ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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最近仕事がバリバリ忙しくて執筆出来ません。

遅くなってしまってもうしわけありませんでした。


そして城戸定明のCVが確定。

適当なボサ髪。ダルそうな目。

常に面倒事を拒否するぐうたらキャラにぴったりなCV……ふむ。




坂田○時ですな。



一夜にしてこの世のどんな超人も超え(ry

 

 

 

 

「はい。まずはこの右手に乗せた鉄球と、左手に乗せた四つのパチンコ球に軽く念を送ります……」

 

「「……(ゴクッ)」」

 

生唾を飲み込む程に鉄球とパチンコ球を食い入って見つめる二人の観客。

一人の目にはこちらの真相、タネを暴いてみせるという強い意思が見て取れる程に燃えていた。

しかしもう一人の観客は、これから起こる現象に対して目を輝かせてると言えるだろう。

その視線に対して笑みを返しながら、俺は何時もやってる要領で鉄球とパチンコ球を回転させる。

 

シュルルルルルッ!!

 

「えッ!?えぇ~ッ!?な、何でなんッ!?触ってへんのに、勝手に回っとるッ!?」

 

「ねッ!?ビックリでしょ、和葉ちゃんッ!!」

 

「た、確かに……でも、この鉄球に仕掛けがあんのとちゃうの?」

 

「そう思うんなら触って確かめてみて下さいよ」

 

驚いた表情で俺の鉄球を見つめる蘭さんと和葉さんに回転を止めた鉄球を差し出す。

蘭さんは二回目になるが、2人は鉄球を手に持って色んな角度から眺め始める。

 

「う~ん……触った感じはホンマに普通の鉄球やのに……どうなっとんかなぁ?」

 

「そうだよねぇ。仕掛けなんて何も無いのに……」

 

「蘭さんには前にも言ったじゃないッスか。技術っすよ、技術」

 

鉄球を眺めながら首を傾げる蘭さんに呆れた声で言いながら、俺は苦笑してしまう。

鉄球を手に取ってウンウン唸る和葉さんと蘭さん。

その様子はマジックを見て「なんで?」って考えてる子供みたいだ。

……もう少し驚かせてみるとしようか。

 

「じゃあ、ここでもう一つ……」

 

「え?何?何をやってくれんの、定明君?」

 

俺の問い掛けにワクワクした様子で聞き返してくる和葉さん。

蘭さんも口にはしてねえけど、期待してるって感じだ。

俺は座って俺の技を見てる二人の目の高さまで、左手で回転してるパチンコ球を掲げる。

 

「まずは、この回転してるパチンコ球をそのままに……手を握ります」

 

二人に握りこむ最後の瞬間まで見える様にゆっくりと手を閉じて見せる。

一瞬足りとも見逃してなるか、って感じで手をぎゅっと握りながら手を見つめる二人。

俺の動きと一緒に動く視線を感じつつ、パチンコ球を握った手を二人の膝辺りまで降ろして手の平を地面に向ける。

 

「……そして、ここで……手を開くとぉ……」

 

「うんうん……って、あれッ!?パチンコの球が落ちてけぇへんッ!?」

 

「あッ!!これは前に見たから知ってるよッ!!ずばり、パチンコの球は……定明君の手の平でまだ回転してるんでしょッ!!」

 

言った様に手を開くが、パチンコ球は落ちてこない。

それで初見の和葉さんはビックリするが、前に一度見た蘭さんは自信満々にパチンコの在処を指摘した。

うんうん、前に一度見た事があるなら普通はそう考えるよな?

予想通りのリアクションを取ってくれた蘭さんにニヤリと笑いながら、俺はゆっくり手の平を引っくり返す。

そして、自信満々の表情を浮かべた蘭さんが――。

 

「えぇッ!?」

 

「パ、パチンコの球が無くなっとるッ!?」

 

流れる様に驚きの表情へと変わってしまう。

二人が見た俺の手の平の上には、ある筈だったパチンコの球が無くなってるのだ。

「じ、じゃあ、裏にあるんじゃッ!?」と蘭さんが言うので、手をクルリと回して見せる。

しかし何処にもパチンコの球は無いのだ。

何で、どうして、と騒ぐ二人に向けて俺は言葉を紡ぐ。

 

「あー。そういえば、蘭さんと和葉さん?」

 

「え?」

 

「な、何かな?」

 

「いえ。ちょっとつかぬ事を聞きますが……『その手の中にあるもの』は……何です?」

 

「「え?」」

 

俺の言葉に首を傾げた二人は、興奮して握っていた自分の手を見つめながら開いていく。

すると――。

 

シュルシュルシュルシュルシュルッ

 

「嘘ぉッ!?」

 

「い、何時の間に手の中に……ッ!?に、握ってたのにッ!?」

 

俺の手にあった筈のパチンコ球は、二人の手の中に潜んでいたのだ。

オマケに回転もキッチリ続けてる。

種も仕掛けも……あるっちゃあるけど、何の目眩ましも無い公園の、しかもベンチの前。

全く予想出来ない奇想天外な出来事の数々に、二人の興奮は収まりそうも無い。

そして回転を掛けていたパチンコの球が二人の手から飛び跳ねて俺の手元に戻ってきた。

 

「よっと(パシッ)……まぁ、こんな感じでどうっすか?」

 

「凄い凄いッ!!全然判らなかったよッ!!」

 

「ホンマやッ!!私もこんなマジック見た事無いわ~ッ!!」

 

「そいつはど~もです」

 

歳を忘れて子供みたいにはしゃぐ二人にお礼を言って、俺は二つのパチンコ球を仕舞う。

まぁ、これぐらいの遊びなら、別に良いんだけどよぉ……。

さて、一体何で俺はこの人達の前で鉄球の技術を見せてるんだ?

いやまぁ理由は良く分かっちゃいるんだけどな。

そう考えていると、和葉さんはスッゴイにやにやした顔で、俺の直ぐ傍に立つ『彼』に声を掛けた。

 

「どうなん平次?今のトリック分かったんか~?」

 

「ぬぐぐ……ッ!!?も、もうちょい待っとれッ!!こんなまやかしのタネなんぞ、パパパパーっと暴いたるわッ!!(何でや……ッ!?何時の間にパチンコの球、隠しよったんやコイツッ!?しかも和葉達の手の中に気づかん内に入れるとかどないなっとんねんッ!!)」

 

「さすがのコナン君でも、ちょっと難しかったんじゃないかな~?」

 

「ぐぬぬ……ッ!?も、もう一回ッ!!もう一回やってよ、定明にーちゃんッ!!(ゼッッッッテェーに解いてやらぁッ!!)」

 

和葉さんに続いて蘭さんも悔しさMAXって顔して唸ってるコナンにドヤァな顔で声を掛けていた。

すっげぇ大人げ無いぜ、俺の従姉妹さん。

ニヤニヤする女性陣二人と悔しそうな顔してる男二人。

そしてその4人の間に挟まれてる俺。

 

 

 

……こうなった事の発端は、俺を見て唸ってる服部平次その人だ。

 

 

 

あの後、トイレでコナンに何を言われたかは知らねーが、服部さんは戻ってくるなり凄い笑顔で俺にこう言った。

 

『自分、なんや凄いマジックが使えんねやろ?ちょっとワイにも見せたってくれへんか?』

 

――と。俺、普通に「は?」って聞き返しちまったよ。

 

勿論マジックとは俺がコナンに見せて今でも解かせていない謎。鉄球の回転の事だ。

どうやらコナンからその話を聞かされて、自分の中の知的好奇心が刺激されたんだろう。

自分のライバルと公言する工藤新一が未だに解けない謎の技術……というよりは現象。

それを自分の手で暴く事で、コナンにドヤァっとするつもりだったと思う。

まぁ無論の事だがそんな面倒な事をするつもりも無く、俺は普通に断ろうとしたんだが……。

 

『なぁ和葉。お前もこの坊主の凄いマジックっちゅうのを見てみたいと思わへんか?く……こ、こっちの坊主のお墨付きやで?』

 

『えぇ?コナン君の?それはまぁ、そない凄いマジックなら見てみたいけど……』

 

『あっ。私ももう一回見たいなぁ。ねぇ定明君?もう一度見せてくれない?お願い』

 

『なんや、蘭ちゃん見た事あるん?』

 

『うんッ!!ほら、定明君の腰にある鉄球。あれ、凄い不思議なんだよ。触って無いのに勝手に回るし、離れた場所から飛んで定明君の手の中に戻っちゃうのッ!!』

 

『えッ!?なんなんそれッ!?私も見てみたいかも。なぁ坊や、ちょっとお姉さん達にもそのマジック、見せてくれへん?』

 

『よーし決まりやな。そしたらちょっと場所変えよか』

 

と、ギャラリーまで味方に付けられて、あれよあれよという間に俺の鉄球の回転のお披露目会が決定。

少年探偵団のメンバーは今日こそ図書館で宿題をするらしく、灰原もその付添に行くので、彼等とはあの公園で別れた。

そして俺の意志は無関係にこんな事になった訳で……普通にイラッとしたぜ。

だから勝手に俺の予定を決めちゃってくれたこの色黒男を悔しがらせてやろうと思い、こうやって回転の技術を使ったんだ。

ちなみに和葉さんを名前呼びなのはそう呼んでくれと言われたからである。

まぁ何故かマジックという方向で誤解されてるが……それでも良いか。

それに、まだ仕掛けは残ってるしな。

俺は悔しそうな顔をしてるコナンと平次さんに向き直り、更に謎を増やしてやる事に。

 

「もう一回って……あのなぁコナン。まだ終わったなんて言ってねぇだろ?……まだ後『二発』、パチンコの球は俺の手に戻ってきてねぇんだぜ?」

 

「え?」

 

「ッ!?」

 

「あれ?そういえば、最初は四個あったのに……」

 

「アタシ等の手の中、一個づつしか無かったやんな?」

 

まだ俺の仕掛けた謎は残ってると言うと、コナンはキョトンとし、服部さんは驚いた顔になる。

蘭さんと和葉さんもその違和感に気付いたのか、首を傾げていた。

そんな状況の中で俺はニヤニヤしながら、俺の謎を追い続ける二人の名探偵に言葉を投げ掛ける。

 

「服部さんはさっきから握りしめてる左手の中。コナンは今俺の服を握ってる手の中を広げてみてくれねーか?」

 

そう言うと二人は「まさか」という表情をしながら、指定された手を開く。

するとそこから、銀色に輝きながら回転を続けるパチンコの球が現れた。

 

「「んなッ!!?」」

 

「わぁ……ッ!?」

 

「この二人の手の中にも……全然近づいてへんかったのに……ッ!?」

 

あんぐりと口を開けて驚く四人を見ながら、俺は飛んで戻ってきたパチンコ球を手の中に握る。

原作でジャイロ・ツェペリの父親が幼いジャイロに使った、何時の間にか手の中に鉄球を忍ばせる技。

活用次第じゃマジックにも転用できるのが良いね。

そんで、握りこんだパチンコ球の回転を手の中で止めつつ――。

 

「こーゆう事もしておきましょうか。その方がマジックっぽいし……産まれろ、生命よッ!!」

 

バタバタバタッ!!!

 

「「「「……」」」」

 

「……と。まぁ、こんな感じで終わりッス」

 

マジシャンっぽく決め台詞を言いながら『ゴールド・エクスペリエンス』の能力でパチンコ球に生命を与え、鳩に変えて空に羽ばたかせる。

鳩が飛んでいったのを見計らって、俺は惚ける四人に一礼して終わりを告げる。

小さいの手の平から空へと羽ばたく鳩をぽけーっとした顔で見ていた四人だが、ハッと意識を取り戻した。

そして蘭さんと和葉さんだけが、俺に満面の笑みで拍手を送ってくれる。

コナンと服部さんは、まだ今の光景が信じられないのか、口を半開きにしていた。

 

「~~~~~ッ!!とっても面白かったよッ!!定明君ッ!!」

 

「凄い凄いッ!!まるで魔法使いやッ!!」

 

「魔法使いって……それはちょっと言い過ぎッスよ」

 

テンションが振り切れてるぐらいのはしゃぎ様で拍手してくれる二人に、俺は苦笑いしてしまう。

実際に俺が知ってる魔法使いって、戦闘用のちょっとアレな魔法ばっかりなんだよなぁ。

電撃操ったり娘愛で天元突破しちゃって自然災害出しちゃったり大剣でチャンバラってたり。

あれ?世間一般に知られてる心が躍る様な素敵魔法の要素が見当たらないだと?

 

「あ、あほか。この世に魔法使いなんて居る訳無いやろ」

 

「僕もそう思う……」

 

と、謎は好きでも非科学的な事は一切信じない二人の探偵がそんな事を言うではないか。

まぁ当たってるけどな?これ魔法じゃなくて技術とスタンドだし。

 

「それで?ご所望通りに俺の鉄球の技は見せましたが、これで良かったんスね?」

 

「あ、あぁ。サンキューな、坊主……確かにこれは厄介な謎やな……(回転させとる仕組みが全然分からん……鉄球にも仕掛けは何も無かったし……最後の鳩もどっから出した?半袖やから仕込める場所なんてあれへんのに……大体何時の間に俺の手にパチンコ球を入れた?しかも握っとった手にはパチンコの回転しとった感覚は一切無かった……これは厄介やでぇ)」

 

「……回転の力は弱まらなくて……しかも回す初動が無い……でも、高速で力強い(あ~くそ。駄目だ……何度見ても分からねえッ!!……せめて何かヒントでもあれば……っていうか気付かない間に手の中にパチンコの球を入れるなんて……また謎が一つ増えちまいやがった)」

 

「もう。二人共いっつもこうなんだから」

 

「謎が好き過ぎて、他の事見えへん様になるもんな」

 

と、俺の問い掛けに答えた服部さんは何やらブツブツと考え始めてしまう。

コナンもさっきから黙ったまま、手帳に書き込んだ絵を見て頭をガシガシと掻いている。

そんな二人を見て蘭さんは腰に手を当てた体勢で呆れ、和葉さんは苦笑していた。

…………あれ?

 

「そういえば、服部さんも和葉さんも大阪の人ッスよね?今日は何で東京に?」

 

いきなりの登場と急展開で忘れてたけど、今思い出したので聞いてみる。

この二人が上京してきたって事は、必ず何かの事件がある筈。

危ねえ危ねえ。いきなり過ぎてそのまま流す所だった。

俺の質問に対して、頭を捻る服部さんでは無く和葉さんが答える。

 

「平次が急に言い出したんや。夏休みやしどっか行こうって。それでいっつもバタバタしてしもうてあんまり見学出来とらんかったなぁ思て、今回は普通に東京見物に来たんや」

 

「普通に?まるで何時もは普通じゃ無えって言い方に聞こえるんスけど?」

 

「え?……あ、そっか。定明君は知らんよな……言い忘れとったけど、平次は高校生やのに探偵なんて事やってんねん。」

 

首を傾げる俺の反応を、最初は分からないって顔してた和葉さんだが、直ぐに納得した様に頷く。

どうやら事件に巻き込まれるのは、彼女の中ではデフォ認定されてるっぽいな。

そんな常識はイヤ過ぎる。

 

「探偵……じゃあ、蘭さんの幼馴染みの工藤さんと同じって事ッスね?」

 

「うん。服部君も新一と同じで色んな難事件を解決してたから、二人は西の服部。東の工藤って並び称されてるんだって」

 

「へー。そうなんスか……」

 

未だに頭を捻ってウンウン言いながら考えてる二人を見ながら俺は答える。

まぁ二人っつっても、蘭さん達には服部さんを見てる様にしか見えねえだろう。

続けて話してくれた和葉さんの話によると、服部さんは現大阪府警本部長である服部平蔵の息子だそうだ。

そしてその部下である大阪府警刑事部長に和葉さんの父親が居て、親同士が親友という事もあり、幼い頃から一緒に過ごしていたと。

つまりは幼馴染みというヤツである……何処のギャルゲーの設定だろうか?

 

「そんで最初はホテル取るつもりやってんけど、平次がホテル代浮かそう言うて小五郎のおっちゃんに泊めてって、さっき言いに行ったんや。でも、急にゴメンなぁ蘭ちゃん」

 

「ううん。大丈夫だよ。お父さんもOKしてたし、賑やかな方が楽しいもん」

 

「まぁ、結構渋られとったみたいやけど」

 

その時の伯父さんの顔を思い出したのか、和葉さんと蘭さんは二人揃って少し苦笑い。

まぁ、いきなり現れて少し泊めてくれって言われたらなぁ。

俺も渋る伯父さんを想像して半笑いしてると、和葉さんはニッコリと笑顔で俺を見た。

 

「ほんで、おっちゃんから甥っ子が遊びに来てるって聞かされてな。あの小五郎のおっちゃんの甥っ子がどんな子かっちゅうのも知りたかったし、今日から少しお邪魔するから挨拶しとこ思て、蘭ちゃんにあそこの公園に案内してもらったんよ……それと……」

 

と、そこで言葉を区切った和葉さんはジト目になって、コナンと一緒になって考え始めた服部さんに視線を向ける。

そこでジト目を向けられてやっと意識を戻した服部さんは「なんや?」と言いながら首を傾げて和葉さんを見た。

 

「平次が東京の女に騙されて人生棒に振る事が無い様にっちゅう、見張り役も兼ねてな」

 

「はぁ?何やそれ。誰がそんなん頼んだっちゅうんじゃ、ボケェ」

 

「アホ。アタシはアンタのお姉さん役として、変な女に騙されん様にっちゅう親切心でやってんねん」

 

「よぉ言うわ。そないな事言うてその姉ちゃんに初対面ん時喧嘩吹っ掛けよった癖に。大体俺が騙してくる様な女にコロッと靡く訳無いやろ」

 

何故かココに来た敬意についての話がお二人の口喧嘩へと発展。

ギャーギャー言い合うのは何時もの事なのか、コナンと蘭さんは苦笑いして見てるだけだ。

 

「なるほど。まぁ要は浮気しねー様に見に来たって訳っすか」

 

「ふえッ!?い、いきなりな、何を言い出すんッ!?」

 

「はぁ?何言うてんねん坊主?誰が誰と浮気しよるっちゅうんや?」

 

うぉい。本気で言ってんのかこの人?

顔を真っ赤にして驚く和葉さんとは違って怪訝な顔してる服部さん。

俺は怪訝な表情をする服部さんにジト目を向けながら溜息を吐く。

さっき驚いていた和葉さんもジトっとした目付きで服部さんを睨むが、服部さんはまるで気付いてない。

なんてこったい、ここにも相馬の親戚が居やがった。

 

「??なんや?人の顔見て溜息吐きよって。失礼なやっちゃでぇ」

 

「いーえ、別に……まぁ兎に角、話を纏めると、服部さんとその工藤って人は同じ名探偵って訳で良いんスね?」

 

そう聞き返すと、服部さんはニカッと人懐っこい笑みを浮かべた。

 

「せやせや。まぁー工藤よりも俺の方が推理力は上なんやけどな。アイツも結構やると思うで。坊主も何かあったら、この『西』の。西の高校生探偵服部平次を頼っとき。そしたらどんな事件も問題ないわ」

 

「むっ(ニャロー……)でも、平次兄ちゃんと新一兄ちゃんが初めて会った時の事件って、新一兄ちゃんがバッチリ解いてたよ。平次兄ちゃんは犯人のトリックに引っ掛かっちゃったけど」

 

「ぐっ……ま、まぁ、そんな事もあった様な気ぃもする様なせぇへん様な……(おんのれぇ……)」

 

「ふふー♪だから定明にーちゃんも、東の『名』探偵の工藤新一兄ちゃんを頼った方が良いかもしれないよ」

 

上機嫌で自分の事を売り込んでた服部さんの言葉が気に障ったのか、コナンは横槍を入れて工藤新一の事を推す。

割り込まれた服部さんは苦笑いしながらも微妙に怒りが滲み出てるし……どっちも負けず嫌いって事か。

っていうか事件が起こる前提で話を進めないで欲しい。つねづね平穏を望む俺としてはかなり不吉です。

二人して笑う裏では激しい睨み合いをしている中、俺はどうでもいいとばかりに欠伸を一つ。

 

「ふぁ~……んで?その名探偵の服部さん。分かったんスか?この回転の謎は?」

 

「んぐッ!?そ、それはやなぁ……」

 

コナンと睨み合っていた服部さんは俺の言葉に頬を掻きながら明後日の方を向く。

そんな服部さんを見て、和葉さんはニヤニヤした笑みを浮かべた。

 

「ふ~ん?ど~やら平次にも、あのマジックのタネは検討もつかへんみたいやなぁ。前にマジックショー見に行った時は直ぐ分かっとったのに」

 

「こ、この女ぁ~……ッ!?さも自分がやりましたみたいに言いよってぇぇぇ……ッ!!」

 

ウンウンと考える服部さんに和葉さんはそう言いながら嬉しそうに笑う。

そんなリアクションに対して、服部さんは唸りながら手をプルプルさせる。

しかしそこに険悪なムードは無く、俺からしたらジャレあってるとしか思えない。

マジックショーが何時の事かは知らねえが、どうせ事件でもあったんだろ。

そんな二人から視線を外し、今度は苦笑いしてる蘭さんに会話を振った。

 

「そういえば、蘭さんの幼馴染みだっていう工藤さんでしたっけ?その人なら、この回転の謎が分かるんスかね?」

 

(いッ!?)

 

「あっ。そういえば……もしかしたら、新一なら分かるかも……でも、定明君も解かれたら困るんじゃないの?」

 

素朴な疑問を口にすると、蘭さんは俺にそんな事を聞いてきた。

既に解ける前提で聞いてくるあたり、蘭さんの工藤新一への信頼は凄く強いんだな。

困るというか、解かれたら偽り無しにスゲーって賞賛させてもらうと思う。

でも有り得ないって確固たる思いがあるからこそ、俺はこう返す。

 

「特に困る事は無いっすよ……まぁ、俺からしたら、俺の回転の謎を解こうとしてる人達に言いたいのは……」

 

「……言いたいのは?」

 

少し溜める様に口を閉ざすと、服部さん達も興味を持ったらしく、二人して俺の方に向き直る。

その中でもコナンは一番真剣な顔で俺の次の台詞を待っていた。

まぁ自分自身に向けられる言葉だし、真剣になっても無理は無いか。

俺は全員の視線を受け止めながらニヤリと一つあくどく笑む。

他ならぬ、目の前に居る探偵達に向けての挑戦状を叩きつける為に。

 

「解けるモンなら解いてみな――ですかね?まぁ、あのシャーロック・ホームズとかいうおっさんでも解けないでしょうけど」

 

「「ッ!!?」」

 

そして、俺の挑発以外の何物でも無い台詞を聞いて、二人の探偵はマジな目をする。

ここまで堂々とした挑発だし、あの探偵の祖とも言われてるシャーロックを馬鹿にする発言。

蘭さんと和葉さんも少し苦笑い気味だ。

 

「うわ~……何ちゅう強気な発言や」

 

「あはは……じゃあ、新一にも伝えておこうかな……えっと、『超難解な謎を持った従兄弟が、今私の家に居るよ。しかもシャーロック・ホームズでも絶対に解けないと自信満々。平成のホームズには解けるかな?』っと……はい。送信♪」

 

「……上等や。この服部平次が工藤より先にお前の回転の謎を解いて、『参りました』って言わせたるわッ!!首洗って待っとれよ坊主ッ!!」

 

「僕も、そのトリックのタネが何なのか、絶対に暴いてみせるから」

 

探偵達に喧嘩を売ったと同義の宣言を聞いて、服部さんとコナンは目に炎を灯してそう言い放った。

もとより謎という謎を解き明かしたいという知的好奇心の塊の様な二人だ。

この世には謎のままにした方が良い謎があるのは判っていても、この世に解けない謎は無いと考えてる。

だからこそ、解けないという難解さこそが、この二人にとっては逆に最高のスパイスなんだろう。

 

「そうッスか。じゃあ解けないに百円で」

 

「あれ自信無いのッ!?」

 

「安ッ!?めっちゃ安ッ!?え、なんや解けっこないてそない自信満々に言うといて賭けんのはたった百円ぽっちかいなッ!?」

 

俺の掛け金を聞いて目を見開く服部さんとコナンをスルーして、俺は歩みを進める。

まぁ別にもっと大金賭けても良いんだけど、服部さんにしても工藤、いやコナンにしても負けず嫌いだ。

謎を解く期限も決めてない適当な賭けだから適当に言っただけの事なんだよな。

その後は何故か全員でこの近くの服屋を回らないかと聞かれたが、俺は写生の続きをしたいという理由で辞退。

スマホに保存していた名犬クールと背景を書き込む作業をする為に、蘭さん達より先に帰宅する事に。

女性の買い物は長いって良く言うし、そんな面倒事よりも宿題の方が大事だからな。

そんなこんなで帰った俺だが――。

 

「ただい――」

 

「よーし来い来い来いッ!!そのまま……ッ!?あーッ!?待て待て抜かれるなッ!!頑張れJKニーソ三世ッ!!お前の底力を見せろぉッ!!」

 

イヤホン片手に競馬に勤しむビールを持った伯父さんを見て、俺はこっそり溜息を吐く。

つーかスゲェ名前だなその馬。何でその馬に賭ける気になったし?後一世と二世は?

微妙に心に引っ掛かる謎を抱えながら、俺は部屋に上がってスケッチを黙々と仕上げる。

そして4時間程してから帰宅した蘭さん達だが、歩き疲れた事もあって、その日の夕食はポアロで済ます事に。

ポアロの梓さんに勧められた特製パスタに舌鼓を打ちながら、当てが外れて落ち込む伯父さんに説教カマす蘭さんを眺めるのだった。

そして部屋に戻って雑談をした後、俺達は就寝する事にしたんだが、今日は何も事件は起きなかったのである。

コナン達も出先で何も無く、俺と伯父さんも事件に巻き込まれていないという、正に平和な1日。

出来ればこのまま何事も無く平和な2週間を送りたいぜ……。

 

 

 

――翌日。

 

 

 

「おはようござーっす」

 

「あっ。おはよう定明君」

 

「朝ご飯、もう直ぐ出来るで待っといてぇな」

 

「うーっす。じゃあテーブルくらい拭いときましょうか?」

 

他の男衆よりも早く起きた俺がリビングに入ると、既に蘭さんと和葉さんがキッチンで朝飯を作ってくれていた。

手伝いを申し出るも、「ええから座っとき」という和葉さんの言葉で大人しく待ってる事に。

一人寝床に人数が増えて少し窮屈だったが、概ね快適に眠れたぜ。

そう思っていると、顔を洗ってきた二人の名探偵が欠伸しながらリビングに現れる。

なんかまだ眠そうだな。

 

「ふわぁ……おはよう(やべっ……考え過ぎてまだ眠ぃ)」

 

「あぁ~……よぉ眠れたわ(ホンマはあの回転の謎の事考え過ぎて、何時の間にか寝落ちしとったんやけど)」

 

「二人とも。おはよう」

 

「まぁコナン君はしゃぁないにしても、平次はもう少しシャキッとしぃ。定明君なんかちゃんと目、醒ましてるで?」

 

「うっさいのぉ……お前は何時から俺のオカンになったんや?」

 

「オカンっていうより、カミさんじゃないッスか?」

 

「「なぁッ!?」」

 

二人を見ながら呟いた俺の言葉に、和葉さんと服部さんは二人して驚きの声をあげる。

どう見ても今の遣り取りって朝の夫婦のやりとりだろ。

 

「あ、あわわわ……ッ!?」

 

「な、なな、何言うてんねん坊主ッ!!こ、こいつと俺が夫婦に見えるかぁッ!!」

 

「寧ろ夫婦にしか見えねーッスけど?昨日からそう言ってるじゃないっすか。コナンもそう思うだろ?」

 

「う、うん。和葉姉ちゃんも平次兄ちゃんもお似合いだと思うよ」

 

「こ、この……ッ!?」

 

俺の質問に乗っかって良い笑顔を浮かべながら答えるコナン。

そしてコナンの正体を知ってるからこそ、怒りと羞恥心で顔を真っ赤に染めながら唸る服部さん。

つうか、和葉さんがアワアワ言って動かなくなってるし。

蘭さんはそんな風景を眺めながらクスクス笑ってる。

 

「ち、ちゃうで定明君ッ!!ウ、ウチと平次はそんなんじゃ……」

 

「ほ、ほれ見てみぃ坊主ッ!!か、和葉もそんな事無いて言うてるやろッ!?」

 

「え?俺は只二人の遣り取りを見てそう見えるって言っただけなんスけどねー?誰が二人は夫婦だ、なんて言いました?」

 

「「――へ?」」

 

俺が「何言ってんの?」みたいな顔でそう答えると、二人は目を点にして呆然と呟く。

おっかしいな?俺一度として『二人は夫婦』だなんて確定した事言ったっけ?

ここでやっとからかわれていた事を理解した二人は顔色をみるみる赤く染めあげ、二人して目を合わせられなくなっていた。

 

「まぁ、朝っぱらからラブコメるのも結構ッスけど、出来れば飯の後にして下さい」

 

「だ、誰の所為やと思っとるんや……ッ!!」

 

「ったく。朝っぱらから人ん家のリビングで甘ったるい空気出してんじゃねぇよ」

 

「あっ。お父さん、おはよう」

 

俺の言葉を聞いて手を奮わせる服部さんをスルーってると、ここで毛利家の大黒柱である伯父さんの登場。

何時ものズボンとシャツで片手に新聞を持った出で立ちのまま、面倒くさそうな表情で座る。

 

「あーあぁ。ガキは皆夏休みで暇を持て余してるってか?気楽なモンだぜ」

 

「夏休みの宿題とか面倒くせーッスけどね。毎日の絵日記とか、書く事無かったらどうしろっつーんだっての。そうそう毎日何時もと違う出来事なんてねえし」

 

「バーロォ。大人は連休なんて殆ど無えんだぞ?その癖お前等の宿題なんざ屁でもねぇくらいに、毎日仕事仕事……俺も学生時代に戻りてぇなー」

 

「でも学生時代に戻ったら伯父さんの大好きな酒、タバコ、競馬に麻雀と、出来ねぇ事なんていくらでもありますよ?」

 

「いやー、大人で良かったぜッ!!……つってもなぁ――」

 

「夏休みは嬉しい……でもなぁ――」

 

「「宿題/仕事……面倒くせぇ」」

 

「(あっ。二人ともそっくり)」

 

「(ハハ……さすが親戚)」

 

だらけた表情で天を仰ぐ俺と伯父さんに、蘭さんのジトッとした視線が突き刺さる。

コナンと和葉さんは半笑いしてるし、服部さんも少し苦笑い気味だった。

この中ではマイノリティな俺と伯父さんだが、諸々が面倒くせーと思うのは絶対に俺達だけじゃないって断言出来る。

そう思っていると、少し顔を赤くした和葉さんとジト目の蘭さんがお膳をテーブルに置いていく。

全員席についていただきますと言えば、1日の始まりである朝食の開始だ。

 

「もう。お父さんも定明君も、そんなに面倒くさがってたら駄目よ。将来ダメ人間になっちゃうんだから」

 

「おーい?お父さんもう将来過ぎてんだけど?蘭ちゃーん?(言う事が英理に似てきやがった)」

 

「つっても俺が成人になるのって、まだ11年も先の事でしょ?今からそんな先の事気にしてても仕方無いッスよ」

 

「日々の積み重ねが、将来に役立つ事だってあるんだよ?」

 

「先の見えない真っ暗な未来より、明るい現在(いま)を楽しむ。俺の座右の銘にします」

 

「座右の銘だった訳やないんやね……」

 

少し怒った表情の蘭さんの説教をのらりくらりと避けつつ、俺は朝食の鮭に箸を伸ばす。

う~む。程好い塩味が絶品だね、これは。

卵焼きも良い塩梅の味付けと焼き加減だし味噌汁も塩辛く無く、それでいてスッキリし過ぎでも無い。

はぁ……心安らぐ、良い朝のスタートってヤツだなぁ。

 

「はぁ……美味ぇ……平和だ……」

 

「……なんやおっさんみたいな事言いよるやっちゃのぉ。子供やったらもっとこう、刺激っちゅーのが欲しいモンなんとちゃうか?」

 

味噌汁飲んでほっと一息吐く俺に、服部さんは目を細めながらそんな事をのたまう。

冗談じゃねぇ、朝から何て不吉な話題出しやがるんだこの色黒。

 

「別に全くいらねぇって訳じゃ無えっすよ。只、俺は9割の平和と1割くらいの刺激がちょーど良いってだけです。このほんのりとした味噌汁みてーに」

 

「味噌汁て……」

 

「あっ。その例え上手やん」

 

何とも朝からどうでも良い様な話題で盛り上がっているが、こんな空気こそ、俺の平和の象徴。

植物の様に穏やかに過ごしてる事の証だ。

そのまま俺達は和やかで穏やかな朝食の時を過ごし、昼からどうするか予定を立てる事に。

まぁ何処に行こうかと盛り上がってるのは主に蘭さんと和葉さんだけど。

コナンと服部さんは頬杖をついてボケーッとしてるし。

俺?俺は伯父さんと一緒にテレビを見て暇つぶしだ。

 

「あー……おい定明。ちょっとそこのタバコ取ってくれ」

 

「へいへい。あー伯父さん、俺にも柿ピー下さい」

 

「ほらよ」

 

「「(だらけ過ぎやろ/だろ。休日のオッサンか。いやまぁ一人はオッサンだけど)」」

 

二人で左右にあった欲しい物を渡しつつ、寝転んでテレビを見る。

信じられるか?今まだ朝の8時なんだぜ?

何か昨日は服を見たので、今日は原宿の方まで出ようかって話で悩んでるっぽい。

俺も昨日は一緒に行かなかったから、今日は一緒に行こうねと言われてしまってる。

あんまり死神’sとは行動したく無えんだがなぁ……。

あーでもそろそろ、アリサ達に土産買っておいた方が良いか?

原宿の方まで出る事なんて、もう俺が居る間は無いだろうし。

 

prrrrr

 

「っと。スマン、俺の携帯や……ん?大滝はん?なんやろ?」

 

しかし、やはり死神体質の人間が揃い踏むという事は、平穏という極上の女とは結ばれない運命らしい。

ゆったりとしていた俺達の日常を引き裂くかの様に、服部さんの携帯が始まりの合図を弾き鳴らす。

 

 

 

――血生臭い、殺人事件への鐘を。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「えっと、待ち合わせはこの辺やけど……あ、おったおった。おぉーいッ!!大滝はーんッ!!」

 

そして2時間後、俺達は伯父さんの運転するレンタカーに乗って、高速のパーキングエリアに一度止まった。

キョロキョロと辺りを見回してた服部さんが相手を確認して、その相手に声を掛ける。

すると向こうも気付いたらしく、ゆったりとした動作でこっちへ歩み寄ってきた。

 

「どぅも皆さぁん。態々お越し頂いて、えろぅすんませんなぁ」

 

「いやいや。私なぞでよろしければ是非、事件のお役に立たせて頂きますともッ!!」

 

苦笑いしながら頭を下げる男に、伯父さんは問題ないと返す。

俺達を出迎えてくれたのは、間の伸びた渋い声で話す大柄なスーツの男で、大滝警部さんという人らしい。

右眉毛を横断する傷が、なんともヤクザ臭げふんげふん。歴戦の刑事っぽい。

大滝さんは俺達を見回すと、俺を見て首を傾げた。

 

「おやぁ?今日は一人、連れが多いみたいですけど……?」

 

「えぇ。コイツは私の甥っ子でして……定明。こちらは大阪府警本部で刑事をやっておられる、大滝警部だ」

 

「こんにちわ。城戸定明ッス。小五郎伯父さんの甥っ子です」

 

「お~、そうなんかぁ。ワシは大滝言います。よろしゅうなぁ、定明君。あ、それとスマンのぅ平ちゃん。折角の夏休みやのに、呼んでしもて……」

 

お互いに挨拶した所で、大滝さんは服部さんに申し訳無さそうに謝る。

実はこの大滝さん、とある家の遺産相続の会議に警察への出席要請が出たからそれにこれから向かう事になったそうだ。

なんでも、以前その家で奇妙な事件が2件立て続けに起こり、まだその事件が解決していないからというのが理由らしい。

そして服部さんが東京の伯父さんの所に居るから、ついでに事件解決の為に連れてけと、服部さんの親である服部平蔵さんに言われたから連絡したと。

更に泊まってるのが小五郎の伯父さんの家という事もあって、伯父さんも事件解決に乗り出してしまった。

何とも傍迷惑な事だぜ……伯父さんが行くならと俺達も行く事になっちまったんだから。

大滝さんの謝罪を聞いた服部さんは笑いながら手をヒラヒラと振った。

 

「構へんて大滝はん。どうせ予定なんて無かったんやし、なんやおもろそうな事件の話なんやろ?そっちの方が退屈せんで済むわ。なっ、坊主?」

 

「うんッ!!」

 

ちなみに今の坊主とは俺じゃなくてコナンの事である。

しっかし、面白そうな事件ねぇ……人が不幸になってんのに喜んでんじゃねぇよ。

コナンも小島に言ってた言葉を思い出してみろ。

不謹慎過ぎる二人に気分が悪くなる……が、俺より機嫌悪い人居るからなぁ。

大滝警部もそれが分かってるのか、件の人物を見ると冷や汗を流してる。

 

「……」

 

「か、和葉ちゃんもごめんなぁ。折角東京で遊んでたのに……」

 

「あぁ、ええねんええねん。俺等はそっちの坊主と家で待っとれって言うたのに、コイツが着いてくる言い出したんやし」

 

目に見えて不機嫌さを醸し出してる和葉さんに大滝さんは謝るけど、和葉さんの視線は鋭く服部さんを射抜いたままだ。

まぁあんな事言われちゃあ、不機嫌にもなるだろうよ。

折角二人で旅行に来たってのに、態々進んで事件の方に行くんだもんなぁ。

っつうか、普通幼馴染み放り出して事件解決に向かうか?有り得無えーだろ常識的によぉ。

親も親だな。和葉さんが一緒に旅行に来てるってのに……いや、まさか知らなかったとか?……まさかな。

まぁここでグダグダしてても仕方無いので、俺達は一路目的地に向かう事に。

人数を分けて、服部さんとコナンは事件の詳細を聞く為に大滝さんの車に乗り、俺たちは伯父さんの車に乗った。

 

「……」

 

「か、和葉ちゃん……えっと……(二人とも助けてよぉッ!!)」

 

そしてその道中、車内の空気は物凄く気まずいです。

前方を走る大滝さんの車をジトッとした目で睨む和葉さんのお蔭で。

和葉さんの隣に座る蘭さんが凄い泣きそうな顔で俺と伯父さんに助けを求めてくる。

 

(おい。何とかしてやれ。従姉のお願いだぞ?)

 

(嫌っすよ、面倒くせぇ……伯父さんが何とかして下さいよ。名探偵なんでしょ?)

 

ダルい事の押し付け合いをアイコンタクトで交わすという時間稼ぎを続けながら、俺達はそ知らぬ振りを決め込むのだった。

何で俺があの色黒男のフォローをしなきゃならねーんだっての。

そういうのは和葉さんと同じ女の蘭さんに全て丸投げる。

頑張って下さい応援してます。エールもじゃんじゃん送りますよ、念で。

 

(覚えてなさいよぉ、二人ともぉ……ッ!!)

 

なんてこった。応援の念を送ったら呪詛の念が返ってくるとは。

まぁ普通に素知らぬ顔でスルーされたらそうもなるわな。

しかし男の事でヤキモキしてる女の人に関わるのはクソ面倒くせー事だ。

俺と伯父さんは背後から振りかかる恨みがましい視線をスルーし、車は一路目的地へと向かっていく。

 

《ねぇ大滝警部。これから向かう屋敷で昔起こった奇妙な事件って、一体何なの?》

 

お?どうやら話が始まったみてーだな。

コナンのズボンのポケットに忍ばせたハーヴェストが、コナンが事件について質問する声をキャッチした。

俺は少し意識を集中して、向こうの車の会話を聞き取る事に専念する。

 

《……事件自体は2件あったんやけど……奇妙さで言うたら、2件目の事件の方が奇妙やったらしい》

 

《2件目の方が奇妙?どういう事やねん?》

 

《あぁ。最初の事件は今から2年前。これから行く館の近くの森で、女性の遺体が見つかったんや……地面に立てた長い杭に逆さに縛られた無残な格好でなぁ……》

 

コナンの質問に奇妙な前置きをした大滝警部。

その前置きに疑問を持った服部さんの質問に対して、大滝警部は事件の内容を語り始めた。

 

《杭に、逆さに括りつけられた遺体……?》

 

《そらまた……エグいのぉ》

 

……エグいというより、その犯人の行動に異常を覚えるっての。

昔の事とはいえ、のっけから嫌な事件だなと思いつつ、一言一句聞き逃さないように集中を保つ。

 

《その女性は館のメイドやってんけど……遺体の様子がなぁんや『けったい』でなぁ……》

 

《??けったいって、なにがや?》

 

《いや、その遺体見つけた老夫婦が言うとったらしい。遺体の肌の色があんまり白ぉて、最初は逆さに掛けた熊よけのかかしと間違えたってな》

 

《はぁ?そんなん、動脈切って遺体そこに置いて失血死させたに決まってるやないか》

 

なるほど……動脈を切って逆さにすりゃあ、血は垂れ流れてそれで死に至るって訳だ。

確かに服部さんの言ってる事は分かるけど……それで奇妙な事件、だなんて前置きするだろうか?

それなら頭のイカれた殺人犯の仕業って言うんじゃねぇの?

 

《……遺体に大きな傷は全く無かったらしいんや》

 

《え?》

 

《あったんは――首筋に空いた『二つの穴』だけで……》

 

《ッ!?首筋に二つの穴で、失血死……ッ!?》

 

そして、続けて語られた事件の話に、俺は嫌な予感がヒシヒシと感じられた。

首筋に二つの穴。そして失血死って……完璧に吸血鬼みたいな遣り方じゃねえか。

まぁ普通ならそう見せようとした人間の仕業って思う所なんだが……俺は知ってる。

現代には『夜の一族』という吸血衝動を持っている人種が居る事を。

まさかとは思うが……夜の一族が関わってるのか?すずかと同じ吸血種の人間が?

加速する嫌な予感を裏付けるかの如く、大滝警部の話は進む。

 

《そんで、もう一つの事件っちゅうのは……その翌年。つまり1年前に起こった事件なんやけど……被害者が死ぬ前にとった行動が奇妙やったらしい……》

 

《被害者の行動?》

 

《あぁ。目撃者は別の近所に住んどる夫婦なんやけど、被害者は最初の事件とは関係無い人や。旅行帰りの夫婦が車で屋敷の前を通り掛かった時、夜中やのに手をまっすぐ前に突き出しながらフラフラと森の中に入ってったそうや》

 

まるで意志の無いキョンシーみたいに歩いとったらしい、と言葉を続けた大滝警部の声は少し震えていた。

被害者のとった異常な行動……自分から一人で森に入ったという事か。

 

《その夫婦が様子がおかしい思て声掛けたら、虚ろな目で睨まれて気味悪くなったらしいて……そのまま忠告も無視してパジャマ姿で森の中に入った被害者が心配になった夫婦が警察に連絡して森の捜索を頼んだ……そしたら……》

 

《お、おい。まさか前と同じで……》

 

《杭に逆さに縛られて、失血死してたの?》

 

弱気な調子で語った大滝警部に、服部さんとコナンは矢継ぎに質問する。

すると大滝警部は「い、いや……」と弱々しく否定して――。

 

《……前と同じやなんて『優しい』モンや無かったらしい……通報を受けて急行した地元警察が、通報から25分程で被害者を見つけた時には……被害者はまるで老婆と見間違う程に痩せこけて……わ、笑ったままの表情っちゅう薄気味悪い状態で発見されたそうや……前と同じで、首筋に二つの穴以外、外傷は無かったて……》

 

《な……ッ!?》

 

《ん、んなアホなッ!?通報から発見まで25分しか経ってへんのに、痩せこけるくらい体から血が抜かれとったっちゅうんかいッ!?しかも笑ったままの表情でッ!!たった二つの穴傷でッ!!》

 

《あぁ……せやから、2件目の事件はもっぱら吸血鬼の仕業や言われとってなぁ……1件目も似た様な殺され方やったから、そっちも似た様な扱いされとるそうや……》

 

《吸血鬼……ハッ。アホくさ。この世にそんなファンタジー染みた生きもんが居る訳無いやろ》

 

俺のダチに居るんだけどなぁ、吸血できちゃう子。

ファンタジーな生き物をナマで見た事の無い服部さんは早々に人間のトリックだと疑って掛かってる。

まぁそれはコナンも一緒だろう。

ハーヴェストが見てるコナンも最後には呆れた表情を浮かべてるし。

でも、俺はそんな楽観的に考えられねぇんだよなぁ。

余りにも予想外な出来事に、俺は目元に手を当てて天を仰ぐ。

……よりにもよって、夜の一族が絡んでくんのかよ……。

 

「??おい、大丈夫か?」

 

「あー、大丈夫っす。ちょっと現実から逃げたくなって……」

 

「助手席に座ってる間に何があった」

 

心配してくれる伯父さんに手を振って大丈夫とアピールしながら、俺は今の事件の話を考える。

1件目の事は分からねえが、2件目は90%くらいの確立で夜の一族の誰かの仕業って考えて良いだろうよ。

確か夜の一族には魔眼があるし、人間の記憶が消せるだけじゃなくて操る事も出来るって話だったしな。

最初の事件と何か関わりがあるのかは分からねえが……少し調べておくか。

ちょうどパーキングエリアに寄る所だったので、俺はジト目で睨んでくる蘭さんからスタコラと逃走を計る。

そのまま男共の最終隠れ家である男子トイレの個室に入り、スマホを操作。

すずかの家の電話を選択して電話を掛けた。

 

「出来れば、忍さんが居てくれるとありがてぇんだけどな……」

 

エアロスミスのCO2レーダーで周りで聞き耳を立てる奴が居ない事を確認しつつ、コール音を聞いていると……。

 

『(ガチャッ)はい。月村ですが?』

 

「あー、イレインか?俺だ、定明だよ」

 

『あ?定明?何でお前こっちに電話してきてんだ?すずかが電話が無くて寂しがってたぞ。ちゃんとすずかの携帯に電話してやれよ』

 

電話に出たのはイレインだったが、何故か開口一番にそんな事を言い出した。

どうやら俺がすずかの家に電話掛けたのは間違いだと思ってるらしい。

 

「悪いがすずかじゃなくて忍さんに用事があるんだ。電話に出してくれねぇか?かなり急ぎの用件でな。このままじゃ、ケツに火が点いちまう」

 

『……おい。お前まさか、何かヤバイ事に首突っ込んでんじゃねぇだろうな?』

 

俺の要求を聞いて感づいたのか、イレインは声音を少し硬くして問い返す。

自惚れじゃなけりゃ、心配してくれてんのかもな。

そんな考えが浮かんだ事に苦笑しながら、俺は話を続けた。

 

「それを今から忍さんに確認してーのさ。もしかしたらそちらさんの一族の誰かがやんちゃしてるかもってよ……氷村の馬鹿みてーに、な」

 

『ッ……ちょっと待ってろ。直ぐに繋ぐから』

 

「あぁ。悪いな」

 

保留のベルが聞こえる中、俺は大きく溜息を吐く。

……確かにすずかや忍さんと同じ一族の人間を疑うなんて気分悪いが、氷村って前例もある。

親戚であろうと容赦無く蹴落とそうとしたあの残忍な男……あんなのが居るって考えりゃ甘い事言ってられねえ。

何よりそんな危ない土地に向かうのは俺だけじゃ無くて、蘭さんや伯父さんもなんだ。

身内の誰かが犠牲になるなんて、俺は考えたくないし受け入れるつもりも無い。

不安の芽は二度と生えない様に潰しておかねぇとな。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「き、吸血鬼ぃッ!?その殺し、吸血鬼の仕業だって言うんスかッ!?」

 

それから時間は飛んで、俺達は山奥のとある大きな屋敷に到着した。

蘭さん達を先に屋敷の中に通してもらい、外で話していた伯父さんが素っ頓狂な声で驚く。

まだ詳しい事を話してなかったという事で、車の中でコナン達に聞かせてたのと同じ話しをした所だ。

驚く伯父さんに苦笑しながら、大滝警部は伯父さんに弁解する。

 

「いやぁ~只のしょうもない噂ですぅ。昔この辺をそないな大名が治めてはったらしいし……」

 

「は?大名?」

 

「ほんで、その殺人犯まだ捕まって無いんか?」

 

「ああ。まだ~未解決のままや」

 

横槍を入れた服部さんの質問に大滝さんは答え、そこに更に伯父さんが質問を続ける。

こういう時って事情を話す人間は大忙しだな。

 

「しかし、容疑者くらい居たんじゃ……」

 

「え、えぇ。真っ先に疑われたんが、この館の主の寅倉拍弥さんです。殺されたメイドが、館のシェフに洩らしてたらしいんですわ……旦那様が最近不気味で、身の危険を感じるからメイド辞めたいってぇ……」

 

「じ、じゃあ、やっぱり主が?」

 

「あぁいえ。寅倉さんは……」

 

「アリバイがあったのですよ」

 

と、伯父さんの質問に答えようとした大滝警部の声を遮って別の人物が現れた。

白髪にてっぺんハゲの老人だが、滲み出る貫禄は鮫島さんのそれと良く似ている。

着ている服もスーツだし、この館の執事か?

 

「メイドの清水さんが亡くなった死亡推定時刻に、旦那様はずっと部屋に籠もられて寝てらしたというアリバイが……皮肉にも、それを証言したのは清水さんに相談を受けていたシェフなんですけどね」

 

事件の館側の顛末を語り終えた執事の爺さんは姿勢を正し、大滝警部に目を合わせる。

 

「ようこそおいで下さいました。大阪府警の大滝警部ですね?」

 

「あ、はい。ほんならアンタが、依頼主の……」

 

「執事の古賀と申します。服部本部長の父上とは同期の桜でして」

 

同期の桜……確か昔の言い回しで同期生だったっけか?

妙な使い回しをする爺さんだぜ。

細い狐の様な目付きだが……見た感じ、そこまで悪そうな雰囲気はしない。

そこまで注意しなくても良さそうだ。

 

「ねぇ、何なの?最近の旦那様の様子が不気味だったって」

 

「あぁ……近頃の旦那様は、日を避ける様に昼間は部屋でずっと寝てらしたり、愛用なさっていた食器類も、自分は銀アレルギーだと急に言い出されて全てお捨てになったり……」

 

「……陽の光も駄目。銀の食器も駄目、ね……」

 

まるっきり吸血鬼のそれだな。

しかも急にそんな事を言い出したらそりゃあ不気味だろう。

コナンの質問に答えていく古賀さんの話を、俺はコナンの隣で聞きながらボソリと呟く。

 

「先日は好物のニンニクに入ったスープの皿を叩き割られて、血が腐るから二度と入れるなと大層ご立腹に……」

 

「終いにゃニンニクも駄目……それってほぼ確定じゃね?」

 

「あぁ。坊やと同じでメイドの清水さんにもそう写ったのでしょう。まるで吸血鬼――ヴァンパイアの様だと」

 

「「ヴァ、ヴァンパイアッ!?」」

 

古賀さんの呟きに反応したのは俺達……では無く、先に家に通されてた筈の蘭さんと和葉さんだった。

二人共かなりビビった表情で、冷や汗を流している。

 

「い、今ヴァンパイア言うてへんかったッ!?」

 

「吸血鬼がどうかしたのッ!?」

 

「あー、いや……」

 

そして二人は大滝警部と伯父さんに詰め寄って話を聞こうとする。

二人の真剣な顔付きに気圧された大滝さんと伯父さんはしどろもどろになった。

どうやら二人共、怖い話は苦手みてーだな。

 

「あー、違う違う。バンパーやバンパー。レ、レンタカーのバンパーに傷付けてしもて、どないしよー言うてたんや」

 

いや、それは言い訳としちゃ苦しくね?

 

「なぁんだバンパーかぁ……」

 

マジか。

 

「なぁ、平次らも早よ中入りぃ」

 

「お城みたいで凄いよ」

 

「あ、あぁ(いや、騙したん俺やけど……こない簡単に信じるとは……)」

 

何とも簡単に誤魔化された二人を見て、俺は心底呆れた。

しかもキャイキャイとはしゃいで館の中が凄いだどうだと騒ぐ始末。

俺だけじゃなくて誤魔化した平次さんも半笑いしてた。

……ちったぁ緊張感を持って欲しいんだけどなぁ……ここ、マジにやばい土地らしいし。

 

「……では、そろそろ日も傾いて、旦那様もお目覚めになる頃合いです。夕食の支度が整うまで、館内で寛いでいて下さい」

 

「あぁ、はい……」

 

「問題の遺産相続の話し合いは、夕食後という事ですので……」

 

最後に古賀さんから、今回訪れた本題の遺産相続の話をされて、俺達は館の中へと入る事に。

……やれやれ、出来れば何事も無く終わって欲しいトコだがなぁ……。

 

 

 

 

 

――そんな俺の望みを嘲笑うかの様に、玄関を開いた瞬間、ハイウェイ・スターで強化した俺の鼻に濃厚な『血』の臭いが感知された。

 

 

 

 

 

おい、まさかとは思うが……もう誰か死んじまってんのか?

……でも、『向かいの森』の中の方がドギツイ血の臭いがしてた所為で、判別し難い。

出来ればハイウェイ・スターの能力をOFFにしたい所だが、後手に回るのだけは避けてえ。

それにまだ情報も足りないから動き様が無え……急いでくれよ、忍さん。イレイン。

 

 

 

ままならない現状に天を仰ぎたくなる気持ちを抱えながら、俺は館の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 





最近色んなSSを書きたくてしょうがねーんすよぉ~。

天晴れ天下御免とか~緋弾のアリアとか~恋姫とか~辻堂さんとか~マジ恋とか~。
ドラッグオンドラグーン3とかも良いっすね~。

それと話は変わりますが、緋弾のアリアでTPSのゲームとか出てくんないッスかね?
武偵としてクエストこなしてランク上げしたり、拠点フェイズ的なのでヒロインと恋愛したり……あれ?結構良さ気じゃね?
銃を撃つ武偵以外にも超能力使える超偵も居るし、ヒロイン可愛いし。
車好きな人の為と言っても過言じゃねぇ車輌科もあるし。
GTA5みたいな箱庭ゲームコンセプトとビジュアルノベルの融合。
歴史の偉人達の子孫という歴史にも優しい配慮。
車のカスタムとか銃のカスタムも出来る科があるし……あれ?何やら超大作の予感。






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