ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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m(__)m



……無双7Empiresって……面白いですよね?(言い訳)

だからエディット武将で争覇モードやりまくっても仕方無いですよね?

それと会社の仕事が忙しくて……友達からの依頼も多くて……。

オーディオとかLEDとかは良いけど……全塗装とか勘弁してよ。



そしてお待たせしました!!

実は結構前に(遅くなって誠にすいません!!)リスナーの方から挿絵を頂きました!!

ガルウイング様!!カッコイイ定明君を有難うございます!!







ファミレス料理を食べに行こ(ry

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

あの忌々しい吸血鬼事件から二日たった朝。

俺こと城戸定明は何時も通りに目を覚まして、帰って来た探偵事務所のリビングに赴く。

 

「おはよーござっす」

 

「あっ、おはようさん、定明君」

 

「朝ご飯もうすぐ出来るから、待っててね」

 

「ういーっす」

 

そして、既にキッチンで夕食の準備をしていた蘭さんと和葉さんに挨拶をしながら、俺は所定の位置に座ってテレビを点ける。

朝から笑顔を浮かべたお天気お姉さんが、今日の天気を予報する所だった。

今日の米花町は……今日も暑い夏晴れになるでしょう、か。まぁ、今日は家でゆーっくりする予定だから別に良いけど。

そんな事を考えながらあくびをする俺に、ご飯を取りに来てと蘭さん達が呼びかけてきたので、俺はどっこいしょと立ち上がるのだった。

 

 

 

あのクソ野郎こと月村祐二の処刑を終えた次の日、俺達は伯父さんの迎えに来た車に乗って、寅倉家を後にした。

バレずに部屋に帰って寝る事が出来たのは良かったけど、次の日の朝に知った今回の事件の全容は思い出すだけでも腹が立つ。

 

 

 

伯父さんと大滝警部、そして服部さんの車内での話によると、あの連続殺人の犯人は羽川だったらしい。

じゃああの旦那さんは何だったのかという話だが、そこがこの事件の難関であり、そして根幹の話に繋がる。

この殺人事件の犯行は羽川によるものなのだが、なんとその計画を練ったのは他ならぬあの寅倉拍弥さんだった。

しかも館内の犯行に使われたマジックミラーや棺桶の仕掛け、果てには棺桶の床下から秘密の抜け穴に至るまでの仕掛けも、全て旦那さんが用意していた。

その大掛かりな仕掛けと綿密な殺人計画の全ては羽川の為……ではなく、あのメイドのひかるさんの母親の為にあった。

何年か前に死んだ旦那さんの元婚約者であるひかるさんの母親は不幸な事故死だとひかるさんは話していたが、実はそうじゃない。

 

ひかるさんの母親である桧原陽子さんは、遺産の取り分を自分の物にする為に邪魔だからと殺されたのである。

 

その陽子さんを殺した犯人達というのが、2年前に館の傍の屋敷で逆さに縛られた挙句、血を抜かれて殺されていたメイドの清水。

そして今回殺された麻信と守代、更にその二人を殺した羽川達だったらしい。

もうそれ聞いた時点で殺されたあの二人は自業自得のクソ以下の連中と、俺の中では格下げしてる。

寧ろ殺されて当然だっつうの。

愛する女性を殺された理由が、自分の遺産に群がる親族の仕業と独自に突き止めた旦那さんは――復讐の鬼と化した。

 

その復讐の為に旦那さんはまず清水を殺し、残りの3人を今回の殺人計画のターゲットにしたって訳だ。

 

しかし今回の殺人計画には、実は大きな誤算が生じている。

何故、旦那さんではなくターゲットの羽川が殺人を犯したのか?

それは、旦那さんの余命が実は幾許も無かった事と……ひかるさんが養女ではなく、旦那さんの本当の娘だという事に関係している。

羽川が持っていた旦那さんの作った殺人計画書には、冒頭が『我が娘へ』と始まり、この殺人計画を企てた理由が記されていた。

 

つまり、今回の事件で本当に犯人として殺人を犯す役割を持っていたのはひかるさんなのである。

 

でも、ひかるさんはそんな事は全く知らず、何故羽川がそれを知っていたのか?

それは殺人決行の日、メールで旦那さんから呼び出しを受けていたひかるさんがそのメールを入浴中に受け取った所為で直ぐには受け取れなかった事。

そしてそのメールを羽川が盗み見て、その計画の存在を知ってしまった事。

更に羽川がメールを見た所為で既読状態になっていたメールにひかるさんが昼過ぎに気付いたものの、南蛮部屋の場所が分からず、『誰にも気付かれない様に』と書かれていた注意の所為で誰かに部屋の場所を聞く事が出来ずにすっぽかしてしまった為である。

そういった要因が重なって、殺人犯の役割は事実を知る羽川に成り変わったのだった。

しかし幾らひかるさんが来ないからと言って、憎き復讐相手にそんな計画殺人を託す筈が無い。

普通ならそうだった。

 

しかしこの時、既に旦那さん……寅倉拍弥はギロチンで自分の『首を切断していた』のである。

 

何でそんなイカれた真似をしたのかというと、旦那さんは先に言った通り、末期の癌だったからだ。

だから死に掛けの自分の首を利用して、犯行を旦那さんの仕業に見せかけてひかるさんから目を逸らさせるというトリックを作った。

つまり蘭さんと和葉さんが棺桶の中で見た旦那さんも、俺達が食堂の窓から見た旦那さんも首だけだったっていう話だ。

ちなみに棺桶についてた血が旦那さんと違ったのは、末期の癌になると血液型が変わる事があるらしく、その所為らしい。

旦那さんは自分の命すらも道具にして、ひかるさんに亡き母親の復讐を託したのである。

これを聞いて、俺と小五郎の伯父さんは怒りと呆れを含んだ苦い顔になったのを忘れない。

実の娘に殺人なんて託してんじゃねえよって話だ。

ともあれ、そういった幾つもの事情を書いた計画書にはそれを読んだコナンによると、最後にこう記されていたらしい。

 

『お前が全てを許すというなら、私の体に巣くう復讐の炎と共にこの書を消してくれ』

 

ひかるさんは恐らくそれを選んだと思うと言うコナンの思いには俺も頷ける。

たった1日しか触れ合ってねぇけど……ひかるさんは絶対に殺人なんかしなかっただろうさ。

 

 

 

しかし、それはひかるさんが殺人計画書を受け取ったらというIFの話。

 

 

 

現実にはその殺人計画書を受け取ったのは羽川であり、実際に殺人は起きてしまった。

何故、羽川が麻信はともかく恋人の守代まで殺したのか?

それは遺産の取り分を増やす事と、羽川を今でも狙っていた実那さんの存在がある。

羽川は遺産を直接相続する事は出来ないが、遺産相続権のある守代と実那には好かれていた。

なので、まず麻信を殺害して実那の遺産の取り分を増やし、実那とヨリが戻るのを見越して年寄りである守代をも殺害したのである。

 

そして最後の仕上げ。

 

それは手に入れた殺人計画書を持って、本来なら羽川を南蛮部屋で殺す為のトリックを利用し、ひかるさんに罪を擦り付けて殺す事だった。

 

全ての殺人が終わってから、ひかるさん宛の計画書を殺したひかるさんの服に入れて、正当防衛を訴えればそれで終わり。

証拠はそのままその計画書となり、羽川は傷心した様子を実那さんに見せてヨリを戻し、大金と女を手に入れる。

全てはそういう……何とも胸糞悪くて、羽川を100度殺しても気が晴れなさそうな筋書きだった。

まぁそれも全ては服部さんとコナンの活躍によって水泡と帰した訳だがな。

 

それともう一つ――月村祐二の殺した女性達の遺体も、警察の手によって発見されたそうだ。

 

昨日のニュースで大きく取り上げられてたので知ったのだが、その遺体の全ては親族の元に戻り、ちゃんとお墓に入れられる事となる。

服部さんやコナンはそのニュースを見て驚愕し、蘭さんと和葉さんは近くにそんな場所があった事で顔色を真っ青にしてた。

どれもこれもが猟奇的な死体で乱暴された跡も発見されたが肝心の犯人が居ない事もあって、警察は暫くあの辺り一帯を厳重警戒するらしい。

だが、犯人が誰かというのは世間に知れ渡る事は無いだろう。

奴は夜の一族の裁きに掛けられて、その後どうなるかは俺も知らないしどうでも良いからな。

 

「あれ?定明君、どうしたの?」

 

「なんや、えらい難しい顔してたで?」

 

と、二日前の事件を振り返ってる間に随分と変な顔してたらしい。

和葉さんと蘭さんの声に顔を上げると、何時の間にか食卓に座っていたコナンや服部さん、そして伯父さんも「どうしたんだ?」って顔をしていた。

おっとっと。ちょっと考え込み過ぎたか。

 

「何でも無いッスよ。今日はどんな風にダラけようかって考えてただけッス」

 

「えぇー?……小学3年生が難しい顔で考える事や無いやろ……」

 

「宿題は終わってるし、絵も昨日で色を塗り終えて完成してるから良いじゃないっすか」

 

雰囲気を変える為に普段の様な話をすると、和葉さんから呆れられた。

他の皆も苦笑いしてたり呆れてたり、話が分かるなぁって顔を浮かべてたりと様々。

ちなみに後者は伯父さんのみである。

 

「もうっ。駄目だよ定明君。今日は天気も良いってお天気お姉さんも言ってたんだから、外で遊ばないと」

 

「天気が良くて暑い日にゃ、エアコンの効いた部屋でコーラ片手に柿ピーわさび味と映画or読書が俺のジャスティスなので」

 

「フンッ。柿ピーのチョイスは中々だが、やっぱりまだまだお子ちゃまだなーオメェは。そこは若いチャンネーのグラビア雑誌片手に泡の出る麦茶と柿ピーできゅーっと「オ父サン?」じょ、冗談だってばぁ蘭ちゃんッ!!そんなに怒るなよぅッ!!」

 

「アハハ……(この伯父にしてこの甥っ子あり、やな)」

 

((何を子供に教えてんだか……))

 

俺の話に便乗した伯父さんをギロリと睨み付けながら脅す蘭さん。

その脅しが余程怖かったらしく、伯父さんはササッと距離を取って新聞で身を隠す。

怒る蘭さんの様子に和葉さんは苦笑し、服部さんやコナンはブルリと震えていた。

やれやれ、おかんスキルの高い蘭さんにこの手の話題はNGだったな。

 

「まぁ、無理に運動しなさいなんて言わないけど、あんまりぐうたらしちゃ駄目よ?」

 

「うぃーっす。まぁ程ほどに運動するッス」

 

「そこは普通、程々にだらけますの間違いじゃないの?」

 

「コナン。俺の人生は6割のだらけと4割のちょいワルって生まれた時から決まってんだよ」

 

「微妙な割合の人生やのぉ……っちゅーか真面目の割合無いやないかい。子供が夏休みに昼間っから柿ピーてどんなチョイスやねん」

 

「そういう服部さんと和葉さんはどうなんスか?折角の夏休みに二人で旅行に来といて、友人の家に居るだけで済ますおつもりで?」

 

とりあえず話の矛先をズラそうと考えて、俺の言葉に微妙な顔をしてた服部さん達に質問する。

すると二人はキョトンとした顔になった後で少し考える様に唸り始めた。

 

「んー……まぁ、俺はこの前の事件で頭使こうて疲れとるけど、坊主の言う通りあんまり長居する訳にもいかんからのぉ……和葉、先に土産だけでも買うておくか?」

 

「そやね。それやったら今日はお土産買いに行くのがメインっちゅー事で。頼まれとるお土産もあるけど、蘭ちゃんも時間空いとったらどんなお土産がええか教えてぇな」

 

「うん、良いよ。じゃあコナン君も一緒に行く?」

 

「あー、ごめん。僕、ハカセの所に行くって約束してるから……」

 

「せやったら俺等もついでに挨拶しに行ったらええがな。一緒に行こうなーコナン君(へっ。一人だけ女達の買い物に付き合わされるのを逃げようったって、そうはいかんでぇ工藤)」

 

「あ、あー……じ、じゃあ、ハカセの方は断っておくよ。ハカセも今日じゃ無くても良いって言ってたし……(ニャロー……ホントは約束なんてしてねぇから押しかける訳にもいかなくなっちまったぞ……女の買い物って長いから苦手なのによぉ)」

 

と、あれよあれよという間に皆さんは今日の予定が決まったらしい。

もう既に何処のお土産が良いとかこのお土産は何処にあるのかという話になってる。

うんうん、これなら俺の事は放置で家でのんべんだらりと出来るってなモンだぜ。

朝飯を食べ終えた俺は食器を流し台に乗せてから再びテーブルの側に座り、肩に手を当てて首を左右に捻る。

……っあー……コリがほぐれて気持ち良いぜ……。

 

「それで……あっ……」

 

「……ん?……どしたんスか、蘭さん?」

 

と、首を回してる最中にちょっと驚いた風に蘭さんは声を漏らして、視線を俺に向けてくる。

俺は特に何かをしていた訳じゃないのでその驚いた様子の意味が判らず、首を回した体勢で止まってしまう。

更に他の面々も蘭さんの様子が気になったのか、歓談を止めて俺と蘭さんの間を行き来していた。

 

「……やっぱり、まだ『あったんだね』……『ソレ』」

 

「は?ソレ?」

 

「??何があったの、蘭ねーちゃん?」

 

そして、蘭さんの口から漏れた懐かしそうな声音に、俺は増々疑問が膨らむ。

それって何だ?俺は只首を回してただけで……あっ、もしかして――。

 

「んん?……おお?ひょっとして蘭の言ってるのって、あの『アザ』の事か?」

 

「うん。あの綺麗な『星』のアザ」

 

「あぁ、やっぱりそれッスか」

 

蘭さんの言わんとしてた事に先に気付いた小五郎さんの言葉に、俺はやっぱりかと思う。

そうだよな、この体勢なら見える様になるんだっけ。

やっと蘭さんの考えてた事に合点がいったぜ。

 

「「「星のアザ?」」」

 

しかし他の3人はそれが何の事か分からないらしく、揃って首を傾げている。

まぁそれが普通の反応だろうな。

 

「ほら、これッスよ。俺の左の首の横から後ろぐらいの所に見えねえッスか?」

 

他の3人にも見える様に、俺は服の襟を少しズラしつつ左首の辺りを露出させて首を反らす。

その位置を3人に見える様に差し出すと、漸く俺達の言ってる事が理解出来たみたいだ。

皆揃って不思議そうな顔をしてるし。

 

「うわぁ……これって、ホンマにアザなん?……こんな不思議なん初めて見たわ……」

 

「ホンマや……綺麗に星の形になっとる。こら珍しいな」

 

「へぇー……(凄えな、これ……本当に星の形してるアザだぞ)」

 

「そのアザは定明が生まれた時からあるって雪絵から聞いてたんだが、懐かしいなぁ……あん時は、『私の可愛い定明ちゃん、カッコイイ星のアザがあるんだよ~ッ!!』って、雪絵が大騒ぎしてたしよぉ」

 

俺の首筋に刻まれた『星形のアザ』を見て、3人はそれぞれ感嘆の表情を浮かべている。

っというか小五郎の伯父さん、その話は詳しく聞きたい様なそうでも無いような……。

 

まぁ兎に角、俺にはジョースター家の血統を現す星形のアザが生まれつきあるのだ。

 

これが神様からのサプライズなのかは分からねえが、俺はこのアザを凄く気に入ってる。

しかし今までは温泉やプールなんかの人目に付く場所では『シンデレラ』の能力を使って普通の皮膚にカモフラージュしていた。

今思えば、あの時の俺は怖かったんだろうな……心とか思考じゃなくて、無意識の内に、ジョースター家の偉大な『証』を背負うのが。

でも、母ちゃんが俺に『愛する息子だ』という言葉と優しい抱擁を与えてくれた時から、俺はこのアザを隠すのを止めた。

俺は俺、城戸定明として、この世に生を受けた人間として、自分らしく生きると、このアザに誓ったからだ。

何よりもこの世に産んでくれた母ちゃんと父ちゃんのくれた体を隠すなんて、心の底から親不孝者だと思い直したよ。

 

「初めて見た時はすっごく驚いたもん。えっと……」

 

全員に星のアザを見せたので服を正していると、蘭さんが戸棚から一冊のアルバムを取り出してめくり始めた。

どうやら昔の写真を探してるみてえだな。

 

「確か、この辺りに……あっ、あったあった。ほら、この写真」

 

と、目当ての写真を見つけた蘭さんが俺達に見える様にアルバムを差し出す。

俺も含めた全員で覗き込むと、そこには赤ん坊の頃の俺を今の俺と同じ年くらいの蘭さんが抱っこしてる写真があった。

昔の蘭さんに両手で抱っこされてる赤ん坊の首筋には、確かに俺と同じ星形のアザがある。

 

「この頃の定明君と会ったのが最後だから、最初会った時は分からなかったけどね」

 

「そうなんだ……(確かに写真の赤ん坊にも星のアザがあるし、あんなアザは刺青でも無い限り、人工的には作れない筈だ。この赤ん坊が蘭の言う様に定明なら、コイツの実年齢は本当に9才……つまり、俺と違ってアポトキシン4869で小さくなった別の人間じゃないって事になる……じゃあ、コイツが死体を見た時のあの冷静さは天然モノって事かよ)」

 

何やら俺の赤ん坊時代の写真を見ながら難しい顔をするコナン。

大方、自分の立てた予測と違うから考えこんでんだろうな。

多分コナンは灰原と二人で、俺がアポトキシン4869を飲んだ別人じゃないかと考えてたんだろう。

しかし俺の実年齢が嘘じゃないと示す写真が出てきたもんだから、宛が外れたんで考え直してるのかね?

まぁ兎に角、俺と伯父さん以外の面々は出掛ける事が決定したので、俺は悠々自適と家に居られるってなもんだ。

 

「あっ、そうだ。定明君も一緒に行かない?定明君もお土産、買っておかないといけないんでしょ?」

 

「……そりゃまた次回って事で」

 

「えー?僕も一緒に来て欲しいなー」

 

くそっ。薮蛇だぜ……前に土産買って帰るなんて話すんじゃ無かったな。

何としても俺を外に出したいのか、蘭さんもコナンもしつこく食い下がる。

更にそこへ和葉さんと服部さんまでもが援護を出し始めた。

 

「まーまーええやんけ。俺等ももう少ししたら帰ってまうんやし、こういう時くらい親睦を深めようやないか」

 

「そーや。袖振りあうんも他生の縁っていうやん?また定明君と会えるんなんて何時になるかわからへんし、一緒にお出かけしようで。な?」

 

「そうそう。和葉ちゃんの言う通りだよ」

 

「……何とも人情に篤いお言葉で。さすが関西人」

 

「「いやいや~」」

 

褒めてねっつの。

コントの様に頭の後ろに手を回して照れる二人から視線を外して、俺は窓から外を見る。

外は夏らしく途轍もないカンカン日照り……暑そうだなぁ。

結局、効率とかよりも情に訴えてくる二人に丸め籠められて、俺はこのクソ暑い日に外出する事となったのでした。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ごめんね、服部君。買い物袋持たせちゃって」

 

「あぁ、構へん構へんて。何日もタダで泊めさせてもらったんやし、これぐらいはせんとバチが当たるっちゅうもんや」

 

日中の歩道を俺、コナン、蘭さん、服部さんの四人で歩く中、この中で一番多く買い物袋を掲げた服部さんは朗らかに笑う。

蘭さんの謝る言葉を聞きながら、大丈夫だと言う様にヒョイと買い物袋を持ち上げる。

もう直ぐ昼過ぎになるという時間帯に、俺達は土産探しを急遽中止して探偵事務所に戻っていた。

その理由が、今俺達が持ってるお土産の入った袋以外のスーパーの袋だ。

 

「まさか食材が殆ど残ってなかったなんて思わなかったね」

 

「せやなぁ。まさかやで」

 

「うぅ。忘れててごめんね……」

 

「え?あっ、いやそういう訳じゃ……」

 

服部さんとコナンの台詞を聞いてしょんぼりと項垂れる蘭さんに、コナンが慌てながらも弁解を始める。

俺はそんな光景を見ながら、首から下げたお土産袋と両手の買い物袋を眺めて溜息一つ。

……何でこんな事になってんだかなぁ……やれやれ。

土産探しをしていた筈の俺達が急いで帰宅してるのは、土産探し中に蘭さんの携帯に掛かってきた1本の電話が発端である。

連絡してきたのは伯父さんで『冷蔵庫の食材が無くなりかけてるから買ってから帰ってきてくれ』という事だった。

しかも伯父さんは炊事が出来ないので、昼はアポロで済まそうと考えていたらしいのだが、運悪く本日は臨時休業になってるらしい。

チラッとそんな看板を見たとコナンと服部さんも同意していた。

それでまぁ、飯が無くて腹を空かしてるであろう伯父さんの為に、俺達は買い物して事務所に帰ってる訳である。

 

「それに、和葉ちゃんにも悪い事しちゃったし……」

 

「一人で土産買いに行っちまいましたしね。確か、ファミレスの限定カレーでしたっけ?」

 

まだちょっと落ち込み気味な蘭さんの言葉を聞きながら、俺はここに居ない和葉さんの行き先を思い出す。

伯父さんの電話で一度探偵事務所に戻る事になった俺達だが、ここで和葉さんがストップを掛けたのだ。

理由は和葉さんの母親に頼まれた、東京のファミレス限定のカレーを売ってるファミレスが直ぐ近くにあったから。

直ぐ傍っつってもちょっと歩く場所なので、和葉さんはそれを買う為に一人で向かったのだ。

俺も服部さんもあらかた土産は買ったので、コナンを含めた俺達は荷物持ち要員として蘭さんについて戻る事になった訳である。

 

「まぁ、またあっちの方に戻る用事もあらへんし、あん時に別れて買いに行ったんは正解やで?一々事務所に戻ってからまた向かうより、別々になった方が手間にならんしな。坊主もそう思うやろ?」

 

「う、うん。だから蘭ねーちゃんも元気出して。ね?」

 

「……そうだね。じゃあお父さんの食事もパパッと作って、早く和葉ちゃんと合流しよっか」

 

「うんッ!!定明にーちゃんもそうしようよ」

 

「あー?俺はもう土産は買い終えたし……でも、その凄くうめぇカレーってのにはちょっと気になるな……服部さんはどうするんスか?」

 

「ん?後は和葉がカレー買うてきたら、その辺ぶらっとしよう思うてるぐらいやなぁ」

 

どうやら俺はまだ部屋でゴロゴロ出来ないらしい。

っていうか蘭さんとコナンが間違いなく妨害しようとしてるよな、これ。

まぁ服部さんも和葉さんが戻って来てからの予定は決めて無いみたいだし、この話はまた後で――。

 

「誰が華麗にハットトリックを決めたって?」

 

と思っていたら、いきなり後ろから何とも的外れな事を言う人物の声が聞こえてきたではないか。

しかもその声は俺達に向けられているみたいなので、俺達は背後へと振り返る。

 

「あっ。世良さんッ!!」

 

「やっ。久しぶり」

 

そして、前と同じくボーイッシュな格好でニカッと笑う世良真純さんの姿を目にしたのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「えッ!?あんた女やったんかッ!?」

 

あの後、とりあえず立ち話もアレなのでという蘭さんの提案に従って、俺達は探偵事務所に戻っている。

しかし伯父さんはタバコを買いに出てしまっていたので、帰ってくるまで待っている所だ。

先ほど会った世良さんも引き連れてなのだが、服部さんと世良さんはどうやら初対面らしく、お互いに挨拶を交わしていた。

そして挨拶を交わして世良さんの性別が女だと分かった時のリアクションがコレである。

正直、失礼以外の何物でもねえな。

服部さんの物言いに少し呆れてると、服部さんは目を細めながら世良さんのある一点を凝視していた。

 

「にしてはぁ……乳がちょーっとさみしないか?」

 

「そ、それはっ、これからバーンとおっきくなる予定さッ!!」

 

「あ、あはは……」

 

訂正、失礼通り越してアウトだよ。

女と分かってんのに真正面から何て事言い出すんだこの色黒は。

 

「とりあえず後で和葉さんに報告しとくか。服部さんがセクハラしてました、と」

 

「ちょッ!?ちょぉ待てぇッ!!幾ら何でも洒落になってへんぞコラッ!!」

 

「えっと……女の人に乳が小せぇと真っ正面から言い出した挙句、隣に立ってた蘭さんと比べてましたで良いか」

 

「えぇッ!?」

 

「こ、こらぁッ!?それホンマに冗談じゃ済まんから止めよッ!!な?な?」

 

何やらガヤガヤと怒鳴ってる色黒を放置しつつ、俺明後日の方を見やる。

さすがに今のセクハラは見逃したらアウトだろ?

コナンも、いや工藤新一も蘭さんが見られてたと気付いてかなり目が怖くなってるし。

脅迫材料?いやいや俺は日々の日記を付けてるだけですが何か?

そんな俺達のやりとりを見ていた世良さんが苦笑いしながらやんわりと会話に混ざる。

 

「あ、あはは。ぼ、僕は気にしてないから、その辺で許してあげなよ」

 

「えぇ事言うたッ!!姉ちゃんえぇ事言うたでッ!!どこぞの心の狭い女とはちゃうわホンマッ!!」

 

「え?許すも許さねえも、俺は別に世良さんの為にやってる訳じゃないッスよ?最近ちょっとばかし懐が寂しくて……」

 

(((強請りだッ!?強請る気満々だこの子/コイツッ!?)))

 

苦笑いしながら許すとか見当違いの事言ってる世良さんに、俺は「何言ってんの?」という表情で返す。

それを聞いてポカンとしていたが、そのまま続けて俺が出した言葉に驚愕。

蘭さんやコナンと同じ様な顔になっていた。

 

「こ、この……ッ!?(お、落ち着けッ!!落ち着くんや俺ッ!!ここで機嫌損ねたら、和葉のボケが要らん誤解をして、その後はもぉ……怖ッ)よ、よーし。100円やるからもう心に閉まっとこうなー坊主」

 

「天は人の上に人をつくらずって知ってます?」

 

「諭吉か?諭吉出せ言うとんのかッ!?立派な脅迫やぞそれッ!!」

 

「服部さんの命の重さは、1.02グラムの紙きれ一枚以下っすか……」

 

「リアルに恐ろしい事言うなやッ!?」

 

「で?服部さんの命。買います?捨てます?それとも売ります?」

 

「……坊主。将来は立派な借金取りになれんで」

 

「まぁ、冗談っすけどね?俺は言いませんよ」

 

と、憔悴しきった表情で財布を取り出そうとした服部さんにアッサリと告げて、俺はソファーに腰掛ける。

いきなり今までの遣り取りをブッた斬った俺に、皆のポカンとした表情が集中するが――。

 

「――な――なんやそれぇえッ!!こないに心臓に悪い冗談があって堪るかぁッ!!」

 

「口は災いの元。良い勉強になったじゃないッスか?」

 

「授業料は果てしのぉ高かったけどなッ!?10年は寿命が縮んだわボケッ!!」

 

一生止まるよりはずっとマシだろ?

ゼーゼー言いながら睨んでくる服部さんの視線から目を外して、俺はコナンに意味ありげな視線を送る。

それに気付いて俺と視線を合わせたコナンに、俺はニヤリと笑って直ぐに視線を外す。

そうすると、今度は「ふーむ」とか唸りながら俺の腰辺りに視線を向けていた世良さんが視界に入った。

視線を辿ってみると、どうやら俺の鉄球が気にかかるっぽい。

 

「所で、服部君だっけ?君はもう見たのかい?彼の不思議な鉄球の回転を?」

 

「ハァ、ハァ……ん?あ、あぁ。いっぺん見せてもろたけど……さっぱりやな。どうやってあんな回転を起こしとるのか、とっかかりすら分からへん」

 

「そうかぁ。コナン君もかい?」

 

「うん。何回も見せてもらったけど、さっぱり分からなくて……」

 

「うーん。やっぱり、君達でも分からないか……そういえば、例の工藤君はどうなんだ?」

 

「あっ。新一にもメールは送ったんだけど、かなり悩んでるみたい」

 

「あの工藤君でもか……これは本当に難しい謎だな」

 

と、本人である俺をそっちのけで、皆は俺の鉄球の謎について頭を捻ってる。

やれやれ……そんなに頭捻って考えても、頭がロジックで雁字搦めじゃ絶対に解けないぜ。

この鉄球の技術ってのは、人間の未知の部分を引き出す技術なんだからよ。

もう少しファンタジーに寛容な柔らかい頭じゃねえと、この謎には迫れねえぞ?

そう思っていた所に、蘭さんがポンと手を組みながら世良さんへ話しを振り始めた。

 

「そういえば、定明君はマジックも得意なんだよ」

 

「え?マジック?」

 

「うん。この前見せてもらったんだけど、目の前にあったパチンコの球が消えて、何時の間にか私と和葉ちゃんの握った手の中に入ってたり、それが一瞬で鳩に変わったりしたの。あれは凄かったよ♪」

 

「へー?それは興味深いな……なぁ、定明君」

 

「パス1」

 

「おぉいッ!!まだ何も言ってないじゃないかぁッ!!」

 

蘭さんの話を聞いて目を輝かせられたら、次の言葉くらい分かるっつの。

頬を膨らませて不満げな表情の世良さんに近距離で睨みつけられながら、俺は溜息を吐く。

基本的に面倒なのは嫌いなんだよ、俺は。

 

「どーせ見せろって言うんでしょ?めんどいんでお断りします」

 

「えー、良いじゃないか。減るもんじゃなし、お姉さんにも見せてくれよー」

 

ええい面倒くさい、纏わりつくんじゃねぇよ。

投げやりに断った俺にしがみつく様にして懇願してくる世良さんに、俺はブスッとした視線を向ける。

大体、ああいうのは意識が外れてるから成功するモンであって、ジッと見てくる相手にゃやり辛いんだよなぁ。

まぁ他にもやりようはあるんだけど……。

 

「(ガチャッ)おぉ、蘭ッ!?帰ってきてくれたのかぁッ!!」

 

「あッ!!お父さんごめんッ!!材料買って来たから直ぐに何か作るねッ!!」

 

「頼むぜぇ……お父さんもう腹ペコ」

 

と、ここでタバコを買いに出てた伯父さんが帰って来た。

伯父さんは蘭さんを見つけると嬉しそうに笑いながら、ちと大袈裟な感じで頼み込む。

買ったばかりのタバコを口に咥える伯父さんを見て、蘭さんは苦笑いしていた。

って、あれ?……おっ、そうだ。このタイミングなら……。

 

「あー、伯父さん。火ぃ点けんのちょっと待って欲しいんスけど……」

 

「あ?何で?」

 

「いや、まぁホンのちょっとで良いんで……さて、世良さん。俺のマジックが見たいんでしたよね?」

 

「え?あ、う、うん。そうだけど」

 

タバコに火を点けようとしていた伯父さんに待ったを掛けてから、俺は世良さんにもう一度確認する。

世良さんはいきなり質問されて驚いた顔してたけど、直ぐにキラキラと目を輝かせて俺を見つめてきた。

丁度良い。最近コナンも服部さんも暇があれば鉄球の謎について考えながら俺に質問したり、頭に浮かんだ憶測を話してくる様になってたし。

ここいらでその話を一気に止めさせられるかもしれねえ。

世良さんと同じ様に俺が何かをしようとしてるのを感じ取った蘭さんも目を輝かせ、コナンと服部さんは目付きを真剣にさせる。

唯一状況に付いていけて無い伯父さんはポカンとしてるが、そこはまぁ放置で良いだろう。

 

「じゃあ、今から一つだけ、即興のマジックをやります。このマジックのタネを暴けたら……俺の鉄球の謎を全部、余すとこなく、それこそハリー・ケリー並みの名調子で教えてあげますよ」

 

「「「ッ!?」」」

 

「えッ!?そ、それって、私も良いの?」

 

俺の台詞に驚きを顕にする探偵組とは別に、蘭さんは目を輝かせたままに質問してくる。

それに対して、俺はニヤリと笑いながら頷いた。

 

「良いッスよ。まぁ、……トリックが分かれば、の話っすけど」

 

「そっかぁ……私が先に解いて、新一を悔しがらせてやるのも良いかも」

 

(バーロォ。オメーに解けるんだったら、俺が既に解いてるっつの)

 

中々帰ってこない幼馴染みの鼻を明かしてやりたいのか、蘭さんは俄然やる気を漲らせている。

まぁ、その新一は目の前に居るんだけどな。

灯台下暗しとはこの事か、とか考えつつ、俺は残りの面子にもどうするかを聞いていく。

 

「まぁ、鉄球の謎を自分で解かんのは癪やけど……先にそのマジックのタネっちゅうのを解いて、坊主を悔しがらせるのもおもろいかもな」

 

「僕は勿論OKだよ。寧ろ解けたらお得、って感じかな。コナン君も受けるだろ?」

 

「うんッ!!」

 

「って事だ、定明君。その挑戦……受けて立つよ」

 

「OKッス。じゃあ、始めますか……伯父さん。其処に居て下さいね?」

 

「あ?ま、まぁ良いけどよ」

 

とりあえず全員参加が決まったので、俺は入口の近くに突っ立ったままの伯父さんに指示を送る。

伯父さんは怪訝な表情をしながらも、ちゃんと其処に立っていてくれた。

 

「良し……じゃあ、俺は今から指パッチン一つで、伯父さんの前に炎を出します。伯父さんはそれを使ってタバコの火を付けてくれても良いっすよ?」

 

「え?炎を?」

 

俺の予言に驚く蘭さんと、そんな俺の挙動の一つ一つを見逃すまいとする世良さん達。

そんな数々の視線をこの身に感じながら、俺は手を皆の前で構える。

まっ、これって絶対に解くのは無理だろうけどな。

 

「ほい(パチンッ)」

 

「(ボッ!!)うおぉッ!?」

 

「「「ッ!?」」」

 

「ええぇッ!?」

 

何故かって?思いっ切りコレはスタンド能力だからな。

指パッチンと同時に伯父さんのタバコの目の前に頭の部分が丸い十字架の炎を生み出し、それを空中に滞空させる。

そう、前にライターを忘れたデビットさんにライター代わりに『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』の能力で生み出したのと同じものだ。

目の前にいきなり十字架の形の炎が生まれてビビる伯父さんと、驚愕する他の四人。

まさかホントにいきなり炎が出てくるとは思わなかったんだろうな。

 

「な、な、なぁ……ッ!?」

 

「伯父さん。火が要るんでしょ?それ使って下さいよ」

 

「あ、あ、あぁ……スゥ……ま、間違いない……ッ!!ちゃんと、炎だ……ッ!?フェイクとかじゃねえ……ッ!?」

 

驚きで声が詰まった様なリアクションをする伯父さんを促して、十字架の炎でタバコに火を点けてもらう。

それでタバコに火が灯ったのを確認して、俺は指を振って炎を消す。

凡そ10秒間ちょっとの、本当にあっという間の出来事だった。

 

「……さっ。このマジックの種が分かったら、俺の鉄球の謎を教えてあげますよ?」

 

俺がソファーに座ったままにそう言うと、3人は弾ける様に動いて、炎の出た場所を虱潰しに探し始める。

しかし当然ながら、其処には何も無い。

だからこそ、3人は信じられないって表情を浮かべていた。

 

「……何も仕掛けが見当たらない……どうなってるんだ?」

 

「おっちゃんッ!!アンタは目の前で見とったやろッ!!何か気付く事無かったんかいッ!?下に機械があったとかッ!!」

 

「え、い、いや……定明が指を鳴らしたと思ったら、いきなり目の前に炎が現れて……あっという間に消えちまったってぐらいしか……」

 

(仕掛けが何も無い……くそっ!!本当に何なんだよコイツのマジックはッ!?下手すりゃキッド以上じゃねぇかッ!!)

 

世良さんは首を傾げながらも、なにか無いかと辺りを見回し、服部さんは尤も近くで見ていた伯父さんに詰め寄る。

コナンもしゃがんで床に仕掛けが無いか調べているが、当然俺は何も仕掛けていない。

本当に俺は何も仕掛けてねえからな。

更にあの炎が偽物の炎じゃ無いってのは伯父さんのタバコにちゃんと火が点いてる事で明白だ。

そうやって色々と調べる3人を見ながら、俺はグッと伸びをしていた。

良く推理モノにファンタジーは混ぜてはならないって聞くけど、こうやって見てると確かにそう思えるな。

超能力で作り出した炎の仕掛けを、人間の常識の範囲内で理論付けようとするのは無理だ。

まぁ俺の場合は俺を観察しようとしてる人達を振り回せるから便利なんだけど。

 

「ど、どうやったの定明君ッ!?今の炎って、いきなり現れたけど……ッ!?」

 

「ん?それは秘密ッスよ。あの人達が自力で解いてみせるって言ってましたし……自分から種を教える様じゃ、マジックの意味が無いじゃないっすか?」

 

と、物凄い興奮した様子の蘭さんが詰め寄りながら聞いてきたので、俺はそれをやんわりと受け流す。

まぁ説明して欲しいと言われたって、スタンド能力です。だなんて言えねえんだけどな。

そんな事を考えながら、真剣な表情で辺りを捜索していた3人を眺めていると――。

 

 

 

prrrrrrrr

 

 

 

まーた鳴っちまったんだ。

 

 

 

「いったいどうなって……ん?和葉からか……(pi)何や和葉?もうカレー買うたんか?」

 

『――た――助けて平次ぃッ!!!』

 

 

 

気の休まる暇の無い、新たな事件の警鐘が。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

和葉さんからのSOSを受け取った服部さんを含めた俺達は、和葉さんが指定したファミレスに到着した。

俺の場合は話を聞いた伯父さんが行く気満々だったから、俺もなし崩し的に着いて行かなくちゃならなかっただけなんだが。

件のファミレスの前に着くと、駐車場や辺り一帯はパトカーで埋め尽くされている。

それも仕方無いだろう……このファミレスの中で殺人事件が起きたのだから。

っつうかこんなにポリで埋め尽くされてんのに、俺達は中に入れんのか?

そう思っていたのは俺だけなのか、他の皆は淀みない動きで入り口へと向かう。

やがて、入り口の前を封鎖している警官が俺達を厳しい目付きで見てきた。

 

「あっ、毛利さんッ!!警部に呼ばれたんですねッ!?どうぞッ!!」

 

「い、いやぁ~はっはっは……」

 

しかし伯父さんの姿を確認すると敬礼しながら店の中へと案内してくれるではないか。

その警官の尊敬の眼差しみたいな視線を受けながら、伯父さんは肯定も否定もせずに頭を掻きながら中へと入っていく。

コナンや蘭さん達も問題無くササッと店の中へと入っていった。

……これ、良いのか?……まぁ、俺が怒られる訳じゃねえし、別に良いか。

頭に浮かんだ考えを振り払いつつ、俺も伯父さんより先に店の中へと足を踏み入れる。

店の中はまだかなりの人数が居て、皆の表情は一様に不安に染まっていた。

そんな中で、俺はレジの前に集まってる蘭さん達の元へと向かう。

後から入ってきた伯父さんも俺に続いて合流を果たした。

 

「じゃあ、こういう事ね……和葉ちゃんがここのレジでそのカレーを買ってたら、突然外国人の男の人があのトイレから出てきて、人が死んだから警察を呼べって言ったのね?」

 

「うん……2メートルくらいの身長のおっきな外国人の人やった。その人がトイレは封鎖して、念の為に客は1人も外に出すなって大声で言うてはったよ」

 

「その外国人、英語でそう言ってたんか?」

 

蘭さんと和葉さんが事件のあらましを纏めていく中で、服部さんが尤もな事を質問する。

普通いきなり英語でそんな事を言われても、素早く対応出来るとは思えないわな。

案の定、和葉さんは服部さんの質問に首を横に振った。

 

「ううん、日本語やったで。その人が最初に死んだ人を見つけたんやって」

 

「日本語ペラペラの外国人で、死体の第一発見者か……そいつの方が怪しいなぁ」

 

和葉さんの補足を聞いて、伯父さんは顎に指を当てながらそんな風に言う。

まぁ確かに伯父さんの言う事も分かるけど、普通犯人が現場を封鎖しろとか客を外に出すな、だなんて自分から言うかねぇ?

或いはそう忠告する事で捜査の目を誤魔化すブラフとか?

……いや、そりゃねえだろう。日本語ペラペラの外国人って時点で怪しんでくれって言ってる様なモンだし。

って事は伯父さんの推理はいきなり的外れって事だな。

 

「まぁ、我々としては……」

 

「え?」

 

「毎度毎度、勝手に現場に入ってくる君らの方がよっぽど怪しいんだがな……」

 

「め、目暮警部殿ッ!?」

 

突如、俺達の話に割って入ってきた男の呆れた様な言葉に対し、伯父さんは敬称を付けた名前を呼んで反応する。

伯父さんに敬称で呼ばれた人物は立派な口ひげを蓄えた太っちょの男。

世良さんの被ってる様なポークバイ帽を被った目暮警部は、少し口元を引き攣らせて俺達を見ていた。

確か、この目暮警部は伯父さんが刑事の頃からの上司だったな。

 

「いやぁ、最近は現場に来ただけで『警部に呼ばれたんですね』って勘違いされて、スルーなんスよ……」

 

「ハハ……って、あぁああああッ!!?き、きき、君はッ!?」

 

「あ?……あ」

 

伯父さんが目暮警部に対してありのまま起こった事を伝え、それを聞いていた目暮警部の背後に立っていた若い刑事が苦笑を漏らしたかと思えば、次の瞬間には俺を指差して叫びだしやがった。

一体何だ?とか思ったのは一瞬で、次の瞬間にはその人物が何日か前にからかって煙に撒いた高木刑事だと思いだした。

やっべ、まさかこんな場所で遭遇する事になっちまうとは。

軽く面倒くせー事態になりかけてると自覚して溜息を吐く俺だが、外野はそれで許してはくれない。

俺が前に事件に関わった事を知らない蘭さん達や、初対面の目暮警部は俺と高木さんを見て首を傾げるばかり。

 

「ん?毛利君、この少年は?コナン君の友達かね?幾らコナン君の友達でも、さすがに現場に入れる訳にはいかんのだが?」

 

「あぁいえ。こいつは私の甥っ子でして、さすがに事務所に1人にしておくのは憚られたもので連れてきてしまいました」

 

「甥?君の甥っ子と言えば……おぉッ!?もしかして雪絵君のッ!?」

 

「はい。定明、こちらは警視庁の目暮警部殿だ。俺が昔からお世話になってる人で、この人もお前の母ちゃんの事を良く知っておられるんだ」

 

「そうなんスか……どうも初めまして。城戸雪絵の息子、城戸定明です」

 

「うむ。儂は目暮十三という。よろしくな、定明君……雪絵君には良く毛利君と一緒に差し入れをしてもらってた事があってな。とても美味しい食事をご馳走になっておってなぁ。うちの家内も料理のいろはを教わっておったし、とても助けられたものだ」

 

「あー。母ちゃん、料理の腕は本気で絶品ですもんね」

 

目暮警部は屈みながら俺を見下ろしつつ、昔の思い出を語る。

俺も身内が褒められて素直に嬉しい気持ちが湧き上がり、自然と微笑んでいた。

父ちゃんが言ってた太陽みたいに周りを明るくする人ってのも、間違っちゃいねーんだよな。

しかしそれでは終わらず、未だに俺を指差して驚いてる高木刑事に対して、目暮警部や他の人達が首を傾げる。

 

「……でー、高木君?何で君はそんなに驚いておるんだね?」

 

「け、警部ッ!!この少年ですッ!!この前の女子中学生誘拐事件の時に、犯人の男女を倒して無力化し、事情聴取の途中で消えてしまった少年ッ!!」

 

「「「「「……え?」」」」」

 

そして、等々高木刑事はあの誘拐犯の事件の事を口に出してしまった。

それを聞いて、俺から何も教えられていない人達は呆けた声を出している。

ちっ。さすがに蘭さん達には教えておいた方が良かったかもな。

 

「人聞き悪い事言わんで下さいよ。あん時は佐藤刑事さん、でしたっけ?あの人が何も言わなくなったからもう事情聴取は終わりだと思って、俺は帰ったんスよ」

 

「そ、それはちょっと佐藤さんがフリーズしちゃったからで、まだ事情聴取自体は終わってなかったんだから勝手に帰っちゃ駄目だよ……後でコナン君から君が毛利さんの所に泊まってるって聞いて、改めて事情聴取に行くつもりだったし……」

 

「え?あの時帰ろうとした俺に高木刑事さんも何も言わなかったじゃないっすか?っつうかあれから何日も経ってるつうのに、今日まで事情聴取に来なかったっしょ?」

 

「あ、あの時は僕もちょっと頭が止まってたというか……あの後直ぐに行けなかったのは、色々と事件が重なっちゃったって時間が無かったからなんだ」

 

「ち、ちょっと待って下さいッ!!誘拐事件って何なんですかッ!?」

 

と、高木刑事と漫才の様な遣り取りをしていた所に蘭さんが声を荒らげて質問してきた。

その質問に対して、高木刑事がベラベラと余計な事を喋り始める。

俺が単独で誘拐犯に立ち向かったとか、ボコボコにした誘拐犯(女)の髪の毛を剃り落としたとか、その女のハゲにした頭にデカデカと罰とマジックで書いてた等々。

くそ、うやむやにして終わらせようと思ったのにそう上手くはいかなかったか。

俺のやらかした所業を聞いて、世良さんと服部さんと和葉さんは思いっ切り顔を引き攣らせるが……。

 

「……定明君」

 

蘭さんだけは聞けば聞くほどに眉を吊り上げて怒りを露わにしていく。

それに比例して何やら覇気の様なものが滲み出るが、美由希さんやプレシアさんに比べたらまだまだ可愛いモンだ。

……こんな事思える時点で、俺の常識も大概だな。

 

「何でそんな危ない事したのッ!?相手は犯罪者なんだよッ!?自分がどれだけ危険な事をしたか分かってるのかなッ!?」

 

「しゃーなかったんスよ。そりゃー俺だって危険に自分から飛び込む気は更々無かったし、居場所を見つけた時は警察に任せるつもりだったんスけどね……」

 

「けど?何?」

 

(こ、怖ぇ……ッ!?コイツ、何でこんなに冷静でいられるんだよ?)

 

かなりの気迫で俺を叱る蘭さんの言葉を真正面から受け流しながら、俺は小指で耳を掻く。

ちなみに隣のコナンは心の底からビビッてるらしく、かなり顔を引き攣らせてる。

コナンのリアクションの所為で、周りには俺が蘭さんの言葉をどうとも思って無い様に見えちまったらしい。

そんな俺の様子を見つつ、蘭さんはジト目で俺の事を睨んでいた。

 

「そいつらこう言ってたんスよ?爺さんは殺して山に埋める。女の子は身代金を受け取った後で裏ビデオに出して一稼ぎしてから殺すって」

 

「え……?」

 

「……なんちゅう奴等や……反吐が出るな」

 

「あぁ。僕がその場に居たら、骨の2,3本は圧し折ってやりたいぐらいだ」

 

かなりの勢いで怒っていた蘭さんは俺の言葉を聞いて口を半開きにしてしまう。

他の皆も程度は違えど怒りに燃えたり驚いたりと様々だ。

まぁ、この話は高木刑事にもしてなかったからさっきの話でも出てなかったし、しょうがねえだろ。

服部さんや世良さんは逆に怒りで燃え上がっていたのを横目で見てから、再び蘭さんに視線を合わせる。

 

「その裏ビデオってのは何か知んねーッスけど絶対に碌でもねぇ事だって思ったし、あの腐れババアは誘拐した女の子の髪の毛を持ち上げて泣かしてたんス。こりゃ警察待ってたら間に合わねーだろーなって思って、俺が犯人をブッチメタって訳っすよ。実際あいつら、その話しながら移動しようとしてましたしね」

 

「……でも、とっても危ない事なんだよ?相手は大人だし……」

 

「わーってますよ。只、今回は勝手に身体が動いちまったって事で、勘弁して下さいっす」

 

その時の状況を明かす事で蘭さんも仕方無いと思ったのか、怒りを納めて神妙な顔付きで注意を促す方針に切り替えてくる。

俺だって必要以上に蘭さんを困らせるつもりは無いので、ちゃんと頭を下げて謝罪を表明した。

こっちにちゃんと反省してるっていう意思があると理解してくれたらしく、蘭さんは大きく溜息を吐いて矛を収めていく。

但し、次からは一人で勝手な事はしない様に、と口を酸っぱくして念を押されちまった。

しかも蘭さんだけでなく伯父さんと目暮警部にまでも忠告をされるという始末だ。

ここでごねても俺には全く得は無いので、俺は素直に蘭さん達の言葉を聞き入れる振りをしておいた。

勿論約束を破るつもりは毛頭無いが、要はケースバイケースって奴だな。

 

「それで話を戻しますが……被害者の死因は?」

 

「あぁ、はい。毒ですね。遺体の口に青酸系の毒物が混入された入っていましたし、被害者のポケットからも同じ飴玉が見つかっています」

 

「じゃあ、自殺かもしれねぇって訳か……」

 

「ええ……第一発見者の外国人もそう言ってましたし……」

 

そして、俺の過去にやらかした所業への注意から、話は今回の事件の概要に流れた。

高木刑事が伯父さんの質問に答えて明かした詳細の内容は、確かに伯父さんの言う通り自殺にも思える。

でも、自殺する人間が態々飯を食いに来て、更にトイレでくたばるなんて有り得るのか?

普通は誰にも見られない様にこっそり樹海に行くとか、自宅でひっそりと死のうとすると思うんだけどな……。

ここで、高木刑事の話を聞いてそんな風に考えていた俺の耳に、世良さんの訝しげな質問の声が入ってきた。

 

「でも何者なんだ、その外国人って?妙に現場に慣れてるみたいだけど、刑事さん達の知り合いなのか?」

 

あー、確かに。その外国人の手際の良さも気になる所だな。

死体を発見して直ぐ様店から客を出さない様に指示して、警察を呼ぶなんて普通は出来るもんじゃない。

 

「ま、まぁ、警察の関係者って言えなくもないけど……」

 

世良さんの質問に対して、高木刑事は妙にハッキリしない言い回しで答える。

ってか、警察関係者ともいえなくもないってどういう立場だ?

曖昧な言い方に首を傾げていると、直ぐ側に居た蘭さんが何やら小声で呟いてるのが聞こえた。

 

「大男の外国人で日本語がペラペラ……こういう現場に慣れてて警察の関係者とも言えなくもない……あっ!?もしかして……ッ!?」

 

「えぇ……」

 

と、蘭さんが何やら大きな声を出したその時、蘭さんの背後にぬぅっと巨大な人影が現れた。

身長は低く見積もっても195はあるであろう大男は、俺達に向かって苦笑いしながら後ろ髪を掻いている。

 

「思わず、そうしてしまって……」

 

「やっぱり、キャメル捜査官ッ!!」

 

「……は?」

 

いきなり現れた大男に対して、蘭さんは親しげに名前を呼んだではないか。

そのチグハグな光景に、俺は目を丸くしてしまう。

え、なに?蘭さんはこの男と知り合いなのか?っつうか、こんなギャングスタみたいな男が捜査官?

その光景に驚いたのは俺だけじゃなく、和葉さんや服部さんも目を丸くしていた。

 

「捜査官て……この人相の悪い外国人、知り合いなんか?」

 

「平次ッ!!人相悪いて、そないに正直に言うたら失礼やんかッ!!」

 

「いや、和葉さんの言い方も割りと失礼っすよ?」

 

「あ゛……」

 

正直が美徳な関西人お二人のあんまりな言い様に、目の前の大男も苦笑いが隠せてない。

やれやれ、どうして和葉さんも服部さんもストレート過ぎる表現をしちまうんだか。

 

「それより、捜査官っていったい……」

 

「FBIだよ」

 

「エ、FBI?」

 

「うん。今はたまたまお休みを取って、日本に旅行に来てるんだよね?」

 

「あ、あぁ……」

 

そして、このキャメルさんという人の職種について服部さんが質問したら、コナンからとんでもない答えが帰ってきた。

FBIって……アメリカの警察みたいな組織じゃなかったっけ?ドラマとか映画じゃ良く聞くんだが……実際に詳しくは知らねえし。

携帯も吸血鬼事件の時から鞄の中に入れっぱなしで持ってきてねえから調べようもない。

しかし、コナンがFBIの人間と仲良く話してる所をみると……このキャメルって人も、コナンと関係ありそうだな。

 

「それで、以前仲間と食べたここのカレーの味が忘れられなくて、1人で食べに来たら事件と遭遇した訳で……」

 

(そんなにうまいんかい?ここのカレー……)

 

そんなに美味えの?ここのカレー。

 

「では、よろしければトイレで死体を発見した時の事を詳しく知りたいんですが……」

 

「……普通は断る所だが、君には何時も世話になってるからな……キャメルさん、もう一度彼等に説明してやってくれんか?」

 

「あ、じゃあ現場のトイレで……」

 

と、まぁそういった流れで、皆は死体のあるトイレへと向かう事に。

そして当然の如く着いて行くコナンの後ろ姿を見てから、俺はレジへと視線を移す。

コナンが着いて行っても何も言われてないのは、今回のコナンにはある役割が与えられているからだ。

世良さんがここに来るまでの間にコナンと服部さんに持ちかけた、『東西推理勝負』という、何とも頭の痛い勝負の為である。

これは単純に、『工藤新一と服部平次のどちらが優れているか』という勝負なんだが、件の工藤新一はコナンになっちまってる訳で。

それで、コナンは設定上は他の事件を追っかけてるという工藤新一に事件の状況を伝えるという役割を与えられている。

まぁそういう事で、伯父さんも今回に限っては見逃し、服部さんと世良さんが擁護するという形で、コナンは現場に入れているって事だ。

 

「ん?定明君は来ないのかい?」

 

「は?……何で俺が行く事になってんスか?」

 

何故か俺が行かない事に首を傾げる世良さんに、俺は素で問い返す。

いや、俺一言だって行くだなんて言った覚え無いし。

 

「そうなのかい?大阪の彼からこの前の吸血鬼事件とやらで君が犯人のトリックを見破ったって聞いてたから、君もコナン君みたいに探偵の素質があるんじゃないか?」

 

「えッ!?……そ、そうなのか?」

 

「うん。定明にーちゃん、写真で見ただけで犯人のトリックに気付いてたんだよ。さすが、伯父さんの甥っ子だね♪」

 

「え、えぇ?」

 

「ほぉ、凄いじゃないか。これも名探偵である君の影響かも知れんなぁ、毛利君」

 

「い、いやあの……え、えぇッ!!ま、まぁ、私からすればまだまだですが、定明も私を見て、少しばかり探偵というものが分かったのかもしれませんなッ!!ダーハッハッハッハッ!!」

 

アンタから学んだのなんて、精々が大人のだらけ方ぐらいだよ。

っつうか、俺は別に探偵に憧れた覚えもなりたいと思った覚えも一切ねえ。

何か勝手な方向で盛り上がってる伯父さんは置いといて、俺は溜息を吐きながら世良さんと視線を合わせる。

俺があの事件に首を突っ込んだのは、あくまで蘭さんや和葉さんを女性限定で襲うクソ野郎から守る為だけだ。

 

「俺はあくまで只のガキっす。こんな現場に首突っ込む程、アホじゃねえっすよ」

 

「普通の子供は誘拐犯を倒したりしないと思うんやけど……」

 

「それに、引ったくり犯を叩きのめしたりも、ね」

 

背後から蘭さんと和葉さんに揚げ足を取られるが、それは放置。

俺に関係の無い事件なら、俺が首突っ込む義理は無いからな。

 

「それに、昼飯食い損ねて腹減ってんスよ。これから飯食うって時に、人の死体なんざ見たくねぇんで」

 

「人死によりも飯かいな……人情に薄いやっちゃのぉ……」

 

「まっ、俺にゃ関係の無え事なんでね。死んじまったのは可哀想だとは思っても、ソレ以上は特に何も」

 

(考えがすっげードライ……)

 

「そうなのか……まぁ、君が嫌なら無理にとは言わないさ」

 

俺の言葉に少し残念そうな表情を浮かべた世良さんだが、直ぐに切り替えて俺との会話を終わらせる。

他の皆も俺の事情より事件の方が大事なので、全員トイレへと向かっていった。

やれやれ、毎回俺を巻き込もうとするのは止めて欲しいぜ。

それにまだ殺人か自殺かなんて分からねぇんだし、今度は名探偵が3人も居るんだから、俺が出張る必要は無い。

この前の月村裕二みてーなのが居たら、話は別だがな。

 

「それじゃあ、俺達はどうします?ここに居てもウェイトレスさんの邪魔になりそうッスけど?」

 

探偵組が現場に向かったのを見送ってから、俺は残った和葉さんと蘭さんに質問する。

俺達が居たのは厨房の入り口近くだったので、さっきからウェイトレスさんが後ろで出入りを繰り返している。

さすがにこの場に留まるのはちょっとな。

そう言うと蘭さんの提案で俺達はレジの近くにある待合席に座って待つ事に。

 

 

 

……20分後。

 

 

 

「お腹空いたなぁ……」

 

メニューを見ながらお腹を摩る和葉さんの一言に、俺も頷く。

ファミレスの片隅で特にやる事も無かった俺達は適当にダベっていたが、それも長くは続かなかった。

まぁ人が死んだ場所で楽しい話題なんてそうそう話せるもんじゃねえしな。

あっという間に話題の尽きたので、和葉さんは暇つぶしに目を通したメニューを見ながら俺とまったく同じ気持ちを吐露する。

っつうかマジに腹減ってやべぇよ……右見ても左見ても料理関係だし、(ファミレスだから当たり前だが)匂いが食欲を刺激しやがる。

 

「平次達、まだ時間かかるんやろか……」

 

「かも……メニュー見てると涎出てきそうでヤバイね……定明君は大丈夫?」

 

「いや、俺もガチで腹減ってヤバイっす……」

 

朝飯なんかとっくに消化しちまってる俺の腹が何か食わせろって喚いてるぐらいだ。

しかもこの店の売りなのか、とてもカレーの良い匂いがそこら中の席から漂ってくる。

うわ、マジで美味そうな匂いだな……こりゃー俺が食べるだけじゃなくて、土産に買って帰った方が良さそうだ。

俺が伯父さんの所に行くって言った時に不満そうな顔してたアリサの顔が脳裏を過っていく。

……こんなに美味そうなカレーが土産なら、文句は言わねえだろ。

俺は頭の中で必要な数を計算しながら、レジのお姉さんに声を掛ける。

 

「すいません。ちょっと良いっすか?」

 

「え?あ、どうしたの。ぼうや?」

 

「このレトルトカレーを土産用に、えっと……ひぃふぅみぃ……18個欲しいんスけど、在庫あります?」

 

「じゅ、18個?そんなにあったかしら……えっと、ちょっと待ってくれる?数を調べてくるから」

 

「はい、お願いします」

 

啓示された数に驚いたウェイトレスさんだが、直ぐに奥へ入って調べに向かってくれた。

幾ら子供相手でも、仕事をちゃんとしてくれる人は良い。

店によっちゃあ舐められて、まともな対応しねえ店もあるし。

 

「ち、ちょっと定明君。そんなにお金あるん?」

 

「雪絵さんから預かってる生活費にお土産代も入ってたけど、それは探偵事務所だよ?」

 

「あぁ、大丈夫っすよ。一応財布ん中に3万はあるんで」

 

「「さ、三万ッ!?」」

 

不安そうな声で質問してきた二人にあっけらかんと答えると、二人は逆に目を丸くして驚いた。

まぁ9歳のガキが持つ様な金額じゃねえからな。

そんな感じで俺の所持金に二人が驚いてると、ウェイトレスさんが9つずつカレーのパックを入れた袋を持ってきてくれた。

どうやら普通に在庫はあったらしく、俺はそれを普通に購入。

俺が帰る時まで預かってくれるそうなので、お礼を一言言ってお願いした。

しっかし、腹減ったなぁ……一体何時になったら飯食えるんだよ……。

一応さっき和葉さんに気が紛れるかもって事で飴を貰ったけど、それで誤魔化すのも限界だわ。

空腹の限界を感じていると、コナンと伯父さんと服部さん、目暮警部と高木刑事がトイレから出てきて、何やら角の席に座ってる3人に声を掛け始めた。

どうやら事情聴取みてーだけど……何で服部さんが主になって話を聞いてるんだ?

 

「おうお前等、かなり腹減ったって顔してるぞ?」

 

「あっ、お父さん」

 

と、何か変だなと感じていた所で伯父さんだけが俺達の元に戻ってきた。

コナンは相変わらず服部さんの傍で話に耳を傾けている。

 

「伯父さん。何で服部さんが事情聴取なんかしてんスか?普通は高木刑事さんとか目暮警部さんとかの警察関係者がやるんじゃ……」

 

「ん?あぁ、ちょいと訳があってな……どうやらこのヤマ、殺人みたいでよ……」

 

俺の質問に頬を掻きながら、伯父さんはポツポツと話し始める。

何でもキャメル捜査官は偶々現場のトイレで用を足してた所で事件に遭遇しちまったらしい。

その時に聞こえてきた会話の内容から、キャメルさんはこの事件を自殺だと思ってたとか。

キャメルさんが個室の壁越しに聞いた会話は、こうなっていたそうだ。

 

『幾ら幼馴染みだからって、そんな頼みは聞けないよ。阿部さんに毒を盛って殺したのは自分だ。だから自分は責任を取らなきゃいけない』

 

確かに、普通に聞けばこれは今から自殺するぞっていう言葉だろう。

死んだ男の言う通りなら、阿部さんという誰かに毒を盛って殺したのは自分だから、これから責任を取る、という供述と、遺言のセット。

だれがそれで聞いても納得するだろう。

更に現場にはトイレの中に水没した携帯が落ちていたので、キャメルさんはその会話も含めて、電話の相手が死んだ男の自殺を止めようと会話してたんじゃないかと予想したらしい。

でも、何でこんなファミレスのトイレで死んだのかが疑問に残る。

それで目暮警部が改めて思い出してくれと聞く。

それで良く思い返したキャメルさんが言うには、死んだ男は服部さんと良く似た喋り方をしていたらしい。

つまり、死んだ男は『関西弁』で喋っていたという事になる。

そうだとするとこれは自殺じゃなくて『他殺』になる、と服部さんは言い出したそうだ。

何でそうなるんだ?と首を傾げる皆の前で、キャメルさんが聞いた言葉を関西人の服部さんが訳すと――。

 

『なんぼ幼馴染みやゆうたかて、そないな頼み聞かれへん。阿部ちゃんに毒盛って殺したのは『自分』や。せやったら『自分』、責任とるしかないで?』

 

と、なった訳である。

これだけ聞いたり文章にしただけじゃ何処もおかしくないと感じる。

しかし、これは『関西弁』という言葉の訛りがあると話が変わってくるのだ。

 

 

 

関西弁の『自分』は『相手』――つまり『別の人間』を示す言葉なのだから。

 

 

 

日本語は外国の人からすれば習得、理解がかなり難しい言語らしい。

関西弁の存在を知らなかったキャメルさんは、死んだ男の言う言葉が自身を差してる言葉だと思ってたそうだ。

まぁ英語なら自分はME、相手はYOUという二通りしかねぇからな。

関西弁という方言では『自分』という言葉の意味が違うだなんて思いもしねえだろ。

更に服部さんがキャメルさんに確認すると、『安倍ちゃんに毒盛って』の『盛って』が、実は『塗って』に聞こえたそうだ。

でも人に毒を『塗る』と言うのは変だと思って、キャメルさんは聞き慣れていない関西弁の所為で『盛って』と聞き間違えたんだろうと思ったらしい。

しかし服部さんは、それは間違いではないと否定する。

正確には『安倍ちゃん』ではなく、『アメちゃん』……つまり、『飴玉』の事だったのだと。

今回死んでいた犠牲者も毒の飴玉を咥えさせられていたからこそ、間違い無いだろうという事だ。

確かに発音は似ているし、飴玉にちゃん付けをするのは関西特有の言い回し。

だからこそ、阿部ちゃんではなくアメちゃんに毒を盛って殺したという文章が成立したそうだ。

 

「それでまぁ、俺達関東の人間が事情聴取するより、関西弁に慣れてるアイツが聞いた方がボロを出すかも、なんて言い出しやがったからああなってるっつう訳だ」

 

「はー、なるほど……で、進展はあったんスか?」

 

服部さんが何の権限も無しに事情聴取していた理由が分かり、今度は事件の進み具合を聞いてみる。

しかしそっちの問いに対して、伯父さんはアメリカンジョークみたいに肩を竦めながら手を上げて、首を大袈裟に横へ振った。

つまり、そっからの進展は無しって事か……腹減ってんだから早く解決して欲しいモンだぜ。

 

「じゃあ、まだ犯人は分からないの?」

 

「あぁ。まぁ被害者が幼馴染みと言ってた線で、この店で該当するアリバイの無い3人とまでは絞れたんだがな……」

 

「えぇー。困ったなぁ……もうお腹ペコペコやのに……」

 

「さすがにもう飴玉じゃ腹誤魔化せねえッスよ……それってのも、こんな所で事件起こしてしらばっくれてる野郎の所為だとか……ムカっ腹が立って仕方ねぇぜ」

 

マジどうしてやろうか?この苛つきを犯人にぶつけて発散してやりてぇトコだが……誰が犯人なんだ?

チラッと服部さん達の居る方に視線を向けると、服部さんは眼鏡をかけたオッサンと喋っている。

どうやらあの人が疑わしい人ってのの一人みてぇだな。

……事件に首突っ込むつもりはねぇけど、早えとこ解決してくれよな、名探偵諸君よ。

早く事件を終わらせてくれと思いながら溜息を吐いていると、伯父さんが笑いながら俺達にこう言った。

 

「まっ、そうだろうと思ってよ。丁度テーブルが一つ空いてるそうだから、そこで飯を食っていいぞ」

 

「お?マジっすか?」

 

「えッ!?良いのお父さんッ!?」

 

「でも、まだ事件の途中やないん?」

 

「あぁ。但しまぁ、一つ条件があるんだけどな」

 

天から降ってきた恵みの一言に色めき立つ俺達だが、何やら伯父さんは怪訝な事を言い出す。

その意味が判らず首を傾げていると、伯父さんはあの容疑者3人と同じ食べ物を注文して、何か気付く事は無いか教えて欲しいらしい。

正直、関西人というとっかかりしか見つかって無い上に、一人汗っかきだと主張してる奴を除いて、辛い料理を食べた所為で汗を掻いてるそうだ。

だから誤魔化そうとしてビビる所為で汗が出てるのか、そうでなく本当に料理が辛かったのかも分からないと。

……アトゥムの力を使えば一発で分かるけど、それを証明する手立てが無え。

まっ、あの二人に任せりゃ大丈夫だろ。

理由はどうあれ飯にありつけるという事で、俺と和葉さんと蘭さんは一もニも無く了承。

テーブル席についてウェイトレスさんが運んできてくれた料理に口を付けるのだった。

 

「ホントに美味しいね、このファミレスの料理」

 

「うんッ。このカレーめっちゃ美味しいわ。蘭ちゃんはどう?」

 

「私の食べてる麻婆豆腐も美味しいよ。定明君は――」

 

「……」

 

「??定明君?どうしたの?」

 

空腹という最高のスパイスの効果もあるだろうが、蘭さんと和葉さんは大喜びで食事を堪能してた。

しかし俺はというと、些か首を傾げてしまう事態が発生している。

俺の様子を見て首を傾げる二人には悪いが……これはおかしい。

別に味がおかしいとかじゃない。

寧ろ味の方はお世辞抜きに美味いと感じてる方だ。

しかし、しかしだ……。

 

「お前等俺等が必死こいて捜査してんのに、呑気に飯食うてたんかいッ!!」

 

と、出された飯を口に一口運んでから頭を働かせてると、服部さんの怒声が頭上から降り注いだ。

その声に視線を上げてみると、服部さんは俺達に向かって怒ってる所だった。

コナンは怒るまではいかなくとも、マジかよって顔をしている。

 

「しゃーないやん。アタシ等お腹ペコペコやってん……」

 

「つうか、捜査に自分から首突っ込んでる服部さんに怒られなきゃいけねえ筋合いなんて無えと思うんスけど?そう思うなら最初っから捜査しねえで飯食ったら良かったじゃないっすか?」

 

「アホゥッ!!探偵が事件ほっぽり出して飯なんぞ食ってられるかッ!!」

 

「んなもん完璧に私事で、俺等が怒鳴られる謂れは無えっつってんですよ。それとファミレスで大声出さないでもらえません?周りにマジで迷惑なんスけど?」

 

「ぐ、ぐぐ……ッ!?」

 

「な、なんか定明君。機嫌悪うない?」

 

「何時もより、かなりキツイ言い方してるよね……」

 

「空腹で何十分も待たされて、やっと飯にありつけたと思ったら理不尽に怒鳴られる。これでキレねえヤツはよっぽどの聖人君子だと思いますけど?」

 

何時も以上に悪態を吐く俺に、和葉さんと蘭さんはかなり驚いていたが、俺からしたらキレて当たり前だぞコレ。

こっちからしたら完全に待たされてるだけなのに、好き勝手に捜査してる奴に言われたら嫌になるっての。

 

「まぁそれより、コナン。ちょっと聞いて良いか?」

 

「え?な、なに?定明にーちゃん」

 

服部さんに言い返してから、俺はその隣で驚いていたコナンに声を掛ける。

 

「あー、伯父さんから聞いただけなんだけどよ。あそこの怪しいって連中は、本当に『辛い』料理を食ってたって言ってたのか?間違い無く?」

 

「え?う、うん。確かにそう言ってたよ?ねぇ、平次にーちゃん?」

 

「あ?あ、あぁ。つっても、麻婆豆腐を頼んだおっさんは汗っかきなだけで、麻婆豆腐は食ってへんかったみたいやけどな」

 

「でも、この麻婆豆腐。確かに辛いよ。とっても美味しいけど」

 

まさか俺が事件について首突っ込むとは思わなかったんだろう。

コナンは少し面食らいながらも、テキパキと聞いてきた内容に間違いが無いと教えてくれた。

服部さんの言葉からも間違い無いという事が伝わってくる。

……成る程成る程……って事はつまり、俺の考えが間違い無えんなら、確定だろうな。

目の前に置かれた料理を見つめながらうんうんと頷いてると、服部さん達と一緒に居た世良さんが笑みを浮かべて俺に視線を送ってくる。

 

「もしかして、何か分かったのかい?犯人の正体、とか?」

 

「えぇッ!?」

 

「嘘ッ!?い、今の質問で犯人の事なんか分かるんッ!?」

 

「まぁ僕は全然判らなかったけどね。でも、彼はあの『眠りの小五郎』の甥っ子なんだろ?もしかしたら、僕らも考えつかない様な事で犯人像の閃きを得たのかもしれないからさ」

 

(眠りの小五郎は俺がやってるんだけどな……)

 

と、俺が何かに気付いた様子を見て、世良さんが言った言葉に蘭さんと和葉さんが大仰に反応した。

しかも何故か『眠りの小五郎』と言った所で伯父さんがドヤ顔してる始末。

伯父さんも事件解決の記憶が無えってのに、良くあんだけ天狗になれるよな。

その図太さだけは尊敬するわ、マジで。

そんな風に盛り上がる女子3人とは違い、半目になってる名探偵二人。

 

「あほ言え。今の言葉だけで何が分かるっちゅーねん。現場見て、事情聴取もした俺等本人がまだ判らへんっちゅーのに」

 

「あはは……(まぁさすがに、今の言葉だけじゃな)」

 

 

 

世良さんの言葉を否定した二人だが……お生憎様。

 

 

 

「いや、分かりましたよ?犯人」

 

「「――へ?」」

 

俺の言葉を聞いて唖然とする二人に、俺はニヤリと笑う。

俺にはもう分かっちまったんだよ。

まさしく脳みその片隅に引っかかってた『ある言葉』と、日常の中で覚えたとある『トリビア』の一つ。

そして、今食べてる『料理』のお陰で、な。

 

 

 

「お探しの関西人は――この『塩ラーメン』を食ってた人っすね」

 

 

 

呆然とする探偵二人と驚きに目を見開く3人からの視線を浴びながら、俺は自信満々に自分の目の前の料理を指差す。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「犯行後にラーメンを頼んだのは、お手拭きが欲しかったんだよね?汁を零したって言えば直ぐに貰えるから」

 

さて、時間は進んで現在は種明かしの最中だ。

但し、推理で相手を追い詰めてるのは何時もの眠りの小五郎伯父さんでは無く、コナンなのだが。

俺が食ってた塩ラーメンと同じモノを食ってた人が犯人だと伝えた時、俺の言葉を理解したのはコナンだけだった。

服部さんは何でそんな事が分かるって俺に聞いてきたけど、俺はこう返した。

 

『それを推理すんのが探偵の仕事っしょ?それにこれは服部さんと工藤さんの勝負じゃないっすか。後はご自分で考えて下さい』

 

そう言われては自分達の勝負の事と、探偵の意地というものがある服部さんはそれ以上聞く事はしてこなかった。

しかしこれは、聞き親しんだ関西弁だからこそ直ぐに事件の過ちに気付けた服部さんの例があった様に、今度は東京の言葉に慣れたコナンに軍配が上がったのだ。

俺が塩ラーメンを頼んだ容疑者の甘粕亨が犯人だと感づいたのは、コナンに確認した言葉の違和感に気付いたからだ。

 

それは『容疑者全員が辛い料理を食べたと供述している』という点である。

 

実は俺も知ったのは数日前……服部さん達が上京してきた日の事なのだが、味噌汁を飲んだ和葉さんの一言が気づいた切っ掛けだ。

他の人は気にも止めてなかったが、俺はこの時の和葉さんの一言を思い出したんだ。

 

『ずずっ……』

 

『ど、どうかな、和葉ちゃん?』

 

『うん。とっても美味しいで、蘭ちゃん。前に知り合いの家で飲んだ味噌汁は『辛すぎて』よう飲まれへんかったけど、蘭ちゃんの味噌汁はとっても美味しいわ♪』

 

分かるだろうか?

和葉さんは、『香辛料の入ってない料理』を『辛い』と言ったんだ。

普通、香辛料の入ったカレーや麻婆豆腐を辛いと言うのは分かる。

しかし味噌汁に含まれてるのは『塩分』だ。

だから塩が効きすぎた味噌汁を飲んだら、普通方言や訛りの無い人間は『しょっぱい』、もしくは『塩辛い』と言う。

俺はこのちょっとした事が気になって和葉さんに聞いた所、大阪じゃ普通に『辛い』と言うそうだ。

 

 

 

だから、塩の効いた『塩ラーメン』を辛いと言った甘粕は関西人――つまり、犯人だと俺は確信した。

 

 

 

まぁトリックも何も無い上に、目撃者が外国人だった事で起きた捜査の混乱以外は特に難しい事件じゃ無い。

しかも容疑者が絞れて尚且つ関西弁かどうかだけなら、頭の悪い俺でも簡単に分かった。

何せ直にラーメン食ってた訳だし。

そして、俺の言葉で、いや俺の食べてた料理が塩ラーメンだと分かったコナンが、工藤新一に電話して、新一から事件の犯人が分かったと言われたという芝居を打った後、新一の指示通りに塩の効きすぎた味噌汁を用意。

その味噌汁をその場の全員+服部さんや警部さん達にも飲ませて、服部さんや和葉さんと同じく味噌汁を辛いと言った甘粕亨を関西人だと指摘。

あたかも自分は新一に教えられた人の真相を話すだけの子供という所を演出しながら、推理で犯人を追い詰めていく。

左手でタバコを吸っていたが、箸が右にあることから、甘粕は右利き。

それなのに左手でタバコを持っていた理由は、毒の飴玉を掴んだ方の右手でタバコを吸うのが怖かったから。

更に関西人のもう一つの特徴である、真似ただけの下手くそな関西弁にキレるという特徴を利用して、相手をキレさせた。

その際に犯人が関西弁を使った事により、決定的な事実となった。

俺はソレを少し離れた所で見ていたけど、人の特徴を利用した追い詰め方をするコナンに感心したぜ。

 

「それと、あのおじさんをトイレで毒殺した後で、洗い流すつもりだった手に付いた毒を拭き取る為に、ね?」

 

「……ッ!?」

 

「トイレで洗えなかったのは水を流す音がして、トイレに誰かが居る事に気付いたからじゃないかな?キャメルさん。水、流したよね?」

 

「あ、ああ……男のうめき声がしたから、トイレから出て様子を見に行く前に一応……」

 

「……なるほど、その水音で犯人が立ち去る足音も掻き消された訳か……」

 

「で、でも何でお手拭きで手を拭いたのに、左手でタバコを?」

 

コナンの推理(代理)と、キャメルさんの証言によって固められていく事件の全貌。

足音が聞こえなかったというキャメルさんの勘違いの原因に納得がいったという目暮警部の呟きの後、今度は高木刑事が質問した。

 

「ちゃんと毒がとれたか判らなかったからじゃない?毒は目に見えないし……」

 

まぁ人間の怖がるものの一つだよな、目に見えない脅威ってのは。

五感の中で周囲の状況を知るのに一番大事な部分は視覚だ。

その視覚に捉えられない脅威ってのは、知らずと無意識に反応してしまう。

 

「そのお手拭きがテーブルの上にないって事は、服のポケットに閉まったんでしょ?そのお手拭きを警察の人が調べれば、わかっちゃうと思うよ?……おじさんが毒の飴玉を使って人を殺した……犯人だってことがね」

 

「あ、う……」

 

最早言い逃れの出来ない状況に追い込まれて、犯人の口から言葉にならない呟きが漏れる。

キッチリと証拠の場所も含めて言われたら、後は警察が身体検査したらそれでバレるだろう。

締めに「って、新一にーちゃんが、電話で言ってたよ♪」とドヤ顔で言うコナンに、服部さんがムカつくって表情を浮かべる。

……仲が良いのやら悪いのやらって――。

 

「く……ッ!?でりゃあああああッ!!」

 

ガシャアアアアンッ!!

 

「「ッ!?」」

 

「きゃっ!?」

 

「蘭ちゃんッ!?」

 

と、悪あがきのつもりなのか、犯人である甘粕はテーブルを引っ繰り返してコナン達と距離を取ると、入り口に向かって走りだした。

しかも懐に隠し持っていたのか、サバイバルナイフを振り上げながらだ。

コナンや蘭さん達は引っ繰り返ってきたテーブルや、飛んだ皿に驚いて下がってしまい、甘粕と距離が開いてしまう。

更に間の悪い事に、奴が向かってきたのは――。

 

「おらぁああああああッ!!!どけぇええええッ!!!」

 

「なーんでこっちに来やがる……クソッタレ」

 

「「「「あっ。そ、そっちは止めた方が……」」」」

 

入り口に続く廊下に立っていた俺の方向だった。

そして何でアンタ等は俺じゃなくて犯人の心配してやがる。

目がギラギラしてる上に、ナイフを振り上げた甘粕。

警察に囲まれて顔も割れてる訳だが、刑務所に入りたくない一心で動いてるんだろう。

形振り構わない人間ってのは、何でもするだろう。既に二人は殺してるんだし。

 

しかしまぁ、それで俺にナイフを構えて突進たぁ……哀れなモンだぜ。

 

向かってくる甘粕に対して、俺は鉄球を回転させて左手に握る。

さすがに警察の目があるから、骨を折るまではいかねえけど……ちと、教育してやる。

 

「シッ!!!(ドギュウゥッ!!!)」

 

「なッ!?(ドゴォッ!!)ぐあッ!?」

 

俺に向かって走りながらナイフを翳す甘粕のナイフを握る手に、鉄球を投球。

回転を掛けた鉄球はカーブしながら、奴の手からナイフを弾き飛ばした。

鉄球の勢いが思っていたよりも強かったのか、甘粕はナイフを握っていた手を抑えて俺を睨む。

武器を無くしていたが、奴の目に宿るギラギラした気配は全然消えていなかった。

まぁ、自分の前に立ち塞がる相手は小学生。

体格差で押し切れるとか考えてるんだろうが……甘いな。

 

「……俺はよぉ……今よりガキの頃から、この鉄球をずっと扱ってきた……」

 

「あぁッ!?何を訳分かんねー事を――」

 

「鉄球をどう投げれば、どういう角度にブチこめばどういう方向に『弾ける』のか……」

 

突如、理解出来ない事を言い出した俺に吠える甘粕の言葉を遮り、俺は独白を続ける。

そして、右手で既に回転させていた鉄球を振りかぶり――。

 

「ヤリ飽きた『ビリヤード』の様によーーく知ってるんだぜぇ~~~~ッ!!?」

 

 

 

右手の鉄球を、甘粕の頭上――そこで滞空しながら回転を続ける『鉄球』にブチ当てた。

 

 

 

ガギャァアアッ!!

 

すると、滞空していた鉄球に今投げた鉄球が当たって方向を変え――。

 

ドゴォッ!!

 

「――か、ぷ……」

 

メキィ、という痛々しい音を奏でて、甘粕の顔面を強襲した。

滞空していた鉄球は役目を終えて回転を維持しながら俺の手元に戻り、俺はそれをキャッチしてホルスターへと戻した。

更に甘粕の顔面で尚も回転を続けていた鉄球の回転エネルギーが甘粕の顔面からパワーを炸裂させ、その躰を吹き飛ばす。

そのまま空中で一回転した甘粕は、最初に座っていた席へと豪快な音を立てて逆さに沈む。

店内の人間がその一部始終を見て呆ける中、俺は戻ってきた鉄球を手のひらで軽く受け止めてから、流れる様に腰のホルスターへと投げて収める。

まるで潰れたカエルみたいな格好で気絶している甘粕を見ながら、俺はフンと鼻息を鳴らす。

奴が気絶したとかやり過ぎかもだとか、そんな事はどうでも良い。

 

「ふ~む……こういう場合、ニューヨーク市警のバッジとかあったら、バシッと良いキメ台詞でキマったかもしれねえんだけどな。N・Y・P・Dってのは、『逃げる・野郎は・パンチで・ど突く』って意味だ……なんて、な」

 

 

 

目下俺の悩みは、承太郎さんばりの渋い決め台詞が浮かばねえ事、だな。

 

 

こうして、殺人犯は無事にお縄に付き、大阪で起きた事件というのも無事解決。

俺は犯人を攻撃したが、今回は自衛の為という事で厳重注意で済ませてもらった。

蘭さん達も、俺の命が掛かった場面だったからか、強く言わないで居てくれたのが幸いだ。

まぁそんなこんなで、事件も解決して腹も膨れた俺はお土産を両手に抱えて皆と一緒に探偵事務所に戻るのだった。

 

 

 

……まぁ、唯一つ。

 

 

 

「処で平次?コナン君から聞いたんやけど、蘭ちゃんの胸見とったらしいな?ちょっとあそこの路地に行こか?」

 

「アカン。俺死んだわ」

 

服部さんだけは無事に帰れるか分かんねぇんだけども。

怒りに燃える和葉さんに首根っこ引っ掴まれて路地裏へと運ばれる服部さんの背中に哀愁を感じた俺であった。

 

 

 






今回も遅くなってしまいましたが、私事で執筆時間が激減してるのが現状。

それでも最低年内にはまだ幾つか投稿して、今年度の投稿を締めたいと考えてる所存です。


これからもよろしくお願いします。

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