IS - the end destination -   作:ジベた

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37 メルヴィン

 黒縁メガネをかけたスーツの青年がイスに浅く腰掛け、だらしなく背もたれに身を預けている。両手を後頭部と背もたれに挟んでいる彼の顔は、ひどく退屈そうであった。

 

『ソウシ様。“彼女”の様子はいかがでしたか?』

 

 女性の声の通信が届き、ソウシと呼ばれた青年は待ってましたと言わんばかりに跳ね起きる。

 

「記憶の調整も、思考の誘導も大丈夫だね。条件は全て満たした。あとはトリガーさえ引けばいい。それと、聞いてほしいんだけどさ! あの子、もしかすると僕が探していた“力”に変貌するかもしれない!」

 

 ソウシは幼い子供が目をキラキラさせて話すかのように興奮していた。言いたくてウズウズしていたということだ。というのもこの青年、対等に話す相手がほとんどいない。

 

『つまり、ようやく我々から打って出ることができるというわけですね?』

「そう! これで束のISを世界に認めさせられる! 束は喜んでくれるかなぁ。早くその景色を見せて上げたいなぁ」

 

 子供のようにソウシははしゃぐ。

 かと思えば、唐突に黙り込んで、イスに深く腰掛けた。

 足を組んで頬杖をつきながら仏頂面となり、通信相手の女性に低い声で語りかける。

 

「だから、束を殺したら君を殺すよ?」

 

 顔の見えない音声のみの通信であったが、相手側が言葉に詰まったことで、女性の焦りがソウシにも伝わってきた。ソウシは言葉の棘を抑えめにして二の句を告げる。

 

「君が余計な真似をしなければ束がIS学園に戻る前にメルヴィンが連れてきてくれたはずなんだ。あの織斑一夏が来る前にね。おまけに失敗を取り戻そうと勝手に部隊をIS学園に向けたでしょ? 束の技術力があれば、あそこは難攻不落の要塞になるってわかってなかったみたいだね」

『も、申し訳ありませんっ!』

 

 女性が必死に謝る。彼女が普段は“必死”とは縁がないことをソウシは良く知っている。彼女は心の底から反省している。だから、ソウシは許す。終わり良ければ全て良し。悪い終わりさえ迎えなければ、過程はどうでも良かった。

 

「許すよ。一応、メルヴィンが不甲斐ない可能性とかも考慮してたから、今も打てる手を用意してあるし。それに、失敗したのは君だけじゃない。僕は大きな障害を放置しすぎていた」

『織斑一夏、ですね?』

「うん。最初は束を釣る餌でしかなかったけど、やはり千冬の弟だ。疑似コア搭載トロポスに乗ったメルヴィンと互角以上に戦え、アルマ・ウィースを一撃で破壊できる存在は驚異以外の何者でもない。わざわざウィスクムを餌に深海にまで誘き寄せたというのに、無慈悲なる深層(クルーエル・デプス)でも仕止められなかった。甘く見たつもりはなかったけど、失策だったかな」

『では、私が織斑一夏を始末いたしましょう』

「いや、君にはまだ出てきてほしくない。少々動きが怪しい国があるから、そちらへの対策として君は必要だ。織斑一夏には“彼女”をぶつけるよ」

『“彼女”を起こしたのですか?』

 

 ここで言う“彼女”とは7年間眠らせていたソウシの切り札のことだ。

 彼女がいたからこそ世界はISを求めた。

 彼女がいたからこそ“亡国機業を滅ぼすことができた”。

 既に役割を果たしたと思っていたが、まだまだ彼女には働いてもらわなければならない。

 目には目を。歯には歯を。

 ……織斑には、織斑を。

 

「そうだよ。だから君はしばらく表の顔で情報収集を頼む。頼りにしてるよ」

『は、はいっ!』

 

 女性の嬉しそうな声を最後に通信を切る。束を取り返した後に予想される障害も彼女の働きですぐに排除できるはずだ。すぐに次の用件に向かうため、通信中に部屋へと入ってきていた客に声をかけた。

 

「やあ、メルヴィン。待ちくたびれたよ」

「それはオレのセリフだ、ソウシ。てめえらの通信なんて聞きたくもねえ」

 

 ソウシがイスを回転させて逆方向を向くと、会議用の机を挟んだ反対側に赤毛の大男、メルヴィンが立っていた。他には誰もいない。メルヴィンは金色に輝く不気味な双眸でソウシを冷ややかに見下ろしている。

 

「わかってはいたつもりだが、まさか上層部がてめえ一人だけとは思ってなかったぜ」

「そういえば言ってなかったっけ。もう邪魔なだけだったから全員に消えてもらったよ。自分から何もする気がないくせに意見だけは一人前だなんて、子供でもできるよね」

「違いねえ。別にオレはあのお偉いさんらに忠誠を誓っていたわけじゃねえからな」

 

 ソウシが軽く言った事実を、メルヴィンもまた笑いながら受け止めていた。そうでなくてはこの男を重用した意味がない。何も戦闘能力だけで実行部隊に選んだわけではなかった。ただし、忠誠がないからこその誤算が生じるとは思っていなかった。

 

「で、ソウシ。わざわざオレを直接呼びつけるってことは何か大きな作戦でもやろうってのかい?」

「その通りなんだけど、ちょっと君にお話があってね。今、君はどこの所属だい?」

「はあ!? いきなり何を言ってやがる」

「……アメリカへの移住計画は楽しかった? まさか君が機密を外に持ち出すとは僕には考えつかなかったよ。君が平穏を求めて博打を打つ人間だなんて思わないしさ」

 

 メルヴィンは口答えしなかった。別にいくら吠えようと結果は変わらないのだから見苦しく言い訳をしてもいいのに、とソウシは少し残念に思う。

 

「オレを殺すか?」

「だから質問したんだよ。君はどこの所属だ、とね」

 

 ソウシが指をパチンと鳴らす。すると、メルヴィンの後方の入り口から1機のISが入ってきた。黒いISスーツに白いシンプルな装甲。頭には白いバイザーが取り付けられ、流れる髪は反自然的な水色。そして、6機の青いフィンアーマーが周囲を囲っている。

 おそらくメルヴィンは戦ってでも逃げようと画策していたのだろうが、そうさせるつもりはない。そのためのゲストに来てもらったのだ。

 

「カミ……ラ?」

「ウィスクムが余っていたのでね。折角だから適性が高くない彼女にも戦力になってもらうことにしたよ。単一仕様能力は発現しなかったけど、戦闘能力はゴーレムよりは上だ」

「ソウシ、てめえっ!!」

 

 メルヴィンが机を越えてソウシに掴みかかろうとする。その間にカミラが割って入って止めていた。カミラはメルヴィンを突き飛ばし、メルヴィンは2mほど離れた場所で尻餅をつく。彼はその体勢のまま、立ち上がらない。

 

「もう一度聞くよ。君はどこの所属だ?」

「どうすればいい……?」

「何か言ったかい? まずは僕の質問に答えようよ」

 

 ソウシはニコニコとして返答を待つ。その顔を見るだけなら、年不相応な無邪気さを感じるかもしれないが、状況によってはそれは狂気でしかない。

 メルヴィンは観念したのか、立ち上がりつつソウシを真っ直ぐ見据える。

 

「オレはてめえの駒だ。てめえの言うとおりに動いてやる。だから、てめえの目的が果たせたら、カミラを元に戻せ!」

「いい返事だ。では次の作戦での君の働きに期待しているよ。君にはこの天の軌跡(ヘブンリーローカス)の指揮権を分けておく。十分に活用してくれたまえ」

 

 カミラがメルヴィンの前へと移動し、一礼する。

 

「当個体“ヘブンリーローカス”はメルヴィン様の指揮下に置かれます。ご命令をどうぞ」

 

 震える拳から血がにじみ出てきているメルヴィンの後ろ姿を一瞥した後、ソウシは作戦の準備を終わらせるべく会議室から立ち去った。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 自分の部屋で睡眠中だった俺はノックの音で目が覚めた。たまたま眠りの浅いときと重なっていたのだろう。起きたからにはちゃんと応対するつもりだ。俺は寝ぼけ眼を擦り、欠伸をしつつ「今、開ける」と答えてから扉へと向かった。

 

「一夏……あ、ごめん! 寝てたみたいだね」

「いや、別に構わないぞ? 俺が寝過ごしてただけだからな」

 

 実は文句の一つでも言おうと思っていたのだが、その気は失せていた。扉を開けてすぐに見えたシャルの顔がひどく暗いものだったためだ。一昨日に蘭を救出してからずっとシャルは浮かない顔をしている。やはり縁が切れているとはいえデュノア社が敵と結びついていたのはショックが大きかったのだろう。

 

「それで、今日はどうしたんだ? 何か悩み事か?」

「う……ううん、違うよ。なんとなく一夏の顔が見たくなったんだ」

 

 シャルが一度は頷きかけ、慌てて否定をしていた。隠し事をするにしてもここまでわかりやすいシャルは初めてだ。だが、触れるべきでは無いのかもな。俺が何を言ったところでデュノア社と対立する状況は変わらない。だから俺がシャルに言ってやることは一つだけだ。

 

「俺の顔くらいいつでも見に来い。IS学園は今のお前の居場所だからな」

 

 シャルが大変顔を赤くして「う、うん」と顔を下に向ける。そういえばシャルが女の子なんだと知った日にも同じことを言ったな。いや、あの時は少し違う内容だったような気がする。確か、『俺が居場所になってやる』だっけ?

 ……いかんな。思い出すと、大変気恥ずかしい。IS学園自体が信用できるか怪しかった当時は“俺”しか確信を持って大丈夫だと言えなかったのだが、何てことを口走っていたのだろう。まるでプロポーズじゃないか。でも当時の俺はシャルを引き留めるのに必死だっただけだし、シャルもそう受け止めてないから別にいいのか。いや、待て。何を俺は必死になってたんだっけ。シャルにいなくなって欲しくないのは間違いないのだが、俺らしさが微塵もない無責任発言だったぞ。

 

「い、一夏? 大丈夫?」

「……なんでもない」

 

 頭を抱えて唸っていたら、シャルが本気で心配そうに見つめてきた。自分のことで頭がいっぱいだろうに、俺のしょうもないことまで気にかける必要はない。

 

「本当になんでもないって。ただ、頭がおかしくなっただけだから」

「それって全然大丈夫じゃないよね!?」

「シャル。男には多少のクレイジーさが必要なんだ! その先にロマンがあるはず!」

「全然わからないよ! 心配して損した」

 

 シャルが頬を膨らませてふてくされる。

 これでいい。先が明るいようには全く見えないけれど、暗い顔ばかりしてたら気が滅入ってしまう。いつか来る無情な現実までは現実逃避をしたっていいじゃないか。今くらいバカなやりとりしてたって罰は当たらんだろう。

 

 と、そこで学園全体に警報が鳴り響いた。

 冗談を言えるような“今”というものはもう終わりだ。

 

「敵襲……だよね」

「ああ、多分な。とりあえず轡木さんのところで状況を確認しないと――」

 

 早速地下へと向かうために部屋へと戻ろうとするも、俺の制服の裾がシャルに捕まれていて、足を止めざるを得なかった。振り返った先の彼女は顔を伏せていて、何を考えているのかはわからない。

 

「一夏。ボクはどうすればいいのかな……」

「いつも言ってるだろ? 俺には『戦え』なんて言うことはできない。シャルがしたいことを自分で選んでくれればいいよ。俺はシャルが何を選んでも責める気はないからな」

 

 シャルが戦えなくなったとしても不思議ではない。無理に戦場には出て欲しくなかった。下手をすれば、彼女は実の父と直接戦うことになるだろう。元々、亡国機業との戦いには俺が巻き込んだようなものだ。だから、シャルに父殺しの罪を負わせるくらいなら、俺が代わりに引き受けてやる。

 俺の言葉を聞いたシャルは手を離してくれた。彼女は何も言わなかったが、俺が行くことを引き留めるようではないので、彼女をその場に残して俺は地下へと向かうことにした。

 

 

***

 

 

「来たかね、一夏くん」

 

 地下には既に戦闘態勢を整えていた轡木さんたちがいた。山田先生や他の操縦者は誰もいない。既に出撃した後なのだろう。

 

「敵の襲撃ですか?」

「ああ。沖合から大量のトロポスが迫ってきている。既に月誅を放ったが、まだ敵の部隊は8割は残っている」

 

 映し出された映像には海上からIS学園に向かってくるトロポスの大軍が見える。規模が前回の襲撃とは桁が違っていた。まだ敵の全軍の規模の認識が甘かったということなのだろうか。今回は俺も出撃する必要があるのは間違いない。

 

「では、俺も出ます」

「待ちたまえ。一夏くんには頼みたいことがある」

 

 出て行こうとする俺を轡木さんが呼び止めた。何だろうと振り返ると、先ほどと違う映像が映し出されて轡木さんの言わんとすることがわかった。

 

「メルヴィン……!?」

「そうだ。この男にIS学園に近づかれては真耶くんが相手をせざるを得なくなる。そうなると他が手薄になってしまうのだ。だからまだ洋上にいる間に一夏くんに迎撃してもらいたい」

「了解です」

 

 早速、俺はあまり使われないカタパルトに移動する。そこには既に弾が待っていた。その顔にはいつもの余裕は見られない。

 

「一夏。準備はできてるか?」

「ああ、いつでもいいぜ」

「奴の傍に情報のないISがいる。この場面で出てきたってことはVAISの可能性が高い。十分注意してくれ」

「わかってる。さすがにメルヴィンとVAISを同時に相手にできるなんて思ってねえよ。じゃ、行ってくる!」

 

 自分の意志と関係なく俺の体が加速され、俺の体は空へと投げ出された。景色は、人工的な灰色から自然的な灰色に置き換わる。空に蓋をされたような気分の悪さを感じる曇り空だった。じめじめと湿った空気が、いずれ来る雨の予兆のように思えてくる。

 

 俺が飛んでいった先に奴はいた。一つ違和感があるとすれば、奴がその場で待ちかまえていたことだろうか。俺が迎撃にやってきたのに、まるで奴が俺を迎え撃とうとしているかのように見える。だが、それは細かいことだ。奴の真意がどうであろうと、俺が戦わなければ奴は攻めてくる。戦闘は避けられない。

 

「メルヴィーンッ!!」

 

 氷燕を広げ、2段イグニッションブーストからの抜刀斬りを仕掛ける。対するメルヴィンは体2つ分という短距離を一瞬で移動して攻撃を回避していた。これが奴のイグニッションブーストだ。速度変化がデジタルなのである。最高速度か速度ゼロかの2択だ。最早、短距離のテレポートだった。連発できるわけがないが、ここぞというところで使われると俺がいくら速くても避けられてしまう。

 

「来ると思ったぜ、織斑一夏。今日はな……てめえの命を貰い受けに来た」

 

 再びメルヴィンとの距離が開いたところで奴が話しかけてくる。初めて聞く声音だった。今まではどこか余裕を感じさせていた男が、俺に対し明確な殺気を向けてきている。もう後がないと金色の瞳が訴えていた。

 理解させられた。これは奴にとって決戦に等しい。奴に撤退の選択がない戦いなのだ。敵の内部事情など知らないが、この男が死に物狂いで襲ってくるとなると、俺も殺す気で戦わないと勝てない。

 

 奴が呼び出した武器は2本の剣。俺相手に大剣を持ち出す気はないようだ。合理的と言えばその通りだろう。武装の威力に関しては俺に分がある。だから奴は手数と技で勝負してくるに決まっていた。

 奴の周囲にいたトロポスたちは一斉にIS学園へと移動を開始する。前回のように利用しようという考えはなく、一騎打ちをするということか。いや、やはり敵の本命はIS学園にあるということなのかもしれない。

 ……考えるだけ無駄だな。

 今すべきは、俺を殺しに来るメルヴィンを倒すことだけだ。雪片を銃に変形させる。まずは様子見を兼ねた牽制の射撃だ。俺を迎え撃とうとしているメルヴィンに照準を合わせて、トリガーを引く。空色のエネルギー弾は真っ直ぐに奴に向かっていくが、もちろん当たるはずがない。問題はただ避けられただけでなく、当たるか当たらないかの瀬戸際という最小限の移動で回避した奴がそのまま俺に向かってきたことだ。雪片は銃になっているため、刀での迎撃は間に合わない。接近してくるメルヴィンが一切の容赦なく剣を振り下ろしてくる。それを俺は、あらかじめ用意しておいた氷燕の盾で受けた。凄まじく重い一撃だった。この重さの正体はわかっている。純粋に力が大きいのだ。剣の質量と振る速度以外に特殊な何かが働いていることによるものと思われる。今にも割れそうな盾の耐久を気にして俺は後ろへと下がる。当然、奴は俺に追撃を入れようと腕を交差した状態のまま突撃してくるのだが、雪片の変形は既に終えた。向かってくる奴に合わせてエネルギーブレードを振るう。だが、そう簡単に当てられるわけがない。奴自身も無理をする気があるわけではなく、急速反転して俺の攻撃範囲から離脱する。

 

「まさかてめえが射撃武器を使うとはな」

「俺のはただの付け焼き刃だ。アンタが相手だと牽制にすらなりゃしない」

 

 俺は雪片を中段に構える。ISコアのエネルギーを直接使う第3世代兵器ならば零落白夜の盾で完璧に防げるのだが、メルヴィンの攻撃はそうではない。奴の攻撃から身を守れるのは、雪片のみと言っていい。攻撃は最大の防御とは言い得て妙だ。

 

「そうだ。オレとてめえの戦いはやるかやられるかだ。安全圏なんて存在しねえ。ただ、どちらかが倒れるまで斬りあうだけなんだよ!」

 

 演舞の再開。互いに近づいていき、互いの剣を振るう。その軌跡は互いにお見通しで、ただひたすら空を切り続ける。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 IS学園の防衛網、最前線の中心に巫女が立つ。真耶は薙刀一振りを手に迫り来るトロポスの群れを見据えていた。

 

「教員部隊はゴーレム級以上の掃討に当たれ。キャバリエ級は全て生徒諸君に任せる。決して無理はするな」

 

 今回ばかりは常に指揮を執ることはできない。最初に方針を示し、自分も全力で戦うつもりだ。久しく戦っていなかったヴァルキリー“円月”の全力を見せつけるときだった。まず、非固定浮遊部位である荷電粒子砲を召喚し、ザコを薙ぎ払う。当然、ゴーレム級のトロポスは残り、真耶はさらに前に出る。ゴーレムが両腕の砲口を向けてくるのが見えたが、関係ない。真耶が来いと念じると、ゴーレムは真耶の方へと引っ張られていた。ビームが発射される前に薙刀で頭部のセンサーを潰し、背後に回り込む。背中合わせの状態で薙刀の柄をゴーレムの腰にひっかけたまま、共に1回転した。同時にゴーレムがビームを放ち、敵のトロポスへの攻撃となる。そこへゴーレムごと真耶を撃とうとリュジスモンの特大の砲塔がこちらに狙いを定めているのを確認した。真耶は用済みとなったゴーレムの背を突き飛ばし、行けと念じることでゴーレムを砲弾としてリュジスモンに発射する。エネルギーを放つ直前の砲口にゴーレムが飛び込み、暴発を引き起こした。自らのエネルギーに耐えきれなかったリュジスモンは半壊して墜落していく。

 

 真耶の前では敵トロポスの連携や陣形は機能していない。その理由は真耶を格闘のヴァルキリーの座に導いた単一仕様能力の存在にある。重圧陥穽 (じゅうあつかんせい)と呼んでいるその単一仕様能力は範囲内のPICに干渉し、円月を中心とした引力、もしくは斥力を生じさせる。間合いを意のままに制御できる彼女に近づけない敵は存在しない。

 

 真耶は駄目押しとばかりに前方に機雷をばらまく。通常はPICによって浮いているだけのものだが、真耶が使えば爆弾の散弾となる。引き金は念じるだけ。真耶から離れる方向へと加速する機雷群は多数のトロポスを巻き込んで連鎖的に爆発していった。

 

 真耶の活躍は敵の数が多くても防衛はできると味方に思わせるに十分だった。

 ――アレが現れるまでは。

 

「そうか。だからIS学園に攻め入ることができたのか」

 

 真耶の視線の先には“白”がいた。純白の鎧に身を包んだ“騎士”だ。7年前、世間の前に最初に現れたISにして、未だにISの頂点として語られている最強のIS。真耶は知っている。世界はISに敗北したわけではない。ただ1機の“白騎士”に敗北したのだ。IS研究とは白騎士研究に他ならない。

 薙刀を握る手に余分な力が入る。力むなど普段の真耶ならばあり得ないことだが、今回ばかりは止めようがなかった。白騎士を頂点と思っているのは世界だけでなく、真耶自身もそう思い知っているからだ。“彼女”には勝てないと7年前よりも昔に思い知らされている。あの、篠ノ之道場で……

 

「ここから退く場所などない。私が食い止めなければ誰がやれるというのだ」

 

 独り言には力がない。自分に言い聞かせようとしても結果は既に見えている。理由は至極単純なものだ。

 

 コピーはオリジナルに勝てない。

 

 真耶を最強の座に導いていた要因は円月に積まれていたとあるシステムの恩恵にある。その名をVTシステムという。自らの知る最強の動きをトレースして世界のトップクラスに並んでいた。いわば、借り物の力だ。副作用としてIS使用中は真耶の人格がVTシステムの模倣する人物の影響を受けてしまっている。一定の力を得ることはできても、亡国機業に勝てないと知っていた理由はVTシステムにあったのだ。

 

 白騎士が剣を下段に構えていた。そのままイグニッションブーストで接近してくることが手に取るようにわかる。そして、自分がどう対応するかも敵には全てバレている。得物は違えど、真耶は白騎士を映す鏡でしかない。ぶつかり合えば鏡が割れるだけ。今、実像と虚像が交差する……

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

「退けっ!」

 

 箒が空裂を振るい、道を塞いでいたキャバリエを一掃する。開かれた包囲を突破して、箒は洋上へと向かっていく。向かう先では一夏とメルヴィンの一騎打ちが繰り広げられていた。一夏だけにメルヴィンの相手をさせる理由はないと、箒は二刀を並べて正面に突き出す。

 

『姉さん、穿千を……』

『箒ちゃん! 上!』

 

 束に穿千の準備を催促したところで束から警告が発される。後方へとイグニッションブーストが使用され、箒はアンバランスに回転しながら後退する。そして彼女がいた場所を上空から閃光が通過していった。

 

「VAISか!」

 

 一般的なISより遙かに軽装甲なISが遠距離からエネルギーライフルで狙撃してきていた。顔にはバイザーがついているため、なんとなくVAISだと判断した箒だが、束が即座に肯定する。

 

『束さんが解除できないプロテクトだからVAISで間違いないね。視認できる武装はブルー・ティアーズと同じだから接近戦にしよ』

 

 非固定浮遊部位と紅椿がドッキングし、紅椿本体にも推進機が増設された紅椿の高機動形態。使用できる武装は雨月と空裂だけであるが、接近戦をするなら十分すぎる装備だ。箒は狙撃の第2射が来る前にと急いで上空へと向かう。その先で、敵の背部で青い物体が6方向に散っていった。灰色の空に映る青い軌跡は、まるで“天”の字を描いている。

 

(これは……ブルー・ティアーズ!?)

 

 束の言ったブルー・ティアーズと同じ装備とはそのままの意味だった。敵ISの特殊装備はセシリアよりも2機多い6機のBTビットである。箒を取り囲んだBTビットが箒の進行方向に向けて一斉にビームを発射し、紅椿は束によって急停止させられた。

 

『ごめん、箒ちゃん。さっきから推進機を勝手に動かしてるけど、大丈夫?』

『こちらこそすみません。助かってます、姉さん』

 

 今ので2度目の緊急回避だ。2人の意思がチグハグな挙動は紅椿自体に大きく負荷をかける。被弾するよりはマシなのだが、いつまでも続けていていいことではない。そして、おそらく箒の技量では接近することは難しい。いくら紅椿のスペックが高くてもISの機動に関する技能は箒の苦手分野だった。だから箒は射撃戦闘に切り替える。射程を考えるに、まだ本体には届かないため、BTビットの撃墜を狙っていくしかなかった。BTビットのうち1機に狙いを定め、雨月を放つ。だが、雨月の光弾の隙間に入って避けられ、そのまま反撃のビームが放たれた。突きを放った体勢のまま、箒は直撃を受けるしかなかった。そして他のBTビットからも追撃され、次々と紅椿の装甲が削られていく。

 

「きゃあああ!」

『箒ちゃん!? 相手を見て!』

 

 束の声はするけれども、冷静に見ていられない。ようやく確認した敵はその銃口を箒に向けていた。回避は間に合わない。束の手によって非固定浮遊部位が分離し、箒の周囲を囲い始めるが、防御も間に合わない気がしていた。

 だが、発射には至らなかった。どこからか飛来した蒼い閃光が狙撃体勢の敵の右肩に直撃し、敵はPICの制御が混乱したのか、グルグルと回転をしながら数メートル落下し、後に体勢を立て直す。

 

『ご無事ですか、箒さん』

『助かった、セシリア』

 

 通信でセシリアに礼を言う。紅椿の知覚範囲の中に彼女の姿はないが、彼女からはこちらが見えている。

 今の攻防で箒が一人で戦うには荷が重すぎる相手だと理解する。セシリアが共に戦ってくれるのならば心強い。

 

『セシリア。援護してほしい。BTビットの牽制を頼む』

『了解ですわ。このセシリア・オルコット。世界一のBT使いとして徹底的に叩き潰して差し上げます』

 

 敵BTビットからの集中砲火を菱形全方位エネルギーシールド“囲衣”で弾き、即座に高機動形態に戻して敵ISへと接近する。狙撃型ならば距離さえ詰めれば箒の独壇場となる。長すぎる銃身では近くの相手を撃つことは困難だ。まずは敵の武装を破壊しようと空裂で斬りつける。

 

「な、に……?」

 

 結果的に箒の刀は空振った。あったはずの銃身が光と共に消えたのだ。これは箒も何度も見てきている技能、ラピッドスイッチ。続く敵の行動は、近接武器による格闘攻撃だ。両手に近接ブレードを携えた敵が向かってくる。箒は咄嗟に雨月を光弾ごと繰り出した。至近距離で放った場合、回避も防御も困難な雨月の突きである。それを敵は、一部を剣で受け流しつつ無傷で突き進んできた。そのまま敵の斬撃を胸に受けてしまう。

 

「く、うぅ……」

 

 闇雲に空裂を振るうも、敵は常人ではあり得ないくらいに上体を剃らして避けてきた。そのままの勢いで敵は一回転し、箒の左手が蹴り上げられる。ギリギリで空裂を手放さずに済んだが、そのことに必死で再び敵が距離を開けていることにも、自分が無防備な格好を晒していることにも気づかなかった。再び狙撃ライフルの銃口がピタリと箒の体に向けられている。またミスをした。トリガーが引かれる瞬間、避けられない箒の前にBTビットが現れ、敵の斜線を遮っていた。敵の射撃を受けバラバラになってBTビットが海へと落下していく。

 

「間に合ったようですわね」

 

 すぐ近くでセシリアの声が聞こえた。彼女は、敵に蹴り飛ばされた箒を後ろで受け止めていたのだ。だが、なぜ彼女が前に出てきたのだろうか。

 

「セシリア、敵のBTビットは……?」

「先ほど申し上げたとおりですわ。わたくしにBT兵器で適う者など存在いたしませんもの」

 

 箒が敵一人に翻弄されている間に、セシリアは敵のBTビット6機を全滅させてしまったらしい。箒には無い確かな実力が彼女にはあった。だが、今は己の無力さを嘆いているときではない。

 

「どうして出てきたんだ? 敵はBTビットがなくとも接近戦がかなりの手練れだ。私と2人でも易々とは倒せないぞ」

「ご心配なく。今のわたくしには“接近戦ができない”などという弱点はありませんので」

 

 セシリアは箒にそう告げた後で、3機のBTビットを従えて一人で前にでる。箒も前に出ようとするとそれを手で制してきた。

 

「わたくしとブルー・ティアーズによる円舞曲(ワルツ)をご覧あれ」

 

 直後、箒は信じられない光景を目の当たりにした。3機のBTビットから無秩序にビームが放たれ、それらが急カーブを描き、セシリアの元へと帰ってくる。セシリアの傍を通過したビーム群は再び曲がり、セシリアの元へ帰るというループを繰り返していた。

 

偏向射撃(フレキシブル)衛星軌道(サテライト・オービット)。今のわたくしに容易に近づけると思わないことですわ」

 

 セシリアの背中でBTビットは3方向にビームを乱射し続ける。それらは同じようにセシリアの周囲を回り始めた。セシリアという星を回り続ける蒼い衛星群。その数は箒の目では数えられない。BTビット6機をあっという間に撃墜することができた理由は、この偏向射撃にあった。

 

 敵は当然のように接近などしてこない。狙撃ライフルをセシリアに向けていた。だが、それはセシリアの思惑通りだ。彼女にとって、自分から距離をとってくれる相手の方がやりやすい。セシリアの衛星群を突破できない時点で、もう勝負はついたようなものだった。

 

 敵狙撃ライフルをセシリアのスターダストシューターが貫く。射撃武器を失った敵にセシリアの衛星群の一部が流星群となって襲いかかっていた。敵は機動性重視のタイプらしく中々当たらないが、セシリアのこの攻撃は何かに当たるか、ビームが減衰しきるまで続く。

 

(セシリアはすごいな。思えば、私はこんな相手に喧嘩を売ったのだな……)

 

 既に遠い過去になってしまった気もしているが、まだ3ヶ月と少ししか経っていない。その間にセシリアは遠い人間になってしまった気がした。自分はまだ姉の力を借りなくてはまともに戦えないというのに。

 と、ここで気づいた。さっきから紅椿が変形をしていない。束の声が聞こえてこない。

 

『姉さん?』

 

 姉を呼ぶ箒の通信に答える声は無かった。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 一撃も交差しない剣劇が繰り広げられている。これが映画ならば全てスローモーションでお送りしなければこの緊迫感は感じ取れないだろう。ただひたすら空振り続ける映像は見ていて楽しいものではないのかもしれない。だが、当事者である俺にとっては楽しいかどうかなんて関係ない。一つのミスが死につながるこの接近戦は生身で真剣と何も変わらないのだ。ISはスポーツなんかじゃない。そう思うのに十分な死闘である。

 

「いい加減くたばれ、織斑一夏!」

「それはこっちのセリフだ、メルヴィン!」

 

 メルヴィンの戦法はつかず離れず。俺が雪片を振るっては射程外にメルヴィンが退避。直後に剣を振りかぶって接近してくるため、俺は剣筋を見極めて避ける。さっきからその繰り返ししかしていない。

 

 ただ、この勝負。このまま続けばどちらかが先にエネルギーが尽きる。それはどちらなのか、互いに把握できていない。無茶なイグニッションブーストを連発しているメルヴィンに対し、零落白夜を発動している俺だ。どちらも燃費は気にしていない。全力でなければ既にやられているだろう。

 だがそろそろ、全力のベクトルが変化するときだ。このままではエネルギー切れで負けるという焦りは俺にもメルヴィンにも存在する。だからどこかで変化が生じるはず。

 もし、エネルギーの節約を考え始めたらその時点で敗北だ。要するに今はチキンレース。先にエネルギー切れを恐れた方の敗北は必至である。だが止まらない以上、必ずどちらかは崖下へと転落する。先の見えない崖に向かって走り始めた俺たちは、ギリギリすらわからないクレイジーな綱渡りをしているのだ。

 

 変化の時が訪れる。俺が雪片を水平に振るった際にメルヴィンの開けた距離がいつもよりも広かった。両手の剣を俺に向けて一斉に投擲してくる。俺ではなく、奴が先にレースから降りたのだ。その時、俺はこう思ってしまった。どうして逃げたんだ、と。俺は失望のようなものを感じていた。投げた剣はイグニッションブーストで緊急回避し、敵の接近に備える。まだ大剣を持っていると思った俺は雪片で斬り落とすつもりだった。だが、奴の選択はショットガン。両手から放たれた散弾を氷燕の防御形態で受ける。零落白夜など関係なく、豆鉄砲程度ならば耐久的に余裕だった。なおもショットガンを撃ち続けるメルヴィンに対し、俺は氷燕の右側を防御、左側を機動形態にし、右肩を押し出す体勢で突撃をしていく。

 

「もらったぜ!!」

 

 メルヴィンはショットガンを投げ捨て、大剣を呼び出していた。3mを越える巨大なものだ。その威力は、おそらくメルヴィンの持っている武器の中で最も高いはず。氷燕の盾に奴の大剣がぶつけられる。その衝撃に耐えきれず、盾部分となっているエネルギーシールドは脆くも崩れ去った。――俺よりも遙かに前で。

 

 氷燕は非固定浮遊部位である。非固定浮遊部位の特徴は、PICの影響かである固有領域と呼ばれる範囲内ならば自由に動かせるというもの。白式の固有領域は2mちょっとという短いものだが、右手を前に伸ばせば十分に距離を開けられた。盾ごと俺を斬るつもりであっただろうメルヴィンの大剣は俺の右腕の下で空を切っていた。高威力である代わりに奴のPIC制御の技術でも反動を抑え切れていない。振り切った奴は隙だらけだった。雪片は左手にある。後はこのまま斬るだけ。メルヴィンの見開いた目が俺を見ていた。

 

「うらああっ!!」

 

 吠えながら雪片を縦に一閃する。大剣を手にしていた右腕の肘あたりを捉えた。さしたる抵抗もなく雪片を振り抜いた。支えるもののなくなった大剣が海へと落ちていく。今まで支えていたものごと……

 

「ぐあああ!!」

 

 メルヴィンの叫びが響きわたる。右腕は半ばで途切れており、紫色の体から鮮血が溢れ出していた。奴の新型トロポスはISに迫る性能を見せていたが、絶対防御という最も重要なファクターが欠けていた。雪片と零落白夜を前にした奴は、本当に生身で真剣とやり合っていたのだ。

 

「メルヴィン。最後に聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「……まだ、オレは負けちゃいねえぜ」

 

 ひきつった顔でメルヴィンは左手にナイフを呼び出していた。だがそれで何ができるというのだろうか。おそらくメルヴィンもどうにかできるなんて思ってはいない。これは回答の拒否でしかない。ナイフを突き立てようと襲ってくるメルヴィンに氷燕の射撃形態の集中砲火を浴びせる。これでなけなしのシールドエネルギーをほとんど持っていったはずだ。

 

「メルヴィン。お前の負けだ」

「へ……オレはなぁ。今回だけは負けるわけにはいかねえ。たとえ死んででもてめえを、殺す」

 

 今でこそ諦めが悪く、相打ち上等な雰囲気を出しているが、俺にはメルヴィンが心の底からそう言っているようには見えなかった。本当に相打ち上等だったならば、最後まであのチキンレースを続けていたはずだ。だから俺には、メルヴィンが生き残りたがっているようにしか見えなかった。

 聞きたいことは千冬姉のことなんかじゃない。今の奴を戦いに駆り立てているものが何かを知りたかったんだ。

 

「わかった。俺が死なないためにも、俺がお前を討つ!」

 

 これ以上長引かせても奴は決して語らない。そう確信した俺は、奴にとどめを刺すことを選択する。雪片を中段に構え、氷燕の翼を大きく広げる。これ以上ない最大の一撃で終わらせる。イグニッションブーストも使用して、切っ先を奴の胸に狙いを定めてただまっすぐに突き進んだ。周囲も確認せず、がむしゃらに……

 

「カ、ミラ……?」

「メル……ヴィンさ、ま」

 

 俺の突きは、突如間に割って入ったISを貫いていた。すでに装甲がボロボロであったISは絶対防御を発動する余力もなく、コアのある背中を貫通していた。雪片はISの操縦者の少女ごとメルヴィンの腹も貫いている。コアの破壊されたISが剥げ落ちていき、黒いISスーツのみとなった水色の髪の少女をメルヴィンが残った左腕で抱き止めていた。

 

「カミラ……俺はそんな命令してない、ぞ?」

「何を……言っているのか、わかりかね……ます。だって……メル、ヴィン様……私の、名前は……ミズキって……言うんだよ?」

 

 俺は慌てて雪片を引き抜いた。今、少女が言った名前は偶然なのだろうか。いや、そうとは思えない。彼女は死んでなかったんだ。そして、俺が……殺した。

 雪片を抜かれた2人はそのまま重力に従って海へと落下していった。水しぶきが迸り、メルヴィンとの戦いに終止符が打たれたのだと理解が追いつく。

 

「一夏さん!」

「セシリア……か。それと箒も」

 

 2人が海に落ちたあたりを眺めていると、セシリアが声をかけてくる。彼女の顔に見えるのは焦り。後ろの箒から見えるのは不安だった。

 

「どうしたんだ?」

「それが、山田先生が敵ISに負けたそうですわ! あと――」

「姉さんが……通信に出ないんだ」

 

 事態は大きく動いている。俺に立ち止まっている時間はないと、責め立てられているようだった。

 

 

◆◇◆―――◆◇◆

 

 

 IS学園の地下司令室。そこに一人の少女がオレンジ色のISを纏ってやってきていた。司令室内部の人間は全員が両手を上げている。

 

「全員、動かないで。じゃないと、学園長から順番に撃たなきゃいけなくなるからね」

 

 その話し方は非常に流暢だった。アサルトライフルを片手に脅迫をかけるのに何の躊躇いも感じてはいない。罪悪感など欠片もないとしか見て取れない。

 

「それでは、ボクと一緒に来てもらえますか? 篠ノ之博士」

 

 恭しく束に手を差し伸べる少女は貴公子を思わせる笑みをしていた。


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