ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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大変遅くなり申し訳御座いません。

最近GTA5だけじゃなくてCODゴーストとかマジ恋、辻堂さんやってた所為です。

他にも残り2作の執筆だったり……ですが、ちゃんと3作完結させますので、出来れば長くお付き合い頂きたいです。


俺のホームグラウンド、水中なら(ry

 

 

 

「ふぁ……あぁ~……ちょっと早く来すぎたか?」

 

現在の時刻は9時28分といった辺りで、日にちは皆大好き日曜日だ。

何時もなら12時ぐらいまで爆睡してるであろうこの俺が、こんな早い時間に起きてるのは、今日がアリサと約束してたプールの日だからだ。

前以って指定された時間は10時だが、多分ギリギリに行ったら怒られるだろうと思い、かなり早めに家を出たのである。

 

「結構眠いけど朝っぱらからアリサに文句言われる事に比べたら、早起きする方が幾らかマシだよな……フゥ」

 

俺は水着の入った鞄を持ってベンチに腰掛けながら、なのは達がテスタロッサと初めて戦った日の事を思い出す。

思い出すと言っても、なのは達には大きな怪我は1つもなかったので、俺が森で発見した時に何食わぬ顔で謝罪してきただけだ。

まぁ俺やアリサ達には魔法の事は秘密にしてるんだし、誤魔化しても不思議じゃねぇよな。

相馬もなのは達に協力してる手前、俺に対しても芝居を続ける必要があるわけだ。

その辺りの事情を知ってる俺としては、なのは達に言及した所で得は無ぇし、下手すると損に繋がっちまう。

だから敢えてその芝居に乗って、知らぬ存ぜぬを通してる。

俺の平和な日常に魔法なんてファンタジーは必要無いからな。

 

ザワザワ……

 

「……おい、見ろよ。また黒塗りのリムジンだぜ」

 

「ハハハ、そんな馬鹿な事があったでござる」

 

「ね、ね、あのベンチに座ってる男の子って、この前もリムジンで迎え来てもらってなかった?」

 

「ひょっとして何処かのお坊ちゃま?」

 

「うーん……そんなになんていうかこう……気品のある感じじゃ無いけど……」

 

外野から言いたい方題言われてる件について、テメェ等纏めてグレイトフル・デッドの餌食にしてやろうか?

あんまり俺を怒らせると老化させちゃうよ?ヨボヨボにしちゃうよ俺?

まるでいつぞやの焼き増しの様な感じで駅のロータリーに堂々と入ってくる黒塗りのリムジンに、外野がまたもや沸き立つ。

その外野の反応を聞いて、俺は疲労に染まった溜息を吐いてしまう。

 

「(ガチャッ)お早う御座います。定明様」

 

「あうちっ……出来ればそこまで一緒じゃなくても良いのに……」

 

「はて?……何か粗相がありましたかな?」

 

「あぁいえ、コッチの話しで……お早う御座います、鮫島さん。迎えにきてもらっちゃってスイマセン」

 

すずかの時にファリンさんがやってしまったのと同じく、鮫島さんも執事服というブッ飛んだ服装で車から降りてしまうが、鮫島さんは得に気にしてないご様子。

こんだけ周囲の視線を集めてるってのに堂々と……まさか見られる事に慣れてるのか?俺ならそんな慣れは一生したくねぇけど。

俺が丁寧にお辞儀してお礼を言うと、鮫島さんは朗らかな笑顔を浮かべて俺に視線を向けてくる。

 

「いえいえ。それより早くお乗りになられた方が宜しいかと。余りこの老骨とばかり話していては――」

 

「(ガチャッ)ちょ、ちょっと定明ッ!!今日はアタシと遊びに行くんだから、何時までも鮫島と喋ってないで早く乗りなさいよッ!!コッチは待ってるんだからねッ!!」

 

「……お嬢様の機嫌を損ねる事になりますから」

 

「確かに……っていうか少し遅かったみたいッスけどね……ご忠告ありがとうございます」

 

俺が鮫島さんと挨拶してるのが我慢ならなかった様で、後部座席のドアからアリサが降りて俺を呼んできた。

ちょうど忠告されてる最中の出来事だったので、俺と鮫島さんは目を合わせて苦笑。

っていうか忍耐力少な過ぎるだろアリサ。

そして、アリサが降りてきた事でまたもや広がるざわめきの波紋。

心なしか女性から浴びせられる視線が冷たいモノになってる気がするんだが……何故に?

座席から降りて俺の傍に歩み寄り、腰に手を当てて「う~」と唸るアリサに、俺は向き直って口を開く。

 

「グッモーニンだ、アリサ。そう急がなくてもプールは逃げたりしねぇから落ち着けって」

 

「……アンタと遊べる時間が減っちゃうじゃない。バカ」

 

……あ~、何で今日はそんなにしおらしいんだ、アリサさん?

俺の落ち着けようとして語った言葉を聞いたアリサは何時もの様に怒ったりせず、少し拗ねた感じで俺に反論してきた。

 

「そりゃ悪かったな。それじゃあサクッと行こうぜ。そのプールによ」

 

「そ、そうね。じゃあ鮫島、プールまで運転ヨロシク」

 

「畏まりました」

 

俺が肩を竦めて言葉を返すと、アリサもうんうんと頷いて鮫島さんに再び運転をお願いし、車の中へと戻っていく。

アリサに引き続いて俺も車に乗り込み、持ってきたリュックをポイッと座席に放り投げた。

どうせ中には着替えとタオルとかぐらいしか入ってないし。

 

「ん?アリサ、その手の怪我は何だよ?」

 

「えっ!?べ、別に大した事じゃないわよ」

 

ところが、アリサの隣りに座った俺の目に映ったのは、バンソーコーだらけの痛々しい手だった。 

切り口が新しいのか、少し血が滲んでる部分が目に付く。

当然の如く質問してみるが、アリサは挙動不信に目を逸らして何でも無いの一点張り。

どうやら理由は語りたくない様だな。

 

「まぁ、別に理由は言わなくて良いけどよ。これからプールに入るのに生傷があっちゃ楽しめないだろ?治してやるよ」

 

そう言いつつ、俺は『クレイジー・ダイヤモンド』でアリサに触れて怪我を綺麗に治してやった。

見た目は絆創膏に覆われていて判らないが、アリサの驚いた表情を見れば、ちゃんと治ってるみてぇだな。

 

「そ、そんなに痛くも無かったのに、態々治さなくて良いわよ」

 

「つっても、もう治しちまったモンはしょうがねぇだろ」

 

「もう……い、一応お礼は言っとくわ……ありがとう」

 

「はいはい」

 

顔を赤く染めてお礼を言ってくるアリサに、俺は適当に返事を返す。

これぐらいの事で恥ずかしがる辺り、アリサもやっぱり小学生らしいトコあるって事だろう。

何故か今日に限ってアリサは何時もの様な覇気、というか元気な所を見せず、俺が話し掛けないと黙って大人しくしている。

なので俺は適当に話題を振ったり質問したりして間をもたせつつ、プールまでの道のりを行くのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「おー……結構色々なプールがあるんだな。こりゃ来て正解ってヤツか」

 

そしておよそ30分後、俺はトランクスタイプの水着を履いて屋内プールの一角にある案内板を眺めている。

ちなみに鮫島さんは居ない。

俺達を送ってくれた後、また終わった頃に迎えに来てくれるそうで、さっき帰っていった。

っていうかこの前の誘拐騒ぎがあったってのにアリサを1人にするとかどうなのよ?

そう考えていたのが顔に出てた様で、鮫島さんから笑顔でアリサの護衛を頼まれてしまったぜ。

 

曰く、「定明様のスタンド能力なら、私が居るよりも確実でしょうから」だそうだ。

 

いや、まぁ確実にアリサを守りきる自信はあるし、アリサにもとびきりの能力を渡してあるけど……それで良いのか?

 

「お、お待たせ」

 

と、なにげに頼られ過ぎな自分の事を振り返っていた俺の背後から、アリサの声が聞こえてきた。

その声に釣られて後ろを振り向くと、そこには恥ずかしそうに顔を赤らめつつ、片手をもう片方の肘に組んだアリサの姿が。

 

「いや、そんなに待ってねぇし、とりあえずそこの25メートルプールに入ろうぜ?」

 

人の少なく、それでいて溺れる事も無さそうなプールを指差して、そこに向かおうと――。

 

「ちょぉっと待ちなさい?……アンタ、何か重要な事を忘れてないかしら?」

 

「ん?忘れてって……浮き輪でも忘れたのか?」

 

した所で、なにやら米神をヒクつかせながら、アリサが俺に質問してくる。

俺自身は特に何も忘れたワケじゃないので、アリサが浮き輪とかを忘れたのかと問う。

しかしそう聞き返すと、アリサは目尻を吊り上げて俺を睨んできた。

 

「そうじゃなくって、少しは感想とか言いなさいよッ!!アタシの水着に対しての感想をッ!!」

 

「は?……あぁ、そういう事か」

 

アリサが怒鳴った事でようやく合点のいった俺は、目の前でがおーな状態になってるアリサの水着に視線を移す。

ベースは赤で、ピンク色のフリルが付いたツーピースの水着。

色合いはかなり派手、というか情熱的だが、それがアリサの勝気な性格と可愛い容姿にマッチしてる。

まぁ一言で言うなら――。

 

「俺は良く似合ってると思うぞ。赤色ってアリサに良くマッチしてるな」

 

「へ?……そ、そんなストレートに褒めなくても……」

 

「いや、お前が感想言えって言ったんじゃねぇか?」

 

そのくせ今度はもう少しオブラートに包めとか、注文多すぎだっつうの。

 

「う、うっさいうっさいッ!!もういいから、早く泳ぎに行くわよッ!!今日は遊び尽くすんだからッ!!」

 

褒められて照れたのか、アリサは真っ赤な顔で喚き散らすと、肩をいからせてプールへと歩いて行く。

今日は1日、アリサに振り回されるんだろうなぁ……ハァ……やれやれだぜ。

1人残された俺はこっそりと溜息を吐きつつ、前を歩くアリサを追いかけて行くのであった。

 

「……フンだ……~♪」

 

俺の前を歩くアリサが嬉しそうな表情を浮かべて鼻歌を歌っていたのを、俺は気付けなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

そこから、俺達は2人で色々なプールに入ってめいいっぱい遊んだ。

俺もアリサもスポーツが大好きってワケじゃ無いので、追いかけっことかはせずに浮かんでたり、ゆったりとした時間を過ごす。

最近ずっとトラブル続きだったから、こういうのが凄くリラックス出来る。

しかし時間を忘れて遊びに興じても、体というモノはとても正直なのだ。

 

「さて、そろそろ昼には良い時間だし、飯にすっか」

 

「ッ!?そ、そう、ね……い、良いわ。ご飯にしましょ」

 

俺は何か食わせろと騒ぐ胃の信号に従って、アリサに昼食を促した。

でも何故かアリサは挙動不信な態度を見せる……何なんだ?

ちなみにここは屋内プールなのだが、ちょっとした売店なんかが数店舗だけ入っていて、テラスやテーブル席なんかもある。

そこでご飯を食べて休憩して、昼からも遊ぶ予定だ。

 

「とりあえず、そこの店でホットドックとコーラを「さ、定明」ん?」

 

買おうぜ、と言おうとしてた所に声を掛けられて振り返ると、アリサが少し俯き気味な姿勢で、俺の事を見ていた。

 

「あ、あのね?良かったらその、お弁当があるんだけど……い、一緒に食べない?」

 

「え?弁当持ってきたのか?でも、それってアリサのじゃ無えの?」

 

「ち、ちゃんと2人分あるわよ。アタシから誘ったんだから、アンタの分を持ってくるのが礼儀だし……」

 

少し視線を逸らして髪の毛を弄りながら、アリサは俺の質問に答える。

しかも俺の分まで用意してくれてるとは……成る程、だから前日に確認した時に弁当は要らないって言ってたんだな。

 

「そっか。ならありがたく頂くよ。サンキューな、アリサ」

 

「い、良いわよ別に……と、ともかくッ!!アタシはお弁当持ってくるから、定明は席を確保しときなさいッ!!」

 

「了解。いい場所見つけておくから、弁当は頼む……あっ、それと飲み物はどうする?」

 

「あっ……飲み物、忘れちゃった」

 

俺の質問に今気付いたといった表情を浮かべるアリサ。

その顔がおかしくて少しだけ笑ってしまう。

 

「じゃあ席のついでに飲み物は俺が買ってきてやる。何が良い?」

 

「そ、そうね。お茶をお願い」

 

「あいよ……しっかし、弁当を持ってきて飲み物忘れるとはな」

 

「う、うっさいわねッ!!もういいから、早く席を探してこいッ!!」

 

真っ赤な顔で、多分照れてるアリサに了解と返しつつ、俺はアリサと別れてプールから少し離れたエリアにあるテーブル席へと向かう。

今日は日曜日な所為で中々混み合ってはいたが、偶然にも1つだけ空いていたテーブルを発見。

ラッキーと思いつつも近くの自販機でお茶のペットボトルを2つ購入してからその席へ陣取り、ご飯が来るのを待つ。

 

「お待たせ。持ってきたわよ」

 

と、座ってから5分程でアリサが到着し、子供サイズの弁当を2つ、テーブルの上に置いた。

俺もアリサにお茶を渡して、彼女から弁当を受け取り、アリサにお礼を言う。

腹も減ってきた事だし、早く食べるとするか。

 

「さて、それじゃあいただきます」

 

「い、いただきます」

 

2人で一緒に手を合わせ、弁当箱の蓋を開ける。

中身は若菜を混ぜた若菜ご飯に、肉料理はミニハンバーグ。

野菜にキュウリとプチトマトが並び、少し形の悪い卵焼きが入っていた。

ふむ、どれも弁当には定番なおかずの取り合わせだし、まずは無難にハンバーグからいこう。

お弁当のメインであるハンバーグを口に運ぶと、冷えていながらもジンワリとした噛み応えが俺の口に広がる。

普通に美味いし、ご飯も味が強すぎなくて最高だ。

 

「……ど、どう?美味しいかしら?」

 

と、卵焼きを食い終わった辺りで、自信無さそうにアリサが質問してきた。

俺はその質問に、口の中身を飲み込んでから答える。

 

「あぁ、卵焼きは甘さ控えめで美味いし、ハンバーグなんかも絶品だと思うぜ?」

 

「そ、そう……良かったわ(良しッ!!卵焼きも美味しかったって言質取ったわッ!!初めてだったけど……さすがアタシッ!!やれば出来るッ!!)」

 

俺の言葉を聞いて何でも無い風にそっぽを向くアリサだったが、片手が小さくガッツポーズしてるのを俺は見逃さなかった。

やっぱこの卵焼きはアリサが作ったのか……まぁ他のと比べると、味付けとか大分違うしな。

でもまぁ、不味くはなかった……それに、あの手の怪我を見た感じじゃ、初めて作ったんだろう。

俺は料理した事無いからよくわかんねぇけど、初めてであの味なら上出来な筈だ。

そのままおかずとご飯を順調に消費していく俺とアリサだったが――。

 

「チッ、何だよ席空いてねーじゃん」

 

「うわっ、人ごみウゼェ……土日は親子連れが多くて鬱陶しいよね~。ガキとかウルセーし」

 

何やら金髪のチャラチャラした男と、その彼女っぽい女が喚きながらテーブル席のある場所に入り込んできた。

しかも仲良くご飯を食べてる家族連れにガンつけながらウザイとか言うもんで、他の客の雰囲気も悪くなる。

そんな馬鹿を見て、楽しく食事してた俺等も眉を歪めてしまう。

 

「なんなのよアレ。場のマナーを弁えないで何様のつもりなのかしら?」

 

「まぁ、ああいう手合いは何処にでも湧いて出てくるもんだろ。完全な駆除ってのは出来……チッ。何でこっちに来やがるんだっての」

 

噂をすれば影、というワケでは無いだろうが、何故か件の2人組みがニヤついた笑みを浮かべながら俺達の座る席まで来て、いきなり机をドンと叩いてくる。

それだけでアリサの眉間に皺が寄り始めた……ったく、休日だってのによぉ。

 

「よぉーボウヤ達ぃ、仲良くお弁当かいー?」

 

「キャハハッ、小学生がデート気分?うわ超ウケるんだけど」

 

俺もその話し方が超ウケるぜ、クソ不細工なオバハンめ。

溜息を吐きながら目の前でニヤつく馬鹿2人にジトッとした視線を向ける。

 

「……何か用ッスか?俺等今どんなアホが見ても判る通り昼飯食ってんスけど?目ン玉がビー球なのかよ?」

 

「止めなさい定明。泳ぐ為のプールでこんなドギツイ香水の匂いプンプンさせてる様な連中が、そんな当たり前の事分かるワケないでしょうが。言うだけ無駄よ」

 

「あぁ。それもそうだな」

 

「ハァッ!?何このガキまじムカツクッ!!」

 

「おいおーい?お兄さん達って、結構キレやすいんだよねぇ……調子乗んなよガキ」

 

俺とアリサに馬鹿にされたのが馬鹿でも分かった様で、馬鹿2人は目尻を吊り上げて俺達を睨んでくる。

っていうか元々俺達に吹っ掛けてきたのはそっちだろうが。

 

「ふん。大方、子供2人で席使ってるから、少し脅せばこの場所取れるとでも思ったんじゃない?子供に本気で喧嘩吹っ掛けてくる馬鹿の考えそうな事だわ」

 

「んだとぉッ!?もう勘弁しねぇぞこのガキッ!!」

 

と、目の前の馬鹿を鼻で笑いながら厳しい言葉を出したアリサに堪忍袋の尾が切れたのか、チャラい男がなんと子供相手に拳振りかぶって襲いかかってきやがった。

その行動に周りが騒然とする中、俺達は互いに席から立たず騒がず、各々のスタンドを呼び出す。

こういう馬鹿相手にスタンド使うのは全然OKだ。

 

「ハァ……子供相手に手を上げようとするとか、本当に馬鹿ね」

 

アリサは余裕を持ちながらそう呟き、手から糸を束にして出すと、殴りかかってきたチャラ男の足に絡めて、勢い良く糸を引っ張る。

軸足をずらされた事でチャラ男のパンチは狙いを大きく外れ、全く関係の無い別の人間の顔へと叩きこまれた。

 

バキッ!!

 

「……え?」

 

自分の考えていた向きとは全然違う相手に自分のパンチが当たってしまい、チャラ男は呆然と呟きながら顔色を真っ青にしてしまう。

何せ彼が殴り飛ばした人間ってのが――。

 

「痛えなぁ……何してくれとんや、兄ちゃん?」

 

「あ、う。い、いやその……」

 

筋骨隆々にして、身長は190センチはありそうなマッチョさんなんだからなぁ。

しかも、どう見ても堅気じゃねぇイカツイ顔と体の疵ってのが、手を出しちゃいけねえヤのつく人種そのものだし。

そう思っていたら各所からその人の仲間と思しき同業の方々が2~3人ゾロゾロと……終わったな、彼氏君。

一方で堅気じゃねぇ人種に喧嘩を売ってしまった彼氏の隣りで呆然とする彼女に、俺は『シンデレラ』の能力を使って運勢を最悪の方向へと固定してやる。

運命を固定するには30分に1回、シンデレラの作った口紅を塗らないといけないが、運勢程度なら問題ない。

ただ、その『最悪の運勢』ってヤツが――。

 

「オドレにはしっかりケジメつけてもらうとして……そっちの姉ちゃんには暫くウチの店で働いてもらおか。治療費の代わりにのぅ」

 

「あ、あわわわわ……」

 

『どの程度』に最悪なのかは、俺でも判らねぇけどな?

そのままあの馬鹿2人はヤーさん達と外へ出て行き、何やら警備員と話しをしていた。

少し気になったのでハーヴェストを一匹近寄らせて耳を同調させると、どうやらヤーさんはこの場の揉め事は警備員に任せる様だ。

いくつか話し合って警備員に連れて行かれる馬鹿2人。

だがその顔色が優れない所を見ると、後でしっかりと色々あるんだろう……そう、色々、な。

 

「……なんか釈然としないわ……私のした事だけど、アレで良かったのかしら?」

 

と、馬鹿2人にご愁傷様と思っていた俺に、ちょっと落ち込んだ雰囲気のアリサが声を掛けてくる。

まぁアリサも根は優しいから、自分がああした所為でっていう責任は感じてんだろう。

 

「良いんじゃね?暴力振るおうとしたんだから、暴力でやりかえされても文句は言えねぇだろ」

 

「でも、アタシは只あの男の腕を逸らそうとしただけで、まさか後ろにあんなのが居るなんて思わなかったわよ」

 

確かに、あの馬鹿の拳が人に当たっちまったと判った時のアリサの驚きようは凄かった。

まぁその後で殴られた人種を見て頭抱えてたのも、一応アリサなりにやっちゃったと思ってたって事か。

折角さっきまで楽しそうな顔してたってのに、これじゃ今日の楽しい気分が全部パァだ。

 

「……まっ、兎に角よ。今日は折角遊びに来たんだ。まだ入ってないプールもある事だし、めいっぱい楽しもうぜ」

 

食べ終わった弁当箱を片付けながら、俺は笑顔を浮かべて気落ちしてるアリサに声を掛ける。

まだ半分過ぎただけなんだし、今からもっと遊んで今の嫌な事は忘れてもらおう。

俺の言葉を聞いて、アリサは呆けた表情を浮かべるも、直ぐに目に光を灯し、立ち上がる。

もうさっきまでの落ち込んだ表情はなく、何時もの勝気な表情に変わってた。

 

「そうねッ!!まだまだ今日は楽しまなきゃッ!!行くわよ定明、次はスライダーに乗りましょッ!!」

 

「スライダーかよ……食後はゆったりと流れるプールに行きたかったなぁ」

 

「何言ってんのよ。アレは午前中にたっぷりと行ったじゃない。今度はアレに乗るんだからねッ!!」

 

「はいはい。何処へ成りとお供しますよ」

 

自分のやりたい事を真っ直ぐ貫いてくるアリサに苦笑しながらそう言うと、アリサはニッコリ笑って俺の手を引いてきた。

さっきまでの落ち込んだ表情を全く見せずに、だ。

全く……や~れやれだぜ。

どこか現金なアリサの態度の変わりぶりに首を振りながらも、俺は笑顔を浮かべてアリサの後を着いて行く。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「あ~ッ!!楽しかったッ!!」

 

「大分遊び尽くしたからなぁ……俺ももう満足だ」

 

夕方、俺達は迎えに来てくれた鮫島さんの運転するリムジンの中でゆったりと体を伸ばす。

今日の後半は動き回っていたから、良い運動になったな。

 

「それにしても、まさか流れるスライダープールが13個もあるなんて思わなかったわ」

 

「俺も思った。しかも1つごと流れる早さのにレベルが違うとはな」

 

「あのプールでイチ押しの目玉なのに、名前が13の試練って言われた時は笑っちゃったわよ」

 

「まぁ確かに、プールで使う名前では無ぇわな」

 

ちなみに安全面の考慮の結果、小学生は6の試練までしか乗れなかった。

但し、一つ一つの面白さレベルが尋常じゃなく高かったのは凄いと思ったよ。

回転とかも入ってきてたし……遊園地のアトラクションと間違えてねぇか?

 

「ふー♪……あっ、そうだ定明。再来週のゴールデンウィークって何か予定入ってるの?あったらキャンセルしておきなさい」

 

「オイ。薮から棒に傍若無人な命令かよ……一応何も予定ねぇが、一体何だ?」

 

ウチは残念な事に父ちゃんが休みを取れず出張という事になっているので、今年は何処にも出かけない事になっている。

その代わり盆休みが沢山取れるらしいから、その時の為に我慢するそうだ。

俺が予定が無いと伝えると、アリサはにんまりと笑って口を開く。

 

「今度の大型連休に、アタシと相馬にすずかとなのは、それと忍さん達月村家の皆と、なのはの家の皆で温泉旅行に行くの。アンタとリサリサも参加だからねッ!!」

 

あぁ成る程、温泉旅行のお誘いね、ふむ。

 

「無理だな」

 

『オラァッ!!』

 

即答で断ったらストーン・フリーのパンチが飛んできたので、すかさずスタープラチナで受け止めて腕を捕まえる。

何かもうアリサから攻撃されるの慣れたなぁ……悲しい事によ。

 

「即答してんじゃあないッ!!何で無理なのよッ!?温泉よ温泉ッ!!」

 

何で温泉=小学生が行くってなる?それが楽しみなのは爺さん婆さんだろうに。

荒ぶるアリサを宥めつつストーン・フリーの力が弱まるのを待って、俺はゆっくりと理由を述べる。

 

「そんな所に行く金もねぇし、母ちゃんが俺1人の為に出す訳ねぇだろうが。俺ん家は金持ちじゃねくて一般的な家庭なんだよ」

 

「うぐっ。常識の定義から外れまくった定明の癖に正論を……」

 

な~んか引っ掛かる物言いだが、まぁそういう訳で俺は行けない。

さすがに母ちゃんに「温泉旅行行って来るから金出して」なんて小学生の分際で言えるかってんだ。

まだ後でバイトして返すから、とかなら分かるがバイトしてねぇし。

そんな訳で参加出来ない主を伝えると、納得しながらもアリサは面白く無さそうな表情を浮かべる。

誘ってくれて嬉しいが、さすがに金の問題はなぁ……いや、一応出来なくも無いけど……一応やっておくか、アレ。

そんな事を考えてる間に、車は俺の家に到着し、俺は荷物を持って車のドアを開け、アリサへと振り返る。

 

「今日は誘ってくれてサンキューな、アリサ。スゲー楽しかったぜ」

 

「……わ、私も……今日は楽しかったわ」

 

「そうか……まぁ、温泉の事はリサリサにも伝えておく。じゃあな」

 

それだけ言って、俺は車の扉を閉めようと――。

 

「……ッ!!ストーン・フリーッ!!」

 

シュルルルルッ!!ガシッ!!

 

「なッ!?おいアリサッ!!何しやが――」

 

したが、その前にアリサが伸ばした糸の束が、俺の首を捕まえて引っ張ってきた。

いきなり首を捕まえられた事と引っ張られた事に抗議しようと口を開く俺であったが――。

 

 

 

チュッ。

 

 

 

「んなッ!?」

 

「……ン」

 

二度ある事は3度ある、とでも言うのか、頬にキスをされてしまう。

突然の事に動きがストップしてしまう俺であったが、俺が動くより先に、アリサが頬につけていた唇を離す。

うわぁ、俺が言うのも何だが、まるでリンゴみてーな顔色してやがる。

 

「うぅ……き、今日のお礼なんだからねッ!?別に深い意味なんてこれっぽっちも無いんだからッ!!か、勘違いすんじゃないわよッ!!(バタムッ!!)」

 

アリサは真っ赤な顔のまま俺にそう捲し立てると、俺の首を糸から開放して外に追いやり、車のドアを閉める。

 

「鮫島ッ!!早く車を出してちょうだいッ!!」

 

「ホッホ。かしこまりました、お嬢様……旦那様と奥様にご報告せねば(ぼそっ)」

 

「う、うぅ~(ア、アタシってばどんだけ強引な事してんのよッ!!あれじゃまるで、アタシが定明の事をす、すす、好きだって……)……うわぁあああああ~~ッ!?」

 

車の中からアリサの悲鳴が聞こえたかと思えば、リムジンは小さな排気音を奏でて道路の向こうへと走り去ってしまう。

俺はその光景を呆然としながら見送るしかなかった。

……え?俺って今、アリサにキスされたんだよな?

リ、リサリサとすずかに続いてアリサからも、お礼だって事でキスされてるけど……まさかこれって、そういう事なのか?

やっぱどう考えたってキスしてくるのはかなりの好意ってのが無いと無理だし、ましてや女の子からだぞ?

やっぱりあの3人は俺に対して友達以上の思いを持ってるって事になる……のか?

え?つまり俺ってモテモテな状況に?この俺が?……ま、まさかな。

 

「あら~?どうしたの定明~?顔真っ赤じゃない~?」

 

「……な、何でもねーよ。母ちゃん」

 

買い物袋を下げて帰ってきた母ちゃんに、俺は何でもないと返しながら家に入る。

い、幾ら何でも話を飛躍させすぎだぞ俺。

さっきのも含めて、アイツ等がくれたキスはお礼って考えておくのがベストだ。

外れてたら恥ずいし、自分1人で決めつけていてもしょうがねぇ、落ち着いてクールになろう。

 

「落ち着くんだ。素数を数えて冷静に……2,3,5,7,11,13,19,23,28……い、いや違う、29だ」

 

「ん~?……何かしら~?この甘酸っぱい雰囲気の汗は~?」

 

ブツブツと素数を呟く俺を観察しながらそう呟く母ちゃんが居た事を、俺は知らなかった。

 

 

 






さっさと無印終わらせないと(;´Д`)

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