ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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初めに幾つか注意事項をば。

今回の作品は赤城九朗さんの作品であるFate/monster にインスピレーションを受けて書きました。
故に似通った場所が多々あると思われますが、作者さんからは許可を得ています。

ザビ子ファン閲覧注意。

軽く人格崩壊が酷いです。

pixivさんに投稿されていたザビ子イラストで可愛くてきょぬーなザビ子を発見し、そのザビ子さんをイメージして書いてます。

ひんぬーじゃないザビ子なんてザビ子じゃ無いという方はブラウザバック推奨。

読み切りという事でご都合主義と原作設定にかなりの齟齬が出ているかと思われますが、勢いとノリで書いてますのでご容赦下さい。


ツッコミ所満載ですが、それでも大丈夫という心の広い方はどうぞお読み下さい。




読み切り番外編

――日本のとある街。

 

 

世間にある他の街とそう変わらない日常が紡がれる街があった。

周囲を山と海に囲まれた、日本海西側に位置する自然豊かな地方都市。

中央の未遠川を境界線に東側が近代的に発展した「新都」、西側が古くからの町並みを残す「深山町」となっている。

川を堺に東と西の作りが隔てられているという特徴が有る以外は、他の街と対して変わらない街。

 

 

 

名を、『冬木市』

 

 

 

対して珍しくも無い町並み……だが、それは『表向き』に限った話であった。

 

 

 

 

 

――唐突ではあるが、世界には『神秘』という、なんともオカルト染みたモノを追求する人種が存在する。

 

 

 

代々、世界の根源に至ろうとする神秘の探求者達――。

 

 

 

彼等を総称して、彼等は自らをこう呼ぶ――。

 

 

 

――『魔術師』、と。

 

 

 

ここでは便宜上、彼等魔術師を『裏』として説明を進めていく。

日本の何処にでもありそうな街である冬木市だが、実は彼等『裏』の者達にとってはそうではない。

日本でも有数の霊地である事と、そして魔術協会や聖堂教会という異端を管理する執行機関に目を付けられ難い極東の地ということだ。

魔術師からすれば厄介極まり無い執行機関に目を付けられ難く、豊富な霊脈を持つ有数の土地、それが冬木の裏の評価である。

そしてその冬木に目を付けた魔術師の名門の三家が集い、ある大魔術の降霊儀式が計画された。

 

 

 

その名を、『聖杯戦争』。

 

 

 

詳しい説明は省くが、聖杯とは「万能の願望機」と呼ばれる魔術礼装である。

聖杯戦争とは読んで字の如く、万物の願いをかなえる「聖杯」を奪い合う争いだ。

聖杯を求める七人の魔術師……マスターと、彼らと契約した七騎の使い魔……サーヴァントがその覇権を競う。

この様なバトルロワイヤルが行われる理由は唯一つ……聖杯という願望機は、一組の聖杯に選ばれた者にしか降臨しないからだ。

最後に残った一組にのみ、聖杯を手にし、願いを叶える権利が与えられる。

大雑把に言えば、自らの欲を叶える為に聖杯を求める輩が、冬木市にて殺し合いを行うという事である。

しかも万物の願いを叶える事が出来る聖杯をめぐる戦いであり、そんな大それた代物を降霊する巨大な儀式。

当然、魔術師だけではなく、共に戦うサーヴァントも一級品だ。

 

 

 

サーヴァントの事を使い魔と称したが、実際にはそんな枠に収まる様な者達では無い。

 

 

 

彼等の正体は英霊、神話や伝説の中でなした功績が信仰を生み、その信仰をもって人間霊である彼らを精霊の領域にまで押し上げた人間サイドの守護者。

つまり昔に存在し、偉業を成した『英雄』、若しくは悪名を轟かせて人々の記憶に刻まれた『反英雄』達なのである。

聖杯戦争に際してのみ召喚される特殊な使い魔であり、また彼等自身も聖杯に掛ける願いを持っている為に、召喚に応じてマスターと共に戦うのだ。

彼等は予め定められたクラスに、自身の特性を合わせて、そのクラスにて現界する事が出来る。

クラスとは、七騎のサーヴァントそれぞれに割り当てられる七つの「役割」。

英霊を完全な形で召喚するのは聖杯の補助があっても容易ではなく、「役割に即した英霊の一面」というものに限定することでその負荷を抑えている。

クラスには大枠として基本の能力値や保有スキルといったクラス特性が生前の能力値とは別に後付けされるものとして存在し、どのような英霊なら該当するかの条件も加わって、そのクラスらしさのある能力のサーヴァントになっている。

また逆に、生前有していた武装や能力も、クラスによっては発揮できなくなる可能性を持つ。

 

 

 

セイバー

 

アーチャー

 

ランサー

 

ライダー

 

キャスター

 

バーサーカー

 

アサシン

 

そして通常の7つのクラスのどれにも該当しない、特殊なクラスとして、エクストラ(番外)が存在する。

 

 

 

そしてサーヴァントをこの世、つまり現代に留まれる様に維持するのはマスターなので、マスターに死なれてはサーヴァントも生き残れない。

また、マスターが気に入らないからといった理由で反撃、殺害されない様に、主であるマスターには『令呪』という聖痕が与えられる。

これはサーヴァントに対する絶対命令権であり、同時に聖杯戦争へ参加する資格でもあるのだ。

 

 

 

つまり令呪がなければ、聖杯戦争に参加する資格は無いと見なされる。

 

 

 

それは、この聖杯戦争は本来、魔術回路若しくは魔術刻印と令呪を持つ、選ばれた魔術師達のみの殺し合いという事に他ならない。

 

 

 

更に『魔術は秘匿するモノ』という全魔術師に共通する掟から、聖杯戦争は人目の付かない夜中の戦いを義務付けられている。

 

 

 

ならば、選ばれていない冬木の地に住む一般の人間は大丈夫なのか?

 

 

 

答えは、否である。

 

 

 

まず一つ目の理由として、サーヴァントの力を強化する為に、民間人が犠牲になる事がある。

サーヴァントとは使い魔であり、同時に過去の英雄という、謂わば人間霊に性質が近いため、生きた人間の精神や魂を食うことで自身の魔力の強化・補充が可能である。

さすがに世間に目を付けられる様な大々的な事は起こせないが、足りないモノを補う為には他所から持ってくるのが魔術師という人種だ。

己が願いの成就の為、又は必要に迫られれば、何の罪も無い人間が幾人か、魔術師の勝手な理由で犠牲になる可能性も少なく無い。

 

 

 

第二に、令呪に選ばれるのは、何も魔術師のみに限った場合では無いのだ。

 

 

 

そも魔術師の素養というのは、魔術回路という魔術師を魔術師たら占めているモノを秘めているかどうか、つまり特殊な体質の人間の事だ。

魔術回路以外にも、代々先祖が積み上げてきた魔術を刻印として記し、次代に継承させる魔術刻印というものもあるが、それは今関係無いので割合する。

つまり、裏の世界を知らず、魔術の修行を受けていなくとも、魔術の素養が高いだけで聖杯に選ばれてしまうイレギュラーな一般人も居るという事になる。

幸か不幸かと問われれば、平和な日常が一気に血生臭い戦いの日々へ変わってしまうのだから、不幸としか言い様が無いであろう。

 

 

 

 

 

「COOOOOL!!……あんた最高にCOOLだぜ、旦那!!」

 

「フフッ。よき理解者を得て、幸先がいい。私も嬉しいですよ、我がマスター」

 

 

 

 

 

そして、今正に理不尽な理由で日常の全てを台無しにされた光景が、ある民家で広げられていた。

何処にでも有る一般的な居間。

今朝までその家に住む4人家族の団欒と食事を行っていた部屋も、今は惨劇のステージに変わり果てていた。

全ては神の悪戯の様な悪辣極まる偶然と、ほんの少しの不幸の負債である。

もしも、マスターとなった男が異常な猟奇殺人者で無かったら。

召喚されたサーヴァントが、マスターと同じ狂人にして悪意の塊で無ければ。

そもそも男がこの家に目を付けなければ……そんな悪意の偶然。

この家の家族は今日の夜も、明日も、穏やかで幸せな日常を送っていただろう。

しかし全ては起こってしまった。

 

「なぁ旦那!!この『器』はどうよ!?大家族用に作ってみたんだけどさ!!」

 

「ほぉ?この見事な造形……素晴らしい!!正に芸術ですよ、龍之介!!」

 

「へへ、そうかな?旦那に褒められると嬉しいな~」

 

テーブルの上に飾られた『器』を見て、旦那と呼ばれたサーヴァントは微笑んで賞賛を送る。

その賞賛を送られたマスター……龍之介と呼ばれた男は照れくさそうに頬を掻く。

その光景は「よく出来ました」と先生から賞賛を貰って照れる生徒の様で、とても微笑ましい光景だ。

 

 

 

テーブルに飾られた『器』というのが、『男性と女性の肋骨を抉り出して無理矢理繋ぎ合わせたモノ』でなければ。

 

 

 

下半身は既に切り取られ、本来肋骨の中に収められていた内臓が、男性と女性の遺体を結び合わせていた。

首は繋げられたままだが、目は繰り抜かれ、男は耳まで口元を笑みの形に。

女性は反対に悲しみの様に、口元を顎の付け根まで切り裂かれた状態で向き合っている。

 

異常な光景。

 

その『芸術作品』を持ってして、両者はお互いの趣味に理解を示したのだ。

男性と女性は、この家の母と父だった。

いつもの様にゆったりとした昼前の時間を過ごしていたはずの二人は、突如乱入してきた龍之介に○された。

そしてその体は死後も弄ばれ、あの様な見るも無残な姿に変えられてしまった。

更に龍之介は家に居た二人の姉弟を捕縛し、この家で悪魔召喚の儀式を執り行ったのだ。

……事の発端は些細な事であった。

この猟奇殺人を行う龍之介という男は、最近巷を騒がせている猟奇殺人者である。

彼はこの所、自分の『芸術』の作品構想に行き詰まり、初心に帰ろうと実家へ舞い戻ったのである。

そこで何となしに実家の土蔵のモノからインスピレーションが得られないかと考え、土蔵を漁った。

そして出てきたのは、一冊の古めかしい手記であった。

特に何か特別な物には思えなかった龍之介だが、何故かその手記に吸い寄せられて中身を読む。

次の瞬間には「面白そうだ」と笑いながら実家を飛び出していった。

龍之介が見つけた手記は、彼の何代も前の先祖が研究していた悪魔召喚の儀式図……ではなく、何とサーヴァントの召喚陣であった。

それを龍之介は「本物の悪魔に会えるかも」等と勘違いして、偶々目に付いたこの家で儀式を執り行った。

 

 

 

そして、何の因果かその儀式は成功してしまったのである。

 

 

 

龍之介の手に聖痕として令呪を刻み、自動的に龍之介は聖杯戦争のマスターとして登録された。

そして悪い要因が重なり、彼は本来英霊を召喚する為の触媒を用意せずに、呪文だけの召喚儀式を執り行った。

その場合、呼び出されるサーヴァントはマスターの性質に近い者が、聖杯よりセレクトされる。

果たして呼ばれた存在は、龍之介と同じく「殺人に耽溺する」という二人の精神の共通性を持っていた。

つまり、マスターとサーヴァントが共にこの惨劇を執り行う芸術家であり、止めてくれる管理者は不在状態。

しかも続く惨劇の生贄には弟が選ばれてしまう。

姉は決死の思いで弟を庇おうと、塞がれていたが故にくぐもった悲鳴で声を張り上げたが、それは逆に二人の異常者を喜ばせてしまった。

 

曰く、「目の前でこの坊やを殺してあげれば、更なる絶望が彼女を彩るでしょう」

 

という、聖人の様な微笑みを浮かべた悪魔の所為で、弟はゆっくりと時間を掛けて、悪魔のしもべ達に四肢を食い千切られていく。

弟は口を塞がれながらも、四肢を襲う激痛に涙し、悲鳴を上げて、姉に助けを求めた。

姉は弟を助けられない自分の無力に涙しながらも、懸命に声を張り上げて慈悲を請い続ける。

 

 

 

そんな彼女への返答は、お腹を裂かれ、弾き飛ばされるという残酷なモノだった。

 

 

 

サーヴァントの規格外の腕力……例えそれが直接戦闘に向かないキャスターであっても、只の人間なら余りある。

弟の命を懇願した姉は、お腹の中身をまき散らしながら、龍之介が書いた魔法陣の側に倒れ伏す。

自らの生命を司る血液が流れてるというのに、彼女は気を失わなかった。

それどころか、腹部に感じる痛みなのか怪しい熱が強く感じられた。

 

「フフフッ。お嬢さんにも坊やと同じく簡単には死ねない様に魔術を施しました。痛みに苦しみながら、最後の家族が生きたまま裂かれるというのは――」

 

グジュル。

 

「さぞかし、貴女の心を絶望で彩るでしょう」

 

何とも水っぽい音が聞こえたかと思えば、弟の四肢は千切れ、鮮血を撒き散らす。

普通なら気を失うであろう出血だが、弟は気絶する事が出来ずに四肢の無い体でのた打ち回る。

恐らく自分に使われた術を、弟も使われているんだろう。

姉はそんな事を思いながらも、弟を見ていた。

彼女にはもう、自分の頬を流れる液体が涙なのか、自分の血なのかすらどうでも良かった。

そのまま最後の仕上げなのか、悪魔の呼び出した異形の下僕に、弟は食い散らかされてその生涯に幕を閉じる。

 

 

 

――許さない。

 

 

 

自分の腹を割き、肉親を目の前で弄んで○した、目の前の悪魔達。

少女は腹を裂かれながらも、脳内を支配する激情の炎を燻らせる事は無かった。

 

許さない。赦さない。ゆるさない。ユルサナイ。

 

目の前で楽しそうに笑ってる悪魔達を、私は絶対にユルサナイ。

もう壊されてしまった、私の○○。

もうあの普通で、そして幸せな日常は戻らない。

でも、私はまだ生きてる。

なら私は絶対に諦めない――諦めてやらない。

腹を裂かれた自分に何が出来る?

私では、悪魔の横に居る男にすら敵わない。

なら、悪魔や悪魔の下僕にだって絶対に無理だ。

幸いにも、自分はあの悪魔のお陰で直ぐには死なないらしい。

だったら――。

 

「なぁ旦那!!この女の子なんだけど、大っきいおっぱいが邪魔じゃん?だから切り取って……」

 

「ふむ。でしたら、乳房は別の場所に縫合し直して……おや?」

 

「あれ?何しようとしてるの?お腹の中がもっとこぼれちゃうよ?」

 

うるさい、黙れ。

そんな言葉すら口にするのも惜しい、とばかりに、私は床を這いつくばる。

みっともなく、床を這いずって……あの男が書いた魔法陣に手を伸ばした。

目には目を、という諺がある。

なら、私もやってやる。

 

 

 

――私も、悪魔を召喚すれば良い。

 

 

 

お腹を引き摺る度に、中身が擦れてイタイ。

でも、それが気を失いそうになる私の心に火を灯し続ける。

――この痛みは『試練』だ。

 

「……プッ。ククク……見なさい龍之介。どうやら彼女は、アナタと同じ様にサーヴァントを召喚しようとしてるらしい」

 

「え!?他にも悪魔さんて居るの!?」

 

「えぇ、居ますよ。私を抜いてもあと6騎は……しかし……」

 

コイツ等に打ち勝てという、『試練』と私は受け取った。

この痛みを乗り越えて、家族の仇を取る為の、謂わば洗礼だ。

震える動きで、カタツムリの様に遅い動作で、私は魔法陣に手を触れる。

 

「ごぶっ……れ……か……」

 

「フハハハハ!!無駄ですよ、諦めなさい。サーヴァントは選ばれた者のみに従う霊僕。資格の無いアナタに答える事はありません」

 

「あれ?誰でも呼べる訳じゃ無いのかー。何かショックだなー」

 

「ですが、面白い余興です。神は人を救わないというのに、その無様に縋る様は滑稽ですな」

 

もう喋るな。その声を聞きたくない。

必死に雑音を除去して、あの男が唱えていた呪文を唱えようとするが、おなかに力が入らない。

殆どの中身を落としてしまったからだろう……でも、諦めない。

口から血が出る。

なら、声だって出せる筈なんだ。

私の○さんと○さんの血で書かれた魔法陣。

それを手で触れながら、私は一言だけ。

 

 

 

 

 

――只、全力で。

 

 

 

 

 

「――来てッ!!!」

 

 

 

 

 

――刹那、魔法陣が眩い光を発した。

 

 

 

 

 

「何ですって!?」

 

「うおぉ!?こ、これって、旦那が来た時と同じ……ッ!?」

 

悪魔達が驚く中、魔法陣の放つ光の中から少しづつ、影が作られていく。

私はお腹の痛みに耐えながら、その光の中心を見ていた。

そして光が消えて、現れたのは――。

 

 

 

 

 

 黄金の王者

 

 

 

 剣を携えた男装の少女

 

 

 

 妖艶な半獣の女性

 

 

 

 白髪に褐色肌の男性

 

 

 

→自分より幼い少年

 

 

 

 

 

「あ~……ったく、何だよ……聖杯戦争?クソッ、巫山戯た所に飛ばしやがって……」

 

 

 

 

 

現れたのは、さっき○べられた弟とそう変わらない年の男の子だった。

先ほどの悪魔の様な、自分達と……人間とは規格の異なる存在……では無かった。

そんなオーラは殆ど見えない。

それどころか、間違いなく怪我をしていない自分よりも弱いだろう。

目の前がサァッと暗くなった様に感じた。

私はこんなか弱い存在を、自分の都合の為に恐ろしい場所に呼び出してしまったのだ。

私がした事は、あの悪魔達を喜ばせる為の生贄を呼んでしまうという愚行である。

 

「……は、ははは……何かすっごく普通の坊やが来たんだけど?え?これってジョーク?ちょ、腹が捩れる~~~!!!」

 

「く、はははははッ!!残念でしたねぇお嬢さん!!アナタは私達の為に新たな贄を呼び寄せる事しか出来なかったようですなぁ!!!ハハハハハハ!!!」

 

……ッ!!

悔しさで、涙が堪え切れない。

さっきまでは好都合だと思っていた死ねない術も、今の私には枷でしかない。

そして私には、楽に死ぬ事も許されない。

せめて、自分の呼んでしまった少年への贖罪に、痛みと苦しみの中で永遠に責められたいぐらいだ。

間違い無くこの少年も○されてしまう。私の○と同じ様に――。

ごめんね、知らない子。

こんな所に呼んじゃって、ごめんなさい。

 

 

 

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさ――。

 

 

 

 

「ノックしてもしもぉ~し?お姉さんが俺のマスターって事で良いんスかね?」

 

 

 

 

と、呼んでしまった少年に対しての謝罪を心の中で唱えていると、少年は私の頭を優しく撫でながらそう聞いてきた。

私はその声にハッとして、意識を戻す。

何を謝って自己完結してる!!最後まで諦めないで、せめてこの子だけでも――ッ!!

私は体に力を籠めて『立ち上がり』、彼を背中にして悪魔達から庇う。

もう絶対に、アイツ等の思い通りには――ッ!!

 

 

 

「あははは!!お、お嬢ちゃん可愛いしギャグのセンスもあるなんてサイコーだよ!!こりゃ是が非でも俺のアートの材料、に?……え?……あれ?――ねぇ……君、何で『立てる』の?」

 

「ハハハハハハッ!!ん?どうしました龍之す……け……?」

 

 

 

――え?

 

 

 

あの男に言われて、私は初めて自分の『矛盾』に気付いた。

言われてみれば、おかしい。

私は何で『普通に立っていられる』のだろうか?

そんな事は有り得ない筈だ。

だって私のお腹は――。

 

「……何も……なってない?」

 

自分自身の言葉であっても、到底信じられるモノでは無かった。

あの悪魔に裂かれて、中身が溢れていた筈の私のお腹。

そこに傷は無く、破かれたセーターの隙間から覗く肌は、綺麗なままだ。

床にも、私のモノらしき○○は一つも溢れ落ちて無い。

え?あれ?なんで?

 

「……ハァ~」

 

ふと、後ろから聞こえた溜息に、私はゆっくりと振り返る。

 

「やれやれ……巫山戯た場所に飛ばされたと思ったら……これまたグレートに巫山戯た状況とはなぁ……やってらんねーよ」

 

あの魔法陣から現れた少年……彼は、ヤレヤレと首を振りながら、私と入れ替わって前に立つ。

その動きに恐怖は無く、気負いも無し……只、目の前の悪魔と男に対して視線を送るだけだ。

余りにも異質な事が自分の身に起きて、私は動く事が出来ずに、少年を止められなかった。

ただ、今まで感じた事の無い『スゴ味』を、彼の背中から感じている。

それだけで、私は救われた気がした。

何の根拠も無いし、悪魔だって居るのに……私を守る様に立つ目の前の子を見てるだけで、私は嬉しい涙が溢れて止まらなかった。

 

「……腹の底からドス黒い気分になるぜ……テメェ等みてぇなクソを見てるとよ……ブチ殺す事に躊躇も感じねーくらいだ」

 

「……吠えるなよ匹夫めがぁああああああああああああああああああああッ!!!」

 

少年の呟きが琴線に触れたのか、悪魔は大声を出して、懐から異様な本を取り出す。

その本から怪しい光が漏れたかと思うと、悪魔の後ろに○を食べた化け物が何匹も現れる。

少年はその光景を見ても、特に何も反応していない。

だが、悪魔の方はそうでは無かった。

憤慨している。激怒している。

表情が全てを物語っていた……少年という存在に対して、激しい憎悪すら感じる。

 

「忌々しい神の手先め!!その下賎な小娘を救うと言うのか!?かの民衆の為に戦った聖処女は救わなかったというのに!!聖処女は見捨てて信仰心の無い小娘を助けるというのかぁあああッ!?」

 

「ギャーギャー吠えるな、ビチグソ野郎。テメーが神様をどうして恨んでるのか何て知ったこっちゃねぇしどうでも良い。とりあえずテメェは居る事自体が不快だからな……さっさとおっ死ね」

 

「舐めるなぁあああああああッ!!!貴様こそ、海魔達の糞になれぇえええええッ!!!」

 

悪魔のその言葉で、コチラへ殺到する無数の化け物。

そんな化け物達を見ると、体が自然と震える。

アレはさっき、私の○を……。

 

「大丈夫ッスよ」

 

そんな私に対して、少年は顔だけ振り返り、笑顔を向けてくる。

たったそれだけの行動。

どんな意味が篭められた言葉なんか、分からない……筈……なのに……。

 

「俺が貴女を守りますよ……貴女の家族の代わりに……どんな事があろうと……」

 

あぁ、何故だろうか。

目の前の少年の言葉が、私に勇気を与えてくれる。

安らぎと、心地良さを……私を包む、大きな優しさを感じさせてくれる。

少年は私から目を離すと、殺到する化け物達に視線を向け――。

 

 

 

 

 

「餌としちゃ三流だが、喰われる事を光栄に思っとけよ、ボケナス共……『イエローテンパランス(黄の節制)』ッ!!!」

 

 

 

 

 

少年の背後から現れた、黄色いドロドロが、化け物達を飲み込んで、蹂躙した――。

 

 

 

 

 

結果を言うなら、あの化け物達は少年のスライムに喰い尽くされ、悪魔達は逃げていった。

ベストでは無いが、ベターな結果に終わったと言って良いだろう。

少年は悪魔達が去ったのを確認すると、重い足取りでテーブルへと近づく。

そこには、あの男に○された、私の○と○の無残な姿が有る。

 

「……遅くなってすいません……あなた達は救えなかったけど……」

 

重い口調で呟く少年の背後から、半透明のシルエットが現れる。

ハートの様なアクセントを散りばめたヒトの様な存在。

その存在が私の○と○に手を触れると、○と○の体は綺麗に治った。

何時もと変わりない姿。

でも、永遠に目を醒ます事の無い、私の○○。

その姿を見て、私は嗚咽を堪え切れずに、膝を付いて泣いてしまう。

悲しくもあり、嬉しくもあるのだ。

もう目を醒まさないという悲しい事実。

それに相反して、綺麗に治って良かったという嬉しさ。

二人の人間としての尊厳が、取り戻されたのだ。

 

「必ず俺が、マスターを……貴方達の娘さんを守ります……そして、貴方達の日常を壊したあのクソッタレ共に……然るべき報いを与えますから……安らかに寝て下さい」

 

もう我慢出来なかった。

私は、私の頭を撫でて慰めてくれる、この小さくて勇敢な少年に抱き着いて、大声で泣いた。

自分の方が年上なのにだとか、そんな事を忘れて、恥も外聞も無く泣いた。

そんな私を疎ましく思う訳でも無く、少年は只優しく私の背中と頭を撫で続ける。

理性では『そんなに優しくしないで欲しい』なんて思っても、本能は『ずっとこうして欲しい』と思うばかり。

あぁ駄目、駄目だ……これじゃあ私、君の前じゃ泣き虫のままだよ。

恥ずかしいと思いつつも、体は離れない。自分の体なのに言う事を聞いてくれないのだ。

結局そのままズルズルと、私は少年に抱き着いて10分は離れなかった。

 

「……落ち着きましたか?」

 

うん、大丈夫。本当にありがとう。

優しい口調で声を掛けてくれる少年に、私は俯いて答える。

何?目を見て感謝しないのは失礼だ?

そんな事良く判ってる。

でも、泣いて真っ赤に腫れ上がった目を見せたくないのです。

今更ながら羞恥心MAXなんですよ!!察して!!

そしてそんな状況でも抱き着いて離れない私、自重しろ……ッ!!

しかしそんな事をしてると、フラリと頭にモヤがかかる様な気分に陥る。

床に倒れると思っていたが、少年が私の体を支えていてくれてた。

手の掛かるお姉さんでごめんなさい。

 

「疲れが出たんでしょーね……今はゆっくり眠って下さい。俺がちゃんと安眠できる様に、見張ってますから」

 

うん……ごめんね……迷惑ばっかり……かけ……て……。

そう言いたかったのだが、私の意識は言葉を返す前に深い眠りに落ちてしまった。

 

「あれ?マスター?おーい?……抱き着いたまま寝るって……しかも離れねーし……やれやれ」

 

 

 

 

 

――明けて次の日。

 

 

 

 

 

リビングには土下座する私と、困った表情の少年の姿がありましたとさ。

いやもうホントにごめんなさい。

助けてくれたのにお礼も言わず勝手に寝落ちして、挙句に離れなくてすいません。

マジ生きててごめんなさい。

 

「いや、まぁそこまで困った事にはなって無いッスから……とりあえず顔を上げて、お互い自己紹介しましょう」

 

見た目○とそこまで変わらない少年にフォローされる女子高生。

うん、割りとマジで辛い。

しかしこのままでは話が進まないので、私は顔を上げて少年と目を合わせた。

……余り真面目そうには見えない。

改めて少年の顔を見て思ったのは、それに尽きる。

ダルッとした目付きで、座り方もラフだ。

何処と無く不真面目というか……面倒くさがりに見える。

しかしそんな彼のダルッとした目が可愛いと思ってしまう当たり、自分は相当重症だと思う。

あのヤル気の無い、しかし何処と無くユルッとした、垂れた様に見える目。

そしてその小さな瞳の中に薄っすらと見えるダイヤモンドの様な気高さ。

あぁ……どうしよう、本気で重症だ。何故か抱きしめたくなるZE。

 

「……なんか目付きが不穏なんだが……改めて、エクストラクラスサーヴァントのサモナー(召喚する者)です。真名は『城戸定明』で、アダ名で『ジョジョ』とも呼ばれてました。マスターの名前は?」

 

サー、ヴァント?サモナー?……どういう事だろう?

彼の言葉に意識を集中した私だが、聞いた事の無い単語ばかりだ。

何時もならこの年の少年が言うなら何かのゲームの事と思うが、今は違う。

何せ昨日、自分の身を持って体験したばかりだ……あのおぞましい……。

そんな事を思い出しながらも、私も自分の名前を彼に教える。

 

 

 

――白野。岸波白野だよ。

 

 

 

「白野さんッスね?改めてよろしくお願いします……じゃあ、マスターの家族が襲われてた事を踏まえて聞きますが……マスターは『聖杯戦争』ってのをご存知で?」

 

また聞いたことの無い単語が出て、私は首を横に振る。

戦争とは、また穏やかじゃ無い話だ。

私の反応を見た定明君は「なるほど……やっぱそういう事か」と何かを納得した様に頷く。

 

 

 

「じゃあ、俺が一から説明しますよ……まず最初に、マスター。この世界には『魔法』が存在します」

 

 

 

サモナー……城戸定明君が語ったのは、この世の裏側という世界の事だった。

魔法の存在、全ての願いを叶える願望機の降霊儀式。

世間ではオカルトとして、有り得ない事象として語られる筈の話。

しかしその突拍子も無い夢物語を、私は全て受け入れる。

私の○○がその戦争の犠牲者なのだから……。

 

「んで、さっきも説明した通り、マスターは魔術師じゃ無い。でもかなり大量の魔力を持ってたから、聖杯にマスターとして選ばれたんじゃないッスかね。令呪もあるでしょ?」

 

令呪とは、使い魔として規格外のサーヴァントを従える、3つの絶対命令権だそうだ。

それが体に刻まれていれば、聖杯戦争のマスターとなるらしい。

普通は手の甲に現れる筈なのだが、私の手の甲には見当たらない。

――じゃあ、私は定明君のマスターじゃ無いの?

自分で言ってて何だが、そう考えると涙が出そうになった。

 

「いや、俺は白野さんがマスターだと思います。白野さんと魔力のパスは通ってますから、多分体のどっかに令呪が刻まれてるかと」

 

その言葉だけで、私の気分は上方に跳ね上がる。

どうにも自分は自分でヤバイと思うぐらい、彼に依存してしまってる様だ。

これじゃまるっきりショタCONでは無いか……ッ!!

 

「ちょっ、待った待った!!何で服を捲ってんスか!?令呪を確認すんなら脱衣所でやって下さいよ!!」

 

え?でも、私以外誰も居ないし……。

 

「俺が居るでしょーが!!霊体でも存在はちゃんとカウントして下さい!!」

 

私が首を傾げながら答えると、定明君は顔を真っ赤にして反対を向いてしまう。

ゴメン、私普通に定明君になら見られても良いって考えてた。ちょっと配慮が足らなかったね。

 

「……幾ら俺がガキっつっても、性格が男前過ぎんだろーが……(ぼそっ)」

 

耳まで真っ赤にしてブツブツと呟く定明君に癒やされながら、私はセーターを脱いで自分の体を見下ろす。

すると、目当ての令呪は直ぐに見つかった。

探して止まない聖痕は、私の同年代からは羨まわれて仕方無い大きい胸の片方にあったのだ。

ハートの形の痣の中に、寄り添う様に左右の淵を彩る装飾。

そしてハートの中心に添えられた手の平のマーク。

これが令呪なんだと、直感的に感じる。

私と定明君を結ぶ、目に見える証……良し、これで不安は拭えた。

令呪があった事を伝えると、服を早く着てくれと言われ、私は服を着直す。

そしてまた話し合いを再開する。

 

「んで、聖杯から得た知識では、マスターである令呪を放棄する事で戦争を棄権し、聖杯戦争の監督役での居る教会で保護してもらえるんですが……」

 

嫌だ。

 

定明君の提案する様な言葉に、私は即座に首を振る。

こればっかりは誰が何と言おうと、私は拒否するつもりだ。

これは私の我儘だが、定明君には側に居て欲しい。

私の『かぞく』は、もう居ないから……ひとりには、なりたくない。

私が俯いて沈黙していると、定明君は分かっていたかの様に「そうッスよね」と言葉を続ける。

 

「それにマスターの場合、棄権する事はお勧め出来ねえ。キャスターの野郎がマスターを……いや、俺達を狙ってるから」

 

そう、私達は確実に昨日の悪魔……キャスターのクラスのサーヴァントに狙われているのだ。

私と私を助けた定明君は、確実にあの狂人の標的となっている。

ならこの状況で令呪を放棄して定明君との繋がりを断つのは、愚策でしか無い。

……ここでふと、今自分が居るリビングの状況を見て驚いた。

あの夥しいまでの血痕も、○と○の血で書かれていた魔法陣も綺麗さっぱりと無くなっているのだ。

それに二人の遺体も……。

 

「血は全部掃除しました。そんで、マスターのご家族は……この『紙』の中に入れてあります」

 

紙?紙って……どういう事なの?

気になって質問すれば、定明君は二枚の紙を差し出してきた。

紙には其々、○と○と書かれている。

 

「それは俺の持つ宝具、『傍に立つ者(スタンド)』の能力の一つ。『エニグマ』で創り出した紙なんスよ。その中に保存した物は紙が破けない限り、保存した時の状態を保ちます……直ぐには無理でも、落ち着いたら埋葬出来ますし……」

 

宝具。

 

簡単に言えば、彼等を英雄たらしめる象徴。つまり必殺技らしい。

彼は違うそうだが、その分魔力の消費も段違いとの事だ。

二人を保存してくれた彼の気遣う言葉も、段々と気まずそうな声に変わる。

それはそうだろう。

どう言い繕ったって、二人はもう死んでいるのだから。

でも、彼の気遣いを無駄にはしたくない。

私は溢れそうな涙を堪え、出来る限りの笑顔でお礼を言う。

私のお礼を聞いた定明君は、真剣な表情で私を見つめながら、言葉を続けた。

 

「キャスターに狙われてる以上、マスターは戦う事を止められません。それに他のサーヴァントに狙われるのは必然ですから、今から住む場所を移動しましょう」

 

住む場所?ここでは駄目なんだろうか?

……いや、考えるまでも無い。

既にこの家はキャスターに知られている。

本当なら直ぐにでも移動しなきゃいけない所だ。

でも、そんな見つからない場所の当てなんて……。

 

「そこは問題無いっす。当面の金銭に関しても俺が何とかしますんで……とりあえずマスター、この『亀』を見て下さい」

 

そう言って定明君は、何処から出したのかは分からないけど、一匹の亀をテーブルの上に置く。

見た目は普通……では無く、背中の甲羅には煌びやかな装飾が為された『鍵』が嵌め込まれている。

鍵の中心の赤い宝石なんて、透き通って見えそうな程に綺麗だ。ルビーかな?

そう考えていると、彼は私の隣に移動してきて、優しく私の手を掴んだ。

――触れた瞬間、心臓が破裂するかと思う程に脈動を繰り返す。

顔も熱が集まって仕方無い。

 

「さ、手を亀の宝石に『入れて』下さい……入る時は『落ちますから』着地に気を付けて下さいね?」

 

?それはどういう――。

 

ゴンッ。

 

お、お星様が見えるぞぉー!?

答えを聞く前に、私は頭を強かに打ち付けて悶えた。

そんな私の頭を撫でながら、彼は溜息を吐く。

 

「だから気を付けてっつったのに……まぁ、初めてだし無理も無いかな……とりあえずマスター。今日からここが、マスターの仮の『住まい』です」

 

彼に頭を撫でられて、不思議と頭の痛みが引いた私が目にしたのは……。

 

「ベットとかも運び込んでソコソコの設備も入れてるし、トイレに風呂も照明も付けた。俺は料理出来ないけどキッチンもある。仮住まいとしては女の人でも寝泊りに不自由は無えと思いますが、暫くはここで我慢して下さい」

 

それこそ普通のホテルよりも豪華な装備が施された『部屋』だった。

どどど、どういう事だってばよ!?

仮住まい所か普通に自分の部屋よりも充実した装備なんですけど!?

冷暖房完備でクイーンサイズのベットとか完璧じゃないか!!

 

「とりあえず、マスターはここで休んでて下さい。俺はこの辺りを散策して、マスターが安心して寝れる住まいを探しますから」

 

定明君はそう言って天井に手を伸ばし、そこから吸い込まれる様に外へと出て行った。

彼が出た場所からは、丸い円の形に外の景色が見える。

って、つまりここはあの亀の中なの!?なんてエコなキャンピングカー!!

 

『俺の宝具の一つ、『ミスタープレジデント』は亀のココ・ジャンボのみが使える専用のスタンドでね。魔力消費も少ないから、マスターは気にせずに休んで下さい』

 

外が見える天井から、定明君が微笑みながらそんな事を言ってくれる。

それは嬉しい、素直に嬉しいのだが……これではまるでお姫様扱いではないか?

いや、それが嫌なのかと聞かれれば違うけど相手が自分より幼いから恥ずかしい気持ちも無きにしもあらずで……うー。

悶々とする気持ちを潰す様にベットへダイブするが、時折上を見て彼の顔を盗み見てしまう私なのであった。

 

 

 

 

 

――その日から、私は聖杯戦争のマスターとしての第一歩を踏み出す。

聖杯を掴み取る為では無く、生き残る為の戦い。

 

 

 

 

 

初めの時点で私達に有利な点は、『正規の魔術師では無いから、私の存在が他の陣営に露見し辛い』という一点に限る。

いや、私的には定明君が召喚に応えてくれただけで充分な幸運なんだけど。

 

「聖杯から送られた知識の一般的な魔術師の魔力量と比べて、マスターの魔力量はかなりのモンです……でも、俺の宝具、つまりスタンドを十全に扱うにはまだ足りない。だから俺のスタンドでも特に強い能力は使えないッスね」

 

彼の宝具であるスタンドとは何体も種類があって、固有の能力も違うらしい。

上位のスタンドになれば、何と時間すら止められる能力があるとか。

 

「えぇ。まぁ秒単位ですけど……正直、そのレベルのスタンドを使おうと思えば、今のマスターの力じゃ令呪2画を使っても無理です。3画でも怪しい」

 

令呪とはサーヴァントに対する絶対命令権であると同時に、膨大な魔力の塊でもある。

過去の英雄を使役して、しかも命令を聞かせる程の束縛力がある事を考えれば、それも納得だ。

それでも、定明君をフルスペックで戦わせてあげられない自分が不甲斐無い。

 

「でも、マスターの魔力量は日に日に増えてますから、何時か令呪のバックアップを使ってスタンドを使える様になるかもしれません」

 

良し、頑張ろう。具体的に何を頑張ったら良いのかは判らないけど。

そう思って、どうやったら魔力量って増えるの?と聞いてみた。

 

「あーそこまではちょっと……元々魔法とかその辺は専門外ですし……」

 

どうやら前途多難の道のりになりそうだ。

でも挫けない様に頑張ろう。

小さな事からコツコツと進んで行けば、何とかなると思う。

 

「……どうでも良いっすけど、マスター……何で、俺はマスターに抱き抱えられてるんでしょうか?」

 

え?駄目?

定明君を背中から抱きしめて癒されつつ、私は問う。

 

「いや、駄目とかじゃ無くて理由を聞いてんスけど……」

 

そんなの、私がこうしたいからに他無いけど?

 

「……真面目に聞いた俺が馬鹿って訳か……」

 

失礼な。これもマスターとサーヴァントの関係を円滑にするスキンシップだ。

そうだと言ったらそうなのだ、うん。

定明君とこうやってられる為なら、令呪を使う事も吝かでは無い。

 

「こんな事の為に令呪を使わんで下さい。つか、頭に胸乗っけないで欲しいんスけど?重いです」

 

良いではないかー。

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

それから隠れ続ける事、数日――。

私の魔力量は令呪1画を使えば、定明君がスタンドを十全に使えるまでに成長した。

どんなもんだい。

 

「いやそれがおかしいんスよ。たった数日でここまで魔力が膨れるとか、普通は有り得ないっすから。成長性AどころかEXあるんじゃないんスか?マスターってマジ人間?」

 

ふっ、これが想いの力だ。

そんな風にカッコつける私をハイハイとスルーして、定明君は私と会話を続ける。

定明君が新たに見つけてくれた拠点のソファに座って、私達は作戦を練っていた。

 

「マスターの男前はどーでも良いとして……兎に角、これで俺が考えていたものすげー卑怯な作戦を実行出来ます。そりゃもう有り得ないイカサマをね」

 

……?

イカサマとはどういう事だろうか?

彼の話では、まだマスターとサーヴァントは全員揃ってはいないと聞く。

なのに、この状況で他のマスターやサーヴァント達よりも有利に進める手段でもあるのだろうか?

 

「正直、『お前それはねーだろう』と思う奴が大多数の作戦です。マジ卑怯卑劣で最低。名付けて、『お前の物は俺の物。というか俺がルールですが何か?』作戦とでも言いますか……勿論、やるかを決めるのはマスター次第っす」

 

……良いよ……それをやろう。

少し考える様にしながらも、GOサインを出した私を定明君はジッと見つめる。

ジャイアニズムが作戦の名前になるという時点で、確かに理不尽な事なのだろう。

しかし、その作戦を遂行する事でキャスターの殺人を止められるなら、是非ともして貰いたい。

卑怯な事もしよう、地獄に落ちる事だってしよう――でも『逃げる』って事だけはしない。

私の言葉を聞いた定明君は、ニヤリと笑いながら口を開く。

 

「OK。マスターの言葉、確かに……じゃあ、令呪を使って俺に命じて下さい……『全力で宝具を使え』ってね」

 

彼の言葉に了承して、私は定明君に意識を集中させながら、言霊を紡ぐ。

私の意思に反応して、令呪がその耀きを増した。

 

令呪をもって命じる――定明君。全力で宝具を使って。

 

その言葉が紡ぎ終わると、彼の身体へ膨大な魔力が流れる。

令呪によるサポートと、私の魔力をごっそりと持って行った。

一瞬で身体から力が抜けて、私は背後のソファーに腰を下ろしてしまう。

とんでも無い量の魔力を持っていかれた……やばい、凄く疲れた。

身体に凄い倦怠感を感じる私の目の前で、充分な魔力を受け取った定明君はニヤリと笑う。

 

「良し。これなら問題無く使えるな――Dirty Deeds Done Dirt Cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)」

 

その言葉と共に、定明君はタオルケットを持って私に近づいてくる。

そのままタオルケットを自分と私を覆う様に広げて、私に向かって倒れ込み――え?

 

 

 

 

 

え?ちょ、待って?いきなり何をする気なの?

も、もも、もしかして!?そんな歳で早くもそういうコトに目覚めっ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――正直に言おう。

 

 

 

 

 

定明君、それは無いわー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付と場面が代わり、真夜中の港のコンテナ広場。

 

 

 

誰もが眠る丑三つ刻に、夜闇を照らす火花が弾ける。

人間では不可能な領域の速度と腕力を持ってして奏でられる剣戟の協奏曲。

演奏者は二人の男女だった。

 

「ふっ!!」

 

「せやぁ!!」

 

一人はまるで豹を思わせるしなやかな肉体をピッチリとした服で包む黒髪の美丈夫。

幾人もの女性を蕩けさせる甘い顔つきと、生前から持ち、いや持たされた呪いの泣き黒子。

その呪いはどんな女性であれ、高鳴る気持ちと恋心を持たされてしまう魅了の黒子であった。

 

今回の聖杯戦争でランサーのクラスを得て現界したサーヴァント。

 

彼は生前より愛用してきた二振りの槍を巧みに操り、もう一人の演奏者に自らの音楽を叩き付ける。

対するは、一見すると青年の様にも見える麗人。

青と白のドレスに銀の甲冑を纏う少女は、目に見えない獲物を振ってランサーの音楽を塗り替える。

 

クラスの中で最優と称されるセイバーのクラスのサーヴァント。

 

魔力を除いた能力値が水準以上の英霊でないと該当しない、エリートの英雄のみが該当するクラス。

更にクラス特性として、最高の「対魔力」とある程度の「騎乗」を保有する。

勿論この少女もセイバーに選ばれる程に名高い英雄なのだ。

二人は一撃で相手の生命を奪う剣技を披露しながら、この戦いを楽しんでいた。

英霊、英雄というのは、過去に名を馳せた者達であり、その殆どは闘争の名誉であったりする。

聖杯戦争という殺し合いに招かれるのだから、当然といえば当然なのだが。

そして騎士という人種は、殺し合いの中で尋常に誇りを賭けて戦う。

相手が誇り高い騎士の心構えを持っていれば、それは自らの誉れある戦いへとなる。

そんな尋常なる戦いを、二人の騎士は心ゆく迄楽しんでいるのだ。

 

「フ……まさか名高い騎士王と槍を交えられるとは……光栄の至りだ」

 

「それは私も同じです、ランサー。かのフィオナ騎士団、随一の戦士……まさか、手合せの栄に与るとは思いませんでした」

 

そして、二人は先ほどまでの攻防でお互いの真名を察したのだ。

ランサーは自らの槍……魔力を断つ『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』を使い、セイバーの獲物を隠していた『風王結界(インヴィジブル・エア)』を断ったのだ。

そして結界から暴かれたセイバーの剣……世界に二振りと無い伝説の聖剣を垣間見て、確信した。

セイバーの正体はあのブリテンの王、アーサー・ペンドラゴンであると。

一方でセイバーはその身に受けたランサーのもう一つの槍……ひとたび穿てば、その傷を決して癒さぬという呪いの槍、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』から正体に至った。

呪いの槍と、乙女を惑わす魅了の黒子、美麗な顔立ちの騎士……”輝く貌”のディルムッド・オディナ。

それがランサーの正体であると。

互いに互いの正体に思い至った二人は、一度構えを取り直して再び睨み合う。

 

「さて、互いの名も知れたところで、ようやく騎士として尋常なる勝負を挑めるわけだが――それとも、片腕を奪われた後では不満かな?セイバー」

 

「戯言を。この程度の手傷に気兼ねされたのでは……寧ろ屈辱だ」

 

互いに挑発し合い、己が武器を構えるセイバーとランサー。

セイバーの宝剣とランサーの魔槍が獲物を狙う獣の牙ように、相対する騎士たちに向けられる。

じりじりと間合いを詰めていく二人を、清澄な空気が包む。

セイバーに付き添ってこの場に来た女性、この聖杯戦争の立案者である御三家の一人、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

彼女はこの切迫した戦いの中で、喉を鳴らしてつばを飲み込む程に緊張していた。

 

 

 

――その時だ。

 

 

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!!」

 

 

 

「「「ッ!?」」」

 

突如、頭上から野太い男の声と雷鳴が、この広場に轟いた。

広場にいた全員が空を見上げ、轟音の出元を確認する。

そしてアイリスフィールは、ソレを見た瞬間に思わず呟いた。

 

「……戦車(チャリオット)?」

 

豪雷を地面の様に踏み締めて上空より現れるは、古来の戦闘にて戦場を跋扈した、大型の戦車。

規格外のサイズと重量を誇る戦車を引くのは、美しくも逞しい筋骨隆々とした二頭の牡牛。

神牛という神秘の幻獣、二頭の飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)だ。

稲妻を踏みながら虚空を駆ける戦車は、やがて二人の戦闘を仲裁する様に降り立つ。

アイリスフィールはこの光景を見て、戦車がライダーのサーヴァントの物であると直感した。

そして神の牛が引く戦車は降り立ち、御者台に堂々と立つ巨漢は両手を大きく広げ、その口を開いた。

 

「双方武器を収めよ!!王の御前である!!」

 

威風堂々。

何者にも動じないその姿は、巨漢を正しく王と感じさせるカリスマに溢れている。

しかし更に続く言葉にはこの場の人間全員が度肝を抜かれる事となった。

 

「余は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争の場においてはライダーのクラスを得て現界した!!」

 

茫然。イスカンダルを名乗るライダーのサーヴァントの言葉に、3人は言葉を失ってしまう。

英霊の真名が知られる事は即ち、その英霊の弱点を付かれる事に他ならない。

だからこそ、聖杯戦争に於いて、サーヴァントは自らの名をクラスとして名乗るのだ。

名を自ら名乗る等、何も知らぬ無知者か単なる大馬鹿でしかない。

そんな大事をやらかしたサーヴァントに、同じく戦車に乗っていたマスターの少年が怒るが、ライダーはフンと鼻息を鳴らす。

そのまま流れる様に打ち出したデコピンでマスターを悶絶させると、唖然とするサーヴァント達に演説を続けた。

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合せだが……矛を交える前に、まずは問うておくことがある。うぬら……」

 

言葉を区切ったライダーは拳を握り、両腕を広げる。

まるで、目の前の敵達を迎えるかの如く。

 

「一つ我が軍門に下り聖杯を余に譲る気はないか!!さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かちあう所存でおる!!」

 

何とこの男は目の前の屠るべき存在であるサーヴァントを盟友として勧誘し始めたのである。

これに一同は唖然とし、ライダーのマスターは額の痛みを堪えながらも、また別の痛みに頭が襲われていた。

これこそが、征服王イスカンダルの覇道なのである。

大柄な見た目通りの豪放磊落を地で行く人物。

他を顧みるということを全くしない暴君的性質を持つが、その欲望が結果的に人々を幸せにする奔放な王。

そしてかの王の放つ強烈なカリスマに魅入られて、彼のために命を投げ出す覚悟を持つ者達も確かに存在した。

故に彼は自らを隠す事を好とせず、己の全てを曝け出して相手に向き合う。

しかし、今回ばかりは相手が悪かった。

 

「……その提案には承諾しかねる。俺が聖杯を捧げるのは今生にて誓いを交わした新たなる君主ただ一人だけ。断じて貴様ではないぞ、ライダー……ッ!!」

 

まずランサーは呆れた様に首を振りながら拒否を示し、次に相手を萎縮させんばかりに睨み付ける。

この男の誘いに応じるのは二君を仰ぐ不忠の極みであり、只騎士として忠義を尽くす事に己を捧げるランサーには耐え難い侮辱だ。

更にセイバーもランサーの言葉尻に乗って言葉を紡ぐ。

 

「そもそも、そんな戯言を並び立てるために貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたと言うのか?恥を知れ」

 

もはや取り付く島も無いとはこの事だ。

更に真剣にして崇高な騎士の一騎打ちを邪魔されたとあって、二人の機嫌は最悪に尽きる。

そんな二人の反応を見て、イスカンダルは「ムゥ……」と唸りながら何かに気付いたように手をポンと叩き、人差し指と親指で輪っかを作る。

 

「待遇は応相談だが?」

 

「「くどい!!」」

 

「ファァーーックッ!!?お前馬鹿か!?誇りを重視する騎士が待遇で動く訳無いだろ!?っていうかそもそも何で真名バラしやがりますかこのバッキャロウ!!」

 

俗物的な誘いを一蹴したランサーとセイバーに続く様に、ライダーのマスターである少年もライダーに突っ掛かる。

 

「まぁ、ほれ。言うではないか、"物は試し"と」

 

「"物は試し"で真名バラすなぁ!!」

 

うわああぁぁん、と情けない声を上げながら少年は何度もライダーの胸板を叩くが、当のライダーは特に気にした様子も無く野太い笑い声を上げている。

何とも凸凹な主従の様子に、セイバーとランサー、アイリスフィールは同情的な視線でマスターの少年を見る。

苦労してるんだなぁ、という同情の篭った視線……そして、この場の様子を見ていた他の者も、マスターである少年に言いたい事があった。

 

『……そうか……よりにもよって貴様か』

 

その声が響いたと同時に、ライダーのマスターは体の動きをピタリと止める。

彼はその声に覚えがあったのだ。

それは、できることならば会いたくもなかった人物――本来ならライダーのマスターになるべきだった男のものだったからだ。

いきなり様子が変わったマスターの様子にライダーは訝しく思うも、再び声が響く。

 

『何を血迷って私の聖遺物を盗んだのかと思ったが、まさか君自らがこの聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ……裏切られた気分だよ。ウェイバー・ベルベット君』

 

「アーチボルト……先、生……」

 

怒り、嘲り、中傷。

そういった負の感情が織り交ぜられた声に、少年……ウェイバーは体を震わせる。

 

『おや、こんな時でも私を先生と呼んでくれるのかい?いやはや、いつでも礼儀正しく在ろうとする姿勢は実に素晴らしい……そんな君には、私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか』

 

全くと言っていい程に、ウェイバーに対する賞賛など感じさせない、上辺だけの言葉。

表面だけを飾った言葉を聞くウェイバーには、その裏に隠された本当の気持ちが素直に理解出来た。

憎悪、殺意。この二つが濃厚に織り込まれている事を。

 

『何、遠慮はしなくて良い。君のような凡百な魔術師では本来味わえない、恐怖と苦痛――魔術師同士が殺し合うという本当の意味を、余すところ無く教えてあげよう……光栄に思い給え』

 

殺し合い。その言葉を今初めて理解したウェイバーは、自身に向けられる殺気に怯え、戦車の中に隠れる。

その戦車の中で、ウェイバーは涙を流して後悔した――こんな事しなければ良かったと。

ウェイバーは血統を鼻にかけた連中を見返すという、一種子供染みた反発心だけで、この戦争に参戦した。

だが、所詮は二十にも満たない少年。

魔術師としても人としても未熟な彼が、一流の魔術師であるランサーのマスターの殺意を受けて平然としていられる訳が無い。

押し寄せる殺意に自分の表面が保てず、歯をガチガチと鳴らして震えるウェイバー。

その華奢な背中に、大きく無骨な手の平が乗せられた。

言うまでも無くウェイバーのサーヴァント、ライダーの手である。

ライダーは心配するなと言うように笑いながら、ウェイバーから視線を外す。

 

「まったく、そんなに怯えずとも良いわ……おう魔術師よ!!察するに貴様は、この坊主に成り代わって余のマスターとなる腹だったらしいな。だとしたら片腹痛いのぅ……余のマスター足るべき男は、余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ。姿を晒す度胸さえない臆病者なぞ、滑稽過ぎて役者不足も甚だしいぞ!!ガァッハッハッハッ!!」

 

『……ッ!!!』

 

姿を見せない魔術師をこれでもかと馬鹿にする様に言うと、腹の底から大声で笑う。

そもライダーの求めるマスターは、姿を見せない魔術師とは真逆なのだ。

仮にも自分の上に立つというのならば、共に戦場を跋扈し、同じ目線で戦いに挑む勇気が必要だと。

資質素養血筋、どれもがライダーの求めるモノでは無く、彼の価値観には合わなかった。

もしもウェイバーが相手の魔術師から聖遺物を盗まずとも、ライダーとランサーのマスターでは、長続き等しなかったであろう。

自らのマスターをコケにした魔術師に言いたい事を言ってスッキリしたライダーは、空に視線を向けながら先程と同様大声を上げた。

 

「おいこら!!他にもおるだろうが、闇夜に紛れて覗き見しておる連中は!!全く情けない、それでも世界に名を馳せし英雄か!?」

 

「――どういうことだ、ライダー?」

 

突然の第三者へ向けられたライダーの咆哮に、セイバーは怪訝な表情で問いを投げる。

その質問に視線を戻したライダーは、とても真っ直ぐな目でセイバーとランサーを注視した。

 

「セイバー、そしてランサーよ。うぬらの真っ向切っての勝負、まことに見事であった。あれほど清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出て来た英霊がよもや余一人ということはあるまいて」

 

言動や行動は兎も角、同じ英霊として一級品であるイスカンダルの言葉を、セイバーとランサーは真摯に受け止める。

水を差したのがライダーなら、あの戦いを賞賛したのもライダー。

奇妙な話ではあるが、それでもライダーの言葉は騎士として鼻が高かったのだ。

しかし、それでもなお見えざる英霊たちは姿を見せず、遂に痺れを切らした征服王は、その王たる威厳をもって、倉庫街に声を轟かせる。

 

「聖杯に招かれし英霊は、今ここに集うがいい!!尚も顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れぃッ!!」

 

ビリビリと大気を震わす程の怒号。

それは正しく人の上に立つ王の言葉だ。

見る者を圧倒させるカリスマに、その姿を見て、声を聞いたアイリスフィールは立ち竦む。

目の前に自らを守ってくれるセイバーが居るとしても、ライダーの言葉は己の内に響いたのだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

定明君、行っちゃって。ブッこんじゃって。

 

「いやいやマスター。何でそんなにヤル気で?」

 

私の憤慨した言葉を聞いて、定明君は呆れた顔をする。

何故?そんなの決まってるではないか。

だって出て行かないと、定明君臆病者扱いされるんだよ?

そんなの許せる訳が無い。

 

「別に言わせときゃ良いでしょ。俺は別に痛くも痒くもねーっすけど?」

 

あんな髭モジャに言わせておくのは、物凄い癪だ。

私、岸波白野はココ・ジャンボの中でそう言いながら、壁に向かってボディブローを繰り出し続ける。

巫山戯んじゃないっての、イスカンダルとかいう髭親父。

王様だか何だか知らないけど、勝手に臆病者認定とか舐めすぎだ。

壁パンしても収まらない気持ちが、私に連続パンチを打たせる。

それでも収まらずに、遂には壁キックの嵐だ。

 

 

 

……あの定明君が考えたエゲツ無い作戦を終了してから3日目の夜。

 

 

 

とても強い魔力の波動を感知して、私達はその場所を監視出来る橋の上に居た。

あからさまに挑発する様な魔力の波動、つまり戦いの誘い。

それを感知した定明君は、まずは様子見という事で橋の上から戦いを眺めていた。

私は、存在をなるべく隠せる様にとココ・ジャンボの中に居る。

人間でしか無い私には広場の詳しい様子を知る事は出来ないが、定明君はスタンドと視界を共有して見ていた。

私も戦いの様子が知りたくて、自分は双眼鏡で向こうを見て、定明君が聞いた事を伝えてもらっていたのだが、あのライダーの言葉でちょっとキレ気味。

それで最初のぶっ込め発言に繋がる訳である。

 

「まぁ、どのみち顔合わせと警告、それと提案はしておかなきゃいけねーんだし……いっちょ行きますか」

 

お願い、思いっ切りやっちゃって。特にあのライダーを。

 

「だからそれは駄目なんすよ……まぁ、とりあえず『行ってきます』」

 

定明君はココ・ジャンボを橋の上に置いて立ち上がり、港の広場を見つめる。

そう、私とココ・ジャンボは連れて行けないから、この場所に置いて行かれるのだ。

しかしこれでは間違い無く、私は危険に陥る。

……そう、『普通なら』だ。

定明君が私を置いても平気で向こうに行ける『理由』が、私の『隣に居る』

 

「んじゃ、俺はちっと顔見せに行ってきますんで、マスターをよろしくッス。ルーラーさん」

 

「はい。任せて下さい、サモナー」

 

軽い調子で私の隣に居る『女性』……平行世界から連れてきたサーヴァントのルーラーに私の事を頼むと、定明君は橋から飛び降りてスタンドを呼び出した。

大きな口と2本の角を持つ、骸骨のような像のスタンド。

そのスタンドは、定明君を『飲み込み』、更に自分の体すらも飲み込んで、完全に姿を消した。

……頭に血が昇って、行けなんて言っちゃったけど……大丈夫だよ、ね?

向こうに集まっているのは、古今東西に名を馳せた本物の豪傑達だ。

そんな中に、サーヴァントとして異質な定明君が飛び込んで大丈夫なんだろうか?

今更ながらに不安になって、私はソワソワしながら双眼鏡で向こうの様子を覗く。

 

 

 

 

――双眼鏡で見えた広場では、街灯の上に立つ金ピカのサーヴァントが『体の半分以上を削り取られた』状態で、定明君を睨みつけていた。

 

 

 

一方の定明君はスタンドを傍に出して地面に立ったまま、血反吐を吐く金ピカのサーヴァントを見て唖然とした表情を浮かべている。

 

 

 

……大丈夫そうだ、うん。

 

 

 

さすが定明君、いっそ清々しいくらいの堂々とした不意打ち。

私達に出来ない事を平然とやってのける!!そこにシビれる憧れるぅ!!

……嘘です。さすがにあれはちょっと無い。っというか定明君自身予想もしてなかったっぽい。

でもあんな顔する定明君も中々……落ち着け、落ち着け岸波白野。COOLになるんだ。

まずは慌てず騒がずに、定明君から渡された盗聴器のレシーバーをONにして、会話を聞き取る。やるぞ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「き……さ、まァ……ッ!?」

 

「……うわー」

 

やっちまった。これ以上無いぐらい清々しい不意打ちをカマしちまったぜ。

空間を移動できるクリームを使ってここまで来たんだが、クリームは自分を口の中に繋がる暗黒空間に飲み込むと外を見る事が出来ない。

だから事前に確認した斜線上に突然現れた金ピカの事を全く認識出来なかったのよ。

自分の失敗に溜息を吐きながらも、俺を射殺さんばかりに睨んでくる金ピカへ視線を送る。

 

「あー、すいません。いきなり俺の進路上に現れるモンだから、躱せませんでした。ごめんなさい」

 

既に足元から粒子に変わって英霊の座に戻りつつある金ピカさんに、俺は頭を下げて謝罪する。

もしも俺が死んでも、俺は座に還るんじゃ無くて元の世界に還る事になるから、もう会うことは無いだろう。

俺、城戸定明はリリカルなのはの世界から神様に無理矢理コッチへ飛ばされた存在だ。

向こうで小学校6年生12歳まで過ごし、冬休みに入ったその日に夢の中で俺を転生させた神様とエンカウント。

そのまま別の世界に飛んで、ちょっとサーヴァントしてきて♪体も少しだけ強くしてあげるから♪という訳の分かんない言葉を聞いた瞬間、マスターの下に飛ばされてた。

まぁ今回に限った一回だけの話らしいので、まだ救いはあるな。

 

「――おの、れ……おぉぉのれぇえええええええええええッ!!!」

 

胴体の7割をクリームに消された金ピカさんは憤怒の形相で怨嗟の叫び声をあげながら、完全にこの世界から消滅。

聖杯戦争、いきなりの敗退者って訳だ。

……余談ではあるが、後にあのサーヴァントが古代ウルクの王ギルガメッシュと知って、俺はササッと倒せて良かったと安堵する事になる。

間違いなく正面切って戦ったら死んでただろう。

 

『『『『『……』』』』』

 

さて、先ほど王の宣言をしたライダーを含むこのポカンとした状況をどうしようか?

まぁ俺と一緒で呼び掛けに応じたであろう金ピカさんを事故とは言え倒しちまったんだから、こりゃしょうがねぇよな。

 

 

 

……よし。

 

 

 

「ども。エクストラクラスのサーヴァント、サモナーっす。んじゃさいなら」

 

とりあえず顔見せと挨拶は完了したので、俺はシュタッと手を挙げてサヨナラを言う。

マスターの事も心配だし腹も減った、早く戻るとしよう。

 

「っておいぃいいいい!?帰るのかYO!?」

 

「――ハッ!?アイリスフィール、下がって!!あのサーヴァントは油断出来ません!!気配すらも感じさせずに、あのアーチャーを討ち取るとは……ッ!!」

 

「こ、子供!?それもイレギュラーサーヴァントだなんて!?」

 

「……まさか、未来の英霊か?しかし何故子供の姿を?」

 

「ふぅむ。不意打ちとは言え、あの宝具を大量に具現していたアーチャーの奴をああも簡単に屠るばかりか、前から攻撃したのか後ろから攻撃したのかすら全く感じられなんだとは……何とも愉快な小僧よ!!」

 

おかしい、爽やかに帰ろうとしたら、女?のマスターに怒られた。

しかもそれを皮切りに他の全員も沸き立つ始末。

自分のミスとはいえども、嫌んなるぜ。

まぁ、まだ提案とかもしてねーし、少しばかりトークタイムと洒落こむか。

 

「あー。一応、ライダーさんの言葉を聞いて現れたんスけど、今のは完全な事故なんで気にしねぇで下さい。保険も効かないし」

 

「事故扱いであのアーチャーを倒すって……」

 

「……ヤツの態度は傲岸不遜そのものだったが……哀れに思えてしまう」

 

俺の言葉に白い髪の綺麗なお姉さんは引き攣った笑みを浮かべ、ランサーさんは物凄い哀れんだ表情を浮かべる。

さっきまでのシリアスは何処に行っちまったんだろうか?

そんな感じで首を傾げる俺を見て、ライダーさんはニヤリとした笑みを浮かべたまま、隣のマスターに声を掛けた。

 

「おいマスター。あの小僧のステータスはどうなっとる?」

 

「ち、ちょっと待て――な、何だ……ッ!?こいつステータスがおかしいぞ!?」

 

何やら俺をジッと見ていたライダーのマスターが驚愕の声を上げるも、他の面々は首を傾げるしか無い。

俺達サーヴァントのステータスを見れるのはマスターだけの特権であり、サーヴァントの俺達には見る事が出来ないからだ。

っていうか何故に白い髪のお姉さんまで首を傾げてる?もしかしてマスターじゃねえのか?

 

「んん?もうちっと具体的に言わんか。何がどうおかしいのだ?」

 

「コイツ、コイツ、殆どのステータスが低いのに幸運だけがバカみたいに高い!!EXの幸運って何だよ!?そんなの、神に愛されてるってレベルだぞ!?」

 

「「「な!?」」」

 

「なんと……?ならば、他のステータスはどうだ?」

 

「た、高くても敏捷がCで、残りはD-、魔力なんかE-だ!!どう考えてもあのアーチャーを倒せるものじゃ無いんだよ!!」

 

「つまりアーチャーを倒した原因は、あの小僧の宝具である、と?」

 

「そ、そうじゃないと説明が付かない……あんなステータスじゃ、BとAばっかりだったあのアーチャーには、逆立ちしても勝てない筈だ」

 

何故か俺のステータスを読んで、警戒を顕にするライダーのマスターとセイバー、そして髪の白いお姉さん。

……俺のステータスなんかそこらの英雄と比べりゃカスみてーなモンなのに、そんなに警戒する必要あるのか?

まぁ確かに生身の時と比べれば英霊になった補正もあって普通の人間に負ける事は無いけど、サーヴァントとしては下の下だぞ?

普通ならもっと油断してる筈なんだが……分からねえなぁ。

 

「何なのこの状況?って顔してるけど、原因は間違い無くお前だよ!?」

 

「ガッハハハハ!!中々面白い小僧ではないか!!おう!!お主サモナーとか言ったか!?」

 

俺に芸人も真っ青な見事なツッコミを入れるライダーのマスターと、そんな俺に豪快に笑いながら視線を向けてくるライダー。

何とも対照的な主従で、思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「えぇ。エクストラクラスサーヴァントのサモナー。真名は城戸定明っす。どーぞよろしく」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

「ほう?自ら堂々と真名を明かすとは……未来の英霊だから問題は無いか、はたまた自分の真名を知られる事は無いという自信の現れかのう?定明とやら」

 

ライダーと同じくあっけらかんとした様子で真名を語る俺に、ライダー以外の人達は驚愕に目を見開き、ライダーはニヤリと笑う。

別にそんな深い意味とか考えは無いんだけどなぁ。

 

「未来っつうか……俺は平行世界から呼び出された存在なんスよ。だからお宅みたいに世界に名を馳せた英霊って訳じゃねぇし、名前を語っても問題は無しって事っす」

 

「ッ!?何と、平行世界の住人とは……良いのう、浪漫があるではないかッ!!」

 

「俺としては無条件に召喚されて困りましたけどね。何せクラスに無理矢理嵌めこまれた所為で、自分の力に制限が掛けられちまってたんスから」

 

俺の出自を聞いて目を見開くも、直ぐに少年の様にキラキラした目をするライダーに、俺は苦笑いして答える。

最初にスタンドを使おうとしたらマスターと自分の魔力を消費するなんて判って愕然としたものだ。

まぁそれも、マスターが成長してくれたお陰で何とかなったけど。

 

「……それは皆同じだ、サモナーの少年。私達の誰もが、生前の力を振るえている訳では無い。クラスに該当する力の一端を行使できるだけだ」

 

と、俺の言葉に同調して、セイバーさんが言葉を掛けてくる。

まぁそりゃそうだろう。

アンタ等みたいなビッグネームに十全の力を振るわれたら、地球崩壊まで待ったなしだっての。

 

「判ってますよセイバーさん。でも、勝手に喚ばれた挙句に力を制限されるっていうカッタルいのが嫌だったんで……『受肉』して、フルスペックを振るえる様にしました」

 

――瞬間、物凄い闘気と王のオーラが辺りを支配した。

言うまでも無く、そのオーラの持ち主は戦車の上で腕を組むライダーである。

声を出しはしなかったが、彼の筋肉は一回りぐらい膨れ上がり、髪は逆立ち目が見開かれてる。

しかし怒っている訳でも無いらしく、怒気は一切感じられない。

ただ、ライダーのマスターがそのオーラに驚いて一歩引いてるぐらいだ。

……どうにも、ライダーさんの聖杯に掛ける願いって、受肉らしいな。

 

「ッ!?そんな馬鹿なッ!?受肉するなど、聖杯でなければ到底叶えられぬ願いではないか!!」

 

「ん?まぁ……そうっすよ」

 

「では何故、少年は受肉している!?」

 

「それは~……まぁ、単純に――」

 

さあて、誰がどう食いつくかな?

俺は驚愕に目を見開いて詰問するセイバーさんに視線を向けたまま――。

 

 

 

「俺が聖杯を『持ってる』からですけど?」

 

 

 

この戦争の根幹をブッ壊す言葉を投げ掛けた。

驚愕、唖然、呆然。

そんな表情を浮かべる人達が、俺を真っ直ぐに見てくる。

誰も彼も間の抜けた表情なんで笑ってしまうが――。

 

「ど、どういう事!?何故貴方が聖杯を持っているの!?だって聖杯は――」

 

と、逸早く我に返った白い髪のお姉さんが俺に質問を飛ばしてくる。

まぁ、この人が驚くのも無理は無いか。

聖杯を賭けて殺し合いしてるのに、その殺し合いの前提を覆したんだから。

 

「まぁ、ちょいとズルをさせてもらいましてね。『この世界以外で完成した聖杯を、こっちの世界へ引っ張ってきた』んです」

 

「そんな……ッ!?」

 

「ば、馬鹿言うなよ!?別の世界だなんて、それじゃまるでお前が第二魔法を使えるみたいじゃないか!!」

 

俺の言葉を聞いて、ライダーのマスターが声を荒げて叫ぶ。

あの女?の言う第二魔法ってのは、この世界で確認されてる5つの魔法の1つらしい。

聖杯から得た知識だが、この5つの魔法を行使できる人達を『魔法使い』と呼ぶ。

この場に居る人達の様な存在は『魔術師』と呼ばれ、厳密には魔法とは違う。

魔術とは『時間と資金をかければ実現可能』なモノを指し、魔法は『どうあがいても魔法以外では不可能』という区別がなされている。

その第二魔法とは、並行世界の運営。

鏡合わせの並行世界間、つまりパラレルワールドを移動、干渉できる事だ。

現在確認されてる使い手は宝石翁、魔導元帥キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグのみとの事。

残念ながら魔法とは別物なんだけどもな。

 

「まぁまぁお姉さん。そんなに興奮しない。ついでに言うなら、女の人でその言葉遣いはどうかと思いますよ?」

 

「ぼ・く・は・O・TO・KO・!!M・E・N・だぁあああああああ!!!」

 

「「「ぶはっ!!?」」」

 

え?男子?おのこ?

 

「……」

 

「なぁんだその『ありえねー』みたいな顔はぁああ!?ちゃんと男の大事なモンはぶら下がってるぞこの野郎ぉおおお!!!」

 

「ありえねー。マスターと同じ位の背丈なのに……いや、下手したらマスターの方が若干背が高い?」

 

「やっかましいわ畜生!!決めた!!聖杯を手に入れたら背を高くしてもらう!!もっと男らしい身体つきに……ッ!!」

 

「聖杯にそんな事を願うの!?か、考え直しなさい、ライダーのマスター君!!貴方は充分に可愛らしいじゃない!!」

 

「だから男だつってんでしょうがぁああああああ!!?」

 

ものすげーカオス。

まさかあのマスターの身体的ネタでここまでのカオスになるとは。

 

 

 

「――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

 

 

突然、カオスに染まりかけていたこの場に野太く、そして熱意に満ちた咆哮が木霊する。

並々ならぬ雄叫びを挙げたのは戦車に乗り込んでいたライダーだった。

彼の目はギラギラと輝き、興奮がまるで治まっていない。

そんな状態のライダーは戦車から飛び降りると、俺に向かって大声を送る。

 

「元より招かれた全員に声を掛けるつもりではあったが、サモナー!!いや城戸定明よ!!余は貴様が何が何でも欲しくなったぞ!!余の部下になれ!!余と共に世界を相手取り、全てを征服し蹂躪し尽くそうぞ!!」

 

両手を大きく広げて、ライダーは俺に世界への誘いを掛けてきた。

……清々しいくらいの直球の言葉だな。

今まで生きてきて、こんなに熱烈に何かを誘われた事は無い。

例え、俺が聖杯を使える事を入れてにしても、だ。

 

「それにこれは余の勘だが、貴様はまだ宝具の一端すらも見せてはおるまい!!余はそれが見たい!!お主を軍門に招き入れ、共に戦いたい!!この世界とは異なる世界の者の使う力!!是非とも配下として従えたい所存だ!!我が明友として、この世の悦楽を味わい尽くさんか!?」

 

「悦楽って……ちょっと抽象的過ぎて、良く分かんねーっす……」

 

余りにも熱意に溢れ過ぎていて、逆に俺の方が及び腰になってしまう程の熱気を放つライダー。

いや考えてもみろよ?顎鬚と髪がくっついた筋肉ムキムキマッチョマンが、目を少年の様に輝かせて「お前が欲しい!!」発言だぞ?

俺じゃなくっても引くってこれ絶対。

 

「む?悦楽が分からんだと?……そうか!!おぬしのその姿は全盛期のものだからでは無く、おぬしのそのままの姿なのだな?未だ元服すら迎えておらぬ小僧だというのに、サーヴァントとして召喚されるとは……まっこと面白い!!これが聖杯戦争の妙というヤツか!!ガッハッハッハッハ!!!」

 

何やら自分で考えて自分で納得したライダーは大声を挙げて笑う。

おーい、まだ俺の質問に答えてねーじゃん。

しゃーねぇ……別の人に聞いてみるか。

俺はライダーから視線を外して、これまたとんでもないイケメンのランサーを見る。

ちょうど目が合ったし好都合だ。

 

「おーい。そこの黒子のイケメンさん。悦楽って何スかー?」

 

「ほくっ!?……悦楽とは喜び、楽しむ事という意味だ。つまりライダーがサモナー、お前に言ってるのは、この世を征服して全てを楽しみ、喜びを得ようという事だろうさ」

 

「ふーん……喜び、楽しむ、ねぇ?……どうもっす、黒子のイケメンさん」

 

「……出来ればその呼び方は止めて貰いたいのだが?せめてクラスで呼んでくれ」

 

「了解っす。イケメンのランサーさん」

 

「だからその呼び方は……っというか、イケメンとはどういう意味だ?聖杯から送られる知識に造語等の知識は無かったのだが……」

 

「イケてるメンズ。略してイケメン。その端整な顔付きで罪の無い女人を惑わし、無垢な少女達の心を掻き乱す罪深い人種の事です(大嘘)」

 

「ぐはぁ!?……お、俺は……ッ!?俺はそんな畜生にも劣る存在だったというのかあぁ……ッ!?何て事だ……ッ!!俺みたいなイケてない主を立てる事すら出来ん不忠者は、死んだほうがマシなんだぁ……ッ!?」

 

「ランサー!?血涙を流してる!?」

 

俺の真実(という名の妬み)を聞いたランサーさんは吐血しながら血涙を流して槍を手から落とし、頭を抱えてしまう。

その変わり果てた姿のランサーさんを見て、セイバーさんはギョッとしながら白い髪のおねーさんの所まで下がる。

あれ?戦ってた時は何かお互いに尊敬しあってた感じだったのに、随分薄情な事するんだな?

 

「セイバーさん。折角戦いで男同士の友情を育んだんなら、ランサーさんを慰めてあげても良いんじゃないっすか?」

 

「――」

 

ピキリ、と何故かセイバーさんの空気が凍った様な気がする。

何だか良くポンコツる人達だな、この人達。

 

「し、しし、失礼だが……ッ!!わわわ、私の事を……『男』と言ったかな?サモナーよ?」

 

「セイバー落ち着いて!?風王結界(インヴィジブル・エア)が解けかけてるわ!?」

 

「は、ははは、何をおっしゃるアイリスフィール?私はシベリアの極寒の如く冷静ですよ?」

 

「は?何をカチ切れて……まさかとは思いますが……セイバーさん、女だとか言うんじゃ無いッスよねぇ~?……いや、無い無い」

 

「おい小僧。貴様私の何処を見て無いと断じた?あ?上手い事言ったつもりか?」

 

「駄目よセイバー!?あ、相手はまだ子供なんだから――」

 

「止めないで下さいアイリスフィール!!所詮貴女とは敵同士!!有る者には無い者の気持ちなんて理解出来ないでしょう!!えぇ、そうでしょうとも!!私達がどれだけ貴女達の所為で肩身の狭い想いをしたか……ッ!!」

 

「どうして私は貴女の敵にされてるの!?守ってくれるんじゃ無かったのかしら!?」

 

何やら目の前で血眼になって俺から髪の白いお姉さんに視線を移すセイバー。

しかも視線は悔しそうにお姉さんの胸元に集中してるではないか。

……本当に英雄なのか、コイツ等?

何かはっちゃけ具合が現代人とそう大差無えんだけど。

そんな事を考えていると、今まで大笑いしてたライダーが目元の涙を拭いながら再び言葉を続けた。

 

「で、どうだ坊主!?何なら富と名誉に、美女も付けてやるぞ!!なんのかんの言ってもお主も一人の男児!!自らの雄が奮い立つ程の美女を幾人も侍らせたいとは思わんか!?」

 

「いや、美女とか言われても(prrrr)ん?ちょいと失礼」

 

こっちに来てから裏ワザで契約した携帯電話が鳴り響き、俺はライダーに断って電話を取る。

この番号を知ってるのは、マスターだけだ。考える前もなくマスターからの連絡だろう。

念話も使えるのだが、極力魔力の痕跡を残さない様に電話を使ってもらってる。

 

「(pi)もしもし?何ですかマスター?……え?……はぁ……はぁ……分かりました……ライダーさーん。マスターが駄目だそうですんで、お断りしますわー」

 

「ぬぁんだとッ!!?」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの

冷静に広場の様子を見ていた私は、スッと携帯電話を取り出して定明君にコールする。

 

 

ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの

そしてライダーの他人を顧みない願いに誘われる彼に、私はやんわりと断る様にお願いした。

 

 

ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの ばかじゃないの

まだ小さい定明君を戦いの道に引き摺り込むなんて、道徳的にも到底許容出来るものじゃ無い。

 

 

 

っていうかハーレムとか断じて許さねえ。日本人は慎ましく一夫一妻制だ。

それに、何処と無くドンファンな空気を漂わせてる定明君にあんな誘いは断固阻止せねば。

信じてはいるが、念の為に何時でも令呪を使える様にしておく。

すると、携帯のスピーカーと盗聴器からあの憎っくき髭親父の野太い叫びが聞こえてきた。

 

『何故だ!?お主のマスターは、何ゆえこの誘いを拒否する!?』

 

『いや、何故って言われても……マスター?』

 

当たり前だよ、定明君。

世界征服なんてとんでも無い野望を掲げてる人に、協力なんてしちゃ駄目。

私は、定明君が戦い続ける未来なんて、絶対に望まないから。

っていうか世のため人のためにブッ殺しちゃって良いと思うんだ、あの髭モジャ。

 

|心の底から願う本音を全面に押し出しつつ、私は定明君に誘いに乗っちゃダメだと説明した《一夫多妻マジ撲滅すべし。ハーレム駄目、絶対》。

彼はその説明を聞いて、電話の向こうで擽ったそうに笑った。

 

『……心遣い、ありがとうございます。マスター……マスターに喚ばれた事が、この聖杯戦争に参加して唯一のありがたい所ッスよ』

 

――――。

 

声での返事が出来ない。

こういう時、恥ずかしさで慌てて自爆すると聞いていたけど、そんな事は無い。

だって、喉が動いてくれないのだから、自爆すら無理。恋愛モノは嘘つきだ。

私が返事出来ないから、向こうでの会話も自動的に進んでいく。

 

『まだ言ってなかったッスけど、俺のマスターは魔術の世界すら知らなかった一般人です。今回の聖杯戦争に巻き込まれた被害者なんで、やっぱり戦いとかは嫌がってるんですよ』

 

『なんと!?闘争を嫌う等とは女々しいものだ。それにお主一人をここに送り込む等、そこなランサーのマスターと変わりない臆病者では無いか……む?暫し待て?今、その方のマスターは巻き込まれた被害者と、そう言うたな?』

 

『えぇ、そうです。補足するなら、この場に来ようとしてたマスターを俺が止めたんですよ。魔術を知らないマスターを守りながら戦うのは効率悪いんでね』

 

『なるほど、お主のマスターについては分かった……しかしまだ戦いの場に居るというのはどういう事だ?お主も聖杯に招かれたからには、最低限のルールが聖杯から与えられたであろう?戦い自体を忌むならば、監督役の居る教会に駆け込めば済む話ではないか?何故、まだ戦いの場に居る?』

 

と、私が緊張してる間に、私達がこの聖杯戦争に関わる根幹の理由にまで話が及んだ。

……ここからだ……この先の私達の展開が決まる、大事な場面は。

私は一度深呼吸をして、電話先の定明君に話して良いとGOサインを出した。

定明君は私の言葉に了承して、訳を語り始める。

 

『理由は単純です。俺のマスターは魔力があるだけの一般人でした。でも今回聖杯に選ばれた別のマスターが、魔術を知らない上に、今巷を騒がせてる連続殺人事件の犯人だったんです』

 

『れ、連続殺人犯!?そんな奴がマスターになったってのかッ!?』

 

定明君の語り始めた話を聞いて、私と背丈が変わらない小柄なライダーのマスターが驚きの声あげる。

しかし、女の私から見ても羨ましい綺麗な肌である。ぐぬぬ。

 

『はい。しかも触媒無しの召喚だったから、マスターと精神性の似た最悪の狂人が、キャスターとして選ばれてしまうっていう巫山戯た事態になってます。マスターの家族はその時に……』

 

『ふむ……そしてお主のマスターは、お主が救ったといった所か?』

 

『まぁ、何とかね……そして、キャスターの奴は俺とマスターを狙っている訳です。なら令呪を棄てるのは得策じゃねえし、それなら俺が直接キャスターをブッ殺して、この騒動を終わらせようと思ってます』

 

『なぁるほど。お主達が今だ聖杯戦争に参加しているのは、自分達の身の安全と、キャスターの排除だな?ならば何故、余の言葉に応えてこの場に現れたのだ?既に聖杯を自由に使えるお主には、この場に来る理由など無いであろう?』

 

定明君の説明に、ライダーは一つ一つ納得しながらも重ねて質問をしてくる。

そう、私達は様子見だけで充分であってこの戦いの場に足を踏み入れる理由は無いのだ。

でも、キャスターを確実に倒せる様にする為に、私達は敢えてこの場に姿を晒した。

 

『理由は単純。他のサーヴァントとマスターに情報を渡しに来たんです。誰もが今この場に注目してるだろうからこの場で言わせてもらいますが、キャスターとキャスターのマスターは魔術を秘匿する気は一切無く、相手が一般人でもお構いなく魔術を行使してます。このままじゃ聖杯戦争の事が露見すんのも時間の問題かと思いますよ?』

 

『な!?』

 

『正気か!?魔術の秘匿を一切してないなんて!?』

 

『何言ってんスか。今言ったでしょ?狂人だって。正気なんて失ったか、ハナから持ち合わせちゃいねーんでしょうよ。ある意味バーサーカーよりも狂ってやがる』

 

『むうぅ。そりゃ困ったのぉ……』

 

定明君の言葉に、ライダー、ライダーのマスター。

そして白い髪のとても綺麗な女の人が驚きを露わにする。

魔術師にとって、魔術は世間に露見させず秘匿するというのが不文律らしい。

更に聖杯戦争の事が露見するなんて事になれば、彼等は聖杯戦争に参加する意義を失ってしまう。

これでキャスターに対する危機感が他の陣営でも持ってもらえただろう。

 

『それにキャスターの奴は、マスターと同じイカれた殺人鬼です。俺のマスターの家族以外にも、偶々発見出来たある家族がそいつ等に『工芸品』なんて趣味の悪いモンに変えられてた……今は誰も被害に遭ってないみたいなんで、早めに蹴りをつけたいんです』

 

『工芸品だと?』

 

『えぇ……死ねない、気絶出来ない、正気を失えないの魔術を掛けて、生きたまま体を分解して、苦痛を与え続ける胸糞悪いアートを作ってやがる……俺より幼い子どもまで……幸い、まだ生きてたから俺の宝具で助ける事が出来ましたけど』

 

『……下衆が……ッ!!』

 

『殺すだけでは飽き足らず、無垢な幼子にその様な残虐な仕打ちを……ッ!!』

 

そして続けて語られた言葉に、セイバーとランサーも怒りを滲ませる。

この二人は誇りある騎士の体現なのだから、力の無い人達を虐げるキャスターが尚の事、許せない筈。

これで、キャスターを倒すのに他の陣営が邪魔する事は無いと思う。

携帯電話から聞こえてくる怒りの声を聞いて、私は自分達の戦いが少し楽になったと安堵する。

 

『という訳で、俺は聖杯戦争自体には興味がありません。俺は俺で、キャスターをブッ殺す為に動くんで……暫くはこっちを邪魔しないで欲しいと言いに来ただけなんですよ。お宅等だって、聖杯戦争が破綻しちゃ元も子も無いでしょ?』

 

定明君の言葉に誰もが考える様な表情をするが、まず間違い無く私達の邪魔をする事は無いと思う。

逆にキャスターを倒す為に、独自に協力してくれるかもしれない。

まずキャスターを第一に排除するべき危険人物と理解して貰えれば、それで充分だと定明君は言っていた。

ならば、これでも目的は果たせただろう。

私は電話を握り直して、私のサーヴァントに戻る様に言おうとし――。

 

 

 

『相分かった!!ならばサモナーとその主よ!!余と同盟を結ばんか!?』

 

 

 

またアンタか、髭。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

――結局、私達サモナー陣営は、ライダー陣営(憎っくき髭と愉快なマスター)と同盟を結ぶ事で落ち着いた。

 

 

 

最初は定明君の持つ聖杯が狙いだと思って断固拒否したけど、そこはさすがの英霊。

今回の同盟に関して、聖杯を狙う事はしないし、強請る事もしないと真名に誓って宣誓された。

さすがにそこまで度量を見せられてはこっちも納得しない訳にはいかず、ここにキャスター討伐の同盟が成されたのだ。

 

『今は余の配下に就く気が無いと言うのなら、余の王道を見せつけ、納得させるまでのこと!!この征服王、諦めはせんぞ!!ガッハッハッハ!!』

 

なんて言われてイラッときたけど、定明君は味方が増えるなら今はそれに越した事は無いと乗り気だったので、私も納得する事にした。

それで、お互いのマスターの顔見せの為に次の日、私と定明君は公園でライダーとマスターを待っている。

……うぅ、それにしても寒いね。この寒空の中、女性を待たせるとは何事だろうか。

 

「いや。多分向こうはマスターが女だなんて気付いて無い可能性もありますし……っていうかカイロの代わりに俺を抱っこすんの止めてくれません?ホント」

 

むぅ、良いじゃないか。こうしてるとお互いに暖かいし、Win-Winでしょ?

公園のベンチに腰掛けながら、私は定明君を何時もの様に抱っこしてそう答える。

表情は見えないが、多分ムスッとした顔してると思う。

そうして更に5分程待つと、季節外れにも程がある半袖シャツにジーパンの巨漢と、少女の様な男が公園に入ってきた。

間違い無い、ライダーとそのマスターの少年だ。

 

「おう!!待たせたな、サマナーとそのマス……ほぉ?」

 

「どうしたんだよ、ライ……だー?」

 

と、私達を見つけて歩いてきた二人だけど、何故か私を見て驚いた表情をするではないか。

一方で私はその片割れのライダーをむすぅっとした顔で見る。

微妙にまだ丸め込まれた感じがするからだ。

 

「昨日はどうもっす。此方が俺のマスターですよ」

 

定明君は私の腕から出て、二人に歩み寄りながら私を紹介する。

あぁ、折角色々と暖かかったのに、二人の登場でその至福の時間も終わってしまった。

おのれ、許すまじ。

 

「昨日は現れなんだからどんな腑抜けたマスターかと思えば、何ともめんこいおなごではないか。そりゃ闘争を忌み嫌うのも仕方無いか」

 

「……薄々確信してたけど、やっぱり女……ッ!?……僕より微妙に……い、いや。まだ大丈夫まだ大丈夫。焦らなくてもまだ成長するさ」

 

ライダーは私を見て納得した様にウンウンと頷いて合点がいったと笑う。

なんだ、やるのかこの髭モジャめ。

 

「……なぁ、サモナーよ。何故このおなごは余の事を髭モジャと呼んで睨んでおる?」

 

「さぁ?何か初っ端からえらい嫌われ様でしたけど?」

 

「ふーむ。特に何かをした覚えは無いんだがのう……まぁとりあえず、坊主。お前も名乗らんか」

 

「ブツブツ……あ、あぁ……ライダーのマスターのウェイバー・ベルベットだ。そっちは……」

 

あっ、うん。定明君……サモナーのマスター、岸波白野。よろしくね。

 

「ッ……あ、あぁ。よろしく」

 

ライダーのマスター……ウェイバーはまともなので、私は邪険にせず微笑んで挨拶する。

何か気に入らなかったのか、そっぽを向いてるけど、どうしたんだろう?

そしてその様子をニヤニヤしながら見てるライダー。

 

「とりあえず顔見せは終わりましたけど……ぶっちゃけ協力するメリット無いでしょ、そっち?」

 

そんな私達の挨拶を見ていた定明君はエニグマの紙からホットドックを出して食べつつ、ウェイバーに質問する。

あっ、良いな。美味しそう。

そんな目で見てると、私にも出してくれた。ありがとう。

 

「ほぉ?見た目何の変哲も無い紙から食料を取り出すとは……余にも一つ献上せんか?」

 

「ん?……まぁ、テリヤキバーガーならあるんで、どぞ」

 

「おぉ、こりゃ美味そうだ!!」

 

「話振っといて別の事するなよ!!」

 

「あぁすいません。これ、フィレオフィッシュです」

 

「強請って無いからな!?そういう意味じゃ無くて……あぁもう!!ドリンクは無いのかよ!?」

 

「ほい。ホット烏龍茶です」

 

「おぉ!!中々気が効くではないか」

 

何故かあれよあれよという間に、公園のベンチで昼食会になってしまった。

まぁこの公園は近所の人達も滅多に来ないし、魔術の話をしても大丈夫だから良いけれど。

 

「さっきの質問だけど、こっちにもメリットはあるぞ。魔術の秘匿は魔術師にとって一番大事な事だし、僕だって魔術の為に一般人や子供が死ぬ事を良しだなんて思ってない。加えて言えば、サモナー。お前の宝具も見れる」

 

「へえ?ライダーさんが言い出した時はあんなに怒ってたのに、随分と考えてるんスね?」

 

「確かに昨日は怒ったさ。拠点に帰ってからも充分に……でも改めて冷静に考えれば利害は一致するし、戦う上で2対1のアドバンテージも得れる。態々一対一で勝負するリスクも無くなるからな」

 

「そうさなぁ。それに余の懐の広さも見せつけられるとくれば、手を組まない道理は無い。充分に価値ある同盟よ」

 

ウェイバーはフィレオフィッシュを齧りながらそう言い、ライダーも言葉尻に乗る。

確かに今彼がいった面では、私達と利害は一致してる。

向こうからすれば、聖杯戦争で倒さなくちゃならない敵が減る上に、一時的な味方が作れるんだ。

私達に協力してもメリットは充分にあるだろう。

そうして、とりあえずの同盟が組めた相手を、定明君は拠点に招待した。

 

「ぬおおおおおお!?まさかこれほどの快適な空間を持つ亀が居るとは……ッ!?軍の遠征にピッタリではないか!?」

 

「す、凄い……ッ!?空間歪曲に、電気とかの物質まで外から引き込めるなんて……ッ!!こんなの大魔術の域だぞ……ッ!?」

 

拠点の中で、ココ・ジャンボに興味を持った二人を中に招待すると、二人はとても驚いた表情を見せる。

っていうか髭モジャがうるさい。

 

「のうサモナーよ!!この亀を余に譲らんか!?」

 

「ライダーさんそればっかッスね?生憎と亀のココ・ジャンボも、この能力『ミスター・プレジデント』も俺の宝具扱いなんで、譲るのは無理」

 

「ははぁ~。この様な宝具まで持つとは、増々持って我が配下に加えねばなるまいて!!のう白野とやら!!」

 

何故私に振る?後、定明君は渡さないぞコノヤロウ。

そう答えるとムムムと唸るライダーだが、急に手の平をポンと拳で叩きだす。

な、何か嫌な予感がバリ3だ……ッ!?

 

「そういう事か……のう白野よ。余の軍門に降った暁には、サモナーの第一婦人として……」

 

バコッ!!

思いっ切り振り被ったフライパンでライダーの言葉を中断させる!!

お、乙女の純情を何だと思ってやがるこの髭モジャ……ッ!!

私の攻撃など意に介さないといった感じで、ライダーは叩かれた顔を擦る事もせずにニヤニヤと笑って見下ろしてくる。

こ、こんな屈辱は初めてだ……ッ!?こんな時は定明君を抱っこして癒されないと!!

 

「……いい加減、ヘブンズ・ドアーで俺を抱っこ出来ないと書き込みましょうか、マスター?って冗談ですから令呪を構えんで下さいよ」

 

――ハッ!?あ、危ない……無意識で令呪を構えてた……ッ!?

貴重な令呪(我儘用)なんだから大事に使わないと……ッ!!

それもこれも……ッ!!定明君がカッコ良くて癒やし体質なのが悪い……ッ!!

ともあれ、今は定明君を抱っこして癒されよう。これは私だけの特権だい。

 

 

 

 

 

 

――もしも、城戸定明という存在が別の世界に迷い込んでしまったら?

 

 

 

これは、そんな有り得ない世界の記録である。

 

 

 

 

 

 

 

 

サモナー=城戸 定明(Summoner=KIDO SADAAKI)

 

 

クラス(役割):サモナー(召喚する者)

 

真名:城戸 定明  性別:男性  身長・体重:146㎝ 45㎏  属性:秩序・中庸

  

特技:乗馬、写生、観察   好き:平穏、日常

  

苦手:平和の乱れ、裏切り  天敵:ギルガメッシュ

 

 

■クラススキル

 

対魔力:E

魔術に対する守り。無効化はできず、ダメージを軽減するに留まる。

 

単独行動:A+

マスター不在でも行動できる能力。

既に受肉しているのでスタンドの行使に魔力を必要としない。

 

■保有スキル

 

波紋:B

太陽の力と同じバイブレーションを持つ生命の振動。

傷や病気の治療にも効果を発揮する。

極めれば水の上を走り、指一本で鉄柱にくっつく事も可能。

人体すらも溶かす波紋を持つカーズのランクはA++

 

鉄球の技術:B+

ツェペリ一族の回転技術と黄金長方形の軌跡の回転。

極めれば無限に続く回転エネルギーの力を発揮し、その力は次元の壁を超える。

ポールブレイカー発現時のジャイロはA++となる。

王族護衛官のウェカピポの持つ戦闘用の鉄球の回転技術。

別名『WRECKING・BALL』レッキング・ボール(壊れゆく鉄球)とも言われる。

「衛星」と呼ばれる14個の小さな鉄球が付いており、鉄球を投球することで「衛星」がランダムに飛び散る。

これに直撃すればもちろん重症は免れない。

体にかすっただけでもその衝撃波によって十数秒間「左半身失調」状態に陥る。

(全ての左半分が消えていると脳が認識するため、全ての物体の左半分が見えず、左側からの光や音や手触りが認識できない)

 

 

能力値

 

マスター 筋力 魔力 耐久 幸運 敏捷 宝具

 

岸波白野  D- E- D-  EX C EX 

 

 

 

宝具

 

名称  ランク     種別     レンジ   最大補足

 

傍に立つ者(スタンド)  EX   対人、対界 対軍 宝具   1~99  1~地球全て

 




というわけで、番外編(息抜き話)でしたwww

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