ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』   作:piguzam]

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最近感想くれる人が減ったなぁ……あれか?

少し爆走し過ぎたか?

ここらで更新速度落とせという神の思し召しなんだな?

よし、次から少し更新速度落とします。

それと後書きに重要な報告があります。



『好奇心』は……精神の成長において最も大切なも(ry

「申し訳ありません、定明様。まさかイレインが直ぐに定明様に襲い掛かるなんて……」

 

「あぁいや、別に気にせんで下さいッス。怪我もしてませんし……」

 

さっきから俺にひたすら謝り倒してくるノエルさんに、俺は軽く問題ないと返しながら、すずか達の待つガラス張りの展望室を目指して歩く。

そう、忍さんの頼みを聞いてスクラップ状態のイレインを直した俺だったが、奴は起動した瞬間俺に襲い掛かってきやがったんだ。

俺より少し後ろに居たノエルさんはそれに反応出来ず、結局オレはスタープラチナでイレインを拘束、忍さんが事情を説明して落ち着くまでイレインに力の限り罵倒されるという面倒くせえ目にあってたワケ。

あんまりにも鬱陶しいからもう一度スクラップにしてやろうかという気持ちが芽生えた俺、そして俺のブッ潰す宣言を聞いて震えだしたイレインを見てニヤリと凄惨に笑ってしまった俺は鬼畜なんだろうか?

忍さんとノエルさんに全力で止めてくれとお願いされたし。

 

「でもやっぱり、かなりムカついたぞ。イレインの奴め……今度また襲ってきたらチリ・ペッパー使って身体の権限だけ全部乗っ取って、皆の前でコマネチでもさせてやろうか?」

 

「お願いします定明様、どうかそれだけは止めてあげて下さい。同じ女性としてそれは余りにも残酷な仕打ちです」

 

しかし俺の復讐プランは、かなり真剣な表情を浮かべるノエルさんに阻まれた。

同じ女としては同情どころの騒ぎじゃ済まなかったらしい。

自動人形の動力は電気なので、電気そのものに潜むスタンドのレッド・ホット・チリ・ペッパーなら、簡単に制御権を奪う事が出来る。

まぁ俺だって別に好き好んで女を虐めたい様な危ない奴じゃねぇので……。

 

「そうッスね。じゃあ皆の前で鼻からスパゲティ一気食いぐらいで許してあげますよ。俺ってなんて優しいんだろ」

 

「いえ、ですから……女性の尊厳というものが……」

 

いや、襲いかかってくる相手の尊厳をグッチャグチャに踏み躙って二度と刃向かえなくするのが俺本来のバトルスタイルっていうか鉄則なんですけど?

コマネチも駄目、ゲティも駄目、なら他に代案といえば……。

 

「バリ「駄目です」……まだ二文字しか喋ってねぇんスけど?」

 

「髪は女性にとって最たるアピールポイント。それをバリカンで削ぎ落とす等、例え誰が何と言おうとあってはならない行為なのです」

 

「いや全部じゃないっすよ?愉快な剃りこみだけ残してあげるつもりです」

 

「駄目です」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

 

終いには子供に向けるモンじゃねぇって威圧感を俺に叩きつけて止める様に促してくるノエルさん。

俺はノエルさんの説得に両手を挙げて降参の意を示し、なるべく女性の尊厳とやらを傷付けない方向でイレインに復讐する事を半ば約束させられた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「それでは定明様。申し訳ありませんが、私は忍お嬢様の元へ戻らなければなりませんので……」

 

「あぁ、いえ。わざわざありがとうございます」

 

アリサ達がお茶会をしてる展望室まで付き添ってもらった事に感謝しつつ、俺はノエルさんに頭を下げる。

そんでノエルさんも会釈を返し、再び来た道を戻っていった。

さあて、俺もお茶会に参戦しますか。

俺は意識を扉へと向け直し、ノックもせずに扉を開く。

部屋の中央にあるテーブルで楽しく談笑してるであろう3人へ目を向け――。

 

 

 

「……むぅ」

 

「うぬぬぬぬ……ッ!?」

 

「……フフ♪」

 

ドドドドドドド……ッ!!!

 

 

 

部屋の中央で睨み合ってる3人を確認し、静かに廊下へと戻る。

警告、コレより先は進んではいけない。

そんな文字が俺の頭に浮かんできたので、俺はソレに従う。

どう見たって面倒事にしか見えねえよ。

 

「定明君?何処へ行くのかな?」

 

「ちょっと。アンタに聞きたい事が出来たからソコ座んなさい」

 

「ジョジョ?私も素朴な疑問があるから、少しその辺りについて話しましょう?」

 

逃げる前に発見されちまった。オーマイガッ。

部屋から目を背けて面倒事を回避しようとした矢先、俺は瞬時に近寄ってきたアリサとすずかに目の前をスタンドで封鎖され、背後はリサリサのキッスに固められた。

近接パワー型に3方を包囲されるとか……。

おかしい、俺の貸した身を守る為の力が、他でも無い俺を追い詰めてる。

 

「……ハァ……スタープラチナ・ザ・ワールド(ぼそっ)」

 

最近こんなのばっかりだが、神よ?俺が何をした?

そう思いながら天井を見上げれば、あのボインな神様が一瞬見えた気がする。

にこやかに手を振って「宿命♡」って聞こえた様な……オイ。

俺は溜息を吐きながらスタープラチナの能力を作動、瞬間で時を止めた。

無音になる世界、背景がモノクロへと切り替わる。

 

「やれやれ……ココで逃げたら地の果てまで追ってきそうだしな……」

 

俺はとっとと面倒事を終わらせようと決意し、止まった時の中を動いて3人の包囲網から抜け出し、1人で先にテーブルへと腰を下ろす。

おっと、そろそろ時間だな。

 

「時は動き出すっと」

 

進み出した時間、そしてモノクロからカラーへと変わる世界。

止まっていた時間が動き出した証拠だ。

いや、正確にはスタープラチナのスピードが元に戻ったかな?

あくまでザ・ワールドと似ているだけで、完全に同じ能力ってワケじゃねぇんだ。

スタープラチナは時を『超える』スピードで動くから時間が止まった様に感じる。

ザ・ワールドは完全に世界の、時の流れを止める。

似ている様で違うのはその点だ。

そして世界と共に、生きる者は全て自分の時間を取り戻し……。

 

「ッ!?……ジョジョが消えたッ!?」

 

「あれッ!?……ア、アリサちゃん。もしかして、また止められちゃったかな?」

 

「あ、あんのバカ明ッ!!また時間を止めやがったわねッ!?何処行ったのよッ!!」

 

自分達の包囲網から忽然と姿を消した俺。

その光景に理解が追いつかず驚愕するリサリサと、憤慨するアリサ。

更に俺が居ない理由を思い至ってアリサへと確認するすずか。

まぁいきなり俺が消えたら驚くわな。

幾らアリサ達がスタンド使いになっても、時を止められたら対処は出来ねえ。

まだまだ逃げる事は幾らでも出来るってこったな。

 

「おーい。さっさと聞きたい事ってのを言えよ?もうそろそろ訓練やっからよぉ」

 

俺は優雅に座りながら、テーブルに置かれたクッキーを一つ齧る。

どうにも買ってきた市販の物じゃ無くて、手作りの様だ。

うん、コイツは美味え……甘さ控えめで紅茶にも良く合うな。

 

「え?……あっ!?定明君ッ!?」

 

「ちょっと定明ッ!!アンタ今また時を止めたでしょッ!?しかもアタシ達無視して1人で勝手にクッキー食べて和んでんじゃあないッ!!」

 

「あーもうウルセエなぁ……兎に角、聞きてえ事ってのは何だよ?」

 

さすがに何時までも引っ張ってるのは面倒クセ絵と感じた俺は、サクサクと質問したい事ってのを聞くことにした。

第一、ちょっと前に原作とやらが始まってんなら、今居るこの町は俺にとってのデンジャー・ゾーンに他ならねえ。

この辺に居るのが危ないと知ってる身としちゃ、ササッと御暇してえんだよ俺は。

俺のおざなりな対応にアリサはプルプルと震え出すが、やがて疲れた様に身体を脱力させると、出していたストーン・フリーを仕舞った。

 

「もう……アンタに聞きたいのは……その…………たの?(ぼそっ)」

 

「あ?何だって?」

 

全くもって聞こえねえよ。

 

「だ、だからッ!!リサリサとキ、キ……キスしたのかって聞いてんのよッ!!早く答えなさいッ!!」

 

「……はぁ?」

 

「わ、私もそれが聞きたいんだけど……本当に、しちゃったの?」

 

俺の聞き返しがアリサの琴線に触れたのか、アリサは顔を真っ赤にして大声で俺に質問を飛ばし、すずかも上目遣いで視線を送りつつ、アリサの質問に便乗する。

っていうかお前等何でそれを知って……ってそんなモン一つしかねぇよ。

何かものスゲー必死な様子で俺の言葉を待ってる2人から視線を外し、俺はこの騒ぎの元となったであろう元凶へと目を向ける。

 

「あら?私が聞きたい事は、さっきアリサ達から、少し前にジョジョと一緒にお風呂に入ったって事を聞いたんだけど、それは本当なのかしら?」

 

しかし俺がジト目を向けた彼女、つまりリサリサは俺の視線を物ともせず、逆に不敵な笑みを浮かべながら俺に質問を返してきた。

おい、疑問文に疑問文で返すのは感心しねーんじゃなかったのか?

どっちに視線を向けても、結局は俺に対しての質問なので、俺が3人にその事を答える他に道は無い。

 

「ドッチも合ってる様で合ってねぇよ。風呂に入ったんじゃなくて、コイツ等が間違えて男湯に入ってたんだし、キスはリサリサとしたんじゃなくて、頬にされたんだ」

 

溜息を吐きつつそう訂正すれば、何やら面白くなさそうな表情を浮かべる3人。

だから俺はツルペタに興味ねぇっての。

それにキスだって、リサリサはお礼だって自分で言ったじゃねぇか?

っていうかお前等俺とリサリサが来た本来の目的忘れてね?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「よーし、じゃあ今から最後の訓練、LESSON3を始めるぞ。準備は良いか?」

 

「うん、OKだよ」

 

「アタシもいけるわ」

 

「ええ、私も準備は出来てるわ。始めましょう、ジョジョ」

 

さて、現在俺達はすずかの家にある広大な屋敷の裏の庭に居る。

正確には庭というよりも敷地って感じだけどな。

表口みてーに整理されてるワケじゃなし、ほぼ普通の山だ。

俺達はそこで準備運動をして、いよいよ最後のLESSONを行う事になる。

各々が俺に返事を返しながらスタンドを呼び出す。

 

「うし。じゃあLESSON3の説明をすっけど……今回の訓練はお前等のスタンドが持つ固有の能力の訓練……というか、初歩的な使い方の説明だな。ザ・ハンドッ!!」

 

俺の目の前で真剣に話を聴いてる3人に説明しながら、俺は毎度お馴染みになってきたスタンド、ザ・ハンドを背後に呼び出す。

まぁこの3人に説明しやすい能力って言ったらコイツだろ。

シンプルで強い、能力が説明しやすい、そしてアリサとすずかは見慣れてるしな。

 

「まず、このザ・ハンドは近距離パワー型のスタンドなんだけど、コイツにも固有の能力がある……それは、コイツの右手だ」

 

軽く説明しながら、ザ・ハンドの両手を3人に見える様に広げる。

それを見た3人は首を捻りながら、何かあるのかと思考を働かせていく。

 

「右手?右手がどうしたの?……あっ」

 

「何か、左手とは違うわね……模様が入ってる?」

 

「左右が違う。つまりその右手が、そのザ・ハンドの能力に関係あるって事かしら?」

 

「正解だ、リサリサ。コイツの右手はな……ホレッ」

 

3人がそれぞれ意見を出した所で、俺は持ってきた空のペットボトルを空中に放り投げ、俺の側に居るザ・ハンドを操作する。

 

『……』

 

ガオォ~~ンッ!!

 

ザ・ハンドは俺の命令通りに身体を動かし、そのペットボトルの半分ぐらいを右手で触れた。

普通ならこの時点でペットボトルは弾かれて飛んで行く筈だが、ザ・ハンドの右手はまるで『何も無い』かの如く下まで振り下ろされてしまう。

そして、触れられた筈のペットボトルは、ザ・ハンドが触れた部分が無かった。

その現象に驚く3人を見ながら、地面に落ちたペットボトルの残骸を拾って、3人にザ・ハンドの右手が触れた部分を見える様に翳す。

 

「これがザ・ハンドの能力……『右手で触れた物を削り取る』能力だ」

 

「け、削り取るって……消すって事?」

 

俺の能力説明を聞いた3人の内、アリサは青い顔で俺に聞き返してくる。

すずかも青い顔をしてたが、リサリサは表情を強張らせていた。

まぁそうなっちまうのも頷けるけどな。

ザ・ハンドの能力は、一歩使い方を間違えたら恐ろしい結果に繋がる。

もし、ザ・ハンドの右手を人間に使用したら……部位によっちゃ一撃必殺だ。

 

「まぁ、な。アリサの考えた通り、ザ・ハンドが右手で削ったモノはこの世から消滅……っていうか、本体の俺にも何処に行っちまうのか判らねえんだ……そして切断面は元の状態に閉じる……グレートに危険なスタンドなんだよ」

 

青褪める、というかビビッてる3人に苦笑いしながら説明し、俺は残ったペットボトルもザ・ハンドの右手で完全に削り取ってしまう。

ゴミを持ち帰るのも面倒くせえし、消しちまう方が楽だからな。

 

「とまぁ、これがつまり、スタンドが持つ固有の能力の一部分なワケだが……安心しろ。お前等に貸したスタンドは、きっちり使いこなせばお前等の助けになる。それどころか、ザ・ハンドみて~に危険なスタンドは貸してねぇよ」

 

「そ、そうだよね……良かったぁ……スパイス・ガールの能力が、そんなにも危険な能力だったらどうしようって考えちゃったよ」

 

怯える3人を安心させる様に補足で説明を入れたら、3人はそれぞれ安心したように大きく息を吐く。

ただまぁ、リサリサに貸したキッスの能力はちょいと危険だからな。

その分すずか達より訓練を厳しめにするしかねぇか。

 

「とりあえず、このLESSON3はお前等の中から1人ずつ個別にやる必要がある。だから、残った2人は好きに休憩しててくれて構わねえ……まずは、アリサからだ」

 

「分かったわ。アンタ以上にストーン・フリーの力、全部使いこなしてあげる」

 

「その心意気だ。とりあえず、まずは俺の話しを聞いてくれ。その後で実際に能力を発現させるとすっか」

 

このLESSON3の概要を説明して、俺は最初の受講者にアリサを指名する。

ストーン・フリーの能力は応用の範囲が広い。

だから、俺は触りだけを教えて、後はアリサ自身の応用力が鍵になるだろう。

俺に指名されたアリサは表情をグッと引き締めて頷き、俺の側に近づいた。

残された2人は木の幹に腰掛けて俺達を見てる。

 

「まず、ストーン・フリーの能力から説明すっけど、ストーン・フリーのスタンド像は、お前の精神力を糸として出したエネルギーの『固まり』ってのは判るな?」

 

「えぇ。初めてストーン・フリーを出した時に感覚で分かったわ」

 

まず大前提であるストーン・フリーを形作る概念が理解出来てる様だ。

アリサの言葉を聞いて、俺は首を縦に振る。

 

「そう、ソイツはお前のエネルギーの固まり……なら、逆の力。つまり『糸』のエネルギーも、お前は自在に操れるって事だ。そうだろ?」

 

「あッ……そうね……確かに、糸を固まりで出せたならその『前』の状態、つまり糸のエネルギーも操れるのが普通なのよね?」

 

アリサは俺の言葉に何か気付くモノがあったのか、自分の側で立体の形を見せているストーン・フリーを見上げ始める。

そう、ストーン・フリーの概念が理解出来ていれば、糸としてストーン・フリーを操ることは絶対に出来る事だ。

本来なら糸として操れる事を理解した上で、次にスタンドの像が操れるモノなんだが、アリサはそれをオリ主君に対する怒りで強引に乗り越えちまった。

だから立体であるストーン・フリーを操れても、糸の方は操れなかった。

今日はその前段階も使える様にするのがアリサの課題だ。

 

「おう。だからまず、アリサはストーン・フリーを戻せ。そして……」

 

「へ?ちょ、ちょっとッ!?」

 

俺がアリサの手を掴むと、アリサはビックリした様に騒ぎ出す。

だが俺はそれには構わずに、アリサの手をしっかりと掴んで彼女の顔の前に翳す。

そして真剣な表情でアリサに視線を合わせて口を開いた。

 

「この指だ。まずは指先から糸を出すイメージを持て。そんで、ストーン・フリーを出す時と同じ様に、自分は『糸を操れて当然』と思うんだ……良いな?」

 

「わ、分かったわよ……スゥ……ハァ……」

 

突然の行動に慌てふためくアリサだが、俺の真剣な表情を見て返事を返す。

そして目を瞑り、深呼吸をしながら精神を集中させ始めた。

本来のストーン・フリーの能力――。

 

シュルルルッ

 

「ん……指先から糸が出るのって、何か不思議な感覚ね」

 

指先から操る『糸』を出す事に成功した。

うん、さすがにスタンドの出し方を身体で理解してるから、発現する事自体は問題無くクリアしたな。

指先から大体10センチ位の糸を出し、それを不思議そうに眺めるアリサ。

だがまだLESSONは終わっちゃいねえ。

ストーン・フリーの能力には、まだ注意しなきゃいけねえ事があるからな。

 

「良し。糸自体は出せたな……じゃあ、次はその糸の特性を説明するぜ」

 

糸を眺めるアリサに前置きしながら、俺はLESSONの続きを始める。

 

「まず、ストーン・フリーの糸は、お前の身体を媒介にしてるって事を頭に叩き込め。ココ一番重要だぞ?」

 

「アタシの身体を、媒介?」

 

「そう。ストーン・フリーの糸は、お前が念じればかなりの距離まで伸ばす事が出来るんだが……それは文字通り、お前の肉体を糸状に変えて出す。つまり……」

 

「アタシの身体は、糸を出せば出すほど、『減っていく』……そういう事でしょ?」

 

俺の説明の途中で、アリサにも俺の言いたい事が分かった様だ。

確信めいた瞳で俺の事を見てくるアリサに、俺は頷く。

そう、ストーン・フリーの能力は、糸を『出して』操る能力ではなく、自分自身の肉体を糸に『変えて』それを操作する能力。

だからこそ肉体を操る様に、糸自身の動きは筋肉の様な伸縮する動きが可能になる。

普通の糸とは違い、意志の力で操れるんだ。

しかしここで注意しなくてはならない点は、自分の身体を糸に『変えて』いるのだから、当然糸のダメージは自分にフィードバックするという点。

しかも伸ばした糸が長ければ長い程、肉体に返るダメージはデカくなる。

更に、身体を構成する内蔵とかも糸に変わるから、あんまり変えすぎると糸が切れなくても絶命してしまう。

 

 

 

この辺りがストーン・フリーの糸のデメリットだが、メリットもちゃんとある。

 

 

 

まず糸にするという事は、立体の時よりも遥か遠くへと行く事が可能になるんだ。

銃創や切創なんかも糸で縫合する事で応急処置出来るし、糸を編み込めば太くて丈夫なロープや、ネットの様な網にもなる。

この辺は全て本体、つまりアリサの応用力が物を言う所になる。

そう説明すると、アリサはその瞳にヤル気を滲ませて色々やってみると言った。

何か知らねえが心に火が点いて轟々と燃えてる。

 

「……あれだな。バニングスじゃなくてバーニングだな」

 

「どういう意味よソレッ!!レディに付けるアダ名じゃ無いわよこのバカッ!!」

 

『オラァアアッ!!』

 

俺の素直な感想を伝えると、アリサは返す手で俺に怒り、ストーン・フリーの腕で殴りかかってくる。

さすがに危ないので、殴りかかる拳をスタープラチナで受け止め……。

 

シュルルルッ!!

 

「はぁッ!?」

 

受け止めたら、ストーン・フリーの拳が分解されて、スタープラチナの拳を包み込む様に糸が踊り、片手を封じ込められてしまった。

この一瞬でこんな応用の技を覚えたってのかよッ!?それとも無意識かッ!?ドッチにしろとんでもねぇッ!!

その状況が信じられず、大声を出してしまう俺であったが……。

 

「これなら避け様が無いでしょッ!!喰らいなさいッ!!」

 

『オラオラオラオラッ!!』

 

もう片方の空いてる手で、アリサはラッシュをカマしてくる。

だからお前等才能がおかし過ぎるんだってのッ!?

でも、まだこの距離ならスタープラチナで弾き飛ばすのは問題じゃねぇ。

 

「スタープラチナッ!!」

 

『オラァッ!!』

 

俺を狙ってくるストーン・フリーの拳を下からのキックで弾き飛ばし、片手を封じてる部分目掛けてお返しにパンチを打ち込むと、アリサは直ぐに糸を解いて後ろに後退していく。

 

「ちぃッ!!今日こそは初ヒット出来ると思ったのにッ!!」

 

考えが戦闘思考過ぎて困るわ。

っていうかあの勢いで殴られたら確実に怪我するっての。

直ぐにでもまた噛み付いてきそうな様子だったので、俺はササッとさっきの言葉を謝罪して、アリサの特訓を終了した。

 

「予定より時間食っちまったけど、これでもうストーン・フリーの基本的な事は全部教えたからよ……後は自分なりに考えて使ってみな?」

 

後はしっかりと自分でスタンドのコントロールをする様にとだけ言って、俺は次の受講者に声を変えようと、アリサに背を向ける。

さあて、次の受講者は……。

 

「……さ、定明」

 

「ん?」

 

と、考えていたら、背後からアリサに声を掛けられ、俺は背後に振り返った。

振り向いた先に居たアリサは腕を組んで、真っ赤な顔色で俺を睨んでる。

……俺、さっきの事は謝ったよな?それとも何か別の事か?

何かアリサを怒らせる様な事をしたかと考えを巡らしつつ、俺は用心してアリサの動きを逐一観察していく。

さすがにさっきみてーに不意打ちされたら面倒だからな。

不機嫌そうな顔で睨んでくるアリサをジッと見てると、彼女は小さく口を開いた。

 

「あ、ありがとう……」

 

「……ん?……何がだ?」

 

しかしアリサの口から飛び出した言葉は俺の予想の斜め上を言っていて、最初は何を言われてるのか全然判らなかった。

やがてそれが感謝の言葉だと気付いたけど、俺何で感謝されてんだ?

特に感謝される様な事をした覚えは無えんだが……。

そう思っていると、アリサは俺の言葉で、自分が何を言ってるかが俺に伝わってないと勘付いたらしい。

視線をアチコチに右往左往させながら、アリサは再び俺に視線を向けてくる。

 

「リ、リサリサから聞いたのよ……アンタが、アタシが攫われたと思って、誘拐犯達を全員叩きのめしたって……」

 

「え?マジで?」

 

……そういえば俺、アリサとリサリサの対面した時の反応が楽しみだったから、リサリサがアリサそっくりで、俺はそれをアリサだと勘違いして助けた事は一切言ってなかったな。

俺の聞き返しにアリサは首を縦に振り、更に言葉を続ける。

 

「と、友達が攫われたと思って、大人達に一歩も引かないで戦ってたって……凄く真剣な声で、私の事を心配してたって……だから……ありがとう……リサリサからそれを聞いて……私、凄く……嬉しかった、から……」

 

「……」

 

真っ赤な顔でしおらしく俺に感謝を述べるアリサ。

其処に居るのは何時もの猛々しさ溢れる少女ではなく、歳相応の女の子なアリサだ。

何時も怒ってるというか、凛々しいイメージが先行してたけど……根は優しい。

そこんとこはすずかと一緒で、正反対に見える二人が親友なのが良く判る。

 

「別に構わねーよ。俺は、自分の日常……ダチの笑ってる顔を無くしたくなかっただけだ」

 

俺はお礼を言ってくれたアリサに、自分の本心をそのまま伝える。

あの時、面倒はゴメンだとアイツ等を放っておけば、俺は疲れる事も無く学校へ行っただろう。

……その日から、死ぬまでずっと続く後悔ってヤツに苛まれる形で。

俺は別にヒーローってワケじゃねぇから、例えば地球の裏側で誰か死にそうになってる。

そう言われても『可哀想だな』と思うだけで、行動はしない。

でもコイツ等は違う、そんな住み分けはもう出来ない位置に居るからだ。

俺が目指す、というか欲しいのは、平穏でゆったりとした日常。

それは当たり前の生活をして、当たり前の様にダチと笑って、当たり前の様に寿命で死ぬ。

別にスリルが一切無い方が良いなんてワケじゃねぇが、大事なダチや家族に危険が及ぶスリルはゴメンだ。

家族とかにスリル、というか危険が及ぶくらいなら俺に及んだ方が良い。

俺には、それをブッ壊せる力が与えられてるからな。

コイツ等の笑顔が何かの――例えば、下種な連中に穢されて曇るってんなら、俺はそいつ等を叩き潰す。

二度と自分の力で立ち上がれねぇ様に、身体の一部分を削り取る事も厭わねぇ。

何だかんだで、アリサやすずか、そしてリサリサの笑顔は好きだからな。

 

「言っただろ?俺はダチが笑えねぇ様になるのはゴメンだって……だから、ンな事気にすんな」

 

「そんな事、今更言われなくても覚えてるわよ……でも、アタシを助けようって必死になってくれた……それが嬉しかったから、お礼を言ってるの。それぐらいは素直に受け取りなさいよね」

 

俺の返しに、アリサは真っ赤な顔色のまま真剣な眼差しを俺に送ってくる。

やべえ、一番素直にとか言われたくねぇヤツに言われた。

しかし素直ねぇ……俺は別に本当にそう思ってんだが……これは、またアレか。受け取らないと延々続くパターンか?

まぁ何時までも引っ張るのは面倒くせーし、ここは『素直』に受け取っておきますか。

 

「わあったよ。どう致しまして、アリサ」

 

「フン……判れば良いのよ……じゃあ、アタシはストーン・フリーの練習するから、アンタも頑張んなさい」

 

半ば投げやりな感じだが、俺が礼を受け取ったので良しとしたんだろう。

アリサはフンと鼻を鳴らしてからすずか達の元に戻り、早速糸を出して練習し始めていた。

……こっから見てても横顔が赤い様に見えるのは気の所為か?まぁ良いけど。

 

「さ~て、次は……リサリサー?次はお前だー」

 

ササッと終わらして行こうと考えつつ、俺は次の生徒にリサリサを指名する。

俺の指名を受けたアリスは、何時もの様にクールな微笑を浮かべつつ、俺の傍まで歩み寄った。

 

「ふふ♪アリサのお礼、ちゃんと受け取ったの?」

 

コイツ、俺等の会話の内容知ってやがったのか……良い性格してるぜ。

若干悪戯めく、弾む様な声音で問い掛けてくるリサリサの背中に悪魔の羽と尻尾が見えた気がする。

そんな子悪魔っぽいリサリサに肩を竦めつつ、俺は普通に口を開いた。

 

「ちゃんと受け取った。別に気にする事でもねぇだろーになぁ」

 

「貴方はそれで良くても、救われた方はそれじゃ嫌なんじゃないかしら?貴方とは違う理由かも知れないけど、貴方が自分の所為で危ない事をしてるなんて、2人からしたら申し訳無い気持ちでいっぱいの筈よ?」

 

「だけどよぉ、それは俺自身がそうしただけで、別にアイツ等が気に病む事じゃ……」

 

リサリサの話しに納得行かなかったので反論しようとしたら、その開いた口に人差し指で封をされた。

 

「それは助けた側の言い分。良い?もしあの2人が貴方を助けたいって思ってした事で何かの危険に晒されたら、貴方はどう思う?」

 

「そりゃ……申し訳ねぇって気分だけど……」

 

出来の悪い子供に優しく言い聞かせる様な口調で喋るリサリサに、俺は少し萎縮しながら答える。

その答えが望むものだったのか、リサリサは1つ頷いて優しい口調のままに俺を諭していく。

 

「あの子達が感じてるのはまさしく同じ気持ちよ。だから彼女、いえ私達は貴方にお礼を言うの、せめてもの謝罪を込めてね……だからジョジョ。貴方はそれをしっかりと受け止めなきゃいけないわ。それが感謝される事をした者の最低限の礼儀。覚えておきなさい」

 

「だ~、クソッ……わあったよ……グラッツェ(ありがとよ)。リサリサ」

 

もう口じゃリサリサに勝てねぇと悟って、というか最初から分かりきってる事なので、俺は直ぐに白旗を振った。

只の小学生、平々凡々な頭脳しかねぇ俺じゃ、IQ200の超天才児に勝てるわきゃねぇよ。

それと、俺に色々と気付かせようとしてくれた事への感謝も込めて、洒落たイタリア語で礼を言っておく。

お礼を言われたリサリサはというと、普段通りの微笑みで俺を見つめるだけだった。

 

「どう致しまして。ジョジョは大切な友達だもの。これぐらいは何でも無いわ」

 

(尤も、何時友達から『先』へ変わるかは、私にも保証出来ないけどね♪)

 

そう言いながら微笑むリサリサに、俺は口どころか他でも勝てないんじゃないかって気がしたが、首を振ってその考えを振り払う。

何時までもこんな事考えてても仕方ねぇ。

今やるべきはリサリサにキッスの能力の使い方を教える事だからな。

俺は深呼吸をして頭を一度クリアにし、キッスの能力についての情報を纏め上げる。

 

「スゥ……ハァ……うし。そんじゃあ、キッスの能力について説明するけど……まずはリサリサ。自分の右手の『手の平』を見てくれ」

 

「手の平……特に変わった所は無いけれど……」

 

「それを今から『変えて』いくんだ。まずはその手の平に、『出ろ』と強く念じてみな」

 

「『出ろ』ね?分かったわ……」

 

自分の手の平を見ながら俺の話を真剣に聞いていたリサリサは、俺の指示に従って黙りこくる。

俺の指示通りなら、手の平に出ろと念じてる筈だ。

そして、彼女の手の平を見ていると、次第にボンヤリと何かのマークが現れ始める。

 

「これは……?『シール』かしら?」

 

そして10秒程でぼんやりしたマークはハッキリと見える様になった。

改めて自分の手の平を見たアリスは少し首を傾げながら、出て来た物の名前を語る。

リサリサの手の平に浮き上がったのは、キッスの体中に貼られたのと同じキスマークのシールだ。

それが完全に見える様になったので、俺は更に次の説明を始める。

 

「あぁ。このシールこそが、キッスの能力なんだが……」

 

俺は途中で一度言葉を切り、エニグマの能力でファイルしてきた紙を取り出す。

それを開くと、紙の中から一本のモップが出て来た。

 

「まず、そのシールに枚数制限は無い。リサリサが強い意志で念じれば、幾らでも出て来る」

 

「へぇ?随分と気前が良い能力ね……シールを出す事にデメリットはあるの?」

 

「それは無ぇから安心しな。そんでそのシールの能力なんだが……まずは一枚剥がして、このモップに張ってみてくれ」

 

俺がモップを差し出すと、リサリサは頷きながら手の平のシールを一枚剥がし、俺が持つモップに貼り付ける。

すると……一本のモップが一瞬で『2つ』に『増えた』。

その光景に驚きで目を見開くリサリサだが、俺の横に現れたモップが倒れこんできたので慌てて受け止める。

 

「驚いたわ……このシールを貼ると、モノが2つに分裂するのね?」

 

「そうだ。これがキッスの能力。シールで全く同じモノを増やす事が出来る……そして」

 

リサリサの手からモップを地面に置いてもらい、シールの貼られたモップのシールを引き剥がす。

すると……。

 

バチィィイインッ!!

 

「ッ!?」

 

豪快な音を立てて、2つのモノは1つに戻るが、それは最初の状態とは少し『違う』。

元に戻ったモップの中央の部分が、少し亀裂が入って破壊されているんだ。

俺はそのモップを拾い、亀裂の入った部分をリサリサに見せる。

 

「キッスのシールを剥がすと、分裂した2つの物体は元に戻る……戻るんだが、少し破壊が起きるんだ」

 

「破壊……成る程ね。使いこなせば便利だけど、一歩間違えば大惨事に繋がる事もあるわね」

 

「そう。リサリサに貸したスタンドはアイツ等に貸した能力と違って、ちょいと危険なトコがある」

 

モップに刻まれた亀裂を見ながら思考するリサリサに、俺は少し口調を重くして語り掛けた。

キッスの能力は上手く使いこなせばかなりの応用力を得られる。

スタンドの射程距離は近距離なのに対して、シールの効果範囲はかなり広い。

だから、例えば最初に居た場所のガードレールの反射板をシールで増やして持ち歩く。

そして、急用でその場所に急いで戻りたい時にシールを剥がせば、反射板が戻ろうとする力で引っ張ってくれる。

人体はあまりオススメはしないが、腕や足に貼ると凄い事が起きる。

身体の箇所を増やした場合、最初は分裂してもその部位は身体に付いたままだ。

スタンド使いがシールで腕や足を増やした場合は、スタンドもその影響を受けて腕や足が増える。

つまり、攻撃の手数が増えるって事だ。

これは俺がまだリサリサにキッスを渡す前、自分にシールを貼って確かめた事だから間違い無い。

……剥がす時はかなりの覚悟が必要だった……メチャ痛かったしな。

 

「貴方って、結構無茶な事するのね……でも、そういうメリット・デメリットが共存した難題って結構好きなのよね、私♪」

 

俺の体験談と説明を聞いて呆れた表情になるリサリサだったが、次の瞬間にはニヤリと笑っていた。

この辺はアリサと違って、クールに物事にチャレンジしようとしてる様に見える。

似てる様で正反対なトコもあるんだなと感じた瞬間だったぜ。

元来から勉強、というか新しい事へ対しての知的好奇心が人一倍強いらしい。

その性格に、キッスの能力の利便性を追求するって課題はピッタリとマッチしたとさ。

 

「まぁ、以上がキッスのシールの特性だ。リサリサは頭が良いから、俺よりも遥かにキッスを使いこなせんだろーよ」

 

「あら?随分消極的な答えじゃない?俺の方が上手く使える、とか言わないの?」

 

俺の物言いに微笑みを浮かべながら挑発する様に言ってくるリサリサに、俺は肩を竦める。

 

「使えたトコで別にどーでも良いんだよ。キッスは既に、リサリサを……俺のダチを守る力なんだからな……俺より上手く使ってくれねえと、俺が困る」

 

そう、キッス、スパイス・ガール、そしてストーン・フリー。

この3体は既に俺のスタンドじゃなくて、リサリサ達を守る力だ。

生身では無力な彼女たちを守る為の規格外な力。

なら、それは何時も側に居るという特性がある以上、リサリサ達に上手く使ってもらう必要がある。

俺だって自分の日常を守りたいって気持ちはあるけど、何時も側に居るわけじゃねぇ。

アリサとすずかは学校が違うし、リサリサだって学年が違う。

俺が守りたいって思う日常の欠片……自分達の危機を少しでも多く乗り越えられる為のスタンドだ。

勿論、3人がどうしようもないって事態になったら俺も手を貸すつもりはある。

でもそんなに毎回都合良く俺が間に合うなんて事は絶対に無い。

 

「俺は、自分の大事な日常と心の平穏を守る為に、リサリサ達にスタンドを貸した……だから、その力を俺より扱える様になって欲しい……そんだけだ」

 

「……えぇ……貴方からの『思い』。ちゃんと胸に刻むわ……ディ・モールトグラッツェ(どうもありがとう)、ジョジョ♪」

 

「……お前、ホントに良い性格してるぜ」

 

さっきのお返しか、俺に対してイタリア語で礼を言ってくるリサリサに、俺は苦笑するしかなかった。

そしてリサリサのLESSONも滞り無く終了して、いよいよ最後の受講者……。

 

「えっと、よろしくお願いします。定明君」

 

何時も礼儀正しいすずかの番だ。

彼女はLESSONを始める前に、俺に対してペコリと頭を下げてきた。

別に俺は先生ってワケじゃねぇんだが……悪くねぇな、こーいうのも。

ともすれば、俺がやる事は単純明快、この優しい女の子に守る術を教える事だ。

まぁすずかに貸したスタンドなら、防御には打ってつけの能力だろう。

 

「よぉし、そんじゃあ始めるぜ。すずか」

 

「はいっ……でも、どうしたら良いのかな?」

 

俺の声に元気よく返事を返したすずかだが、早速首を傾げて質問してくる。

その若干スローペースな様子にズルッと滑ってしまうが、直ぐに気を取り直して咳払いを一つ。

 

「ん~。まずは、すずかにスパイス・ガールの能力がどんなモンか把握してもらわなきゃいけねえ」

 

「でも、私。まだスパイス・ガールの能力が判らないんだけど……」

 

「大丈夫だ。俺がまずは似たスタンドを使ってお手本を見せてやっからよ……クレイジー・ダイヤモンドッ!!」

 

ズギュウゥンッ!!

 

能力が判らなくて自信を無くしそうな顔を見せるすずかに優しく声を掛けながら、俺はクレイジー・ダイヤモンドを呼び出した。

スパイス・ガールとは能力の中身が全然違うけど、『発動の条件』は一緒だ。

他のスタンドはまだ見せた事ねぇし、手本としては一番分かりやすいだろ。

 

「コイツは一度見ただろ?名前はクレイジー・ダイヤモンドっつぅんだが……」

 

「あっ、うん。展望室を直してくれた時だよね?……わ、私とアリサちゃんが壊しちゃった時の……」

 

あの時の惨状を思い出してか、自分の所為だって自覚してるすずかは悲しそうな表情を見せる。

やれやれ……もう終わった事なんだから、そろそろ気にしなくても良いだろうに。

 

「まぁ、アレは事故だからもう気にすんな……さて、まずコイツの能力についてだけど、クレイジー・ダイヤモンドとスパイス・ガールにはある共通点がある」

 

人一倍責任感が強いすずかに慰めの言葉をかけつつ、俺はLESSONを進めていく。

何時までも引っ張ってるワケにゃいかねぇ。

すずかにもこれから何かのトラブルがあっても乗り越えられる様に頑張ってもらわねぇとな。

 

「コイツ等の共通点ってのは、能力を発現する条件だ」

 

「条件?えっと、何かをしなくちゃいけないって事なのかな?」

 

「しなくちゃってのはちょいと違うな……正確には、『両の拳のどちらかで触れる事』だ」

 

俺は質問してくるすずかにそう答え、近くにあった木の一部分をクレイジー・ダイヤモンドで力任せに剥ぎ取る。

すずかはそれを見て悲しそうな顔を浮かべるが、クレイジー・ダイヤモンドの能力を思い出したのか、直ぐに真剣な表情に戻った。

俺はすずかがちゃんとLESSONを聞いてくれている事を確認して、クレイジー・ダイヤモンドの能力を発現させる。

そうして、クレイジー・ダイヤモンドの手に握られていた木の一部分が引っ張られるのを感じて、手を離した。

力の抵抗が無くなり、木の一部分は浮遊して元の場所へと治って戻る。

ソレを確認してから、俺はすずかに振り返って視線を合わせて口を開く。

 

「今のは、クレイジー・ダイヤモンドが触れてた木の一部分に能力が作用して、元に戻ったんだ……すずかのスパイス・ガールも同じ遣り方で能力が使えるからよ。そろそろ実際に試してみようぜ?……すずかなら、絶対に能力をモノに出来る。頑張ろうや」

 

「う、うんッ!!私、いっぱい頑張るよ、定明君ッ!!」

 

少しでも安心出来る様に笑顔を浮かべながら講義を続けると、すずかのヤル気に火が点いた。

さっきまでとは打って変わって、目に光が灯ってる。

 

「よおし、そんじゃあ、まずはスパイス・ガールの拳で木に触れてみようか」

 

俺のレクチャーを聞いたすずかは頷いて肯定を示し、側にあった木にスパイス・ガールの拳をゆっくりと触れさせた。

 

「拳で触れたら、次は念じるんだ……能力を発動するって強く思えば良い」

 

「発動しようと……強く……願う……スゥ……」

 

一言一言を噛み締める様に復唱しながら、すずかは深呼吸をして精神を集中させる。

そして、何度かの深呼吸を得て、すずかは目を開けて自らのスタンドの名を叫んだ。

 

「……スパイス・ガールッ!!」

 

『……』

 

すずかのはちきれんばかりに膨れ上がった思いに応えて、スパイス・ガールは拳を木に叩きつける。

普通ならスパイス・ガールのパンチを喰らった木は、豪快な音を立ててブチ割れてしまう……筈だが。

 

グニュゥウウンッ。

 

「……え?…………えぇえええッ!!?木、木、木がッ!?」

 

パンチを受けた木は、何と『グニョグニョ』と曲がりくねり、地面にベチョォッという『柔らかいモノが落ちた』様な音を立てて全身を横たえてしまう。

しかも葉っぱとかの様子はそのままなのに、まるで落ちる様子が無い。

その光景に悲鳴を上げて驚くすずかだが、俺からしたらこれは特に問題ある光景じゃねぇ。

 

「これがスパイス・ガールの能力だ。『拳で触れた、どんな物質でも柔らかくできる』」

 

柔らかくできる範囲は弾性のあるゴム状から不定形に近いレベルまで自在で、自らの体を柔らかくして当たった銃弾のダメージを軽減することもできる。

それに、時計などの機械を柔らかくしても機能は持続するから、機械とかに使えないなんて事は無い。

今、すずかが能力を発動させて木が形を保てなくなったのは、単純に柔らかくし過ぎたって事だ。

これも『戻れ』と念じれば、元の状態に戻る。

焦るすずかにそう説明してやると、すずかは大きく息を吐いて「良かったぁ……」と呟いた。

まぁ優しいすずかの事だから、木が可哀想とかそういう意味だろ。

 

「えぇっと……柔らかくし過ぎ無い様に加減して……」

 

と、さっそく能力の制御を始めたすずかは、恐る恐るとスパイス・ガールの拳を地面に当てる。

どうやら地面を柔らかくしているみてえだが……何するつもりだ?

すずかの行動の意味が理解出来なかったので見守る事にしていると、すずかは柔らかくした地面を足先でチョンチョンと踏みだした。

うん?柔らかさを確かめてるのか?

 

「うん、コレぐらいなら大丈夫かな?……えいッ!!」

 

そしてすずかにとって納得のいく柔らかさに出来たのか、すずかはその柔らかくした地面に向かって勢い良くジャンプし……。

 

ボヨォォ~~~ンッ!!

 

「うわぁ……ッ!?見て見て定明君ッ!!凄く跳べるよぉッ!!」

 

「な~る程。地面を柔らかくしてトランポリンみてーにしたって事か」

 

柔らかくした地面の反動で上空に飛び上がったすずかと会話しながら、俺は今の行動の意図を察する。

地面を柔らかくして飛び上がる……コレならスタンドの脚力プラスで結構遠くまで跳べるな。

やっぱすずかも秀才少女なだけはあるって事か……早くも俺の知らねえ活用法を思いついたとは。

地面と空を行き来しながら楽しそうにはしゃぐすずかを見て、俺も微笑ましい気持ちになってきた。

こーゆう平和的な事にスタンドを使うのも良いモンだな。

 

「うわっ。すずかってば何楽しそうな事やってんのよッ!!私も後で混ぜてよねッ!!」

 

「へぇ……地面を柔らかく……これも、かなり応用範囲がありそうな能力じゃない」

 

と、すずかの楽しそうな声が聞こえたのか、2人で練習してたリサリサとアリサが2人揃って近づいてくる。

まぁ普段から大人しいって雰囲気の出てるすずかがこんなに楽しそうにはしゃいでんだから、何事かと思うわな。

 

「アハハッ!!アリサちゃん、リサリサちゃん、すっごく楽しいよコレッ!!良~しッ!!もうちょっと柔らかくして……」

 

楽しそうに跳ね跳ぶすずかだったが、もう少し高く飛びたいらしく、彼女は空中でスパイス・ガールを呼び出して拳を構えさせていた。

まぁ今は訓練だし、すずかの遣りたい様にやらせ…………あれ?

 

「フフ。すずかったらはしゃいでるわね……どうしたの、ジョジョ?」

 

俺が顎に手を当てて「おや?」という表情で首を傾げてるのを見つけたリサリサが声を掛けてくる。

 

「いや、な……スパイス・ガールの能力で柔らかくなった地面に、スパイス・ガールの拳っていうかパンチを叩き込むのって……」

 

「それがどうかし……まさか?」

 

それって……つまり地面の柔らかさプラス反動、ソコにパンチの威力が加わるワケで……オイ。

俺と同じ考えに達したのか、側に居るリサリサも顔を引き攣らせている。

ヤベッ、早くすずかを止めねぇと……。

 

「いくよッ!!スパイス・ガールッ!!」

 

「オイ待てすず……」

 

しかし俺の静止の声はすずかの行動に一歩及ばず、すずかはスパイス・ガールの拳を地面に叩き込み……。

 

 

ビョォオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

 

悲鳴すら残さず、遥か上空までフライ・ア・ウェイしてしまった。

うおー。すずかが豆粒並の小ささになってるじゃねぇかー。ありゃ大分高い位置に……。

 

「キャァアアアアアアッ!!?す、すずかぁあああああッ!?」

 

「マズイわよッ!?あの高さじゃ一巻のお終いだわッ!!ジョジョッ!!」

 

「ンな事ぁ判ってるってのッ!!面倒くせえ事しやがってッ!!ザ・ワールドッ!!」

 

すずかが空に消えてから一拍遅れて、アリサの金切り声が辺りに響く。

その悲鳴にハッと意識を取り戻したリサリサの声に応えつつ、俺はザ・ワールドを呼び出して地面を思いっ切り蹴りあげる。

ザ・ワールドの果てしないパワーで蹴り上げられて生まれた推進力は、俺を遥か上空まで押し上げていく。

でも、まだすずかまでは遠い。

このままじゃ俺が地面に落ちるのが早まるだけだし……仕方ねぇ。

俺はポケットからエニグマの紙を取り出し、それを開かずに別の能力を使用する。

 

「もうそろそろか……『固定』しろッ!!『クラフト・ワーク』ッ!!」

 

俺の呼びかけに応じて、俺の背後から宇宙人の様な頭を持ったスタンド、『クラフト・ワーク』が現れる。

コイツの能力は、俺かクラフト・ワークが触れたものを好きな位置で『固定』する事が出来る能力だ。

その能力をエニグマの紙に使用して……。

 

「紙を空に『固定』すりゃぁよぉ~……『足場』が出来るって寸法だ」

 

空中に留まれる足場を造れば、そこで落ちてくるすずかを待つだけで良い。

尤も、足場つっても紙切れ一枚だから、精々足一本乗せるのが精々だが……。

 

「ついでにもう一枚、固定しとくか」

 

クラフト・ワークの能力は好きな数だけ固定が出来る。

これで何とか安定した足場が出来たな。

とりあえずの足場を確保した俺は、すずかが居るであろう上空に視線を向ける。

 

「――キャァアアアアアアアッ!!?」

 

「あーあー、盛大に叫んじまって……何やってんだか」

 

そして上空に視線を向けると、アリサと同じ様に悲鳴を上げながら落ちてくるすずかの姿があった。

遥か空高くまで飛び上がった事への恐怖で涙がメッチャ出てる。

さすがに生身でこの体験はかなり怖えだろうな。

実際、俺だって落ちたら只じゃ済まないけど、今はすずかを助けなきゃいけねえからンな弱気な事言ってらんねぇ。

まずは落ちてくるすずかを、衝撃が伝わらない様に受け止めてやらなくちゃな。

上空から重力を受けて猛スピードで落下してくるすずか。

俺はその光景を見ながら、冷静にタイミングを合わせ――。

 

「ザ・ワールドッ!!時よ止まれッ!!」

 

絶好のタイミングに重なった瞬間、自分以外の時間を全て止める。

そうする事で、絶賛落下中だったすずかの身体も停止した。

俺は直ぐにクラフト・ワークの効果が切れかけている足場から飛び出して、すずかにしがみついた。

とりあえずはこれで、時が動き出してもすずかに衝撃が伝わる事は無い。

後は時が動き出した後で行動するしかねぇ。

時が止まってる中じゃ、ザ・ワールドを解除して別のスタンドを出す事が出来ねえからな。

 

「時は動き出すっうおぉおおおおおッ!!?」

 

「キャァアアアッ!!?さ、定明く、キャァアアアアアッ!!?」

 

叫ぶか驚くかドッチかにしろってすずか。

とはいえ、時が動き出した瞬間に自分の身体へ掛かったGの強さには俺も驚いたが。

しかも、すずかが恐怖の所為で俺にこれでもかと力を強めて抱き着いてくるモンだから、体中が痛え。

案外馬鹿力なんだ、すずかって……兎に角、こっからは格好良く『飛行』して降りていきますか。

 

「……良し。もう大丈夫だ、すずか。今からは目ぇ開けとけ。こんな『飛行風景』そう拝めるモンじゃねぇぞ?」

 

「ひ、飛行じゃなくて落ちて……あれ?……風がキツくない?」

 

俺の暢気な言葉に叫んで反論するすずかだったが、その時既に風が収まってる事を不思議に思って冷静さを取り戻した。

しっかりと俺にしがみつきながら不思議そうな顔してるすずかに笑顔を見せて、俺は口を開く。

 

「偶には『パラグライダー』ってのも、乙なモンだろ?」

 

「わぁ……ッ!?そ、それもスタンドなのッ!?」

 

俺達の真上に居るスタンドを見て、すずかは目を輝かせて笑顔を見せてくれた。

俺が強い意志で呼び出したスタンドは、俺の真上で空中に『砂』が大量に集まり、巨大な『獣』を形作っている。

しかもその獣の顔は、インディアンの仮面の様なモノに覆われていて、頭頂部には羽が何本か取り付けられたデザインだ。

いよいよもってインディアンっぽく見えるが、その獣は巨大な前足で俺の脇に手を差し入れて固定してくれる。

本来後ろ足がある筈の足の付根からは、『支柱』の様な棒が何本も上に向かって伸び、その先で巨大な『翼』に繋がっていた。

その飛行翼を巧みに操り、風の気流に乗った獣は、スタンド使いにしか聞こえない『声』を咆哮する。

 

『――アォオオオオオオッ!!!』

 

「変幻自在。砂を操る、いや砂の具現化したスタンド『愚者(ザ・フール)』だ」

 

目を輝かせているすずかに笑顔で紹介しつつ、俺はザ・フールを操ってゆっくりと地上に向かって遊覧飛行を開始した。

そう、俺が呼び出したのは原作第3部で犬のスタンド使い、イギーの持っていたスタンドのザ・フールだ。

人間の俺が操ってるが、スタンドのヴィジョンは原作そのままで、大きさもかなりデカイ。

コイツのパラグライダーを使えば、長距離は無理でも100メートルは飛行できる。

尤も、今俺達が居るのは空の真上。

なら飛行距離は大分ある訳で、後はゆっくりと下まで飛行して地面に降りれば良い。

 

「やれやれ……かなり焦ったが、まぁ何とかなったな……大丈夫だったか?すずか」

 

「うん。定明君のお陰で、怪我もしてないよ……ごめんなさい、調子に乗っちゃって……」

 

「まぁ仕方ねぇさ。怪我がなけりゃそれが一番だろ?」

 

「でも……」

 

俺は良いって言ってんのに、それでもすずかは食い下がってくる。

やっぱすずかは謝り過ぎる所があるなぁ……まぁ、それがすずかの優しい所なんだけど。

俺を上目遣いに見詰めて謝るすずかに、俺は苦笑しながら口を開く。

 

「もう良いって。それより、こんな遊覧飛行は早々出来る事じゃねぇんだ。今はこの風景を楽しんでおけ。な?」

 

「……うん……ありがとう、定明君…………ン(チュッ)」

 

「ッ!!?すずか、お前今……」

 

俺の言葉にすずかがやっと笑顔を浮かべたかと思えば、次の瞬間には頬にキスされてた。

え?またですか?っというかホントにお前俺の事好きじゃねぇのか?

普通好きじゃねぇとキスなんかしねぇだろ?

ザ・フールに脇を支えられて、更にすずかを抱きしめる体勢だから、俺はすずかに驚きの眼差しを向けるしか無かった。

その眼差しを見て、すずかは頬を赤く染めながら言葉を紡ぐ。

 

「お、お礼だよッ!?私、定明君に、2回も命を助けて貰ったんだもんッ!!こ、これぐらいじゃお礼にならないかも知れないけど……」

 

(今は何も持ってないし……私のふぁ、ファーストキス……あげたかったんだもん)

 

言ってる途中で耐え切れなくなったのか、すずかは俺の胸に顔を埋めるぐらいに抱きついて黙ってしまう。

いや、まぁお礼っちゃお礼になっちゃいるんだが……俺どうしたら良いんだ?

やっぱリサリサとすずかって、本当に俺に惚れてんのか?……それとも本当に只のお礼なのか?

まだ俺達の年齢じゃ男女の好きまでは考えられねぇのが普通だと思うし……でもコイツら大人びてるからなぁ。

其処ら辺の境界が曖昧だし、これで俺に惚れてるなんて自惚れだったらオリ主君より痛い存在になっちまう。

……止めよう、考えるのは。素直にお礼として受け取っときゃ良いんだ。

そうすりゃ一々面倒くせえ事考えなくて済む、そうしよう。

無駄な考えを振り払って、俺はアリサとリサリサが待っているであろう庭の辺りに向けて、ザ・フールを操作していく。

 

 

 

 




はい。皆様に重要なお知らせです。

と、いうのも、この小説である一部分を改正しようと考えています。

それはアリサ・ローウェルのアダ名です。

Ayatakaさんから頂いた感想の『リサリサじゃ無いんだ』とうメッセージに、スタンドも月までブッ飛ぶ衝撃を受けてしまいました。

翌々考えれば、『アリサ』から『リサ』という文字とれるし、名付けた定明のジョジョというアダ名から『リサリサ』というアダ名はどう?という展開もアリ。
そして原作リサリサのクールな思考と言葉遣いは、今作でクールな天才少女を地で行ってるアリサ・ローウェルにはピッタリなんじゃ無いかと考えが及びました。
自分的には一度アリスという名をリサリサに全面改正しようと考えてる所存です。

以上で重要なお知らせは終わりですが、ディ・モールト・ベネ過ぎる名案とご提示下さったAyataka様に感謝をさせて頂いて、お知らせの終了とさせて頂きます。


Ayataka様、今回のアドバイス、誠に有難う御座いました。




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