遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
楽しんでいただけたら幸いです。
では、どうぞ。
――海鳴市街地にて、なのはとフェイトは闇の書の攻撃をなんとか回避し、ビルの陰に隠れていた。
「なのは、大丈夫……?」
「うん。大丈夫だよ。わたし、頑丈だから」
心配そうなフェイトの言葉に、なのはは笑顔を返した。
そんななのはの笑顔を見て、フェイトもほっとしたように笑みを浮かべる。
「あの子、広域攻撃型だね。流石に避けるのは難しいかな……」
フェイトは離れている闇の書の方を見つめながら、いつものバリアジャケットへと戻した。
すると、なのはとフェイトから離れた場所にいる闇の書が広域結界を張っていた。
「これは、シャマルさんの結界……?」
「やっぱり、わたしたちを狙ってるんだ」
なのはの言葉に、フェイトは僅かに眉を顰めながらそう話した。
闇の書が張ったのは、以前、シャマルが使用していた結界であり、その特性は外からの介入を防ぎ、自分が認めた者でなければ、中から外へと出ることが出来ないものであった。
「戦うしか、ないんだね……」
「うん。だけど、きっと、クロノも対策を考えくれてると思うから、わたしたちで出来るだけあの子の動きを止めよう」
「……うん。そうだね」
なのはは複雑そうな表情をしながらも、フェイトの言葉に頷きを返した。
そして、戦闘態勢を整えるように、二人は自身のデバイスであるレイジングハートとバルディッシュを持つ手に力を込める。
「結界が張られたってことは、あっちにはこっちの動きはほとんど筒抜けだよね。それに、いろんな人の魔力を蒐集してるから、魔力も膨大……」
「そうだね。……だけど、そうだからって負けるとは限らない」
フェイトは僅かに笑顔を見せながら、なのはを見つめ、そう言葉を口にした。
「諦めなければ必ずチャンスはあるって、祐一お兄さんも言ってたしね」
「祐一らしいね」
二人は黒衣の青年の姿を思い出しながら、お互いに笑みを浮かべた。
「じゃあ、行こうっ!」
「うんっ!」
二人は声を掛け合うと、空へと飛び上がると、闇の書へと向かっていった。
◆
金色の髪の少女と銀色の髪の女性が空中で交錯する。
「……ッ!」
金色の髪の少女――フェイト・テスタロッサはサイズフォームへと切り替えた自身のデバイスであるバルディッシュを神速といえるスピードで振るっていた。
「…………」
そして、それに相対するのは銀色の髪の女性であるが、その正体はロストロギア《闇の書》の機能を司る管制人格である。
そんな二人が空中で激しい戦闘を繰り広げていた。
(くっ……やっぱり、強い……っ)
表情にこそ出してはいないが、フェイトは内心で闇の書の強さに舌を巻いていた。
今まで守護騎士たちが蒐集してきた魔力を全てが闇の書に内包されているのであるのだから、少なくともなのは、フェイトの魔力は持っている。
それに――、
「――フレイムランサー」
闇の書がそう静かに呟くと同時に、紅の魔力が槍となってフェイトへと襲い掛かってきた。
「くっ……プラズマランサー!」
フェイトも同じように金色の魔力の槍を瞬時に生成し、相手の紅の槍と相殺させた。
(やっぱり、あの魔法は祐一が使っていたものと同じだ。祐一も蒐集されていたんだ)
そう考え、フェイトは悔しげな表情を浮かべた。
そうなると、なのはとフェイトの魔力に加えて、祐一の魔力も持っているということになる。
(――本当に、厄介な相手だっ!)
フェイトは止まることのない魔力弾を回避し続けながら、唇を噛んだ。
このままでは勝ち目がないことなど、フェイトは気付いている。だが、それでもはやてや守護騎士たちを救い出すという目的を胸にフェイトは活路を見出そうとしていた。
(それに、わたし一人じゃない。大切な友達もいっしょなんだから……)
フェイトの考えを読み取ったように、桃色のバインドが闇の書の動きを止めた。
すると、闇の書を間に挟んだ向こう側にいる、一人の少女が声を上げる。
「フェイトちゃんっ!」
声を上げたもう一人の少女――高町なのはの声を聞き、フェイトもなのはに続けてさらにバインドで闇の書を動きを止めた。
そして、なのはに向かってフェイトも声を上げる。
「なのは……っ!」
「うんっ! いくよ、フェイトちゃん!」
お互いに声を掛け合うと、二人は砲撃魔法を撃つ体勢を取った。二人の足下には魔法陣が展開され、なのはとフェイトへと膨大な魔力が集まっていく。
「ディバイン――」
「プラズマ――」
そして、二人同時に魔力のチャージが完了し、
「バスターー!」
「スマッシャーー!」
なのはからは桃色のフェイトからは金色の砲撃魔法が放たれ、それが闇の書へと向かっていく。
(これなら……)
自分となのはの二人の砲撃魔法ならば、少しはダメージが通るだろうと、フェイトはそう思っていた。
しかし、闇の書はその思いを嘲笑うかのように、瞬時にバインドの拘束を解き、二人の砲撃魔法を片手で張った障壁でこともなげに防いだ。
なのはとフェイトは自分たちの攻撃が相手に届く瞬間に防御され、驚愕の表情を浮かべたが、すぐに気持ちを切り替え、相手の障壁を破ろうとさらに力を込めた。
だが、
「くっ……ううぅぅ……」
「くっ……」
それでも二人の攻撃では相手はびくともしなかった。
二人は苦悶の表情を浮かべながら攻撃しているのにも関わらず、防御をしている闇の書からは余裕が感じられた。
「穿て――ブラッディダガー」
そう闇の書が静かに告げた瞬間、魔力で作られた血のように赤いダガーが二人へと放たれ、二人は回避できずに直撃を受けた。
そして、間髪いれずに闇の書は次の行動に移る。
「――捕らえよ」
闇の書が口にすると同時に、その両手からなのはとフェイトに向かって、鎖の形状をしたバインドが伸びた。
「……っ……くっ!?」
「あっ……っ!?」
ブラッディダガーの直撃を受けた二人ではあったが、寸前のところでプロテクションを張ったため、ダメージは最小限に抑えられていた。
しかし、すぐに次の行動に移した闇の書とは違い、二人は攻撃を受けたことから、すぐに行動を移すことはできず、バインドに捕らわれてしまった。
そして、闇の書は顔色変えず、二人を縛った鎖を両手に持ち、上から下――地面へと叩きつけるように腕を振るった。
「……かは……っ」
ドゴンッ! という轟音とともに粉塵が舞い上がり、二人はその衝撃に苦しげな息を吐いた。
そんな苦しげな二人を余所に、闇の書はさらに行動を次へと移した。
「っ!? これは……」
「わたしたちの、魔法……?」
なのはとフェイトは困惑の声を上げながら、自分たちに使用された魔法を見つめた。闇の書が移した次なる行動は、先ほど使用した鎖状のバインドではなく、別のバインドで二人を拘束した。そして、驚くべきは、その魔法がなのはとフェイトが使用しているものと同一であることであった。
そんな驚いた表情を浮かべる二人に、闇の書は上空から見つめながら声を掛けた。
「――我が騎士たちが身命賭して集めた力だ」
「闇の書さん……?」
困惑したようになのはが問い掛けたのは、なのはとフェイトの二人へと声を掛けてきている闇の書が涙を流していたからであった。
「お前たちに咎がないことも、わからにでもない。……だが、お前たちさえいなければ、主と騎士たちは心静かな聖夜を過ごすことができた。残り僅かな命の時を、暖かな気持ちで過ごせていた」
そう闇の書は涙を流しながら静かに語った。
「はやてはまだ生きてる。シグナムたちだって、まだ……っ!」
「もう遅い。《闇の書》の主の宿命は――始まったときが終わりのときだ」
フェイトの悲痛な叫びも、闇の書は涙を流しながら切り捨てた。そんな闇の書の言葉に、フェイトは悔しげに唇を噛み締め、なのはが声を上げる。
「まだ終わりじゃないっ! まだ終わらせたりしない……っ!」
「お前たちがどう思おうと、もう終わりなのだ。……そして、お前たちもな」
「……っ!?」
涙を流しながらのなのはの言葉も、闇の書、ひいてはその中で眠っているであろうはやてには届かなかった。
そして、なのはの言葉をも切り捨てた闇の書が、左腕を二人へと掲げると、そこに魔力が集まり始めた。
「くっ……この……っ」
「駄目だっ……このバインド、硬いっ!」
闇の書の行動を見て、なのはとフェイトは自分たちを縛っているバインドを解除しようと身動ぎしたが、予想以上にバインドが硬く、解除するのに時間が掛かりそうであった。
ゆえに、二人には今から放たれる闇の書の攻撃を防御する手段が無かった。
「……眠れ……」
二人を上空から見下ろす闇の書が静かにそう呟くと、彼女が集めた膨大な魔力が砲撃魔法となり、二人へと放たれた。
(だめだ……回避できない……っ!)
自分たちへと放たれた漆黒の砲撃魔法を、フェイトは焦った表情で見つめていた。その隣では、同じようになのはも表情を強張らせていた。
(こんなところで、終われないのに……っ!)
悔しげに表情を歪めながら、フェイトは迫り来る砲撃魔法を見つめながらそれを回避する手段を必死で考えた。
だが、この距離でそれを回避する術はないと、悟ってしまった。
――だからこそ、願った。
(――お願い、誰でもいい。わたしたちにはやてを救う力を――)
フェイトは心の底からそう願い、そしてそれは現実となる。
――こんなところで終われない、そうだろう? なのは、フェイト――
なのはとフェイトが良く知る、力強く、自分たちを安心させてくれる声が聞こえた。
二人ははっと、砲撃魔法の衝撃に備えるため下げていた表情を上げると、いつの間にかそこには一人の青年の背中があった。
「業炎――」
静かに、しかしはっきりとした声音で黒衣の青年はそう言葉を口にしながら、ゆったりとその手に持つ紫色の騎士剣を上段へと上げた。
「一閃!」
裂帛の声と同時に、黒衣の青年は騎士剣を振り下ろしすと、闇の書が放った砲撃魔法が左右へと割れ、三人の後方で爆風が舞い上がった。文字通り、叩き斬った形となった。
しかし、そんなことよりもなのはとフェイトの二人はその黒衣の青年の姿をじっと見つめていた。そんな二人の瞳には涙が浮かんでいる。
(――きっと、来てくれるって、信じてた)
(――わたしたちが危ないときには、必ず来てくれるって、信じてた)
二人は万感の想いを込め、自分たちが尊敬し、想っている青年の名を叫ぶ。
「祐一お兄さんっ!」
「祐一!」
笑顔を浮かべながら、二人は黒衣の青年――黒沢祐一の名前を叫ぶと、祐一は砲撃魔法を叩き斬った体勢を元に戻し、なのはとフェイトへと顔を向け、
「――遅くなってすまない。二人ともよく頑張ったな」
祐一は僅かに笑顔を浮かべながら、二人へと声を掛けた。
二人はそんな祐一の言葉が、素直に嬉しかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、ご指摘よろしくお願いします。
プライベートが忙しいため、更新が遅くなっています。
おそらく、次も来月ぐらいの投稿になってしまうと思いますが、気長に待っていただければ幸いです。