間が空いたというのに、この短さ。。。
それでも、楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。
side 黒沢祐一
――俺は、何のために剣を振るっているのか……?
七瀬雪という最愛の女性を失い、管理局を辞めてから、俺はそれをずっと考えていた。
雪がいないこの世界で、俺は未だに剣を振り続けている。
――ただ、"雪との約束"を胸に俺は剣を振り続ける。
◆
管理局に入局する前の俺は、周りのことなどどうでもよかった。
ただ、雪とともに平和な日常が過ごせていれば、それでよかった。
だが、それを良しとしない人物がいた。それこそが――七瀬雪だった。
雪にとって、平和な日常を過ごしているだけの生活では満足できなかったらしい。
だからこそ、雪は最終的に、管理局へと入局する道を選んだのだ。
俺は初めは雪が管理局へ入局することには反対だった。事務仕事などの裏方としてならば、そこまでは反対しなかった。だが、雪の志望は前線へと出ることであり、事件などに直接関わるような仕事がしたかったらしい。
俺は最後まで反対していたが、結局、雪が折れることはなかった。
『――平穏な生活もいいんだけどさ。わたしは管理局員になって、困ってる人を助けたいんだ。父さんや母さん、それに祐一にも心配掛けちゃうかもしれないけど、やっぱりわたしは、わたしがやりたいことをやっていこうと思うんだ』
当時、雪に笑顔でそう言われると、俺はもはや反対することも出来なかった。
だからこそ、俺は雪にこう言ってやったのだ。
『――なら、俺も管理局に入る。お前が心配だからな。放っておいたら、雪は何をしでかすかわからないからな。その尻拭いが必要だろう?』
俺の言葉を聞き、雪は一瞬だけ唖然とした表情を浮かべていたが、すぐに花が咲いたような笑顔を浮かべていた。
◆
自分の夢へとまっすぐに進む雪を守ってやりたい。――俺はそう思っていた。
雪はいつもまっすぐに前だけを見ていた。決して後ろを振り返ることなく、ただまっすぐに。だからこそ、俺はそんな雪の背中を守り、その夢の手伝いができればと思っていた。
俺と雪は管理局へと入局するため、訓練校に入学を果たした。
雪は魔導師としての才能も高く、入学してからすぐにめきめきと力を付けていった。
そして、僅か一年後には訓練校では相手になるような人物はいなくなっていた。
圧倒的な魔力量に、それを扱う魔導師としての技量。また、それに驕ることなく、努力を続ける雪に敵う者などいるはずもなかった。
訓練校では、一〇〇年に一人の逸材と言われるほど、雪の力は圧倒的であった。
――そんな雪の背中を俺は追いかけ続けた――
雪に追いつくために、俺は常に自分自身を鍛え続けていた。
魔導師としての訓練は勿論のこと、戦術などの座学も勉強し、自分の力を伸ばしていった。
――だが、それでも七瀬雪という天才には追いつくことが出来なかった――
結局、訓練校時代は、戦闘でほとんど雪に勝つことはできず、負けるか引き分けるかがほとんどであった。
また、訓練校を卒業したときの成績は雪が主席で俺が次席であった。
雪は訓練校はじまって以来となるほど圧倒的な成績を残し、その名を一躍知らしめた。卒業する間際には、管理局のいろんな部隊から誘いを受けているほどであった。
そして、その後、俺と雪は管理局の部隊へと配属となり、順調に任務をこなしていった。
雪はそれからも自分の力を存分に発揮し続けた。個人の戦闘力もさることながら、雪には人を引き付けるカリスマ性も備わっており、階級が上がってからは現場の指揮も任されていることも多くなった。
そして、その美しい容姿とその圧倒的な戦闘力から管理局員や犯罪者たちからは、憧憬、敬意、畏怖と様々な感情を込めて、こう呼ばれるようになっていた。
――《紅蓮の魔女》、と――
雪の身長はあろうかという真紅の長剣――《紅蓮》を手に戦闘をするその姿からその呼び名がついたらしい。
雪は自分がそんな風に呼ばれていると知ったとき、僅かに頬を染め、恥ずかしそうにしていたのが印象的であった。
そんな順風満帆な雪の姿を見て、俺はそれを始めて感じた。
――七瀬雪という人間に、俺など必要ないのではないだろうか――
結局は一人で何でも出来てしまう雪の姿を長年見続けてきたからだろうか、当時の俺はそんなことを考えていた。
故に、当時の俺は雪とは別の場所で働くべきではないかと、そんなことを考えていたのだ。
しかし、雪は、そんな俺の考えがわかっていたのかいないのか、ある日、俺にこう話しをしてきた。
『――いつもありがとうね、祐一』
そう僅かに照れながら話しをしてきた雪に、俺は驚き、『何がだ?』と俺は言葉を返した。
『わたしが前だけを見て進むことが出来るのは、祐一のおかげ。ここまでやってこれたのは、祐一が常にわたしの背中を守ってくれていたから――』
だから、と雪は一度深呼吸し、頬を染めながらも最高の笑顔を俺へと向けると、
『――わたしのことをいつも守ってくれてありがとう、祐一』
そんな風に、俺に感謝を述べた。
その言葉に、俺は不覚にも涙を流したことを今でも覚えている。
そして、俺はそれから悩むことを止め、これからも自分の持てる力を全て使い、七瀬雪を守っていこう。――俺はこのときに、そう誓ったのだ。
――だが、俺が守ると誓った最愛の女性は、もうこの世にはいない――
しかし、それでも俺は剣を振り続けている。
――誰も失わず、今度こそ、守ってみせる――
俺はそう心の中で思いながら、意識を浮上させていった。
side out
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