楽しんで頂ければ幸いです。
では、どうぞ。
――海鳴市上空――
クロノ率いる管理局員の魔導師数十名が《闇の書》の守護騎士であるヴィータとザフィーラを包囲していた。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」
クロノは自身のデバイスであるS2Uを振り下ろした。
すると、一〇〇を越える魔力刃がヴィータとザフィーラへと向かって落ちていく。
「ちぃっ!」
ザフィーラは障壁を張り、それを迎え撃った。
魔力刃がザフィーラたちへと当たり、次々に爆発していく。そして、その余波で辺りを煙が包んでいった。
「はぁ、はぁ……」
振り下ろした杖もそのままに、クロノは肩で息をしていた。流石のクロノといえど、一度にこれだけ大量の魔力刃を生成するのは骨が折れたようだ。
姿勢を元に戻しながらも、クロノは煙に包まれているヴィータとザフィーラの方を油断なく見つめていた。
そして、ゆっくりと煙が晴れていく。
(やはり、この程度の攻撃じゃあ、倒すのは無理か)
煙の中から姿を現したのは、魔力刃をいくつかその身に受けたザフィーラの姿と無傷のヴィータの姿だった。
ザフィーラには攻撃は当たってはいるものの、僅かばかりのダメージしか受けていないらしく、刺さっていた魔力刃を消していた。
それを見て、クロノは内心で舌打ちする。
『クロノくん、武装局員配置完了したよっ!』
「了解」
『あと、クロノくん。そっちに助っ人を転送したよ』
そんなクロノにエイミィから通信が聞こえ、エイミィが言っていた助っ人という言葉を聞き、僅かに驚きの表情を浮かべた。
そして、新たな魔力を感知した。マンションが立ち並ぶ場所、クロノがそちらへと視線を向けると、その屋上に二人の少女が立っていた。
「なのは、フェイト……っ!」
そこには、二人の少女――高町なのはとフェイト・テスタロッサがいた。そして、そのすぐそばにはフェイトの使い魔であるアルフも立っていた。
「アイツら……っ!?」
ヴィータは以前叩き潰した二人を見て、驚きの表情を浮かべた。
そんなヴィータを見つめながら、二人はデバイスを上空へと掲げ、
「レイジングハート・エクセリオン――」
「バルディッシュ・アサルト――」
「「セットアップッ!!」」
二人は声を上げると、なのはは桃色の光に、フェイトは金色の光に包まれた。
そして、その光が収まると、なのはは純白のバリアジャケットに身を包み、フェイトは漆黒のバリアジャケットに身を包んで現れた。その手に持つデバイスも新しくなっており、レイジングハート、バルディッシュともにカートリッジシステムが組み込まれ、僅かながら外装も変化していた。
「あれは、カートリッジシステム……ッ!?」
「奴ら、デバイスを強化してきたようだな……」
驚くヴィータとは対照的に、ザフィーラは腕を組みながら冷静に分析していた。
すると、バリアジャケットを纏ったなのはとフェイトがヴィータたちへと声を掛ける。
「わたしたちは、あなたたちと戦いに来たわけじゃない。まずは話を聞かせて」
「《闇の書》の完成を目指している理由を……」
フェイトとなのはの言葉に、ヴィータはピクリと眉を動かすと僅かに胸を反らしながら腕を組み、二人を見下ろしながら答えた。
「あのさ、ベルカの諺にこういうのがあんだよ――和平の使者なら槍は持たない」
偉そうに話すヴィータにザフィーラは人知れず嘆息し、なのはとフェイトはヴィータの言葉に首を傾げていた。
そんな二人にグラーフアイゼンを向けながらヴィータは叫ぶように声を上げる。
「話し合いをしようってのに武器を持ってくるか、馬鹿って意味だよっ」
「なっ!? いきなり襲い掛かってきた子がそれを言う!?」
「……それにそれは諺ではなく、小話のオチだ」
ザフィーラにぼそりと言われ、ヴィータは僅かに恥ずかしげに頬を染めながらそっぽを向いた。
「うっせぇっ! いいんだよ、細かいことはっ!」
そう言うヴィータにザフィーラが嘆息していると、
――ドゴンッ!!
皆がいる上空の結界をぶち破って、一人の女性が舞い降りてきた。
桃色の髪を後ろで結い上げ、その身を騎士甲冑に包んだその女性、
「っ!? シグナム……」
フェイトが騎士甲冑の女性――守護騎士のリーダーでもあるシグナムの名前を静かに呟いた。
その呟きが聞こえたわけでもないであろうが、シグナムはビルへと降り立つと、フェイトを見つめていた。
「クロノくん、手を出さないでねっ! わたし、あの子と一対一だからっ!」
「……マジか……」
離れたビルの屋上に待機していたクロノは、なのはの言葉を聞くと唖然をしながらそう言葉を返した。そんな光景をヴィータは、歯軋りしながら見つめていた。どうやら、一対一という言葉を自分が舐められていると感じたようだ。
『アルフ、わたしも彼女と……』
『ああ、わかったよ。あたしもヤロウにちょいと話があるしね』
フェイトはシグナムを、アルフはザフィーラを静かに見つめ、
「――さぁ、いくよっ!」
なのはの言葉が響くと同時に、それぞれが上空へと飛び立った。
それぞれの思惑が絡みながら、それぞれの戦闘が始まった。
◆
「でぇぇやあぁぁっ!」
「くぅっ!?」
裂帛の声とともにヴィータが空中を縦横無尽に移動しながら、グラーフアイゼンをなのはへと叩きつける。それをなのはは僅かに表情を歪めながらも受け止めた。
「だから、わたしたちは別に戦いにきたわけじゃないんだけど……っ!」
「うるせぇっ! そんな新型武装引っさげてくるような奴のセリフなんざ、信じられっかっ!」
二人はデバイス同士で鍔迫り合いをしながら、そう言葉を交わすが、ヴィータはなのはの言葉に耳を貸すつもりなどなかった。
「こっちは、もうてめぇらに用はねぇんだっ!」
ヴィータはそう叫び声を上げながら、グラーフアイゼンでなのはを吹き飛ばすと、カートリッジをロードし、
「これでもくらって、しばらく寝てろっ!」
グラーフアイゼンをラケーテンフォルムへと変形させ、ヴィータはその推進力でなのはへと突っ込んでいった。
(あれは、この前の……っ!)
グラーフアイゼンのラケーテンフォルムを見て、なのはは一瞬、以前の敗北が頭を過ぎった。
(ううん、大丈夫。レイジングハートも強くなってくれた。わたしはそれを信じるんだっ!)
だが、なのははすぐに頭を振るとそれに応えるようにレイジングハートが光り輝く。
「レイジングハートッ!」
『カートリッジロード、行きます』
ガシャコンッ! という音とともに膨大な魔力がなのはを包み込んだ。
「うおぉぉぉっ!」
ヴィータはその姿に構うことなく、なのはへとグラーフアイゼンを振るった。
だが、そのヴィータの強烈な一撃をなのはは真正面からプロテクションを張って、それを防ぐ。
「くっぅぅぅ……っ!」
お互いの膨大な魔力がぶつかり合い、その余波によって周囲に粉塵が舞った。そんな状態にも関わらず、なのははしっかりとヴィータの攻撃を防御し、ヴィータはその防御ごと粉砕しようとさらに力を込める。
――だが、
「く……っ! かってぇ……っ!」
前回は簡単に粉砕できたなのはの防御が、今回は粉砕するどころかヒビも入れることができなかった。その事実に、ヴィータは僅かに焦りの表情を浮かべた。
「簡単にやられるわけには、いかないからっ!」
なのはの力強い言葉がヴィータの耳へと聞こえてくる。
(こんなところで、あたしが負けるわけにはいかないんだよぉ!)
ヴィータもなのはの力強い言葉に対抗するように、次なる行動に出る。
「っんのやろーー!」
ヴィータは空いている方の手で鉄球を取り出し、それをなのはへと打ち込み、
「スマッシャーー!」
なのはは魔力弾をヴィータへと打ち込んだ。
なのはとヴィータの攻撃がぶつかり合い、轟音とともに周囲のビルが倒壊し、粉塵がその場を満たす。
すると、二人は粉塵から抜け出し、空中へと飛び立つ。
先に攻撃の準備が整ったのは、経験値が勝るヴィータであった。
「ぶっとべっ!」
ヴィータは空中に浮遊させていた鉄球を、グラーフアイゼンで撃ち放った。その数は十を越えていた。
だが、それを見ても今のなのはは焦ることはない。
『アクセルシューター』
レイジングハートの声が響き、カートリッジをロードしたことによって増した魔力でなのはは瞬時に魔力弾を生成し、
「アクセル――シューートッ!」
それをこちらへと向かってくる鉄球へと撃ち放った。
いくつもの轟音が空中へと響き、一種の幻想的な花火が上がった。
「ちっ!」
ヴィータは舌打ちしながら、爆発の余波で起こった暴風で帽子が飛ばないよう押さえた。
(前回とはまるで別人だ。油断してると、こっちがやられかねねぇ)
そう心の中で思いながら、ヴィータは煙が晴れた先にいるレイジングハートを構えたなのはを真剣な表情で見つめてた。
そして、なのはも同じようにヴィータを真剣な表情で見つめていた。
「ほんとに、お話し聞かせてもらいたいだけなの……」
「…………」
無言を貫くヴィータに構わず、「それに……」となのはが話しを続けた。
「帽子のことも謝りたいって、思ってたの」
「あ……」
なのはの言葉に、ヴィータは僅かに驚きの表情を浮かべながら思わず自身の大事な帽子に触れた。
(……こいつ、あのときのことを……)
ヴィータは相手に対して、僅かばかりではあるが、警戒を解こうとしていた。
だが、次のなのはの一言で状況は元へと戻ってしまう。
「お願い。"いい子"だから……」
ヴィータはその言葉を聞くと、カチンときたのか眉間に皺を寄せていた。
それもそのはず、ヴィータは容姿だけ見ると完全に子供ではあるが、それでも永く時を生きてきたのだ。ヴィータからすれば、なのはの方が子供であるため、自分をそのように呼ぶことは看過できなかった。
「うっせぇ! ちびガキッ! 邪魔するやつは、ぶっ潰すっ!」
そして再び、グラーフアイゼンを振り上げ、ヴィータはなのはへと襲い掛かり、なのははそれを迎い撃った。
◆
――ガキンッ、と金属同士がぶつかり合う音が周囲に響く。
「はぁっ!」
「くっ!?」
裂帛の気合いとともに剣による一閃を放ったのは、《烈火の将》シグナム。対してその剣戟を受け止めきれず弾き飛ばされたのは、フェイト・テスタロッサであった。
「はあぁっ!」
「ムッ!?」
弾き飛ばされながらもすぐに体勢を立て直し、フェイトは即座に戦斧による一撃をシグナムへと放ったが、かろうじてシグナムはそれを回避した。
そこから数回、フェイトとシグナムは相手の攻撃を回避、もしくは防御してから、相手へと攻撃を繰り出すということを続けていた。
だが、どちらの攻撃も相手に当たらないか、当たったとしても致命傷となる攻撃ではなかった。
なのはとヴィータほどの派手さはないが、どちらも近接攻撃が主体のため、手に汗握る攻防が繰り返されていた。
『シュランゲフォルム』
「はぁっ!」
レヴァンティンの形態をシュランゲフォルムへと変化させ、その鞭をフェイトへと振るった。常人では目で追うのがやっとであるスピードで、シグナムの攻撃は繰り出されるが、
(っ!? 大丈夫、これなら避けられるっ!)
圧倒的なスピードを誇るフェイトは、なんとかシグナムの攻撃を回避し、さらに攻撃へと転じた。
「はぁっ!」
瞬時にバルディッシュをサイズフォームへと切り替え、その鎌でシグナムへと切りかかった。
「ちぃ!」
だが、シグナムも伊達ではない。もう少しでフェイトの攻撃が当たろうかというところで、鞘でそれを受け止め、フェイトの腹部に蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ!?」
フェイトは僅かに呻き声を上げたが、すぐに体勢を整える。
すると、シュランゲフォルムから通常のシュベルトフォルムへと戻したレヴァンティンを手に、シグナムがすぐそこまで迫っていた。
レヴァンティンに炎を纏わせながら迫ってくるシグナムに、フェイトもバルディッシュに雷を纏わせシグナムへと突っ込む。
「「はぁっ!!」」
二人の声が重なり、互いの渾身の一撃がぶつかり合った。
ぶつかり合った二人の魔力の大きさから、爆発が起こり、周囲のビルの窓ガラスなどがそれによって砕け、地面へと落ちていった。
「――ふむ。先日とはまるで別人だな。相当に鍛えてきたか、それとも前回の動揺が酷すぎただけか?」
「――ありがとうございます。今日は落ち着いていますし、鍛えてもきました」
煙が晴れると、そこには相対する二人の姿があった。
シグナムはフェイトの攻撃によって、僅かではあるが騎士甲冑が切り裂かれ、対するフェイトも僅かに傷を負いマントも少し焦げてはいたが、戦闘には支障はないようであった。
すると、シグナムがレヴァンティンを鞘に収めながら僅かに残念そうな表情をしながら、フェイトへと声を掛けた。
「守護騎士《ヴォルケンリッター》が一人、シグナムだ。お前、名前は?」
「フェイト・テスタロッサです」
「テスタロッサ……本来なら心躍る戦いなのだが、そうも言っていられん。……悪いが、殺さないよう手加減することはできん。……この身の未熟、許してくれるか?」
そう声を掛けてくるシグナムにフェイトは僅かに微笑し、それに答えた。
「大丈夫です。勝つのは、わたしですから」
「……そうか」
フェイトの言葉に僅かに驚いた表情を返すと、シグナムは静かに頷いた。
そして、二人の戦いは激しさを増していった。
◆
「ゼェェヤァァ!」
「うぉぉりゃぁぁ!」
雄たけびのような声を上げる二人の人物の拳がぶつかり合う。片方はフェイトの使い魔であるアルフ。そして、もう片方は守護騎士の一人、筋骨隆々の男性ザフィーラであった。
「ちっ!」
「ぬぅ!」
アルフとザフィーラがお互いに僅かに苦しげな声を上げながら距離を取った。
互いの力が拮抗しているため、決定的な一撃を相手に与えることができず、相手を倒すことが出来ていない状況であった。
(――正直、状況はあまり芳しくないな)
ザフィーラは空中で戦闘を行っているヴィータとシグナムへと視線を向けながら冷静に思考していた。
(このままさらに管理局の増援が来れば、こちらは完全に袋の鼠、か)
僅かに舌打ちをしながら、ザフィーラは別の人物へと念話を飛ばした。
『シャマル、聞こえているか? ヴィータとシグナムが負けるとは思えないが、時間が経てば経つほど我々には不利だ。脱出しようにも結界が邪魔で脱出できない。何とかできないか?』
『――こっちもなんとかしたいんだけど……』
ザフィーラの言葉に、守護騎士で唯一結界外にいるシャマルは困ったような表情を浮かべた。
『この結界、結構硬くて私じゃやぶれないの。シグナムかヴィータじゃないと……』
『二人とも手が放せない。……止むを得ないが、"あれ"を使うしかない』
『分かってるけどっ、でも……っ!?』
ザフィーラへと言葉を返そうとしたシャマルの表情に焦りが浮かんだ。
なぜなら、いつの間にか、自分の背後には一人の少年がデバイスをこちらに向けて立っていたのだから……。
(っ!? しまった、念話に気を取られて……)
シャマルは自分の迂闊さに唇を噛み締めたい思いだった。念話越しにザフィーラの心配そうな声が聞こえてきたが、今はそれどころではなかった。
「――捜索指定のロストロギアの所持、使用の疑いであなたを逮捕します。抵抗しなければ弁護の機会があなたにはある。同意するならば、武装を解除してくれるか?」
「…………」
シャマルへとデバイスを向けている黒を基調としたバリアジャケットを纏っている少年、クロノ・ハラオウンが告げた。
シャマルはクロノ言葉を聞きながらも、何とか現状を打開する方法を頭の中で巡らせていた。
(……駄目。この人、さっきザフィーラたちと戦っていた魔導師。私じゃあ、勝てない。それに、逃げようとすれば確実に無力化されてしまう。そうなったら……)
確実に皆の足を引っ張ってしまうと、シャマルは悔しげに唇を噛んだ。
(この状況じゃ、私がどう動いてもどうしようもない。……どうすれば……)
そうシャマルが思っていると、二人のすぐ側で魔力反応を突然感じた。
(っ!? なにっ!?)
新手かと思い、シャマルは身構えたが、その新たに現れた人物はシャマルではなく、シャマルの背後を取っていたクロノへと攻撃を仕掛けたのだ。
「なっ……ぐっ!?」
急に現れた人物に流石のクロノも対応に遅れ、攻撃を受けてしまった。その攻撃は鋭いミドルキック。魔力で強化した唸るような蹴りが、クロノの腹部へと直撃したのだ。
「が、はっ……」
隣のビルまで吹き飛ばされ、金網にぶつかったところで勢いが止まった。
そして、クロノは痛む腹を押さえながら、自身に蹴りを入れた人物を睨みつける。
「《仮面の男》……っ!」
そこには、クロノが言うとおり、仮面を付けた長身痩躯の男が佇んでいた。
(こいつが、祐一さんが言っていた仮面の男か……)
以前、なのはがヴィータに襲われたとき、それに助けに入ろうとした祐一の邪魔をしたのがこの仮面の男であった。あの祐一と戦い、しかも逃げおおせた実力は本物であり、もっとも警戒するべき相手でもあった。
そして、警戒しているのはクロノだけではなかった。
「あなたは、この間の……っ!?」
「…………」
シャマルは仮面の男と距離を取りながら、そう声を上げるが、仮面の男は何も言わなかった。
(……? 仲間、じゃないのか……?)
シャマルの行動にクロノは首を傾げた。
すると、仮面の男は自分を警戒しているシャマルを気にする風もなく、淡々と口を開いた。
「闇の書の魔力を使って、結界を破壊しろ」
「……何を企んでいるの? あなたたちは」
「今はそんなことを気にしている場合ではないだろう? 仲間が心配ではないのか?」
仮面の男の言葉に、シャマルは悔しげな表情を浮かべた。
(祐一さんをあんな目に合わせた奴の言うことを聞くのも嫌だけど、それよりもシグナムたちを助けるのが先決よね……悔しいけど……)
シャマルはキッと仮面の男を睨みつけながら、口を開いた。
「……礼は言わない。あなたたちが祐一さんにしたことを、忘れたわけじゃないわよね?」
「ふん。礼などいらんよ。俺はただ、闇の書を完成させて欲しいだけだからな」
シャマルは仮面の男を睨みながら、その場を離れ、結界内にいるシグナム、ヴィータ、ザフィーラへと結界を破壊するということを伝えた。
「ちぃっ!」
クロノがシャマルが何をしようとしているかを察し、近づこうとするが、仮面の男がそれを邪魔するように間に割って入る。
「きさま何者だっ! なぜ邪魔をするっ! それに、祐一さんに何をしたっ!」
「……お前に話すことなど、何もない」
「なら、無理にでも聞き出してやるっ!」
クロノと仮面の男が戦闘を始める中、シャマルが闇の書を起動し、詠唱の準備へと入った。
「闇の書よ、守護者シャマルが命じます。眼前の敵を撃ち砕く力を、今、ここに……」
シャマルが告げると、闇の書から強烈な魔力が吹き荒れ始め、結界の上空に膨大な魔力が集まっていく。
「撃って、破壊の雷をっ!」
上空に集まっていた魔力が雷となり、結界を破壊するために撃ち落とされた。
ミシミシという音とともに、結界に少しづつヒビが入っていく。それを結界内にいるなのはとフェイトは呆然と眺めていた。
「――すまん、テスタロッサ。この勝負、一時預ける」
「っ!? シグナムッ!」
シグナムはフェイトにそう告げると撤退を始め、
「――おいっ! あんたの名は?」
「なのは、高町なのは……」
「高町なんとかっ! 今回の勝負はお預けだっ! もし、次に会うことが会ったら、ぶっ飛ばすかんなっ!」
「なんとかって、ヴィータちゃんっ!」
ヴィータは叫ぶように告げるとシグナムと同じように撤退を始め、なのはは自分の名前をまともに呼んでもらえなかったため、追おうとした。
だが、結界の破損が酷くなり、そして、
結界を破って撃ち落された破壊の雷の光が、周囲を飲み込んでいった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、ご指摘をよろしくお願いします。