では、どうぞ。
祐一達は模擬戦が終わった後、シャワーを浴び汚れを落としてから食事を済ませた。
フェイトとアルフは流石に祐一との模擬戦は疲れたようで、食事を終えると、眠そうにしながら部屋へと戻っていった。
――そして、今、祐一はリニスと二人で話をしているところであった。
「そうですか。……もう私達がフェイトに教えることは、ほとんどないようですね」
「ああ。一通りの魔法も教えてあるし、勉強の方もリニスが上手く教えてくれたからな」
祐一は今日の模擬戦の話とそれを踏まえた上でのフェイトのことをリニスと話し合っていた。
「本当にフェイトはすごいですね。私達の予想を超えて、ここまで早く一人前になってしまうなんて――そんな娘が私達の教え子なんて、とても誇らしいですね」
リニスが嬉しそうな、それでいて少しだけ悲しそうな表情で話をする。そんなリニスの言葉に祐一は笑みを持って答える。
「そうだな。本当にすごい娘だよ、フェイトは……」
祐一とリニスは笑いながら、ここにはいないフェイトを褒め称えていた。
そんな中、リニスが少しづつ表情を曇らせていく。そんな表情をするリニスに祐一は声を掛ける。
「……リニス、大丈夫か?」
祐一の言葉にリニスは曇っていた表情を戻し、慌てたように言葉を返す。
「あっ、いえ。本当はもっと喜ばないといけないんですけどね。……あ、嬉しくないわけじゃないんですよ? フェイトが一人前になってくれて、私はとても嬉しいです。ただ……」
リニスはそこで言い淀んだが、一呼吸を置いた後、話を続ける。
「ただ、フェイトが一人前になってしまったので、私はそろそろ消えなければいけません。……それが……少し寂しいです」
リニスは苦笑していたが、それは今にも泣き出しそうな表情をしているように、祐一は感じた。
(使い魔であるリニスは、プレシアさんとの契約により生み出された存在。――その契約は《フェイトを一人前の魔導師に育てること》――)
フェイトが一人前の魔導師となった今、リニスは役目を終え、消えてしまうということを意味する。
(使い魔だから役目が終えたら消えてしまうのは仕方ない。……だが……)
祐一が黙っていると、リニスが少しだけ明るい声で話を続ける。
「契約なのでそれは仕方がありません。私がいるとプレシアへの負担も大きくなりますしね。フェイトのデバイスが完成したら私は消えようと思います」
明るい声で話すリニスの表情は――寂しげで、それでいて達観しているように祐一には見えた。
「……そうか。それで、フェイトのデバイスはいつ頃完成するんだ?」
「明日には完成すると思います」
そうリニスは告げる。つまり、明日、リニスは消えてしまうということであった。
(本当にこの世は儘ならない。――本当に、儘ならないな)
そう祐一は心の中で反芻し、悲しい思いをしているリニスに、何もしてやることの出来ない自分の力の無さを恨んでいた。
ここに来た時には依頼であるから仕方なくといった面が大きく、祐一はそこまで干渉するつもりもなかった。
だが、自分を慕ってくれているフェイト、喧嘩っぱやいが優しい一面もあるアルフ、自身の主とフェイトとの板ばさみに苦しみながらも二人を大切にしているリニス、娘を助けるために自身を傷つけ続けているプレシア。
いろんな問題を抱えている家族ではあったが、それでも祐一はここでの暮らしは心安らぐものであった。
だからこそ、リニスが消えてしまうという事実と、何も出来ない自分自身を呪った。
祐一はそんな考えを頭から振り払い、務めて冷静な声でリニスに声を掛ける。
「――そうか。とりあえず、今からプレシアさんにフェイトのことを報告をしにいこう」
「そうですね」
祐一とリニスはそのまま、プレシアの部屋に向かう。
その道中で祐一は何か思い出したのか、リニスへと声を掛ける。
「リニスは何か願いはないのか? 欲しい物とか、やりたいこととか」
「願いですか? 急にそんなこと聞いてくるなんて、どうしたんですか?」
リニスは祐一の問い掛けに首をかしげながら質問を返す。
祐一はいや、と首を振り話を続ける。
「ここまでフェイトを育て上げたんだ、何か願っても罰は当たらないだろう。プレシアさんに何か願いがあれば言ってみたらどうだ? 俺でも構わないが……」
祐一の言葉にリニスはう~んと、顎に手を当て考え始める。
「そうですね。確かに、願いならありますね」
リニスは考えるのを止め、何かを思い付いたのか笑顔で祐一を見つめる。
「今からプレシアに報告ですし、丁度いいですね。その時にプレシアに願いを言おうと思います」
「そうか。プレシアさんもリニスの最期の願いなら何でも叶えてくれるだろう」
「祐一への願いは考えていなかったので、また考えておきますね?」
そう笑顔で話すリニスに祐一は苦笑を返す。
そんな話をしている内に、二人はプレシアの部屋に到着した。
「リニスです。入ってもよろしいですか?」
「入りなさい」
リニスの言葉に扉の向こう側からプレシアの低い声が聞こえてくる。
祐一がリニスに続き部屋へと入ると、研究資料を見つめているプレシアの姿がそこにあった。自身の研究とフェイトが産まれた意味をリニスに打ち明けてからというもの、プレシアはさらに研究に没頭するようになり、病状は悪化の一途を辿っていた。
リニスと祐一の説得もあり、食事などはキチンと取るようにはなっているが、それでも体調は回復することはない。
「失礼します」
「失礼します、プレシアさん。教育の報告に来ました」
「ご苦労様。……で、フェイトの方はどうなの?」
プレシアの言葉に祐一とリニスは手短に内容を報告していく。
「正直、フェイトには驚かされます。まさか、こんな短期間で全てこなしてしまうとは」
「そうですね。とても立派ですごいことだと思いますよ」
「そう。……それは何よりね」
二人のフェイトの賛辞にもプレシアの返事はそっけないものであった。
そんな態度にリニスは少しだけ悲しそうな表情となり、対する祐一は少し眉を動かす程度であった。
二人の反応を知ってか知らずか、プレシアは話を続ける。
「それで、フェイトのデバイスはいつ完成するの?」
「明日には完成しますよ」
「そう。……なら、早く完成させてしまいなさい。……そうすれば、あなたも消えて私の負担も軽くなるわ。あなたのような優秀な使い魔を維持するのも楽じゃないのよ」
「わかっています。ただ、最期に願い事を一つだけ叶えてもらってもいいでしょうか?」
「……何? 言ってみなさい」
リニスの言葉にプレシアは資料から顔を上げ、少々驚いた表情でリニスに言葉を返す。
リニスが面と向かってはっきりとお願いを言ってくることは、プレシアにとっても初めての経験であった。
良くも悪くも、リニスは優秀な使い魔であったため、主人であるプレシアに対して願いなどは言ってきたことは無かったのだ。
(――いいえ、一度だけあったわね。――リニスが私にお願いをしてきたのは――)
プレシアは心の中で否定する。
確かに一度だけではあるが、リニスは本気でプレシアに願いを言ってきたことがあった。――それは――
(――"フェイト"のことを見てあげてください、だったかしら)
リニスはフェイトのことになると、少しだけ過剰な反応を示していた。
自分の代わりにフェイトの世話をさせ育たせてきた、いわばフェイトのもう一人の母親といっても過言ではない存在がリニスであった。
プレシアの目から見ても、リニスとフェイトはもはや親子であると言っても過言ではなかった。
(――本当にこんな主によく仕えてくれたものね。だからこそ、最期の願いぐらいは聞いてあげなくてはね)
心の中でそう思い、プレシアはリニスの言葉を待つ。
そして、リニスはゆっくりと口を開いた。
「――フェイトと一緒に食事をしてもらえないでしょうか? よければ祐一やアルフも一緒に――」
リニスの言葉にプレシアと祐一は驚きの表情を隠せなかった。
「――それが、あなたの最期の願いだというの?」
プレシアの表情は戻ってはいたが、その声からは動揺が感じられる。
そんなプレシアを気にすることもなく、リニスははっきりと告げる。
「ええ、そうです。今の私にとって、これが最も叶えて欲しい願いですから」
「リニス――お前は」
思わず呟いてしまった祐一を、リニスは一瞬だけ笑顔を向ける。
そんなリニスの表情を見た祐一は、久しく感じていなかった動揺を味わった。
(それほどまでに、フェイトのことを想っているのか――リニス――)
祐一は久しく、これほどの強い想いを見たことはない。一般的な家庭ならばたかがと言っていいような願いを、自身の最期の願いにしてしてしまうような優しい女性であるリニスに、ある種の尊敬すら覚えてしまうほどであった。
「では、明日の夕食を皆で楽しみましょう。祐一もよろしくお願いしますね?」
「ああ、了解したよ」
「プレシアも約束ですからね?」
「――ええ、それがあなたの最期の願いなのなら、ね」
「はい」
プレシアの言葉にリニスは笑顔で頷く。
そして話は終わったと言わんばかりに、プレシアは視線を資料へと戻すのを見て、祐一とリニスは部屋を出て行こうとした。――そのとき、
「――明日は、楽しみにしているわ、リニス」
二人の背後から小さな呟きではあるが、プレシアの声が聞こえてきたのだ。
「っ!?」
その呟きを聞いたリニスは振り返りプレシアを見るが、プレシアは資料から顔を上げてはいなかった。
「ごめんなさい。さぁ、行きましょう、祐一」
「ああ」
そう言葉を口にするリニスに、祐一はそう言葉を返す。
祐一がちらりと見た先――リニスの頬からは一粒の涙が流れていた。
――翌日――
祐一はいつものように日課であるトレーニングを行い、軽く汗を流した。
フェイト達には今日のトレーニングは休みということを伝えていたため、夕方までの時間はゆっくりと過ぎていった。
――そして、約束の時は近づいてきた。
今はリニスがフェイト達を呼びにいっており、祐一とプレシアが席に座って待っているところであった。
テーブルには、いつもとは違いリニスが腕によりをかけたのであろう、おいしそうな料理がところ狭しと並べられていた。
しばらく黙っていたが、祐一がプレシアに声を掛ける。
「きっと、フェイトはプレシアさんとこうやって一緒に食事が出来てとても喜びますよ。プレシアさんはどうですか?」
「私は別に何も感じないわ。……リニスの最期の願いだから、仕方なくよ」
プレシアの態度に祐一は苦笑を返す。
「一緒に食事するだけではなく、ちゃんとフェイトと話をしてくださいよ?」
「……ええ、善処するわ」
二人が話をしていると、フェイト達がやってくるのを祐一は気配で感じた。
(さて、フェイトはどんな顔をするのだろうな。――願わくば、素敵な家族の団欒になるように祈るとしよう)
祐一が祈るのと、フェイト達がやってきたのはほぼ同時であった。
――リニスの最期の願いが今、叶えられる。
side リニス
今、私の目の前では久しぶりに親子が対面する姿を見ていた。
「――フェイト、久しぶりね」
「か、母さん……」
プレシアの表情は相変わらずの無表情であり感情は読めないが、私との約束は守ってくれているようなので、少しホッとした。
一方、フェイトはこの状況が飲み込めていないのか、はたまた久しぶりに自分に話し掛けてくる母親の態度に戸惑っているのか、表情には驚きと嬉しさがない交ぜになっているのが一目で分かる。
「リニスと祐一くんから聞いたわ。課題を全てクリアしたって……」
「は、はいっ」
フェイトはかなり緊張しているようで無意識に両手を握りこみ、プレシアが何を言うかを待っていた。
「今日はそのお祝い。……だから、一緒に食事をしましょう」
プレシアの言葉に、フェイトは一瞬だけポカンとした表情となったが、次第に満面の笑みへと変わっていった。
「は、はいっ!!」
フェイトは返事をすると、すぐに自分の席に着いた。
祐一の方を見ると、私の方を見て笑みを浮かべていた。そんな祐一に私も笑みを返す。
それを確認して満足したのか、祐一はフェイトと軽く談笑を始めた。
そして、私の隣で驚いた表情をしていたアルフがぽつりと呟いた。
「あの人も母親らしいところあるんだ」
「ええ、親子ですからね」
アルフの言葉に笑みを持って答えると、アルフも少し笑みを浮かべた。
「邪魔しちゃ駄目ですよ、アルフ?」
「当たり前だよ。するもんか」
私の軽口にアルフはそう返す。その表情から、自身の主であるフェイトが喜んでいることが本当に嬉しいのだと思えた。
「最期の高位魔法習得まで、どれくらいかかったの?」
「えっと、中級の術式接続で戸惑っちゃって。でも、それが分かればすぐに」
「好きな魔法は?」
「えっと、ランサーとか射撃系は割りと得意かも、です」
「そう」
なんだか親子の会話っぽくはないですが、仕方ないですかねと思いながら私は苦笑する。
「な~んか、親子っぽくない会話だね」
アルフも私と同じことを感じていたようで、可笑しさから私はさらに苦笑してしまう。
「一緒に食事なんて、私が産まれてから初めてのことですしね」
「まぁ、あの人のことはどうでもいいけど。……フェイトが嬉しそうだから、あたしはそれで十分だよ」
アルフは相変わらずだなと思い、私は笑みを浮かべる。祐一も二人の会話に苦笑しつつ、相槌を打っていた。
(フェイトが嬉しそうで良かった。最期に本当にフェイトの笑顔を見ることが出来て、良かった)
私はホッと、胸を撫で下ろした。
(――私はこんな風景が、見たかったんですよね。……普通の家族ならなんでもない、この風景が……)
涙が出そうになるのを、私は必死に堪える。
(――泣くのは駄目ですね。最期の時まで、私は笑っていましょう)
そう思いながら、私はこの家族の団欒を脳裏に刻み込むように見つめた。
side out
リニスの最期の願いである、フェイトとプレシアとの家族の食事は終わり、皆部屋へと戻っていった。
プレシアも表情こそ最後まで変わることは無かったが、特に何も言わず、フェイトとぎこちないながらも会話を続けていた。
もちろん、食事に参加していた祐一、リニス、アルフの三人もたまに会話に混ざるなど、楽しい一時を過ごした。
そして――そんな楽しい一時が終わりを迎える時がやってきた。
祐一は暗くなった廊下を歩き、リニスの部屋を訪れていた。
「リニス、俺だ。入っても構わないか?」
「祐一ですか? どうぞ、入ってください」
リニスの了承を得て、祐一はゆっくりと部屋へと入る。
そこには、祐一に背を向けてリニスが立っていた。
「――そろそろ、いくのか?」
「――はい。もう、いきます」
リニスは祐一の方へと向き直りながら、笑顔で答える。
「私は自分の成すべきことを終えました。気掛かりや心残りは山ほどありますが、役目は終わってしまいましたから素直に舞台から消えます」
そう言いながら、リニスは少しだけ寂しそうに微笑む。
そして再び祐一から視線をはずすと、リニスは自身がフェイトのために作成したデバイスを手に取る。
「私は消えてしまいますけど、私の想いと意志はこの子に残していきます」
リニスの言葉に答えるように、リニスが手に持つデバイスが輝きを放つ。
「《バルディッシュ》――闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧――私の願いを込めた杖――」
フェイトの新しいデバイスとなるバルディッシュが金色に光ると、リニスは再び祐一の方へと視線を向ける。
「ねぇ、祐一? 少しだけ、聞いてもらえますか?」
「なんだ?」
「実は私、プレシアに嫉妬していたんですよ? フェイトが私の子供だったら良かったなって……」
「…………」
黙って話を聞いている祐一に、リニスは続けて言葉を紡いでいく。
「そうしたら、この手で抱きしめてあげて、うんと可愛がれたんです」
話をするリニスの頬からは自然と涙が流れ、地面へと落ちていく。
それでも、リニスは気にすることなく話を続けた。
「――だけど、プレシアの使い魔でなかったら、フェイトにもアルフにも出会えていなかった。もちろん、祐一にもです。……だから、嫉妬よりも感謝の方がちょっとだけ多いんです」
リニスは涙を流しながらも、その表情は笑顔に包まれていた。
自身の娘であるフェイトに対しプレシアは冷たく当たり、それがリニスにとっては辛く、また、それでもフェイトに慕われていたプレシアが妬ましかった。あの娘の母親が自分だったらこんなことはしないのにと、考えたことも一度や二度ではなかった。
――そんなフェイトに慕われているプレシアに嫉妬を覚えていたのだ。
だが、プレシアの使い魔にならなければ、フェイトにもアルフにも祐一にも出会えなかった。
――だから、感謝こそすれ、リニスはプレシアには何の恨みもなかった。
「――そうか」
リニスの言葉に静かに頷く祐一は、少しだけ寂しそうな表情をしていた。
「あ、そろそろ時間みたいです……」
リニスの体が少しづつ光に包まれていく。――消える時間が近づいてきたのだ。
「――結局、俺は何も役には立てなかったな」
そう悔しそうに話す祐一に、リニスはいいえと首を振る。
「そんなことはありませんから、大丈夫です。祐一が来てからどれだけフェイトの笑顔が見れるようになったと思ってるんです? ――だから、何も役に立てなかったなんて、寂しいこと言わないでください」
「――そうか、ありがとう」
笑顔で言葉を返す祐一に、リニスも笑顔を作る。
そして、リニスはそのまま祐一へと声を掛ける。
「――では、祐一に一つだけお願いがあるのですが、いいですか?」
「ああ。俺に出来ることなら何でも言ってくれ」
リニスの言葉に祐一はしっかりと頷く。
そんな祐一に笑みを深め、では、とリニスは口を開いた。
「――フェイト達のことを、よろしく頼みます」
ゆっくりと、祐一の瞳を見つめながらリニスは言葉を口にする。
リニスの瞳から、自身が最後まで見届けてられなかった大切な家族を守ってやってくれ、そう言ってるように祐一は感じた。
(何も守ることが出来なかったこの俺には、とてもじゃないが約束することは出来ない――)
祐一は心の中で思いながら、リニスへと言葉を返す。
「約束はできない」
「っ!?」
リニスはその言葉に驚き、また悲しそうな表情となり俯いてしまう。
「――だが、出来るだけのことはすると、約束しよう」
その言葉にリニスは顔を上げると、そこには何かを決意したような表情の祐一がいた。
(ああ。これで、本当に思い残すことはないようですね)
祐一の表情を見て、リニスはほっとすると同時に目尻に涙が浮かんできた。
それを隠すかのように首を振り、リニスは表情を笑顔へと戻す。
「安心しました。……これで私はいけます」
フェイト達のことが心配でたまらないが、祐一がそう言ってくれるならば、安心だとリニスは感じていた。
すると、リニスの姿がだんだんと霞始める。
ああ、ついに消えるのかと思っていると、リニスは何かを思い出したように祐一へと声を掛ける。
「祐一、これは私からのプレゼントです」
「? 何を……っ!?」
祐一がリニスの言葉に首を傾げていると、リニスが祐一へと近づき、首に自身の腕を回し体を密着させ――自身の唇を祐一の唇へと重ねた。
「んっ、ちゅ……これは、今までのお礼です」
頬を赤く染め、体を離しながらリニスは嬉しそうに話をする。
祐一は普段見せないような表情を見せており、頬はわずかに赤くなっていた。
「まさか、最後にこのようなサプライズがあるとはな」
「ふふ、私にはこれくらいしかあげるものはなかったですから。祐一のそんな表情が見れて嬉しかったですしね?」
嬉しそうに話すリニスに祐一は苦笑を返すしかなかった。
そして、リニスの姿がさらに霞んできた。
「では、お別れだな、リニス」
「ええ」
リニスは笑顔のまま、これで最後というように静かに誰ともなく話を始めた。
「辛いときもありましたけど、本当に楽しい時間をもらえて私は幸せでした」
そう話をするリニスの瞳からは涙が溢れてきていた。
「おやすみなさい。――可愛いアルフ、愛しいフェイト」
静かに呟くリニスを祐一は静かに見つめる。
「さよなら、意地悪で偏屈でちっとも優しくない、私のご主人様。……バルディッシュ、あの娘達をよろしくね?」
バルディッシュがリニスの言葉に答えるように静かに光る。
「祐一、あなたが来てからの一年間は本当に楽しかったです。――本当にありがとうございました」
「ああ、俺も楽しかったよ。俺の方こそ、ありがとう」
祐一の言葉を聞き、よかった、とリニスは涙を流しながら頷く。
「――祐一、あとはよろしく頼みましたよ」
リニスがそう告げると同時に、リニスから強い光が放たれ、祐一が一瞬視線をはずし、また視線を戻すと――そこにはリニスの姿はなかった。
祐一はリニスが消えた後も、黙ってリニスが確かにいた場所を見つめ続けていた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をお願いします。