ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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珍しくシリアスっぽい話作った希ガス。

そして全体的に短い。

バトルが無ければこれぐらいの内容量です。


俺の在り方

 

 

あの温泉旅行から数日たったある日の放課後。

俺はいつも通り友達と学校で遊んで、昼休みはリサリサと会い、現在は下校中だ。

先ほどまで一緒に帰っていたリサリサと別れ、自分の家へと直帰してる。

 

「あ~……平和だ……」

 

何の変哲も無い日常、それが俺の何物にも代えがたい宝である。

つまり俺が過ごすこの他愛の無い日々こそが、俺の幸せなのだ。

そんな幸せを享受していて笑顔が溢れるのは普通だろ?

寧ろ闘争なんて、俺が目指す平穏な生活の真反対だしなぁ。

そういう日常を守る為にスタンドを使う事はあっても、平常時なら使うつもりも無い。

 

「あいつ等とは別の町ってだけで、こうも平和なんだもんなぁ……いやはや、神様ありがとう」

 

天に居るであろう神様に感謝を捧げつつ、俺は清々しい気分で家に向かっていた。

何せ隣町に住んでいるなのはと相馬は、いまだ激動の日々に身を置いてるのだから。

あのジュエルシードとの初戦闘の後、俺は無事に相馬へジュエルシードを渡す事に成功した。

なのはへの説明も、相馬が怪しまれない様にしてくれるから問題は無いだろう。

それにテスタロッサもジュエルシードが集中してるあっちの町を拠点にしてるから、あの温泉以降はアルフともテスタロッサとも会ってない。

正に平和そのものだ。

しかし相馬達はそうもいかず、温泉で相対したテスタロッサに再びジュエルシードを奪われてしまったらしい。

何度も闘いながら止めるように訴えかけるもテスタロッサには届かず、結局なのはが負けてジュエルシードを差し出してしまったと。

しかしそれでもなのはは微塵も諦める気配が無い様で、今この時もジュエルシード探しに身を入れてるそうだ。

相馬もそんななのはを放っておく事は出来ないから一緒に探してるらしい。

俺にもまたこっちの町にあったら協力してくれとか言ってたぐらいだし、相当切羽詰まってんだろう。

まぁこっちの町、つまり俺のテリトリーにあったら協力するのは吝かじゃ無えけど。

 

「ともあれ、今はこの平穏な日々を満喫させてもらうぜ」

 

そんな風に難しい事を考えながら歩く事数分、遂にマイホームが見えた。

さあて、今日は母ちゃんがクレープ焼いてくれるって言ってたし、夕飯前のおやつを頂きますか。

精神が肉体に引き摺られているからか、俺はルンルン気分で玄関の戸を開け――。

 

「あら~、定明。お帰り~♪」

 

「やぁ定明。お邪魔させてもらってるよ」

 

リビングでニコニコ微笑みながらソファーに座る母ちゃんと、何故かウチに馴染んでる相馬の姿を発見。

しかも相馬の手には俺が楽しみにしていたクレープの食べ掛けが握られている。

…………ふむ。

 

「ストレイ・キャット」

 

ドババッ!!

 

「たぶふぉ!?」

 

空気を操る猫草の能力で拳大の塊を撃ちだして、相馬の顔面にブチ当てた。

何でここに居るんだよテメエはぁ……しかも俺のクレープ食いやがって。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「先日、とうとう時空管理局が接触してきた」

 

リビングでの一騒動の後、場所を変えて町の河原まで来た相馬が本題を切り出す。

何でもあの温泉旅行の時から今日までに、計2回のジュエルシード発動があったらしく、その全てでテスタロッサと戦闘していたそうな。

1回目はテスタロッサが、2回目は例の時空管理局とやらが回収したらしい。

前に話していた宇宙規模の警察機関、時空管理局。

そいつ等がテスタロッサ達との戦いの最中に突然乱入し、場を収めてしまったそうだ。

勿論管理局が来たって事で、犯罪者側のテスタロッサ達は退却し、逆に通報していたユーノ達側は、管理局の連中が乗ってきた艦船アースラとか言うのに同行を願われたらしい。

今日俺に会いに来たのはその報告って訳だ。

 

「……なんつうか、幾ら何でもタイミングが良すぎじゃねぇか?」

 

ジュエルシードの封印が終わって、さあいざ戦おうって時になって乱入して場を勝手に収める。

偶然だったらどれだけ鮮やかな手腕だよって話だぞ?

俺の言葉を聞いた相馬は難しそうな表情で頷く。

 

「あぁ。少し問い詰めてみたら、俺達が封印するのを見計らっていたらしい」

 

「さっと横から漁夫の利を狙ってたって事か?まぁ未知の星で暴れる魔導師3人と2匹相手にするなら、確実性を取るのは定石か」

 

「そうだ。そのアースラの最大戦力は1人だけで……クロノという奴なんだけど、さすがに歴戦の魔導師でも確実性を取らないとマズイぐらいの力を俺達が持っていた上に、その場では第三勢力として介入する訳だろ?だから最悪、その場に居た面子全員と戦わなければいけないかも、ってリスクがあった所為でもあるからな……それと定明、正確には『4人と1匹』だぞ?」

 

「あ?なのはとお前とテスタロッサが人で、ユーノとアルフは匹だろーが?」

 

俺の計算に狂いは無い筈だ。

そう思って聞き返すと、相馬は何故か苦笑いを浮かべる。

 

「いや。実はユーノなんだが……人間なんだ。あのフェレットの姿は、変身魔法」

 

「……は?」

 

何言っちゃってんのコイツ?

余りにも現実離れした衝撃的事実に、俺は呆けた表情を浮かべてしまう。

俺がそういうリアクションを取るのを見越していたらしく、相馬はいまだ苦笑していた。

コイツの話によると、俺が偶にユーノに感じていた違和感は正しかったらしく、ユーノは地球にジュエルシードを追ってきた際に思念体と交戦した。

しかしユーノの実力不足、そして魔力が枯渇寸前だった事もあり、あっさりと深手を負わされたそうな。

俺はてっきり喋る事が出来る外来種の動物だと思ってたのに……まさか本当に人間だったとは……。

そして魔力の回復を優先させる為に、一時的にあのフェレットっぽい姿をとって回復を待っていた時に、なのはが助けてくれた、と……。

 

「……ユーノ、温泉で女湯に入ってたよな?」

 

「…………ああ」

 

俺が「うわ~」って表情で質問すると、相馬は表情を引き攣らせながら頷いた。

心なしか相馬の体は震え、しかも汗が出てる。

 

「……なのは、何か言ってたか?」

 

「……アースラの中でユーノが変身して、しかも男だって分かった時のなのはの表情は…………ハッキリ言って、思い出したくない」

 

「……」

 

「お、俺に向けられた感情じゃないのは分かってるんだ……でも、恐ろしかった。あ、頭がどうにかなりそうな気分を味わったよ」

 

「それは……なんとも……」

 

ブチキレて怒りを露わにする奴よりも、静かに怒るタイプの方がとても恐ろしい。

そう切実に語る相馬の表情は、何処か哀愁を感じさせる。

多分こいつ、「何であんな表情する子になったんだろう?」とか考えてるんだろうなぁ。

その表情をさせてるのは自分だって自覚が無い所がまた恐ろしい。

事件に進んで関わる所と言いこの鈍感スキルA++と言い……お前は何処の正義の味方になりたい奴だよ。

そんな想いを胸に隠しながらジト目で相馬を見てると、相馬はハッとして話を戻した。

 

「ん、んん。話を戻すぞ……それで、アースラの艦長のリンディさんという人との話し合いで、俺となのは、そしてユーノは管理局と共同戦線を張る事になった」

 

「共同戦線?」

 

俺の聞き返しに、相馬は一つ頷いてから言葉を続ける。

 

「元々、俺達は時空管理局が『全権を預かる』から身を引く様にと言われたんだが……リンディさんからは『一日、ゆっくりと考えて、それから改めて話そう』と言われたんだ」

 

「はぁ?……んん?……それって何かおかしくねえか?最初に全権を預かるから介入するなと言っておきながら、何で一日考える猶予を作る?そんなモン考えたって一緒だって言ってる様なもんじゃねえか」

 

相馬の語った内容に首を傾げながら、俺は質問を繰り返した。

いや、幾らなんでもこの問答の内容はおかしいだろ?

話の筋が全然繋がってねえにも程がある。

後からしゃしゃり出て何言ってんだってのもあるが、全権という事はつまり、今回のジュエルシード事件に関わる全てを受け持つって事だ。

なのに一日考える猶予を与えて話し合いに応じるってのは、どうにも矛盾が生じる。

何か……何か引っかかる物言いというか……。

 

「そう。そんな言い方をされたらそう思うよな?……これはつまり、一種の誘導だと思う」

 

「誘導?……どういうこった?」

 

「俺達に『介入を断る』と言っておきながら、猶予を与えて現状を整理させる為の誘導……いや、俺達に『妥協』させる為の口実、だ」

 

妥協……その言葉を聞いて、さっきまでの相馬との会話がリフレインする。

確か、アースラとかいう戦艦の最大戦力はクロノとか言う奴が1人。

確実に場を収め、ジュエルシードを回収するという堅実な手をとった理由はなんだったか?

それはその場で今にも戦闘をおっぱじめようとしている、アースラ最大戦力が警戒する魔導師達の存在。

相馬達が状況を話したのなら、テスタロッサとアルフが敵というのは承知してる筈だ。

にも関わらず、そんな強敵と互角に戦えるなのはや相馬達を簡単に手放す訳……。

 

「……一つはお前等の身の安全を本気で考慮してくれた。二つ目は、お前等っていう強力な戦力を『指揮下』に置いて、命令を守らせる事で戦力を増強しようとしたか。このどっちかか?」

 

俺は顎に手を当てたまま、自分の考えを吐露する。

俺としては一つ目が当たりなら良い人達だなーと思うんだが、二つ目の場合はおいおいって心境だな。

つまり、そこまで強い魔導師の介入を断るのなら、理由としてはさっき言った様に身の安全の為。

若しくは管理局という組織に協力させて、連携をスムーズにさせる為ってとこだろ。

俺の答えを聞いた相馬は重々しい表情で口を開く。

 

「俺の考えた答えと一緒だな……俺は後者の答えだと思ったんだ。だからその場でなのはとユーノに協力してもらって、俺達はその場で『じゃあここからは貴方達に全て任せます』と言って、一芝居打ったんだ。どういう反応をするのかなってさ」

 

「……で?結果は?」

 

「リンディさんは慌てて俺達を止めたよ。ならば協力してもらえないかってさ。あっと言う間に手の平を返されて、少しだけ笑ってしまったな」

 

悪戯が成功した様な悪どい笑みを浮かべながら、相馬は事の次第を語り始める。

さっきの話のクロノという奴とリンディさんという人は親子らしく、相馬達と話をしたのもこの二人だったらしい。

クロノの方はどうやら相馬達を心配してこの件から手を引く様に言ってたらしいが、リンディさんは違った。

リンディさんは本気で俺の考えた様に、相馬達を戦力として正式に引きこもうとしてたんだと。

前に相馬から時空管理局は就職するのに年齢は問わず、才能を重視するらしいけど……文化の違いとはいえアホかって話だな。

 

「尤も、リンディさんも俺達を完全に引き込もうとした訳じゃない。あの人も大人だから自分達の仕事は果たさなきゃならない。でもクロノはフェイト一人には勝てても、ジュエルシードの回収が遅れたり、他の横槍が無いか警戒しなきゃいけない。要は、明らかに高位の魔導師が不足してる状況なんだ。そんな状況だから、多少騙す形でも安全に危険物を回収出来る様にしなくちゃいけないっていう、仕事と板挟みにあった上で、苦渋の芝居を打ったんだ」

 

「まぁ確かに、大人には大人の都合があるんだろうが……それでも子供を騙してまでそれを遂行ってのは……なぁ?」

 

正直、そりゃ違うだろと言いたい。

でも次元世界を滅ぼしかねないジュエルシードの複数回収に襲いかかる強敵の事を考えたら、仕方無えのかも知れねえが……納得出来ねえ。

相馬の言葉に、俺は苦虫を噛んだ表情を向けるが、相馬もそれを苦笑いで受け止めるしかない。

 

「それで、だ。俺となのはは明日から暫く学校を休んで、ジュエルシード捜索に協力する。忙しくなる前にそれをお前に伝えておこうと思ってな」

 

「そりゃありがとうよ」

 

「いや。俺達の秘密を知ってる定明にはちゃんと言っておきたかっただけさ。お前もジュエルシードに巻き込まれた被害者で、暴走を止める為に戦ったんだしな……それじゃあ、行くよ」

 

「ああ。態々すまねえ……気ぃ付けろよ?」

 

戦いに向かうのは良いが、死んだりすんじゃねえって意味を込めて、俺は相馬に忠告する。

大抵の傷なら俺がクレイジーダイヤモンドで治してやれるが、死んじまったらそうもいかねえ。

幾ら俺が事なかれ主義でも、折角遊ぶようになった友達の心配くらいはするさ。

その言葉を聞いた相馬は笑顔を浮かべながら「任せろ」と言い、手を振って去って行った。

俺も夕飯が迫ってる時間だったので、帰る為に歩を進める。

 

「しかし……こうなるとテスタロッサとアルフがこれからどう動くかが気になるな」

 

夕焼けに染まる河原を見ながら、俺はそう呟く。

管理局、つまり警察が現れた事で、テスタロッサは一気に窮地に立たされた筈だ。

俺がアトゥム神の能力で得た情報を考えれば、テスタロッサは今以上のバックアップは受けられない。

相馬から聞いたテスタロッサ家の事情を鑑みても、それは確実の筈。

こうなりゃ普通は撤退して身を隠し、ジュエルシードを諦めるものだが……。

 

「良くも悪くも、テスタロッサは真っ直ぐで超が付く程に頑固者だし……あの時の俺への態度を考えりゃ、多分諦める事は無えか」

 

自身の身を拘束されながらも、デバイスを取り上げられた絶望的な状況でも一切諦めを見せなかったテスタロッサ。

あの目は、目的の為に自分の全てを投げ打つ覚悟を決めた奴の目だ。

一つの目的の為に……親の為にああまで頑張る姿は、第三者に何を言われても止める事は無いだろう。

あー、くそ……やっぱあの時に強引にでも止めておくべきだったか?

でもあの状況で俺の言葉を聞いたとも思えねえし、何よりテスタロッサを庇ってこっちに火の粉が飛び火すんのは避けてえ。

俺にだって守るべき家族や友達が居るんだ……進んで火中の栗を拾いに行く気は無い。

 

「でも、これって完全にテスタロッサを見捨てる発言だよなぁ……クソッ、後味が悪い……ムカムカするぜ……」

 

本心で言えば、俺はテスタロッサに何かをしてやりてえ気持ちはある。

しかしそれをする為には、俺は『覚悟』しなくちゃならない。

俺がテスタロッサを助けるために動く事で、家族が危険に晒されるかも知れないっていう覚悟を。

それが出来ないから、俺は今もこうして燻ってるんだ。

だから、俺自身に火の粉が降りかから無い程度の範囲で助力する事で……俺は、誰かを助けられたっていう満足を得てるんだろう。

アリサ達を助けたのは、自分自身が完全に巻き込まれたという背水の陣だったからというのも少なからずあった。

自分の事ながら反吐がでるぜ……俺には、こんなにも強い力があるってのによぉ。

芳しくない表情を浮かべながら、立ち止まって自分の手のひらを見つめる。

その手に平から少しズレた位置に、俺はスタープラチナの手を出してジッと見つめた。

確かに、俺にはジョジョの世界で活躍したスタンド達の全てが内包されている。

善も悪も全てを超えて、俺の力として。

だが、それはあくまで力だけに過ぎない。

使い方次第で、俺はどっちにでも傾く程に強大だが、使わなければ傾かない。

そして何より、俺は俺が憧れたジョジョの登場人物……いや、歴代のジョジョと仲間達には遠く及ばない勇気しか無い。

俺がこんな力を持ちながらも誰かを助ける為に踏み出せないのは、自分自身の勇気の無さが原因だ。

家族と友達を守る為にと考えれば、幾らでも勇気が湧いてくるのに、他人の為にはそれが出来ない。

……いや…………平穏な生活を望む俺自身が勇気なんて物を持てるなんて考えるのもおこがましいか。

 

「幾ら強くても、勇気が無ければノミと同類、か……全くもってその通りッスよ、ツェペリさん」

 

偉大な言葉を遺したモンだぜ、ウィル・A・ツェペリって人は。

自身の情けなさに自嘲しながら、俺は家へと戻ってきた。

足取りは重いが、なるべく不自然にならない様に扉を開けて挨拶をする。

 

「ただいまー」

 

「あっ、お帰り~♪……どうしたの~定明~?」

 

「え?」

 

何時もの様に挨拶して、それに返事してくれた母ちゃんだが、何故か俺を見ると首を傾げる。

 

「何か、悩みでもあるんでしょ~?そんな顔をしてるわ~」

 

その質問にドキリ、と心臓が高鳴るが、それを悟らせる訳にはいかない。

俺自身のこんなちっぽけな悩みで、母ちゃんの手を煩わせるのは嫌だ。

だから俺は、何時もと変わらない態度を装った。

 

「何でも無えって。それより今晩の飯は何?俺ちょっと外で運動してきたから腹減って――」

 

「嘘でしょ~?」

 

ピタッ。

 

そんな擬音と共に、俺は動きを止めてしまった。

目の前で床に膝をついて俺と視線を合わせる母ちゃんの目が、俺をじっと射抜いていたからだ。

 

「ふふ~ん。お母さんを舐めちゃあ駄目だぞ~。自分の息子なんだから、それぐらい判っちゃうのです♪」

 

「い、いや。だから俺は……」

 

「ん~?俺は~?」

 

「だ、だから……その、よ……」

 

目の前でニコニコ微笑む母ちゃんの顔を見てると、二の句が告げなくなってしまう。

何というか、逆らうという気概自体が小削ぎ落とされてしまうのだ。

そのまま何も言えない俺と何も言わない母ちゃんの間で、奇妙な沈黙が流れる。

……迂闊だった……そういえば母ちゃんは昔から、何気に鋭い所がある人だったぜ。

さて、どう言い訳したモンかと考えていると、何やらいきなり目の前が暗くなって――。

 

ギュウッ。

 

「ッ!?む、むごごッ!?」

 

「んふふ~♪久しぶりの定明だぁ~♪……ん~♪やっぱり可愛いわ~♪」

 

満面の笑みを浮かべる母ちゃんに、思いっ切りハグされていた。

しかも俺の呼吸路を塞ぐ様に胸元に抑え付けられて苦しい……苦しい……んだが……。

 

「ぐ、ぐう……」

 

「ふふ♪お母さん必殺、愛のスペシャルホ~ルド。気持ち良いでしょ~?」

 

そんな事を楽しそうに言いながら俺の頭を撫でる母ちゃん。

だがハッキリ言おう。

断じて、断じて気持ち良い訳じゃ無え。

ただ何ていうか、その……自然と心が落ち着くというか……安らぐ匂いがするというか……。

結局の所、自分の抗おうって気持ちが削がれてしまうのである。

そのままなし崩し的に母ちゃんにされるがままにされているのと、不意に母ちゃんが静かな口調で語り始めた。

 

「はぁ……こうしていられるのは、何時以来かしら……定明。お母さん離れ早かったもんね~?」

 

「……」

 

「小学校に上がって直ぐ……ぐらいから、全然甘えてくれなくなっちゃって……お母さん。とっても寂しかったのよ?」

 

「……ゴメン」

 

母ちゃんの言葉が、本当に悲しそうな声音が俺の胸に突き刺さる。

俺が母ちゃんに甘えなくなったのは、やっぱ前世と換算した精神年齢の所為だろう。

やっぱりそれもあって甘えるのが段々と気恥ずかしくなっちまったからだ。

 

「ううん、それは良いの。無理に甘えさせる方が悪いわ……ねえ?覚えてる、定明?昔、お母さんが二階の階段から足を踏み外しちゃった時の事?」

 

母ちゃんに頭を撫でられながら、俺は母ちゃんの質問に頷いて肯定する。

忘れるもんか。あん時は本気で肝が冷えたんだから。

俺が小学校一年の時に、母ちゃんは二階に沢山のガラス陶器を抱えて運んでた事があった。

そんで二階の最上段で足を滑らせて、そのまま一階の階段前まで真っ逆さまに落ちてきたんだ。

俺はその時何か嫌な予感がして、一階の階段の所から母ちゃんを見ていた。

そして、母ちゃんが二階に上がって安心した時に、キング・クリムゾンのエピタフでその先の未来が見えてしまった。

 

 

 

――体中にガラスが刺さり、血だらけで倒れ伏す――虚ろな目をした母ちゃんの姿を。

 

 

 

……気付いた時には、既に母ちゃんは宙を舞っていた。

俺はその時、無我夢中でスタープラチナを発動して、時を止めて未来を変えた。

あの時は無我夢中だったが、後にして思えば、あれはスタンドの能力の本質を俺の本能が理解した故の行動だったと思う。

キング・クリムゾンは時間を飛ばしてる中で、自分以外の物体には干渉出来ないからな。

落ちてくる母ちゃんをガラスの当たらない場所に避難させて、時間を止めた中で母ちゃんの体を一階の廊下に降ろし、ガラスが母ちゃんに当たらない様に弾き飛ばして……

 

「あの時、絶対に助からないなぁって思ってたのに、不思議な事が起こったわ……気付いたら、私は一階の床に座っていて、ガラスの破片は全て私を避ける様に散乱してて……定明が必死に私に怪我は無いか聞いてくるんですもの」

 

「……不思議、だったよな」

 

「ええ。ホントに不思議だったわ……でもそのお蔭で、定明がお母さんの事を本気で心配してくれてる、とっても優しい子だって分かったんですもの♪あの出来事には感謝してるわ」

 

「よしてくれよ……あんな肝が冷える光景は……もう、見たくねえ」

 

嬉しそうに語る母ちゃんに、俺は何時もなら出さない様な弱い声で注意する。

本当に、この世界で生きてて一番怖い光景だった。

こんな俺を無常の愛で包んでくれる家族の死ぬ光景……怖くない筈があるか。

俺だけじゃなくて、父ちゃんだって悲しむ。

だから、俺がこの力で未来を変えられた時は本当に嬉しかった。

そう思っていると、不意に俺を抱き締める母ちゃんの腕に力が籠もる。

 

「そうね。あんな体験はもう懲り懲り……だけど、あの時初めて……あなたと心が通じ合った感覚があったわ♪幾ら早熟でも、母親の私をすっごく心配してくれる優しい心……あぁ、この子がどれだけ人と違っても、やっぱり私の自慢の息子なんだってね♪」

 

「ッ!?」

 

そこで初めて、俺は俯けていた顔を上げて母ちゃんの顔を見た。

……何時もと変わらない、いや何時も以上に俺の事を思ってくれてる、聖母の様な微笑みを浮かべる母ちゃん。

そこには確かに、母親としての優しさがあった。

 

「定明が何に悩んでるかは分からないけど……定明の思う通りにしてみなさい。それが例えどんな選択であっても、後悔しない様に生きてくれれば……私は、貴方の事を誇りに思うわ」

 

母ちゃんはそう締め括って、俺の頭を撫で続ける。

……どんな選択でも、後悔しない様に、か……参ったなぁ。

俺はこの偉大な母親の胸に、今だけ甘える事にした。

普段から全く甘えなかった俺が抱きついたのが嬉しかったのか、母ちゃんは上機嫌に俺を撫で続ける。

そんな事言われたらよぉ……なりたくなっちまうじゃねえか……自慢の息子に、よぉ。

何時もの俺らしくない熱血な想いを胸に抱きながら、俺は母ちゃんとの親子の絆を確かめたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

あの日から数日が経った金曜日の放課後。

俺は普段と同じ様にリサリサと別れて、明日からのニ連休にウキウキしながら、家への帰宅路を歩いている。

相馬達はやはり学校には来ていないらしく、俺にもアリサから学校に行ってるのか電話が来たぐらいだ。

どうにも学校に来なくなる前のなのはが何かで悩んでいた事を察していたらしく、すずかと一緒に心配しているという事だ。

意外にもその事を問い詰めたりはしなかったらしいが、隠し事をしてるのは自分達も同じだからと言っていた。

アリサとすずかは自分達が超常的なスタンド能力を扱うスタンド使いになった事をなのはに話していない。

すずかは夜の一族の事もあるしな。

だからこそ、話せない悩みを無理に聞き出そうとか、教えてくれないから怒るなんて事はせずに何時か話してくれる時を待つそうだ。

まぁ、向こうの秘密もかなり凄いよな、魔法とか次元世界とか。

兎に角、俺が関わってないならそんなに心配は無いとかで電話は終わったけど……それって俺が一緒だと心配って事かよ?

いや確かに荒事に首を突っ込んでる自覚はあるけど……自称平凡なんだけどなぁ、俺は。

 

「ままならねえモンだな……フゥ」

 

俺はランドセルを背負ったまま、帰宅路の途中で立ち止まっていた。

別に止まりたかった訳じゃ無えが、止まらなきゃならねえ理由が道路に『倒れてる』んで仕方無く、だ。

 

「う、うぅ…………フ、フェイ……ト……」

 

「あぁ、ままならねえもんだよ。ったく……おい。しっかりしろ、アルフ。今治してやる」

 

俺は溜息を吐きながらクレイジーダイヤモンドを出現させ、傷だらけで満身創痍のアルフを治した。

体の痛みが無くなった事で気が楽になったのか、アルフはそのまま眠りに着いてしまう。

ってオイ、こんな道路の真ん中で寝るんじゃねえよ。警察とかに見つかったらどうすりゃ良いってんだ。

見つかったら普通に通報か救急車、最悪なら見た目は美女のアルフに欲望をぶつけようとする馬鹿が現れるだろう。

って事はつまり、俺がどうにかしなきゃいけねえ訳かよ。

 

「……はぁ。仕方無えな……こい、『グーグー・ドールズ』」

 

ズギュンッ!!

 

『グギッ!!』

 

「アルフを小さくしろ。手の平より少し大きい位で良い」

 

『ク、グギャッ!!』

 

命令すると、目の前で地面に倒れ伏していたアルフの体が一気に小さくなり、俺の指定したサイズまで縮んだ所で止まる。

呼びかけに応じて現れたのは、ちょっと大きい人形くらいのサイズのスタンド、『グーグー・ドールズ』だ。

愛らしさは皆無なブリキの作り物の様な、『ヘイ・ヤー』とは違う不気味さの漂うスタンドで、能力も丸っきり違う。

こいつは指定した自分以外の人間を一人だけ小さくする事が出来る。

俺から離れると徐々に元へ戻ってしまうが、そこからがグーグー・ドールズの出番。

対象者が本体の意思に反する行動をとると自動的に殺害する。

スタンド使いでも無けちゃ、グーグー・ドールズから逃げるのは不可能って事だ。

尤もスタンド使いじゃなきゃ見えないんだからどうしようも無いか。

俺は小さくしたアルフを優しく手に持ち、なるべく揺らさない様に家へと連れ帰った。

 

「良し。もう良いぞグーグー・ドールズ」

 

能力を解除すると、ベットに寝かせたアルフが一気に大きくなって現れる。

相当疲れが溜まっていたのか、まだスヤスヤと眠っている様だ。

 

「ったく、人の気も知らねえで……呑気なモンだぜ」

 

ヤレヤレと首を振りながら、俺はエニグマの紙をファイルした物を引っ張り出す。

これは過去に俺が保存しておこうと思った物がファイルされた紙だ。

当然、中には飲食物なんかも含まれてる。

ぶっちゃけ料理の出来ない俺が何かあって腹が減った時用のなんだがな。

スタンド本体の併用は出来なくとも、能力で固定した物は消えないのが便利な所だ。

例を挙げるなら、ゴールド・エクスペリエンスで生物を生み出してから他のスタンドを使っても、生まれた生命は消えないだな。

その辺のON-OFFは俺の裁量で決められる。

 

「しっかし、良く寝てんなぁコイツ」

 

エニグマの紙から取り出したオレンジジュースを飲みつつ、ベットに眠るアルフへ視線を向ける。

どうやら安心出来る夢を見ている様で、口元が嬉しそうに弧を描いていた。

果てさて、一体どんな楽しい夢を――。

 

「ううーん……ジョジョぉ……サンドイッチ買ってこーい……不味かったらぁ……承知しないかんねぇ……zzz」

 

「……(ピクピク)」

 

余りにもふざけた寝言をほざく笑顔のアルフ。

その寝言を聞かされた俺はもぉ、左瞼がピクピクと痙攣してきてる。

……落ち着け……所詮は夢。有り得ない妄想の類で――。

 

 

 

「えへへ……ジョジョはアタシのぉ……ペットだぁ……扱き使ってやるよぉ……zzz」

 

 

 

「――DEATH13」

 

『ラリホ~♪』

 

 

 

数分後、アルフは涙を流して絶叫しながら飛び起きた。

両親が買い物と仕事に行ってて良かったぜ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「んで?何でテメーはあんな道端で、しかも傷だらけで倒れてたんだ?」

 

その後、半狂乱になりかけてたアルフを何とか慰めて、静かにさせる事に成功。

そんなに酷い夢見だったか?

夢の中で食べようとしてたパンを全て虫に変えただけなんだが……いや、普通に怖いか。

とりあえずそんなこんなもあったが丸く収めて、今は何故アルフがあそこに居たのかを聞いてるのだが……。

 

「……」

 

「……黙ってちゃ分かんねえぞ?何か言えない理由でもあんのか?」

 

「……」

 

少しイラッとしながらも質問を重ねるが、アルフは俯いてばかりで答えようとしない。

何やら俺の姿を見て諦めた感じもある。

さっきからずぅっとこの調子で、もういい加減放っておこうかと思ったぐらいだ。

 

「……ジョジョは」

 

「あん?」

 

アルフは憔悴した表情を浮かべながらもやっと顔を上げて、俺に視線を合わせてきた。

 

「ジョジョは……管理局の味方なんだろ?」

 

「は?……何でそうなる?」

 

「だ、だってさ……あんたの言ってたジュエルシードを探してる友達ってあいつ等だろ?あの白い服の女の子と、黒い服の男の子」

 

「……相馬となのはの事か?」

 

白と黒で思い当たるのは、戦闘服に着替えたなのはと相馬の姿だけだ。

俺の質問に対してコクッと頷きながら、アルフが更に言葉を続ける。

 

「あの子達は、管理局に味方した……って事は、あいつ等と友達のアンタだって――」

 

「いやいや。そんなもん俺には関係無え話だ」

 

「……え?」

 

「だから、俺には関係の無え話だってんだ。大体、俺がこんな力を持ってるのを知ってるのは、向こうじゃ相馬だけだ。管理局には言うなって言ってあるぜ?」

 

俺の言葉を信じられないといった表情で聞くアルフに、俺は再度言葉を重ねる。

そもそも何であいつ等と友達=管理局の味方になるんだよ。

その方程式はおかし過ぎんだろうに。

 

「それにあの時も俺は言ったぞ?俺がジュエルシードを探してたのは、俺の町にあったら俺のダチや家族が傷つく可能性があったからだって。別に俺としちゃあ、お前等だろーが管理局だろーが、兎に角その危ない品物を地球から持ち出してくれれば良かっただけの事なんだよ」

 

俺は一息で言いたい事を言って再び飲み物に口を付ける。

っていうか俺的に管理局に協力とかマジする気ねえ。

相馬から管理局の話をされた時にすらマイナスイメージだったのに、今回のリンディさんとかいう人の話でマイナスになったわ。

特に協力しても俺にはメリットが無いから、今の所は勝手にしてくれって感じだ。

そして俺の言葉を聞いたアルフはというと、正に目から鱗って感じの顔をしてるではないか。

 

「……じ、じゃあさ……あんたはアタシを、管理局に引き渡したりしないんだね?」

 

「するかよ。大体コンタクトの取り方も知らねえし、俺の方が会うのはゴメンなんだって――」

 

ガバッ!!!

 

「……おい……そりゃあ何の真似だ?」

 

俺が無害と知るや否や、アルフは俺に向かって床に座って額を擦りつけた。

それはつまり、アルフは俺に土下座をしてるって事だ。

当然、いきなりそんな事されても俺には何が何だか分からないので、俺はアルフに質問した。

 

「……お願いだ……フェイトを助けて……ッ!!お願いだ、ジョジョッ!!」

 

「……そりゃ何か?時空管理局からか?」

 

またぞろブッ飛んだ頼み事をされたモンだが、直ぐには頷けない。

だから俺はここで、アルフの真意を聞く事にした。

俺が難しい顔をしながら問えば、アルフは額を床につけたままに首を横に振る。

 

「何もかもからだ……管理局からも……今、無理矢理やらされてるジュエルシード探しからも……あの……鬼婆からもッ!!!」

 

「……鬼婆?」

 

俺は「母親の事か?」と聞きたいのを我慢して、アルフに聞き返す。

アルフの言う鬼婆ってのは、十中八九プレシア・テスタロッサの事だろう。

だが、俺はそれを知ってるってのを勘付かれる訳にはいかない。

何故俺がそれを知ってるのかってややこしい事態になっちまうから。

 

「……フェイトの、母親のプレシア・テスタロッサの事だよ……アイツ、フェイトがやりたくもないジュエルシード探しを押し付けて……見つけても、「遅い」って鞭で酷い事して……見つからなかったら、もっと酷い目に合わされてるんだ……ッ!!」

 

「……」

 

「グスッ……この前なんか、フェイトが……疲れた体には、甘いモノが良いって知って……地球で買ったケーキを持っていったのに……そのお礼が、鞭で血が出るまで叩くだなんて……あんまりじゃないかぁ……ッ!!あの、子が……何をしたって言うんだよぉ……ッ!!」

 

涙声……いや、泣きながら、そしてしゃくりあげながら語られた真実は、余りにも酷いモノだった。

母親が子に行う仕打ちじゃねえ……。

アルフはうずくまったまま、悔しそうに拳を握りしめて涙を流す。

例え手の平が裂けて血が流れようとも、アルフはお構い無しだ。

 

「アタシは遂に我慢出来なくなって……1人でプレシアに戦いを挑んだ……それでこの様さ……殺されそうなギリギリのトコで、何とか転移して地球に来たんだ」

 

「それで、俺が現れたって訳か……」

 

あんな道路の真ん中で倒れていた理由を察すると、アルフは涙でグシャグシャになった顔で俺に詰め寄る。

感情の制御が出来てねえのか、俺の肩を握る手に力が篭っていく。

 

「アタシはただ、フェイトに幸せになって欲しいだけなんだッ!!……でも、フェイトは自分の事を蔑ろにするばっかりで、全然判ってくれない……ッ!!もうアタシ1人じゃ、どうにも出来ないんだ……ッ!!」

 

「……」

 

「お願いだよぉ……ッ!!フェイトを、助けてくれ……アタシに出来る事ならなんだってやる。管理局に身代わりで逮捕されろっていうならそうする。鬼婆と戦う盾になれっていうならそうする。だからッ!!」

 

 

 

「あの子を助けてよッ!!――ジョジョォッ!!」

 

 

 

アルフは目から流れ落ちる涙もそのままに、必死な表情で俺に言葉を掛ける。

俺はそんなアルフの瞳の中に……ダイヤモンドの様に固い決意を持つ『気高さ』を見た。

間違いなく、俺が死ねって言ったらそれを実行するって目だ。

目は口程にものを語るってのはこういう事だろう。

やれやれ……流されねえ、つもりだったんだがなぁ……それでもまぁ、『後悔』するよりマシか。

何より形だけとはいえ、『あの人達』と同じ名前を拝命してるからにゃ、ここで動かなきゃ嘘だろ?

それにどっちみち、俺にはプレシア・テスタロッサのやろうとしてる事をブッ壊す必要がある。

大事な友達、家族、そして俺自身の平穏な生活を守るために。

俺は肩を掴むアルフの手を解いて立ち上がり、エニグマのファイルからありったけの武器を取り出す。

良し、これで準備は万端だな。

 

「……あの……駄目、かい?……やっぱり、アンタは巻き込まれるのが嫌だよね?」

 

と、俺が手を解いて背を向けたのが拒否だと思ったのか、アルフは再び涙を流して絶望に染まった表情を浮かべる。

やっべ、対応の仕方間違えたか。

誤解させちまったお詫びにと、アルフの手にクレイジーダイヤモンドの手を当てて治す。

 

「え?……あっ……ジ、ジョジョ?」

 

「ほら。怪我は治したんだ。早いトコ出かける用意しろよ。アルフが居なきゃ、俺は何処に殴りこんだら良いか分かんねーじゃねーか」

 

「ッ!?い、一緒に戦ってくれるんだねッ!?ホントにッ!?」

 

「だからそう言ってんじゃねーか。ほら、早く行こうぜ……行き過ぎた教育ママに、お仕置きしによ?」

 

「あ、あぁッ!!」

 

俺の返事を聞いたアルフは嬉しそうに目を輝かせながら、俺の後を着いて階段を降りてくる。

さあて、いっちょやるとしますかね。

意気揚々と玄関まで降りると、そこにはちょうど買い物から帰ってきた母ちゃんの姿があった。

 

「ただいま~、定明~♪今日はお母さん特製のポトフ……あら~?お客さん~?」

 

「ん。お帰り母ちゃん。すまねぇけど、今からちょっと出てくるわ」

 

「え~?こんな時間に何処行くつもり~?」

 

今から出かける旨を伝えると、母ちゃんは少し眉を吊り上げて怒ってますという表情を浮かべる。

まぁ元々が童顔な人なのでこれっぽっちも怖く無えんだが。

しかし母ちゃんから貰った言葉を無駄にしたくは無えので、俺は引くつもりは無い。

俺は「ゴメン。なるべく早く戻るわ」とだけ伝え、アルフを伴って外へ出た。

俺の隣に並ぶアルフは少し申し訳無さそうにしてるが、これは俺が決めた事だから別にとやかく言うつもりは無い。

 

「定明~。せめて何処に行くのか言いなさ~い」

 

と、振り返れば玄関から身を乗り出して俺に声を送る母ちゃんの姿が。

何処へ、か。そういえば考えてなかったな……ん~。

 

「あ~……ちょっくら、地球を救ってくるわ」

 

「ちょっ!?」

 

中々良い言い訳が出てこなかったので、俺自身の目的を伝えると、隣のアルフが焦ってた。

まぁ普通はこんな言い訳はナンセンスだよな。

けれど……。

 

「……ふ~ん?……うん♪カッコイイ顔になってる♪……気を付けて行くのよ~♪ポトフが冷める前に帰ってきなさ~い」

 

「お~う。行ってきま~す」

 

 

 

 

 

これが通じちまうんだよな、ウチの母ちゃんは。

 

 

 

 





何でこんなクソ真面目にシリアスったんだ俺は……ッ!!

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