すみません。
また、短めです。。。
楽しんでいただけたら幸いです。
では、どうぞ。
side 八神はやて
――最近、みんなの様子がおかしい気がする――
そう感じたのは、つい最近だ。
初めは、みんな、それぞれ用事があるのだろうと思って、考えないようにしていた。帰るのが遅くても、それでもみんなで晩御飯をいっしょに食べたり、それが駄目でもわたしが寝る前には帰ってきて、少し話しをしてから一日を終えていた。
だけど、日にちが経つにつれて、みんな、夜に帰ってくることもなくなって、朝に帰ってくるときもあった。
みんなにも用事があるのだと思い、わたしはそれを気にしないようにしていた。
――一人でいることには、慣れていたから――
わたしが小さいとき、お父さんとお母さんはお星様になってしまった。
それから、わたしは天涯孤独になってしまった。そのことが原因なのか、または別の要因があったのか、その頃からわたしの両足も動かなくなってしまった。もし、神様がいるとしたら、とても意地の悪い神様だと、わたしは思った。
しかし、悪いことばかりではなかった。わたしのお父さんとお母さんは、もし、自分たちに何があっても、わたしが生きていけるだけの財産を残してくれていた。
また、その頃からいろいろと手助けをしてくれるようになった人物が現れた。わたしが勝手に足長おじさんと読んでいるその人は、お父さんの友人を名乗っていた。今でもその人から送られてくる手紙は、わたしの心の支えだった。
そんな幼少時代を過ごして来たわたしは、一人で家にいることなんて、慣れっこだった。だけど、
――みんなが家に帰ってこなくて、言い知れぬ寂しさを感じていた。
みんながこの家にやってきて、初めこそ戸惑ったけど、今ではみんなはわたしの――大切な家族だ。
みんなのおかげで、今、わたしはこれ以上ないくらいの幸せを感じている。
だからなんだろう。もしかしたら、みんなが出て行ったっきり、帰ってこないのではないか? そんな風に感じて、わたしは怖かった。
もう、みんながいない生活なんて、考えることができなかった。
◆
わたしは魔導師として目覚めて、初めは戸惑った。
急に自分が魔導師と言われても何をしていいのかわからず、《闇の書》の主と言われても何もわからなかった。
だけど、そんなわたしにも、一つだけわかったことがあった。初めて、守護騎士のみんなと出会ったとき、わたしはそれを強く感じた。
――この子たちもわたしと同じで、寂しかったんだ。
守護騎士のみんなの瞳を見て、わたしはそう思った。
だから、この子たちとなら心から信頼し合える、わたしが憧れていた"家族"になれる。そう、わたしは確信に似た何かを感じた。
そうして、わたしと《闇の書》を含めた守護騎士たちの生活が始まり、今ではそれがかけがえの無いものになっていると、わたしは感じていた。
守護騎士たちのリーダー的存在であり、ちょっと生真面目すぎるところはあるけれど、とても優しい心の持ち主である――シグナム。
守護騎士の中では一番外見が幼く、常に勝気で自由奔放に振舞っているけど、芯が強くて根が優しい心の持ち主である――ヴィータ。
ドジで天然なところがあるけど、いつも笑顔を絶やさない優しい女性で、わたしの姉のような存在である――シャマル。
守護騎士唯一の男性であり、寡黙な性格であまり言葉を口にすることはないけれど、本当は優しくて、とても頼りがいのある――ザフィーラ。
初めて出会ったときは赤の他人だったけど、今ではみんなわたしの大切な家族だ。
みんなと暮らし始めて、わたしが笑顔でいられる時間が増えていった。
――そして、わたしの笑顔を増やしてくれた人が、もう一人いた。
守護騎士のみんなと出会う少し前、その人との初めての出会いは毎日通っていた図書館だった。
日本人離れした長身と全身をほぼ黒色でコーディネートした服装。
わたしよりも一回りぐらい年上の男性で精悍な表情をしており、何事からも守ってくれそうな、頼りがいがありそうな男性だった。
――黒沢祐一――
出会いはほんとにたまたまで、わたしが取れなかった本を取ってくれたという、他愛の無い理由だった。
だけど、わたしはそんな出会いが、守護騎士のみんなと出会ったように、運命だったんじゃないかと思っていた。
どちらかというと、わたしは引っ込み思案な性格なので、初めは祐一さんに話し掛けるのも大変だった。でも、それも少し祐一さんと話しをしていると気にならなくなり、そこから祐一さんとの付き合いが始まった。
正直、特別なことなんて全くといっていいほどなかった。ただ、祐一さんといっしょに何事もない普通で、それでいて心安らぐ日常を送っていただけだ。
――だけど、わたしにとって、それはとても大事なことだった――
誰かといっしょに過ごす大切な日常というものを、わたしは体験したことがなく、だからこそ、祐一さんと過ごした日常は、とても心温まるモノだった。
祐一さんは特にわたしに気を遣うこともなく、いつも自然体で接してくれていた。それが地なのか、何かを考えてのことなのかはわからないけど、わたしはとても嬉しかった。
だからわたしは、そんな風に自然体でわたしと接してくれて、それでいてたまに優しさを見せてくれる祐一さんが好きだった。
わたしが《闇の書》の主として目覚めた日も、いち早く駆けつけてくれて、守護騎士のみんなといっしょに暮らすという、わたしの思いも苦笑を浮かべながらも頷いてくれた。
――そんな祐一さんにも、わたしはしばらく会っていない。
最近まで祐一さんはお仕事で海鳴にはいなかったけど、ほんの数日前に帰ってきたらしく、わたしの家に来てくれた。
だけど、それ以来、祐一さんの姿は見ていない。
一度、シグナムに祐一さんがどこに行ったのかを聞いたら、僅かに瞳を泳がせた後、『また、しばらく仕事で海鳴を出ると言っていました』と言っていた。
そのときはそうなんや、とシグナムに頷きを返したけど、シグナムは祐一さんのことで何か隠し事をしているようだった。
だけど、わたしはシグナムには何も聞いていない。きっと、わたしに話せない理由が何かあるのだろう。それはきっと、わたしを思っての行動だと思うから、だからわたしは何も聞かなかった。
――何か、わたしの周りで、わたしの知らない何かが動いてる――
そうわたしは感じていたが、それでもわたしは何もしない。
普段どおりの生活をして、みんなの帰りを家で待っているのが、わたしのお仕事だから。
――例え寂しくても、みんなが帰ってきたら、笑顔を見せてあげようと、わたしはそう思った。
side out
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