道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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二章突入。 短いです。文量は追々、戻して行きたいです。


二章 乱世始マル
一節 一気にやる気が上がってきたーー!


 

 

「いやー、凄いな。こう、パッと散って、パッと集まってさ」

 

「ええ。あの二人の指揮が素晴らしいと言うのもありますが、それに応じる兵たちの練度。一朝一夕で出来ることではありませんね~」

 

 横島と風、雛里、朱里は丘の上に張られた天幕の前から、眼下で号令に合わせ次々と陣形を変える兵士たちを眺めていた。

 昼前に屋敷に訪れた華琳に遠乗りに誘われた横島たちだったが、蓋を開けてみたら軍事演習であり、今は大人しく見学しているのであった。そんな彼らに、天幕から出てきた華琳が話しかける。

 

「どうかしら、うちの軍は」

 

「お見事としか言えませんね~。陳留の周囲の賊が少ない訳が分かりましたよ。演習とは言え、これほど素早く陣形を変えることが出来るとは。これなら、賊なんてすぐに鎮圧できるでしょう」

 

「ありがとう。どう? この軍を用いてみたいとは思わない?」

 

 演習に励む自慢の軍を眺め、笑いながら風たちに問いかける華琳。

 

「そですね~。将もですが、兵の質がいいですからね。これを思いのままに動かせると言うのは、軍略を学んだ者としては魅力的ですね~」

 

「うちに来ればすぐにでも一軍を任せてあげるわよ?」

 

「考えておきます。……士元ちゃんが」

 

「えっ!?」

 

 突然話を振られて慌てている雛里を放って、華琳は風たちと会話を続ける。

 

「ま、今はそれでいいわ。さて、そろそろ戻るわよ。遅れないようについてきなさい」

 

「あれ、アイツ等はいいのか?」

 

「ええ。二人にはここで暫く演習を行ってもらうことになっているから。今度は()()()()でね。大半の部隊は先に陳留に戻らせるから、私たちは少しの護衛と村に立ち寄りながらゆっくり帰るわよ」

 

 華琳の言葉に、横島を除く面々は違和感を覚えると同時に華琳の言葉の意味を考え始める。

 

(わざわざあの姉妹を置いていく……? それに部隊の大半を先行させる……。目的は村の方にあるのかもしれませんね~)

 

(部隊の大半を先行させたのは、孟徳様の居場所を誤魔化すのが目的……? 単純に村の人たちを刺激しない為というのも……。おそらく、村の中では危険はない。じゃないと、孟徳様にべったりな二人が離れるわけがないし。という事は……)

 

(密かに会う必要がある人物が村にいる……? 二人はそれを村の外で邪魔されないようにしている?)

 

(情報が少ない現状では、これ以上推測しようがありませんね。ただ村に立ち寄るだけなのか、何らかの意図があるのか。どちらにしろ、少し面倒なことになるかもしれませんね)

 

 数瞬の思考の後、華琳の思惑に対してあれこれ考えるより、何が起きても対応できるように心構えだけはしておこうと三人は視線を交わす。

 そんな三人のことなど気にも留めず、横島はさっさと黒風の傍に立つと雛里に向かって手を伸ばす。

 

「行きは孔明ちゃんと乗ったから、次は士元ちゃんだな。ほら、抱えるからこっち来て」

 

「は、はい!」

 

「ふむ、順番とは言っても少々羨んでしまいますね。孔明ちゃん」

 

「そうですねー。……って、しょんなこと思ってないでしゅよ!? 意外と逞しかったにゃんて思い出してないでしゅから、本当でしゅから!!」

 

 はわわと慌てる朱里を他所に、横島に抱き上げられた雛里は、恥ずかしそうに帽子のつばで顔を隠しながら黒風の上に座らされる。

 そんな横島たち一行を微笑ましく見ていた華琳は、横島たち独特のゆるい空気に馴染みつつある自分に気づき、一度大きく息を吐くと横島たちを急がせるのであった。

 

 

 

 

 

「それで、村に立ち寄ってどうするつもりなのですか? 食事をとるような時間でもありませんし、まさか、お昼寝でも?」

 

 あれからすぐに出発した一行は、順調に村に向かって進んでいた。その中で、朱里と並んで馬を歩かせていた風が、華琳に尋ねる。

 太守に向けての言葉ではないが、華琳は特に咎めることなく風の問いに答える。

 

「この先の村はね。あの司馬家の連中が住んでいるのよ。以前、勧誘に失敗してから行ってなかったけど、演習のついでにダメ元でもう一度と思ってね。何だったら、子考やアナタたちが口説いてみる?」

 

「へー。孟徳ちゃんが振られたのか。因みになんて言って勧誘したの?」

 

「『アナタたち一家の全てが欲しい。知恵も、その美貌も、その愛らしい娘も』……だったかしら? そうしたら、『まだ娘が小さいから、当分は子育てに集中したい。あと多数の兵を連れてくる輩に娘はやらん』と断られたわ。最も、既に長女は洛陽に出立した後だったから、どっちみち司馬家の全てを手に入れることは出来なかったのだけどね」

 

「美貌もってことは、今から行くのは美人さんの家!? 一気にやる気が上がってきたーー!」

 

 ウオーっと、両手を挙げてまだ見ぬ美女との出会いに興奮する横島を他所に、雛里と朱里は偶然巡ってきた好機に目を輝かせていた。この機に横島に出来る女だと認識させる為、二人は幾つかの策を練上げていく。

 

 

 

 そんな二人とは違い、風は華琳の物言いに疑問を持っていた。風は、横島たちの中で一番多く華琳と接触している。少ない時間ではあるが、華琳がわざわざ自分の失敗を聞かせ、かつ交渉権を譲るような発言をすることが、華琳らしからぬ言動であると断言できる。

 その為、風は華琳の思惑が司馬家から外れたところにあると気づくことが出来た。

 

(……何かを確かめようとしている? あの姉妹や兵を遠ざけたのも、それを確かめる状況を作り出す為? 何を?)

 

 

 

 華琳が何を確かめたいのか。華琳の鋭い目が見つめる先。それは……

 

 

 

「本当、興味深いわね……子考(アナタ)

 

 

 




 ようやくの二章突入な訳ですが、二章からは原作主人公である一刀君の存在がちらほら出てきます。ただ、影薄めです。

 雛里たちも本来なら風と同じ見解に辿りつきますが、色々先を越されている為焦っており、少々視野が狭くなっています。これも何れ解消されますが。


 華琳が司馬家を勧誘したことがある。
 これらは拙作内設定です。

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 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。

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