ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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スタンドの名前の『』って正直入りますかね?


とりあえず本編、GO!


俺の姿が見えたなら(ry

 

 

「凄い……こーゆうのって、映画やドラマで良くあるけど、実際に体験出来るなんて……ッ!!」

 

「ほんま、あたしらも貴族になった気分やわぁ……」

 

屋敷の中に通されて執事の古賀さんに案内された、ドラマのセットのような豪華な部屋・テーブルの並ぶ食堂。

そこの長テーブルに綺麗に揃えられた食器やナプキンを見て、蘭さんと和葉さんは嬉しそうにそんな事を言う。

……俺からしたらテーブルマナーとかうるさそうな食事会場って感じで、あんまり嬉しくねぇけど。

ついでに言えばすずかやアリサの家の方がテーブル長かったし調度品も多かったな。

 

「お父さんの付き添いで、私とコナン君は偶にこういう場所に来る事もあったけど……定明君はこういうの初めて?」

 

と、蘭さんが俺を気遣ってかそんな事を聞いてくる。

いや、初めてと言いますか……。

 

「あ~……こういう食事場は……3回目、ですかね?」

 

「え?そうなん?」

 

「あれ?雪絵は専業主婦だし、結城君も普通の会社員じゃ無かったか?なのに、こういう場所に来た事あんのかお前?」

 

伯父さんも俺の言葉が予想外だったのか、首を傾げて会話に入ってきた。

確かに父ちゃんや母ちゃんには縁の無い事だが、俺個人にはある訳で。

前に誘われた夕食や昼食の事を思い出しながら、俺は苦笑いを浮かべる。

多分これ言ったら驚かれるんだろうなぁ。

 

「俺のダチの家が大金持ちで、夕食に呼ばれた事があるんスよ……聞いた事無いっすか?海鳴のバニングス家と月村家」

 

「んん?何かどっかで聞いた様な「「えぇえええええッ!!?」」ってな、何だッ!?」

 

「バ、バニングスと月村って……ッ!?」

 

「う、海鳴市の殆どを土地に持っとる大地主であり、有数の資産家にして名士の月村家と、世界屈指の大企業バニングスカンパニーの家やないか……ッ!?そないな家と親交があるんか、お前ッ!?」

 

「えぇ、まぁ」

 

やはりかなりの驚きだった用で、和葉さんと蘭さんは大絶叫。

そしてコナンや服部さんも同じ様に驚きまくってる。

さすが天下にその名を知らしめた大企業と日本でも有数の資産家の名前。

ネームバリューで言ったら園子さんの実家の鈴木財閥を軽く凌いでいるからなぁ。

 

「……し、しかしよぉ。ホントにお前、そんな財閥の娘とダチなのかぁ?何かお前がそんな大金持ちのお嬢様と知り合いってのが、いまいち納得出来ねえんだが……」

 

「写真ならありますけど……これっす」

 

と、にわかには信じられないと訝しむ伯父さんの疑いに答える為に、スマホから皆で撮った写真を呼び出す。

微笑むリサリサとすずかに勝気な笑みを浮かべるアリサ。そしてクールに笑う相馬に寄り添うなのは。

皆の真ん中で笑みを浮かべた俺という編成で撮った写真だ。

翠屋の中で桃子さんに撮ってもらったそれを、俺は皆に見える様に差し出した。

 

「金髪のがアリサ。バニングスさんトコの娘で、紫っぽい髪の女の子が月村家の次女、すずかっす」

 

「うわぁ……ッ!?二人共可愛い……ッ!!」

 

「お人形さんみたいやわ……あれ?このアリサって子、双子なん?」

 

皆で撮った写真に特に食い付いたのは蘭さんと和葉さんで、二人はアリサ達を見て可愛いを連呼していた。

しかし和葉さんは首を傾げながら、画面に笑顔で映るアリサとリサリサを指さす。

コナンと服部さん達もそこに注目していた。

 

「あぁ、違いますよ。そっくりですけど、二人は赤の他人っす」

 

「嘘ッ!?こんなにそっくりやのに、双子や無いんッ!?」

 

「あ、ホントだ……髪の色と瞳の色が違うだけで、そっくりなのに……」

 

まぁ、あの二人を見たら絶対そう思うよな。

俺は二人の反応を見て、最初にアリサ達が出会った時の事を思い出し、少し笑ってしまう。

 

「こっちの茶髪の子の名前はアリサ。アリサ・ローウェルっていうんですが……年は俺達の一つ上で、何とIQ200の天才少女です」

 

「「「「IQ200!?」」」」

 

「ッ!?ひ、ひょっとしてこの子が、このまえ定明にーちゃんが言ってた……」

 

リサリサのIQを聞いて目を見開く蘭さんと和葉さん、そして服部さんと伯父さんに大滝さん。

だがコナンだけは前に俺からその存在を聞いていた事もあり、他の人達ほど驚いてはいない。

……そういえば、リサリサの事で一つ伝え忘れてた事があったぜ。

 

「あぁ。何の因果か知らねーけど、ファーストネームまでアリサと一緒だから、俺達は彼女をリサリサって呼んでる……それとコナン。一つ言い忘れてたんだが……」

 

俺は少し溜めを作りながら、何を言うのかと身構えてるコナンと、ついでに首を傾げてる服部さんに向けて、ニヤリと笑みを送る。

コナンには佐藤刑事にチクられた借り、そして服部さんには行きの車で面倒な空気にされた借りを返しておくとしよう。

 

「リサリサは俺の鉄球の回転……その正体の根幹になる部分に自力で気付いた、マジモンの天才だぜ?」

 

「なッ!?」

 

「なんやてッ!?」

 

未だに謎が解明出来ていないであろう二人の名探偵に伝えた驚愕の事実。

それを聞いて、二人は面白いくらいに目を見開く。

まあ回転の謎全てにノーヒントで辿り着いた訳じゃねぇが、黄金長方形の事を見抜けただけでも賞賛モノだ。

俺なんか知らなかったら絶対に辿りつけないし。

何よりスタンド使いで無いにも関わらず、リサリサは俺がポロッと零した言葉だけでホワイトスネイクの存在に辿り着いた事もある。

この二人よりもリサリサの方が洞察力も推理力も上に感じるくらいだ。

 

「まぁ、この謎に辿り着けるのは、僅か一握りくらいの人間だと思いますけど――」

 

「ちょっとなんなのよアンタ達……ッ!?」

 

と、自慢げに二人に先に謎を解いた女が居ると教えていた俺の言葉に、誰かが割り込みを入れる。

ちっ、誰だってんだよ?人様の台詞を遮るお邪魔さんは?

自分の台詞を邪魔された事に苛立ちを感じながら振り返ると、そこには化粧が少し濃いオバサンの姿があった。

しかも何故か彼女は俺ではなく、リサリサ達の写真を眺めていた蘭さんと和葉さん達を睨んでるではないか。

 

「え……?」

 

「わ、私達ですか?」

 

「そうよッ!!どこの馬の骨だって聞いてんのよッ!!……まさかアンタ達、お義兄様の隠し子じゃないでしょうねぇッ!?」

 

……は?

戸惑う蘭さんや俺達に敵意を向けるオバサンの言葉に、俺達は目を丸くしてしまう。

隠し子って……普通そんな言葉が初対面で相手に言えるか?

しかも馬の骨だと?……うぜぇな。

そう思っていると、背後から少し小太り気味の眼鏡を掛けたおっさんが現れる。

二人の薬指に同じ結婚指輪が嵌まってる事から、この二人は夫婦なんだろう。

 

「そんなわけないだろ?もしそうなら兄さんが僕たちをここへ呼ぶわけないし……」

 

「そうね……もしそうなら、迫弥の遺産は私たち兄弟じゃなく、子供に全額相続されちゃうんだから……」

 

そして、そのおっさんの後ろから現れた初老の女性がおっさんの言葉を引き継ぎ……。

 

「でもわからないっすよ?何年か前に急に連れて来た、年の離れた子連れで美人の婚約者を……隠し子の2、3人いてもおかしくないんじゃね?」

 

更にその女性の肩を抱き寄せる、ホスト風の男。

しかも抱き寄せられた初老の女性は抵抗も嫌な顔もせず、男に身を預けてる。

……なるほどな……そういうことか。

要するにこいつ等はこの館の主の親族で、今回の遺産相続の話に食い付いて現れた業突張り共って訳だ。

そして今の男の話に出た、過去に子連れで歳の離れた婚約者が現れた前例っていうもあるから、蘭さん達の事を威嚇したって事だろう。

遺産の取り分、いや分け前が減る処か、子供に全額持っていかれては堪ったモンじゃないと。

っていうかホスト風の男はあからさま過ぎだろ。

そんな婆さんの恋人気取って、御機嫌とってまで金が欲しいか?

俺だったらそんな婆さんを恋人にするぐらいなら、日々働いた金で暮らす方が万倍ましだぜ。

 

「……最初に入ってこられたのが、寅倉家二男、寅倉麻信様と、その妻の瑠莉様でございます」

 

古賀さんが俺と同じで半目になった大滝さんや伯父さん、服部さん達に小声で説明してくれる。

まぁ俺は傍に居たから聞こえたって程度だが。

 

「そして後ろの方々が、寅倉家の長女である守与様と、その恋人の羽川条平様です……皆さん遺産相続の件で大分気が立ってらっしゃる様で……」

 

「そりゃー何とも……(ったく。子供が居るってのに大人の汚え一面見せやがって……定明を連れてきたのは失敗だったか?コナンの奴は毎回毎回勝手に殺人現場をうろつきやがるし……死体の傍なんて教育にゃ悪いんだが、全っ然聞きやしねぇ)」

 

あの羽川ってさぁ……どこからどう見ても恋人っつうよりハイエナじゃね?

皆も俺と同じ事を思ってるのか、ややジト目で抱き合う二人を見ている。

人様の人生には極力口を出したくねえ俺だけど……無いわ。アレは無いわ。

堂々としてて清々しいけどアレは無い。

 

「でも、その婚約者運悪くすぐに死んじまったけど……あ、そっか。あんたらにとっては運良くか?」

 

「お、おい君ッ!?」

 

何とも不謹慎な言葉を吐いた羽川に、皆から非難の視線が集まり、麻信さんが叱責するが、羽川には堪えた様子は無かった、

……人間一人死んで運良く、ね……こいつは気に食わねぇな。

こんな性根の腐った奴は死んだ方が世の為人の為になるってなモンだぜ。

 

「おいコラ」

 

ガシィッ!!

 

「うぐッ!?」

 

「あ、ちょっと岸治ッ!?」

 

と、ヘラヘラ笑いながら最低の台詞をほざいた羽川の胸倉を、また入ってきた別の男が掴み上げた。

守与さんの静止も聞かずに、岸冶と呼ばれた体格の良い男は怒りの表情を顕にして羽川を睨みつける。

 

「てめぇ、今度そんな口叩きやがったらただじゃおかねぇぞッ!!」

 

「……ハ、ハハ。何怒ってんだよ?もしかしてあの婚約者に横恋慕でもしてたのか?」

 

「古賀さん。あの人は……」

 

「三男の岸冶様にございます……どうやら岸冶様は遺産の方には余りご興味が無い様でして、旦那様が手紙を出す前にお越しになられ、野鳥や風景の撮影をしておられます」

 

大滝さんの質問に答えた古賀さんの言葉を聞きながら、俺は目の前で起こる醜悪な一幕を見つめる。

いきなり胸倉を捕まれて面食らっていた羽川だが、その憎まれ口は止まらない。

しかも岸冶さんの事をからかう始末だ。

どうやら羽川には反省するとか、そういう気持ちは無いらしい。

そのからかいを聞いて更に頭に血を昇らせる岸冶さん。

しかしそんな緊迫した空気の中に、更に別の人物が現れた。

最初に現れた瑠莉とかいうオバサンよりも更に若く、蘭さん達よりは年上ぐらいの女性。

彼女は目を瞑ったまま、心底うんざりした様な声で言葉を紡ぐ。

 

「愛人の話は止めてくれない?私も父が愛人に生ませた子どもだし……」

 

おいおい……何かのっけからヘヴィな人生語ってくれちゃってるよこの人。

っつうか愛人ってホントに居るのな?映画の世界だけだと思いたかったぜ。

 

「あ、愛人って……」

 

「はい……先程彼女がおっしゃられた通り、旦那様のお父上である大旦那様と愛人の間にお生まれになった、寅倉家次女、寅倉実那様です」

 

小声で呟いた蘭さんの言葉に、またも古賀さんは小声で返す。

まぁ本人じゃなきゃ大手を振って言える事じゃねぇよな。

もうこれ以上無いってぐらいドロドロした人間関係を見て、俺もうんざりしてきた。

 

「遺産の事でピリピリしたいなら兄さんの発表を聞いてからにしたら?法律的には、被相続人に兄弟しか居ない場合、遺産の相続金は兄弟全員平等に同額なんだし……まっ、兄さんが誰かを贔屓にするなら話は別だけど」

 

「……ちっ」

 

「ふぅ……あー、苦しかった」

 

何とも真っ当な事を言って、目の前で胸倉を掴む岸冶さんを諌める実那さん。

その言葉を聞いて岸冶さんも血の気が下がったのか、大人しく羽川の胸倉から手を離した。

一方で羽川はスーツの襟を整えながらそんな事を言ってる。

……どーでも良いが、俺達は何時になったら夕飯にありつけるんだよ?

もう腹ペコなんだけど?腹と背中がメンチ切り合ってるんだけど?

 

「あ、あのー……」

 

と、自分のお腹がエネルギーの補給を訴え始めた時に、扉の影から一人のメイドさんが現れた。

控えめに声を掛けてきたメイドさんはおずおずと言葉を続ける。

 

「そろそろお料理をお出ししても良いか、聞いてきてくれと、シェフが……あぁでも、お話がお済みで無いならもう少し後でも……」

 

「いやぁ、話は食いながらでもできっから、とっとと持って来ちゃってよ」

 

「まっ、あの奥さんの只の連れ子のあなたには関係の無い話だけどね」

 

「……こら、絵に書いた様な遺産相続争いやわ」

 

「ドロッドロやなぁ……あっ、定明君は気にせんでええからな。寧ろ忘れた方がええて」

 

「そ、そうだね……」

 

(おーい?俺には何も言わねえのかよ……)

 

(まぁ工藤はしゃーないやろ。いっつも自分から殺人事件に関わってるんやし)

 

目の前で繰り広げられる骨肉相食む醜い争い。

それを言葉で表した服部さんに同意する様に、大滝さんや伯父さんも半目になってる。

和葉さんや蘭さんは俺の教育に悪いと思ったのか、この家の人達に聞こえない様に俺に忠告してくる。

後ろの伯父さんや大滝さんもウンウンと頷いていた。

 

「いやー。死肉に群がる蝿の鬩ぎ合いっしょ、コレ?ならちゃんと覚えときますよ……こーいう蛆虫みてーに腐った大人にゃならねー様にっていう戒めとして、ね」

 

「く、腐った……蛆……」

 

「ド、ドギツイ事言いますなぁ、定明君(蝿って……きっついなぁ、最近の小学生は)」

 

「こーいう大人達って、俺が一番嫌いな人種でして……親戚が築いた財産に我が物顔で集るハイエナ以下の連中とか、プライド捨ててババアに言い寄る牛の糞以下の雄ザルとか……ホント、見てるだけで目が腐りそうッスよ」

 

苦笑しつつ肩を竦めた俺の罵詈雑言を聞いて、服部さんと和葉さんは何とも言えない顔になった。

小声だが、傍に居る人達には聞こえている。

大滝警部や伯父さんに蘭さん、そしてコナンは最早絶句状態だ。

まぁ口が悪いとかそーゆう段階を軽く飛び越してるレベルの罵声だからな、今の。

 

「まっ、伯父さんがあんなカエルの小便よりもゲスな人種じゃ無くて良かったッスよ」

 

「ぅ、ま……まぁな(雪絵……どんな教育してんだ?……お前の倅、考える事が黒過ぎるぞ……)」

 

(定明君ってば、何処でそんな言葉を覚えたのかな……口が悪いってレベルじゃ無い、よね?)

 

(は、はは……ホントに小学生かよ、こいつ……)

 

(……最近の子供っちゅうのは、腹ん中でなんちゅう恐ろしい事考えとるんや……おっかない世の中になってしもうたなぁ……)

 

何とも微妙な空気になったが、それも食事が運び込まれてきて霧散していく。

どうやら俺と同じで他の皆も空腹だったみてーだな。

俺達は用意された豪華な食事に舌鼓を打って堪能しつつ、小五郎伯父さんが相続人達に話を聞く。

まぁ、合間を繋ぐ世間話ってヤツだ。

 

「えぇッ!?不治の病ッ!?この館の主の迫弥さんがですかッ!?」

 

「えぇ……持って後、半年とか……」

 

「あら?3ヶ月じゃ無かったかしら?」

 

小五郎さんの驚いた声に答えたのは、神妙な表情の麻信さんだ。

しかしそれに続いて妻の瑠璃さんが麻信さんの言葉を訂正する。

どっちにしろ死ぬってのは変わんねーんだな。

 

「だから、この晩餐会に参加したんですよ……」

 

「まっ、欠席した者には遺産の相続はしない、なんて手紙に書かれちゃあね」

 

「む、むぅ……」

 

……金が欲しいっていう魂胆を少しは隠そうと思わねえのか、この人達は。

誘拐犯達や氷村と対峙した時とは違う種の胸糞悪さだぜ。

 

「にしても、遅くねぇか。兄貴?」

 

「……確かに。何時もなら料理にケチを付けてる頃なのに……」

 

「んじゃあ、悪いけど娘さん達。ちょっと起こしてきてくれねー?」

 

「え?」

 

「アタシ等が?」

 

と、未だに現れない館の主人である迫弥さんの話題が登ると、羽川は何故か蘭さんと和葉さんに声を掛ける。

しかも起こしてきてくれという、客に頼む様な事じゃない筈の変な頼み事を、だ。

この時、俺は少し目を細めてテーブルの周りを見た。

何故か岸治さんや実那さんは呆れた表情で、麻信さんやメイドさんは苦笑いを浮かべてる。

言い出した羽川や守代さん、そして瑠璃さんはニヤニヤ笑ってるし……どうなってんだ?

何で誰も疑問に思ったり口を挟んだりしねぇ?

 

「あぁ。廊下を右に曲がって、一番奥の部屋だから」

 

「……そうね。迫弥も若い子が起こしに来た方が喜ぶかも」

 

「は、はぁ……?」

 

何故かニヤニヤしながらそんな事を言う羽川や守代さんに首を傾げながらも、蘭さん達は食堂から退出した。

どういうつもりなんだ?……まぁ、何かしらあるんだろうけど。

特に不吉な感じはしなかったので、俺は水のおかわりをメイドさんに頼もうと声を――。

 

 

 

――きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!

 

 

 

かける前に、絹を裂く様な悲鳴が木霊した。

 

「「ッ!?」」

 

「い、今のは蘭の声ッ!?」

 

「和葉ちゃんの声もッ!!」

 

くそっ!!ちったぁ空気読んで事件起こしやがれってんだッ!!

俺は弾かれる様に椅子からジャンプして飛び上がり、食堂から退出して蘭さん達の向かう。

一足飛びに入り口に飛んだ俺を見て皆が驚いてるが、それはどうでもいい。

既に鉄球はホルスターから取り出した状態で回転させ、急な事態にも対応出来る様にしておく。

羽川の言ってた道順を思い返しながら走ると、半開きになった部屋の扉を発見。

一番奥ッ!!あの部屋だなッ!!

 

ドガァッ!!

 

「蘭さんッ!!和葉さんッ!!」

 

「あ……あ……」

 

「さ、定明君……ッ!!」

 

「どうしたんスかッ!!一体何が――」

 

部屋の扉を蹴っ飛ばして中に入ると、俺は言葉に詰まった。

そこには異様な物質が置いてあったんだ。

西洋で死者を弔う際に用いられる最後の領地――黒い棺桶。

それがベットの代わりに置いてあったのだ。

……悪趣味にも程があんだろッ。

蘭さんと和葉さんはその棺桶の前で腰を抜かした様に座り込んで、青い顔で俺に振り返る。

 

「お、おじさんが、この中に……ッ!?」

 

震える指で蘭さんが指し示したのは棺桶。

こりゃマジで只事じゃねぇと確信して、俺は鉄球をホルスターに戻して棺桶の縁に手を掛けて持ち上げる。

しかしどういう訳か、棺桶の蓋はビクともしない。

 

「ぐ、ぬぬ……ッ!?滅茶苦茶固いんスけど……ッ!!」

 

「え?で、でもさっきは普通に開いたのに……」

 

「おいッ!!どないしたッ!?」

 

「あぁ、平次ッ!!こ、こん中でおっちゃんが……ッ!!」

 

すわどうしたものかと力を籠めて棺桶を開けようと奮闘していると、服部さんとコナンも到着。

和葉さんの言葉を聞いて二人も手伝ってくれるが、全くもって蓋は開く気配が無い。

 

「只寝てるだけよ」

 

「どうせその内入るからって、最近の兄さんの寝床なんだ」

 

「で、でもッ!!血塗れで、胸んトコに杭刺さってたんやでッ!?」

 

「ち、血塗れって……ッ!?」

 

「おいおい。兄貴、冗談キツ過ぎだぜ」

 

「じ、冗談じゃなくて本当に亡くなってたんですッ!!」

 

後からやってきたこの館の関係者達は手伝いもせず、俺達の慌てふためく様を面白そうに見てる。

蘭さんや和葉さんの必死の言葉も真面目には聞いていない。

どう考えても悲鳴が聞こえた時点で異常事態だって分かんねーのかよ、ここの馬鹿共はッ!!

心中で悪態を吐きつつ力を籠めて蓋を外そうとする俺とコナン、服部さんだが、仮にも大人ぐらいの力がある服部さんと一緒に引っ張ってもビクともしない。

くそったれッ!!こうなりゃ『スタープラチナ』のパワーで……ッ!!

 

『ムンッ!!』

 

『スタープラチナ』の力を機械よりも精密に動かして、蓋が壊れない様に力を込めさせる。

服部さん達に気づかれない様に強すぎない力で、と細心の注意を払いながらも、俺は自身にも篭める力を緩めない。

それにより少しづつ開き始めた蓋だが、何故か俺の手には蓋が踏ん張る様な力が感じられる。

 

「ど、どうなっとんのやこれ……ッ!?蓋が勝手に閉まろうとしよる……ッ!!」

 

「ん、んんッ!!(なんだこれッ!?まるで内側から引っ張られてるみたいな……ッ!!)」

 

コナンや服部さんもその違和感を感じたみたいで、踏ん張りながら訝しい表情を浮かべる。

やっぱり何かおかしいぞ、この棺桶……隙間が小さくて、中は暗くて何も窺う事が出来ない。

もう少し『スタープラチナ』のパワーを上げれば簡単に開くが、それじゃあこの二人に怪しまれる。

俺一人だったら『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーで中を見れるのに……ッ!!

いや、そうだッ、『ダイバーダウン』を使えば……。

 

バゴォッ!!

 

「のわッ!?」

 

「わッ!?」

 

「ッ!?とッ!!」

 

今度は急に蓋が軽くなりやがったッ!?何なんだよこの棺桶はッ!!

ハッと気付いてスタンドを切り替え様とした瞬間に蓋に掛かっていた負荷が消え、俺は急いで『スタープラチナ』の動きを止める。

俺は直ぐに力を抜いたお陰で何とも無かったが、コナンと服部さんは力を掛けていた所為で後ろ向きにスッ転んでしまう。

寸での所で蓋を壊さずにスタンドを止める事は出来たが――。

 

「……おいおい……誰も入ってねぇじゃねーっすか」

 

「痛たた……何やて?」

 

蘭さん達の見たという肝心の男の姿が何処にも無い。

棺桶の中は空っぽだ。

 

「嘘ぉッ!?」

 

「……蘭ねーちゃん。ホントにこの中に居たの?」

 

「う、うん。居たと思うけど……」

 

特にその杭が打付けられて死んでいた人というのを見た筈の蘭さんと和葉さんの顔面は蒼白に染まってる。

……表情からして、嘘とは思えないな……嘘を付く必要も無えし。

蘭さんに質問したコナンは何かを考える様に俯き、服部さんは只々驚いてる。

あった筈の死体が棺桶の中から消失……トリックだとしてもどうやってだ?

棺桶のスペースは大人が一人寝れる程度のスペースしか無いのに……。

 

「嘘ちゃうよッ!!ホンマにこん中におっちゃんが寝ててんッ!!む、胸んトコに杭刺さってて、血塗れで、黒いマント着てはって……ッ!!」

 

「尖った耳に牙みたいなのも生えてて……ッ!!ま、まるで、ドラキュラ伯爵みたいだったんだからッ!!」

 

消えた遺体の第一発見者の蘭さんと和葉さんは怯えながらも一生懸命に遺体の状況を思い返す。

しかし……ドラキュラ、ねぇ……本物な筈も無いと思うが……石仮面だってこの世界には無いだろうし。

大体、吸血鬼が既に死んでました状態じゃ意味無くね?

吸血鬼に杭って言えば、吸血鬼の弱点として有名なホワイトアッシュ(白木)の杭だ。

言い伝えでは心臓に撃ちこめば必ず死ぬっていう……。

 

「……そういえば兄さん。子供の頃、そんなアダ名を付けられてたな」

 

「”寅倉迫弥”だから”ドラキュラ伯爵”。子供ならではのニックネームね」

 

と、蘭さん達の怯え様を見ていた麻信さんが漏らした昔話に、瑠璃さんが笑いながら返した。

ガキの頃のアダ名がドラキュラって……いよいよもってアレな家だな。

 

「でもそのアダ名。名前の語呂合わせだけじゃないかも知れないわよ?……この寅倉家の先祖の事を考えれば」

 

「そうね。それに加えて最近の迫弥の奇っ怪な行動の数々……もしかしたら本当に取り憑かれてしまったのかも知れないわね――ヴァンパイアに」

 

何とも意味深な言葉を呟いた実那さんと守代さん。

その言葉にさっき見たモノが余計怖くなっただろう蘭さんと和葉さんは身をブルリと震わせる。

……こっちが怖がってるのを見て面白がってやがる。

性格の悪さに呆れていると、この人達の中ではまだマトモな部類の岸治さんが笑顔で進み出た。

 

「冗談だよ冗談。兄貴の耳は尖ってねーし、牙も生えてねーよ。君らが見た兄貴の姿がそうだったんなら、兄貴が化け物の格好で驚かそうとしてたんだよ。まぁ、棺桶の中から消えたカラクリは、わかんねーけど」

 

震える蘭さん達を気遣ってか、安心させる様に柔らかい口調で話す岸治さん。

 

「まっ。魔法の様にパッと姿を晦ますのは、映画とかで良く見る、吸血鬼そのものッスけどね」

 

と、ここで要らない事を言い出したのはお馴染み空気の読めない羽川だ。

人を食った様なヘラヘラした笑みでそんな事を言うモンだから、また岸治さんに胸倉を掴まれる。

……いい加減にうざってぇな、あの野郎。

 

「テメェ……兄貴を化け物扱いする気か?」

 

「……へへ……そう思ってんのは、俺だけじゃ無いんじゃね?」

 

「あ?」

 

「なぁ執事さん?アンタもそう思ったから、その人達を連れて来たんスよね?」

 

ニヤついた笑みを浮かべた羽川が岸治さんから視線を外し、後ろに居た伯父さんと大滝さん、そして執事の古賀さんを見やる。

古賀さんはいきなり話を振られて驚くも、直ぐに口を開いた。

 

「え、えぇ。近頃の旦那様のご様子が、余りにも異様でしたので……今度の遺産相続の話には此方の刑事さん達にも同席していただこうと……」

 

「「け、刑事ッ!?」」

 

古賀さんの言葉に、岸治さんと羽川は揃って驚愕した。

さすがに羽川も、まさか警察関係者だとは思わなかったんだろう。

驚く遺産相続人達に、大滝さんは一礼しながら改めて自己紹介を始めた。

 

「大阪府警の大滝です。此方は探偵の毛利小五郎さんで……」

 

「嘘ッ!?」

 

「も、もしかして、眠りの小五郎ッ!?」

 

そして大滝さんの言葉に、今度は瑠璃さんと実那さんが驚いた。

『眠りの小五郎』というのは知っての通り、伯父さんの二つ名だ。

まるで眠っているかの様に推理するからそう呼ばれてる……っつうか誰も不思議に思わないのが不思議だ。

伯父さんも自分の名前がこんな地方まで轟いてる事に気を良くして笑ってる。

 

「なぁ和葉。お前が見たっちゅうオッサンの事やけど……」

 

「蘭ねーちゃんも、ちょっと良い?」

 

大人達が話を進めてる合間に、服部さんとコナンは目撃者の蘭さん達に質問をしていた。

俺はそんな中で一人、問題の棺桶に近づいて一度蓋を閉めてみる。

そこから少しづつ手に力を籠めて、蓋を開けると、今度はすんなりと開いた。

……やっぱりおかしいな、この蓋。

バレない様にと配慮したが、あの時、『スタープラチナ』のパワー(弱)でもゆっくりとしか開かなかった。

更にコナンと服部さんも一緒に開けようとしてたのに、だ。

って事はあの時、蓋を内側から開けられないように力が篭められてたって事になる。

 

(つっても、なぁ……)

 

蓋の内側を覗き込むが、内側にはそれっぽい取っ手は見当たらない。

普通の人間の力じゃ蓋を開けられない様に踏ん張るのは無理だ。

ましてや寝転んでる状態だしな。

俺は蓋の内側を調べながらどういう事か判らず首を捻る。

 

(考えても埒が開かねえ。こうなったらその時の様子をリプレイしてやる。来い、『ムーディ・ブルース』)

 

追跡のスペシャリストである『ムーディ・ブルース』を呼び出し、5分前までタイマーを巻き戻す。

これであの時何があったのか知る事が出来――。

 

『……』

 

シーン。

 

(……ん?……何だ?……『リプレイが始まらない?』……んな馬鹿な)

 

だが俺の思惑とは違い、『ムーディ・ブルース』はその姿を変身させない。

額のタイマーは五分前を指しているにも関わらず、追跡を始めなかった。

……おいおい、そんな馬鹿な事があるかよ……もしかして、5分以上経ってるのか?6分とか7分前?

目の前で佇んだままの『ムーディ・ブルース』に首を傾げるが、俺は更にタイマーを巻き戻してみる。

間違い無く10分以上は経ってねぇ筈なんだが……。

 

カシャカシャカシャカシャカシャ。

 

『……』

 

(……マジかよ?……『追跡出来ない?』……って事は……)

 

『ムーディ・ブルース』が追跡出来ないのは只一つ。

瞬間移動なんかの空間を瞬時にテレポート出来る能力や現象の場合だけだ。

只の人間にはそんな真似は出来ない筈……まさかここの主人ってのは魔導師なのか?

可能性としては……無くも無いが、限りなくゼロに近いだろ。

まさか本当に吸血鬼になったとも思えねえし。

さあて、困ったな……どうやって探したモンか……仕方ねぇ、もっと時間を巻き戻していこう。

蘭さん達が見たっていう寅倉さんが吸血鬼であろうとなかろうと、探しておかねぇと面倒な事になる。

一度棺桶の蓋から手を離そうとして、ふと中を覗き込むと……。

 

「……ん?……これは……」

 

「なんや?どないした坊主?」

 

「何か見つけたの、定明にーちゃん?」

 

蓋の奥の合わせ目の所にあるモノを見つけて声を零した俺に、服部さんとコナンが声を掛けてきた。

二人と話をしていた蘭さんと和葉さんも近寄ってくる。

 

「……これ、『血』じゃねぇっすか?」

 

「なんやて?」

 

「「血ッ!?」」

 

俺の隣に座って俺を見ていた服部さんに、ある一点を指差しながら答える。

すると服部さんは少し身を乗り出して、蓋の合わせ目に顔を近づけた。

そこには多くもなく、且つ指を怪我した程度では流れない量の血痕が残っている。

さすがに素手で触れる訳にもいかないので、『スタープラチナ』の拡大視力を使用。

 

「……ホンマや。この鉄っぽい臭い、作りモンや偽物ではでぇへん臭いやな」

 

「まだ淵も乾ききってねぇって事は、ここに付いてからそう時間が経ってねぇって事ッスよね?」

 

「ッ!?……あ、あぁ。まぁ、そうなるな(この坊主……血を見ても全然驚いてへんのか?それどころか、只単に事件の可能性があるのを面倒くさがっとる感じや)」

 

(……城戸定明……やっぱりコイツ、普通じゃねえ……まさか灰原が気にしてた様に、俺や灰原と同じでアポトキシン4869を飲んだ大人か?……だが、蘭は昔に抱っこした事があるって……)

 

やれやれだな……こりゃマジに事件が起きてるって事だろうなぁ……どうする?

確実に厄介事の渦中に居ると確信して、俺は後ろ髪を掻く。

『ムーディ・ブルース』のリプレイでの追跡をしなくちゃいけねえのは一番として、まだやらなくちゃいけねえ事もある。

ハッキリ言ってそっちの方が、俺としては早めに解決したい所なんだが――。

 

prrrrrrrrrrrr

 

「ん?俺か。ちょっと失礼」

 

俺は鳴ったスマホを取り出して、皆の輪から外れる。

そのまま壁際に背を預けてメールを開く。

ちなみに態々壁際まで行ったのは、背後から覗き見られない様にする為だ。

良くコナンって人の見てるモノを背後から覗こうとするので、視線が気になるんだよな。

そんな事を考えつつメールを開く。

差出人は……忍さんだ。

俺がパーキングエリアで伝えた情報を元に、夜の一族でそんな悪さをしてる奴が居ないか調べてもらったんだ。

二年前の殺人よりも、一年前の異常性が高い事件。

もしもこの犯人がこの近辺にまだ潜んでるとしたら、下手すると襲われかねない。

俺としてはこの家の事件も大事だが、この事件には服部さんとコナンが当たれば解決するだろう。

そう考えながら、俺は内容に目を通していく。

 

 

差出人 月村 忍

 

 

TO 城戸 定明

 

 

本文

 

貴重な情報を教えてくれてありがとう、定明君。

 

君に頼まれていた調査が終わったから、その情報を伝えるわね。

 

初めに言っておくけど、このメールは見終わったら削除しておいて。

色々と大事な情報を書くから、証拠を残さない様にして欲しいの。

 

……残念だけど、定明君の教えてくれた殺人事件の容疑者、いや犯人が私の一族に居る事が分かったわ。

 

月村の信頼する情報筋の伝手を辿ったら、今定明君が居る土地に根を張ってる事が判明したの。

 

名前は月村裕二。

 

彼は私の受け継いだ月村の財産とノエルを執拗に付け狙っていた、私の親族の一人である月村安次郎の元に居た男よ。

でも安次郎が倒れ、刑務所に投獄される寸前に、彼の私財から幾らかの金品を奪って逃走した。

数年前から追っていた男だけど、君がその土地に居る時にやっと場所が判明したのは、皮肉としか言い様が無いわね。

彼は氷村と違って自己啓示欲が強い方じゃない。

人一人を吸血で殺した……という事は、恐らく長い間吸血を我慢していた所為だと思うわ。

 

少し長くなるけど、順を追って説明するわね。

 

まず夜の一族に共通するのは、優れた容姿と明晰な頭脳、高い運動能力や再生能力。

或いは魔眼による心理操作能力や霊感っていう数々の特殊能力を持つ事よ。

そして映画や伝承の様な太陽に流水や銀、ニンニクとかホワイトアッシュの杭という弱点は存在しないわ。

これは私達夜の一族が吸血鬼と言っても妖怪の類ではなく、 いわば人類の突然変異が定着した種族だからなの。

そして、これらの代償として体内で生成される栄養価のバランスが安定していない。

つまり鉄分のバランスが悪いというのが共通している事ね。

だからそれを補う為に……言い方はアレだけど、完全栄養食となる人間の生き血を求めるのが、私達の吸血衝動。

ちなみにこれは異性である必要があるわ。私と恭也みたいに。

つまり、生き血を啜られて死んだのが女性なら、自ずと犯人は男性に限られるって事。

 

そして、人一人を完全に吸い尽くしてしまう様な事は禁忌とされているわ。

 

当然、人間に私達の正体がバレる事は極力避けたいからね。

でも、彼……月村裕二は正式に党首となった私の命令で、一族から追われる身。

そんな状況で魔眼を使用して体力を減らしながら少しづつ吸血するのはリスクが大き過ぎる。

だからずっと我慢していたのね……でも、夜の一族である以上、吸血衝動には抗えないの。

多分、限界まで我慢していた反動だったんでしょう。

 

 

 

……なるほどな……石仮面を被った吸血鬼と良く似てる。

夜の一族が吸血する理由も、肉体の優れたパフォーマンスを維持する為って事か。

吸血鬼の習性に納得しながら、俺は続きに目を通す。

 

 

 

 

それと……定明君に頼まれて色々調べてもらったけど、かなり厄介な事が分かったわ。

国勢調査の報告だと、彼が起こしたと思われる殺人事件の後、その土地の行方不明者の数が異常なほど跳ね上がってるの。

凡そ一年の間に56人。同じ面積の土地の平均を遥かに上回る、約7倍から8倍という異常な数値よ。

全員がそうだとは限らない……けど、それでも4~5人程度。

他は全て、恐らく彼に吸血されてる。

それで、今そっちにイレインを行かせたわ。完全装備でね。

到着はまだ大分時間が掛かると思うけど、彼女なら簡単に対処出来る。

定明君には悪いけど、もしもイレインが到着する前に君の関係者が襲われたら、君に対処してもらうしかないの。

大変な事に、そして私達夜の一族の問題に巻き込んでしまって申し訳無く思うわ。

……でも、イレインが間に合わなかった場合、君のスタンド能力で君自身の安全を確保して。

 

 

もしもそんな事があった場合、相応のお礼と謝罪をする事を月村家党首としてここに誓います。

 

 

願わくば、良き友人として誓いを立ててくれた定明君の身が壮健であります様に。

 

 

 

……と、ここでメールは終わってる。

つまりイレインが来るまでに何かあったら、自力で何とかしねーと駄目って事かよ。

俺は軽く溜息を吐きながらスマホを操作して、メールを削除する。

やれやれ……相手は正真正銘の殺人鬼か。

俺が屋敷の外の森で感じた、あの濃厚な血の臭いの正体はそれだった訳だ。

この時点で既に俺の中の優先順位はこの屋敷の中に居る俺の親戚の蘭さんや伯父さんの命を守る事になった。

まぁ忍さんの話の通りなら伯父さんは大丈夫だろうけど……問題は蘭さん……それと和葉さんだな。

携帯をポケットに仕舞いつつ皆の方に視線を戻すと、大滝さんが棺桶に付着していた血をメイドさんに貰ったナプキンに吸い込ませていた。

どうやら近場の警察に行って血液鑑定をするらしい。

その為、警察に向かう大滝さんに便乗して、伯父さんもタバコを買いに行きたいからと一緒に下山する事に。

食事の途中だった俺達はメイドさんに料理を温めなおして貰って、再び食事を再開した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

それから一時間程して、俺達は食堂を後にした。

全員が固まって食堂から出て直ぐ、瑠璃さんが時計を見ながらボヤく。

 

「結局いらっしゃらなかったわね。お義兄様」

 

「あぁ。話し合いは夕食後だと書いてあったのに……」

 

「まぁ、そのまま食堂でやるとは書いてなかったし」

 

そう、麻信さんの言った通り、来る筈だった迫弥さんは現れなかったのだ。

皆はそれを余り訝しげに思ってはいない様だ。

多分皆蘭さん達が見たのは悪戯をした迫弥さんで、まだ悪戯の最中で隠れてると思ってるんだろう。

まぁ真相はどうあれ、俺達は未だに始まらない話し合いの所為で帰る事は出来ない。

ホント、面倒なこったぜ。

 

「……ねぇ、和葉ちゃん。やっぱり私達が見たのって……」

 

「うん……悪戯にしては、本当に死んでる様にしか見えへんかったやんな……」

 

一方、和葉さんと蘭さんはやっぱりさっき見た死体(?)にビビってるのかそわそわしてる。

まぁ見た筈の死体が棺桶から消失してて、しかも格好が吸血鬼とくればなぁ……。

本当ならあの部屋に行って『ムーディ・ブルース』でリプレイをするつもりだったんだが、俺1人で知らない人の家の部屋に留まる訳にはいかない。

年齢が年齢だから悪戯しようとしてるって思われても仕方無えしな。

何か初めて、コナンの気持ちが少し理解出来た気分だぜ。

 

「ねぇ、写真だけでも済ませちゃわない?」

 

と、羽川の腕に抱き着いた守代さん(60歳)が甘える様な声で(60歳)羽川(29歳)に話しかける。

ちなみに年齢はさっき執事の古賀さんに教えてもらった。

 

「なんや?写真って?」

 

「こうやって家族で集まった時は皆で撮る事にしてるのよ」

 

「三代前からそうしてるってよ」

 

「けど、館の主が居てへんのに、撮りはるんですか?」

 

服部さんの問いに守代さんと羽川が答えるが、それに和葉さんが更に質問を投げ掛ける。

そんな和葉さんの質問に答えたのは岸治さんだ。

 

「あぁ。去年も撮ってる最中に、『私も入れろ』って兄貴、飛び込んで来たし」

 

「そうね。皆でワイワイ楽しそうにやってたら、兄さんもひょっこり顔を出すかもしれないわね」

 

とまぁ、結局誰も彼もが迫弥さんの事を心配していない様で、写真撮影をする事に。

写真撮影ならばと本業の岸治さんが三脚とカメラを用意。

毎回撮影に使ってるという部屋に移動して、部屋の中央に備え付けられた綺羅びやかな鏡の前に椅子を配置した。

三脚だけの椅子に瑠璃さんと実那さんが座り、その後ろに麻信さんと羽川と守代さんが立つ。

皆が配置に付く中、岸治さんは三脚に備え付けたカメラを覗きこんで位置取りを確認し始めた。

 

「んー……実那、ちょっと顎引いて……ほら姉貴ー。何時まで髪弄ってんだよ」

 

カメラのレンズを覗き込みながら、岸治さんの注意する声が響く。

皆も位置に付いてはいるんだが、守代さんだけまだ背後の鏡で髪の位置を気にしてる。

 

「いくら弄っても若返えんねーぞ」

 

「うるさいわねぇ」

 

「だーいじょうぶ。ハニーは美人だから、チュッ♡」

 

「ん、ありがとう」

 

「ウェッ……」

 

露骨なご機嫌取りに、守代さん(婆さん)の頬にキスをした羽川(30前)。

そのあからさまな遣り取りに、俺は表情を歪めて小さくえづく。

さすがにあれは無えだろ。

 

「じゃあ、俺が向こう側に行ったら、このシャッターボタンを押してくれ」

 

「は、はい」

 

そして皆の位置が満足行く場所になった岸治さんがカメラあから離れて後ろに居た蘭さんに声を掛ける。

蘭さんは少し緊張してるっぽい。

岸治さんは何故か守代さんの隣に立ってカメラに向き直る。

真ん中に置かれた椅子はそのまま空席だ。

……多分、あの席はこの館の主人の迫弥さんの席なんだろう。

俺はぼんやりした気持ちで、部屋の中に飾られた写真を眺め始める。

 

 

 

「ほんなら皆さん撮りますよー」

 

 

 

そして、蘭さんの隣に居た和葉さんが皆に声を掛け――。

 

 

 

「はい。チー――」

 

 

 

パシャッ!!

 

 

 

「「――きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!?」」

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

シャッターを押した蘭さんと、その横に立っていた和葉さんの絹を裂く悲鳴が。

何事かと思って二人を見るも、蘭さん達はその場に突っ立ったまま、ガタガタと震えている。

まるで見ちゃいけないモノを見たような目で。

おいおい何だよ……ッ!?一体全体どうしたってんだッ!?

 

「何騒いでんねんッ!?」

 

「い……い、今ッ!!皆の後ろに……ッ!!」

 

「さ、さっき棺桶ん中で寝てたおっちゃんが……ッ!?」

 

「「「「「「ッ!!?」」」」」」

 

俺達と同じく、その場に立っていた相続人達もギョッとした顔で背後を見る。

だが、そんな人影は何処にも見えない。

 

「何処に居るの?」

 

「さ、さっきは居たのよ……ッ!!条平さんと守代さんの間にッ!!青白い顔でフワ~っと、幽霊みたいに……ッ!!」

 

「せやせやッ!!私が見たんもそんな感じやってんッ!!」

 

震えた声で、青い顔で二人共見たという蘭さん達。

……こりゃあ演技じゃねぇな……って事は見間違いとかじゃねぇって事か。

じゃあ何か?この館の主人の迫弥さんはマジに吸血鬼になったって?……まさかな。

 

「ちょっと貴女達ッ!!いい加減にしてくれるッ!!どうせ吸血鬼騒ぎを聞き付けて、あの探偵さん達にくっついてきたんでしょうけど、お化け屋敷感覚で、有りもしないモノを見た気になってギャーギャー喚かないでよッ!!」

 

しかしここで、二人の恐怖してる様を見た瑠璃さんがまたもや怒鳴り散らし始めた。

まぁこの人達からすれば、俺達は怖い噂の立ってる屋敷に突然現れて、居もしない筈の現象を見たって騒いでる人間にしか見えねえだろう。

でも、この二人は本当に何も知らない。

だってその話だって今初めて聞いたんだからな。

案の定何も知らない蘭さんと和葉さんは瑠璃さんの言葉を聞いて首を傾げる。

 

「き……吸血鬼騒ぎって?」

 

「な、何なん?」

 

「えッ!?まさか知らないのッ!?」

 

二人の様子を見て、まさか吸血鬼騒ぎを知らないと思っていなかった瑠璃さんは驚く。

実那さんもこれには驚いた様だが、知らないならばと話し始めた。

 

「二年前にこの館の傍の森の中で、ここでメイドをやってた清水さんが遺体で発見されたのよ……全身の血を抜かれ、地面に立てた杭に逆さに縛られた無残な状態でね」

 

「「……」」

 

「オマケに、遺体の首に小さな穴が二つ開いてたから、大騒ぎしてんのさ」

 

「そう……吸血鬼が出たってね」

 

まさかそんな異常な事件があったとはつゆ知らずだった蘭さんと和葉さんは言葉を失う。

しかしまぁ、このままじゃ二人は噂を面白がってる人間にされかねない。

特にあの瑠璃さんって人がギャーギャーうるせぇし……二人が見たものが嘘じゃねぇって証明しねえと不味い。

そう考えたのは俺だけじゃ無かったらしく、岸治さんからも早く迫弥さんを探そうと提案がでた。

皆もそれに応じて、相続人達は部屋を出て行く。

一方で蘭さんと和葉さんは今の実那さんが語った事件の事を服部さんに問いただしてる。

 

「ちょ、ちょっとホンマなん平次ッ!?」

 

「今の吸血鬼の話ッ!!」

 

「あ、あぁ。お前等に話したら、直ぐ帰る言うやんか?そしたら俺等も一緒に帰らなアカン様になるおもうて、それで黙ってたんやけ――」

 

「服部さん。もう居ねえっすよ」

 

「へ?あ、あいつ等何処にッ!?」

 

「……あっち」

 

急に居なくなった二人を探す服部さんに、コナンは半目になりながらドアを指さす。

それに従って廊下に出てみると、二人が何処かに一目散に駆けて行くのを発見。

服部さんの静止の声も聞かずに、二人は屋敷の奥へとひた走る。

とりあえずこのままここに居ても仕方無いと、俺も二人を追って歩く。

そこそこ広い屋敷だが、二人の向かう方向は『エアロスミス』のCO2レーダーで補足している。

何かあっても直ぐに対処出来る様に、『エアロスミス』は二人の直ぐ後ろを飛行してるから大丈夫だ。

やがてレーダーに他の人間の呼吸が幾つか追加される。

二人は部屋に入ったらしく、俺達も中に入る。

 

「でもなぁ。最近旦那様、ニンニク嫌いになられたからなぁ。あったかな、ニンニク?」

 

「あぁお構い無くッ!!」

 

「アタシ等で探すよってッ!!」

 

そして部屋の中に入ると、中には数人の白いコックコートを来た男と蘭さん達の姿があった。

どうやら厨房らしい……っていうかニンニクって。

 

「吸血鬼にはニンニクってか?」

 

「まっ、定番やな」

 

必死な表情で野菜の入った箱を漁る二人を見て、コナンと服部さんは呆れた様に漏らす。

いや……俺の知ってる吸血鬼はニンニク入りのピザとか美味しそうに食べてたけどなぁ。

銀食器も平気らしいし……これ、言ったらあの二人が大変な事になりそうだから言わないけど。

っていうか信じてもらえねえし。

まぁここなら大丈夫だろうと確信して、俺は『エアロスミス』を解除。

そのまま厨房を後にして、俺は迫弥さんの部屋に向かう。

まだ事件と決まった訳じゃねぇけど、蘭さん達の見たっていう迫弥さんは何なんだろうか?

死体か、悪戯か……それとも、本当に吸血鬼になったのか?

それをハッキリさせねえと、何にも分からねえままだ。

目的を決めた俺は迫弥さんの部屋に入り、もう一度『ムーディ・ブルース』のリプレイを試みる。

ベットの棺桶の傍に立ってタイマーを巻き戻してみるが……。

 

カシャカシャカシャカシャカシャ。

 

『……』

 

「……駄目か」

 

どれだけ巻き戻しても『ムーディ・ブルース』は何者にも変身しない。

普通は棺桶をベット代わりにしてるなら誰かしらに変身してもおかしくねぇ筈なんだが……。

それに何だ……このクラッカーの歯クソが挟まった様な違和感は?

何故か最初に来た時とは違う様な、変な違和感を感じるが、その正体が良く分からない。

まぁ、考えても分からねえ事を何時迄も考えてられねえ。

ちょっと視点を変えて別の所を調べてみるか。

 

「よっと……やっぱり取っ手みたいなモンは無いな」

 

俺はもう一つ気になってた、俺達は開けようとしたら開かなかった棺桶の蓋を調べる。

蓋を開けた内側には、蓋を開けられない様にする取っ手らしきものは無い。

それにあの時の蓋に掛かっていた力……あれはとても強力だった……まるで、磁石でくっついてるみてーに。

 

「ん?……まさか……物は試し、か」

 

ふと、今考えた事が気にかかり、俺は『ダイバーダウン』を棺桶の内側に潜行させる。

もしも俺の考えが正しいなら、この蓋の合わせ目に……。

潜行した『ダイバーダウン』は俺の命令通りに蓋の合わせ目の内側を調べる。

すると、そこには何かしらの『機械』が埋め込まれていた。

……どうやら、ビンゴみてぇだな。

俺の睨んだ通り、棺桶の蓋の合わせ目には『磁石』が埋め込まれていた。

それもバッテリーの組み込まれた強力な電磁石が。

あの時蓋が開かなかったのはこの仕掛けの所為みてえだな。

 

「ん?坊主、ここで何してんねん?」

 

と、棺桶の中を調べていると部屋のドアが開けられて、服部さんとコナンが姿を見せた。

二人共俺がここに居るのを疑問に思ってるらしい。

 

「いや。あん時、俺達が3人で引っ張っても開かなかった理由が知りたくて、ちょいと調べてたんスよ」

 

「ほぉ~?……ほんで、何か分かったんか?コ、コナン君からは、結構鋭いて聞いてんやけど……」

 

俺の言葉を聞いた服部さんは少し試す様な感じで俺に質問してくる。

コナンも興味がありそうな雰囲気だ。

……まぁ、事件が起きてからじゃ遅いし、この二人の名探偵に伝えられる情報をなるべく伝えて、早急に事件を解決して貰おう。

『ムーディ・ブルース』でも追跡できないっていう謎が残ってるけど、そこは追々解決していくか。

 

「とりあえず分かったのは、あの時誰かがこの棺桶の仕掛けを起動して、蓋を開けられない様にしたって事ですかね」

 

「仕掛け?」

 

「あぁ……ほら、ここの合わせ目に――」

 

 

 

――ドガァアアアアアアアアッ!!

 

 

 

それは、突然の事だった。

 

「「ッ!?」」

 

「ッ!?何や、今の音ッ!?」

 

棺桶の仕組みに気付いた俺が、その仕掛けを語ろうとした瞬間、窓の向こうから大きな音が鳴り響いたのだ。

だが、音の感覚からして遠い場所で起こった様にも思える。

俺達は何事かと思いつつ部屋に備え付けられたベランダに出る窓のカーテンを開ける。

 

「あれは……ッ!?」

 

「……冗談じゃねぇぞ」

 

「も、森がッ!?燃えてるでッ!?」

 

窓の向こうに見えた景色……それは、ここから遠く離れた場所の森が燃えてる光景だった。

っていうかあの方向ってまさか……ッ!?

 

(『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』ッ!!空に登れッ!!)

 

背中を伝う嫌な予感を振り払う為に、『ハイエロファント・グリーン』を空へと向かわせる。

森を越えて上から炎の燃え盛る向こうへと視線を向けると、俺の予感が正しかった事が証明されてしまった。

火の手があがった方向は、俺達が通ってきた道路の方だったんだ。

しかもトンネルが崩落して入り口が塞がれてる。

やられた……ッ!!誰かがトンネルをフッ飛ばしやがったのかッ!!

吸血鬼騒ぎの起きてる今、トンネルが爆破されるなんて偶然にしては出来過ぎてる。

これは確実に事故じゃねぇだろう……なんてこった。

 

(このままじゃ、森の火の手がこっちに回らねえとも限らねえし消してやるッ!!『ウェザーリポート』ッ!!)

 

窓の外を睨みながら『ハイエロファントグリーン』を呼び戻し、『ウェザーリポート』を呼び出す。

この近辺に集中して、今だけ雨を降らせろ。

俺の命じたままに『ウェザーリポート』は天候を操って雨を降らせ始める。

 

「雨か……これやったら火の心配はいらんな……」

 

服部さんの呟きを体現するかの様に火はその勢いを瞬く間に鎮火していく。

後はこのまま少しの間小雨にしておけば問題は無いだろう。

それから直ぐに俺達は部屋を後にして他の皆と合流する。

合流したメイドさんに話を聞くと、今の爆発を聞いて麻信さんが消防に連絡したそうだ。

現場には後20分くらいで消防が到着するらしいので、俺達はその報告を待つ事に。

そして……。

 

「ほ、崩落ッ!?原因不明の爆発で、トンネルが崩れたっちゅうんかいッ!?」

 

「あぁ。さっき電話で確認したら、そうだって……」

 

やはりあの爆発でトンネルは崩れ落ちちまったらしい。

まぁ既にその状況を見てる俺からしたら確認程度でしかねえが、他の人達には寝耳に水な話だ。

 

「嘘でしょッ!?ここへ来る道路って、あそこだけなのにッ!!」

 

「復旧には暫くかかるとか……」

 

「ったく。兄さん探し所じゃ無くなっちゃったわね」

 

古賀さんの言葉に実那さんがそう言うが、逆にこんな時だからこそ迫弥さんの身柄を確保した方が良い。

その方が……迫弥さんがこの一連の事件の首謀者なのか分かるからな。

しかし今の実那さんの台詞だと、どうやらまだ迫弥さんは見つかってねぇみてえだな。

コナンがメイドさんに確認すると、人数を増やしてもまだ見つからないらしい。

 

「ってか、俺のハニー見なかったッスか?さっきから居ねーんだけど……」

 

……おいおい。この状況で人が居なくなるってのはかなりマズイんじゃねーか?

辺りをキョロキョロしながら合流してきた羽川の言葉を聞いて、俺は顔を歪める。

 

「そういえば、岸治兄さんも見ないわね?」

 

「岸治なら一応、さっき撮った写真を現像してみるって言ってたよ。自分の部屋を暗室にして」

 

「けど、今時アナログカメラって珍しいわよね」

 

「悪かったな、アナログ野郎で」

 

と、ちょうど今話題になってた岸治さんが俺達の背後から姿を現す。

まだ無事だった事は良いが……何故か岸治さんの顔色は余り優れない。

何かあったんだろうか?と考えていたが、その答えは直ぐに氷解する。

 

 

 

「――だがお蔭で今、兄貴が『どうなってるのか分かった』ぜ」

 

 

 

岸治さんは青い顔のままでそう呟く。

『何処に居たのか』ではなく、『どうなっているか』という不可解な言葉を。

 

「え?兄さん、見つかったのか?」

 

「……あぁ――ちゃんと『写ってた』よ」

 

「「写ってたッ!?」」

 

麻信さんの言葉に、手に持ってた写真に目を向けながら答える岸治さん。

……おい待て……まさか『写ってた』って……。

まさかという思いで次の言葉を待っていると、岸治さんは俺達に見える様に写真を裏返す。

そして、写真の一部分に指を差しながら口を開く。

 

 

 

「あの子らの言ってた通り……写真を撮ったあの部屋に、俺達の傍に居たんだよ――」

 

 

 

震えながらも、岸治さんの指が示す部分は変わらない。

それは、蘭さんと和葉さんが言ってた羽川と守代さんの間。

 

 

 

――そこに、『居た』

 

 

 

「壁をすり抜けられる、化け物に成り果ててな」

 

 

 

吸血鬼を思わせる牙を生やし、大きく口を開けた初老の白髪の老人の姿が。

 

 





今回は早かったけど次は結構先でしょう(´;ω;`)ウッ…

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