ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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後何話くらいやろうか?

一話書くのに凄い文量使うし……。


少なくとも劇場版はしたいと考えております。




ガムはやらねーが(ry

「さぁ定明君。ここが『妃法律事務所』。私のお母さん、つまり定明君の伯母さんの仕事場よ。お父さんの事務所とは違って綺麗な所でしょ?」

 

「綺麗ってのは間違い無いッスけど、探偵事務所と比べてうんぬんかんぬんはノーコメントでお願いします」

 

「別に気を使わなくても良いよ?ありのまま感じた事を言ってくれれば。ねーコナン君♪」

 

「う、うん」

 

あれ?普通は使うんじゃね?というかまだ昨日伯父さんが女性を口説いてたのを怒ってるんですね分かります。

笑顔で答えづらい事を問う蘭さんに苦笑いを返して、俺は答えをぼかす。

こういう所で答えた言葉が、後々面倒事の種にならないとも限らないからな。

その辺りを吟味して答えねえと、世の中は渡っていけない。

 

昨日の誘拐事件から明けて次の日。

 

部活が休みだった蘭さんにお誘い(誘拐)されて、俺はコナンと共に再び洋食屋さんで食事をした。

俺達と違って蘭さんは初めてだったから少し興奮気味だったが、店の醸し出す落ち着いた雰囲気に呑まれて段々と静かに。

出された食事の美味しさに打ち震えていたりとあったのだが、まぁ割合する。

そして現在、俺は自分にとっては伯母に当たり、母ちゃんにとっては義理の姉に当たる妃英理さんの元を訪れていた。

とどのつまり、小五郎伯父さんの奥さんな訳なので、一応甥っ子に当たる俺としては挨拶をしとかなきゃな、とは思ってる。

 

「しかし、妃って……名字が違うじゃないッスか?どういう状況で?」

 

「あー……その……ちょっと昔にお父さんと喧嘩して……今は別居中、かな」

 

「……そうっすか」

 

頬を掻きながら苦笑いで言葉を放つ蘭さんに、俺はそれだけしか言えなかった。

別居中、か……しかも蘭さんの家事スキルを見るに、結構昔からっぽい。

妃英理さんの事は殆どうろ覚えで、こういった確認をするのは抵抗は無い。

何せ本当に覚えてないんだし。

まぁそんな遣り取りをしてちょっと微妙な雰囲気になりつつも、俺達はその法律事務所のあるビルの中に入っていく。

蘭さんの先導でエレベーターに乗り、高級そうな廊下を歩く事数分。

金に黒字で『妃法律事務所』と書かれた一室のドアを、蘭さんは淀みなくノックする。

何でも驚かせたいからって理由で、先方には何も伝えてないらしい。

 

「……なぁ、コナン。妃さんってどんな人なんだ?」

 

「ふぇ?えっと……や、優しい人……かな?」

 

おいコラ。なぜ苦笑いしながら目を逸らす。そして何故汗を掻いている?

もしやそれとは真逆の人だったりしねーよな?

コナンの言葉に訝しむ俺だが、そんな俺達にノックの返事待ちしてた蘭さんがムッとした顔を向ける。

 

「なーに、コナン君。お母さんは優しい人じゃない?どうしてそんなに言い難そうなのよ?」

 

「べ、別にそんな事は無いよ?」

 

「……ホントでしょうね?」

 

「う、うん。ぼく英理おばさんだーい好きだもん。あ、あはは……(バーロー。昔散々怒られたから、勝手にそんな反応になっちまうんだよ)」

 

「それなら良いんだけど。定明君も誤解しないでね?お母さんは本当に優しい人だから」

 

「はぁ……まっ、その辺りは会ってから判断しますんで」

 

「もぅ。そんなに警戒しなくても大丈夫だってばー」

 

俺の苦笑いした受け答えが不満なのか、ムキになって妃さんの事を養護する蘭さんだが、その辺は自分で確かめよう。

やがてノックした扉が開かれて、緑がかった黒髪の女性が顔を出した。

かなりの美人さんだが、どうやらこの人では無いらしい。

コナンと蘭さんの顔を見て笑顔を浮かべてはいるけど、肉親に向ける表情じゃなさそうだ。

 

「あら。蘭ちゃんとコナン君。いらっしゃい、今日は……コナン君のお友達も一緒?」

 

「こんにちは、栗山さん。えっと、この子はちょっと違うんですけど……母は居ます?」

 

「えぇ。今日は急ぎの用事も無かったと思うわ。さぁ、どうぞ」

 

「「「お邪魔します」」」

 

栗山さんという人に案内されて中に入り、執務室というプレートの掛かった部屋に通された。

扉を開いて一礼する栗山さんの背後から中を覗き見ると、メガネを掛けた凄い美人さんがデスクに座って書類に目を通してる。

……栗山さんといいこの人といい、ここの事務所は美人率高いな。

 

「先生。蘭さんとコナン君がいらっしゃいましたよ」

 

「あら。いらっしゃい二人共」

 

「久しぶり、お母さん」

 

「おばさん。こんにちはー」

 

「こんにちは、コナン君……あら?コナン君のお友達?」

 

と、俺達に気付いて笑顔で挨拶してくれた美人……多分、この人が妃さんだろう。

妃さんがコナンの挨拶に返事した時に、蘭さんの後ろに居た俺に気付いて俺を見てくる。

 

「ふふっ。さて、この子は誰でしょうか?お母さんは分かる?」

 

妃さんの質問に対して、蘭さんは俺を前に差し出しながら笑顔でそんな事を言う。

前に出されて視界の開けた俺の視界の先で、妃さんは首を傾げる。

うん、まぁいきなり目の前に差し出された子供が誰でしょうってのは無いと思う。

面倒くせーし、さっさと自己紹介しちまうか。

デスクから俺を見つめてる妃さんに、俺は一歩前に出てから一礼する。

 

「初めまして。俺は城戸定明って言います。毛利小五郎伯父さんの妹の息子です」

 

「え?あの人の妹って……雪絵ちゃんのッ!?」

 

俺の自己紹介で思い至ったのか、妃さんは驚きの声を上げてデスクから離れて俺の傍で屈んだ。

そのままジッと目を合わせていると、彼女はニコリと微笑んで俺の事を見つめた。

 

「そう。貴方が……初めまして。蘭のお母さんの妃英理よ。宜しくね、定明君」

 

「はい。よろしくお願いします。伯母さん……よりは、お姉さん?」

 

「あら♪嬉しい事を言ってくれるわね……でも、親戚なんだから伯母さんで良いわよ」

 

お互いの自己紹介も終わり、俺達は応接用のソファに座ってお茶を頂く。

とは言っても、コナンと俺はオレンジジュースで蘭さんはコーヒーだったけど。

俺達3人と向き合う様にして、栗山さんと英理伯母さんはソファに腰掛けている。

 

「それにしても、驚いたわ。急に連絡も無しに訪ねてきたと思ったら、まさか私の甥を連れてくるなんて」

 

「ゴメンゴメン。私達の時も急だったから、ビックリさせてあげようと思って」

 

「まったく……それにしても、定明君はどうしてあなたの家に?」

 

「なんか、叔父さんが急に海外に出張になっちゃって、それに叔母さんも着いて行かないといけなくなっちゃったらしいの。それで家に二週間ほど泊まらせてくれって……」

 

「そうなの……お母さん達が居なくて、寂しくない?」

 

蘭さんから俺の事情を聞いた英理伯母さんは優しい表情でそう聞いてくる。

なので俺は食べていたクッキーを飲み込んで、叔母さんに視線を向けた。

 

「特に寂しくは無えッスけど……心配っすね」

 

「心配……お母さん達が、向こうでちゃんと元気にしてるかという事かしら?」

 

「いや。母ちゃんが父ちゃんを振り回して無えかッス。仕事で行くっつうのに、出発する前の日に観光地のガイド見て楽しそうにしてたんで」

 

微笑ましいという表情で俺を見る英理伯母さんにそう答えると英理伯母さんはキョトンとしてから「プッ」とおかしそうに笑う。

昔からどっかに旅行に行くと、俺も父ちゃんも母ちゃんの行きたい所に振り回されたからなぁ。

父ちゃんは母ちゃんに甘いっつうかデレッデレだから、母ちゃんの我儘は絶対に叶えてたし。

向こうでも同じ様なら、仕事の合間に休む間も無く振り回されてるんだろうなぁ、という心配だ。

そう答えると、伯母さんはクスクスとおかしそうに笑ってた声を止め、メガネをずらして涙を拭う。

そんなにツボだったんだろうか?

 

「ふふっ……そうね……昔から、雪絵ちゃんは自由奔放な所があったわ」

 

「父ちゃんも同じ事言ってました。本当に自由で、振り回されてる時もあるって……でも」

 

「でも?」

 

「でも、そんな母ちゃんの太陽みたいに明るくて暖かい所にベタ惚れだ……だそうっす。お陰で息子の俺の前でも、未だにイチャイチャするバカップルっすよ」

 

「へぇ~……ラブラブなんだね。定明君のお父さんとお母さん。羨ましいなぁ~」

 

「えぇ。息子の存在忘れて二人の世界に入ったり、ちょっとした誤解でも隣のおばさんの家に行って泣き付いた挙句、何時の間にか仲直りしてイチャイチャしだすぐらいには」

 

「あ、あはは……」

 

何時も迎えに行ってるのは俺っすよ?という愚痴を零すと、憧れの目をしてた蘭さんも苦笑いしてしまう。

コナンと英理叔母さんも半目になって「オイオイ」って顔してる。

 

「別に文句は無えんスよ?仲が良いのは素直に嬉しいし、ちゃんと息子の俺の事も愛してくれてる。でも『少し人目を憚れやコラ』とは思いますね」

 

「こ、子供には子供の悩みがあるみたいね」

 

「想像出来ます?レストランに行って『雪絵の料理の方が美味しいな♡』とかイケメンウェイターが売りの店で『結城さんの方が何十倍も素敵よ~♡』なんて言って二人の世界に入っちまうから、息子の俺だけが正気で気まずい空気の中っすよ?オマケに外野はニヤニヤしてたり悔しそうにしてるから、その全てを俺が請け負う羽目に……あれ?別にこのままアッチで末永くしててもらっても良い様な?」

 

「こ、堪えて堪えて」

 

「そ、そうよ定明君。別に叔母さん達には悪気は無いんだから、ね?」

 

「は、はい。定明にーちゃん。このクッキー美味しいよ」

 

今までの事を思い返していた俺に、全員からストップの声が掛けられる。

危ない危ない、ちょっとダークサイドに入りかけた。

怒りは暗黒面に繋がるっていうヨーダ先生の言葉は偉大だよな、うん。

何とか落ち着いた所で、俺も叔母さんに質問する事にした。

 

「っつうか、伯母さんは何で伯父さんと別居してんスか?理由は何にも聞いて無いんスけど?」

 

「ち、ちょっと定明君ッ!?」

 

無遠慮にズケズケと踏み込んだ俺に蘭さんが驚いた声をあげるが、叔母さんは少し苦笑いするだけだ。

原作をうろ覚えだから理由までは知らねえんだよなぁ。

 

「別に対した理由じゃ無いわ。貴方のお父さんの結城君とは違ってグズで不潔で、女たらしで飲んだくれなあの人と喧嘩したから」

 

ヒデぇ。

 

「でも、今も指輪してるって事は、別居してても伯父さんの事を愛してるんスよね?」

 

「あ、愛してッ!?ち、違うわよ。これは只――」

 

「只?」

 

俺のストレートな言葉に顔を真っ赤にして否定する叔母さんに、俺は追求の手を緩めない。

指輪の事を指摘された叔母さんは少し言い淀みながらも、コホンと息を吐いて仕切り直す。

蘭さんとコナン、そして栗山さんは伯母さんの次の言葉を興味深そうに待っていた。

その視線を感じてのか、伯母さんは少し恥ずかしそうにしながらも言葉を放つ。

 

「これはその……う、うざったい男を寄せ付けない虫除けよ」

 

「つまり、伯父さん以外の男はお断りっていう事っすか」

 

「そ、そうじゃなくて……」

 

「お母さん……ッ!!」

 

「ち、違うのよ蘭ッ!?私が今も離婚してないのは、蘭が可哀想だから――」

 

「子供を理由にしないで下さいよ。別に離婚したって、子供に対する愛情は関係無いッスよ?」

 

「う……ッ!?だ、だから……あっ。そういえば仕事の途中だったかしら」

 

「もうッ!!話の途中で逃げないでよ、お母さんッ!!」

 

何を言っても伯母さんは俺の言葉を否定するばかり。

どう言い繕ったって、伯母さんが伯父さんの事を今でも愛してるのは間違い無い。

なのに意地っ張りな性格がその想いを邪魔してるって訳だ。

……はぁ……こりゃ暫くは無理そうだな。

まぁ伯母さんの本心はスタンドを使わなくても分かったので、俺は諦めて菓子の続きを楽しむ。

すると伯母さんが逃げた事で溜息を吐いた蘭さんが俺に困った顔を向ける。

 

「ねぇ定明君。どうしたらお母さんとお父さんを仲直りさせられると思う?」

 

「えっと……この書類は確か」

 

「……それ、小学生に聞く事じゃ無えっすよね?」

 

あからさまに蘭さんの言葉が聞こえないって風を装う伯母さんにジト目を向けるコナンを見てから、俺は蘭さんに言葉を返す。

すると蘭さんは「だって……」とか言いながら頬杖をついて溜息を吐く。

 

「私も今まで何度も仲直りさせようと思って色々してきたんだけど、中々上手くいかなくて……」

 

(そりゃそうだろう。蘭のやった事と言えば偶然を装って旅先で二人を引き合わせる事ぐらいだしなぁ)

 

「会ったばっかりなのにお母さんの本音を簡単に引き出した定明君なら、何か良い案が浮かぶんじゃないかなーって」

 

「本音じゃないわよ」

 

こっちに念を押す様に言ってくる伯母さんの言葉は皆してスルー。

そして俺は今も期待に満ちた表情を浮かべる蘭さんに答えなくちゃいけないらしい。

頭が良いという事でコナンに話を回して欲しいところだが、コナンは巻き込まれ防止の為か聞こえない振りしてやがる。

……何で甥っ子の俺が叔父叔母の仲直り改善をする羽目に?少し突っ込み過ぎたか?

 

「……ハァ……速い話が、伯父さんと伯母さんをサシで会話させりゃー良い訳ッスよね?」

 

「うん。でも、何時も何かタイミングが悪くて……折角仲直り出来るっていうタイミングでお父さんが他の女の人に声掛けたり……」

 

「じゃあ他の人間が声を掛けられない状況を作りゃ良いじゃ無いっすか」

 

「え?そんな状況作れるのッ!?」

 

溜息を吐きながら言った答えを聞き、蘭さんは目を丸くして驚く。

コナンも興味があるのか俺に視線を向けてきた。

後、何気に茶を飲みながらこっちをチラチラ見てる伯母さん。

仲直りする気があんなら普通に聞いて欲しい。

 

「伯父さんと伯母さんだけで邪魔が入らない中で、向い合って話が出来る状況……つまり、二人を拉致ってどっかのホテルの一室にブチこんで監禁しちまえば良いってだけでしょ?」

 

「え?」

 

ブーッ!!

 

「キャアッ!?だ、大丈夫ですか先生ッ!?」

 

そして次に出た妙案に、蘭さんとコナンは目を点にしてしまう。

っていうか伯母さん茶ぁ噴いてるし。

 

「狭いホテルの一室に強制的に閉じ込めちまえば、嫌でも二人は向い合って生活しなくちゃいけなくなるっしょ?そうすりゃ伯父さんが目を他の女の人に向ける事もねーし」

 

「で、でも、食べ物とかが無いと無理でしょ?だったらホテルのルームサービスとかを呼ばないと駄目だし、その時に逃げられちゃうんじゃ無いかな?」

 

「大丈夫だコナン。日持ちする食料だけを先に部屋に入れておけば問題無い。そしてホテルの内線を外しておいて、携帯を取り上げればハイOK。後は扉に細工をして中から開けられない様にすれば、二人だけの世界の完成だ。ついでに部屋を高い所にしておくと、ベランダから逃げる手段も封じられるぜ?」

 

正に完璧な檻の出来上がりって寸法だ。

簡単に考えれば無人島に放置の縮小版ってヤツだな。

これなら逃げられないし、本人達の言いたい事を言いたいだけ言い合える。

こんな完璧なプランなのにコナンは気に入らないらしく目元をヒクつかせていた。

 

「で、でも、お母さん達って凄い意地っ張りだから……もしかしたら、二人きりにしたら余計に拗れちゃうかも……」

 

「そこはホラ。本人達の昔の思い出の品とかも一緒に置いておけば良いんじゃないっすか?写真とか、思い入れのある料理とか」

 

「な、なるほど……」

 

「俺の友達に結構な金持ちが居るんで、頼めば山の中の別荘とか貸して貰えるかもしれませんけど?」

 

「……経済的にも、問題無く実行できそうね」

 

「ち、ちょっと蘭ッ!?」

 

俺の言葉を聞いて実行できそうだと教えるとかなり乗り気な言葉を漏らす蘭さん。

ちょっと危ない思考に染まり掛けてる娘を見て慌てふためく伯母さんを見ながら、俺はジュースを一口飲む。

 

「で、でもさ。それって犯罪じゃ無いかな?」

 

「両親の仲が元に戻って欲しいって切実な思いで娘がやった事を犯罪として咎められるか?っていうかそれなら伯父さんか伯母さんのどっちかが蘭さんの事を訴えねえと成立しねえだろ?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

控えめに聞いてきたコナンに事もなげに返しながら、俺はクッキーを咀嚼する。

言ってる事は犯罪かもしれねえ。

でも実行犯が実の娘で「二人の不仲を解消したい」だったら、これほど真っ直ぐな理由は無いだろう。

手段はどうあれ、二人の為を思ってやった事なんだから。

誰かを巻き込んで利用する訳でも無し。

 

「まぁそうされんのが嫌なら、定期的に家族で集う日でも作って欲しいと言えば良いんじゃないっすか?仕事も完全にオフにして、家族として集まる日。それなら問題無く話し合えるっしょ?」

 

「うん。それ良いッ!!そうしようよお母さんッ!!」

 

「そ、それは……」

 

「んで、これを破ったら強制的にさっきの作戦を実行すればOK。きっと仕事にも影響でるんだろうな~。色んな人に迷惑掛けるんだろうな~。でも俺には関係無えから心は痛まねえかもな~?」

 

(お、鬼だ……ッ!?頭が切れる分、余計に質が悪い……ッ!!ホントにこいつ、おっちゃんの血筋かよ……ッ!?)

 

「わ、分かったわッ!!ちゃんと考えるから……ど、どうしても、あの人がそうしたいって言うなら……」

 

俺の譲歩と脅しの言葉を聞いて、英理伯母さんは渋々妥協案を出す。

過去に何があって別居してるのかは知らねーけど、英理さんは余程折れたくねーらしい。

そこだけは最後の一線として頑なに譲らなかった。

 

「伯父さんの方は蘭さんが拳でお話すれば直ぐに済むんじゃねーんスか?」

 

「こ、拳でって、それはちょっと」

 

「定明にーちゃん。それ立派な脅迫だよ。さすがに駄目でしょ」

 

「立証されなきゃ犯罪じゃ無いと思うんだ」

 

俺の言葉を聞いて蘭さんはポンと手の平を打ち鳴らして納得する。

しかしコナンはジト目で俺を見上げてそんな事を言ってきた。

まぁ確かに、他人と他人同士なら脅迫として立証されるだろう。

しかしさっきも言った様にこれは家族間のトラブルを何とかしようとしてるという建前で解決だ。

 

「それでも、悪い事してるのには変わり無いよ」

 

「違うね。これは悪い事でも無えし犯罪でもないぜ、コナン……これは、我侭なんだよ」

 

我侭、という謎の言葉を聞いてコナンは首を傾げる。

それはコナンだけじゃなくて、蘭さんや栗山さんに英理伯母さんも含まれてた。

 

「良いか?蘭さんが空手という武力で「ああしろ。こうしろ」と命令すれば、それは凶器を用いた立派な犯罪だが……「母さんと仲直りして欲しい」と渋る父親に我侭を言って、『偶々』その時に振り回した蘭さんの足が胴回し回転蹴りになっちまって、『偶々』伯父さんにヒットしたとしても、犯罪にはならねえ。そうだろ?」

 

「えぇー……」

 

「あ、あはは……何とも……」

 

「こーゆう屁理屈を並べるタイプって、法廷じゃ一番相手したくないのよね……」

 

ニヤリ、と笑いながらあっけらかんととんでもない言葉(自覚アリ)をのたまう俺に、コナンは呆れを隠せてない。

それは栗山さんも同じであり、協力を頼んだ蘭さんですら苦笑いしてた。

英理伯母さんに至っては眉間を指で解しながら引き攣った笑みを浮かべてるし。

その後はまぁ普通にお茶して1時半位までお喋りしてたんだが、英理伯母さんの方に用事が入ってお開きになった。

 

「それじゃあ英理伯母さん。お茶ご馳走様でした。こっちには二週間は居ますんで、また会う事があったら」

 

「えぇ。また遊びにいらっしゃい。次は私の手料理、ご馳走しちゃうわ」

 

「「え゛」」

 

「あら?どうしたの二人とも?」

 

「う、ううん。別に何でも?ねーコナン君?」

 

「そ、そうだね。あはは……」

 

……次に来るのは暫く遠慮しとこうか?若しくは初の『パール・ジャム』活用か?

そんな風にちょっと不安が残る別れがあったが、その後は蘭さんとは別行動を取る事になった。

何でも鈴木さんから遊ぼうと連絡があり、これからウインドウショッピングに行くらしい。

なので俺とコナンの二人で一度事務所に帰る事に。

 

「なぁコナン。もしかして英理伯母さんって、料理苦手なのか?」

 

「あぁ。昔っからとんでもない味ばっかで……って、新一にーちゃんが言ってたんだーッ!!」

 

「……そうか……次までにまともになってる訳……無いか」

 

昔の話だからか、油断したコナンが少し新一口調で言ってから俺に気付いてコナンに戻るが、俺はその行動には特に突っ込みは入れない。

次に英理伯母さんの所へ行くのが少し憂鬱になってるからだ。

俺が何も聞かなくて安堵してるコナンとは別に溜息を吐きながら、俺達は探偵事務所までゆっくりと帰る。

 

「ねぇ。定明にーちゃん。もっかい見せてよ、あの鉄球の回転」

 

「あん?別に良いけどよ……ほれっ」

 

シュルシュルシュルシュルシュルシュルシュルッ!!

 

「ありがと。……(やっぱりノーモーションで高速。しかも回転が止む気配は無い……ホントにどうなってんだ?)」

 

突如、隣を歩くコナンに頼まれるがままに、俺は鉄球を回転させて見せてやった。

恐らく、まだこの回転の秘密には全然到達出来てねぇんだろう。

ジッと回転を見つめるコナンの表情は余り優れない。

大方、まだ鉄球に回転の秘密があるって疑って掛かってんだろうが……ちょっとヒントくらいやるか。

 

「最初に教えた筈だぜ、コナン?鉄球には何の秘密も無いって。その証拠に、次は粒あられを回してみせたじゃねぇか」

 

「あっ……」

 

「忘れてたのかよ」

 

どうやらあの時は、下向きでも落ちないで回転し続ける鉄球の謎に思考が傾いていたみたいだな。

だから粒あられの事を忘れて、鉄球に執着してたって訳か。

俺の言葉にハッとして腕組みしながら思考の渦に嵌まるコナンを見て、俺は苦笑いが隠せなかった。

 

「ほら。考えるなら何処でも出来るけど、さすがに道の真ん中は危ねぇから止めときな」

 

コナンの後ろを歩いてた人がコナンが立ち止まった所為でぶつかりそうになっていたので、コナンの肩を引いて道を開ける。

それで自分が通行の邪魔になってたのを理解して、コナンは手を頭に当てる。

 

「あ、うん。ありがとう、定明にーちゃ……」

 

「あっ!!コナン君ッ!!」

 

「定明さんも一緒ですねッ!!」

 

「ん?おう。どうしたんだ、オメー等?」

 

と、道の向こうから昨日と同じく少年探偵団の面子が現れ、コナンが言葉を返した。

先頭を歩いていた円谷と吉田が俺達の事を発見して、小走りで近寄ってくる。

小島も大きな体でドスドスと走ってきて、その後ろを灰原がゆっくりと歩きながら着いてくる。

今日も今日とて元気な奴等だ。

 

「こんにちは、定明さん」

 

「いやー、昨日はお見事でしたね。ハカセを誘拐した犯人の車を突き止めるばかりか、まさか誘拐犯をたった一人で捕まえてしまうとは」

 

「俺達少年探偵団の出番が無かったぜ」

 

「はは。ありがとよ。今日は皆でお出かけか?」

 

「あれ?そういえばオメー等、確か今日は図書館で勉強するんじゃ無かったか?」

 

と、笑顔で話し掛けてくる皆に挨拶し、コナンは皆がココに居る事に首を傾げていた。

コナンの言葉通りなら、勉強の真っ最中の筈。

そういや昨日はハカセが誘拐されたから勉強会潰れて、今日こそするってコナンから聞いてたんだがな。

 

「それが、図書館に向かう途中でこんなモノを道端で見つけてしまいまして……」

 

と、円谷が差し出してきたのは、何処かのクリーニング屋のチラシだった。

これがどうしたんだろうか?

 

「あっ、中身はコッチでした」

 

俺とコナンが首を傾げていると、円谷はチラシの裏面を見える様に広げ直す。

そこには、何処かの住宅街の地図が書かれていた。

内容は結構細かく丁寧に書かれてて、何故か4軒の家に☓印が赤で付けられてる。

……ますます分からん。これが何なんだ?

更に首を傾げると、円谷と吉田、そして小島が真剣な顔で俺とコナンを見てきた。

何故か灰原はその後ろで少し呆れてる。

 

 

 

「――これは恐らく、空き巣の書いた地図ですッ!!」

 

ドオォオオーーーーーンッ!!!とか擬音が付きそうな顔でそんな事を言う円谷。

 

 

 

あぁ、空き巣か。空き巣ねぇ……ん?

 

 

 

「ハァ?」

 

「空き巣?……何で空き巣?」

 

何でそんなに自信満々に空き巣のモノだと言えるんだろうか?

道に落ちてたんだろ、それ?

コナンは怪訝な顔をして呆れるが、俺はちょっと聞いてみる。

 

「見て下さい。この地図では公共の施設では無く、態々他人の家に印を付けてますよね?普通の人が態々関わりの無い他人の家に印なんて付けないでしょう?」

 

「こういうのって、空き巣が狙う家の下見をして……」

 

「んで、狙いを付けた家に☓印を付けてる地図かも知れねえんだッ!!」

 

「それで、今からこの4軒の家に行って空き巣に遭っていないか聞こうと思ってたんですけど、丁度良かったです。コナン君と定明さんもこれは空き巣の計画書だと思いませんかッ!?」

 

……な、成る程。一応筋は通ってるとは思うが……。

聞き返した俺にドヤァな顔をしながら順番に答える少年探偵団純粋年齢組。

しかも円谷は最後に俺に対してどう思ってるか聞いてくる。

吉田と小島も同じ事を聞きたいのか、俺に視線を向けてくるし、コナンと灰原は止める気配が無い。

多分あの二人は昨日の事があるから俺がどう考えるか観察してんだろう。

 

「えっとよ……それなら普通……○じゃね?」

 

「「「……え?」」」

 

言い難そうにしながらそう言った俺に対して、彼等は首を傾げる。

俺、そんなに難しい事言っただろうか?

いや、隣のコナンも灰原もウンウンと頷いてるから間違ってねぇ筈だ。

俺は苦笑いしながら、円谷に件の地図を借りて説明を始める。

 

「例えばだけど、お前等は『良い』と『悪い』を簡単にどうやって書く?この店は美味いとか、ここの店は不味いとかを、地図とかメモに凄く簡単に書く時に」

 

「え?良い、悪いを凄く簡単に……ですか?」

 

「おう。もっと言えば、たった一文字の記号で書く時」

 

「一文字の……記号?……うーんと……あっ!?分かったぁッ!!」

 

「えーっと…………あぁっ!?○と☓かッ!?父ちゃんが品物を仕入れる時によく酒の名前の後に仕入れるなら○で、入れないなら☓って付けてるぞッ!!」

 

「そっかッ!!塾のチェックシートとかも、○と☓ですねッ!?」

 

「私が前にお店で貰ったアンケートも○☓だったよッ!!」

 

俺の出した質問の答えに行き着いた彼等は、各々の答えを口にする。

 

「だよな?普通泥棒に入れる場所を選ぶんなら、楽に入れる家には○をして、セキュリティが厳しいとか犬が居るとかの家には☓、って書くと思うぞ。場所を選ぶって意味ならな」

 

「な、なるほど……」

 

「逆に考えりゃ、この地図は行っちゃいけない場所ってヤツじゃねぇのか?何の理由かは知らねえけど」

 

一応、俺なりの考えを伝えてから、地図を円谷に返す。

受け取った円谷や吉田、小島達は空き巣の書いた地図じゃないと分かるとガッカリした顔になった。

その様子を見てコナンと灰原は苦笑いする。

 

「まぁそんな顔するなよ。どっちにしても、この地図を落とした人は困ってると思うぜ?」

 

「え?どうしてなの、コナン君?」

 

「簡単だよ。まず――」

 

「地図にするって事は、覚えられないって事よ」

 

と、コナンが元気付ける序にこの地図の落とし主の事を話そうとすると、そこに灰原が割って入る。

それで皆の視線は灰原に集まり、その視線の中で灰原は目を瞑ったままで先を語り始めた。

 

「そうやってメモしたいほど避けたい場所を書いた地図なら、落としてしまって行っちゃいけない場所が分からなくて困ってると考えて良さそうね」

 

「おぉッ!?」

 

「そっかッ!!じゃあ、こんな時こそ――」

 

「僕ら、少年探偵団の出番ですねッ!!」

 

「へへっ!!昨日は定明に出番取られたけど、今日は俺達が活躍するぜーッ!!」

 

沈静化しかけてた薪に炎が灯った様に、3人は元気を取り戻して地図の落とし主の捜索を始めると宣言した。

そのままどうやって落とし主を探すかを会議し始めた3人を横目に、コナンは灰原の方へと歩いて行く。

クールに笑う灰原を見る目が、心なしか半目になってやがる。

大方、自分の推理を横から言われて面白くねぇ、ってトコだろうな。

 

「ったく。人のセリフに割り込むなよな」

 

「あら?拗ねちゃった?」

 

「バーロー。ンなんじゃねぇよ」

 

いや、完璧に不貞腐れてるだろ。

そう言いそうになるのを押し留めて、俺は苦笑いしてしまう。

何だかんだで、工藤新一ってのは子供っぽい所も素であるんだな。

クールな振りしてるけど、あくまで振りしてるってだけか。

 

「んじゃーな、皆。頑張って落とし主探せよー?」

 

「あなたは帰っちゃうのかしら?」

 

「定明にーちゃんは探さないの?あの地図の落とし主」

 

「面倒くせーからな。今日こそ家でゴロゴロしてのんびりと平穏を噛み締めさせてもらうつもりだ」

 

意外そうな顔で俺を見る灰原とコナンに肩を竦めて答える。

っつーか、こういうのって大体――。

 

謎のアイテム発見

 

   ↓

 

持ち主捜索開始。

 

   ↓

 

何かの事件に遭遇ッ!?

 

   ↓

 

少年探偵団、出動だーッ!!

 

――っていうのが相場だし、そうと分かってりゃ帰る以外に選択肢は無い。

って訳で、俺は会議してる3人とコナン達をその場に置いて、探偵事務所へと足を動かす。

しかし歩み始めた俺の肩を左右から掴む手が。

振り返ると、そこには少年探偵団純粋年齢組の姿を発見……何故だ?

 

「駄目だよ定明さん。困ってる人が居るんだから、早くこの地図返してあげないと」

 

「そうだぜッ!!面倒だからってさっさと自分だけ帰るなんてよぉ……」

 

「年長者なんですからちゃんと最後まで付き合って下さいッ!!少年探偵団の一員としての自覚に問題がありますよッ!!」

 

ちょっと待てや。

 

「……何で、俺が、少年探偵団とやらに、組み込まれてんだ?ン?俺はそんなモンに入るつもりは無えぞ?」

 

一句一句区切りながら、俺は力強い疑問の言葉を述べる。

そう言い返すと、3人は肩から手を離してヤレヤレと大袈裟に首を振った。

……何で聞き返したらアメリカンジェスチャーで返されんだよ?

 

「良いですか?昨日の誘拐事件の時の冷静な推理、観察力。はっきり言ってコナン君や灰原さんに並ぶ実力だと、僕は感じました」

 

「はぁ……で?」

 

「で?ってなぁ……オメェ、難聴者の癖にバカだなぁ」

 

「そいつは失敬。それと難聴じゃ無くて年長だバカヤロウ。この歳で耳鼻科にお世話になった覚えは無えっつの」

 

頭を抑えてそう返すと、小島は少し顔を赤くして明後日の方向に目を向ける。

それでごまかしてるつもりかコイツ。

っていうか灰原は影でクスクス笑ってんじゃねぇ。

笑いを押し殺す灰原をジト目で見てると、小島を押しのけて吉田が俺と視線を合わせた。

 

「元太君は置いといて……定明さんは頭良いから、歩美達の手伝いをして欲しいの。それにハカセが言ってたよ?定明さんは普通の大人よりも強いから、いざという時に守ってもらえる心強い味方だって」

 

「ハカセさんには次に会った時に俺の回転の妙技をお見舞いしてやる必要が出て来たな」

 

ホント、どうしてくれようか?

体中の水分出させてカラッカラダイエットでもさせちまおう。

割りとマジに考えていると、コナンが苦笑いしながら俺に近づいてくる。

 

「ま、まぁまぁ。定明にーちゃんも、コイツ等に付き合ってあげて欲しいんだ。結構無茶やるから危なっかしくて……」

 

「何言ってるの、コナン君?」

 

「オメェの方が俺達より無茶するじゃねぇか。犯人に一人で向かったり、ボール当てたりよぉ」

 

「それに、いっつも美味しいトコ取りばっかりです。抜け駆け常習犯のコナン君には言われたくありません」

 

「……は、はは」

 

擁護しようとしたコナンをボロクソに言う探偵団の仲間。

幼いが故の容赦の無さ……子供って残酷だ。

最早半笑いのコナンに同情の視線を浴びせながら、俺は思いっきり溜息を吐く。

さて、ここで断った場合は……純粋なこの子等の事だ。

絶対に蘭さんには話すだろう。

そうなると、今度は蘭さんに申し訳なさそうに頼まれる可能性大だな。

もしもそうなった後でOKしたら、幼いが故の純粋さで「蘭さんの言う事なら聞く」とか思われる。

……まぁ、正味な話、原作の展開なんて全然分からないし、危ない目に合わないとも限らないんだよな。

なるべくこの街に居る間に面倒な事には首突っ込みたくねーんだが……コナンと一緒に住んでる時点でそれも望み薄、か。

 

「そ、それに、こんな天気の良い日に昼間から家でゴロゴロしてたら、蘭ねーちゃんが帰ってきた時に言われちゃうよ?おじさんとそっくりだねって」

 

「ん?それが何かまずいのか?」

 

コナンの言いたい事が判らず聞き返すと、コナンは何処か遠くに目を向けながら言葉を紡ぎだした。

 

「そうなっちゃうと、おじさんの悪い所が似ない様にって、蘭ねーちゃん凄く色々言ってくると思うな~。『将来は呑んだくれになっちゃ駄目』とか『天気の良い日は外で運動』とか、さ。きっと何かしらにつけて注意されるんじゃない?」

 

……在り得すぎて困る。

蘭さんってそういうオカンスキルが尋常じゃなく高いんだよ、マジ。

っていう事はあんまりダラけ過ぎてると、『天気良いからお姉ちゃんと外に出かけよう』とか言われて連れだされるって事か。

面倒過ぎる、果てしなく面倒過ぎるぜそんな未来。

だったらコナンの言う通りに適度に外で遊んでると蘭さんには思ってもらった方が良いな。

親戚とはいえ、さすがに身内相手にスタンド使って黙らせるのも後味悪いし。

考えを纏める俺の目の前で苦笑いしてるコナンと、ワクワクした顔してる探偵団のメンバー。

……年齢詐称組は別として、小さい純粋な子供に頼まれると断るのもアレだな。

 

「オーケー分かった。その落とし主探しには付き合うが……探偵団には入らねえぞ?」

 

「えーッ!?」

 

「どうしてですかッ!?ここは普通探偵団にも入団する流れでしょうッ!?」

 

「ほんっとケーキ読めねぇよな」

 

「空気だよダァホ」

 

何でちょっと美味そうな言い方で間違えた?頭の中は食い物でいっぱいか?

相変わらずちょっとアレな小島は放っておいて、俺は円谷と吉田に目を向ける。

 

「俺は2週間だけこっちに居るんだ。それが終われば海鳴に帰るし、俺自身が探偵なんてガラじゃねぇ事をしたくねえんだよ」

 

「(ムッ)……定明にーちゃんって、探偵嫌いなの?」

 

「別に嫌いじゃねぇよ。只、日々を平穏に生きる事を目標としてる俺からしたら、スリルとサスペンスに飛び込む探偵なんてお断りってだけさ」

 

「ちょっと爺臭くないかしら?」

 

探偵を否定する言葉を聞いてムッとするコナンに弁解しながら、俺は首をコキコキと鳴らす。

探偵なんて俺の目標と肌には合わねえ職業だし、憧れも特に無いからな。

俺の目標を聞いて呆れた顔をする灰原の言葉はスルーして、俺は円谷に手を差し出した。

 

「とりあえず、その地図もう一度見せてくれ。早いとこ落とし主を探して、どっかの公園で昼寝と洒落こみてぇからよ」

 

そう言って地図を貸す様に頼むが……。

 

「……いいえ。今回は、僕達で見つけてみせます」

 

「は?」

 

何とも真剣な表情でそう言われて、地図を隠されてしまう。

その行動の意味が判らず首を傾げる俺に、純粋年齢組は皆揃って俺に目を向けてきた。

 

「昨日の誘拐事件では、定明さんに美味しいところを全て持って行かれましたから、今回は僕達だけで落とし主を探そうと、歩美ちゃんと元太君と相談したんです」

 

「そうそう。定明さんは、歩美達が困った時に少しだけお手伝いして欲しいの」

 

「俺達だって探偵団の一員だからな。コナンと灰原とかばっかりに良いトコ取られてらんねえんだよ」

 

「というわけで、僕達の実力を見せてあげます。さぁー行きましょう、歩美ちゃんッ!!」

 

「お、おい光彦ッ!?何でお前と歩美なんだよッ!!歩美、俺と行こうぜッ!!」

 

おかしい、探しに行くと言い出した傍からどっちが吉田と一緒に行くかで揉め始めたぞ?

そのまま口論を続ける小島と円谷だが、当の吉田は……。

 

「ねぇコナン君。歩美と一緒に行こ?ほらほら♪レッツゴーッ!!」

 

「え?あ、ちょッ!?歩美ちゃんッ!?」

 

サラッとコナンと腕を組んで先々行ってしまうではないか。

そのまま誰も二人を止める事が無いので、二人は曲がり角を曲がって向こうへと姿を消してしまう。

っていうか何時の間にか円谷が持ってた地図持って行っちまったし。

……モテモテだな、コナンの奴は。

何とも言えない脱力感が俺に伸し掛かる中、吉田とコナンの不在を確認した二人がハッと我に帰る。

 

「あ、あれッ!?歩美ちゃんはッ!?」

 

「コナンも居ねえぞッ!?ど、何処行っちまったんだッ!?」

 

「あの二人なら先に行ったわよ?仲良く腕を組んだまま、其処の角を曲がってね」

 

我に帰って辺りをキョロキョロと見渡す円谷と小島に、灰原は二人が行った先を指さす。

腕を組んでの下りまで話したのはひょっとして当て付けか?

そっちに目を向けた二人はワナワナと震えだして……。

 

「……待てぇッ!!コナーーーーンッ!!」

 

「またッ!!また君はッ!!お得意の抜け駆けですかーーーーッ!!?」

 

そして、爆発。

目には轟々と燃え盛る怒りの炎が見えるぐらいに昂ぶってやがる。

二人は其々思いの丈を叫びながら道の向こうへと駆けて行ってしまう。

後に残されたのは呆然とした俺と、肩を竦める灰原のみ。

 

「……結局、俺は何のために付き合わされてんだ?」

 

「さっき言ってたじゃない?年長者だって。年上なら年下の子の面倒見るのも務めよ」

 

「ハァ……保護者扱いかよ。面倒くせーな」

 

「仕方無いんじゃない?江戸川君、あなたの鉄球に興味津々だから、なるべく貴方から目を離したくないんじゃないかしら?」

 

両手を肩の辺りまで持ち上げてそう言う灰原。

しかし彼女の俺を見る目もまた、興味がありそうな目付きだ。

やっぱ元々科学者だから、そういう知的好奇心は人より強いんだろうか?

そんな事を考えながら、俺は灰原と共に先に行った4人を追い掛けて歩く。

 

「……ねぇ、城戸君?」

 

「ん?」

 

呼ばれて灰原の方に視線を移せば、彼女は少し微笑みながら俺に視線を向けていた。

後ろに手を組んだまま俺を覗きこむ灰原の目には、興味の色が強く現れてる。

 

「私にも、あの鉄球の回転……もう一度見せてくれないかしら?」

 

「お前もかよ、ったく……ん。(シュルルルッ!!)これで良いか?」

 

「えぇ。ありがとう……」

 

本日二度目の注文に飽々しながらも、俺はホルスターから鉄球を取り出して回転を掛ける。

その回転を、灰原は顎に手を当てながらジーっと見つめ始めた。

やがて、知的好奇心が刺激されたのか、彼女はゆっくりと鉄球に震える指を伸ばそうとする。

 

「コラ、止めとけ。不用意に触れたら怪我じゃ済まねえぞ?」

 

「ッ……そう、ね」

 

「触りたい気持ちは分からねえでも無えが、さすがに回転中が危ねえよ」

 

不注意に触れようとした灰原を止め、俺はホルスターに鉄球を戻してコナン達の後を追う。

さすがにあのまま触れたらどうなったか検討もつかねえしな。

 

「……?(……ッ!?鉄球が……ホルスターに収まってるのに回転を続けてる?……やっぱり江戸川君の言う通り、鉄球にも何か仕掛けがあるのかしら?)

 

ん?何だ、灰原の奴?急に静かになったぞ?

 

「どうかしたか?」

 

「いいえ。別に何でも(回転が続く機構といえば、ジャイロスコープとジャイロスタビライザーを組み合わせた回転安定機構。まさかそれを鉄球に組み込んでいるんじゃ……だとしたら、ホルスターに収まっても回転している鉄球は、最初の頃よりも回転の力が弱まってる筈……今ならあの鉄球に触れる事が出来る?)」

 

聞いてみても何でも無いと言われ、俺は首を傾げながらも前に向き直る。

まぁ本人が何でもないっつってんだし、別に良いか。

鉄球の回転を見せながらも歩き続けていたからか、道の向こうで集まって会話しているコナン達の姿を捉えた。

どうやらこれからどうやって地図の落とし主を探すか相談してるみてーだ。

それを発見して、まずは何をするのかと考えていた――。

 

 

 

「――え?」

 

 

 

瞬間、脳天を地面に向けて落ちる呆然とした声をあげる灰原が、俺の目の前に現れた。

 

 

 

「おっと」

 

しかし道路に落ちる前に、俺は灰原を両手でキャッチして横向きに抱え直す。

チラッと見た感じでは怪我はしてなさそうだ、危ねえ危ねえ。

 

「……」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「……」

 

「おい。聞いてんのか?」

 

「ッ!?え、えぇ。大丈夫……ありがとう」

 

いきなりの事態に面食らってボーッとしてた灰原に声を強めに掛けてやると、灰原はハッとした表情で我に返った。

とりあえず怪我が無いのは確認済みなので、抱えていた体勢からゆっくりと下ろしてやる。

自分の力で地面に立った灰原は信じられない様なモノを見たって表情で俺の鉄球に目を向けていた。

やれやれ……あれだけ言ったのに、コイツ触れやがったな。

 

「好奇心は猫を殺すって言葉、知ってるか?持ち前の好奇心が原因で命を落とす事があるって意味だ……お宅がそれを俺の目の前で実演するつもりかよ?まったく」

 

「ご、ごめんなさい……やっぱり、鉄球自体に仕掛けがあるんじゃ無いかと思って……つい」

 

今まで見てきた斜に構えた態度では無く真摯に謝る彼女の姿を見て、俺はそれ以上の言葉は飲み込む。

あんまりクドクドと言い続けるのもアレだからな。

何も言わずにコナン達の元へ歩く俺の少し離れた後ろを、彼女は静かに歩く。

 

「……あの……差し支えなければ、教えて……あなたの言う『回転の技術』って……一体何なの?」

 

「……」

 

「こんな事初めての体験よ。私は鉄球に『触れた』。それは間違い無いしこの目で見てるわ。でも、私の感覚では『鉄球に触れたと伝わらなかった』……私の体は、それを悟らなかったのよ?なのに、私の体はまるで流れるみたいに鉄球の回転に引き寄せられて、次の瞬間には宙に浮いてたわ……こんな現象を引き起こす技術なんて……」

 

鉄球に触れて、回転の力を垣間見た事に興奮してるのか、灰原は早口に言葉を並べる。

まぁ普通の人間からしたら完全にこの回転の技術は未知の力だ。

それに触れて、科学者の血が騒ぐってのは良く分かる。

俺はゆっくりと立ち止まり、背後に振り返る。

其処には、今まで見た事も無い程に目をキラキラと輝かせる灰原の姿があった。

 

「最初に言ったろ?俺はこの技術について教えるつもりは無え。知りたければ自力で解けってな」

 

「あら?それは探偵の彼等に言った言葉じゃ無いのかしら?」

 

「違うっての。俺はこの技術を知りたいって奴等全員に向けて言ったんだぜ?それにお前も少年探偵団の一員じゃねぇか。頑張って謎を解明してみな」

 

「……意地悪ね」

 

取り付く島も無いって感じにそう言ってやると、灰原はジトっとした目でそう言って俺より先に歩いて行く。

焦らすばかりで答えを教えようとしない俺に怒ってるらしい、歩き方が少しイラついてるな。

 

「――というわけで、まずこれから……あっ。灰原さん、それに定明さんも」

 

「遅えぞ、おめえ等」

 

先々に行った筈の小島に窘められなきゃならねえのはどうにも納得出来ねえんだが?

そうは思っても口にだして片付く訳でも無しなので、俺は「はいはい」と適当に返事しておく。

っていうか、コナンは相変わらず吉田に腕組まれてるし。

 

「えっと、では灰原さんと定明さんも来たのでもう一度説明します」

 

と、既にこれからの段取りを相談し終えていたのか、円谷がコホンと咳払いして話を進める。

まぁそうは言っても難しい事じゃ無く、これから地図の☓印の刻まれた家に言って幾らか聞き込みをするだけらしい。

一応空き巣の地図って線は限りなく薄いけど、それでももしかしたらって事もあるかもしれないという純粋年齢組の意見でその話も聞く事に。

とりあえずそういう形で話は纏まり、俺達は地図を見ながら一軒目のお宅にお邪魔した。

 

まずは俺達が集まった道の一番近くにある大賀さんのお宅。

 

新しい洒落たデザインの家で、芝生と足場が綺麗に作りこまれていた。

そして外に丁度家族3人が揃っていたので、地図を見せて話を聞く事に。

まずは円谷の主導で聞き込みを始めた。

 

「……それじゃあ、空き巣の被害は無いんですね?」

 

「あぁ……だけどこれ、本当に空き巣が書いた物かね?」

 

「その可能性は十分にあります。最近怪しい人を見たとか、奇妙な出来事はありませんでしたか?」

 

相手が子供という事もあって、大賀さん(旦那)は少し苦笑い気味だ。

しかし円谷は嫌な顔一つせずに根気良く聞き込みを続ける。

 

「別に無い……けど……」

 

ん?この反応……な~んかありそうだし、少しカマかけてみっか。

 

「その3軒の中で1軒くらいは知り合い居るんですか?」

 

「い、いや。そうじゃないよ」

 

『NO!NO!NO!』

 

はい、嘘確定っと。

アトゥム神のサーモグラフィには、この旦那さんが嘘を吐いてると出た。

つまり他の☓のついた家のどれか1軒、若しくは全部に心当たりがあるって訳だ。

それに……確か、この匂いは……。

 

「でも気味悪いわね。何で家に☓印が――ちょっとッ!!芝生に入らないでッ!!」

 

「ぃッ!?う、っとととッ!?」

 

と、旦那の事で少し首を捻ってると、旦那の手から地図を取り上げた奥さんが大声を出した。

何事かと横を見ると、石段から歩いて綺麗にされた芝生に足を降ろそうとしてた小島の姿を発見。

人様の家で何してんだこいつは。

 

「あなたもッ!!智也の前でタバコは吸わないでって言ってるでしょッ!!」

 

と、今度は胸ポケットからタバコを取り出そうとしてた旦那にまで噛み付く。

まぁ子供の前でタバコってのは害にしかならねえからな。

意味としては奥さんが正しいが……あんだけ口やかましく言われてちゃあ、なぁ……。

旦那さんは奥さんに謝りながら、タバコを胸ポケットに仕舞う。

銘柄はポピュラーなブルーラインってタバコだ。

確か小五郎伯父さんも同じヤツ吸ってたな。

 

「ねぇ、お仕事は何してるの?」

 

「え?僕は建築家だけど?」

 

「兎に角、変な物を持ってこないでちょうだい」

 

そしてコナンが旦那に質問してそれに旦那が答えた直ぐ後、奥さんが鬱陶しいって感じに地図を円谷に押し返した。

そりゃー子供が自分の家に☓印がついた変な地図を持ってきたら気分良くねぇだろうけど……もちっと愛想良くした方が良いぜ?

 

結局、1軒目の大賀さんは対した収穫も無く、次は大賀さんの家から曲がって直ぐの江口というお宅。

 

ここでは何故か俺が質問する羽目に。

どうやらさっきの大賀さんのキツイ態度が尾を引いてしまった様だ。

まぁそういう理由ならばと、俺は聞き込み役を引き受けた。

つってもこの江口って人の家も、ちょうど住人が園芸用品を外に出している所だった。

駐車場のアーチに庭の花壇、全てにバラが植えられてる。

 

「すいません、お姉さん。ちょっと良いですか?」

 

「うん?なーに、坊や?」

 

と、ちょうどこれから手入れをしようとしてたらしいお姉さんが俺の声掛けに気さくに応じてくれた。

まぁお姉さんと言われたのが嬉しいだけかも知れねえけど、相手と話がスムーズになるから良いか。

 

「実は……」

 

玄関前で座りながら、俺は事のあらましを説明して地図を見せる。

最初は怪訝な顔で、次に地図を見せたら首を傾げ、ちょっと眉を動かすという反応。

何かあるかとも思ったが……。

 

「んー。特に無いわね。空き巣にも入られた事は無いし、怪しい人も見てないわ」

 

「そうっすか。それなら良いんです」

 

「ごめんね。心配して態々来てくれたのに」

 

しかし反応は大賀さんの時とあまり変わらない感じだった。

最近変わった事も無いし、空き巣も見てない。

そう言って江口さんはタバコを取り出して一吸い。

銘柄は大賀さんと同じブルーライン。……やっぱりか。

 

「お姉さん。もしかしてインカントシャインって香水使ってます?」

 

と、思った事を聞いてみると、江口さんはビックリした顔をした。

ちなみにインカントシャインとは最近出た女性向けのフレグランスの名前だ。

セクシー系で大人に良く合う香り……らしい。

前にアリサが試供品で貰ったんだけど、自分には合わないって言ってた時に匂いを嗅がせてもらった事がある。

ちなみに俺も「まだガキには早いだろ」と返したんだが、その発言がアリサの気に障っちまったらしい。

その場で『ストーンフリー』との時間無制限オラオララッシュ対決になってしまった。

 

「よ、良く分かったわね、坊や?」

 

「えぇ。それが出た時に、友達が使ったんでね。印象的だったから良く覚えてるんす。髪の毛からその香りがしましたから」

 

「そうなの?……でも、それがどうかした?」

 

「いえ。気になっただけッスよ。凄く良い香りだったんで」

 

「あら……ふふっ。そういう褒め言葉は好きな女の子が出来たら言ってあげなさい」

 

俺の言葉に気を良くしたのか、江口さんは微笑みながら俺に言い返してくる。

いや、まぁ確認のつもりしか無かったんだけどな。

とりあえずこの家も何か変わった所がある訳でも無く、俺達はお暇しようとしたんだが……。

 

おばさん(・・・・)、この家に一人で暮らしてるの?」

 

「……ハァ(馬鹿……)」

 

「――そうよ」

 

皆に移動しようと言おうとした矢先、コナンがドデカイ爆弾を落としやがった。

余りのド直球な言葉に灰原は呆れて溜息を吐き、江口さんはさっきよりも1、いや2トーンは落とした声でコナンに対応しながら立ち上がる。

 

「お仕事は何してるの?」

 

この状況で質問続けるコナンの度胸まじパネェ。

っつうか、コイツの場合相手の変化に気付いて無えだけだろ?

しかも仏の顔は今回、二度までしか持たなかったらしい。

お姉さんは立ち上がったまま鋭い目をコナンに向けて薄く笑う。

さすがのコナンもそれで自分の失言に気付いたのか、ちょっと引いた。

 

「イラストレーター。さぁ、もう良いでしょう?――『お姉さん』忙しいんだから」

 

と、怖い顔でコナンに凄んだ後、持ってたタバコをコナンの足元近くにワザと投げ捨てた。

それを慌てて避けるコナンが少しブスッとした顔をするが、ハッキリ言おう。

コナン。今のは誰に聞いても、十中八九お前が悪い。

そして3軒目の家は、少し歩いた先のパーキングエリアの近くの藤木さんというお宅。

ここも俺が担当するかと思ったが、家の前で水を撒いていたおばさんは大丈夫そうだったので、再び円谷が担当に戻った。

 

「どうですか?何か、心当たりは……?」

 

「ん~……無いわねぇ……一体誰が、こんな物を……?」

 

しかしここも外れらしく、藤木さんは何も知らないと言った。

藤木さんの言葉に項垂れる円谷達から視線を外すと、コナンが辺りを注意深く見ていた。

どうやら道に撒かれた水の跡を見てるらしい。

藤木さんもバケツを持ってるトコを見ると、水を撒いてるのはこの人みてぇだな。

しかし、自分の家の塀だけじゃなくて周りの民家にまで撒いてるのは何でだ?

ひょっとして綺麗好きなんだろうか?

辺りの様子に首を傾げていると、黄色いポロシャツを着た男が買い物袋を持って現れた。

何故かこっちの姿を確認すると、袋からタバコを取り出してケツポケットに収める。

しかも銘柄はまたもや同じブルーライン……流行ってんのか?

 

「どうしたんだい、母さん?」

 

そう思っていると、ポロシャツの男性が藤木さんに声をかける。

どうやら親子らしい。

 

「ああっ、高一。この子達が、こんな地図を拾ったって言って……」

 

「地図?……」

 

「ねぇ?家に☓印が付いてるでしょ?」

 

母親の言葉に首を傾げながら地図を受け取った高一さん。

だが、地図を見た時一瞬ではあるが驚いた表情になる。

……今の反応は、家に印が付いてて驚いたのか?

何かそうは思えなかったが……。

 

「空き巣が書いた地図かもしれないと思って聞き込みをしてるんです」

 

「最近、怪しい人を見たとか……」

 

「おかしな出来事とか、無かったか?」

 

「うーん……特に無かったと思うけど」

 

小島達の質問には淀みなく答えを言う藤木高一さん。

その言葉に少し落胆しながら「そうですか……」という円谷達をスルーして、俺も質問を投げ掛ける。

 

「その3軒の中で知ってる家は――」

 

「ん?無いなぁ」

 

『NO!NO!NO!』

 

……この人も何か隠してんだな。

しかも俺の質問の途中でその質問を遮る様にして、答えた。

これはつまり、他の家の何処かの人と何かの確執があったって事だろうな。

その後はコナンも質問をする。

例によって仕事は何をしてるのかっていう質問で、藤木さんはサラリーマンと答えた。

 

「私……何だか心配になってきたわ……」

 

「いや、空き巣とは関係無いと思うよ。でも、母さんが気になるならこの地図、僕が預かって交番に……」

 

不安になる母親を元気付け、心配の種を取り除こうとしてる様に見える提案。

しかしそれにはまだ後1軒☓印が書かれた場所があるので、今勝手に持ってかれては困る。

もしも無害と分かれば、その時に改めて自分達が届けると円谷が申し出て、チラシを返却してもらう。

これで後は1軒だけになった。

 

「いよいよ最後の1軒ですね……」

 

「これで香月さんの家も何も無かったら、事件じゃないって事だよね」

 

「あーあ、つまんねーの」

 

と、最後の1軒に向かう所で小島が零した言葉を聞いて、俺はジト目になってしまう。

何を言ってんだこの馬鹿は?

 

「おいおい。事件が無い=平和って事だろーが。それが普通なんだよ」

 

「定明にーちゃんの言う通りだ。特に元太、事件があるって事は誰かが困ってるって事だぞ?それが無くてつまんねーなんて言うんじゃねぇ」

 

「うっ……ワリィ」

 

コナンの厳しい目に睨まれた小島は自分の軽率な言葉を反省した。

事、平和や平穏ってのに関しちゃ、俺はそれがどれだけ尊いかってのも目の当たりにしてる。

平穏に暮らす筈だったプレシアさんの平穏を打ち砕いて、最愛の娘を死なせた管理局の馬鹿共。

実験が失敗したら誰かになすりつければ良いなんて考えの所為で、プレシアさんは狂気に身を染めちまったんだ。

こうやって平和な日常に居る中で、誰かの身に不幸があれば良いなんて言うのは絶対にいけねえ事なんだ。

そんな感じで小島への説教をコナンが終わらせた所で、最後の曲がり角辺りまで来て――。

 

「……やっぱ、アイテム発見はフラグだったか」

 

「??何の事?」

 

「いや。気にすんな灰原……世の中の仕組みってヤツをまた理解したってだけだよ」

 

目的の家の前に集まるパトカーを見て、俺は溜息を吐いてしまう。

やっぱコナンの事件遭遇率は異常、今回の件で確信したぜ。

 

「あれ?パトカーが来てんぞ?」

 

「えっと……こ、う、づ、き。ここですよ、地図の最後の家はッ!!」

 

「嘘ッ!?もしかしてもう空き巣に入られちゃったのッ!?」

 

「くっそーッ!!間に合わなかったかッ!!」

 

「何時の間にアイツ等の中では空き巣の仕業で確定って方程式が出来たんだろーな?」

 

「まぁ、ずっとその可能性を疑ってたから、仕方無いんじゃない?」

 

空き巣が入ったと騒ぎ立てる3人を尻目に溜息を吐く俺と、達観した表情で腕を組む灰原。

まぁ実際問題、☓印の入った家にサツが来てんだから騒ぐのも無理は無いか。

そう思っていると、コナンが近くに居た夫婦に声を掛ける。

アイツはアイツでフリーダムだなオイ。

 

「こんにちは。あの、香月さんのお家って何かあったの?」

 

コナンの質問に対して、夫が顔を曇らせる。

 

「……亡くなったんだよ、香月さん」

 

「え?」

 

そして、おじさんの口から語られた内容に、コナンは驚きの声をあげる。

俺はまだ声を出しちゃいねーけど、頭ん中は驚きでいっぱいだ。

サツが来てるって事は……殺人、になるんだろう。

 

「夕べの10時半頃、この先の米花街道の地下横断歩道の階段の下に、頭から血を流して倒れてたって」

 

おじさんの語る事の詳細を聞いて、俺は目を細める。

階段の下で血を流すなら、普通は転落死ってヤツになる。

問題は……

 

「事故か、或いは他殺か……」

 

「あぁ。サツがエンジン止めて長い事居るって事は……事件の可能性アリって事かもな」

 

小さい声で可能性を述べた灰原に答え、俺は目を細める。

もしも事件なら……いよいよ出会っちまったって訳だ、殺人事件に。

まぁ、人が死ぬ瞬間を見たって訳じゃ無えから、そこまで精神的にキツくは無えけど。

そう思っていたら件の家の戸が開かれて、スーツを着た二人の男と普段着の女性が姿を現す。

見た感じ香月さんの家の人間……妻か娘か、それと刑事が二人、か。

昨日の佐藤刑事と高木刑事じゃなくてちょっとホッとしたぜ。

名前も何も答えてねぇから、事情聴取されんのは目に見えてるし。

 

「それじゃあ、何か分かりましたら、こちらから連絡しますので」

 

「……お世話様でした」

 

「……あの人は?」

 

「一人娘の佐和子さんよ」

 

入り口から出た刑事に頭を下げる女性の事をコナンが尋ねると、今度はおばさんの方が答えた。

刑事に言葉を返す佐和子さん。その表情には疲れと悲しみが溢れてる。

……当然か……昨日まで元気だった家族を失ったんだから……。

 

「あっ!?もしかしたらこの地図は空き巣じゃなく、香月さんの事件に関係があるのかもしれませんッ!!」

 

「え?どういう事?」

 

「つまりこの地図を書いたのが犯人で、他にもまだ、3軒の家の人を狙ってるって事です」

 

と、佐和子さんの顔を見て何とも言えない気持ちを味わってた俺の耳にとんでもない推理が聞こえてくる。

間違い無い、という確信を持った円谷の推理を聞いて、小島と吉田は驚いていた。

 

「そ、そんな……ッ!?」

 

「どうするよ、光彦ッ!!」

 

慌てふためく二人の言葉を聞いた円谷は地図を持って車に乗ろうとしてた刑事の所へ走る。

小島と吉田もその後を追って刑事たちに近づいた。

そして地図の事を説明しようと声を張り上げて刑事を呼び止める円谷。

 

「今忙しいんだ。道なら交番で聞きなさい」

 

だが何時もの面識ある刑事じゃ無い所為で、まともに取り合ってもらえる筈も無く、刑事たちは車で何処かに走り去った。

その後姿を見て怒りを露わにする3人。いや、まぁアレが普通の対応だろうよ。

どう考えたって子供の戯言と取られるのがオチだ。

怒れる3人を見ながらそんな事を考えていると、夫婦から離れてコナンが俺と灰原の元に歩いてくる。

 

「どう思う?事件と地図」

 

「無関係……って言いてートコだけど……ねぇ、定明にーちゃんはどう思う?」

 

と、考え込んでいたコナンが俺に話を振ってきた。

コイツ、一応年上の俺が子供らしくない考えを言えばそれが自分の隠れ蓑になるって考えてんじゃねーだろうな?

そんな考えが頭を過ぎるも、一応自分の考えを言う事に。

 

「まぁ地図そのものが無関係だったとしても、地図の中身は関係あるかもって考えてる。幾ら何でも偶然にしちゃ出来過ぎだ」

 

「そっか……」

 

「それとここに来るまでにあの地図を見た☓印の3軒の家の人達の中で、少し反応した人達が居ただろ?」

 

「……そういえば、1軒目の大賀さんの所は旦那さん。3軒目の藤木さんは息子さんがちょっと反応してたわね」

 

「だろ?それを踏まえると、あの☓印が書かれた4軒の関係。な~んか臭うんだよな~」

 

俺なりの考えを答えると、コナンは「へー、凄いね定明にーちゃん」とか言って何かを考え始める。

しかも灰原と何やらアイコンタクトをしながら、だ。

……大方、どうやって事件現場を見に行こうかとか考えてるんだろうな。

原作でも何時も、皆から離れる方法と言えば……。

 

「あー、僕ちょっと用事思い出しちゃったから、皆先に図書館の公園で待ってて」

 

「「え?」」

 

「お、おーいッ!!何処行くんだよッ!!」

 

「直ぐ戻るからーッ!!定明にーちゃん悪いけど、皆と一緒に居てあげてーッ!!」

 

まぁ、これぐらいしかねーか。

苦笑いしながら、俺は走るコナンに「気を付けろよー」と返しておく。

 

「とりあえず、コナンの言ってた図書館の公園の場所知らねーから、悪いけど誰か案内頼むわ」

 

「はいはい」

 

俺の言葉に灰原が適当に相槌を打ち、俺達は先に公園のテーブルと椅子に座ってコナンを待つ事に。

そんで椅子に座ったんだが皆この猛暑の暑さで歩き疲れたらしく、だらけてる。

まぁ確かに、今日はカラッと晴れた真夏日。

なのに外に長時間居て歩きづめじゃ、子供じゃなくても辛いわな。

疲れた様子の皆の様子に苦笑しながら、俺は精神を集中させて『ハイウェイ・スター』を呼ぶ。

まずは空に飛び上がって、事件のあった現場である米花駅前に向かうコナンを探す。

そして、予想より少し速いペースで駅前に向かってるコナンの後を追跡させた。

早く帰る為には早急な事件解決が必要だから、俺も幾らか情報が欲しいしな。

そう思いながらコナンを追跡すると、現場の地下横断歩道の入り口に集まる刑事や警察関係者を発見。

入り口はKEEP OUTと書かれた黄色のテープで封鎖されてる。

これじゃあ『ムーディ・ブルース』での追跡は出来そうに無いな。

コナンは見つからない様に隠れるが、スタンドである『ハイウェイ・スター』は誰かに見られる心配は無い。

よって、俺は堂々と刑事の傍に漂っていた。

 

『なんだって?ホントに仏さんの手から『タバコ』の匂いがしたのか?』

 

と、鑑識と話していた刑事が驚いた様子で聞き返す。

何だ?タバコの匂い?

 

『間違いありません。私が駆けつけた時、血の付いた右手から微かにではありますが、タバコの匂いが……』

 

『でも、仏さんはタバコは吸わないと娘さんが仰ってましたよね?』

 

『しかも現場にはタバコの吸い殻は落ちていなかった……妙な話だな……』

 

……成る程な……非喫煙者の害者から臭ったタバコの香り。

しかも現場にはそれらしいタバコの吸い殻は無い……って事は誰かが持ち去った可能性があるって事になる。

もしかしたら犯人がタバコ吸ってて、揉み合った時に害者がタバコを取ったまま落ちた?

で、それに気付いた犯人が持ち去ったってか?……辻褄は合うっぽい。

とりあえず情報は集まったし……いっちょ行きますか。

刑事達の話を聞いた俺は『ハイウェイ・スター』を操作して現場に侵入する。

床にはテレビなんかで見た白いラインで、人が倒れた格好が作ってあった。

……こういう現場見ても冷静でいられるのはありがたいぜ。

ヘブンズ・ドアーの効力には感謝しねえと。

そう思いつつ、ハイウェイ・スターで害者の倒れてたという右手の部分の臭いを嗅いでみる。

 

クンクン。クンクン。

 

(……駄目だな。血の臭いは覚えたけど、タバコの臭いはもうとっくに流されちまってる。残るは仏さんの手だけだが、もう運ばれちまってるしな)

 

さすがのハイウェイ・スターも、直接臭いの着いていないタバコの臭いを嗅ぐ事は出来なかった。

それに現場の入り口を降りた場所には換気扇が取り付けられていて、ここにはもうタバコの香りは残っていない。

 

(まぁ良いか。仏さんの血の臭いは覚えたんだし、後は他に血の臭いがする場所を探せば、何か証拠が掴めるだろうよ)

 

「……遅いなぁ、コナン君」

 

「こうしてる間にも、犯人の魔の手が……ッ!?」

 

楽観的に思いつつ『ハイウェイ・スター』の戻れと命じていると、吉田と円谷がそんな事を言い出す。

もうコイツ等の中じゃあの地図=犯人の書いたものって図式で決まりらしい。

 

「よし、俺達だけで犯人を「江戸川君が来るまで待ってなさい」……はい」

 

そして先走りそうな小島は灰原が静かに諌める。

何だかんだでバランス取れてんだなコイツ等。

まぁ、そうでなかったら小学生が大人を相手取って立ち回れたりしねぇか。

 

「んじゃ、俺は木陰で一眠りしてっから、何かあったら起こしてくれ」

 

「え?寝ちゃうんですか?」

 

「定明さんも待ってる間、歩美達と一緒に宿題しようよ」

 

「そうだぜ。ちゃーんと宿題しておかねぇと、後が怖えぞ」

 

「それは元太君が言えたセリフじゃありませんよ」

 

「そうね。家で宿題してこなくて、学校でも良く先生が来る前に誰かに見せてもらってるし」

 

「う」

 

寝る為に木陰に移動しようと立ち上がった俺を引き止め様として、小島自爆。

皆に怒られてちょっと意気消沈してる。

 

「わりーけど、夏休みの宿題なら日記と写生の二つ以外は全部終わらせてんだ。だからもう始業式まで勉強する必要無いのよ、俺」

 

「えーッ!?」

 

「コ、コナン君と灰原さんだけじゃなくて、定明さんもですかぁッ!?」

 

「ず、ずりーぞお前等ッ!?」

 

「ずるい訳無いでしょう。彼も私も、そして江戸川君も早い内に自分でやったから、今遊んでても大丈夫なの。文句があるなら自分で初日から頑張る事」

 

「そーゆー事。で、あとヨロシク~」

 

既に宿題を終えて気楽な俺が羨ましいのか、背後から刺さる羨望の眼差し。

しかしそんな視線は全てスルーし、俺は皆に手をプラプラ振って木陰に入る。

そして樹の幹に背中を預けて腕を枕代わりに頭の後ろで組んだら準備完了。

のんびりと昼寝させてもらいます。

俺は目をゆっくりと閉じて、スヤスヤと夢の世界に意識を飛ばすのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……きてっ……お……って……」

 

「……んう?」

 

誰だ……俺の安眠を妨げる奴は?

心地良い微睡みの中に居た俺の意識を覚醒させようと誰かに揺さぶられ、俺は瞼を開く。

開けた俺の視界に、俺を揺する灰原とコナンの顔がめいっぱい入ってきた。

 

「おはよう、定明にーちゃん」

 

「お休みの所悪いんだけど、色々と説明しなきゃいけない事が起きたから」

 

「……ん……く、あぁ~……で?何があった訳だ?」

 

凝り固まった体をグゥ~っと伸ばしながら欠伸を一つ。

俺は多少寝ぼけた頭で二人に質問する。

辺りを見てみると、何時の間にか大人が一人増えてる。

大型犬を連れた男の人だ。

そして探偵団の残りのメンバーが「無い無い」と言ってテーブルの上を引っかき回してる。

 

「えっと、僕が帰ってきたら既にこの状況で」

 

「どうにも鞄の下に挟んでおいた例の地図が無くなっちゃったらしいのよ」

 

立ち上がって髪をポリポリ掻きながら、二人の話に耳を傾ける。

どーにも、何かキナ臭え事になってきたな。

 

「確かに僕の鞄の下に挟んでおいたんですが……風で飛ぶ筈もありませんし……」

 

「っつうか今日はそんなに風キツくなかったぞ?」

 

「皆目を離しちゃってた時に無くなっちゃうなんて……もしかして、香月さんの事件の犯人が持っていったとかッ!?」

 

「え?香月さんって、夕べ亡くなった?」

 

と、地図の行方を憶測する吉田の言葉に、犬を連れた男の人が聞き返す。

どうやらこの人、事件の事知ってそうだな。

そう思ったのはコナンも同じらしく聞いてみると、香月さんの遺体を発見した第一発見者はこの人らしい。

 

「ハッハッハッハ……クゥ~ン」

 

……とりあえず見知らぬ犬よ、何故俺に擦り寄ってくる?

切なげな声で鳴きながら俺を見上げる大型犬。

しかもジーッと見てくるので、主人の男の人の視線も自然と俺に向かってくる。

邪険にする訳にもいかない、というか動物は全般的に好きなので撫でておく。

俺って昔っから動物には異常なくらい懐かれるんだよなぁ。

ゴシゴシと頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。

 

「クールが初対面でこんなに懐くのも、結構珍しいな」

 

「クールって名前なんすか?このワンコロ」

 

「ああ。フランス語で心って意味で、クールっていうんだ」

 

手を離そうとすると切なげに鳴きやがるので、俺はクールを撫でながら、話を聞く事に。

そして分かった事が、例の誰の物か判らなかった謎の地図は、実はこの男の人の物だったらしい。

男の名前は八木沢さんといって、意外な事にコナンの知り合いだった。

何でも前にこのクールの活躍で、殺人事件を解決した事があったとか。

相変わらず交流の輪の広げ方が血生臭いな、コナンよ。

そして例の地図の事だが、何でも自分の代わりにクールを散歩させる事がある奥さんの為に作った地図という事だった。

その地図を散歩中に奥さんが落としてしまい、それを拾ったのが円谷達って訳だ。

今まで自分が散歩させていて、苦い経験をしたり、犬のクールには危ない場所を☓印で示したのがあの地図。

まず俺達がお邪魔した順序で言うと、1軒目の大賀さんは奥さんが怒りっぽいから。

クールが前足片方を芝生に突っ込んだだけでブチキレて滅茶苦茶言われたらしい。

そして2軒目の江口さんは家のバラに農薬を撒いてるから、クールには危ないと思って印を付けたそうだ。

 

「それに江口さんは有機肥料をやってるから、犬はその臭いが好きでつい寄ってちゃうんだよね」

 

「そうそう。だから家の方自体に寄らない様にってカミさんには言ってたんだ」

 

「オメェは相変わらず難しい事知ってんのな、コナン」

 

「て、テレビでやってたんだー。犬の散歩の注意する所はって。い、犬の特集番組で」

 

ほー?それが本当なら何故脂汗を掻いてるのやら。

話を戻すと、次の3軒目の藤木さんの家は、母親が極度の潔癖症で犬の小便を特に嫌ってるらしい。

そりゃ近づかねぇほうが良いだろうな。

最後に今回亡くなった香月さんの家も同じで、一度クールが小便しかけたら竹箒で追い掛け回されたと。

 

「家の周りに猫除け用のペットボトルが並んでたから、もしかしたらと思ったんだ」

 

と、コナンが得意げに推理を披露し終えた所で、吉田と円谷が溜息を吐いた。

っていうかいい加減この犬の頭撫でんの疲れたんだけど、誰か代わってくれねぇか?

とりあえず灰原が羨ましそうに見てたので代わってみると、メチャ嬉しそうだった。

 

「何だ……そうだったんですか……」

 

「あの地図、事件とは関係無かったんだね」

 

「だから何度もそう言ったろ?」

 

脱力する二人にコナンは呆れ混じりにそう言う。

だがそんなコナンに、俺は疲れた腕をプラプラさせながら質問を飛ばす。

 

「まぁ最初は関係無かったみてーだが、今は無関係じゃ無い訳だろ、コナン?」

 

「うん。盗まれたのが良い証拠だよ」

 

「そうね。そんな他愛の無い理由で書かれた地図を――誰が何の目的で盗んだのか」

 

「地図を盗んだのは、恐らく香月さんを殺害した犯人だ」

 

俺と入れ違いに犬を撫でて嬉しそうな顔をしてた灰原が少し顔付きを真剣なモノに変えて言った謎にも、コナンは答える。

だよなぁ、やっぱそうなるんだよなぁ。

コナンの推理を聞いて驚く探偵団と八木沢さん。

その驚きに対するフォローもコナンが答えるモンだと思ってたら、コナンは俺にニッコリと笑みを向けて「ね?定明にーちゃん」とか言ってきた。

……俺がその先を答えろって事か?……俺を隠れ蓑にしてコナンに対する違和感を払拭させようって腹っぽいな。

まぁ、全ては無駄な事だが、今の質問には俺が答えないとダメっぽい。

既にコナンから注目が俺に集まっちまってるので、俺は溜息を吐きながら自分の考えを述べる。

 

「考えてみ?今日偶然あの地図を拾った俺達以外にあの地図の事知ってんのは、アレを書いた八木沢さん本人と、今日聞き込みであの地図を見せた人達だけだろ?」

 

ここまでは分かってるらしく、皆は一斉に頷く。

なので俺はドンドンと話を進める。

 

「そんで、あの地図には今回死んじまった香月さんの家と、他に3軒の家が印をされてた。その3軒の中の誰かが自分と香月さんを結びつける地図を円谷に見せられて焦ったんだろうぜ?俺達を尾けて、皆が居なくなった隙に持っていったんだろうな。サツの手に渡る前に」

 

「え?……じ、じゃあ、犯人はもしかして……」

 

「まぁあの3軒の中の誰かってのは確定だろうよ。でねーとチラシの裏に書かれた地図を持ってく奴なんて居ねーだろーが?しかも俺達が見せたのはまだあの3軒の人間だけ……多分相当焦ってたんだろーなぁ……自分と香月さんとの関係を誤魔化す為に俺等から地図をガメた事で、『自分はさっき君達と会った3軒の人間の誰かです』なんて俺等にアピールする辺り、犯人はとんだ間抜け野郎だ」

 

「「「おぉー……ッ!?」」」

 

「ず、随分頭が良いんだね、君……大人でもそこまで考えたりは出来ないよ」

 

と、俺なりの推測を皆に言って聞かせると、何故か褒められた。

探偵団のメンバーは皆拍手してるし、八木沢さんはメチャクチャ驚いてる。

まぁここまでの反応だったら良かったんだが……。

 

「そうだよねー。定明にーちゃんって何だか……」

 

「まるで大人が若返ったみたいに、色んな事を知ってて頭が良いって感じ……ね?」

 

どうにも灰原とコナンはとんでも無い勘違いの方向で俺の正体を決めつけようとしてやがるっぽい。

二人して「どうだ?」と言わんばかりのドヤ顔をしてるが……その答えが外れと分かってる俺からしたら、ドヤ顔恥ずかしくね?としか言えない。

大体、俺はそこまで頭は良くねぇっての。

寧ろ海鳴に帰ったら俺より頭良い奴ばっかで逆に怒られるわ。

リサリサは言うに及ばず、あのなのはですら理系の成績は俺なんか足元にも及ばないくらい好成績だし。

それを知った時についなのはの髪型をアトムヘアーにしかけたのは反省してる。サザエさんにするべきだったと。

 

「全然だっての。海鳴市に……俺の地元に帰れば、俺なんかカスだぜ?一つ上にはIQ200の天才児、なんてやばいスペックの奴も居るしよぉ」

 

「はぁッ!?あ、IQ200ッ!?(コイツの一つ上って事は、10歳でIQ200ッ!?どうなってんだよ、海鳴って町はッ!!)」

 

「っつうか何言ってんだよ。若返れる訳無えだろ?ファンタジーじゃあるまいし」

 

ファンタジーな街から来た俺が言うのもなんだけど。

っていうか若返れる方法あるし。

俺の苦笑いしながら放った言葉を聞いて、コナンは素っ頓狂な声をあげるわ灰原は絶句するわでちょっとしたカオスになり掛けた。

が、それもコナンが一度咳払いして落ち着く事で修正され、話は再び事件の話へ。

 

「とりあえず今の所決め手になってるのは、タバコだ」

 

「タバコ、ですか?」

 

円谷の聞き返しにコナンは頷き、顎に手を当てながら自分の持ってる情報を掲示し始める。

手帳に書かずとも覚えているらしく、スラスラと喋る姿には淀みが無い。

 

「事件現場で刑事さん達が話してた内容だと、タバコを吸わない筈の被害者の手から微かにタバコの香りがしたらしい。でも現場からはタバコの吸殻は発見されなかったそうだ」

 

「……タバコ……あっ。そういえば、前に香月さん。タバコの事で凄く怒ってたなぁ」

 

「ッ!?それホント、八木沢さん?」

 

「あぁ。家の前に捨てられてたタバコを拾って、『また誰か捨てていきおったなッ!!』ってタバコを睨んでたんだ。確か……青い二本線の入ったタバコだったよ」

 

「ッ!?ブルーライン……ッ!!」

 

八木沢さんの口から語られた超が付くほどの有力情報に、コナンは驚きを露にする。

しっかし、よりにもよって銘柄がブルーラインかよ。

ある意味で最後の決定打のタバコの存在が最後の最後でネックになってしまった。

 

「奇しくも、今日会った3軒の人達のどの家も一人は喫煙者が居たな。オマケに全員銘柄はブルーラインだったぜ?」

 

「え?でも定明さん。藤木さんのお家に行った時、誰もタバコ吸ってなかったよ?」

 

「確かに吸っちゃいなかったけど、息子さんが買い物袋からタバコだけ取り出してポケットに閉まったのを見た。多分母親がタバコの匂い嫌いなんだろ」

 

吉田の疑問に答えながら、俺も頭を働かせる。

コナンの言う通り重度の潔癖症だっていうなら、タバコの匂いと煙も嫌な筈だ。

だが、これで一応犯人の候補は絞れた。

無論あの近辺の人間が殺したっていう前提に基づいた候補だけど、恐らくこれ以上範囲を広げる必要は無い。

さっきも言った様に、普通の人は気にも止めない上に何の用途か分からない地図を盗むのは、被害者と自分を結び付けたくない犯人だけ。

しかも地図の存在を知ってるのは極少数。

これじゃ地図を見せた喫煙者達を疑うなって方が無理な話だ。

さて、なら一番手っ取り早い手としては……。

 

「じゃあ香月さんの家に行って、タバコの吸殻が無いか聞いてみない?」

 

「いや。多分、昨日の可燃ゴミで出しちまってるよ」

 

おーい、証拠の役に立つかもしれなかった物はお預けですか。

チマチマとこんな事やらなくても、地図を盗んだ犯人を『ムーディ・ブルース』でリプレイすりゃ一発なんだが……。

今こうして、誰かの為に一生懸命考えてる少年探偵団の邪魔になっちまうか。

オマケにこの状況じゃ、俺が『ムーディ・ブルース』を使って犯人を炙り出した所で、証拠不十分。

海鳴に居る同じスタンド使いのあいつ等でもねぇ限り信じちゃもらえねぇだろう。

 

「ここまで考えての予想は……香月さんは夕べ地下横断歩道で何時も家の前にタバコを捨てる人間と会って、その話でトラブルになったって線が考えられる……でも、まだ全然情報が足りねえ……」

 

「情報が足りませんね……良しッ!!それじゃあ皆で手分けして情報を集めましょうッ!!」

 

「うんッ!!やろうッ!!」

 

「なっ!?おいオメー等……」

 

「良いわ。私も地図を盗んでくれた犯人に、一泡吹かせたいし」

 

「オメーまで……」

 

と、まぁヤル気になっちまった少年探偵団を諌めようとしたコナンの言葉に被せる形で、灰原も皆に賛同する。

何時もはストッパーの役割を果たしてる灰原からOKが出て、皆一様にやる気出してやがる。

止めるタイミングを失ったコナンが俺に視線を向けてくるが、俺は肩を竦めるだけ。

諦めろなさいコナン。こうなったら止まらねえ奴等なのは、お前が一番良く知ってんだろーが?

 

「……分ーったよ。但し、絶対に無理だけはすんな。少しでも危険を感じたら、直ぐに手を引くんだ。間違っても定明にーちゃんみたいに犯人を倒そうなんて考えるなよ。お前等は普通なんだからな」

 

「何気に人をディスってんじゃねえ」

 

「八木沢さん。あの地図、もう一度書いてくれますか?」

 

「分かった」

 

無視かこのヤロー。

サラリと俺は普通じゃねえと言われた事に大して意気消沈気味になる俺。

そこに何故かクールが俺の頭に自分の顎を乗せてくる……これで慰めてるつもりなのか?

少しイラッとして頭を動かして避けると、クールは「クゥン……」と鳴いて俺の顔を一舐めした。

……犬に慰められるのも、偶には悪くねぇかもな。

その後俺達は全員バラけて2人一組のチームで聞き込みをする事に。

コナンは八木沢さんとクール、灰原と吉田、円谷と小島。

そして俺は見事にハブになった訳だが……俺、もう帰っても良いか?

まぁ帰ったら後で何言われるか分からないので、俺は頼まれたコンビニと駅前での聞き込みに向かうのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「じゃあ、纏めるか」

 

そして日も傾いてきた夕方。

聞き込みを終えた俺達はもう一度公園のテーブルに集まって、各々の成果を交換する事に。

まずは灰原と吉田から。

 

「香月さんの所だけど、やっぱり昨日可燃ごみで出しちゃったらしくて、タバコの吸い殻は無かったわ」

 

「そっか……」

 

まずは灰原の報告で、今回の被害者の家に聞き込みに行った結果だ。

と言ってもコナンの推測通り、ゴミに出してしまっていたらしい。

 

「それと江口さんだけど週4日、米花駅前のクラブで夕方からバイトしてるそうよ」

 

「昨日の夜は、やっぱり10時過ぎに帰ってきたみたい」

 

「クラブって……サッカー部か?」

 

小島、歳相応の返し方は良いけど、今は一応推理タイムらしいからもう少し考えろ。

 

「大賀さんの設計事務所も同じく米花駅前にあって、智也君の話だと毎日歩いて通ってるそうです。家を出るのは7時半から8時半の間で……」

 

「えっと、帰ってくる時間はバラバラで、昨日は10時過ぎだったらしいぜ」

 

そして次に大賀さんの家の話を円谷と小島が報告する。

江口さんと同じく通勤は歩きで、帰宅時間もほぼ一緒だな。

最後の藤木さんも駅まで歩いて通っていて、朝は7時に出るそうだ。

藤木さんの家の扉を見た向かいのお婆さんの話では帰宅時間も前の二人と同じぐらいで、昨日は10時過ぎ。

これで3人全員に犯行は可能って事になる。

 

「って事は、3人共こういうルートを通れば香月さんの家の前を通ってタバコを捨てる可能性があるって事だな」

 

コナンは皆の意見を統合しながら地図のルートを見直す。

ちなみに地図には携帯で距離を測って計測した距離を書き込んである。

一番遠い大賀さんの家から香月さんの家の前までは600m。

江口さんの家からは500、藤木さんの家からは400っとなってる。

更に香月さんの家から現場の地下横断歩道までは350mで、横断歩道から駅までは400mだ。

 

「地下横断歩道の清掃のおっちゃんに聞いてきたけど、いつも同じ銘柄のタバコが捨てられてるってよ。ブルーラインが」

 

「そうなるとやっぱり、夕べ10時頃に地下横断歩道の近くで3人の内誰かがタバコを捨て、それを見つけた香月さんとの間で言い争いになったって事か」

 

「それっぽいな。で、その内揉み合って香月さんを落としちまい、香月さんが持ってた自分の吸い殻を回収したってトコだろうよ」

 

俺の報告を聞いて推理を組み立てるコナンに補足して、俺は首を鳴らす。

あー……帰りてぇな……早く証拠見つけて終わらせようか?『ムーディ・ブルース』使えば一発なんだけどなぁ。

でもいきなり証拠見つけてもコナン達が不審がるし、もう少し付き合ってみっか。

 

「……なぁ。俺ちょっと確かめてー事が……」

 

何かに気付いたコナンが皆に何処かに行くと伝えようとすると、吉田達も行くと言い出す。

しかも何故かクールも一緒にという事で、俺達は皆でコナンを先頭に移動する事に。

向かったのは香月さんの家近くを流れる川沿いの歩道だ。

そこに向かってから、コナンは川をずっと見ている。

……なるほどな。証拠のタバコを川に流されたんじゃないかって事か。

もしも壁の隅とかに引っ掛かってたら、それを引き上げれば良いけど、生憎川の流れは結構速い。

これじゃあ見つかりそうも無いだろうな……と、不意に橋の上を見上げた俺の視界に、橋の手摺りに寄り掛かってタバコを吸う誰かの姿が見えた。

 

「……江口さん?」

 

「あっ、ホントだ」

 

俺が止まって橋の上を眺めてるのを視界で追った他の皆も足を止めて、橋の上の彼女に注目する。

昼間出会ったジャージ姿では無くて、綺麗にドレスを着飾り、化粧を施した江口さんはまるで別人だった。

吉田と灰原は直ぐに気付いたが、小島やコナン達は信じられないのか大仰に驚いてる。

と、彼女は吸い終わったタバコを川に投げ捨ててフワッと笑いながら駅前に歩き始める。

 

「……笑ってたよ」

 

「怪しいですね……」

 

「よぉし、追跡だ」

 

橋の向こうの彼女に聞こえない様に小声で話しながら、小島達は彼女の追跡を提案してくる。

まぁ他に何かある訳でも無いので、俺達は彼女から離れつつ追跡を開始した。

そして追跡してる間に彼女はまた新しいタバコに火を点ける。

重度のヘビースモーカーらしいな。

そして彼女の後ろを追跡していくと……。

 

「ワンワンッ!!」

 

「きゃっ!?」

 

突然、傍の家の門の所から犬の吠える鳴き声が聞こえ、江口さんはそれに驚いて立ち止まった。

そして今も吠える犬を確認すると、眉を曲げて不機嫌な顔付きになる。

 

「もうっ。何時も何時も憎たらしいわね……ッ!!」

 

そうボヤいて彼女はフンと振り返り様にタバコをその家の玄関に投げ捨ててそのまま立ち去っていく。

 

「またポイ捨てです」

 

「ひっでーなぁ」

 

何の気負いも無くゴミを捨てた彼女の行為に円谷と小島は憤りを表した。

まぁ俺も偶にポイ捨てしちまう時があるから何とも言えねえや。

そんな事を考えていると、今しがた吠えていた家の玄関が開いて、そこから家主が顔を出す。

更に吠えていた犬は江口さんが立ち去ると急に大人しくなり、クールと門を挟んでお互いに臭いを嗅いでいた。

灰原も江口さんより犬の方が関心あるみたいで、クールの隣にしゃがみ込んでもう一匹の犬を見ていた。

 

「こんばんは」

 

「こんばんはです」

 

「……いい子なのに、吠えるのね」

 

と、同じ犬を飼う主人同士が挨拶を交わす傍ら、灰原が犬を見ながらそんな言葉を漏らす。

まぁ確かに、こうして見てるとおとなしい犬だ。

 

「人によってはね。特に不審な相手には良く吠えるんだ」

 

「ちょっと、灰原さーん」

 

「早く江口さんを追わないと……え?」

 

犬よりも江口さんの方が気になる吉田が注意する途中で驚いた声を出す。

何事かと気になり、視線を江口さんの居た方に戻すと……。

 

「あの人って……」

 

「大賀さんですね……」

 

「ど、どうなってんだよ?」

 

「……ふーん……なるほど」

 

道の向こうで、今日会った大賀さんと抱き合う江口さんの姿があった。

それを見て驚く吉田達と、対照的に「あぁ、やっぱりな」と感じてしまう俺。

そして半目で「そういう事か」って顔をする灰原とコナン。

まぁ実際の年齢が高い二人には分かっただろうな、あの二人が不倫関係だって事が。

俺はというと、大賀さんに会った時に浮気の可能性アリと見て、江口さんに会った時にほぼ確信してた。

二人の体から同じ香水の香りがしてたからな。

序に大賀さんの口に残った口紅の残り香と、奥さんの口紅の香りが違ってたし。

 

「クンクン…………クゥン、クーン」

 

「ん?何だ、どした?」

 

「ハフッハフッ」

 

「お、おい?服を噛むんじゃねぇ、っていうか何故に引っ張る?おーい?」

 

と、江口さんが捨てたタバコを嗅いでいたクールが俺の傍に来て、何故か俺の服を噛んで引っ張ってくるではないか。

その様子から俺を何処かに連れて行こうとしてるらしく、俺はクールに抗わずにされるがままに引かれていく。

ったく、何だってんだよ今度は?まさか遊べってんじゃねぇだろうな。

クールの行動に訝しんでいた俺だが、その考えは空き缶の入ったボックスの前まで連れて来られた時点で消えた。

箱の前まで俺を引っ張ったクールは噛んでいた服を離して行儀良く俺の目の前でお座りしたからだ。

 

「一体どうしたって……ん?……クンクン」

 

ふと、『ハイウェイ・スター』の能力で強化された俺の嗅覚が、ある『臭い』を捉える。

その臭いの元を辿って行くと、クールに連れて来られた箱の中に行き着いた。

っておいおい……ッ!?まさか……ッ!?

俺は慌てて空き缶の入った箱の中を探って、臭いの元を辿る。

すると直ぐに、目当ての物が出て来た。

俺はそれに直接触れない様に、ハンカチで掴んで取り出す。

 

「……ハ、ハハッ……マジ?……大したモンだぜ。お手柄だぞ、クール(ナデナデ)」

 

「ワンッ!!」

 

「よーしよし。本当に賢いなぁオメェは」

 

俺に頭を撫でられて嬉しそうにクールは鳴いた。

そんな俺達を首を傾げて皆が見ていたので、俺はハンカチに包んだ『あるモノ』を皆の前に差し出した。

 

「ッ!?これは……ッ!?」

 

「あぁ。クールが見つけて俺に教えてくれたんだよ――動かぬ『証拠』ってヤツをな」

 

俺の手の上にある『血の付いたタバコ』を見て驚くコナンに、俺は名探偵を撫でながら答える。

昨日の夜からココにあるってんなら、これには間違いなく指紋が残ってる。

それに犯人の唾液も、な。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

――翌日。

 

 

 

「ふーん?それで、犯人は藤木さんだった訳か?」

 

「うん。香月さんが落ちたのは偶然で故意じゃないって言ってたけど……」

 

「まぁ、証拠を隠蔽しちゃったから、それで済まされる筈は無いけどね」

 

俺達は昼間に米花町公園のドッグランという犬を遊ばせる大きな公園に昼過ぎに来ていた。

そこには昨日大活躍したクールと、リードから解放されたクールを追いかける少年探偵団の姿もある。

俺とコナン、そして灰原は彼等のはしゃぐ姿をベンチに腰掛けながら見つつ、昨日の事件の事について聞いていた。

あの証拠のタバコを見つけて直ぐに俺は帰宅してのんびりしてたので、事件の顛末を聞いてなかったからだ。

あれで事件は解決したも同然だし、俺はコナン達と違って知り合いの刑事が居る訳でも無かったからな。

 

「そういえば定明にーちゃん。昨日言い忘れてたけど、高木刑事と佐藤刑事が定明にーちゃんの事探してたよ?」

 

「だろーな。だからお前等と一緒には行かなかった訳だけど」

 

とっ捕まって説教食らうのは勘弁だし。

そう自白すると、コナンはとても良い笑顔で俺を見てくるではないか。

 

「それでさー。僕、佐藤刑事に凄い剣幕で定明にーちゃんの事聞かれたから、つい話しちゃった」

 

こいつ絶対に態と話しやがったな。

 

「ハァ……それで?佐藤刑事は何だって?」

 

「んーっとねー。また後日話を聞きにいくから、首を洗って待ってなさいって」

 

「あらあら。厄介なのに目を付けられちゃったみたいね」

 

「ハァ。くそ面倒くせー事しやがって」

 

「ごめんなさーい」

 

溜息を吐く俺に灰原は微塵も気の毒に思って無さそうな顔で上っ面だけの慰めを。

コナンは全く反省してない声で俺に謝ってくる。

全く、良い度胸してやがるぜ。この俺に対して面倒事を持ってきて笑うとは……覚えてろよ、コナン?

頭の中で呪詛の言葉を呟きながら、俺はクールのはしゃぐ姿をスマホで写真に撮り、画用紙にスケッチを書き込んでいく。

俺が今日外に出てコナン達と一緒に居るのは昨日の事件の顛末を聞く為だけじゃ無え。

それだけなら事務所でコナンに聞けば済む事だ。

それなのに態々外に出たのは、夏休みの宿題である写生を書く為である。

何でも良かったんだけど、丁度良い時にクールの姿が見えたからそれを写真に収めてスケッチのテーマとした。

スマホの画面に映るクールと背景の構図をしっかりと見ながら、俺は鉛筆を滑らかに滑らせる。

 

ドシュッドシュッカリカリカリカリッ!!

 

「……し、下書きしないの?」

 

「ん?してるじゃねぇか」

 

ホレ、と画用紙に書き込まれた絵を驚いた様子のコナンに見せる。

ちなみに灰原はクールに昨日のご褒美としてビーフジャーキーを食べさせに行ってる。

露伴先生に憧れて練習した俺のペン捌きで書き起こされたクールを見て、コナンは口元をヒクつかせた。

 

「こ、これで下書きなんだ……す、凄く上手だね(……まるで今にも動きそうなくらい精密な絵だぞコレ……やっぱりコイツ、普通の小学生じゃねぇんじゃねーか?)」

 

「いや。まだまだだな。俺の知ってる(漫画で)人のペン捌きは、俺なんか児戯にしか思えねえ程に精密に書くぞ?」

 

「そ、そうなんだ。あはは……(つか、そいつってホントに人間?)」

 

「あぁ。一応そこそこ上手いって自覚はあるけど、プロ(露伴先生)からしたらこんなもん大した事無えだろ」

 

 

 

半笑いしてるコナンにそう言って、俺は下書きを――。

 

 

 

「いやー。自分こら大したモンやで?何でこないに上手い絵書けるんや?」

 

「ホンマや。こない上手に絵描けんのに大した事無いやなんて、そら嫌味に聞こえんで」

 

「うん。すっごく上手……っていうか、私より上手で……何か複雑かも」

 

「は?」

 

 

 

中断させてしまう。

突如背後から聞こえた声に驚いたからだ。

それはコナンも同じらしく、俺達は同時に背後へ振り返る。

 

「オッス。元気しとるか坊主?」

 

「こんにちは。コナン君」

 

背後へ振り返った俺達に笑顔を向ける3人の男女。

一人は今朝も顔を合わせた従姉妹の蘭さん。

そして後2人。

ポニーテールに髪を纏めた女の人と、色黒の男の人。

どちらも俺は会った事が無い人物だが……知識としては『知ってる』人物。

っていうか……オイ……何でココに居やがる?

驚きと不安で言葉が出ない俺に、蘭さんが笑顔で2人を紹介してくる。

 

「此方は大阪から遊びに来た『服部平次』君と、その幼馴染みの『遠山和葉』ちゃんよ」

 

ご存知『西の高校生探偵』として有名な服部平次。

そして蘭さんに負けず劣らずといった武道の腕を持つ合気道少女、遠山和葉の2人が、俺を笑顔で見下ろしていた。

 

「おう。よろしゅうなー坊主。それと久しぶりやな、工ど――」

 

「わーッ!?わーッ!?わーッ!?へ、平次兄ちゃんちょっと来てッ!!」

 

「へ?ど、どないしたんやってうおぉッ!?そない引っ張んなやッ!?一体何やねんッ!?」

 

「……??……どうしたんだろ?」

 

「まぁ、何時もの事やん。あの2人ほんまに仲良えし」

 

軽いノリで本名をバラしかけた服部さんの言葉を、コナンは大声で遮って向こうのトイレまで引っ張っていく。

しかも頻りに俺の方に視線向けてくるから、多分俺の事を警戒してだろうな。

……この2人が大阪から来るって事は……また事件が起きるってのかよ……ハァ。

『ハイウェイ・スター』を使わずとも臭ってきた事件の臭いに、俺は頭を抱えて溜息を吐いてしまう。

 

 

 

とりあえずこんな時はコーヒー味のチューイングガムでも噛んで…………不味ッ。

 




今回はバトル無しで推理一辺倒だったから凄い文量使った。

なるべくスタンドを活用出来る様な話運びを考えなくては……。

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