ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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アリサの台詞、一部変更。

何か犯人に同情ってアリサらしくないと思い直しましたww


若本「ぜぇんかいのあらすじぃッ!!!」

ジョジョ「え?誰?」

作「ぐっふっふ。これぐらい多味多量な隠し味を入れておけば、皆満足の筈……」

読「ぶっふうーッ!?濃過ぎじゃボケェーーーーッ!!」

作「(´・ω・`)」

はい、迷走し過ぎて分量を間違えたPIGUZAMU]の提供でしたww

どうにも今回の改変はやり過ぎたご様子でしたので、今回から薄味にさせて頂きますww

皆様、参考になるご意見ありがとうございましたm(__)m

ちなみに今回のタイトル、誰の台詞か分かるかな?

わかった人は間違いなくジョジョラー(カーズ様ポーズ)

そしてッ!!前回の話をUPした所、またもや読者の方から挿絵を頂く事が出来ましたッ!!

ガルウイング様ッ!!素敵な挿絵をありがとうございますッ!!

……時に、何なりとお使いくださいと言ってましたよねぇ?(ゲス顔)


じゃあ、使っちゃいますww




ロックは死ん(ry

「ふふん。どーよぉ?我が鈴木財閥ともう一つの財団が強力なタッグを組み、総力を挙げて建てた――ベルツリータワーからの眺めは?」

 

高さ341メートルという、東京タワーの333mの記録を破り、建築物としての常識をぶち破った東京の新しい観光名所、東都ベルツリータワー。

その第一展望台の一箇所に陣取る俺、そして少年探偵団のメンバーの背後で対して大きくない胸を張って自慢するのは、鈴木財閥の娘である鈴木園子さん。

しかし彼女が自慢する通り、この第一展望台ですら、その眺めは絶景の一言に尽きる。

 

「凄いよ園子ぉッ!!誘ってくれてありがとうッ!!」

 

「にひひ♪何の何の♪……あんた達も感謝しなさいよぉ?普通オープニングセレモニーには、関係者以外入れないんだからね」

 

と、物凄い自慢気に胸を張る園子さんに賞賛とお礼の言葉を贈ったのは、俺の従姉妹であり園子さんに招待された蘭さんだ。

そのお礼の言葉に気を良くした園子さんは笑いながら蘭さんに言葉を返し、次は俺達にも感謝しろと言ってきた。

彼女のかなり上からなお言葉に、灰原はノーリアクション。コナンはジト目で見ているばかり。

しかし吉田達はそんな園子さんの態度を気にもせず、普通に感謝している様だ。

 

「うんッ!!ありがとう、園子おねーさんッ!!」

 

「最高だぜッ!!」

 

「ありがとうございますッ!!」

 

「ありがとうございます。でも俺まで良かったんスか?俺もベルツリーには寄ってみたかったから、正直ありがたかったんスけど……」

 

「あぁ、良いの良いの。少年にはバッグを取り返してもらったお礼でもあるし、一人だけ仲間外れにしたりしないわよ」

 

「そうっすか……改めて、ありがとうございます」

 

「う、うむッ!!精々感謝なさいッ!!おーっほっほっほっほッ!!」

 

素直にお礼を言った少年探偵団に続いて飛び入りで参加が決定した俺も感謝を述べつつ質問すると、園子さんは何でもないと返してくる。

その後の感謝の言葉にも尊大な態度で返してくる彼女だが、高笑いしてるにも関わらず顔はそっぽを向いている。

ちょこっとだけ耳が赤く見えるのは照れ隠しなんだろうか?

まぁ蘭さんが園子さんを見てクスクスと可笑しそうに笑ってるからそうだと思うけど。

 

「お、おおおおいッ!!そ、そろそろ帰らねーかッ!?」

 

「は?」

 

「えぇ?何言ってんのお父さん。今登ってきたばっかじゃない」

 

照れ隠しにそっぽを向いた園子さんと、それを可笑しそうに笑う蘭さんを見て、あぁ平和だなーとか思ってたら、更に二人の背後から聞いた覚えのある声がするではないか。

蘭さんの言った通り、俺達は今やっとエレベーターを登ってここに来たばかりなのである。

だと言うのに、何時もより何処か顔色の悪い小五郎伯父さんは震えた足取りで何とか立ちながら俺達を見ていた。

っつうか何であんなに顔色悪いんだ?ここに来るまでは普通に元気だったってのに……あっ、そうか。

 

「今頃になって昨日の蘭さんの正中線五段突きのダメージが出てきたんスか?駄目っすよ蘭さん。次の日までダメージ響く様な威力出しちゃ」

 

「し、失礼な事言わないでよ定明君ッ!!ちゃんと5割ぐらいに抑えてたんだからッ!!」

 

「あ~……五段突きしたのは否定しないのね……」

 

「ち、違うってば園子ッ!!ただ、昨日お父さんが競馬に生活費を使ったから……」

 

「っつうか、あれで5割とか10割の威力がパネェって事になるんスけど?コナンとか俺が食らったらザクロ確定じゃないっすか。なぁコナン?」

 

「えッ!?あ、えっと……ッ!!(なんつぅキラーパスをッ!?)」

 

「そんな事無いわよねぇコナン君?どうして言い淀んでるの?ねぇなんで?」

 

「あ、あははは……(なんで俺が……)」

 

昨日の五段突きの威力を思い出してコナンに同意を求めたが、俺とコナンの視線上に蘭さんがIN。

そのまましゃがみこんでコナンの顔を両手でガッシリと掴み、相互理解の話し合いがスタートする。

俺からは背後なので蘭さんの表情は伺えないが、コナンの隣に居た灰原がぎょっとした顔をしながら後ずさった所を見ると、想像出来ない様な顔してんだろう。

現にコナンの顔からは大量の脂汗が……強く生きろよ。

 

「だぁーーッ!!何で俺はまたこんな高い所へ来てしまったんだッ!?」

 

「あっ、やっぱ伯父さんて高い所苦手なんすね」

 

(って、えぇッ!?あ、あんたそれ分かってて蘭の事煽ってたってのッ!?)

 

伯父さんがここに来て顔色の悪い理由を言い当てると、驚愕した表情の園子さんが顔を寄せて小声で怒鳴ってくる。

随分器用な真似出来る人だな。

 

「別に煽ってた訳じゃ無えっすよ?実際昨日は伯父さん、蘭さんの五段突きの威力で天井スレスレまでFly Awayしてましたし」

 

「……あ、そう(威力の方はホントだったのね)」

 

俺の切り返しに目を点にしながら呆然と呟く園子さんから視線を外し、今は俺に釣り上がった目を向けてくる伯父さんへと向き直る。

しかし昨日あれだけボッコボコにされたってのに、何でこの人はこんなに元気なんだろうか?

普通の人間にしちゃタフ過ぎる気がするんだけどなぁ。

 

「バ、バーロォッ!!天下の名探偵たるこの俺様が、高いのが苦手なわきゃ無えだろッ!!」

 

「ふーん?そうなんすか?じゃあ膝が笑ってるのは何でっすか?」

 

「こ、これは、あれだッ!!……今流行りの、健康歩法に決まってんじゃねーかッ!?」

 

「はぁ……健康、っすか……生まれたてのバンビちゃんよろしくプルってますけど?」

 

「し、振動が強い程、健康に良いんだよッ!!」

 

もしそれが真実でも、そんなかっこ悪い健康法やるくらいなら俺は不健康で良いね。

伯父さんの苦しすぎる言い訳を聞いた俺はアホらしいって顔してる園子さんと目を合わせて視線で会話。

「ありえる?」「ありえると思う?」ですよねー。

そんな感じの会話を目で成立させてから二人で白けた目を伯父さんに贈ると、伯父さんは真っ赤な顔色で大きく咳払いした。

 

「うぉっほんッ!!と、兎に角、俺はもう降りるからなッ!?タバコが吸いたくなってきたしよッ!!」

 

あっ。遂に尤もらしい理由つけて降りるつもりだ。

さっきまでの震えを隠しながらエレベーターへと向かう伯父さんを見ていた俺だが、隣からちょいちょいと頭をつつかれる。

なんだ?と思ってそっちに目を向けると、園子さんがまるで悪戯小僧みたいな笑みを浮かべて、顎である場所をクイックイッと指し示していた。

そちらに視線を向けて……園子さんの言いたい事が完璧に分かり、俺も園子さんと同じ様な笑みを浮かべてしまう。

更に園子さんの隣に居たハカセにも分かった様で、ハカセも俺たちと同じく意地の悪い笑みを浮かべる。

そして園子さんが指し示した場所に丁度伯父さんが到達した所で、俺は伯父さんに言葉をかけた。

 

「怖いからって逃げちゃあ駄目ッスよ伯父さん。勇気ってのは恐怖を我が物とする事だって、昔の偉い人も言ってるんスから」

 

「ッ!?だ、だから、さっきから怖く無えって言ってんじゃ――」

 

「だったら――床見ても平気ッスよねぇ?」

 

「――へ?――ゆ――」

 

俺が背後から掛けた言葉に対してふんぞり返りながら対応していた伯父さんの声が止まる。

そして、その視線が徐々に下へと向けられ――。

 

「――か?――ってぇッ!!?ゆ、ゆ――床がぁあああッ!!?ね、無えぇええええッ!?ぬおほほぉおおおおッ!?」

 

自分が何処に立っているのかを認識した瞬間、伯父さんは勢い良く顔を跳ね上げて絶叫する。

そう、今伯父さんの立っている場所は、床の一部を強化ガラスに変えて足元が下まで見える特別なガラス床の場所だったという訳。

勿論高所恐怖症の伯父さんがそんな場所に立っている状況でさっきまでの虚勢を張れる訳も無く――。

 

「怖いッ!!怖いッ!!!怖いッ!!たぁかいの怖いよぉおおお~~~~ッ!!!!?」

 

「あッ!?ちょっとお父さんッ!!」

 

と、恥も外聞の無く叫びながら何処かへと走り去ってしまう。

もはや一種の暴走状態となった伯父さんに、何時の間にか暗黒面から帰ってきた蘭さんが声を掛けるが、それでも伯父さんが止まる様子は無い。

その様子を見て人間って走る時に砂煙出せるんだなぁ、とか考えていたんだが……。

 

「ハァハァッ!!脱出ーーッ!!」

 

「きゃっ!?お、お客様ッ!!このエレベーターは……ッ!?」

 

「「あ」」

 

伯父さんが駆け込んで乗ったエレベーターを見て、俺と園子さんは一緒に声を漏らす。

そのまま伯父さんを止める間も無く、安堵して息を吐く伯父さんを乗せたエレベーターは動き出す――更なる高みへと。

……あれ、特別展望台行きのエレベーターだったよな。

 

 

さて、最初に俺はこの東都ベルツリータワーを高さ341メートルと言ったが、それは『全長』では無い。

341メートルという数字は、俺達は居るこの第一展望台の高さであり……更に上の特別展望台は460メートルという更にキチガイな高さなのだ。

ついでに言えば建物自体の高さは大体634m、東京タワーの凡そ2倍近い高さという計算になる。

 

 

 

さて、長々と話したが、つまり俺の言いたい事は只一つ。

 

 

 

「「……」」

 

「いやおじさんを上に送った張本人の二人が何で無言で合掌してるのッ!?」

 

「まぁ落ち着けコナン。伯父さんだっていい大人だ。何時か自力で降りてその冒険活劇を俺達の枕元で語ってくれるさ」

 

「そーよ。がきんちょはそれを聞いて大人への階段を少しづつ登って行くんだから」

 

「それって化けて出ちゃってるよーな気が……」

 

「もぉ……定明君。あんまりお父さんからかっちゃ駄目よ?園子も」

 

「「すいませーん」」

 

「本当に反省してるのかしら……」

 

凄く軽い調子で誤る俺と園子さんに訝しむ視線を向けている蘭さんとコナン。

俺と園子さんはそんな二人から視線を外して、互いに笑顔でグッジョブ、と指を立てるのだった。

 

 

 

あの素敵なスケボーをハカセから貰って、探偵事務所に血の雨が降った翌日。

 

 

 

俺と伯父さんと蘭さん、そして少年探偵団メンバーとハカセを入れた9人という大所帯。

誘ってくれた園子さんも入れたら10人になるってんだから驚きだ。

全員集合した俺達は園子さんのお誘いで、完成したばかりの東都ベルツリータワーのオープニングセレモニーに参加している。

 

その招待主はこのベルツリータワーの名前の通り、鈴木財閥の跡取りである園子さん。

 

蘭さんは服部さんと和葉さんも誘ったらしいのだが、丁度前日が帰ってやらなきゃいけない用事に間に合う最終日だったので、今回は見送る結果になっちまったらしい。

それに本当は俺の分のチケットは無かったのだが、俺が初めて米花町に来た時に引ったくりからバッグを取り返したお礼って事で招待された。

まぁ元々このベルツリーには登りたいと思ってた所だった訳で、本当にラッキーだったぜ。

やはり『ヘイ・ヤー』の言ってた通り、昨日の俺は最高にツイてたんだろう。

エンジン付きのスケボーに寿司、そして行きたいと思ってた観光名所へロハで良いと、願ったり叶ったりだ。

 

「まぁ行っちまったモンはしょーがねえ。さっ、ベルツリーからの絶景を堪能させてもらうとしよーぜ?伯父さんは後で上がった時に合流すりゃ良いだろ」

 

「そうそう。どーせあたし達も後で上に行くんだしさ♪」

 

「もう……でもそうだね。コレを期にお父さんの高所恐怖症が治る切っ掛けになれば良いかな」

 

(ははっ……一生モンのトラウマになりそうだけどな)

 

取り敢えず俺と園子さんの執り成しで、再び景色を見る事に集中し始めた蘭さん。

いやはや、トラウマの克服の仕方の考えが如何にも体育会系なもんだ。

一方で少年探偵団の皆は最初から伯父さんの事は余り興味が無かったのか、さっきから景色を見るのに忙しそうだ。

灰原もガイドブックを見つつも景色にも時折視線を向けて楽しんでいる様子である。

 

「ねぇ園子。あの建物は?アレも園子の所が関わってるの?」

 

「ん?あぁ。あのちっちゃいのは浅草スカイコート。鈴木財閥とは関係無いわ」

 

と、景色を見ていた蘭さんが指し示したのは、建築途中にも関わらず周りのビルより一等大きいビルだった。

しかしそれを確認した園子さんは自分の家とは関係無いからか、余り興味が無さそうである。

っていうか、あのビルをちっちゃいて……やっぱお嬢様はスケールが違うな。

 

「まぁ完成しても、精々この第一展望台程度でしょうねぇ」

 

「じゃあベルツリーの勝ちだな」

 

「あったりまえでしょぉッ!!おーっほっほっほっほッ!!」

 

はい、本日二度目のお嬢様笑い入りました。

元太の言葉に得意げな高笑いで返答する園子さんから視線を外し、俺も皆に倣って景色を楽しむ。

 

「~♪あっ、ねぇねぇ。あの川見てッ!!橋がいっぱい架かってるよッ!!」

 

「あぁ、隅田川だな」

 

と、吉田の言葉に対してコナンが何処の川なのかを言い当てる。

現在の俺達から見える景色の大きな川、隅田川や街の景色は、何時もとは違う新鮮味があって中々に楽しい。

 

「えっと……ねぇコナン君。あの橋の名前、全部分かる?」

 

「ん?まず向こうの青いのが駒形橋。赤いのが吾妻橋。手前の鉄橋は東都ベルツリーラインだよ、歩美ちゃん」

 

「あはっ。やっぱりコナン君って物知りさんだね♪」

 

「はぁ~。良く覚えてんな、コナン」

 

「うん、この辺りはよく知ってるから」

 

「まっ、地元っちゃ地元だもんな」

 

一つ一つの橋や鉄橋の名前を答えるコナンと他愛ない話をしながら、俺も景色を楽しむ。

母ちゃん達は海外で仕事しながら観光もしてるらしいし、俺も東京見物を楽しんでおかねえとな。

下の景色を堪能している俺の横では、下のベルツリーラインから出てきた電車を見て円谷達が騒いでいる。

 

「あれ?橋の上で止まっちゃうよ?」

 

「徐行してるだけですよ。橋を渡ったら直ぐに浅草駅がありますからね」

 

下の電車の様子を双眼鏡で見ながら吉田に解説する円谷。

俺もその様子を『スタープラチナ』の拡大した視力で観察しているが、上から見下ろす視界ってのもまた新鮮で良いモンだ。

 

「あ、そうだッ!!夏休みの宿題、この東都ベルツリータワーと、その周辺のミニチュア模型を作るっていうのはどうですかッ!?」

 

「おぉッ!?すっげぇなそれッ!!」

 

「面白そうッ!!コナン君と哀ちゃんも一緒に作ろうよッ!!」

 

と、どうやら円谷の思い付いたアイディアは吉田と小嶋には受けが良かったらしく、二人共大賛成の様だ。

宿題でそういうのをやるのは自由研究だろうな……しっかし、態々そんな大変なモンを選ぶとは、凄え行動力だと思う。

俺はそんな大変そうな課題は選ばなかったし。

 

「おいおい、それって結構大変――」

 

「良いんじゃない?」

 

「え゛?」

 

そしてそれは小学校二回目であるコナンも同じだったらしく、暗にもっと楽な課題にしようと言おうとした。

しかしそれに割って入ったのが、コナンと同じ立場の筈の灰原だ。

これにはコナンも予想外だったのか、目を丸くして驚く。

少年探偵団の頼りになる二人の内一人の同意が得られた事で、3人は嬉しそうにはしゃぎだした。

 

「やったーッ!!」

 

「じゃ、決まりですねぇッ!!」

 

「すっげーの作ろうぜッ!!皆がワーッて驚く様なヤツッ!!」

 

「ふふっ。来た甲斐があったのう」

 

3人は何時もの事件捜査の時の様に俄然ヤル気を出し、ハカセはそんな彼らの様子を好々爺の様な表情で微笑みながら見る。

どうやらもうコナンの意見がどうであれ、決定したみてーだな。

 

「じゃ、皆でいっぱい写真撮ろーッ!!」

 

「俺はビデオだッ!!」

 

「私は、ベルツリーについて調べておくわ……誰かさんは夏休みの宿題しなくて良いのかしら?」

 

「ほっとけ」

 

灰原がパンフレットを掲げながら意地悪な表情でそう告げる相手は勿論本当の正体を知っているコナンにである。

その質問を受けたコナンはそっぽを向きながら軽口で応戦。

まぁ口ではあぁ言っても、どうせ参加するんだろう。

今更ながら、コナンが他の小学生に混じって自由研究するのは想像出来ねえし。

逆に言えばまだ少年探偵団の考えの方が子供っぽくなくてコナンには合ってるんだろう。

 

「そういえば、定明さんはもう全ての宿題が終わってるって言ってましたけど、自由研究も終わってるんですか?」

 

「ん?あぁ、そりゃ当然終わってるけど、どーかしたか?」

 

「いえ、ちょっとした参考までにどんな自由研究をやったのか気になりまして」

 

「あ、それ歩美も気になる。定明さんどんな自由研究をしたの?」

 

と、円谷に続いて吉田まで話を聞きたそうにしてきたので、必然的に全員の視線が俺に向けられる。

まぁ別に答えても問題無いので普通に答える事に。

 

「俺は学校のツレ2人と共同で、『ボトルロケットをエンジンとして、人が乗ったラジオフライヤーで移動は可能か?』ってのをやったな」

 

「えー?ペットボトルロケットなの?」

 

「何か、普通っぽいですね……」

 

「何かもっと面白い事しなかったのかよ?……っていうか、らじおふらいやーって何だ?」

 

「ラジオフライヤーってのは、アメリカで創業した長い歴史を持つ会社の名前でその会社が作ったワゴンのことを総称してラジオフライヤーって言うんだ。ホラ、お前等もハカセにキャンプ場に連れて行ってもらった時に見ただろ?赤色のワゴンにタイヤが付いてて、引っ張るハンドルの付いたヤツ」

 

「さすがコナン。ラジオフライヤーが総称とは俺も知らなかったぜ」

 

「あ、あはは。そうなんだ……(オイオイ。知らねーモンを自由研究のテーマにすんなよ)」

 

「あっ、それ歩美知ってるよッ!!」

 

「俺も知ってるぜッ!!」

 

「確か、キャンプ場で見た時は子供が乗っていましたね……でも、やっぱり普通っぽいです」

 

「確かに。城戸君のハチャメチャな所を見た私達としては、少し肩透かしされた気分ね」

 

「テメー等の中で俺のキャラ付けはどうなってんのか非常に気になる一言だな?」

 

質問されたから答えたというのに、さっきまでのワクワク顔から一転して凄えつまらなそうな顔になる少年探偵団。

しかも吉田達だけでなく灰原まで「なーんだ」ってつまんなそうな顔してやがる。

唯一コナンだけがそんな探偵団メンバーを「まぁまぁ」と注意して、俺に話を振ってきた。

 

「それで、結局動かせたの?」

 

「ん?あぁ。まぁ普通のペットボトルじゃ無理ってのは分かってたから、5ガロン容器3つ使ったロケットフライヤー作ったぜ?」

 

「「ハァッ!?」」

 

「ガ、ガロン容器でロケットって……」

 

「しかも5ガロン3つ……」

 

「なんちゅうモンを作っとるんじゃ……想像すると、かなりシュールじゃのう……」

 

「え?ど、どうしたのコナン君、哀ちゃん?」

 

「ハカセや蘭さん達も分かるんですか?……っというか、ガロンって何です?」

 

「何か強そうな名前だな」

 

俺の言葉を聞いて仰天した灰原とコナンに、何が驚きなのか今ひとつ分からない少年探偵団。

ならば、ここは俺達が実際にやった自由研究のムービーを見せてやるか。

俺はスマホを取り出してムービーフォルダを開き、自由研究の最終段階を撮ったムービーを再生して彼らに見せる。

ちなみにこの時俺はスマホを持っていなかったので、ツレの神田(カン)からスマホを借りて撮影し、そのデータを後で貰った。

蘭さん達も興味が沸いたのか、探偵団メンバーの後ろから覗きこんでくる。

勿論撮影者は俺なので、ムービーの冒頭は俺の声からスタートする。

 

『よーし。んじゃあガロンボトルロケットフライヤーの発射すっか。ゴリちゃーん、頼んだぜー』

 

『おっしゃおっしゃッ!!空気注入ぅうううううッ!!』

 

冒頭は俺が地元の友だちの一人であるゴリちゃんに空気を入れてくれと合図した所から始まる。

そこで俺達の作ったボトルロケットの全容が明らかになるのだが――。

 

「わッ!?このロケット、凄くおっきいッ!?」

 

「空気を入れてる人も元太君よりおっきいですけど、ロケットの方がもっと大きいじゃないですかッ!?人の乗るスペースの方が小さいですよッ!?」

 

「っていうか、ガロンって何なんだよ?教えてくれよ」

 

赤い大きめのラジオフライヤーの後ろに三角に樽積みで3つ繋がった魔改造ラジオフライヤー。

それを見て、純粋年齢組の3人はがやがやと騒ぎ出す。

ペットボトルで作る簡単なロケットなんかより遥かにデカイ大きさだからだ。

ちなみに5ガロン容器一つが49センチという特大サイズ。

なので、空気を入れている時から、ラジオフライヤーはウイリー状態で静止している。

 

「ガロンは単位の事で、1ガロンが大体4リットルくらいの量よ」

 

「えッ!?じゃあこのガロン容器一つで、2リットルのペットボトル二本分×5って事ですかッ!?」

 

「もっと正確に言えば4リットルより少し多いくらいだから、そこにプラス500mmのペットボトル1本追加の分量×5が3つ、だな」

 

コナンと灰原による単位のお勉強が開催される中、ムービーの中のゴリちゃんは空気を規定回数入れて一仕事したという風に額の汗を拭う。

ここで俺の台詞が再び入る。

 

『じゃあ発進するけど、ドライバーは乗りたいって言ってたカンがするって事で……ほい』

 

『ん?何だよジョジョ、このヘルメット?』

 

『安全第一だろ?万が一の為に被っておけって。な?』

 

ちなみにここはカメラの反対側でのやりとりなので映っていない。

しかしこのやりとりの後でカンがカメラの前に姿を表した。

首に白いタオルと安全祈願のお守りを掛け、安全第一と書かれた黄色いヘルメットを被ったシュールな姿で。

 

「ぷっ……く、ふふ……ッ!!」

 

「あ、哀ちゃん?」

 

『……なぁジョジョ?このヘルメット、やけに男臭いんだけど?』

 

『近所のおっさんのだからな。かぐわしいだろ?』

 

『あぁ、倒れそうなくらい濃厚でスパイシーなスメルがするよ』

 

『……何かカンの近く、オス臭えぞ?』

 

「くはっ……ッ!?ふ、ふふふ……ッ!!」

 

(……コイツの笑いのツボは未だに謎だぜ)

 

カメラの前に姿を表したチグハグな格好の小学生を見て、灰原は口を抑えながら必死に笑うのを我慢している。

更にヘルメットを被ったカンに鼻を抑えながらゴリちゃんが言った台詞が彼女的に効いたみたいだ。

もしかしてこういうギャップ的なのが灰原のツボなんだろうか?

コナンはそんな灰原を見て苦笑い。

何やらカオスになりかけているが、ムービーはそれに関係無く進む。

現在、魔改造フライヤーにはカンが乗り込んで前向きに荷重を掛ける為に、正座しながら体を前に倒してハンドルに体を預けている。

まるで昔の海賊船の船首下についてた船首像みたいな格好だ。

 

『じゃ、記念すべききょーどー自由研究――ラジオフライヤーはボトルロケットで進むのか?ドライバーは私、ずのーろーどー担当のカ――』

 

『長い前置きは良いからレッツゴーッ!!!』

 

『え?ちょ、ゴリちゃ(キュポッ)』

 

ボォオオオオオンッ!!!

 

「ッ!?」

 

「きゃッ!?」

 

「「うわぁッ!?」」

 

と、カンの台詞の途中で耐え切れなくなったゴリちゃんは栓を引っこ抜いてしまい、ガロンボトルは爆音を鳴らして水と空気を排出した。

更にカンのゴリちゃんを止める言葉の途中でとんでもない大爆音が鳴ってカンの声をかき消してしまう。

いきなりカメラの前から消えたロケットフライヤーINカンだが、俺は『スタープラチナ』の超視力でそれを追っかけて、直ぐにそちらへカメラを向ける。

 

『あびひゃあぁぁ………………――』

 

『……おっしゃあッ!!成功したぞジョジョッ!!』

 

『あぁ分かる。カンの悲鳴がすっげえ勢いで遠のいてるからすっげえ分かる』

 

俺達の居た大きな公園の広場からかなり離れた場所から、残響を残して遠ざかるカンの悲鳴。

多分、時速40キロくらいは出てるんじゃないだろうか?

そして、カンを乗せた魔改造フライヤーが進む先を先に見ていた俺は、小さく「あ」と漏らしてしまう。

 

『ん?どうしたんだよジョジョ?』

 

『いや……確かあの先って……トマト畑じゃね?』

 

バキバキバキィッ!!!

 

俺の言葉の直ぐ後で、何か色んなモノがぶっ壊れた様な音が聞こえてくる。

ここでゴリちゃんも状況を理解して「あ」と呟き、俺達は急いでカンを助けに向かった。

と、ここでムービーを一旦終了させ、あんぐりと口を開ける吉田達と視線を合わせる。

 

「この後は皆で飛距離を測りに行ったけど、401メートルっていうトンデモねー距離を走ったぜ?」

 

「えぇッ!?そ、それって、この第一展望台より長く走ったって事ですかッ!?」

 

「凄えーッ!!滅茶苦茶すげーじゃねぇかッ!!」

 

「……ねぇ、定明にーちゃん。そのカンって人、大丈夫だったの?」

 

「あぁ。カンは頭打ったけど、男臭いヘルメットが男らしく守ってくれたらしい。まぁトマト畑に突っ込んで体中トマトまみれで、一見すれば血塗れの小学生が歩いてる様に見えたが、まぁ問題無し」

 

「寧ろ問題しか無いと思うな……」

 

「ぶっ……ッ!?……その言い方……止めて……」

 

コナンの質問に答えたら、何故か腹を抑えてプルプル震える灰原。そんなにツボかこれ?

この自由研究の結果だけを伝えると、円谷と小嶋は目を輝かせてはしゃぐ。

他の皆も程度に違いはあれど、純粋に驚いている様だ。

 

「まぁ、俺の自由研究はこんな感じだ……それより小嶋。お前ビデオで下を撮らなくて良いのか?資料少ねえと後で苦労する事になるぞ?」

 

「おっとっと、そうだったッ!!ちゃんとやっとかねぇと灰原にまた怒られちまう」

 

「はぁ、はぁ……あ、あら?それってどういう意味かしら、小嶋君?」

 

「な、何でもありましぇん……」

 

小嶋の言葉に灰原は眼光を鋭くして聞き返し、小嶋は冷や汗を浮かべながら撮影に取り掛かる。

円谷も苦笑いしながら双眼鏡で街の様子を観察し始めた。

どうやら小嶋は一度灰原に怒られた経験がある様だ。

あの様子から察するにそうとうこっ酷く怒られたんだろう……哀れな。

怒られたといえば、俺も昨日アリサ達に怒られたんだっけ。

 

……あぁそうだ、彼奴等にもこの景色の写真を送っておくとしよう。

 

俺が何処の親戚の家に居るかってのは行ってなかったし、今居る場所を教えておくとすっか。

こっちが問題無く日常を過ごしてるってのを写真に撮って送れば、彼奴等に余計な心配掛ける事の無えだろうしな。

俺はポケットからスマホを取り出して内カメラを起動し、自分のバックに下の町並みが広がる様なポーズでシャッターを切る。

えぇっと、文面は……。

 

 

 

『今日は特にトラブルの無い一日という証明の証だ。

 

 従姉妹のダチのお招きで、現在ベルツリータワーの第一展望台にて激写。

 

 ちゃんと土産も買ってくから期待しといてくれ               定明』

 

 

 

うん、これで良いだろ。これだけ笑顔の俺が写ってれば俺の心配すんのも馬鹿らしいって思える筈だ。

写真を添付したメールをアリサ達に一斉送信してメールを閉じる。

そのままスマホをポケットに閉まった俺は、周りの景色と一緒にこの第一展望台の内部を見渡す。

 

しかし本当に凄いな、このベルツリーは……長さもだけど、内装も未来的で洗練されてるって感じだ。

 

窓の景色をバックに写真を撮ってくれるサービスは勿論、展望デッキの屋外に取り付けられたカメラの景色が楽しめる大型のタッチパネル式モニター。

更に江戸時代に書かれたという江戸一目図屏風のレプリカまで飾ってあるそうだ。

この六曲一隻の屏風に描かれた江戸の町並みがとてもベルツリーから見える景色と酷似してるって事で話題になっている。

勿論200年近くも前にベルツリー並みの建物があった訳も無く、作者を含めてリアルに見る事が無かった屏風だけの景色。

江戸時代の人々は決して見ることのできなかった眺望が、200年の歳月を経て、眼下に広がる……何ていうか、言葉に出来ないな。

まだその屏風は見れてないので、この後で是非ともその屏風をバックに記念写真を撮るつもりだ。

 

と、まぁ今言った様にベルツリーにはその景色以外にも観光客を楽しませる心配りが随所に配置されてる。

だからこそ雑誌でこのスカイツリーの建設記事を知った時に、一度は登りたいと思ったんだよな。

 

「そういえば……ねぇ園子。さっき言ってたもう一つの財団って?」

 

「あぁ、実はね。このベルツリーの建設はウチの鈴木財閥ともう一つの財団の共同プロジェクトなの」

 

「え?でも、名前はベルツリータワーって、園子の家の名前だけだよね?」

 

と、このベルツリータワーの完成度の高さに感動していた俺の隣で、蘭さんと園子さんが興味深い事を話していた。

コナンと灰原も興味があるのか、園子さんに向き直って話に耳を傾けている。

そういやそんな事を最初にチラッとだけ言ってた様な……。

 

「えぇ。実はその財団のトップの”御方”が、折角下にベルツリーラインが開通してるのに、タワーの名前だけ変えるのもおかしいでしょうって言って、自分の財団の名前は入れなくて良いって仰ったらしいのよ」

 

「へー……何ていうか、大物だね。その人」

 

園子さんのちょっとした裏話を聞いた蘭さんは感心した様に声を出し、コナンと灰原もリアクションはしていないが概ね同意の様だ。

自分の会社が関わった観光用の建物に名前を入れないで良いって言うのは、ネームバリューを売らないってのと同じ事。

名前が鈴木財閥を表してるベルツリータワーは、もっぱら鈴木財閥が作り上げた建築物として売り出してるし。

 

ピロリロリロ。

 

お?返信、か……相馬からだな。

 

『へぇ~?お前今ベルツリーに居るのか?それじゃ、今日はビックリするサプライズがあると思うけど、楽しんでこいよ?』

 

……ビックリするサプライズ?意味被ってね?

っていうか、どういう事なんだろうか?

 

ピロリロリロ。

 

ん?……今度はなのかか?

 

『凄い偶然だねッ!!ちなみになのはは相馬君と一緒に映画館だよ♪また海鳴に帰ってきたら、親戚の人のお話聞かせてねー♪』

 

 

 

…………ん?…………偶然?なんのこっちゃ?

 

 

 

「まぁ、向こうは世界に名を馳せる超が付く程のVIPだしね。タワー1つ位なら惜しくなかったんじゃないかな」

 

「そうなの?」

 

「そうなのよ。私も一度お会いした事があるけど、とても紳士でダンディなおじ様だったわ……あんな人ならそれぐらい大きく出られても全然嫌味に感じないんだもん」

 

「へー……一度会ってみたいかも」

 

(ムッ)

 

(あらあら。恋のライバル登場、かしら?)

 

(るっせぇ)

 

「おやおやぁ?もしかして蘭、新一君からナイスミドルに乗り換えようと?」

 

「ば、馬鹿な事言わないでよッ!!別にそんな気無いし、新一の事だって別に……ッ!!」

 

目の前で恥ずかしがる蘭さんをからかう園子さん。

そして蘭さんの台詞に表情をムッとさせるコナンと、それを見て「やれやれだわ」と興味を失ってパンフレットを見始める灰原。

そんなラブコメ風景が繰り広げられる傍に居ながら……俺は相馬となのはのメールの文面のおかしさに首を傾げる。

一体何が偶然なんだろうか?二人は映画館に居るって言ってたし、別に俺とは関係無いんじゃ……ん?……”二人”?

俺は頭を過ぎった違和感に思考を巡らせて、どういう事なのかと推理していく。

待てよ?確か鈴木財閥って日本じゃかなりの財団だったよな?

そんな大財閥のお嬢様である園子さんに”トップの御方”と尊敬を籠めた言葉で表される大財閥の人物?

しかもベルツリータワーの名前を鈴木財閥に譲っても問題無いくらい、日本でもそのネームバリューは轟いてる財団?

 

……オイオイ、まさか……。

 

「大丈夫大丈夫ッ!!蘭くらい可愛くてナイスバディなら、きっと愛人くらいにはなれるってッ!!」

 

「あ、愛人って……ッ!?な、何馬鹿な事言ってるのよッ!!私なんかがそんなのなれる訳無いし、なるつもりも無いってばッ!!」

 

「ふむ。失礼ながら、私もその会話に混ぜて頂いてよろしいですかな?レディ達」

 

「「……へ?」」

 

と、いよいよもってヒートアップしてきた蘭さん達の会話に、俺達以外の第三者の声がするりと入ってきた。

……聞いた事ある声だなー(棒読み)

俺は頭をガシガシと掻きながら割って入ってきた声の主へと視線を向け、自分の耳が正常だと確認する。

いきなり話し掛けられて固まっていた蘭さんと園子さんに柔和な笑みを浮かべる”金髪のナイスミドル”な男性。

彼は正に紳士の名に恥じないピシッとした姿勢で超が付く程のブランドスーツを着こなし、自然とした佇まいでカリスマオーラを振り巻いている。

 

「失礼。女性の話に聞き耳を立て、あまつさえ口を挟むのは如何なものかと思ったが……どうにも”私”の話をされていた様なのでつい。無礼をお許し頂きたい」

 

「……え?え?……わ、私って……」

 

「」

 

柔和な笑みを崩さずに、嫌味臭さも微塵も感じさせず、彼は自然と会話を続ける。

しかし今の台詞が衝撃的かつ予想外だったらしく、蘭さんは目を丸くしてしまっていた。

園子さんなんて余りの衝撃にフリーズしてるし。

と、ここで少年探偵団の他のメンバー達もこっちを向き、いきなり現れた男性の姿を見て首を傾げる。

そこでこの場の年長者であるハカセが恐る恐る質問をぶつけた。

 

「し、失礼ですが、貴方は……?」

 

「ん?あぁ、これは申し訳無い。初対面だというのに自己紹介が遅れてしまって。私は――」

 

「デビット・バニングスさん。世界に名立たる大企業バニングスカンパニーの創設者にして現社長。んで――」

 

「む?――おぉッ!?」

 

「俺のダチ、アリサ・バニングスの親父さんっすよ……どうもっす、デビットさん」

 

「なんと、定明君ではないかッ!?まさか君も来ていたとは、コイツはとんだ偶然だなッ!!」

 

「「「えぇッ!?」」」

 

「……」

 

デビットさんの台詞に割って入った俺を目にして驚きの声を挙げるデビットさんだが、次の瞬間にはまた笑顔を浮かべてくれた。

まぁ、さっきまでハカセの大きな躰の影に隠れてたから、俺だって分かんなかったんだろう。

しかしそんな俺達の関係が予想外だったのか、コナンと蘭さん、ハカセは驚きのあまり声を挙げ、園子さんに至っては口をパクパクさせている。

そんな混乱が続く一方で、俺はデビットさんに頭を下げて普通に挨拶をしていた。

 

「いやはや久しぶりだねッ!!最近は余り家に戻る事が出来なかったから君とも会えなかったが、会えて嬉しいよ」

 

「そいつはどーもっす……っつーか、何で此処に居るんスか?しかもお一人で」

 

「なに、先程鈴木財閥のお嬢さん。園子君が話していた通り、ウチもこのタワーの建設には絡んでいるのでね。ならばオープニングセレモニーに来ていても不思議ではあるまい?」

 

「そいつは納得っすけど、些か不用心じゃねぇッスか?SP無しなんて襲ってくれって言ってる様なモンすよ?鴨がネギも味噌も鍋も、ついでにガスコンロまで背負ってる様なモンでしょーに」

 

「ははっ、これは耳が痛いな。しかし大丈夫。SP達は周囲の観客に溶け込んで、私を影から護衛してくれているからね。さすがにこの場で黒服のSpが居てはお客の方々が萎縮してしまうだろう?」

 

「あー、成る程」

 

海鳴のアリサの家でする様に、俺はデビットさんと普通に会話を繰り広げる。

大企業の社長といえども、デビットさんも人の親。

俺みたいな子供との会話も苦痛には感じていないし、デビットさんは娘だけじゃなく息子も欲しかったらしいから俺や相馬との仲は比較的良好なのだ。

 

「私からも質問だが、君は何故此処に居るのかね?確かアリサから聞いた話では、君は2週間程ご両親が海外へ出張で、親戚の家に預けられていると聞いていたんだが……」

 

「あぁ。その親戚ってのはこの人なんスよ。俺の従姉に当たる蘭さんです」

 

「ふぇッ!?ちょ、ちょっと定明君ッ!?」

 

デビットさんの質問に答えながら蘭さんを指差すと、当然デビットさんの視線は蘭さんに向けられる。

その蘭さんはといえば、いきなり自分に話題が飛んできて普段は出さない様な悲鳴を挙げて飛び上がっていた。

 

「なんと、この様な偶然が……偶々私の話をされてる鈴木園子君を見つけたと思ったら、まさか園子君のご友人の君が定明君の従姉とは……人の縁とは奇妙な所で繋がっているものだ」

 

「あ、あのあのッ!?わ、わたひッ!?」

 

「ら、蘭姉ちゃん。落ち着いて、呂律が回ってないから」

 

「あー、蘭さん。緊張するなってのは無理があるでしょうけど、少しで良いんで落ち着いて下さいって。はい、深呼吸してー」

 

「そ、そそそうだねッ!?こ、こういう時は深呼吸……ッ!!……スウゥゥ……ハアァァァ……ッ!!」

 

「おーい?力み過ぎて息吹になってますけど?今からデビットさんブッ飛ばす前準備っすか?」

 

「ゴフゥッ!?す、する訳無いでしょぉッ!?変な事言わないでよ定明君ッ!!」

 

余りにも緊張し過ぎて空手の息吹をしてる蘭さんを流れる様にからかい、適度に力を発散してもらう。

その光景を見ていたデビットさんがフッと優しく微笑んでいたんだが、それを見て蘭さんは顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまう。

しかし目的通り落ち着く事は出来た様で、さっきまでよりは顔の強張りが抜けた表情でデビットさんと視線を合わせた。

 

「え、えっと。私、毛利蘭です。定明君の従姉で……き、今日は、友達の園子にお招きいただきまして……」

 

「あぁ、いえ。そう固くならないで。私は娘の友人であり恩人でもある定明君の前では、一人の父親なのですから」

 

「き、恐縮です……」

 

まだ少し緊張の抜けてない蘭さんを、デビットさんは優しく諭して肩の力を抜かせる。

ご本人の言葉は良く効いたのか、俺のリラックス法の時から更に緊張が抜けて、今の蘭さんは普段と変わらないぐらいになっていた。

 

「しかし偶然ていやぁ、ホントの偶然ッスね。俺なんかデビットさんが話し掛けてくるホンの少し前に、アリサ達にメール送ったトコっすよ?」

 

「む?アリサに?何と送ったんだね?」

 

「此処をバックにした写メと、今ベルツリーに来てるから、土産楽しみにしててくれって……あの、デビットさん?何をそんなに笑ってるんスか?」

 

「……く、くく……い、いや何……コイツは本当にとんだ偶然だと思ってね」

 

俺がさっきアリサ達にメールを送った事を教えたら、何故かデビットさんは背中を少し丸めて大声で笑うのを我慢していた。

やがて笑いが収まったのか、デビットさんは目尻の涙を拭い、再び背筋を伸ばす。

しかし、偶然、ねぇ?……確か、なのはと相馬のメールも似た様な文面だったよなぁ……。

……何か、猛烈にメンドクセェ予感がするのは気の所為か?

背筋を駆け上がる様な嫌ーな感覚を覚える俺に、デビットさんは笑みを浮かべながら口を開く。

 

「時に定明君。実は私もSP以外に一緒に連れてきている人達が居てね。その人達は今ここの二階下のフロアでカフェを楽しんでいるのだが――」

 

『こっちよこっちッ!!この階のこの辺りの筈だわッ!!』

 

『うんッ!!確か、隅田川が後ろに写ってたから……』

 

『それに、東都ベルツリーラインも見えたわ。あの角度であの線路が写るスペースはこの辺りだけね』

 

「――どうやらこの後、もう一騒動ありそうじゃないか?」

 

「……平穏って、求めると逃げる習性でもあるんスかね……やれやれ」

 

額に手を当てて溜息を吐く俺を、デビットさんは笑顔で見つめる。

今の声の主が誰だか完璧に分かってしまい、俺はとりあえずどうしたモンかと頭を捻る。

……しかし神様というのは意地悪で、俺にシンキングタイムは与えてくれないらしい。

 

「パパッ!!」

 

「あぁ、アリサ。それにすずかちゃん達もどうしたんだ?そんなに慌てて」

 

理由なんて全部分かってるのに、敢えてデビットさんは近づいてきた3人に問う。

通路の向こうから周りの迷惑にならない程度の小走りで近づいてきた、人形の様な可愛らしい容姿をした3人の少女。

派手さの少ない私服を着ていようとも素の造形は隠せず、道行く人達や子供達は殆ど振り返って彼女達に見惚れている。

どう見繕っても将来的には美人になる事間違い無しの容姿な上に、その内の二人は顔がそっくりなのだから周囲の目を余計に引いていた。

 

「「……可愛い」」

 

「綺麗……」

 

「わぁ……お人形さんみたい……」

 

更にそれは少年探偵団純粋年齢組の小嶋と円谷も例外では無く、二人揃って目を♡の形にしている程だ。

同姓である吉田や蘭さんですら嫉妬する事無く目を輝かせていた。

 

「ねぇパパッ!!定明を見なか――あぁぁッ!?やっぱり居たわね、定明ッ!!」

 

そんな美少女達の内の一人、デビットさんの娘であるアリサは周りの視線を気にする事無く質問を投げ掛ける。

その翡翠を思わせる瞳には、激情の炎がメラメラと沸き上がっていたんだが……デビットさんの目の前に立っている俺を見つけ、その瞳は直ぐにこっちへと向けられる。

更にアリサの後ろに居たリサリサとすずかは俺を見て微笑みを浮かべる。

……安心させようと思ってメール送った訳だが……少し早まったか?

数分前の自分の行いを思い返しながら、俺に目を向ける3人に対して苦笑いしつつ言葉を投げ掛ける。

 

「……これなら、ベルツリーの土産はいらねぇよな?」

 

「あら。期待しておいてくれだなんて言っておいてそれは酷いわ、ジョジョ」

 

「オメェ等がここに居るなら要らねえだろ。自分で買えるじゃねーか」

 

「……そうね。お土産はそうだけど、リサリサの言う通りそれはズルいわよ。なら代わりに、夏休みの思い出っていうのはどうかしら?」

 

「勿論、買えるなんて言わないよね?」

 

土産代浮いたなぁとか考えながら言った発言にリサリサが答え、それに続いて腕を組んだアリサと微笑むすずかの畳み掛ける言葉。

それに対して肩を竦めながら自然な動きでスマホを取り出し、3人をパシャリ。

スマホを見れば、いきなりの撮影に目をぱちくりとさせる3人の姿が高画質で納められていた。

っていうかリサリサのこんな表情も新鮮だな。

 

「取り敢えず思い出が一枚。んで、俺はこの後江戸一目図屏風の前で写真撮るつもりだけどよぉ……一緒に写るか?」

 

「なッ!?そ、それよりアンタ何自然に写真撮ってるのよッ!?こっちにだって準備ってモノが……ッ!!」

 

「あう……髪、跳ねて無かったかな?」

 

「……多分私、ボーッとした表情になってるでしょうね……」

 

いきなり写真を取られて顔を赤くして熱り立つアリサに、自分の髪を気にしだすすずか。

そして自分が撮られた時の表情を推測して溜息を吐くリサリサという構図。

あぁ、この脱力したやりとり。正に平和の空気ってヤツだな……。

 

「ま、まったく、もうっ……所で定明。アンタ、何か何時もと服の感じが違うじゃない?」

 

「あぁ。ちょっと気分転換にイメチェンを、な」

 

少し赤い顔をしたアリサが咳払いして質問してきたので、俺はネクタイを弄びながら答える。

何時もは適当なシャツとズボンだったが、今日は制服っぽいスタイルで決めてみたのだ。

裾長めのルーズな黒のスラックスにジャイロのベルトと鉄球のホルスターを付け、上は白い長袖のYシャツにネクタイというシンプルな格好。

しかしボタンは第二ボタンまで開けてネクタイはちょっとだけルーズに緩めた、少しダレた演出をしている。

個人的にお気に入りなのは、シャツの胸ポケットに描かれた、あのスタンド能力を引き出す矢に酷似したデザインのマーク。

そしてネクタイの真ん中に縦字で描かれた『GO!GO!JOJO』という刺繍だ。

 

「へぇ~?定明のそういう格好は初めてだけど……ま、まぁ良いんじゃないかしら?」

 

「そう思うか?そりゃ嬉しいな。アリサも涼しそうで良いじゃねーか。赤色もお前によく似合ってる」

 

「ふ、ふふん。まぁ、私くらいになれば何着ても似合うのよ」

 

初めて私服を褒められたので、俺もお返しにアリサの格好を褒めると、アリサは気を良くしたのか胸を張って笑う。

アリサの今日の格好は赤い半袖のプリントシャツにピンクのフリルがあしらわれたミニスカートという格好だ。

活発的なイメージを与える勝ち気な顔に良くマッチしていると言える。

 

「あら?ジョジョってば、アリサだけ評価して私達は放置?」

 

「わ、私も聞きたいな?どうかな、定明君」

 

「ん?あぁ、すずかも白のシャツとピンクの色合いがスカートと合ってて、良い感じだと思うぜ?」

 

「え、えへへ♪ありがとう♪」

 

俺の言葉にはにかみながら微笑むすずかだが、ピンクのキャミソールに白い半袖シャツの組み合わせは落ち着いてる様で主張も忘れていない。

膝丈の黒いスカートに黒いストッキングを履いたすずかは、なんていうか、ふんわりとしたイメージが良く合っているって感じだな。

 

「リサリサは……何ていうか、大人っぽい感じだ。上着黒って男のイメージがあったけど、バッチリ着こなしてるじゃねーか」

 

「ふふっ、女の子ですもの♪お洒落は女の子の嗜みよ?」

 

俺達より一つ年上のリサリサだが、彼女は黒のフリルが付いたシフォンブラウスとデニムのショートパンツを合わせた大人っぽい着こなしをしている。

しかもブラウスの腕の部分がシースルーになっていて薄っすらと腕が見えている。

大胆でありながら女っぽさを忘れないその着こなしは見事としか言い様が無いんだが……何で俺、こんな事考えてんだ?

アレか?家で母ちゃんのファッションショーに付き合わされた影響で女子の服の要らん知識が増えた所為か?

 

「……え、えぇっと、定明君?この子達って、前に定明君が言ってた友達の子達だよね?」

 

おっとっと、蘭さん達への説明もしねえと、だな。

いきなり登場したデビットさんやアリサ達にどう接して良いか判らずに俺達の様子を見守っていた蘭さんや園子さん、探偵団の視線が両方を知る俺に向けられる。

そういった事を聞かれるのを事前に予想していたので、俺はすんなりと言葉を発する事が出来た。

 

「えぇ。俺のダチのアリサとすずか、それとリサリサです。3人共、この人が俺の従姉の毛利蘭さんだ」

 

「あっ、ジョジョの親戚の方ですか?ごめんなさい、てっきり他の観光客の方かと……」

 

「あはは、気にしないで。初めまして、定明君の従姉の毛利蘭だよ。よろしくね、皆」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。アリサ・ローウェルです。もう一人アリサが居ますので、私の事はリサリサと呼んで下さい」

 

「月村すずかです。定明君とは学校は違いますけど、大切な友達です♪それと、そちらの園子さんはお久しぶりです」

 

「私はアリサ・バニングスです。定明の友達で、この人が私のパパです。こんにちわ、園子さん」

 

「あ、あぁ、うん。久しぶりねアリサちゃんとすずかちゃん……まさか城戸少年の友達だったとは……」

 

「園子は二人に会った事があるの?」

 

「うん。アリサちゃんは言うに及ばずデビットおじ様の娘さんだし、すずかちゃんはあの月村家の次女。長女の忍さんと一緒に何度かパーティで会ってたのよ」

 

しゃがみながらにこやかに微笑み挨拶した蘭さんに、3人は其々挨拶を返す。

更にさっきまでフリーズしていた園子さんにも挨拶すると、園子さんもぎこちなくではあるが挨拶を返した。

そしてこの事態を小嶋や円谷が見逃す筈も無く、我先にと手を上げる。

 

「ぼ、僕は円谷光彦ですッ!!よろしくお願いしますッ!!」

 

「お、おお、俺は小嶋元太だッ!!」

 

「私、吉田歩美ですッ!!」

 

「??え、えぇ。よろしくね……えっと、定明?この子達も親戚なの?」

 

しかし今度は蘭さんとは苗字が違う上に自分達より年下の子供が挨拶してきたので、アリサは困惑した表情で俺に質問してくる。

やっぱこの団体じゃ一度に紹介しきれねえか。

 

「いや。少しややこしいんだが……蘭さんの所で居候してる子が居てな?えっと……」

 

「あっ、定明にーちゃん。僕自分で自己紹介出来るよ。こんにちは。江戸川コナンです」

 

「え、江戸川?」

 

「コナン……?……初対面でこう言うのは何だけど、随分古風な苗字ね?名前は英語みたいだけど……」

 

「あー、うん。僕のお父さんがコナン・ドイルの大ファンで……」

 

と、吉田達と直接縁を結んだコナンが自己紹介するが、そのツッコミ満載な名前には普通に突っ込まれた。

アリサとすずかからの質問に対してコナンは少しどもりながら答えるが、まだまだ追撃の手は緩みそうに無い。

特に、下手したらコナンより頭の回転が速いかもしれないリサリサの質問はかなり的確だ。

 

「アーサー・コナン・ドイルの?苗字は江戸川乱歩と同じなのに、彼の名前には肖らなかったのかしら?」

 

「え、えっと、確か……そうそうッ!!み、苗字は江戸川乱歩と一緒だから、名前はコナン・ドイルから貰おうって事にしたんだってッ!!日本とイギリスの最強のタッグだって言って……あ、あはは……」

 

「そうなの……コナン君がその二人みたいに頭の良い人になれる様にって考えてくれたのかもね」

 

「う、うん(あっぶねぇ……確かにこの名前は無理があったけど、まさか初対面なのにここまで違和感を持たれるとは……しかし、確かにこの子達は将来美人になんだろなー……)」

 

お?リサリサの追求の手を上手く躱したみたいだな。

とりあえずコナンの名前についての疑問が解決した所で、再び説明再開。

 

「まぁ、そっちの奴等はコナンの友達なんだよ。さっきからそこでパンフ見てる灰原って子も含めてな」

 

「……こんにちわ」

 

俺が親指で指し示した灰原は3人に向かって礼をするだけで、特に何も語ろうとはしない。

まぁ初対面だと大体こんな感じだろう。

3人も灰原は無口な方だと悟ったのか、無理に蒸し返しはしなかった。

特に問題無く挨拶は済んだみたいだし……俺も3人に注意しておこう。

 

《おい、3人共そのまま話を聞いてくれ》

 

「「「ッ!?」」」

 

俺は『スタープラチナ』の口を使ってスタンド使いにしか聞こえない言葉を発する。

スタンド使いにはスタンドが喋ってるのが見えるが、念話やテレパシーなんかと同じだと考えてもらえば良い。

 

《一応言っておくと、蘭さん含めてこの場の奴等は俺のスタンド能力の事は一切知らねえ。鉄球はまぁ技術として誤魔化してるから、その辺は上手く誤魔化してくれ》

 

《えぇ。分かったわ》

 

《まっ、幾ら親戚でもスタンドの事までは話せないか。仕方ないから、聞かれたら誤魔化しといてあげる》

 

《定明君。参考までに聞いておきたいんだけど、どんな感じで誤魔化してるの?》

 

《一応軽く炎を出したりしたが、それは全部マジックって事でな。だから蘭さん達には俺はマジックが得意だって事になってるからよろしく》

 

と、俺自身のこっちでの立ち位置を伝えて齟齬が出ない様に頼み込む。

特にコナン辺りは俺の海鳴での生活の事を聞きたがるだろうし、これで変に疑われても洒落にならない。

隠し事の相談なんてあんまりしたくは無いが、やらないと俺自身に面倒が降り掛かる。

自分の立ち位置が結構面倒な事になっているなと再認識して溜息を吐きたくなるが、それをグッと飲み込む。

……あれ?そういえば……。

 

「なぁアリサ。なのはと相馬は来てねえのか?」

 

あの二人は映画に行ってるって話だったけど、誘わなかったのか?

 

「あぁ、二人も誘ったんだけどね……まぁ、アレよ」

 

どれだよ?

何やら少し言い難そうにしてるアリサに代わってすずかが苦笑いを浮かべる。

 

「なのはちゃん。今日は相馬君と二人っきりで映画とショッピングに行く約束してたみたいで、一緒には来れなかったの」

 

「へぇ?そりゃアレか?なのはは相馬とデートに行ってて……」

 

「で、相馬君はデートじゃなくて友達と映画見た後は、お買い物で荷物持ちって思いながら一緒に買い物をしているって所……かな?」

 

「違いねぇ。相馬の奴、絶対に自分の立ち位置を荷物持ちだとか思ってんだろーな」

 

「うん。まぁ……そういう事よ」

 

皆揃って簡単に立てられた予想、というか現実を思い浮かべて苦笑してしまう。

……何だか最近、なのはが不憫に思えてきたなぁ。

何時かはその恋心が報われる日が来ると……来ると思いたい。

ただ、相馬の事だから俺が海鳴に居ない間に更に勘違い起こして女の子を落としてる気がするんだよな。

何時の間にか俺が知らない間にテスタロッサの奴を落としてた様に。

何だか相馬が将来的に目に光の無い女達に迫られて逃げるイメージが鮮明に浮かび上がってきてしまう。

考えるだけで背筋が寒くなりそうな場面を頭から追い出し、俺は軽く溜息を吐く。

 

 

 

まぁ、これも俺が望む平穏ってヤツの一部なんだろうな――。

 

 

 

「there the yellow building!!《ほらッ、あそこの黄色いビルですッ!!》」

 

 

 

ん?何だ?

自分自身を取り囲む平穏の一部を楽しんでいた俺の耳に、流暢な英語が飛び込んでくる。

ちなみに俺は『ヘブンズ・ドアー』で英語で何を言ってるかを聞き取れる様にしているから理解出来てる。

アリサやリサリサみたいに素のスペックでは全くもって理解できないがな。

興味本位でそっちに視線を向けると、大体40代といった感じの男が外国人の老夫婦を伴って下の景色を指さしていた。

 

「ooh wow !!It'sAmazing!!《おお、本当だッ!!》」

 

「oh,I see it. what a Lovely building《見えるわ。とってもキュートなビルね》」

 

「this building was built 30 years ago and now , with the completion of the bell tree tower , the views alone is worth four stars. it is definitely a five star property 《 築30年ですが、ベルツリータワーが出来て眺めは四ツ星。資産価値は五ツ星です》」

 

「Wow!!darling i think this may be our lucky day!! I absolutely love this house !!《アナタ、今日は何て幸運な日なのかしらッ!!私、絶対にあの家が良いわッ!!》」

 

「I think so too , this property is ...《あぁ、私も同じ考えだよ》」

 

日本人の男の説明に、老夫婦は嬉しい悲鳴を挙げるが、内容の分かる俺としちゃアホかとしか言い様が無い。

確かにベルツリータワーが出来て建物の価値は上がるかもしれねえが、それでも築30年の建物って普通に老朽化してんだろう。

売り物としちゃ幾ら何でも資産価値だなんて無え筈だ。

 

「……何よアレ?完璧にカモにしてるだけじゃない」

 

「そうね。アレがあの男のやり方なんでしょう。何も知らない人を騙すなんて……酷すぎるわ」

 

「うん……私は所々しか判らなかったけど……騙してるのは分かったよ」

 

(おいおい。この3人、普通に今の英語の会話が分かるのかよ……まぁ金髪のアリサって子は名前からして外国人だし、茶髪のアリサって子は定明が言ってた通りなら、IQ200の天才少女。勉強してりゃ、英語が理解出来ても不思議じゃないか……すずかって子も所々とはいえ理解出来てるとはな……)

 

そして俺と同じであの男のやり口が理解出来たリサリサとアリサ、そしてすずかも不愉快そうに言葉を吐き捨てる。

怒りに燃える3人を感心した様な顔で見てるコナンと灰原も、恐らく今の男の英語は理解出来てる筈だ。

 

「人の商売にケチを付けるのは好きでは無いが……見過ごす訳にもいかん。止めるとしよう」

 

更にこの場で俺達子供以外で今の話の内容を理解しているデビットさんがあの男のやり口で被害に遭おうとしている老夫婦を助ける為に動き出した。

まぁそれが出来るのはバニングスカンパニーの社長って社会的地位があるデビットさんだけなので仕方ない。

日本の不良物件を売りつけて老夫婦を騙そうとしているこすズルい男にデビットさんが近づいて行くのを見ながら、俺は大きく伸びをする。

 

「ふぅ……ん?」

 

「ん?どうした、コナン?」

 

「いや……今、あそこのビルが光った様な……」

 

と、伸びをして躰の筋肉を解していたら、コナンが何かを見つけたらしく、向こうのビルに視線を送っていた。

光った?別にビルはガラス窓なんだし、反射で光るのは不思議じゃないだろう?

そう言おうと思ってたんだが、コナンの言うビルの光ってるというのは、ビルの側面では無く――屋上の一箇所だった。

何であんな所が光ってるんだ?しかも不規則に……。

さっきまではあんな光は見えなかったのだが、それが気になり、それが何なのか『スタープラチナ』を通して認識した瞬間――。

 

 

 

――バリィイイインッ!!

 

 

 

平和という硝子が砕け――異次元の殺意が、咆哮をあげた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

アリサ・バニングスは、今日という一日のこの瞬間を絶対に忘れないだろうと、後に語る。

 

 

 

父の会社が建設に関わったベルツリータワーのオープニングセレモニー。

そのセレモニーに父と共に観光に訪れる事が決まり、親友であるすずかとリサリサを誘って訪れたベルツリータワー。

展望台からの眺めを楽しみながら3人でお茶を楽しんでいた時に、自らの想い人から同じタワーに居るというメールを受け取った時の高揚感や胸の高鳴りは心地よかった。

こんな偶然をありがとう、神様。とアリサはらしくもなく感謝していた。

勿論、親友であり、恋のライバルである二人もメールを受け取って嬉しそうな顔をしている。

自分以外の女の子にあんな幸せそうな顔をさせる憎っくきアンチクショウに対しての嫉妬もあったが、自分も同じ様な顔をしていると思うと羞恥心で頭が沸騰しそうだった。

それについては定明にどうにかしてもらおう、何人もの乙女を惚れさせた罰だ。と無理矢理納得していたものである。

 

 

 

しかし、アリサの深層に刻まれたのは、そんな淡い思い出では無かった。

 

 

 

最初に思ったのは、どうしてという――突然の悲劇に対する疑問。

 

 

 

自分達が楽しく夏休みの思い出づくりをしていた横で、外国人の老夫婦を騙して不良物件を売ろうとしていた男。

正義感の強いアリサはその事に腹を立てて、一言申したい気分だった。

しかしそれはアリサの父親であるデビットがするという事で、アリサは少し溜飲を下げる。

同じ様に商売をしているとしても、自分の父親程に高潔な人物であればあの男の不正を正してくれるだろうと確信していた。

 

パパがあの男をとっちめてくれたら、後で定明の希望通りに江戸一目図屏風の前で写真を撮ろう。

 

私とすずかとリサリサの3人だけとか、定明の連れの皆で一緒に……私達一人づつとのツーショットとかも。

 

何ともらしくない自分の考えに赤面が酷くなりそうだったアリサ。

しかし今は定明の親戚やその親戚の家に居候している子の友達も居る。

そんな人達の前で余り変な顔をする事も出来ない、とアリサは自分の心を無理矢理制御していた。

主にこんな事を考えて赤面した自身を見られたく無いのは、只一人だけであるのだが。

 

 

 

そんな楽しい時間を、アリサの心を引き裂く一条の光。

 

 

 

日常と非日常の境を現す様なベルツリータワーの強化ガラスを破り、デビットが注意しようとした男の心の臓を食い破る一発の弾丸。

 

 

 

しかしその弾丸は標的を殺したにも関わらず――丁度男の背後に立っていたデビットの躰をも貫こうと進む。

 

 

 

その光景と瞬間こそが、アリサが何時までも忘れられないだろうと語る場面。

刹那の瞬きを駆け抜ける凶弾に、反応する事が出来ないデビットの姿を、アリサは何故かゆっくりと流れる時の中で見ていた。

良く達人同士の戦いの最中、時間がスローに流れる様に見える時があるというが、この時のアリサはそれを体験していたのである。

しかし、一時の超人足り得る思考と感覚は、超人足り得ぬ(・・・・・・)肉体を行動に移させる事が出来ない。

命令を受けた肉体の反応はアリサの研ぎ澄まされた感覚の数テンポ遅れで活動を再開する。

自分が動けた時には――先ほどの男と同じく、躰を貫かれて血塗れになった父親の元に駆けつけて涙を流す時だと、聡明なアリサは思い至る。

 

 

 

――ふざけるな。

 

 

 

そして、他ならぬ自身の思い至った結論に、アリサは激しく憤慨した。

自分はそんな簡単に諦めを付ける女だったか?

決まりきった運命を受け入れて、父が倒れる前から涙を貯めて泣き喚く準備をするのか?

 

 

 

冗談じゃない。そんな事――認めるものか。

 

 

 

そもそも自分の父親が何をしたというのだ?

ただ、目の前で将来的に悲しむであろう老夫婦を助けようとしただけではないか。

だというのに、こんな――歩いて鳩の糞を食らう様な最悪のとばっちりの様な事で、その生命を無作為に奪われる?

勝率99%のギャンブルで負けた様なちっぽけな悪い偶然で、己の父の命が消されなければならない。

そんな、正に神の悪戯の如き間の悪い偶然等――。

 

そんな運命を、この少女は受け入れない。

 

だからこそ、彼女は――アリサ・バニングスは、己の未熟な精神を乗り越えようと、抗った。

あの日、親友であるすずかの為に、彼女を貶める言葉を吐いた氷村に、銃という凶器や死の恐怖を乗り越えた『覚悟』を持って――。

 

 

 

――アタシは、そんな運命、受け入れないッ!!――『STONE・FREE(ストーン・フリー)』!!!

 

 

 

アリサ・バニングスは、己の未熟な過去を――『乗り越えた』。

己への叱責と、目の前の愛する父の命を奪おうとする銃弾への怒りを篭めた心の咆哮。

彼女の思いに呼応して彼女の背後から現れる人ならざるビジョン。

それは嘗て、彼女が定明から受け継いだスタンド、『ストーン・フリー』のビジョンである。

 

『オォオオラァアアアアアアッ!!』

 

反応できないアリサの肉体の代わりに、『ストーン・フリー』はデビットを助ける為にその能力を発動させる。

スタンドを操る力の源は、スタンド使いの精神力によるものだ。

従って、今の精神テンションが爆発し、振り切れているアリサの命令に、『ストーン・フリー』は本来のポテンシャルを凌駕する力を発揮した。

これはジョジョの奇妙な冒険第5部において、イルーゾォという男が引き起こした現象の一つである。

詳しい説明は省くが、イルーゾォは自身の『死にたくない』という思いを爆発させて、自身のスタンドよりパワーの勝るスタンドの一撃を止めたのだ。

これと同じ現象が起きたアリサの精神の思いに、『ストーン・フリー』は応えた。

『ストーン・フリー』は目にも留まらぬ速さで腕を振り、その腕から肘の部分を『糸状に分解』する。

そのままバラバラに解けた腕が編み込まれ、次に形作られたのは――糸で作られた『レール』だった。

『ストーン・フリー』の腕から伸ばされた糸のレールは、デビットの躰を貫かんと迫る弾丸の下に添えられる様に伸ばされていく。

今の『ストーン・フリー』の速度なら弾き飛ばす事も可能だが、横に弾けば他の客に被害が及ぶ可能性もあった。

 

だからこそ、アリサはその弾丸を天井へ誘導しようとしたのである。

 

普通の糸であればそんな芸当は不可能。

しかし『ストーン・フリー』の糸はアリサの体を媒介として伸びている。

故に、筋肉の収縮で自分の体の一部として動かすことが可能なのだ。

『ストーン・フリー』の腕から伸ばされた糸が天井へ向かい、まるで作りかけのジェットコースターの様な形に持ち上げられる。

更に糸を編みこんで作られたレールは頑丈で弾丸が突き抜ける事無く、流れる様に軌道を下から掬われた弾丸はそのままデビットの体からコースを外れていく。

 

 

 

――かに、思えた。

 

 

 

(――え?)

 

心中で零れた呆然とした声が自分のモノだとアリサが気付いたのは何時だろうか?

その原因を作った光景が、目の前に広がる――糸のコースを外れて、デビットの頭部へ向かう弾丸という、悪夢の光景が。

何と、アリサが伸ばしたレールに乗ったかに見えた弾丸は、コースを僅かに上へズラしただけで、完全な軌道の変化は出来なかったのである。

ホンの1ミリ単位の誤差が、正確に弾丸を逸らす事が出来ずに、更に最悪のコースへと向かう。

幸いにして、アリサの軌道変化は悪い方向ばかりに傾く事も無く、頭部に当たるか掠めるかという微妙なラインへと弾丸の軌道を変化させていた。

先ほどまでは死亡率100%だったのが、50/50にまで押し上げられたのは幸運とも言えるだろう。

 

しかし、そのどっちつかずの状況というのは、幼く実戦経験も無いアリサには酷に過ぎた。

 

……お願い……外れて……お願いだから……ッ!!!

 

愛する父親に向かう凶弾を、アリサは藁にも縋る気持ちで見届ける。

当たれば地獄、外れれば天国という一度限りのギャンブル。

気の弱い人間ならこの光景をスローで見ているだけで卒倒してしまうであろう。

その光景を加速してしまった思考力の中で目を逸らす事も出来ず、アリサはまざまざと見せ付けられる。

だからこそ、心中で祈らずにはいられなかった。

 

 

 

偶然にも、拒否が許されない悪辣なギャンブルへ乗せられた少女。

 

 

 

幼いながらも、愛する家族を救いたい一心で己を叱責した少女へ、現実は残酷にもその覚悟を手折ろうとする。

 

 

 

……しかし――。

 

 

 

ドォンッ!!

 

 

 

この世には、ギャンブルに対して平等に勝負する事を拒否する人間が居るという事をご存知だろうか?

 

 

 

本来は運だよりのゲームに仕掛けを施す事で勝利を強引に掴み取る行為――イカサマ。

アリサがその言葉を思い知ったのは、正にこの瞬間だった。

突如聞こえた二度目の重たく響く銃声。

しかしそれはまるで他の人には聞こえていないかの様に(・・・・・・・・・・・・・・・・)誰も反応を示さない。

何故、誰も反応しないのだろうか?自分の思考が加速してるから?

現に父親に向かう弾丸がスローで見えているからか、と、アリサは疑問に思う。

 

――皇帝(エンペラー)

 

しかしその考えを、耳に届いたアイツ(・・・)の声が否定する。

 

……あぁ……そっか……ホント……。

 

鼓膜を震わせた『彼』の本当に小さく呟かれた声を認識し、アリサは心の中で愚痴を零す。

まるで、目の前のデビットがどうなるかを予測したかの様に。

更にその銃弾は先ほどの銃弾など比べ物にならない程の速度でデビットへ向かう弾丸と交差し――。

 

――AND――。

 

『サァサァッ!!仕事ノ時間ダゼ~~ッ!!野郎共ォオオオオ~~~ッ!!』

 

『今度ハライフル弾カヨッ!!節操無エナァッ!!』

 

『ビビル事ァ無エッ!!何時モノヨーニ、弾イテ終ワリダロ~ガッ!!』

 

『アァッ!!俺達ノ専門ダモンナ~~ッ!!』

 

『ウエェェ~ンッ!!人使イ荒スギダヨォオ~~ッ!!』

 

『ツカ、俺達ハ人ジャネエ(・・・・・)ッテ~ノッ!!』

 

その弾丸から降りた『六人の小人』達が、デビットに迫る弾丸の前に躍り出る。

NO,1から4を抜かし、NO,7まで頭に数字を持つ彼ら6人(・・・・・)の存在は、迫り来る弾丸より儚く思える程に小さい。

しかし、彼らは凡そこの世界に存在する何者よりも、弾丸の操作に長けた本物の『エキスパート』なのである。

二発目の弾丸が『急に角度を変えて天井に向かう』のと同時に、彼らは目の前の弾丸に対して、全員で足を振り上げ――。

 

――セックス・ピストルズ。

 

『『『『『『イィィーーーーーーーーッハアァーーーーーーッ!!!』』』』』』

 

バギィッ!!!

 

『本体』が自分達の名前を呼んだのに合わせて、デビットの頭を抉ろうと迫る弾丸を真上に蹴り飛ばしてしまった。

本来向かう筈だった角度を外れて、急激に角度を変えた弾丸。

そして二発目の弾丸が天井に着弾して甲高い着弾音を奏でた時、アリサの思考は急激に元へと戻っていった。

 

「うぉッ!?」

 

「ッ!?パパァッ!!」

 

突如目の前で弾けた男の背広、そして出血。

それに驚いて尻もちを付いたデビットの元へ駆け寄るアリサ。

そして、父親が死なずに済んだという事実を触れた手から伝わる体温で感じ取り、アリサは目尻に涙を貯める。

 

「き――きゃぁああああああああああああああああッ!!?」

 

「ッ!?」

 

しかし、この現場を目撃していたのはアリサだけでは無い。

目の前で人が死んだ現場を目撃して絹を裂いた様な悲鳴をあげるすずか。

すずかの隣に立っていたリサリサも口元を抑えて震える。

 

「見るんじゃねえッ!!」

 

「きゃッ!?」

 

「ッ!?ジ、ジョジョ……ッ!?」

 

「狙撃だッ!!頭上げずに伏せてろぉッ!!」

 

だが、二人の視界を遮る様に前に現れた定明に顔を覆う様に抱きつかれ、リサリサとすずかはそのまま床に倒された。

更に畳み掛ける様に出された怒号に反応して、二人は頭を上げない様に定明の下でジッと動きを止める。

その定明達の様子を見て他の観客も状況を理解し、展望フロアはパニックに包まれていく。

更にこの場で初めて会ったコナンや蘭達といった定明の親戚と知り合い達も自分達と同じく、パニックにならず床に伏せている。

この状況ではさすがのアリサも嫉妬するどころでは無く、デビットに抱きついて地面に倒れようとした。

 

「ッ!!駄目だアリサッ!!お前が下になりなさいッ!!」

 

「きゃッ!?パ、パパッ!?大丈夫よッ!!私には――」

 

スタンド能力があるから、と続けようとしたアリサは、真剣な顔をする父の顔を見て言葉を飲み込む。

先程、自分が父を守る為に覚悟した時の様な、言葉に言い表せないオーラが、父に垣間見えたのである。

 

「例えお前が凄い力を持とうと……娘を守るのは親の役目だ……ッ!!断じて、親が娘の命を盾にするなど、してはならん……ッ!!」

 

子供である自分には無い、父親の覚悟。

それを真正面から見せ付けられて、アリサは子供心ながらに敵わないなと思い知らされるのだった。

更に観客へと扮していたSP達が現れて、アリサとデビット、そしてすずか、リサリサ、定明を守る様に前へと陣取った。

SPとしては遅すぎる対応であったが、観客のパニックに飲まれて身動きを取るのに時間がかかってしまったのだろう。

 

「社長ッ!!アリサお嬢様ッ!!こちらへッ!!」

 

「すずかお嬢様とリサリサ様もこちらへッ!!窓から出来るだけ離れて伏せて下さいッ!!」

 

「は、はい……ッ!!」

 

SP達の先導で窓から離れた所で、アリサは空中でハイタッチをしている『セックス・ピストルズ』を見つける。

既に彼らは一仕事やり遂げたといった顔で定明の所へと戻ってきている途中だった。

自分の父親を守ってくれたピストルズに対して、アリサは『ストーン・フリー』を通して感謝の言葉を述べる。

 

《ありがとうね、ピストルズ。パパを守ってくれて……本当にありがとう》

 

『オォウッ!!全ク問題ネェゼーーッ』

 

『アレグライ楽勝ダッテ』

 

『俺的ニハ定明ミテーニ、美味イモンガ食ワセテ貰イテェナァ~。最近定明ノ奴、従姉トアノガキニバレタクネェカラッテ、ナァ~ンニモ食ワセテクレネエシヨォ~』

 

『アッ!!俺モ俺モッ!!』

 

『オイッ!!NO,2トNO,3ダケ抜ケ駆ケスンナヨナァ~ッ!!』

 

『ウエェェ~ンッ!!NO,2トNO,3ダケズルイヨォオ~ッ!!ボクモ美味シイゴ飯食ベタイヨォ~ッ!!トスカーナノサラミガ食ベタイ~~ッ!!』

 

アリサの感謝の言葉に照れるNO,1や冷静に返すNO,7。

そして美味い飯をねだるNO,2とNO,3を窘めるNO,6と、泣きながら自分も欲しいと言うNO,5。

個性的なピストルズの言葉に、アリサはこの緊迫した状況の中で微笑みを浮かべてしまう。

以前に定明達と遊んでる最中に突然現れて自分のサンドイッチを食べて逃げた時は、何て憎たらしい奴等かと思っていた。

しかし今回の事に関して、アリサはお礼を忘れるつもりは無く、彼らに対して返す言葉は決まっていた。

 

《えぇ。後でパパに頼んであげるわ。アンタ達はパパの命を救ってくれたんですもの。絶対にOKしてもらうから、期待してて頂戴♪》

 

『『『『『『オッシャーーーーーッ!!ヤリィーーーーーッ!!』』』』』』

 

『ストーン・フリー』を通して言われた言葉に、ピストルズはまたタッチをし合って喜びを顕にする。

その微笑ましい光景を見て直ぐに、アリサは隣でリサリサ達と一緒に居るであろう定明へと視線を向けるが――。

 

「……やれやれ……イカれ野郎が……折角の楽しい時間を台無しにしやがって」

 

すずか達をSPに任せて、自然な風体で立つ定明は、面倒くさそうに頭をガシガシと掻いていた。

その姿を見て、こんな状況で何と緩いのだろうか?と思うのが普通である。

しかも何故かSPは定明が立っているというのに、すずか達の事ばかりで定明には見向きもしない。

しかしスタンド使いであるアリサには、SP達の背中の一部がページの様に捲れているのを見つけた。

恐らくあれも定明のスタンド能力なのだろうと、考えを打ち切る。

更に定明と触れ合って人となりを知るアリサは今の定明の精神状態をも見抜いていた。

 

それ即ち、今の定明は犯人に対して静かな怒りを抱いている、という事を。

 

その怒りは轟々と激しく燃え上がる赤の炎では無く、青く、静かに燃える炎と言える。

大体の事は面倒臭がって流す定明が、ここまで明確な怒りを抱く姿を、アリサはあの誘拐騒ぎ以外に知らない。

だからこそ、アリサはまた一つ定明の事を知る事が出来たと喜ぶと同時に不安にも思った。

だが、これはアリサが心中で考えている事である。

故に、当の定明はそれを知らずに振り返ってアリサ達と視線を交わす。

 

「ワリィが、記念写真はキャンセルだ……アリサ、すずか、リサリサ。お前等はここに居ろ……デビットさんとSPの人達と居りゃ安全だ。もし何かあったらスタンドの使用も戸惑うなよ?」

 

「……アンタは、どうするのよ?」

 

アリサの不安そうな声と、娘を抱き締めながら定明に視線を向けるデビット。

そしてSPによってアリサ達の側に誘導されたリサリサとすずかも、アリサと同じく不安に顔色を染めている。

定明は自分を見つめる視線に対して一度ため息を吐く。

そして視線を外しながら、少しだけ緩めていたネクタイを更に緩めてボタンを二つ程外すといった動作を取るだけだった。

 

「俺は、出来の悪い脚本書いたトンチキにクレーム叩きつけてくる……こんな三文劇見せられて、テレフォンだけで済ます訳にゃいかねーからな……直接抗議しねーとよぉ」

 

「あッ!?さ、定明君ッ!!」

 

「……ッ……JOJO……」

 

「すずかお嬢様ッ!!無闇に動いてはいけませんッ!!」

 

「リサリサ様も、今少し我慢して下さいッ!!直ぐにエレベーターまでお連れしますのでッ!!」

 

それだけ一方的に告げ、定明はパニックで混み合う下降エレベーターへと向かう。

それを追おうとするリサリサとすずかはSPに留められ、定明を見失ってしまった。

そして最後に、定明は恐らくこの楽しい観光を台無しにした犯人に八つ当たりをしに行くんだろうと、アリサは当たりを付ける。

 

そしてアリサは、心中で犯人に対する怒りが少しだけ落ち着くのを感じ取った。

 

何処の誰かは知らないが、相手は敵に回してはいけない男を敵にしたのだから。

何より、自分達の大事な楽しい夏休みをこんな風にした犯人に同情の余地は無い。

遅かれ早かれ、犯人がこれから遭うであろう災難。

それは、恐らく犯人が考えているどんな事よりも辛い事だと、そう考えるだけでアリサは溜飲を下げる事が出来た。

 

(ざまぁみなさいッ!!アタシ達の楽しい時間を無茶苦茶にしたんだから……本物の、存在事態が反則(・・・・・)なアイツに狙われて、無事で済むと思うんじゃないわよ)

 

 

 

人が必死に攻略していたギャンブルの勝敗(死の運命)をひっくり返しちゃう様な――最低(最高)イカサマ師(チート野郎)に、ね。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ギュオォオンッ!!

 

ハカセから貰ったスケボーをMAXスピードで走らせ、俺は5分程前にクソッタレなサプライズを送りつけてくれたジョン・ドゥを捜索していた。

とりあえず狙撃してきた向かいのビルを目指し、其処からヤローを追跡してブチのめす。

ベルツリータワーの地下駐車場を駆け上がり、道路から歩道へとルートを変更。

スマホを片手にマップを開いてビルの場所を頭に叩き込み、スケボーの速度を上げる。

『スタープラチナ』の目で計測したあの時の狙撃距離は、凡そ600m。

そんだけの距離を開けて、風の吹く屋外からの射撃で動くターゲットの心臓を正確にブチ抜く異常な狙撃。

少なくともそんな一級品の腕前が、犯人にはあるって訳だ。

 

「ったく。よりにもよってジョンガリ・Aとかリガトニの劣化版が相手ってか?冗談は夢ん中だけにして欲しいぜ」

 

恐らく狙撃手としてはかなりの腕前だろうが、今挙げた二人みてーにスタンド使いじゃねえだけマシだな。

平穏な生活が俺の過ごしたい日常だってのに、何でそんな軍人並の腕を持ったスナイパーと戦う羽目になるんだか。

まぁ、態々犯人を追っかけて事件に首突っ込んでるのは俺自身の意志なんだけどな。

誰よりも平穏な日常を愛してる俺が自分から鉄火場に向かう理由?んなモン決まってんじゃねえか。

 

――その日常(アイツ等)を壊そうとした仕返しだっつうの。

 

平穏な日常を歩む為にとても大事な事。

それは勿論、危険な事には首を突っ込まず、亀の様に大人しく引っ込んでいる事だろう。

だが、この城戸定明の辞書には後二つ、とても大事な平穏の鉄則ってモンがある。

 

――火の粉を飛ばされたなら、ナパームにして返してやる事。

 

そして、二度と馬鹿な真似ができねえ様に、絶望の淵にブチこんでやる――って事だ。

 

そうやって俺の日常に侵食してくる危険な芽を焼き払っちまって、農薬を撒けばそれでお仕舞い。

二度と同じ理由で、俺の熟睡と日常を穢される事も無くなる。

要は、徹底的に叩き潰して元の原型が無くなるくらいに再起不能にさせる事だな。

心の中に浮かんだ自分の鉄則に従い、俺はスケボーを走らせて狙撃地点へと向かう。

俺より先にコナンが出て行ったし、恐らくコナンも犯人を追跡しているんだろうが……俺は俺のやり方で、犯人を追い詰めてやる。

 

『うわッ!?』

 

『何だ何だッ!?』

 

歩道から裏道を入って商店街を通り抜けて歩行者を避けながら、噴水の側の広間を抜けて道路と歩道の柵をしっかりと見つめる。

柵の近くに歩行者は無し。通行車両は多いが……いけるか……ッ!?

 

『ケケケッ♪オイ定明ッ、看板ガアルゼェ……看板ダカンナッ!!』

 

「ッ!?……今日の俺は、心底ツいてねぇと思ってんのに……まさか二日連続でお前が出て来るとはなぁ?」

 

『ケッヘヘヘ……ダカラコソ、”励マシテヤッテンダロ~?”ソノ為ノ”俺”ジャネーカァ♪』

 

突如肩越しに背後から聞こえた”あの声”による誘導。

そいつのアドバイスに従って柵の辺りを見回し、件の看板を発見。

歩行者向きに立てかけられた『置き引き注意!!』の看板を見つめながら、ニヤリと口元を歪める。

それは、俺の肩に乗っかる口やかましい『スタンド』も同じだった。

 

『マダオメェサンニハ、今日ノツキ(・・)ガ残ッテルゼェ?ソレヲ今コノ時ニ信ジネエデ、ドウスンダヨォ……俺ガッ、全テカラ守ッテヤルカラヨォ――信ジテ行ッチマエッ!!』

 

「…………そうだな……なら――今は俺の”ツキ”と、励ましてくれる”お前”を信じてやるさ……ッ!!そうだろッ!?――『ヘイ・ヤー』ッ!!!」

 

『YO!YO!YOOOOOO!!!行ケエェェ――――――ッ!!オ前サンニハ、幸運ノ女神ガツイテルッ!!!』

 

 

【挿絵表示】

 

 

俺の肩に乗りながら看板を指差して叫ぶ『ヘイ・ヤー』。

ここぞという勝負時に俺に助言を与え、励ましてくれるイカしたスタンドだ。

『ヘイ・ヤー』の言葉にありったけの自信を貰った俺は、臆する事無くスケボーでジャンプして、看板へと突っ込む。

 

フワァッ。

 

すると、俺が看板に衝突する寸前、突如背後から吹いた風が、看板を固定していた足元の錆びた番線を”偶然にも引っぺがして”しまった。

そのまま看板は未だに固定されている中央を支点としてグラリと道路側に傾き――。

 

ガシャンッ!!

 

「ぉ……ッ!!気分が良いぜ……ッ!!空を飛ぶってのはよぉ……ッ!!」

 

俺がぶつかる頃には、看板は即席のジャンプ台に早変わりしていた。

ギャルギャルという音を鳴らしてスチールの看板を踏み荒らす。

更に背後から突風を受けて、阿笠ハカセ作のスケボーは俺を乗せたままに空中へと飛び上がり、道路を軽く横断する。

反動で少し体勢を崩しながらもジャンプした看板を見れば、看板は今度は反対から仰がれた風で元に戻っていた。

空を飛ぶ感覚にテンションが上がってきた俺は、肩越しに俺を見る『ヘイ・ヤー』に視線を送りながらほくそ笑む。

 

「こんな偶然はそうねぇよなぁ?って事はお前の言う通り、まだ俺にはツキが残ってんのはマジって事だ……ッ!!えぇッ!?希望とヤル気がムンムンわいてくるじゃねーか、オイッ!!」

 

『ソウダゼ定明ッ!!YO!YO!ッテ言エッ!YO!ッテよォーッ!!』

 

ははッ!!そりゃ良いやッ!!

あのラッキーガイ、ポコロコの様にぃ――。

 

「YO!YO!YOオォォーーーッ!!」

 

スケボーに跨がりながらラッパーの様な掛け声を出す、空を飛ぶ制服の様な奇妙なファッションに身を包む小学生。

そんな俺に地上から向けられる好奇の視線を一身に浴びつつ、俺は着地地点の橋の手すりを掠らせて、下にある隅田川の側道へとコースを変更。

上で『子供が落ちたぞッ!?』という悲鳴を聴きながら、狙撃地点のビル目指して爆走していく。

ったく、ここぞって時はツイてんのに、こと日常に関しちゃ、俺はツいてねぇぜ……だが、今回ばかりは頭にきたぞ。

普段の俺なら、自分に被害が来ない限りは放置している……だが、今回はどうしても許せなかった。

楽しみにしていた観光を台無しにされた事もそうだが……もっと許せねえのは、デビットさんを巻き込もうとした事だ。

あの時、『スタープラチナ』で犯人の目標を瞬時に逆算して気づかなきゃ……すかさずバックハンドで皇帝(エンペラー)を撃たなきゃ……デビットさんは死んでいただろう。

 

……他ならぬ、アリサの目の前で、それも巻き添えという最も巫山戯た形で。

 

あの時のアリサの成長には目を疑ったぜ……ああいう精神の爆発が、スタンドを操る上では最も重要になる。

幸か不幸かその場面に出会っちまったアリサは、本人の意識しねぇ所で成長の機会を得たって訳だ。

本当なら、そんな機会は永遠に存在しなくて良いっつうのに……よくもまぁやってくれたもんだな。

まぁ、結果的にアリサが精神的に強くなれた事”だけ”には、感謝するさ……。

今回の事が、これからアリサを襲うかもしれねえ危険に遭った時に活かされるかもしれねえんだからよ。

 

 

 

――だが、アイツ等の目の前で人を殺したのは、アウトだ。

 

 

 

あんな優しい奴等に、血を見せて……俺達の夏休みを、台無しにしたんだからな。

 

 

 

「勝手に招待しておいて、胸糞悪い三流劇見せやがって……キッチリ、盗られた入場料は返してもらうぜ……」

 

 

 

ついでにクレームも叩き付けてやるよ……もう二度と、こんな糞つまらねぇ劇を企画出来ねえ様に念入りに、な?

 

 

 

腹の底から沸き上がる、俺達の夏休みにとんだケチをつけたマヌケ野郎を叩きのめすという気持ち。

その溢れる思いを吐き出す様にアクセルを最大まで踏み込み、俺はスケボーを更に加速させる。

 

 

 

精々今を楽しんでおきな、犯人さんよ――”ツケ”は、必ず払ってもらうぜ?

 

 

 

to be continued……




今回の定明の服装は、挿絵を下さったガルウイング様の絵とリンクしておりますww

なるべく文章でも分かる様に書きましたが……伝わっている事を祈ります。

そして映画クロス第一弾ッ!!


選んだのは異次元の狙撃手、でしたww


映画となると一時間半……途轍もない分量が予想されます(小並感)

だってこんだけ書いてオープニング挟んでまだ少ししか進んでないし(´Д⊂グスン

コナン達も活躍させないといけないので、その展開運びも苦労するのは目に見えてる。

何より定明が本気出すと速攻で犯人タイーホだから。

余計にね、もう……もう、なんなんッ!?(自業自得)

チート野郎は動かしづらいぜぇ……。

という訳で、投稿遅くても堪忍してくだちゃいww


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