道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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のどが痛い……


五節 これが予言の剣――霊波刀だ! 

 

 

 

 

 

 真名を高らかに告げ不敵に微笑む華琳に、横島は断るという選択肢を持たなかった。しかし、ただ単純に名乗るのでは華琳の宣言に負けた気がするので、かっこいい名乗りを言おうと考える。数秒考えた後、横島は不敵な笑みを意識しながら、言葉を紡ぐ。

 

「オレの真名は横島忠夫。天の御使いなんて大層な肩書きを背負っちゃいるが……ただのしがないゴーストスイーパーさ」

 

「ごーすとすいーぱー? それがあなたの天での役割なの?」

 

 横島の言葉に首を傾げる華琳たち。予想と違う反応に戸惑う横島であったが、華琳の疑問に答えるべく説明を始める。

 

「天っていうか、オレの世界ではメジャー……有名な職業だな。霊力を使って悪霊なんかと戦ったり、迷える霊を導いたりするんだ。一歩間違えれば死という危険な仕事だ」

 

 報酬については伏せる横島。民間(令子やエミ)とオカルトGメン、特殊だが唐巣神父のところとで報酬額に差がありすぎて、一般的な報酬額が分からなくなっていた為であるが、それを聞いた雛里たちは横島のことを凄い人物だとみなしたようである。

 

「こちらで言うとこの妖術師に近いのかしら?」

 

 悪霊云々については若干胡散臭いと感じる華琳ではあったが、妖術や気が存在するのだから霊的存在もいるのかもしれないと考えたようである。華琳が信じていないと思った横島は、実際に霊能力を見せることにする。

 

「じゃ、霊能力ってのを見せてやるよ。そうだな、サイキックソーサー……いや、ここはコイツだろ」

 

 そう言って横島が出現させたのは、栄光の手。いきなり横島の右手に現れたそれに注目が集まっているのを確認すると、横島は更に形態を変化させる。

 

「これが予言の剣――霊波刀だ!」

 

 予言に詠われた碧の剣。それこそがこの場にふさわしいと、横島にしては珍しく気をきかせる。この行為に感動したのが、以前霊波刀を見たことがある三人と華琳を除いた最後の一人――司馬仲達――であった。

 彼女は幼い頃から神童、鬼才と称され、また自分の才に及ぶものはほぼいないと自負してきた。そんな彼女だから漢の腐敗に対し自身が出来ることは高が知れていると悟り、乱世は避けられないのだと確信した時、漢に仕官することをやめた。姉は乱世まであがくようだが、多少の先延ばしでしかないと仲達は諦めたのである。だからこそ、予言に期待していた。予言の主が会いに来たら、その人物を支えようと決めていた。

 結果、本当に期待した人物が目の前に現れたのである。彼女の才とは違う、異質な、そして特別な才を持って。その才が何に役に立つのかなど、彼女にとってはどうでもいい。自身が絶対に及ばない才を持つ。ただその一点だけが彼女にとって、大事であった。この時、仲達は魂に横島忠夫に対する絶対の隷属を誓ったのである。

 

「子考様」

 

「うん? どうかした、仲達ちゃん」

 

 何かを決意した表情で名を呼ぶ仲達に、霊波刀を消して向き直る横島。横島の前まで進むと、仲達は跪き宣誓する。

 

「姓は司馬、名は懿、字は仲達。真名を(みお)。生ある限り、あなたの僕……いえ、死後も含めあなた様に捧げます。どうか、真名を受け取りください」

 

 あまりにも重い宣誓に、引きつった顔をする横島。表情の変わらない風でさえも若干引いている中、華琳は恍惚としながら違うことを考えていた。

 

(ああ、この娘いいわね。私もこんな娘が欲しいわ。全く、忠夫もいい娘を虜にしたものね)

 

 そんな異様な雰囲気の中、いち早く正気に戻った横島は澪の元に駆け寄る。なんて声をかければいいのかと暫く逡巡した横島は、先程の隷属宣言には触れず無難な言葉をかけることにするのであった。

 

「えっと、よろしく。澪ちゃん。オレの真名は横島忠夫だ」

 

「はい、忠夫様。それと、ちゃんは不要です」

 

「わ、分かった。澪」

 

 形容するのならば、キラキラと輝くと言えば良いのだろうか。異様な輝きをその目に宿し答える澪に、言葉が詰まる横島。

 司馬仲達――真名を澪――彼女は、鬼才と称される才の持ち主であったが、究極の被虐体質であった。自身より劣る者たちに発揮されることがなかった被虐体質(それ)は、横島という異才を持つ人物を主にすることで、開花したのであった。

 

 

 

 その後、横島を澪がご主人様と呼ぼうとし、それだけは先を越させないとばかりに雛里たちが阻止するという出来事があったが、華琳と澪の二人に今の横島たちの考えを説明した。因みに横島には、黒風たちの準備をしてくるようにといって追い出している。

 

「甘いといえば、甘いのでしょうけど……。忠夫の目的は私の目的と何ら相対することはないわ。私に協力すれば忠夫の目的が果たせるのだから、あなたたちも私に協力するのに異論はないでしょう?」

 

「そうですね。乱世に積極的に関与するとは、忠夫さんも思っていなかったでしょうが、現状では曹太守と協力して乱世を静めるのが一番の近道なのは間違いないですから」

 

「あら、同士になるのだから真名で構わないわ」

 

 さらりと告げる華琳に、風たちは目配せをした後、尋ねる。

 

「そういえば、あんな理由でよく真名を告げることにしましたね?」

 

「ああ、アレ? そうね、矜持といえばいいのかしらね。忠夫のうっかりとは言え、私の問いかけから始まったことで真名が明るみに出た。なら、私がその責任を取ろうと。まぁ、貴方達を手元におきたいっていう打算もあったけどね。それに……」

 

「それに?」

 

「あの娘たちや忠夫本人には言ってはダメよ?」

 

 その言葉に黙って頷く風たち。それを確認した華琳は、少し恥ずかしそうにしながら続ける。

 

「貴方達も気に入っているけど、私は忠夫のことも相当気に入ってるみたいなのよ。忠夫たちが来てから、あの娘たちに笑顔が増えたと言われるほどに。それをこんな些細なことで手放すのは……って思ってね」

 

「それはそれは……華琳さんも忠夫さんに捕まりましたか。風のことも風でいいですよ」

 

「まだよ、風」

 

 そんな華琳たちに澪が交ざり、真名を交換しあう。そんな中、朱里と雛里の二人に三人の視線が向けられる。

 

「私たちも真名を交換することに異論はないのですが……」

 

「はわわ、その、あの」

 

「落ち着いて下さい、孔明ちゃん」

 

「は、はい。その、私たちは元直ちゃんが戻ってから子考様に真名を捧げると誓っています。これは元直ちゃんが無事に戻ってくるようにと、二人で願掛けしたからなんです」

 

「ですから……」

 

「分かったわ。忠夫との真名交換が先と言うことね?」

 

 その華琳の言葉に小さく頷く朱里と雛里。雛里の方は帽子のつばで顔を隠している。自身の我がままで待って貰うのに、負い目を感じているのであろう。それでも、この場で真名を交換しないのは、それほど横島に先に真名を受け取って欲しいということなのだろう。

 元から理解していた風に、華琳と澪にも異存はないらしい。

 

 

 

 あの後、話はやはりと言うかもう一人の御使いである白に関してになった。

 

「白の出方を見て対処するというのが現状では最善なのは確かね。諸侯や漢に対する風たちの推測も正しい……いえ、正しかったが正確ね」

 

「そうですね。乱世が近いのは分かっていましたが、予想より早く動きがありましたから。そうですよね、華琳様?」

 

「澪の言うとおりよ。私のところに、黄巾賊と呼称する賊の討伐令が下ったわ」

 

「ああ、だから風たちに演習を見せたのですね? 引き抜きの為だけでなく、何れ指揮をさせる必要があると思ったから」

 

「そう。引き抜きはダメでも、賊討伐くらいなら協力してくれると思っていたから。一度指揮させれば、なし崩しで取り込むことも可能と思ってたしね。まぁ、こんなことになるなんて、予想の斜め上を全力で走らされた気分ね」

 

「確かに。私も天の御使いには期待していましたが、忠夫様に魂から隷属したくなるとは思いませんでした」

 

 華琳の言葉には同意するが、澪の言葉には同意できそうにはない風たちであった。そんなことは知らず、澪は話を戻す。

 

「白は既に自らを主とした勢力を立ち上げています。朝廷の動き、諸侯の動きを図るには絶好の機会だったのですが、賊討伐を優先するでしょうからあまり効果は期待できませんね。まぁ、徐元直様が幽州で接触出来ていれば、白の方の更に詳しい情報を知ることが出来るのでよしとするしかないかと」

 

「仲達さんの情報網には期待出来ませんか?」

 

「幽州に居る間なら何とか情報は集まるかと。ただし、幽州で軍を構える事態になった場合は難しいかと。私が使っているのは、商人たちですから。民草の噂を集めることは出来ても、戦場には着いていけません」

 

「そうですか……なら、元直ちゃんには頑張って接触して貰わないといけませんね」

 

 

 

 

 彼女たちはまだ知らない。その頃、白の御使いと呼ばれる人物に瑠里がしつこく勧誘を受けていることを。

 

 

 

 




 司馬仲達。彼女は究極のMです。以上。
 華琳たちの真名交換は主従ではなく、親友とか仲間の方です。堅苦しくないのは、その為です。

 あ、その頃の瑠里ちゃんシリーズは休みです。

 司馬家関連。
 これらは拙作内設定です。

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 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。

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