ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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大変お待たせして申し訳ありませんでした。

8月の祭りの準備に仕事が忙しくなるという苦行で執筆が上手くいかず。

そして空白期の絡め方をどうしようかとずっと悩む日々でした。



そして結論。


空白期はリリカルなのはの世界観を重視しつつ、別の原作を絡めてみようと思い至りました。
所謂クロスオーバー斬ッ!!Σ( ̄□ ̄;)ノノ(ナンテ無茶シヤガル)というヤツです。
どんな原作が絡むかはお楽しみにしてて下さい。

まぁこの話で気付かれる方も多いとは思いますがw





空白期~名探偵コナン編
生き残るのは、この世の『真実』だけ(ry


「フッ!!せやッ!!」

 

「っと!!危ねっ!!」

 

早朝の合図である小鳥のさえずりが響く山の中。

目前で振るわれた木の小太刀を、俺は波紋で強化した身体能力を駆使して避ける。

しかし俺の動作を察知していたのか、小太刀の軌道は俺の真上からの振り下ろしと胴に突きが同時に向かってくる。

これは防御も厳しいと判断して、波紋で脚を強化して後ろに飛び、一気に間合いから離脱していく。

 

「……ちょっと速過ぎじゃないか、なッ!!」

 

小学生の動きを遥かに逸脱した回避行動に驚きながらも、木刀を振るう美由希さんの動きは止まらない。

両手の小太刀を突き出した構えのままに、着地した俺に向かって突撃を繰り出す。

そんな美由希さんの行動力に舌を巻きつつ、俺は両手に鉄球を回転させる。

戦いを始めてからもう10分くらい経過してるし、呼吸がきつくなってきた。

そろそろ決めねえと、俺が自滅に終わっちまう。

 

「――そらぁッ!!」

 

俺達を囲む自然、美由希さんの背後にあった樹木から定規(スケール)を取って、俺は鉄球を投げた。

黄金回転の定規を正確に目測して投げた鉄球が、突撃してくる美由希さんの足元へと襲い掛かる。

 

「ッ!!(バッ!!)」

 

しかし美由希さんは向かってくる鉄球に恐れる事無く距離を詰め、スッと横にズレる動きで鉄球を回避してしまう。

波紋で強化した身体とはいえ、この人達を相手するにはまだまだ役不足らしい。

標的を失った鉄球はそのまま地面に鈍い音を立ててメリ込んでしまう。

 

「ちっ!!このッ!!」

 

「甘いよッ!!」

 

一発目が外れた事に舌打ち一つ、そのまま二つ目の鉄球を腹部に投擲するが、それも最小の動きで避けられた。

反応速度が尋常じゃなく速すぎるんだよ、この人達は。

……だが、ツェペリ一族が250年掛けて培ってきた鉄球の回転は、土に埋もれた程度じゃ止まらない。

地面に着いた今現在も、一発目の鉄球は回転してるのが俺には見えている。

ギュルルルッ!!という摩擦音を奏でながら、一発目に投げた鉄球がこっちへ向かって跳ね上がり――。

 

ガァンッ!!

 

「ッ!?」

 

二度目に投げた鉄球と空中で接触、回転力を上乗せして二つ目の鉄球をこっちへ撃ち戻す。

役目を果たした一つ目の鉄球はそれで回転の力を弱めて地面に落ち、二つ目の鉄球が方向を変えて俄然回転を増した。

その接触音を聞いて驚愕の表情を浮かべる美由希さんの背後に鉄球は襲い掛かり――。

 

「――御神流、徹ッ!!」

 

カッ――バガァアアッ!!

 

美由希さんが振り返り様に突き出した木刀と接触した瞬間、鉄のひん曲がる音を奏でて真っ二つに破壊されてしまった。

 

バギィッ!!

 

「ッ!?」

 

しかし美由希さんの木刀も無事には済まず、鉄球と同じ様に内部から吹き飛んで破片を撒き散らしていく。

更に回転の衝撃が腕に伝わり、肘手前までの袖が破けた。

美由希さんは痛みに顔をしかめ、更に降り注ぐ木刀の破片に目を細める。

ッし!!ここだッ!!

破片で目くらましを起こせたので、俺はすかさず懐に入って拳を握り――。

 

シュッ!!

 

「……参りました」

 

「――勝負ありッ!!勝者、美由希ッ!!」

 

拳を突き出した体勢で、『背後から』美由希さんに小太刀を首に添えられ、降伏宣言をした。

俺の宣言を聞いて、この模擬戦を見守っていた士郎さんが勝敗を下す。

そして士郎さんの宣言と共に、美由希さんが添えていた小太刀が首から退けられる。

……あ~……マジ疲れた……暫く特訓は無しにするか。

何時もより重たい疲労感を感じながら、俺はその場に座り込む。

 

「…………っあ~~~ッ!!つ、疲れたぁあ……ッ!?……まさか神速を使っちゃうなんて思わなかったよ。右腕も動けなくされちゃうし……」

 

「……神速っつーんですか、最後の動き?」

 

「うん。視覚の力をめいっぱい強化して脳のリミッターを外す事で、周りの時間がスローに感じられるの」

 

勝利したというのに、まだ余裕のある俺とは違って豪快に座り込んだ美由希さんが額の汗を拭いつつ答える。

右手に伝わった回転の力も腕を破壊する程では無かったので、腕を振ってプラプラさせていた。

脳のリミッターを解除出来るとか、ビックリ人間かっての。

 

「一瞬で消えましたもんね……美由希さんって人間ッスか?実は改造人間じゃなくて?」

 

「失礼だな~。それを言ったら、呼吸のリズムだけで体を強化出来る定明君はどうなるのかな?」

 

「確かに、凄い技術だ。僅か9歳の君が御神流を学び続けてる美由希にあそこまで善戦したんだからね。まさか神速を使わされるとは思わなかったよ」

 

疲れて地面に座り込む俺と美由希さんの傍に、士郎さんがタオルを持ってにこやかにそんな事を言った。

まぁ確かに、波紋の技術を使える俺もかなりブッ飛んでるが、それを肉体一つでこなしちまう御神流の剣士に言われたくない。

そんな事を考えていると、士郎さんの隣に立っている恭也さんが呆れた表情を浮かべていた。

 

「しかし美由希、お前もまだ詰めが甘い。定明君の鉄球が普通じゃ無いのは分かっていただろう?なのに安易に小太刀で触れたりするから、隙を突かれて神速を使ってしまうんだ」

 

「う゛。そ、そりゃ、触ったらマズイかな~って思ったけど、まさか徹で破壊したのに回転が自分の小太刀にまで来るなんて思わなくて……」

 

美由希さんは頬を掻きながら溜息を吐く恭也さんに言い訳しているが、それも仕方無いと思う。

普通の回転ですら人智を超えた技術なのに、黄金長方形の定規(スケール)から学んだ黄金長方形の軌跡の回転は生半可な技じゃ止まらない。

鉄球を破壊したぐらいじゃ、回転は死なないからな。

 

「そういえば、俺の鉄球が破壊されたんスけど、何ですかあれ?木刀であんな事が出来るんスか?」

 

「あれは御神流の徹という技でね。衝撃を表面ではなく裏側に通す撃ち方で威力を『徹す』打撃法なんだ。衝撃を内側へ送る技だから、鉄球が内部から破壊されたんだよ……処で、鉄球は弁償した方が良いかな?」

 

「あぁいえ。鉄球は治せるんで良いッスけど……スゲー技ですね」

 

鉄球の破片を拾ってクレイジーダイヤモンドで治しながら、俺は士郎さんに言葉を返す。

俺の言葉に士郎さんはにこやかに笑って「それほどでも無いよ」と返してくる。

この人の中ではあの技が大した事無いのだろうか?人間の力で鉄の塊ブッ壊してる時点で有り得ないと思う。

衝撃を内側に通すって……人体に使ったら大変な事になるだろうな。

そんな技が大量にある辺り、御神流ってのは本当に実践向きの武術なんだろう。

なし崩し的にこんな模擬戦をする羽目になったが、この世界には超人が居るって事が分かっただけ収穫だ。

 

 

 

何故、俺が早朝に山の中で高町家(なのはと桃子さん除く)の皆さんとこんな修行染みた事をしてるかといえば、単なる偶然だ。

 

 

 

あのテスタロッサ一家と管理局のいざこざに蹴りを付けた日から二週間目の日曜日。

既に五月も終わり、今は六月の梅雨時期の初めに入ろうとしてる。

 

 

 

あれから特に相馬からは連絡は来ず、アリサ達も塾とか習い事で忙しいのか全く会っていない。

まぁアリサ達は金持ちだから、家の事で忙しいのもあるんじゃないかと考えている。

相馬については知らん。まぁ死んだという話は聞かないので問題無いだろう。

そんな感じで最近は比較的平和な生活を送っていたんだが、今日は偶然にもこの人達と出会ったのが始まり。

俺は波紋の持続力アップの為の修行としてランニングをしていたんだが、偶々こっちの町までランニングに来ていた高町家の皆さんと遭遇した。

そんで、時間があるなら一緒に走らないかと誘いを受けて、時間のあった俺は偶には良いか、とその誘いに乗った訳だ。

で、街中から山の中まで息も切らさずに着いていき、この山の中で最初は三人の修行風景を見ていた。

しかし俺の秘密を知る恭也さんから「美由希と模擬戦をしてみないか?」と誘われたのが事の始まり。

説明してなかったが、実は高町家で恭也さんの恋人である忍さんの秘密。

つまり夜の一族関連の事を知ってるのは、美由希さんと恭也さんだけではなく、何と士郎さんもだったらしい。

しかも士郎さんは二人の師匠であり、裏の世界でも名を馳せたボディガードにして、御神流最強の剣士とも言われてるとか。

それだけなら良かったんだが、どうにもこの士郎さん、俺が普通の9歳児じゃ無いと出会った時から気付いてたそうだ。

そして直に会って温泉で俺の身体を見て作り込みが普通じゃない上に妙な呼吸のリズムをずっとしてたのが気にかかったのが決め手だった。

それで恭也さんと忍さんに俺の事を聞いてきたらしい。

二人が疑われたままにするのも何か誤解が生じたら面倒になると言う事で、俺の力の事を話してある。

勿論誰にも喋らないで欲しいと頼んだし、士郎さんも快く了承してくれてる。

念には念を入れてアトゥム神で心を覗いたが、士郎さんは大丈夫そうだったので、俺は信用する事にしてるって処だ。

 

「で、どうだい?美由希と戦ってみた感想は?」

 

「どうって……まぁ、生身の俺じゃまだまだ勝てないってのは良く分かりましたけど……」

 

タオルで汗を拭きながら、俺は士郎さんにそう答える。

普段から面倒くさい事は極力避ける俺が何で美由希さんと模擬戦したかと言えば、波紋と鉄球の技術がどれぐらい向上したのかを知る為だ。

士郎さん達の修行風景を見て、この人達が強いのは良く分かってたからな。

なら、波紋の修行を続けてきた俺が敵うのかが知りたくて模擬戦を承諾したんだけど、まだ勝てなかった。

まぁ波紋の特性である水や油といった液体を伝わらせて流す技を使って無いから、そういう意味では全力で戦った訳じゃ無え。

 

「うん。確かに勝てなかったけど、かなり善戦出来ていたからね。普通の大人には負けないと思うよ?」

 

「そうッスか……まっ、一番は戦わない様に工夫する事なんでしょうけど」

 

「あはは、そうだね。君子危うきに近寄らず、それが一番正しいと思うよ」

 

「しかし勿体無いな……定明君も相馬と同じで筋が良いのに、本格的には鍛えないだなんて」

 

樹の幹に腰掛けながら会話していた俺と士郎さんの所に恭也さんが歩み寄り、残念そうな表情をしてそう言った。

相馬はあの温泉旅行の次の日から、たまに高町家の道場で太刀を学んでるから弟弟子の様な存在らしい。

最近は何か遭ったのか、余り顔を出してないらしいが……まぁ、自業自得だろ。

恭也さんにそう言われるのが良い事なんだろうけど、俺は戦いの中に身を置くつもりは皆無だしなぁ。

ただ、いざという時に動ける様に鍛えてるってだけだし。

 

「まぁ、ダルイ事は嫌いなんで……程々にしときます」

 

「ふむ。しかし、いざという時にもっと鍛えておけば良かったと思える敵が出来たらどうするんだい?」

 

「その時はスタンドを遠慮無く使って再起不能にします。それで敵わないなら生身の俺じゃどうしようも無いんで、一旦逃げてから闇打ちで追い詰めて追い詰めて、弱り切ったら奇襲します」

 

「ど、堂々と言うんだな……」

 

真っ当な剣士なら怒り狂うであろう卑怯な宣言を惜しげ無く言った俺に、恭也さんは引き攣った笑みを浮かべる。

士郎さんも心なしか苦笑い気味だ。

お二人には悪いけど、生憎と俺にとって戦いってのはなるべく避けるべき面倒だ。

だからその面倒を終わらせる為に尤も効率が良くて人を巻き込まない方法なら、俺は遠慮無く使う。

無関係な人間を巻き込まないってのが、俺にとっての唯一のポリシーかな。

それ以外なら相手に糞をぶっかけてやろうがなんだろうが問題ねえ。

そう考えながら腕時計に目をやると、時計の針が9時前後を指していた。

士郎さん達も今日の翠屋の開店はスタッフがしてくれるからのんびり出来るらしいけど、もうそろそろ良い時間だ。

俺は立ち上がり、ホルスターに鉄球を収めて背伸びをする。

 

「それじゃ、俺はこれで帰ります。そろそろ朝飯が出来てる頃なんで」

 

「あぁ、そうだね。じゃあ僕等も帰ろうか?桃子が朝食の準備をしてくれてるし、待たせる訳にはいかないな」

 

「分かったよ、父さん。それじゃあな、定明君」

 

「はい。お疲れ様です」

 

「バイバイ、定明君。次はもっと余裕で勝ってみせるからね」

 

「じゃあ、次が無え事を祈っておきますよ」

 

なにを~。と怒った振りをする美由希さんを最後尾に、高町家の戦闘者三人は海鳴へと走っていった。

それを確認して、俺も自宅へと最後にランニングしながら帰る。

まさか鉄球を破壊されるとはな……負けたのは俺の腕が未熟なのが原因だけど、対策は考えておかねぇとマズイ。

 

「スタンドを使わない、いや使えない場合も考えるならウェカピポの鉄球もホルスターに入れておいて、どっちの鉄球も使える様にならなきゃな……」

 

ネアポリス王族護衛官だったウェカピポの一族に伝わる鉄球の技術は、ツェペリ一族の黄金回転の鉄球とはまた違う。

彼の一族は代々王族護衛を任された一族であり、王族を守るための「戦闘技術」として鉄球を発展させてきた。

応用力よりも破壊力、医術よりも戦闘に重きを置いてる鉄球の技術。

最大の違いは黄金回転とは違って自然の定規(スケール)が必要無い事だ。

その点から考えても、異なる鉄球を同時に装備出来る様にする方が良いだろうな。

 

「とりあえず、今日は町の仕立て屋にでも行って、作ってもらえるか聞き込んでみるとすっか」

 

走りながら今日の予定を立てつつ、俺は自宅へとマラソンを続けた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ただいまー」

 

士郎さん達と別れてから15分ほど走って、やっと帰宅。

ふぅー、疲れた……ニ、三日は身体を休めよう。

玄関で靴を脱ぎながら帰りを知らせると、母ちゃんが何時もの様に微笑みながら出迎えてくれた。

 

「お帰り~。もうすぐ朝ご飯だから、シャワー浴びちゃってね~」

 

「分かったよ」

 

母ちゃんに言葉を返しつつ、俺は脱衣所に入ってジャージを洗濯籠に入れて、シャワーを浴びる。

確か、リビングの時計は9時半くらいだったから……11時に出るか。

チラッと見えた時計の時間を思い出しながら、俺は今日の予定を組み立てていく。

そして身体を洗って風呂から出て、タオルで身体を拭きながら脱衣所を後にする。

 

TRRRRRRRRRRRR

 

と、丁度俺が廊下に出たタイミングで、廊下の電話が鳴り出した。

 

『定明~。ちょっとお母さん手が離せないから、電話取って~』

 

「あぁ。分かったー……(ガチャ)はいもしもし、城戸ですけど」

 

キッチンの方から聞こえた母さんの言葉に返しつつ、俺は受話器を取る。

しかし誰だ?こんな朝早くから電話なんて?

 

『も、もしもし、定明君ですか?すずかです。今、大丈夫かな?』

 

「おー、すずかか?どうしたんだ、こんな朝早くに?」

 

『ご、ごめんね?こんな時間に電話しちゃって……迷惑だった?』

 

「いや、俺はもう起きてたから別に良いけどよ。何か用事か?」

 

受話器から聞こえてくる申し訳無さそうな声に答えつつ、俺はタオルで髪の毛を拭く。

電話してきた相手は久しぶりに声を聞く友人、月村すずかだった。

最近お互いに予定が合わなかったから、声を聞くのも久しぶりなんだよな。

リサリサとは学校で会ってるし喋ってるけど、すずかとアリサは全然だったし。

 

『う、うん……あ、あのね、定明君……もし、良かったら……で、良いんだけど……その……』

 

「ん?何だって?」

 

電話先のすずかは何やらゴニョゴニョと小さい声で呟いたので、聞き取り辛い。

なのでもう一度聞き返すと、今度はハッキリとした口調で言葉を発してくれた。

 

『あ、あのね。今日、一緒に遊べないかなと思って電話したんだけど……な、なのはちゃんもお店の手伝いをするって言ってたし、アリサちゃんもリサリサちゃんも用事があるからって断られちゃって……どう、かな?』

 

「今日か?一応予定が入ってるっちゃ入ってるけど……つっても仕立て屋を回るぐらいだしなぁ……」

 

『え?仕立て屋さん?』

 

俺がする筈だった予定を言うと、意外そうな声ですずかは聞き返してくる。

まぁ普通はそんな所に用事なんて無えからな。

 

「あぁ。ちょっと作って貰いたい物があってよ。それが作れるか聞いて回るつもりだったんだ」

 

『へー?どんな物かな?』

 

「ガンベルトとホルスターだよ。腰のベルトに引っ掛けられるヤツ」

 

『え?ガンベルトって……何かに必要なの?』

 

「あー、ほら。前に農園に行った時にすずかには見せた事があるだろ?あの鉄球を」

 

興味が湧いたのか、質問を続けるすずかにそう答えつつ、俺は頭を拭いていたタオルをどける。

あの時はしつこくもう一回ってアンコールを受けたから、すずかもこう言えば思い出すだろう。

すずかに誘われて乗馬体験に行った時の事を話すと、すずかは思い出したのか、受話器越しに声を挙げた。

 

『うん、覚えてるよッ!!凄く不思議な鉄球の事……あっ!!もしかしてその鉄球を入れる為の?』

 

「そうそう。でも、銃を入れるホルスターなら玩具屋にありそうだけど、鉄球を入れるホルスターなんて無いだろ?だからどっかの店で作って貰おうと思ってんだけど……そういやすずか。お前そーいうのしてくれる店、知らねーか?」

 

すずかの質問に答えながら、俺はふと思った事をすずかに聞いてみる。

確か前にファリンさんが言ってたけど、ファリンさんとノエルさん、そしてイレインのメイド服は完全なオーダー品らしい。

だからその家に住んでるすずかなら、そういうの知ってるかもと思っての質問だ。

 

『うん、知ってるよ。ファリン達の服を作ってるお店なら、お姉ちゃんに頼めば話してくれると思うけど……ちょっと待ってね、聞いてみるから』

 

「あぁ。わりーな」

 

そう詫びを入れた直ぐ後に電話が保留になってメロディが流れ出す。

もしもOK貰えたら、店を探す手間が省けるな。

 

「定明~?電話誰からだったの~?」

 

と、結構時間が経ってたのか、キッチンから母ちゃんが現れた。

 

「ん?すずかからだよ」

 

「あら~、そうなの?……んふふ~。それじゃあ邪魔しちゃ悪いわね~♪ごゆっくり~♪」

 

「へいへい」

 

何やらニマニマした顔でキッチンに戻る母ちゃんを適当にあしらい、俺はすずかの返事を待ち続ける。

それから数分も経たない内に、保留が解除された。

 

『お待たせ、定明君。お姉ちゃんに聞いたらOK貰えたよ』

 

「おっ。マジか?」

 

『うん♪定明君のお願いなら大歓迎だって。もし良かったら、ノエルが迎えに行ってくれるって言ってるんだけど、何時が良いかな?』

 

「迎えまで?良いのかよ?」

 

『あはは。定明君には色々お世話になってるから、これぐらいは大丈夫よってお姉ちゃんは言ってたよ』

 

俺の聞き返しに、すずかは電話の向こうで笑いながら答える。

まぁ向こうが遠慮しなくて良いってんなら、有難くお言葉に甘えさせてもらうとしよう。

店の当ても出来たし、これなら昼過ぎにゆっくりと出ても大丈夫だ。

 

「それじゃあ頼む。時間は昼過ぎ……そうだな、1時くらいで大丈夫か?」

 

『うん。1時だね?じゃあまたノエルに行ってもら……え?どうしたの?』

 

「ん?何だ、すずか?」

 

『あっ。ち、ちょっと待って、定明君……どうしたの、お姉ちゃん?』

 

と、電話していたすずかに忍さんが話しかけたらしい。

電話を中断しなきゃいけない様な話があるのだろうか?

……あるかもな、金持ちの家だし。

そう思っていると、少し上擦った声ですずかが話しかけてきた。

 

『あ、あの……定明君。もし良かったら、一緒にお昼もどうかな?』

 

「え?お昼って昼飯か?……そこまで世話になって良いのかよ?」

 

さすがにそれは図々しい気もするしなぁ。

いきなり呼ばれた意図がわからず、遠慮も入って尻ごみしてしまう。

そう考えていた俺だが……

 

『うん。前にあの展望室を治してくれたお礼だから遠慮しないでってお姉ちゃんも言ってるし、一緒に食べよう?』

 

どうやらすずかとアリサが暴走した時にブッ壊した展望室を治したお礼らしい。

まぁそういう事ならありがたく御馳走になるとすっか。

それに久しぶりにすずかとも遊びたいしな。

という訳で、俺はその誘いに乗って、昼からはすずかの家に遊びに行く事にした。

朝食中にその事を母ちゃんに話して昼飯は向こうで御馳走になると伝え、俺はノエルさんの迎えが来るのを部屋で待つ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「いらっしゃい。定明君」

 

「久しぶりね、元気だったかしら?」

 

そしてお昼前の11時頃にノエルさんが迎えに来てくれた車に乗り、俺は月村家にお邪魔した。

ノエルさんに案内されて例のガラス張りの展望室に入ると私服のすずかと忍さんが迎えてくれた。

 

「おっす、すずか。忍さんもお久しぶりです。特に変わり無く元気ですよ」

 

さすがに魔法うんぬんの出来事は言えないのでノーカンで通そう。

 

「直ぐにファリンがお茶をお持ちしますので、どうぞお座りになって下さい」

 

「あぁどうもです、ノエルさん」

 

椅子を引いてくれたノエルさんにお礼を言って、俺は用意された椅子に座る。

座った俺に、すずかは何時もの様に柔らかい微笑みを浮かべていた。

前になのはが元気が無いって電話してきた時は声が沈んでたけど、もう大丈夫そうだな。

 

「ごめんね。急に遊ぼうなんて誘っちゃって」

 

「いやいや。俺も特に急ぎの用事は無かったから気にしないでくれ。最近遊んで無かったから丁度良かったぜ」

 

「そ、そう?それなら良かった」

 

少し申し訳無さそうな顔をしてたすずかだが、俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑む。

 

「ふふっ。定明君に電話する時、迷惑じゃないかな?って私に聞きながら電話と睨めっこしてたのよ、すずかってば」

 

「お、お姉ちゃんッ!?何で言っちゃうのッ!!」

 

「あ?そうなのか?」

 

「だ、だって……まだ朝早かったし……い、いきなりだったから……ね?」

 

「いや、「ね?」って言われても困るんだが……まぁ、特に迷惑だなんて思ってねーよ。お誘い自体は嬉しかったしな」

 

「そ、そう、かな?だったら良いんだけど……うぅ」

 

クスクスと笑いながら暴露した忍さんに顔を真っ赤にしながら怒るすずかに聞くと、すずかはちょっと俯いてしまう。

そんなすずかに微笑む忍さんだが、すずかは少し恨めしそうな目で忍さんを見ている。

ノエルさんはそんな二人を見て静かに微笑みを浮かべた。

のどかに流れる時間と、ふわりとした雰囲気……あぁ……平和だなぁ……やっぱ日常ってのはこうでなくちゃな。

そうして和んでいるとファリンさんが笑顔で紅茶を運んで来てくれて、それを飲みながら俺は本題を切り出す。

 

「それで忍さん。お願いしたい仕立ての事なんですけど……」

 

「ああ、その事ね。電話して聞いたけど、作るのは問題無いって言ってたわ。ただ、出来ればもっと正確な情報が欲しいって言われたんだけど……例えば素材に希望はあるのか、とかね」

 

「それなら、この紙に書いてきましたんで」

 

下唇に指を当てて仕立て屋からの要望を伝えてくれる忍さんに、俺は家で書いてきた図面を手渡す。

忍さんは俺から図面を受け取ると、広げて内容を読み始めた。

 

「どれどれ……へぇ~、すっごい上手な絵ね~。これって定明君の手書き?」

 

「えぇ、まぁ」

 

紙を広げて驚いた表情の忍さんに、俺は答えつつ紅茶を飲む。

柔らかい甘みが口に広がる優しい味……美味いなぁ。

俺が書いてきた紙には、使って欲しい素材と形が書かれている。

つっても鉄球のホルスターは今使ってる物を模写しただけだし、ベルトも寸法を測って書き込んだだけの簡単な図形だ。

バックルのデザインは少し拘って、ジャイロ・ツェペリのバックルと同じデザインを模している。

まぁ、動きの邪魔にならない様に少し縮小してあるけど。

ノーマルのベルトとホルスターの絵を見ながら、忍さんはフムフムと頷く。

すずかも横から俺の図形を覗き込んで驚いた表情を見せた。

 

「わぁ……ッ!?定明君って絵を書くのが上手だねッ!!もしかして絵を書くの好きなの?」

 

「あぁ。まぁ割と好きな方だな」

 

「そうなんだ……それじゃあ、動物の絵とかも書けるのかな?」

 

「一応は書けるけど、それほど大したモンじゃ無いぜ?」

 

目をキラキラさせて聞いてくるすずかに、俺は苦笑いしながら肩を竦める。

一応書ける事は書けるんだが、そこまで期待される凄い絵って訳じゃないし。

すずかとゆったりと話しながら待っていると、忍さんが図面から顔を上げて笑顔を浮かべた。

 

「ふむふむ……うん、分かったわ。じゃあこの素材とデザインで作るように依頼しておくから」

 

「お願いします、忍さん。代金が分かったらまた教えてください」

 

例の温泉旅行に行く為にハーヴェストで回収した金が残ってるから大丈夫だろ。

そう思ったんだが、忍さんはチッチと指を振って笑顔を浮かべる。

 

「お金は良いわ。これぐらいならお姉さんがプレゼントしちゃうから♪」

 

「え?マジっすか?」

 

「えぇ、マジよ。この展望室をちゃんと直してたら、目が飛び出る程の金額になってたと思うし……これはそのお礼の一部♪今日の昼食もそうだから、遠慮しないで。ね?」

 

「そうっすか……なら、お言葉に甘えさせてもらいます。ありがとうございます、忍さん」

 

タダで済むならそれに越した事は無いぜ。

俺は「昼食が出来たら呼ぶから」と言って退出する忍さんに感謝の印として頭を下げる。

ノエルさんとファリンさんも退出したので、展望室には俺とすずかの二人が残った。

とりあえず、今日の俺の予定は片付いた訳だし、これから何をしようか……。

 

「そういえば、すずかはここ最近何してたんだ?」

 

とりあえず茶飲み話にでもと会話を振りつつ、足に顔を擦りつけてくる猫を抱き上げる。

サラッとした毛並みがとても心地良い猫だ。

ゆっくり撫でてやるとくすぐったそうに目を細める。

 

「私?私は塾とか、ピアノのお稽古とかかな。ちょっと前まで、なのはちゃんも相馬君も忙しそうにしてたし、アリサちゃんも同じだったよ」

 

「ふーん?塾にお稽古か……とても俺にゃ真似出来そうもねぇな」

 

「ふふっ。定明君、勉強嫌いだもんね」

 

学校終わってから更に勉強して宿題もだなんて、想像しただけで寒イボものだ。

肩を寄せてブルリと震えてみせる俺を見て、すずかはおかしそうにクスクス笑う。

手を口元に当てる仕草はとても上品だった。

そしてまた俺の足に擦り寄る別の猫、こいつも撫で心地良さそうだな。

 

「勉強が楽しいと思った事は無えな。興味の無い事なら尚更だろ?」

 

「うーん。私は、知らなかった事をいっぱい覚えれるのが楽しいかな?そう思ってたら、勉強もはかどるし」

 

すずかは指を下唇に当てながらそう答える。

俺からしたら一生持てそうにない考え方だな。

と、何時の間にか俺の足元に新たに猫が二匹追加で擦り寄ってくる。

若干熱いから離れて欲しいんだが?っていうか抱っこしてる猫が他の猫威嚇してやがる。

 

「定明君は最近何してたの?」

 

そんな俺の状況を見かねてか、すずかは自分の手と『スパイス・ガール』の手で足元の猫達を抱っこする。

……随分とスタンドの扱い方が上手くなったモンだ。

ちゃんと猫達が痛がらない力で掴んでるし。

 

「……ニャ~」

 

『柔ラカイ毛並ミデスネ……トテモフワフワデス』

 

「……ん?……スパイス・ガール?」

 

「あっ、そういえば言って無かったね。最近、スパイス・ガールが喋れる様になったんだ♪良く寝る前とかお喋りしてるよ」

 

『エェ。スズカト話スノハ、トテモ有意義デスカラ』

 

あれ?とか思った俺の目の前で、すずかとスパイス・ガールは楽しそうに会話している。

……そういえば、スパイス・ガールは自分の意思があるタイプのスタンドだったのを忘れてた。

ドラゴンズ・ドリームとかチープトリックみたいに受け答えは出来るんだっけ。

まぁ勝手気ままに動くんじゃなくて、あくまで主人の為に能力を使うが。

これは多分、すずかがスパイス・ガールと完全に馴染んだ証拠だろう。

俺の時はそんなにスパイス・ガールを使って無かったから、喋ったのは聞いた事無かったけど。

 

「あ~、俺は別に何もしてなかったぞ。普通に学校行って、普通に遊んでの平和な日々さ……リサリサも塾が忙しかったみたいだけど、学校の昼休みとかは結構一緒に居たぜ?」

 

予想外の出来事にちょっと面食らったが、気を取り直してすずかの質問に答える。

ここの所は特に事件も無い平和そのものの日常だったからなぁ。

あの地球崩壊一歩手前の魔法絡みの事件が過ぎて、俺も漸くゆらりと過ごせてる。

そうだよ、これが当たり前の日常なのさ。

今日までの平穏な日常を思い返して少し微笑みながら話す俺だが……。

 

「そ、そう、なんだ。リサリサちゃんと遊んでたんだ……(……良いなぁ、リサリサちゃん……同じ学校で)」

 

何故かすずかは少し不満そうな顔で猫を撫でていた。

……あ~、もしかして俺と遊べなかったのが不満なのか?

そう考えていた俺だが、すずかは何度か小さく頷くと、笑顔で俺に視線を向けてきた。

 

「じゃ、じゃあ、何して遊ぼっか?ゲームもいっぱいあるし、運動具もあるよ?」

 

「ん?あ~、そうだな……昼まで後一時間くらいだし……ボードゲームでもやるか?」

 

昼飯前に運動して腹を空かせるのも良いが、外は生憎の曇り模様だ。

ウェザーリポートで天候を操作するのも有りだが、室内でゆっくり過ごすのもオツだろ。

っていうか抱っこしてる猫がどいてくれそうもねえ。

 

「ボードゲームかぁ……それだったら、チェスに将棋にオセロとか色々あるよ?どれにする?」

 

ボードゲームとしてはポピュラーなゲームをつらつらと挙げていくすずか。

うーん……そういうのも良いが、ちょっとはスリルがある方が良いしなぁ。

二人で考えた末に、俺達は簡単なオセロを始めた。

お互いに猫が降りてくれないから、必然に片手で出来るゲームになった訳。

それで昼飯を報せにきてくれたノエルさんに呼ばれるまで、俺達は楽しくお喋りしながらオセロを楽しんだ。

結果はすずかの勝ち越しで終わって少し悔しかったが、次は勝ち越してみせる。

ノエルさんに呼ばれたので猫を強制的に降ろした俺とすずかは洗面所で手を洗い、食堂へと向かう。

 

「……えへへ」

 

「……嬉しそうだな、すずか?」

 

「うん♪約束はちゃあんと、守ってね?」

 

「分かってるっての。ったく……そういう約束だったからな」

 

「うん♪楽しみにしてるから♪」

 

すずかはニコニコ微笑みながらルンルン気分で食堂に向かう。

何の約束かと言うと、負けた側は一つ何でも勝者のお願いを聞くというものだ。

まだお願いは決まってないらしいので、後日改めて願い事が決まったらという事になってる。

そんな感じでご機嫌なすずかと、そんなすずかを微笑ましく見守るノエルさんの3人で月村家の食堂の入り口に到着。

……どうでも良いけど、飯を食べる所ですら広いという辺りに、すずかの家のブルジョア加減が伺えるな。

 

「着きました……定明様。初めに言っておきますが……」

 

「ん?なんすか?」

 

と、入り口の扉に手を掛けたノエルさんが肩越しに振り返りつつ、俺を名指しで呼んだ。

その言葉に聞き返すと、ノエルさんはやや悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「はい。本日の昼食なのですが……担当した者は、定明様には少々意外に映るかと思いますよ?」

 

は?

 

どういう事なのかと聞き返す前に、食堂のドアが開かれ――。

 

「……」

 

「……な、何だよ?」

 

テーブルの傍に立った、フリルのエプロン姿で恥ずかしそうに頬を染めるイレインの姿を見て、俺は呆けてしまった。

ノエルさんやファリンさんとは違って、彼女のトレードマークであるヘアバンドの色に合わせたシックな赤色のメイド服。

その真紅のメイド服に一色足す形であしらわれた白のエプロンドレスという出で立ちだ。

え?まさかとは思うけど……。

 

「まさか、今日の昼飯の担当って……」

 

「ええ。今日はイレインが準備してくれたのよ。それもイタリア料理をね♪」

 

「すごいですよ、イレインちゃんッ!!私よりも上手に料理が出来ますからッ!!」

 

驚く俺を見て楽しそうに笑いながら、忍さんは座ったままそう言葉にする。

お皿を用意していたファリンさんも大絶賛していた。

 

「べ、別に凄くないってのッ!!ただ、レシピと調理法をデータにしてッ!!あ、後は近所のイタ飯屋で隠し味とかトッピングを聞いただけだよッ!!こ、ここ、これも何れ世界を旅する時に必要だと思ったから覚えただけさッ!!」

 

二人の褒め言葉が恥ずかしいのか、イレインは顔を真っ赤にしてそっぽを向きながら早口にまくしたてる。

いや、データだけじゃ無くて料理人にコツを聞くとか充分に気合入ってると思うんだが……。

そんなイレインの様子を見て驚く俺に、すずかが顔を寄せてきた。

 

「ふふっ。あんな事言ってるけど、イレインは定明君の為に覚えたんだと思うよ?」

 

「え?俺の?」

 

小声で耳打ちされたので同じく小声で返すと、すずかは小さく頷いた。

 

「だって、今度ウチに誘う時はご飯も食べてもらおうって前にお姉ちゃんが言ってたのを聞いてから、料理の勉強をし始めたんだもん。多分、定明君に美味しい料理を食べてもらいたかったんじゃないかな?」

 

とっても頑張ってたよ、と微笑むすずかの言葉を聞いて俺も少し笑ってしまう。

イレインって、性格面でアリサと近い所があるんだな。

まぁ素直にそういう好意は嬉しいけど。

そんな風に小声で話し合ってた俺達だが、イレインの耳には俺達の声が聞こえていたらしい。

顔を真っ赤に染めて俺達に視線を向けていた。

 

「バッ!?だだ、だれが定明の為にやるかよッ!?そ、それにすずかだって、こないだノエルと一緒に練しゅ――」

 

「わーッわーッわーッ!?い、言っちゃ駄目ぇッ!!」

 

『ナニバラシテクレテンダコラァッ!!(ギュムッ!!)』

 

「むっ!?むーっむーっ!?」

 

と、真っ赤になったすずかの傍からスパイス・ガールが出て来て、イレインの口を塞いだ。

っていうか口調が……戦闘時は口調が悪くなるのは知ってたけど、ガラ悪すぎだろ。

本来の本体であるトリッシュ・ウナ譲りの激しい気性が露呈してる。

まさかすずかも似た様な激しい気性だったりしねーよな?……まさか、な?

 

「おいおい落ち着けって。とりあえず、早く飯にしようぜ?腹減ったしよぉ」

 

「ッ!?そ、そうだね。離してあげて、スパイス・ガール(な、何で料理の練習してるか気付かれて無い、よね?……フゥ)」

 

スパイス・ガールの口汚い所を見て少し引き気味だったが、俺はすずかを宥める。

そうしてすずかがスタンドを解除すると、解放だれたイレインは少し驚きながらも、キッチンへと戻って行った。

しかし、イタリア料理か……どんな料理が出てくんだろーなぁ、楽しみだぜ。

俺とすずかも映画で見る様な長いテーブルの席、忍さんの向かい側に着いて直ぐ、キッチンから何とも良い香りが漂ってくる。

そして、再びキッチンから現れたイレインは自信満々の笑みで、手に大皿を持ってきた。

 

「ンン。今日の昼食のメインは、ビスマルクピッツァです。耳がもちもちしたナポリ風生地を使い、トッピングにトマトソース・モッツァレラチーズ・半熟卵・アスパラガス・ベーコン・ホウレン草・バジルソース・ケイジャンマジックを使ってます」

 

主である忍さんの前だからか、口調を正して料理の紹介をしてくれるイレイン。

焼きたてのピッツァの上に乗ってる半熟卵が何とも食欲をそそる一品だ。

ちなみにピッツァ・ビスマルクのビスマルクってのは、昔のドイツの宰相の名前からきてるらしい。

何でもそのビスマルクって宰相がかなりの美食家だったらしく、その人が絶賛したからだとかなんとか。

 

「そしてサラダ。イタリアはフィレンツェの郷土料理の一種、トスカーナ料理のアレンジで、ツナと豆の和え物を用意しました。付け合せにシンプルなスキアッチャティーナと一緒にお食べ下さい」

 

続いてノエルさんがテーブルにランチョンマットを敷き、その上にツナと豆の小鉢のサラダが置かれる。

更にその横に、盛られた3切れの小さな丸い小麦色の焼き物が置かれた。

何だ?スキアッチャなんちゃらって?

首を傾げて例のスキアッチャなんちゃらを見ていると、少し得意げな笑みを浮かべたイレインが俺に視線を送ってくる。

 

「スキアッチャティーナってのはパンの事だよ。日本じゃフォカッチャとも呼ばれている、表面にオリーブオイルと塩をまぶした薄型パンの一種で、パン屋じゃ通常、"ben cotta(ベン・コッタ=よく焼きタイプ)、と"molvida"(モールビダ=ふわふわタイプ)"の2種類があるんだ。イタリアの人達は特に焼き加減を真剣に吟味するとか、イタ飯屋の店長が言ってたぞ」

 

「へー」

 

詳しく、それも事細かに説明してくれたイレインの言葉に、俺は感嘆の声を漏らす。

焼き加減一つでもそんなに拘るのか……イタリア料理って奥が深いな。

続いてノエルさんがそのサラダの横、つまり俺達の正面に出してくれたのが、野菜の香りが濃厚に出てくるスープの入ったお皿だ。

 

「もうすぐ夏が近いので、ナスにパプリカ、ズッキーニとインゲン豆等を使った夏野菜のリフレッシュスープを用意しました。ゆっくりと味わって下さい」

 

「ありがとう、イレイン……じゃあ、食べましょうか?」

 

「そうっすね」

 

「うん。とっても美味しそう」

 

忍さんはイレインの締めの言葉にお礼を言うと、俺とすずかに笑顔でそう問いかけてきた。

それに二人で頷き、昼食を取り始める俺達。

俺はさっそく、ファリンさんが切り分けてくれたピッツァに手を伸ばし、豪快にかぶりつく。

柔らかさと少ししっとりサクッとした生地の上に乗せられたカリッカリのベーコンやアスパラガスの味が、何とも癖になりそうだ。

このオープンとかじゃ再現出来ない焼き加減……美味え。

とろりとした半熟卵を味わってから、用意されてたミネラルウォーターで口の中を洗い流す。

そこで顔を上げると、ニヤリとした挑発的な笑みを浮かべるイレインと目が合う。

俺はそんな顔するイレインに苦笑いしながら肩を竦めて口を開く。

 

「滅茶苦茶美味えよ。今日はサンキューな、イレイン」

 

「フ、フフン……アタシが作ったんだ。美味いのは当たり前だっての」

 

真っ直ぐに自分の気持ちを伝えると、イレインは少しキョトンとするが、直ぐにそっぽを向いてそんな事を言いやがる。

あんだよ、人が素直に感謝してるってのによ。

……この時、ピッツァを食べる為に下を向いていた俺には、小さくガッツポーズするイレインの姿が見えなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ふ~……美味かったなぁ」

 

「そうだね。私はピッツァのあのモチモチした耳が特に好きかな」

 

「あぁ。あの耳も美味しかった」

 

食後、俺とすずかは展望室では無く展望室から外のテラスに出て、まったりと過ごしていた。

天気が回復してゆったりとした晴れ間が出てきたから、外でのんびりしたくなったのさ。

テーブルに置かれた紅茶と、足元を気ままに歩いたり構ってと近づく猫達。

何とも緩やかに過ぎる時間の中、俺はすずかと一緒に備え付けられたベンチに座って会話をする。

 

「こうしてると……落ち着くね」

 

「ん……そうだな……平和ってのを噛み締めてる気分だ」

 

薄い紫色のワンピースに身を包み、静かに紅茶を飲むすずか。

それは何処か、世の中から身を引いた深窓の令嬢の様な雰囲気を感じさせられる。

まぁ本人はどっちかというとかなりの行動派だけど。

 

「……ねぇ……定明君」

 

「ん?何だ?」

 

「え、えっと……その……」

 

と、紅茶のカップを受け皿に置いたすずかは声を掛けてくるが、中々話し出さない。

何だと思って続きを待っていると、少し俯き気味になったすずかは手をモジモジさせながら小さく語り始めた。

 

「ま、また……良かったら、一緒に…………じ、乗馬に行かない?」

 

「乗馬?そりゃ別に構わねーけど……」

 

何で今このタイミング?

 

「そ、その。こういう暑くない日は、また馬に乗ってゆったり歩くのも良いんじゃないかなぁって思って……で、でも一人だと、ちょっと寂しい……から」

 

「あー、なるほど。まぁ一人でやってもなぁ」

 

「だ、だよね?こういう事に気軽に誘えて……い、一緒に居て楽しい人じゃないと、ね?」

 

「んー……そうだよなぁ」

 

少しまごつきながらも、自分の言いたい事を言うすずかの言葉に納得した。

確かに乗馬なんて一人でやっても寂しいモンだ。

せめて友達と一緒にじゃないと、何か虚しく感じちまう。

そういう誘いなら俺も別に嫌じゃ無いけど……ふむ……そうだ。

 

「どうせなら、今から乗るか?」

 

「え?」

 

お茶しよう、ぐらいの軽いノリで質問する俺にキョトンとするすずか。

俺はそんなすずかにちょっと待ってろと言って立ち上がり、テラスから階段を降りて庭の地面に立つ。

えーっと、確かこの紙だった様な……。

朧げな記憶を頼りにエニグマの紙を一枚開くと、中からパチンコの球を沢山入れたボトルが1本出てきた。

とりあえずその中から一発だけベアリング弾を出して、手に乗せる。

 

「ゴールド・エクスペリエンスッ!!」

 

そして、手に乗せたベアリング弾にゴールド・エクスペリエンスの能力で生命を与え、一匹の生物を生み出す。

最初は小さくて何だか分からない生き物だったが、次第に形をはっきりさせ、やがてその生物は生長を完了する。

 

『ブルッ!!ブルルッ!!』

 

「よしよし……良い子だ」

 

「わぁ……ッ!?お、お馬さんが産まれたッ!?」

 

現れた一匹の子馬が鳴く姿を見て、すずかは目を輝かせて驚く。

庭に居た猫達はいきなり現れた馬に純粋に驚いてテラスの上に避難した。

生み出したのは原作でジャイロが乗っていたヴァルキリーと同じ品種のストックホース、その子馬だ。

バカげたスタミナを持ったこの馬なら、結構長い時間でも動いてくれるだろう。

更にこの前、偶然、ラッキーにも、偶々、廃品として捨てられた子供用の鞍と鐙、そして手綱を紙から取り出す。

廃棄される前にトラックから『偶然にも』転がり落ちたその乗馬セットはどれもボロボロだったが、クレイジーダイヤモンドで治してある。

いやー、良い『拾い物』をしたぜ。幸運ってあるもんだな。

少し前にあったラッキーイベントの事を思い返しながら、俺はせっせとミニヴァルキリーにそれらを取り付ける。

ちゃんと俺の意思を読み取ってくれるので、取り付けはとても簡単だった。

それらを取り付け終えて、俺は軽い動作で飛び乗り、すずかの元へ寄って行く。

 

「さ。生憎と鞍はこれしか無えから、俺の前に乗りな」

 

「えッ!?ま、前ってッ!?」

 

俺の言葉を聞いて目を見開いて驚くすずかに、俺は苦笑いするしか無かった。

 

「まぁ、ちょっと狭いけど、乗り心地はそんなに悪く無いぜ?どうしても嫌だったら交代で乗るか?」

 

「ッ!?だ、大丈夫だよッ!!うんッ!!寧ろ交代交代よりい、いい、一緒の方が良いかなッ!!」

 

「ん、そうか。じゃあ悪いけど、俺と一緒で我慢してくれ」

 

「う、うんッ!!全然大丈夫ですッ!!」

 

一応提案したけどすずかはブンブンと首を横に振って、俺の提案を却下した。

しかも顔を真っ赤に染めて逆に嬉しそうにしながら、傍に寄ってくる。

……やっぱり、俺ってすずか達に惚れられてんのか?

この反応ってどう見ても、この前見た相馬に対するテスタロッサの反応に似てる気がするんだけど……。

そんな俺の考え等お構い無しに、すずかは傍に寄って馬に跨ろうとするが、手が届かない。

 

「あう……そういえば、鐙には定明君が足を掛けちゃってるんだよね……」

 

そう、俺が鐙を使ってるから、すずかは足を掛ける場所が無いのだ。

これじゃ踏み台の補助でも無い限り、すずかはヴァルキリーに跨る事が出来ないが……。

 

「スパイス・ガールに持ち上げさせりゃ良いだろ?」

 

「あっ、そっか……じゃあ、スパイス・ガール。お願い」

 

『ハイ』

 

俺達スタンド使いなら、その問題も難なく解決。

スパイス・ガールに脇に手を入れて持ち上げさせたすずかは、スカートが捲れない様に裾を抑える。

そのまま横向きにヴァルキリーの背に乗ると、顔を赤くしながら俺の腰に手を回してくる。

 

「はうぅ……お……お願い……します」

 

「あ、あぁ……じゃあ、行くぞ?」

 

……考えない様にしよう。

少し自分を落ち着かせつつ、俺もすずかの腰の裏を回して手綱を取り、反対の手はすずかのお腹の前を通す。

そのまま鐙に乗せた足でポンとミニヴァルキリーの腹を蹴ると、ヴァルキリーはカッポカッポとゆっくり歩き出した。

良く晴れた天気、湿気も少ない晴れ間の休み。

広大な月村家の庭をゆったりとした速度で乗馬を楽しむ。

こんな贅沢はそう無いな。

 

「……ん~~♪……気持ち良い……♪」

 

さっきまでの緊張も解れて、すずかは目を細めながら空を見る。

ゆらゆらとヴァルキリーの動きに揺られる中で、晴れ渡った空を見ながらの散歩。

 

「ふぅ……のどかだな……」

 

「うん……静かで……風が、気持ちよくて……凄く、落ち着くね……」

 

俺達は空を見上げていた視線を戻して、お互いに笑いながらそんな事を言う。

小学生がやるにしちゃ、ちょっと年寄りくさいかもしれない。

けれど、俺達は確かに心地よくて、静かでゆったりとした休みの日を満喫出来たのは確かだ。

友達と一緒に食事して、静かに広い庭を歩く休日。

皆でワイワイやるのも良いけど、こんな風にゆったりのんびりした休みも大事だ。

テスタロッサ一家の事件以来、久しぶりに心行くまで休みの日というのを満喫出来たぜ。

そう感じながら、俺に微笑むすずかに笑顔を見せながら、馬の散歩を続けたのであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「すずかー、ちょっと良いかし……あら?」

 

若くして月村家当主の立場にいる忍は、ノエルと共に展望室を訪れた。

今日は定明が遊びに来ているので自分から出向いたのだが、展望室には誰も居ない。

その奥の庭に設置されたテラスにも姿が無く、忍は首を傾げる。

 

「おかしいわね?部屋には居なかったし……(ガチャ)すずかー?」

 

不振に思ってテラスに続く扉を開いて声を掛けるも、テラスの近くからも人の気配は感じない。

しかしテーブルの上には空のカップが二つ置いてあったので、ここに居たのは間違いなさそうだ。

 

「お嬢様、あちらに」

 

「え?……馬?」

 

と、忍と同じく自分の主の姿を探していたノエルが、自らの視覚を拡大してすずかを探し当てた。

促されてその先を見た忍は、自分の家に居る筈も無い動物が歩いているのを見て目を丸くするが、定明の姿を確認して苦笑する。

恐らくあの馬も、定明の持つ未知のスタンド能力によるものだと自らを納得させて。

自分の理解の及ばない力を持つ少年が自らの領地に居るのは心配だが、寄り添う様に馬に乗っている妹の幸せそうな顔を見て、その心配も杞憂だと忍は思った。

どうやら向かう先は、月村家本邸から離れた広大な庭の方らしい。

ならば、邪魔するのは無粋でしかない。

 

「後にしましょうか。行きましょ、ノエル」

 

「よろしいのですか?」

 

「んー、まぁまだ二ヶ月も先の事だし、急ぎじゃ無いから良いでしょ」

 

従者に声を掛けて、忍はテラスを後にして屋敷の中に戻る。

元々すずかを探していた用事は対した事では無く、とあるパーティーに招待された事を伝えようと思っただけなのであった。

月村家は海鳴の大地主であると同時に、海鳴一の資産家でもある。

故に他の著名人や有名な会社からのパーティーへお呼ばれする事も珍しくは無い。

定明は知らない事だが、すずかも社交界やパーティーの経験はあるのだ。

日取りは二ヶ月先の夏休み真っ只中の事なので、焦る必要は全く無い。

 

「しっかし、こんなに大きなパーティーだと、アリサちゃんの所にも招待状は行ってるでしょうね」

 

「はい。アリサ様のご実家であるバニングス家も、世界で名を馳せた一流の企業ですから」

 

パーティの概要が書かれた招待状を見直しながら、言葉を零す忍にノエルは言葉を返す。

忍の手に握られた招待状の最後には、開催されるホテル会場の名前が書かれていた。

 

 

 

 

 

――開催場所。東京都杯戸町○○ー○杯戸(はいど)シティホテル――と。

 

 

 




分かった人は凄い(すっとぼけ)

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