ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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前回の話で結構なミスをしたので書きます。

毛利小五郎は定明の『伯父』(定明の母親の兄)です。
前の話の表記では叔父となってしまい、(母親の弟)になってましたが、逆です。
今回から気を付けますので、ご容赦下さい。


何処までも追跡す(ry

「ふわぁ~あ……良く寝た」

 

朝7時。

ピピピッという電子音の音で目が覚めた俺は背伸びをしながら布団から起きる。

そんで隣同士に居る同居人に目を向けてみた。

 

「……くー……」

 

「んごごご……ぐー」

 

「……実に良く寝てら……くぁ……あ~……」

 

未だスヤスヤと夢の世界に居る『一名』を見てから、欠伸を一つして布団を畳む。

隅っこに寄せてから、俺は顔を洗うために部屋を後にする。

おっとと。一言ぐらいは声掛けておかねぇと。

 

「起きてるだろ?俺は先に顔洗いに行ってくるわ」

 

寝たフリをして俺を観察していたコナンに一声掛けて扉を閉める。

ちょうど閉まりそうな隙間から、布団の中でビクッとコナンが震えた所を見ると、予想は当たってたらしい。

やれやれ、本気で俺の事を見張り続けるつもりか?

根気良くそんな事をしてる年齢詐称探偵の根性に呆れながら、俺は髪をポリポリと掻く。

そのまま洗面所に入ると、既に先客が居た。

この毛利探偵事務所の紅一点、俺の従姉妹の蘭さんだ。

 

「あっ。おはよう、定明君」

 

「おはよっす。顔洗っても良いっすか?」

 

「うん。良いよ」

 

歯ブラシとコップ片手に場所を譲ってくれた蘭さんにお礼を言ってから、俺は顔を三回洗う。

そして掛けてあった洗面タオルで顔を洗ってから歯ブラシで歯を磨く。

起きてからの歯ブラシは大事だよな。

 

 

 

――今日は俺が毛利探偵事務所に転がり込んでから二日目の朝だ。

 

 

 

まだ特に事件は起きて無く、俺は比較的穏やかな日を過ごせてる。

……まぁ、『まだ』事件は起きてないってだけなんだがな。

このまま無事に2週間を乗り切る事は、まず不可能だって事は念頭に入れてるよ。

 

「んぐんぐ……べっ……今日は早いんスね?」

 

歯を磨いてコップに中の水で口を濯ぎ、同じく口を濯ぎ終えた蘭さんにそう聞くと、蘭さんは笑顔で腕に力を込める。

 

「今日は部活なの。もうすぐ夏の大会があるから、しっかりと練習しないと……」

 

「へー?部活って何やってんスか?」

 

俺は興味のある振りをして蘭さんに聞いてみる。

一応知ってはいるが、まだ誰もその話題に振れて無いから、聞いておかないと怪しまれるだろう。

そして、俺の問いを聞いた蘭さんは軽く拳を握って前に突き出す仕草を取った。

 

「空手。こう見えてもお姉さん、都大会とか関東大会での優勝経験者なんだよ?」

 

「おおっ?空手っすか……なるほど。それで俺がひったくりに襲われた時、構えをとってたんスね?」

 

「そうよ。結構自信はあったんだけど、まさか定明君が人質に取られるなんて思わなかったから役に立たなかったけどね」

 

少し苦笑いしながらそんな事を言う蘭さんだが、普通は暴漢相手に戦おうって勇気が凄いと思う。

そう思っていると、蘭さんは洗面所から出て部屋に戻って行く。

多分制服に着替えるんだろうな、部活って事は学校に行くんだろうし。

 

「直ぐに朝ごはん作っちゃうから、悪いんだけどコナン君とお父さんを起こしてくれるかな?私、お弁当も作らなきゃいけないし」

 

「あいあい。りょーかいッス」

 

部屋に戻っていく蘭さんにそう答えながら、俺は部屋に戻って俺用に空けてもらったカラーボックスから服を取り出して着替える。

藍色のシャツにルーズカーゴのパンツ、そして忍さん特性のベルトとバックルだ。

さすがに鉄球は入れてねぇけど、飯の後は普段も入れる様にしてる。

何時トラブルに巻き込まれても良い様に……こうしてると、何か俺って危ない事件を担当する探偵みたいな事してんな。

……俺は何よりも平穏を愛する男なんだがなぁ。

そんな考えを掻き消すかの様に、俺は頭を振って思考を切り替える。

まずは寝ている伯父さんと寝たフリしてるコナンを起こす。

 

「伯父さん。朝ッスよ?ほらコナン君も、早く布団片して顔洗ってきな」

 

「……う、う~ん……お、お早う。定明にーちゃん(くっそー……やっぱバレてたか)」

 

「おう。お早うさんだ……ほら、伯父さん。朝だから起きて下さいよー」

 

まるで今起きました、みたいな小芝居を続けるコナンに苦笑いしながら、顔を洗いに行く様に促す。

その言葉だけでコナンはセッセと布団を片付けて顔を洗いに行った。

今度は正真正銘、爆睡してる小五郎伯父さんを起こさねえと。

 

「ん……んが?……おう…………朝か……ふあぁ~……」

 

「おはよッス。もうすぐ蘭さんが朝飯作って部活出るらしいんで、顔洗ってきて下さい」

 

「あ~……そういや、もうすぐ大会が近いって張り切ってたっけか、蘭の奴……悪いな定明。態々起こさせちまって」

 

「いやいや。いきなり押し掛けて居候してんスから、これぐらいはしますよ」

 

「そうか?じゃあこれからも暫く頼んじまおうかな?何かオメェに起こされるとやたらと寝起きが楽だし、そしたら夜も酒が飲めるしな」

 

そりゃそうだろうよ。伯父さんが寝起きが悪いってのは蘭さんから前もって聞いてたんだ。

俺だってそれに対する対策ぐらいはしてるっての。

機嫌良さそうに伸びをする小五郎さんから視線を外して伸びをしながら、俺は密かに呆れる。

コナンからも相談されたが、昨日の朝俺が起こしたら随分穏やかに起きた為に、俺が伯父さん専属の起こし係になってたり。

お陰で蘭さんとコナンから微妙に尊敬の篭った目で見られたりしてる。

実際は軽い波紋の力を使って、小五郎さんの寝起きの時の気分を穏やかにしてるからなんだがな。

まぁそんな感じで、俺は手早く寝室から出てリビングに入る。

仕切り戸が開けられたキッチンでは、蘭さんが制服にエプロンという出で立ちで料理をテキパキと作っていた。

 

「何か手伝いますか?」

 

「あっ、ううん。良いよ、定明君は座っててくれたら。昨日は一日外食にしちゃったけど、今日の朝ごはんは私の手作りを食べさせてあげる」

 

俺の言葉に反応した蘭さんは笑顔でそう言って、料理に戻る。

昨日は俺の歓迎の意味を込めて町の案内と、この探偵事務所の下にある喫茶ポアロのご飯を頂いた。

あそこも美味しい店だったけど、蘭さんの飯も楽しみだったりする。

まぁ、寛いでて良いっていうならそれも有りだが……さすがに居候の俺には居心地が悪過ぎるぜ。

 

「じゃあ、テーブル拭くくらいはしておきますよ。台拭きありますか?」

 

「ホント?……じゃあ、お言葉に甘えて。そこに有るのが台拭きだから、それ使ってくれる?」

 

「うす。んじゃ、お借りしますんで」

 

少し申し訳無さそうな顔をする蘭さんに笑顔で返事して、俺は台拭き片手にテーブルを拭く。

あまり汚れて無かったお蔭で直ぐに終わり、ついでに調味料の入った小さい台を運んでおいた。

後は料理が来るのを待つだけなので、やる事が無くなったので静かに座っていた。

そしたらコナンと伯父さんが欠伸をしながら入ってくる。

 

「お父さん、コナン君。お早う」

 

「あ~。俺ちょっと新聞取ってくらぁ」

 

「お早う、蘭姉ちゃん……じー」

 

「……態々口に出して言わなくても良いんじゃね?」

 

直ぐに外の郵便受けに新聞を取りに行った伯父さんとは対照的に、コナンは挨拶してから直ぐに俺を凝視してくる。

まぁ子供っぽい仕草は忘れて無えみてえだけど。

見られてる俺はと言えば彼の行動に苦笑いしつつ、空のホルスターを見せつけた。

 

「ほら。今日はまだ鉄球を部屋に置いてるから、そんなに見てても謎は分からねえぜ?」

 

「んー。でもさー。鉄球には関係ないって言ってたし、もしかしたら定明にーちゃんの仕草で何か分かるかもしれないなーって思って」

 

「まっ、そう考えるのも当たり前かもしれねーが……」

 

『片時も目を離して堪るか』っていう顔をしながらも子供らしく笑うコナンを見て、俺は苦笑を隠せない

どうにも彼は俺の回転の秘密についてかなりの関心を持ってるらしい。

まぁ、知的好奇心の塊である工藤新一なら、そうなるのも仕方無えだろうな。

そう思っていると、少し目を細めた蘭さんが朝ごはんをテーブルに並べながら口を開く。

 

「ホンット、コナン君は新一と良く似てるよね?その謎に対する好奇心とか、他の物が目に入らなくなる所とか」

 

「ッ!?そ、そうかなー?そんな事は無いと思うけどー?」

 

「いいえ、そうです。……言っておくけど、良いコナン君?それと定明君も聞いてね」

 

「……な、何かな、蘭姉ちゃん?」

 

「何すか、蘭さん?」

 

目を細めて……というか、殆どジト目でコナンを怪しむ様な口調だった蘭さんが、突然俺にも声を掛けてくる。

途中で質問という名の詰問が終わったコナンは目に見えて安堵しつつ、その表情を隠しながら、蘭さんに声を返した。

俺は俺で普通に首を傾げつつ、聞き返す。

すると、蘭さんは一度ニ~~ッコリと微笑んでから……烈火の勢いで口火を切った。

 

「良い?絶対に……ずぅぇええっっっ~~~ったいにッ!!新一みたいな推理オタクになっちゃ駄目よッ!?幼馴染みと遊園地に行っても推理と事件に夢中になって、挙句その幼馴染みを置いて事件を追っ掛けちゃう様な推理バカオタクにはッ!!良いわねッ!?」

 

「……う、うん……分かった」

 

「俺はそこまで推理に興味は無えっすから……っていうか、新一って誰の事っすか?」

 

コナンはかなり引き攣った笑みで蘭さんの言葉に了承するが、俺はここで聞き返す。

さすがに知らねえ人間の名前が出てんのに、普通に了承は出来ねえからな。

 

「あっ、ごめんごめん。定明君は知らないよね……工藤新一。私の幼馴染みで、今まで色んな難事件を解決してきた……平成のホームズとか煽てられて天狗になってるバカの事。一時は新聞にも顔が載ってたんだけど、覚えてない?」

 

「ん~っと……すいません。新聞はもっぱら放送欄ばっかり見てたんで……まぁ、その新一って人は、蘭さんの幼馴染みなんスね?それで大人顔負けの推理力がある凄腕探偵だったと?」

 

「そうそう。どんな事件でもパッと解決して、真犯人を炙り出す事が得意で、それにサッカーもやってたんだ。止めなきゃ国立のヒーローにだってなれるぐらいだったのに、探偵としての能力を鍛えるためだけだったとかなんとか……何時も、何時でも、事件の事ばっかりで……幼馴染みの私と遊園地にデートに行ったっていうのに、普通ほっぽりだして事件を追っかけたりなんてしないわよねぇ……?」

 

「あ、あはは……」

 

目の前で鬱憤を晴らすかの如く不満を吐き出す蘭さんに、張本人は引き攣った笑みしか返せてない。

こりゃまた修羅場だな。

そう思っていると、蘭さんは「そう思わない?」という目で俺にも意見を求めてくる。

まぁここで蘭さんの機嫌を損ねるのもアレなので、俺も考えながら言葉を発した。

 

「そりゃ何とも……よっぽど好奇心が旺盛っつうか……謎が好きっつうか……」

 

「ホントよ。あの推理オタク馬鹿。生身の女の子をほっぽるぐらい謎が好きなら、もう謎と結婚しちゃえば良いのよ」

 

「き……きっと、新一にーちゃんにも理由があったんじゃ無いかな?(オイオイ。謎と結婚て……)」

 

俺に笑顔で謝りながらも、蘭さんの手には段々と力が篭っていく。

その威力足るや、茶碗にご飯をよそってたしゃもじが悲鳴をあげる程の力だ。

っていうかコナンの新一をフォローする言葉、聞こえてない。

あー……どうにも、思い返す中でムカつく思い出の方が優先されて思い出されてるっぽいな。

終いにゃ折れるんじゃねえか、あのしゃもじ?

 

「ホント。事件とか謎の事になると見境無くて……オマケにホームズオタクで、小説読み出したら幼馴染みの私の事すら忘れて熱中するくらいだし……作っておいたご飯も食べずだったし……あっ。何か思い返す度に、こう……メラメラと湧き上がるモノが……」

 

「え、えーっとッ!?も、もうそのくらいで良いと思うよ、蘭姉ちゃんッ!!さ、定明にーちゃんもそう思うよねッ!?」

 

「ん?まぁ、大体の人物像は掴めたから、俺は別に良いぜ?……っていうか蘭さん。しゃもじが潰れちまいますよ?」

 

「ブツブツ……え?……あっ!?や、やだ私ったらッ!!」

 

俯きながら凄いオーラを纏い始めた蘭さんを見て、コナンは青い顔で記憶の発掘作業に待ったを掛ける。

かなり慌ててたのか、焦った表情で俺にまで救いを求めてくる程だった。

まぁ俺の言葉で手の中のしゃもじが変形しかけてたのを見て正気に戻ってくれたけど。

コナンの汗を拭う表情と仕草が、妙に切なく感じる朝の一幕だった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「じゃあ、おじさん。行ってきまーす」

 

「あぁ。ちゃんと宿題してこいよ」

 

「はーい……定明にーちゃんはホントに来ないの?」

 

そして時間は進み、今は昼前の午前11時30分。

ちなみに朝食べた蘭さんの作る料理はとても美味だった。

探偵事務所の扉を開けて行って来ますの挨拶をしたコナンが、少々残念そうな声でそう聞いてくる。

何でも今日は図書館で夏休みの宿題を少年探偵団の皆とするらしく、俺も一緒にどうかというお誘いだったが……。

 

「悪い。実は俺、宿題はもう全部終わらせてんだ。残ってるのは写生と毎日の日記ぐらいだから、今日はの~んびりするつもりさ」

 

俺はコナンに謝罪を入れつつ、誘いを断る。

折角の夏休みな訳だが、さすがにコナンと一緒にうろついて事件に巻き込まれたら嫌過ぎる。

まだこの事務所の生活に慣れた訳じゃ無えし、今日はゆっくりさせてもらおう。

そう伝えると、コナンは少し残念そうな顔をしつつも了承し、友達と待ち合わせてる阿笠博士の家に向かった。

色々な凄い発明をしてる阿笠博士の家には行ってみたい気もするが、今日はそんな気分じゃ無いのでパスしよう。

……頼むから、今日も平和に事件を引き寄せないでくれよ?

そう思いつつ、俺は2階の探偵事務所に入る。

 

「伯父さん。ちょっと伝えとく事があるんスけど、今良いっすか?」

 

「ん?おお。まぁ今は依頼もきそうにねぇし、別に良いぞ。なんだ?」

 

「はい。多分、俺宛に荷物が届くと思うんで、それが来たら教えて下さい。実家から母ちゃんが送った俺の服とかなんで」

 

「あぁ、そういう事か。分かった、荷物が来たら受け取っておいてやるよ」

 

「ありがとうございます。そんじゃあ俺、上に戻りますから」

 

新聞を読みながら俺の話を聞いてくれた伯父さんに礼を言い、3階の部屋へと戻った。

今日は特にやる事も無えし……どうしようか?

さすがにゲーセンとかも保護者同伴じゃねえとこの歳じゃ遊べねえんだよなぁ。

手持ちの金は財布に1万入れてあるし……散歩でもするか?

確か蘭さんにお勧めの美味しいパン屋があるって聞いてたし、買いに行くか?

昼は伯父さんとポアロにするか悩んでたけど、美味いパン屋ってのも興味が湧く。

良し、行こう。今から出れば良いぐらいの時間になるだ――。

 

「……あん?」

 

ふと、財布に携帯と鉄球にエニグマの紙を服に入れていた俺の視界の端っこ。

そこに、何やら今朝見た気がする花柄の可愛らしい包みを発見。

 

「……」

 

ゴトッ。

 

無言で持ち上げてみると、中身に何か入ってるらしく少々重みを感じた。

……おーい。

 

「弁当忘れるとかマジかよ、蘭さん……」

 

水筒は見えないので、恐らくそっちは持って行ったんだろう。

朝、水筒にお茶を入れてるの見たし。

まさか自分で作っておいて忘れるとか……うわ、脱力すんだろうなぁ。

俺は溜息を吐きつつ、弁当を持って事務所へと駆け込む。

 

「(ガチャッ)伯父さん。俺ちょっと出かけてきますんで、今日は一人で昼食ってきます」

 

「ん?何かあったのか?」

 

俺の言葉を聞いて不思議そうに顔を上げた小五郎の伯父さん。

そんな伯父さんに見える様に、俺は弁当の包みを掲げる。

 

「蘭さん弁当忘れちまったみたいなんスよ。だからこれ届けるついでに、適当に飯は外で済ませようかと」

 

「……ったく、蘭の奴。良し、分かった。俺も仕事があるから行けねえし坊主も出ちまったから、悪いが頼んだぞ。蘭の学校の場所は分かるか?帝丹高校ってトコだ」

 

「まぁ、何とかなると思うッス。最悪分かんなきゃ、交番で聞きますから。そんじゃ、行ってくるッス」

 

挨拶もそこそこにして、俺は扉を閉めてエニグマの紙に弁当をファイルする。

面倒くせーけど、さすがに世話になった蘭さんが弁当忘れてるのに気付いちまったし、せめて俺がなんとかしなきゃなぁ。

そしてスマホのマップを立ち上げて、蘭さんの行った帝丹高校を探した。

えっと……おっ、ここか?バスを使わなくても昼ちょっと過ぎたぐらいには着けそうだな。

道順も単純、というかほぼ真っ直ぐの距離だったので、俺は全力で走った。

ここに来てコナンに見張られてから朝のトレーニングも出来て無えし、少しは走っておかねえと体が鈍っちまう。

なら、こんな時にはトレーニング代わりに走っとかねえとな。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ここか。帝丹高校は……結構近かったな」

 

そして、走る事10分程で、俺は目的地の帝丹高校に到着した。

夏休みに大会があるのか、色んな運動系のクラブの気合の入った声がグラウンドや体育館から聞こえる。

俺が行くのは少し場違いな気がするが、行くっきゃねえだろ。

既に走る必要も無くなったので紙から弁当を取り出して、俺は帝丹高校の校門を潜った。

さあて、まずは事務所を探して……。

 

「ん?おい坊主。ここは高校生が来る所だぞ?何勝手に入ろうとしてんだ?」

 

しかし、入ろうとした所で外に出ようとした男子の集団の1人に声を掛けられてしまう。

このユニフォームは……サッカーか?

丁度良いし、事務所の場所を聞いておくか。

 

「あーすいません。ここに通ってる従姉妹が弁当忘れたんで届けに来たんスけど、事務所は何処っすか?」

 

「あぁ、何だそういう事か。事務所なら彼処の昇降口に窓口があるから、声掛けてみな。引き止めて悪いな、坊や」

 

「いえいえ。それじゃ」

 

と、まぁ普通に良い人で対応もスムーズにして貰えた。

その人が手を振って外に出るのを見送ってから、俺は昇降口に向かう。

そしてあのユニフォームの人が教えてくれた通り、昇降口の直ぐ傍に事務所があったので、そこの職員に事情を話す。

従姉妹って事でちょいと怪しまれたが、俺が子供だったので直ぐに信じてもらえた。

そのまま用紙に名前を記入して、俺は職員さんと一緒に学校の中へと入っていく。

っていうか他の学校の生徒を入れて良いのか?

そんな疑問も関係無いのか、目の前を歩く事務の先生は、部活棟の一室の前で止まって振り返った。

 

「ここが空手部の道場よ。もうお昼休憩に入る時間だから、入っても大丈夫だと思うけど……」

 

『あ~……やっちゃった』

 

先生が俺に丁寧に教えてくれてる最中に、件の道場の中から女性の声が聞こえてきた。

っていうかこの声って蘭さんじゃね?

 

『どうしたんだ、毛利?』

 

『あ、数美先輩……お昼、忘れちゃったみたいで……』

 

『えぇッ?どうするの?昼抜きじゃ午後の練習まともに動けないわよ?』

 

『そ、そうですよね……どうしよう……今日は夕飯のお金以外に外で使うお金、持ってきてないし……』

 

「フフッ……どうやら、グッドタイミングで来れたみたいね。早く届けてあげて、坊や」

 

道場の中から聞こえる遣り取りに先生は少し微笑みながら、俺に中へ入る様に促す。

なんつうかこのおばちゃん、この遣り取り楽しんでねぇか?

そんな事を考えていても仕方無えので、俺は溜息を吐きながら道場の扉を開けた。

 

「(ガラッ)すいませ~ん。お届け物っす~」

 

「え?……えぇ?さ、定明君?」

 

「ん?毛利、知り合いの子か?」

 

「は、はい。私の従兄弟の城戸定明君です。昨日から家で預かってるんですけど……でも定明君。どうしてココに来たの?」

 

「だから言ったっしょ?届け物ですって。コレっすよ」

 

扉を開けて声を掛けた俺に集中する視線の嵐。

その視線の主は全員空手着を着たまま、床に座って弁当を広げてる。

まぁ、高校の部室にこんな小さいガキが入ってきたら驚くわな、普通。

そんな視線を全て無視して、俺は困惑した顔で見てくる蘭さんに向けて弁当箱を掲げた。

 

「あっ!?私のお弁当。どうして定明君が?」

 

「いやどうしても何も、家のテーブルに置き忘れてたッスよ?ほい」

 

そして俺の持ってた物の正体に気付いて驚きながら近寄ってきた蘭さんに、俺は苦笑いしながら弁当箱を渡す。

やれやれ、何とか間に合って良かったぜ。

俺から弁当を受け取った蘭さんは笑顔を浮かべていた。

 

「ありがとう定明君ッ!!危うくお昼抜きで練習しなくちゃいけない所だったよ~」

 

「いやいや。間に合って良かったッス。それじゃあ、俺はこれで」

 

「え?もう帰っちゃうの?お昼まだだったら、ここで一緒に食べない?」

 

とりあえず用事が終わったので、俺は帰る事にしたんだが、それを蘭さんに引き止められる。

まぁ一緒に食う事自体は別に良いんだけど、知らねえ人間だらけの中で飯を食うのは気が引けるし……。

 

「いや。俺は飯持ってねぇんで、帰りますわ」

 

「まぁそう言わずに。良かったら、私達の弁当を分けてあげるけど?」

 

「そうそう。遠慮しなくて良いよ定明君」

 

昼飯を持って無いというのを理由に辞退しようとした所で、さっき数美先輩と呼ばれてた女の人がそんな提案をしてきた。

蘭さんも何気にそれに便乗して俺をもう一度誘ってくる。

だが残念。俺はもう既に今日の昼飯のメニューは決めてるのだ。

 

「お気遣いどーもっす。でも、行ってみたいパン屋があるんで遠慮します」

 

「そうなの?……うーん、それじゃあ引き止めちゃ悪いか。じゃあ、気を付けてね?お弁当ありがとう♪」

 

俺がもう既に食いたい物が決まっていて、尚且つ止めないと理解してくれたんだろう。

蘭さんは少し残念そうにしてたが、笑顔で送り出してくれた。

飯を分けてくれると言ってた先輩さんにも謝罪してから、俺は帝丹高校を後にする。

校門から出た俺は首をコキコキと鳴らしながらゆっくりと歩いて、目的のパン屋を目指す。

そこからのんびりニ十分程かけて歩いていき、米花神社という神社近くの曲がり角を曲がっていく。

さーて、何を食おうか……。

 

「あれッ!?お前昨日のッ!?」

 

「ん?……おぉ、確か小島だったか?」

 

考え事をしながら歩いていると、背後から聞き覚えのある声で話し掛けられ振り返る。

すると其処には、少年探偵団一の食いしん坊、小島元太の姿があった。

しかもそのでかい背後からゾロゾロと見知った顔が……。

 

「あっ!?定明さんッ!?どうしてここにッ!?」

 

「あれ?今日は家でゆっくりするってコナン君から聞いてたのに……」

 

「円谷に吉田も……って事は……」

 

「あら?」

 

「どうしたんだよ、オメー等……って定明にーちゃん?何でココに?」

 

オーマイガッ……まぁ、そうなるわな。今日は皆で夏休みの宿題するって言ってたし。

探偵団メンバーの3人から遅れて、年齢詐称組の二人、灰原とコナンも登場。

二人も最初に会った3人と同じく目を丸くしてる。

 

「いや。実はコナンが出た後でリビングに戻ったら、蘭さんが弁当忘れててよ。しゃーねえから学校まで持って行って、今その帰りって訳だ」

 

目を丸くして驚く5人に説明しながら、逆に俺からも聞き返す。

まさか宿題サボって遊んでるとか?

 

「そっちはどうしたんだ?今日は皆で夏休みの宿題やるって言ってなかったっけ?」

 

「それがよぉ。ハカセん家に行ったら、ハカセがクイズを作って置いててよ」

 

「それをヒントに誘拐された自分を見つけてくれ、というゲームを、僕ら少年探偵団に挑んできたんです」

 

「で、その最後の問題を解いて、今その場所に向かってるって訳」

 

上から順に俺、小島、円谷、灰原の順である。

博士……阿笠ハカセの事だろうな。

原作じゃとても気の良い人で、工藤新一の協力者でもある。

今、コナンが付けてるあらゆるアイテムも、少年探偵団のバッジも博士の作品だ。

まぁ、こういう茶目っ気のある人っていうのも知ってたが……。

 

「そりゃまた何とも……そのハカセって人が誰かは知らねえけどまぁ、楽しそうで何よりだな」

 

「ええ。こういう道楽に付き合うのも……『偶に』なら、良い暇潰しにはなるわね」

 

何気に偶にという言葉を強調する辺り、結構頻繁にやられてるんだろうか?

まぁ一緒に住んでるなら有り得る話だけど。

苦笑する俺の言葉に灰原は何とも皮肉げな笑みを浮かべながらそう答える。

コナンは灰原の表情を見て苦笑いしてた。

灰原って自分の年齢隠す気あんのか?小学1年にしては大人っぽ過ぎる自覚無いのかね?

 

「まぁ、良いじゃねーか。大人になってもそういう遊び心を忘れない人っていうのは、結構貴重だぜ?」

 

「あら。裏を返せば、幾つになっても子供っぽいって事にもなるけど?」

 

「ガキの内から老け込んで何にもしなくなるよりは全然マシだろ。やりたい事を法律に触れない範囲でバンバンやるのも、生きる上じゃ大事な事ってな」

 

「なにそれ?私への皮肉のつもりかしら?」

 

「誰もオメーを名指しでなんて言ってねぇって」

 

皮肉げに博士の行動を子供っぽいと言う灰原。

そしてそれを否定せずに視野を変えて博士の行動を擁護するコナンの言い合いを聞いて、俺は苦笑いしか出来ない。

ちょうど他の年齢詐称してない子達は先を歩いてるし、少し焦らせてみっか。

 

「……何かよぉ。確か灰原、だっけ?」

 

「えぇ。何かしら、謎だらけの鉄球男さん?」

 

俺の問い掛けに、灰原は少しクスッと笑った表情でそんな台詞をのたまう。

鉄球男て……まぁ、腰にこんなモンぶら下げてる小学生は俺以外に居ねーだろうけどさぁ。

 

「お褒めの言葉をどうも。まぁそれは置いておいて……コナンと二人で喋ってるのを見てると、とても7歳にゃ見えねえなーと思ってよ」

 

「えッ!?」

 

「げっ!?(バ、バレたッ!?い、いや落ち着けッ!!コイツは只俺達の様子に疑問を抱いてるだけだッ!!)」

 

俺が少し訝しい表情でそう言うと、灰原は少しだけ驚いた表情を浮かべて動きを止めてしまう。

コイツ等って猫を被るのが上手いのに、こういう突飛な質問には弱いな。

隣に立ってるコナンもなんか焦ってる上に小声で「げっ」とか言ってるしよ。

 

「それにコナンも、俺や伯父さんと話す時とは……なんつうか、声の質が違うっつーか……もしかしてそっちが地なのか?」

 

「えッ?え、えっとそれは……」

 

「他にも、子供にしちゃークールというか……はしゃぐ小島達を見る目が保護者、いや年長者のそれに近いって感じるし。小島達と同じでクイズを出された側なのに、仲間と一緒に行動するって訳じゃなく、一歩引いた立ち位置に居ねぇか?」

 

「き、気の所為じゃないかしら?私もクイズは楽しんでたし……あ、あの子達より先に答えが分かっちゃったから、頑張って考えるあの子達を見てて「あぁ、自分もそう考えたなぁ」って思い返して笑ってただけだから……そ、そうよね江戸川君?」

 

「う、うんッ!!ちゃんと皆で考えてたよッ!!そ、それに僕の口調が違うのも、同い年の友達だからだよッ!!さ、さすがにあんな風に話したら、おじさんも怒っちゃうからッ!!」

 

「……そうかぁ?」

 

「「うんッ!!」」

 

首を傾げながら如何にも「んん?」って顔でポロポロと疑問を零す俺に、二人は少し焦りながら弁解の言葉を述べる。

灰原は誤魔化す為にか、少し引き攣りながらも笑顔を浮かべながら手を広げて、如何にも子供っぽく振舞う。

コナンはコナンで考える俺の目の前に立って両手を大きく広げるという大袈裟なポーズを取ってるし。

……まぁ、これで少しは俺の回転の謎を探ろうとするコナンや、俺の能力に興味持ってそうな灰原を牽制出来たと思う。

あんまり俺に首突っ込むと、逆に自分達の秘密がバレそうになるんじゃないかってな。

 

「そか。悪いな、ちょっと年上に感じたなんて失礼な事言ってよ。特に女の子の灰原には失礼だったな」

 

「き、気にしないで」

 

肩を竦めて謝罪の言葉を述べると、あからさまに灰原とコナンは安堵した表情を浮かべた。

それで前に視線を戻し、俺ははしゃぐ小島達の後を着いて行く。

 

『……ねぇ、ちょっと。あの子も鋭過ぎる気がするんだけど……』

 

『確かに今のは焦ったけど、俺達の行動が少し軽率だった所為にも思えるし……判断しにくいんだよなぁ』

 

『それはそうだけど、彼ってまだあの子達とは2歳しか違わないのよ?でも、私達の立ち位置を雰囲気で保護者の様に感じた、なんて普通の9歳児は考えないでしょう?』

 

『あぁ。俺もそこは引っ掛かってるんだ……それに、あの鉄球の謎も、な』

 

『鉄球の?でも彼は、鉄球そのものは特別でもなんでもなくて、回転の技術が特別だって……』

 

『だとしても、探偵事務所で俺達に見せた、あの殆どノーモーションの動きで彼処まで回転させるには無理がある……絶対に鉄球にも何かの秘密がある筈なんだ』

 

離れて俺には会話を聞かれる事は無いと踏んでるのか、コナンと灰原はベラベラと俺の事を話してる。

まぁ、あいつらの肩の上にはハーヴェストを其々一匹づつ配置して盗み聞きしてる訳だが。

にしてもまぁ、まだコナンは俺の鉄球が特別な代物だと考えてるらしい。

考えても考えても手が届かない歯痒さから、髪の毛をガシガシ掻いて唸っている。

確かにコナン達の常識で考えるロジック通りなら、俺の鉄球に秘密があると考えるのは自然だろう。

だが、波紋にしても鉄球の技術にしても『人間の未知の部分を引き出す可能性』という考えを持たなきゃ、一歩だって謎には近づけねえ。

そう考えながら歩いていると、彼等の目的地の米花神社の入り口の階段に到着し、小島達はその階段を登っていく。

まぁ、俺は昼飯を食いに行くという大事な用事があっから、ここで一旦お別れ――。

 

「ん?……何だ?」

 

と、階段を通り過ぎた向こうの道。

その地面に何かキラっと光る物を見つけて、俺は階段を素通りしてそっちへと向かう。

これは……?

 

「ん?どうかしたの、定明にーちゃん?」

 

「……ちょっと。これって……」

 

「灰原は知ってんのか?この『メガネ』が誰のか?」

 

俺が拾ったメガネを見て、背後から近づいてきた灰原が少し目を細める。

今時あまり見ないデザインの丸メガネだ。

 

「……ハカセのだわ」

 

「何?ゴメン定明にーちゃん。ちょっと貸してくれる?」

 

「あ?あぁ……所で、お前等がさっきから言ってるハカセってのはどんな人なんだ?」

 

俺は拾ったメガネをコナンに手渡しつつ、阿笠ハカセの事について聞いてみた。

一応知識として知っちゃいるが、まだ会った事無えのに聞かないのも不自然だしな。

コナンはメガネを真剣な目付きで見つめてて口を開かないが、灰原は俺に向き直った。

 

「ハカセっていうのはアダ名で、名前は阿笠博士(ひろし)。私が今お世話になってる家の主人で、発明家なの。多分クイズの答えは全部揃ったから、この神社に居る筈なんだけど……」

 

「何故か本人の持ち物であるメガネが神社の入り口前の道路に落ちてて、上には……」

 

「おーいお前等~ッ!!ハカセの奴居ねーぞーッ!!」

 

「神社の所には誰も居ませんでしたよッ!!」

 

と、灰原と話していると上に登っていた3人が戻ってきて、ハカセの不在を教えてくれた。

俺は3人の言葉を聞きながら、少し不安そうな顔をする灰原に質問を重ねる。

 

「一応聞くが、クイズの答えは全部合ってるんだよな?」

 

「ええ。問題無く全部解いて、最後に示されたのがここなのは間違い無いわ」

 

「って事は、その阿笠ハカセって人はこの神社をクイズの最後の場所にした……んで本人のメガネが落ちてるって事は、ここに来たってのも間違い無えって事だな」

 

灰原の言葉を聞きながら、俺は一つ一つの事項を確認していく。

まず間違い無く、阿笠ハカセはココに居たって事だろう。

それはメガネの存在が証拠だ。

だが本人はここには居なくて、呼び出された探偵団は待ちぼうけ……うん、事件だね。

 

「定明にーちゃん。これ見て」

 

等々始まったであろう事件の存在に溜息を吐きたくなるが、その前にコナンに呼ばれてしまう。

そっちへ振り返ると、コナンが地面に残ったタイヤの跡を見ていた。

 

「……急ブレーキを踏んだ跡だな……タイヤとタイヤの幅からして、3ナンバー車だろう。しかも外車系の」

 

「多分そう。それにそっちの電柱にも擦った跡が残ってるし」

 

しゃがんでタイヤの跡を覗いていたコナンの真上からタイヤの跡を覗きつつ、コナンが差した電柱に近づく。

後ろからドタドタと近づいてくる音がするに、探偵団のメンバーも見にきてるな。

電柱の中間より上の、俺の身長より少し高い位置に一箇所だけ擦った様な跡。

そこに手を当てると、少し砂っぽい感触と一緒に色が俺の指に付着した。

 

「こんな急ブレーキの跡があるってのに、擦ったのはこの一部分。って事は、車はワンボックスタイプで外車。色は……ミッドナイトブルーっぽいな」

 

「えッ!?車の種類まで分かるんですかッ!?」

 

「ど、どうしてワンボックスなの?大きいなら、もしかしたらトラックかもしれないよ?」

 

スラスラと情報を組み合わせて答えを仮定していく俺に、探偵団のメンバーが驚愕の声を上げる。

振り返ってみれば、コナンや灰原まで目を丸くしていた。

まぁ普通はこんな事まで気付いたりしねえよな。

 

「色は電柱部分に残った塗装色で分かった。それと、車であんな細い傷が残せる部分はボディより飛び出してるサイドミラーしかねぇ。ミラーの位置があそこにあるのは大体ワンボックスに限られてくるからな。トラックならもう少し上だ」

 

「じゃあ、外車だって思う理由は?何かあるの、定明にーちゃん?」

 

「そうね。ワンボックスなら日本の車にも沢山あるわ。どうしてアナタは外車だって言い切ったの?」

 

「それも簡単なこった。日本車のワンボックスの規格でタイヤがここまで幅広い車はまず無え。ここまで広いのはアメリカとかで使われてるワンボックス系統ぐらいに限られる。多分予想じゃ日本で一番出回ってる外車のワンボックスって事で……シボレーのアストロ辺りだとは思うがな」

 

「ほえー……」

 

「す、凄い推理力ですね……」

 

「……(本当に何者なの、この子……)」

 

「そうなんだ。知らなかったなぁ(鋭いし、目の付け所も良い。おっちゃんよりは探偵向きの思考だな)」

 

あくまでも予想だぜ。と前置きをして驚く円谷と吉田から目を離し、俺は再び頭を考える事に切り替える。

どうすっかな……名探偵コナンの知識は殆ど無えから、博士が無事なのかも良く分からねえ。

ほっといて事態がどう進むかも分からねえし、動いた方が良いだろうか?

もしもこのまま話が進んでややこしい事になっても敵わねえし……早い内に動いとくとしよう。

コナンには悪いが順番に推理する気は俺には無えし、俺は俺で事態の解決をするか。

 

「嫌な感じだが、このブレーキも擦り跡もまだ新しい……もしかしたらお前等の待ってたハカセって人が居ないのは、この事故の跡に関係あるかもな」

 

「「「えええッ!?」」」

 

「そうだね。ハカセのメガネは落ちてたのは、このタイヤ跡が曲がった先だったし……無関係とは言えない」

 

「それってもしかして、車に跳ねられたって事ッ!?」

 

コナンの言葉を聞いて灰原はギョッとした顔をするが、俺はそうは思えない。

試しにタイヤ跡を辿って歩いてみるが……うん。大丈夫だな。

俺みたいに確かめに行かなくても理解していたコナンが、心配する灰原に声を掛ける。

 

「いや。車に跳ねられたんなら、このブレーキの跡よりもっと前方にメガネが落ちている筈だ」

 

「だなぁ。それにそこの擦った跡以外に車の部品は落ちてねえし、血の跡も無えって事は、人身事故は起こして無えって事だろうよ」

 

「つまり、定明にーちゃんの言った通り、ハカセはこの事故を起こした運転手のトラブルか何かに巻き込まれた可能性が高いってこった」

 

コナンが探偵団のメンバーに説明してる間に、俺は更に何か手掛かりになりそうな物を探す。

さすがにコイツ等が居る目の前でハーヴェストに持ってこさせる訳にはいかねえから、少し手間が掛かっちまうがな。

ったく、昨日は普通に平和に過ごせたから、この分ならもしかしてって期待してたのによぉ……やっぱ米花町嫌いだわ、俺。

地面の端っこや排水溝を一通り見て戻ろうとした時、電柱の影に何か引っ掛かってる物を発見。

何かのチラシの様だな。

 

「で、でもですよッ!?これもゲームの続きとは考えられませんかッ!?ハカセは『米花町の3つの場所を回って、ワシを助けだしてくれ』って書いてましたよねッ!?3つ目の場所に、自分が居るとは――」

 

「もしかしたらだが、その阿笠ハカセって人はお前等をここに連れて行きたかったんじゃねえのか?」

 

拾い上げたそのチラシに目を通した俺はコナンの予想に異論を話す円谷達の元へ戻り、拾ったチラシを皆に見える様に突き出す。

チラシの広告内容は、この近辺に出来た新しい洋食屋のメニュー表だ。

この時間にここへ皆を誘い出したのが狙い通りなら、丁度今は昼時。

多分だけど、辻褄は合う気がするんだよなぁ。

そう考えていると、灰原がハッとした表情で近づいて、チラシの内容を真剣に見る。

 

「多分、この人の言ってるので間違い無いわ。前に博士、この近くに感じの良い洋食屋を見つけたって言ってたし、このチラシも見ていたから」

 

「なるほど。それで最初の手紙に『お腹を空かせて待っとるぞ』ってあったのか……」

 

「……兎に角、ハカセの携帯に掛けてみるわ」

 

灰原の言葉で辻褄が合ったのか、コナンは顎に手を当ててそう呟く。

なるほど、クイズを解いた皆へのご褒美として、か……良い人じゃねえか。

と、博士の携帯へ電話し始めた灰原だが、時間が経ってもその表情は優れない。

最後には首を振って携帯を耳から離した。

 

「駄目だわ。通じない……」

 

そのセリフが引き金となり、探偵団のメンバーは誰もが不安そうな顔になる。

もう誰もハカセが事件と無関係とは思っていないだろう。

……仕方無え。

 

(来い。『ムーディ・ブルース』)

 

心の中で念じ、俺の傍にスタンドを呼び出す。

薄青色と白のコントラストをもったビジョンの人型だが、肩から頭までエラの様な膜が張っている。

更に本来目のある筈の場所や拳、肩、膝等あらゆる場所に『スピーカー』が付いてて、額には緑色に光るデジタルタイマーの様なモノが見えるスタンド。

その人物やスタンドに過去に起こった出来事の全てをリプレイして何処までも追跡するスタンド、『ムーディ・ブルース』だ。

能力は『特定のスタンドや人間の行動をビデオ映像のように再生できる』という、追跡のエキスパート能力を有す。

但し容姿や大きさは再現できるが、瞬間移動といったスタンドの能力までは再現できない。

再生中はその人物に変身するため敵を欺くこともできるが、攻撃・防御が出来ない無防備状態になるという弱点が存在する。

まぁスタンド使いにしか見えないリプレイだがな。

 

(正確な時間は分からねえ……が、とりあえず30分前まで巻き戻してみるか)

 

ピッピッピッ――ピピピピピピピピッ。

 

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ。

 

最初にメガネを拾った場所に立った俺は『ムーディ・ブルース』の能力を発動させた。

独特なタイマー音が鳴り響き、額のタイマーをドンドンと巻き戻していく。

やがて『ムーディ・ブルース』の額のタイマーが25分前を指すと、『ムーディ・ブルースが』姿を変え始めた。

メタボリックな体型で白髪、髪の毛は後ろのみで立派な髭を蓄えた丸顔の老人の様な出で立ち。

額に『ムーディ・ブルース』のタイマーが付いてるがこの人が阿笠ハカセで間違い無い。

しかし再生(リプレイ)し始めたハカセは、何故か地面に倒れて気を失ってる。

 

『くそっ!!見られたからには仕方無えッ!!この爺さんも拐うぞッ!!』

 

『いきなり飛び出してくるなんて、はた迷惑なジジイだねッ!!』

 

と、ここでハカセとは別の男女の声が聞こえてきた。

声質からして、大体20代って所か?

そう考えていたら車のドアが開く音がして、ハカセに変身した『ムーディ・ブルース』の体が宙に浮かび、タイヤ跡の上でドサッという音と共に宙で停止した。

これはつまり車に乗せられたって事だろうよ。

そう思っていると車のセルモーターを回す音が鳴って、ハカセの体は宙に浮いたまま、俺達が歩いてきた道の向こうへと飛び始める。

やべっ、追っ掛けねぇと見失っちまう。

とりあえず『ムーディ・ブルース』の再生(リプレイ)を一旦停止して、俺は考えているコナン達に向き直る。

 

「兎に角、俺はこのタイヤ跡が向かった方を探してくっからよ。何か分かったらコナンに連絡するぜ」

 

「あ、うん。頼むよ、定明にーちゃん(頭も切れるみてーだし、蘭達の話じゃ相当な無茶もやる性格だ。本音は一緒に探して欲しいが……俺の素の状態をあんまり見せるのも都合が悪い。前に蘭にも怪しまれて何度も正体がバレそうになったし、今回は別行動した方が良いだろうな)」

 

「あいよ。それじゃあな」

 

「もしも分かったら、ハカセの事、よろしくね。城戸君」

 

「よーしッ!!俺達もッ!!」

 

「えぇッ!!こんな時こそッ!!」

 

「少年探偵団、出動だねッ!!」

 

「「「オーッ!!」」」

 

張り切って気合を入れる少年探偵団のメンバーの声を聞いて笑みを浮かべながら、俺は『ムーディ・ブルース』を追い掛けて走る。

さすがに誘拐の途中って事で焦ってるのか、再生(リプレイ)中の車に乗せられた『ムーディ・ブルース』のスピードはとても速い。

所々一時停止して追いついてから再生(リプレイ)を再開の手順を繰り返し、俺は誘拐犯の居るであろう場所へと向かう。

ったく、人様の昼飯を中断させやがって……たっっっぷりと八つ当たりさせてもらうから覚悟してやがれ。

そうして『ムーディ・ブルース』を追いかけて走る事30分、如何にも誘拐犯とか脛に傷持ってそうな奴等の溜まり場っぽい廃ビルまで導かれた。

その場所を確認しつつ、ビルの敷地の中を見ていくと、草むらに隠された車を発見。

ミッドナイトブルーのアストロだ。ミラーにも傷がくっきりと付いてるし……ビンゴだな。

 

「良ーし……『エアロスミス』」

 

『エアロスミス』を呼び出して旋回させ、能力のCO2レーダーを起動。

ビルの中には『4人』の呼吸を確認した。

って4人?……『ムーディ・ブルース』の再生(リプレイ)に入ってた声は、阿笠ハカセを除けば2人。

という事は、もしかして誘拐犯にはまだ他にも協力者が居るのか?

 

ピリリリリ。

 

「ん?……コナンか……はい。もしもし?」

 

『あっ、定明にーちゃん?今、ハカセと連絡が取れたんだ』

 

「マジか?で、ハカセさんは何だって?」

 

誘拐されたのは『ムーディ・ブルース』で確認したから間違い無いんだが、最後の1人の存在が分からん。

何かしらハカセがその情報を持ってりゃありがたいんだが……。

 

『……やっぱりハカセは拐われたんだって。犯人は若い男女2人で、中学生くらいの女の子を誘拐して隠れようとしていた時にハカセと遭遇したらしいんだ』

 

なるほどな……って事はエアロのレーダーに写ってるのはその中学生くらいの女の人って事か。

こりゃハカセは巻き添え食らったって事だろうな。

 

『それで、顔を見られた犯人達はハカセをスタンガンで気絶させて、何処かのビルに監禁したって。目的は女の子の両親に身代金を要求してるらしい。それと場所なんだけど、さっきの神社から大体南西2キロくらいだから米花4丁目辺りにあると思うよ。そっちは何か分かった?』

 

良し、犯人達はボコボコにしても大丈夫な人種と判明した。

手加減の必要は、殺さない程度で良いだろ。

俺はホルスターに収めてある鉄球を確かめながら、今度はこっちから情報を送る。

 

「じゃあ俺からも情報だ。さっきの神社から30分くらい走った場所に、如何にもって感じのビルがあってな。敷地を見たらビンゴだったぜ?」

 

『ッ!?何か、犯人が居る証拠があったのッ!?』

 

「あぁ。敷地の草むらに隠す様にして、ミッドナイトブルーのワンボックスがあった。外車だし、ミラーにも擦り跡が残ってる。まず間違いねぇだろ」

 

興奮してる事には突っ込まず、俺は苦笑しながらコナンに答える。

彼等が今どの辺りに居るかは知らねえけど、これでとりあえず集まる筈だ。

 

「じゃあ、俺はちょっと犯人達に憂さ晴らししてくるから、コナンは警察に連絡しといてくれ。場所は分かるよな?」

 

『なっ!?何言ってやがるッ!!相手は武器持ってるんだぞッ!?良いから俺達が行くまで大人しくしてろッ!!良いなッ!?』

 

と、俺が突入すると宣言すれば、コナンは激昂して俺に言葉を返してくる。

しかも口調が新一に戻ってる事すら忘れて、だ。

……心配してるんだろうが、俺にも引けねえ理由があんだよ。

殺人事件じゃ無くて安心したが、それでも俺の平穏が崩れ始めたって事に変わりは無え。

そのスタートを切り、俺の昼食の予定を潰してくれた犯人達の顔面を潰してやらねぇと気が治まらねえ。

 

「じゃ。連絡頼むぜー」

 

『おい待――』

 

騒ぐコナンの言葉の途中で携帯の電源を落として、俺はビルの中に足を踏み入れる。

エアロのレーダーに映る呼吸は、全て2階の一室に集中してるな。

足音を立てない様に静かに歩きつつ、廊下の突き当り。呼吸の集まる部屋の扉の前に立つ。

レーダーを解除して、っと……。

 

「とりあえず……『ダイバーダウン』を潜行させて……」

 

中の様子を探らねぇと、な。

 

『ムーッ!!ムーッ!!』

 

『ったく。うるさいねぇ静かにしときな』

 

『ッ!?ングッ!!』

 

『止めなさいッ!!君もその子と同じ女性じゃろうッ!!女性の髪の毛を引っ張ったりしてはいかんッ!!』

 

『はぁ?うぜえよこの爺さん。少し黙ってろっての』

 

中を覗いてみると、誘拐犯の女が誘拐した女の子の髪の毛を引っ張っていびってやがった。

パイプ椅子に固定されてるってのに、髪を持ち上げられて痛みで涙が出てる。

その近くにはロープに縛られて床に転がされた阿笠ハカセと、誘拐犯の男の方の姿もあった。

 

『ねぇ修?ホントにコイツ等、身代金受け取ったら返してやるの?』

 

『ハァ?ンな訳ねえだろ?爺さんは山に埋めて終わり。その嬢ちゃんは殺す前に裏ビデオに出て稼いでもらうさ』

 

『あっ。それ良いね♪どっかのキモデブオヤジに可愛がってもらいなよ♪』

 

『ムウゥーッ!?ムーーーーッ!?』

 

良し。もうコレ以上は待つ必要なんざ皆無だな。

俺は『ダイバーダウン』を一度戻してから静かに扉から離れ、廊下の向こう側に戻る。

そこから深呼吸をして、俺は全速力で扉に向かって走った。

そのまま全速力で扉へと駆け寄り――。

 

「――しゃッ!!」

 

ガァアアアアアアアアアアンッ!!!

 

鉄製の扉に『ダイバーダウン』と共に渾身の蹴りを叩き込む。

重厚な鉄の扉が鈍くて大きい音を奏でる中、俺は少し扉から離れて壁に寄り掛かる。

 

『な、何よッ!!今の音はッ!?』

 

『くそッ!!誰だ巫山戯た真似しやがってッ!!爺さんより先にブッ殺してやるッ!!』

 

部屋の中から誰かが扉へ走る音が聞こえ――。

 

「(ガチャッ!!)一体何処のどいつ――」

 

ドグァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

扉が開いたと同時に、扉を開けた男が、『扉から現れたダイバーダウンの蹴りで』部屋の奥へと吹き飛ばされていく。

態々扉を開けてくれてサンキュー。

俺は何の気負いも無しに部屋の中へと入り、奥の部屋へと入っていく。

部屋の途中にあった壁は何か凄い勢いで破壊されていて、それは部屋の向こう側まで続いていた。

 

「修ッ!?修ぅッ!!な、何があったのよぉッ!?」

 

部屋の中に入ると、其処にはパイプ椅子に縛られた茶髪の女の子と、床に転がされた阿笠ハカセの姿があった。

それと、部屋の壁に当たってから床に倒れ、ピクピクと痙攣する誘拐犯の男と、その男に駆け寄る化粧の濃い女の誘拐犯。

気絶した男を必死でゆさぶる女だが、男は中々起きない。

まぁ、死なない程度に手加減したとはいえ『ダイバーダウン』の蹴りを食らったんだ。

生きてるってだけでも儲けモンだろうよ。

『ダイバーダウン』は物体や人間の中に潜行出来るだけじゃなくて、物体にパワーとスピードをこもらせて、解き放つ事が出来る。

だから俺は蹴りのパワーとスピードを扉にこもらせて、あの男が開けた瞬間に解き放ったんだ。

 

「む、んむッ!?」

 

「き、君は……一体、誰じゃ?」

 

と、誘拐犯に囚われていた阿笠ハカセと女の子が俺を見て目を見開く。

まぁハカセ的には助けに来るのはコナンだと思ってただろうし、知らない子供が来るとは思わなかったんだろう。

 

「あ、あんたが……あんたが修をーーーーーッ!!」

 

ハカセの質問に答えようとした俺だが、その前に誘拐犯の女が激昂して襲いかかってきた。

しかも傍に落ちてた鉄パイプを振りかぶって突撃してくる。

おーおー。人間の屑がいっちょまえに激昂しやがって。

俺は慌てず騒がずにホルスターへと手を伸ばして、鉄球を手の平で回転させる。

そのままガンマンの様に早撃ちの体勢で構えて、誘拐犯を待った。

 

「死んじまえッ!!この、クソガキーーーーーーーーーッ!!(ブオンッ!!)」

 

「――おうらぁあッ!!(ドバァッ!!)」

 

「(ドスゥッ!!)――グッ」

 

誘拐犯の振り下ろした鉄パイプが落ち切る前に、俺は下投げの要領で鉄球を誘拐犯の胸に当てた。

だが、誘拐犯は呻くだけで吹き飛んだりしない。

俺が回転を『そういう風に』調節して回したからだ。

まぁその代わりに――。

 

グニュウウウウウッ!!

 

「ぐうあげぇっ!?ふ、服がぁ……ッ!?」

 

鉄球から伝わる回転による捻じれは服に回転を伝え、回転を伝えられた服は渦を巻き込む。

当然その服に身を包む誘拐犯の体も、回転に沿って捩れる服の巻き添えを食う。

体には回転の力を伝えていないから、服の回転に従って体も拗じられてしまうのだ。

その捻じれを利用して作られた、相手を拘束する為の回転。

相手の着ている衣服をそのまま拘束具として利用する鉄球の回転だ。

強力な回転の力によって捻れた姿で、犯人は床に転がる事になる。

 

「暫くそうしてな、ババア」

 

鉄球をキャッチしながらそれだけ言って、俺はまず女の子の口に貼られたガムテープを優しく剥がす。

女の子はよっぽど怖い思いをしていたらしく、涙が溢れて止まらない。

 

「ッ……あ……あ……わ、私……ッ!!」

 

「落ち着いて。もう大丈夫ッスから。直ぐに警察も来ます」

 

錯乱しそうな女の子にそう伝えながら、背後で縛られていたロープを解く。

これで後は警察を待つだけだな。

膝下を固定していたロープも解いた所で、彼女は両手で顔を覆って震える。

あー……気が抜けたら、今までの恐怖が一気に流れ込んできたのか。

 

「か、帰りの途中で……い、いきなり襲わッ……ッ……襲われて……ッ」

 

「大丈夫ですって。もう誰も襲わねぇッス。ちゃんと家に帰れますよ」

 

「ッ!!……グスッ……あ、ありがとう……ッ……本当に……ッ」

 

「いえいえ」

 

震える彼女に、なるべく刺激しない言葉を返してから、俺は阿笠ハカセの傍に寄って体を起こす手伝いをした。

そのまま背後で結ばれてるロープを解いていく。

 

「……あのまま忘れられるかと思ったわい」

 

「そいつは失礼。直ぐにコナン達も来ますから、メガネはそれまで待って下さい」

 

「何じゃと?……君はコナン君達の知り合いなのかの?」

 

ああ、そう言えば名乗ってなかったか。と思い至り、俺は自分の素性をハカセに明かした。

と言っても自分の名前と、自分が毛利家の親戚って事ぐらいだがな。

さすがに小五郎さんの甥っ子というのには驚いたらしく、結ばれていた腕を擦りながら俺を見てくる。

 

「あの毛利君の甥っ子とは、さすがに驚いたわい」

 

「まぁ、皆暫くはそういう反応なんでしょうね……お?サイレンの音だ」

 

「おぉ?どうやら君の言った通り、コナン君達が通報してくれてたらしいのう」

 

「そうッスね……それじゃあ、ハカセさんはこの人を連れて下に降りて下さい。俺はコイツ等を見張ってますんで」

 

「え?じゃ、じゃが……」

 

ハカセは途中で言葉を詰まらせて心配そうな目で俺を見てくる。

まぁ子供1人残してってのも気が引けるか。

だが、俺的には降りてもらった方が都合が良いんだよな。

天国の扉(ヘブンズドアー)』を使う事もそうだが……これからやる『お仕置き』の為には、居ない方が良い。

 

「大丈夫。こんなクソマヌケ共に遅れを取る事は無いんで、早くその女の人を警察に保護してもらって、安心させてあげて下さい。ここに居たらその人には悪影響しか無いっすよ」

 

「う、うむ。分かった」

 

俺の言葉を聞いたハカセは頷きながらも、直ぐに警察を連れて戻ってくると言い残して、女の子を支えながら部屋から出て行く。

これでこの部屋に取り残されたのは俺と誘拐犯二人だけになった。

ハカセが出て行った出口から視線を外して、地面に横たわる女の誘拐犯に近づいてしゃがむ。

 

「よっと」

 

「う、うぅ……」

 

そして、服の締め付けで意識を失った女の髪の毛を束にして掴んで強引に持ち上げ、片手に鉄球を回転させる。

ちょっと『美容師』の真似事でもしますか。

ニイィ、と邪悪な笑みを浮かべながら、俺は回転させた鉄球を女に近づける。

では、いきますねー?

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「警察よッ!!無駄な抵抗はし――」

 

「定明にーちゃ――」

 

「あ」

 

それから間もなくして、スーツを着た凛々しい女の警察の人と、コナンが現場に踏み込んできた。

どっちも緊迫した声で中に入ってきたのだが……。

 

「」

 

「」

 

「さ、佐藤さん?コナン君?どうしたんです……か?……――」

 

「……」

 

俺が現在進行形でやってる所業を見て目を丸くしてフリーズしてしまった。

その後ろから着たもう一人のスーツを着た警察官も、目を点にしてる。

この二人は確か、高木刑事と佐藤刑事だったか?

入り口の所で固まる3人と視線を合わせ、『マジックペン』片手に止まってしまう俺。

現在、俺は誘拐犯の女の髪の毛を全て切ってツルッパゲにし、更に油性マジックで頭にデカデカと『罰』と書いてる途中だったのだ。

綺麗に掛けたので満足しながらその出来栄えを見ていたのだが……ちょっと時間掛けすぎたか?

後から入ってきた警察のお陰で3人が正気に戻るまで、俺達は視線を合わせているしかなかった。

 

 

 

「良い?もし次にこんな事があっても、あんな事をしちゃ駄目よ。分かった?」

 

「心情的には前向きに検討したいと思っております」

 

「コラ。何処で覚えたかは知らないけど、政治家的発言は止めなさい。ちゃんともうしないってお姉さんと約束して」

 

 

 

そして、正気に戻った佐藤刑事から、俺は粛々とお叱りを頂いている。

まぁ聞く気は毛頭無えんだけどな。毛だけに。

 

「例え相手が犯罪者でも、子供の君はあんな事をしてはいけないの。それをちゃんと覚えておいて」

 

「俺、自分の信念は曲げたくないんス。例えソレが法治国家でも」

 

「将来、君に手錠を掛ける事が無い事を、お姉さんは祈っておくわ」

 

どう言っても答えを変える気が無いと判断したのか、佐藤刑事は深い溜息を吐きながらそんな事を言う。

その隣で手帳に俺の話を書いていた高木刑事は「アハハ……」と苦笑い。

っていうか俺、もう警視庁にマークされそうになってね?

 

「ちょいちょい。俺がワッパを掛けられる歳になる頃には、佐藤刑事さん退職してるでしょ?」

 

「君って今『お姉さん』の事を何歳だと思ったのかな?ん?」

 

「さ、佐藤さん?あの、少し落ち着いて……」

 

「お、おい光彦。佐藤刑事がメチャクチャ怖えぞ」

 

「え、ええ……何ていうか、こう……捩れるオーラが出てます」

 

俺の言葉に何を感じ取ったのか、佐藤刑事は笑顔の裏に凄いオーラを漂わせて俺と視線を合わせてくる。

探偵団withハカセも佐藤刑事のオーラにビビりまくりだ。

しまった、今の言い方だと歳の方に聞こえたか。

 

「誤解っすよ。俺は只、その頃には佐藤刑事さんも寿退職してんだろうなーって。そうでしょ?高木刑事さん?」

 

「は?……えぇッ!?こ、ここ、ことぶッ!?」

 

「ちょ!?な、何でここで高木君が出てくるのかなッ!?」

 

俺の言葉に顔を真っ赤に染めて狼狽える高木刑事。

そして高木刑事よりは薄くとも、佐藤刑事も同じく頬を赤く染めていた。

 

「あら?って事は他に相手が?」

 

「(ガーンッ!!)さ、佐藤さ……」

 

「ち、違うわよ高木君ッ!!そ、そうじゃなくて――」

 

「って事は高木刑事が本命?」

 

「だ、だからそれはッ!!――こ、子供が大人をからかうんじゃないのッ!!」

 

「じゃあもう帰って良いっすか?正直腹ペコなんスよ俺」

 

「駄目に決まってるでしょッ!?君にはちゃんとルールを教える必要が――」

 

「それ任意じゃねえし、事件とは関係ないっしょ?って事で俺は帰ります。お仕事お疲れ様でーす」

 

「――」

 

呆然とした表情で固まる佐藤、高木刑事の脇を通り過ぎて、俺は探偵団のメンバーと合流する。

まぁ留まるのもダルかったので、そのまま素通りしていくと、彼等も一緒に着いてきた。

暫く歩いてパトカーの見えない場所まで出てから、俺は大きく欠伸をする。

あの人、説教長いんだなぁ……無駄に眠くなったぜ。

 

「ま、まぁ、ちゃんと事情聴取は受けてたんだし、一応問題は無い……の、かしら?」

 

「んー?まぁ大丈夫じゃねぇのか?……名前名乗ってないけど」

 

「……は?」

 

「そ、そこはちゃんと名乗らないと駄目だよ、定明にーちゃん」

 

「説教に夢中になってちゃんと名前を聞かなかった向こうが悪いと、俺は思うんだよ」

 

「あ、あはは……(サラッと良く言うぜ。適当に佐藤刑事達を煽って質問をズラしてた癖に……)」

 

適当な受け答えしかしてない、と言い切った俺に唖然とした灰原。

そんな珍しい表情を浮かべた灰原の隣で、今度は苦笑いしたコナンがやんわりと注意してきた。

 

「そ、それと紹介するね?この人が阿笠ハカセ。僕らの為に色んな発明品を作ってくれる……て、天才発明家なんだ(ったく。何が『初対面の紹介は大事じゃから、ちゃんと『天才』と言うんじゃぞ』だっつの)」

 

「ほー?天才か?」

 

聞き返した俺に、阿笠ハカセはドヤァな顔をして俺に視線を向けてくる。

 

「ムッフッフ。ご紹介に預かった、『天才発明家』の阿笠じゃ。助けに来てくれてスマンな。定明君」

 

「いえ。別に良いっすよ……それで、ハカセはどんな発明を探偵団の皆に渡したんすか?」

 

「フッフッフ。例えばのぉ――」

 

「はいはいはーいッ!!まずは僕達少年探偵団のライセンスとも言える探偵団バッジですッ!!」

 

と、ハカセが説明しようとした所に円谷が割り込んで、ポケットに入れてたバッジを取り出す。

シャーロック・ホームズのシルエットとdetectiveboysの頭文字を略してDBとデザインされたバッジだ。

円谷はそれを手に持つと、ハカセと同じドヤ顔を浮かべる。

 

「フッフッフ。このバッジは超小型トランシーバーが内蔵されていて、僕達少年探偵団のメンバー同士の交信に使用されているんですッ!!」

 

「交信範囲は半径20キロメートル。発信機も内蔵されており、コナン君の付けとる犯人追跡メガネで位置を受信可能な優れ物じゃ」

 

「犯人追跡メガネ?」

 

二人の説明を聞いていると、コナンの持ってる道具の話になり、コナンは苦笑いしながら頷く。

 

「う、うん。僕のメガネってレーダーが内蔵されてて……こうすると、皆の位置が分かる様になってるんだ。ほら」

 

メガネのフレームの縁を押すとアンテナが伸びて、片目にレーダーが表示される。

おお?これは結構凄いな?

確かにどっちも自慢するだけの事はある代物だ。

感心した表情で俺がメガネやバッジを見ていると、ハカセは更に背中を反らして自慢気にする。

この大きさで半径20キロメートルってのは充分なポテンシャルだろうな。

 

「他にも腕時計型ライトやターボエンジン搭載のスケボーなど、沢山の優れモノを発明しておる。興味があったら是非、ワシの家に遊びに来てくれ」

 

「はい。またこっちに居る間にお邪魔させてもらいますんで……と・こ・ろ・で・?なぁ、コナンよぉ?」

 

「え?…………な、何かな?定明にーちゃん?何でそんな顔してるの?」

 

俺は見下ろして笑顔を浮かべるハカセに言葉を返しながら、俺の隣を歩くコナンに輝くような笑みを浮かべる。

その笑みを受けたコナンは何故か冷や汗を掻きながら一歩づつ俺から距離を取ろうとしていた。

 

「いや何。電話口で俺に随分と舐めた口聞いてくれたなぁ~と思ってよぉ……俺はビックリしちゃったぜ?まさかコナンがあんなに口が悪いなんてよぉ~」

 

「そ、そうだっけ?む、夢中だったから覚えてないや~(やっべッ!?どうやって誤魔化すか考えてなかった……ッ!?)」

 

「俺は覚えてるぜ?『良いから俺達が行くまで大人しくしてろッ!!良いなッ!?』……ってよぉ……まさか年上相手にあんな口の聞き方しやがるとはな……やっぱそっちが素の性格なんだろ?」

 

「ち、違うよ~ッ!!僕はただ、定明にーちゃんが心配だったから……」

 

「……」

 

「う~~~……」

 

チクチクと責める様に追求する俺に狼狽えていたコナンだが、等々子供っぽく唸る様にして誤魔化しに入った。

しかも微妙に泣きそうな顔で、という名演技付きだ。

……コイツ、探偵でもサッカー選手でも無く役者一本でも食っていけんじゃねぇか?

現に俺達の遣り取りを見ていた少年探偵団のメンバーがコナンを心配そうに見てるし……潮時か。

俺は疑う様なジト目を止めて、肩を竦めながら視線を外す。

 

「そうか。疑って悪かったな。どうにもコナンには別の性格があんじゃねぇかって思っちまってよ」

 

「ッ!?う、ううん。僕は大丈夫だよ(あ、あっぶネェ……鉄球の謎を解くどころか、俺の謎が解かれそうになってるじゃねえか……ッ!!)」

 

冷や汗ダラダラで幼い演技をカマすコナンから視線を外し、俺は歩みを再開する。

まぁそこまで深く突っ込む必要は無えよな……『今は』って言葉が付くけど。

その後、俺はハカセから今回のお礼って事で、少年探偵団と一緒にお昼にお呼ばれする事となった。

ハカセの見つけた感じの良い洋食屋という事だったが、確かに飯は美味しそうで種類も豊富。

オマケに住宅街の中に隠れた知る人ぞ知るって感じの落ち着いた店ときて、中々俺好みの店だったぜ。

そんでこの店を気に入った小島達は大はしゃぎ。

 

「ここ、少年探偵団の隠れ家にしようぜッ!!」

 

「あっ!!歩美もさんせーいッ!!」

 

「これこれ。ここはあくまで洋食屋さんであって――」

 

「(ガチャッ)いやー、ホント、良い店っすなぁ」

 

「……ん?」

 

しかし、興奮する小島達を諭していたハカセの言葉の途中で、何処からか聞いた覚えのある声が聞こえた。

それに気付いた俺達は店内をキョロキョロと見渡し――。

 

「料理は美味いしトイレは綺麗。オマケに、オーナーが美人姉妹ときたッ!!おじさん毎日通っちゃおうかなッ!!ぬっはっはっはっは~~ッ!!」

 

「……隠れ家には、ならないわね」

 

「「「「「「「……ハァ」」」」」」」

 

カウンター席に座ってオーナーの美人姉妹を口説いてる小五郎の伯父さんを発見。

灰原のやれやれって感じで呟かれたセリフに、皆揃って溜息を吐いてしまう。

俺は皆とはちょっと違った意味の溜息だがな。

具体的には身内が目の前で女性を口説いてる事に対する呆れの溜息ってヤツだ。

……伯父さんぇ……まぁ……面倒くせーし、蘭さんには黙っておくか。

 

 

 

 

 

その時はそう思ってた俺だが――。

 

 

 

 

 

「聞いたわよ定明君ッ!!ハカセ達と一緒に美味しい洋食屋さんでお昼食べたんでしょうッ!?パン屋に行くなんて嘘まで吐いてッ!!」

 

「だ、だから蘭ねーちゃん。そうじゃなくて……」

 

コナンの説明が足りなかった所為で、蘭さんに理不尽に怒られる羽目になったとさ。

ちなみに伯父さんは既に蘭さんの制裁を受けて、床に転がってる。

俺もああなるんだろうか?

 

「もうッ!!私だけ除け者にして、皆行くなんて酷いじゃない……あっ、そうだ。明日は私部活休みだから、明日は私とコナン君と定明君で一緒にそこに行こうねッ!!」

 

「う、うん。僕は良いけど……」

 

「あっ。俺はパスで。明日こそ噂のパン屋に行きたいっすから――」

 

「うふふっ♪   行 く よ ね ? 」

 

ニコニコ笑顔で俺を見下ろしながら、言葉に迫力を込める蘭さん。

どうやら俺が嘘を吐いてまで昼の誘いを断った事がかなり腹にすえかねてるらしいです。

ちなみにコナンは蘭さんの迫力にビビりながらも俺達から距離を取り、俺にジェスチャーで謝ってやがる。

……ハァ。

結局、俺は強制的に明日のお昼を一緒になる様に約束させられてしまった。

明日こそはゆっくりとしたかったってのによぉ。

 

 

 

「あっ。それとお母さんにも連絡入れておかなきゃ。お母さんも定明君に会いたい筈だもん」

 

 

 

勘弁して下さいって。

 

 




今回の話は名探偵コナン、OVA7の謎解きをスッ飛ばした内容でしたwww
推理モノなのに推理を飛ばすというこの冒涜、どーもすみません。

それとハカセの表記がカタカナなのは、阿笠ハカセの本名が阿笠博士と書いてヒロシと読むからです。


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