船久保浩子はかく語りき   作:箱女

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番外編・ろ

―――――

 

 

 

 『ふくよかすこやかインハイレディオ!』と二人の声のジングルが流される。

 

 

 「ほらほらCM明けだぞう!ラジオの音量上げろよお前ら!」

 

 「こーこちゃん!?インハイの解説のあとでも怒られたのに!」

 

 「ちっちっちっ、そんなこと気にしてたら局アナなんてやってられないぜ?」

 

 「なんで中途半端にキャラ変えてるの……」

 

 「さてさて、じゃあ次の話題にいこっか」

 

 「あ、触れることすらしないんだ」

 

 「実際さ、生で見てて思ったんだけど、今年の三年生って真面目に粒ぞろいじゃない?」

 

 「……んー、まぁいろんな選手がいたのは確かだね」

 

 「でさ、そのうちの何人かはプロに行くはずだと思うんだよね」

 

 「うん」

 

 「でねでね、気になるのがさ、今の高校三年生たちがプロ入りしてどれだけそっちで通用するのかなーって」

 

 「難しいんじゃないかな」

 

 「へ?」

 

 「だから、難しいんじゃないかなって」

 

 「え、だって高校無敗のチャンピオンとかいるんだよ?」

 

 「……あのね、こーこちゃん。あんまりプロを舐めちゃだめだよ」

 

 「あ、すごい。ラジオだから顔映らないけどすこやんがプロの顔してる」

 

 「たとえばね、プロとそうでない一般の人が対局したら勝率がどうなるかわかる?」

 

 「んー、詳しい数字はわからなけど、麻雀って運要素けっこうあるじゃん?だからプロが負けることだってあるでしょ」

 

 「そこから違うんだよ、こーこちゃん」

 

 「ええっ!?まさかプロ全員がすこやんじゃあるまいし!」

 

 「その言い方はどうかと思うけど、実力に開きがあればそうなるのは当然だよ」

 

 「それ本当に麻雀なの?」

 

 「お給料もらって仕事としてやるわけだから百戦して百勝するのがある意味で言えば当然な契約のわけだからね」

 

 「つまり高校生とプロにもそれだけ差があるってこと?」

 

 「少なくとも現時点でならトッププロには手も足も出ないと思うよ」

 

 「現時点で、ってことは?」

 

 「年が明けたら入団発表の時期でしょ?」

 

 「あー、それからチームで練習してパワーアップってことかぁ」

 

 「まあ、すぐにデビューじゃなくてじっくり鍛えるのもいいと思うんだけどね」

 

 「ふーん。……ん?ちょっと待って」

 

 「どうしたの?」

 

 「さっきは納得しちゃったけど、冷静に考えたらおかしいよね?」

 

 「ふつうの人はプロに勝てないってやつ?」

 

 「そうそう。だって山から牌ひいてくるんでしょ?運ゲーじゃん」

 

 「運以外の部分を技術で塗りつぶしちゃえば、ってことだよ」

 

 「なにかすごく間違ってる気がするけど、目の前にいるのすこやんなんだよなあ……」

 

 「さすがに天和連発とかされたら無理だけど、そうじゃなければね」

 

 「……麻雀っていったい何なの」

 

 「あ、勘違いしちゃダメだよ?プロの人ってもちろん運も強いんだよ」

 

 「へ?技術で負け無しで更に運まであるの?どんな怪物だ、ってそれがトッププロなのか」

 

 「運も技術もないと厳しいよね」

 

 「はー……、なんと言っていいのやら」

 

 「だから一年目から期待するのってけっこう酷なんだよ」

 

 「まあそれでもね、すこやんの予想を上回ってほしいとは思うけどね」

 

 「そういう意味でなら私も裏切ってもらいたいかな」

 

 「数々の男に裏切られ続けたすこやんが言うと重みが違うよね!」

 

 「えっ!?なんか私すごいダメな女みたいな扱いだけど!?」

 

 「違うの?」

 

 「推測でものを言うのやめようよ!これ公共の電波に乗ってるんだよ!?」

 

 「だーいじょうぶだって。みんな話半分で聞いてるよ」

 

 「半分でもダメだよ!まるっきりの嘘だよ!」

 

 「すこやん、わかった。わかったから涙目で棍棒を振りかぶるのはやめよう」

 

 「持ってないからね!?」

 

 「はい、じゃあオチもついたところでそろそろお別れの時間だね」

 

 「ついてないよ!?」

 

 「それではふくよかすこやかインハイレディオ!まった来週ー!」

 

 「ええー……?ま、また来週……」

 

 

 どこか楽しげなジングルが次第にフェードアウトしていき、牌の山を崩す音がする。次の番組は大御所の俳優が映画について語るものだと番組表には書いてあった。

 

 

 

 

 

 




インハイレディオ編おしまい。

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