ちょっとだけ生活にも慣れてきたので、投稿します。
ただ、久しぶり過ぎて内容が微妙かもしれませんが。。。
しかし、それでも読んでくれる方は楽しんで頂ければ幸いです。
では、どうぞ。
――フェイトが過去と向き合っていた頃、同じように《闇の書》へと吸収された祐一は未だ暗闇の中を彷徨っていた。
(勇んで挑んだというのに、この体たらくとは……)
祐一は自身の現状を考え、心の中で悔しげに思う。
そんな風に考えながら、祐一は別れてしまった三人の少女の姿を思い浮かべた。
(なのはは、まだ戦っているのだろうか……?)
祐一とフェイトが《闇の書》に吸収されてしまい、まともに戦闘ができるのはなのはだけとなっているはずだと、祐一は思っている。
祐一、フェイト、そしてなのはの三人同時に戦ってもなお押し切れなかった相手に、今、なのはは一人で戦いを挑んでいる。そう思うと、自分のあまりの不甲斐なさに、自分を殴りつけてやりたくなってきた。
(いや、今はそんな無駄なことに労力を使うべきではない)
しかし、すぐに祐一は冷静に考え、それは無駄なことだと考えを改めた。
(フェイトは俺と同じような状況になっているのだろうか……)
心優しき金色の髪をした少女の姿を、祐一は思い浮かべた。
《闇の書》に吸収されそうになったフェイトを助けようとして、祐一はその間に割って入ったが、それも徒労に終わり、結局フェイトと祐一が二人とも吸収されるという最悪の結末となってしまった。
そのため、祐一とフェイトは似たような状況となっているはずだと、祐一は考えていた。
(フェイトもここからの脱出方法を考えているはずだ。それに俺も早くこの状況を打開しなければ、戻ってみたら全て終わっていたなど、笑い話にもならん)
そうしてしばらくの間、この状況を打開するためにどうすればいいかを頭の中で考えてた。……が、結局は何も思い浮かばなかった。
(そもそも意識のみがはっきりしているだけで何もできないこの状況では、如何ともしがたいか……。いや、相手が何かアクションを起こしてくればなんとか……)
そう祐一が考えていると、暗闇から引っ張られるような感覚があった。それはまるで夢から覚めるような感覚だった。
(……さて、鬼が出るか蛇が出るか。どちらにしてもただでは返してくれないのだろうな)
祐一は意識の中で気合いを入れ直す。
(フェイト、なのは、そしてはやて……無事でいてくれ)
思考がクリアになっていく中、祐一は別の場所で戦っている少女たちにエールを送った。
◆
――ゆ……い……――
(……誰か、いるのか?)
まどろむ意識の中、祐一は僅かに誰かの声が聞こえるのを聞いた。
――ゆ……う……い……――
(また、か。俺を呼んでいるの、か……?)
少しずつ意識がクリアになっていくのを祐一は感じていた。
――ゆう……いち……――
どうやら、自分のことを呼んでいるようだと祐一が思ったと同時に、この声に懐かしさを感じた。
(……まさか、この声は……)
聞こえてきた声を聞き、
(……いるはずがない。分かっているだろう、黒沢祐一。"彼女"は俺の目の前で亡くなったのだから……)
しかし、と祐一は段々とクリアになっていく頭と次第に動かせるようになってきた手を声が聞こえてきた方へと伸ばす。
もし、"彼女"に会えるのならば、もう一度会いたいと思っている自分がいることに祐一は気付いていた。
だからこそ、"彼女"の声が聞こえる方へと、祐一は手を伸ばし続ける。
(だが、もしも、もう一度、お前に会えるのなら、俺は……)
祐一は手を伸ばし続け、そして――
伸ばしたその手をふわりと別の誰かの手に包み込まれたのを感じた。それと同時に祐一の意識はクリアになっていき、ゆっくりと目を開ける。
「いい加減起きなさいよね、祐一」
祐一に苦笑気味に声を掛けたのは、漆黒の長髪がよく似合う、まだ女性というには若すぎる美しい少女であった。
その姿を祐一はよく知っている。
「ゆ、雪、なのか……?」
「……珍しいわね、祐一がボケてる」
祐一が驚愕の表情でそう言葉を口にすると、黒髪の少女――七瀬雪はおかしそうに笑みを浮かべた。
そんな雪の姿を見て、祐一は反射的に彼女を抱きしめた。
「わわっ!? ゆ、祐一、どうしたのよっ!?」
そんな祐一の突然の抱擁に、雪は頬を赤く染めながら祐一へと声を掛けるが、祐一はそれでも雪を強く抱きしめた。
「祐一……?」
「…………」
雪は祐一の名前を呼ぶが、祐一は何も答えず、雪を黙って抱きしめていた。
そして、雪もそんな祐一に観念したのか、何も言わずに祐一の背中に腕を回し、子供をあやす様に祐一の背中を優しく叩いた。
◆
「落ち着いた、祐一?」
「……ああ。みっともない姿を見せてしまったな」
「ふふ、別にいいよ。祐一のこんな姿を見ることもないだろうしね」
そう微笑みを浮かべながら話す雪を見て、バツが悪そうに祐一は頬を指で掻いた。
しばらくの間、祐一と雪は黙っていたが、祐一が真剣な表情を浮かべながら口を開いた。
「……ここは、《闇の書》が俺の思い出から作り出した仮想の世界――そういうことだな?」
自身を見つめながら口を開いた祐一を見つめ、雪は僅かに笑みを浮かべた。
「ホント、変わらないわね。すぐに核心をついてくるんだから、祐一は……」
「面白みのある人間ではないからな、俺は……」
「そういうことを言ってるんじゃないんだけど……まぁ、いっか」
雪は笑みを浮かべながら、続けて口を開く。
「そう。ここは《闇の書》が作り出した仮想の世界。見えている風景もそうだし、この私もこの世界だけで見えている一種の幻覚ってわけ」
「俺のリンカーコアを吸収したから、か……」
そう、と雪は祐一の言葉に頷きを返した。
「相変わらずだね、その理解力の高さは。祐一の想像通り、この仮想世界を形作っているのは、あなたの記憶。だから、今、ここにいる私も七瀬雪であって、七瀬雪じゃない」
僅かに、雪は悲しげに表情を歪めた。
「……そう、か」
祐一もそれはわかっていた。だからこそ、すぐにこの世界は仮想――いや、幻想だと断定したのだ。
しかし、それでも、祐一はこの世界が幻想だったとしても、七瀬雪に会うことができて嬉しかった。例え偽物だったとしても、雪が悲しげな表情をしていることが祐一には辛かった。
だが、祐一にはやることがある。祐一を待っている少女たちがいるのだ。
「……俺は、現実に戻らなければならない」
「……そう。私は七瀬雪じゃないかもしれないけど、この世界でならいっしょにいられるよ? それでもいくの? そんなにあの子たちが大事なの?」
「なのはとフェイトは地球、ひいては大事な人たちを守るために戦っている。はやても今は囚われているが、優しい子だ。こんなところで終わっていい子じゃない」
祐一は拳に力を入れながら言葉を紡いでいく。
「……確かに、お前がいるこの世界は俺が求めていたものがあるのかもしれない。だが、それでは未来に進んでいない。あの子たちが未来に向かっているのに、俺がこのままここで立ち止まるわけにはいかないんだ」
祐一の言葉を聞き、雪は少しの間目を閉じ、ゆっくりと目を開くと静かに口を開いた。
「……あなたの気持ちはよくわかったわ」
そう言葉を口にする雪の瞳はじっと祐一を見つめていた。
「ならば――」
「だけど、
「……できるできないじゃない。やらなければいけないんだ」
雪の言葉に、僅かに祐一は表情を歪めた。
そんな祐一を見ても、雪は表情を変えずに言葉を続ける。
「そう。なら、なぜ祐一は
「……っ……違う。俺は、本気だ」
「嘘。祐一が本気ならこんなに簡単に《闇の書》に吸収されることもなかった。それに、八神はやてちゃんもこんなことにはならなかったはずだよ」
雪の言葉に祐一はなのはたちの前では見せない表情を浮かべていた。
悔しげに表情を歪めていたのだ。その表情から雪の言っていることは間違っていないと推測できた。
そんな祐一の表情を見て、雪は悲しげな表情を浮かべた。
「……まぁ、でも、あなたをそんな風にしてしまったのは、他ならない私のせいなんだけどね」
「違うっ! 今の俺がこんな風になってしまったのは、俺が至らなかったからだ。決して雪のせいではない」
「そうかもしれない。……だけど、
祐一が今のようになってしまったのは、雪が亡くなってしまったからだ。
雪は祐一が変わってしまったのは、自分のせいだと感じていた。だからこそ、今の祐一では《闇の書》に勝つことはできないと、雪は感じていた。
「今、現実世界に戻っても、今の祐一じゃ勝てないよ」
だから、と雪は静かに息を吐き、眼差しを鋭くし、静かに告げる。
「――現実世界に戻っても祐一が苦しむだけだから、ここで私が終わりにしてあげるよ」
「なっ!? ふざけているのか、雪」
「ふざけてないよ。それに私は七瀬雪だけど、今は《闇の書》に作られた存在だから、その恩も返さないといけないしね」
「……俺を殺すのか?」
祐一の言葉に雪は首を横に振った。
「私が
雪はそういうと右手の人差し指を立て、祐一へと向ける。
「私と祐一が模擬戦をして、勝った方の言うことを一つ叶える、というのはどう?」
「聞かれても俺に選択権はないんだろう?」
「あら、ばれてたか」
雪は少しだけいたずらっぽく笑みを浮かべた。
そして、しばらく笑みを浮かべた後、またすぐに真剣な表情へと戻った。
「さて、じゃあ、早速始めましょうか。といっても、ここじゃあ戦えないから、場所を変えましょう」
今、祐一と雪がいるのはかつて祐一が使用していた部屋であった。流石にこんな場所で戦闘は考えていないのか、雪はおもむろに立ち上がると、右手の指をパチンと鳴らした。
すると、祐一たちがいる場所が急に変化した。
「……ここは、管理局にいた頃使っていた修練場か」
「そうだよ。やっぱり、私たちが戦うならここじゃないとね」
この場所は祐一が言うとおり、二人が管理局にいた頃によく模擬戦を行っていた場所であり、二人にとっては縁のある場所だった。だからこそ、雪はここを選んだのだ。
雪は体の動きを確かめるように、体をほぐしていく。
「さて、心の準備はいいかな、祐一」
「……ああ、もう覚悟は決めている」
そういう二人の表情は対照的で、雪は不敵な笑みを浮かべており、まだ余裕の表情であるのに対し、祐一は覚悟を決めたからなのか、僅かに表情が強張っており、いつもの余裕は感じられなかった。この姿をもし、なのはたちが見ていたら驚愕していただろう。
そして、二人はバリアジャケットを身に纏う。
祐一の視線の先、目測で五メートルは離れた場所に立つ雪の姿は真紅のバリアジャケットを身に纏っていた。デザインは所々祐一のものと似ているところもあるが、遠目でもわかるほどに目立つ格好だった。
「ふふ、この格好も久しぶりだな」
雪はそう言いながら、自身が身に纏ったバリアジャケットを撫でながら僅かに笑みを浮かべた。
そして二人は同時に自分たちが持っていたデバイスを手元へと呼び出した。
祐一はいつもどおり、紫色の騎士剣型デバイス《冥王六式》であるのに対し、雪のデバイスも同等のものであった。
「……
「使わないっていうか、
「そうか、そうだったな」
雪の言葉を聞き、祐一は静かに言葉を返した。
「まぁ、気にしなくていいよ。模擬戦のルールはわかってると思うけど、現状もてる全ての力を出し切ってOKだから」
「ああ、わかってるよ。昔と同じルールだからな」
祐一の言葉を聞き、雪は一つ頷きを返すと、今までから顔つきが変わった。
「さて、お話はここまでだよ、祐一」
「……ああ」
祐一は雪から発せられる覇気を感じ取り、騎士剣を持つ手に力を込めた。
それを見て、雪は騎士剣を両手で持ち斜め下に構えた。
「――元管理局所属、七瀬雪、一等空尉」
「――元管理局所属、黒沢祐一、二等空尉」
二人で静かに名乗りを上げ、
「いくわよ、祐一!」
「こい、雪!」
《紅蓮の魔女》と《黒衣の騎士》の戦いの火蓋が切られた。
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