ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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前の話でも言いました通り、アレはクロス先のヒントでしかありません。

そう、ヒントなのです(ドン!!)

つまり、直ぐにあのヒントの場所に行く訳では無いのです!!(・・?





君は『引力』を信じ(ry

 

「――は?」

 

爽やかな小鳥の囀りが窓越しに小さく聞こえる晴れやかな朝。

家族3人と一匹で昼食を囲むリビングで、俺こと城戸定明はすっとんきょうな声を上げてしまう。

そして俺がそんな声を上げた原因の人物は、珍しく困り顔で俺に視線を向けていた。

 

「だからね。お母さん、お父さんの出張に着いていかなくちゃいけなくなっちゃったのよ~」

 

「スマンな、定明。まさか急にこんな事になってしまうとは思わなくて……会社の出張で、二週間ほど海外に行かなくちゃならないんだ」

 

困り顔で俺に謝る父ちゃんと、ごめんね~と手を合わせてひたすら謝る母ちゃん。

そんな二人を見ながら、俺は飯を食べる手を止めてしまう。

……色々と言いたい事はあるんだが……。

 

「え?なに?俺は1人で留守番かよ?」

 

「うん~……ホントは連れて行きたいんだけど~……定明のパスポート、まだ作ってないから……」

 

「どうやっても、出発には間に合わないんだ。待つ訳にも中断する訳にもいかない」

 

「いや、それは父ちゃんの仕事だから分かるけど……マジかよ……」

 

昼食に出された素麺をツユに漬けたまま、俺は天を仰ぐ。

別に1人でも寂しい訳じゃ無えけど、飯が作れねえっての。

 

 

 

季節はセミの泣き喚く夏真っ盛り。

学生にだけ許された超大型連休、夏休みに入って何日かした日の朝。

 

 

 

俺は、両親を同時に失う事となった。

 

 

 

いや、別に死に別れって訳じゃねぇけども。

 

「別に行けないのは良いけどよ、飯はどうすりゃ良いんだ?俺、作れねえぞ?」

 

米を炊くぐらいなら問題無いけれど、料理なんて玉子焼きとか簡単なのしか無理だぞ?

呆れながら聞くと、母ちゃんはニッコリと微笑んで手をポンと合わせる。

え、なに?もしかしてパスポートの問題がクリア出来るアテがあるとか?

 

「だ~いじょうぶ♪二週間の間は、親戚の人の家に泊まらせてもらえるから~♪」

 

母ちゃんに期待した俺がマヌケだったようだ。

二週間も親戚とは言え知らない人の家に泊まれっつうのかよ……ハァ

っていうか母ちゃんの親戚なんて生まれてこの方会った覚えが無え。

まぁ赤ん坊の頃の記憶、というか自我が無かったから会ってても知る筈も無えんだがな。

……どうしようか?さすがにパスポート偽造は面倒だし、母ちゃん達が怪しむ。

それにバレたら母ちゃん達に迷惑が掛かるし……しゃあねぇ、素直に親戚の所に行こう。

俺は溜息を吐きながら、母ちゃんに視線を合わせる。

 

「わあったよ。母ちゃん達が居ない間は、その親戚の家に行ってる事にする。こっちは心配しないでくれ」

 

「そうか……ゴメンな、定明」

 

「ほんっと~にごめんねぇ、定明~。お土産いっぱい買ってくるから~」

 

「もう良いって。それより父ちゃんと母ちゃんも気を付けてくれよ?海外も危ねえんだからよぉ」

 

不安そうな顔で俺に謝る両親に苦笑いしながら、俺は二人にも同じ言葉を掛ける。

旅先でトラブルがあって帰らぬ結果となった。なんて冗談でもゴメンだ。

さて、とりあえず、暫くの間はリサリサ達とは遊ぶ予定をキャンセルしなきゃいけねえな。

夏休みに入ってからは毎日の様にリサリサ、アリサ、すずか、なのは、そして相馬と遊んでいる。

アリサも塾とかの忙しいのが一段落したらしく、かなりの頻度でお誘い(という名の強制)されて遊んだ。

今度、アリサの家の別荘に皆で遊びに行く計画も立ててるから、日程が被らなきゃ良いけど……。

アイツ怒ったら大分長いんだもんなぁ。

相馬もやっと怪我から復帰出来て、外で一緒に遊べるくらいには回復してた。

何の怪我については何も聞いてないから分からない。

凄い恨みがましい声で痺れがどうのとか言ってた気がするが、覚えてないのだ。

俺には関係無い、っていうか自業自得だしな。

 

「ちなみに、出発は何時なんだ?」

 

食べ掛けの素麺をズルズルと啜りながら母ちゃんに質問する。

何時準備したら良いか聞いておかねぇと。

すると母ちゃんは何故か妙に焦った顔で視線をあちらこちらに移動させ始めた。

 

「え~っと……え~~っとぉ…………明日……てへっ♡」

 

スパァアンッ!!

 

思わずポケット(エニグマの紙)から取り出したハリセンで母ちゃんの頭をシバいた俺は悪くない。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「つう訳で、明日から二週間の間は遊べなくなっちまった。悪いな」

 

今日も今日とて集合の約束をしていた俺は集合場所の翠屋に足を運び、集まってた面子に事情を説明。

最後に一言謝りながら、ジンジャエールを飲む。

 

「……えっと……あはは……」

 

「夏休み早々に災難ね、ジョジョ」

 

「……まぁ、今回は事情が事情だから、許してあげるわ」

 

「あぁ、悪いな」

 

「良いってば。さすがにそういう理由じゃ仕方無いわよ」

 

と、上から苦笑いのすずか。

そして不憫だという表情を浮かべるリサリサ。

珍しく同情的な視線を送ってくる、少々不満顔のアリサの順だ。

 

「でも、お父さんのお仕事じゃ仕方無いよね……はい、ご注文のシュークリーム、お待たせなの」

 

「そうだな……遊べないのは残念だけど、気を付けていけよ、定明?」

 

「おう、サンキューなのは。相馬もありがとよ」

 

そして、カウンターから注文したシュークリームを持ってきてくれたなのはと、心配してくれる相馬にお礼を言う。

なのはも俺の前にシュークリームを置くと相馬の隣に座る。

俺達の分だけは特別に取りに行ってくれた訳だ。

今日は午後から皆でなのはの部屋でテレビゲームをやるくらいの予定なので、のんびりと翠屋でお茶してる。

 

「それでアリサ。前に言ってた別荘に誘ってくれるって話。被りそうか?」

 

「あぁ、それは大丈夫よ。予定は8月のお盆前だし、充分に海で遊べる時期だから心配しなくても良いわ」

 

「良かったぜ、皆で遊ぶイベントは逃したくねぇからな……あっ、それとよ」

 

アリサの言葉に安心した処で、俺はポケットからあるモノを取り出す。

長方形の形で電子スクリーンの付いた機械、俺のスマートフォンである。

 

「あっ!?定明君も携帯買ったんだねッ!?」

 

「これって、この前発売したばっかりの最新機種なのッ!?わ~、良いなぁッ!!」

 

「あら。これで皆携帯持ちになったじゃない」

 

俺がスマホを取り出すと、皆ワイワイと騒ぎながらスマホを見るが、本題はそこじゃない。

 

「いや、さっき母ちゃんからポンと渡されたばっかで使い方が分かんねえんだ。ワリィんだけど、皆のアドレス入れてくれね?」

 

ズコッ!!

 

そう言うと、皆してハデにズッコケやがった。

一番に起き上がったリサリサが苦笑しながら口を開く。

 

「ジ、ジョジョ?せめて説明書くらいは読まないと駄目よ?」

 

「しゃーねーだろ。出かける時にいきなり渡された上に、説明書無くしたから探しておく、なんて言われたんだぜ?」

 

「それは……まぁ、仕方無い……かしら」

 

疲れた表情でそう言った俺に、リサリサは引き攣った笑みを浮かべる。

俺だって普通なら説明書読んでから使うっての。

でも、出掛けにいきなり渡された上に説明書無くしたのは俺じゃ無くて母ちゃんだぞ?

これで並以上に使いこなせなんて言われても無理だっつの。

しかもスマホって便利らしいが機能がごっちゃごっちゃあるって話だし。

その後は皆に使い方を教えて貰い、皆のアドレスを登録してから、翠屋を後にした。

ちゃんと士郎さん達にも挨拶はして、なのはの家でゲームをして遊んだ。

ジャンルはいっぱいあって、特にレースゲームは白熱したなぁ。

 

「ふっふっふ!!この高町なのはッ!!このゲームは特にやりこんでるのッ!!簡単には抜かせ――」

 

「俺の甲羅を喰らえッ!!」

 

「にゃあッ!?ここで赤甲羅なんてありえな――ッ!?」

 

「もいっぱぁあああっつッ!!!」

 

「に゛ゃーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

「あ、ちょッ!?誰よ橋の真ん中にバナナ置いたのッ!?」

 

「あら、ごめんなさい」

 

「アンタかリサリサッ!?待ってなさいッ!!この一定時間キノコターボで直ぐに追いついて――」

 

「サンダーッ!!」

 

「こるぁあ相馬ッ!!なんでアタシがキノコ使ってる時にサンダーすんのよッ!!」

 

「悪いけど、これは勝負なんだよ」

 

「お?バナナ連弾。ポイポイポイっと」

 

「にゃッ!?み、道を塞ぐ様に綺麗にバラまいてるッ!?こ、このテクニック……ッ!?定明君ッ!!このゲームやりこんでるねッ!?」

 

「答える必要は無い」

 

「「「定明(ジョジョ)となのはは少し自重しろ(して)ッ!!」」」

 

魔王亀を使ったなのはを赤甲羅で吹き飛ばし、道にバナナ置きまくったら怒られたが。

次にアリサと交代したすずかには緑の怪獣で突き放されたが、とても楽しかった。

やっぱりダチと遊ぶこの日常は楽しいぜ……早く戻りてぇな。

そんな感じでゲーム三昧の俺達だったが、楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、解散時間になる。

そして変える前に、俺が携帯を持った記念って事で皆と写った写真を撮り、全員で共有保存した。

こーいう何気ない日常の写真ってのは、こまめに撮ると思いでに残りやすいからな。

俺とリサリサは電車で来たが、帰りはアリサの家の車ですずかも一緒に送ってもらえる事になってた。

相馬は歩いて帰れる距離だからという理由で歩いて帰ってしまったけど。

……そういや何か気になる事言ってたな?何か、『待ち合わせに遅れなければ良いけど……』とか。

一体誰と待ち合わせてるんだ?……まぁ、多分親だろーな。

そう考えておこう、うん。

 

「すずかお嬢様。到着致しました」

 

「あっ、ありがとうございます。鮫島さん」

 

そうこう考えてる間にすずかの家に到着した様だ。

運転してくれた鮫島さんにお礼を言って、すずかはドアから外へ出ると、振り返って笑顔で手を振った。

 

「それじゃあね。アリサちゃん、リサリサちゃん。それと定明君、気を付けてね?」

 

「またね、すずか」

 

「今日は楽しかったわ。また誘ってね、すずか」

 

「ありがとよ。お前も怪我とか風邪に気を付けてな?」

 

「うんっ。皆、またね~」

 

車が走り出すまですずかは手を振り、やがて家の中へと戻って行った。

そして、車を出してくれたアリサは最後として、次は俺が降りる順番になる。

暫く適当に3人でお喋りしていると、俺の家へと到着した。

 

「じゃあね、定明……皆で旅行行くんだから、怪我とかするんじゃないわよ?」

 

「ふふっ。偶には電話してちょうだいね、ジョジョ」

 

「わあってるって。二人も気ぃ付けろよ?また時間が空いたら連絡するわ。んじゃーな」

 

見送ってくれた二人に手を振ってから鮫島さんにもお礼を言って、俺は家に入る。

そして暫くは夕食を作れないからと、かなり豪勢にしてくれた母ちゃんの夕飯に舌鼓を打った。

ちゃんとピストルズは出ない様に制御してたから面倒も起きなくて良かったぜ。

既に母ちゃん達の荷物は用意されていたので、俺も夕飯を食べて直ぐに荷物を用意する事に。

ココ・ジャンボの事が心配だったけど、近所の人が預かってくれるらしい。

それと何故か、持って行く着替えは数日分で良いらしい。

明日空港に行く前に配送業者に頼んでくれるとか。

まぁそんな感じで、俺も朝早くに新幹線に乗る事になるので早めに就寝……する振りをした。

ちょっとやる事があるからだ。

俺は夜中にベットから起き上がって、二人の寝室に忍び込む。

ソォ~っと中に入ると、父ちゃん達は寝息を立ててグッスリと寝てる。

 

「……シンデレラ」

 

小さく呟き、運勢を操作する事が可能なスタンド、シンデレラを呼び出す。

これで父ちゃん達の運勢を『不幸に近づかない』程度に固定する。

何でもかんでも強力な運勢にするには30分毎に口紅を塗ったりするという、能力を持続させる鍵の様な物が必要になってしまう。

だが、ある程度の小さい運勢固定なら問題は無い。

これで二人の海外での生活も問題無く過ごせるだろうよ。

……心配し過ぎかもしれねぇけど……大好きな家族だからな。

 

「……お休み。父ちゃん、母ちゃん」

 

二人にそっとお休みの挨拶をしてから、俺も本当に就寝した。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

明けて次の日の昼過ぎ。

俺は出る前に母ちゃんから貰った地図片手に、東京都米花区米花町の駅。

その改札を出た広場に居た。

この町に母ちゃんの、というか俺の親戚が住んでるらしいんだが……。

 

「……」

 

貰った地図に目を落とす俺。

2,3本の道路が書いてあるだけの、超が付く程にアバウトな地図。

何か適当に四角い建物の部分に『コ・コ・♡』と書いてある。

住所はちゃんと書いてあるのに名前が無いとか、何この微妙な手抜き?

……帰ったらハリセンで100HITオラオラくらいはしなきゃな。

溜息を吐きながら地図を片手に脱力する。

どうやら俺は知らない町でこの地図片手に親戚を探さなきゃならねぇらしい。

何かの罰ゲームかよ。

 

「ハァ……しゃーねぇか……まぁとりあえず、まずは場所を確認しなきゃな」

 

俺はまず昨日貰ったばかりのスマホのマップナビを立ち上げて、目的地の住所を探す。

えっと……米花区米花町の……おっ、あったあった。

ここからだとちょっと離れてるけど……金使うのも勿体無えしなぁ。

一応自分の貯金がこの前より増えて9万くらいあるけど……あんまり使わねえ様にしねえといけねぇし。

面倒だが、暫く厄介になる街なんだ。少し歩いて見て回るとすっか。

ガヤガヤと騒がしい街中を歩き、住宅街の方へと向かう。

街中は結構発展してるし、ビル街ものどかな方だ……少し海鳴と似てる気がするな。

まぁ交通の量は米花町の方が圧倒的に多いけどよ。

 

「……しかし、米花町?何か聞き覚えがある町名なんだけどなぁ……なんだっけ?」

 

嫌な感じだな……この、喉に魚の小骨が引っ掛かった様な違和感。

う~ん……まぁそれを抜きにしても、これくらいのどかならゆったりと過ごせそうじゃ――。

 

「ひ、引ったくりよぉーッ!!誰か捕まえてーッ!!」

 

――ねぇな。

 

背後から聞こえた悲鳴に振り返ると、其処には原付きスクーターに二人乗りしてフルフェイス被った二人が、私服の女の人からバッグを奪って逃走するトコだった。

しかも後ろをコッチ見たままこっち向きの道路を走ってくる。

……何でこっちに来やがる……あーもー。

 

「へへっ!!頂き――」

 

ズギュウゥンッ!!ガシッ!!

 

「だぜ?――え?」

 

さすがに見過ごすのもアレなので、スタープラチナの腕で傍を通り抜けようとした原付きの前輪を掴んだ。

これにより発生した慣性の法則に従って、ひったくり犯達の体は前輪を支点に180度回転し――。

 

「「(ガシャアアッ!!)ごはぁッ!?」」

 

そのまま地面に顔面から突っ込む結果となった。

片方はバイザーブッ壊れて目の辺りが見えてるけど、まぁフルフェイスしてるから死にはしねぇだろ。

地面に倒れて呻くひったくり犯達を尻目に、俺は素知らぬ顔で歩道を歩いて通り過ぎる。

それに背後から複数の足音が聞こえるし、後は他の人達が何とか――。

 

「この盗人めッ!!」

 

「ハ、あぐ……ッ!?くそッ!!(バッ!!)」

 

「ん?おわッ!?」

 

何故か後ろから聞こえた声に反応したひったくりが、俺の首に腕を回して持ち上げてきやがった。

くそ、巻き込まれるとかマジかよ。

 

「く、来るんじゃねぇッ!!このガキがどうなっても良いのかコラァッ!?」

 

「ッ!?」

 

「しまったッ!?」

 

持ち上げられたかと思えばいきなりひったくりは振り返り、俺の視界も反対向きにされる。

その先には、さっきのバッグを取られた茶髪のボブカットヘアにカチューシャの女の人と、他に二人居る。

黒髪のフワフワしたヘアースタイルの……ボーイッシュな女の人と、ストレートロングで天然ウェーブがかっているピンと跳ねた前髪の女の人の3人だ。

他の人達は「何だ何だ?」とガヤガヤと騒いでいたが――。

 

「(シュピッ!!)オラァッ!!それ以上近づくと、このガキの顔刺すぞッ!?」

 

「ッ!?……痛って……」

 

ひったくりがナイフを取り出して俺の頬に当てた瞬間、野次馬が悲鳴をあげて後ろに下がった。

っていうかチョッピリ刺さってるじゃねぇかボケ。

目の前の茶髪のボブカットの女の人も悲鳴を上げ、他の二人は悔しそうな表情でジリジリと下がっていく。

……着いてそれ程しねー内に何でこんな目に合わなきゃいけねーんだ。

 

「へへっ!!動くんじゃねぇぞッ!?おいッ!!早くバイクを起こせッ!!逃げるんだよッ!!」

 

「い、痛てて……あ、あぁ」

 

と、俺を抱えた男がもう一人のコケた仲間に呼び掛ける。

どうやら逃げる準備をしようとしてるらしいが……俺が大人しくしてると思ってんのか?

俺は下向きに下げていた手を、腰のホルスターにさり気なく寄せる。

前に忍さんに頼んだオーダーメイドのベルトとバックルだ。

丈夫な革製のベルトで、鉄球を入れるホルスターを付けても曲がらない固さを誇る。

そのホルスターに入れていた鉄球を一発取り出して、手の平で回転させる。

俺が何かをしようとしてるが分かったのか、目の前の3人が焦った表情で首を小さく横に振った。

危ないから止めろってか?……スタンドは大っぴらに使えないが、俺はそれだけじゃねぇんだよ。

 

「ん?おいガキッ!!テメェ何しようとしてん――」

 

やがて鉄球の回転の音に気付いたひったくりが声をあげようとしたタイミングで――。

 

「よっと(シュバッ!!)」

 

バギョオッ!!!

 

手首のスナップだけで鉄球を投擲し、ひったくりのバイザーが壊れた隙間を狙って叩き込んだ。

 

「(メキィ)……ぷっ……かっ……」

 

何かを潰す鈍い音と、目の前の女の人達が驚いた表情を浮かべるのを見ながら、俺はナイフを叩き落として戒めから脱出する。

ったく、面倒くせー事しやがって。

溜息を吐きながら振り返ると、俺を捕まえていた男のバイザーの隙間でギュルギュルと回転する鉄球を発見。

その鉄球の回転の隙間から血を吹き出しつつ、ゆっくりと後ろ向きに倒れるひったくりその1。

 

「なっ……なぁ……ッ!?」

 

そして立ち上がった体勢で原付きを途中まで起こしたひったくりがビビった様な声を出す。

しかも俺がその声に反応して振り返ると、ハッとした様に慌てて原付きを完全に起こした。

野郎、逃げようってのか?そうは問屋が――。

 

「ひ、ひぅッ!?――」

 

「シッ!!」ドギュウゥッ!!

 

卸さねぇよ、ボケッ!!

原付きを完全に起こした引ったくりが飛び乗る様に原付きに跨がろうとしてる所に、2つ目の鉄球を投擲。

それは、飛び乗ろうとしたひったくりと原付きのシートの間に入り――。

 

ギャルルルルルルルッ!!!

 

「ッ――ッ――ッ!!?」

 

飛び乗ろうとしたひったくりの股とシートの間に挟まり、激しい回転を巻き起こす。

ハンドルを握ったままの体勢で真上を向いてビクンビクンと激しく痙攣するひったくり。

しかもヘルメットの下の隙間からブクブクと泡吹いてやがる。

っておいおい、まさかこのままじゃ失禁すんじゃねぇのか?ヤバイ、俺の鉄球が汚れるッ!!

 

「コオォ……ッ何時迄も人様のモンに跨ってんじゃねぇッ!!(バキャアッ!!)」

 

波紋の呼吸を整えて少しだけ身体強化を施し、飛び上がった勢いのままにヘルメットの顎部分を蹴り飛ばす。

その勢いに従って、ひったくりの体は歩道にブッ倒れる。

どうにか鉄球が汚え黄金水で汚れるのが阻止できたのを確認して、波紋の呼吸を止める。

そして回転が弱まった鉄球がひったくりその1の顔と、原付きのシートの上から飛んで戻ってきたのをキャッチしてホルスターに収めた。

フゥ、少しはスカッとしたぜ。

コキコキと首を回してから地面に落としたバッグを拾って担ぎ直す。

と、目の前に女物の白いバッグが転がってるのを発見。騒動の元はこれかよ。

 

「よっと……これっすか?」

 

「へ?…………あ、あぁ。うん」

 

「ほい。どうぞっと」

 

俺は拾い上げたバッグを持ち主だと思わしき茶髪の彼女に投げて渡す。

ポケッとしていたが、それを慌てながらも女の人が受け取ったのを確認して、俺はサッとその場を離れる。

 

「あっ!?ちょっと君ッ!!待ってッ!!」

 

「ッ!?追い掛けようッ!!」

 

おかしい、何故追っ掛けようって話になるんだろうか?

アレか?逃げる者を見ると追い掛けたくなるって習性か?獣じゃあるまいに。

チラッと後ろを見ると、黒髪の二人がかなりの速度で追い縋ってくるではないか。

どうやら身体能力はかなり高いらしい。

ちっ、面倒事に巻き込まれるのは金輪際ごめんだぜ。

しょうがなしに、俺はまた体を強化して全速力を叩き出す。

 

「は、速ッ!?あの子結構大きい荷物持ってるよねッ!?」

 

「チッ!!バイクだったら直ぐ追いつくのに……ッ!!」

 

「ハァハァ……ッ!?ま、待ってよ二人共ーッ!!」

 

お?あの茶髪さんはそこまで運動出来る訳じゃ無いらしいな。

これはチャンスとばかりに更にスピードを上げて、俺は住宅街の細道を通って彼女達を撒いた。

 

「フゥ……やっと撒いたか」

 

もう追ってこないのを確認してから、俺は裏道から表通りへとゆっくり向かう。

今日中に親戚の家を探さなきゃならねぇのに、あれで警察に事情聴取とかで捕まっちゃ面倒だ。

まぁポークバイ帽子を目深く被ってたし、顔まではバレてねぇだろ。

俺はあのひったくりに巻き込まれただけだし、後はあの人達に任せ――。

 

「居たぁッ!!」

 

「は?」

 

「おっ!?やっぱ予想通りこの道に来たかッ!!」

 

表通りの見える所まで歩いたら、さっきの黒髪の女の人2人が、道を塞ぐ様に現れた。

え?まさかここに出ようとしたのがバレてたのか?

くそ面倒くせえぞこの展開。

これ以上道草食うのも嫌だし……ちと本気出して……。

 

「さぁ、もう逃がさないよ?大人しく話をしよう。な?」

 

「別に怒ってるわけじゃ無いんだよ?ただ、巻き込んじゃったお詫びを――」

 

ダンッ!!

 

「「ッ!?」」

 

まずは塀に足を掛けてジャンプして――ッ!!

 

「はっ!!ほっと!!」

 

反対のアパートの柵を蹴り飛ばし――。

 

「嘘だろッ!?」

 

「と、飛んだ……ッ!?」

 

反対の家の屋根に飛び移るッ!!

下で驚いてる声を無視して、次の家の屋根に飛び移る助走を――。

 

「ッ!?あっちだッ!!」

 

「あっ!?う、うんッ!!」

 

付ける振りをして、声とは反対側へと走る。

そのまま静かに道路へと降りて、二人の姿が見えなくなったらそのまま目的の場所を目指してひた走った。

頼むからこれ以上俺を面倒事に巻き込まないでくれよ、マジで。

ある程度走った所でスピードを緩め、俺はビル街の中へと姿を消す。

……拝啓、外国に居るであろう母ちゃん殿……俺、この街で二週間もやってく自信が無いです。

これから暫くの生活を予想して溜息が自然と漏れてしまう俺であった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「さて、ここらが米花町五丁目か……」

 

あれから30分程して、俺はやっと目的の場所へと辿り着いた。

いや、まぁその辺りの店とか商店街を見て回ってたから遅くなったのは自業自得なんだけどな。

兎に角目的の住所まではこれたんだが、ここからはも一つ面倒な探索作業になる。

番地までは書いてあったっていうのに……。

 

「何でビルの場所はこのいい加減な地図を頼りにしなくちゃいけねえんだか……やってらんねぇぜ」

 

そう、住所以外の手掛かりは母ちゃんが書いた手抜き地図だけなのだ。

母ちゃんの地図には大まかな道路は書いてあるけど、ビルは目的の場所以外は書いてない。

しかし周りはビル街で判別が付け難い。

だから後はこの地図を頼りに探すしか無いって事。

はぁ~面倒くせ……ペイズリーパークの能力でも使うか?

でもここまで来たら直ぐ近くの筈なんだがなぁ。

 

「「「あーーーーーーーッ!!?」」」

 

……この街は呪われてるんじゃねーのか?こんな短い間隔で人の叫び声は聞こえねぇだろ普通。

またどっかで揉め事でも起きてん――。

 

ガシッ!!

 

「……はい?」

 

何事かと考えていた俺の体に巻き付く誰かの腕。

……俺はまた厄介事に巻き込まれなくちゃいけねえのか?

ってか誰だ?重てーんだけど。

腕の拘束自体はちょっとキツめで、簡単には外れなさそうだ。

まぁ回転の技術を使えば簡単なんだけどな。

 

「やっと捕まえたよッ!!もう逃がさないからなッ!!」

 

と、混乱する俺の頭上、というか結構近い場所から聞こえた甲高い声。

あれ?この声ってまさか?

 

「……あっ。さっきのおねーさんスか?」

 

振り返って見上げてみると、何故か驚いた表情で俺を見下ろすボーイッシュなお姉さんのアップ顔が。

ってか何故驚く?驚きたいのはこっちなんだが?

更に視線を横にズラすと、同じく驚いた表情のお姉さんが二人居る。

何だよこの偶然?

 

「ビックリしたよ。あの後、屋根に登った君が降りてくるのを待ってたのに全然降りてこないから……それより、良く僕が女の子だって分かったね?」

 

「は?」

 

「いや、僕って私服だと、良く男の子に間違えられるからさ。一発で女の子だって見抜ける人はそう居なくてね」

 

何故か自分で自虐的な事を言ってカラカラと笑うお姉さん。

いや、自分で言う事じゃ無いだろ?

確かにズボンを履いてる上に……まぁその……女性の象徴がなだらかな所為で、一見男にしか見えない。

俺が見抜けた理由だって、女性ホルモンの匂いが強かったからっていう裏ワザな理由なんだけどな?

ハイウェイスターの副作用で匂いに鋭くなってたから分かっただけだ。

そんな事を考えてると、茶髪にボブカットのお姉さんがニカッと笑いながらグシグシとポークバイ帽の上から俺の頭を撫でてきた。

 

「まぁ兎に角、さっきはありがとうね坊主。私のバッグを取り返してくれて」

 

いや、取り返したっつうか……。

 

「……俺は巻き込まれただけっすから」

 

「あっ、そうそう。ごめんね、あんな危ない事に巻き込んじゃって……怪我は無い?」

 

俺が茶髪のお姉さんに答えると、黒髪のロングヘアーのお姉さんがしゃがんで俺の頬に手を添えてくる。

それで邪魔になると思ったのか、ボーイッシュなお姉さんが俺から離れて場所を開けた。

まぁ、あんな風にナイフを近づけられたんだから怪我してると思うのは普通だろう。

実際は大した怪我はしてねぇけど。

 

「特に怪我は無いッスから気にしねーで下さい。それより俺ちょっと、いやかなり急いでますんで。んじゃこれで」

 

まだ日は落ちてねぇけど、早めに家を見つけて体を休ませておきたい。

早起きしたんだから眠いんだよなぁ。

しかし動き出そうとした俺の肩を、また別の手がギュッと握ってきて動きが取れない。

振り返ると、またボーイッシュなお姉さんがニッコリ笑って俺の肩を掴んでいやがりました。

 

「まぁ待ちなって。この狭い日本、そんなに急いで何処行くのさ?」

 

「何か急ぎの用事でもあんの?」

 

俺を掴むお姉さんと茶髪のお姉さんは交互に質問してくる。

……あれ?何で俺、捕まらなきゃいけねえんだ?

溜息を吐きたくなるが初対面の相手の前でそれもどうかと思い、溜息を押し殺して、俺は3人に向き直る。

 

「今日中にあるビルを探さねーと、今晩宿無しになっちまうんスよ」

 

「え?宿無しって……」

 

「あー……実は……」

 

とにかく納得してもらって離してもらう為に、俺は自分の事情を話した。

海鳴市から初めてこの街に来た事、両親が海外出張に出てしまった事。

そしてこの街に居るであろう親戚の家を探してた事。

母ちゃんから貰った地図がいい加減で困ってしまった事などを。

 

「なるほど……それで、とりあえず地図に書いてあった米花町五丁目に来て、これからそのビルを探す所だったと」

 

「まぁそういう事っす」

 

「へぇー。小さいのに偉いじゃん、坊主」

 

「うん。コナン君とそんなに変わらないくらいなのにね。何歳かな?」

 

「9歳ッスけど?」

 

しゃがんで目線を合わせながら質問してくるお姉さん達に答えていく。

っていうか『コナン君』って誰のこ、と?……あ、あれ?

 

 

 

ち、ちょっと待て?『コナン』?……何か聞き覚えが……っていうか、目の前の人達って――。

 

 

 

「よし。これも何かの縁だ、僕も一緒に探してあげるよ。ちょっとその地図を見せてくれ」

 

さっきのお姉さんの言葉が引っ掛かって嫌な汗をダラダラと流していると、ボーイッシュなお姉さんが笑顔で手を差し出してくる。

あぁ、段々と思い出してきた……『米花町』『コナン』それと目の前のどっか見覚えのある『女子高生』。

これってつまり――。

 

「あっ、ゴメンゴメン。自己紹介してなかったね?僕の名前は『世良真純』。一応、『探偵』かな」

 

「何言ってんのよ。世良さんはれっきとした『名探偵』じゃないッ!!それと坊主、あたしは『鈴木園子』よ。よく覚えておきなさい」

 

「もうっ園子ってば……私は『毛利蘭』っていうの。よろしくね」

 

八重歯を見せて笑う世良さん。

腰に手を当てて上から目線で尊大に構える鈴木さん。

そして見下ろしながらも笑顔で挨拶してくれた毛利さん。

そんな3人に視線を向けられて名前を名乗るのを待たれてる俺。

 

 

 

――良し。

 

 

 

――逃げよう。

 

 

 

「ッ!!(ダッ!!)」

 

「え?……あっ!?」

 

「逃げたッ!?待てぇええいいッ!!」

 

「えぇええッ!?ま、また走んのーーーッ!?」

 

背後に向かって猛ダッシュした俺に、背中から追い掛ける足音と声が聞こえてくる。

だが、俺はそんなの関係無いとばかりにひたすら走った。

ヤバイヤバイヤバイッ!?ここって完璧に『名探偵コナン』の世界観じゃねぇかッ!!

何で『米花町』って書かれてる時点で気付かなかったんだッ!?

……いや、前世でもあんまり詳しく知らなかったし、地名も殆ど覚えてなかったのはそうだけど。

大体世良なんて探偵居たか?コナンなんて全然覚えてねぇよ。

でも、一個だけ言えるし確実な事がある。

 

――あの人達と関わりを持ったら、絶対に殺人事件に巻き込まれる。

 

これだけは間違いねえ。そしてそんな面倒の極みは絶対に避けるべきだ。

背後から聞こえる声を無視しつつ、俺は曲がり角を曲がる。

仕方無え、親戚探しは後にしよう。

今はとにかく背後から忍び寄る死神の関係者から身を隠さねぇと。

 

「ん?なんだぁ、あいつ?」

 

「随分急いでますね?……もしかして、何かの事件でしょうかッ!?」

 

「何かあったのかな?」

 

と、曲がり角を曲がったその道の先に、何やら見覚えのある集団が居た。

そばかすの賢そうな子とおにぎり頭の大柄な子、そしておかっぱ頭にカチューシャを着けた女の子。

胸に付けたアルファベットのDとBを模したバッジ……少年探偵団じゃねぇっすか。

 

「……?(小学生?……にしては、走るのが速過ぎるわ……一体?)」

 

更に奥には俺を見て不思議そうに首を傾げるクールっぽい女の子。

そして――。

 

「(ん?蘭?それに世良も?……あの子供を追いかけてるのか?)……おーいッ!!蘭ねぇちゃーーんッ!!どうしたのーーッ!?」

 

『見た目は子供、頭脳は大人』『口癖はバーロー』『必ず事件に遭遇する死神体質』とまで言われる『平成のホームズ』。

『東の高校生探偵』と言われた『工藤新一』が謎の組織に飲まされた薬で小学生になってしまった姿。

年齢詐称で有名な、あの『江戸川コナン』が俺の背後から追ってくる毛利さんに俺を挟んで声を掛けてる。

oh……等々本人ともエンカウントしちまった……っていうかこれって、まさか――。

 

「ハァッハァッ!!コ、コナン君ッ!!その子捕まえてーーーーッ!!」

 

「ハッハァッハァッ!!か、彼は事件の重要参考人だーーーッ!!」

 

「ちょっ!?世良さんッ!?良いのそれッ!?」

 

「ハァッハァッ!!う、嘘は言ってないだろ?」

 

やっぱり挟み撃ちですか、チクショウ。

事件の重要参考人、という言葉を聞いて江戸川の眼鏡の奥がキラッと光る。

……あながち間違いじゃねぇから否定し辛ぇんだよなぁ。

更に奥のクールそうな女の子……工藤新一が小さくなった薬、アポトキシン4869を作った張本人。

元は黒尽くめの組織で『シェリー』というコードネームで呼ばれていた、18歳の天才科学者。

本名『宮野志保』改め『灰原哀』以外の子供達まで顔に気合を入れる始末。

……まさか既に、俺はあの死神野郎に魅入られてたんじゃねーだろーな?

ちくしょう、人の死体なんて見たくもねぇってのに……とにかく、捕まって堪るか。

 

「おいッ!!止まれッ!!」

 

毛利さんと世良さんの言葉を受けて、江戸川は声を張り上げて俺に停止を呼び掛ける。

さすがに向こうからすれば年下の小学生にボールを飛ばす事はしない様だ。

まぁ身体能力の点で、俺は普通の小学生と変わらないと踏んでる筈。

まさか俺が人を超える為の技術を持ってるなんて、幾ら名探偵でも予想も付かないだろうよ。

なら、その侮ってる隙こそチャンスッ!!

 

「気を付けろッ!!その子、かなり素早いッ!!加減したらあっという間に抜かれちゃうよッ!!」

 

おーいそういう事言うんじゃねーよ。、世良さんとやら。

そんな事言ったらアンタ――。

 

「ッ!?……面白れぇ……ッ!!オメーら下がってろッ!!」

 

ってなるだろーがよ。好奇心の塊みてーなあのバーローさんなら。

走って向かう俺の前に立ちはだかる江戸川。

その瞳は挑戦する心意気に染まっていた。

頼むからこれ以上俺を運動させないで貰えませんかね?

そう思いつつ走っていると、江戸川は体勢をグッと屈めて――。

 

「ッ!!」

 

自慢の脚力を生かして俺の前に躍り出た。

飛び掛かる様に広げられた両手が、俺を掴もうと向かってくる。

――簡単に捕まる訳にゃいかねぇんだよ。特に死神って言われてるアンタにはな。

 

「よっ!!」

 

「ッ!?」

 

俺は飛び掛かる江戸川の下を縫う様にスライディングして抜け――。

 

「どりゃあッ!!」

 

「逃がしませんよぉッ!!」

 

「ほいさッ!!」

 

しゃがんだ体勢から波紋で強化された脚力を生かして一気に飛び上がり、少年探偵団の円谷と小島の頭を飛び越える。

女子の向田歩美ちゃんと灰原は飛び上がった俺を見て驚愕した表情を浮かべている。

まぁしゃがんだ体勢から二人の頭上を余裕で超えるジャンプは、さすがに驚くか。

 

「うわぁッ!?マジかよッ!?」

 

「と、と、と、飛んで逃げられましたぁッ!?」

 

「いや飛んでねぇから」

 

それじゃまるで俺が飛行して逃げたみたいな言い方だからな?

頭上を飛び越えながらも円谷の発言にツッコミを入れて、俺は着地してから一気に走りだす。

これじゃ落ち着いて親戚の家を探すなんて無理だ。

どうにかして隠れられる場所を探さねぇと。

頭の中でプランを立てつつ背後を見ると、追いかけて来る女子高生×2と少年探偵団のメンバー。

……いい加減諦めてくれねぇかなぁ?

そりゃ、いきなり走って逃げた俺にも非はあるとは思うけど……。

傍に居るだけで事件に巻き込まれると言われる存在の傍には居たくねぇって。

……良し、次の曲がり角を曲がって――。

 

『お、おいコナンッ!!逃げられちまったぞッ!?』

 

『ハァ、ハァ……み、見失っちゃいましたぁ……』

 

『ッ!?馬鹿な……ッ!?俺達と距離が離れて、まだ10秒も経ってねぇぞッ!?』

 

俺が小さな公園へと足を踏み入れたのを追ってきた探偵団と世良さん、そして毛利さん。

彼等は皆揃って驚いた顔で辺りを見回している。

……早く帰れって。

実際には、俺は彼等の眼と鼻の先に居るんだが、スタンドを使って姿を隠してる。

磁力を操るスタンド、メタリカの能力を使ってだ。

そのメタリカの磁力で、砂の中に含まれた鉄分を操って体中に纏い、保護色の様にして隠れてる。

ここでジッとしてる限り、見つかることは無いだろう。

 

『ど、どっかその辺に隠れてんじゃねぇのかッ!?』

 

『元太君の言う通りですよッ!!きっと遊具とかトイレの中に……』

 

『それは無いわ。今、女子トイレの中を見てきたけど、中には誰も居なかったし』

 

常識的にそんなトコに入る訳無えだろうが。

公園の真ん中で騒ぐ小島と円谷に言う灰原をジト目で睨む。

と、男子トイレに入った江戸川も出て来て渋い顔をした。

 

『コッチも居ねえ。窓も無いから入った俺の目を盗んで出る事は出来ねえし、そうならお前等が見てる筈だ』

 

『ゆ、遊具も見てきたけど、何処にも隠れて無かったよ?』

 

『……可能性としては、塀を飛び越えたって線もあるけど……』

 

江戸川達が俺の存在を公園から発見できずにいる中、俺の身体能力を垣間見た世良さんは俺がまた塀を飛び越えたんじゃないかと考える。

 

『ち、ちょっと待って下さい。飛び越えるって、ここは両端が高いビルに挟まれていて、唯一開けてる塀の向こうは川ですよ?』

 

『あっ、そっか。世良のお姉ちゃんの言う通りなら、泳ぐ音がしてる筈だよね?』

 

と、この辺りの地理に詳しい探偵団のメンバーが世良さんの推理を否定する。

まぁ確かにそれぐらいしかこの場所から姿を隠す方法は無いだろう。

俺みたいにスタンド能力なんて反則がある人間でも無い限りは。

あーでも無いこーでも無いと真剣な表情で考える探偵団と世良さん達。

しかしその中で、毛利さんだけが青い顔をして震えているではないか。

 

『も、もしかしてさっきの子、幽霊だったんじゃ……ッ!?』

 

『え?』

 

これにはさすがに予想外だったのか、世良さんは少し驚きながら毛利さんに向き直り、江戸川は「オイオイ……」みたいな呆れ顔を浮かべる。

でも、そんな呆れとかの視線を意図にせず、毛利さんは震えながら言葉を紡ぐ。

 

『……だっておかしいじゃないッ!?いきなり煙みたいに消えちゃったんだよッ!?そ、それに見た目はコナン君達と近いぐらいの子だったのに、壁を蹴って飛んで屋根に昇ったりとかしてたでしょッ!?』

 

『ま、まぁ確かに、大体130後半ぐらいの背格好であんな動きが出来たのは驚いたけど……』

 

『そ、それに良く考えたら、あのボールもおかしいと思う』

 

『??ボールってなに?蘭ねーちゃん?』

 

と、顎に手を当てながらさっきのひったくり事件の事を思い出す毛利さんに、江戸川が如何にも子供っぽい撫で声で話しかけた。

……改めて、リアルにこういうシーンを見ると……本来は同い年の男が女の人にこんな猫なで声を出すって……なんだかなぁ。

本人からしたら頑張って子供っぽく演技してるんだろうけど……何時かこっちのキャラが素になるんじゃね?

どうにも何とも言えないムズ痒さを覚える俺に構わず、世良さんと毛利さんは事件の事を探偵団に話していた。

 

『それで、ひったくりを倒したら、回ってたボールが勝手にあの子の手の中に飛んで戻ってきたの。まるで……』

 

『まるでボール自身に意思がある様に、だったね。アレは』

 

『う、うん』

 

『ホントかよそれ~?』

 

『幾ら何でも、ちょっと……』

 

『大の大人を蹴り飛ばす。塀を壁蹴りして家の屋根に飛ぶ。妙なボールを投げて大人を気絶させ、そのボールは跳ねる様にあの少年の手に戻った……俄かには信じ難いわね』

 

最後に灰原が締めた通り、俺がやった事は普通なら信じられない事のオンパレードだろう。

でも、海鳴市だったらそんなに騒がれなかったんだけどなぁ。

近所のおじさんとかおばさん連中も凄いと褒めてくれた事はあったが。

……あれ?ひょっとして海鳴市民の感覚が普通じゃないとか?……まさかな?

 

『それと、あのひったくり犯の顔にめり込んだ時の鈍い音から察するに、あのボールは多分鉄で出来てるんだ。そんな鉄球を軽々と、それこそ意のままに操るなんて……確かに、あれは普通じゃない』

 

と、やべーやべー。そろそろお暇するとしますか。

考えるのを一時中断して、俺はメタリカを使ったまま静かに彼等から離れる。

やがて彼等の居る公園からかなり離れた場所でメタリカを解除し、俺は普通に歩き始めた。

やれやれ……こりゃ本気でスタンド使った方が良さそうだぜ……よし。

 

「ペイズリーパーク」

 

俺の呼び出しに応じて現れたスタンド、『ペイズリーパーク』。

全身に地図をボディペイントした女性のような姿で、元々の本体である広瀬康穂と同じ髪型をしている。

自分や他人を行くべき方向や場所に導く能力を持っており、その能力はケータイのナビ機能やネットの地図、第三者の知覚に干渉する等して発現する。

ただし、最短ではなく最『善』、しかも刹那的なもののため、コロコロと指示が変わったり、「3回連続で右折させる」「上方向に進ませる」などといった珍妙な指示をされたりすることもしばしば。

それでも逆らわない方がいいだろう。それが最善なのだから。

まぁ簡単に説明すると、今求める場所(物、人)をいろんな形でナビしてくれる能力って事だ。

例えば初恋の人に会いたいとか落とした財布の場所にケータイなどでナビしてくれる。

勿論ケータイ以外にも砂の上に地図で案内してくれたりする。しかも音声機能付き 。

 

「さあて、上手く誘導頼むぜ?出来ればあのバーローと愉快な仲間達に会わないルートでな」

 

『――コノ先、十字路ヲ右折シテクダサイ』

 

「あいあい。従いますよっと」

 

俺の『この町に居る親戚の家に行きたい』という求めを、ペイズリーパークはスマホにマップを表示して音声案内を始める。

さぁさぁ。早いトコ親戚の家に駆け込んで、出来るだけ関わらない様にしとこうか。

上手く追跡を撒く事が出来た俺は意気揚々とナビゲーションに従って、米花町のビル街を歩くのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『目的地ニ到着デス。オ疲レ様デシタ』

 

「」ドシャッ。

 

あれから特にトラブルも無く、ペイズリーパークのナビに従って歩いた俺は直ぐに目的地に到着した。

しかし……しかし、だ……余りにも、予想外過ぎて……訳が分からなかった。

そのショックのでかさで、持っていたバッグを歩道に落としてしまう。

 

「……ありえねぇだろ……」

 

呆然と呟く俺の目前に聳え立つ3階建てのビル。

ペイズリーパークのナビ画面が示す到着地点はここの『2階』。

そして外から見た2階の階層、道路に面した部分に取り付けられた窓には、デカデカとこう書かれている。

 

 

 

『毛利探偵事務所』――と。

 

 

 

――いや。

 

 

 

いやいやいやいやいや。

 

 

 

ちょっと待てや。

 

 

 

え?何これ?ここが俺の親戚……ひいては母ちゃんの親戚の家ッ!?

そんなバカな事があって堪るかッ!!

何が悲しくて死神さん達と一つ屋根の下で暮らさなくちゃならねぇんだよッ!!

予想外にも程があるわボケッ!!

ハァ、ハァ……よ、良し、一端待とう。そして落ち着こう。

まずは深呼吸をして……スゥ……ハァ……スゥ……ハァ……OK。

とにかく、考えたくはねえけど……ペイズリーパークの案内で辿り着いたって事は、まず間違い無い。

 

俺の親戚は、あの探偵の毛利小五郎。つまり叔父って事になる。

 

そしてここに住む事になる以上、俺は家で大人しくしていたとしても、突発的に事件に巻き込まれる事になるのは必定。

この運命から逃れるには、海鳴へ帰るしか無い。

でも、もし母ちゃんが俺が元気にしてるかの確認の為に、叔父の所へ電話したりしたら……あの母ちゃんの事だ、散々騒いで警察に捜索願いを出すだろう。

それで俺が自分の家に居るなんてしれたら、母ちゃんが大恥を掻いてしまう。

父ちゃんだって同じだろう、下手したら会社の出張をすっぽかして帰ってきちまうかも……駄目だ。

どう考えても俺が毛利探偵事務所に行ってお世話になる以外の選択肢は掴めない。

……つまりこの家に居るだけで、俺は面倒事と縁が切れない訳だ……ハァ。

 

「マジかよ……ついてねぇなぁ……」

 

自分の境遇の不運を嘆くが、今はこんな事をしてる場合じゃない。

まずは――。

 

「……仕方ねぇか……『天国の扉(へブンズ・ドアー)』」

 

何時もの様にヘブンズ・ドアーを呼び出すが、今回は自分に向かって能力を使用する。

自分自身に書き込む命令は、『死体を見ても怯えない。吐き気を催さない』という、冷静さを保つ為の対策命令。

……本当はこんな命令を書き込むまでも無く、事件には巻き込まれたくねぇんだがな。

とは言え、もう後戻りも出来ない状況になってる事は確かだ。

俺は深呼吸をして心を落ち着かせ、目の前の階段を登って事務所の扉を勢い良く開いた。

 

「んあ?……おい坊主。ここは子供の来る所じゃねぇぞ」

 

そして扉を開くと、窓際の席に置かれたテレビから俺に視線を移す中年の男性の姿を発見。

訝しむ目付きで俺にガン垂れるおっさんはチョビ髭が生えている。

間違い無え、この人が毛利小五郎だな。

 

「あー……毛利小五郎さんですよね?」

 

「あ?そうだが……俺に何か用か、坊主?悪いが依頼なら、お父さんかお母さんを連れてくるこったな」

 

名前を確認する俺にぞんざいな返事を返す小五郎さん。

どれだけ子供の扱い雑なんだよ……まぁ良いけど。

 

「俺、城戸定明っつーモンです。ちょっと話を聞いて欲しいんすけど」

 

「だから、お父さんかお母さんを……って……待てよ?……城戸?どっかで聞いた様な……」

 

名乗った俺に同じ事を言って追い返そうとする小五郎さんだが、俺の苗字に引っ掛かるものを感じたのか、眉を顰める。

そこで俺は鞄の中から親戚に会ったら渡せと言われてた手紙の入った封筒を取り出す。

 

「これ、俺の母ちゃんから毛利さん宛の手紙です」

 

「え?俺に?」

 

「はい。宛名を見れば毛利さんは気付くって」

 

俺の言葉に驚いて自分を指さす小五郎さんに、母ちゃんからの手紙を手渡す。

それを受け取った小五郎さんは封筒の表に書かれた母ちゃんの名前を見て、目を見開いた。

 

「こ、こりゃ……ッ!?雪絵からの手紙じゃねぇかッ!?って事は、サダアキって……お、思い出したぁッ!!雪絵の息子の定明君かッ!?」

 

雪絵というのは俺の母ちゃんの名前だ。

小五郎さんは宛名を見て、俺の事を思い出したのか、笑顔で俺の両肩を掴んでくる。

 

「いやーッ!!懐かしいなッ!!と言っても覚えてねぇかッ!!俺は君がまだ1歳くらいの時に顔を合わせてた程度だからなッ!!」

 

「そうなんですか?……って事は、やっぱり小五郎さんが俺の……」

 

「そうッ!!この日本一の名探偵、通称『眠りの小五郎』と呼ばれるこの俺毛利小五郎こそッ!!何を隠そう君の叔父さんなのさッ!!」

 

俺が聞き返すと、小五郎さんは目をキュピンと光らせながら、スーツの襟を正してドヤ顔を浮かべた。

……名探偵ってそんな大っぴらに自称するモンなのか?

まぁそういうのは人それぞれだから良いけどよ。

そう思って苦笑いしてた俺だが……次に小五郎さんの口から飛び出した言葉に唖然としてしまう。

 

「しかし、何でまた急に?確か雪絵は海鳴市に引っ越しただろ?連絡も無しに1人で来るなんて、何かあったのか?」

 

……は?連絡無し?

 

「え?母ちゃんから連絡来てるんじゃ無いんスか?母ちゃんはそんな口ぶりでしたけど……」

 

「連絡ぅ?そんなモン受けてねぇぞ?」

 

「……えぇー?……マジかよ」

 

「お、おい大丈夫か?」

 

俺の言葉に首を傾げる小五郎さんだが、俺はそれ以上に脱力してしまう。

……やばい……完全にヤル気無くした……どうなってんだよ、母ちゃん。

急に脱力した俺に驚いた小五郎さんだが、まずは座れと俺を応接用のソファーに促し、自分はその反対側に座る。

小五郎さんは母ちゃんの手紙を机の上に置くと、ニッコリ笑って立ち上がった。

 

「ちょっと待ってな。今、飲み物をもってきてやるからよ」

 

「あっ、すいません」

 

「良いってことよ。遠い所から来た甥っ子に何も出さねえとあっちゃ、大人げねえからな……ん?蘭とコナンの奴、もう帰って来たのか?」

 

と、小五郎さんが飲み物を取りに行こうとしたら、扉の方が騒がしくなってきた。

足音と声からすると、結構な人数だろう。

……こりゃ、も一つ面倒になりそうな気がする。

そんな事を考えていると、扉が開いてくぐもっていた声がクリアになる。

 

「お父さん、ただいま」

 

「ただいまー」

 

「「「お邪魔しまーすッ!!」」」

 

「やっほーおじさま。お邪魔させてねー」

 

「どーも小五郎さん。お邪魔させてもらうよ」

 

予想通り、さっき遭遇したメンバー全員だ。

小五郎さんはその人数を確認するとげんなりした表情を浮かべる。

 

「ったく、大所帯で押し掛けやがって。今日は遊びに行くから遅くなるんじゃなかったのか、オメー等」

 

「あ、うん。そのつもりだったんだけど……」

 

「僕達が追っかけてた子供が、隠れる所の無い筈の公園で忽然と姿を消しちゃったんだ」

 

「それで、皆でその消えた仕掛けを推理しようって事になって……」

 

「外は暑いし、ココが一番近かったからよぉ」

 

「皆でお邪魔しにきたの」

 

「はぁ?なんだそりゃあ?」

 

完璧に俺の事ですね、分かります。

入り口の所で小五郎さんと話してる所為か、扉を背にしたソファーに座る俺にはまだ気付いて無いみたいだ。

ここで下手な行動取って逃げたら、今度は小五郎さんからも怪しまれる。

……質問攻めは免れねぇだろうなぁ……ったく、こんな事なら逃げるんじゃ無かったよ。

俺はソファーの肘置きに手を置いて、事務所の窓から外を眺める。

空は青くて広いなぁ。

 

「まぁ良い。それより蘭、今日は驚きの客が来てるぞ?」

 

「え?お客さん?……誰も居ないけど――」

 

と、俺の座ったソファーが見える位置に来た蘭さんが、ピシリと動きを止めた。

真ん丸と見開かれた目が何度もパチクリとしてる。

 

「??蘭ねーちゃん?どうし――」

 

そして、様子を見に来た江戸川の動きも止まり――。

 

「コナンは初対面だし蘭は覚えてねぇかも知れねえが、この子は俺の甥――」

 

「「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」」

 

俺の素性を明かそうとした小五郎さんのセリフを遮る大声で、二人は俺の事を指さしながら叫ぶ。

そして背後から聞こえる「何だ何だッ!?」という少年探偵団の声。

……覚悟はしてたけど……これからの事を考えると、ちょっと憂鬱だな。

更に二人の後ろから現れた誰も彼もが驚きの声を上げる中、俺は大きく溜息を吐く。

 

「?……?……どしたんだオメー等?」

 

すんません叔父さん。俺がちょっとはっちゃけた結果です。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「えぇッ!?じ、じゃあ、君って雪絵叔母さんの所の定明君だったのッ!?」

 

「はい……一応初対面みてーなモンなんで、自己紹介させてもらいます」

 

あの後、とりあえず落ち着いて話そうという事になって、まずは親族の蘭さんとその居候という立場の江戸川と話す事になった。

他のメンバーはソファに後ろから寄り掛かるなり立ったままなりと、思い思いの場所に居る。

とりあえず小五郎さんが母ちゃんの手紙を見る為に軽く紹介しただけだったので、俺は帽子を脱いで驚く蘭さんに一礼する。

 

「初めまして。海鳴市から来ました、城戸定明です……従姉妹って事になるんスかね?よろしっどわッ!?」

 

と、驚く蘭さんに聞き返すと、蘭さんは何故か目を輝かせて俺に抱きついてきた。

何故そうなる?

 

「きゃーッ!!定明君、久しぶりだねーッ!!前に会った時は定明君が赤ちゃんの時だったけど、こんなに大きくなってるなんて思わなかったよッ!!」

 

そりゃ年月が経てば成長するに決まってんでしょうに……っていうか苦しい。

呼吸を塞ぐ形で思いっ切りハグされてるから、息が出来ないって。

しかし蘭さんもそれに気付いてくれた様で、「ごめんごめん」と謝りながら解放してくれた。

げほっげほ……びっくりした……何故睨む、江戸川よ?

何故か蘭さんの傍に座ったまま目付きを細くする江戸川コナン改め工藤新一。

……嫉妬か?俺なんにもしてねえだろうに。

 

「でも、どうしてこっちに来たの?それも1人で?」

 

「あー……それなんすけど、母ちゃんと父ちゃんが今日、海外に出張しちまって……」

 

俺を解放した蘭さんは首を傾げながら、俺の来訪目的を聞いてくる。

それについては、今小五郎さんが手紙を読んでる筈だが……。

と、手紙を読んでいた小五郎さんが手紙から顔を上げると、ヤレヤレって表情で俺達に視線を向けてくる。

 

「あぁ。それについても書いてあるな。二週間程、父親の結城君が海外出張になって自分もそれに着いていかなきゃならなくなったと」

 

「はい。それで、昨日母ちゃんは親戚の人の家に泊めてもらえるって言ってたからてっきり連絡きてるモンだと思ったんスけど……」

 

「大方、あのぽやっとした雪絵の事だ。出発前に連絡しようとして、忘れたまま飛行機に乗っちまったんだろうよ。手紙にゃ突然電話してすいません、兄さん。なんて書いてあるのってのに肝心の電話を忘れるたぁ、いかにも雪絵らしいぜ」

 

「……母ちゃんぇ……」

 

あの母ちゃんに限っては有り得ると言える自信があるのが悲しい。

手の平で顔を覆う俺に、蘭さんは苦笑いし、江戸川も「オイオイ」って顔をしてる。

あれだけ覚悟を決めていざ門を叩いたら連絡無いって何だそりゃ。

頼むからもう少しだけしゃきっとして欲しいぜ。

そう思いつつ手を顔からどけると、小五郎さんは笑いながらビールの蓋を開ける。

 

「だが心配すんな。二週間くらい屁でもねえよ。その間の生活費も同封されてたし、何より可愛い甥っ子が久しぶりに顔を見せたんだ。ゆっくりしていけ」

 

「え?良いんスか?」

 

「当たり前だろ。雪絵には色々と世話んなったし、子供を放り出すなんて出来ねえ。蘭も良いよな?」

 

「うん。勿論だよ」

 

小五郎さんが頼もしいセリフで答えると、蘭さんも笑顔で頷いてくれた。

 

「あっ、それと定明君。紹介するね?この子は今ウチで預かってる江戸川コナン君。とっても頭が良くて、事件とかでもヒントになる事を思い付く事があるの。コナン君、挨拶して?」

 

「うん。初めまして……で、良いのかな?江戸川コナンです。宜しくね、定明にーちゃん」

 

蘭さんに促されて、江戸川……いや、コナンは笑顔で手を伸ばしてくる。

……大変なんだな……ホントは高校生なのに……まぁ俺には関係無えけども。

俺も笑顔で手を差し出して、コナンと握手を交わす。

 

「城戸定明だ。友達にはアダ名でジョジョって呼ばれてる。宜しくな、コナン君」

 

「へー?それって名前と苗字にジョウって字が入ってるから?」

 

……そういう「直ぐ分かった」みたいな態度だから、蘭さんに新一じゃないかと勘ぐられると思うんだがなぁ。

そう思っていると、隣に座る蘭さんや他の面子も気付き、なるほどーという表情になった。

 

「ジョジョ、かぁ……うん。何でかは分からないけど、定明君に合ってる気がする」

 

「ありがとうございます。このアダ名はお気に入りなんで」

 

少し微笑みながら俺のアダ名を褒めてくれた蘭さんにお礼を返し、俺はもう一度座ろうとする……が。

何故かコナンが俺の手を離してくれないので、微妙に座りづらいという状態だ。

訝しんで顔を上げると、何故かコナンはとても良い笑顔で俺を見ていた。

何時の間にか移動してきた少年探偵団や世良さんも同じく、とても良い笑顔を浮かべてる。

例外は興味無さそうな鈴木さんと、ヤレヤレって顔してる灰原の二人。

蘭さんも何故か目を輝かせて俺に視線を送っているではないか。

……アンタもかい、蘭さんや。

 

「えへへー♪それで定明にーちゃん。ぼく、ちょっと定明にーちゃんに聞きたいんだけど……」

 

「あの逃げ場の無い公園からどうやって姿を消したのか、その不可解なトリックを……」

 

「「答えてくれるよね?」」

 

コナンと世良さんは交互に質問したかと思えば、最後は声を揃えて俺に視線を向ける。

しかもコナンは所謂『新一モード』という、口調が小学生らしからぬモノに変化する程だ。

……まぁ、こうなるよな。

俺は少し苦笑いしながら、二人の質問にある答えを口にする。

 

「まぁ待てって。コナン君と、世良さんだったよな?例えばだけど、二人はマジックの種が分からないからってマジシャンに直ぐに聞くか?聞かねえだろ?自分で解き明かして悔しがらせてやりてーと思わないか?」

 

「……そ、そうだね。あはは……(くそ……そうだよなぁ。ここで聞いたら俺の負けって事じゃねーか……俺自身で解けって事か?……上等だ。やってやろーじゃねぇかッ!!)」

 

「そりゃ僕も聞いたりしないけど……やっぱ気になるじゃん?ちょこっとくらい良いだろー?(上手いな、この子……さり気無く『大事な手品のネタ』に例えて、話題をズラされるとは)」

 

「駄目ッスよ。『探偵』なら自力で、その謎を解いてみて下さいッス」

 

尚も食い下がろうとする世良さんに、俺は自己紹介で語られた探偵という肩書きを突きつける。

すると二人揃って驚いた表情を浮かべるが、直ぐに挑戦的な笑みを浮かべて俺を真っ直ぐに見つめる。

まぁ緊急時以外はスタンドを使うつもりねーし、バラすつもりも全く無い。

頑張って研究してみてくれ。俺に面倒が降りかからないレベルでな。

もう工藤新一に関わらないってのは無理だが……こちとら事件回避を諦めた訳じゃない。

さすがにコナンの原作で、何処でどの事件が起きるのかなんて分からねえが、出来る限り殺人を回避させてみよう。

俺の心の平穏の為にも、な。

 

「「「ワクワク♪ワクワク♪」」」

 

「(まぁ、もしも彼女達の言ってた事が全て本当なら……中々興味深いわね)」

 

……とりあえず、少年探偵団の皆よ、そんな期待に満ちた目付きで俺を見るんじゃねえ。

そしてさっきから爛々とした目付きの灰原さんよぉ、アンタも背筋が震えるからそんな目で見るの止めてもらえませんかね?

 

「じゃあ、あの鉄球の事も聞いちゃ駄目かな?」

 

「ん?あー、あれは……」

 

「(ッ!!しめたッ!!ナイスだぜ蘭ッ!!)ぼくも見てみたいーッ!!見してよ定明にーちゃんッ!!」

 

蘭さんが残念そうな表情で質問してくると、それに乗じてコナンが見せろ見せろと催促してくるではないか。

しかも子供っぽく駄々を捏ねる仕草で、俺の服をグイグイと引っ張りながら。

コイツ、今絶対にシメシメ、とか思ってんだろうなぁ。

だってさっき一瞬だけど眼鏡の奥でニヤッて笑ったのが見えたし。

 

「お、俺も俺もッ!!」

 

「あっ!?抜け駆けはずるいですよ、コナン君ッ!!」

 

「歩美も見たーいッ!!哀ちゃんも見たいよねッ!?」

 

「……そうね……興味が無いと言ったら嘘になるわ」

 

コナンの我儘に感化されて、少年探偵団のメンバーもガヤガヤと騒ぎ出す。

ちゃっかり灰原の奴まで混じってやがるし、他の誰も止めてくれそうな気配が無い。

……しょーがねぇか……まぁ、鉄球自体には仕掛けも種も無いんだし、良いだろ。

 

「分かった分かった。ちょっと待てって……ほれ、これだよ」

 

俺は苦笑いしながらベルトに付けたホルスターから鉄球を取り出して、テーブルの上に置いて見せる。

探偵団のメンバーと世良さん、そして蘭さんは身を乗り出して鉄球をマジマジと見始めた。

俺の後ろからも乗り出す様にして見てくるので、俺はソファーから立ち上がって小五郎さんのデスクに背を預ける。

やがて見てるだけでは判らなかったのか、コナンは手にとってあらゆる角度から真剣な顔で眺め始めた。

その真剣な表情に、ちょっと苦笑いを隠せない。

 

「ふーむ……この溝に秘密があるとか?」

 

暫く眺めていた世良さんが、鉄球に掘られた溝を指さして問いかけるが、残念。

 

「その彫り込みは特に意味は無いっすよ。鉄球の材質だって、特別なモンじゃ無い。何処にでもある普通の鉄です」

 

「あー、そうか……ホントにこれが、あの時の鉄球なんだよね?まさか変えてる、なんて事は?」

 

疑り深い世良さんはこの鉄球が別物に感じたらしい。

俺は疑う表情で見てくる世良さんに苦笑いしながら近づき、コナンの手から鉄球をヒョイと借りる。

それで真剣に鉄球を眺めてたコナンや探偵団のメンバーは俺の手元に視線を集める。

 

「ほいっと」

 

シュルルルルルルルルッ!!

 

「「ッ!?」」

 

「え……えぇッ!?て、手の平が『下を向いてる』のに、くっついて……」

 

「お、落ちてない?どうして……?」

 

俺が下に向けた手の平の『下で』回転し続ける鉄球を見て、コナンと世良さんは言葉を失う。

逆に蘭さんは分かりやすく驚き、灰原は目を点にして鉄球を見つめていた。

 

「手には手袋もしてねーし、磁石だって付いてない……これはケチなトリックとかじゃ無え――『技術(ワザ)』ッスよ」

 

得意げな顔でそう言って、俺は鉄球を回転させたままホルスターに戻す。

 

「結論から言ったら、鉄球が特別なんじゃねえ。大体形が球形なら、それで良いんだ」

 

俺はそう言いながら、驚きで目を丸くしてる小五郎さんのつまみの中からつぶあられを一個拝借する。

それを指の上でさっきの鉄球の様に回転させるが、さっきほど綺麗には回らない。

さすがにあんな風に綺麗には回せねえか。

 

「ゴツゴツしてるから回転が不安定だけど……ちゃんと回せますっぜ」パキョンッ!!

 

指で弾いて空中に躍りだした粒あられが途中でスピードを緩めて、緩やかにオーバーハングする。

その場に立ったまま口を開ければアラ不思議。

粒あられは俺の口に放り込まれてしまいましたとさ。

ボリボリと噛んで粒あられを咀嚼する俺に、興味無さそうだった鈴木さんも含めた全員の視線が集まる。

俺はそんな集中する視線の中で苦笑いしながら、今正に挑戦的な視線を浴びせてくるコナンに一言。

 

「まっ、頑張って俺の持ってる謎を解いてみてくれ。この奇妙な謎ってヤツを、さ」

 

「……良いよ。僕が定明にーちゃんの秘密、解き明かしてみせるから」

 

「期待してるぜ。探偵君」

 

何とも不敵な笑みを浮かべて挑戦を宣言するコナンに、俺は肩を竦めて答える。

……成り行きで回転の技を少しばかり見せちまったが……まぁ、問題無えだろ。

スタンド能力を解き明かせる筈も無し、鉄球の回転だって、発見したツェペリ一族はこの世界には居ない。

何処からどう辿ったって、俺の回転の秘密に到達は出来ねえだろうな。

まぁいざヤバイ所まで知られたら、その時はヘブンズ・ドアーで俺に関する情報を規制しちまえば良い。

続いて、何で自分達から逃げたのかという蘭さんの少し怒った感じの質問を適当に捌きながら、俺はそう考える。

 

 

 

結局、その日は日が落ちて皆が帰る時間になるまで、俺は色んな質問に晒される羽目になったのだった。

 

 

 





これから幾つか原作の事件を元にして、そこに定明を関わらせていきますが、その前に注意事項を書きます。

作者は時系列に関係無く、気に入った事件に定明を登場させるつもりです。

ですので、『この話の時には灰原も世良も(例)居ないじゃないか!!』

といった指摘は無しでお願いします。

但し季節だけは狂わない様に夏近辺の話を盛り込んでいくつもりです。

駄作者故に、こういった手抜きはご容赦下さい。

そして小五郎が叔父という謎設定、どうしてこうなった?( ゚д゚ )


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