振りあげ、喉笛を掻っ捌いた。
「…あ…?え…あ゛…ッ!!?」
「う、うわああああッ!!」
「ひ、人殺しィーッ!!」
「ひ、ひいっ!?」
目の前で起きた惨劇にパニックになる客と恐怖の余りレジ台の陰に隠れるこまる。そんな彼らに追い打ちをかけるかのように、モノクマが破った窓から新手のモノクマが続々と雪崩れ込んで来て店内の客を襲い始める。
『たぁーッ!』
『ぶひゃひゃひゃ!』
「や、やめてくれぇー…ッ!」
「こ、殺さないで…ぎゃあッ!?」
「…ッ!…ッ!!」
(誰か…誰か、助けてッ…!)
目を閉じ、耳を塞いでも悲鳴と血飛沫の音はかき消せない。目の前で喉を切り裂かれ焦点を失くしたうつろな瞳を向ける先ほどの女性店員の姿が、それに続くかのように無残に死んでいく人たちの姿は消えなどしない。こまるは叫びたくなる自分を縛るかのようにきつく口を塞ぎ、見つからない様に陰に隠れて息を潜める。
『…緊急事態です!『塔和シティ』各所に、謎のクマのような怪物が多数出現!街の人々を襲い始めていますッ!すぐに避難して…う、うわああああッ!?』
点けっぱなしだった店内のテレビからこの状況に関する警告と、それを告げたアナウンサーの悲鳴が聞こえてくる。こまるは理解した、もうこの街に安全な場所など無いということを。
「に、逃げなきゃ…で、でもどこに…?このままじゃ…!」
恐怖の余り思考の纏まらないこまる。と、目を泳がせていた彼女がふと視線を落とすと、その先…固く握られた拳の中には、先ほど十神から貰った『ハッキング銃』がある。
「これで…闘う?でも…私には、そんなこと…ッ!」
と、そこでこまるの脳裏にある光景がフラッシュバックする。
「…ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「もし、もしだよ…私が悪の組織につかまったりしたらさ、お兄ちゃん助けてくれる?」
「…お前な、その悪の組織のボスに向かってそんなことを聞くのか?」
「あ、そういえばそうだっけ」
「ハァ…。…まあ、僕の立場上あながち非現実的とも言えない話だから一応答えるけどさ。…もちろん、お前や父さん母さんがそんなことになろうものなら、僕は何を置いてでも助けに行く。場合によっちゃあ犯人を殺すことも躊躇わないだろうな」
「…ちょ、ちょっとそこまでしなくても」
「僕にとってはそれぐらいの大事なんだよ。…でも、だからといって僕の事を漫然と待っているだけなのも良い判断とは言えないぞ」
「え?」
「もしお前が僕が助けに来るからと言って特に動揺もせずあっけらかんとしているようなら、犯人は怪しいと思ってお前を傷つけるかもしれない。もしそんな事が有って僕が間に合わなかったときは、いくら僕でもどうしようもない。だからこまる、できれば無いに越したことはないんだけど、もし自分の身が危険に晒されたときは、自分にできる範囲でいい、何か『生きる努力』をするんだ。一分、一秒でもいい、無抵抗のまま待つだけじゃなく、自分ができる生きるための抵抗を忘れるな。『希望』を捨てるな。努力が必ず報われるとは言えないけど、少なくとも、お前が努力した分だけ僕も頑張れる。だから…絶対に諦めるんじゃあないぞ」
「…や、やだなぁ~。お兄ちゃんったらムキになっちゃって、ちょっと怖いよ~…」
「お前から切り出しといてそりゃあないだろ…。まったく…」
「『生きる努力』…私に、できること…」
兄の言葉を心の内で反芻し、こまるはハッキング銃をより一層強く握りしめると
その銃口を、最も手近にいるモノクマに向ける。
「銃の撃ち方…ダイヤルを撃ちたい『コトダマ』にセットして、目標に狙いを定めて…」
こまるが選んだコトダマは先程十神が放った青いコトダマ、『コワレロ』。そしてモノクマをスコープの中心に合わせ、呼吸を整えて…
「…撃つッ!」
引き金を引く。
ドギュンッ!
あの時と同じように『壊』の文字が浮かんだ青いエネルギーが収束し、勢いよく放たれたそれはモノクマの後頭部に直撃する。当たると同時にモノクマの電子回路に『コワレロ』という命令のプログラムが侵入し、モノクマのあらゆる電子回路をハッキングしてその機能を悉く文字通り破壊した後、
バチュンッ!
『…また来週~』
ドガァァンッ!
そのボディを爆発させた。
「や、やった…!この銃、凄い…!」
恐怖の対象でしかなかったモノクマを一撃のもとに葬り去ったハッキング銃の威力に感心するこまる。
「…ようし…!
敵を倒したことで少し恐怖が和らいだのか、こまるは再び銃を構え店内で暴れまわるモノクマに狙いを定める。
「…えいッ!」
『参ったなぁ~…』
「当たって!」
『やなカンジ~…』
「あっち行けぇッ!」
『オサラバ~…』
死体だらけの店内をビクビクと歩き回りながら、こまるはなおも死体を嬲りつづけるモノクマを背後から撃ち抜く。ハッキング銃の威力は凄まじく、まだまだ狙いの定まらないこまるがつま先や耳のような箇所に掠る程度にしか当たらなくてもその全てを一撃で破壊してしまった。
「ハァッ…ハァ…」
やがてこまるは、ついに店内のモノクマを全滅させた。…だが、こまるのその勇気に賞賛を送る者は、もはや残ってはいなかった。
「あ、あの…!誰か、いませんか!?生きていたら、返事してください!」
必死に呼びかけるが、こまるの呼び声に応えるものは誰もいない。
『…クスクスクス』
…代わりに聞こえてきたのは、子供の笑い声のような声であった。
「ッ!?えっ、だ、誰!?」
突如聞こえてきた笑い声にびくつきながらその声で出どころを探るこまる。そしてその声が、未だに映りつづけているテレビから聞こえてくるのが分かった時、映像に変化が起きた。
『クスクスクスクス…』
テレビの画面に映っているのは、先ほど悲鳴をあげたアナウンサーの変わり果てた姿。物言わぬはずのそれが突如動き出したかと思うと、その背後から元気な声が聞こえてくる。
『がおがおー!俺っちはゾンビだぞー!食べちゃうぞー!』
『いやーん、食べないでくださーい!』
『…ねえ大門君さ、ゾンビってがおーって言うのかな?もっとこう、「WRYYY!」って感じなんじゃないかな?僕ちん頭悪いからよく分かんなくてさ…』
『ふん!いーんだよどうでも!こーいうのはノリが大事なんだからさ!がおがおー!』
『いやーん、食べないでくださーい!凌辱しないでくださーい!児童ポルノは発禁ですのよ?』
アナウンサーの死体をマネキンでも動かすかのように操り、心の底から楽しそうにはしゃぎ回る子供たち。その光景は狂気の沙汰そのものであったが、当の子供たち自身は狂ってるわけではなく極めて普通の様子であった。だが、この状況下で『普通』であることがどれだけ『異常』なことなのかを、こまるは無意識下で感じ取っていた。
「な、なんなの…この子たち?死体で、遊んで…!?」
と、そこに新たな登場人物が現れる。
『…おいお前ら!もう少し静かにしろよな。今日は『希望の戦士』の所信表明の日なんだぞ?こういうのは始めが肝心なんだからもう少ししゃきっとしろよ!』
『へん、相変わらずメンドクサイなぁ。…あ、さては新月も混ぜて欲しいんだろ?そうなら早く言えばいいのによー!』
『え…?い、いや僕は…』
『もんどーむよー!がおがおー!』
『がおがおー!』
『え…、ちょ、待っ…!?』
『キャハハハー!』
『や、やめろよー!』
新たに現れた少年を巻き込んで子供たちは再び死体を玩具に遊びだし、やがて勢い余ってスっ転んでまた笑う。その異様な光景にこまるが唖然としていると、今度は車いすに乗った少女が映像に映り込んでくる。そして彼女は微笑みながらカメラに向かって語り始める。
『塔和シティの皆さん、御機嫌よう。私たちは、『希望の戦士』です。モノクマちゃんの、ご主人様なのです!私たちは、この汚くて醜悪で、罪人が流れつくような流刑地のような、最低で最悪な街に、子供たちの、子供たちによる、子供たちの為の『楽園』を建設することにしました!…そういう訳なので、もう『オトナ』は必要ありません。さよーならー…』
ブツッ!
その映像を最後に、もうテレビは映らなくなった。
強くなっても十神君はかませの運命から逃れられないようです
十神とこまるはこれ以前に面識があります。番外編で書く予定なのでお待ちください
そして次回も気長にお待ちください