ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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ドーモ=ミナサン。PIGUZAM]=デス。

只今を持って、神室町より帰還致しました(笑)

……すいませんm(__)m
龍が如く0が神ゲー過ぎて、どっぷり嵌っていました(;・∀・)

そして仕事も忙しく、中々執筆が出来ない状況でして(´;ω;`)ウッ…

久しぶりの更新になりますが、これからも失踪せずに疾走していこうと思っております。

そして更に、このマジカルオーシャンに於いて、実は作風の工夫、という物を研究しておりました。



ズバリ、テーマは『ジョジョっぽい台詞回し、比喩表現』です。



以前と友人にそういったジョジョの映画に対するリスペクトや独特な比喩表現が少ない様に感じられた、という感想を頂きまして、今話ではその台詞回しや比喩表現を徹底的に研究しておりました。

なので色々と苦労しましたが、これで少しでもジョジョの奇妙な冒険という偉大な作品の影を見させて頂くくらいにはこのSSの雰囲気がジョジョに近づければ良いなーと考えている所存です。

出来ればその、ジョジョの独特な世界観の味わいを少しでも味わって頂ければと愚行する次第です。

では、皆さんドーゾ=ゴ賞味下サイ。(出来ればその感想も頂ければ作者は感無量です)




発明家のうちへ遊びに行こ(ry

ねぇ……こんな時、どういう顔したら良いのかしら?

 

 

 

切なそうに、それでいて湧き上がる高揚感を抑え切れないといった声音を紡ぐ彼女。

何処か俺の答えに期待している様な質問に対しての答えは、残念ながら俺には全く思い浮かばない。

 

 

 

……笑えば良いんじゃねぇか?

 

 

 

ほら、返せる言葉なんて何処かで聞いた事ありそうな、有り触れたフレーズだけだ。

勿論そんなチープな言葉は、向こうが求めてる答えじゃない。

案の定、彼女から返って来る言葉は喜色に富んだそれではなかった。

 

 

 

……そんなの……無理よ……無理に決まってるじゃない……ねぇ、どうしたら良いの?教えてよ?

 

 

 

やめろ、やめてくれ、俺に縋るんじゃねぇ。

それに対する満足の行く言葉を、俺なんかが知ってる訳無えじゃねえか。

 

 

 

いいえ。アンタは知ってる筈。いや知らなきゃ”おかしい”のよ……だって――。

 

 

 

俺の耳にだけ厳かに響いていた彼女の言葉。

やがてその声音は感情を表すかの如く、気炎を帯び――。

 

 

 

『人の電話を無視しくさってたあんた以外に答えられる人間が居る訳無いでしょうがこのバカ明ッ!!!アタシのこの怒りッ!!どう落とし前つける気なのか説明しなさーいッ!!』

 

 

 

一瞬で発火し、全てを燃やす豪炎(アリサ・バーニング)と化す。

 

 

 

いや、人によっては炎どころか爆発にも感じるこの迫力。

勿論その攻撃の発生源には近寄るまいと、俺は彼女の声が漏れる受話口から耳を思いっ切り離している。

 

「だから知らねーつってんだろうが。こっちはこっちで色々あったんだよ。それこそ分刻みで動くビジネスマンを装う潜入捜査中のデカ並みに、な」

 

『なにアクセルフォーリーっぽく気取ってるのよッ!!っていうかそんなギリギリの生活になる小学生なんて居る訳無いでしょうがッ!!あんたあたしを馬鹿にしてるのッ!?』

 

「いやいや、これでも反省してるんだぜ?それこそ、偶々近所の犬に懐かれて気分良~く撫でてたら自分の愛犬が機嫌損ねちまって参ったな~ってぐらいにはよ」

 

ガルルルルルルルル(お望みなら噛みついてあげるわよ)ルルルルルルッ(、ご主人様ぁ)!!』

 

人語を話せ人語を。お嬢様だろうに。いや犬の例えしたの俺だけど。

自分なりに反省してるという気持ちを表した例えで答えたが、電話の向こうのアイリッシュセッターのご機嫌は斜めのまんま。

っつうか感情が昂ぶったら威嚇って、そんなのは狼が素体のアルフだけで充分だ。

人間には言葉という素晴らしいコミュニケーション能力があるんだから、態々進化の過程で消えた威嚇なんてするなっての。

 

 

 

――ファミレスの事件が終わった翌日、今日も何にも起きません様にと祈りながら朝食を済ませ、ランニングから帰って来た時の事。

 

 

 

家無き子こと俺様城戸定明は探偵事務所のソファに座って、携帯電話を耳から数十センチ離した位置で電話を受けていた。

その表情、普段よりも七割増で死んだ目付きをしている事間違いなしだろうな。

スピーカーフォンにしてねぇのにこの位置まで声がハッキリ届くとかどんな肺活量だっての。

 

「ね、ねぇコナン君。定明君どうしたの?なんか、子供がしちゃいけない目付きになっちゃってるよ……具体的に言うと、夕方の商店街で『今日は何にしようかなぁ~』って悩んでた時にお魚屋さんの前で呼び込みしてるおじさんの手に握られてた魚みたいな目。あんまり生きの良さそうじゃないの」

 

「(それって死んだ魚みたいな目って事じゃ……しかも鮮度低い目ってオイ……)え、えっとね。さっき僕が部屋に戻ったら、定明にーちゃんの携帯がマナーモードで振動したから、定明にーちゃんに渡したんだけど……」

 

「そしたらあの坊主。最初携帯を見て、まるで捨てた筈の証拠が戻ってきた犯人みたいに、『ゲッ!?何でコレが此処にッ!?』みたいな顔しよったんや。ほんで、えらい嫌そうな顔しながら電話に出たら……」

 

「あの調子で怒られとる、ちゅうこと?」

 

「せや。話の内容やと、電話の相手は坊主に何度も電話しとったみたいやけど、坊主はまるで気付かんかったみたいやな」

 

何か俺の視線から離れた給湯室から俺の事を窺いながらヒソヒソ話してる蘭さん、和葉さんと探偵コンビに、俺は深い溜息を吐く。

しかしあの尋常ならざる覇気を纏っていた和葉さんからの折檻に耐え切るとは、服部さんの耐久力も中々のご様子。

ったく、携帯を見なかったのは悪いと思ってるけど、ここまで怒らなくても良いだろ。

 

まぁなんだ、朝食済ませてランニング終えて、探偵事務所でゆっくりと過ごしていたらこんな事になっちまった訳ですよ。

 

珍しくもあの事件の次の日、つまり今日はまだ何も起きていなかったので気が抜けていたってのもある。

まぁ昨日あの後、犯人に対する決定的な確定要素を俺が最初に当てたって事で世良さんからは俺がコナンと平次さんの勝負の勝者だとか言う謎の判定が下って面倒だったがな。

何が面倒って、自分達より先に犯人の目処を付けられた西と東の高校生探偵の二人の挑戦的な眼差しがだよ。

それ以外は特に支障は無く、今日という一日のスタートは比較的穏やかに過ごせた。

朝食前に波紋持続力UPのランニングをしてからパン屋に寄って美味しいパンを買ってきたり、コナンと服部さんに鉄球の技を見せたりって感じの暇具合。

他にも蘭さんや和葉さんの要望でマジック(もどき)を見せたりと、まぁ至って平穏だったな。

……ちなみに昨日の事件の後で気分転換にとカラオケ屋に行った時に、コナンの歌で耳が破壊されるかと思ったが。

いやはや……まさかあそこまで酷い音痴とは想像だにしなかったって。

 

 

 

しかしそんな俺の平和な朝の一時という尊い壁をどこぞの武神よろしくパンチ一発で粉々にブチ砕いてくれたのが、今もスマホ越しに怒鳴ってるアリサその人である。

 

 

 

最初コナンからスマホ受け取った時は本気で切るべきか大いに悩んだぜ。

だが、その場で切って放置してたら海鳴に帰った時にどうなるか分かったモンじゃないんだよな。

だって……昨日携帯チラッと覗いたら、着信件数とLINEがものっすごい事になってたし。

……吸血事件のあった日からずっと放置してたのが失敗だったな。

さすがに寝る前だったから返信せずに更に放置したけど、さっきコナンから受け取るまですっかり忘れてたっての。

って事で電話に出たのはいいけど、そしたらまぁ出るわ出るわの怒りの言葉の台風。

本日のアリサは大荒れの模様ってか?正直耳が痛くなってきそうだぜ。

 

『ちょっとッ!!あんたちゃんと人の話を聞いてるんでしょうねッ!?』

 

「あーはいはい。ちゃんと聞いてるって。任せろ任せろ」

 

『へぇ?じゃあさっきアタシは何て言ったかしら?』

 

「あん?何か言ってたか?」

 

『質問を返すなあぁーーーッ!?アタシは五日後の何時に帰ってくるかと聞いたのよッ!!疑問文には疑問文で返せと学校で習ったのかアンタはぁッ!?』

 

どうやら頭の片隅で別の事考えながら応対してたら、アリサの質問を聞き逃してたらしい。

案の定アリサのガーッという叫び……というか咆哮が鳴り響くが、まぁ仕方ねぇ。今のはさすがに俺が悪かったか。

スマホを耳から離して持ったまま、俺は朝のトレーニングついでにこの近辺で一番美味しいパン屋で買ってきたフルーツサンドを頬張る。

波紋の呼吸の持続力アップの為に全力疾走で往復3キロ程走ってきたから、ちょっと小腹が空いてるんだよ。

 

「もぐもぐ……そういや、まだ新幹線のチケット取ってなかったな……もぐもぐ……わざわざ、もぐもぐ、電話してもらって、もぐ、スマネェけどもぐ……まだ、もぐもぐ、分かんね、もぐもぐ」

 

『……食べるか喋るか、どっちかにしてくれないかしら……ッ!!』

 

「んぐ、ごくん。もぐもぐ」

 

『迷い無く食べ始めるんじゃあないッ!!!こういう時は話しを聞くのがマナーってモンでしょうがッ!!』

 

「もぐもぐ……んーな事言ったってよぉ。これフルーツサンドだぞ?もぐもぐ……冷たいうちに食わなきゃクッソ不味くて食えたモンじゃ、もぐもぐ」

 

『せめて最後まで喋りなさいよぉ……ッ!!……ハァ……まぁ良いわ……兎に角、あと五日したらこっちに帰ってくるのは確定なのね?』

 

ふと、俺が適当な応対をしていた事に怒り心頭だったアリサがその怒りを抑えて話を戻した。

抑えてって言うよりか脱力って感じだが……なんだなんだ?アリサにしては随分と優しい対応だな。

 

『……なんか失礼な事考えられてそうだけど、あんたと漫才してたら何時まで経っても話が進まないから怒るの止めたのよ……別に、アンタが元気そうなら……まぁ、それで良いし』

 

「んー……まぁ概ね元気でやってるぜ?怪我もしてねぇしビョーキもねぇが……なんだ?心配してくれてたのか?」

 

『バッ!?だだ、誰が心配なんかするのよッ!?た、ただそう……ア、アレよッ!!あんたがもし、まぁ爪の先ほども不調だったらこっちに帰って来た時に連れまわせないって思っただけよッ!!変な勘違いすんなッ!!』

 

世間一般ではそれを心配と言うと思うんだが?

まぁそんな野暮な事を突っ込めばまたアリサの『ほえる』が発動しちまうので、心に留めるだけにする。

また感謝するのは別の時で良いだろ。

最後の一切れを急いで飲み込んだ俺は、スマホを耳元に近づけて会話を続ける。

 

「とりあえず五日後に帰るのは確定だ。時間は決めてねーけど、アリサん家の別荘に行くのは七日後だろ?差し引き二日の余裕があるし、それまでには間に合うから問題無えぞ」

 

『……ふ、ふ~ん?そう、間に合うのね?な、なら良いわ……う、うちの別荘に来れる機会なんて早々無いんだから、精々楽しみにしてなさい』

 

「あいあい。じゃあそろそろ切るわ。ここんとこ充電してなかったからそろそろ電池が切れそうなんでな」

 

『待ちなさい。アンタ、ちゃんとすずかとリサリサにも電話してあげなさいよ。二人共あんたが全然電話に出なくて心配してたんだから』

 

「……」

 

『返事は?』

 

「へー、へー。スイませェん……ちゃんと電話しまぁす……」

 

『ん、よろしい。それじゃあ切るけど……あんまり心配させるんじゃないわよ、バカ』

 

と、最後にか細い声でそれだけ付け加えて、アリサは一方的に電話を切ってしまう。

しかもそれで終わらせようとせずに更なる面倒なミッションをオーダーしてきやがった。

そのミッションの難易度に、さすがの俺も顔を歪めてしまう。

難易度で言えばもう一回月村裕二と戦う方が俺にはマシに感じられる程だ。

とりあえず、折角鎮めた怒りを再燃させられちゃ敵わないので、俺は溜息を吐きながらすずかの番号をコールする。

まっ、”電池はフル充電だし問題は無い”か。

後でアリサにバレたら簀巻きにされてオラオラは確定なんだが、まぁバレなきゃどうという事も無い。

怒りに燃えるお嬢様の怒声で傷んだ耳を揉み解しながら、俺は後二人のご機嫌を伺う為のお為ごかしの言葉を考える。

ったく、ままならねぇもんだよな。こちとら大事な従姉妹の命を守る為に戦ったってのによ。

 

『も、もしもしッ!?定明君ッ!?』

 

「あー、よぉ、すずか。元気してっか?」

 

ついこの前の生命を賭けた戦いを思い出していると、受話口からすずかの切迫した声が響いてきた。

余程気を揉ませちまったんだろう。

なので、なるべく自分は大丈夫だっていうアピールのつもりで軽い調子で声を出したんだが……。

 

『う、うん。私は元気、ってそうじゃなくてッ!!定明君、どうして電話してくれなかったのッ!?』

 

「つぁ……ッ!?」

 

さっきまではちょっとでかいかなってぐらいだったのにいきなり声量アップしたから耳がやられるかと思った。

俺が耳を話した事で声が聞こえなくなったからか、スピーカーからすずかが『もしもしッ!?定明君ッ!!』と叫んでいる。

もう少し声を落としてくれよな……何時かマジに耳鼻科のお世話になっちまうっての。

俺は溜息を吐きたい気持ちを抑えながら携帯に耳を寄せて、すずかに落ち着く様に促して会話を再開する。

 

『私、お姉ちゃんとイレインから定明君が事件に巻き込まれたって聞いて、ずっと心配してたんだよッ!!何回も電話したし、LINEだって……ッ!!』

 

「ん……悪い悪い。ちょっと携帯を放置してたら気付かなかったんだよ。本当にスマねぇ」

 

『……もう……本当に……心配したんだからね……?』

 

どうやらイレインと忍さんはすずかに今回の事件の事を話してたらしく、すずかの声は震えていた。

それは大声を出した時も、今の感情が落ち着いた時も変わらず、本当に俺を心配してたってのが凄く伝わってくる。

なのでどうしようもなくこっちが悪いって気持ちにさせられてしまう。

まぁすずか達の事に関しては100%俺が悪いので弁解の余地も無えんだがな。

 

「兎に角、俺は特に問題無く五体満足で生きてるし、中々にスリルに溢れた生活を一生分くらい満喫する羽目になったが、まぁ心配しなくても大丈夫だ」

 

『ス、スリルって……定明君が大丈夫なら良いけど……あんまり危ない事、しないでね?』

 

「分かってるっての。俺だって毎日がスリルと迫り来る(DIE)に満ち溢れたハードな日常なんか御免だ。ジョン・マクレーンみてーな生活はゴメンだね。俺はあんなタフマンじゃ無いからな」

 

何が悲しくて簡単な補導任務がサツも真っ青な銃撃戦に擦り変わっちまう男になりたいもんかよ、と言うおどけながらの言葉に、すずかは「もう」と少し怒る。

あんなクソカス野郎の月村祐二の話をすずかにしても、お互いに気分が悪くなるだけだと思ったので話題を逸らしてみたが、どうやら成功したっぽい。

一々あんな奴の事を思い出すのなんて、億劫で憂鬱で嫌悪すら覚えるっての。

しかし俺の言葉を聞いたすずかはというと、何故かスピーカー越しに難しそうな声音で唸り始めた。

 

『んー……でも定明君なら、本当の意味でDIE HARD(なかなか死なない者(不死身))になれそうだけどなぁ……』

 

強いって意味で、ね?そう締め括るすずかの言葉に、俺は苦笑してしまう。

確かに俺なら早々死なないくらいしぶとく生きる事が出来るだろうな。

それこそスタンド能力や波紋、鉄球の技術を持つ俺にはそれだけの行動の選択に対する自由が得られる。

だからって、自分から危険に飛び込みしたくはねぇがな。

 

「まっ、どうあれ自分からアクション起こす気はねぇよ。それよりもう少ししたら帰るから、次は旅行の時に会おうぜ」

 

『うんっ。楽しみにしてるから……何かあったら、気を付けてね?』

 

「分ーかってるって。信用ねぇなぁ」

 

『ふふっ♪それは仕方が無いと思うよ?じゃあ、バイバイ♪』

 

俺のげんなりした声に満足したのか、すずかは上機嫌気味に挨拶し、俺も「おう」と答えて電話を切る。

結果として、四苦八苦しながらも何とか怒り(悲しみ?)を納めてもらう事に成功。

すずかはこっちの(少ない)良心に訴えかける様にオドオドしながらも心配したって再三言ってたが、何とか納得してもらったよ。

そして再び電話を操作して、最後はリサリサの番号をタップ。

無機質なコール音を聞きながら、俺はポケーっと事務所の窓から見える青空に視線を向ける。

……さっきのアリサもそうだが……女ってのは一度怒らせると本当に厄介だってのは身に沁みて理解出来た。

しかも全くもってこっちに非があるから無視も出来ねえし。

 

『(pi)はい、もしもし。アリサ・ローウェルですが……”何方でしょうか?”』

 

oh……のっけからヤバそうな予感。

 

「……よぉ。俺だ、定明だ」

 

『あら、ジョジョ?御免なさい。”久しぶり過ぎて気が付かなかったわ”』

 

「……そうか」

 

電話に出たリサリサの声は何時もより少し高め……なんだが……所々無機質にも感じる。

それこそ、留守番電話の伝言サービスが概要だけを話し掛けてくるくらいに冷たいというか。

っていうかアドレスに登録してるのにどちら様ってのは無えだろ……こりゃマジに怒ってるな。

 

「えっと、その、なんだ……悪かったな……碌に電話も返さないで、よ」

 

『あぁ、いえ。良いのよ?私はただ、”遠い町に一人で行ってしまった貴方が心配でしつこく連絡していただけ”だもの。でも元気そうで何よりだわ♪』

 

「……あー……んー……」

 

『ふふっ。でもごめんなさい。私ったら”10回近くも電話とLINEをしつこく鳴らしちゃって”……迷惑だったでしょ?』

 

「いや、迷惑なんてこたぁ無えよ。ただこっちも誘拐事件やら何やらに巻き込まれてて、それこそパルプ・フィクション並みの右往左往する展開が毎日の様にだな……」

 

『ッ!?ご、ごめんなさい……まさかジョジョが”1週間以上もずっとそんな事件に連続で巻き込まれて息も吐く暇が無い程に忙しかった所為で連絡出来なかった”なんて気付かなくて……そんな、パンプキンとハニー・バニーみたいにその場のノリで強盗しちゃう様な勢いで事件に巻き込まれる忙しい日常だったら、連絡なんて無理よね……』

 

「……」

 

連絡放置でほぼ遊び呆けてた、なんて……言えねーよなぁ。

っつうかお前も観たのか、パルプ・フィクション。

少なくともうら若き女子が見るモンじゃねーぞアレ。

 

『貴方がそんな大変な目に遭ってたのに、無神経に何度も連絡しちゃうなんて……本当にごめんなさい』

 

「OKOK。もっと前向きで建設的な、それこそ実りある話をしようぜ?昼間っから過ぎ去った過去話で時間潰してちゃ勿体無さ過ぎる。休日のリーマンしかり放課後の学生しかり、それこそ昼下がりの主婦だって煎餅齧りながら笑点見てるとか、もっと有意義な時間を過ごしてるしよ。俺達もそれに倣うべきだろ?」

 

悲しそうに自分の行いを恥じるリサリサだが、その言葉の剣の切っ先は全て俺向きだ。

遠まわしな言い方だが、間違い無く俺が連絡ブッチしてたのを怒ってる。

それだけは確実に分かった。確実。そう、コーラを飲んだらげっぷが出るくらいに確実にな。

だから俺は彼女の怒りを納めてもらう為に『提案』する。

この城戸定明、『言い訳』はしても『禍根』は残さないのが心情なんでな。

そんなモノを残して後からミミズの様に這い出られても困るし。

 

『それは素敵な提案ね♪過去を引き摺らず、未来(これから)の事を話し合うのは凄く大切だと思うわ。具体的に……そうね。さしあたってはアリサの別荘に行く時だけど。私、私用の水着は持っていなくて……」

 

「そりゃ丁度良い。俺は五日後には海鳴に帰るんだが、俺も奇遇な事に旅行まで時間は空いててな。リサリサさえ良いんなら一緒に買物なんてどうだ?」

 

『あら?それってデートのお誘い?それにしては少し回りくどくないかしら?』

 

「紳士的なエスコートじゃなくて悪いが、生憎と俺は生粋の日本人だから今どきの者らしく紳士のマナーは皆無なんだよ。最近のニュースでも言ってたろ?日本人の男子は紳士的じゃないって。俺に紳士さを期待すんなら、杉下右京さんにワイルドさを求めるも同義だと思ってくれ」

 

『……そんな事無いわ……一人で勝手に拗ねて八つ当たりしてる私に、気を使ってくれてるんですもの。それは充分に紳士足りうると思うけど?それと、私は完璧なGentleである杉下さんより、情熱と愛嬌のある亀山さんの方が好みよ♪』

 

さっきまでの少し冷たい雰囲気を和らげて、リサリサは電話越しに笑う。

それは俺の行いを笑うものでは無く、クスクスといった楽しみに溢れた笑う声だ。

 

「……どっちも俺には欠けた魅力、だな。その二人と比べられちゃ、俺は(紳士さ)焼き豚(情熱)の入ってない炒飯みてーなもんだ」

 

『それじゃ炒飯として成立しないじゃない……まぁ確かにジョジョは焼き豚(情熱)はあまりなさそうだけど……少なくとも、()は入ってると思うけどね』

 

「あ?」

 

『いいえ、何でも無いわ……ふふっ』

 

その後のリサリサは特に不機嫌そうな様子も無く、まぁ楽しくお喋りできたとは思う。

最後にちゃんと旅行に行く前に買い物する約束をして、俺は電話を切って天を仰ぐ。

彼女は最後に『意地悪してごめんなさい♪』と楽しげに言って通話を切り、俺は今日一番の大きな溜息を吐く。

そのままメールを開いて、二、三回だけの着信だったなのはと相馬に謝罪のメールを入れてスマホの画面を消した。

どうやら何とか今回の件に関しては許してもらえた様だが……これからはなるべく着信に気を配るか。

ハァ、ホントに……やれやれだぜ。

 

「あ。電話終わったの、定明君?」

 

「はい。今終わったッスよ」

 

「なんや、えらい怒られてたみたいやけど、何かしてもうたん?」

 

と、俺が電話を切ったのを確認した蘭さんと和葉さんが給湯室から出て話しかけてくる。

その二人に友達たちが何回も連絡してたのに俺がそれに気付かなかったから怒られたと答えると、二人も苦笑いを浮かべた。

 

「それはまぁ、四六時中携帯を確認しとる訳や無いんやろうけど……なぁ、蘭ちゃん?」

 

「ま、まぁ、今回は女の子達のやるせない気持ちを受け止めたって事で良いんじゃないかな?」

 

「せやな。それを受け止めるんも男の子の宿命やで。頑張れ、男の子」

 

「こんなのが毎回続くってんなら、俺はその宿命とやらを運命付けた野郎をはっ倒しますよ。男の子としてね」

 

やっぱり同じ女としてはリサリサ達に同意している蘭さん達に、俺は被りを振って言葉を返す。

こんな面倒くせーのはこれっきりにしてもらいたいもんだぜ。

ダラッとソファーにダラける俺を、対面のソファーに座った服部さんとコナンが少し驚いた様な表情を浮かべて見ている。

 

「しっかし、坊主も随分アレな映画の例えを出しとったな。チョイス渋すぎるんとちゃうか?」

 

「??アレな映画って何なん、平次?」

 

「何って、さっき坊主が言うとったヤツや。分刻みで動くビジネスマンやら、ジョン・マクレーンみてーな生活はゴメンだって言うとったやろ?」

 

「え?あれって映画の話なの?」

 

服部さんが俺の例え話で出した言葉を繰り返すと、蘭さんと和葉さんは「そうなの?」と聞きたげな視線で俺を見てくる。

その問いに対して答えようとするが、俺より先にコナンが口を開いた。

 

「最初のは、アクセル・フォーリーっていうデトロイトの刑事が型破りな捜査で事件を解決するビバリーヒルズコップっていう映画。定明にーちゃんがさっき言ってた分刻みで動くビジネスマンっていうのは、その2作目でアクセルがやってた潜入捜査中の肩書きの事だよ」

 

「ほんで、ジョン・マクレーンっちゅうのは同じく刑事ものの映画、ダイハードの主人公の名前やな。シリーズ全作通して何故か厄介事に巻き込まれとるから、『最もツイてない男』なんて渾名付きや」

 

「ある意味、『最も憑いてる』んでしょうけどね」

 

「まぁな。んで、その二つの映画の一作目が公開されたんは今から25年以上も前の80年代でな。俺等からしてもごっつう古い映画や」

 

「へー、そんなに古い映画なんか?」

 

「コナン君も良く知ってるね?」

 

「う、うん。前に新一にーちゃんが教えてくれたから」

 

「そうなんだ……確かに、新一って良く古い映画も見てたっけ」

 

俺の例え話の内容を事細かに説明する服部さんとコナンに、二人は少し驚いた表情を見せる。

確かにそれだけ昔の映画なら、9才児の俺が知ってるのには驚く所もあるか。

 

「それにあれはどっちかっていうと大人向けの映画やし、何でそれを坊主が知っとんのかなって思ったんや」

 

「あー、それっすか。俺の父ちゃん、映画鑑賞が趣味なんスよ。んで、俺も暇な時は父ちゃんからDVD借りて良く見てたんでその影響っすね」

 

俺がそう答えると、服部さんとコナンも「そういう事か」と納得した顔を見せる。

ちなみに今の話は本当の事だ。

父ちゃんは古い映画から新しい映画まで全部好きだから、家のDVD棚を並べたらレンタルショップの棚にも見える。

最近はブルーレイと外付けHDDを買ったからそれにデータを移しているので、大分減ってきてはいるがな。

それでも映画の本数はかなりのモノで、俺も暇潰しがてらに良く色んな映画を見ているって訳だ。

 

「俺としては最近のより古い映画の方が面白いんスけどね。展開も早過ぎないゆったりとしたコメディとか、CGが過剰に使われて無い俳優の演技力とか」

 

「ほぉ?例えばどんなんや?」

 

「んー……ここに来る前に見た映画で、マウス・ハントって映画はかーなーり面白かったッスね。人間VSネズミの壮絶なバトルは最高に笑えました」

 

「に、人間対ネズミって……何か、聞いた感じだとSFホラーっぽいんだけど……」

 

「いやいや。そんな種族全体の戦いじゃなくて、とある二人の兄弟VS一匹のネズミによる家を賭けたコメディバトルですから」

 

端折りまくった俺の説明を聞いてちょっと引いた感じだった蘭さんに、もう少し詳しく内容を語る。

ハント、なんて物騒な題名だけど、あれは正しくコメディと感動が混ざった名作だ。

俺の適当な説明で誤解して欲しくない。

なので懇切丁寧にあらすじだけを説明すると、4人とも興味が沸いた風な表情を浮かべた。

 

「確かに、定明君の話を聞いた感じだと結構面白そうだね。今日借りてみようかな。コナン君も見てみたい?」

 

「うん。僕もなんか気になってきちゃった」

 

「なー平次。あたしらも大阪に帰ったら見てみぃひん?」

 

「そうやな。もう課題も全部終わっとるし、偶には映画で時間潰すんも良えやろ」

 

「えぇ。是非見て下さいッス。特に冒頭で兄弟達のお父さんが棺桶から下水道にダイブする姿は抱腹絶倒モンですから」

 

「「それってどんな状況ッ!?」」

 

「……まぁ、コメディもんって考えたら笑える様な状況なんやろうけど……」

 

「あ、はは……」

 

俺的に一番オススメのお笑い場所を推薦したら、それは和葉さんと蘭さんに揃ってツッコミをもらってしまう。

服部さんとコナンも苦笑いしているぐらいだ。

でも、俺は思う。あのシーンは絶対に笑わない人は居ないだろうと。

 

「ところで話は変わるんスけど、蘭さんの幼なじみの新一さんって人いるじゃないっすか?」

 

「え?う、うん。新一がどうかしたの?」

 

「いやね?俺思ったんスけど、その新一って人と服部さん、それに小五郎の伯父さんってジョン・マクレーンにそっくりじゃないかなーと」

 

「はぁ?どこが似とんねん。俺はあんな後光が差しそうなスキンヘッドちゃうし、あのおっさんみたいにちょび髭の生えた間抜け面やないわ」

 

「えっと、ジョン・マクレーン……(pipi)……いや。新一はこんなハードボイルドじゃないよ。もっと子供っぽいかな」

 

(子供っぽくもねえよ)

 

俺の言葉に服部さんは呆れながら否定し、携帯でジョン・マクレーンの写真を検索した蘭さんも苦笑いしながら否定。

まぁ確かに外見は似てねぇだろうけど、俺が言いたいのはそこじゃない。

 

「見た目じゃないっすよ。俺が言ってんのは、”出歩けば事件に巻き込まれる所がそっくり”って事っすよ。ホラ、マクレーンと同じで”最もツいてなくて、最も憑いてる男”じゃないっすか――死神が」

 

「……あー……」

 

「確かに、そう言うたら今定明君が言うた3人はそっくりやな」

 

「……ここまで直球で死神が憑いてる言われたんは初めてやで」

 

「は、はは(まぁ、俺達の知名度=事件に良く関わってるって事なんだけどな……)」

 

俺が「ね?」と締めくくった言葉に、四人揃って微妙な顔になってしまう。

しかし俺は間違った事を言ってるつもりは無いんだけどな。

寧ろ事件ある所に名探偵!!じゃなくて名探偵の居る所に事件の影あり!!ってのは間違いじゃねぇだろうと。

一応お祓いしてもらったらと勧めたが、それは丁重に断られてしまった。

まぁお祓い程度でどうこうなる体質じゃ無えだろうけど。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「いや~長い事世話んなってしもてスマンかったな、おっちゃん」

 

「小五郎のおっちゃん、ありがとう」

 

「ったく、今度からは前もって連絡ぐらいしやがれってんだ」

 

「蘭ちゃんもごめんなぁ、長い事お邪魔してもうて」

 

「ううん。凄く楽しかったよ。また遊びに来てね♪」

 

「うん。蘭ちゃんもまた大阪に遊びに来てな♪めっちゃ美味しいお好み焼き屋さん紹介するで」

 

米花駅のホームにて、昼飯時の少し前。大体11時半ってトコだろうか。

土産なんかの荷物を抱えた服部さんと和葉さんが伯父さんや蘭さんにお別れと感謝の言葉を述べる。

それに対して伯父さんは面倒くさそうに、蘭さんは和葉さんと楽しそうに会話しながらという対象的な状況を催していた。

6日程になった服部さんと和葉さんの滞在は今日で終わり、二人は今から新幹線に乗って大阪に帰るって訳だ。

まぁこんな中途半端な時間になったのは、新幹線の予約がこの時間しか空いて無かった所為なんだが。

お蔭でもう直ぐ昼前だってのに俺達は相変わらず何も食って無い。

昨日の焼き増しな状況かと一瞬思っちまった。

 

……まさか殺人事件まで昨日の焼き増しで起きたりしねぇだろーな?勘弁してくれよ。

 

なんて思っていると、和葉さんがしゃがみこんで俺と目を合わせてきた。

 

「定明君も蘭ちゃん達と一緒に遊びに来てな?お姉さんが大阪のええ所、いっぱい紹介してあげるで」

 

「ういっす。まぁ確立低いだろうけど、また伯父さんの所に居る事があって尚且つ伯父さん達と大阪に行く様な事があれば、そん時はお願いします」

 

和葉さんのお誘いに対して苦笑しながら返せば、和葉さんも「そうやな」と言って苦笑い。

今回だって偶々偶然が重なったからこその出会いだった訳で、こんな事は早々ねぇだろうし。

 

「坊主。今回は俺の負けやけど、こん次会うた時は絶対にその鉄球の謎暴いたるでなッ!!首洗って待っとけよッ!!」

 

と、和葉さんと入れ替わりで俺の目の前にしゃがみこんだ服部さんは挑戦的な目付きでそう宣言する。

今回は服部さん達が大阪に帰る事でタイムオーバーになったから余計悔しい筈だ。

解いても問題無い謎を残していくのは、かなりモヤモヤするだろう。

まっ、俺としてはロジックで雁字搦めな思考をしてる服部さんやコナンには絶対に解ける筈無いと踏んでた訳だがな。

そんな感じでリベンジに燃える服部さんに、俺も笑みを返し――手を差し出す。

言っておくが握手ではない。

 

「じゃ、服部さんは滞在中に鉄球の謎解けなかったんで百円下さい」

 

「おまッ!?……こ、こういう時くらい金の話忘れて爽やかに送り出すんが人情やろ……ほれ」

 

「どもっす。いや、別にそこまで拘ってなかったんスけどね。今回の勝負は俺の勝ちっていう明確な形が欲しかったんスよ。まぁレシートみたいなモンだと思って下さい」

 

別れの時に清々しい笑顔で賭けの代金を催促する俺に、服部さんは疲れた顔で百円玉を渡す。

これも初日に俺に面倒なマジックもどきをさせた事への報復だと思ってくれ。

そんな感じでコントをしてたら、丁度新幹線がホームに到着。

服部さんと和葉さんが乗り込んで少しすると、プルルルという発進音が鳴り響いた。

 

「ほんなら、またなー」

 

「蘭ちゃん。空手の大会、頑張ってッ!!」

 

「うんッ!!和葉ちゃんも合気道の昇段試験、頑張ってねッ!!」

 

「バイバーイッ!!」

 

と、蘭さんと和葉さん、コナンと服部さんの別れの挨拶の直ぐ後で新幹線の扉が閉まり、プァーンという汽笛の音と共に新幹線は駅を去っていく。

予想していなかった来客だったが、まぁ楽しかったから良しとしとくか。

出来れば次に会う事があんなら死神体質を完全に無くした状態である事を願うぜ。

まぁ間違いなく無理だろうけど。

 

「さあて、そんじゃあ帰るか。新台の玉の出具合のチェックもしねぇと……」

 

「もうお父さん。あんまりパチンコで無駄遣いしないでよね」

 

「バーロォ。パチンコは男の戦いだ」

 

「伯父さん。昨日のファミレスでおっさん達が立ち話してたの聞いたんスけど、六丁目のアラビアンって台が穴場らしいッスよ」

 

「おっ!?そりゃホントかッ!?うっーっしッ!!なら今からいっちょ張り込み(軽く打ち)に行かねぇとな」

 

「話が当たってたら景品がっぽりお願いしますねー」

 

「おうよッ!!がっつり稼いでやるから楽しみにしとけよッ!!ナーハッハッハッハッ!!」

 

服部さん達を見送って駅のホームから出て、俺と伯父さんは和気藹々とした会話を繰り広げながら歩く。

その後ろで何やら蘭さんが呆れた顔してるが、まぁ大丈夫だろ。

何より今日はこれからちょっと急がなくてはならない事情があったりする。

 

「さあて。そんじゃコナン、この後は阿笠博士の家に行くんだっけか?」

 

「う、うん。ハカセが定明にーちゃんにこの前のお礼をしたいから、家に来てくれって」

 

伯父さんが高笑いしながら蘭さんと一緒に帰っていくのを見送ってからコナンに声を掛けると、コナンは少し苦笑しながら答えた。

今日も今日とて俺は探偵事務所でボケっとする事は許されず、コナンと行動を共にしなくてはならならいのだ。

その理由が今コナンが言った様に、例の発明家である阿笠博士から家に招待されたからだったり。

このお誘いは昨日の夜にコナンから伝えられていて、俺が了承したのである。

何でもあの誘拐事件で助けに来てくれた事への感謝の印として、俺にある発明品を送りたいということらしい。

それを聞いた俺は、興味本位でその誘いにOKを出した。

本音を言えば、名探偵コナンの世界で次々とユニークな発明品を生み出す博士の発明品に興味が沸いたからだ。

何せ現実じゃ在り得ないレベルの発明品なんだし、見て損は無いだろうよ。

 

「んじゃ、案内頼むぜ?俺は場所分かんねーからよ」

 

首の骨を鳴らしつつ頼むと、コナンは「うん。こっちだよ」と俺の横に並んで歩き出す。

そのまま俺達は駅から離れて真夏日の日が照る住宅街を歩く。

 

「しっかし、なんだろうな。俺に送りたい発明品って?コナンは何か分かるか?」

 

「んー……多分、探偵バッジじゃない?光彦達は定明にーちゃんを少年探偵団に入れる気満々だったし」

 

「勘弁してくれ。俺は探偵団なんかに入る気はねーんだっての」

 

「あはは。他には、腕時計型ライトとかかな?これは結構便利だよ。スマホが無くても明かりが作れるから」

 

「まぁ、それなら欲しいかもな」

 

出来ればそれであって欲しい所だ。

間違っても探偵バッジだなんて呼び出し機能は勘弁願いてぇ。

まっ、貰えるならありがたいってぐらいで考えておくか。

そのままコナンと他愛無い話をしたり、せがまれて鉄球の回転を披露しながら、俺は阿笠博士の家へと向かうのだった。

……どうでも良いけど、あと5日間はこうやって鉄球を見せてとせがまれるんだろうか?

どれだけ見ても解けないと思うがなぁ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ここがハカセの家だよ」

 

「はー。かなりデケェ家だな……」

 

コナンと二人で歩く事数十分。

俺とコナンは米花町2丁目にある阿笠ハカセの家の前に立っていた。

塀の中に聳える大きなオーバル状の家と、広い庭。

こんな豪邸を持ってるって事は、やっぱり発明品とかを売って結構儲かってるって事なんだろう。

そして、その隣のこれまたデカイ家が工藤。つまりコナンの家って訳で――。

 

「……ん?」

 

「??どうしたの?」

 

「……いや……」

 

一瞬、誰かに見られた気がしたんだが……気の所為か?

 

『定明~。気ノ所為ジャナイゼ~』

 

「ッ!?」

 

『落チ着ケヨォォ~~。辺リヲ見渡スノハ、ココデヤル事ジャナイカラナッ!!ホレッ、目ノ前ノ坊主ガ首傾ゲテルゼェ~?』

 

「??……定明にーちゃん?」

 

「……いや、何でもねぇ。気にしねぇでくれ」

 

いきなり耳元で話しかけられて驚いてしまい、そんな俺をコナンが首を傾げながら見ていたが、それに何でもないと返す。

コナンは不思議そうにしていたが、気を取り直してハカセの家のインターホンを鳴らす。

何とか怪しまれずに済んだ事に安堵しながら、俺はいきなり話しかけてきた『奴』をジロリと睨む。

 

《ヘイ・ヤー。テメェいきなり出てくるんじゃねぇよ》

 

自らのスタンドの一つである主を励ますスタンド、『ヘイ・ヤー』を心の中で叱ると、『ヘイ・ヤー』はクックッと低く笑う。

 

《ヘッヘッヘ。何トモツレネェゴ主人様ダゼ。折角オメェノ勘ガ正シイッテ教エテオコウトシタノニヨォ~》

 

《……あ?》

 

阿笠ハカセの家の門を潜りつつも、俺は『ヘイ・ヤー』との心中での会話を止めない。

こいつが俺の意志に関係無く勝手に出てくる時ってのは、本当に重大な場面だけだからだ。

それこそスロットでスリーセブンのゾロ目が出る直前の選択を確実なモノにする為の様に。

 

《良イカ定明?オメェノ直感トデモ呼ベル今ノ勘ハ間違ッテネェゼ?今ノ視線ニ感ヅイタ素振リヲ見センナ。見セタラ最後、オメェハ果テシナイ面倒ニ巻キ込マレル事、請ケ合イダカラヨ》

 

《……マジか?》

 

《アァ。ダガ心配ハイラネエ。今気ヅイタ振リシナキャ、後ハ問題無シ。ココガ分水嶺ッテヤツナノサ》

 

『ヘイ・ヤー』がここまでしつこく言ってくるって事は、さっきの視線の主は相当な面倒を抱えてるって事なんだろう。

そいつに俺はホンの1ミリ、それこそ爪の先っちょ程でも気付いたのを見せれば、俺も巻き込まれるらしい。

ったく、こちとら平穏無事に過ごしたいだけだってのによぉ。

正しく面倒事のメッカとも言える米花町の異常さに目眩でも起こしそうだ。

 

《ヨオ ヨオ ヨオ ヨオ ヨオ ヨオォォォォ――ッ。定明チャンヨォォォォ――ソウムキニナルナッツーノッ!!ヨォ――ヨォ。肩ノ力抜キナヨォォォォォ――》

 

だが、それより先に俺の両肩をグニグニとマッサージでもする様に揉んでくる『ヘイ・ヤー』が、俺の緊張を和らげる。

表情の分かり辛い、目の無いバケツの顔が、俺を励まし続けている。

それが、俺を励まして俺に幸運というものを信じさせて勇気づける事のみが『ヘイ・ヤー』の唯一にして最大の能力だからだ。

 

《何時ダッテ味方ダロォォォォォガヨォォォォ。信ジロ、今日ノオメェサンニャ幸運ノ女神モ俺モツイテルンダ。コノ展開ヲ味方ニツケルノサ。ソレガ、コノ展開ヲ乗リ切ル事コソガ、オメェサンノ幸運ニ化ケルンダヨ》

 

《……この展開を味方に?ロープの切れかけた縄橋をおっかなびっくり渡る様なこのスリリングな状況が俺に味方してくれるってのかよ?……笑わせやがる。そんな奇跡は、ポーカーでチェンジ無しに五回連続ロイヤルストレートフラッシュを当てる様なもんだろうが》

 

《オッオォ♪オッオ♪オ~~ヨッ!!》

 

馬鹿馬鹿しいと感じた思いをそのままに吐き出すが、『ヘイ・ヤー』はそれを聞いて尚更楽しそうに笑いだす。

まるで人は鰻で空を飛べると信じている子供の言葉を笑う大人の様に。

 

《オメェサンコソ笑ッチマウヨーナ事言ッテンジャネェヨォォォ……ポーカーデ五回連続ロイヤルストレートフラッシュ?ソンナモンハナァ、当タッテ当然ダロォォ~ガ。ン~ナチャチィモン(・・・・・・)ハ、今日ノオメェサンニトッチャ幸運ナンカジャ無エ。人ガ息シネート生キラレネェッツー程ニ当タリ前ナノサ……ソラ、コンナ会話シテル内ニ、幸運ガ転ガリ込ンデ来テルゼ~?》

 

「お~いハカセ。定明にーちゃん連れてきたぞ」

 

『おおッ!!待っとったぞッ!!今、哀君に開けてもらうからのう』

 

そこまで言われてやっと気付いた。

俺が『ヘイ・ヤー』と会話してる間に、俺は庭を渡りきり、コナンと一緒に玄関に立っているではないか。

その玄関も、既にノブが捻られて開く寸前。

……もしかして、『ヘイ・ヤー』が言っている『この展開』というのは、『ヘイ・ヤー』と話していて何事も無くハカセの家へと入る事では無かったのか?

俺がさっきの視線に意識を向けて辺りを見回したりしない様に、『ヘイ・ヤー』は俺を言葉で励まして『導いて』くれていたのでは?

そこまで考えが及んだ時には、『ヘイ・ヤー』は己の小柄な躰を俺の中へとズブズブと鎮め始めていた。

しかし、相変わらず感情の見えない顔で笑いながらである。

 

《ヘッへへ……忘レンナヨォ。俺ハオメェサンヲ励マシテ前へ進マセルスタンド。ソレ以上デモソレ以下デモ無エ。”太陽ガ東カラ昇ッテ西へ沈ムッテイウノト同ジ”ナノサ。ソレニオメェサンノ三番目ノ女ハ、幸運ノ女神サマナンダゼエェェェェ♪旦那ナンカヨリ遥カニ愛サレテンノヲ忘レンナヨォォ♪》

 

《……サンキュー、『ヘイ・ヤー』……だが俺の名誉の為に言っておくぞ?女囲ってるつもりも火遊びしてるつもりも無えよ。ドンファンと同じ最期は御免被るぜ》

 

《……ヘッへへ、ソウカイ♪》

 

自らの内に還るスタンドに感謝の言葉を述べてから、意識を前に戻す。

玄関前に立つ俺達の目の前の扉が開き、中から何時も通りの気怠げな表情の灰原が出てきた。

 

「いらっしゃい、二人共」

 

「よっ」

 

「おう、邪魔すんぜ……今日は探偵団の奴等は居ねえのか?」

 

「あら、恋しいのかしら?」

 

「うんにゃ。居たら相変わらず俺を探偵団に引き込もうとすんのかなーって思ってただけだ」

 

「ふーん、そう。残念だけどあの子達ももうすぐ来る筈よ。ハカセは私達全員に声を掛けていたからね」

 

「全員?定明にーちゃんに発明品を渡すだけなのに、何であいつらまで?」

 

玄関を閉めてから俺達を先導する灰原と会話をするが、どうやら今日はあの喧しい探偵団のメンバーも来るらしい。

その理由をコナンが尋ねるが、どうやら灰原も知らされていないらしく、返ってきたリアクションは「さあ?」と肩を竦めるだけ。

やれやれ、俺としちゃその発明品とやらを受け取ったら飯を食いに行くつもりだったんだがな。

まーた今日も昨日みたいに腹ペコなお昼時を過ごす羽目になんのか?

そこに二乗で探偵団メンバーからも勧誘の嵐が吹き荒れると?泣けてくるぜ。

 

「んで?俺に何か発明品をくれるって言ってた張本人のハカセさんはどうしたよ?」

 

「ハカセは地下室で城戸君に渡す発明品の最終調整をするって言ってたわ。もうすぐ出て来ると思うけど」

 

俺達をテーブルを挟んだ対面式のソファーに案内してくれた灰原にハカセの居場所を聞くと、何やら不穏なフレーズが返ってくる。

え?何それ?そんなやたらと手の込んだ代物なのか?

最終調整とは一体何なのかと灰原に問い返そうとするも、灰原は家の中央に備え付けられたカウンター付きのキッチンの中へと消えていってしまう。

後に残されたのはソファーに向かい合って座る、微妙な顔をした俺とコナンだけ。

 

「……なぁコナン。俺の耳がおかしくなけりゃ、今最終調整とか聞こえたと思うんだが」

 

「……そだね」

 

「……探偵バッジか、腕時計型ライトだっけ。それってそんな調整とかが要る代物なのか?」

 

「要る事は要るけど……昨日ハカセと電話した時に、あの誘拐事件のあった日の夜から定明にーちゃんに渡す発明品を作ってたっって言ってたから……バッジかライトならこんなギリギリの時間までかかる筈は無いんだけど……」

 

「素敵な前情報ありがとよ。少なくとも映画を見る前のパンフレットぐらいには役に立ったぜ」

 

「そ、そう。あはは……(それってあんまり役に立ってないだろ……)」

 

コナンの話を聞いて脱力した俺は、ソファーの背もたれにグデンと頭を乗っけて天井に視線を向ける。

お礼の為に気合入れて作ってくれてるってのは素直に嬉しいんだが……あんまり物々しいと不安になってくるなぁ、おい。

 

「なぁ灰原よ?ハカセさんが何を作ってるのか知らねぇか?」

 

「知らないわ。私にも内緒で夜中にコソコソ作ってたみたいだし」

 

「オーライ。その発明品が深夜テンションの塊じゃねえ事を祈っとく事にすんぜ」

 

「だ、大丈夫だと思うよ?」

 

「えぇ。そんなに変な物じゃ無いでしょうから心配しなくても良いと思うけど?」

 

はい、とテーブルに麦茶の入ったグラスを置いて笑う灰原に「サンキュー」とお礼を言って、麦茶で喉を潤す。

よく冷えた独特の苦味を含んだ味が、炎天下で乾いた喉を心地良く流れ込んでいく。

程良く喉を潤した所でグラスから口を離して一息付くが、これが何とも言えない心地よさを感じさせるんだよなぁ。

 

「フゥ……この雑味の少ないマイルドな味わい。水出しか……良いセンスだ」

 

「それはどうも。とは言っても、普通に麦茶のパックを水で溶かしただけなんだけどね」

 

「良いんじゃねーか?定明にーちゃんの言う通り、麦茶って水出しと熱湯で煮出したものだとかなり差があるからな。前にハカセが熱湯で作った麦茶は結構色んな味が含まれてたし」

 

「……まっ、私もあの味は好きになれなかったから、多少時間は掛かっても水出しにしてるんだけどね」

 

「ここに塩を入れると塩分が手軽に取れて尚良し、なんだよな。意外や意外な事に砂糖でもイケるって知ってたか?」

 

「え?」

 

「さ、砂糖?麦茶に?」

 

ハカセさんが上がってくるのと探偵団のメンバーが来るまでの暇つぶしに麦茶についてのトリビアを話すと、二人して信じられない様な目で俺を見てくるではないか。

この麦茶に砂糖ってのは地域性、もしくは昔からの風習なのだろう。方言みたいなものかもな。

 

「し、塩は聞いた事はあるけど……」

 

「砂糖を入れる飲み方なんて聞いた事ないわね」

 

「だろーな。俺も地元の友達のお婆ちゃんが出してくれた麦茶を飲むまで知らなかったよ。ほろ苦い麦茶だと思って飲んだらさっぱりとした甘い味だったのは、初めてカマボコを見て甘い食べ物だと思ったのに実際食ったら海鮮の味だった時の様な衝撃的な気分だったぜ」

 

「随分衝撃的だったのね……」

 

当時の思いを染み染みといった心境で語れば、灰原とコナンは苦笑いして俺を見る。

まぁ、当時からしたらトップクラスの騙された感があったのは否めねえ。

美味しい騙され方ってのも中々に貴重な体験だとは思うが。

なんて暇潰しの会話をしている内にインターホンが鳴ったので灰原が出ると、そこには少年探偵団純粋年齢組の姿が。

 

「こんにちは、灰原さんッ!!」

 

「哀ちゃん、コナン君。こんにち……あーッ!?定明さんも居るよッ!!」

 

「おい定明ッ!!何時になったら少年探偵団に入るんだよッ!!」

 

「相変わらず姦しいな、オメェ等はよぉ」

 

この真夏日の中を歩いてきたであろう3人は外の猛暑にも負けず、何とも元気なモノだ。

皆してソファーに座ると、灰原が出した麦茶を一気に飲み干して何時も通りに俺に対する勧誘を始める。

そんな3人の少年探偵団に入れという口撃を適当にあしらっていると、奥の扉が開いて白衣姿の阿笠ハカセが姿を表した。

 

「おお、丁度皆揃っておったようじゃの。なら時間的には間に合ったかのう」

 

「「「博士、こんにちわーッ!!」」」

 

「はいこんにちは。ほれ、新……コ、コナン君もよう来たのう」

 

「は、はは……(頼むから定明の前でボロ出さないでくれよ、博士ぇ)」

 

「どもっす、阿笠博士。お邪魔させてもらってますよ」

 

「うむ。良く来てくれたの、定明君。いやはや、先日は危ない所を助けてくれて本当にありがとう。誘拐されておった娘さんも無事で済んで何よりじゃったわい」

 

俺達がソファーの所に全員集まっているのを確認した阿笠ハカセは笑顔を浮かべて近づき、俺に先日の感謝を述べる。

若干コナンの事を新一と呼びそうになってたが、まぁ別に無理に突く必要は無えだろう。

一方俺は阿笠ハカセに挨拶を済ませ、ハカセの感謝の言葉に対して微笑みながら手をヒラヒラと振り返した。

 

「no problem。何てこたぁ無いッスよ。あれならまだ台所の隅っこに隠れた黒い奴等を退治する方が梃子摺ったってぐらいっすから。なんせあんなカス二人組と違って、奴等は一匹潰しても第二第三と出てきやがりますからね」

 

「そ、そうか……おほんッ!!兎に角、儂から定明君に感謝の印として、今の儂が作れる最高傑作の発明品を贈らせてもらおうと思ったんじゃ。これは間違いなく大満足してもらえると自負しておるでのう」

 

あの馬鹿二人を制圧したのなんて特に苦労した覚えも無いと返すと、驚くハカセだが一度咳払いして俺に再び質問してくる。

さっきからハカセの手は背中に回されているので、恐らく背後に例の発明品があるのだろう。

しかし今の台詞、まるで今まで作ったものとは違う発明品だと言わんばかりの言い回しだ。

その博士の言葉にコナンも引っかかりを覚えたのか、目を丸くしてハカセに向き直る。

 

「もしかして定明にーちゃんに渡すのって、探偵バッジとかじゃ無いのか?」

 

「む?あぁ、そうじゃ。定明君はもうすぐ海鳴市に帰ってしまうんじゃろ?ならここに居る間しか使えない物や腕時計型ライトより、向こうに戻ってからも使えて、且つ楽しめる実用的な発明品を渡そうと思ってのぉ……じゃーんッ!!これじゃッ!!」

 

と、コナンの質問に答えたハカセが自信満々の笑みを浮かべながら背中に隠していた物を俺達の前に掲げる。

最初は何が出て来るのかとワクワクした顔をしていた少年探偵団年齢純粋組だったが、それが何か分かると首を傾げた。

 

「これって……」

 

「コナン君の持ってるスケボーですよね?でも、少し形が違いますね……」

 

「色も違うぞ?」

 

そう。阿笠ハカセが取り出したのはコナンの持っている改造されて最早スケボーとは呼べない代物である、『ターボエンジン付きスケートボード』の色違いだった。

コナンのスケボーが黄色と深めのグリーンなのに対し、阿笠ハカセが取り出したスケボーはシルバーとメタリックブルーという全く違う色で塗装されている。

それにどうやら、駆動系の部分にもかなりの違いがある様だ。

ローラー軸の部分にはスケボーの内部から生える様にサスペンションが組み込まれているし、全体のフォルムが幾分かスタイリッシュになっているな。

米花町に来てからコナンに見せてもらったスケボーの後部にあった大型のエンジン部分も無くなってる。

だが、後方部分の板の下に1基の大きな排出口がある事から、エンジンは備わってるっぽい。

更にコナンのスケボーはローラー部分は普通だったのに対して、このスケボーはローラー部分の中心を前から後ろまで貫く形で長い一本のロケットの様な形のエンジンが取り付けられている。

 

「……見た感じ只のスケボーじゃ無さそうッスけど、これって何なんスか?」

 

俺の疑問はこの場の全員が思っていた事なのか、皆一様にハカセに視線を送っている。

コナンのスケボーと似てはいるけど、色々と違いがあるからだろう。

俺たちの視線を一身に受けたハカセはにんまりと笑うと、そのでっぷりとしたお腹を弾ませて口を開く。

 

「ぬっふっふっふッ!!これぞ新いゲフンゲフンッ!!コナン君の持ってるターボエンジン付きスケートボードッ!!その超ッ!!ニューバージョンじゃッ!!……時に定明君。コナン君からターボエンジン付きスケートボードのスペックは聞いておるかの?」

 

「何か凄まじいスピードの出るスケボーってぐらいなら」

 

「そうかそうか。なら、儂がこのスケボーの素晴らしさを一から説明しようではないかッ!!まずこのスケボーには超小型高性能のターボエンジンが内蔵されておるッ!!その馬力は、例え100キロ級のおデブさんが乗っても時速80キロまで出せる程の出力を誇っておるのじゃッ!!」

 

「え?それって俺のスケボーより出力上がってるって事か?」

 

ハカセが自信満々に語り始めた目の前のスケボーの出力に、コナンは再び目を丸くする。

その驚く顔が見たかったのか、ハカセは更に背中を仰け反らせて佇む。

しかしその天狗っぷりも納得の性能なのは、今のカタログ値で充分に理解出来る。

ここまで小型化したエンジンでもそれだけの馬力があるってのは、正直信じられないぐらいだ。

 

「更に更にッ!!そのエネルギーは地球に優しいソーラー発電ッ!!例え曇り空でも充分なスピードを出せる上に、バッテリーも内蔵しておるッ!!今回の改良でバッテリー自体の容量も上げておるからのう、夜間でもフルスペックで1時間の活動が可能じゃわいッ!!」

 

「はー……お財布と地球に優しいエコ仕様たぁ豪勢な。まるで松阪牛のステーキで素材の極上の味を楽しんでいたら、更にその肉の味を引き立てる極上のソースが付いてきた……っつう~感じの豪華さじゃないッスか」

 

「ぬぅあ~はっはっはっはッ!!まだまだあるぞいッ!!ボディ全体とサスペンションは軽量の合金を使用し、防弾カーボンも合わせた軽量かつ丈夫な安心設計ッ!!これなら銃弾だってへっちゃらじゃあぁッ!!」

 

「そりゃやり過ぎっしょ。寧ろ銃弾の被害に遭うのを見越した設計の玩具って何?」

 

「古今東西、大は小を兼ねると言うッ!!備えあれば憂い無しじゃよッ!!そしてえぇぇッ!!夜間の走行に備えて先端にはLEDフラッシュライトを標準装備ッ!!これで暗い夜道も安心して走れるわいッ!!」

 

俺のツッコミもなんのその、ってな具合で説明に熱どころか炎を灯す阿笠ハカセ。

自分の説明に満足いったのか、「ぬわ~はっはっはっはッ!!」と高笑いする始末。

いや、しかし……何だこのハイスペックならぬ廃スペックなおもちゃ?

 

「そしてこのスケボーのバッテリーはコンセントからも充電が可能ッ!!電気代も大型ラジコンのバッテリー充電と然程変わらんッ!!正に儂の今作れる最高傑作のスケボーじゃああああッ!!」

 

「すげぇな……(っつうか俺のスケボーより便利じゃねえか。俺のもパワーアップしてくれよな……)」

 

「す、凄すぎますよ、このスケボー……ッ!?」

 

「お、俺にも作ってくれよぉハカセェッ!!」

 

「はっはっは……ぬ?あ、あぁ。残念じゃがこのスケボーはコナン君に聞いた定明君の運動神経の良さと、わしが実際に見た定明君の身体能力を考慮して作ったモノじゃからのう。君らにはまだ少々危ない代物じゃて」

 

「そりゃ全面的にハカセに同意ッスね。今のスペックがマジなら、とてもじゃねぇが普通に乗れるモンじゃねぇよ」

 

テーブルに置かれたスケボーを羨ましそうに見ていた小嶋がハカセに作ってくれとせがむが、ハカセはこれをやんわりと拒否。

更にハカセの語ったカタログスペックに感動する円谷と、小嶋と同じく若干羨ましそうな目でスケボーを見つめるコナン。

灰原と吉田は女の子なので余り興味無いっぽいが、俺はその視線を無視して、テーブルのスケボーを肩に担ぐ。

ここまで自信満々に語られたカタログスペックが本物なのか、俄然興味が湧いてきたぜ。

 

「よっと……それじゃあハカセ。少しばかり試運転しても?」

 

「ッ!!(キュピーンッ!!)勿論じゃッ!!但し、試運転する場所は儂が決めさせてもらっても良いかのう?」

 

「ん?別に何処でやっても良いんじゃねーか?」

 

乗りこなせるか試運転をさせて欲しいと言うと、何故かハカセは目を輝かせて場所は自分が決めると言い出した。

これはさすがに予想外だったが、コナンが俺の代わりに質問してくれたので俺はハカセに視線を向けるだけに留める。

そしてコナンの質問を聞いたハカセは、これまた自分の国の科学力を信じて疑わないシュトロハイムの様な自身に溢れた笑みを浮かべた。

 

「ぐっふっふ……ッ!!ぐ~っふっふっふッ!!実はのう、このスケボーにはコナン君のスケボーには無い、度肝を抜く様な新しい機能が追加されておるのじゃッ!!」

 

「??新しい機能?」

 

「うむッ!!これからそれを実感出来る場所に行こうと思うんじゃが……その前に、皆お昼はまだじゃろう?」

 

「えぇ。お昼前に集合、とメールに書いてありましたから」

 

「歩美もお腹空いてきちゃった」

 

「俺、朝飯3杯しか食べてねぇし……」

 

(充分過ぎる程食ってんじゃねぇか……)

 

「俺とコナンもまだ飯食ってねぇっすけど?」

 

「じゃったら、定明君のスケボーの試運転をした後、前から約束していた回転寿司に連れて行ってあげよう」

 

「えッ!?本当、ハカセッ!?」

 

「あら、随分と張るじゃない」

 

「うおほぉッ!?う、うな重あるかなッ!?」

 

「元太君、寿司屋さんなんですから、うなぎの握りはあってもうな重は無いですよー」

 

「へへ、そうだったな」

 

と、あれよあれよという間にこの後の昼飯の予定まで決まってしまった。

少年探偵団の皆はノリ気だし、まぁ俺もコナンも断る理由は特に無かったので、ハカセのご相伴に預かる事に。

そして全員が参加すると決まった所で、ハカセさんのフォルクスワーゲン・ビートルに乗り込んでスケボーの試運転を出来る場所へと向かった。

楽しそうに、そして嬉しそうに後部座席で寿司の歌を歌う少年探偵団年齢純粋組と、同じく笑顔の阿笠ハカセ。

そして同じく少し楽しそうな顔のコナンや灰原を眺めながら、俺はハカセの底抜けの優しさを目にして同じ様に笑ってしまう。

なんていうか……少年探偵団の全メンバー合わせて、皆のお祖父ちゃんって感じだよな。

そう考えていた俺だが、ビートルがゆっくりとスピードを落とした所で意識を切り替える。

 

「良し、ここなら良いじゃろ。さぁ皆、着いたぞい」

 

と、ハカセの言葉を聞いて前の座席に座っていた俺はドアを開けて外に降りる。

コナン達も座席のシートを立ち上げて外に出るが、今居る場所が何処なのか分かると、きょとんとした顔になった。

 

「堤無津川の河川敷か?」

 

「あぁ。近くの降りれる堤防の辺りじゃよ」

 

「……こんな所が、その新しい機能っつーやつに適した場所なんスか?」

 

俺はスケボーを肩に担ぎながらハカセに質問しつつ、件の堤防下の広場を眺める。

川の直ぐ側の広場は確かに広いんだが、道路に比べてかなり凹凸のあるダートに近いコースだ。

こういう所で走っても大丈夫なんだろうか?

そんな小さな疑問に対して、ハカセは笑いながら口を開き始めた。

 

「いやいや。定明君に贈ったスケボーじゃが、勿論道路の方が走りやすいんじゃよ。じゃから、まずは……」

 

そこまで言って横に向けたハカセに倣ってそっちを見ると、そこにはかなり大きな平面駐車場があった。

堤防沿いだが車も少なくて、広さも充分に確保出来ている場所だ。

 

「この駐車場の綺麗な道を走った後で、下の凸凹道を走ってみて欲しいんじゃよ。出来るかのう?」

 

「へー……まぁ、やってみますよっと」

 

とりあえずコースを理解した俺はスケボーを担いだまま駐車場に入り、スケボーを地面に置く。

その上に乗ってからハカセの指示に従って、アクセル部分のボタンに足を掛ける。

これが面白いもので、ボタンを踏み込む量でスピードが変わるらしい。

 

「うむ。それでは……おっと、忘れる所じゃった。哀君とコナン君。探偵バッジを貸してくれるかの?」

 

「ん?あぁ」

 

「……はい」

 

「あぁ、すまんな……ほれ、定明君。君がスケボーを運転してからはこの探偵バッジで指示を出すから、存分に走ってみてくれ」

 

「ラジャっす……それじゃ、行ってきますよ」

 

ハカセから探偵バッジを受け取って襟に留め、俺は前に置いた足の裏でアクセルを踏み込む。

すると、キュイイインという空気を吸い込む音の直ぐ後に、俺を乗せたスケボーはとんでも無い速度で加速を始めた。

顔に感じる風圧がかなり心地良く、流れる景色もかなりの速さで後ろに流れていく。

……すげえな、体感的に40キロぐらいは出てるだろこれ。

ハカセの自信満々な説明にも太鼓判を押せる程に、確かなハイパフォーマンスを実現している。

 

「まずは、カーブをゆっくりと……ッ!!」

 

アクセルから足を少し離して速度を落としつつ、足に掛ける荷重を均一の状態から右向きに傾ける。

統一されていた荷重が片方に集中した事で、スケボーは右向きにその進路を変更して、ゆっくりと曲がり始めた。

その後も体幹がブレる事無く、スピードを上げて何周かしてみるが問題無く走れている。

じゃあ、もう少しレベル上げてみるとすっか。

 

「よッ!!」

 

走行に問題無い事が分かって遠慮を無くした俺は、スケボー技の基本であるオーリー、つまりスケボーと一緒にジャンプする技を繰り出す。

テコの原理と躰の操作で空中に浮かしたスケボーを空中でしっかりと体勢を整えて着地。

これも問題無くクリア出来た。

更にジャンプ中にスケボーを空中で一回転させるヒールフリップ、キックフリップも難無くクリア。

スケボー自体は結構やりこんでいたし、これぐらいの速度なら美由希さんとのバトルで見慣れてるから、躰も余裕で反応出来る。

更にこのスケボーは後輪のみに動力が存在するので、やや前を多めに荷重を掛けながらアクセルを強めに踏み込ませてみた。

すると後輪は地面を捉え切れずにホイルスピンを起こし始め、ここで荷重を後ろに移動させながら進路を左に向ける。

 

スケボーの前は左に進路を向けるが、後輪はパワーを地面に伝え切れず、滑りながら流れる様に追っかけ、ホイールの力がスケボーを前へと押し出す。

 

ギャギャギャギャギャッ!!

 

『おおッ!?上手い上手いッ!!スケボーでドリフトまでやるとはのうッ!!』

 

「ドリフトっつうよりパワーで無理矢理ケツ振ってるだけなんで、パワースライドっすね」

 

襟に付けた探偵バッジから聞こえてくるハカセの賞賛の声に言葉を返しながら、身体の荷重移動でスケボーを右へ左へと滑らせる。

あんまりにもスイスイと自分の思う通りに走るから、思わず笑みが零れてしまう。

いや、これマジで半端無く楽しいわ。動力あるだけで全然違うな。

こうやって風を切って走る感覚は何とも表現しにくいけど、ガラにも無くワクワクしちまう。

 

『まさか初めて乗ってここまで鮮やかに操るとは思わなかったのぉ』

 

「いや、マジで楽しいっすよこのスケボー。半端じゃなく良い代物っすね」

 

『ぬっふっふ。満足するのはまだ早いぞい。それではそろそろ、河川敷の凸凹道を走ってみてくれるか?』

 

「えぇ、もう大分慣れてきたんで大丈夫ッスよ」

 

『良しッ!!では行ってみてくれいッ!!』

 

と、オンロードでの扱いに慣れてきた所で今度はダートでの性能を試す事に。

ビートルの傍で歓声を挙げてる小嶋、吉田、円谷、ハカセ。

そして驚愕の目で俺を見ている灰原とコナンに手を振って、駐車場の出口から河川敷に入る下り坂を駆け下りる。

下に降りて直ぐに舗装路からダートへと入り、スケボーに不規則な軽い衝撃が伝わって俺の躰を揺らす。

しかし、俺は決してコケる事も倒れる事も無かった。

 

『ふむ。上から見ている分には問題無いようじゃが、どうかね?乗り心地は』

 

「……チープな返ししか出来なくて申し訳無いっすけど、これ凄えっすよ。確かに振動は感じるけど操縦の妨げにゃならねえし……ほっ」

 

バッジに向かって返事を返しながら軽く曲がった後で急速に反対方向へ先端を向けるが、スケボーは暴れる事無く俺の動きに吸い付いてくる。

ダートに於いてもそのクイックな動きは殆ど損なわれていない。

 

「何処までも俺の足の動きに対して、シャープで素直な動き。まるで初めて我が家に来た筈の犬が何故か俺にすげぇ懐いてて、俺が何処に向かおうとしてるのかを理解しているかの様にリード無しで後ろをテクテクと歩いて着いてきてくれる様な、そんな風に自分のイメージ通りに着いて来てくれる感覚……ってヤツですね」

 

『にょほほほほほッ!!ベタ褒め頂き恐縮じゃが、まだそのスケボーの真の目玉はお披露目しておらんぞいッ!!』

 

は?

 

「……失礼。どうにも今日の俺は無理矢理ゴミを詰めたゴミ袋みてーに、耳の穴に耳クソが詰まり過ぎてるみたいっすわ……もーいっかい、耳の穴かっぽじって聞きますけど……コレ以上の機能がある、と?」

 

『ぬふふふ……ッ!!ぬわ~~はっはっはっはっはッ!!』

 

内心は嘘だろ?って気持ちでハカセに聞き返すと、さっきよりも数段上機嫌な高笑いが返ってくるではないか。

どうやらガチでコレ以上の機能が内蔵されているらしい。

とりあえずその説明をする為に降りるからちょっと待っていてくれと言われたので、俺はスケボーを停止させて後部を踏み、反動で浮き上がった先端を掴んで止める。

そのままこっちに向かって降りてくるハカセと探偵団のメンバーを尻目に、頭の中でこのスケボーの機能とやらについて考えを巡らせる。

走行性能については最早文句の付けようも無いぐらいに洗練されてて完璧だ。

でもコレ以上の機能とやらって一体なんだろうか……まさかの飛行形態?

かのタイムマシン『デロリアン』みてーにタイヤが横向きになって飛ぶとか?……まさかなぁ……。

と、考えている間に上から降りてきたハカセ達に取り囲まれた。

 

「す、凄すぎますよ定明さんッ!!まるでコナン君みたいに華麗に走ってましたねッ!!」

 

「うんッ!!飛んだり跳ねたり滑りながら曲がったりしてて、カッコ良かったよッ!!」

 

「目で追っかけてたら目が回りそうだったぜ」

 

「ははっ。ありがとよ」

 

最初に話しかけてきたのは吉田達純粋年齢組で、皆年相応なリアクションを見せてくれる。

その後ろからコナンと灰原がハカセと一緒にゆったりと歩いてくる。

 

「定明にーちゃんってスケボーやってたの?凄い上手だったけど」

 

「あぁ。基本的な技の幾つかは練習してたぜ。近所の友達がかなりハマってて、その影響でな」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

「あら、結構な面倒くさがり屋だと思ってたけど、意外と外でも遊んでいたのかしら?」

 

「人からあれやれこれやれって言われんのがメンドクセーだけで、元々運動は嫌いじゃねーんだよ。只、俺の取り組むペースってヤツが人より少し遅いだけだ」

 

意外そうに話しかけてくる二人に肩を竦めながらそう返し、二人の後ろでニヤニヤと笑ってるハカセさんに、俺も笑みで応じる。

元々乗り物とかの雑誌を読むのは好きだったが、実際に自分の意志で動いてくれるスケボーってのは、本気で感動した。

こいつはスタンド能力とかとはまた一味違った楽しいって感覚だ。

ラーメンとパスタのどっちが良いか、目玉焼きにはソースか醤油か、なんていう比べられない楽しさだな。

 

「ふっふっふ。お気に召して頂けたようじゃの~定明君」

 

「はい。これは本気で気に入りましたよ。それで、コレ以上の機能って一体何なんスか?」

 

「まぁそう慌てるでない。まるで変形機能付きの玩具をクリスマスプレゼントに貰った子供の様じゃぞ」

 

「子供っすけど」

 

俺の当たり前の返しに「そうじゃったな」と言って上機嫌に笑うハカセ。

確かにこんな風に食いつくなんて俺のキャラじゃねぇけど、このスケボーの機能ってのが気になって仕方ねえんだよ。

それに腹の減り具合も中々になってきたし、チャチャッと終わらせるのは悪い事じゃ無いだろう。

 

「さて、目玉であるこのスケボーの機能なんじゃが、まずこれは走ってからジャンプをした時に使う機能だという事を頭に入れといてくれ」

 

「ふむふむ……分かりました。じゃあ、今はどうすれば?」

 

「あぁ。まずはそのスケボーを立てた状態で、アクセルボタンの近くを見るんじゃ」

 

ハカセに指示された通りにスケボーを立てたままアクセルボタンの辺りを見ると、○ではなく長方形のボタンがあるのを発見。

どうもアクセルボタンと間違えて踏まねー様に離して作ってあるみたいだ。

 

「そのボタンを、スケボーでジャンプした時に押す訳じゃが、今はそのまま指で押してみてくれ」

 

「ここのボタンっすね?……よっと」

 

ピッ。

 

言われた通りにボタンを押し込むと、軽い電子音が鳴り響き――。

 

キュイン。カチャッ。

 

「「「あぁッ!?」」」

 

「……おいおい。まさか」

 

「……これって……」

 

「ん?どぉしたんだ?」

 

何かの駆動音の様な音が数回だけしたんだが、俺の方から見て特に変化は無かった。

しかしスケボーの裏、つまり車輪の方を見ていた円谷達は裏面を指差して驚きの声を挙げたのだった。

コナンと灰原も例に漏れず、裏面を見て驚いてる様だ。

一体何がどうなったってんだ?

皆の様子に首を傾げながら、俺も皆に倣ってスケボーの裏側に視線を向ける。

 

「……何だこりゃ?」

 

と、裏側を見てもこの変化が何なのか理解出来ず、増々首を傾げてしまう。

何故なら、ボタンを押して変化したスケボーの姿は――”只の板”になっていたのだから。

 

「……えぇっと……もう一回……」

 

ピッ。キュイン。カチャッ。

 

「あっ!?車輪が出てきましたよッ!?」

 

「ホントだっ!!すご~いッ!!」

 

「でも、これって一体何が出来る様になるんだ?」

 

もう一度、今度は裏面を見ながらボタンを押してみると、ローラーのあった位置の板が横にスライドし、その中からサスペンション付きのローラーが出てきたのだ。

円谷達が驚きながら指を差している場所に目を向けながらまた押す。すると今度はさっきの逆再生でローラーが収納される。

……このローラーの収納って何か意味あんの?もしかして背負いやすい様に、とか?

この機能の意味がまるで判らず頭の中が疑問符で溢れかえるが、とりあえずさっきのハカセの言葉を整理してみる。

もしこれが只の持ち運びを考慮した機能なら、態々アクセルボタンの側にスイッチを付ける意味は無い。

間違えて踏んだ日にゃ目も当てられ無え大惨事が勃発だ。

っという事は、だ。これは只の収納機能なんかじゃ無いんだろう。

何よりハカセのあの自信満々な表情がそうじゃないと語ってる上に、さっきからニマニマして俺を見ている。

アレは……そう、人の良い爺さんが孫にちょっとした意地悪をしてる時の顔だな。

少しズルして子供に本当の事を教えないで、『ほれほれもっとしっかり考えるんじゃ』とほくそ笑んでるって顔。

 

そう、ポルナレフが便器を舐めた事を既に知ってたのに、何処を舐めたのかをしつこく聞いていたジョセフ・ジョースターの様な意地悪さだ。

 

ふ~む……なら、もう少し違う点から考えてみるか。

確か、この機能を使う時の注意点は……走行中からジャンプしている時に使う事だったな。

となると、この機能は走行している時に”特定”の条件で使う事が前提の機能の筈だ。

4×4のオフロードマシンは”悪路を走る為にある”。という様に、”この機能は特定の走行条件の時にのみ使える”って事になる。

そこまで考えて、この『場所』というヒントがミックスされた結果、一つのある答えが俺の頭の中に浮かんでくるが……いや、まさか……な?

まさか、という気持ちでアクセルボタンを軽く押してみる。

 

ブオォオンッ!!

 

「……マジ?」

 

在り得ないという気持ちでボタンを押した俺だが、その考えを裏切って下のブースターから軽く風が吹き出す。

と、いう事は……これはもう、確定だろう。

 

「…………もし、俺の予想が外れてたら恥ずかしいッスけど……ハカセさん?」

 

「……ぐふふふふッ!!試しに乗ってみると分かるぞい?」

 

俺の問いかけに対して笑いながら自分で試せと押してくるハカセ。

やっぱり相当の自信がある様だ。

……外れてたら、もしくは失敗したら恨むぜ?

俺は溜息を吐きながら車輪を再び出して、河を背後にして堤防側へスケボーを向けて地面に置く。

 

「あれ?定明さん?」

 

「まだハカセが新機能の説明してないよ?」

 

「あぁ、良いんだ……どうやら口より直接躰で覚えろって事らしい。まさかの体育会系だったとは、さすがに驚いたぜ」

 

「「?……??」」

 

俺の言い回しに首を捻る円谷と吉田を放置して、俺はスケボーで堤防まで走り、そこからターンして再び堤無津河へ向き直る。

そこから軽く深呼吸を一回。少しの緊張感を持って――。

 

「……コオォ……フゥ……いくぜオイ!!」

 

ギュオォオオオオッ!!

 

精神を集中させて前の”道”を睨みつつ、アクセルボタンをめいいっぱい踏み込み、スケボーを急加速。

しっかりとホイールが地面を掴んで前に進ませるスキール音と、速度を現す強い風圧を受けながら、俺は目をしっかりと見開く。

目指す先は、微妙に盛り上がって作られた自然のジャンプ台の様な地面の蜂起部分だ。

 

「えっ!?ち、ちょっと定明さんッ!?」

 

「そのままじゃ”川に落ちちゃうよ”ッ!?」

 

「危ねえーーーッ!?」

 

少年探偵団の心配する声を聞き流しながら、俺は堤無津川へと向かって我武者羅にひた進む。

もうこの位置からじゃ減速したとしても、川の手前じゃ止める事は叶わない。

ならば、ハカセの技術力を信じるしかねえだろう。

これで失敗したら、鉄球の技術による水分カラカラダイエットの強制執行も吝かではない。

……頼むぜハカセ。俺をガッカリさせんなよ?

受験前に神社で必死に合格祈願をする受験生の様な気持ちで祈りを捧げつつ、川の手前の蜂起部分へスケボーを乗せる。

 

「ふんッ!!」

 

蜂起部分に乗り上げた瞬間に持ち上がったフロント部分の荷重を減らして、後ろのローラーに負荷を強く掛ける。

その負荷によって地面に強く押し付けられたローラーが地面を強く蹴りだして前に進み、遂に俺とスケボーは大空へと飛び上がった。

視界に広がる青空……の直ぐ後で目の前に映しだされる大きな川の水面。

その水面を睨みながら、俺はアクセルから足をどけて例のスイッチを押し込む。

耳に届く微かな駆動音の直ぐ後、俺は川に真っ直ぐに着水した。

 

「あぁッ!?……あれ?……えーッ!?」

 

「す、スケボーが……ッ!?」

 

「川に浮いてるぞッ!?」

 

「……あのローラーの下の長いロケットみたいな部分で浮力を稼いでるのか……?」

 

「そういえば少し前に、知り合いから高分子樹脂フォームを譲ってもらったって言ってたわ。それを入れてるんじゃないかしら?」

 

川の側で”水面に浮かぶスケボー”の上に立っている俺を見ながら、少年探偵団の全員が目を丸くしている。

かくいう当事者の俺は川に浮かんだ体勢でバランスを取りつつ、アクセルに足を掛けたままの体勢で浮いていた。

 

『よぉーしッ!!さぁ定明君ッ!!その状態でアクセルを踏み込むんじゃッ!!』

 

ハカセの興奮した声に従ってアクセルを踏み込むと、スケボーは水を切る様な感覚で前へと進み始めた。

水の中まで船倉を沈めてスクリューで航行しているのでは無く、爆発的なパワーと軽い船体を駆使して、まるで水の上を滑るかの様な動き。

スピードが上がれば上がる程に船の喫水線の位置が変わる滑走型のボートと同じだ。

しかしスケボーの上の安定感は陸上に比べても劣りの無い様に感じる。

試しに軽く躰を横に曲げてみると、スケボーもちゃんと曲がっていく。

そのままアクセルを離せば、思った所より少し進んだ位置でゆっくりと止まった。

従来の船みたいにバックする事は出来ねぇけど……こいつは、マジで凄い。

そのまま何度か川を往復してから岸の前へと戻る。

しかし川縁はなだらかな堤防のブロックで斜めに段差が出来ていて、上がるにはそのブロックを登るしか無い様だ。

これってこのまま昇っても良いんだろうか?

 

「あ~、定明君。そのスケボーの底面はかなり頑丈に作ってあるからの。そのままブロックをエンジンの力だけで登る事は容易いぞ~」

 

「なるほど。了解ッス」

 

と、川辺りで頭を捻っていた所でハカセからアドバイスを貰い、再びスケボーを加速させてブロックを駆け上がり、陸へと戻る。

そしてブロックから飛んで陸地へと戻った所でローラーを出現させ、陸地へ着地。

 

「ぬっふっふっふっふッ!!!どうじゃッ!!この『ターボエンジン付き”水陸両用”スケートボード』の素晴らしさはッ!?」

 

「すごーいッ!!ハカセの発明品ってホントーに凄いよーッ!!」

 

「正にッ!!夢の様な玩具ですねッ!!」

 

「ホントにスゲーなッ!!」

 

「ぐふっ。ぐっふっふっふっふッ!!……ではコナン君と哀君はどうじゃね?ん~?君らが何時もガラクタと馬鹿にしておった儂の今回の発明品は?」

 

少年探偵団の純粋年齢組から大賛辞を貰ったハカセはご満悦といった表情で笑いながらコナンと灰原に目を向ける。

一方で目を向けられた二人もこれまた目を丸くして俺が持っているスケボーに視線を注いでいた。

 

「おいおい……凄すぎるだろ」

 

「……ハカセの発明品も、偶には馬鹿に出来ないものがあるのね」

 

「――はーはっはっはっはぁッ!!この天才ッ!!阿笠博士の科学力はァァァァァァァアアアッ!!世界一ィィィイイイイッ!!」

 

あれ?ハカセの魂がシュトロハイムと入れ替わってね?俺『シルバー・チャリオッツ・レクイエム』使った覚え無えけど?

どうやら何時も辛口の評価を頂いてる二人からも最高点を頂けたのが余程お気に召したっぽい。

っていうかコナンのつけてる道具の数々はかなりの優れモノばかりなのに、何でコナンの評価は辛口なんだろうか?

……多分その成功を上回る失敗作の数々を目にしてたんだろうけど。

 

「それで定明君。儂の発明品の目玉、気に入って貰えたかのう?」

 

そして当然、ハカセの感想を求める視線はスケボーを贈った俺に対しても来る訳だ。

何時もの俺なら一言二言の感想で済ませる所だが、今回に関しては真面目に言わせてもらおう。

 

「阿笠さんって、もしかしてMI6の創始者じゃないんスか?若しくはQの師匠、とか。そうじゃねぇとこんな漫画から飛び出した様な発明、作れっこないっすよ」

 

「なっはははははッ!!何せ、儂は天才じゃからのうッ!!ぬわ~~はっはっはっはっはッ!!」

 

おぉ、声がよく響く事。ついでにお腹のリズムも刎ねること刎ねること。

そんなハカセを呆れた目で見るコナンと灰原。

いやー、かなり良い贈り物も貰えたし、これから寿司も食えるとは、今日は何時もより平和だねぇ。

これってもしかして服部さんが帰ったから事件遭遇率が減ったって事なんじゃね?

と、高笑いしていたハカセが満足した所で、俺達は昼飯の回転寿司へと向かう事に。

しかし寿司なんて久しぶりに食うなぁ……ハカセの奢りだって話だし、色々と堪能させてもらいますかねぇ。

車の中で何を食うかを算段つけながら、俺達は少し遅目の昼食を取る為に回転寿司へと向かうのだった。

 

 

 

そしてその回転寿司でハカセに寿司を奢って貰ったのだが――。

 

 

 

「12500円です♪」

 

「はぇッ!?」

 

 

 

俺を除く少年探偵団の全員が寿司より値段の高いデザートを注文していたので、かなりの出費に。

先ほどまでの高笑いと上機嫌が嘘の様に、ハカセの嬉しくない悲鳴があがるのであった。

そんなハカセがさすがに気の毒になったが、その後は明日の予定を話して解散する運びに。

俺は改めてハカセにお礼を言って力の無いハカセの笑顔に見送られながら、コナンと共に阿笠邸を後にする。

 

「でも、定明にーちゃん。ホントに良かったの?明日はゆっくりしたいって言ってたけど……」

 

「あぁ。別に構わねーよ。どうせ後5日したら俺は海鳴に帰るんだし、あぁまで熱烈に誘われちゃ断れねえって」

 

首を傾げながら俺に質問するコナンに肩を竦めて答える。

コナンの言っているのは、少年探偵団の年齢純粋組の『俺と一緒に遊びに行きたい』という要望に俺が応えた事だ。

美味い寿司で腹を満たした後でハカセの家に戻って話をして時間を潰していた時に、俺が五日後には帰るという話になると、彼らは俺に明日のお出掛けに着いてきて欲しいと言ってきた。

また次に何時遊べるかも分からないし、夏休みの今の内に一緒に遊びに行きたいという熱烈な誘い。

その熱意に負けてOKした訳なんだが……。

 

「明日は蘭さんや伯父さんも一緒に行くんだろ?なら行かねえと、どーせまた蘭さんに説教されんのは目に見えてんだ。無駄な事してもしょうがねえさ」

 

「あー、うん。そだね」

 

「まっ、意地張って事務所に閉じこもって蘭さんに説教喰らうよりかは、まだ自分で決めて着いてった方が楽だしよ」

 

それにコナン達には言ってねえが、実は明日の少年探偵団の目的地は俺も行ってみたいと思っていた所なのである。

ならば、せめて夏休みの思い出づくりに行ってみるのも一興かと思ったって事だ。

まぁコナンや伯父さんが来る時点で、事件発生にリーチが掛かってそうなモンだが……まぁ、大丈夫だろ。

何せ死神二号である服部さんは大阪に帰ったんだ。

そう簡単に事件が発生する可能性は低い……筈……だと良いな。

ある程度、というよりはかなりの希望的観測が入り混じった予測を信じ、俺は明日の事を考えるのを止める。

一々先の事を不安に思ってても仕方ない。

少しは前向きに考えてみるとすっか。

そんな風に多少強引に前向きな考えを持ちながら帰宅した俺達を待っていたのは――。

 

 

 

 

 

「だ、だから定明の言ってたパチンコじゃボロ勝ちしたんだってばぁッ!!そう怒るなよ蘭ちゃ~(ドゴォッ!!)げふぅッ!?」

 

「その後で自分の勘で競馬やってボロ負けしてちゃ意味無いでしょーーがッ!!!しかも負けを取り戻す為に生活費に手を付けるなんてぇッ!!!」

 

「お、俺はJCシマニーソに裏切られた被害者「お黙りッ!!!」(ドゴドゴドゴドゴドゴッ!!!)ばっふぉおッ!!?」

 

「おいコナ~ン。予報じゃ今日は快晴じゃなかったか?真っ赤な雨降っちまってんだけど?最近の予報は当てになんね~な」

 

「は、ははは……お天気お姉さんも、血の雨は予報出来なかったんじゃないかなぁ?」

 

 

 

 

 

昼の天気予報とは真逆に、血の雨暴風蘭さんが荒ぶる、警報発令中の事務所内部だった。

雨天順延券どっかに売ってねぇかねぇ……やれやれだぜ。

涙目の伯父さんに追撃の正中線五段突きを繰り出す蘭さんを見て、今日の夕食は遅くなるなと溜息を吐くのだった。

 




如何でしたか?少しはジョジョっぽい風味を味わって頂けましたか?


皆さんの感想で、私の作品は更に風味を増すと考えておりますので、手間で無ければ感想をよろしくお願いします。

ちなみに定明が貰ったスケボーはルパンVSコナンの映画でコナンが冒頭で使用していたスケボーの色ちがいです。

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