鎌月鈴乃さんに変な属性をつけた話。(はたらく魔王様)   作:ほりぃー

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今回は少し短めです。あとこれはまおすずルートに入りました。

御気を付けください。あと「改名夢想」はわかリにくいとおもいますが、読んでくださればわかると思います。


属性3 改名夢想

 ああ、朝か。そう思いながら鈴乃は布団から身を起こした

 目を少しだけ擦るだけで鈴乃はぱっちりと目を開ける。表からは鳥の鳴き声が聞こえる、朝の静寂。ひんやりとした空気が彼女の頬を撫でる。

 鈴乃は布団からゆっくりと出て、部屋の窓を開ける。朝日が眩しい、今日もいい天気になりそうだった。鈴はゆっくりと目を閉じて、朝日からの暖かさを身に沁みこませる。それだけで心が洗い流されていくようだった。

「……今日は、バイトはなかったな……」

 呟きは小さい。誰に言うでもないからそれでいい。鈴乃は少し考えて、から布団を直そうとした。

鈴乃が布団に歩きより、その端を掴んだ。それは一晩寝たにしてはシワも少なく、清潔な白が陽に映える。これは彼女の几帳面な性格を表しているのだろう。

鈴乃はふと手を止めた。そして壁にかけてある、ものを見る。

それはメイド服。ブラウスとベスト、それに黒のスカートがかわいらしい鈴乃の制服。鈴乃はじっとそれを見ながら、あることを思いだした。

 

『あ、あーんごしゅじんさま』

 

 忌まわしい記憶が鈴乃を駆けめぐる。彼女の顔がみるみるうちに赤くなり、いきなり鈴乃は布団へ頭を突っ込ませた。そして布団を羽織って、中でもぞもぞと動く。

「あああああ……ぁ」

 布団の中から聞こえる、変な呻き声。整っていたシーツが皺を作っていく。鈴乃は足を動かし、手を動かし何かを振り払うように体を動かした。

 

『お帰りにゃさいませ! ごしゅじんさま』

 

「違うんだ! 真奥!」

 ばっと体を起こして、ここにいない人物への弁解を始める鈴乃。彼女はあたりを意味なく見回して、ふうふうと荒い息を吐く。

 正直なところ、これは何度目だろうか。あの忌まわしい日から何度も、何度も鈴乃はこの調子であった。実際、真奥に会うたびに睨みつけたり恥ずかしがったり、気まずかったたりと困ったことになっている。

「はあ」

 落ち着いてから鈴乃はため息をついた。この頃、変なことに不運が付きまとっている気がしてならない。財布を落とすは、真奥に変なところを見られるはと頭の痛くなることばかりだった。

「まったく……あの日から、だな」

 あの日。あまり覚えてはいないが、漆原に悪態をつかれてやけ酒をするなどと言う、聖職者にあるまじき行為をした日。それも悪魔達と酒宴をしたというのだから、余計に問題だった。

 そういえば、と鈴乃は思い出した。あの酒宴の次の日のことだ。

 酒臭い中で漆原や芦屋、そして真奥と鈴乃は一つ屋根の下に気絶するように寝ていた。最初に起きたのが自分でよかったと鈴乃は今さながら、安堵せざるをえない。

「…………ん?」

 鈴乃は何かに気が付いた。というよりも違和感を覚えた。彼女は顎に手を当てて、記憶を探った。違和感の正体を見極めようとしたのだ。実際にはしない方がいいのだが、彼女はそこに隠された「真実」を知らない。

 鈴乃は思い出す。

(あの日は。ルシフェルは変な格好で寝ていた。アルシエルは壁に寄りかかって寝ていた。……真奥は、私の目の前で寝ていたな……あれ?)

 そこで鈴乃は気が付いた。あの朝、目が覚めた時に鈴乃の目の前には真奥の影があった。それもたしか――。

(あああああああのときわたしはまおうにだきつくようにねてなかったか???)

 先ほどとは別の意味で顔を赤く染める鈴乃。頬を両手で包み、唇をかむ。理解できない記憶の光景に目を泳がせる。彼女は頭をふりつつ「違う、何かの間違いだと」また心の中で弁解をした。

 だが、覚えている。

 鈴乃が何度否定しても覚えている記憶が否定を否定する。どうあってもあの時の光景は真実だとしか考えられない。

 あの時、真奥は完全に寝ていた。彼が起きたのは鈴乃が起きたずっと後だ。と言うことは長い間、真奥と鈴乃は隣り合っていたと考えた方が自然である。

(な、ならなら私は、まままおうとひとばん添い寝をして、ててて)

 鈴乃の心が乱れる。今自分がどんな顔をしているのかがわからない。頭の中は真奥のことでいっぱい、と言えば乙女チックであるが少々違う。だが、鈴乃は困惑しながらもあることに気が付いていない。自覚はないが嫌悪を感じていないのだ。

「た、たしかめ……たしかめよう、あの日何があったかを……」

 鈴乃は激しくなる胸の鼓動を抑えながら、決意を固めた。今日の朝がこれから始まる奇妙な2日間の始まりでもあり、ここ数日の珍妙な事態の終わりでもある。

 

 

 

「真奥。弁当だ」

 取り澄ました顔で鈴乃は真奥に弁当を渡した。

「サンキュー、たすかるぜ」

 真奥は軽く礼を言って鈴乃の渡した黒縁の弁当箱を手に取る。そうやって脇からだしたスーパーの袋にそれをいれると玄関から飛びだして行った。彼は朝早くからアルバイトがあったのだ。

 ここは鈴乃の部屋の隣。いつもの魔王城である。部屋の中には寝転んだまま、足をぶらぶらとさせている漆原と何かの帳簿をつけている芦屋が居た。鈴乃は台所に立って、手を洗う。彼女の格好は前掛けに頭頭巾。

「さて、真奥は行ったな……」

 手をふきながら鈴乃は冷静な声で言う。その実さっきから心臓がうるさいぐらい鳴り続け、手汗が出て仕方ない。そもそも真奥の顔を見た瞬間、変な声を出しそうになって危なかった。

「もうこんな時間か……」

 そういいながら立ち上がったのは芦屋だった。ぴくりと漆原と鈴乃が反応する。それぞれ別の思惑を持っていた。

「さっき言っていた、朝の特売にいくのか?」

 鈴乃は声が上ずらないように慎重に芦屋に聞いた。芦屋は頷いてから言う。

「ああ、午前10時から商店街のスーパー始まるからな。もう出ねばならない。……すまない,鎌月さん。今日は炊事を任せきりにしてしまって」

 そういって芦屋は鈴乃に頭を軽く下げた。家事をしてもらったからお礼を言うなど悪魔として大丈夫なのだろうかと鈴乃は思う。そもそも今は午前8時。あと二時間はある特売の時間に何故今行くのだろう。

 鈴乃は疑問がいくつか浮かんだが、全てのみ込んだ。今は芦屋にいられたら困るのだ。

 鈴乃はあの日のことを聞くことを朝からずっと考えていた。だが真奥自身に聞くなど言語道断。恥ずかしくていやだ。次に芦屋だが、魔界一の智将である彼に聞けばうまくはぐらかされる可能性が高い。残るはあほの漆原。尋問するには奴しかいなかった。

 だからどんな事情にしろ芦屋が居なくなるのは鈴乃にとって好都合だった。彼女は頭を下げる義理堅い悪魔に苦笑しつつ、優しく声をかける。

「気にする必要はない。まえに酒宴にさそって……いや、隣のよしみだ」

 今、口を滑らせそうになった。鈴乃は冷や汗をかいたが、芦屋は再度礼を言うと、エコバックを持って、アパートを出て行った。

 

(本当に、悪魔だろうか)

 何度思ったか知らない疑問をまた、鈴乃は思う。エコバックをなどと言う環境に配慮したものを悪魔が所持しているだけでおかしいのに、スーパーで普通に買い物をしに行く芦屋は奇怪な存在としか言いようがない。

「暴れられるよりも……ましだろう」

 そういって鈴乃は自分を納得させる。この答えも考えたのは数か月も昔のこと。それだけこの疑問を鈴乃は繰り返していた。

「ねーベル」

 漆原が鈴乃に話しかける。ベルとは鈴乃の本名だ。

「なんだ、ルシフェル」

 鈴乃はじっと常時だるそうな顔をした漆原に聞き返した。よくよく考えれば、今聞くのがベストなのだがどうも言い出せない。

(あっ、そういえば、どう聞きだせばいいだろうか?)

 鈴乃は悩んだ。まさか「真奥と添い寝していたのだが、何があった」などとは口が裂けても言えまい。

「ベル? なんか顔が赤いよ?」

「はっ、い、いやなんでもないぞ!」

「そっそう」

 漆原の言うとおり、頬をほんのり染めた鈴乃は手を大きく振って否定した。その仕草から、何かあると感づいた漆原だが「まあ、いいか」とながした。

「なんかさー。宅急便が届いたら、ぼくがでるから。気にしなくてもいいよ」

「?……ああ、承知した」

 何故そのようなことをわざわざ自分に言うのかはわからないが、鈴乃は何となく頷いた。鈴乃はごほんと咳払いをする。そうしてから睨むように漆原を見てしまった。

「な、なに?」

 困惑した顔で漆原は身を下げる。多少怯えているのは酒宴の日に「酒乱」に襲われたからだろうか。鈴乃ははっと漆原が下がったのに反応した。少し頬に入った力を抜いて、彼女は表情を緩める。

「いや、なんでもない」

 なんでもないわけないのに鈴乃は言ってしまった。それを聞いて漆原は逃げるように、部屋の隅へ行ってしまった。そうしてからパソコンの電源をつけて、ヘッドホンを耳につける。

 完全にタイミングを外してしまった。鈴乃は去っていく、漆原に手を出して止めそうになったがすぐに下げた。今は、まだ。などと自分が聞かないことを正当化してしまった。

 

 台に雑誌を開いて鈴乃は読む。彼女の姿は前掛けや頭巾はとり、簪を刺したサイドテール。

鈴乃の前で漆原はネットサーフィンをする。完全にニートの息子と主婦の構図だ。だが鈴乃は真奥の部屋にあった雑誌を広げてはみたものの頭に入ってこない。さっきから漆原に声をかけるタイミングを計っては、言い出せない。

 その漆原はヘッドホンをしているから、生半可な声では反応しない。それに鈴乃は彼に近寄って聞くのも恥ずかしいから何の進展もなかった。

 コンコンと扉を叩く音がした。鈴乃は振り返ると扉の向こうから、「宅急便でーす」と間延びした声が聞こえた。鈴乃は漆原を見たが、彼は全く気が付いていない。気にするなとは言われたが出ないのも失礼だろうと鈴乃は立ち上がった。

「おまたせした」

 鈴乃が扉を開くと、青い服を着た男が居た。その手には少し大きめの段ボールが抱えられている。漆原が待っていたものだと鈴乃は思うが、よく考えたら彼に支払能力があるとは思えないから真奥のお金で買ったものだろうと鈴乃はあきれた。

 宅急便を持ってきた男は出てきた和服の女性に一瞬驚いた。だが直ぐに笑顔になる。なかなかに「慣れた」男らしい。

「えっと。真奥様のお宅でお間違いなかったですか?」

「ああ、間違いない。先に荷物を預かろう」

「ああ、すみません。重いので気を付けてください」

 男は鈴乃にゆっくりやさしく荷物を渡す。鈴乃はその心遣いに好感を持ちながら荷物を受け取ると横の流し台の上に置いた。男はまたにこやかにしながら、胸のポケットからペンを取り出した。そして右手に持った伝票を鈴乃に出す。

「じゃあ奥さん、ここにサインをお願いします。あっ、カタカナかひらがなで『まおう』で大丈夫ですよ」

「承知した。ここだな」

 さらさらと鈴乃は「まおう」と伝票にサインする。そこで気が付く。「奥さん」だと。

「ちょっ、ま――」

「ありがとうございましたー」

 にこやかに爆弾を投げて去っていく男。鈴乃は靴もはかないまま、外へ飛び出しそうになった。だが足をもつれさせて、流し台に手を突くことしかできなかった。

「…………」

 真奥鈴乃。

「にゃあああああああああ?!」

 変な想像をして鈴乃は奇声を上げた。猫みたいな声は仕事癖と言っていいかもしれない。その声に漆原は後ろを向いた。

「な、なんなの? 今の、てっ荷物とどいてんじゃん」

 一瞬で鈴乃から興味を無くした彼は荷物に駆け寄った。テープで蓋が閉められているダンボールを力任せにあけていく漆原。とりあえず引っ張って開ける。鈴乃はその姿を恨みがましく見るが彼女は、部屋の中に戻ると、本棚に置いてある小さな箱からカッターを取り出す。なにがどこにあるのかわかっているのがどういうことなのか、鈴乃は気が付かない。

 自分が荷物をとるようなことを言っていた漆原だが、彼は鈴乃が宅急便を取ったことを気にしていないようだった。

「ルシフェル。これで開けろ」

 漆原の横に膝をついて、カッターを渡してやる鈴乃。「さんきゅー」と軽い口調で漆原はそれを受取った。そしてあける。

 中には梱包されたゲームを中心に漫画などが入っていた。それだけではなく、トランプや知恵の輪などという無駄なグッズも入っていた。鈴乃はまた呆れながら聞く。

「な、なんに使うんだ」

「えっ? 持ってたら便利じゃん」

 持っていたら便利。特に目的意識のない買い物を散財と表現するが、まさにそれだった。

「……………」

 箱の中から出てくるガラクタ。適当にネットの販売サイトをクリックしたとしか思えない統一性のないものたち。鈴乃は一緒に入っていた伝票を手にとって、羅列された商品名を眺めていた。

(こんなに買って。また真奥達に怒られるのだろうな……)

 そこでふと、思いついた。

「……ルシフェル」

「んーなにー?」

 「オセロ」と書いてある箱を見ながら漆原は反応する。鈴乃は伝票を握りしめながら、ごくりと唾をのんだ。彼女は決意を固めた。彼女の掴む一枚の紙切れが、後押ししてくれた。

「幾日か前の酒宴の夜……何があった?」

 前置きなく、短刀直入に聞く鈴乃。そして目を見開く漆原。心の中で「なん……だと」とつぶやく彼のネット脳。だが驚愕しているのは本当だった。

「さ、さあ」

「…………」

 無言で漆原に伝票を見せる鈴乃。言わなければばらす。そう漆原には聞こえた。口に出さないのは、恥ずかしさが残っている証拠。それは朝の「添い寝」の件に触れないのことに現れていた。

 汗が出る。漆原の背中に冷たいものが流れていく。

 そもそも漆原にとって、あの夜のこと「鈴乃と真奥がキスしてたー」なんてどうでもいいことだった。だが彼はそれを言うわけにはいかない。なぜなら、それを秘密にする代わりに禁止されていたゲームやパソコンをする権利を守ったからだ。もちろん漆原がしゃべれば、明日からは無味乾燥なニートライフが待っている。それはいけない。

 しかし、漆原は言わなければならない。なぜなら真奥や芦屋に秘密で買った目の前のグッズがばれようものなら、地獄を見るのは明らかだ。

 前門の芦屋、後門の鈴乃。漆原は絶体絶命の危機に陥っていた。よくよく考えれば1から10まで自業自得なのだが、そんなことを考えるほど堕天使ニートは甘くない。パソコン、ゲームをやり放題かつ目の前の商品を守りと通さねばならない。

「ルシフェル……?」

 怪訝な顔で聞く鈴乃。漆原があまりに何も言わないので、そこに重大な「秘密」があると想像してしまった。だがそれが「何」か、は彼女にはわからない。それがわからないから不安が大きくなってしまう。

「おい、ルシフェル」

 口調が強くなった。鈴乃は漆原の肩を掴んだ。ぎょろりと漆原の目が鈴乃を向く。

「な、なん……だ」

 あまりに奇妙な動きに鈴乃は引いた。精神的にも、肉体的にも。漆原はじっと鈴乃を見ながら言う。こいつを、だまらせないと優雅な生活が、危うい。殺気にすら見える漆原の怠惰への欲求。

「勝負だ……」

「はあ?」

「僕にしゃべらせたいのなら、これで勝負だよ、ベル!」

 ばっと漆原は手に持ったオセロの箱を鈴乃に見せる。彼女は一瞬困惑したが、つまるところ勝負をして勝てば話すと言っているらしい。見れば単純なボードゲーム。漆原相手になら負けないだろう。

 鈴乃は漆原の心の葛藤を知らない。窮鼠猫を噛む、とはいうが勝手に追い詰められた漆原もそれにあたるのだろうか。鈴乃はうんと頷いた。さっさと終わらせて、彼の口を割らなければならない。

 血走った目で鈴乃を睨む漆原を、鈴乃は見くびった。

 

 

 

 




これがやりたかったんや。短くしたのはそのためです。

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