道化と紡ぐ世界   作:雪夏

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十話です。荊州を出るのは一体いつになることやら。

一言: 誕生日更新。え? どのキャラって? ……筆者のです。すみません。


十節 第一回軍師会議

 

 

 

「ではでは、お兄さんは先に宿の方へ。いい加減、志才ちゃんにお薬を届けないと行けませんし。ああ、子龍ちゃんを見かけたら一緒に宿で待っていてください。風はもう少し、今後のことについて皆さんと話してから戻りますのでー。ちゃんと、宿まで帰れますよね? 寄り道はしないでくださいよ?」

 

「大丈夫だって。地図も書いてもらったし、宿の名前は分かってるんだし」

 

 水鏡女学院の玄関口で風が一仕事終えた横島に告げる。それに対し、横島はにこやかな表情で答える。彼の内心は、宿に戻るついでにナンパすることで一杯のようである。

 

「いえ、美人さんのあとをついて行かないか心配なのですよ。街に入ってから道行く女の人のお尻ばかり追いかけていたのを、風が気づいてないとでも?」

 

「あははっ、何のことかなー!? おっと、早く薬を届けないと!? じゃ、先に戻るから、あとは宜しく!!」

 

 風の責めるような視線から逃げるように、横島は走り出す。その速度は凄まじく、凄い勢いで遠ざかっていく横島。その後ろ姿が見えなくなるまで見送った風は、ゆっくりと女学院の中へと戻っていく。

 

「さてさて、お兄さんの力を見た二人がどう転ぶのか……楽しみですねー。元直ちゃんはいい感じですが……孔明ちゃんも意外と行けますかねー?」

 

 そう呟きながら……。

 

 

 

 

 

 風から逃げ出したあと、ナンパに勤しむ横島であったが戦果は芳しくなく、声をかけた女性全員に玉砕していた。

 

「むぅ……。やはり、こっちに来てからまともにナンパしていなかったせいか、腕が錆び付いているみたいだな……。いや、それよりも士元ちゃんのことで悩んでるせいで、ナンパの切れがイマイチなせいか? う~ん、どうすっかなー」

 

 そう呟きながら、横島はまいったとばかりに頭を掻く。性別の違いこそあれ、この世界は三国志に酷似していることくらい横島にも分かっている。だからこそ、彼は悩んでいるのだ。

 

「このまま漫画の通りになっちまうと士元ちゃん、マズイことになっちまうしなー。流石に、死ぬかもしれんとなるとな……」

 

 横島が困っているのは、鳳士元こと雛里のことであった。横島が読んだことがある漫画では、彼女は劉備と間違われて矢に射抜かれ死んでしまう。異世界である為、必ずしもそうなるとは限らないが、劉備との合流を考えていた横島にとってそこは看過できることではなかった。

 

「しゃあない。劉備のとこはやめるか。主人公の傍なら安全だと思ったけど……士元ちゃんの死亡フラグを立てる訳にはいかんよなー。まぁ、よく考えたら劉備ってまだ領地持ってないみたいだし、最初の方は色んな所を転々として苦労してた気がするし。いっそ、曹操のとこ行くか? 主人公のライバルだから、ある程度は安全だろうし」

 

 横島がここが三国志に似た世界であり、黄巾の乱が近いということに気づいた時、思い浮かんだ案が、劉備と合流することであった。その選択をすれば、それだけ戦場に近づくということは理解していたが、前線で戦わず劉備の荷物持ちでもすればいいと考えたのである。何より、主人公の傍なら死ぬようなことはないだろうと思っていた。

 その為、趙子龍――星――と一緒に行動すると決めた。趙雲が劉備といつ合流したかまでは覚えていないが、漫画通りなら合流することは間違いないし、今どこにいるか分からない劉備を探すより良いと考えたからである。

 

 それを横島は捨てようとしている。全ては雛里の死亡フラグをへし折る為。自身の安全より、雛里の生存を望んだのである。

 

「ま、オレなんかのことより士元ちゃんの身の安全ってな。それに、曹操は居場所も分かっているしな。確か……陳留だったか? そこにも行くって言ってたし、このまま皆と一緒に行動するか。よし、これで心おきなくナンパできるぞー!」

 

 そう言って、ナンパへ戻る横島。今後のことについて決めたからなのか、その顔は非常に晴れやかなものであった。

 

 だからといって、ナンパに成功するかと言うと話は別である。結局、横島は宿の前で星と合流するまでの間に声をかけた女性たちに、全敗を喫するのであった。

 

 

 

 

 

 横島が今後のことについて考えていた頃。風と水鏡女学院の三人は、顔を突き合わせて話をしていた。

 

「さて、今後のことを話し合う前に……お母様のお加減の方は? 目を覚まされましたか? お兄さんはすぐ目を覚ますと言っていましたが」

 

「ええ。子考様のお陰で、すっかり元気に……。もう少し、元気じゃなくとも良かったのですが……」

 

 風の問いかけに、やや疲れた面持ちで答える瑠里。その服装は、風が横島を見送っていた僅かな時間で薄汚れていた。

 そのことに疑問を持った風だが、その答えは朱里と雛里が教えてくれた。

 

「実は……瑠里ちゃんのお母様はお二人が出てからすぐ目を覚まされたのですが」

 

「体が軽いと仰って、瑠里ちゃんを相手に戦闘訓練を……武術はよく分かりませんが、二人ともすごかったです。今は私たちの士官祝いだとかで、猪を取りに行くと出て行かれました」

 

「……そうですか。元気になられたようで何より。」

 

 病み上がりとは思えないバイタリティを発揮する瑠里の母親に、色々とツッコミたいことはあるが、話を進めることを優先させる風。そのことに異論はないのか、朱里と雛里の二人も風の言葉に頷く。

 

「では、改めて自己紹介でもしますか? これから旅を共にするのですし。まぁ、もしかしたら……」

 

 風の言葉の途中で、朱里が口を開く。

 

「仲徳さん。それは子考様が一緒の時にしましょう。それがふさわしいかと思います」

 

「ふむ……ま、良いでしょう。別に不都合がある訳でもないですし。それに、その言葉の通りなら期待出来そうですしね。では、話を進めましょうかね」

 

 その言葉に真剣な面持ちで頷く三人。

 

 ここに第一回軍師会議――別名、忠夫(さん)成長戦略会議(※1)――が開始されるのであった。

 

 

 

 

 

「まず、お兄さんが目指すべき地なのですが……そうですね、皆さんの意見を先に聞きましょうか。では、士元ちゃんから」

 

 議長兼進行役の風が、最初の議題と発言者を指名する。指名された雛里は、あわあわと慌てながらもしっかりと主張する。

 

「は、はひ! 私は一旦何処か大きな勢力に加わり、時期を待つのが良いかと。如何に漢王室の権威が失墜してきたとは言え、未だ大きな権力を持っているのは事実。各諸侯も漢室と表立って敵対することはないでしょう。そんな時期に、天の御使いとして子考様が表立って行動するのは……」

 

「漢室から討伐令が出る可能性が高い……と。」

 

 雛里の言葉を引き継ぎ風が言うと、雛里は静かに頷く。朱里と瑠里も異論はないようである。

 

「私もそう思うのですよ。お兄さんには、自身の勢力がありませんからね。時が来るまで、御使いであると言うことは秘するべきでしょう。真に予言が正しいのなら、もう一人御使いが現れる筈です。最低でもその時までは」

 

「仲徳さんは、予言を信じているのではないのですか?」

 

「信じてはいますよ。この眼で見ましたから。お三方も見ましたよね? 碧き剣を」

 

 意外そうな瑠里の問いかけに答えると、問いかけ返す風。風に問いかけられた三人は、横島が虚空から出現させた剣を思い出すと頷く。

 

「ただ、全てを無条件に信じている訳ではないというだけなのですよ。予言は全て伝聞ですからね。途中で変化していることもありますし、そもそも嘘かもしれない。ですから、普段は半信半疑と言った方が正確でしょうか」

 

「そ、そうですよね……。母のことがあったせいで、予言は全て正しいと思ってしまっていました。すみません」

 

「いえいえ。それだけお兄さんの力が凄かっただけのことです。さて、一旦何処かの勢力に隠れることは決定として……そうですねー、先に何れ現れるであろうもう一方の御使いの方について話しますか? 折角予言の話も出たことですし」

 

 風の言葉に三人とも異論はないようなので、風は自分から口を開く。

 

「私としては、二天(※2)というのは、後々問題が大きくなると思われるので排除しておきたいところですが……お兄さんが是とするとは思えません。ま、こっそりすればいいんですけどね」

 

 風の冷酷な意見に、三人は驚く素振りを見せない。予想していた答えの一つであったのだろう。

 

「ただ、これはお兄さんが御使いだと名乗っていて、かつ“白”も御使いを名乗っている場合です。私たちは別人だと判断していますが世間では御使いは、“白”一人。お兄さんが名乗らなければ、世間は二天とは思わないでしょう」

 

 風の言葉に頷く三人。彼女らが街の人々から聞いた話では、天の御使いが二人という話は聞かなかったし、その特徴は白く輝く衣を纏っているというものであった。横島とは一致しないのである。だからと言って、横島が御使いではないとは三人は思わない。数は少ないが、碧の剣を持つという話も聞いたことがあるからである。

 

「私は、取り込めるか様子を見るべきだと思います。“白”は予言によれば、智者である可能性が高いようですから。少なくとも役立つ知識をある程度吐き出させた後に始末すべきかと」

 

 瑠里が発言すると、それに続くように朱里も意見を述べる。

 

「私は、状況次第かと。こちらが先に接触出来た場合、御使いとは名乗らせず子考様の部下の一人として扱えばよいかと。そうすれば、子考様が御使いを名乗る時に二天にはなりませんし、知識も提供させることが出来る筈です」

 

「ほほう。では、先に接触出来なかった場合は?」

 

「残念ですが、排除する可能性が高いと思います。“白”が何処かの勢力に組みし、表立って乱世を鎮めようとしてきた場合、子考様が御使いと知られれば、子考様を害そうと動く可能性は高いでしょうから」

 

 朱里の言葉に頷く一同。彼女たちが“白の御使い”を排除するかを議論しているように、もう一方の御使いである横島を排除しようと“白の御使い”側が動いても不思議ではないのである。

 

「その場合、“白”の方は既に御使いと名乗っている筈です。その時、子考様が御使いだと知られていなければ、いい目くらましにはなるとは思います」

 

「ふむ。では、士元ちゃんは何かありますか?」

 

「そうですね……子考様の意向次第ではありますが、しばらくは静観がいいかと。漢室や諸侯の反応も見れますし、“白”と“白”の勢力がどのような主張を持っているのかを知ることも出来ます。その上で、“白”を排除するか改めて決めればよいかと」

 

「確かに、お兄さんがどうしたいかにもよりますね。覇者になりたいのなら、“白”は邪魔。ただ、平穏を求めるだけならば不干渉を結べば、共存は可能と言った所でしょうか。どの道、しばらくは静観した方が良さそうですね」

 

 風が他に意見はないかと三人を見るが、特に意見はないようである。

 

 それを確認した風が、次の議題について話し始める。

 

 

「では、当面の行動について話しましょうか。今の所、同行者たちは洛陽を経由して幽州方面に向かうつもりのようです。私としては、お兄さんには陳留へ行って欲しいと思っています」

 

「陳留……曹操殿が治める地でしたね。彼処は、治安もよいと聞きますし曹操殿は優秀な人材なら出自問わず登用するとか」

 

「そうなのですよ。お兄さんが隠れるには丁度よいかと思うのです。それに、お兄さんが御使いだと知られても、曹操殿なら御使いという名は使わないと思うのですよ」

 

 風の言葉に首を傾げる雛里たち。彼女たちの知る曹操と言う人物は、才に溢れ、能力あるものを愛し、領民の暮らしを案じる名君と呼ばれる人物である。また、野心あふれる人物だとか、大陸の覇権を握ろうと画策しているとか、その性格は極めて苛烈であり失敗した部下を自ら痛めつけているとも噂される人物である。

 噂通りならば、御使いという名を利用しようとするのではないかと雛里たちは思っていたのである。

 

「曹操殿は漢の臣です。彼女が漢の部下である内は、御使いという名は使われないでしょう。彼女が漢室に反逆することになりますからね。彼女と仲が悪い袁家がこれ幸いと潰しにかかることは目に見えています。かと言って、今の権威を失いつつある漢室に売ってもうまみがない。それなら、自分の手元で将として利用することを考えるでしょう」

 

「確かにそうかもしれないです。曹操殿の人材収集癖は有名ですからね。子考様の力は、御使いどうこうを抜きにしても珍しいものです」

 

 風の言葉に納得の意を示す雛里たち。他の勢力についても考えてみたが、曹操のところより良さそうなところはなかった。

 

「孫家は今や袁術の客将……実質、配下と聞きます。配下から独立する為に、売られる可能性は高いですね。袁術、袁紹の両家は漢の名門ですから、御使いの存在は邪魔でしょう。涼州の董卓は一大勢力ではありますが、涼州は馬家を中心に漢に忠誠を誓う人たちが多くいますから、隠れるには少し」

 

 朱里の言葉にその通りだと風は頷くと、朱里に代わり続きを口にする。

 

「残りの有力な勢力といえば、荊州の劉表、益州の劉璋ですがこちらは劉性からわかるように、漢室の流れを組むもの。論外ですね。あとは、幽州の公孫賛ですが人物、能力は問題ありません。商人を重用しているくらいですから、お兄さんを迎い入れることについては、利を説けば問題ないかもしれません。ただ、彼女は場所が悪い」

 

「袁紹さんですね?」

 

「そうです。幽州は袁紹の領地の隣。その上、幽州は異民族と国境を接している為、争いが絶えません。そのせいで、領民が徐々に離れており、人材が乏しい。そんな中で、御使いの噂が流れれば……」

 

 そう言って首を横に振る風。雛里たちにもその理由はわかっていた。公孫賛は“白馬義従”という名の優れた騎馬隊を保有しているが、袁紹の莫大な兵数には歯が立たないだろうと。

 

「ま、そう言う訳で曹操殿の陳留を私は押しますし、皆さんも異論はないのでは?」

 

 その言葉に頷くしかない雛里たち。改めて整理してみれば、曹操一択なのだから仕方ない。最も、横島と片田舎で暮らすというのなら、その限りではないのだがその選択肢は彼女たちの中にはなかった。

 

「では、陳留に向かうとして。問題は時期でしょうか。私としては、ここからすぐ陳留に向かいたいところですが」

 

「乱世が本格的に始まる前に準備したい……と言う事ですか?」

 

「正確には、“白”が現れる前に出来るだけ地盤を固めたい……ですかね」

 

 雛里の問いかけに答える風。それを聞いた瑠里が、そういえばと風に尋ねる。

 

「その“白”の方なんですが、いつ、何処に現れるとか予言にはないのですか?」

 

「一応、そう解釈出来るものはいくつかあるのですよ。大体は、乱世の始まりに幽州の山麓に現れるというやつですね」

 

「それはまた……」

 

 風の答えを聞いた瑠里が黙る。何せ、全く範囲が絞れないのだから仕方ない。

 

「ま、元々陳留へは向かう予定だったので、お兄さんを説得出来たら先に陳留に向かうと言うのはどうでしょうか?」

 

 風の提案に、朱里と雛里が頷く。しかし、瑠里は考え込んでいるようで反応がない。それに対し、風がもう一度問いかけようと口を開く前に瑠里が言葉を紡ぐ。

 

 

「私は、幽州に行ってみます。そこで、“白”の情報を探ってみます。子考様を脅かす存在なのか、そうでないのか。それが、恩返しの第一歩になると思いますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 十話です。横島が瑠里の母を救った描写はカット。後日使う予定です。まぁ、皆様のご想像通りのことがあったとだけ言っておきます。

 用語(?)解説
 ※1 忠夫成長戦略会議:主に、横島のプロデュース方針(今後の行動など)を議論する会。現在の目標は、横島を長とした勢力を持つこと。議長は風。類似した会議に、忠夫性長会議がある。
 ※2 二天:二人の天子(国家元首)の意。この場合は、天の御使いが二人であること。
 
 横島が知っている三国志の知識は三国志演義を元にした漫画から得たもの。徐庶の母。
 これらは拙作内設定です。

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 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。割と更新してます。

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